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HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part12

1 :マロン名無しさん:2009/11/29(日) 14:54:59 ID:???
HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part11
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1243265888/

あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part261
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1259412717/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
※左のメニューの【お預かり作品】に作品があります。



           我らはSS投下者の代理人
            保守のスレッド代行者
          ,___
        /゙      ` ̄ ̄`-,―ー,ハ、 _ ,--、 ,_
       l            |   ゙//:´::::|(二二,)
       ゙l \ヽ`ー―−- - |   ,iii,,ゝ:::::|(二二 )       我らが使命は
         |    _`、_ 。 。 。.|。 。,ii,l iノ ̄ヽ(゙~l`)     投下者に襲う規制を
        ゙l  i  ` ̄~`tーーl_,_:/:lヽ、___,/-´    そのレスの最後の一片までも
         ゙|  i  ー´~l::::::::::::::::://::::_,(二)        ―――保守する事―――
         l  i       |::::○ ::::○::::: | ,ー´
           l, i   イ ゙l::::::::::::::::::::::::::|i:::|ヘー、_
         く  i   i   |:::(二)ヽ::::::::::|i:::|lノ ゙゙  `ヽ
           ゙ゝ`i ノ ,i⌒i⌒i⌒l~ヽ i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー、
         <´ゝ- (二| ,i  l  i , |iiニ,__i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
゙\   ,_,ー´ ̄ー ,/ /:゙ヽ,_,_,_,,ノ゙> |i:::|y  _,ー´ ̄/
  ヽ ヽ,   _-ー´,,ノ:::::::。,>`-ーー、,ゝ.|i:::|    i  ゙̄/
   |ー,く (,_,ー゙ ̄´ :::::::。゚::: )/ゝ::/ ゙̄/゙|i:::|   ,i ヽ_」
   ゙| ヾ\ \:::::::::::::::。゚:::::::::i//   / , .|i:::| \i  ,l/
    ヽイ-`ヽ ゙\;:::::::::゚。::::::::。\_,/゙。  .|i:::|   ヽ, l゙
\    \ヽ \ ゙\ :::::::゚。_。゚:::::::`\ 。 .|i:::| 丶  ,|ノ゙

2 :マロン名無しさん:2009/11/29(日) 14:56:47 ID:???
早漏乙

3 :マロン名無しさん:2009/11/29(日) 16:17:04 ID:???
乙漏早

4 :マロン名無しさん:2009/11/29(日) 23:20:27 ID:???
早漏乙

5 :マロン名無しさん:2009/11/30(月) 00:04:36 ID:???
ベルセルクが召喚されるが、13巻は無い。

6 :マロン名無しさん:2009/11/30(月) 15:34:04 ID:???
千住さん召喚、オタクアイテムが無い反動で大暴れ

7 :マロン名無しさん:2009/11/30(月) 15:52:34 ID:???
>>1乙だ、葛湯を飲んで温まってくれ

8 :マロン名無しさん:2009/12/01(火) 10:49:26 ID:???
あったまるわー

9 :マロン名無しさん:2009/12/01(火) 11:43:58 ID:???
クズだ すごいクズだ

10 :マロン名無しさん:2009/12/01(火) 23:39:19 ID:???
バッボーイ(バッバッ
エッサッサー

11 :マロン名無しさん:2009/12/03(木) 09:15:14 ID:???
オスマン・トルコさんです

12 :マロン名無しさん:2009/12/03(木) 15:58:30 ID:???
雄マン?

13 :マロン名無しさん:2009/12/03(木) 18:31:52 ID:???
1コン

14 :マロン名無しさん:2009/12/03(木) 22:03:18 ID:???
アァーームァゾォーーン

15 :マロン名無しさん:2009/12/04(金) 08:26:25 ID:???
投下がないのォ……

16 :マロン名無しさん:2009/12/04(金) 18:16:00 ID:???
そんなときは葛湯でも飲んで待ちましょう

17 :マロン名無しさん:2009/12/04(金) 19:54:45 ID:???
寺門部長召喚、セフィロス寺門(インターナショナル)になってブッ殺C

18 :マロン名無しさん:2009/12/04(金) 21:49:08 ID:???
波動拳!波動拳!

ってどこが波動拳だよ・・・な寺門兄弟

19 :マロン名無しさん:2009/12/04(金) 22:06:17 ID:???
部長が召喚されたら色恋沙汰にはまずならんなw

20 :マロン名無しさん:2009/12/04(金) 22:16:04 ID:???
いや、ここはあえて字楽先生で

21 :マロン名無しさん:2009/12/05(土) 03:27:01 ID:???
字楽流暗黒魔術がルイズに襲いかかる!ワケですねw
最強だと思う存在にルイズがなる・・・と言う事は

22 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2009/12/06(日) 08:06:29 ID:???
投下はこっちのスレで良いんでしょうか?

23 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 08:11:38 ID:???
いいんじゃないスかね

24 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 08:18:38 ID:???
ここ以外のどこ……に?

25 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2009/12/06(日) 09:09:20 ID:???
では、 確率世界のヴァリエール 第十話 投下します。

26 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:11:16 ID:???
「それでは学院長、今日の任務に行って参ります!」

午前の授業も終わり、学院長室でルイズが任務前の報告を行う。
「うむ、気をつけてな。 皆にはいつも通りに
 『ワシの頼む秘密のお使い』に行かせた事にしておくからの」
「あのー、、、学院長。
 私が授業を休むその言い訳、何か他のになりませんか?
 最近みんなが私を同情の目で見るんですけど。
 この前なんかモンモランシーが涙を浮かべながら、
 「学院長に変な事されて無い?」とか聞いて来てましたし」
「うむ、生徒諸君がワシを何じゃと思っとるのか
 一遍ハッキリさせとかんといかん様じゃな。
 それはそうとしてじゃ」

オスマンがルイズの体を眺め回す。
「な、何ですか?」
その視線に引き気味になるルイズへ、オスマンが尋ねる。
「始祖の祈祷書はワルド子爵から預かっとるな?」
「はい。 肌身離さず持つように言われましたので」
「それと、アルビオン特別大使の証も持っとるな?」
「水のルビーですね? 姫殿下に頂いてからずっと指に付けてますけど?」
「で、何かこう、変わった感じは無いかの?」
「変わった感じ、、、? いやだ、学院長!
 何か猥褻な魔法でもかけてるんじゃないでしょうね!?」
「うむ、ミス・ヴァリエール。 君にもワシを何じゃと思っとるのか
 一遍キッチリ聞いとかんといかん様じゃな」


確率世界のヴァリエール
Cats in a Box - 第十話
 
 

27 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:16:07 ID:???
==============================


「本当にここなの? シュレ」
砦の中は窓を閉め切り明かりも無く、昼間とは思えぬほど暗かった。
何より人の気配が一切無い。
懐にしまってある手渡すはずの密書を思わず探る。
「だと思うんだけどなあ〜」
会議室らしき広く薄暗い空間を眺め回す。
部屋の中央には大きく長いテーブルと、その周りに椅子が置かれている。
天井には、、、何かの横断幕?

「あ。」
「ど、どうしたの!? シュ、、」
言いかけてルイズも気付く。
正面の扉の向こうに不意に現れた気配に。
体中の全ての細胞が大音量で警報を鳴らす。
ルイズの全身の皮膚が総毛だっていく。
途轍もなくヤバいものが、あの向こうに、居る。
「シュレ!」
慌てて使い魔の頭を引き寄せようとすると、扉の向こうから声が響いた。
「まーま、そう急がんでも良かろう?」
扉の向こうの気配に似会わぬ鈴を振るような声と共に、部屋の中に明かりが灯る。
テーブルの上にはワインとグラスが置かれ、天井の横断幕には
『ようこそ! 虚無の魔女殿』と書かれている。

ゆっくりと扉が開く。
扉の向こうに居たのは真っ白な少女だった。
白いスーツ、白いコート、白いマフラーに純白の毛皮の帽子。
黒髪のその少女がにっこりと笑う。
「はっはっは、やっと会えたの」
 

28 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:19:47 ID:???
「うわちゃー、やっぱりアンタだったの?」
顔を引きつらせるシュレディンガーに少女が返す。
「連れない言い方じゃな、シュレディンガー。
 この前もわざわざ世界の果てまで行っておきながら
 とっとと帰りおって」
「あー。 『虚無の地平』で感じたあの気配、
 あれってやっぱりそうだったんだ。
 でもアレ? じゃあ、二人?」
小首を傾げるシュレディンガーの袖をルイズが引く。
「シュレ、この娘、っていうかこの人って、もしかして、、、」
「そう、僕の、僕らの宿敵だった吸血鬼。 『死の河』さ」
白づくめの少女が優雅に一礼をする。
「お初にお目にかかるの、魔女殿」

その後ろから数人の男が走ってくる。
「シェフィールド殿!」
少女は鬱陶しげに後ろからやってきた男の一人を睨む。
「こ、この娘が?」
球帽をかぶった聖職者風の男がルイズを見つめる。
その後ろには武装した兵士達が控えている。
「無粋なヤツじゃな、クロムウェル。
 せっかくの対面に水を差しおって」
「クロムウェルって!」
ルイズが驚きの声を上げる。
「ほお、魔女殿も名前は知っておられたか。
 左様、この背の高い変な帽子をかぶった男が
 レコン・キスタの総司令官、オリヴァー・クロムウェルじゃ。
 ん? もう神聖アルビオン共和国の王様なんじゃったっけ?」
「い、いや、まだ、その、、、シェフィールド殿?」
「あっそ。 まーどーでもいーや」
興味なさげに目線を外し、二人に向き直る。
 

29 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:24:30 ID:???
「まあ、せっかく会えたんじゃ。
 立ち話もなんじゃし座らんかの?」
言いながらワインのビンを手に取る。
「、、この砦に居た人たちをどうしたんですか?」
「そんな小難しい話は置いといて」
問いかけるルイズにワインを注いだグラスを差し出す。

ルイズがシェフィールドと呼ばれた少女を睨みつける。
そしてその後ろに立つ聖職者風の男を。
レコン・キスタ総司令官、クロムウェル。
アルビオン王家の、トリステイン王国の、姫殿下の、そして私の敵。
軽く目を閉じ、目を開く。
ワイングラスをひったくると中身をそのまま飲み干し、
たん! と、テーブルの上に置く。

「この砦に居た人たちをどうしたの!!」

白い少女は眉を上げてにんまりと笑い、ひゅう! と口笛を吹く。
そして楽しげに後ろの男を振り返る。
「クロムウェル、客人にお食事を」


シュレディンガーが椅子を引き、ルイズが腰掛ける。
対面には白い少女、そして自分の横には使い魔の3人きり。
「安心してくれて良い。
 元々この砦には王党派の連中はおらんよ。
 どうしても魔女殿に会いたくての」
くすりと少女が笑う。
「良い鴨が手に入っての。
 腕を振るうたのは久しぶりじゃがな。
 ランチはまだじゃろ?」
 

30 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:29:40 ID:???
「へー、料理出来るの?」
シュレディンガーが軽く驚く。
「当ったり前よ。 期待してくれて良いぞ。
 ただ、良いオレンジが手に入らなんでソースの出来は今一つだがの。
 そうそう、トリステインには良いオレンジの産地があると聞く。
 タルブと言うたか? 今度クロムウェルをもがせにでもやるか」
無言で睨むルイズをよそに、少女がワインを傾ける。

「それにしても随分と変わっちゃってなーい?
 あのアーカードともあろうものが」
「ふん、まるでルーク・ヴァレンタインの様に、か?」
突然出てきた名前にシュレディンガーが苦く笑う。
「うわ、知ってたの?」
「死の河に取り込まれた際に、この私の血が混じったのだろう。
 お主らが何をしておるのか位は何となく判る。
 それにな、シュレディンガー。
 私は『あのアーカード』では無いよ。
 アーカードであってアーカードでない。
 しかしアーカードそのものとも言える。
 なにせ、、、」

アーカードがグラスを置く。
「私の中には、あの人間好きで狗嫌いの
 ツンデレのヒゲ親父はおらんからのう。

 お前と同じよ、シュレディンガー。
 全てが溶け合い混ざり合う境目の無い世界から
 私だけが切り取られ、私だけが呼び出された。
 世界の果てを漂う死の河から、此方へな」
「アーカード? アンタって一体、、、」
シュレディンガーがしばし言葉を失う。
 

31 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 09:31:42 ID:???
支援

32 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:38:00 ID:???
「言うたとおりさ。

 神を信じる余りに神を裏切り化物と成り果てたあの狂王は、
 永い永い時の中で、幾千幾万の命と同化を続けるその内に、
 永い永い時の中で、幾千幾万の記憶と魂に犯され、蝕まれ、
 そもそもの自分自身すらも無くしかけた。
 その時に、狂王に代わり死の河を統べる為に死の河より生まれたもの。
 それこそが青年の姿を持つ「あの私」であり、少女の姿を持つ「この私」だ。
 
 伯爵と呼ばれたその化物を打ち倒したヘルシング卿は
 自らの打ち倒した化物の中にあの私やこの私を見出し、
 それらの持つ力を拘束制御術式【クロムウェル】と名づけ、
 そして百年をかけて作り上げていったのじゃ。 吸血鬼アーカードをな。
 そのアーカードの中から切り取られ召喚されたのが
 「この私」だ」

「じゃあ、こちらに呼び出されたアーカードは
 ええと、つまり、その、ロリカードだけって事?」
シュレディンガーが眉をしかめ腕を組む。
「誰がロリカードじゃ。 だがまあそういう事だ。
 この私の中にはあの串刺し公ヴラド・ツェペシュも
 あの吸血鬼ドラキュラ伯爵も居らん。
 シェフィールドという名を与えられた死の河の切れはし、
 今の私はただそれだけに過ぎん」
「あの変な帽子に?」
「あの変な帽子は私のメシ当番に過ぎん。
 わしを呼んだのはムサくてヒネこびたおっさんじゃ」
吸血鬼がため息をつく。

「私はそんなおっさんに呼び出されたと言うのに。
 全くお前が羨ましい。 シュレディンガー」
 

33 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:44:34 ID:???
それまで黙って話を聞いていたルイズに目を向ける。
「幼いながら大層なご活躍よの。
 アルビオンの戦艦を落としも落としたり21隻。
 おかげでレコン・キスタは北方の制空権を失って昔ながらの陣取りゲーム。
 戦線より向こうの反乱蜂起を治めることもままならん。
 火薬庫や鉱山もあっちこっち潰されて弾薬不足の物不足。
 スカボローは連絡不通になって久しく、ダータルネスも時間の問題。
 正規軍は二万近くもの欠員を出し、傭兵の賃金はうなぎのぼり。
 戦場稼ぎどもは大喜びじゃろうのう。
 南は南で「アルビオン解放戦線」のゲリラが
 農民を中心に勢力を拡大するカトリック信者と手を結んで
 あの変な帽子が苦心してかけた洗脳をはしから解いて回る始末。
 野火は南端の軍港ロサイスに迫る勢い。

 今やこの浮き島は、あっちもこっちも死体の山じゃ。
 いやはや全く見事なお手前で」

「当然よ」
自分のもたらした戦火と被害が頭をよぎるが、
それでもその声は平静を保っている。
「レコン・キスタは、私の主の敵だもの!
 主の敵を打ち倒すこと。
 それこそが貴族の務めよ」

「ほう」
嬉しげににんまりと頬を上げる。
「あ奴の言うたとおりか。
 幼いながら、は失礼であったの。
 お詫びしよう、虚無の魔女殿」
軽く頭を下げ、ルイズの瞳を覗き込む。
 

34 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:49:57 ID:???
「実にいい目をしておる。
 世界の果てで覗いてきたのであろう?
 虚無の深遠を」
ルイズの瞳の中に果ての無い闇が映りこむ。
「顕現しつつあるな、お主の中の虚無が。
 成程、担い手に相応しい」

「担い手? 何の話!?」
睨み返しつつ、ルイズがアーカードに聞き返す。
「こちらの話さ。
 それよりどうじゃ? 魔女殿。

 この私を 使い魔 にしてみんか?」

、、、、、。
ようやく言葉に理解が追いつく。
「はああ゛!?」
「なに、使い魔を2匹持ってはいかんという法もあるまい。
 わしとしてもあんなおっさんよりお主の方が面白そうじゃ。
 そもそもあのおっさんとは契約とやらもしとらんしの」
突然の展開に一人と一匹がうろたえる。
「ちょ、アーカード!?」
「なな、何言ってんのよ!
 アンタ私の敵でしょ!」
「え? 知らんよ?
 ワタシここにお呼ばれしとるだけで
 レコン・キスタとかじゃないですもの」
「じゃないですもの、じゃなくって!」

「んー、じゃあの」
 

35 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 09:55:49 ID:???
アーカードがゆっくりとその手を差し出す。
「お主が私になる、というのはどうだ?」
その目が優しくルイズを見つめる。 その心の奥底を。

「私は吸血鬼だ。
 だが吸血鬼たり得ない。
 人から化物に成り果てたモノではなく、
 人から切り離されたモノに過ぎぬからだ。
 だからこそ、人が愛おしい。
 だからこそ、人を知りたい」

アーカードの瞳が、ルイズ自身をとろとろと飲み込んでいく。

「私となれ。
 私の力を与えよう。
 夜を統べる力を。
 死を統べる力を。
 血を統べる力の全てを。
 あの狂王のように。 あの男にしたように。
 私はお前を選ぼう。
 だから私と一つになれ。 この御座に座れ。
 そしてお前を教えてくれ。

 私となれ。 ルイズ」

「私は、」
血の匂いが部屋に満ちる。
あれほど渇望した「力」が今、目の前にある。
甘やかなその匂いに誘われるように、
ルイズはゆっくりと自らの手を伸ばす。
「私は、、、」
 

36 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 10:01:14 ID:???
「駄目! ルイズ!!」
シュレディンガーが叫んだその時。
閉ざされていた扉が開け放たれ、十数人の兵士達が
部屋の中になだれ込み、テーブルの3人を囲む。

「シェフィールド殿」
怯えと、そして決意のこもった声が響く。
兵達の向こうからクロムウェルが進み出る。
「今回ばかりはあなたに従う事は出来ません。
 そこにいる虚無の魔女は、我らの悲願を妨げる者。
 あなたには悪いが、今、この場で、禍根を断たせて頂く」
青ざめた顔で告げると、己の右手を振り上げる。

ゴズンッ。

当然響いた低い金属音に、アーカードを除く全員の視線が集まった。
兵士の一人が宙に浮いている。
がらんっ、と音がして兜が床に落ち、不思議そうな表情をした顔が現れた。
兵士は自分の腹から生えた黒く細い棒のような物を見つめている。
それは床から生えており、自分の背中を刺し貫いて天井を砕いていた。
何かを喋ろうとして、替わりにごぽり、と血の泡を口から溢れさせた。

「クロ〜ムウェ〜ル?」
椅子に座ったままのアーカードが首だけをかくりと後ろへ倒し、
何が起こったのかを理解できていない球帽の男へ目をやった。
椅子越しにさかさまになったその頭からは黒髪がこぼれ、
串刺しになった男の下へと伸びている。
そして、他の兵士達の足元にも。

「私は客人の食事を持って来い、と言うたんじゃぞ?
 私の食事を持ってきてどーする」
 

37 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 10:05:21 ID:???
兵士の数だけ金属音と、悲鳴が響いた。
断末魔と、血の滴る音が部屋を包む。
「三度は言わんぞ? クロムウェル」
出来の悪い生徒に語りかける様に、呆れ顔で短く告げる。
クロムウェルはぺたんとその場に座り込むと、
蚊の鳴くような悲鳴を上げてずるずると廊下の向こうに消えていく。

兵士達の死体は影の中に飲み込まれ、消えた。
しかし穿たれた天井から落ちる石片と、何より部屋に立ち込める
濃密な血と臓腑の臭気が、今の出来事が現実だと告げている。
アーカードが席を立ち、ルイズへ歩み寄る。

「はっはっは、おっちょこちょいな奴でのう」
「貴方は私の敵よ、アーカード」

席を立ったルイズが、アーカードを見据える。
「貴方を私の使い魔になんてしない。
 私は貴方と一つになんてならない。
 レコン・キスタもウェールズ様も姫殿下も関係ない。
 貴方は私の敵よ、アーカード」

「ほう、それは残念」
とても満足げな顔でアーカードが言う。

「そうか。
 そうなのか。
 お前がこの私を、打ち倒してくれるのか」

一歩。 一歩。 吸血鬼がルイズへ歩み寄る。
部屋の中に灯された明かりが、広がる影に殺される。
目の前の吸血鬼が、部屋に広がる闇そのものとなっていく。
 

38 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 10:07:26 ID:???
「ええ。
 その通りよ。
 私が貴方を打ち倒すわ、吸血鬼(ヴァンパイア)」

飲まれず、逸らさず。
目の前に立ったアーカードの視線を
ルイズは真正面から受け止める。

ふっ、と。
アーカードが目を閉じ軽い笑みを浮かべる。
闇の気配が薄らいでゆく。

「そうか、
 それは楽しみだ。
 とてもとても楽しみだ」
アーカードがうっとりと、楽しげにつぶやく。
その視線はルイズを見つめながらも、
その遥か先へと向けられていた。

「ではその時を、
 再び戦場でまみえるその時を楽しみに待つとしよう。
 こんな借り物の闘争なぞでない。
 私とお主との戦場(いくさば)でな、
 虚無の魔女殿」

そう言うとアーカードはきびすを返し、
扉をくぐると廊下の先の闇へと溶けていった。
ルイズに差し出したその手を背中越しに掲げて。
闇に消え入るその後姿をルイズは見送り、
シュレディンガーはにんまりと主人の横顔を見つめた。
 

39 :確率世界のヴァリエール-10:2009/12/06(日) 10:10:23 ID:???
「シュレ、、、」
気配の消えた廊下の先をじっと見つめたまま、
ルイズがシュレディンガーの袖口を掴む。
「うん! ルイズ」
シュレディンガーが誇らしげに返事をする。
「ぶふぇああ゛あ゛ぁぁ〜〜!!」
肺に溜まった空気を吐き出し、ルイズがその場にへたり込む。
「ごわ゛がったああ〜〜!」
「はいはい、よく頑張ったね〜。
 えらいえらい!」
シュレディンガーがニコニコとその頭をなでる。

座り込み、床を見つめたままルイズがつぶやく。
「シュレ、わたし、、強くなりたい」
その手を握り返し、シュレディンガーが応える。


「なれるよ、もちろん。
 だって、ルイズはルイズだもの!」

40 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2009/12/06(日) 10:19:26 ID:???
以上です。
支援くださる方、まとめてくださる方、観想くださる方、読んでくださる方に感謝。

ロリカードが拘束制御術式の擬人化というか意思ある矢印の擬人化の様に書いてますが、
あくまで作中ではこう、ということで、私自身はもうちょっと
本体であるヴラド公に近いモノなんじゃ無いかと思ってます。
まあ旦那というかロリカードをラスボスにするための方便です。

旦那本体は今も虚無の地平をカーズ様してるものと思われます。

41 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 10:40:06 ID:???
乙でした。
今回は割とシリアス回でしたね。ギャグもシリアスも行けると言うのは羨ましい限り。

しかし、カーズ様っていうにはあの髭カード様はアグレッシブ過ぎないか?w

42 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 16:46:00 ID:???
>>41
なんだかんだで30年かけて帰還してるからねぇ。

43 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 21:14:38 ID:???
投下があったと思ったらゆとりかよ

44 :マロン名無しさん:2009/12/06(日) 21:17:39 ID:???
申し訳ない、誤爆してしまいました

45 :マロン名無しさん:2009/12/07(月) 20:42:09 ID:???
怒らないからどこの誤爆か言ってみんさい

46 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 00:29:36 ID:???
投下乙でした
青年版もロリカードもある種別存在という設定はまありっちゃありだな
他のキャラはともかくシュレって戦えるのかね?身体能力が他の吸血鬼と同じなら十分いけるが

47 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 00:34:46 ID:???
原作では一切不明だな

シュレのチート能力はオリジナル吸血鬼を遥かに超えるチートっぷりだから、ドク謹製とも思えんし
そうなると他の中尉や准尉連中のように強いとは限らない
でも大尉のような純化物であれば、強くてもおかしくもないし

そこらへんは自由だよね

48 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 05:54:12 ID:???
大尉が大隊最強みたいな話がなんどかあったから下手すりゃナンバー2か

49 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 14:13:29 ID:???
死なないからなw
大尉が勝てるとすれば、大尉でも勝てる相手に対する殲滅時間くらい?
シュレは時間さえ掛ければ旦那だって普通に殺せるよね。

50 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 14:18:28 ID:???
無理だろう

何回か殺してる内に食われて相打ち

51 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 15:04:37 ID:???
大隊最強のくせにセラスに負けたのか<大尉

52 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 16:06:37 ID:???
旦那と大尉と神父が三人でにらみ合ってるシーン
あれ、誰コイツなんで旦那と神父の間に割って入ってるの?
その後読み進めて
え、セラスに負けんの?

喋らないから印象薄いんだぜ大尉

53 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 16:10:49 ID:???
>>50
どうやって食うの?

54 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 16:16:04 ID:???
普通に噛み付いて終わりじゃね?

55 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 17:09:10 ID:???
大尉については外伝に期待

56 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 17:10:30 ID:???
銀なしじゃ旦那以上に不死身だしなワン

57 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 17:29:24 ID:???
あのフェアプレイ精神がなけりゃ大尉が勝ってたと思う

58 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 17:52:18 ID:???
コミックだと自分から渡してたけど
連載のほうだとセラスが思いついて拾ったんだっけ
なんで変更したんだろう…死にたがりってのを演出したかったとか?

59 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 17:56:35 ID:???
・漫画的
大尉が呆気なさすぎだので、自分からハンデを課した演出にした

・作中的
セラスを好敵手と認め、フェアプレイ精神に則った
死にたがりの戦争犬を表現した

60 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 19:04:17 ID:???
>>54
噛み付かれる前に消えれな良いんじゃね?

61 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 20:07:27 ID:???
女王御前会議とかで呆気なく殺されてるし、そんな出たり消えたり便利な能力じゃなさそうだけどな

62 :マロン名無しさん:2009/12/08(火) 20:22:02 ID:???
自身の認識速度より速く吸われたら終わりだな

63 :マロン名無しさん:2009/12/09(水) 01:40:24 ID:???
ちょろっと吸われてもダメなら相打ちも可で、ちょろっとじゃダメなら消えればおk?

>>61
そこらへんは不死者にありがちな油断というか、別に殺されても平気だし〜?みたいな感じとかw

64 :マロン名無しさん:2009/12/09(水) 10:16:11 ID:???
吸われながら死んだらストック行きだから、首とか噛まれたらお終いだな

65 :マロン名無しさん:2009/12/09(水) 13:14:29 ID:???
シュレって首を噛まれたくらいで死ぬのかな?
肉体的な強度が分からんよね。
あとは旦那の食事中に消えたり出来るかでも変わるのか。

66 :マロン名無しさん:2009/12/09(水) 16:26:06 ID:???
ナイフで首落としてるから死ぬだろ

67 :マロン名無しさん:2009/12/09(水) 21:16:19 ID:???
しかし結果は相打ちという……


決着つけるの無理じゃね?

68 :マロン名無しさん:2009/12/10(木) 05:51:18 ID:???
噛むってカプっと血を頂くんじゃなくて、ガブリと食いちぎるのか

69 :マロン名無しさん:2009/12/10(木) 12:12:05 ID:???
ばりばり ぐしゃぐしゃ ばきばき ごくん

70 :マロン名無しさん:2009/12/10(木) 12:44:35 ID:???
ぼくをみてぼくをみて、ぼくのなかのかいぶつがこんなにおおきくなったよ

71 :マロン名無しさん:2009/12/10(木) 15:27:31 ID:???
>68
寄生獣のパラサイトの様に突然頭が変形し、ばくん、と食べるのですね。

72 :マロン名無しさん:2009/12/10(木) 19:25:30 ID:???
勤務を怠けて甲板でひなたぼっこしていたことをシュレにチクられ
罰として士気高揚のための裸踊りをしている最中のリップさんを召喚

73 :マロン名無しさん:2009/12/10(木) 20:49:19 ID:???
シュレはシュレで年中サボってそうw

74 :マロン名無しさん:2009/12/11(金) 22:45:44 ID:???
穴蔵で50年も何してたんだろうな

75 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 01:50:51 ID:???
シュレは確率で存在しているから、アーカードにどんな形であれ吸収されれば観測が出来なくなり虚無の塊になるだけじゃないのか。
シュレは対アーカードに特化した特殊工作兵で直接的な戦闘力は求められないと思うぜ。

76 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 05:11:00 ID:???
吸収されたと「確定」した時点でダメってことでおk?

77 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 07:59:43 ID:???
うん

78 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 18:12:57 ID:???
そういえばシュレの性別って観測しないと確定しないのか。

79 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 18:54:33 ID:???
個体そのものは同一なんじゃないのか?

80 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 20:27:10 ID:???
>>78
最初はそういう設定だと思ってたなぁ
男でも女でもなくて、あるみたいな

でも少佐が彼って言っちゃって、ヒラコーがショタキャラって明言しちゃったからなー

81 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 21:00:44 ID:???
どっちもショタが好きだからそう言ってるだけさ

82 :マロン名無しさん:2009/12/13(日) 21:20:51 ID:???
!?
つまりふたなりと思いながら観測すれば……!

83 :マロン名無しさん:2009/12/14(月) 04:21:02 ID:???
ということは、夜食セット(おにぎり、ウインナー、卵焼き)だと思いながら観測すれば……!

84 :マロン名無しさん:2009/12/14(月) 22:39:13 ID:???
俺のわかるように説明しろ!

85 :マロン名無しさん:2009/12/14(月) 23:38:35 ID:???
エレオノールの使い魔がセラスだったら

86 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 00:39:40 ID:???
戦争が始まるな

87 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 01:00:26 ID:???
「いったい何が始まるんです?」
「第三次世パイ大戦さ」

88 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 07:11:07 ID:???
巨貧戦争

89 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 20:31:24 ID:???
カリンの使い魔(師匠)がインテグラだったら
ルイズ達が産まれない気がするのは何故だろう・・・

90 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 22:19:20 ID:???
ルイズがアーカードを召喚し
カトレアが大尉を拾い
エレオノールの友人がハインケル

91 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 23:01:18 ID:???
更に追加して
公爵の相談相手にアンデルセン
カトレアがシュレも拾い
エレオノールの上司or同僚にドク
オスマンの恩人が少佐(原作が始まる頃には整備不良で機能停止)
銃士隊にハインケル、セラス、リップ、ゾーリン、美由紀
衛士隊(ワルドの同僚)にヴァレンタイン兄弟、トバルカイン

92 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 23:06:49 ID:???
スーパーヘルシング大戦じゃねーか

93 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 23:11:17 ID:???
美由紀って誰やねん!

94 :マロン名無しさん:2009/12/15(火) 23:26:34 ID:???
第三の人格です
巨根で特技はアヘ顔

95 :マロン名無しさん:2009/12/16(水) 03:49:09 ID:???
ルイズがインテグラを召喚する話を書く猛者は現れないのかな

96 :マロン名無しさん:2009/12/16(水) 07:34:28 ID:???
まあインテグラ様もムチャクチャ強いんだけどなー
ルイズがあごで使われる姿しか浮かばん

97 :マロン名無しさん:2009/12/17(木) 11:32:51 ID:???
それに加えてガンダールヴのルーンだもんな

98 :マロン名無しさん:2009/12/17(木) 21:31:08 ID:???
火ィつけろっていうよ

99 :マロン名無しさん:2009/12/17(木) 22:53:44 ID:???
インテグラがマリコリヌの使い魔で、ジョゼフの使い魔がマクスウェルだったら

100 :マロン名無しさん:2009/12/17(木) 23:29:53 ID:???
流弾屋の新刊表紙で俺のリップ熱がフィーバー
ちょいとがんばってみる。期待しないで待っててくれ

101 :マロン名無しさん:2009/12/19(土) 13:09:51 ID:???
リップはアーカードに襲われビビっている乙女中尉がイメージに有る。

102 :マロン名無しさん:2009/12/19(土) 18:00:58 ID:???
リップヴァーンは童貞の血が好きなんですよね?そうなんですよね?

103 :マロン名無しさん:2009/12/19(土) 21:57:02 ID:???
純真なショタか目標に猛進している血が綺麗な童貞で、>>102のような腐りきった童貞の血は望まないと思うぞ。

104 :マロン名無しさん:2009/12/19(土) 23:45:04 ID:???
リップたんだって自由意思を持つヴァンパイアなんて作りたくないに決まってるさ
そう思ってワクテカしているお前の前に全裸にヘルメット一丁のゾーリン登場

105 :マロン名無しさん:2009/12/20(日) 15:59:53 ID:???
>>104
それは良いご褒美ですね

106 :マロン名無しさん:2009/12/20(日) 18:34:52 ID:???
ないわー

107 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 00:20:12 ID:???
アンデルセンがヴィットーリオの使い魔だったら…

108 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 00:50:07 ID:???
アンデルセンが、他宗教の最高位にいる狂信者の使い魔に?
なるわけ無いだろwwww

109 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 01:15:55 ID:???
キリスト教布教のための工作とかで…殺意を抑えられそうにないな。

110 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 11:03:06 ID:???
アンデルセン神父は異端者を殺害する事に忌避を持っていないのはまず間違いない。
しかしもし偉い人から『異端宗教に潜入して異端者を改修させろ』と命令が来たらどうするんだろう。

111 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 11:15:57 ID:???
確かここのSSだったと思うんだけど、キリスト教を知らない哀れな異端者に教えを広めて改宗させてあげる的な神父が居たような気がする。
敢えてキリスト教以外を選んだのではなく、知らないだけだからそうなったのかもしれないけどさ。
キリスト教の素晴らしさを知らないから異端者になってるとかそういう考えなら、異端者→殺すの間にもうワンステップ教えを広めるみたいなのが加わる?

112 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 12:07:03 ID:???
>>110
アンデルセンは「教義のためなら教祖をも殺す」狂信者集団13課の筆頭だぞ
その偉い人をぶっ殺しちゃうに決まってるだろ、マクスウェルみたいに

>>111
字楽先生?

113 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 12:14:04 ID:???
シュレの人の由美江もヴィットーリオに喚ばれたけど
殴って逃げ出してたね

114 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 21:55:07 ID:???
字楽先生は学校の教師からどうやって13課に…

115 :マロン名無しさん:2009/12/21(月) 23:14:28 ID:???
きっと潜入してたんだよ、趣味で

116 :マロン名無しさん:2009/12/22(火) 01:01:59 ID:???
改宗させるとかは13課の仕事じゃない気がするけどな。
駄目なら消せって言われたらやるかもしらんけど

117 :マロン名無しさん:2009/12/22(火) 01:47:52 ID:???
>>114
シエル先輩的なノリだな

>>116
ってもハルケギニアには13課どころかヴァチカンがないからな、
アンデルセンも最早ただ炸薬のままではいられない訳だし、神ではなく神の力に仕えたマクスウェルは殺しちゃう位だから指示待ち人間って事もないだろうから布教とかもやるんじゃない?

ガラじゃないとかボヤいたりはしそうだけど

118 :マロン名無しさん:2009/12/22(火) 09:03:05 ID:???
孤児院で一見すると優しい神父さまやってたじゃないっすかwwww

とか言ったら殺されちゃうのかしら

119 :マロン名無しさん:2009/12/22(火) 11:58:55 ID:???
というか由美江やハインケル、マクスウェルを育てているんだから
教師としても大丈夫なんじゃない?少々偏った思想に染まりそうではあるけれども

120 :マロン名無しさん:2009/12/22(火) 12:21:06 ID:???
少々か?w

121 :マロン名無しさん:2009/12/22(火) 16:34:20 ID:???
数ある物事の中でたった一つ、宗教関連になるとピーーってだけだから少々だよ!
えっ、度合い?
……打ち込めるものがあるって、素敵だよね!

122 :マロン名無しさん:2009/12/23(水) 19:05:27 ID:???
スゲェイカす神の為にガンバ!

123 :マロン名無しさん:2009/12/23(水) 20:01:55 ID:???
ヘルシング世界について最大の疑問がある。
バチカンに十三課のような構成の集団がある以上、他の宗教にも似たような構成の集団がいて、日常の裏で宗教戦争を、十三課と拮抗するレベルで続けているのではないだろうか、と。

124 :マロン名無しさん:2009/12/23(水) 20:59:53 ID:???
イスラム教あたりはヤバそうな雰囲気

125 :マロン名無しさん:2009/12/23(水) 22:20:47 ID:???
ネタ元のユダヤ教のシカリー党とイスラム教の山の老人が相当ヤバい匂いが。

126 :マロン名無しさん:2009/12/23(水) 23:28:35 ID:???
毒ガス撒いたガイキチをお忘れか

127 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 05:37:59 ID:???
日本の十三課は光覇明宗?

128 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 08:58:23 ID:???
ただの新興宗教、ただの異端、その程度ならマクスウェルも『歯牙にかけない』と言ってますしね……楯突かない限りは。

129 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 12:39:13 ID:???
マクスウェルって別に狂信者じゃないよね?

130 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 12:46:39 ID:???
>>129
いや、異教徒は人間じゃないとか普通に言ってるから十分狂信者かと・・・

131 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 13:52:35 ID:???
そっか、それがあったか。
何か最期が最期だったから、あんまり狂信者のイメージが無いのよね。
キリスト教最高!ってんじゃなくて、俺(が所属してる所)最高!って感じ?

132 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 14:00:15 ID:???
狂信者を装ってる風にも見えないことはない

133 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 15:32:28 ID:???
マクスウェルってば捨て子だからな。
狂信者って所以外は優しい孤児院の神父さんっぽい育ての親に嫌われない、
もしくは喜んで貰う為に自分も狂信者っぽく振る舞っていた……無いなw
割りと小さい頃から見返してやるとかそんな感じのこと言ってたもんね。

神父は狂信者になろうとしてる、もしくはそう装ってるってだけなら怒らないよね?

134 :マロン名無しさん:2009/12/24(木) 16:29:05 ID:???
装うって言うかアンデルセンの言うとおり
マクスウェルにとっての神への信仰は
世界へ復讐をするための手段・道具でしかなかったんだと思う

135 :マロン名無しさん:2009/12/25(金) 13:04:12 ID:???
捨てられたと言う恨みに加え
アンデルセンの教えであんな性格に

つーかアンデルセンが全部悪いだろw

136 :マロン名無しさん:2009/12/25(金) 13:53:28 ID:???
マクスウェルに関しては別にアンデルセンは悪くないだろ
根底に俺を馬鹿にしたやつらを見返してやるって気持ちがあるから
何を教えてもあんまり変わらなかっただろう


137 :マロン名無しさん:2009/12/25(金) 17:45:04 ID:???
まぁ教義のためなら教祖をも殺すイスカリオテの中にいて第二次あしか作戦に横槍入れるまでアンデルセンに殺されて無いわけだし、一応それまでは狂信者だったんじゃない?

大司教に昇格した上に兵力を持ったせいで本人としては神に仕えてるつもりでもなんかズレちゃったんだと思う

138 :マロン名無しさん:2009/12/26(土) 22:51:44 ID:???
所詮本体はマフラーだし

139 :マロン名無しさん:2009/12/26(土) 23:51:45 ID:???
  /⌒\
 (    )
 |   |   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 |   |< 熱狂的再征服を発動する!!
 ( ・∀・)  \_________
  )   (
 (__Y_)

140 :マロン名無しさん:2009/12/27(日) 21:56:22 ID:???
13課っていうか十字軍は一軍まるまるかませにされたような気がしてならない

141 :マロン名無しさん:2009/12/28(月) 22:45:11 ID:???
13課も十字軍も
大隊もヴェアヴォルフも
神父も執事も大佐も
自分自身すらも
全てはジョーカー全てはブラフ

ただ一滴の毒を盛るための見せ札に過ぎない

142 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2009/12/29(火) 20:51:59 ID:???
お久しぶりです。
確率世界のヴァリエール 第十一話
投下します。

143 :マロン名無しさん:2009/12/29(火) 21:28:28 ID:???
どうした?

144 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:37:03 ID:???
トリステイン魔法学院の地下深くに、低く強い発電機の唸りが響く。
「異世界文化研究室」と記されたその扉の奥では、コルベールが狂喜の笑みを浮かべ
「初めての工作キット:水中モーター」と書かれた紙箱を手に取っている。
そしてその隣、「異世界文化研究室・分室」と記された扉の奥で。

「すっごく似合うわ! シエスタ!!」
モンモランシーが喜びの声を上げ、タバサとケティがうんうんと満足げに頷く。
隣室から引かれたケーブルの先にある液晶モニタは大怪球フォーグラーの威容を映し、
その前には様々なDVDソフトがうず高く積まれている。
マンガ、アメコミ、バンドデシネにライトノベルにスラッシュノベル、
翻訳用の辞書辞典に不適切なタイトルの冊子で満たされた本棚に囲まれた部屋の中央。
水兵風の上物と丈の短いスカートを着せられたシエスタは、困惑の笑みを浮かべていた。
その太股には何やら物騒な4本の刃物まで取り付けられている。
「あ、あの、皆様、これは、、、?」
「そうそう、最後の仕上げを忘れてたわ」
モンモランシーが口紅を取り出すと、鼻の稜線を横切る様にシエスタの顔に朱線を引く。
「さ、ここでさっき教えたキメ台詞よ、シエスタ!」

「は、臓物をブチ撒けろぉっ!!」

感嘆の拍手に包まれる中、シエスタは涙目の引きつり笑顔でフリーズするが、
ケティは無邪気にはしゃぎ回り、タバサは無言でインスタントカメラのシャッターを切る。
「良いわシエスタ! すっごく良い! 次はこれに着替えてみて!」
モンモランシーが鼻息荒くさらに露出度の高そうな妙にテカテカした衣装を差し出す。

「キメ台詞はこうよ。 「そうしろとささやくのよ、私のゴーストが」」


確率世界のヴァリエール
Cats in a Box - 第十一話
 
 

145 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:38:46 ID:???
「枢機卿自らお出ましとはせいの出ることじゃな、鳥の骨」
「やかましいわ老いぼれめ、送ったものに目は通したか?」
午後の学院長室、小さなテーブルを挟みオスマンとマザリーニは椅子に座っている。
ワルドが差し出した紅茶を一口すすると、オスマンはふむう、とため息をつく。
「この戦争、勝ったな」
「やはりか」
その言葉とは裏腹に、二人の顔は晴れない。

「武力が均衡しアルビオンの戦況は膠着。
 クロムウェルは神聖アルビオン共和国の初代皇帝への即位を表明、
 貴族派の連中は正式に「レコン・キスタ」を名乗りこれを支持、か。
 マッチポンプも良いトコじゃが、こりゃあ停戦交渉への前フリじゃろな」
「反乱軍のままでは格好もつかんからな。 しかしそれでも間が悪すぎよう」
「となれば今更「レコン・キスタ」を名乗る理由は一つ、尻尾切りじゃろうて。
 あの貴族派連中が潰れればそれで「レコン・キスタ」は消滅、表向きはな。
 後ろで糸を引いておった連中はまんまと逃げ切りという事じゃろう」
「やはりおぬしもそう思うか」
マザリーニが腕を組む。

「潜っておった間者達はどうなったんじゃ?」
「深く潜っておったものは、この子爵を除いて全て連絡が途絶えた。
 貴族派連中の所に潜っておった者はそのままよ」
「ふん。 顔は立ててやるからこちらも手を引け、という所じゃろうな」
「腹立たしいが、こちらもそれに乗るほか無い。
 後ろ盾の消えた貴族派連中を潰して、この戦争は幕よ」
「窮鼠猫の諺もあるぞい」
「分かっておるわ、説教くさいジジイめ。
 首尾は上々よ。 のう、子爵」
マザリーニの後ろに立つワルドが会釈をし、小さく微笑む。
「は。 全ては来週、虚無の曜日に」
 

146 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:40:20 ID:???
「ふん、いよいよこのトリステインも戦に加わるというわけか。
 ああ、嫌じゃ嫌じゃ。 生臭い連中じゃ」
オスマンがしかめっ面でパタパタと手を扇ぐが、
マザリーニは嫌味を受け流してふてぶてしく笑う。
「ふん、何とでも言え。
 このトリステインの国土を戦場にさせぬ為よ」
「物は言い様じゃな、これじゃから戦争好きは、、
 ん? そう言えば来週の虚無の曜日といえば、
 日食の日ではないか。 何とも不吉な日を」

「確かに不吉よ、貴族派の奴めらにとってな。
 そうそう、虚無といえば。
 虚無の魔女殿はどうしておられる?」
「息災にしておるぞ。
 顔が割れてしまったことも、ミス・ヴァリエールの為には
 かえって良かったのかも知れん。
 今更言うのも何じゃが、裏の世界の泥にまみれるには
 あの娘はまだ幼な過ぎる。
 ここからの汚れ仕事はわしら老いぼれだけで充分よ」
オスマンが目を細め、窓の外に目をやる。

「確かにな」
マザリーニが席を離れ、窓辺に立って光さす中庭を眺める。

「友と過ごす若者の日々は短く儚い。
 だからこそ、大切なものよ。
 だからこそ、わしらが守らねばならん。
 、、、例え、どのような事をしようともな」
遠くを見やるマザリーニの低いつぶやきに、
オスマンとワルドは黙ったままそれに応えた。
 
 

147 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:42:04 ID:???
「はあ? パーティ?」
突然の誘いにルイズは怪訝そうな顔をキュルケに向ける。

「そ、パーティ。
 ほら、もう来週から学院も夏休みに入るじゃない?
 それでさ、タバサ達が張り切っちゃってんのよー。
 アンタどうせ任務クビになって今ヒマなんでしょ?」
食堂外に設けられたカフェテラス。
その横の芝生ではフレイムとシュレディンガーが仲良く昼寝をしている。
向かいに座ってコーラを飲んでいるキュルケの話を聞きながら、
ルイズはソーセージが溺れるほどケチャップとマスタードをかけた
ホットドッグにかぶりつくと、ソーダフロートでそれを流し込んだ。
添えてあるポテトフライにも救命胴衣が必要な程のケチャップがかけてある。

「クビじゃ無いわよ!
 戦況が落ち着いてきたから、任務を一旦停止してるだけよ」
「敵の親玉に顔見られたって話じゃない?」
「あ、あれは不可抗力よ!
 っていうか、なに堂々と守秘義務違反してんのよ」
「神経質ねー、誰も聞いちゃ居ないわよ」

キュルケはタコヤキを頬張ると、中庭に並ぶパラソル付きのテーブルを見回す。
確かに、あちこちのテーブルで学生達がそれぞれの話題に花を咲かせているが、
誰もみな自分達のおしゃべりに夢中でこちらを気にしている様子は無い。
ルイズはため息を一つ付くと、キュルケが食べている青ノリまみれのソレを睨む。
「、、、何それ」
「これ? 案外イケるわよ、一つどう?」
「、、、パスするわ」
ルイズは自分達の周りのパラソルの中を覗き見る。
向こうではシェイクを飲みながら甘いソースのかかったポップコーンをつまんでいる。
その隣は生の魚介を使ったスシロールだ。 飲み物はペリエの様だが。
 

148 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:43:47 ID:???
シュレディンガーが向こうの世界の食べ物を持ち込んでからというもの、
厨房ではちょっとしたルネッサンスが起こっている。
バリエーションが増えるのは結構だし、テラスでのランチも気持ちの良いものだが、
いかんせん安っぽいメニューが多すぎる。
物珍しいからって仮にも貴族としてそれはどうなのよ、と思いながら
ルイズはもう一口ホットドッグをかじった。

「大体人のことクビだのなんだのって。
 キュルケなんて何にもやってないじゃない」
「あーら、私はアンタみたいな荒事はやんないの。
 出来るエージェントは任務をクールにスマートに、
 そしてセクシーにこなすものよ?」
「、、、何よ、最後の「セクシー」って」
「聞きたい?」
自慢げに眉を上げるキュルケに辟易としている所へ、一人の女性が近づいてきた。

「ここに居られたか、ミス・ツェルプストー。
 おや、ミス・ヴァリエールもご一緒か」
鎧姿も凛々しい若騎士にルイズは見覚えがあった。
「ああ、貴女は姫殿下の護衛の、えーと、、」
「あらー、アニエスじゃない? 今日はどうしたの?」
彼女に気付いたキュルケが声をかける。
「枢機卿の付き添いでな。
 それと、その、、先日の礼を言いたくてな、ミス・ツェルプストー。
 貴殿のお陰で憎きリッシュモンをこの手で始末することが出来た。
 あれは我が故郷のかたきだった、貴殿には感謝をしてもし切れぬ」
「まあ、アニエス。
 哀れなリッシュモン様はあくまで「事故」でお亡くなりになったのよ?
 駄目よー? 今から国内で団結しようって時にそんな物騒なこと言っちゃ」
「ああ、そ、そうだったな。 すまぬ」
アニエスがなぜか頬を赤らめキュルケから視線を逸らす。
 

149 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:44:54 ID:???
「しかし、任務の為とはいえ、本当に申し訳ない。
 レコン・キスタとの内通の証拠を得る為とはいえ、、
 あのような裏切り者と、その、、、」
「ふふ、あなたが謝るような事じゃ無いわ、アニエス。
 私が好きでやってる事よ」
キュルケがアニエスの手を優しく取る。
「う。 そ、それに、追っ手を巻く為とはいえ、、
 その、成り行きとはいえ、、、
 私なぞと、ああいう事に、、、」
「あら? 残念だわー、アニエス。
 私はてっきり貴女があの夜の続きを
 しに来てくれたのかと思ってたのに」

「あー。
 アンタがさっき言いかけた任務の話だけど、、
 聞かなくてもどんなか大体分かったわ、キュルケ」
呆れ顔でルイズが二人を眺める。

その視線に我に返ったアニエスは慌てて襟を正す。
「と、ともかくだ! ミス・ツェルプストー。
 貴殿には大きな借りが出来た。
 私に出来ることがあれば、何でも良い。
 遠慮なく申し出てくれ!」
まだ照れを残しながらも、アニエスが無骨に微笑む。

「んー、それじゃあ、、、」
キュルケがかわいらしく頬に指を当て考え込む。

「パーティがあるんだけど、今晩空いてる?」
 
 

150 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:46:25 ID:???
「こ、、れ、は、、、!」
アニエスは自分のあまりの格好に、羞恥の表情で立ち尽くす。
「まあ! トレビア〜ン!
 と〜っても良くお似合いよ、妖精さんったら!」
野太くくねる声が店内に響く。

トリステインの王都トリスタニア。
そのチクトンネ街にある『魅惑の妖精』亭の入り口には
「本日貸し切り」の札がかけてある。

「うん、アリね」
「ギャップ萌えですねー、タバサ姉さま」
すでに着替え済みのモンモランシーとケティが、感心しきりに
スポットライトを浴びるステージ上のアニエスを見つめる。
タバサは無心にシャッターを切り続ける。

脂肪どころか余計な筋肉一つ無いそのしなやかで強靭な四肢は
なめされ束ねられた革の鞭を思わせ、あちこちに走る古傷は
その鍛え上げられた肉体が紛れも無い「実用品」である事を誇示している。
まとっているビスチェはサイズが少々合わなかったのか、
引き締まった腹筋と慎ましやかなおへそを外に晒してしまっている。
アニエスはそれを頑なに両手で隠しているが、過剰に付いたフリルや
頭のカチューシャと相まって、却ってその仕草を可愛らしく見せる。
「ミミミ、ミス・ツェルプストー?
 ここ、これはさすがに、、」
「駄〜目、みんなおそろいの格好してるのに
 貴女だけそのままなんて通らないわよ〜?」
かぶりつきではしゃぐモンモランシー、ケティ、タバサはもとより、
アニエスに声をかけるキュルケ、そしてルイズとシュレディンガーも
それぞれの髪色に合わせた色とりどりのビスチェを身に着けている。
 

151 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:48:46 ID:???
「さ! これで全員着替え終えたかしら?
 妖精さんたち、『魅惑の妖精』亭へようこそ〜!
 今夜は貸し切りだから好きに使っていって頂戴ね!
 可愛いシエスタのお友達ですもの、
 う〜んとサービスしちゃうわ〜!」
店長のスカロンが腰をくねらせ満面の笑みで挨拶をする。
その横では娘のジェシカが従妹であるシエスタにサムアップする。
(ナイスよシエスタ! 新規顧客開発でお得意様ゲッツよ!)

「どーせこんなこったろうとは思ったわよ」
どうこう言うのをすでに諦めたルイズは、早くもテーブルについて
一人でワインを開けている。
「いーじゃんルイズ、せっかくなんだしー」
「アンタは良いわよシュレ、こういうカッコ似合うし」
笑顔でフリルのスカートをフリフリさせているシュレディンガーに
ふてくされた表情で皮肉を言う。

「そんな事は無いよ、僕の小さなルイズ。
 君もとっても似合っているよ」
「ワワワ、ワルド様!?
 い、い、いらしていたんですか!?」
「学生ばっかってのもなんだし来て頂いたのよー、保護者ってやつね」
モンモランシーが声をかけてよこす。
「おや、迷惑だったかな?」
「めめ、迷惑だなんてそそそんな!!
 でもでも私、こういう格好ちっとも似合わないし、
 胸だってその、、、」
ワルドが優しく笑いかける。
「さっきも言ったろう? ルイズ。 君が一番素敵だよ。
 はっはっは。 
 時に店主、お手洗いはどちらかな?」
 

152 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:50:22 ID:???
ルイズが照れるやらうっとりするやらで自失していると、
突然入り口の戸が叩かれた。
「モンモランシー。
 僕だよー。 君のギーシュだよー。
 今着いたよー。 開けておくれー」
「あら、もう着いたの? 早かったわね」
モンモランシーがフリフリと入り口へと向かい、外へ呼びかける。
「本当にー? 本当に本物のギーシュなのー?
 本物のギーシュならこれができるハズです。
 マリー・アントワネットのものまねー」
「誰だよ! 知らないよ!!
 冗談はやめて開けておくれよモンモランシー!」
「ノリ悪いわねー、ハイハイ」
扉を開けると、外には衣装ケースを両手に抱えた
ギーシュとマリコルヌが立っていた。

「ちょ、何で二人が来てるのよ!
 ていうかギーシュはまだ判るけど、なんでマリコルヌまで居るのよ!」
「ひどいなあルイズ。
 この日の為に用意したコスを持ってきたんじゃないか。 
 僕だってタバサ達と同じく異世界文化研究会の一員なんだよ?
 今日はその発表会なんだから。 って、こ、これは、、、」
中の様子を覗き込むなりマリコルヌは鼻の下を伸ばす。
「ああ、素敵だモンモランシー! ケティもとっても似合っているよ!」
ギーシュも入ってくるなり顔をゆるめる。

「全く、どいつもこいつも、、ちょっとはワルド様を見習いなさいよ!
 ホラ、賢者の様に悟りきった顔をしてるじゃない」
ルイズはそう言ってすっきりとした顔でカウンターに座るワルドを指差す。
タバサが無言でその表情をカメラに収めた。
 

153 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:51:33 ID:???
「ああー、それがタバサが言ってた例のアレ?」
キュルケが衣装ケースをテーブルの上に置き開けてみる。
「そ。 キュルケ、あなたの分もあるわよ」
「あら、そうなの? モンモランシー。
 私らはこのフリフリだけじゃ無いの?」
「このビスチェはこのお店の衣装なんですよ、キュルケお姉さま。
 せっかくだからスカロンさんに貸してもらっちゃいましたけど、
 本番はこちらなんですっ」
ケティが得意げに胸を張る。
「じゃあー、まずはこれからね!」


十数分後。
「私が死んでも替わりはいるもの。」
「ほーっほっほ! アンタバカぁ!?」
出てきたタバサとキュルケはぴったりとしたボディスーツに着替えている。
この世界では見慣れない透明の生地が使われた赤いキュルケの衣装は
やたらと露出度が高い仕上がりになっていた。
「ほらケティも! 3人揃って1セットなんだから!」 「にゃ、にゃ〜ん!」

「はっはっは、3人とも可愛らしいね。
 時に店主、お手洗いはどちらだったかな?」


さらに十数分後。
「ガンダムにおヒゲはありますか!? ありません!!」
次に現れたモンモランシーはパラソルを持ってつばの広い帽子をかぶり、
白地にブルーのラインの入ったブラウスとスカートを着ていた。
「台詞が逆。」 「キエル・ハイムからキエル・ハイムへ、、、」
 
 

154 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:52:36 ID:???
さらに十数分後。
「あたいったら最強ね。」
青いリボンを頭に付け、同じく青のワンピースを身にまとったタバサの背中には、
ウィンディ・アイシクルの魔法によって作られた氷の矢がきらめいている。
「な、なんかノリノリね、タバサ、、、」 「H。」


「うぇ!? 私の分もあるの!?」
「当ったり前でしょルイズ。 さ、こっちいらっしゃい」
さらに十数分後。
「あ、これ結構可愛いじゃない」 「でしょでしょ!?」
白地のスカートつきレオタードに紫のインナー、それに黒い子悪魔風のシッポ。
丸くて大きな白帽子には、シッポとおそろいの黒い羽根飾りが付いている。
くるりと回るとスカートがひらりと舞い、シッポが可愛らしく揺れる。
「このキャラのキメ台詞は〜、」
「あ、やっぱそういうの有るんだ、、、」
「ん? 何か有ったっけ? タバサ」 「特に無い。」
「そう言えば無いですねー、お姉さま。 「リトリトー♪」とかですか?」
「じゃあそれで、ルイズ」 「、、、」


「じゃあ次はシエスタね!」
「モ、モンモランシーさん、私もやっぱりまたやるんですか?」
「当〜然! 二着とも持ってきてるわよ〜♪」
「わ、そうなの? 見たい見たい!」
「もう、ジェシカまでー」
「それじゃせっかくだしジェシカさんと一着づつね!」
「え? 私もいいんですか!? やったー!」
 
 

155 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:54:05 ID:???
「じゃあー、次は次はー」
ノリノリで衣装ケースを漁るモンモランシーを
カウンター席でギーシュがニコニコと見守る。
「いやいや、皆が喜んでくれて嬉しいよ。
 小物を作る手伝いをした甲斐があったというものさ」
「へー、ギーシュの錬金で? 再現度高いよ、やるね」
隣の席でマリコルヌが感心する。

「何コソコソ話してんのよソコー、いっやらしーわねー」
ワインで程よく出来上がったルイズがカウンターの二人を指差す。
「い、いやらしくないだろルイズ!
 僕はただ純粋にコスプレの完成度を」
「鼻の下伸ばして何言ってんのよ、デブのくせに。
 大体あんた達二人だけ、な〜んで制服のまんまなのよ」
「い、いやいやルイズ? だってホラ、僕らは衣装もないし」
「あらー、ギーシュ? シュレちゃんだって
 きちんとドレスアップしてるじゃない。 ねえ?」
「ねー?」
「キュ、キュルケ!?」
「そういえばそれも不公平ねえ」
「モンモランシーまで!」
さっきまでギャラリー気取りだった二人を
ビスチェ姿の妖精たちがやんやと囃し立てる。

「そー言う事ならお任せよ!!」
出番とばかりにスカロンが腰をくねらせやってくる。
「いや、店主? 僕らはこういう事は、、」
「あらいやだ、初めてなのね! 怖がる事無いのよー?
 お姉さんが優しくリードして、あ・げ・る!
 ジェシカ! シエスタ! いくわよ!!」
 
 

156 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 21:56:13 ID:???
そして十数分後。
スポットライトの照らすステージにスカロンが現れる。
「はあーい、お待たせ致しましたー!
 このお店の新しい妖精さんを紹介しちゃいまーす、
 ギーシェちゃんとー、
 マリコレーヌちゃんでーす!!」

シエスタとジェシカに手を引かれてステージ上に現れた二人を
皆が拍手と喝采で迎える。
「わ、割とアリね」
「アリ。」
「大アリですねー、お姉さま」
かぶりつきの三人組が目を輝かせる。

「ギ、ギーシェ、です、、、」
覚悟を決め切れずに赤面したギーシュが金髪ロングストレートのウィッグを
いつものクセでかき上げる。
男子生徒の中では細身のタイプとはいえ黄色いビスチェから出た広い肩は
大人へと成長する過程の力強さをしっかりと示しており、端正な顔立ちとの
アンバランスなギャップが何ともいえぬ危うさを醸し出している。
その倒錯的な魅力にキュルケは自分の中の野獣が頭をもたげるのを感じ、
思わず舌を舐める。

「マ、マリコレーヌでぇす♪」
空色のセミロングパーマのウィッグをつけたマリコルヌは、
そのふんわりとした髪とふくよかなボディラインも相まって
まるで違和感なく淡いブルーのビスチェを着こなしている。
照れながらも満更でもなさそうなその表情は、恥じらう乙女そのものだ。
とても男性とは思えないそのきめ細やかな肌と豊満な胸に
ルイズも思わず息を呑む。
 
 

157 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:00:31 ID:???
「はーい妖精さんたち、クックベリーパイが焼けたわよー」
「スカロンさんありがと! それ私大好き!」
スカロンとジェシカが運んできた焼きたてのパイにルイズがかぶり付く。
「ん〜、おいし」
「あ、あふい」
熱々のパイを持て余すシュレディンガーの向こうでは、
ギーシェとマリコレーヌを三人組がいじり倒している。
「なんのかんの言って、来て良かったでしょ?」
「ま、ね」

隣のキュルケに返事をしつつ、伸びを一つする。
「ここんトコ、色々と忙しかったからねー。
 あちこち飛び回って、船落っことして、要塞潰して、
 シュレと一緒に、いろんな所を見て回って、、、」
ネコ舌を火傷して涙目になりながらもパイをかじる猫耳頭を眺める。
「なーに急にしんみりしちゃってんのよ。
 おヒマもらって気が抜けちゃった?」
キュルケが肘でルイズをつつく。
「ふう、そんなんじゃないんだけどさー、、、
 もうすぐ夏休みだし、しばらく皆とも会えないんだな、、、って」
「ぷふっ、ルイズらしくないわねー、夏休みなんてあっという間よ。
 アンタのバストが10分の1サント膨らむ間も無いって」
キュルケがぺたりとルイズの胸に手を当てる。
「あら? ごめんなさい。 こっち背中だっけ?」

思わず腕で胸を隠し立ち上がる。
「な゛っ!! 誰の胸が背中よ!
 膨らんでるっつーの! 日々成長してるっっつーの!!
 アンタは大体あれよ昔っから!
 おちちが大きけりゃ偉いってもんじゃ無いでしょ!!」
 

158 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:02:34 ID:???
「偉いか偉くないかは知らないけどぉ〜、
 貴女みたいなお子ちゃまよりは、女らしくは、あるわよねぇ」
キュルケが自信満々に立ち上がり、ビスチェからこぼれる
たわわな果実をルイズの前に見せ付ける。
「アンタのは「女らしい」じゃなくって「はしたない」でしょ、
 この淫乱牝牛!!」
「ま、まあまあルイズさん落ち着いて」
「ぬぐっ、ア、アンタも敵よシエスタ!
 おちちの大きさで女の価値が決まるとでも思ってんの!?」
うっかりなだめに入ったシエスタにも飛び火する。

「ああーん、壁のように立ちはだかる運命に立ち向かう
 乙女の姿って、いつ見ても美しいものねえ」
スカロンがうっとりと腰をくねらせる。
「むしろ壁のように立ちはだかった膨らみにこそ
 乙女の美しさがあるとは思わないかね? 店主」
「と、特殊な趣味をお持ちなんですね、子爵様」
拳を握り力説するワルドに、ジェシカがあきれ声をかける。

「と、とにかくあんたらおっぱいおばけに
 私たちは負けないわ!」
「ちょ、何さらっと私を貧乳組に入れてんのよルイズ!」
心外だとばかりにガタリとモンモランシーが立ち上がる。
「アンタだって似たようなもんでしょモンモランシー。
 どー見たってマリコルヌより小さいじゃない」
「アンタよりマシよ!
 何笑ってんのよマリコレーヌちゃあん!?」
「ぼぼぼ僕は別にあふぅんっ!?」
タバサが神妙な顔でマリコルヌと自分の胸を揉み比べる。
その横でケティも羨ましげにじりじりと手を伸ばす。
 

159 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:04:20 ID:???
「ママー、やってるー?」
やたら緊迫した空気の中、入口の扉が突然開いて陽気な声がホールに響く。
皆が振り向くと、ほろ酔い顔の二人の男が店内を覗き込んでいる。
「あらー、御免なさい。 今日は貸切なのよ。
 男の子達が入って来た時に鍵をかけ忘れちゃったのね」

「ちょっと待って、スカロンさん。
 いいえ、ミ・マドモワゼル」
キュルケがにんまりと笑ってスカロンの手を止める。
「ルイズ、女の価値はお乳の大きさじゃ決まらないんでしょう?
 だったらこの殿方達にどちらが女としての魅力があるか、
 公平に決めてもらおうじゃない?」
「はああ゛!? なな、何言ってんのよ」
「あら、御免なさい。 やっぱり止めておきましょう、スカロンさん。
 こんな結果の見えてる勝負なんて、余りにフェアじゃ無いものね」
「なにが結果が見えてるってのよ!
 私がアンタなんかに負けるって言うの!?」
「そうねー、貴女みたいなお子ちゃまや、
 衣装を着ただけで満足しちゃってるモンモランシーよりは、、、
 ま、自信はあるわね」
モンモランシーがゆっくりと振り返る。
「ほおーう、言うじゃないのキュルケ。
 そういうのって、レイヤーとして見逃せる発言じゃあないのよね」

ルイズ、キュルケ、モンモランシー。
仁王立ちのままの3人が、火花を散らして睨みあう。
「良いわ、誰が一番売り上げを上げれるか勝負って事ね。

 『魅惑の妖精』亭、開店よ! ミ・マドモワゼル!!」
 
 

160 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:06:08 ID:???
「いらっしゃいませ、ご主人様。」
「いらっしゃーい!」
シエスタのメイド服を着込んだタバサとシュレディンガーが会釈をする。

「いやー、初々しいねえスカロンさん」
タバサにお酌をされている席の男が鼻を伸ばす。
「うふふ、今日の妖精さんはみーんな研修中の新人さんなのよー。
 優しくしてあげてねー?」
スカロンが声をかけると忙しげに他のテーブルへ向かう。
「しかしやるねえ、あの娘」
慣れぬ皆のフォローをするジェシカが、思わずタバサに感心する。
「ああいうのが受けるのかしら? 参考にしなきゃ」

「うーん、思わぬ強敵ね」
早々に酔っ払いを殴り飛ばし待機中のルイズがタバサを眺め唸る。
「アンタは論外でしょ」
同じく客に水を引っ掛けベンチ待機のモンモランシーがため息をつく。
「ルイズさん、モンモランシーさん、
 ケティさんのテーブルにヘルプお願いしまーす」
両手で器用に料理を運ぶシエスタが二人に声をかける。
「よっし、リベンジよ!」

「逞しいねえお姉ちゃん、普段何やってんの?」
「いや、あの、その、剣術を少々、、、」
何が何やらまだ飲み込めないアニエスがこわばった顔で答える。
(せ、戦場で剣を振っていた方が、どんなに気楽な事か、、、)
隣のキュルケに目で助けを請うが、Sっ気たっぷりの笑顔で拒否される。
「御免なさいねー、この娘ったら殿方との触れ合いに慣れていないんですの」
火照った顔で微笑み、キュルケが客にしだれかかる。
「さ、それよりもう一杯」
「そうねー、頼んじゃおっかな!」 
 

161 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:07:29 ID:???
「ぽっちゃりして可愛いねえ君、なんていうの?」
「マ、マリコレーヌでぇす!
 よろしくね、おじさま」
「あ、お水が無くなってるね。
 ぼ、私がお水を取ってきますわ」
席を立とうとするその腕を涙目のマリコルヌに掴まれる。
「何逃げようとしてるのかな? かな? ギーシェちゃあーん」

「今どんな調子かしら〜? ジェシカ」
調理場のスカロンがお盆を下げてきたジェシカに尋ねる。
「そうね、やっぱり強いのはキュルケちゃんね。
 明日からでもウチに欲しいくらい。
 でも2位につけてるのがタバサちゃんってのが意外ね。
 あとマリコレーヌちゃんとシュレちゃんが結構来てる。
 あの二人、ビジネスチャンスの香りがするわ」
腕を組んだジェシカが不敵に笑う。
「トレビア〜ン! 我が娘ながら目ざといわね。
 はい、出来あがりよ。 コレ2番テーブルにお願い」
「はいなっ」

またも客に手を出しベンチ入りのルイズにシエスタが声をかける。
「ルイズさん、いけます?
 あちらの奥の女性のお客様なんですけど」
「女性〜? むー、まあ良いわ。 お客はお客よ!」
シエスタからお冷を受け取ると、奥のテーブルへのっしのっしと向かう。
「い、いらっしゃいませー、お客さまー」

「おお、魔女殿。 久しいの」

どがしゃ。
ルイズが派手にすっ転び、隣のハゲに水をぶちまける。
 

162 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:08:57 ID:???
「あああ、アンタがナンでココに!?」
悠然と椅子に座る白づくめの少女を睨みつける。

「いやなに、しばらくヒマだったからあちこちうろついておったら
 何やら覚えのある気配を感じての」
「どーしたのルイぶうっ!?」
駆け寄ったシュレディンガーが思わず噴き出す。

「で、ここでやろうっていうの? アーカード!」
ルイズがストッキングに隠した杖を後ろ手でまさぐる。
「相変わらず物騒じゃの、魔女殿。
 私は次に戦場(いくさば)で会う時に、と言うたろ?
 こんな所で杖を抜こうとは。
 やれやれ、ここは戦場ではあるまいに。」
アーカードがやれやれと肩をすくめる。
「あ、アンタが言うな!」
怒鳴りつけるルイズを、後ろからの手が押し留める。

「何処の誰かは知らないけれど、それは聞き捨てならないわね。
 ここはね、女のプライドをかけた、まごう事なき戦場なのよ!」
モンモランシーが胸を張ってアーカードに言い放つ。

「ほう、そうか、、、
 ここは戦場(いくさば)か」
アーカードが小さく笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ちょ、バカ! モンモランシー!」
モンモランシーを後ろ手に庇い、隠した杖を抜き放つ。

「それでは、あの時の約束を、、果たさねばならぬのう、、、」
ざわり、とアーカードの長い髪がうごめく。
 

163 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:10:56 ID:???
「みんな、伏せて!!」
叫び身構えるルイズの目の前でアーカードがゆっくりと宙に浮き、
その髪がまるで繭のように全身を包み込む。
その場の全員が驚きの声と共に宙に浮いたその繭を見つめる。
その繭が脈動と共にひび割れ、中から眩い輝きがこぼれ出す。

皆が息を呑み見守る中、その繭がついに割れる。
舞い散る白い羽根と共に現れたアーカードは
その身に純白のビスチェをまとっていた。

「はああぁ〜〜!?」
ルイズが素っ頓狂な声をあげ、店内が喝采の渦に包まれる中、
ふわりとアーカードが舞い降りる。
ルイズの着ているピンクのビスチェとデザイン自体は全く同じだが、
毛皮の帽子はそのままで、床に届きそうなファーを首からかけている。
純白の羽毛が舞い散る中、ファーを巻いた腕をルイズに差し出し
うっとりと微笑みかける。

「さあ、戦争の時間だ」


「さ、3番テーブルにボトルもう一本はいりまーす!」
「ちょっと、アレ反則でしょ!」
ルイズがジェシカを呼び止めて、でっぷりと太った貴族の横で
足を組んでゆったりと哂うアーカードを指差す。
「さあ、もう一本だ」
「し、しかしね、アーカードちゃん」
「問題ない」
「で、でもねえ」
「なにも 問題は ない」
その指先で貴族の唇をなぞる。
 

164 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:13:20 ID:???
「そうねえ! 問題ないねえ!
 おーい、アーカードちゃんの為にもう一本追加だ!」
巨体を揺らし、でれでれとした声で貴族が注文を入れる。
「ホラあれ! 絶対エロ光線か何かよ!!」
必死に訴えるルイズの両肩にジェシカが手を置く。
「悲しいけどコレ、戦争なのよね」
きっぱりと言い切ると嬉々とした表情で厨房へ駆けていく。
「ボトルもう一本追加でーす!」

「マズいわ、女云々じゃなくマズいわ。
 このままアーカードに負けたら、
 何というか、人間として駄目な気がするわ」
ベンチ席で歯噛みするルイズの手にそっと手が重ねられた。
涙目で見上げたルイズの目に、優しい微笑みが映る。
「心配しないで、可愛いルイズ。
 この私が居るじゃあないか」
「ワ、ワルド様!」
 
 
「さあ、ボトルをもう一本追加だ!
 皆、今日は私の奢りだよ、存分に飲んでくれ給え!」
沸きあがる歓声に応えながら、隣席を不敵に見下ろしつつワルドは悠然と席に着く。
「ほう、チクトンネの帝王と呼ばれたこのチュレンヌに
 喧嘩を売るとは、何とも物を知らぬ田舎騎士が居たものだ」
「ほほう、貴方があのチュレンヌ様でいらっしゃるか。
 徴税官の立場を使いタダ酒をあおるのに慣れておいでなのでしょう?
 申し訳ないが、このワルドの相手ではありませんな」
「貴殿が鳥の骨の腰ぎんちゃくか! いやいやこれは失敬。
 だが、この私を舐めてもらっては、困る」
チュレンヌが手を叩くと、部下がドチャリと金貨袋をテーブルに置く。
「ボトルを追加だ!!」
 

165 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:14:26 ID:???
店内にチュレンヌコールが巻き起こる。
「ワ、ワルド様!?」
「はっはっは、だ大丈夫だよ僕の可愛いいルイズ。
 時に店主、ツケは」「利きません」

「どうしたね? もう終わりかね?」
ニヤ付くチュレンヌへ颯爽と向き直ると、
ワルドは自分の袖口のボタンを一つ千切り、テーブルに置く。
「ん? 何のマネ、、、これは!?」
「職務上、旅先で物入りな時の為の非常用に、ね」
ボタンの中央には光り輝く大粒のルビーがはめ込まれている。
「そこの君、これを換金してきてくれまいか?
 そしてその金で、、、ボトルを追加だ!!」
まさかの返し技に店内が沸き返る。


チクトンネの全ての酔っ払いが集まったかの様な喧騒と歓声の渦の中、
漢たちの魂の絶叫が店内にこだまする。
「もう一本!」
「もう一本!」
「もう一本だ!」
「もう一本じゃ!」
「くっ、もう一本!」
「えーい、もう一本!」
「もう、もう一本だぁ!!」
 
 
そして、オーダーストップを告げるスカロンの声が響く時、
明らかに一店舗のストック量を超える膨大な数の空ボトルに囲まれ、
真っ白に燃え尽きた二人の男に惜しみない拍手が送られた。
 
 

166 :確率世界のヴァリエール-11:2009/12/29(火) 22:17:13 ID:???
「ええ゛〜〜、同点?」
不満げなルイズをよそに、ホクホク顔のスカロンが伝票を読み上げる。
「そ、ピッタリカッチリビタ1エキュー変わらず同じよ。
 という事で、この売り上げ勝負の優勝はあ〜、
 同率一位でルイズちゃんとアーカードちゃ〜ん!!
 とってもとっても、トレビア〜〜ン!!」

「な、納得いかないわ!」
「ま〜ま、もうどうでも良いじゃ無〜い」
すっかり出来上がったキュルケがルイズに抱きつく。
「そうよ〜、大体アンタ何もしてないじゃない」
モンモランシーが呆れ顔で店内のザマを見回す。

「魔女殿、中々面白い余興だったぞ。
 それではまた会おう」
アーカードはそう言うと帰りを惜しむ酔っ払いたちの拍手の中、
ファーをなびかせてビスチェ姿のまま夜の街へと消えていった。

「アーカード、次は負けないわ、、、」
シリアスな顔で決めるルイズにアニエスがおずおずと声をかける。
「すまぬが、ミス・ヴァリエール。
 ずっとあの少女の名前が気になっていたんだが。
 もしかして、あれはあの報告書にあった、、、」

「うんそう、『死の河』」
「やっぱり」
得体の知れぬガッカリ感にまみれながら
アニエスは心に強く思うのだった。

(、、、早く帰りたい)

167 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2009/12/29(火) 22:21:29 ID:???
以上です。

妄想が発酵しすぎました。

168 :マロン名無しさん:2009/12/29(火) 22:23:20 ID:???
支援遅れたー

年末に乙でした

169 :マロン名無しさん:2009/12/30(水) 11:15:16 ID:???
ワルドさんトイレでナニしてんですかw

170 :マロン名無しさん:2009/12/30(水) 17:48:39 ID:???
>>167
>>142-143の間は何だったの?

171 :マロン名無しさん:2009/12/30(水) 18:23:33 ID:???
そんな気になることか?w

推敲とか手直しとか、なんか突然修正アイデアが浮かんだとか
規制に引っかかったとか、引っかからないように調整したとか
ちょっとリアルで都合が出来てしまい、しばし席をはずしたとか

色々あんべ

172 :マロン名無しさん:2009/12/30(水) 21:58:08 ID:???
シュレの人乙です。年末に笑わさしてもらいました
良いお年を

173 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 00:43:27 ID:???
>>167
さすがに50分近く投下しないで弁明もせずスルーは無いだろw

174 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 01:59:44 ID:???
うるせーなー、、、過疎スレなんだから別に良いじゃねぇーかよー。。。。
こういうのもお嫌いですか?????

175 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 07:11:16 ID:???
こまけぇこたぁいいんだよ、皆仲良く楽しもうぜ

176 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 10:27:12 ID:???
ヘルシングん家の新年会は一体どんな感じで(ry

177 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 13:54:55 ID:???
いや、そこらへんはちゃんとしようよ
過疎だから良いってのも変な話だよ

178 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 14:32:28 ID:???
ヘルシング一家の新年会って、正月早々吸血鬼が出て、キレたグラ様が、真っ先に対峙したものにはボーナスだすとか
いって、総出で愉快な吸血鬼が狩りなんじゃね?

179 :マロン名無しさん:2009/12/31(木) 18:20:34 ID:???
向こうって新年はクリスマスのオマケみたいなもんじゃないの?

180 :マロン名無しさん:2010/01/01(金) 00:33:24 ID:???
明けまして投下がありますようにおめ

181 :マロン名無しさん:2010/01/05(火) 20:05:42 ID:???
もう埋めようぜ
唯一の書き手こき下ろして追い出すスレなんか

182 :マロン名無しさん:2010/01/05(火) 20:17:46 ID:???
OVAやっとこさ見れたけど、シュレしっぽ生えてるのな

183 :マロン名無しさん:2010/01/06(水) 09:40:17 ID:???
保守代わりにルイズが幼女のころ小佐を召喚した小ネタを投下しようとしたら見つからない
保存ミスしたみたいだorz

184 :マロン名無しさん:2010/01/06(水) 14:39:22 ID:???
やはり少佐はハァハァしているんでしょうか?

185 :マロン名無しさん:2010/01/06(水) 23:55:06 ID:???
>>184
いや、ルイズが小佐化してるんだろ
白スーツをマントみたく羽織って
頬肉をつり上げるように笑うルイズ
戦争と鉄火、阿鼻と叫喚の混成合唱を楽しむルイズ

186 :マロン名無しさん:2010/01/06(水) 23:58:18 ID:???
そういえば全盛期ウォルターが召喚されたssは無いんだな

187 :人情紙吹雪:2010/01/07(木) 01:24:24 ID:???
お久しぶりです
投下します
シュレおもしれー

188 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:26:13 ID:???
アルヴィーズの食堂での一件はすぐさまオスマンの耳に届いた。
耳に届いてすぐさま行動に移したが遅かった。
ルイズの使い魔がどの程度の実力を有しているのか。
覗き鏡まで用意して、観る気満々だったのにがっかりした。
「……伝説のガンダールブの実力………」
どよーんとした表情でオールド・オスマンは呟く。
「全然…観れませんでしたね……」
同じく沈んだ表情をしているコルベール。
「……し、しかし幸いなことに食堂での騒動は、多くの生徒達に目撃されておりました! これがアンケート結果です! 聞きますか!?」
コルベールが元気良く提案する。
「おぉ! 本当かね! 良くやったぞコルベール君! で、ガンダールブ(仮)の戦いぶりはどうだったと言っているのじゃ!?」
コルベールの気の利いた行動にオスマンは顔をパァッと輝かせる。
ベールに包まれていたガンダールブかもしれない男の片鱗を垣間見ることが出来るかもしれない。
オスマンの心は期待に満ちて、コルベールがアンケート結果を読み上げるのを待ち構えた。
「ごほん では読みます。 え〜まず国内某所出身、風ッ引きさん。 『とにかくギーシュがボコボコにされていた。 殺されそうな感じだった。
チンピラにいじめられているようにしか見えなかった。いじめはかっこ悪いなと思った。超こわい。』 ………だそうです」
チラ
コルベールはオスマンを見る。
オスマンは俯いていた。
「…えーーー では気を取り直して次。 国外某所出身、情熱タイフーンさん。 『とても強くてワイルドでノリが良くて素敵。 あんな男性に迫られたら
断りきれない。 彼の顔を見るだけ私の心は燃え上がり、胸の奥がざわめくの。 どうしたら彼が私に微笑みかけてくれるのかしら。 
彼のことが知りたい。 何が好きなのか。 どんな食べ物を好むのか。 どんな本を読むのか。 どんな顔をして眠るのか。 ああ 彼が頭から
いいえ 心から離れない。 これが本当の恋。 こんなのは初めてなの。』 ……………………ははは ダメだこれ」
チラ
コルベールはオスマンを見る。
オスマンは無表情でコルベールを見つめていた。


189 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:26:59 ID:???
「………次次! 次いきましょう。 んん ごほん 国内出身の腋の下の素晴らしきカホリさん。 『浮気をした罰だと思う。 いい気味だなと思った。
だいたいあんな女のどこがいいのか理解できない。 もっといい女が目の前にいると言うのに信じられない。 天罰ってあるんだな。
彼は私の願いを叶えてくれたからいい人だと思う。 見た目は少しアレだが、人を見た目で判断してはならないという教えだ。』
……いやーまいったまいった。 どんな戦い方をしたのかって名目でアンケートとったんですがねー」
チラ
コルベールはオスマンを見る。
オスマンはコルベールの頭をみて舌打ちをして、その後ゆっくり視線を上にずらしていった。
「………まだあるんですよ! ははは 行きますよ! 国外出身の戦闘妖精さんからです。 『戦闘の分析結果をむざむざ他人に教える愚挙はしない。
情報とは戦場にあって何よりも尊いものであって、それを完全な信頼関係に無い第三者に求めるとは滑稽である。』
………だそうです。 いやぁ いいこと言いますね この子」
チラ
コルベールはオスマンを見る。
オスマンは手近にあった紙で折り紙をしていた。
少し涙目だ。
「あの……オールド・オスマン? えーと まだ……あるんですが アンケート………もう…いいですよね これ はは」
コルベールは朗らかに笑う。
自分もアンケート用紙で折り紙を始める。
学院長室で老人と剥げた中年は楽しそうだった。
今日も二人は平和だった。
 
 
 
みゅーん、みゅーん、みゅーん。
ルイズは泣いていた。
独り部屋に篭り、大きな瞳を潤ませベッドの中で枕をしとどに濡らしていた。
「うぅ ぐずっ う、うう えぐ えぐ ぐず あ、あのばがい゛ぬ゛ぅぅぅぅ! ぐす 他の女と…… う、うぅぅううう」
ルイズはシエスタにKO負けを喫した後、フラフラの足取りで何とか自室まで戻っていた。
自分にあんな濃厚なキスを三回もしておいて、他所に女を作っていた。
召喚してまだちょっとしか経ってないのに。

190 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:28:13 ID:???
しかも平民。
おっぱいが少しばかり大きい可愛い平民。
自分は! ナニは小さくとも立派な貴族だ。
家柄で言えば、ここトリステインでも一、二を争う大貴族なのだ。
アイツの御主人様なのだ。
アイツは私のもので然るべきであって、浮気だなんて………!
浮気だなんてッ!!
ん? ん〜〜〜〜。
まて。 まてまてまてまて。 ちょっとおかしい。
浮気?
(う、ううううう浮気って…! 何を言ってるの私! ヤ、ヤンとはこ、ここここここ恋人とか…! そういうんじゃないし! ち、違うんだから!
あ……だったらあの平民と付き合っていても……ってダメよ! 絶対ダメ!! え、え〜と…そうよ! ヴァリエール家の三女であるこの私の使い魔が!
平民風情の女なんかとそーゆー関係になられたら、ヴァリエールの家名にも傷がつくのよ!! ええそうよ! 絶対そうなのよ!
……………でも………………こ、恋人かぁ……恋人になるってことはいずれ、け、けけけ結婚とか当然するのよね……………ヤンと……結婚かぁ………
アイツが結婚って……ちょっと想像しがたいわね……家で大人しくできそうな奴じゃないし…………………も、もももももしもよ!? もしもの話………
赤ちゃんができたら…喜ぶかしら? ………うーーーん……あんまり喜びそうも無いわね……子どもなんか知ったこっちゃネェーーッとか言い出しそう……
でもそんなの許さないわ! しっかり父親としての自覚を持ってもらわなくちゃ! とりあえず無茶しないようにさせて……教養を身に付けさせないと……
貴族のマナーも一から教え込まないといけないわね! 道のりは遠いわ……………でも案外、子煩悩なパパになったりして………………えへへ………
って違う! 違〜〜〜〜うッ!!! なに言ってるのよ私! しっかりしなさい私! アイツはちょっと強いだけの平民の使い魔! ありえないのッ!!)
枕に顔を埋めたままなので表情は隠れているものの、耳まで真っ赤にしながら足をバタつかして悶える。
(………はぁーー……………あの馬鹿犬……………本当に恋人なのかな……)
再びシュンっとなった。
「クククククク 忙しいヤツだなぁ? さっきから見てて飽きネーぜ ナァニやってんだ?」
バッ
聞きなれた声にベッドから飛び起きるルイズ。

191 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:28:55 ID:???
「ヤ、ヤヤヤヤヤヤン!? ど、どこにいるのよ!!? って、ぎゃーーーーーーーーーーーーー!!」
真横にいた。
「ち、近ッ! 近すぎるわよ! ていうかいつの間に部屋に入ってきたのよ! イツから居たのよ! なんで居るのよ!」
一気に後ずさる。
とっさに片手でシーツで体を隠すように覆う。
「耳元でウルセー! 俺の方がビックリしたわ! ……なんでいるって……ココは俺の部屋でもあるから…じゃね?
んでタイミングとしてはオメェより先に部屋にいたんだけど」
「ハァ!? う、嘘!? ずっと居た!? え、ええ!!? 見てたの!? ずっと見てたの!!!?」
ルイズは顔を朱に染めて慌てふためいている。
「あーー見てたって……そりゃー視界に入るべ 普通。 オメェがぐずぐず泣きながら、他の女とぉ〜〜って言ってたり、馬鹿犬ぅ〜〜って言ってたり?」
ヤンは眉根を寄せ目を見開き口を嫌な感じに突き出し歯をむき出しながら喋る。
ようは人をバカにしている顔である。
「ア、ア、ア、アンタねぇーーー!! どこに居たのよ! そして居たんなら声ぐらいかけなさいよッ!!!  黙ってみてるなんて趣味悪いわよ!!!」
「バカかテメー 声かけたっつの オメェの椅子に座りながら机に足伸ばして おかえりルイズちゃーん♪ ってしっかり言ったっつーの。
またぎゃいのぎゃいのマナーが悪いとか何とか言うかと思ったのに、逆にコッチがシカトされたかと思って寂しかったぜぇ?」
ヤンは相変わらず人を小バカにしたような大袈裟な仕草。
実際バカにしているのだが「寂しい」の一言にルイズは反応した。
「え? さ、寂しい? その……………私に無視されたかと思って……寂しかったって…こと……?」
ルイズは頬を染め、少し嬉しそうにも見える。
「は? あ、ああ まぁ…そういうこと、か?」
部屋に入って来た時もそうだったが、またもやヤンの予想とは違う反応が返ってきた。
コッチの言葉にいちいち丁寧にガーガー喚いて反応するのが楽しかったのに。
つまらない。なんだか調子が狂ってしまう。
「へ、へぇー ……ふぅーん ……そ、そうなんだ………そうなんだー」
ルイズの顔はやはり嬉しそうだ。
今では少しニヤついている。
なんだか自己完結したようだ。
だがそこでまた表情が変わる。

192 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:31:10 ID:???
「あ! そういえばアンタ、どうやって部屋に入ったのよ!? 鍵は渡してないのに!」
ルイズにはヤンに鍵を渡した記憶はこれっぽっちも無かった。
「あー? 持ってるぜ? ほれ」
ヤンはもぞもぞと上ジャージのポケットから鍵を取り出す。
それは紛れも無くルイズの部屋の鍵だった。
「あーーーー! なんで!? なんでヤンが私の部屋の鍵を持ってるのよ! どこで手に入れたの!?」
「シエスタから貰った」
「な、なんですって!? あのメイド……! 貴族様の鍵を勝手に………!!」
部屋の鍵は、いずれ自分の手でヤンに渡そうと思っていたのに…!
ルイズには、あの平民のメイドが自分の前に立ちふさがり続ける大敵に思えてきた。
敵はツェルプストーではなくあのメイドだったのだ。
冷静に考えれば他人の部屋の鍵を勝手に譲渡するのは大分やばい気がするが。
(あのメイド! 勝手に他人様の鍵を、使い魔と主人という関係とはいえ渡すなんて良識を疑うわ! ……でもウカウカしてられない! このままじゃヤンが
あのメイドを頼りきりにしてしまう……! これ以上ヤンとシエスタの距離を縮めさせないわ!)
「ヤンッッ!!!」
ルイズは鬼のような形相で叫ぶ。
「うお!? どうした ブッサイクな面して?」
ヤンの悪口にも眉一つ動かさずルイズは宣言する。
「明日はちょうど虚無の日よ アンタの今までの功績に免じてご褒美をあげるわ! 街に行くからついてくるのよ いいわね! 私お風呂入ってくるから!」
まさに有無も言わさず、といった感じで言い放ちルイズはさっさと部屋を出て行ってしまった。
「な、なんだぁ? 虚無の日ってなんだ? アイツにご褒美貰うような功績って…………何かあったっけ? つーかまだ昼だぞ 学校いいのかアイツ?」
ヤンはルイズのベッドにボフッと倒れこんだ。
「あーつまんねー」
そう呟いてヤンは昼寝の体勢に入ったのだった。
 
 
 
夜、ヤンは寮の屋根に寝転んでいた。

193 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:32:06 ID:???
昼間に堂々と主人のベッドで寝ていたヤンは、案の定ルイズに爆破され部屋から叩き出された。
しばらく外で頭を冷やして来いと怒鳴られた。
(あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
血ぃ吸いたい 喰いてぇ 女欲しい。 どれもご無沙汰だーーーーー あーにーきー 誰にもばれなきゃ喰っちゃってイイ? 犯っちゃってイイ?)
ヤンは左手をぺしぺし叩きながら頭の中で聞いてみる。
……。
………。
返事が無い。ただの屍のようだ。
って屍じゃ困るんだよ。
俺の左手だし。
「おーーい 兄ちゃん 聞こえてますか? アローアロー? もしもーし」
ぷらぷらぷらー。
今度はシェイクする。
「もーしもーし あんちゃーーん 聞こえねーのかよ おい 生キテルー?」
「…………うるさいぞ 聞こえている」
ルークの声が左手から響いた!
「お!? おぉーーー! スゲーーーー 本当に兄ちゃんだーーー しかも今回は直接、頭に響いてねー。 普通に会話できんのか?」
ヤンは寝っ転がりながら左手を空に掲げて、兄と会話をする。
「当然だ。 私の空間にオマエを引きずり込むことも出来るし、リアルタイムで声を出さずに会話も出来る。 今のように話すことも可能だ」
「ほーーーー へぇーーーーー スゲースゲー! しかも喋る度にちょっとルーンが光ってカッコイイじゃん? へへへ 兄貴やるぅーー」
ヤンは屈託無く笑う。
死んだとばかり思っていた兄が、こうして自分の左手として生きていた?ことを実感し少し喜びを感じる。
傍若無人、冷酷無比、残虐非道。
こういった言葉がとても良く似合い、必要とあらばお互いがお互いを切り捨てられる、殺せる。
そういう兄弟だが、やはり嬉しいものなのだ。
弟の賞賛にいくらか気を良くしたルークは、表情が見えるとしたらニンマリといった感じだ。
「……ふふん 私はガンダールブの精なのだ 只のインスタントとは違う。 ところで先程のオマエの提案だが……」
「おー そうだよ兄ちゃん! オレ腹減って死にそうだぜェ! 普通の食べモンしか食ってねーんだぜ? 兄貴ならこの辛さ分かるだろォ?」

194 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:33:17 ID:???
ヤンの願いは切実だ。
もともとヤンは我慢とか忍耐といった言葉が大嫌いなのだ。
「……まぁ吸血鬼にとっては確かに辛いな。 私もオマエの性質(タチ)は分からないでもない。 あまり断食されて、
いざと言う時ルイズ様をお護り出来なくても困りモノだ。 ………まぁあまりルイズ様に近しい者でなければな………。
健康な生活は良く『遊び』良く『喰べ』良く眠ることから始まる……といった所か… 食料には良く目星を付けることだ……」
ルークの声は淡々としている。
ルイズ以外は食料か玩具である、と言わんばかりの冷淡さだ。
「クックックッ…… そぉだよなァァァァ ソコ気を付ければオッケーだよなァァァ! 持つべきは兄弟ってか? ヒャハハハアハハヒャハハ!!」
ヤンは嗤う。
兄弟の会話を楽しむ。
「フッ あまりはしゃいでボロを出すなよ? ルイズ様にばれる様なことがあっても許さんぞ…………ん? ちょっと待て」
「あ? どうした兄貴? ダイジョーブだよぉーー ありえねぇーありえねぇー ルイズになんかバレるわきゃネーだろ?」
「声を落とせ 何かが近づいてくる。 ……正体がばれぬ様くれぐれも気を付けろよ……」
…。
……。
それきりルークの声は聞こえなくなり、ルーンの光も消えた。
そしてルークの言った通りしばらくすると、屋根の端っこからよじよじと一匹の獣が登ってきた。
尻尾に炎を宿した巨大なヒトカゲ、サラマンダーのフレイムだ。
屋根の上をのそのそとヤンに近づいてくる。
「おーー? フレイムじゃねーか こんなとこまで良く登れたなァー わざわざオレに会いに来たのか? オメーには嫌われてると思ってたけどなぁ。
いや、怖がられてる…の間違いか? ヒャハハハ!」
フレイムとて出来ればヤンには近づきたくなかった。
好き好んで虎の前に出る兎は居ない。
だがヤンを探し出し、連れて行くことは主人の…すなわちキュルケの命令なのだ。
使い魔として果たさなければならなかった。
クイックイッ
フレイムはヤンのジャージの裾を咥えて引っ張る。
それだけなのにフレイムはガチガチに緊張していた。
「ん? なんだ? ついて来いってか?」
コクッコクッ
フレイムは必死に頷く。

195 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:37:24 ID:???
汗だくだ。
まるで札付きの不良の先輩を、先生に言われて呼びに行く善良な後輩である。
見てるだけで涙ぐましい。というか痛ましい。
絶対やりたくない。
「………わーったよ どこに行くんだ? キュルケの部屋か?」
コクッコクッ!
フレイムは本当に必死だ。
だって機嫌を損ねたら本当に殺してきそうな人だから。ヤンという人は。
「………クククク そんなにビビんなよ? オメーもオメーの御主人様も……別にとって喰いやしねぇからよ?」
お勤めゴクローさん。
そう言ってヤンはフレイムの頭を軽くポンポンっと叩いて屋根から飛び降りていった。
なんだかフレイムはドッと疲れたのだった。
 
 
「で、ここだよな キュルケの部屋は? ルイズの隣だもんな」
ヤンは独り呟くと扉をノックする。
ドンドンドン
「キュルケー ヤンだよー オマエの愛しい人のヤンだよーー 今帰ったよーーー」
ガチャ
「お 独りでに開いた 自動ドアか スゲーな」
ヤンは部屋に入る。
部屋は真っ暗だった。
が、吸血鬼であるヤンは夜目がとても良く利く。
なのでベビードールの際どい衣装で目を潤ませ、ベッドの上で待つキュルケがすぐさま確認できた。
ヒュ〜♪
ヤンは思わず口笛を吹いた。
美女が自分を求めている。
一目でわかるこの状況。
それだけで、とりあえずごちそうさまって感じだった。
ヤンはずかずかキュルケに向かって歩く。歩く。
それに合わせてサイドで蝋燭の火が灯っていくが気にしない。

196 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 01:42:26 ID:???
ヤンの目にはキュルケしか写っていなかった。
すでにキュルケは目の前だった。
キュルケの瞳にもまた、ヤンしか写っていなかった。
「……ごめんなさい……いきなり呼んで……私のこと………はしたない女だと…思う……?」
キュルケは頬を染めてヤンに尋ねる。
「いいや まったく思わネェなァ…… 自分に正直なのはイイことだ やっぱり俺と気が合いそうだなァあ? キュルケ ……オメェはいい女だ……」
飾り気の無いストレートな生の賞賛。
ヤンの言葉にキュルケの心は今まで感じたことの無い高ぶりと喜びを覚えた。
それに比べれば、自分が今まで言っていた恋だの愛だのはメルヘンな子供だましだと感じた。
(クッ、クックッククククク、ヒャッハッハッハハハ! こいつぁタマランぜ! これで喰えればマジ最高なんだけどよォ!! チックショォォォォがぁぁぁぁぁ……
キュルケはちぃっとばかしルイズに近すぎるぜ……! 喰いてぇーー! だが今日はとりあえずコレで良しってことにするか……)
ドンッ
ヤンはキュルケをそのまま押し倒す。
「キャッ! あ…ヤン…その……や、優しくお願いね……?」
「クッククク……ああ…任せな……優しく可愛がってやるよ? ……たっぷり…なァ……!」
そう言って下卑た笑みを浮かべ、舌舐め擦りをする。
ヤンのギラついた、欲望を欠片も隠そうともしない獣の瞳がキュルケを貫く。
(あ……この目……このワイルドさが……素敵……)
そして夜は更けてゆくのだった。
 
 
その頃ルイズは…。
ベッドで爆睡していた。
この馬鹿犬ぅ〜〜…むにゃむにゃ…。
同時刻フレイム。
キュルケの「元」男達の掃討に勤しんでいた。
フレイムはもう泣きたかった。
今ぐらい泣いてもバチはあたらないだろう。
そうだよね! 火竜山脈のかーちゃん!
今日も学園は平和だった。
死人が一人もでなかったという点では。
明日も平和かどうかは誰にも分からなかった。

197 :人情紙吹雪7:2010/01/07(木) 02:55:53 ID:???
以上です

そういえばあけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

198 :マロン名無しさん:2010/01/07(木) 09:42:31 ID:34NCknAM

おかえり紙吹雪

199 :マロン名無しさん:2010/01/07(木) 11:03:04 ID:???
そのままヤッちまうとは珍しい
まだ5本も読んだことないな

200 :マロン名無しさん:2010/01/07(木) 19:00:25 ID:???
紙吹雪乙
本当に久しぶりだなw

201 :マロン名無しさん:2010/01/07(木) 19:00:56 ID:???
おお、久々にきてる!
1話から読み直そう

202 :人情紙吹雪:2010/01/07(木) 20:40:41 ID:???
本当に遅かった…
ごめんなさい
ただいまみんな

203 :マロン名無しさん:2010/01/07(木) 22:46:20 ID:???
インテグラ様がおばあちゃんになるほど待たされたことを思えば軽い軽い

204 :マロン名無しさん:2010/01/08(金) 00:29:31 ID:???
紙吹雪さんお帰りなさい、続きが読めて嬉しいっすよ

205 :マロン名無しさん:2010/01/08(金) 01:13:40 ID:???
紙吹雪さん乙 続き来てて感謝の極み
また是非支援絵描かせて戴きたいです。

206 :マロン名無しさん:2010/01/09(土) 10:16:39 ID:???
ゼロリカ氏の最終投下から二ヶ月
次の投下は遅くなるとのことだったがさすがに全裸待機がつらくなってきた

207 :マロン名無しさん:2010/01/09(土) 13:36:27 ID:???
冬だしつらいよな……よし、乾布摩擦で凌げ!

208 :マロン名無しさん:2010/01/09(土) 23:49:58 ID:???

こしこし……


    こしこし……




209 :マロン名無しさん:2010/01/10(日) 21:53:04 ID:???
関係ないけど、豊久って召喚するにはうってつけだよね

210 :マロン名無しさん:2010/01/10(日) 22:11:01 ID:???
>>209
というか、ドリフキャラの召喚ネタはすごく書きやすそう

211 :マロン名無しさん:2010/01/10(日) 22:14:40 ID:???
召喚が書きやすいだけで、それ以降はどうだろうな

今のとこアクばっか強いし

212 :マロン名無しさん:2010/01/11(月) 00:05:42 ID:???
よし、濾そう!

213 :マロン名無しさん:2010/01/12(火) 21:14:39 ID:???
ドリフターズもいいけどね、外伝はどうしたの外伝は?のこり80Pなんだろ?

214 :マロン名無しさん:2010/01/13(水) 09:20:16 ID:???
OVAロリカードの声がジョージのままかどうかきちんと決定するまでお預けです

215 :マロン名無しさん:2010/01/13(水) 09:23:42 ID:???
ヒラコーが趣味と豪語するくらいだから、平野綾じゃね?w

216 :マロン名無しさん:2010/01/13(水) 10:08:41 ID:???
今更だが、確率のワルドは白ワルドというより真ロリコンワルドとでも言った方が良い様相だなぁ。
なんか賢者モードだし。

217 :マロン名無しさん:2010/01/13(水) 17:55:16 ID:???
名前は忘れたけど、街頭インタビューで食べ物関係の質問をされてコロッケとか答えた凄い声の人が良いと思うよ
あと「何とかの魔女がどーたら」って番組にも若いというか幼いってことで出てた

218 :マロン名無しさん:2010/01/15(金) 01:56:18 ID:???
>>217
金朋先生か

219 :マロン名無しさん:2010/01/16(土) 02:27:30 ID:???
その人!その人!

220 :マロン名無しさん:2010/01/16(土) 18:47:19 ID:U9nkWEUs
ロリカードの声は想像つかんねぇ、いやホントに

221 :マロン名無しさん:2010/01/16(土) 21:34:39 ID:???
ボンバーマンジェッターズの白ボンとか
ブラックラグーンのグレーテルの人か

超音波出せるんだっけかあの人

222 :マロン名無しさん:2010/01/16(土) 21:43:06 ID:???
大尉にはしばみ草食わせたらどうなるの?っと

223 :マロン名無しさん:2010/01/16(土) 23:57:26 ID:???
思わず芝犬になる

224 :マロン名無しさん:2010/01/17(日) 00:16:25 ID:???
亀すぎてアレだが、国外出身の戦闘妖精にワロタ。

225 :マロン名無しさん:2010/01/19(火) 12:42:27 ID:???
寒いから全裸待機がつらい…大尉でモフモフしたい

226 :マロン名無しさん:2010/01/22(金) 01:08:50 ID:???
ヴィットーリオが母親に捨てられた後にアンデルセンを召喚していたら…
ゼロ魔の世界だと宗教にのめり込みそうな連中が多い。

227 :マロン名無しさん:2010/01/22(金) 21:15:30 ID:???
>>225
マクスウェルそっくりになって挙げ句の果てにアンデルセンに殺されるな。

228 :マロン名無しさん:2010/01/23(土) 16:17:30 ID:???
ロリカードちゃんはエロ犬でスケベ犬ですか?

229 :マロン名無しさん:2010/01/23(土) 20:47:20 ID:???
違います。

>>227
寒い時期の全裸待機って恐ろしいな……

230 :マロン名無しさん:2010/01/23(土) 22:52:51 ID:???
ロリカードは主の命令があるまでエロい事をしてくれません
だからエロ狗でスケベ狗です

231 :マロン名無しさん:2010/01/24(日) 09:19:00 ID:???
狂信者の人こねぇかなー。元気してっかな?

232 :マロン名無しさん:2010/01/24(日) 11:16:22 ID:???
キリスト教に染まりそうに無いのはテファ、オスマン、キュルケ、マルトーぐらいで、他の主要メンバーはすんなり染まりそう。

233 :マロン名無しさん:2010/01/24(日) 16:21:34 ID:???
狂信者の人、いいとこで止まっちゃってるんだよな〜
せめて生存報告を…

234 :マロン名無しさん:2010/01/25(月) 11:42:09 ID:???
賢者のワルドwwwww

235 :マロン名無しさん:2010/01/25(月) 12:11:24 ID:???
>賢者のワルド
爵位の高低は兎も角、職場ではエリートなワルド。
夜遊び(飲む打つ買う)は一通り嗜んでそうだが……後にルイズを篭絡するために変な噂を立てることは出来ない。賢者ではなく、別の意味で魔法使いになる一歩手前だったりしないだろうな?

236 :マロン名無しさん:2010/01/26(火) 21:57:21 ID:???
貴族の娘さんって結婚するまでは処女じゃないといけないんだっけ?

237 :マロン名無しさん:2010/01/27(水) 23:57:03 ID:???
やっぱり非処女だとマズいんじゃないの?

238 :マロン名無しさん:2010/01/28(木) 19:28:57 ID:???
キリスト教世界は処女は重要だけど…ゼロ魔世界はどうなんだろ

239 :マロン名無しさん:2010/01/28(木) 21:50:36 ID:???
魔法で性差が少ないとは言え、父系社会だから隠し子が居ないことの証明的な意味で重要じゃないのか。
母系社会なら処女、非処女は関係ないと思う。

240 :マロン名無しさん:2010/01/29(金) 23:48:19 ID:???
>>238
という事はハインケルも由美江も処女?

241 :マロン名無しさん:2010/01/30(土) 01:46:42 ID:???
由美江は処女なんじゃないかな。一応修道女なんだし
というかあれに近づける男がいるのか(ry
ハインケルはふたなり。

242 :マロン名無しさん:2010/01/30(土) 11:17:13 ID:???
傭兵的な意味で由美江は熟女

243 :マロン名無しさん:2010/01/30(土) 19:23:25 ID:???
ふたなりでも処女膜はあります!

244 :マロン名無しさん:2010/01/31(日) 20:33:02 ID:???
二人は百合な関係なのさ

245 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/01(月) 21:50:16 ID:???
どうも、とてもお久し振りです。

投下します。

246 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:51:24 ID:???
 ガリアとの戦争は・・・・・・そう遠くない。
そういうことに関して鋭敏なアーカードだけでなく、ルイズも所謂匂いというものを感じていた。
アーカードと共に過ごし、手解きなどを受けている所為もあるのかも知れない。
危機に関しての独特な嗅覚というものが、自分にも備わり始めたのだろう。

 さらに予感を補強する材料があった。
アーハンブラ城で、ジョゼフを近くで観察していたことが起因する。
地獄を見たいと言っていたあの男。ガリアの狂王には躊躇いというものがない。
あの男は・・・・・・確実に、何かをしでかす。
その最もわかりやすい形こそが戦争であった。

「う〜ん・・・・・・」
ルイズは悩む。
ガリアとの戦が意味するところ、客観的に見ればトリステインの敗北以外に他ならない。
彼我の戦力差は、今更論じるまでもないほど圧倒的。
誰もがトリステインの勝ちの目はゼロだと答えるだろう。
しかし、自分は知っている。トリステインが唯一勝つことが可能な方法――――――。

「我々だろうな」
ルイズの心を読んだかのように、絶妙なタイミングでアーカードが口を開き言った。
「・・・・・・私、口に出してた?」
無意識に独り言になっていたとしたらかなり恥ずかしい。
しかしルイズの問いにアーカードはかぶりを振る。
「前々からたまに気になってたんだけど・・・・・・もしかして、心とか読めるの?」
「うんにゃ、ただの経験と勘」

 ルイズは訝しむような目つきでアーカードを見つめる。
本当は心を読んでるんじゃなかろうか、それくらい出来ても不思議はない。
「500年も生きていれば・・・・・・人の思考を読む程度などなんのことはないスキルだ。
 特に今、うんうんと悩み考えることは一つしかなかろう。ガリアとの戦しかな」

 

247 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:52:14 ID:???
 いやいやいやいや、確かに考えていることを推察するのは、そんなに難しいことじゃないかも知れない。
けれどタイミングぴったりに言葉を被せてくる芸当は、また別だろう・・・・・・。
ルイズはそう心の中で思うが、敢えて突っ込みはしなかった。

「私の中には300万を越える命が、思考や記憶が混在している。それこそあらゆる人間が内在している。
 多種多様に渡る人間が己が中に在る。故にその心理や本質、思考パターンを読むことなど造作もない」

 アーカードが率いるアーカードの領民。アーカードが今までに喰ってきたあらゆる生物が。
その一人一人が有している記憶・知識・経験が。あらゆるものを喰らい尽くして内包している。
それがアーカードという城。アーカードという領地。アーカードという吸血鬼の恐るべきところ。
膨大過ぎる密度を内在しながらも、それらを拘束し、それらを制御し、それらを統率している。
並の吸血鬼では到底無理な話。アニエスにも・・・・・・他の吸血鬼の誰であっても。

 アーカードの世界の本物の吸血鬼なら、誰しもが持つ能力の一端ではある。
が、しかしだ。その者のキャパシティを超えた数の命を取り込んだところで・・・・・・耐えられないのである。
アーカードの精神構造がどうなっているのかはわからない。だがアーカードにはそれが可能なのだ。
300万以上の命を拘束制御できる、アーカードの強靭過ぎる精神力あってのもの。
                                  レギオン
 故にこそ、アーカードにのみ許されたアーカードだけの軍団。

(・・・・・・う〜ん、説得力は・・・・・・ある・・のかな・・・?)
300万人以上に及ぶ人生経験と、アーカード自身500年の人生経験。
人智を越え過ぎていて、微塵にも想像がつかない。
だがそういうものなのだと・・・・・・理解は出来ずとも、納得は出来た。
だって他ならぬアーカードなのだから。

 

248 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:53:10 ID:???
 ルイズは心の中で嘆息をつくと、もう一度目下の状況について考え始める。
元々ガリアとトリステインでは、艦隊の絶対数が違い過ぎる。
その上トリステインの艦隊は、度重なる戦で大幅に数を減らしている。
大きく兵の数を減らした原因は、アーカードの死の河とそれを命令した自分にもある。
いたたまれない気持ちになり、少しだけ滅入る。
全てを覚悟した上での決断だったが、それでも完全には割り切れない。
それに・・・・・・戦死者達の弔いと、残された親族への処置。数が数だけに、想像がつかない。
姫さまは上に立つ者の責任と、自分達に心労をかけまいと吐露していないのだろうけど。

 ルイズはもう一度心の中で嘆息をつく。それでも前に進むしかない。
一度戦が始まってしまえば、打ち倒すか、滅びるか。その二つの選択肢しかない。
それがガリアとの、あのジョゼフという狂王との戦だ。
――――――トリステインは、手持ちのカードの役では到底勝ち得ない。
    ジョーカー
なれば鬼札を切るしかない。
(つまりは私達・・・・・・)

 虚無魔法と死の河。
(私が空を制し、アーカードが地上を制す・・・・・・)
アーカードの零号開放では、空中艦隊には完璧に対応出来ない。
故に空の戦力に対しては、自ずと虚無で戦うことになる。
指輪と祈祷書は奪われっ放しで既に無い。
だから『エクスプロージョン』と『イリュージョン』を駆使して戦っていくしかない。

 アーカードが地上を死の河で埋め尽くすならば、まず負けることは有り得ない。
最初からトリステインの地上軍ぶ引っ込んでいてもらえば、ガリアの犠牲のみで済む。
懸念材料はウォルターとヨルムンガント等、強力な魔道具である。
が、その時は隠れるなり空へと退避するなりすれば、問題ないだろう。
尤もアーカードの性分がそれを許すかは、また別問題であるが・・・・・・。

 

249 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:54:04 ID:???
 よって割合で言えば圧倒的に、地上戦力よりも空軍戦力の方が肝要。
ガリアの強力な両用艦隊をどうにか出来るかどうかこそが、戦局を左右する。
つまるところ、この戦の命運はルイズ・フランソワーズ。己に委ねられていると言って過言ではない。

 魔力がどれだけ溜まっているかが、根本にして最大の問題かも知れない。
タルブでの一発のような真似は出来ない。
そもそも戦力差からして、タルブでの規模の一発だけでは終わらない。
だがアルビオン軍七万と違って、今度は普通の人間である。特に『幻影』は戦略的に強い。
燃費の悪い『爆発』の使用を極力抑え、トリステイン艦隊と連係をとって戦うしかない。

(最大の不確定要素は・・・・・・)
ジョゼフの虚無だ。タバサがやられる様をルイズはしっかりと見ていた。
ジョゼフも『爆発』を使える。『爆発』と『加速』の他にも使えるとなると、戦局はわからなくなる。
もし『幻影』か・・・・・・それに類する虚無までも使えるとなれば、混戦は必至。
先のアーハンブラでの一戦とウォルターの存在の所為で、こっちの手札は相手に殆ど筒抜けたも同然。
自分とアーカードが最大限効率良く立ち回ったとて、敗色濃厚なのは否めない。



 ルイズが考えているとその時、コンコンと控えめなノックの音が聞こえた。
「どうぞ」と声を掛け、部屋へ招くと・・・・・・それはタバサであった。

「ようやく目覚めたか」
アーカードが変わらないトーンで言った。
怪我はテファと指輪のおかげで完全に治癒していたが、なかなか目覚めなかった。
学院に帰るまでシルフィードの上で寝続け、帰ってからも丸一日寝込んでいたタバサ。
それほどまでにギリギリの状態にまで陥り、生死の境を彷徨っていた。

 ルイズはタバサの元気そうな姿に、ほっと胸を撫でおろす。
「あぁ、良かった。それとタバサ、助けに来てくれてありがとう、それで体の方はもう大丈夫なの?」
タバサは頷く。しかしルイズの純粋な心配の言葉が、胸に突き刺さった。
 

250 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:54:45 ID:???
「母のこと、ありがとう」
タバサはまずお礼を言った。目覚めてすぐにキュルケから諸々の話を聞いていた。
自分が意識を失っている間、キュルケ、コルベール、ルイズ、アーカードがオスマンに掛け合ったこと。
母をこの学院に置いてくれるよう頼んでくれたことを。

 そしてタバサはケジメをつけるべく、ルイズの前に片膝をつき跪いた。
「ごめんなさい。私はあなたに・・・・・・どれだけ謝っても足りない」
裏切りは裏切り。アーカードは許してくれたようだが、ルイズは違う。
そも裏切らずに最初から己の任務を伝えていれば、危険な目に遭わせることは無かった。
己のエゴで行動した結果に対して、その赦しを請う。
許さないと言われればそれまで、どんな報いも受ける覚悟もあった。

 ルイズはタバサの手を掴んで立たせると、その目を見つめて無垢に笑った。
「いいわよ、こうして無事なんだし」
「・・・・・・ありがとう」
タバサの心に暖かいものが灯る。
タバサは少しだけ考え、心の中でそれを決意すると自分の過去について話すことにした。

 父が殺され、自分の身代わりに母の心が狂わされたこと。
騎士となって任務をこなしていたこと。
ジョゼフとの関係、友を裏切ってまで先の任務をこなそうとした理由。
そして今の決意を含め、全てを伝えた。



 話を終えたタバサに対してルイズが問う。
「本当に・・・・・・復讐をするの?」
タバサは答えない、その代わりにアーカードが口を開いた。
 

251 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:55:14 ID:???
「何を言ってるんだか」
アーカードは小馬鹿にするように笑い、ルイズは唇を尖らせる。
「なによ、復讐は何も生まないわ。タバサのお母さまも助けたんだし、それ以上は・・・・・・。
 これからはお母さまを助ける為に生きるんじゃ駄目なの?私も出来る限りの協力はするわ」

 復讐は・・・・・・殺意と憎悪の円環。換言するなら法と正義。
やられた分はやり返す、やった分はやり返される。人類普遍の一大律法。
しかし同時に己の命を秤にかける行為。
タバサ自身の未来を賭け金にすることを、ルイズは良しとは思わなかった。
タバサには幸せになってもらいたいと素直に思うし、今は守るべき母もいるのだから。


 タバサは憂いを帯びた表情になる。ルイズの想いも理解できるがゆえの苦しみ。
ウォルターに任務を言い渡された時に、浮かび上がったその選択。
復讐を捨てて、母と共に慎ましく生きるその選択。
葛藤し悩み抜き、そして最終的に捨てたその選択。

「安っぽい言葉だなルイズ。肉親を殺されたこともない・・・・・・お前の言葉には中身がない」
「むっ・・・・・・」
ルイズは咄嗟に言い返そうとするも、言葉に詰まる。確かに・・・・・・その通りだ。
慮ることは出来ても、本質的に理解することは実際に家族を殺されないとわからないだろう。
厳しくも愛すべき父。母は・・・・・・殺されそうもない。そして親愛なる二人の姉。
そんな家族を、大切な人を・・・・・惨たらしく殺されたとしたら。
タバサと同じような状況になったとして、全く同じ台詞を言えるかは自分でもわからない。
少し浅慮だった己の発言に、ルイズは自分を恥じた。


「まっ決めるのはお前自身だタバサ。殺して前へと進むのも、憎しみの連鎖とやらを断ち切るのも・・・・・・お前の選択。
 そこに善悪・正邪・是非もなし。――――ちなみに私は・・・・・・これ以上ないくらいに復讐してやったがの。
 国を守るという大義名分と、信じた神の為に戦うという目的こそあった。が、復讐に変わりはなかった。
 こうして化物となってからは、無辜の民を殺し、何の咎も罪もない者達をも喰ってきた。それでも何一つ後悔はない」
 

252 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:56:25 ID:???
「滅茶苦茶よ・・・・・・」
本当に狂おしいほどに今更だったが、ルイズはそう言ってやった。
アーカードは「ハハッ」と笑う。
「化物だからな」

 タバサは二人の言をゆっくり心に染み込ませた上で、想いを込めて言い切る。
「私は・・・・・・復讐をやめるつもりはない」
既に決めたこと。自分は全てを手に入れると。今も迷いは無い。

 そしてその決意の込められた眼差しで、アーカードを見つめる。
「・・・・・・うん?」
「私を吸血鬼に・・・・・・して欲しい」 
タバサはアーカードにそう頼んだ。
無論、そんなことを口にした理由は聞かずとも察する。

 吸血鬼となったアニエスの強さを目の当たりにし、またジョゼフとの力の差を感じた故の決断。
アーカードほどではないにせよ、アニエスを見る限り、血族というだけで十分過ぎる強さを得られる。
そしてジョゼフは強い。虚無の凶悪さを、その身を以て実感した。
だから欲する。ジョゼフを殺す力を、吸血鬼の力を。


「それは・・・・・・やめた方がいい」
アーカードは目線をはずしながらさらっと言った。
そして「どうして」と訴えるタバサの瞳を改めて覗く。

「タバサ、お前は強い人間だ」
それだけが理由だとばかりに、アーカードは言い切る。
「わたしは・・・・・・弱い」
タバサは切実に声を絞り出す。事実、ジョゼフの虚無の前に為す術無く死に掛けたのだ。
否、死んだも同然であった。
 

253 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:57:16 ID:???
「単純戦力で見るならば、すっごく強い私が認めているのだぞ?・・・・・・お前は強い人間だと」
「・・・・・・もっと強くなれる」
褒めてもらったのは素直に嬉しい面もあるが、それでは足りないからこその嘆願。
 
「確かに、基本的な性能は桁違いに上がる。ちょっとやそっとの傷ではものともせんし、再生もする。
 他者の命を取り込み支配すれば、その数だけ命も増える。使役して戦力にすることも可能だ。
 だがな・・・・・・化物になったところで、ジョゼフを倒せるとは限らない。
 むしろ逆なのだ。化物は・・・・・・いつだって人間に打ち倒される」

 それは絶対の真理。それは不変の摂理。
化物を打ち倒すのはいつだって人間でなくてはならない。

「でも・・・・・・」
納得がいかない。もっと論理的に話して欲しい。

「客観的に比較すれば、勝てる可能性の方が高いとでも言いたいか?
 だが生憎、そのようなつまらん理屈ではない。理ではなく、実なのだ。
 まして生命の危機など、やむにやまれぬ事情ならいざ知らず。
 己が望む目的の為の手段として、自らすすんで化物になることを私は肯定はしない」


 アーカードは「経験者からの言だ」と呟いた後、諭すように続ける。

「信念がある、志がある、生きる目的、守るべきもの。己を知り、諦めを踏破し、今を歩いている。
 復讐と、その先の未来を見据えている。だからお前は強い。それこそが人としての強さなのだ。
 故にこそ私は・・・・・・。私の大好きな、強く、すばらしい、人間のまま、生きて欲しいと願うのだ」

 アーカードは「それに・・・・・・」と、付け加えた。
「人間として生きる覚悟と、化物として生きる覚悟は違う。タバサ、お前に覚悟はあるのか?
 人間を糧とし、人間に打ち倒される覚悟が。打算的に化物になったところで後悔するだけだ」
 

254 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 21:58:25 ID:???
(尤も・・・・・・そのような道を進まず、うす暗がりをおっかなびっくり歩く例外を一人だけ知っているがな)
だがそんなことは言わない。
何故ならそれは、誰かに言われて進めるような道程ではない。

 タバサの表情に変化は見られなかったが、その瞳の色は僅かに変わっていた。
確かに・・・・・・打算的だ、それでも力を欲する。それが復讐の為に必要であるのなら・・・・・・。
アーカードはさらに続ける。

「・・・・・・私は弱い人間だった。故に私は・・・・・・化物に成り果て、成って果てる。
 だがお前は強い人間だ。強い意志と力がある。そんなお前が化物になるのを私は見たくない。
 まっ、これは私の願いでしかない。強要はしないし、それでも尚望むのならば吸血鬼にしてやろう」

 アーカードは「きちんと覚悟があるのならな」と、牙を見せて笑った。
それは先ほどまでの、化物になる強い人間を見たくない、といったものとは違う。
化物になるならなるで、それも構わず面白い。といった感じのものに見えた。
そしてタバサの返答を待たず、アーカードは郷愁に耽るかのように、独りごちるように話し始める。

 

255 :ゼロのロリカード-50:2010/02/01(月) 22:01:58 ID:???
「100年程前に、私は一度人間に打ち倒された。全身全霊を以って闘った。そして敗れた、完全に」
「・・・・・・」
「うっそ・・・・・・」

 タバサは沈黙し、ルイズは驚嘆の声を漏らす。全身全霊ということは、つまり全力ということ。
ルイズの実際に見た死の河も含めてのことだろう。その上で完全に敗れたなんて信じられない。
アーカードは「そういえばこの話をしたことは無かったな」と続ける。

「私はあの時に、人間の強さを見た。そして知ったのだ。
 そうだ。あの男は、あの年老いた・・・・・・ただの人間のあの男は・・・・・・。
 アンデルセンもそう・・・・・・。人間とは夢の様だ」

 アーカードは言を閉じる。そして今度こそタバサの返答を待った。

(アンデルセン・・・・・・)
タバサはアーカードと肩を並べて戦っていた、その人物を思い出す。
あれが純然たる人間の強さ。安易に化物となって得られる強さとは全く別種なのだろう。
そしてアーカードが言っていること。饒舌に語ってくれたこと。
きっとそれは紛れも無い真実。人間と・・・・・・化物と・・・・・・。


 タバサは瞳に確かな色を秘め、アーカードに頷いて答えた。
化物ではなく人間として。今以上に強くなり、復讐を完遂し、そして未来を生きると。

「んむ、まぁ些少の手伝いくらいはしてやろう。ルイズと共に鍛えてやる、スペシャルにな」

 アーカードは満足気に頷く。
ルイズは「げっ」と表情を歪ませながら呻き、タバサは決意を新たに拳を握り締めた。

256 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/01(月) 22:03:10 ID:???
以上です。
あと3話分くらいは、戦争前の話になります。

ではまた。

257 :マロン名無しさん:2010/02/01(月) 23:00:33 ID:???
ロリカード復活!!
ロリカード復活!!
ロリカード復活!!

本当に旦那は人間大好きなんだな

258 :マロン名無しさん:2010/02/01(月) 23:32:44 ID:???
待ってたよ〜
この雪が振る中、全裸待機はきつかったよ

>>248

>最初からトリステインの地上軍ぶ引っ込んでいてもらえば

地上軍ぶの所って"が"? ”に" ? あれっこれでOKなんかな

259 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/01(月) 23:39:23 ID:???
>>258
すみません、普通に誤字です。正しくは“に”ですね。

本当、遅くなって申し訳なかったです。
今後の話の展開上、原作の進展を待ってたんですが、
結局最新刊でもあれだったんで、もうこのまま突っ走る予定です。

260 :マロン名無しさん:2010/02/03(水) 18:11:33 ID:???
ゼロリカさん乙
タバサよく耐えた!

いよいよ大戦争かー

261 :マロン名無しさん:2010/02/05(金) 18:54:45 ID:GGBRMtmt
乙だバカヤロウ、この次も楽しみだバカヤロウ

262 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/08(月) 21:53:17 ID:???
どうも、投下します。

263 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:54:13 ID:???
 ――――――夜中の訪問者。
いつだったか、使い魔品評会の折の時のように・・・・・・人目を忍ぶようにその人物はやってきた。
学院の者達から身を隠すように、ルイズの部屋へと現れたのはアンリエッタ女王陛下。
「ルイズ・・・・・・」
「姫さま・・・・・・」
二人は恒例のように抱き合う、親友たる彼女達の挨拶であった。

「今更言うのは遅いかも知れないけれど、本当に無事で良かったわ」
「ありがとうございます、それにしても何故ここに?呼んで下さればすぐにでも王宮に――――――」
「なかなか忙しく、暇がなくて・・・・・・ごめんなさい。あなたも学生の身分がありますからね」
「そのようなこと、お気になさらないでいいのに・・・・・・」

 アンリエッタは半ば予想していたルイズの言葉に軽く微笑む。
とすぐに、神妙そうな面持ちで申告するかのように・・・・・・呟くように告げる。

「・・・・・・今日こうして来たのは他でもありません、重大な話があるのです」
ルイズは真剣な顔でアンリエッタの言葉を待つ。
「本日、私はロマリア教皇聖下とお会いし話しました」
「教皇聖下と・・・・・・?」
あまりに突然過ぎる話に、ルイズはやや呆然とする。
なんでもロマリア教皇が王宮にやってきて、話をしたらしい。

「はい、教皇聖下の話では近い内に戦争が起こります、そして・・・・・・避けられないでしょう」
その内容に驚きは無かった。ルイズにも、当然アーカードにも。
確信していた、戦の匂いを。あの狂王が取るであろう選択の最たるものを。

「ガリアの穏健派・・・・・・戦に反対する者は、その悉くが暗殺されているようです。
 その結果、他の諸侯達もガリア王ジョゼフに迎合せざるを得ない状況なのだと」
 

264 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:54:45 ID:???
 アンリエッタは未だに信じられないといった口調で告げる。
ついこの前には、王権同盟を結んだばかりだというのにも拘わらず。
名目は単純な侵略戦争。先の同盟なんて知ったことではないと。
外交面から見れば、まさに狂気の沙汰としか思えなかった。


 トリステインは、先だってのアルビオンでの戦争の傷は未だ癒えていない。
戦力は大幅に減り、仮に万全であったとしてもガリア軍とは比較するのも馬鹿らしいほどの差がある。
アーカードが飲み込んだトリステイン軍人、その家族らへの処置もまだまだ残っている。
アルビオンの方とて終わっていない。

「そして・・・・・・勿論内々の話ですが、ガリアはロマリアも同時に攻め入るようなのです」
「ロマリアを!?」
そこでルイズはようやく驚嘆の声を上げる。
「はい、そこでロマリア教皇から同盟の申し入れがあり、・・・・・・これを受諾しました」

 トリステインは想定の範囲内だったが・・・・・・何故ロマリアまで?
ルイズは考え、そしてすぐに思いあたる。
そういえば――――――ジョゼフは虚無の担い手と戦いたがっていた。
トリステインは自分、ガリアはジョゼフ、アルビオンはティファニア。
そしてロマリアは・・・・・・ヴィットーリオ教皇聖下だ。
アルビオンでシュレディンガーが言っていた。大尉の主人が教皇聖下なのだと。
同時に虚無の担い手であることを。

(くっ・・・・・・)
ルイズは歯噛みする。要するにこれは虚無の担い手同士のいざこざとも言える。
そしてアーハンブラの時はウォルターが誤魔化してくれていたが、今度こそジョゼフは知っている。
ルイズ・フランソワーズ、自分が虚無のメイジとして戦えるということが。
狂王ジョゼフが、同じ虚無の担い手と戦いたいから起こす戦争。
その理由はきっと、ジョゼフの中でかなりのウェイトを占めるに違いない。
 

265 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:55:51 ID:???
 直接の原因ではないし、当然自分に非はない。
しかしそれでも自分がいるから起きる戦争なのかと思うと、自己嫌悪に陥りそうになる。
もし仮に自分が死ねば・・・・・・、ジョゼフはトリステインを攻めるのをやめるのだろうか。
そんなことまで考えてしまう。

 いや・・・・・・仮に私が死んでトリステイン攻めが中止されたとしてもだ。
既にロマリアとトリステインの、同盟の申し入れと受諾は済んでいる。
であれば、ロマリアとの戦争でもトリステインは協力せなばならない。
ロマリア教皇やテファにまで、死を強要することなど出来るわけもなし。
そして何よりも、持て余したジョゼフが戦争をやめるなどという確約が得られるわけもない。

 結局のところ、自分の虚無を使って被害を最小限に勝つしかない。


「そして私は・・・・・・」
アンリエッタの顔が一層険しくなり、言葉が詰まった。
それを見て取ったルイズは真摯な瞳で見つめる。
そして次に紡ぐだろう言葉に対して返事をする。その思いも慮った上で。

「・・・・・・姫さま、私をお使いください」
「戦って、くれますか・・・・・・?」
本当ならば戦の道具にはしたくない。そのような命令を下したくはない。
しかしルイズの虚無は強力な戦力であり、使い魔のアーカードも同様である。
勝つ為にも、犠牲を抑える為にも、背に腹は変えられない。
それが王の責務。
                       z  e  r  o
「勿論です、国を守る戦いです。我ら王立虚無騎士団、身命を賭して此度の戦に勝ちます」




 

266 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:56:25 ID:???
「鎧装に焼入れを施し、関節部も強化した。恐らく虚無であっても易々と破れぬ筈だ」
ビダーシャルが事も無げに報告する。
「はっは、素晴らしい仕事振りだ」
「それが10体・・・・・・ね。うん、上等だ」
ヨルムンガントが作られている工房。そこでジョゼフ、ウォルター、ビダーシャルが話していた。
周囲には25メイルのヨルムンガントが整然と並び、動かずとも凄絶な威圧感を放っている。

「ただ・・・・・・ダメージ許容量を超える攻撃は関知するところではない。
 この前のアーハンブラ城の時の、彼の者達のようなケースでは――――」

「あぁ、それは大丈夫。アーカードとアンデルセン、あの二人が協力する理由はもう無いし」
元々暫定的な協力関係の筈だ。犬猿で宿敵同士な二人が手を組むことは、もうありえない。
そして単独では通常の反射も破れない。それは襲撃時に実証済みである。

(しっかし、つくづく恐ろしい能力だな)
額に刻まれたミョズニトニルン。
本来であれば、一体を動かすのにすら膨大な魔力が必要であろうものである。
しかしこれほど凶悪な兵器を、己の手足の如くに苦も無く自由に操れる。
アーカードの321号開放の攻撃力は未知数だが、これが10体もあるのならば問題ない。

「フフ・・・・・・地獄はもう間近か」
ジョゼフが悪魔のそれのような笑顔を浮かべ歓喜する。
――――――その時だった。


「いやぁ〜、少佐とは別ベクトルで狂ってるねェ〜」
突如響いた声の方向に三者が一様に目を向け、唯一ウォルターの眼光が鋭くなった。
 

267 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:57:15 ID:???
 その者は両手を上げ、害意が無いことを主張する。
「おっと、僕は特使だ。やりあうつもりはないよ」
「シュレディンガー・・・・・・」
ウォルターがその名を呟く。猫耳を生やし、軍服をまとった少年。
アーカードを殺した毒。
                      ・
「お久し振り・・・・・・かな?ウォルター老」
わざわざ『老』とつけたあたり、無邪気の中の悪意を感じる。

「特使だと?」
ジョゼフは眉を顰め、怪訝な顔になる。一体どこの特使だと言うのか。
「あっごめん。ちょっと既知感を感じたからつい口走っただけで、別に僕は特使じゃないや」
「では何者だ?」
シュレディンガーとウォルターが顔見知りのようだと見て、二人に問うようにジョゼフは言った。

「何者かと言われれば・・・・・・猫です」
シュレディンガーの耳がピクピクと動く。
ウォルターに視線を向けると、ただ溜息を吐いている。
ジョゼフは数拍考え「そうか」と、特に何事もなく納得した。

 場が沈黙する。ビダーシャルは思わず突っ込みそうになった。
が、色々と自分の中の何かが崩壊してしまうのではという危惧から、何とか踏みとどまる。


「して、その猫が何用だ?」
ジョゼフが沈黙を破る。
マイペースに10体のヨルムンガントを眺めていたシュレディンガーはザックリと答える。
「猫が迷い込んで来るのに理由はないです」
ジョゼフは顎鬚を右手でさすりながら考えた。
「ふむ・・・・・・なるほど、道理だ」
 

268 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:57:50 ID:???
「納得するな!」
ビダーシャルが遂には耐え切れなくなりツッコミを入れる。
突っ込んだら負けだとわかっていた。狂おしいほど理解していた。
だがそれでも、この中で唯一正常な思考を持つビダーシャルには我慢できなかった。

 工房は厳重な警備が敷かれ、無闇に忍び込める場所ではないのだ。
それなのに騒ぎの一つなく、しかも強者である自分達が、奴が声を出すまで気付けなかった。
「・・・・・・ッ、一体警備はどうなっているのだ」
「無論万全。破られた様子はないね」
ウォルターは、さも当然と言った声調で言い放った。

「そうそう、無駄無駄無駄無駄ァーッ!だよ。僕はどこにでもいるし、どこにもいない」

 まるで意味がわからない様子のビダーシャルとジョゼフに、ウォルターが言を補う。
「そういう存在なんだ、アーカードのような化物だと思えばいい」
「ほう・・・・・・」
「・・・・・・」
ジョゼフは感嘆の声を上げ、ビダーシャルは半眼になる。

 するといつの間にかシュレディンガーは前屈みになって、ビダーシャルを下から見上げ覗き込む。
「ふんふん」
耳が動き、背筋を伸ばすと、ニッと笑う。
「あっさり任務を達成しちゃったなあ」
シュレディンガーは、ビダーシャルの帽子から僅かに覗いた耳に注目していた。


「任務だと?」
と、ジョゼフ。

「うん、ヴィットーリオが調べて来いって言うからさ。エルフが本当にいるのかどうかをね。
 全く僕はアイツの使い魔でも部下でもないのに・・・・・・人使いが荒くて困るねホント、うんうん」
 

269 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:58:20 ID:???
 ヴィットーリオと言えば、ロマリアの教皇の名である。
「狡い真似をする連中だ、それで・・・・・・エルフを確認してなんとする?」
「聖戦発動させたいから、エルフがいるという確証が欲しいんだって」
「な・・・・・・ッ!!聖戦だと!?」

 ビダーシャルが思わず叫ぶ。
シュレディンガーは、何をそんなに驚いているのかという顔をして「うん」と肯定した。

 聖戦――――――エルフの治める聖地を奪回する為の戦争。
つまりはエルフがガリアにいることを大義名分に、聖戦を発動させようと言うのだ。
聖戦発動によって士気は大いに上がる。戦争で勝利する為には非常に有効な策だ。
そしてさらには、そのままの勢いで悲願である聖地の奪回まで一直線ということ。

 実際的に聖戦は民に無理を強いる。不満は溜まり、それが亀裂にもなる。
故にこそ聖戦は、余程の事情がなければ発動させづらい。
それでなくとも、度重なるエルフとの戦争に於いて、人間側は敗北し続けている。
その都度エルフの強さと恐ろしさというものが、人々の間に刻まれているのだ。
だからこそ大義名分というのは、非常に重要な要素となる。
エルフとガリアが協力関係にあるという事実は、ロマリアにとってこれ以上ない情報だろう。

 そしてジョゼフは、なるほどそれも面白そうだと笑った。
ガリアの戦力を以てすれば、ロマリアとトリステインを同時に相手取っても何ら問題ないほど。
よって、よりし甲斐のある戦に発展させる為にも、敵国の士気高揚は大いに結構なことであった。


「何故ロマリアに?」
と、ウォルター。
シュレディンガーがロマリアの手先として動いている理由。
アーカードに飲み込まれ、そしてアーカードが召喚された時に弾かれたとか何とか。
実際のところは定かではないものの、そんなようなことではないのかとアーカードが言っていた。
それにシュレディンガー自身、自分は使い魔ではないと言った。
北花壇騎士団の調べでもロマリアの被召喚者は大尉であり、シュレディンガーは特に付き従う理由はない。

270 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 21:59:03 ID:???
 
「大尉がいるからね〜、こういうことするのは面倒で嫌なんだけど・・・・・・」
あっさりと、答えが返ってきた。
つまるところ単に馴染みがいるから、そこにいるということ。
であれば、引き込むのは難しい。即物的な報酬で動いているのなら勧誘も可能であったが。
実際に使うつもりは無いが、対アーカードに於いて牽制札として使えるだろう。
そういった貴重なカードは持っていて損はない。

 だが酷く個人的な理由で、ウォルターはシュレディンガーは好きではなかった。
なにせアーカードを消滅させた存在。その存在がアーカードを殺した。
夜明けのみという代償を払い、急造吸血鬼となった以上は。
アーカードが命を吸い始めた時点で、打倒する機会は永久に近く失われてしまった以上は。
少佐がシュレディンガーを使ってアーカードを殺さずとも。

 あの命が一つの時点で、アーカードを打倒出来なかった自分が悪い。
それはわかっている。ただの八つ当たりだということも理解している。
が、それでも割り切れず相容れない、嫉妬にも似た感情があった。


「ロマリアは・・・・・・聖戦を、発動させようと言うのか?」
と、ビダーシャル。
「だからそう言ってるじゃん」

 ビダーシャルは血が出そうなほどに歯噛みした。
聖戦となれば、最終的には自分達エルフ種族と戦い、蛮族の言う聖地を奪回すること。
聖地とはエルフ種族の住む土地であり、住む場所を守る為にも戦闘は不可避。
四の悪魔が揃わずとも、人間達と正面からぶつかれば相応の被害が出る。
単独でも虚無の力は侮り難く、あのアーカードといった恐るべき化物もいる。
過去の歴史では大勝し続けてきた。が、当然被害はあるし、何より殺生を好まない。
 

271 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 22:00:25 ID:???
 そういった人間達との衝突を・・・・・・争いを防ぐ為に、自分は動いていたというのに。
「くっ・・・・・・」
「はっはっ、それは困ったなぁ。さらに大きな戦が起きてしまう」
それも吝かでないとばかりにジョゼフは笑う。
ジョゼフのその態度は、ビダーシャルの神経を逆撫でするような言い方であった。
「貴様・・・・・・」
ビダーシャルがジョゼフを睨め付ける。
そういう輩だということは重々承知しているが、どうにも感情を抑え切れない。

「こっちが勝てばいいんだろうけどねぇ。両用艦隊は120余隻、トリステインと半分に分けてもお釣りが来る。
 実際にトリステインに差し向けるのは1/6程度と地上軍、それにヨルムンガントがあれば十分だろう。
 死の河のおかげもあって、トリステイン軍の戦力は相当数を減らしているし。
 アルビオンに残った艦隊を収用しようにも、それを操舵し戦える者がいないんじゃハリボテだ。
 だからトリステイン相手にせよロマリア相手にせよ、艦隊戦で遅れをとることはないだろうね。
 懸念事項があるとすれば、向こうの虚無の存在と・・・・・・、こっちは一枚岩とはとても言い難いこと。
 そしてアチラさんが聖戦発動するならば、強固な結束と士気高揚で戦局は大きく揺れるだろうね」

 ウォルターが淡々と戦力分析を述べる。
死の河を発動させたアーカードは自分が打ち倒すと決めている。よって懸念事項にはならない。
いずれにせよ、ウォルターにとって戦の勝敗などは酷くどうでもよかった。
アーカードとサシで闘り合えるならそれでいい。
聖戦だかなんだか知らないが、そんなものは好きにすればいいし、関知するところではない。


「我らとの約定をお忘れか?・・・・・・反故にするつもりか」
ビダーシャルは糾弾する目つきでジョゼフを一層睨み続ける。
「俺が直接望んだわけではない」
ジョゼフはたくわえた顎鬚を撫で付けながら笑う。

 それは確かにその通り。故に――――――。
 

272 :マロン名無しさん:2010/02/08(月) 22:00:26 ID:???
支援支援

273 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 22:00:56 ID:???
「では・・・・・・我は別の手段に出なければならぬ」
スッとジョゼフへ体ごと向き直り、明らかな敵意を見せる。

「我はこの場を去る。さすれば一時とはいえ聖戦の意義を失うだろう。
 その間に早急に国に戻って今後を話し合い、防備などを整える必要もあろう。
 それだけでは足りぬ。四の悪魔を揃わせぬ為に・・・・・・誰か一人以上、軟禁せねばなるまい」

 虚無の担い手を殺しても、それはまた新たな担い手が目覚めるだけのことで解決にはならない。
それ故に、揃わせないという前提で考えるのであれば、生け捕りにしておくのが安易な方法である。
真の悪魔の力を目覚めさせないことは、何よりも優先されるべき事項。


 ビダーシャルが放つ圧力に対してウォルターは静かに、しかしてすぐに対応できるように気を張る。
王たるジョゼフがいなくなれば、己の目的も成り立たなくなる。
一方でジョゼフは涼しい顔のまま答える。

「う〜む、それは困るなあ。まだまだお前には働いてもらわないとならん。
 それに軟禁されるなど、つまらんしな。であるならば、選択肢は・・・・・・――――」

 ジョゼフはシュレディンガーの方を見る。
間諜を消してしまえば、ロマリア側は確証を得られなくなる。
だがそんなジョゼフの当然の思惑を察し、ウォルターが告げる。
「それは無理だ。そいつは殺せない、いや・・・・・・殺しても蘇生するから無意味だ」

「そう、僕は『シュレディンガーの猫』。僕が僕を観測出来る限り、僕は自由なのさ」
えへんっと胸を張る。

 次いでシュレディンガーは、殺伐とした空気を破る言葉を呆気なく言った。
 

274 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 22:01:42 ID:???
「・・・・・・そんなにアレなら、報告しないであげようか?」
それは流石に三人も予想外の言葉であった。
「なんだと?」
「エルフなんて見つけられなかった。いなかったと、報告すればいいだけだしさ。
 別にヴィットーリオに義理立てする必要はないしね〜。
 まっ、そこらへんは僕を信用してもらわないといけないわけだけど」

 シュレディンガーはさらに続ける。
「やたら小理屈臭いヴィットーリオはつまんない。アナタの方がずっと見ていて面白いよ、ジョゼフの狂王」
突然敬語になり、ニヤリと裏のあるような笑みを浮かべる。そして付け加えた。
「まぁでも、大尉がいる以上は向こうにいるけどね」


 全面的に信じて良いものかと三者は訝しむ。
「・・・・・・零号開放、楽しみだしね」
あれほど人間が死んでいく様は、とても痛快愉快。

「あっ、どうせならアーカードを殺してあげようか?」
シュレディンガーは冗談交じりに言うが、ウォルターは本気の殺意で睨み付ける。

「冗談だってば、そんなに睨まないでよ。僕としてもあんな思いはもう懲り懲りだしね〜」
ウォルターは嘆息をつく。なんとなくだが裏が見えない。
嘘を吐いているようには見えないし、そもそも嘘を吐く理由が無い。
シュレディンガー自身は、何一つ追い詰められた状況にはなっていないのだ。

 拘禁も殺害も意味を為さないシュレディンガーの猫。
嘘を吐くことを提案する必要性が皆無な存在。
であれば親切心・・・・・・いや、ジョゼフの狂気を気に入ったから。
この戦争を引っ掻き回し、面白くしてやろうと思っているからに他ならないのだろう。

 

275 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 22:02:22 ID:???
「嘘の報告をするのは良い、だがあからさま過ぎる」
「うん?」
ウォルターが一言する。単純に浅薄としか言いようがない。
ロマリアの情報収集能力だって、節穴ではないだろう。事実、エルフの存在を俄かながら察知していた。
その確証を得んとしたが為に、シュレディンガーをこうしてよこしてきたのだ。
エルフの存在が匂っていたのに「実はいなかった」なんて報告を、素直に信じるわけがない。
それに何よりアーカード達がエルフの存在を知っている。
裏を取られれば、そんな嘘は簡単にバレるだろう。

「上手な嘘を吐く時は、適度に真実も混ぜるのが良いと言われる」
「お〜う」
「だからシュレディンガー、お前はつい先刻までのやり取りとそこから先を報告しろ」
「具体的に?」

 ウォルターは説明を始める。
先までのやり取り。シュレディンガーの出現と、聖戦発動の為にエルフの存在を確認する任を受けてきたこと。
それを聞いてジョゼフとエルフの協定が崩れ、エルフがジョゼフを攫うのも辞さないという事態になったこと。

「ここまでは事実、そしてここからが捏造だ」

 エルフは非常に強力な術者ではあったし、恐ろしいほどの力を見せつけ苦しめた。
が、流石にジョゼフとウォルターの二人を相手にして勝つことはなく、返り討ちに遭った。

「そう顔を顰めるなよ、ビダーシャル。実際にはお前が勝つかも知れない」
ウォルターは少し不満そうな顔をしたビダーシャルにフォローを入れる。
尤も、アーカードを含めて誰に対しても負ける気などサラサラ無かったが。

「そしてジョゼフはこう言った。『やはりエルフなぞは信用ならない。少し危なかったが、体よく利用出来た』と」
エルフの残した各種技術は残り、簡単に裏切るような厄介者も排除出来た。

 

276 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 22:02:46 ID:???
 やはりエルフとは相容れられない、という旨を付け加えること。
そして何より当のエルフ本人が殺されてしまったこと。

「これで向こうは聖戦発動の大義名分を失う、というか得られない。そうだろ?」
「んむ、その通りだ。それでいこう」
「・・・・・・致し方あるまい」
ジョゼフとビダーシャルも納得する。

 もし聖戦が発動しようものなら、その時はジョゼフを攫えばいい。
ビダーシャル自身にとっても、精霊と本格的に契約していないこの場で二人を相手にするのはリスクが高い。
それに・・・・・・多少前後したところで、そこまで事態が変わるものでもない。
ロマリアをどうにかしなければ、遅かれ早かれ人間達との戦は避けられない。

 そしてガリアが勝てば、ロマリアは滅びる。これは考えようによってはチャンスでもある。
エルフ種族が手を下さない人間同士の争い。愚かな蛮族が同士討ちをしているだけ。
ロマリアが滅亡すれば、再興でもしない限り半永久的に聖戦発動はなくなるだろう。

 故に今はシュレディンガーとやらを暫定的に信用し、虚偽報告が通ることに賭ける。

 

277 :ゼロのロリカード-51:2010/02/08(月) 22:03:07 ID:???
「オッケー、じゃそういう感じで報告しておく」

「さて・・・・・・こうなった以上は、エルフが死んだことを暗に流布しておこう。
 そしてビダーシャルには、さらに徹底的に姿を隠して存在を隠蔽する。
 当然今以上に不自由な思いをさせるが、そこは我慢してもらう」

 ウォルターはサクサクとすべきことを考え、それを言っていく。

「異論はない、既に不自由過ぎるこの身だ」
ビダーシャルは皮肉を込めるが、ジョゼフには通じない。
「本当に、万能で優秀な執事だな」
ククッとジョゼフは笑った。
海千山千の強者たるウォルター、ある種エルフ以上に役立ち、頼りになる。


「そんじゃさ、手ぶらで帰るのもバツが悪いから、色々と見学させてよ。
 というか、戦力を調べて来いってのも任務の内なんだよね、何度も愚痴るけどホントに面倒臭い」

 「ついでに観光名所にも案内して欲しいな」と、シュレディンガーはニコニコ笑う。
ジョゼフとビダーシャルの視線が集中し、「これも執事の仕事か・・・・・・」とウォルターは大きな溜息を吐いた。

278 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/08(月) 22:04:22 ID:???
以上です、支援どうもでした。
まとめの方もありがとうございます。

ではまた。

279 :マロン名無しさん:2010/02/08(月) 22:18:45 ID:???
乙です!

280 :マロン名無しさん:2010/02/08(月) 22:25:55 ID:???
乙!

281 :マロン名無しさん:2010/02/09(火) 19:57:53 ID:???
パーフェクトだ!乙です

282 :マロン名無しさん:2010/02/09(火) 23:02:51 ID:???
乙です!

283 :マロン名無しさん:2010/02/10(水) 10:47:54 ID:???
ロリカードちゃんのちっぱいスリスリしたい

284 :マロン名無しさん:2010/02/10(水) 20:36:37 ID:???
乙!

さすがはシュレディンガー
目先の面白優先かw

285 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/02/11(木) 19:43:31 ID:???
お久しぶりです。
確率世界のヴァリエール 第十二話
投下します。

286 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:44:51 ID:???
浮遊大陸アルビオンの南端、軍港ロサイス郊外の古城。
昼なお暗いホールの中央に、白いコートの男が一人立っていた。
血の付いたナイフを払いコートの内に仕舞うと、ポケットから紙箱を取り出す。
「、、、ん」
軽く眉を寄せるとくしゃりと紙箱を握り潰してポケットに戻す。
ふ、と男が視線を前に投げる。
男の床の前に黒い光がこぼれ方陣を作ると、黒尽くめの男が這い出て来た。

「ハァーイ♪、おひさ死ブリDeath」

陰気に笑う男が掲げたタバコの箱からその一本を口で受け取ると、
ルーク・バレンタインはライターを取り出して火を付けた。
間久部(マクベ)が小脇に抱えている書類の束に目をやりつつ、煙を吐き出す。
「今度は何だ、賛美歌でも教えるか?」
「それも良いが、そりゃまた今度。
 金属の鋳造練成加工技術と、、それにチョイと精度の高いマスケット銃ですよ。
 魔法抜きの技術レベルにあったブツをチョイスするのが中々に大変でしてねぇ」
「まるでエデンの蛇だな」
「何せ私ゃホラ、イスカリオテですからネ。 汚れ仕事は我等が本懐」
傷の奥の目がにんまりと嗤う。

「今週末の虚無の曜日までに、ここの密偵共だけは潰して置きたかったんですがー、
 イヤハヤ、相変わらずの見事なお手前。 これで「停戦会議」も滞りなく」
足元の暗がりに転がるいくつもの死体を見回す。
「それじゃ、いつもの如く血の一滴も残さぬよう、頼みマスよ。
 あーそうそう、我等が聖女様たちへ何か伝言は?」
「テファには、夕飯までに戻ると言っておいてくれ。
 黒い方には、今度あったら殺すと伝えろ」
ニヤケ顔で手を振りつつ間久部が魔法陣の中に消えていく。
床に残されたタバコの箱を拾い上げ、ルークがつぶやく。
「フン、、、悪魔め」

287 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:45:44 ID:???
善人ごっこ、オーク狩り、麗しの姫を守る騎士、、すべては余興のはずだった。
この世界の実情を把握し、新しい獲物を見付けるまでの、仮の住まい、隠れ蓑。
ひとときの戯れ、すべてはそのはずだった。
(俺たちにとっちゃあ人殺しができて生き血がすすれれば なんでもかまわねーや)
頭の中に懐かしい声が蘇る。
「ックク、確かにな、、、」

べちゃり。 と、床に広がる血だまりに手をひたす。
ぞろり。 と、屠った者たちの感情が、記憶が、意識がルークの中に流れ込む。
オーク鬼やトロル鬼とは比べ物にならぬ程の、思念の熱量、思考の奔流。
驚愕。敵意。侮蔑。殺意。激怒。後悔。嘆願。渇望。絶望。諦念。狂気。
悔恨、無念、怨恨、嫌悪、遺恨、怨念、懇願激憤呪詛自嘲憎悪憎悪憎悪
憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪
憎悪憎悪憎悪憎憎憎憎憎憎憎憎憎にくにくにくにくにくにnnnnkkn

    −  テ  ィ  フ  ァ  ニ  ア  −

混濁した意識が強引に引き戻される。
目を開ける。 床に転がる自分の右手がどろりと溶けている。
違う、違う。 目を閉じ、意識を集中し、在るべき形を思い出す。
形を取り戻した手を床に突き、ゆっくりと立ち上がる。
たかが千にも満たぬ心を、命を、魂を取り込んだくらいで。
名も無き化け物になぞ、なってたまるか。
俺は、俺だ。俺は、俺だ。俺は、俺だ。俺は俺だ俺は俺だ俺は俺だ。
ぎしりと歯を噛み、ルークは笑う。
「俺は、、、俺だ!」


確率世界のヴァリエール
Cats in a Box - 第十二話
 
 

288 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:47:16 ID:???
「そそそ、それじゃあ、行って来るから!」

緊張で顔を赤らめたルイズをキャルケが部屋の前で見送る。
「はいはい、がんばってらっしゃいね」
「ががが、がんばるって何をよ!
 魔法訓練の息抜きにちょっと遠出しようって誘って下さっただけで
 ワルド様とは別に頑張るとか頑張らないとかじゃないから!」
「えー、それなら僕も行きたいなー。
 あのグリフォンにも乗ってみたかったしー」
「だーめ。 シュレちゃんは今日は私とお留守番」
寝起きのベビードールのままでシュレディンガーの頭を抱え込む。
「ちぇー」
「わがまま言わないの。 せっかくだからコッチも朝食にしましょ。
 タバサ食堂に呼んできて」
「はーい」
==============================

シュレディンガーが消えた後、ルイズはキュルケに向き直る。
「じゃ、シュレの事頼むわね。
 夏休み中でヒマだからって私のいない間に
 あの子にちょっかい出さないでよ」
「出さないわよあのコには」
呆れ顔で即答するキュルケに、ルイズはそれはそれでと不満に思う。
「そういやキュルケ、年がら年中サカってるくせに
 シュレにだけは手ぇ出そうとしないわね」

「あらアンタ、あのコの飼い主なのに気付いてないの?
 危険な香りのする殿方ってのも魅力的だけどね、
 あのコの中に居るのは「死神」よ。
 アタシはそこまで命知らずじゃないの」
 
 

289 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:48:16 ID:???
(やっぱり制服は無かったかしら、、、
 もうちょっと地味目でも夏物の、、)
考えながら中庭を歩くルイズの元へ一人の少女が駆けてきた。
「はいっ、ルイズさん!
 頼まれていたサンドイッチとワイン、
 それに今朝一緒に作った、焼きたてのクックベリーパイですよ!」
「あ、ありがと、シエスタ」
「ついにワルド様とデートですね。
 頑張ってくださいね、ルイズさん!」
シエスタが屈託無くはしゃぐ。
「そそそ、そういうのじゃ、、、!」
顔を火照らせてどもるルイズの手を取り、
シエスタは真剣な面持ちでルイズを見つめる。
「ルイズさん、女は度胸です!」

「それじゃあ、ルイズさん」
走り去ろうとするシエスタに、おずおずとルイズが声をかける。
「そ、その、シエスタ」
「はい? 何でしょう、ルイズさん」
「あ、、、ありがと」
「っふふ、はいっ!」


「うわー、青春ねぇ、ギーシュ」
「そうですねぇ、お姉さま」
カフェテラスでその様子を眺めていたモンモランシーとケティが
ギーシュを横目にうっとりとつぶやく。
読んでいた本から目を上げ、ギーシュが一つあくびをする。
「ふわあ、ん。 あのルイズにもやっと春到来か。
 いやいや、めでたいね」
 
 

290 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:50:53 ID:???
「お、おま、お待たせしました!!」

「やあ、おはようルイズ」
門の外に立っていたワルドが優しく微笑みかける。
「いや、こちらも今着いたところさ。
 済まないね、まだ夏休みに入ったばかりだと言うのに」
「い、いえそんな、ぜんぜんヒマです!」
「そうか、それは良かった」
親しげに首を寄せてくるグリフォンの頭をなでながら
ルイズへにっこりと笑う。

「訓練ばかりじゃあ気が詰まると思ってね。
 たまには気晴らしに、と思っていたんだが。
 喜んで頂けたようで何よりだ」
「い、いえ、こちらこそ
 誘って頂いてありがとうございます」
ルイズははにかみながらバスケットを抱え込む。

「おや、それは?」
ワルドがルイズの手に持ったバスケットを覗き込む。
「シエスタに頼んでランチと飲み物を。
 それにその、シエスタに習いながらなんですけど、
 自分でクックベリーパイを、、作ってみたんです、けど」
「そうか、それは楽しみだ!」
ルイズから受け取ったバスケットを鞍の後ろに積むと
そっとルイズの手をとる。

「それではお手を、お姫様。
 空中散歩と参りましょう」
 
 

291 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:52:46 ID:???
「うわ、うわ、うわあーー!!」
満面に笑顔を浮かべ、ルイズが思わず声を上げる。
「わあ、ワルド様!
 学院がもうあんなに小さく!」
グリフォンの首にしがみつきながら、後ろのワルドを振り返る。
ルイズの体を抱え込むように手綱を取りながら、
ワルドははしゃいだ声を上げるルイズに微笑み返す。
不意に近づいた顔と顔に、ルイズは照れて前へと向き直る。

「気に入ってくれて嬉しいよ、ルイズ。
 空を飛ぶのにはもう慣れているんじゃないかと思ったけれど」
「いえ、いっつもは飛ぶんじゃなく落ちるばっかりで」
「ははは、そうかい」
晴れ渡る空の下、二人を乗せたグリフォンが強く羽ばたく。

Vの字に並んで空を舞っていた雁の群れが、
二人を覗き込むようにゆっくりと近づく。
「おや、どうやら僕らの道案内をしてくれるようだ」
「あははっ」
思いがけず現れた道連れに笑い声がこぼれる。

雲をよけ、森を渡り、丘を越えて、川を上る。
グリフォンは風にのり、ゆったりと滑空する。
時折足元を過ぎていく小さな村々。
子供たちが手を振り追いかけてくるのへ
ルイズは空から手を振り返す。

やがて遠く連なる山々が近づいた頃、
森の切れ間から小さな湖が現れた。
 
 

292 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:54:41 ID:???
ふわり、と湖のほとりへ舞い降りる。
瑞々しい青草が羽ばたきになびく。

「わあ、きれい、、、」
夏の高原を涼やかな風が吹き渡る。
「それは良かった」
ワルドがルイズの隣に降り立つ。
「ずいぶんと前にここを見付けてから
 どうしても一度、この景色を君に見せたくてね」

高く上った陽を受けて湖面がきらめく。
遠く山々は青く澄み、森は深く二人を包む。
小鳥たちは水辺に遊び、楽しげに歌をさえずる。

「少し長く飛んできたけれど、疲れてはいないかい?」
「い、いえ、ぜんぜん平気です、、!」
言い切ろうとした時に、ルイズのお腹が可愛らしい音を立てる。
耳まで真っ赤になりながら涙目でルイズが弁明する。
「いや、あのワ、ワルド様! これはその、、、」
(ああ、やっぱり朝に少しでもなにかつまんでおけば、、、)
泣き出しそうなルイズの頭をくしゃくしゃと撫でると
ワルドは朗らかに笑う。

「じゃあ、少し早いがお昼にしようか。
 実は僕も君の作ってくれたクックベリーパイが
 朝からずっと食べたくって仕方がなかったんだ」
「は、はいっ!」
ルイズは涙を拭いてワルドに微笑むと
バスケットを鞍の後ろから取り出した。
 
 

293 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:56:05 ID:???
「ふう、きもちいい、、、」

二人で草の上にごろりと仰向けになる。
ワインで火照ったルイズの頬を
湖面を渡った風が撫でる。

グリフォンもさっきまでは干し肉をかじっていたが
二人に習って昼寝を決め込んでいる。

「また、こうして二人で来たいな」
「、、、はい」
「来年も、再来年も、十年後も、ずっと、、、」
「、、、」
「、、、ルイズ」
「は、はいっ!」
ルイズが期待と不安にびくりと身をこわばらせる。

腕組みをして空を見上げたまま、ワルドが語りかける。
「実は君に、話しておきたい事があるんだ」
「ななな、なんでしょう!」
「今週の週末、虚無の曜日にアルビオン王国と
 貴族派、、神聖アルビオン共和国は停戦会議を行う」
「はい、これでやっとアルビオンにも平和が戻ります」

「そうだと良いんだが」
「、、え?」

「まだはっきりとは分らないが、貴族派に不穏な動きがある。
 狙いは王党派ではなく、、、
 このトリステインだ」
 

294 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 19:58:05 ID:???
「そ、そんな、なぜ今になって!」
ルイズが体を起こし不安げにワルドを見つめる。
「分からない。 なにか企みがあるのかもしれないし、
 向こうも一枚板ではないのかもしれない」
「、、、ワルド様」
「もしもこのトリステインへ貴族派が直接侵攻する事になれば、
 貴族派への密偵であるこの僕も、危うい事となるだろう」
「止めてください! そんな!」
「大丈夫、僕も腕に覚えはある。
 そんな事で命を落とすつもりは無いよ。
 しかし、もし君が支えてくれるのなら、、、
 こんなに心強い事はない」
「、、、」
ワルドが起き上がり、ルイズの手をそっと握る。

「僕と結婚しよう、ルイズ」

「え、、、」
「ずっとほったらかしだった事は謝るよ。
 婚約者だなんて言えた義理じゃない事も判っている。
 でもルイズ、僕には君が必要なんだ」
「ワルド様、、、!
 で、でも私、貴族としてもまだ全然で、
 それに魔法、魔法だって何一つまともに使えないし!」

「そんな事は無い。
 君は他人には無い特別な力を持っている。
 僕とて非凡な使い手ではないと自負している。
 だからこそ、それがわかる。
 例えば、そう、君の使い魔」
「シュレディンガーのこと?」
 

295 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:00:33 ID:???
ワルドの目が光る。
「彼の持つ力はとても特別なものだ。
 誰もが持てる使い魔じゃあない。
 そして、それを召喚し使役できる君も
 それだけの力を持ったメイジなんだよ」
「でも、でも、、、」
「もしかして、あの使い魔君が、、、
 君の心の中に居るのかい?」
「ちょ! 違います!
 アレはただの使い魔っていうかペットです!
 そういうんじゃなくって!」
「い、いや、ゴメン!」

ぶんぶんと手を振り回し力いっぱい否定するルイズに
ワルドは慌てて手をかざし詫びる。
「すまない、僕も急ぎすぎた。
 もしかしたら、僕は彼に嫉妬しているのかもしれないな」
「そんな、あの猫耳頭ときたら使い魔のくせに
 短気でわがままで甘えん坊で皮肉屋で、それは困った奴なんです!」
「ふふっ、まるで自己紹介を聞いているようだね」
「そんな、酷いですわワルド様!」
「はっはっは、ゴメンゴメン。
 でもね、彼と居る時、彼の話をしているときの君は
 とても自由で素直で可愛らしく見える。
 僕の前でももっと見せて欲しいんだ、素顔のままの君を」
「いやだ、ワルド様ってば、、、」
頬を染めてルイズが下を向く。

「僕はね、シュレディンガー君が羨ましい。
 彼の力は特別だ、君にとってただ一人の使い魔だ。
 この世界のどこへでも、君を連れ去ってしまう」
 

296 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:02:18 ID:???
ワルドはルイズの頬に手を置き、そっと目を合わせる。
「だからこそ、君がどこへ行こうとも平気なように
 僕も君にとっての特別なただ一人になりたい。
 この世界のすべてから君を守る、姫を守る騎士でありたい。
 ルイズ。 僕に君を、守らせてくれ」
「、、、ワルド様」

ざざ、と。
二人の間をぬい、風が草を撫でてゆく。
ワルドがゆっくりと立ち上がる。
「今週末、アルビオン停戦会議に先駆け、ゼロ機関の長として
 僕はウェールズ皇太子とお会いする事になっている。
 場所はニューカッスル、もちろん君も同席の予定だ」
「、、、」
「そこで、返事を聞かせてほしい」
「、、、はい」
こくり、とルイズは小さく頷いた。


湖を見ながら、ワルドが一つ伸びをする。
「ルイズ、覚えているかい?
 あの約束をした日、ほら、君はお屋敷の中庭で」
「あの、池に浮かんだ小船?」
ワルドが頷いた。
「君はいつもご両親に怒られたあと、あそこでいじけていたね」
「ほんとにもう、ヘンな事ばかり覚えているんですね」
恥ずかしそうに俯くルイズへ、楽しげに話す。
「そりゃ覚えているさ。
 君にはいやな思い出かもしれないが、
 あの日の約束はずっと、僕にとっての宝物だった」
ワルドがくすりと笑う。
 

297 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:03:41 ID:???
「もう一度あの日のように二人で船に乗りたいと思ってね。
 実はこの先に小船を隠しておいたんだ。
 とって来るから待っていてくれるかい?」

子供のように駆け出していく姿を目で追いながら
ルイズは突然の告白に心の整理を付けかねていた。
ワルドの姿が見えなくなるとぺたりとその場に座り込み、
そばで眠ったままでいるグリフォンの喉をゆっくり撫でた。
「はあ、どうしよう。
 私あなたのご主人様にプロポーズされちゃったわよ」
ころころと気持ちよさげな声を上げるグリフォンを見つつも
思わず頬が緩む。

むずむずとした衝動を堪え切れず、草の上に大の字になる。
「うっわー、どーしよ、どーしよ!
 ワルド様からプロポーズされちゃったわよ私!」
ごろごろと身悶えるルイズの視界に
空から降ってきた何かが映った。


絹を裂くような悲鳴が湖にこだました。
「!!」
杖を抜いて走り出したワルドの耳に
少し遅れてグリフォンの雄たけびが届く。

湖畔の斜面を全力で登り切る。
ルイズの元に戻ったワルドを出迎えたのは、
明らかに野盗と思われる風体の男たちだった。
グリフォンは杭を打たれた投網の中でもがき、
ルイズは野盗の一人に後ろ手に捕まれ、
喉に山刀を据えられている。
 

298 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:04:42 ID:???
「ワルド様、私は構いません!
 こんな奴ら、やっつけて下さい!」
ルイズの言葉に野盗たちが大声で笑い出す。
「姫様はこうおっしゃっているが
 どうするよ、色男!」
「魔法で俺たちをふっ飛ばしたあと
 この娘っこの首だけ持って帰るかね?」
ぐい、と山刀でルイズの顎をあげる。

「物取りの類だろう、金ならくれてやる!
 今すぐにルイズを離せ!」
ワルドが杖を突きつけ言い放つ。
「そのおっかねえのを捨てたらな!
 そら、コッチに投げてよこしな!」
頭目と思しき男が叫ぶ。
「駄目ですワルド様!」
悲痛な声を上げるルイズの髪をつかみ上げ
男が耳元で怒鳴る。
「おめえは黙ってろってんだ!!」

「、、、」
ワルドが無言で杖を前に放る。
「ワルド様、、!」
ワルドが放り投げた杖を頭目が拾い上げる。
「ほう、こいつぁ良い値がつきそうだ。
 おい、予備の杖を持ってないか調べな」
一人を顎でしゃくると、その男がおそるおそる
ワルドへ近づき、マントを剥ぎ取ると
持ち物を調べていく。
「こいつもいただきだ」
ワルドのつば広帽を奪い、自分の頭に載せる。
 

299 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:06:18 ID:???
「頭ぁ、他にぶっそうなもんは何にもありやせんぜっ! っとぉ」
振り上げた山刀の柄でワルドの頭を殴りつける。
「ぐあっ!」
「ワ、ワルド様!!」
倒れこむワルドを見て、ルイズが絶叫する。
「貴族か何だか知らねえが威張り散らしやがってよう!」
「おいおい、あんまり乱暴な真似はしてやるなよ、俺らと違って
 お上品な育ちなんだぜ? 貴族ってなあ」
「だから世の中の厳しさを教えて差し上げてんじゃねーか」
「あっはっは、ちげえねえ!」
男たちがげらげらと笑いながらうずくまるワルドを
交互に蹴りまわす。

「やめなさいよ、あんたたち!!
 離せえ、離しなさい!」
涙ながらに叫ぶルイズのマントを捕まえていた男が引きはがす。

「くそ、ルイズには手を出すな!」
ふらふらと起き上がるワルドを一瞥すると、男は
ルイズを草むらへ突き飛ばす。
「はあ? てめえじゃあるめえし、
 誰がこんな乳臭いガキを相手にするかよ。
 、、、大切に抱え込んでたと思ったら、なんだこりゃ」
男はルイズの懐から奪った、古びた革表紙の本をめくる。
「ああっ、『始祖の祈祷書』! 返しなさいよ!」

「学の無えお前にゃ、祈祷書なんぞ無用の長物だろ」
野盗の一人がげらげらと笑う。
「うるせえ、祈祷書どころか何にも書いてねえ、白紙じゃねえか!」
男は祈祷書を投げ捨てるとワルドに駆け寄り蹴りを入れる。
「ちっ、もちっと良いモン持ってねーのかよ!」
 

300 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:08:40 ID:???
ワルドの身に付けていたものとグリフォンの鞍周りを
調べ終わった男が頭目の元へと向かう。
「どーするよ頭ぁ、多少の金貨は持ってたけどよ。
 しけてやがる」
「グリフォン殺して嘴取っとけ、薬屋に売れる」
「このハンサムはどうしやす?
 やっぱ後腐れがねえように」
「いや、契約にゃ、、、!?」
男たちが視線を向けたその先には、右手に杖を握り
始祖の祈祷書を拾い上げたルイズの姿があった。

「ワルドを、、、ワルドを放しなさい!!」


「ん?
 シュレちゃん、どしたの?」
トリステイン魔法学院のカフェテラス。
隣のイスのシュレディンガーをキュルケは怪訝そうに見つめる。
「どうしたんだい? ネコ君。
 君の手番だよ」
対面のギーシュがチェス盤をとんとんと叩く。
「ん、、、あれ? 目がヘンだ」
シュレディンガーがこしこしと目をこする。
「疲れちゃいました?
 お冷でも持ってきましょうか、シュレさん」
シエスタが心配げに顔を覗き込む。
「うわ! なんか見える!」
「はっはっは、チェスに負けそうだからって、、、
 え? ネコ君、その手袋の中」
ギーシュの指し示すその先、シュレディンガーの
右手袋の中からは、金色の光が漏れこぼれていた。
 

301 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:11:10 ID:???
「わわ、それってもしかして使い魔のルーンが光ってるの?」
不思議そうな顔で覗き込むモンモランシーに答えず、
シュレディンガーは前を向いたまま呆然とつぶやく。
「右目に、右目だけ何か見える、、、
 これって、、ルイズの、視界?」
離れた席で一人本を読んでいたタバサが
ぱたりと本を閉じ、顔を上げた。

「ルイズが、危険。」


「脅しじゃないわ、離れなさい!!」
野盗たちに杖をかざし睨み付ける。
「おお、おっかねえお嬢ちゃんだ。
 だがそんなちびた杖でどうしようってんだ?
 さっきこのハンサムと話してるのを
 おっちゃんたち聞いちゃったのよ。
 まるで魔法を使えねえんだってえ?」
その言葉に周りの男たちもげらげらと笑う。

「ぐっ、、!」
ルイズは声を詰まらせる。
(こうなったらいつもの様に魔法を失敗させて爆発を!)
小さな杖を握り締めるが、すぐに思い止まり歯噛みをする。
野盗たちの中心にはワルドが倒れていた。

シュレディンガーとアルビオンを飛び回り、
いくつもの船を沈め、いくつもの砦を破壊した。
いつしかこれが自分に与えられた魔法なのではとも思った。
だが。
 

302 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:13:20 ID:???
何度も起こしてきた爆発の中で、ルイズはその特徴を掴んでいた。
強い爆発を起こすには、大きな範囲を巻き添えにする事が必要だ。
短く詠唱をする事で小さな爆発も起こせるが、
それでは人一人弾き飛ばす事さえできない。
野盗たちを吹き飛ばすには、どうしてもワルドを巻き込んでしまう。

じわり、と悔し涙がにじむ。
何が、「虚無の魔女」だ。
使い魔の力を自分の物とはき違え、図に乗っていただけだ。
肝心な時に自分ひとりでは何も出来ない。
アーカードに胸を張り言い放った。
「お前を打ち倒す」、と。
なんて傲慢な、なんて恥知らずな言い草だったろう。
貴族とは名ばかりの、魔法一つ使えぬ、ただの小娘。
杖を握る手が小さく震える。

「わっはっは、手が震えてるぜ、お嬢ちゃん!」
「ぼ、僕のことは良い、逃げろ、、ルイズ、、」

逃げ出せる訳も無い。
逃げて、どこへ行けというのか。
どこにも逃げ場所など無い、どこにも居場所など在る筈も無い。
魔法の使えぬ貴族なんて、この世界のどこにも。
懐かしい誘惑、「絶望」に抗う力などもう残っていなかった。
心の中に、じくじくと空洞が広がっていく。
そこがどこにつながっているのか、自分は知っている。
自分にはお似合いの場所だ。
世界に存在を許されぬもののたどり着く場所。

『虚無の地平』
 
 

303 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:15:37 ID:???
「さ、杖をおろしなお嬢ちゃん。
 痛かあ、しねえからよ」
警戒しつつも一人の男がじりじりとルイズへにじり寄る。

「、、、、、」
「ああ? なんだって?」
ルイズの小さな呟きに、近づいて居た男がびくりと足を止める。

「、、、エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ、、、」

「お、おい、これ!?」
男が慌てて後ろの仲間を振り返る。
「なーに泣きそうな顔してんだよ!」
「さっき言ってたろ? そいつは魔法を使えねえ!
 ハッタリだハッタリ!」
後ろでにやけながら野次を飛ばしていた仲間の野盗たちが
突然に息を呑み黙り込む。

「お、おい、どうしたってんだよ?!」
振り返った男の目に映ったのは、
ルイズの左手に掲げられた祈祷書の放つ、淡い光だった。
そのページが風も無くぱらぱらとめくれていく。
「あ、お、、ぐっ、、、!!」
男の足が止まり、額から汗が吹き出る。
それは、先程まで目の前に居た少女ではなかった。
その目は瞳孔を大きく開いて虚空を見据え、その口は朗々と淀みなく詠唱を紡ぐ。
じわり、とにじむように、男の目の前で小さな穴が開く。
光さえも飲み込む、紫電をまとった虚空への穴が。

「、、、オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド、、、」
 
 

304 :確率世界のヴァリエール-12:2010/02/11(木) 20:24:31 ID:???
神聖アルビオン共和国首都ロンディニウム、その地下。

蜀台の明かりの揺らめくテーブルの向こうで
アーカードはクスクスと小さく笑った。
「ど、どうなされました?」
向かいの席からおびえた声をかけるクロムウェルに応えず
アーカードは優しく、嬉しげに、うっとりと微笑んだ。
頬をゆがめ、ぎちりと笑ったその口元から牙がこぼれる。

「っはは、待ちかねた、、
 来たぞ、、、虚無の淵から、魔女が来た、、」


驚くほどに意識は澄み切っている。
ルイズはやっと理解した。

単純な事だ。
火の系統のメイジは火の力を操る。
水の系統のメイジは水の力を操る。
風は風を。 土は土を。 ならば。
これが己の力。 己の系統。 そして己の運命。

目の前で膨れ上がっていく漆黒の穴を見つめる。
恐れる事はない。
この先は私自身の、いつか還る場所なのだから。
指にはまった水のルビーが熱を帯び、意識をつなげる。
祈祷書の知識が、始祖ブリミルの意思が頭の中に流れ込む。
『虚無』の呪文の初歩の初歩の初歩。

『バニッシュメント(追放)』
 
 

305 :マロン名無しさん:2010/02/11(木) 20:38:55 ID:???
しえん

306 :確率世界のヴァリエール-12 :2010/02/11(木) 20:40:25 ID:???
「か、頭ぁ、お頭ァ!!
 俺ぁ、どうすりゃ?!」
ルイズの目の前でおろおろと立ちすくむ男が
涙目で後ろを向き叫ぶ。

「くっそ、聞いて無ぇぞこんな事ぁ!
 構わねえ、そのアマぁ頭がトンでら!
 杖をぶんどれ!!」
「で、でも球が! 真っ黒い球が!!」
男とルイズの間に生まれた黒球は、
放電を繰り返しつつオーク鬼の頭ほどにも成長していた。

「剣で払うんだよ! 手首ごと落としちまえ!」
「いかん、ルイズ!!」
「てめえは黙ってろ!」
ワルドを押さえ込んでいる男が上から殴りつける。

「あ、あ、あ、、!」
黒球の前の男はかちかちと歯を鳴らしながら
腰の山刀を抜き放った。

==============================

「ルイズ、大丈夫?!」

突然そこに現れたシュレディンガーの姿に野盗たちが固まる。
「シュ、シュレ?!」
ルイズが詠唱を止め、驚きの声を上げる。
そのとたん、ルイズの杖の先に生まれた黒球が
制御を失ったかのようにゆっくりとぶれ始めた。
「え? あ? あわわ」
 

307 :確率世界のヴァリエール-12 :2010/02/11(木) 20:44:17 ID:???
「こいつも仲間か?!
 畜生、畜生!!」
突然現れた亜人の姿にパニックを起こした男が
山刀を振り上げ、シュレシンガーに斬りかかる。

「嫌、危ないシュレ!!」
ルイズが咄嗟に男に杖を向けたその瞬間。

ぱぁんっ!

破裂音が響き、黒球は消え失せた。
ルイズの目の前で、きょとんとした顔のまま
シュレディンガーと男が立ち尽くす。

「え?」
男は何が起こったのかも分らず、辺りを見回す。
あの恐ろしげな魔法の球は何だったのか。
そういえば振り上げた剣がない。
草むらの中に光る何かが落ちている。
「え?」
よく見ればそれは剣先だ。
丸く切り取られたようなつややかな断面を晒した
手のひらほどの金属片が落ちている。
拾おうとして、自分の腕が肩口から
無くなっている事に気付いた。
「え?」

ルイズの前で鮮血を撒き散らしながらくるくると回る
その男の肩は、まるで大きなスプーンで
すくい取ったかのように丸い断面を晒していた。
 

308 :確率世界のヴァリエール-12 :2010/02/11(木) 20:46:30 ID:???
「お゛、、あ゛、あ゛、、、」
がたがたと震えながら男が肩を抑えその場にへたり込む。
「ルイズ、大丈夫?」
シュレディンガーが駆け寄り、呆然と立ちつくすルイズの手を取る。
ルイズは、心配げな表情を浮かべたシュレディンガーの瞳に映り込む
血に塗れた女の顔をぼんやりと眺めていた。
(、、誰だろう、怖い顔、、、)

「そん、な、、」
言葉をつまらせる野盗の頭目の後ろで声が響く。
「そこまでだ」
隙を突いて起き上がったワルドの手には、奪い返した杖が握られていた。
「見逃してやる。 あの男を連れて去れ」
額から流れる血をぬぐいながら、片腕を失いうずくまる男を杖で指す。

男を担ぎ逃げ去っていく野党に目もくれずに、
ワルドはルイズの元へと走り寄った。
「大丈夫かルイズ! すまない、こんな事に、、」
「来ないで!」
背を向けたままの少女の強い拒絶に、思わずワルドは立ち止まる。
「ご、御免なさい、ちがうんです、、、
 でも、私、今の顔、、
 ワルド様に、見られたくない、、、」
「そうか、、、
 シュレディンガー君、ここはもう良い。
 ルイズを、頼む」
ワルドは少女の背中越しにシュレディンガーを見つめる。
少女の使い魔はこくりと頷くと、二人の姿はその場から消え去った。

==============================
 
 

309 :確率世界のヴァリエール-12 :2010/02/11(木) 20:47:48 ID:???
「落ち着いた?」
「うん、ありがと。
 もう大丈夫」

自分の部屋にたらいを持ち込んで内風呂をした後、
キャミソールに着替えたルイズはベッドの上に寝転んでいた。
替えのタオルを抱えて来たシュレディンガーは、
そのタオルで湯気を立てるルイズの髪を優しく拭いていく。
「、、、シュレ」
「ん?」
「あのとき、助けに来てくれて、ありがと」
虚無の力に飲み込まれそうになる、あの絶望的な陶酔が
ルイズの脳裏に蘇る。
「な〜に言ってんのさ、ボクはルイズの使い魔なんだよ。
 どんなピンチの時だって、
 ボクがルイズを守ってあげるってば」
タオルごと、ルイズの頭を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「、、、うん」
自分を抱きしめてくれるシュレディンガーの腕に、
ルイズはそっと自分の手を置いた。


その夜。
シュレディンガーの胸に包まれて。
安らかなその寝息を聞きながら、ルイズは思い返していた。
(私、あの時、、、)
シュレディンガーの瞳に映った、血まみれの顔がよみがえる。
思わずルイズは頭から毛布をかぶる。

(、、、笑ってた)


310 :マロン名無しさん:2010/02/11(木) 20:49:00 ID:???
支援

311 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/02/11(木) 20:55:56 ID:???
以上です。
支援くださった方、まとめて下さる方、読んでくださる方、
いつもどもです。

ルイズの虚無は岩明均の「七夕の国」のアレな感じです。
虚無の系統ってFFの時魔法っぽいなーと思っていたので。

312 :マロン名無しさん:2010/02/11(木) 21:02:58 ID:???
投下乙。みんな色々と危ういな…


313 :マロン名無しさん:2010/02/11(木) 22:22:34 ID:???
乙。
急にシリアスになった?
いや、前回までのギャグは前座なのかな?

314 :マロン名無しさん:2010/02/13(土) 12:25:44 ID:???
シュレの人、おひさ死ブリDeath!
ストーリーがギャグっぽくなったり急にシリアスになったりの緩急もヘルシングぽいね。

315 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/15(月) 21:53:09 ID:???
どうも、投下します。

316 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:54:13 ID:???
 敢えて例えるなら――――――陽光届かぬ、深海のそれに似ている。
上下左右の感覚は無く、ただただ無限に広がるかのような暗黒の空間。星の無い宇宙。
それでも踏みしめる地はあるし、終わりの見えない空もあった。

 息を潜める獣達の気配を感じる、自我を失った獣達。
隙を見せれば、瞬く間に襲い掛かって来るだろう。
油断すれば、喰い尽くされるやも知れぬ。

 そんな黒い地平を進む者がいた。
もう一体どれほど、ここへ足を運んだのだろう。
そしてどれほど歩き、どれほど走り、どれほど飛んだのだろう。

 そこは地獄。亡者の国。憎悪と怨恨に塗れた死の世界。
常人ならば容易に狂ってしまう。正気を保ってなどいられない。
すぐにでも自己を見失い飲み込まれそうな・・・・・・在り方が滅してしまいそうなその地を。
何度も赴き、何度でも疾駆し続ける。それでも絶対の自己を確立する。

 たった一つの願望を・・・・・・否、渇望とも言うべきか。
そのたった一つを拠り所に・・・・・・闘争を続ける。

 そうだ・・・・・・己のエゴを通すのだから――――――。
――――――だからせめて己がこの手で殺してやるのだ。
狂気に魅入られながら・・・・・・それすらも楽しむ。

 

317 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 21:54:42 ID:???
しえん


318 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:54:49 ID:???
 何対もの目が、私を捉える。
何本もの腕が、私を捕らえようとする。
何本もの武器が、柄まで突き刺さんとばかりに私に差し出される。
かつてその者がされたことを、この私へと仕返すように。
私を串刺しにせんと、殺意が津波のように押し寄せる。

 無数の剣戟が。壁のように迫る槍衾が。驟雨の如き矢が。
銃弾は暴風雨のように舞い続ける。砲による爆発が視界を埋め尽くす。
滴り落ちる血の雫を払い、全身に巡る呪詛を祓い、眼前の全てを掃う。

 終わらない鬼ごっこ。
永劫に続くとも錯覚する、長き長き殺し合い。
だがそれでも終焉は訪れる。途方も無い殺戮の果てに。
祈り続け、果てるまで祈り続けても・・・・・・降りてこなかった神とは違う。

 化物に化物は倒せない。
化物を打ち倒すのは、いつだって人間でなくてはならない。
だから自分は死に切れなかった。倒し切られなかったからここにいる。

 そして帰還しよう。
今も待ってくれているだろう、もう一人の主人の為に。
意地っ張りだけど寂しがりな、私だけの主の為に。

 そう、今の私が信じているもの――――――。




 

319 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:55:35 ID:???
「やっほ」
神出鬼没のシュレディンガーが、いつの間にかルイズの部屋に現れていた。
アーカードは瞑っていた眼をゆっくりと開ける。
そして椅子に座ったまま、特段驚いた風もなく目線だけを移した。

「えーリアクションなし〜?つまんない」
「何用だ」
「何用でしょう」
「・・・・・・」
シュレディンガーはマイペースにキョロキョロと見回す。
「ルイズは?」
「・・・・・・外だ」
「何してんの?」
「鍛錬だ」

 「ふゥ〜ん」とシュレディンガーは、ルイズのベッドに座る。
そのまま足を交互に動かしながら、部屋の中を観察していた。
自分勝手なペースを維持するシュレディンガーへの対応は、非常に面倒なものであった。
だがあまりに邪険に扱うのも憚られた。いずれ・・・・・・来るべき時の為に。


「まっもうすぐ戦争始まるだろうしねぇ〜」
シュレディンガーはフフンッと笑う。
「今日ここに来た理由ってのはさ、ロマリアに来て欲しいんだ」
その連絡の為によこされた猫耳の少年。
「ルイズがいなかったのは丁度良かった。ヴィットーリオがさ、内々の話がしたいんだって」
体のいい使いっ走りにされているシュレディンガーを少し哀れに思う。
 

320 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:56:20 ID:???
「・・・・・・この私一人にか?」
「うん」
「内容は?」
シュレディンガーは少しだけ沈黙し、肩を竦めながら腕を広げて「さぁ?」と答える。
同時にアーカードは考える。
(・・・・・・面倒だ喃)
心でそう結論付けた瞬間に口に出す。
「面倒だ、そも概要も言わずにただ来いとは・・・・・・聞きに戻れ」
「内々の話なんだもん、僕がそれを聞いて来れるわけないじゃん」
「なればここへ直接来いと伝えよ、そうすれば話くらいは聞いてやろう」

 相も変わらずの傍若無人っぷり。アーカードのアーカードたる所以の一つ。
仮にもロマリア教皇、ハルケギニアに於いて最も神聖視される象徴。
その召喚にまるで応じようせず、逆に来いという始末。
主人の命令には絶対遵守な忠犬っぷりとは対照的に、それ以外は高圧的の一言である。


「ていうか、暇でしょ」
「暇ではない」
自分にある暇な時間は全て"作業"に費やしている。
「暇そうじゃん、寝てたし」
シュレディンガーの言葉に、アーカードは「さっさと出て行け」と言わんばかりに、シッシッと手を振る。
傍からは何もしてないように見えていても、やることはやっている。

「でもさぁ、メリットもあると思うよ。ほら、いつだったか弾倉を持ってきてあげたじゃん。
 倉庫には他にも武器があるし、多分言えばくれると思うよ?基本的にガンダールヴ用らしいし」

(・・・・・・ふむ)
それは食指が動く話。来るべき戦の為に、何かしら使えるものがあるかも知れない。
流石にそればっかりは、実際に出張って見なければならぬだろう。
 

321 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 21:57:03 ID:???
しえん


322 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:57:29 ID:???
「あぁそれと・・・・・・これ」
シュレディンガーはポケットをゴソゴソと漁ると、何かを取り出した。
それは少し古びた書であった。見覚えのある"それ"は――――――。

「・・・・・・何故お前が、"それ"を持っている?」
「所用でガリアに行ったんだけど、そしたらなんか無造作に置いてあったからさぁ、つい手が・・・・・・」

 ――――――"それ"は、"始祖の祈祷書"であった。
ルイズが攫われた時に奪われ、そのままジョゼフの手に渡った筈である。

「他のやつも置いてあったけど、一応監視の目もあったし。何より嵩張るんで盗れなかった。
 あと、指輪は二つともジョゼフが嵌めてたし、それを頂いてくるってのは流石にちょっと無理だった」

「・・・・・・それで、私がロマリアへ行けばそれをよこすと?」
シュレディンガーはうんうんと頷いた。


「仕方あるまいな」
即断する。行く見返りが主人にとって大事な秘宝である始祖の祈祷書では、拒否の選択はない。
アーカードが立ち上がると、シュレディンガーは祈祷書を投げてよこす。
難なく受け取ったアーカードは、手の中の祈祷書を眺めた。

(ふむ、だが指輪が無いのでは・・・・・・)
――――――読めないのではないのか?
(・・・・・・そういえば)
指輪と言えば、一つ思い出した。ウォルターから受け取ったアンドバリの指輪。
何かとバタバタしていて、まだ水の精霊に返却していなかった。
トリステイン-ロマリア間であれば、ラグドリアン湖も道中に組み込める。

「それじゃ、先に行って待ってるから」
シュレディンガーはそう言うと、アーカードの制止の声よりも先に、忽然とその姿を消していた。
移動手段はおろかロマリア教皇への取り次ぎなど、あまりにも無責任であった。

323 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 21:58:13 ID:???
しえん

324 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:58:40 ID:???
 
 しかし祈祷書を受け取ってしまった以上、既に約束は約束。
どんな形であれ、顔を出さないわけにはいかない。
アーカードは嘆息をつくと、窓から外へと躍り出た。



 学院にいる人間はまばらであった。
ガリアから正式に宣戦布告があり、それに伴って兵も集められている。
授業は戦争が終結するまで、無期限の停止。
高まった戦争の気運は、男子生徒を駆り立てた。
二度に渡った学院襲撃の危惧から、女子生徒は実家に帰る者が多かった。

 キュルケも少し用があると実家に帰った。
コルベール先生はいつの間にか学院にいなかった。
そしてトリステインの切り札たる自分達は、来るべき時までじっくりと準備をしている。
タバサもそれに伴う形であり、シルフィードのおかげで国内どこへでも速やかに赴ける。
連絡があり次第、どこにでも飛んで行ける遊撃の意味も兼ねていた。

 特にアンリエッタづてにロマリアから、ガリアがヨルムンガントを新たに製造したという情報を得ていた。
それに対抗できるのは虚無のみであり、両用艦隊の大部分はロマリア艦隊との衝突が予想される。
よって虚無の担い手たるルイズの役割は、ヨルムンガントへの対応こそが最も肝要であるとされた。
故に言ってみれば今は待機状態でもある。すぐにでも出撃せねばならぬ事態も考えられた。


「ふぅ・・・・・・」
ルイズは一息ついた。
今自分がしているのは、メンタルトレーニング。
だがどうにも上手くいかなかった。
 

325 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 21:58:57 ID:???
しえん

326 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:59:34 ID:???
 ――――――『無想』。
一切の執着を捨て去り、何も欲さず、何も求めず、心を空として、世界と同化する。
空は全に通ず、全てを得んと欲する者、全てを捨つるべし。
色即是空、空即是色。世に万物あれど、執着すべき物はなし。

 『無念無想』の境地。『明鏡止水』の境地。
それが自己の意思で自由に可能となれば、虚無をもっと上手く安定して扱える。
初めて虚無を使った時・・・・・・タルブでエクスプロージョンを放った時。
いわゆる『無想』の概念と似たような感覚だった。それを思い出しながら、もう一度集中する。

 しかしなかなか成らない。勿論、一朝一夕で身につくものでないことはわかっている。
それでも・・・・・・少しでも扱えるようになれば、今より僅かにでも強くなれる。

 虚無の担い手たる自分は、他のメイジと違って魔法を使って練習することは出来ない。
魔力を使い切っても休めば全快する普通のメイジとは、その許容量が桁違いなのだ。
基本的に燃費の悪い虚無は、使えば使うほどに魔力を消費し、同時にすぐには回復しない。
タルブでのエクスプロージョン一発で、それまで生きてきて溜めてきた全てを使ってしまうほどである。
故に魔法の無駄撃ちは出来ない。精度や威力を高める練習をすることが出来ない。

 よって、いざ使わねばならない時に至って、それを扱う精神を修得する必要があった。


 ルイズは再度一息つく。
もう何度も繰り返し、流石に集中することにも疲れてきた。
休みがてら、タバサへと目を向ける。
タバサはタバサで、自分と同じようにひたすらに集中を高めていた。

 タバサのそれは、二つの呪文を扱う為の修練。
"かけ捨て"でない魔法を、別々に同時行使することは不可能ではない。
がしかし、その為には多大な修練と高度な精神集中が必要であった。
 

327 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 21:59:38 ID:???
しえん


328 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 21:59:53 ID:???
 既に精度や威力が極まっているタバサは、戦術の幅を広げる為に会得しようとしていた。
当然これも一朝一夕で修得出来るものではなく、自分と同じようにそれが成るとは限らない。
が、今はそれが必要なのだとタバサは一心不乱に集中し、詠唱し続ける。

(本当に凄いわ・・・・・・)
タバサはアーカードから訓練を受けるも、飽くまで自分のスタイルを貫いた。
そしてルイズはそんなタバサに感嘆した。
既にスクウェアクラスとなったメイジであるタバサのそれは、一つの昇華された美しさを持っていた。

 一言で言えば無駄がない。
行動の一つ一つが布石となり、巧妙に巡らされる駆け引き。
伊達に幼き頃から幾つもの死線を潜っていない。
その経験だけは絶対に真似出来るものではなかった。
そして同年代で、これほどまでに洗練された戦士がいるとは思わなかった。

 さらにタバサの詠唱は非常に唇が読み辛く、かなり距離が近くない限りまるで聞こえない。
これみよがしに大きい杖でなく、携行しやすい杖だったならば、メイジと気付かぬまま倒されてしまうかも知れない。
ルイズもそんな詠唱のコツを教わり、少しだけ出来るようになっていた。

 大きい杖はメリットもある。
それがそのまま武器になるし、杖術が使えるのであれば白兵戦もこなせる。
軍人であれば何かしら武器と杖を一体にするのが常である。

 だがタバサは暗殺タイプの戦闘スタイル。
詠唱はおろか口唇の動きすらも悟らせない技術もある。
だからあからさまに「杖だ」と、一目でわかってしまう杖は、デメリットの方が大きそうであった。

 それでもタバサはその節くれだった杖を使ってきたし、これからも使っていく。
その杖は今となっては父の形見であり、その杖以上に相性の良い杖が見つかる筈はないという確信があった。
そして・・・・・・タバサが討つべき相手は、既にタバサがメイジであることを知っている。
故に今の杖で構わなかったし、何よりもその杖を以て復讐を為すことにも大きな意義があると感じていた。
 

329 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 22:00:44 ID:???
しえん


330 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 22:00:53 ID:???
 
 ストッという軽やかな音が鳴る。
タバサへと向けてた視線を背後へ移すと、アーカードが立っていた。
「出掛けてくる」
ルイズは少し首を傾げると、「わかった」と返事をした。

「少し遅くなるやも知れん。襲撃への備えは、ゆめゆめ忘れぬこと」
可能性はかなり低いが"ゼロ"ではない。
ウォルターとヨルムンガント襲撃の一件から、国境付近などの警備も厳重になってる。
が、それでも備えあれば憂いなしである。

「襲撃の備えって・・・・・・そんなに時間を空けるの?どこに行く気?」
いつガリア軍が・・・・・・ヨルムンガントが、国に侵攻してくるかわからない。
すぐにでも召集され、出撃せねばならぬ状況になるやも知れない。
その時にアーカードがいないとあっては、不都合が多過ぎる。

「・・・・・・アンドバリの指輪を返しに、ラグドリアン湖へ」
アーカードはロマリアへ行くということは伏せた。
一応は内々の話ということで呼ばれている。

 「あ〜・・・・・・」とルイズは声を漏らした。
正直あまり思い出したくない記憶の一つ。惚れ薬の一件で訪れた地。
もう大分前の話かと思うと、なんだか少し感慨深いものがあった。

「機会がなくて少し忘れていたが、約束した以上はきちんと返してやらんと」
億が一の確率でアーカードに何かあった場合、指輪は返されないままになってしまうかも知れない。
そうなればまたいずれ水の精霊がまた、水かさを増やして土地を沈め始めてしまうだろう。
それを防ぐ為に、今の内に返しに行くという。

 

331 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 22:01:41 ID:???
しえん

332 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 22:02:29 ID:???
しえん

333 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 22:02:35 ID:???
「わかった、確かに返してあげないとまずいものね。あの精霊には一応お世話になったし」
惚れ薬の解除ポーションに必要な、水の精霊の涙を前借りさせてもらった。
もし貰えなければ、もっと醜態を晒していたことだろう。
「ん・・・・・・?でも、モンモランシーがいないとコンタクト取れないんじゃ・・・・・・」
「むっ・・・・・・それは確かに」
「・・・・・・多分、指輪を投げ込むだけで向こうはわかると思う」
いつの間にか集中を終えていたタバサが答える。
ラグドリアン湖そのものが、水の精霊と一体。
直接コンタクトを取らずとも、水の精霊は理解してくれるだろうということだった。

 タバサの説明によって、仔細承知したアーカードは「んむ」と頷く。
「・・・・・・では、鍛錬はサボらぬように」
「わかってるわよ、いざって時に力不足に泣きたくないしね」

 アーカードは背を向け歩き出すと、すぐさま踵を返した。
そしてポイッと何かを投げる。それは咄嗟に出したルイズの手の中に綺麗に納まった。

「・・・・・・えっ?これって始祖の祈祷書!?どうしてっ!??」
「あー・・・・・・、ウォルターから返してもらったのを忘れてた」
少し言葉が濁ったような雰囲気で、アーカードは言う。
一応シュレディンガーから受け取ったことは伏せておいた。

「そっか・・・・・・、指輪は?」
「指輪は無い」

 

334 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 22:03:24 ID:???
しえん

335 :ゼロのロリカード-52:2010/02/15(月) 22:03:30 ID:???
 ルイズは沈黙する。
「じゃあ意味無いじゃないの」
毒づくように言った、指輪がないと読めないのに。
と、気付いたタバサが極々当たり前のように口を開く。
「他の指輪で代替は?」
「えっ?」
「む・・・・・・」

 土のルビーと水のルビーはジョゼフが持っている。
でも炎のルビーならば、同盟国のロマリアにあるだろう。それを少し借りれば良い。
風のルビーならば、トリステインとゲルマニアの領国となったアルビオン王家にある。
至極当然の思考と帰結。

「そっか!!姫さまが風のルビーを持ってる!」
トリステイン王家の血筋だから、水のルビーという固定観念。
それゆえにその発想に思い至らなかった。他のルビーでも試してみる価値はある。

「んむ、ウェールズの形見だが言えば貸してくれるだろう」
国の大事だ、ルイズが覚える新たな虚無が戦局を左右するかも知れない。
尤もルイズ相手ならば、そんなこと関係なしに貸与してくれるだろう。


 問題が落着したところで、アーカードは言う。
「では行ってくる」
「いってらっしゃい」
アーカードはトンッと軽く地を蹴り、そのまま飛び上がった。

(ロマリアの炎のルビー。事のついでに聞いておくか・・・・・・)

336 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/15(月) 22:04:40 ID:???
以上です、ご支援ありがとうございました。
まとめの方もいつもありがとうございます。

ではまた。

337 :マロン名無しさん:2010/02/15(月) 22:07:46 ID:???
乙です。
シュレは相変わらずのフリーダムw
アーカードは暇を見つけて中の人達を殺してまわってるってことか?
気が遠くなる話だ…

338 :マロン名無しさん:2010/02/16(火) 00:12:52 ID:???
おお 待ってたよー

"作業中"はどっちの姿なんだろw

339 :マロン名無しさん:2010/02/16(火) 18:52:28 ID:???


>>338
もちろんジャージ姿のお姉ちゃんだろう

340 :マロン名無しさん:2010/02/18(木) 15:50:43 ID:???
スパッツ姿と言う可能性をなぜ考えないのか

341 :マロン名無しさん:2010/02/18(木) 20:42:59 ID:???
>>336
乙です

342 :マロン名無しさん:2010/02/18(木) 21:19:39 ID:???
ロリカード状態でもう一回殺されるなら
成仏出来そうだな

343 :マロン名無しさん:2010/02/19(金) 21:33:55 ID:???
さぞ盛大な鬼ごっこなんだろうなぁ

344 :マロン名無しさん:2010/02/20(土) 22:54:23 ID:???
捕まったら殺されるからな

345 :マロン名無しさん:2010/02/20(土) 23:52:09 ID:???
ホモから逃げ切ったら10万円を思い出した

346 :マロン名無しさん:2010/02/22(月) 01:04:05 ID:???
「三人捕まえたよ」ってやつか

347 :マロン名無しさん:2010/02/22(月) 01:19:41 ID:???
342万4867人捕まえたよ

348 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/22(月) 21:54:12 ID:???
ばんは、投下します。

349 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:54:58 ID:???
 学院敷地内から飛ぶと、正門前の草原に大尉が見えた。
大尉も当然アーカードに気付き、風竜に乗って空中のアーカードのところまでやってくる。
寡黙な大尉は一切喋らず、ただ風竜の背中を指差すと「乗れ」と意思表示をした。
断る理由も無いので、ヴィンダールヴの力で操られた風竜による、快適な空の旅でロマリアへと赴く。
途中ラグドリアン湖に寄ってアンドバリの指輪を返し、いよいよロマリアへと到着した。

「ヴィットーリオは今立て込んでるから、先に武器庫に案内するよ」
そう言ってロマリアで待っていたシュレディンガーに案内される。
シュレディンガーが先行し、アーカードと大尉がそれに続く形で螺旋階段を降りていった。
大聖堂の地下階にある、地下墓地の名残。
一般人ならば忌避するだろう雰囲気も、アーカードにとっては心地の良いものだった。

「んぎぎぎ・・・・・・」
シュレディンガーが重厚な鉄扉を開けようとするがビクともしない。
その様子に見かねた大尉が、松明片手にもう片方の空いた手で取っ手掴む。
難なく扉は開き、松明に照らされた部屋の中身が、一斉にアーカードの瞳に映り込む。

「・・・・・・なるほど、これは一見するだけの価値だな」
ガンダールヴの槍として、聖地のゲートから送られてきたという品々。
思わず圧倒されてしまいそうなほどに、整然と並べられた武器の数々。

「ねっ凄いでしょ、大尉のモーゼルもここから拝借したんだよ」
シュレディンガーが何故か、どこか誇らしげに言った。

 アーカードは部屋内を物色する。
固定化の魔法が掛けられているものの、壊れている物も多かった。
武器だけでなく、弾丸も溢れるほどにある。
その中からジャッカルとカスール銃の弾倉を見つけ、あるだけ全部ストックする。
特にジャッカルは完全な専用弾だというのに、こうも都合良くあることに改めて感心した。

 

350 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:55:37 ID:???
 ――――――そしてもう一つ、目を引くものがあった。
部屋の一角を占領している、布が掛けられた巨大な物体。
少女姿のアーカードの何倍もあるその物体が気になり、中を改める為に布を取り去った。
「ああ"それ"、ガチおすすめ」
シュレディンガーに言われずとも、アーカードは見た瞬間に目の前の"槍"の使用を決めた。

 "これ"があれば、対空中艦隊に於いても絶大な威力で以て対抗可能だ。
さらには対ヨルムンガントに於いても――――――。

 アーカードはアンデルセンとの共闘を思い出す。
本来『反射』を掛けられたヨルムンガントは、虚無でしか無効化出来ない筈であった。
だが実際には虚無がなくとも、二人の連携同時攻撃で突破することが出来た。
カウンターのキャパシティを超えればダメージが通ることが、あの時に実践されたのだ。
仮に攻撃力不足で与ダメが通らずとも、『ディスペル』を掛ければ済む。


「そーだ、これこれ。これ見て」
シュレディンガーが声を発し、床に並べた物をアーカードに見せてくる。
「これは・・・・・・?」
ラインメタルFG42、ワルサーP38、ハーネルStg44、エルマ・ベルケMP40、マウザーKar98K。
見せ付けられたものの、どれも壊れているのが見て取れただけだった。
強いて言うならば、全部ドイツ製という共通点か。と、そこで気付く。
アーカードの中にある命が、その記憶が疼いた。

「これはねぇ・・・・・・、最後の大隊の装備さ」
シュレディンガーにとっては、ただそれだけのこと。
懐かしいな〜と、少し郷愁を馳せただけの行為。
こんな物も送られてきたんだよ〜と、アーカードに見せただけ。
 

351 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:56:36 ID:???
 だがアーカードには引っ掛かった。なるほど、記憶が疼いたのもわかる。
最後の大隊員とその装備も、まとめて死の河で飲み込んだから当然のこと。
しかし引っ掛かりを感じたのは、そのどれもが異様に古かったことであった。
壊れたまま放置され、時間が経過してから固定化を掛けたのだろう。
しかしその古ぼけた見目は、ここ一年二年のものではない。


 同時に思い起こされる。『ジャッカル』の存在。
オスマンの話から、『破壊の杖』として30年以上前にはハルケギニアに漂着していた。
またオスマンは、ジャッカルの使用者が陽に晒され消えたと言っていた。
そして今目の前にある大隊員の装備。その古さから見て、かなり前に漂着したものなのは間違いない。
10年、20年、或いは・・・・・・30年前。

 そこから一つの仮説が成り立った。
とある最後の大隊員の『装備』が、『ガンダールヴの槍』として存在ごとハルケギニアに召喚されてしまった。
しかし召喚された際のショックか、或いは最初から壊れていたのか。
いずれにせよ使い物にならなくなった『武装』をその場に捨てた。
そして大隊員は何らかの・・・・・・偶然に近い形でジャッカルを見つけ、それを武器として持っていた。

 さらに紆余曲折。何の因果か・・・・・・オスマンを『ジャッカル』で助ける形に。
弾丸一発を使われた『ジャッカル』は『破壊の杖』として、学院に保管。
また最初に使い物にならずに打ち捨てられた『武装』は、後々にロマリアに回収され・・・・・・今ここにある。

 兼ねてからの疑問が一つ、氷解したと言って良いだろう。
非常にご都合主義的で偶然の重なりが必要であるが、一応辻褄は合う。
そしてここからが重要なこと。

 ――――――何故、そんな昔の話なのか。
己がルイズに召喚されてから、まだ2年と経っていない。
それはシュレディンガーも、大尉も、ウォルターも、アンデルセンも同じこと。

352 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:57:16 ID:???
 
 元の世界で己が消えるよりも先に爆発したジャッカルが、ハルケギニアに自分より先に送られたのは道理。
だがしかし・・・・・・それは自分が召喚されるほんの少し前でないと、時系列が合わない。
最後の大隊員にしても同じことが言える。最大でもロンドン強襲から一夜しか経過していないのだ。

 だのに実際は、およそ30年以上前に漂着しているという事実。
つまりは・・・・・・"虚無の担い手に召喚されること"と、"ガンダールヴの槍として召喚されること"は別物ということだ。
時間軸に明確なズレ、それも数十年単位のズレが生じている証左に他ならない。


「・・・・・・シュレディンガー」
アーカードは低く、静かに名前を呼ぶ。
「ん?なに?」
「お前は・・・・・・自身の能力で我々の世界に戻った、と言っていたな」
シュレディンガーはその時のことを思い出しながら「うん」と頷いた。

「何かおかしなことや不自然さを感じなかったか?」
「・・・・・・???たとえば?」
「そうさな、例えばこっちの世界での一日が、向こうの世界での一年だった・・・・・・とか」
シュレディンガーは首を左右に何度か傾げながら考える。
「意味わかんない、1日は1日じゃん」
「・・・・・・そうか、ならば良し」

 シュレディンガーは疑問符を浮かべたまま、大尉に「どういうこと?」と聞く。
大尉はかぶりを振り、アーカードはもう一度頭を巡らせた。




 

353 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:57:35 ID:???
「お待ちしておりました」
大聖堂の地下階から上に戻ると、ロマリア教皇ヴィットーリオがそこにいた。
「あら?待たせちゃった?」
シュレディンガーは悪気の一つも見せずに言った。
ヴィットーリオは静かに首を横に振って否定の意を示すと、その口を開く。
「二人とも、少しはずしてもらえますか」
「はいは〜い」
シュレディンガーと大尉は連れ立って大聖堂を出る。


 二人だけが広い聖堂内に残され、改めてヴィットーリオは自己紹介する。
「初めまして、ヴィットーリオとお呼び下さい。わたしは堅苦しいのを好みませんから」
「そうさな、私もアーカードで良い」

 なるほど、若いのに威厳を感じられる。一種のカリスマと言えば良いのだろうか。
神官服を纏ったその姿は、ロマリアの象徴に相応しい美しさも兼ね備えていた。
この様子だと、象徴としてだけでなく、実際の手腕も長けている風説も真実だろう。

「いつ敵が攻めて来るかもわからん。用件は手短にの」
何の気負いも遠慮もないアーカードの様子に、話に聞いた通りの人物だとヴィットーリオは微笑む。
「・・・・・・そうですね、単刀直入に言いましょう。あなたに頼みたいことが二つあります」
「ふむ、一応聞こうか」

 ヴィットーリオは一拍置く。そして強めの語気で言った。
「この度の戦、零号開放を使わないで頂きたい」
「なに・・・・・・?」
「お話は聞いています。あなたの中にある命を流出させ、敵味方問わず全てを殲滅する術だそうですね」

 ヴィットーリオは真剣な顔で続ける。
それは一切の裏がない、真実の言葉だとアーカードは感じる。
 

354 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:58:12 ID:???
「アルビオンでのことは既に済んだこと、それは致し方ありません。そのことに言及するつもりもありません。
 ですがこれ以上、同じブリミル教徒である民を殺すのは嘆かわしい。討つべきはガリア王ジョゼフのみなのです」

 アーカードは瞬時に理解した。
ヴィットーリオの、狂信者とは程遠い・・・・・・徹底的な現実主義者としての側面。
始祖ブリミルを敬ってはいるが、同時にそれを利用することも辞さないだろう思考。

「我々ロマリアも全力で迎え討ちます。死の河とやらを使う必要性は本当にあるのでしょうか」
「・・・・・・そうだな、開放はせんで戦おうか」
アーカードはあっさり答えた。
トリステイン一国で、ガリアと戦わねばならないと思われていた状況とは大きく変わっている。
ロマリアとトリステインが同盟し、ガリアと戦うなら絶対の必要性はない。それは道理。

 しかしその返答はヴィットーリオにとって予想外であった。
聞いていた話では、戦争狂であると。人を殺すことを厭わない、むしろ望んでやる者だと。
そう・・・・・・聞いていた。


 だが既にアーカードの中では、一つの策が出来上がっていた。
トリステイン一国でガリアと戦うしかない状況であったとしても、その策を使おうと思っていた。
策が成るまでの過程は変遷しつつも、根幹が変化することはない。
最初から・・・・・・アーカードに零号開放を使うつもりは無かった。
何故ならもし死の河を使ってしまえば、己の目的から一層遠ざかってしまう。

「どうした?」
「いえ・・・・・・こうもあっさり受け入れられるとは思ってなかったもので」
「ロマリアも参戦するのであれば必要ないさ、下にある『槍』も頂くことだしな」

「・・・・・・そうですか。あの『場違いな工芸品』で良ければいくらでもお使い下さい。
 あれは元々ガンダールヴたるあなたの為に送られてきた物で、あなたが使うべき物ですから」
 

355 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:58:47 ID:???
 アーカードは当然、最初から開放するつもりが無かったことなどは言わない。
飽くまで快く申し入れを受諾したと思わせる。借りの一つでも作ったと思ってくれれば良し。

「して、もう一つの用件は?」
「えぇ・・・・・・、ガリアとの戦が終わった後のことです」
ガリアの狂王を止め、三国の被害を最小限に戦を終わらせた後のこと。

「わたしは・・・・・・聖地を奪回しようと思うのですよ、そしてその時あなたに協力して頂きたい」
それこそが本題であり、本当の目的。

「エルフの住む土地か」
「はい、聞いた話だとアーカード殿。あなたはエルフと戦ったことがあるとか?」
アーハンブラでの一件は、既にアンリエッタから聞き及んでいる。
本来ならば今の時点で聖戦を発動させておきたかったが、エルフは既に亡き者とされたという報告。
故に現時点では発動は憚られるが、極近い未来に改めて聖戦は必ずしなくてはならない。

「そうだな、確かに強かった。それで・・・・・・私に零号開放しろと?」

 ヴィットーリオは神妙に頷いて肯定した。
死の河が人間たちを飲み込むのは耐え難いが、敵対種族たるエルフは別であった。
強力な先住魔法を操るエルフでも、対等以上に戦える鬼札アーカード。
これを使わない手はない。人間側の被害なく、聖地を奪還可能であろう。

 だがそんな存在を公に利用すれば、事によっては権威の失墜にも繋がりかねない。
故に、アーカードだけをこうして呼んで話した次第であった。

「勿論、あなたにもメリットがあります。・・・・・・聖地のゲートを知っていますか?
 地下階にあったガンダールヴの『槍』が、そこから定期的に送られてくるのです。
 そこからであれば、あなたは元の世界に戻ることが出来ます。非常に魅力的だと思いますが」

 

356 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 21:59:40 ID:???
 アーカードは顔を下に向ける。
そして笑い出した。大聖堂に響き渡り反響する哄笑。
ヴィットーリオは怪訝な顔でその様子を見つめ、ひとしきり笑ってからアーカードは言い切った。

「 だ が 断 る 」
「なっ・・・・・・」

 アーカードはそのままコツコツと歩き、椅子へと座る。
背もたれに両手を広げて掛け、足を組んでふんぞり返った。

「この私の最も好きなことの一つは、自分が偉いと思っている奴に『NO』と断ってやることだ」

 気に入らない。目の前の人物は気に喰わない。
リアリストで手段を選ばず、そして利己的なところは共感できる節もある。
だが美しくない。自分の大好きな人間のそれとは、程遠い所にこの者はいる。

 自分の力量を把握し、限界を見定める。
他者を思いやっているように見えても、その実は違う。
心の底では何も信じていない・・・・・・恐らくは己すらも。常に疑って掛かる、絶対の信用は置かない。
なるほど非常に良く出来ている、狂おしいほど合理的でそれも一つの在り方だ。

 だが、それは美しくないのだ。
自分を打ち倒してくれる、夢の様な人間とは対極にいる。


「元の世界に帰りたいとは思わないのですか?エルフの土地を奪回せねば帰ることは出来ないのですよ」
「構わん。私を利用できるのはな、私が認める私の主人だけだ」

 ヴィットーリオの顔が歪んだ、それは人前では決して見せない負の感情。
すぐにそれは元の表情に戻り、ヴィットーリオは内心自戒する。
 

357 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 22:00:17 ID:???
「話はおしまいか?」
「・・・・・・えぇ、結構です。・・・・・・お手間を取らせました」
今は食い下がっても意味がない。
ヴィットーリオは、これ以上心象を悪くしてもデメリットしかないと判断する。

 まだ猶予は残されているし、それまでに心変わりをさせれば問題ない。
アーカードの主人であるルイズに、直接交渉ないし籠絡しても良い。
だから今は・・・・・・大人しく引き下がる。

 話は終わったとアーカードは椅子から立ち上がって、扉の方に歩き出す。
しかし途中で立ち止まり、半身だけを振り返らせた。

「そうだ、炎のルビーは持っているか?」
「・・・・・・炎のルビー、ですか?今は生憎とロマリアにはありません。諸事情で紛失してしまったのです」

 アーカードは「そうか」とただそれだけを言って、扉を出て行った。



「零号開放しないの?つまんないな〜」
アーカードはシュレディンガーを一瞥する。
そう・・・・・・聖地のゲートを使う必要はない。むしろお断りだ。
時間軸の不確かなもので帰って、もしインテグラが死んでいたら意味がない。
それならばこちらでルイズが死ぬまで待ってから、帰った方が良い。
インテグラはともかく、同じ吸血鬼のセラスならばいくら待たせても死んでいることもない。

 不確実性なもので帰って、インテグラが死んでいて、ルイズとも会えなくなるなどつまらん。
多少待たせてしまうことになるが、インテグラにも確実に会えて、ルイズにもまた会えるだろう方法もある。

「・・・・・・盗み聞きか」
「暇だったし。大尉は"アレ"を地下から上まで運んでるし」
 

358 :ゼロのロリカード-53:2010/02/22(月) 22:00:47 ID:???
 アーカードは嘲笑する。
「ワンちゃんもお前も、随分と勤労意欲に溢れていることだ」
シュレディンガーは唇を尖らせる。
「ちぇっ別にいいさ、僕は僕で楽しんでるし」
シュレディンガーは手近にあった石ころを蹴り飛ばした。
不満を隠すつもりはないらしい。


「ま・・・・・・いいや、"アレ"をトリステインまで届ける必要があるし、そん時に一緒に帰る?」
行きは大尉の駆る風竜で送ってもらったが、大尉は運搬する必要上、帰りはすぐに送っていけない。
「いや、私は私ですぐに帰る」
ラグドリアン湖に行くという名目だけで来ている。あまり長居は出来なかった。

「わかった。にしても零号開放しないとなると、ウォルター老がどう出るんだか」
「それについても考えはある」
「ほほォ〜、じゃあどう展開されるのか楽しもっかな」

 含み笑いを浮かべるシュレディンガーに対し、アーカードは「フンッ」と笑う。
そしてそのまま、空へと飛び上がった。

(さて・・・・・・戦争も秒読みか・・・・・・)
闘いのにおいを感じる。
日に日に濃密になっていく気配に、アーカードは昂ぶる気を抑え続ける。

 トリステイン、ガリア、ロマリア。
三国の演者達はそれぞれの思惑を巡らし、戦場という名の舞台で、演じ、歌い、踊る。


 かくして役者は全員演壇へと登り、惨劇は幕を上げる――――――。

359 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/02/22(月) 22:01:24 ID:???
以上でした。ではまた。

360 :マロン名無しさん:2010/02/22(月) 22:28:16 ID:???
あ〜また支援遅れた。

乙でした

361 :マロン名無しさん:2010/02/23(火) 03:05:24 ID:???
アーカードの旦那は史実以上に宗教戦争狂い(自衛戦争だったけど)だったけど
『今』はどう思ってるんだろう?教皇の言動聞いて、『あのころは自分も若かった』とか思うんだろうか。


362 :マロン名無しさん:2010/02/23(火) 10:47:46 ID:???
いつのまに露伴センセを取り込んだんですかw

363 :マロン名無しさん:2010/02/28(日) 06:19:36 ID:???
きっとどっかで取り込んだ命がジョジョ好きだったんだろうさ
ロンドンで取り込まれた命の中に俺達みたいなのが居ないとも限らない

それにカバー裏的な意味で、最後の大隊の連中なら読んでてもおかしく無さそうだしw

364 :マロン名無しさん:2010/03/01(月) 00:05:55 ID:???
露伴先生www

365 :マロン名無しさん:2010/03/03(水) 18:52:37 ID:???
サーバ復活?

366 :マロン名無しさん:2010/03/03(水) 18:54:35 ID:???
サーバー復ッ活ッッ! サーバー復ッ活ッッ!

367 :マロン名無しさん:2010/03/05(金) 00:44:02 ID:???
遅い 遅すぎる 遅いよサーバー

そういえばアーカードやセラスがスキルニル使ったらどうなるんだろう

368 :マロン名無しさん:2010/03/05(金) 01:13:16 ID:???
GONZO版になります

369 :マロン名無しさん:2010/03/05(金) 01:21:38 ID:???
身体能力や多少の回復はともかく、クロムウェルや完全な不死性は難しそう

370 :マロン名無しさん:2010/03/05(金) 22:07:44 ID:???
>>368
勘弁して下さい

371 :マロン名無しさん:2010/03/05(金) 23:43:59 ID:???
某錬金術師は中の人達と対話するの対し
旦那は一回殺した連中を更に殺してるんだから
やっぱすげーなw

372 :マロン名無しさん:2010/03/07(日) 19:27:22 ID:???
さすが旦那

373 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/08(月) 23:51:18 ID:???
どうも、投下します。

本当は先週の予定でしたが鯖落ちで機を逸し、一週待って今日行こうとしたら今度は鯖移転。
出鼻を挫かれまくりでしたが、なんとか復帰したようで安心。

374 :ゼロのロリカード-54:2010/03/08(月) 23:52:29 ID:???
 長い黒髪と肩に掛かったマフラーが風に靡く。
陽光輝く真昼頃。なだらかな丘陵地帯の、少し小高いところにアーカードは立っていた。
そこからは、これから戦場となる・・・・・・決戦の地を一望することが出来た。
ロマリア艦隊とガリア両用艦隊がぶつかったと知らせがきてから既に一週間。
ガリア軍はトリステイン国内を、順調に進軍し続けていた。

 それまで国土が侵されていくのを待ったのには理由がある。
遮蔽物のなく広い空間が、決戦地として必要であったのだ。
予め敵軍進行ルートの民を避難・誘導し、今この時を以て最初の衝突と共に最後の戦が終結する。

 上空を見上げれば、艦隊が空を塗り潰さんと見紛うばかりに遊弋していた。
敵の艦隊は、大小合わせれば60隻くらいはあろうか・・・・・・竜騎兵も大量に飛び回っている。
それに相対するはトリステイン艦隊。浮かぶ数は1000隻を優に越えていて、数えるのも面倒だった。
――――――実際の数は、敵艦隊の数に遥かに満たない。殆どが『幻影』で作り出した虚像の艦隊である。
だがそのおかげで、敵軍も思うように手出しが出来ずに膠着状態が作り出されていた。

 地平を見れば、軍団が遠くに見えた。
そしてその前方に、縮尺のおかしいシルエットがさらに10体。
ヨルムンガントと、その肩に乗るウォルター。

 空中で停止している空中艦隊と違い、地上軍は確実に進軍を続けている。
このまま敵地上軍が進めば、トリステイン空中艦隊も動かざるを得ない。じきに膠着は崩れる。

 一方でトリステインの地上軍は見当たらない。
自分の後ろにいる少女二人と竜を含め、僅か三人と一匹のみ。
アーカード、ルイズ、タバサ、シルフィード。それだけが地上戦力。

 

375 :ゼロのロリカード-54:2010/03/08(月) 23:53:13 ID:???
(やはり戦争は良い・・・・・・。闘争とはまた違った極上の美酒よ・・・・・・)
アーカードはひとりごちる。
戦場に於いて、人間は特別な感情を抱く。素直な感情が入り混じり、それが発露する。
無上の歓喜、至高の痛み、至純の恐怖、無限の憤怒、真実の終焉、深遠なる悲哀。
フィルターの掛からない感情は、人を等しく狂わせ・・・・・・生を実感させる。

「さて・・・・・・ぼちぼち征くとするか」
射程を考えながら、相対距離を目測しつつアーカードは言った。
するとアーカードの影が枝のように広がって形作り、真横にあった巨大な物体を掴む。
ロマリアの武器庫で眠っていたガンダールヴの『槍』。
台座部分をはずして、取り回しの効くようにしたその『槍』。

  アハトアハト
 『88mm砲』。
対空や対戦車、陣地攻撃にもその威力を発揮した近代兵器。
ルイズとタバサはシルフィードに乗って、その場を少し離れる。
ドッシリと構えたアーカード。――――――まずは一発、小手調べ。
もしヨルムンガントを貫けなければ、『ディスペル』を掛ける必要性がある。

 吸血鬼の膂力は、88mmの重量をまるで感じさせない。
そして吸血鬼の眼は、容易く正確にヨルムンガントを定める。


 ・・・・・・ふとアーカードの頭に、なんとなく既知感がよぎった。
勿論過去に似たようなことをやったことはないし、実際の光景を見たこともない。
ただ――――――自分ではない誰かが、同じようなことをやっていたような・・・・・・そんな気がした。

 轟音と共に発射された徹甲弾は、狙い違わずヨルムンガントに吸い込まれ、造作もなく破壊した。
ウォルターの驚愕の顔を見て、アーカードはほくそ笑む。
発射からワンテンポ遅れて排出された薬莢が地面に音を立てて転がり、アーカードは徹甲弾を込め直す。
その運動エネルギーを以てすれば、反射も装甲も目標破壊に際してなんら障害と足り得ない。
 

376 :ゼロのロリカード-54:2010/03/08(月) 23:54:19 ID:???
 見た目はただの少女が、自分の背丈よりも遥かに大きい88mm砲を振り回し、砲弾を発射する。
固定化と硬化が掛かってることをいいことに、何の気兼ねもせずに粗雑気味に扱う。
そしてスムーズに行われ続ける、普通の銃でも扱ってるが如きリロードが、その異様さをより一層際立たせていた。



「聞いてねぇええええッッ!!!」
ウォルターは力の限りに叫んだ。
ヨルムンガントを全速で走らせる。あっという間に半分にまで減らされた。
それでも砲弾は有象無象の区別なく。止まっていようが走っていようが関係なく粉砕していく。

「普通あんなモン振り回すか!?ってかなんであんなモンがあるんだ!?」
なんとか視界に捉えたその姿。88mm砲で"武装"しているアーカード。
そしてとんでもない速度で飛んでくる砲弾を、必死に振り回す糸で逸らし、切断し、止める。
それでも間隙を縫うかのように、的確に命中させてくる。
カウンター?外装に焼き入れ?なにそれおいしいの?

「クッソがぁああああッ!!上等だぁあああああッッッ!!!」
10体もあったヨルムンガントは、終には自分が乗る一体だけが残り、ひたすら集中して糸を張り巡らせる。
ウォルターは片目につけていた、各ヨルムンガントの視界を移すためのモノクル投げ捨てる。

(あぁそうさ、弾切れまで粘ればいいんだ・・・・・・)
とりあえずはそれで、この場は乗り切れる。
一体でも残れば十分だ。そして1と0じゃ雲泥以上の大違い。

 喉が嗄れんばかりにウォルターは叫び続け、そして砲撃は途中で止んだ。
(ッッ・・・・・・!?まだわからねぇ、集中だ集中)
隙を見せるのを待っているのかも知れない。だから決して油断しない。

 ウォルターは高めたコンセントレーションを維持したまま、ヨルムンガントを慎重に走らせた。
 

377 :ゼロのロリカード-54:2010/03/08(月) 23:54:45 ID:???


「むぅ・・・・・・しぶといのぉ」
9体までは粉砕したものの、最後の1体を集中して守るウォルターに砲弾は届かない。
このままでは、後々の直接火砲支援までに砲弾が尽きてしまう上に破壊も無理だろう。

 アーカードは一旦88mmをその場に置く、そしてルイズ達を呼んだ。
すぐにシルフィードが近付いてきて、ルイズとタバサが降り立つ。
「どうするの・・・・・・?」
ルイズは一応アーカードに問うた。

 ウォルターとヨルムンガントを同時に相手にするのは、相当きつい戦闘になる。
であれば、二人ないし三人同時に戦うしかないだろうことは、薄々わかっていた。
アーカードだけでは、ウォルターとヨルムンガントの波状攻撃を掻い潜り、ウォルターだけを狙うのは至難。
そして虚無が無ければ、ヨルムンガントに決定打は与えられない。
こういう不測の事態の為に自分達は、ここにいるのだと・・・・・・。

 そうルイズは考えていたものの、アーカードの口から出たものは別のことであった。
「再契約だ」
「・・・・・・は?」
「なにィ!?相棒本気か?」

 ルイズは呆けた声を出し、デルフリンガーが叫んだ。
ラグドリアン湖でタバサ&キュルケのコンビと闘ったあの時。
連携によって一度殺され再生した為か、アーカードの左手からルーンは消えていた。
そして再契約が及ぼす悪影響がわからないとデルフリンガーが進言し、再契約はしないという結論に至った。
それをここにきて覆すということを、アーカードは言っている。

 

378 :マロン名無しさん:2010/03/08(月) 23:55:20 ID:???
支援

379 :ゼロのロリカード-54:2010/03/08(月) 23:55:27 ID:???
「ここで魔力を無駄に費やすわけにもいかぬだろう」
端的でわかりやすい帰結。
確かにこれから始まるだろう艦隊戦やジョゼフ戦に於いて、魔力消費は極力抑えたいところだった。
一般メイジであるタバサは言うに及ばず、魔力の溜まり具合が不明瞭なルイズもそこは同じ。
既に『幻影』を使用しているし、燃費の悪い『爆発』のみならず乱発はしたくなかった。

「仕方ないんかね」
デルフリンガーの観念したような口調。
万が一胸にルーンが出たら嫌だ、というワガママも言ってられない。
それにアーカードなら、どんなルーンを備えたとしてもアーカードだろう。
例外のない二度目の契約による諸々の危険性も、不死身の吸血鬼ならナチュラルに跳ね除けそうだった。

「・・・・・・わかったわ」
現状最も合理的な策だろう。
88mmを置いたことを見て取ったウォルターも、より加速して迫ってきている。
悩んでいる暇はない、即断する。
アーカードが、本当は男だというのも既に知っている。
見た目が自分より幼い少女でも、男は男。
改めてキスをするのは恥ずかしいが、そんなことを言ってる場合でもない。

 ルイズは一度だけ深呼吸をして、集中する。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔と為せ!」
手早く詠唱して、キスをしようとする。
そこで気付いた、ニヤニヤと笑っているアーカードの顔を。
「アンタ・・・・・・これを狙ってたわけ?」
恥ずかしがる私を見て楽しんでいる。もはや確定的。

「さぁ?なんのことやら・・・・・・。早くしないとウォルターが来てしまうぞ」
「くっ・・・・・・別に、恥ずかしくないもん」
そう言ってルイズは、目を瞑ってキスをした。
同時にアーカードの左手袋の中、左手の甲に刺激が走る。
 

380 :ゼロのロリカード-54:2010/03/08(月) 23:56:14 ID:???
 
 ――――――その時、ルイズの中で走馬灯のように記憶が思い返された。
思えば最初の契約から、目まぐるしい日常だった。
あの頃の自分はもういない。劇的と言えるほどまでに変わった。
落ちこぼれから脱却し、立派な虚無の担い手になった。
自分で言うのも難だが、現存するメイジの中でも上から数えた方が早いだろうと思う。
心なしか、目つきも前より鋭くきつくなったような気がした。

 それもこれもアーカードが召喚されてからだ。
アーカードは自分を召喚したのも、私の実力の内だと言ってくれたりもした。
が、それでもやはり今の誇れる自分が在るのはアーカードのおかげなのだ。
感謝してもし足りない。

 一秒にも満たないだろう、不思議な記憶遡行を終えてルイズに時間感覚が戻る。
ルイズは肩を抑えて拘束しようとしてきたアーカードの両手を、ガッシリと掴んで阻止した。
素早く唇を離すと、「読めてるわ」とルイズは笑った。

「フッ・・・・・・我が主も成長したものだ、あのコロはまだ可愛げがあったものを」
「そうね、立派になったわ。お・か・げ・さ・ま・でね」
ルイズは皮肉る、そしてアーカードと微笑みあった。

「・・・・・・来た」
タバサの言葉にアーカードはウォルターへと振り向くと、左手でデルフリンガーを抜いた。
手袋の下で『ガンダールヴ』のルーンが輝き、不思議な力が湧いてくるのがわかる。


「弾切れかい?それなら重畳。でも一応"ソレ"は破壊しておこう」
ヨルムンガントが手に持った大剣を振り上げる。
死の河開放の為には、今ここでアーカード達と戦っても意味はない。
だが今ここでこの88mm砲は破壊しておかないと、補給でもされたら面倒である。
 

381 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:01:38 ID:???
「・・・・・・抵抗しないのか?」
ただ佇んで、こちらを見つめているだけのアーカード達を見て怪訝に思う。
既に弾切れだから壊れても良いと。
僕の目的が零号開放だから、今自分達が襲われる道理はないと。
――――――それで無抵抗なのか?

「いやなに、抵抗するのはお前の方だよウォルター」

(・・・・・・やはり狙って来るか)
ウォルターは当然の如く、糸でアーカードを攻撃する。
アーカードの出鼻を挫く。動き出そうとした刹那のタイミングに割り込む。
ウォルターの右手から伸びた糸が、アーカードの右手によって掴まれた。
だがアーカードの左手は、例の喋る剣で塞がっている。
次いで襲い掛かる左手の糸は防げない。
後はそのまま絡め取りズタズタにして終わり――――――。


 ――――――の、瞬間だった。
ウォルターは浮遊感を味わい、気付けば反転して空を眺めていた。
遠心力に加速のついた状態で、認識する間もなく地面に叩き付けられる。
「ッがァ・・・・・・!!」
衝撃で肺から全ての息が漏れる。体が思うように動かない。
痛みでクリアになっていく思考が、寸前の出来事を思い出しながら状況を分析し始める。
アーカードは糸を掴んだ瞬間に、自分を糸ごと振り回して投げたのだ。
刹那のタイミングで、襲い掛かった左手の糸が到達するよりも速く。

 こんなにもパワーがあったか?・・・・・・前に糸で捕えた時は十分抑え込めた筈だったのに。
無理に引き落とそうとすれば、糸を掴んだアーカードの手が逆に切断された筈なのに。
であるのに、引き落とすどころか振り回された。どこにそんな力が?
ルイズを攫った時は手加減していたのか?わからない。思考が思うように回らない。
 

382 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:02:45 ID:???
 額のミョズニトニルンのルーンが光る。
頭は回復しきっていない、アーカードの位置もわからない。
それでも反射的にヨルムンガントを操作する。
ヨルムンガントはそのまま真正面――――アーカードがいるだろう方向――――に大剣を振り下ろした。


 衝撃と轟音と土埃が舞う筈であったが、そのどれも起こらなかった。
ウォルターが薄っすらと開けた目で見たのは、空いた右手のみで大剣を白刃取りしているアーカードの姿。
アーカードはそのまま右手で押さえた大剣を、横に捨てるように放る。
動きの止まったヨルムンガントの握る大剣は地面に虚しく刃を落とし、僅かな衝撃だけを残した。

 ――――――同時にアーカードは跳躍していた。
左手に剣を持ったまま、躯を捻転させる。その背が見えるほどまでに引き絞られる右腕。
ギチギチと音を立てて筋肉が軋み、さながら弩の如く引き絞られる必殺の貫手刀。

 ウォルターはヨルムンガントを操作しようとしたが、同時に思考が回って疑問が湧いた。
あの剣に虚無が掛けてあって、学院を襲った時のように、また関節部を狙うのでは・・・・・・ないのか?

 しかしアーカードの構えは明らかに剣術のそれではない。
アーカードお得意な、ただの貫手のそれ。
吸血鬼の・・・・・・ただ力任せで、ただ乱暴な、しかして最大の攻撃。
だがそれでは・・・・・・、反射の掛かっているヨルムンガントには通じない。

 アンデルセンと共闘しているならいざ知らず。
単独でやっても阻まれることは、学院襲撃の時で認知している筈だろう。
しかも外装の焼き入れで、前よりも遥かに頑丈だ。
まさかアーカード自身に虚無が掛かっているとでも言うのか?

 ウォルターの中で疑問が渦巻く最中。
――――――呆気なく、造作もなく、ヨルムンガントは無惨に崩れ去った。
砲弾を喰らった時よりも大きな穴をその胴体に穿ち、機能を完全に停止する。
もう色々とわけがわからな過ぎた。・・・・・・考えるのを放棄したくなるほどに。

383 :マロン名無しさん:2010/03/09(火) 00:03:52 ID:???
支援

384 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:05:21 ID:???
 

 ヨルムンガントが全部破壊された以上、もはや零号開放は叶うまい。
アーカードが零号開放せずに、単騎で地上軍を撃退しようとしてきた場合――――――。
――――――そのアーカードを抑え込む為のカード。
アーカードが出張って来ず、トリステイン軍が地上軍を相手にしようとしてきた場合――――――。
――――――そのトリステイン軍を蹂躙する為のカード。
ヨルムンガントはそういった事態の為の抑止力だった。

 だが既にヨルムンガントのカードは全て失われた。
後はアーカードが、単騎で地上軍に突っ込んで引っ掻き回せば進軍は止まる。
撃退など容易。時間は掛かるだろうが、殲滅すら余裕で可能だろう。
よって街も人もなく、ただ広いだけのこの戦場に於いて・・・・・・。
零号開放するような状況には、もう決して為り得ることはないのだ。

 零号開放の為の条件。
アーカード一人では如何ともし難い、急迫した状況。
その為に必要なのが時間。ひいては物量だ。
少佐が最後の大隊でロンドンを襲った時のように。
『HELLSING』の責務を果たす――――ロンドンで起こった戦火を一刻も早く鎮める――――為に。
その為にアーカード一人で敵を殲滅していたのでは遅く、到底間に合わない。
悠長に暴れてている間に、最後の大隊が、十字軍が、ロンドンのみならずイギリスを蹂躙し尽してしまうだろう。
だから全てを瞬時に飲み込む必要があった。時間を掛けず戦禍を最小限に終わらせる必要があった。

 その切り札が零号開放であり死の河。
敵も、味方も、守るべき市民すらも、あらゆる物を無に帰してしまう・・・・・・本末転倒とも思える最後の手段。
少佐が半世紀もかけて作り出した、零号開放させる為の状況。
1000人の吸血鬼化武装親衛隊、3000人の第九次空中機動十字軍。
そしてイスカリオテ、そしてヴェアヴォルフ、そしてアンデルセン、そしてこの僕の半生。
それら全てを犠牲にしてようやく引き出し作り出した、唯一アーカードを物理的に打倒できる刹那。
 

385 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:06:01 ID:???
 そう・・・・・・アルビオンでの状況は、言ってみれば本当に偶然が重なった結果だったのだ。
突然の寝返りによって連合軍は数を減らし、撤退を余儀なくされた。
それでも容赦なく追撃は開始され、連合軍の撤退完了までその足を止める必要があった。
アンドバリの指輪によって正気を失い操られた軍は、アーカード一人で暴れたところで止まるものではない。
普通の軍団であれば、指揮系統は崩れ呆気なく進軍は止まるだろう。だがそれは傀儡と化した軍には無意味。
実際には混合軍であった為、単騎での大暴れでも間に合ったかも知れなかったが、不確定要素が多過ぎた。
よってルイズは零号開放の命令を下した。より確実に自軍を逃がす為に。


(あぁ、畜生。そうだ・・・・・・あの時に、間に合ってればなぁ・・・・・・)
あのアルビオンこそが、最大にして最後の好機だったのだ。それなのに・・・・・・。

 ウォルターは空を仰ぐ。やはり上手くいかない。
(そりゃそうか・・・・・・。あの少佐ですら、半世紀も時間を掛けてじっくりと練ったんだ・・・・・・)

 目尻に涙が溜まって零れ落ちそうになる。
結局、自分は何もかも中途半端。
少佐のように零号開放させることも出来ず。
アンデルセンのようにアーカードを追い詰めることも出来やしない。

(まぁ・・・・・・もういいか・・・・・・。どうせ今の若さと強さじゃ勝てる見込みも少なかったし・・・・・・)
ウォルターは自嘲気味に心の中で笑った。そう、裏切り者の末路などこんなものなのだ。
折角こっちの世界に召喚されて、チャンスを得たと言うのに・・・・・・本当に言葉も無い。


 ふと、日に照らされたウォルターの顔が陰る。
瞳の焦点を合わせると、アーカードがこちらの顔を覗き込んでいた。
体は回復してきた。しかし最早戦う気概は湧いてこない。喋る気すらも起こらない。
きっと呆れてるのだろうな・・・・・・と、その少女姿の端正な顔立ちを眺め続ける。
 

386 :マロン名無しさん:2010/03/09(火) 00:07:03 ID:???
支援

387 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:07:04 ID:???
「・・・・・・殺すならさっさと殺せよ」
悪態をつくように言う。このまま自分を生かし、見逃してくれるとは思わない。
無様に命乞いをするほど落ちぶれてもいない。
ただ・・・・・・どうせ殺されるなら、吸って欲しいと思った。
吸い殺されて・・・・・・アーカード中で生きるのも・・・・・・悪くない、と。
だがそれを言ったところで裏切り者の望みを叶えるなど、アーカードがするわけがない。
 
「フッ、泣いておるのか?粗忽者」
アーカードは薄く笑みを浮かべ、そのまま顔を近付ける。
一瞬キスでもされるのかと邪推したくなるほどに、魅力的で艶がかった口唇。
実際に頬と頬が触れ合うほどまで重なり、アーカードの吐息が耳に吹きかかる。
そしてアーカードはウォルターにしか聞こえない声で、耳打ちをした。
すると死んだような目をしていた、ウォルターの目が一気に見開かれる。

「・・・・・・本当か?」
「今までこの私が嘘を言ったことがあったか?」

 嘘はつかなくても、タチの悪い冗談を言う可能性はあった。
だがアーカードの真っ直ぐに微笑む紅瞳は、全く以て本気であるということを・・・・・・如実に示していた。



「見たか?あのヨルムンガントが・・・・・・まるで紙切れよ」
ガリア空中艦隊トリステイン方面軍、一隻のフリゲート艦の上でジョゼフは笑っていた。
エルフの存在露見を防ぐ為に、搭乗人員は最小限に抑えられている。
さらには水魔法によって全員が傀儡と化していた。

 よって意思疎通が可能なのは、隣にいるエルフのみ。
しかしビダーシャルは何も答えない。
ただ静かに・・・・・・目の前で起こった光景を、身じろぎせず眺望していた。
 

388 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:07:28 ID:???
 10体ものヨルムンガント。それを難なく操ったミョズニトニルン。
恐るべきと言えるだろう。あれを相手にするには、エルフであっても手に余る。
それだけの圧倒的戦力だったウォルター。だがそれがどうだ・・・・・・?
瞬く間に壊滅に追い込んだアーカード。もはや己の力の及ぶ範囲を超えている。

「これから・・・・・・どうするつもりだ?」
ビダーシャルはジョゼフに問う。
「どうする、とは?」
ウォルターは敗れた。よって最早、死の河とやらは発動すまい。
同時に最大の戦力も失った。

「このまま無益な戦を続けるのか、ということだ」
「フッ・・・・・・俺は一度として、益ある戦なぞ望んだことはないぞ?」
ジョゼフはビダーシャルの言葉を嘲笑う。
勝ち負けなどは二の次だ。混沌とした世界が見られればそれでいい。


「今すぐに引けば、死なずに済むやも知れぬ」
「俺にはな、執着がないのだよ。己の命すらもな・・・・・・」
心を奮わせる為に地獄を起こす。その為ならばあらゆる物を犠牲にしてやる。
実感のない生なのだ。自分の命すらベットすることもなんら厭わない。
それに・・・・・・今更後戻りするくらいなら、シャルルを殺そうとした時に踏み止まるべきだった。

「あの化物がやってくるのだぞ」
この世の恐怖や畏怖の類を全て詰め込み、具現させたような存在。
そのアーカードが、勢いのままに攻め込んでくれば・・・・・・間違いなく凌ぎ切れないだろう。
アーハンブラ城で、三人同時に相手してなお追い込まれたのだ。
ただの"死"で済めばまだマシである。
今まで生きてきたことを後悔するようなことに、ならないとも限らない。
 

389 :ゼロのロリカード-54:2010/03/09(火) 00:08:08 ID:???
「構わぬさ、いや・・・・・・むしろ望むべきところか」
アーハンブラ城での相対は、素晴らしいものであった。
あの化物を相手にすれば、僅かながらも心が打ち震えてくれる。
恐怖。絶対の畏怖として、その間は生きている実感を得られる。


「自殺志願者を守ることはできんぞ」
「俺が死んだら帰ればよかろう」
「我が何の為に協力していると思っているのだ」

 ビダーシャルは胸中で溜息を吐く。
諭す労力すらが無駄であった。この男はもう止まらない。

(・・・・・・引き時、なのかも知れんな)
ビダーシャルは目を瞑る。
ここが分水嶺。引き際を間違えれば、己が身を危険に晒す。

 完全に見誤っていた。
この狂王と交渉したのが、そもそもの間違いであったのだ。
ジョゼフは一つ間違えば、エルフと一戦を交えていたかも知れない危険性を孕んでいた。
接触を図り交渉をしたことで、結果的にジョゼフの気を引いてしまうこともありえた。
もしも対エルフとの構図になっていたら、この狂王のことだ。凄惨な殲滅戦になっていたことだろう。

(それが回避されただけでも・・・・・・良しとするか・・・・・・)
結果論ではあるが、成果は上等だった。
此度の蛮人同士の戦は、エルフ側にとって非常にありがたいこと。
今この場で戦が終結したとて、各国の疲弊は目に見えている。
故に当分の間は、攻めて来ることが事実上不可能になったと言える。

(・・・・・・そうだな、せめて最後まで見届けさせてもらおう・・・・・・蛮人の愚かな狂王よ)

390 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/09(火) 00:08:54 ID:???
以上でした、支援どうもでした。
まとめの方もいつもながらありがとうございます。

ではまた。

391 :マロン名無しさん:2010/03/09(火) 00:30:18 ID:???
乙〜
ウォルターへの耳打ちがどんな内容なのか楽しみ

すっごい細かいけど
>>376
>モノクル投げ捨てる。って モノクル"を"は付けなくていいのかな
気に障ったらゴメンです

392 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/09(火) 00:34:45 ID:???
>>391
普通に脱字ですね、申し訳ない。

393 :マロン名無しさん:2010/03/09(火) 22:30:14 ID:???
ゼロリカの人乙です
相変わらず旦那ハンパネエ。その上ガンダ補正までついちまったよ
こうして読んでると、ウォルターはじいさんのまま戦ったほうがよかったんだろうなぁと思います



394 :マロン名無しさん:2010/03/13(土) 20:21:57 ID:???
ロリカの人乙です!!

395 :マロン名無しさん:2010/03/14(日) 11:02:44 ID:???
hoshu

396 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/15(月) 21:52:23 ID:???
どうも、投下します。

397 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:53:55 ID:???
 トリステイン艦隊、『オストラント』号。
ツェルプストー家の財力を使い、コルベールが作り上げた渾身の蒸気船。
飛行機と船を折衷させたような、周囲の艦とは明らかに一線を画した特異なデザイン。
風石をふんだんに使用し、石炭燃焼による蒸気機関を搭載。
そして何よりも特筆すべきは、コルベール謹製のジェットエンジンを積んでいた。

 アーカードから教わった知識と、それを体現できるコルベールの技術力。
SR-71『ブラックバード』の特殊な燃料を不完全ながらも錬金した、卓抜したメイジとしての実力。
タルブ戦後も研究をし続け、爆発力は落ちるもののSR-71のそれよりも遥かに扱いやすい燃料を開発。
それらが噛み合い実現させた、世界で唯一にして最速の船。それが『オストラント』号であった。
コルベールは設計から建造まで全てを手掛け、遂にはこのガリアとの一戦の前に完成させたのだった。

 アニエスも納得ずくで、戦争の早期終結の為に、コルベール自身不本意ながらもその集大成を使うことになった。
本来は探検船としての用途であり、各種最新技術を詰め込んであるものの、武装は最低限の物しか積んでいない。
しかしてハルケギニアの枠を遥かに超え、オーバーテクノロジーの粋を集約した船。
単純な巡航速度は言うに及ばず、旋回性能も非常に高い。
一度ジェットエンジンによる推進力を得れば、直線距離に於いては風竜ですら追いつけない。
特定の艦を狙った奇襲作戦に於いて、これほど有用な船は他にないのであった。

 ルイズとタバサはオストラント号の上から、ジョゼフの乗る艦を万感の想いで見つめていた。
旗艦の周囲にある、一隻のフリゲート艦。
そこにジョゼフがいる。そしてジョゼフを倒せば、この戦は終結するだろう。
所詮は王の権力と、暗殺による恐怖で縛り付けたガリア軍。
その意志を継ぐ者さえいなければ、あっという間に現体制は崩壊する。


 既にトリステイン艦隊は、『幻影』の艦隊から離れて進みつつある。
それに呼応するように、ガリア艦隊も動いていた。
暫くすればアーカードによる、支援砲撃がある。それが開戦の号砲。
戦争開始まで秒読み段階に入ったその間、ルイズは少し前のやり取りを思い出していた。

 

398 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:54:55 ID:???



「あぁ、こうなったら背に腹は変えられない。そっちから言ってきたんだし、『あれは嘘だ』とか無しだよ」
「無論だ」
どことなく嬉しそうなウォルターは、立ち上がって体中についた汚れを払う。
そして「また僕は裏切るわけか・・・・・・」と少しバツが悪そうに言った。
そんなウォルターをアーカードは腕を組んで「今更だろう」と笑う。

 二人の会話が聞こえず何が起こってるのか疑問に思っていると、ウォルターが一所を指差した。
「あれだ、あの旗艦右後方のフリゲート艦にジョゼフがいる」
「・・・・・・どういうこと?」
タバサがウォルターの言葉を疑う。突如そんなことを言い出したことも解せない。
その内容にしても、敵方の将だ、あっさりと信用出来るわけがない。
はいそうですか、とそこに突っ込むわけにはいかない。

 同じようにルイズもウォルターに聞く。
「裏切るの?」
居場所を教えてもらうのはありがたいが、それはつまりウォルターは背信したということ。
タバサの猜疑心とルイズの問いにアーカードが答える。

「懐柔した」
一言、ただそれだけ。ウォルターに裏切らせてこちらへと引き込んだということ。
単純にアーカード自身の目的の為に、最も合理的な方法を選んだに過ぎない。


「・・・・・・わかった、あなたは信用しないけどアーカードを信じる」
タバサは毅然とした目で冷ややかにウォルターを射抜く。
ウォルターは初見の時の、悪い印象が拭い切れない。
そもジョゼフに協力していた時点で、信用するに値しない。
「やれやれ、嫌われたもんだ」とウォルターは肩を竦める。
 

399 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:55:21 ID:???
「私は・・・・・・個人的な感情だけれど、あなたを少しだけ信頼してるから」
一方でルイズは些少ながらフォローしてやった。
ルイズの言葉に、ウォルターはただ黙って不思議な微笑みを浮かべる。

 ウォルターにとっては、自分の目的の為だったのだろう。
それでも、攫われてからアーハンブラ城で救出されるまでの扱いには感謝していた。
はっきり言って、初見でジョゼフに勝てるとは思えない。今現在戦っても勝てそうもない。
ウォルターが誤魔化したからこそ、今自分はこうして生きているとも言えた。


「では、私は地上から88mmで砲撃しつつ支援しよう」
敵艦の死角から、一撃で中枢を破壊する方が効率が良い。
正面から撃てば、敵の魔法や竜騎兵によって多少なりと阻まれる可能性もある。
「お前達は例によってコルベールの船で、一直線にフリゲート艦を狙うといい」
当初の予定目標は敵旗艦であったが、もし違っていた場合の損耗をアーカードは考えた。
よってヨルムンガント一掃のついでにウォルターを懐柔し、正確な位置を知ることにしたのだった。

「当然こやつも付き合わせる」
そう言ってアーカードは、有無を言わさず命令するようにウォルターを見る。
「あぁ、わかってる。・・・・・・だけど、僕らが直接乗り込んだ方が早くないか?」
アーカードと自分がまとめて乗り込んだ方が、手早く、楽に、片が着く筈だ。

「それは我々の仕事ではない、・・・・・・な?」
アーカードはタバサへと視線をやる。タバサは無言で頷いた。
「ルイズも露払いをしてやれ」
「わかってるってば」
どの艦に乗っているかはわかったものの、易々とは乗り込ませてはくれないだろう。
いずれにせよ『エクスプロージョン』など、虚無で援護する必要がある。
そしてタバサがジョゼフに負けるようなことがあれば、速やかにタバサを連れて離脱。
その際に・・・・・・自分がジョゼフと一戦交える必要が、あるやも知れない。

 

400 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:56:00 ID:???
 勿論確実に勝つのであれば、アーカード達が邪魔な敵艦隊を全滅させるまで待つ。
然るべき後に、全員で乗り込めば良い。それが最も安全と言えるだろう。
だが、そこまでアーカードにおんぶにだっこというのは憚られた。
これは戦争だ。経緯や目的はどうあれ、国と国の戦。
なれば一人にだけ押し付けるのは、道理にそぐわないというものである。
それに、敵軍の被害も最小限に抑えたいと考えていた。

 アーカード一人に任せたら、敵軍は殲滅に追いやられてしまうだろう。
こと戦争とはかくあるべきである、というアーカードは正真正銘の化物であり、情などは埒外。
目的達成の至上命令に於ける、単なる障害物。闘う意志で立つ者に例外は無い。
何も知らずただ命令に従って戦争に駆り出される軍人だろうと、アーカードは容赦無く殺す。
微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く、鏖殺する。
鉄火を以て闘争を始める者に人間も非人間もなく。
殺し、打ち倒し、朽ち果てさせる為に。殺されに、打ち倒されに、朽ち果たされる為に。
それが全て。それを違える事は、神だろうと悪魔だろうと誰にも出来ない唯一ツの理。
主人であるルイズの命令でも、それを侵すことは出来ない。

「アーカード、程々にね」
だからせめて『命令』ではなく、『お願い』としてルイズは言ってみた。
「なるべくな」
そしてアーカードは酷く化物らしい笑みを浮かべる。正直あまり期待は出来なかった。


「・・・・・・復讐かぁ」
ウォルターはタバサの境遇を思い返し、その答えに当たる。
しかも極上の復讐相手。動機も、強さも、因縁も、あらゆる要素が高水準で揃っている。
そりゃ自分達に、獲物を横取りされたくはないに決まっている。
そも横取りされる気分というもの・・・・・・ウォルター自身、嫌と言うほど身にしみている。

「あぁそうそう、ビダーシャルもいるから気をつけて」
ウォルターは言い忘れてたかと、気付いて言った。ビダーシャル、エルフの名を。
 

401 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:56:36 ID:???
「えっ?だけどエルフは確か・・・・・・」
ルイズは記憶違いに疑問符を浮かべる。姫さまから聞いた話では、エルフは殺されたと。
そのおかげで聖戦発動が回避されたと、さらに規模の大きい戦にならずに済んだと姫さまは安堵していた。
ロマリアの密偵が掴んだ情報らしかったが・・・・・・。実は生きていて、しかも未だに協力している・・・・・・?

「あぁそれブラフ。ビダーシャルが聖戦発動をやめろってんで、嘘の情報を流したんだ」
「であれば・・・・・・少し厄介か」
タバサとルイズでは手に余る。
アーカードは「手助けはいるか?」といった視線を投げ掛けた。

「いいえ、そこまで手は煩わせないわ。エルフは私が受け持つ」
虚無の担い手だけが、強力なエルフに対抗できる。
ガンダールヴを得て、ヨルムンガントを粉砕したアーカードもゴリ押し出来るだろう。
だが、ここは自分が行くべきだ。それにエルフがいるなら・・・・・・少し考えもある。
エルフの強さは間近に見ていたし、恐ろしいとも確かに思う。が、アーカードに比べればまだマシだ。

(それに・・・・・・少し自分の力を試してみたいしね・・・・・・)
己の強さを存分に発揮出来る相手。
アーカードの戦闘狂な部分が、少し伝染してしまったのかも知れない。


 ルイズは大きく強く頷く。
アーカードもルイズを信頼している。召喚されたばかり頃の、かよわい少女ではない。
アーカードの認める相応しき主人へと変貌を遂げた。今や何の憂いもない。

「まぁビダーシャルはそんなに乗り気じゃないし、既にジョゼフには辟易している筈だ。
 多分闘わなくても済むと思うけど、ジョゼフの遁走に手を貸すくらいはするかも知れないな」

 ウォルターは楽観的に私見を述べる。
自分が敗北したことで、もはやジョゼフの勝ちの目は0なのだ。
もはやジョゼフに付き合い続ける義理はない。
 

402 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:57:11 ID:???
「さぁ行くがいい、征って終わらせてこい」
アーカードは言い切った。信頼に対して信頼で応える。
これ以上求められない主人と従僕の関係。メイジと使い魔の絆。

「ええ、征ってくる」
ルイズは自信と誇りを含んだ笑みで、アーカードに応えた。



 ルイズとタバサはシルフィードに乗って飛び、アーカードとウォルターが残される。
「いい主人だね・・・・・・」
感慨に耽るようにウォルターはしみじみ呟く。
「ははっ、そうだろうとも。いい女達だ」

 「インテグラとどっちが?」などと、イジワルな質問でもしてやろうと思ったが。
比べるものではないのだろうなと、ウォルターはどこかで感じ入る。
そんな次元の低いものではないのだ。何物よりも強固な絶対の信頼関係に、優劣などは存在しない。

(インテグラは・・・・・・)
自分のことをどう思っていてくれたんだろうか。
人生、主君、信義、忠義、あらゆるもの。己の全てのものを賭け、納得して反逆した。
そう、「納得した」と言い聞かせるように。そしてアーカードと闘った・・・・・・。

(もしも裏切らない道を選んでいたなら・・・・・・)
今更思っても詮無いことだと、苦笑する。

(まっいいさ。幸運なことに、これ以上ない好機を得られるわけだしね)




 

403 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:57:40 ID:???
 艦隊と艦隊の相対距離が、少しずつ、そして確実に詰まっていく。
ルイズはアンリエッタから預かった風のルビーを見つめた。
始祖の祈祷書は未だ新たなページを見せてはくれない。
テファのこともある、エルフとの戦は出来得る限り避けたい。
――――――その為に、自分に出来ること。

「いよいよね」
掛けられた声に気付いて、ルイズは振り向く。
「本来なら気楽にいけって言うとこだけど、今くらいは気張っていきましょ」
炎色の髪をたなびかせ、キュルケが言った。
「そうね、今くらいは気合を入れないとね」
ルイズはキュルケの笑みに同じように返す。
かつては仇敵であったツェルプストー家の、キュルケともこうして理解し合えたのだ。
(そうよ、エルフとだって・・・・・・)


 ルイズは大きく何度も深呼吸をして、逸る心を落ち着ける。
手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に。

 魔力を高めるのに、感情の起伏は必要だ。昂ぶりが力になる。
しかして感情に身を委ね、振り回されてはいけない。
それでは不安定な力として、己や周囲をも危険に晒してしまう。
支配する、制御する、管理する、操作する、己の意志で必要な分だけを引き出す。
人の身では持て余しかねない虚無の力を、最も理想的な形で使いこなす。
ついぞ『無想』を会得することは叶わなかったが、それでもやらねばならない。

 オストラント号の砲台は私。
虚無の『爆発』で以て、的確に進むべき道を切り拓かねばならない。
タバサは後方でシルフィードに乗り、場合によってはすぐに自分を拾って飛び立てるようにしている。
タバサは魔力を温存する為に然るべき時まで戦えない。それまではタバサの分までフォローする必要がある。
 

404 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 21:58:37 ID:???
(・・・・・・絶対に勝つ、勝って笑う)
ルイズはゆっくりと目を瞑る。
そしていつでも『エクスプロージョン』を放てるよう、詠唱し始めた。



 北花壇騎士として、いくつの任務を請け負ってきただろう。
どれだけの死線を越えてきただろう。
キメラドラゴン、地下水、ミノタウロスのラルカス、火竜、コボルド・シャーマン、アーカード。
どれもが難敵、それでもどうにか生き延びてきた。

 騎士としての任務外でも多く戦った。
アーカードが終わらせてしまったが、フーケは強かった。
ウォルターには、まるで勝てるビジョンが浮かばない。
そのウォルターが駆るヨルムンガント相手には、逃げるのが精一杯だった。
盲目の炎術師メンヌヴィルに負けた。憎き虚無の担い手ジョゼフに負けた。
そして・・・・・・アーカードに負けた。

 一つ歯車が狂っただけで死にかねなかったことも多かった。
実際に死んだも同然の状態にも陥った。


「・・・・・・お姉さま、本当にやるのね?」
ふと、シルフィードが小声で話し掛けてくる。
「もう無理に復讐をする必要はないと思うのね」
タバサはただ黙ってシルフィードの言葉を聞く。
シルフィードの言いたいことはわかる。母さまは心は戻らないまでも帰ってきた。
これ以上己が身を晒し、その命を懸けて復讐をする意義はあるのか。そういうことだろう。
 

405 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 22:00:26 ID:???
 だがジョゼフを放置するわけにはいかない。
復讐を抜きにしても、ジョゼフは殺さねばならない。
同じ王族としての責任とは言わない。が、いずれにせよ暴走を止めねば国家が破壊される。
大勢の人間が不幸になってしまう。世界の正義の為に、ジョゼフは必ず討たねばならない。
あの男を説き伏せるという選択肢は存在しない。狂人に常人の理屈は通じない。

「お姉さまが死にそうになった時に、どれだけシルフィが心配したことか・・・・・・。
 あの胸が大っきいハーフエルフがいなかったら絶対死んでたのね。もうあんな思いはごめんなのね」

 タバサは目を瞑る。自分が死んでしまえば、悲しむ者がいる。
ただ制裁を加えたいと言うのなら、アーカードに任せればいい。
間違いなく、嬉々として殺してくれるに違いない。


「それでも・・・・・・私がやらなくちゃいけない」
誓いであり、義務と言っても良い。
自分の中で渦巻く行き場の無い感情に決着をつけ、前に進む為にも・・・・・・。
アニエスのように、復讐相手を赦すことは出来ないし、それほど達観してもいない。
コルベールのように、ジョゼフは贖罪の為に生きているわけでもない。
あの男は・・・・・・この手で殺さねばならない。

「お姉さまが頑固なのは、シルフィよ〜くご存知なのね。それでも言うのね」
「・・・・・・大丈夫、勝算はある」
「本当?絶対に勝てるのね?絶対に死なないのね?」
「戦いに・・・・・・絶対はない」

 シルフィードは「それじゃ駄目なのね」とぶうたれる。
今までも任務などで勝算の薄い戦いは多かったが、ここまで食い下がるのは初めてだった。
一度ジョゼフ相手に死に掛けてるだけあり、いざ決闘の時が近付いてシルフィードも気が気じゃないのだろう。
 

406 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 22:00:55 ID:???
「信じて」
「うぅ・・・・・・」
使い魔としては、主人にそう言われたら黙るしかなかった。
改めて言われて、「信じることが出来ない」なんて言える筈もない。

「お姉さまはいじわるなのね。シルフィがいないと作戦も成り立たないっていうのにね」
「ありがとう、感謝している」
「はぁ・・・・・・もうしょうがないのね。お姉さまにはシルフィがついてなくっちゃ駄目なのね」


 シルフィードを説得したタバサは、ゆっくりと確認するように頷く。
(もう・・・・・・負けない)
復讐前だというのに、自分でも驚くほど落ち着いている。
激情に駆られて今までのような無茶はしない。場合によっては退く決断も要る。
二度と無様な醜態は晒さない。ルイズに尻拭いなどさせない。
全てを完遂して未来をその手で掴み取る。自分は・・・・・・もう孤独ではないのだ。





 ウォルターが軽やかな足で戻って来る。
「とりあえず地上軍は止めてきた」
トリステインの地上軍はいないものの、対空攻撃でもされたら邪魔臭いことこの上ない。
事と次第によっては地上軍とも同時に戦わねばとアーカードは考えていたが、それは杞憂に終わった。

 ジョゼフ直属であることと、ヨルムンガントを率いていたことから、実質的な地上軍の最高権限はウォルターにあった。
よって進軍・攻撃中止の命令は呆気なく伝わり、余計な手間を掛ける必要もなくなった。
これで空中艦隊にのみ専念出来る。準備は整った。

「尤も僕が止める以前にヨルムンガントが全部破壊されちゃったから、士気はガタ落ちだったけど」
 

407 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 22:01:58 ID:???
 ウォルターは内心嬉しさを隠し切れなかった。
もう二度と、アーカードと共闘することなんて考えていなかった。
ワルシャワのあの日が・・・・・・思い起こされる。
また肩を並べて闘えることが、素直に嬉しかった。


 空を見上げ、トリステイン艦隊とガリア艦隊の距離を測る。
「・・・・・・そろそろか」
アーカードは88mmを持ち上げる。残砲弾の数では到底全ては落とし切れない。
オストラント号が進む道筋の敵艦を、的確に選んで支援する必要がある。
いざ飛び立とうとした瞬間、ウォルターが声を上げた。

「あっ・・・・・・」
「なんだ?」
「いやぁ〜・・・・・・」
ウォルターは思わず言葉を濁す。アーカードは眉を顰めた。

「歯切れが悪いな」
「ヤッバイなぁ・・・・・・、元素の兄弟を忘れてた」
「誰だ?」
「こっちにいる数少ない手練れの連中さ」
アーカードは「ふむ・・・・・・」と考える。
こっちにいる手練れと言えばルイズの母親、烈風カリンを思い出した。
彼女ほどの強さは、恐らくハルケギニアでも早々いるものではないと思われる。
が、ウォルターが言うくらいだ。相当な使い手なのは確かだろう。

「その連中がジョゼフの命令で、ちょっと任務請け負ってんだよね」
ウォルターは言いにくそうに続ける。
 

408 :ゼロのロリカード-55:2010/03/15(月) 22:02:12 ID:???
「標的は虚無の担い手。ティファニア、ヴィットーリオ。一応は攫って来いって命令」
「それならば問題なかろう」
ティファニアにはアンデルセンが、ヴィットーリオには大尉がそれぞれついている。
最低でも烈風カリンと同等以上の実力者でなければ、まず負けることはない。


「そして、トリステインのアンリエッタ女王」
「なんだと?」

「元素の兄弟は四人。んで当然余るから、国のトップを狙う命令もついでにね。
 水魔法で傀儡にするって話だった。だけど教皇ヴィットーリオと女王アンリエッタ。
 この二人に限っては、最悪殺してしまっても構わないって命令だ。
 トップが死んで国が荒れ、より一層の混沌が見られるならばそれも良しってね」

「いずれにせよ遅かろう。戻っても間に合うとは限らんし、既に終わっている可能性もある」
「まっ、確かにそうなんだけど」
アンリエッタにはアニエスがついている。念話での交信は出来なかった。
未だに血は飲んでいない半人前だが、腐っても吸血鬼。そこらのメイジには遅れをとるまい。
感覚を集中させると、アニエスがまだ滅していないということだけはわかった。
だがそれがイコール、アンリエッタの無事に繋がっているかはまた別である。
これから襲われる可能性。アンリエッタのみが殺されている可能性。

(昼間に襲われた場合が厄介か・・・・・・いや、無用に心配しても詮無いな)

 今はアニエスを信じよう、我が血族の強さを。

409 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/15(月) 22:03:04 ID:???
以上でした、ではまた。

410 :マロン名無しさん:2010/03/15(月) 23:48:18 ID:???
乙〜
続きが凄い気になる。
楽しみに待っております

411 :HELLOUISEの中の人:2010/03/16(火) 20:44:49 ID:???
お久しぶりです。投下します。

412 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:47:32 ID:???
平野にあって屍を山と生み出す、人と、そうでないモノの血戦。
それを遠く数リーグの距離から眺める者がいた。
タルブの平原と森の境目、そこにある大きな木の上に彼女が座っている。
アーカードだ。

「ふむ……意外と早かったの、みな」
「やっと見つけた。ったく、目印くらいつけておけよ」

ウォルターは悪態を吐きつつ、アーカードの目の前、彼女と同じ樹、別の枝に降り立つ。
直後、ウォルターと同じ樹の左の枝にセラスが、右隣の樹の大枝に大尉が現れた。
計で四人。ここにいるのは、血戦の主役達の使い魔である。

「お久しぶりですね、マスター」
「うむ。息災にしておったか、婦警。……そちらのワンちゃんも元気なようじゃの」
「………」

互いに挨拶を交わす。
が、大尉とアーカードは明らかに剣呑な様子を隠しもしない。
森を飛んでいた鳥が落ち、遠く戦場でグール達の動きが乱れた。
それを見て、ウォルターは嘆息しながら間に入る。

「おら、殺気立ってんじゃねぇよてめぇら。向こうでグール共が怯えてんじゃねぇか」
「おお、これはすまなんだ」


413 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:48:37 ID:???
やれやれ、と首を振るアーカード。そして、僅かに目を伏せる大尉。
会えばいつも睨み合い続ける二人だが、ウォルターが釘を刺すとこうして一応は反省した素振りをみせる。
もっとも、一応、でしかないのだが。
これもまたいつものことである。既に見慣れた事象、いつもどおりの一幕だ。
もっともセラスはこれにいつまで経っても慣れないらしく、
彼女はウォルターの目の端で顔色を青くさせ、胃が痛いのかしきりに胸に手をやっていた。
彼女のそんな様子に毒気を抜かれ、ウォルターは心中で苦笑する。
――まあ、仕方ないか、と。
ウォルターはこれ見よがしに二度目の嘆息を吐く。

セラスには少しきつい状況だと解っていた。
大尉とアーカードだけではない。一見、朗らかに声を交わす四人組だが、誰一人目は笑っていないのだ。
ここまで殺気だった顔で向き合うのは本当に久しぶりのことである。
できれば話し合いで済ませたいのだが――

「や……」
「闘るのかの?」

その意志を言葉にするより先に、アーカードにそれを問われた。
端的な台詞にこめられた濃密な死の匂いに、ウォルターは我知らず背筋を震わせる。
自分の両脇の様子が、セラスが固まり、大尉が構えたのが見えた。
鋼糸を繰る両手が反応しそうになるのを必死で押さえつけながら、つまらなさそうな表情を作って言う。

「やらない。闘う気はないよ」
「ほう?」
「……」

アーカードが、大尉が、心底から意外だという表情をした。
その奥でセラスが安堵の表情を浮かべるのも見えて、ウォルターは再度苦笑する。
この面子が傷つけ合わずに済んでよかった、というところだろう。
本当に、人のいいことだ。

414 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:49:39 ID:???

「なぜか、と問うてもいいかの?」
「……解っているんだろう、お前も」

アーカードが理由を問う。
だがその目の奥に、やはり、という色があるのをウォルターは見抜いていた。

「この中の誰か一人が動けば、他もみんな出なきゃならなくなるからな」
「それの何処が悪い?楽しい楽しい戦争の始まりではないか」
「これは主達の舞台だ。彼らと彼女の物語だ。僕らのじゃあない。
 劇の最中に、違う劇を始めるなんて正気の沙汰じゃないね」
「ふむ。だが――」

アーカードが反駁を重ねようとする。
けれど、何を言われるか解っていたウォルターは、それを遮って続けた。

「ああそうさ。僕らも確かにこの舞台の一員だよ。だけど、僕らの役割は観客なんだ。
 マナーの悪い観客が可笑しなことを仕出かさないよう、首輪をつけてやるのが僕らの役目だ。
 そこまで含めて演劇なんだから」
「……それでいいのか?」
「構わないさ。僕はギルデンスターンでいい、それで十全だ。ハムレットなんて二度とごめんだね。
 喜劇を見るのは好きだけど、演じるのは好きじゃないんだ」
「なるほどの。……お主がそう言うのならば、それでよい」


415 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:50:20 ID:???

皮肉げに、何かを揶揄するように呟くウォルターの顔は、真剣そのもので。
紡いだ言葉はきっと、一度は考えすぎて踏み外したウォルターが、
それでも考え続けた果てに辿りついた答えだった。

そして、答えを見つけたウォルターは止まらない。

「……お前こそ、どうなんだ。何故だ、と聞かせてもらうぞ」

ウォルターは、一歩を。
一度は開いてしまった、かつてあの英国で自分が開けてしまった、彼との距離を埋めるための。

「……なぜ、彼女を止めなかった?自分の主を正真正銘の『吸血鬼』なんぞにしたのは何故だ」

大きな一歩を、踏み出した。


416 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:51:17 ID:???

 
――それは、人間賛歌。


――それは、怪物哀歌。


――そして、遠い日の、歌。



桃色の少女が、歯を食いしばる。
ぎりぎり、ぎりぎりと。

「ルイズ、愛しいルイズ。辛いのかい?」

そして少女に問うは老いた男だ。
少女は否、と首を振る。

「いいえ、違うわ。悲しいの。切ないの。……寂しいの」

最後の一言だけは、小さく、呟くように。
少女は全て。全ては少女。
故に少女は全てを認識する。
かつて死に損ない、そしてたった今殺されていく己が領民達も。
領民達に奪われ、我々に取り込まれる命も。
それを悼み、と歯を食いしばる少女を見て、老人は薄く笑った。
とてもとても悲しい笑み。


417 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:54:15 ID:???
「ルイズ、我が主。ならばもう止めてしまえばいい。今ならばまだ間に合う」
「ええ、きっとそうなのでしょうね、ワルド。ソレが一番賢い選択なのよ。
 ……でも、ごめんなさい」

そう言って俯く少女を、老人――ワルドは抱きしめる。
頭をなでると、少女が僅か、あ、と切なげな声を上げた。

「本当に。本当に本当に、君はどこまでも貴族なのだな」
「今はただのルイズよ。貴族の地位にはないわ」
「だとしても――今の君は誰よりも貴族然としている。私が、いや、僕が保証しよう」
「……ありがとう」

かつての一人称で言い直したのは如何なる理由か。
それは少女には、否、きっとワルド自身にすらはっきりとは分からなかった。
ただ少女に分かるのは、彼の声に幼き頃と同じ、自分を守ってくれる優しさが其処に込められていること。
少女がワルドを抱きしめ返す。少女は胸に顔をうずめ、二人はそのまま暫しの間を過ごす。
だがやがて、強く、未練ごと裂くかのようにワルドは少女を引き剥がし、踵を返した。
主たる少女に背を向けたままで、ワルドは言う。

「ルイズ。貴族のルイズ。君が貴族として死なんと思うならば、――笑え」
「…………」
「君は魔王として討たれることを望んだ。ならば最後まで傲岸に不遜に笑って見せろ。
 魔とは、王とはそういうものだ」
「………わかった」
「そして――忘れてくれるな。君には領民が、我々がいるということを。君はたった一人ではないということを。
 君が君としてこの道を選んだが故に、僕はここに居るということを」
「……ワルド………」

少女は微かに手を伸ばし、しかし何も掴まずに下げる。
ワルドは杖を掲げ、先を見据えた。そこは戦場。ツェルプストーという名の矢が驀地に突き進んでくる死地。
パキパキ、という音と共に、老人が消えていく。
皴が消え、髪の毛が色を取り戻し、壮年の男性が現れる。

418 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:55:55 ID:???
「足止めが必要だね。僕は先にいくよ、ルイズ」

かつての心に続き、かつての――グリフォン隊の隊長として名を馳せた頃の――力と姿を取り戻したワルドは、
風と共に一瞬で消えて見せた。
残されたのはただ一人のお姫様。

「……バカ…」

いく、という言葉には多くの意味がある。
そのうちのどれをワルドが意識したかなんて、聞くまでも無かった。

「一人じゃない、って言ったくせに。先に逝ったりしたら、許さないんだからね」

少女は少し強がって、そして、泣いた。


タルブ村。
そこは戦争における要地で、だからタルブ領伯となった人間は命を落としやすかった。
だから、アルビオンの侵攻で前タルブ伯が死んだ後、係争に荒れたのは必然で。
結局、政争の果てに王家が直轄したが、要地とはいえ、王家が辺境の統治に常に気を配ったりしないのも必然で。
更に言えば、それだけ荒れたのだから、係争問題が有名になるのも必然だった。
故に、そこが盗賊に襲われたのも――ほとんど必然だった。

それはよくある悲劇だった。
ロビン・フッドの居ない現実に、当たり前に起きる悲劇だった。
ただ一ツ違ったのは、ロビン・フッドになりたかった少女が居たこと。
彼女は決定的に間に合わなかった。けれども全然遅かったわけでもなかった。
彼女が見たのは、死の村。

419 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 20:56:40 ID:???
老人が殺され、女達が犯され、子ども達が奪われ、若い男達は手足の腱を切られてそれを眺めるしかない。
ただ一人、友人たる侍女だけは森へ逃げて純潔を守っていたものの、腹部を大きく切り裂かれて重傷を負い、
最早死を待つばかりの状態。

そんなところに、彼女は間に合ってしまった。
そう、きっとそれこそが、最大の悲劇だった。


そこまでを一息に語ると、アーカードは一度口を閉じた。
そして再び語りだす。今度は物語でなく、己の信条を。

「…わたしは。わたしはな、ウォルター」

重々しく、痛切な声色。
同時、アーカードは目線を遠くへ、数リーグ先の戦場へと向けた。

「人間とは、可能性だと思っている。人間は無限だ。無限の可能性を持った存在だ」

つられて他の全員も戦場を見遣る。
巨大な螺旋が戦場を駆け巡っているのが見えた。

「人間は弱い。だが強くなれる、何処までもな。特に――何かを背負った人間は」

それが誰を指しているかなど、聞くまでもなかった。
アーカードも含め、全員が思い浮かべたであろう、銃剣を持ったアーカードの好敵手と、小太りの戦争屋。
そして、元の世界で今も待ち続けている、アーカードの本来の主。

「何かを背負った人間は強い。それが命よりも重いものならば尚更だ。
 だが、何かを背負うというのは、可能性を狭めるということでもある。
 背負うものに圧し潰され、或いは依存して……
 人間は化け物へと成り下がる。私やアンデルセンのようにな」


420 :HELLOUISE IF 中編2:2010/03/16(火) 21:00:35 ID:???
大尉が遠くを見た。その先に在るのは今の主の姿か、それとも。

「だから私はローマが嫌いだ。宗教が嫌いだ。人の可能性を潰す、人を死に追いやる者達が嫌いだ。
 ――貴族が嫌いだ」

アーカードが拳を胸元に寄せる。
ぎり、と握られる拳には、何が詰まっていたのだろうか。
それは多分、アーカード自身にも分からなかった。

「ルイズはどうしようもなく貴族だった。たとえ世俗の地位に居なかったとしても、貴族だったのだ」
「……貴族としての責務に圧し潰されて、あの子は化け物になってしまった、ということですか?」
「否。もっともっと単純な話だ。
 目の前に救われぬ人間がいて、ルイズは仮初の救済を与える手段を持っていた。自身の終わりと引換のな。
 そして、『貴族として』という理由が、ルイズに最後の最後の後押しをした。それだけの話だ」

そう、それだけのことだ。
死にたくないという友人の、村人達の願いを、自らの領民にするという形でルイズは叶えた。
だがそれは魂を吸い、自身が『終わってしまう』ということ。
そうしてルイズは『ルイズだった少女』に、吸血鬼(ドラキュリーナ)になった。
そうしてアーカードは、また近しき者を『貴族』という概念に殺された。

後に残ったのは重苦しい沈黙――幾許かのそれを間に空ける。
が、突然、弾かれたように全員が顔を上げた。
視線は遠く、戦場へ。

「決着が……」
「つく、な」

それは誰の声だったか。言った者にすら分からない。
ただ一つ言えるのは、それが酷く憂いに満ちた声であったことだけだ。


421 :HELLOUISEの中の人:2010/03/16(火) 21:02:19 ID:???
えーと、どうもすみません、お久しぶりです。規制に巻き込まれたりグレたりしてました。
今回で終わるつもりだったのですが、戦闘終了までいけず。HELLSING本編完結記念のつもりが(ry
なるべくHELLSING原作のイメージを崩さないようにしつつこの濃い四人を一緒にするのが一番大変でした。
上手くいっているといいのですが…気がつくとすぐセラスか大尉が空気になります。
大尉は喋らないし、セラスはギャグ時空じゃないとはっちゃけきれないし。

ちなみに今回の内容ですが、
・ゼロ魔原作のタルブ戦でタルブ伯が光の速さで戦死(というか登場せず戦死)→ルイズ吸血事件
・生前のヴラド3世が為政者として冷徹な統治(間違ってはないと思いますが)を行い、結果民の反感を買って、
 更にその上自国の貴族にも裏切られまくり、挙句死後も……→アーカードの貴族嫌い
・HELLSING原作のウォルターが「できるだけいい役を…」と言ったこと、スラングの「ハム」(≒大根役者を指
 す。語源は諸説ありますが、ハムレット関係という説が幾つか)→ウォルターの見つけた答え
といった具合に踏まえてみました。
っていうか、ゼロ魔は最近の巻を読めていないのですが、一つ目はマジで大丈夫なのでしょうか。
リアルでヤバイよなぁ、と思って読んでましたが。あんなとこ誰も欲しがらないでしょうし。

さて、それでは読んでくださり、ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。
次こそIFは終わり。本編戻ります。来年度になりそうですが、よろしければまたお会いしましょう。

422 :マロン名無しさん:2010/03/18(木) 00:06:34 ID:???
久乙

423 :マロン名無しさん:2010/03/19(金) 20:21:03 ID:???
ゼロリカ&ヘルルイズ乙。
近い期間に投下が二つあった割には過疎ってんな。時節柄か?

424 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/22(月) 21:51:56 ID:???
HELLOUISEさん乙です。
お互いこのスレも長いですねw


んでは、投下します。

425 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:53:34 ID:???
 ――――――アルビオン、シティオブサウスゴータ。
戦禍は癒えたとは言い難いが、それでも人々は元の生活に戻りつつあった。
昼日中、やや人目を忍ぶように歩く三人の姿がある。
一人は帽子を目深に被った少女。一人は妙齢の女性。一人はやや年食った大男。
ティファニア、マチルダ、アンデルセン。

 元々引越しを考えていたこともあってか、ウエストウッド村が襲われてからすぐに居を移した。
先の戦争によって帰らぬ者が多く、安く家が手に入ったことも起因した。
ジム、ジャック、サム、エマ、サマンサ。子供達は、何もかもが新鮮な新生活に喜んだ。
古巣に帰ってきたマチルダは、知り合いのツテで新たに真っ当な職に就き、皆を養っている。
ティファニアはハーフエルフである以上、大っぴらに学校に通ったりは出来なかった。
が、それでも皆で暮らせることが何よりも幸せだと感じていた。

 そしてアンデルセンは、不定期ながら戦後の荒くれ者などを討伐し報酬を得ていた。
トラブルバスター紛いの仕事をしながら、子供達の世話をする。
これ以上望むべくものはない幸せな生活。
それでも頭の中に、澱のように溜まったしこりがある。
アーカードとの決着。その為に人知れず鍛錬は欠かさなかった。
何より実戦の勘を鈍らせない為に、盗賊退治などを請け負ったりしていたのだった。


 休日の昼、皆でどこか外で食事をしようということで、子供達の遊び場に三人は揃って向かう。
「あっテファ姉ちゃん!!」
一人の男の子が気付いて声を上げた。
それに合わせて子供達が、めいめいにテファのところへ駆け出してくる。
「みんな、お昼ごはんよ」
子供達はそれぞれ元気良く返事をした。快活で真っ直ぐな子供達。
「今日は外で食べるよ」
マチルダの言葉に、子供達から歓声が上がる。
「でも一度家に帰って、ちゃんと手を洗ってからですよ」
「は〜い」
アンデルセンが温和な笑みを浮かべて言い、子供達は素直にそれに従う。

426 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:54:18 ID:???
 
「じゃあ兄ちゃん、また後でね!!」
「ああ、また後で」
テファ、マチルダ、アンデルセンの三者は、"兄ちゃん"と呼ばれた"少年"を見つめる。
子供達より一回り大きく、金の短髪で悪戯坊主風の少年。
年の頃は10歳程度だろうか、やや大人びた雰囲気を持っていた。

「一緒に遊んであげてくれたの?ありがとう」
「いえ、そんな・・・・・・みんなで一緒に遊んだんです。遊んであげていたわけじゃありません」
テファのお礼に少年は礼儀正しく対応する。

「なかなかしっかりした子だね。ついでだし一緒に来なよ、ご馳走してあげるからさ」
「いえ、そんな悪いですよ。僕にはお構いなく・・・・・・」
「子供が遠慮なんてするもんじゃないよ」
マチルダは強引に少年を誘う。子供達も「そうだよ〜」と賛成し、後押しをした。
少年は少しだけ悩む素振りを見せ、そして純真な笑顔で答えた。
「そうですか、ではお言葉に甘えます」


 ふと・・・・・・アンデルセンだけが感じた違和感。拭いきれない何か。
少年の微笑みの裏に隠された素顔を、幾許か垣間見たような気がした。
襲撃のこともまだ記憶に新しく、神経過敏かと思いつつも・・・・・・。
(・・・・・・警戒はしておいて、し過ぎるということもない)

 極々自然に、自分以外の全てを庇うような立ち位置へとアンデルセンは移動する。
「ちょっと、よろしいですか?」
「はい?なんでしょう」

 疑問符を浮かべる少年。まさかこんな少年が刺客とも思えないが。
それでも疑念が浮かんだ以上は、その曇りの一点でさえ看過は出来ない。
故にアンデルセンは極小の殺気を叩き付けた。一般常人であれば到底感じ取れない。
しかしてそれなりの強者であれば、確実に感付いて何かしらの微細な反応が出るほど絶妙な殺気。

427 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:54:36 ID:???
 
 しかし少年の反応は・・・・・・――――――驚くべきものであった。
僅かな機微を見せるどころか、一瞬で数メイル後方まで飛び退いて、構えをとっていた。
アンデルセンの放った殺気をこれ以上ないほどに感じ取り、頭で考えるより先に識域下で反応した。
非常に洗練され熟達した強者の動き。その突然の様相にアンデルセン以外は呆気に取られていた。


「チッ・・・・・・」
少年は僅かに顔を歪ませ舌打ちをする。
それは今までの少年の様子とは明らかに異なった表情と所作。
「スマートに終わらせようと思いましたが・・・・・・」
一転して悪意を浮かべる少年は「演劇はここまで」と言わんばかりに笑った。
聞きしに勝る人物だ。まさかこんなすぐに感付かれるとは思ってもみなかった。
油断を誘い、突けば、楽に任務を遂行出来ると思っていた。
が、そんなに甘くは無かった。いや、ここは素直に賞賛を送るべきかも知れない。

「何者だ」
アンデルセンは問うと同時に、手でマチルダに合図を送る。
不穏な気配をようやく察したマチルダは、すぐにテファと子供達を下がらせた。
「ダミアンと言います。あなたの名前は存じていますよ、『聖堂騎士』アレクサンド・アンデルセン神父」
アンデルセンの顔が険しくなる。
何故なら『パラディン』の呼び名を知っているのは限られていた。

 ダミアンは飄々とした様子でアンデルセンに告げる。

「あぁ、他の皆さんは一度帰ってもらって結構ですよ。今は手出しするつもりはありません。
 こうなった以上はあなたをどうにかしないと、こちらとしても任務を遂行出来ないでしょうしね。
 逆にあなたという存在さえ排除してしまえば、後は何のことはない・・・・・・楽な仕事です」

「任務・・・・・・」
一難去ってまた一難。アーハンブラ城から帰って、ようやく落ち着けたと思っていた。
しかしそう甘くないようだった。十中八九ウォルターと同じ、ガリアの手の者。

428 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:55:17 ID:???
 
「場所は・・・・・・そうですね、お好きなところで。街中でのドンパチも構いませんが――――」
ダミアンは「あなたがそれで良いのなら」と視線で送る。


 アンデルセンは踵を返して、皆に向き直る。
「先に帰っていて下さい」
優しい神父のそれを浮かべる。
マチルダやテファはもちろん、子供達も薄々何かおかしいと気付いていた。

「ちゃんと、アンタも帰ってくるんだよ神父」
他の刺客もいるかも知れない。よってマチルダは加勢することは出来ない。
すぐにでも身を隠す必要性もある。

「・・・・・・ご飯、作って待ってます」
テファは健やかに笑った。
外食は中止。だからかわりに「帰って支度をしないと」と、そう思っていた。
「えぇ、"すぐ"に戻ります」
テファのその笑顔に応える。時間を悠長に掛けるつもりはない。


 皆の姿がその場からなくなってから、改めてアンデルセンはダミアンへと向き直る。
その間、ダミアンは隙あらばと考えていたものの・・・・・・当然そんな油断を見せる筈もなし。
アンデルセンの悪鬼の如き眼光にも、ダミアンは風に吹かるる柳の如く流して余裕を崩さない。

「それじゃ・・・・・・行きましょうか、アンデルセン神父」
ダミアンは翼でもついているのかと見紛うほど、軽やかに近くに屋根の上まで跳ぶ。
アンデルセンもその鍛えた肉体で、無骨ながらも難なく屋根へと上がった。
 

429 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:55:39 ID:???
 屋根を飛び移っていくダミアンについていきながら、アンデルセンは兇暴な笑みを浮かべる。
任務・・・・・・?刺客・・・・・・?何度でも来るがいい。
どれほどの罠が張り巡らされていようとも、どれほどの戦力が待ち受けていようとも。
襲い掛かる全てを迎え討ち、降り掛かる全てを粉砕し、迫り来る全てを絶滅させてやる。

「Amen」





 ――――――ロマリア、大聖堂。
ロマリア艦隊とガリア両用艦隊が衝突してから三日ほど経過する。
大聖堂内でたった一人ヴィットーリオは頭を巡らせていた。

 思っていたよりも両用艦隊は強力であった。戦力ではなく、その統率がである。
同じブリミル教徒として、侵略の名目でロマリアを攻めることが、どれだけの愚かな行為か。
予想していたよりもあまりにも反乱が少ない。それでなくとも、兵達の士気を保つのは難しい筈。
だが両用艦隊は揺るがなかった。数で勝る上に、士気も保たれているとなると、こちらの敗北は必至である。

 ガリア両用艦隊の強さは、当然兵の練度にも起因していた。
が、しかし・・・・・・それよりも何よりも、報酬の大きさが兵達の士気を高めていた。
始祖信仰はガリアの兵士達にも確かに根付いているし、当然躊躇もあった。

 だがガリア王ジョゼフは、勝利の暁にはロマリア全てをくれてやると確約していたのだった。
そして両用艦隊旗艦『シャルル・オルレアン』号に乗った、艦隊司令クラヴィル卿。
彼は彼自身の裁量でもって、兵達に爵位や貴族籍などの報酬を約束した。

 軍人である以上、上の命令は絶対である。
さらには心の拠り所でしかない信仰よりも、即物的な報酬の方が魅力的であったのだった。
ガリア両用艦隊の戦力を以てすれば、ロマリア艦隊であっても負けることはまずない。
戦力比から考えても重大な損害も被る可能性は低く・・・・・・結果として、打算的見地から反乱は抑えられた。

430 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:56:34 ID:???
 

 よってヴィットーリオは腑に落ちぬまま、計画を早めることにした。
虚無の魔法の一つ、『記録』によってガリア王ジョゼフに救いを与える。
当初の予定では、トリステインの虚無とその使い魔が、ガリアの戦力を削ってからにしたかった。
そうでなくては、いくら大尉の操る風竜でもジョゼフまで近付くのは困難を極める。
それに場合によっては自分が出張らずとも、そのままジョゼフを討ってくれるかもという打算もあった。
しかし未だトリステイン軍とガリア軍の衝突は回避されている。
恐らくは機を待っているのだろう。

 このまま時間が経つほど、ロマリアは国土を蹂躙される。
一刻も早く、この無益な戦争を終結させねばならない。
相当なリスクを伴ってしまうが、今すぐに行かねばならなかった。

 ヴィットーリオは覚悟を決め、いよいよ以て大聖堂を出る。
「どうも」
呼び掛けられて気付く。
声の方向に目を向けると、ローブを纏った筋肉隆々の巨漢が地べたに座っていた。
男は「待ちかねた」とばかりに、立ち上がる。


「おれの名はジャック、ガリア北花壇騎士所属の元素の兄弟が次兄」
ジャックと名乗るその男は、小瓶を出すとそれを飲み干した。
ヴィットーリオは後退る、ガリアの刺客が送り込まれるなど・・・・・・。
ロマリアの中枢まで乗り込んでくるなど、到底考えもしなかった。
厳重な警備はもとより、何の騒ぎもなくここまで入り込んでくるなど有り得ない。

「驚いたかい?・・・・・・まあ『手引き』があったとはいえ、苦労したもんさ。
 他の北花壇騎士さんも一応サポートに入ってくれてたらしいが、顔はおろか名前すら知らんしね。
 その点ダミアン兄さんは楽なもんさ。ドゥドゥーとジャネットにしても、おれよりは幾分か楽だろうよ」
 

431 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:57:11 ID:???
 ジャックという名の男は、まるで世間話でもするかのように語り続ける。
その時、空中から一人の男が舞い降りた。
ヴィットーリオの目の前に――――護衛するように――――地面を砕きながら、降り立った人狼。

「まあしょうがない。"アンタ"と闘り合うにあたって、おれが一番適任だからな」
ジャックは特に慌てた様子もなく、現れた"大尉"を見つめる。

「大尉さんだっけ、アンタをわざわざ待ってたんだ。話を聞いていて興味が湧いたもんでな。
 他の世界の化物と闘える機会なんて、普通はあるもんじゃない。素晴らしい戦いになることを願うぜ」

 ジャックは手をポキポキと鳴らす。
準備運動のように爪先をコンコンと地面に叩きながら、杖を取り出した。

「っといけねえ、その前に・・・・・・おれは仕事をする前に値段を教えてやるんだがね。
 ほらっ、なんだ・・・・・・自分にそんくらいの価値があったと思えば、少しは気が晴れると思ってね。
 まあそこは流石の教皇さん、値段はつかなかった。報酬は好きにして良いって言われた。
 豪気だよなあ。だからおれは好きだぜ、あの王様。まっそんくらいじゃないと割に合わん気もするがね」

 ひたすら喋り続けるジャックと、ひたすら寡黙に睨む大尉。
対照的な二人を結ぶ空間が、闘気で歪んだような感覚を覚える。

「いいねえ、待ちきれないって感じか。話はここまでにして、さっさと始めようか」

 二人は同時に――――――地を蹴った。




 

432 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 21:58:14 ID:???
 ――――――トリステイン王宮、中庭。
アンリエッタは空を仰ぎ、ルイズ達の無事を祈っていた。
既に本格的な衝突が起きていても不思議ではない。
そしてその一戦が、トリステインの命運を分ける一戦とも言える。
 
「今頃、戦っているのでしょうか」
アンリエッタは最も信頼する従者に、心情を吐露する声音で言った。
「心配は無用かと存じますが」
アニエスは率直に答えた。朝日が体に染みるので、ローブを被っている。
心配するだけ無駄だと、心底思っていた。そも祈ったところで無為だと思っている。
「それでも・・・・・・せずにはいられません」
アニエスはそれ以上何も答えず、ただ黙って付き従う。


 そのままゆっくりと時間は過ぎる。
そしてアニエスは、近付いてくる異変に気付いた。
どこにでもいそうな、男女の一組。恋人同士か、兄弟か、友人か。
それ自体は珍しくもないが、王宮まで入ってくるという事態が異常だった。

(兵士達は何をやっていた・・・・・・?)
戦に駆り出されているとはいえ、城の警備を疎かにするほどではない。
そこでようやくアンリエッタも気付いて、首を傾げていた。

「全くドゥドゥー兄さまったら本当にグズだわ!資料をなくすなんて信じられない!!」
「だから何度も謝ってるじゃないか、ジャネット。いつまでも言うなんて女々しいぞ」
「いや、女ですし。それにそういう問題じゃないでしょ」

 ドゥドゥーとジャネット、二人の名のようだった。
こちらが眼中に入っていないのか、仲良く罵り合っている。

 アニエスはアンリエッタを避難させるべく口を開く。
「不穏です、すぐに――――――」

433 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 22:00:26 ID:???
 
「あっ!あの人達に尋ねてみよう。うん、それがいい」
男の方がアニエス達に気付いて叫んだ。暢気に「お〜い、そこの人」と手を振っている。
アニエスはアンリエッタの前に立ち、左手を後ろ腰に回した。
ドゥドゥーとジャネットは、揃って無警戒に・・・・・・極々普通に近付いてくる。


「ねぇちょっと、あの後ろのほう・・・・・・あれターゲットでしょ。頭に王冠乗っけてるし」
ジャネットに言われドゥドゥーも「あっ」と気付く。

「ほら見ろ、やっぱり僕が困ってると神さまは味方してくれるんだなあ」
「運が良かっただけでしょ。それにわたしが言わなければ、兄さまは気付かずに無視しかねなかったわ」
「ジャネット、最近ぼくへの言葉が辛辣過ぎないかな?」
「ドゥドゥー兄さまがおバカなんですから、しょうがないわ」
「なっ・・・・・・バカはないだろ、バカは」

 二人の様子に見かねて、アニエスはそっとアンリエッタを逃がそうとする。
女王陛下をターゲットと言った、この者達は間違いなく敵だ。

「あっと、そっちの人!!逃がそうとしないで!女王さまも逃げちゃ駄目よ!!」
しっかりと注意を払っていたジャネットが、それを制する。
アニエスは目を細め、左手は後ろ腰のままに右手で剣を抜いた。
ドゥドゥーはそれを見て、嬉しそうに口を開く。

「なあジャネット、楽しんでもいいかな?きっとあれが例の彼女だよ」
ドゥドゥーは不敵に唇の端を上げる。
ターゲットの情報は既に聞き及んでいる。当然それを護衛する戦力も。
フードで顔はよく見えないが、背格好からして女。
さらには女王付きともなれば、十中八九吸血鬼の騎士。
人間時代からも『メイジ殺し』としてそこそこの実力だったらしく、ドゥドゥーの食指が動く。

 

434 :ゼロのロリカード-56:2010/03/22(月) 22:00:52 ID:???
「駄目だって言っても楽しむくせに、本当にしょうもない兄さまですわ」

(男の方は戦闘狂か・・・・・・)
アニエスは冷静に見据えながら、戦力分析をする。
既に吸血鬼となった身。そこらのメイジ如きなど相手になりはしない。
とはいえ戦力分析は、長年で染み付いた習性に近いものだった。
元はメイジでもない、ただ鍛えただけの人間。
敵の戦力を見誤れば、それは死に繋がったからである。

「あっ当然女王さまの方は手出ししちゃ駄目よ。したら私も加勢するわ」

 心配そうに見つめるアンリエッタに、アニエスは顔を確認することもなく答える。
「大丈夫です、すぐに終わらせます」

 そうだすぐに終わる。ここまでやって来れた以上、かなりの実力なのだろう。
だが吸血鬼のスペックに加えて、対メイジの経験に慣れたアニエスにとって、何ら障害にはならない。

 ドゥドゥーは鞭のようにしなる杖を取り出すと、そのまま上段に構えた。
相手は決闘のつもりなのだろうが、そんなことは関係なかった。
アニエスは相手が詠唱するよりも早く、――――――腰の"それ"を引き抜いた。

435 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/22(月) 22:05:40 ID:???
以上です。まとめいつもありがとうございます。

今回の話は本筋の決戦とは別の、各キャラにスポットをあてた話になります。
時系列はバラバラなんですが、ストーリーの展開上順番に消化していくと味気ないものになるので、
本筋に挿入されていく形になります。混乱されることもあるかも知れませんがご了承下さい。

ではまた。

436 :マロン名無しさん:2010/03/23(火) 00:02:15 ID:???
支援遅れた
乙〜

掲載ペース早いんで凄く嬉しいわ〜
ゼロ魔は1期をアニメでかいつまんだだけだから
新キャラ全員オリジナルだと思って読んでるw

437 :マロン名無しさん:2010/03/23(火) 08:02:02 ID:???
乙っす
原作での扱いの悪さからか、この兄弟がまともに戦うSS見るのは初めてだ
次回も楽しみにしてまっする

438 :マロン名無しさん:2010/03/23(火) 15:34:14 ID:???
更新乙です。大尉が戦う姿を見られるのか。これは期待大!

439 :マロン名無しさん:2010/03/24(水) 18:08:10 ID:???
乙、ワンワンはどうするのか

440 :マロン名無しさん:2010/03/26(金) 23:45:15 ID:???
Wikiの方で56話一気読みしますた。
次回楽しみに待ってます.

441 :マロン名無しさん:2010/03/28(日) 00:37:03 ID:???
Wikiだとページ数で数えるからタバサのを含めて59
つぎの投下で60になって長編(ページ数順60P〜)になるな

442 :マロン名無しさん:2010/03/28(日) 06:29:20 ID:???
久々にOVAみたんだが、ルイズが召喚しても、こき使われそう
コルベールが煙草に火をつけたり、色々頼まれるんだろうなぁ

443 :マロン名無しさん:2010/03/28(日) 15:08:35 ID:???
ルイズ=セラス
コルベール=ウォルター のポジションになるだろうな

444 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 00:56:02 ID:???
魔法学園の宝物庫に半壊して機能停止した少佐が入っていたら

445 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 01:31:10 ID:???
餓死してます

446 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 01:44:27 ID:???
今更ながら、少佐ってロボなんだよなぁ…

447 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 11:39:02 ID:???
少佐曰く、脳髄だけだろうと、プログラムだけになっていても人間と言う意思、自覚が有る限り人間だそうだ。
少佐はドクの遊び心で合体変形機能が付こうと、ゲッターアークの敷島状態になっていても人間のままだろう。

448 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 20:24:54 ID:???
それって本編で言ってた?

449 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/29(月) 21:51:32 ID:???
どうも投下します。

450 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:52:51 ID:???
 少女の背丈よりも遥かに大きい88mm砲、それをさながら棒っきれを振り回すが如く。
空を疾駆し、撃ち放ち、撃墜していく、高機動空中砲台アーカード。
時に寄ってくる竜騎兵を、88mmで豪快に殴り飛ばしながら。
ガンダールヴの効果も相まって、100%中の100%といった精度で目標を射抜き粉砕していく。

 ウォルターとヨルムンガントに対して使い過ぎた所為もあってか。
いつしか砲弾も切れて役立たずとなった鉄塊を、ワインドアップで手近な艦へと投げ付ける。
砲身から88mm砲は突き刺さり、叩き込まれた敵艦は一気に傾く。
無手となったアーカードはジャッカルとカスール銃へと持ち替え、傾いた艦へと追い討ちを掛けた。

 後はいつかのタルブと同じ。贄に対して暴虐の限りを尽くした餐。
時折思い出したかのように竜騎兵を撃ち落としながら、敵戦力を削ぎ落としていく。
転々と艦を乗り換えていく、少女の形をした禍々しき『悪魔』。
天災と言っても差し支えないほどの黒禍は、何者であっても止めることなど出来ない。
狂喜に笑いながら、例外なく眼前の敵を討ち滅ぼしていく――――――。


 ウォルターは天高く糸を伸ばす。
加速度を持った鋼線は、易々と敵艦の装甲を裂き破る。
艦に引っ掛けたのを手応えから感じると、次に拳を握って思い切り糸を引き込んだ。
ウォルターの体は勢いよく宙に浮くと、そのまま糸に導かれるように艦へと乗り込む。

 アーカードの砲撃に巻き込まれないよう、敵艦を注意して選びながら沈めていく。
敵兵の抵抗を歯牙に掛けず、ただひたすら死へと誘い続ける『死神』。
その姿を見れば最後。敵であると認識した時には既に遅い。
詠唱する暇も、武器を抜く暇すらも与えられず、一瞬にして細切れの肉塊と化す。

 化物な上に、ガンダールヴの効果まで上乗せされたアーカードの強さには及ぶべくもない。
だがそれでも戦果に於いては負けていない。糸の斬撃は大人数を相手にしても一瞬で屠っていく。

 戦場に舞う、悪魔と死神。僅か二人の戦力は、ガリアのそれを上回る――――――。

451 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:53:18 ID:???
 




 アーカードによって開戦の号砲が鳴らされ、オストラント号は空を駆ける。
いくらオストラント号が速いと言っても、元々の艦隊差。ひいては兵の物量差がある。
艦を、騎兵を、砲を切り抜け・・・・・・ジョゼフらの乗ったフリゲート艦まで近付くのは容易ではない。

 アーカードの精密な支援砲撃もいつしか終わる。
砲弾切れは当然、その後はルイズがオストラント号の進行を支援する。
大小を撃ち分けるエクスプロージョンによって、敵艦や竜騎兵を吹き飛ばしていく。
それでも漏れた敵は、キュルケや他のメイジたちがフォローしてくれた。

 ここに来て、ルイズは『無想』の境地を体現していた。
案外自分は実戦向きなのかも知れないと、心のどこかで思う。
感情が魔力となり、魔力のうねりが体中を駆け巡り、巡った力は安定して魔法となって放たれる。
頭は冷静に状況を把握し、的確に優先目標を判断。
詠唱が流れるように紡がれ、爆発は敵を殺傷することなく無力化し、船の針路を開いていく。

 ――――――そして、オストラント号はエンジンを点火すると一気に突き進む。
遂にはジョゼフ達の乗ったフリゲート艦を、その眼で捉える距離までに至った。
だがそこは同時に、敵陣の真っ只中でもある。オストラント号は味方艦隊から離れて孤立した状態。
より苛烈になる状況でいつまでも戦えるわけもない。

 瞬間、タバサを乗せたシルフィードが飛んだ。
ルイズを拾うと、すぐさま急降下しながら加速する。
ルイズとタバサを送り出したオストラント号は、一転して離脱態勢に入った。

 

452 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:53:49 ID:???
 速度を上げたシルフィードは、上昇と旋回を繰り返しながらフリゲート艦へと近付く。
いよいよ以てジョゼフとビダーシャルを、その視界で見定める距離まで迫った。
「来たか・・・・・・」
ルイズとタバサにその声は届いていない。
しかし杖を構えたジョゼフのその言葉は、確かに聞こえた。

「ッッ!!?」
敵を炯々と見据えていたタバサの目が見開かれる。ジョゼフが杖を振っていた。
瞬く間に、目が眩まんばかりの光が目の前で膨れ上がる。
だが同時にルイズも、エクスプロージョンを放っていた。

 二つの光の球は互いが互いを浸食し、相殺される。
「大丈夫、行って!!」
「シルフィード!!」
ルイズの言葉に反応し、タバサは使い魔の名前を叫ぶ。
それに呼応して、シルフィードはさらに一段速度を上げた。


 二発目のエクスプロージョンをルイズは警戒していたが、それが放たれることはなかった。
――――――放つ必要が、なかったのだ。

 シルフィードが甲板方向に突っ込んだその瞬間、最高速度であったその身は一気に減速した。
その手前の虚空で、空間に張られた壁のようなものに阻まれたのだった。
ルイズとタバサは慣性によって、二人揃って中空へと勢いよく放り出される。
シルフィードもそのまま弾かれた。

 タバサは咄嗟にフライを唱える。
重力のくびきから解放されて空を飛ぶタバサは、すぐにルイズの姿を探した。
飛行の魔法が使えないルイズは、うつぶせに体を広げてマントをはためかせていた。
そのおかげか墜落による加速が抑えられ、呆気なく見つけて追いつくことが出来た。
 

453 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:54:32 ID:???
 タバサはルイズの手を取りそのまま飛行する。
落下速度を抑えながら飛行していると、シルフィードがすぐにやってきて、二人は再度その背に乗った。

「あ゛〜〜〜、集中切れたわ・・・・・・」
ルイズが呻く。
「カウンターなのね!あれじゃ近付けないのね!!」
シルフィードが叫ぶ。
「・・・・・・」
タバサは黙ったまま、ひたすらに高速で思考を回転させる。


 非常にまずい状況と言わざるをえない。
シルフィードに言われずとも、タバサもルイズもカウンターを実際に目にしたことがある。
大気に張るように展開する見えない壁が、カウンターによるものだということはすぐにわかった。

 先住の『反射』と虚無の『爆発』。その二つの併せ技は、凶悪極まりなかった。
ルイズがカウンターに対してディスペルを使おうとすれば、ジョゼフがその隙にエクスプロージョンを放つ。
しかしジョゼフのエクスプロージョンを相殺してしまうと、今度はディスペルが唱えられずカウンターが邪魔をする。
両方を同時に対処出来ない以上、フリゲート艦に乗り込むことが出来ない。
先住を無効化出来るのは虚無だけであり、虚無を相殺出来るのも虚無だけ。

 ――――――ここは諦めて、アーカードを待つべきか。
ここで無理しても、勝ち目は薄い。
結局全てをアーカードに任せてしまうのかと思うと、悔しい気持ちになる。

 或いは、エクスプロージョンでフリゲート艦を丸ごと包んで墜落させる。
とはいえ当然ジョゼフも対抗してくるだろうから、実際にどうなるかは未知数。
それに仮に成功したとしても、地上でジョゼフと戦うということは・・・・・・――――――。

「シルフィード、お願い。もう一度飛んで」
ルイズのその言葉に、タバサはルイズを見やった。
するとルイズは微笑んで、頼もしく告げる。

454 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:55:12 ID:???
 
「私の剣に解除をかけるわ。その上でエクスプロージョンで相殺しながら、反射を切り裂いてみせる。
 それでとりあえずは突破出来る筈よ。だからタバサは私の空けた反射の穴を、正確に通ってきて欲しいの」

 ルイズの提案、フリゲート艦に乗り込む為の唯一とも言える突破口。しかし――――――。
「・・・・・・危険」
「百も承知よ」
「反射を突破してもエルフがいる」
「あなたが来るまで、何とか踏みとどまるわ」

 タバサは考える。そしてすぐさま言い切った。
「ここは退く」
「どうして!?」

 ジョゼフとルイズは互いに相殺し合い、次に詠唱するまで間が出来る。
だが、エルフは反射と同時に別の先住魔法を行使可能で、虚無の担い手を相手にして容赦するとは思えない。
そしてジョゼフにも『加速』がある。恐らくは一度使えば一定時間は効果が続く"かけ捨て"のタイプ。
突破して着地した瞬間に、ビダーシャルとジョゼフの二人から同時に強襲を受ける可能性も考えられる。
ルイズ一人を、そんな危険に晒すわけにはいかなかった。

 またルイズのエクスプロージョンによって、艦を墜落させた後に戦った場合は勝ち目が薄過ぎる。
諸々鑑みて状況を考えれば、ここは口惜しいが退却の一手を選ぶしかない。


「・・・・・・確かに、危険かも知れないけど」
食い下がろうとするルイズにタバサは危険を諭す。
ルイズは苦虫を噛み潰したような顔になり、渋々納得する。
ルイズ自身、己のことだから強硬したくなるが、逆の立場だったらタバサを止めるだろう。
 

455 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:56:06 ID:???
「ちょっと二人とも!!すっごいヤバいのね!!!」
飛行を続け、もう一度フリゲート艦を特攻圏内に捉えた時、シルフィードが叫んだ。
ルイズとタバサの目に映ったのは、フリゲート艦の周囲に展開した相当数の竜騎兵。
竜騎兵達は、すぐにシルフィードの存在に気付き、隊伍を組んで近付いてくる。
否・・・・・・それだけではなく、旗艦から出撃した竜騎兵が、続々とシルフィード達を囲い始めていた。

「・・・・・・再挑戦はおろか、退却も難しくなったわね」
認めたくない現実、眼前に広がる光景。ルイズの言葉には大きな溜息と焦燥が感じられた。
先行してくる風竜に乗ったメイジの放つ魔法が、シルフィードと背に乗った二人を襲う。
ルイズは即座にエクスプロージョンで応戦する。

 シルフィードは高速で飛びながら、ルイズが敵竜騎兵の追撃に対応する。
しかし絶対的に敵の数が圧倒的に多く、いつまでもルイズの魔法で保てるものではない。
タバサは冷静に・・・・・・展開している竜騎兵の穴を探す。

 そして見つける。僅かに一角、逃れられそうな間隙を。
「シルフィード!!」
タバサはシルフィードを誘導し、シルフィードはとにかく必死に全速力で飛ぶ。
続く追撃をルイズはいなし続け、見えていたフリゲート艦はどんどん離れていった。


「くっ・・・・・・」
ルイズに冷や汗が流れる。
敵の数が多すぎる。成体の風竜はシルフィードよりも速い。
迎撃しつつも、追撃はどんどん厳しくなっていった。

(一発大きいのを放って・・・・・・)
自分達ごと巨大なエクスプロージョンで包み、その間に離脱する隙を作る。
タルブの時のように、任意に標的を指定すればそれも不可能ではない。
だがそれだけの規模の爆発を放つ為には、相応の詠唱する時間が必要だった。
とはいえ、このままではジリ貧なのは目に見えている。

456 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:57:12 ID:???
 

「タバサ――――――」
ルイズがタバサに詠唱の為の時間稼ぎを頼もうとした瞬間、浮遊感を味わう。
シルフィードがいきなり急降下していたのだった。

 そして陽光を遮った影につられて真上を見ると、一体の火竜騎兵が視界に入った。
完全な奇襲だった。いや・・・・・・敵竜騎兵隊によって、誘導されていたのかも知れない。
シルフィードがとった回避行動も既に遅し。
タバサはかつて巨大な火竜のブレス攻撃をも防いだジャベリンを唱え始める。
しかしルイズの爆発も、タバサの氷槍も、詠唱は到底間に合わない・・・・・・。

 火竜が大きく開けた口腔から、赤色が見える。
ブレス攻撃。炎の息は自分達を難なく燃やし尽くすだろう。
そう、頭のどこかで思いながら・・・・・・死を覚悟するでもなく。
耐え凌ぎ、生き抜いてやろうと体を強張らせた瞬間・・・・・・眼前は熱によって包まれた――――――。





 互いに振りかぶった拳が衝突する。
骨の軋んだ音が、腕の先端から体に伝わりジャックは顔を歪める。
次の瞬間には、衝撃に逆らわずに飛び退いていた。
「ッ・・・・・・ふゥ、なるほどねえ。ガチンコじゃ分が悪いかね」
たった一撃、だがその一撃のみで相手の力量の一端が垣間見れた。されど底はまだまだ見えない。

 関節各部に仕込んだ先住の効果によって、ジャックの身体能力は人の域を超えている。
右上半身に『硬化』をかけ、拳を鋼鉄に変え、渾身のストレートを放ったにも拘わらず打ち負けた。
もしも僅かにでもタイミングがズレて生身のままに打ち合っていれば、腕など粉々に吹き飛んでいたことだろう。
 

457 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:58:23 ID:???
(勢い込んで相手しようとしたものの・・・・・・コイツァ骨が折れるってレベルじゃねえな)
ジャックが杖を構えると同時に、大尉は腰のものを引き抜く。
銃身が不必要と思える程に長いメーターマウザーを両手に持ち、そのまま連続して引き鉄を引いた。

 ジャックは弾丸の掃射を一身に浴びる。普通であれば、それで蜂の巣になって終わり。
しかし驚くべきことに、ジャックは詠唱をしていた。
大尉はゆったりと首を傾け、抑揚のない瞳でジャックを見つめる。

 この程度の銃撃にも対処出来ないようでは、相手にするまでもないと撃った。
そしてジャックは・・・・・・撃つ前に止めるでもなく。銃弾を躱すでもなく。魔法で防御するでもなく。
ただ受け止めたのだった。己の拳を受けて破壊されぬ肉体といい、闘うに値する強者。
常に微動だにしない大尉の心が震える。望むべく、強き人間との闘争。

「生憎と全身に硬化を掛ければ、これくらいはなんてこたあねえ」
弾丸は切れるほどに撃ち尽くされ、その間に長めの詠唱を終えたジャックはニヤリと唇の端を上げる。
「次はこっちの番だ」


 卓抜した土メイジであるジャックが作り出した、恐るべき数の鉄の矢が一挙に大尉へと放たれた。
大尉はマウザーを放り投げると、ヴィットーリオの壁になる。
そのまま豪快に腕を振り回し、迫り来る矢を叩き落としていく。
無数の矢がひしゃげて地面に落ちる中、ジャックは右斜め前方向へ跳んでいた。

 同時に手に持ったナイフを全力で投擲する。
――――――狙いはヴィットーリオ。
目下の障害として大尉を倒すのはかなりきつく、生け捕りは尚のこと困難。
故にさっさとヴィットーリオを殺す。大尉を無視して、本来の標的を狙う。
 

458 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 21:58:50 ID:???
 戦車砲が如き速度と精度で投げ込まれたナイフは、ヴィットーリオの眼前数サントというところで止まった。
次いで舞い上がった土片が、鉄の矢と共に落下する。
大尉はジャックの意図をしっかりと見抜き、とてつもない加速を持ったナイフにも反応していた。
瞬間的に地面を蹴り上げた風圧と土砂で、矢の勢いを完全に殺す。
同時に左手を出して、主人であるヴィットーリオに迫ったナイフを掴んでいた。

「ヒュウ〜♪さすが」
その見事な手際に、ジャックは思わず口笛を鳴らす。止められたことによる驚愕や焦燥は無かった。
ヴィットーリオはただただ呆然とし、大尉はそのままナイフを握り潰した。
――――――と、大尉は握ったことで傷ついた己の左手を見つめる。

「・・・・・・執事さんが言ってた通り、やはり銀が効くんだな」
ジャックがほくそ笑むように言った。
ジャックは錬金で作った鉄の矢とは別に、予め作っていた銀のナイフを投擲していた。
ヴィットーリオに当たれば任務はそれで達成されて御の字。
仮に止められても、狼男である大尉にダメージが通る。

「体を張って止めたりしてくれれば、こっちとしても楽だったんだがなあ」
偽らざる本音であった。正直ここまで強いとは思っていなかった。常備していた銀武器は、投げた一本のみ。
心臓にでも当たってくれていれば、それで決着はついた。
普通の攻撃では、大尉を殺すことはおろか傷一つつけることも出来ない。
ダミアン兄さんにも、ドゥドゥーとジャネットにも、目の前の化物は倒せない。
土メイジたる自分が大尉を相手に一番効率良く立ち回れ、最も勝てる可能性が高い。
だからこそ、一番面倒なロマリアの担当は自分だった。


(しっかし、銀を錬金するのはちと面倒だな・・・・・・)
ジャックはナイフを投擲していた間に、完成させていた呪文を開放する。
すると周囲の土が盛り上がり、十数体に及ぶゴーレムが作り出された。
 

459 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 22:00:16 ID:???
 新たに銀を作る為の詠唱を稼ぐ為に、単純に物量で押す。
主人であるヴィットーリオを守らねばならぬ以上、それで時間を稼げる。
単に魔法で目くらましをするよりも確実。その間にジャックは細かい銀粒を錬金で作り始めた。
避ける隙間もないほどの銀をおみまいする。効率的に銀を生成し、尚且つ相手に効果的な攻め。

 一体一体が、先住によって強化されたジャック並の動きでゴーレム達は襲い掛かる。
半分は大尉を足止めるように、そしてもう半分はヴィットーリオを狙うように動く。
大尉の蹴りの一薙ぎで、一瞬にして最前衛のゴーレムが三体ほど吹き飛ぶ。
大尉に焦りの色はまるで見られず、工程の決められた作業のように、淡々と迎え討ち破壊し尽くす。
護衛する以上その場を離れられないものの、迫り来るゴーレムを歯牙にかけない強さ。
最後の一体を粉々にした瞬間を待ち構えていたように、ジャックは振りかぶって手の中の物を投げた。

 細かい銀の散弾は、ショットガン顔負けの速度で放たれる。回避する隙間のない面攻撃。
大尉は鉄の矢を弾いた時のように、またも地面を蹴り上げた。
散弾は呆気なく土片に阻まれ、その役目を終える。


(それは一度見たし、読んでいた・・・・・・)
心の中でジャックは勝ちを確信する。予想していた内の対応の一つ。
中空を舞う散弾と土と埃。それに紛れ、身を隠すようにジャックは飛び込んでいた。
次いでジャックの右の手刀が、大尉の体に突き込まれる。

 パワーも、スピードも、反応も、全てが常軌を逸した怪物。
なれば、見えぬところから攻撃すればいい。銀の散弾に意を向けさせ、その間隙を狙う。
大尉の眼から逃れ、意識の外から突き出した、その手を銀に変えた手刀。
それで心臓を貫いて終わり――――――。

「ぬッ・・・・・・」
その時、ジャックの顔が苦悶に歪む。貫いた手応えを感じない。
視界が晴れて見えたのは、大尉に掴まれて・・・・・・無残に折れる己の右手首。
そして結果は――――――僅かに胸の薄皮のみを裂いただけ。
 

460 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 22:00:49 ID:???
(この状況でも反応したってのかよッ!!?)
ジャックを掴んだまま、大尉は左膝蹴りを打ち込んだ。
咄嗟にジャックは折れた右手首を無視して肘を折り曲げ、右膝も同時に曲げる。
全身に硬化を掛け、左足で大地を踏みしめ、大尉の蹴り足を挟むようにそれをガードした。
しかし大尉が繰り出した蹴りは、尋常ならざる威力で以てジャックの防御を突き抜ける。

 躯の芯まで響き通る衝撃に、ジャックの肺から息が漏れる。
ジャックの気負いは空しく、蹴り飛ばされた衝撃で十数メイルほどバウンドしてからようやく止まった。
「ックソ・・・・・・」
天を仰ぐように倒れたまま、ジャックは誰にともなく毒づく。
(だめだ・・・・・・強過ぎる・・・・・・)


 ジョゼフの戯れの提案で、ウォルターと勝負をした時のことを思い出す。
ウォルターに勝てば、ジョゼフは好きなだけ褒美をやると言った。
意気込んでいたドゥドゥーを差し置いて、自分が最初に挑んだ。
結果は負け。ジョゼフの遊びに付き合わされただけなのだと、残った三人は戦わなかった。

(あぁ・・・・・・あの執事さんより、コイツは強ぇんじゃねえのか)
付け入る隙というものがまるで存在しない。ヴィットーリオを守りつつも驚愕の強さ。
ウォルター相手であれば、腕の一本や二本を惜しまなければ、その代わりに命を獲るくらいの気概はある。
それほど己の強さに自負はあったが・・・・・・その自分が、遥か及ばぬ高みにいる"存在"。
吸血鬼、竜、エルフ・・・・・・ハルケギニアのどんな化物よりも、恐るべき化物の"人狼"
安易に勝てるなどと、微塵にでも思ったことすらおこがましい。
「銀があれば倒せる」などと、任務前に軽く言ったあの若い執事を恨みたくなる。

 舌打ちをし、意識を何とか繋ぎ止めながら顔を上げたジャックが見たものは、さらに驚くべきものだった。
大尉の顔半分が動物の毛に覆われ、瞳の色は兇暴さを色濃く見せている
口を大きく開け、牙を剥き出しにし、威嚇するように見据えている。
まずいと思って詠唱を始める。その間に大尉の体は膨れ上がり、巨大な狼の姿へと変貌していた。
 

461 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 22:01:43 ID:???
 狼はジャックを睨み据える。それは獲物を狙う肉食獣のそれ。
ジャックが一瞬早く魔法によって、壁を作り出した。
縦に高く、横に広く、奥に厚く。分厚く巨大な土壁はそのまま鋼板と変わる。

 四足獣の突進。
恐らくはそれが大尉とやらの全力。
何者も触れられぬ霧と化して加速し、衝突の瞬間に実体化する。
その運動エネルギーたるやどれほどのものか。
あの大きな顎に噛み砕かれぬものなど存在し得ないのではないか。

 鋼壁は容易く打ち破られ、余波だけでジャックの巨体は軽々と吹き飛ぶ。
巨狼はそのままジャックまで追い縋り、空を仰いでいるジャックの体の真上で人型へと戻る。
同時に大尉はジャックを地面に固定でもするのかと思うほどの勢いで、鎖骨を踏み蹴り抜いた。
そして地面にめり込んで動かなくなったジャックの肉体から、飛び退いて踵を返す。


 ・・・・・・もはや、ジャックという人間に指一本動かすだけの余力すら無い。
攻撃の手応えから、もはやトドメを刺すまでもなく死ぬことがわかる。
強い人間ではあったが、自分を打ち倒してくれるほどではなかった。
大尉は想い続ける。己を打ち倒してくれる人間を待ち望む。
それが化物である自分の本懐。戦争犬としての在り方。理想的な最後。

("本物の化物"か・・・・・・)
奇跡的に残った意識で、ジャックは己のすべきことを導き出していた。
もはや勝ちの目はない。否、最初から可能性などゼロだったのだろう。
このままでは時を経ずして死ぬ。ジャネットがいれば治せるだろうものの、生憎と今は孤立無援。
だが・・・・・・生憎と無駄死には御免だった。

(ダミアン兄さんの夢の為にも・・・・・・)
もしここで自分が任務を成功させれば、それで報酬は貰える。
仮に他の三人が失敗しても、生きてさえいてくれれば、それで己が果たした分の報酬は貰える。
 

462 :ゼロのロリカード-57:2010/03/29(月) 22:02:11 ID:???
「あぁそうだ・・・・・・簡単なことだ。命と引き換えにすればいい」
ジャックはかすれた声で呟く。そして詠唱をする。
大尉が来る前にヴィットーリオを殺しておくべきだった。
それだったら今この場にあって、こんなにも気張らずに済んだ。もっと楽に済んだ。後悔しても遅い。
だが・・・・・・まだ終わっちゃいない。まだ・・・・・・間に合う、間に合わせる。


 大尉はもはや振り向くことすらしない。
魔法を放つ余力など、残っていないと思っているのだろう。

(あぁ、最後の意地くらいは・・・・・・見せてやるさ)
精神が肉体を凌駕する。
致死のダメージを負って尚、ジャックは呪文を唱え続けた。
そしてジャックの決死の呪文は完成する。
錬金によってジャックの周囲の土が大量の火薬へと変えられた。
爆発すれば少なく見積もっても、大聖堂一帯は軽く吹き飛ぶであろうほどのもの。
あわよくば・・・・・・余った銀散弾が、爆発の勢いで以て大尉を貫き殺してくれるだろう。

 大尉が嗅覚で火薬の匂いを感じ取って、ようやく視線を向ける。
人間の底力。既に死んでいる筈の躯に鞭を打ち、美事に果たしたジャックの魔法。

 もう、遅い。大尉が己を殺すよりも早く次の魔法は唱えられる。
ジャックの笑みがこぼれ、発火の魔法が発動する。
瞬間、辺り一面の空間は光熱と音の衝撃に包まれた――――――。

463 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/03/29(月) 22:02:44 ID:???
以上です、ではまた。

464 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 22:10:40 ID:???
うぉーゼロリカさん来てたー大尉カッコ良過ぎっしょー
投下乙でした

465 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 22:35:45 ID:???
乙〜
いやー面白い!続き待っております

466 :マロン名無しさん:2010/03/29(月) 23:09:17 ID:???
乙!
これで今日も幸せに眠れる

467 :マロン名無しさん:2010/03/31(水) 11:54:46 ID:???
インテグラに呼ばれたら素直にそばに行ってあげるロリカードちゃんかわいい

468 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 22:37:15 ID:???
ゼロリカ氏GJ!
>>447
それでも少佐がかっこいいデブであることには変わりないよ

469 :マロン名無しさん:2010/04/01(木) 23:14:49 ID:???
>>467
「バーさまが呼んでるから行ってくる」ってな、心なしか言葉使いも幼くなってたような気がした

470 :マロン名無しさん:2010/04/05(月) 18:45:40 ID:???
ヒラコーのロリカードがまたお目にかかれるとは・・・

471 :マロン名無しさん:2010/04/05(月) 21:43:07 ID:???
kwsk!

472 :マロン名無しさん:2010/04/06(火) 23:13:46 ID:???
>>471
アワーズ読めよ

473 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 04:20:40 ID:???
スマヌ、単行本派なんじゃあ

474 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 14:14:57 ID:???
>>473
そうか
単行本に収録されることはないから諦めろ

475 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 15:20:36 ID:???
ぐぎぎぎぎぎ、残念じゃあ
教えてくれてありがとうよ

476 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 15:53:33 ID:???
ぱっと目次見てドリフ載ってなかったからスルーしたが、そんな隠しがあったのか

477 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 18:05:52 ID:???
ハピキャスの次だな
いつもの単行本作業のためのお休み告知漫画

478 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/04/08(木) 19:32:03 ID:???
祝、ロリカードひとコマだけ復活!

お久しぶりです、シュレの人です。
確率世界のヴァリエール 第十三話 投下します。

479 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:33:55 ID:???
「左手は添えるだけ。」
「こ、こう?!」
タバサの声に緊張の面持ちでルイズが応える。

初夏の日差しが照りつけ始めたトリステイン魔法学院の中庭。
シュレディンガー、キュルケ、シエスタ、ギーシュ、
モンモランシー、ケティ、それにマリコルヌ。
いつもの面子が顔を揃え二人を見守っていた。
「そして詠唱。」
「よ、よしっ!」
ルイズがきりりと眉を上げ、杖を振るう。
「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」

ふわり、とルイズの体が宙に浮かぶ。
「や! や? やたっ!」
慣れない浮遊感に思わず内股になりつつも、ルイズは
離れていく地面を見つめ両手をぴんと横に突っ張ったまま快哉を叫ぶ。
「どう? どう?! どうよ! 浮いたわ私! すごいわ私!!」
「わ! わ! 浮いてますわお姉さま!」
「ちょ! 待って、浮いてるってルイズ!」
「きゃあ!? う、浮いちゃってますルイズさん!」
周りから上がる悲鳴とも歓声ともつかぬ声にも目を向ける余裕は無い。
「だから浮いてるって言ってるでしょ!
 フライ(飛行)の魔法は成功よ!」
「そうじゃなくて、こっち!」
慌てふためくキュルケの声にルイズが顔を上げると、
そこには宙に体を浮かせばたつく皆の姿があった。

「何で私たちまで浮かせてんのよ!!」
「おお」 「おお、じゃないっ!」



480 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:35:11 ID:???
「次は僕が教師役だね」
丸テーブルの上の小石を前に、ルイズはギーシュへ胸を張る。
「任せて、錬金の魔法は得意よ!」
「ルイズちゃん、教室を等価交換して瓦礫の山に換えるのは
 錬金って言わないからね? 念のため」
「判ってるわよ!」
茶々を入れるキュルケを睨み付ける。

「じゃあ、僭越ながらまずはお手本という事で」
ギーシュが詠唱とともに杖を振るうと小石が緑色に輝き出す。
「おお〜!」 「お粗末」
一礼するギーシュが錬金で作り出したのは、
多少の曇りはあれど紛れも無いエメラルドだった。

「じゃ、じゃあ次は私ね!」
「何でも良いんだルイズ、このエメラルドを見て
 頭の中に浮かんだものを、心に強く思い描いて」
「よ、よーしっ!」
目をつぶり、精神を集中する。
「イル・アース・デルっ!」

げこげこ。
さっきまでエメラルドだったそれが足を生やして跳び跳ねる。
「っきゃあー!」
「せ、生命を練成した?! 等価交換の法則はあ?!」
「だって何だかカエルっぽかったから! カエルっぽかったから!」
ルイズの言い訳も空しく、緑のカエルはテーブルの周りを跳び回る。
「ま、まさに黄金体験ですわお姉さま!」
「マリコルヌ、シャベルよ! シャベルでアタックよ!」
「やだよモンモランシー! それ涙目のルカじゃないか!」



481 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:36:22 ID:???
「、、今度は真面目にやってよね、ルイズ」
ルイズがモンモランシーに向かって頬を膨らませる。
「失礼ね! 私はいつだって100パー真面目だっつうの!」

「はあ、、、まあいいわ」
モンモランシーはため息を一つつくと、
シエスタから受け取ったグラスをテーブルの上に置いた。
「この魔法は水系統の初歩の初歩。 コンデンセイションよ」
詠唱とともにモンモランシーがグラスに杖をかざす。
グラスの内側に水滴が浮かび、流れ溜まってグラスを満たしていく。
「ま、ざっとこんなものよ」
「うーん、地味ね」
「あ、あんたねえ、、、」
眉をヒクつかせるモンモランシーにルイズが見得を切る。
「こんな地味魔法、楽勝よ!」

「、、、で、まだ?」
「も、もうちょっと待ちなさいよ!」
あきれ声を上げるモンモランシーにルイズは振り向きもしない。
詠唱を終えグラスに向けた杖に力を込めるが、何の変化も現れない。
「ぬ、ぬうう、、」
ごぽり。 グラスに溜まった水の中に気泡が上がる。
「な、何これ? 水の中に何か、、」
「水の中に不純物、ルイズの念は具現化系。」
「水見式か! 、、、ってタバサ、これ?!」

げこげこ。
グラスを挟んでモンモランシーとルイズがにらみ合う。
「何であんたはカエルにこだわる!」
「わ、私だって知らないわよ!」



482 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:37:59 ID:???
「はーい、みなさん。
 このあたりで一休みしましょう」
パラソルの付いたテーブルに退避した皆に
シエスタが色とりどりのシャーベットを配る。
氷の魔法で作るのを手伝ったタバサの前には
どんぶりサイズの特大シャーベットが置かれた。
その隣にはシルフィード用の飼い葉桶いっぱいのシャーベット。

「んはあ〜」
いち早くクックベリーのシャーベットをゲットしたルイズは
さっそく一口ほお張ると至福の表情を浮かべる。
「すごいやルイズ、本物の魔法使いみたいだったよ!」
「はっはっは、もっと褒めていいわよシュレディンガー。
 あと本物みたい、じゃなくて本物だから。
 すでに。 まさに。 ガチに。」
鼻高々に背もたれにふんぞり返る自分の主人を
シュレディンガーがニコニコしながらうちわで扇ぐ。

「な〜に威張りくさってんのよ。
 私の目には失敗のバリエーションが増えただけにしか
 写らないんだけど?」
「ふっふっふ、言ってなさい」
隣のテーブルからのキュルケの声も今日は軽く受け流す。
「他の魔法はいいけどさ、私の時はちゃんと成功させてよ?
 炎の魔法でさっきみたいな失敗なんて想像したくも無いわ。
 地獄絵図よ、ヘルピクチャーよ」
「安心なさいなキュルケ。
 どんな事があろうとあんたにだけは魔法習わないから。
 今日のあんたは天才の開花を見守る単なるギャラリーよ!」
「な、何よソレ」



483 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:44:51 ID:???
休憩を終え、日差しの強くなった中庭で。
ルイズがタバサの指導の下、サイレントの魔法で
なぜか巨大竜巻を発生させ学院長の像をなぎ倒しているのを
遠めに見ながら、パラソルの下でキュルケはつぶやく。

「、、、ま。
 今までの爆発オチから比べれば、格段の進歩ではあるケドね」
それはキュルケも認めざるを得ないようだ。
「しっかしあの娘が本当に虚無の系統だったとはね〜」
日差しにダレるフレイムの口もとへシャーベットを一さじ運ぶ。
仰向けに寝転んだヴェルダンデのお腹を撫でながらギーシュが答える。
「何だい、君は信じていなかったのかい?
 『虚無のルイズ』なんて二つ名を名付けたのは君だろうに」
「あれはほんの冗談で、、って、ギーシュ。
 あなた最初から虚無だって思ってたの?」
「勿論」
事もなげにギーシュが返事をする。

「ギーシュ! 錬金!錬金!
 ルイズが学院長の像を錬金で直そうとしてるから!
 その前に早く!」
「おお、それは大変」
モンモランシーの叫びにギーシュは腰を上げる。

モンモランシーにどういう意味かと詰め寄るルイズを皆がなだめ、
ギーシュが悪趣味にもバラの花束を背後に背負わせた学院長の像を
錬金で作り直すのを眺めながら、キュルケはあくびを一つする。

「ふわ。 、、、平和だわね」
その横でフレイムも貰いあくびを一つした。



484 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:46:37 ID:???
同日、同時刻。
浮遊大陸アルビオンの東端、ニューカッスル。
戦火の傷を晒したままのその古城の地下、隠された空中港の桟橋で
二人の男たちが今まさに邂逅を果たしていた。

「やっと会えたな、子爵」
アルビオン王国皇太子、『プリンス・オブ・ウェールズ』
ウェールズ・テューダー。

「光栄の至り、殿下」
トリステイン王国グリフォン隊隊長にしてゼロ機関機関長。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。

居並ぶ歴戦の兵たちが見守る中、
彼らは固い握手を交わした。


「して殿下、状況は?」
石造りの長い階段を上りながら、ワルドが尋ねる。
「明後日には停戦会議を控えているしな、
 あちらも下手に動く事はできんのだろう。
 しかし子爵、私は今でも悩んでいるのだ。
 他に選択肢は無かったのか、とな」
「心中、お察し致します。
 しかし殿下とて、奴らが素直に会議の席に着くとは
 お思いではないのでしょう?」
「確かに、な」
「それに今や我がトリステインはアルビオンと一蓮托生。
 アルビオンの危機は即ちトリステインの危機でもあるのです。
 殿下がお気に病む事は御座いません」
「そう言ってくれると、幾らか気は休まるがな」


485 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:49:18 ID:???
急な階段は螺旋を描き、上へ上へと続いていく。

「明日」
ワルドが声のトーンを落とす。
前後について階段を上る衛兵たちはこの会話が極秘のものである事を
悟り、歩調をずらし距離を取る。

「レコン・キスタの中でもトリステインに私怨を持つ者達が
 『今回の停戦合意に反対』しロサイスにて軍艦を強奪、
 トリスタニアを目指しダングルテールへ降下します」
「、、、」
その扇動役を誰が担うのか、聞かずともウェールズは承知している。
「しかし、『偶然』ダングルテール付近で演習中であった
 トリステイン軍二個師団と遭遇、交戦状態となります。
 軍艦と言えど相手は二個師団、判刻と持たずカタは付きましょう」
「トリステインの民に、被害が及ぶ心配は?」
ウェールズが尋ねる。
「その心配は御座いません、殿下。
 ダングルテールは20年以上も前に見捨てられた土地です」
ワルドはその経緯について語ろうとはしない。

「国土への侵攻を理由にトリステインは即日レコン・キスタへ
 宣戦布告、殿下には停戦会議を破棄して頂きます。
 トリステインとアルビオンは連合を組み、既にラ・ロシェールに
 停泊させてある艦全てが即時アルビオンへと上陸いたします」
潜められたワルドの声を消すように、足音が螺旋の空間に響く。
「さらにアルビオン南部で活動している『アルビオン解放戦線』と
 カトリック教徒達には、ロサイスの混乱に乗じてそのまま
 ロサイスを攻め落としてもらいます」
「そうなれば残るはサウスゴータとロンディニウムのみ、か」
「左様で」


486 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 19:50:42 ID:???
清廉潔白を絵に描いたようなアルビオン皇太子の顔が
何ともいえぬ影を帯びる。
「すまぬな、子爵。
 そのような汚れ役を貴殿にばかり押し付ける」
「勿体無いお言葉。 それより殿下、この事は」
先を行くウェールズの背をワルドの視線が射抜く。

「無論だ。
 全てはアルビオンの民の為。
 今の話は私一人、墓の下まで持っていこう」
ウェールズは自嘲気味に微笑んだ。

階段の先から日の光が差し込んでくる。
階段を上り終えるとウェールズは廊下を外れ、テラスへと出た。
涼やかな風がウェールズの髪をかき上げる。

手すりに手を突き、遠くを見つめたままウェールズが言う。
「子爵。
 この戦が終わり、アルビオンに再び平和が戻ったその時には、、、
 貴殿と、もう一度会ってみたい。
 今度は酒でも飲みながらな。

 だから、、、死ぬなよ。
 生きて戻ってくれ、ワルド」

ワルドは顔を伏せたまま、かすかに肩を震わせた。
「は、、、
 はっ! 必ず」



487 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:06:26 ID:???
「ルイズー、ぼちぼち時間なんじゃないのー?」
日も傾きかけた魔法学院の中庭で、キュルケがパラソルの下から
だれた声をかけて寄こす。

「え、何? ちょっと待ってて!」
ルイズの作り出した青白い雲を吸い込んだシルフィードの目がとろけ、
見上げるルイズの前でこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。
「おお、やたっ! スリープ・クラウド成功でぎゃふんっっ!!」
勢いを付けて大きく船を漕いだシルフィードの頭が脳天へ直撃し、
ルイズは頭を押さえしゃがみ込む。

「、、、なにやってんのよあの娘は」
キュルケが頭に手を当て、あきれた声を出す。
「『学院長のお使い』〜!!
 ワルド様と一緒に〜、用事あったんでしょ〜!!」
「え、うそ?! やだ、もうこんな時間!」
ルイズが頭をさすりながら立ち上がる。
「え、なになに? またワルド様とのデートなの?」
モンモランシーが興味津々に近寄ってくる。
「でもこの前はデート終わってもなんか重ーい雰囲気だったけど、
 ケンカでもしたの? それでもう仲直り?」
「だ、駄目だよモンモランシー! そんなにズバズバ聞いちゃ」
あまりにもあけすけな質問にギーシュがうろたえつつ間に入る。
だがルイズはギーシュの心配をよそに平然と答える。
「何よ、私はワルド様とケンカなんてしてないわよ。
 でもまあ、仲直りって言えば仲直り、ね」
「? 誰とよ」

ルイズは少し考えてから、はにかむ様に笑った。
「『私の運命』と、よ」
その顔をみてシュレディンガーも満足げに微笑む。


488 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:07:31 ID:???
「ふ〜ん、、、魔法使をえるようになって、
 ちょっとは自信が付いたみたいじゃない。
 じゃあさ、、、」
ニヤケ顔でキュルケが近づいてくる。
「ワルド様のプロポーズに返事する決心も、付いた?」

「へ?」「うそ?」「それはそれは」「拍手。」
「わあ! おめでとう御座います、ルイズさん!」
みなの驚きと祝福の声の中、ルイズはキッとキュルケを睨むが
キュルケはどこ拭く風とニヤけたままだ。
首を振りシュレディンガーに視線を向ける。
シュレディンガーは目を逸らし、口笛を吹き始めた。

がっき。
ルイズのアイアンクローが猫耳頭の後頭部に食い込む。
「みんなには内緒っつったでしょ!
 こんの 猫 畜 生 〜!!」 みしみし。
「いだだだだ! ギブ! ギブ!!」

「な〜にいってんのよルイズ。
 これから婚約しようってのに秘密にしてど〜うすんのよ。
 それとも、結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?」
「そ、、それは、、、」

「それで、なんてお返事するんですか? ルイズお姉さま」
ケティが目を輝かせて聞いてくる。
「魔法もまだ使いこなせない半人前ですしー、なーんて
 言わないでしょうね、これだけ皆に付き合わせておいて」
モンモランシーがにやりと笑う。
「ああもう、いまさら言わないわよそんなこと」
ため息混じりに返す。


489 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:10:32 ID:???
ルイズは皆を見回し、改まった顔で口を開く。
「あ、あのね、あのさ、、、モンモランシー。
 それに、みんなも。
 夏休みなのにわざわざ学院に残ってまで
 私の特訓に付き合ってくれて、その、、アリガトね」

ルイズに似つかわしくないその素直な感謝の言葉に
思わずモンモランシーが赤面する。
「あ、あんたの為なんかじゃないんだからね!」
「で、出たあー! 掟破りの逆ツンデレ!」
「さすがですわモンモランシーお姉さま!」
「ま、ルイズの為じゃないってのは本当なんだけどね」
「はあ? それどういう意味よ」
水をさすキュルケにルイズが食って掛かる。

「いやだってホラ、明後日に日食あるじゃない、日食。
 で、タルブが一番綺麗に見れるらしいのよ。
 それでシエスタの故郷がタルブだって言うからさ、
 それじゃ見に行こうって事でみんなで学院に残ってたのよ。
 特訓もその暇つぶしだからさ、柄にも無く恩に着ることないわよ」
しれっとした顔でキュルケが説明する。
「っていうかルイズ、あんたも誘おうかとも思ってたけどさ〜、
 アンタはホラ、どうせワルド様とアルビオンで見るのかなって」
「あー、ヘンに誘って逃げ道作っちゃ悪いわよねえ」
「逃げないわよ!」
ルイズはシュレディンガーの頭を引き寄せると、
笑顔で見送る仲間達に堅い笑顔で答えた。

「じゃ、じゃあね、みんな。 行ってくるから!」
==============================



490 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:13:21 ID:???
ぼすんっ。
ルイズが目の前に突然現れた何かにぶつかり、尻餅をつく。
「きゃっ?!
 ちょっと、気を付けなさいよ!」
眉をしかめ、シュレディンガーに怒りの声を上げた
ルイズの目に、つば広の黒い羽帽子が飛び込んでくる。
その下には口髭も凛々しい精悍な、しかし優しい顔があった。
「おや、大丈夫だったかい?」
そう言いながらワルドはルイズに手を差し伸べた。

ワルドの顔を見て、ルイズの頭は真っ白に飛んだ。
そう言えばあんな気まずい別れ方をして、その後会ってもいない。
きちんと覚悟を決めた筈なのに、頭に何も浮かんでこない。
あ! 皆と特訓の後、お風呂にも入っていないじゃない!
大体なにをしにここに来たんだっけ?
それと言うのもシュレディンガーがキュルケなんかに話すから!
きちんと返事をしてから皆に言うつもりだったのに。
不意にキュルケの言葉が頭の中にリフレインする。
(結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?)

結婚。
「結婚、して下さい、、」
ワルドの手を握り返す。

「ええ、喜んで」
ワルドは優しく手を引き、ルイズを胸に抱きとめた。

ニューカッスルの風吹き抜ける中庭で、
夕日に伸びた二つの影は一つに重なった。



491 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:14:43 ID:???
「って、違くて!」
「ええ? ち、違うの?!」
急に赤面するルイズに、ワルドが慌てふためく。
「いえ、違うくは無いんですけど、もっとこう!
 いろいろ用意してた言葉があったのに!」
「え〜? もういーじゃーん」
「だああ! アンタは黙っときなさいよシュレ!」
ワルドの手を離れ、シュレディンガーの頭をはたく。

「それはそうだ。
 それに、レディの口から言わせるべき言葉ではないな、子爵」
「わわっ、ででで殿下! いらしたんですか?!」
一部始終を見られた恥かしさから、ルイズの頭に血が上っていく。
そんなルイズにウェールズは優しく笑いかける。
「あいも変わらず元気そうで何より、大使殿」

「いや、まあ、はは、それもそうですね、殿下」
ワルドが襟元を正し、ルイズに向き直る。
「すまない、ルイズ。 僕から言うべきだった」
「で、でもあのワルド様!」
「『様』は、いらないよ、ルイズ」
「でもあのその、わ、ワルド、、私まだ魔法も全然だし」
「それでいいんだ」
「背も、、それに、その、む、胸も、まだこんなだし」
「それがいいんだ」
「? そ、それに、、、!」
「、、、ルイズ。 僕と結婚しよう」

ワルドの目を見つめ、ルイズは涙を浮かべ微笑んだ。
「、、はい、ワルド」



492 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:17:08 ID:???
「そうと決まれば式の支度に取り掛かるか」
ウェールズの言葉にルイズは小首をかしげる。
「式、ですか?」

「そう、僕ら二人のね」
ワルドの言葉にルイズはようやく事態を理解する。
「式って、けけ、結婚式ですか?!
 そそ、そんな! まだ早、、!」
言いかけて、ルイズは湖でのワルドの言葉を思い出す。
「も、もしかして、貴族派がトリステインを狙ってるっていう、
 あの時ワルドが言ってた事が現実に?!」
ルイズの言葉にワルドは小さく頷く。
「ルイズ、僕は今晩にはロサイスへ立たねばならない。
 しかし、僕は必ず君の元へと戻ってくる。
 だから、その約束を僕にさせておくれ。
 始祖ブリミルの前で、永遠に消えぬ約束を」
「、、、」
真実を知るウェールズは黙して語らない。

「、、、分りました。
 ワルド、、、絶対、無事に帰ってきてね」
「君のお望みとあらば」
「よかったな子爵。 では、礼拝堂で待っているよ」
「あ! わ、私もせめておフロに!」
歩み去るウェールズにルイズも付いて駆けてゆく。

ルイズに付いて行こうとするシュレディンガーを
ワルドが引き止めた。
「おっとネコ君、式の前に男同士の話があるんだが、、、
 付き合ってもらえないかな?」



493 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:23:25 ID:???
日の暮れたニューカッスルの礼拝堂。
始祖ブリミルの像が見下ろす祭壇の前に、三人の姿があった。
ワルドの任務の機密性をおもんばかり、ウェールズは
他の人間に式の事も知らせてはいない。

ウェールズから借り受けた新婦の証である純白のマントを
身にまとったルイズは、落着かなげに辺りを見回した。
「もう、またどっかで迷ってんのかしら、シュレの奴」
「ネコ君ならここには来ないよ」
心配げなルイズにワルドが優しく語りかける。
「神聖な儀式という事で、どうも遠慮したらしい。
 控えの間で式が終わるまで待っているそうだ」
「ええ? あーもうあの猫耳頭!
 どーうせまた面倒そ〜とか退屈そ〜とか思って逃げたんだわ!
 ご主人様の一生に一度の晴れ舞台だってのに!
 式が終わったらお仕置きだわ!!」
「まあまあルイズ、彼は彼なりに気を利かせてくれているんだよ」
「もう、ワルドったらシュレの性格知らないからそんな事言えるのよ」
「んんっ、そろそろ宜しいかな、ご両人」
婚姻の媒酌を務めるウェールズの声に、慌てて二人が向き直る。
ブリミル像の元、皇太子の礼服である明紫のマントに身を包んだ
ウェ−ルズが、祭壇の前で高らかに告げた。
「では、式を始める」

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、
 そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「、、、誓います」
ウェールズは静かに笑って頷いた。
「宜しい」


494 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:24:59 ID:???
「では、次に」
ウェールズの視線はルイズへと移る。

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、、」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。
今が結婚式の最中だというのに、ルイズは思い返していた。
相手は憧れていた頼もしいワルド、二人の父が交わした結婚の約束。
幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。
それが今、現実のものになろうとしている。
級友と自国の姫君が睦み合うとんでもない状況で再会を果たしたあの日。
シュレディンガーと異世界を巡っていても一人待ち続けてくれたあの時。
鼻の下を伸ばした男共をよそに酒場で一人賢者の如く佇んでいたあの顔。
ロクな思い出が無いような気もするが、それもまた良し。

「新婦?」
ウェールズの声に、ルイズは慌てて顔を上げた。
「緊張しているのかね? 仕方が無い。
 初めてのときは事が何であれ緊張するものだからね」
にっこりと笑ってウェールズは続けた。
「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。
 では繰り返そう。
 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、
 そして、夫とすることを、、誓いますか」
ルイズは溜まった思いを吐き出し、杖を握った手を胸の前に置いた。
「はい、、、はい、誓います!」

「宜しい。 では誓いの口づけを」
アルビオン皇太子と、始祖ブリミルとが見守る中、
二人の唇は今、静かに重なった。



495 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:27:58 ID:???
くたり、とルイズがワルドの腕に倒れこむ。
「新婦?
 どうしたね? やはり緊張で?」
「いや失礼、ここからは大人の時間なのでね。
 彼女には刺激が強すぎると思い、眠ってもらった」
胸の中にルイズを抱いて、ワルドが悠然と言い放つ。

「子爵?
 いったい何、を、、、?!」
ウェールズが自らの胸に突き立った魔法の光を見つめる。
「あなたが悪いのですよ、殿下」
ワルドはどこまでも優しい笑みを浮かべる。
しかしその笑みは今や、嘘に塗り固められていた。
「貴方があの時死んでさえいれば、
 それで戦争は終わっていた」
ウェールズの胸に突き立った杖をこねる。
「その戦乱の元凶である貴方が言うに事欠いて、
 『アルビオンに再び平和が戻ったその時には』などとはね!
 ははっ、とんだお笑い種だ」
ワルドが杖を引き抜くと、ウェールズの口から鮮血が溢れた。
胸に空いた穴から飛沫が散り、服を真紅に染めていく。

「きさ、、! レコン、キス、、、」
仰向けに倒れたウェールズが悪魔のごとく笑う影を見上げる。
「ああ、あの哀れな貴族派の連中ですか?
 私は彼らのような夢想家ではありませんよ」
ワルドはルイズをゆっくりと祭壇の上に寝かせる。

「せっかく終幕も近いのにこのまま何も知らずに
 舞台を降りるのも可哀想だ、せめてこの先の筋書きを
 教えて差し上げましょう」


496 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 20:30:20 ID:???
ワルドが芝居がかった口調で手をかざす。
「ロサイスの戦艦がダングルテールへ向かうと言ったがありゃ嘘だ。
 艦隊は手薄なタルブを突いてラ・ロシェールを急襲。
 そのまま演習中の二個師団が不在の王都へ西から攻め上る。
 ロサイスを攻めるカトリック教徒達は、まあ返り討ちでしょうな。
 そして、王都トリスタニアの東からはガリアが攻め入る手筈です」
「ガ、リア! 、、、だと、、そうか、き、貴様、、!」
「二国からの挟撃を受ければたとえ王都といえど一晩と持ちますまい。
 死出の旅路を寂しがる事はございませんよ、殿下。
 貴方が慕うあの姫君も、遠からず貴方の後を追いましょう」
「が、、、ま、、、」
「お別れです、殿下。
 こう言っちゃなんですが、私は貴方が好きでしたよ」
ワルドは息絶えたウェ−ルズの手を取り、その指にはまった
始祖の秘宝、『風のルビー』を抜き取った。


「へ〜、そ〜いう事だったんだ〜」
「!!」
場違いなその声にワルドは杖を構え振り向く。
そこには、いるはずも無い者の姿があった。
貫いたはずの胸には一滴の血の跡すら無く、
潰したはずの頭は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「どーして? って顔だね〜。
 君には言ってなかったっけ? ワルド。
 僕はどこにでもいてどこにもいない。
 だから、君が僕を殺しても」

猫が牙をむく。
「僕は、ここにいる」


497 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 20:50:38 ID:???
おお!シュレの人来てた〜♪

498 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 21:04:11 ID:???
ゆっくりと、虚無の使い魔がワルドに近づく。
「僕はね、怒っているんだよ」

眉を上げてうっすらと笑みを浮かべる猫は言う。
「別に君が僕の頭を吹っ飛ばそうが、
 そこの可哀想な王子様の心臓を貫こうが、
 僕にとってはそんな事はどーだっていーんだ」
シュレディンガーの中に、何かが渦巻き満ちていく。
今までに感じた事もない、名状しがたい感情が。
チリチリとしたものが、その胸の内を焦がしていく。
「だけど君はね」
ぎちり、と猫が牙を鳴らす。


「僕の ご主人様(ルイズ)を 裏切った」


ワルドは窓を開け放ち、二つの指輪を外に放る。
始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。
それを空中で咥えたグリフォンが空へ舞い上がり、
西のかなたへ飛び去っていく。
「、、、ほう、そうかね」
返事をしてワルドは頭の中で考える。
まずは指輪さえ届ければ、自分達は後回しでも構うまい。
幸いこの城は浮遊大陸アルビオンの突端、
フライを使い地上へ降りれば後はどうとでもなる。
それよりも。 問題は目の前のこれだ。
幻術? 幻覚? さっき殺ったのはスキルニルか何かか?
超再生? 回復術? それとも、不死?
馬鹿馬鹿しい。
不死身などこの世に存在しない!!


499 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 21:08:05 ID:???
何より確実な事は、やはりこの使い魔は危険だという事だ。
ルイズの心は手に入れた。
しかし、目の前のこれは、人に懐かぬ『死神』だ。
ここで始末をつけねば禍根を残す。
ワルドは杖を握りなおした。
「では、、、どうするかね?」
祭壇で横たわるルイズからゆっくりと距離を取り、
礼拝堂の中央で二人は対峙する。

「どーするかって?」
シュレディンガーが腰の後ろに手を回す。
「こーする」
ズルリ、と黒い塊が手の中に現れる。
「それは、、、!」
ワルドには禍々しい輝きを放つその鉄塊に見覚えがあった。
スパイとしての信頼を得る為、自分がレコン・キスタから盗み出し
トリステインへと持ち運んだものだ。
全長39cm、重量16kg、装弾数6発、専用弾13mm炸裂鉄鋼弾。

対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』

それが今、シュレディンガーの手にある。
ワルドは声を殺し低く笑う。
どんな能力を持っているか知らないが、戦闘に関しては
ズブの素人であるらしい。
いくら威力があろうと、あんなものが当たるものか。
両手で銃を構えてもその足元はふらつき、
銃口を自分に向けるどころか水平に構えることさえ出来ない。
「はははっ、それでどこを狙うというんだい?
 そんなにフラフラしていては一生この私には当たらんよ!」


500 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 21:08:07 ID:???
支援

501 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 21:11:08 ID:???
「へーそう?」
シュレディンガーはワルドの足元に銃口を向け、引き金を引いた。

礼拝堂を轟音が揺さぶった。
シュレディンガーは吹き飛び、壁に叩き付けられる。
そしてワルドも、天井に飾られたフレスコ画を眺めていた。
何が起こったのか、理解が追いつかない。
左手をまさぐったが、持っていたはずの杖が無い。
首を起こし目をやると、杖ごと手の平がどこかへ千切れ飛んでいた。
体を起こそうとすると、腹の中でゴリゴリと何かがこすれる音がする。
親指だけが残ったその左手の先には、大きくえぐれた床が見えた。
あの拳銃の放った弾丸は、莫大な運動エネルギーで礼拝堂の床石を
大きく穿ち、その破片をワルドの全身に撒き散らしていた。

ごぽり。
何かを言おうとしたワルドの口から、血の塊がこぼれ出る。
肋骨をぬい、肺の中にも石片が入り込んでいるのが感じ取れた。
もう下半身の感覚は無くなっている。
ゆっくりと意識の途絶えていくその頭を、誰かが持ち上げた。

「ワルド?! ワルド!!」
聞き覚えのあるその可愛らしい声が、悲痛な叫びを上げている。
「はは、ルイ、ズ、か、、」
ワルドは左手の残りでその髪を優しく撫でる。
「何が?! 何で?!
 しっかりワルド!!
 い、いま、てあ、手当てを、、!!」
自分の顔に降り注ぐ涙の暖かさだけが、
今のワルドに感じ取れるすべてだった。
「いいんだ、、ルイズ、、、
 僕は、、もう、、、」


502 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 21:14:04 ID:???
「駄目! 駄目!! ワルド!!」
「はは、、、そう、さ、、これが、末路だ、、、
 裏切り者に、ふさわ、しい、、末路、だ、、」
「裏切り?! 何を言っているの?
 喋っちゃ駄目、ワルド!!」
ルイズは自分のマントを剥ぎ取りワルドの腹に押し当てるが、
血はその純白のマントをどろどろと赤く染めていく。

「で、も、、信じて、くれ、ルイズ、、、」
最早その目は空ろに開かれ何も映ってはいない。
「嘘だらけ、だった、、、僕の、人生の、中で、、、
 君への、、想いだけ、は、、たった一つ、の、、、」
「、、、ワルド?」
それきりその口からは言葉も、呼吸も、こぼれ出ることは無かった。


「ん〜、痛てて、、」
のろのろとルイズが声のするほうへ頭を向ける。
そこには自分の使い魔が居た。

「あ! ルイズ、起きたんだ! 大丈夫?」
肋骨は折れ右手の指の殆どは捻じ曲がっていたが、
いつものように「無かった事」にする気はなぜか起きない。
手に持った巨大な銃の重みが今は誇らしかった。

ルイズの目にその銃が目に映る。
大きく穿たれた床の石畳と、自分の伴侶に突き立った無数の石片と。
あの日の光景が蘇る。
はじめてその銃を見た日。
トリステイン魔法学院の仲間達と。
そして、大きく穿たれた学院の壁と。


503 :確率世界のヴァリエール-13:2010/04/08(木) 21:19:02 ID:???
「、、、あなたが、撃ったの?」
まるで感情のこもっていない、低く澄んだ声。

「うん、そう! 僕がワルドをやっつけたんだ!」
胸を張りシュレディンガーが答える。


「シュレディンガー、、」
「どうしたの? ルイズ」
不安げに近づくシュレディンガーの足をルイズの声が止める。
「、、消えて」
その声には、いつもの傲慢さも強さもヒステリックさも無く、
水晶のように純粋な拒絶のみがあった。
「、、、ル、、?」

困惑に立ち尽くすシュレディンガーに、
ルイズは目を伏せたまま、ただ、告げた。


「消えて、シュレディンガー。
 私の、目の、前から」


「、、、」
シュレディンガーは何かを言おうとして口を閉ざし、
それきり、ルイズの目の前から、消えた。


==============================


  確率世界のヴァリエール - a Cat, in a Box - 第十三話

504 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/04/08(木) 21:23:37 ID:???
以上です。
支援くださった方、まとめの方、読んでくださる方、いつもどうもです。

紆余曲折ありましたが、やっとこ次回タルブ降下戦です。

505 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/04/08(木) 21:27:35 ID:???
ああ!

>>502の下のほう
>ルイズの目にその銃が目に映る。
は、
>ルイズの目にその銃が映る。
です。

馬から落馬、、、

506 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 21:34:55 ID:???
乙っした〜

507 :マロン名無しさん:2010/04/08(木) 21:40:55 ID:???
今回のサブタイネタバレっぽいけど目次にも- a Cat, in a Box -でいいですか?
乙です

508 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/04/08(木) 21:44:37 ID:???
>>507
それで結構です〜。
いつもありがとう御座います。

509 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/04/12(月) 21:51:44 ID:???
シュレさん乙です。

そしてどうも投下します。

510 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:53:53 ID:???
 アニエスは後ろ腰に、マントの裏に隠していた"トミーガン"を左手で引き抜く。
それはジャッカルとカスール銃があるからと、アーカードに貰い受けたものであった。

 瞬時に照準をドゥドゥーへと合わせると、躊躇なく引き鉄を引く。
吸血鬼の肉体は短機関銃を片手でも全く反動を感させず、さらにブレも起こさず集弾させる。
発射された弾丸はドゥドゥーの体躯を容赦なく貫通する――――――。
――――――筈であったが、しかしドゥドゥーは・・・・・・倒れない。よくよく見れば、出血もしていなかった。
弾丸は貫くどころか皮膚で止まり、ポロポロと地面に落ちていく。
ドゥドゥーの笑みが見え、同時に口元が動いた。アニエスは再度トミーガンを撃つ。

 ドゥドゥーの詠唱によって、杖に『ブレイド』が纏われる。
大上段に構えた杖は青白く光りながら膨れ上がって、巨木のような大きさの刃となった。
撃ち続けられる無数の銃弾の一身に受け止めながら、ドゥドゥーは一気に駆ける。

「ッッ!!」
アニエスは剣の柄を握っていた右手を離すと、すぐにアンリエッタを抱えてながら右方向に跳ぶ。
ドゥドゥーは普通の人間とは思えぬ速さで間合いを詰め、ただ単純に、力任せにブレイドを振り下ろした。

 銃が効かなかった動揺。ありえないほどのブレイドの大きさ。一瞬で距離を詰めてきた速度。
そしてアンリエッタを守らねばならぬという焦り。アンリエッタを庇う動作。

 幾重にも要素が重なった結果・・・・・・アニエスは反応が遅れ、間合いをも見誤った。
「ぐっ・・・・・・」
左腕が動かない。持っていたトミーガンと共に肘から先が破壊され、骨は粉々に血が流れ出す。
血を飲んでいない吸血鬼の不完全さ、そして昼間であることも起因し、再生には時間を要しそうだった。


 ドゥドゥーは軽々とブレイドを構え直す。大きく抉られた地面がその威力を物語っていた。
「あーーー、壊れちゃったか。なんか珍しい銃だから欲しかったんだけど・・・・・・」
壊れて鉄塊と化したトミーガンを見ながら、ドゥドゥーは軽口を叩く。
 

511 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:54:56 ID:???
「陛下、お離れ下さい」
アニエスの言葉に、アンリエッタはすぐに二人から距離を開ける。
ジャネットが目を見張っている以上、そのまま逃げることは無理であった。
それでも戦闘域から離れること自体は、ジャネットも二人の闘争の過激さがわかっているのか、別段止めはしなかった。

「にしても凄いな!!女王さんを庇ってなかったら、間違いなく完璧に躱してただろう?」
「何者だ・・・・・・」
ドゥドゥーの言葉を無視してアニエスは逆に問う。その一言に尽きた。
今まで戦ってきたメイジとは、明らかに一線を画している。
普通ならば・・・・・・最初の銃撃で簡単に、確実に終わっていた。しかしそれを耐えたのだ。
弾丸は間違いなく命中していたのにも拘わらず、至って平然としている。
そして常軌を逸したブレイドと、一瞬の踏み込み。どれもがメイジのそれではない。

「君は"メイジ殺し"らしいね、けれどメイジったって色々いるんだ」
ドゥドゥーはフフッと笑いながら、得意気に講釈をする。

「素早く動くのに魔法なんか必要ない。魔力は全て、攻撃に振り切ってこそ一流。
 小細工なんか必要ない。平民が使う銃なんかにやられてるようでは話にならない」


 ドゥドゥーはブレイドを右脇構えに、刀身の長さを隠した。
待ちの姿勢――――間合いに飛び込めば、たちまち両断されるだろう。
否、そのブレイドの太さはもはや両断ではなく、圧潰というレベル。

(いずれにせよ喰らえば・・・・・・)
・・・・・・ただでは済まない。それは流血する左腕が証明している。だがそれでも――――――。
「進まねば、道は拓けん」
アニエスは無意識に呟いていた。そして大地を全力で蹴る。
 

512 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:55:30 ID:???
 真横に薙がれる大ブレイド。アニエスは顔が削れんばかりに地面へと屈んで突進する。
吸血鬼の反応速度と身体能力で、強引に捻じ伏せる。
アニエスのマントはブレイドに巻き込まれボロボロになるも・・・・・・それだけだった。
風圧と土埃を無視し、間合いに入ったアニエスは右手で剣を抜き打つ。
吸血鬼のスピードとパワー。人間の胴体など、簡単に真っ二つにするほどの勢いの斬撃。

 剣がバラバラに折れる破砕音と手応え。同時に切り返されるドゥドゥーのブレイド。
アニエスは瞬間的な反応で後ろへ跳躍し、至近距離に対応する為にリーチを短くしたブレイドの間合いから逃れる。
と、ドゥドゥーのブレイドの動きが止まる。その位置は、刃とアニエスを直線上に結んでいた。
リーチの短くなっていたブレイドは、そのまま元の巨木のような長さに戻る。
急激に伸びたブレイドは、後退しつつあるアニエスに勢いよく突き刺さった。


 衝撃でアニエスは吹き飛び、二転三転しつつ起き上がる。
「っがァ・・・・・・」
「ッ痛ゥ・・・・・・」
アニエスとドゥドゥーは揃って呻いた。

 ドゥドゥーは自身への『硬化』によって、斬撃を防いだ。
剣の強度が耐えられずに折れたものの、アニエスの斬撃は剣が原型を留めずに粉砕したほどの威力。
その衝撃までは殺しきれず、ドゥドゥーの内部にはダメージが残った。

 アニエスにも当然ダメージはあった。
ブレイドの当たった箇所の服は破け、腹の部分は爆ぜたような傷口の様相を呈している。
それでも体は動く。勢いの乗ったブレイドではなく、伸ばしただけのブレイドだったのが幸いした。
普通の人間であったなら終わりであったろうが、吸血鬼を戦闘不能にするほどの攻撃力には足りない。

「強い・・・・・・強いなぁ、こりゃ全力で掛からないとちょっとヤバいかもね」
そう言うと、ドゥドゥーは懐から取り出した壜の蓋を片手で器用に開け、中身を一気に飲み干した。

 

513 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:56:10 ID:???
(・・・・・・ドーピングか?)
アニエスの眼光が鋭くなる。
もはや得物は無い。残るは己の肉体のみ。だがそれこそが最大の武器でもある。

 ドゥドゥーは雄叫びをあげた。次の瞬間にはブレイドの大きさが倍に近く膨れ上がった。
しなる鞭に纏われた巨大ブレイドは、さながら大蛇の如く。
ドゥドゥーはブレイドをその場で振り回し暴れ始める。

 縦横無尽に軌道を描くブレイドは、ドゥドゥーの周囲を空隙なく埋める。
そのまま距離を詰め、突っ込んでくる暴蛇。
伸びたブレイドの届く間合いに入ったと見るや、自在にアニエスへと襲い掛かる。

(剣筋がッ・・・・・・)
――――――見えない。
それでも勘だけを頼りに回避行動を取った。ギリギリのところをブレイドが通っていく。
周囲一帯の空気を巻き込みながら吸収しつつ、同時に圧縮した空気塊を開放し続けているかのような圧迫感。
吸血鬼のスペック任せに強引に逃げて、瞬時に詰められた間合いが開く。
ダメージは無い。が、ドゥドゥーは再び暴蛇を纏いつつ、二撃目に移ろうとしていた。

 アニエスの思考が回る。たった一度の攻撃で、危険過ぎると全身が総毛立ち理解する。
こちらから攻撃しようにも、ドゥドゥーのそれは攻防一体の型で近付けない。
かと言ってカウンターを狙おうにも、ドゥドゥーが攻撃してくる瞬間を見極めるのも至難。
攻撃時のタイミングを測れない上に、その通るだろう軌跡も読めない。
あまりに無軌道過ぎる暴蛇ブレイドは、吸血鬼の基礎能力による予測すらも許さない。

 このままではジリ貧だと認識する。
敵の魔力切れや味方の増援を期待するほど後ろ向きではない。
「そうだ、隙がないなら・・・・・・」
アニエスは自身に言い聞かせるかのように言う。

 

514 :マロン名無しさん:2010/04/12(月) 21:57:05 ID:???
支援

515 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:57:12 ID:???
 回避の為に後ろに飛び退いていた慣性とは逆方向に、ドゥドゥーの方へと反転する。
「作ればいいッ!!!」
アニエスは叫ぶ。無いものは作れば、何も問題はない。

 ドゥドゥーは完全に待ちの態勢に入っていた。
暴走しているように見えて、理性はしっかりと残っているようだった。
既に武器のなくなったアニエスが、間合いを詰めてこられない為の防御姿勢。
相手から突っ込んできてくれるならば好都合だと。勝手に自滅してくれると。
そういったドゥドゥーの思惑がありありとわかるが、それでもアニエスは躊躇わない。
ブレイドで埋め尽くされた、攻防一体の剣の結界に飛び込む。

 アニエスは少しだけ再生し、僅かながらに命令が聞くようになった左腕を動かす。
そして右腕は単純に引き絞る。奇しくもそれはアーカードの必殺の貫手と重なった。
アニエスは真っ直ぐ相手へと跳んだ。その体躯を回転させて螺旋を描き、さながら弾丸の如く。

 表面積を限りなく狭くし、ブレイドの嵐に左腕を突っ込んで、ほんの少しだけ軌道をずらした。
そのまま肉体を犠牲にしながら全身を捻じ込み、己をドゥドゥーまで到達させる。
ギャリギャリと体の芯まで削られていくような感覚を無視し、前へ、ひたすら前へ。
そして残った右腕を全力で放つ。ただ力一杯に。他のことなど知ったことかと。一心に心臓を狙い穿つ。

 一瞬だけ鉄のような皮膚に止められるような感触を味わい、刹那の後に肉を抉る感触を味わう。
気付けば・・・・・・暴走していたブレイドは、その動きを止めていた。
見ればアニエスの右手は、ドゥドゥーのどてっ腹を貫いていた。
そこでようやく、アニエスの額から冷や汗が流れた。
己の天運にまで縋るように手に入れた勝利。体をボロボロにして手に入れた勝利。
だがそれでも勝利に違いはない。

「がふっ・・・・・・」
ドゥドゥーが濁った色の血を吐く。
全身の力は抜けるものの、ブレイドの解かれた杖だけは離さない執念。
腹を貫いているアニエスの右腕に引っ掛かったまま、意識を失っていた。
 

516 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:58:29 ID:???
 アニエスはジャネットへと目を向けると、ドゥドゥーを振り払うように投げる。
ドゥドゥーの肉と血が放物線を描きつつ、ドシャリとジャネットの足下へと落ちた。


「すごい・・・・・・すごいわ、あなた」
パチパチと、ジャネットは杖を持ったまま俄かな拍手をする。
アニエスの眼光と、ジャネットの流すような視線が絡み合う。
既に身は削れて血だらけであったが、それでも闘わねばならない。
負ける気も毛頭なかった。

「次は貴様だ」
「・・・・・・いいえ、次は"わたし"じゃない。"わたし達"、よ」
そう言うと、ジャネットは足下のドゥドゥーへと治癒魔法をかけた。
アニエスに貫かれた傷痕が、まるで時間が巻き戻されているかのように再生する。
卓抜した水魔法の使い手。だが、ドゥドゥーの意識までもが回復するわけではない。
さらには血液を大量に失い、すぐにでも戦線復帰など出来るわけはない。と、アニエスは見ていた。

「既にその男は使い物にならん」
アニエスは実際には動きたくても、一気には動けなかった。
機動力は完全に失っていないものの、それでも両足含めてあらゆる箇所にダメージは残っている。
迂闊に飛び込んで、反撃を喰らうのも馬鹿げていた。
そして何よりも、吸血鬼であるアニエスの体は時間が経つほどに回復し、再生していく。
飛び込まずにここで待つことは、無駄ではない。機を待つのも戦術であった。

      ・ ・ ・ ・
「そうね、このままだと使い物にならないわ。まったくドゥドゥー兄さまの遊び癖も困ったもの。
 でも・・・・・・問題ないの。ドゥドゥー兄さまがどれだけやられようと私が治すし、それに・・・・・・」

 ジャネットはさらに詠唱をする。するとドゥドゥーが幽鬼の如く起き上がった。
「"人形"にしちゃえば良いんだもの」
アニエスは絶句する。ドゥドゥーの意識は回復していない。
ただ傀儡と化してそこに立っているのだ。同時に巨大なブレイドをもう一度杖に纏う。

517 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 21:59:07 ID:???
 
 
「ドゥドゥー兄さまは他の兄達と違ってかなり抜けてるから、"人形"にしたことも気付かれないだろうし」
ジャネットの命令通りに動く傀儡。連携の良さなど今更論じるまでもない。

「私も戦います」
いつの間にかアニエスの傍まで寄っていたアンリエッタが言う。
「いえ、大丈夫です・・・・・・お離れ下さい」
大丈夫などと言った根拠はない。むしろ敗色は濃厚だろう。
ドゥドゥーとジャネットは揃って進み出ている。アニエスの再生はまだまだ終わっていない。
だからと言って、女王陛下の御身を敵の害意に晒すわけにはいかない。

「女王は殺しちゃ駄目よ、兄さま。同じように"お人形さん"にしてあげなくちゃいけないんだから」
ジャネットのそれは、人形遊びする幼い少女のそれ。
操られるドゥドゥーには聞こえていない。しかしそれでも言い聞かせるように、一人で演じている。
一見すると無邪気にも見えるが、どうしようもないほどの邪気。

 アニエスは無手のままに構えた。ジャネットを殺す。それが最善の策。
ドゥドゥーをいくら攻撃しても、治され操られ続けるだけ。
何よりも、今の体でもう一度ブレイドの結界に飛び込むのはリスクが大き過ぎた。
ジャネットを速やかに殺し、操作する者が死ねばドゥドゥーも解放されるやも知れぬという淡い願望。
当然ながら術者が優先して狙われるだろうことは、ジャネットとて注意を払っているだろう。

 だがそれでも征く。選択肢は一つしかない。逃がしてくれるほど甘くもない。


 一触即発なその時・・・・・・、空気の流れが変わったのを感じた。
間断なく、衝撃音と共に小さな旋風のような風が周囲を包む。
咄嗟に起こった風圧に、アニエスはアンリエッタを無意識に護るように立っていた。
 

518 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 22:00:23 ID:???
 しかし敵の攻撃かと思ったそれは・・・・・・違っていた。
ジャネットとドゥドゥーが揃って地べたに倒れていて、アニエスは沈黙する。
まるで地面に吸い込まれたかのうように。
まるで見えない天井によって、圧し潰されたかのように。
まるで一帯の重力だけが、突如異様なまでに強くなったかのように。

 二人の襲撃者はうつ伏せに地面にめり込み、完全に沈黙していた。
「・・・・・・!?」
「・・・・・・??」
アニエスとアンリエッタはそれぞれ疑問符を浮かべる。
「何が・・・・・・起こったのでしょうか・・・・・・?」
アンリエッタは首を傾げ、アニエスは敵性戦力二人が気絶しているのを確認すると周囲を見渡す。

 と、地面に大きな影が出来た。
アニエスは見上げて空を凝視する。味方なのか、敵なのか。
そんな杞憂はどこへやら、無防備に、そして軽やかに、その人物は目の前へと降り立った。





 ティファニアは落ち着いた心地だった。
マチルダはダミアン以外の刺客を警戒し、子供達には怯えが伝染している。
それでも確信と言える信頼が、ティファニアの心を満たしていた。
アンデルセンにルーンが刻まれているわけではないが、それでも確かな絆を感じる。

 子供達をその腕に抱きながら、心配を取り払うように「大丈夫」と言い続ける。
アンデルセン神父が過去の話をしてくれたことはない。聞いても教えてはくれない。
アーカードとの殴り合いや、アーハンブラ城で助けてくれたこと。
荒事に慣れ、時に修羅と見紛うほどに、猛々しく殺意を振り撒く様相。
 

519 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 22:01:16 ID:???
 きっと自分には想像がつかない人生を送ってきたのだと思う。
そして恐らくは・・・・・・その神父こそが、本来の姿なのだろう――――――。
――――――だけど知っている。悪鬼のような神父とは別の側面を。優しい皆の父であるその顔を。

 それも紛れもなくアンデルセン神父であり、自分達にとっての真実である。
そしてそれを裏切ることを・・・・・・アンデルセンは決してしない。
だから、何事もなかったかのように・・・・・・いつもの優しい神父は、すぐにでも帰ってくる。
これからも・・・・・・ずっと、私達を見守ってくれる。


 ふと、ティファニアは何かに導かれるように、その場に立った。
そしてゆっくりと歩を進め、玄関の扉を開く。
「・・・・・・おかえりなさい」
陽光を背にしたアンデルセンの笑顔を迎え入れる。
「えぇ、ただいま」
眼鏡をクイッとあげ、アンデルセンは答える。

「ごめんなさい、まだ食事の準備はしてないの」
「構いませんよ。・・・・・・そうですね、どうせなら今から一緒に作りましょう」
ティファニアは満面の笑みで応え頷いた。





「あっはっはっは、派手にぶっ壊れたなァ」
シュレディンガーは辺りを歩き回る。
元あった荘厳な大聖堂は跡形もなく、瓦礫が散乱し荒れたその一帯。
それはあまりにも惨憺たる光景だった。
そして最後っ屁を放った、ジャックとかいう人間は塵一つ残っていない。
 

520 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 22:02:24 ID:???
「大尉にもいいストレス解消になったかな。うんうん、"手引き"した甲斐もあったってもんだ」
すると、埋もれた瓦礫の一角が持ち上がり、大尉が立ち上がる。
その肩口には・・・・・・最後の爆破によって撃ち出された銀散弾による傷が残り、コートを血で染めていた。

(へぇ・・・・・・大尉に傷を残すなんて、なかなかだったんだね)
シュレディンガーは素直に驚きを見せた。あの人間、称賛の一言である。

 大尉は傷を気にした風もなく、丁寧に下のものを抱え上げた。
「あっ・・・・・・生きてたんだ」
シュレディンガーが呟く。それはヴィットーリオであった。
普通なら間違いなく死ぬ規模の爆発であったが、大尉に庇われたおかげで重体ではあるが一応死んではいない。
それでもすぐに処置をしなければ、間違いなく死ぬだろう。


 大尉は指笛を吹いて風竜を呼ぶ。
すぐにヴィットーリオを風竜に乗せると、黙ったまま意思疎通をして風竜に向かって頷く。
風竜はゆっくりと空へと飛び上がり、ヴィットーリオを気遣いながら飛んだ。

(どっか、水メイジのところにでも運んだのかな・・・・・・?)
爆発をわざわざ身を挺して庇った大尉はまさに忠犬。
我儘気儘な猫である自分とは大違いだった。

(まっでも、まさかヴィットーリオに危害加わるとは思ってなかったけどさ・・・・・・)
大尉の遊び相手に丁度良いと思っていた。
万に一つも大尉が負けるとは思わないし、守られるヴィットーリオも同様だ。
本来であれば大尉にもヴィットーリオにも傷一つつけられず、惨敗して死ぬ。
その予想を覆したあのジャックは、天晴れと言う他ない。

「大尉〜どうしますー?アーカード達のところ行きますかァ〜〜〜?」
シュレディンガーの言葉に大尉はかぶりを振った。
 

521 :ゼロのロリカード-58:2010/04/12(月) 22:04:02 ID:???
「そう・・・・・・、じゃあ僕は適当に見物してくるね」
シュレディンガーはそう言うと、視界から消え去った。
一人残された大聖堂跡で、大尉は一人佇み続ける。


 人間にしては、かなり強かった。
だがそれでも足りなかった。渇きは幾許かは満たされたがそれだけだ。
数多の不死の化物として、死にたがりの戦争犬として。
素晴らしい闘争の果てに、打ち倒されて死ぬという渇望。

 ――――――あの夜明けの日のように、万願成就の一夜の夢のように。
いつか・・・・・・死ねる日が、来るのだろうか。

522 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/04/12(月) 22:06:37 ID:???
以上です、支援どうもでした。
まとめの方も本当にいつもいつもありがとうございます。

本当はダミアンやジャネットの戦いも書きたかったのですが、なにぶん原作の方でまだ戦闘描写がないもので。
かと言って、妄想て書くのも憚られたのでこういう割愛する形になりました。申し訳ありません。

ではまた。

523 :マロン名無しさん:2010/04/12(月) 22:32:27 ID:???
乙です!

524 :マロン名無しさん:2010/04/13(火) 22:00:09 ID:???
乙!

525 :マロン名無しさん:2010/04/19(月) 17:33:27 ID:???
「アーカードはそこにいる」の作者まだ見てるのかな
去年の今頃に書き込んでた気がする、続き待ってます

526 :マロン名無しさん:2010/04/20(火) 22:03:16 ID:???
保守

527 :マロン名無しさん:2010/04/22(木) 22:16:26 ID:???
遅れて投下乙です!!

528 :マロン名無しさん:2010/04/26(月) 08:24:04 ID:???
保守

529 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/04/26(月) 21:51:16 ID:???
どうも、投下します。

530 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:52:21 ID:???
 ――――――ルイズ達の眼前を包み込んだ炎熱が掻き消える。
否、より強い何かに吹き飛ばされた。
それは火のブレスのみならず、火竜騎兵もろともであった。
熱気の残滓だけが・・・・・・ついさっきまで、確かに迫っていた死の匂いを感じさせた。

 ルイズは目をぱちくりさせる。
タバサは中途半端に唱えたジャベリンの詠唱を霧散させる。

「まだまだですね、ルイズ」
自分の名を呼ぶその人は誰だろう・・・・・・?
頭ではすぐにわかったが、「こんなところにいる筈がない」と思考がおっつかない。

 魔法衛士隊の服に、隊長職を示す羽飾りのついた帽子。
マンティコアが刺繍された黒いマントに、本物の幻獣マンティコアに乗り立つその人物。
顔下半分を鉄のマスクで覆い、左手に杖を持ち、風をその身に纏うメイジ。

 現存するメイジの中でも、間違いなく最強の一人に数えられる退役騎士。
トリステイン史上指折りの英雄。トリステインの生ける伝説。
鋼鉄の規律を今もその心根に置き続ける、先代マンティコア隊隊長。
その風魔法は荒れ狂う暴嵐の如く。その速度は疾風の如く。
さらにはあの吸血鬼アーカードと闘い、引き分けた『烈風』。


「か・・・母さま・・・・・・?どうして・・・・・・?」
ルイズの呟くように問い掛けた言葉にタバサは驚く。目の前の男装の麗人がルイズの母親なのかと。
タバサもなりたてとはいえ、一応は風のスクウェアである。だがその実力差は分析するのも馬鹿らしかった。
同じ風のスクウェアであろうルイズの母は、自分なんかとは比べ物にならないほど。
たった一人で戦局を引っくり返し、小手先の戦術など無駄だと思い知らせる圧倒的な強さを肌で感じる。

「それはですねルイズ、あなたの成長ぶりを見に来たのですよ」
 

531 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:53:06 ID:???
『烈風』カリンことカリーヌ・デジレ。
ルイズと同じ桃色の髪に鋭い瞳。老いて尚、美しさと強さを保つその姿。
カリンの纏うオーラはそのまま渦巻く風になる。
カリンが使ったであろう魔法は、風の結界と化してガリア竜騎兵を近付けさせない。
そのおかげで、今も悠長に話すだけの時間が作られていた。

「もう二つほど言うなら、我が娘が心配なのと・・・・・・」
カリンは鉄のマスクをはずして微笑む。
「少し昔の血が騒いだといったところですね」
それは娘を慈しむような笑みと、これから暴れられるという歓喜の笑み。
それら二つが絶妙に絡み合った不思議な表情。

 アーカードと戦ってから、心に僅かにともった火種。
それが日々を重ねるごとに大きく燃え上がり、これ幸いと戦場へと赴いた。
風を一身に味方につけたカリンと、カリンの駆るマンティコアは竜騎兵の速度すら歯牙にかけない。

「でも・・・・・・どうやってここを?」
「一度王宮へ寄ったのですよ」

 そう言うと、カリンは回想を始めた。



 王宮中庭の直上。マンティコアの背からカリンは見下ろす。
気付けばなにやら戦闘が行われており、女王と騎士、そしてそれに相対する者が見えた。
王宮周辺の不自然なほどの無警戒さ、相当の負傷をした様子である女騎士と満ちる殺気。

 長年の経験が・・・・・・第六感のようなものが告げている。
否、そうでなくとも自明の理だった。
ここまでやって来たのも、王宮勤めの兵が一人もいなかったからに他ならない。
明らかな異常事態、恐らくは敵の襲撃。それもかなり強力な術者。
 

532 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:53:48 ID:???
 目を鋭くし、カリンは詠唱する。
極々単純。風を吹かせて思い切り叩き付ける。ただそれだけの魔法。
しかして烈風を体現したその一撃。敵と見られる二人の男女を、その不意を打った一発のみで完全沈黙に追い込んだ。
そしてマンティコアを中庭に降下させ、地へと飛び降りると、すぐに恭しく片膝をつく。

「何者だ」
満身創痍に見えるが、それでも目の光を失っていない女騎士アニエスが恫喝するように言う。
「お久し振りでございます、陛下」
そんな騎士の問いも、カリンはどこ吹く風と跪いて礼をする。
「えっ・・・・・・と・・・・・・」
逡巡する女王アンリエッタの声音から感じる迷いに、カリンは顔をあげずにそのまま言葉を続けた。

「覚えておられないのも仕方ありません。私は先代マンティコア隊隊長カリーヌ・デジレでございます」
「カリーヌ?まさか・・・・・・あの『烈風』カリン殿!?」
「・・・・・・それで、魔法衛士隊の服を・・・・・・」
アンリエッタは驚愕の叫びをあげ、アニエスは警戒を解かぬまま納得する。


「はい、その通りです陛下。王家に変わらぬ忠誠を。本日こうして馳せ参じたのは理由がありますが――――――」
カリンは己が打ちのめし、失神する二人へと向ける。
「――――――その前に、この者達は"敵"でよろしかったのでしょうか?」
万が一違っていたら申し訳ないと、一応確認をする。

「えっ・・・・・・?あっ、はいその通り"敵"です。ありがとうございます、助かりました」
「いえ、それは何より。もし味方であったなら、面目がありませんでした」
「・・・・・・ご助力、感謝します」

 アニエスが素直に感謝の意を述べる。
実際窮地に立たされていたと言っても過言ではなかった。
もしも助けがなければ、陛下の御身が危なかったのは間違いない。
 

533 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:54:56 ID:???
「では、改めまして。私がここに来た理由は戦争への参加の許可と、娘の居場所をお教え頂きたく・・・・・・」
「・・・・・・娘・・ですか・・・?」
アンリエッタは首を傾げる。
その疑問に答えるように、カリンは鉄仮面をはずして地面に置き、顔をあげた。

「公爵夫人?ラ・ヴァリエール公爵夫人ではありませんか!!ということは娘と言うのは・・・・・・」
「はい、我が不肖の娘ルイズでございます」
「公爵夫人があの『烈風』カリンその人でしたなんて・・・・・・」
アンリエッタは驚きを隠し切れなかった。
幼き頃から聞かされてきた、武勇伝を作ってきた人物が、まさか己の見知った者だったとは。


「現役を退いて長い私ですが、娘の成長を確認すると同時に出撃しようと思った次第です」

「なるほど、そうですか・・・・・・その・・・・・・わたくしは、謝らねばなりません。
 わたくしはルイズを・・・・・・戦に参加するよう、前線へ赴くよう命令しました。
 無二の親友を・・・・・・戦場へと誘ったのです。謝って済む問題でないことはわかっています。
 が、わたくしにはこうすることしか・・・・・・本当に、申し訳ありません」

 アンリエッタはカリンに対して深々と頭を下げる。
「陛下!!おやめください!!」
仮にも一国の女王が頭を下げるということが、どれほどの意味を持つのか。
アニエスはアンリエッタを制止する。だがそれでもアンリエッタは頭を上げない。
正直に話して謝罪する、それがせめてもの誠意。

「そうですね、確かに可愛い我が娘です。母の感情としても、謝られても済む話ではありません」
「カリン殿ッ!!」
アニエスはカリンを睨む。不敬な振る舞いに激昂する。
アンリエッタは頭を下げたまま、アニエスを無言で宥めた。
 

534 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:55:22 ID:???
「・・・・・・しかし、かつて王家に仕えた一人の騎士として、その心情と覚悟はしかと承りました。
 理由なくそのような命令を下す筈もありますまい。国を守る為に取った選択なのでしょう・・・・・・。
 ルイズの使い魔である彼女の力が必要であろうことは、私も戦った手前よく存じ上げております」

(マスターと戦った・・・・・・!?)
その上で五体満足で生きていることにアニエスは心中で声をあげた。
只者でないことは感じ取れていたが、まさかそこまでとは。

 アンリエッタは目を静かに瞑る。女王として強く生きる。
それがウェールズとの誓いであり、アーカードにも諭されたこと。
国の・・・・・・人々の上に立つ者の責務。その重さを認識し、その道を進む。

 そしてアンリエッタはカリンに説明する。
ルイズの虚無のこと。吸血鬼アーカードのこと。
現在の戦局。政治事情。この戦争の意味。己の覚悟。



「――――――・・・・・・以上と、なります」
「なるほど、了解しました」
カリンは自嘲気味に笑う。まだまだ自分は娘のことをわかっていなかったと。

 虚無の担い手ルイズ。
目覚めたのは火の系統?とんでもない。始祖ブリミルが使ったとされる伝説の系統。
通常の魔法とは比べるべくもなく、多大な戦果をもたらした強力さにも驚く。
何よりも、娘ルイズの立派過ぎる成長に胸が熱くなる思いであった。

 さらにその使い魔である吸血鬼アーカード。
魔法も使えないのに生粋の風メイジである自分と対等以上に渡り合った、あの者の強さに納得する。
ただの人間にしては不自然だと思っていたが、まさかそんな裏の面があったとは。
 

535 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:57:09 ID:???
 事実上トリステインが、今もこうして国として在るのは二人のおかげ。
これまで自分が積み上げた武功に、勝るとも劣らない英雄ではないか。
しかもそれを公にすることもなく、人知れず王家の為に今も粉骨砕身働き続けている。
使い魔を信頼し、女王を信頼し、そしてなにより自分自身をも信頼しているのだろう。

「では陛下。時間も惜しいので、私は出撃いたします」
引退したとはいえ、自分も負けてはいられないではないか。
カリンの心が躍動する。ルイズの成長をこの目で見て確認し、国の為に娘と肩を並べて戦う。
これ以上ないほど素晴らしいこと。


「はい、ルイズを・・・・・・よろしくお願いします」
アンリエッタの心配する表情に、カリンは「お任せ下さい」と頼もしく頷き、鉄マスクを装着する。
若かりしかつての『烈風』カリンの風格をそのままに、フワリと浮き上がってマンティコアに乗った。
カリンと共に風の恩恵を受けたマンティコアは、目覚ましい速度で空へと飛び去った。

「母親譲り・・・・・・なのですな」
アニエスがしみじみと呟く。アンリエッタも首を縦に振って同意した。
美しさも、血統も、芯の強さも。あの母にしてあの子ありと言った感じであった。



 かいつまんで話し終えたカリンは、噛みしめるように目を閉じ、一拍置いてから微笑む。
「本当に立派に成長したようですねルイズ、まだまだ荒削りのようですが」
「母さま・・・・・・、ありがとうございます」
ルイズも笑みで返す。自信と尊厳を秘め、確固たる意志を込めた鳶色の瞳。

 それ以上、母と娘の間に言葉は不要であった。

「征きなさいルイズ、周辺の掃除は私がしましょう」
「はいっ!!母さま!!」
 

536 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:58:03 ID:???
 シルフィードが飛ぶと同時に、カリンは鉄マスクを着け直し、眼光を鋭く飛んでいる敵騎兵を睥睨する。
ルイズ達が飛ぶ道を、風の呪文で切り拓く。未だ衰えぬ『烈風』。風の加護を受ける風の申し子。

「さぁ・・・・・・始めましょうか・・・・・・」
誰にともなく呟く。
それを契機にカリンの纏うオーラが一層強くなり、風がすぐに開放しろと言わんばかりに暴れ始めた。

 悪魔と死神が踊る戦場に、舞い降りた一陣の烈風。
その参戦は、既に敗色濃厚であったガリア軍へと駄目押しする、
そしてその敗北を、より確定的なものへと変えた。



 降下、加速、上昇。
ジョゼフらの乗るフリゲート艦を目指し、シルフィードはもう一度飛ぶ。

 母と会ったことで、ルイズのモチベーションは最高潮に達した。
感情が昂ぶり、魔力が律動し、心は無想へと相成る。
ルイズは始祖の祈祷書を開く。指輪がキーとなり、新たなページと文字の光が目に入る。

「・・・・・・新しい呪文?」
ルイズの嵌めた風のルビーの発光に気付いたタバサが言った。
「えぇ、これなら・・・・・・」

 ルイズは作戦の説明をする。
虚無と先住。エクスプロージョンとカウンターの二段構えを突破する方法。
シルフィードはフリゲート艦の上空で旋回を繰り返す。
留まって飛行していても、烈風カリンが根こそぎぶっ飛ばしてくれたおかげで、竜騎兵の追撃は無い。

「大丈夫、信じて」
説明を終えたルイズの一言。タバサは力強く頷いた。
 

537 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 21:58:41 ID:???
 

 ルイズは機を見て飛び降りた。重力に逆らわずに落下する。
新たに覚えた呪文のルーンを唱え、準備は完了した。

 落ちる時間は短い。
ルイズはサーベルを見えない反射の壁へと突き立てるように、ルイズは体勢を整える。
悠々と笑うジョゼフが放つエクスプロージョン。それがルイズを包み込む瞬間――――――。

 ――――――ルイズは虚無を開放した。
初めて使う魔法であったが、憂いはなかった。
思惑通りにルイズは、フリゲート艦の甲板に到達していた。

 そして放つ――――エクスプロージョン。
フリゲート艦の上方に膨れ上がった光の球は、反射を消し飛ばす。
同時にルイズから少し遅れて飛び降りたタバサが、フライで機動制御しながら光球へと突っ込んだ。
先住の反射のみを吹き飛ばすよう標的指定をされたエクスプロージョンは、タバサをフリゲート艦へと無事着地させた。

 『雪風』を周囲に纏い、タバサはルイズと背中合わせに立って、それぞれ宿敵の姿を改めた。
タバサは口をつぐみ、ただ怜悧な眼光でジョゼフを見据える。
ルイズは不敵な笑みを浮かべた表情で、ビダーシャルを見据える。

 ジョゼフとビダーシャルには、一体何が起こったのかすら、未だ認識出来ていない。
ジョゼフが上空にエクスプロージョンを放ち、ルイズを仕留めたかと思えば・・・・・・。
すぐ近くでいきなり光球が膨れ上がり、消える頃には見知った少女二人が何事も無く立っていたのだった。

 

538 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 22:00:04 ID:???
 ルイズの新たに覚えた虚無魔法『テレポート』。
術者を『瞬間移動』させるその魔法は、ジョゼフの『爆発』より一瞬早く発動。
ルイズは『解除』を掛けたサーベルを『反射』へと向け、艦の上に転移。
仮に『テレポート』が完全な転移ではなく、『加速』のような超高速の移動術であっても『反射』を切り裂くという算段。
音もなく甲板へと降り立ったルイズは、タバサから教わった静音詠唱で、二人に悟られぬよう『爆発』を唱える。
そして『飛行』で軌道修正し、次いで『氷嵐』を唱えたタバサは、『反射』を無効化したルイズの『爆発』を活路に艦へ乗り込む。

 結果、ジョゼフのエクスプロージョンを空転させ、尚且つビダーシャルのカウンターを破ることに成功した。
美事なまでにジョゼフとビダーシャルの意識の間隙を突き、二人がフリゲート艦に立つことを許した。
二人を守るように展開された『氷嵐』の雪風は、ジョゼフの加速による奇襲を許さず。
今ここにようやく、タバサとルイズはそれぞれジョゼフとビダーシャルへと相対した。

「クッ・・・・・・フフッ・・・ふはッ・・フハッハッハハハハハハッハ!!」
ジョゼフは狂喜に打ち震えて笑った。ただただ笑いたくなった。
この感情を与えてくれた・・・・・・目の前の二人の少女に感謝したいと思うほどに。
戦争を起こした甲斐があった。悉く己が予想を裏切ってくれる。
この戦場という舞台で、踊り楽しませてくれる粒揃いの役者達。
なるほど、これはただの観客ではつまらないではないか。自分も是非、共に踊りたい。

 まずは瀕死の重傷から立ち直ったシャルロットを殺し、次に同じ虚無の担い手であるルイズを殺す。

「・・・・・・」
ビダーシャルはただ目を見開き、そしてルイズと視線を交わす。
先住と虚無を破った少女を。宿敵たる虚無の担い手の姿を。
戦うつもりは無い・・・・・・が、虚無の少女の瞳はそうは言っていなかった。
(闘いもやむなしか・・・・・・)

 

539 :ゼロのロリカード-59:2010/04/26(月) 22:00:32 ID:???
 虚無の力は侮り難し。
ジョゼフの力を近くで見てきて素直にそう思う。
反射を掛けたヨルムンガントも、魔法学院襲撃時に虚無を基点に敗れ去ったと言う。
そして今、実際に精霊の力たる反射を越えてここに立っているという事実。
 
 もとより己は油断や慢心をする性格ではないし、加減をする余裕もないだろう。
フリゲート艦の上という制限下でもあるし、闘うのであれば全力で掛からねばならぬ。

(場合によっては・・・・・・殺してしまうやも知れぬな・・・・・・)
殺すことそのものの忌避。そして新たな虚無の担い手の目覚めへの危惧。
主人を殺された場合に於ける、その使い魔アーカードの行動。憂慮すべき点は多い。

(逃げるのも・・・・・・手か)
むしろそれが利口な選択というものだろう。
ジョゼフとの約束があるし、見届けようとも思った。
だがしかし、個人のことだけではなくエルフ種族全体にも関わることである。
もしもルイズを殺し、あの真正の化物であるアーカードに敵意を向けられれば重大な問題に発展する。

 ビダーシャルは退くことを心に決めた。
右手で左手を握りしめると、指輪に込めた風石の力を作動させる。


 そして闘争の火蓋は切られ、最後の演目がいよいよ幕をあける――――――。

540 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/04/26(月) 22:01:22 ID:???
以上です、ではまた。

541 :マロン名無しさん:2010/04/26(月) 22:53:50 ID:???
投下乙!

542 :マロン名無しさん:2010/04/27(火) 00:05:41 ID:???
乙!
やっぱアンリエッタ助けたのは母上様か
次回も楽しみにしてます

543 :マロン名無しさん:2010/04/27(火) 13:53:17 ID:???
乙!
今日も寝る前に布団で読ませてもらいます!

544 :マロン名無しさん:2010/04/30(金) 22:35:25 ID:???
おお来てたか、乙

545 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/03(月) 20:55:24 ID:???
どうも投下します。 

546 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:56:14 ID:???
 ビダーシャルが風石を発動させようとした一瞬――――――。
眼前にルイズの姿が飛び込んでいた。まるでまばたきの合間に割り込んできたかのように。
雪風の領域から一歩踏み出したと思ったら、ジョゼフの加速が如き速度で。
ルイズはその右手で握った剣の間合いに置いている。

 間断なくサーベルの刃が抜き打たれ、反射の障壁を切り裂く。
同時に風石によってビダーシャルは空へと飛び上がった。

「ッッ・・・・・・!?」
冷や汗が全身に流れる感覚を覚え、一人空中から見下ろす。
ルイズの放ったサーベルは、ビダーシャルの首があった位置でピタリと止められていた。
一撃で決めるつもりだった攻撃を回避されたことに、ルイズは肩を竦める。
「少し話したいことがあるんだけど?」

 ビダーシャルの目が細まる。
サーベルを寸止めたことから見る限り、本来ならばこちらの命を握った状態で話したかったことなのだろう。
「・・・・・・良かろう」
それでも聞くだけ損はないというものであった。
「ありがとう、それじゃ少し離れましょう」



 フリゲート艦の後方船尾、タバサとジョゼフがいる前方船首から離れた位置。
タバサの巨大に渦巻くアイス・ストームの余風を背中に感じながら・・・・・・。
宙に浮いたまま見下ろすビダーシャルと、見上げるルイズの形で話を始める。

「・・・・・・して、我から先手を取ろうとしてまで、交渉したかったこととは?」
「えぇ、改まったから言うけど・・・・・・。私が勝ったら、もうこんなことはやめて欲しいの」
「こんなこと、とは?」
「あの狂王ジョゼフに力を貸すような真似をすることよ。交渉するなら私達にして」
「もはや争わずとも、我は帰るつもりだ。それにもはやお前たちと交渉する意義も少ない」

547 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:56:36 ID:???
 
 人間達は互いを喰い潰し疲弊した。当分は聖戦も発動されないだろう。
本来の予定とは食い違ったものの、結果論だが上出来であった。

「いいえ、意義はあるわ。これからもエルフ種族とは争いたくないもの」
「なに?」
「ティファニアを知っているでしょ?ハーフエルフで、私の友達でもあるわ。
 彼女と接して・・・・・・そしてあなたとこうして話していてもわかる。
 言葉がある、こうして話せる、意思疎通が出来る。人間とエルフは解り合える」


 ビダーシャルは「何を馬鹿な」と呆れる。
そんな簡単に理解し合えるなら、長きに渡る戦の歴史はない。
世迷言とまでは言わないが、それでも夢物語と言って良いもの。

「確かに確執はある。けれど諦める理由にはならないわ。時間は掛かるかも知れないけど・・・・・・」
「・・・・・・その割には、いきなり攻撃してきたようだが?」
友好的な申し出をするにも拘わらず、最初に攻撃したことが解せない。

「まずは対等に見て欲しかったからよ。エルフが私達人間より強大で、下に見ているのは知ってるわ」
「そんなことで・・・・・・?」
「わかりやすいでしょ?」

(単純だな・・・・・・)
至極明快。確かに人間に対してエルフは下に見ている。
強さも文明も叡智も、人間のそれよりも上だという自負がある。
同じ種族同士で争う愚かな人間達を、蛮族と呼び習わしているのも偏見と言えるだろう。
そんな中で、せめて強さの一点で対等以上であると。人間の優位性を示したかったということ。

 勝てば官軍。勝者こそが正義。
敵対している勢力同士、相対した時点で既に戦闘は始まっていると言える。
不意の初撃でもそれを卑怯とは言えず、そんな方法でも勝ちを示したいという理屈は理解できる。

548 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:57:08 ID:???
 

「本当は初手で決めて、勢いのままに認めてもらいたかったのだけど・・・・・・。流石はエルフね」
ビダーシャルは押し黙る。回避出来たのはたまたまだった。
さっさと退散しようとして、風石を作動させたタイミングが重なっただけ。
都合良く間に合ったに過ぎない。

「本当に・・・・・・おまえ達は好戦的な種族だ。我らから見れば愚か極まりない」
「・・・・・・そうね、確かに愚かかも知れない。それでも少しずつ前に進むわ」
絶対の意志を瞳に秘めたルイズは、愚直にビダーシャルを見つめ続ける。
それは恐れも脅えもなく、ただ真っ直ぐな感情。

「それにね、私達は強行手段に出ることも可能なのよ。なにせこっちにはアーカードがいる。
 貴方の作ったヨルムンガントをも片手で捻った・・・・・・、最凶の吸血鬼というジョーカーがある。
 そんな切り札をチラつかせることも出来るけれど、それはしないわ。それでは対等に見てもらえない」

 ビダーシャルの顔が歪む。
使わないと言いつつも、それを言った時点で既に使っていることとあまり変わらない。
こちら側からすれば、鬼札を切らずとも、伏せずとも、相手が持っているという事実だけで充分過ぎる脅威。

「とりあえず・・・・・・仕切り直しましょうか。私が貴方に勝ったら改めて、互いが互いを尊重する対等な交渉を願うわ」
ルイズは「どう?」といった表情でビダーシャルの回答を待った。


 ビダーシャルは考える。
少し前であれば「話にならない」と突っぱね、一刀に切り捨てていたかも知れない。
だが今は少し違う。ジョゼフと交渉したこと、その結果、それまでの過程。
そして人間と関わったことによる、己自身の心境の変化。
現在の戦力状況も含め、様々な要素がビダーシャルの心を動かす。
 

549 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:57:51 ID:???
 虚無という悪魔の力を超えかねない悪魔を使役しながらも、それに頼らず突貫してきた少女。
その実力で以て実際にこの場に立ち、エルフである自分を前にして一歩も引かず。
あまつさえ交渉の為に・・・・・・対等に見てもらう為に闘いを提案し、微塵にも負ける気を見せていない少女。

「あっ、もちろん殺し合いじゃないから」
ルイズは付け足す。その言葉にビダーシャルは笑いを零した。
「フッ・・・・・・ははっ」
「・・・・・・?私、何かおかしなこと言った?」
殺してしまっては交渉どころではないので、ルイズからすれば当たり前の前提条件。

 だがビダーシャルには、それがおかしかった。
宿敵同士たる人間とエルフが相対すれば、そこにあるのは血戦である。
こちらが殺さないように加減することはあっても、その逆はまず無い。
人間はエルフを前にして、逃げるか若しくは決死の覚悟で攻撃して返り討ちにあうのが常。
改めて正面からの闘争を望もうとする気概だけでも、十分評価に値するというものだが・・・・・・。
それをさらに少女は互いに殺さないように戦うつもりなのが、ビダーシャルには酷くおかしかった。

「・・・・・・良かろう。但し――――――」
ビダーシャルはルイズの覚悟を確かめる。
「なに?」
「――――――我が勝ったら、そのままお前を捕えさせてもらう」
対等と言うからには、当然こちらの提案にも飲んでもらうのが筋である。
ここまで来ておいて我が身可愛さで退くとも思えないが、それでもしっかりと聞きたかった。

「成立ね」
ただ一言。それでルイズの覚悟も知れた。
負けるつもりは無いが、仮に負けたとしても対等な交渉。それも悪くない。
勝てば虚無の担い手の一人を確保し、悪魔の力の復活を防げる。
捕えた場合のアーカードの出方が懸念事項だが、生かして捕えておく以上はいくらでも交渉材料にできる。
こちらのリスクは、精々が闘争による命の危険。それも死合ではなく試合だからそこまで憂慮すべきものでもない。
 
 

550 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:58:39 ID:???
 そしてルイズとビダーシャルは、同時に呪文を紡いだ。


◇†


 冷やされた空気が裂くように渦巻き、術者を中心として拡がりながら巨大に上昇していく。
スクウェアメイジであるタバサの魔力が込められたアイス・ストーム。
それは一種の怪物のように唸りをあげ、空の上で地震が起こってると錯覚するかの如く周囲を震わせる。

(なるほど、このまま広がり続ければ・・・・・・)
ジョゼフはタバサの狙いをすぐに察する。
このまま氷嵐が拡大し続ければ、狭いフリゲート艦の上では逃げ場がない。
触れただけで切り裂かれるだろう鋭き氷粒は、そのまま加速への対策になる。
間隙を塗り潰すように暴れる氷嵐には、加速であろうとも入り込むことは出来ない。

「だが所詮は、アーハンブラ城での焼き直しだぞ・・・・・・シャルロット」
聞こえないとわかっていながら、ジョゼフは語りかける。
前回はジョゼフの周囲に氷嵐を展開させて狭めていき、今回はタバサの周囲に氷嵐を展開させて拡げている。
対象を変えて範囲効果のベクトルが逆に向いているだけで、その本質・・・・・・狙いは変わっていない。

 ジョゼフは杖を構え詠唱する。
氷嵐が広がる速度はかなりのもの。十秒と掛からずに氷嵐に巻き込まれるだろう。
しかしエクスプロージョンの詠唱の方が早い。

(残念だよ・・・・・・)
その一言に尽きた。
再戦に際し、大した考えもなく挑んできたことにジョゼフは溜息を吐く。
範囲を縮小ではなく拡大している故に、魔力消費はアーハンブラ城の比ではないだろう。
さらには術者自身を中心として展開している為に、自由に動き回ることも出来ない。
復讐と激情に駆られ、思考能力を失っているのか。
 

551 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:59:19 ID:???
(所詮はこんなものか・・・・・・)
炎のように燃え上がった感情が、一気に氷点下まで落ちた心地。
一言、つまらない。ジョゼフは無感情に杖を振り下ろし、エクスプロージョンを開放する。

 その瞬間。悪寒を感じた。
獣のように鋭くなったジョゼフの感覚が何かを捉える。
エクスプロージョンを放つことよりも、加速での退避を優先した。
時間を置き去りにするかのように、肉体と精神が世界から分離する。
そしてジョゼフは、頬から流れ出ている一筋の血に気付く。
いつの間にか己の周囲には、無数の氷矢が展開していた。


 これ見よがしなアイス・ストームではなく、音も無く囲んだウィンディ・アイシクルこそが本命。
ジョゼフの正面から見える位置には、氷嵐の中で作り出して氷矢を射出。
視界の範囲外である背後に展開された氷矢は、単純に吹き荒ぶ風のおかげで密かに構築されたのも気付けない。
そしてジョゼフがエクスプロージョンを使う隙を狙い、氷矢は一斉に襲い掛かったのだった。
 
 よくよく見れば、心なしか規模が小さくなった氷嵐の壁。
そして空間各所に配置してある殺意が満ち込められた氷の矢。
ほんの数瞬でも加速の発動が遅れていれば、串刺しになっていたことだろう。
死にはしないまでも、重傷は免れなかった。
加速は確かに強力な虚無魔法だが、加速を開始する前の反射神経まで加速されるわけではない。
故に使う前に潰す。虚を突いて殺す。当然の狙い。

 ジョゼフは心の中で堪え切れず失笑した。
つまらない?とんでもない。
再戦にあたって大した考えなしでやって来た?心から詫びよう。          ・・・・・
殺気を振り撒く冷眼すらも布石。激情に駆られ、復讐にのみ心を傾け支配されていると思わされた。

 ジョゼフは周囲の氷矢を、ゆっくりと手でどかしながら安全な空間を作り出す。
次いで加速の世界から解き放たれると、軌道を変えられた氷矢は虚空を貫いた。

552 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 20:59:38 ID:???
 
 
 氷嵐が少しずつ晴れて消えていく。
ジョゼフは新たな攻撃に一応の注意を払いながら、消えゆく氷嵐を眺めつつ考える。
二つの魔法を同時に使うことは、不可能ではないが至難。
ウィンディ・アイシクルを使った時点で、アイス・ストームはそれ以上の拡大は停止。
巨大な氷嵐と無数の氷矢で、相当な魔力を使った筈。
まだ若くスクウェアになったばかりのシャルロットからすれば、打ち止めと言っても良いほどだろう。

 命中すれば終わりであるし、もし回避されれば、当然警戒されてそれ以上の追撃は難しい。
故にこそ、先の一撃に全身全霊を懸けたに違いない。恐らくは相討ちも辞さない覚悟だったのだろう。
何故ならこちらのエクスプロージョンを、シャルロットが防ぐ手段はないからである。
よってまんまと氷矢を回避されたシャルロットに残されるのは、精々が逃げるだけ。

 タバサを逃がさない為に、氷嵐が晴れる瞬間にジョゼフは加速で一気に近付く。
エクスプロージョンで消し飛ばしても良いが、それでは味気がない。
姪の健闘を讃え、敗北を認識させた上で、この手で殺してやるのがせめてもの慈悲。

 獲物を狙う肉食獣のように姿勢を低く様子を窺っていたタバサの首筋に、いつの間にかナイフを当てられていた。
「・・・・・・ッ!?」
ひんやりとした刃の冷たさにタバサは目を見開き、ジョゼフを見上げる。
伯父と姪の視線が絡み合う。ジョゼフは笑い、タバサは睨む。
「良かったぞ、シャルロット。だが一歩足りなかった。そしてもう次のチャンスはない」
「・・・・・・」
タバサはただ押し黙ったまま、視線だけで射殺さんとするほどジョゼフを睨み続ける。

553 :ゼロのロリカード-60:2010/05/03(月) 21:00:14 ID:???
 

「さらばだ、シャルロット。これで・・・・・・終わりだ」
首に突きつけたナイフをひく瞬間、タバサが口を開くのを見てジョゼフは止める。

「そのセリフはやめた方がいい。大抵は"これで終わり"じゃない」
相手が勝利を確信した時にこそ、隙が生まれる。
数多くの死闘を経験し、多様な修羅場を潜り、命の懸かった窮地を乗り越えてきた。
そんなタバサだからこその言葉。

 最後に恨み言の一つくらい聞いてやろうと思って止めた手を、ジョゼフは再び動かす。
タバサの言葉を一笑に付し、大振りのナイフは少女の・・・・・・か細い首をあっさりと落とした。

554 :マロン名無しさん:2010/05/03(月) 21:02:38 ID:???
支援

555 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/03(月) 21:02:47 ID:???
とりあえず60話は短めですがこれで終わりです。
続いて61話を50分後くらいに投下し始めます。

連投規制に引っ掛かりそうなので、区切りが良いこともあって分割しました。
ではまた後ほど。

556 :マロン名無しさん:2010/05/03(月) 21:46:49 ID:???
連休中に乙であります!

557 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:53:06 ID:???
 ビダーシャルは言葉を紡ぐ。口語の呪文によって精霊と契約する先住の魔法。
すぐに契約は成され、周囲の大気がビダーシャルの味方となる。
ほぼ同時に詠唱を完了させたルイズも、左手で持った杖を振って虚無を解き放つ。

 目の前から消え失せたルイズに対し、ビダーシャルは神経を尖らせる。
既にその魔法は二度見た。一度目は上空で消え去り、二度目は奇襲された。
ジョゼフの加速に近い、瞬間移動のようなものということは類推出来る。
それに対抗する為の・・・・・・突然の出現にも察知して対応可能な、大気と反射の二重防御壁を張る。

 ビダーシャルは的を絞らせないように空中を動き回りながら、周囲を見渡す。
そして直上上空に、転々とする影をその目に捉えた。
(転移・・・・・・か)
観察すれば、一瞬で消えては全く別の空間に現れている。
自由落下を繰り返しながらも、少しずつ高度を上げているようであった。
その様子を見る限りでは、一回の転移距離に制限があるようであったが、安易に決め付けるのは愚である。
そう見せているだけの可能性も有るし、決して油断はしない。

 ビダーシャルはエクスプロージョンによる長距離砲撃にも気を払いながら、注視し続ける。
――――――そして、桃色が視界の端に映った。反射的に視線を移す。
限界距離を短いと刷り込またところで、長距離転移して虚を突く。
想定の範囲内と頭の中で思ったその瞬間、ビダーシャルの顔が驚愕に染まった。

 ルイズは――――――目の前に現れて静止していた。
そして・・・・・・その左右上下、後方にまでもルイズが存在していた。
ビダーシャルが移動する先々に・・・・・・、端々に浮いているルイズの姿。その数は10や20どころではない。
空間を埋め尽くすかのように、無数のルイズが遍在していたのだった。

 思考が止まる。どう対処するべきか迷う。
だがすぐに感じる。大気が、流れが教えてくれる。
遍在するルイズの、そのどれもに・・・・・・質量が感じられなかった。
落下もせず、完全な静止状態を保つ少女達。つまりは・・・・・・幻。
今もなお空に遊弋し続ける、トリステイン艦隊と同じ幻影。

558 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:53:59 ID:???
 
 そうビダーシャルが悟った瞬間、圧倒的存在感を真上から叩き付けられた。


 ルイズはディスペルサーベルを、ビダーシャルの肩口目掛けて袈裟斬りに振り下ろす。 
重力を味方につけ、落下の速度を乗せた斬撃は、峰打ちでも一撃で戦闘不能に追い込めるだけの威力を持っていた。

 ルイズには飛行する魔法は使えない。
テレポートを繰り返す空中機動戦でしか、接近する術はない。
最初に奇襲したのにも拘わらずビダーシャルに回避されている以上、ただ近付いても迎撃されてしまうのは目に見えていた。
かと言って、タルブ戦で放ったほどの回避不能レベルの、超巨大エクスプロージョンならばいざ知らず。
既に相当消費した現状の魔力で爆発砲撃をしたところで、捉え切るのは難しい。

 故に選んだ戦術。
テレポートで上空高くまで移動し、落下している間にイリュージョンを詠唱。
無数の自分自身を想像し具現化する。ビダーシャルを攪乱し、隙を見出す。
相手が逡巡している間に再度テレポートで位置を調整し、一気に強襲を仕掛けた。
だが、ビダーシャルはそれすらも咄嗟に横に飛行し躱していた。

 極限まで集中し、世界の法則から解き放たれたような感覚で、ルイズの頭は冷静に回り続ける。
臨機応変に。ビダーシャルの行動から、次の一手、さらに二手先三手先と思考し読んでいく。
無想の心は、相手を詰ませるまでの行動を最適化し続け、そして導き出す。

 ビダーシャルの眼光は、本物のルイズだけをしかと見据える。
落ちゆくルイズは既に新たな詠唱を開始し、杖を振り下ろさんとしていた。

 テレポートですぐに離脱されてしまう為、反撃はなかなかに難しいものがあった。
だが所詮は人間のメイジである以上、いずれはガス欠に陥る。
防御と逃走に徹して消耗を待つだけで、この闘争は容易に終わるとビダーシャルは踏んでいた。
(そうだ、このままでいい・・・・・・)
魔力切れを起こすのも人間の弱さであり、それを打破してこその彼女が言う対等であろう。
消極的策ではあるものの、容赦はしない。確実に勝つ為には手段は選ばない。

559 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:55:22 ID:???
 

 ルイズが杖を振る。
間断なくビダーシャルの頭上に光球が出現し、瞬く間に膨れ上がった。
ビダーシャルは光球に逆らわず、膨張速度よりも速く真下方向へと退避する。

 チェック
「王手・・・・・・」
ビダーシャルのその回避行動を見てルイズは呟く。
その言葉と同時にルイズは、次いで既に詠唱していた呪文を開放した。

 ルイズの姿は既に消え失せ、ビダーシャルは索敵を開始する。
その間にエクスプロージョンは限界まで膨張し切り、そして収縮していく。
と、光球の収縮と同時に飛び出して来る何かを感じてビダーシャルは反射的に体を向けた。
「なっ!?」
サーベルの刃が、ビダーシャルの首元を通過する。

 メイト
「詰み」
刃を寝かせて首筋に突きつけ、杖を握ったままの左手でビダーシャルの襟首を掴む。
生殺与奪を完全に握った状態。そしてルイズはほくそ笑んだ。


 テレポートを使用すると慣性や加速度はリセットされてしまう。
よってルイズは落下を利用する為に、エクスプロージョンでビダーシャルが下に逃げるように誘導した。
直後に標的選択をしたエクスプロージョンの中へと、テレポートで転移して突っ込む。
結果、ビダーシャルの索敵範囲外から悟られない急襲を可能とした。
ビターシャルへと向かって落ちながらルイズは距離を詰め、ディスペルサーベルで反射を切り裂く。

 ビダーシャルの近距離に転移しながらも、全く気取られずに攻められる一手。
本来であれば一瞬のタイムラグが、ビダーシャルの回避行動を許してしまう。
しかし、エクスプロージョンの中であればルイズの存在を察知することは出来ず、さらに虚も突ける。

560 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:55:58 ID:???
 
「ぐっ・・・・・・」
襟を引っ張られ、ビダーシャルは呻きをあげた。
落下するルイズの体重を急激に支えた所為で息が詰まる。
しかしそんなことはお構いなしに、ルイズはぶら下がったまま口を開いた。

「これでも認めない?」
ルイズの無垢な微笑み。してやったりといった表情がありありとわかった。
ビダーシャルは飛行も浮遊も出来ないルイズを、自分と一緒に浮かせてやる。

「・・・・・・あぁ、我の負けだ」
二人して落ち着いたところで、素直に敗北を認める。
殺し合いであったならとか。反撃していれば良かったとか。もっと大量の精霊と契約可能な場所であったならとか。
そういった無粋な言い訳をするつもりもない。もとより互いにハンデのある状態での勝負。
それは最初からわかっていたことであるし、納得ずくで受けた勝負。その上での勝敗に今更文句をつけはしない。


 回答を聞いたルイズは、サーベルを鞘へと納める。
実際的には辛勝とも言える内容であった。
テレポートを覚えてなければ、勝負にすらなっていなかった。
尤も、その時は地上で戦うようどうにかこうにか上手く誘導するつもりだったのだが・・・・・・。

「そう、良かった。でもなんか・・・・・・ちょっと納得いってない感じ?」

「・・・・・・そうだな。強いて言うのならば、我はお前個人に負けただけに過ぎない。
 お前のことは対等と認めよう。だが約束とはいえ、これで人間全てを認めるのは・・・・・・心情的には納得ゆかぬ。
 まして我らが危険視する『悪魔の力』・・・・・・お前たちの言う『虚無』に負けただけで、普通の者では相手にならぬだろう」
 

561 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:57:36 ID:???
「でも私より強い人間もいるわよ。母さまとか・・・・・・」
「母・・・だと・・・?」
ルイズはキョロキョロと見渡し、そして指を差した。
「あれ」
ルイズの指し示す方向を見ると、多数の竜騎兵をまとめて蹂躙するマンティコアと騎士が見えた。
「・・・・・・なるほど」
傍目から見ても、恐るべき戦力ということはわかった。


「というか、止めてこないと・・・・・・」
戦線は完全に瓦解し、殲滅戦になりかけている。
アーカード、ウォルター、カリーヌ。ガリア軍が可哀想に思えるほど、三人が暴れ過ぎていた。
三者三様の戦いっぷりは、見てて惚れ惚れするほどのもの。

 それを今からすぐにでも止めに行かねばならないと思うと、ルイズは気落ちしそうであった。
既にフリゲート艦からアイス・ストームは消えている。既に決着がついていてもおかしくない。
タバサはジョゼフを必ず倒すと信じているし、なればこれ以上の戦闘は不必要な犠牲となる。
魔力もかなり消費しているが、放置するわけにはいかない。

「それじゃ、また後で」
ルイズはビダーシャルに告げると、すぐにテレポートで転移していく。

「・・・・・・たくましい人間だ。しかも我を――――――」

 ――――――・・・・・・信頼している。
こちらが約束を守ると確信し、監視はおろか釘を刺すことすらせずに行ってしまった。
「ふふっ・・・・・・」
思わずビダーシャルの口から笑いが零れた。
蛮人と・・・・・・人間と話していて、まさか笑うことがあるとは、自分に驚く。
 

562 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:58:29 ID:???
 相手の信頼に対して、こちらも信頼で応えたくなる。
(もしかしたら・・・・・・)
本当に人間種族とエルフ種族が、分かり合える日が来るのではとすら思ってしまう。

「・・・・・・そうだな、せめて我の可能な限り協力するとしよう・・・・・・気高き虚無の少女よ」
ビダーシャルは心中ではなくはっきりとした言葉で、誰にともなく言った。





 タバサの分断された頭が転がる――――――。

 ――――――次いでジョゼフは目を疑った。
タバサの小さな顔が崩れ、見る見る内に小さくなっていったのだった。
同じように首のなくなった体までもが、縮小していく。

 それは見慣れた物というほどではないが、知っている物体であった。
『スキルニル』。血を吸った者の姿形に声、記憶や思考に、能力までも再現する魔法人形。
つまりはタバサ本人を殺したのではなく、飽くまで人形を無力化したに過ぎない。

 いつから入れ替わっていたのか・・・・・・。氷嵐の中でか?それとも最初からか?
使用者は誰なのか。シャルロット本人か?それとも裏切ったウォルターか?さらなる別の誰かか?
「"これで終わり"じゃない」と言ったシャルロットの言葉が頭の中で反芻させる。
その通り、まだ終わっていない。

 思考を回転させる最中、ジョゼフは衝撃と浮遊感を味わった。
フリゲート艦から吹き飛ばされて、気付けばそのまま地面へと落下している。
今度こそ、本当に完全な形で虚を突かれた。
急激に叩かれた勢いで持っていた杖も手から離れ、為す術もなく墜落するのみ。
ルイズと同じく、虚無の担い手は飛行や浮遊と言った魔法は使えない。
 

563 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 21:59:14 ID:???
 同時にジョゼフの瞳に、タバサの姿が映った。


 タバサが用意していた二重の策。
北花壇騎士として任務をこなしていた頃、北花壇騎士団長でありジョゼフの娘でもあるイザベラから貰った物。
アーハンブラでの攻防でウォルターが使っていたことで、自分も持っていたのを思い出した。
その『スキルニル』によってこの最後の策が相成った。

 アイス・ストームを纏い、規模を拡げ、ジョゼフ加速を封じつつ逃げ場の無い艦の上で追い詰める。
氷嵐の壁によって遮った視界を利用し、すぐにスキルニルで自分をもう一人作り出す。
ジョゼフにアーハンブラ城の闘争を想起させ、エクスプロージョンを誘発させる。
その間に隙を突いてウィンディ・アイシクルを作り出して放つ。それが第一の策。

 次に第二の策に移る。
氷矢を展開した後、すぐにフライで飛び上がり、氷嵐が晴れる前に空中に退避する。
スキルニルの操作は一旦捨て置き、極限まで研ぎ澄ました集中力による同時魔法行使を行う。
飛行しながら展開させておいた氷矢を放ち、後にスキルニルの操作を再開。
そのまま精神を集中させながら待ち、空中でジョゼフの出方を窺う。
狙いは身代わりの自分が殺された時、元の人形に戻る隙を突く。
そしてウィンディ・アイシクルではなく、視認も回避も不可能に近い特大のエア・ハンマーをジョゼフに叩き付けた。

 空中に放り出されたジョゼフには、もう為す術はない。
加速を使うには地面が無ければ意味がない。加速では空中を飛ぶことは出来ない。
杖が無ければ、新たに魔法を詠唱することも不可能である。
もし杖を持ったままでエクスプロージョンを放てる状態であったなら、地面に墜落するのを待つ。
仮にルイズのテレポートのように新たな術を持っていたのなら、そのまま撤退する予定であった。


 結果として、ジョゼフは衝撃で杖を落としてくれていた。
杖が無い以上は魔法を新たに使えず、"かけ捨て"であろう加速も役に立たない状態。
それはタバサにとって僥倖なことであった。
何故なら――――――自らの手で復讐を完遂出来る。

564 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 22:00:25 ID:???
 
 ジョゼフは・・・・・・空を仰ぐようにタバサを見つめ、薄ら笑いを浮かべていた。
タバサは杖にブレイドを纏い、フライによってジョゼフの落下速度よりも速く飛ぶ。
父の形見であるその杖で・・・・・・復讐者たる己がこの手で、引導を渡す。

 タバサはキメラドラゴンをジャベリンで貫いた時のことを思い出していた。
シャルロットという名を捨てた・・・・・・、タバサとなった時のことを。
ほんの一瞬の回想。あの時の自分と、今の自分が重なる。

 ――――――手応えは、感じなかった。
ブレイドによって強化された杖の鋭利さは、人の肉の硬さなど感じさせない。
腹を貫かれたジョゼフは血を吐き、そのしぶきが僅かにタバサの顔にかかった。
その手で肉を貫き殺すという感触を味わえず、呆気なく致命傷を負わせる。
それはタバサにとって幸運なことだったのか、不幸なことだったのかはわからなかった。



 迫る地面を目の前に、タバサは最後の魔力を振り絞ってレビテーションを掛けた。
タバサと、持った杖と、貫かれたジョゼフが、揃って重力から解き放たれる。
力の抜けたジョゼフの肉体は、静かに地面へと置かれる。
タバサの杖は、そのまま・・・・・・さながら墓標のように、地面に突き立てられた。

 心臓ではなく腹を刺しただけなので、ジョゼフはまだ息絶えてはいなかった。
しかし当然出血は止まらない。このまま放置すれば時を経ずして失血し、死に至る。
治療するつもりなどないし、致命傷を治療するだけの技量も、残る魔力もない。

 ジョゼフは虚ろな瞳でタバサを見る。そしてゆっくりと口を開く。
「ありがとう、シャルロット。そして・・・・・・すまなかった」
血が詰まったような声色で聞き取りづらかったが、それでもしっかりと耳に入る。
 

565 :ゼロのロリカード-61:2010/05/03(月) 22:00:48 ID:???
 聞いたタバサの顔が歪む。
ジョゼフがそんな言葉を発した理由が、タバサには理解出来ない。

 ジョゼフにとって、これほど心が震えることはなかった。
復讐者であるシャルロットが、美事に自分を討ち果たした。
その事実が、ジョゼフの中の虚無であった心を、何がしかで満たした。
気付けば自然と口に出ていたのだった。感謝と、謝罪の言葉。

「エルフのビダーシャルに・・・・・・俺からの最後の命令と言って薬を調合させるといい。
 それでお前の母の心は元に戻るだろう。奴が殺されずに生きていれば・・・・・・の、話だがな」

 ジョゼフはゆっくりと空へと視線を移す。
戦場は完全に瓦解していた。己の死だけでなく、ガリア軍の負けも決まった。
ついぞ地獄は見れなかったが、それでも心静かに逝けそうであった。
もとより生に執着がなかったおかげもあろうが、何よりも満たされた心地。

「良い・・・・・・戦争だった」
それを最後の一言に、ジョゼフの息が完全に止まる。


 タバサは死んだジョゼフを――――この手で殺した伯父の姿を――――見つめ続ける。
「終わった・・・・・・」
それが夢でなく現実であると確認するかのように、タバサは感慨深く噛みしめるように呟いた。

 ジョゼフの最期に・・・・・・微かな憐憫と罪の意識を覚えたが、それは朝霧のように消えていった。

566 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/03(月) 22:03:35 ID:???
以上です、支援どうもでした。まとめもいつもありがとうございます。

ようやくここまで……長かった。
いよいよ残り3話ほどで、最終回となります。
最後までお付き合い出来れば幸いです。

ではまた。

567 :マロン名無しさん:2010/05/03(月) 22:57:39 ID:???
続けて乙です
ジョゼフが最後にあのセリフを吐くとは思わなかったから
思わず吹いてしまった

568 :マロン名無しさん:2010/05/04(火) 19:11:26 ID:???
ゼロリカ殿乙です
あと数回で終わりとは。残念と言うかなんというか。
残りも楽しみに待っております。

569 :マロン名無しさん:2010/05/04(火) 20:44:21 ID:???
そろそろ、最終回か・・・最後まで頑張ってください

570 :マロン名無しさん:2010/05/09(日) 12:48:18 ID:???
保守

571 :マロン名無しさん:2010/05/09(日) 23:30:06 ID:???
ロリカードいつも楽しみにしています

572 :マロン名無しさん:2010/05/15(土) 00:08:49 ID:p+OOCt2r
保守保守
シュレの人も紙吹雪氏も、ロリカードさんも楽しみ。

573 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/17(月) 21:50:57 ID:???
どうも、投下します。

574 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:53:00 ID:???
「もう・・・・・・30年にも、なるのねぇ」
ルイズはしみじみと呟いた。思い返せば光陰矢の如し。

 ジョゼフの死。ガリア国内の混乱。タバサの女王即位。タバサの母の心の治癒。
重体で寝たきりになったヴィットーリオ教皇が語った、滅亡の精霊石とハルケギニアの危機。
新たな虚無の担い手であるタバサの生き別れた妹。エルフ達との交渉。

 容易には語り尽くせないほど――――――本当に様々なことがあった。
苦難も多かったものの、それら全てを踏破し、乗り越えてきた。
そして今がある。世界全体が落ち着いてきて、平和な日々が送られつつある。

「そうさな、存外に時間が掛かったものよ」
アーカードも同意する。生まれてからもう600年ほどは経つだろうか。
そんな長い長い人生の中の僅か1/20。ハルケギニアへと召喚されてからほんの30年。
だがそれは最も激動と言える、密度の高い、充実した時間であった。

「相棒とも、随分と長い付き合いになっちまったなあ」
千年単位で生きるデルフリンガーにとって、使い手である人間に使われる時間は短い。
粗雑に扱われることもあったが、それでもアーカードとの時間は楽しいものであった。
そしてそんな付き合いは・・・・・・これからも長く続いていくだろう。


 人間と吸血鬼と剣。傍から見ればおかしな組み合わせで思い出話に花を咲かせる。
一夜を通して語り続け、既に空も白み始めていた。

「この間なんか鏡を見たら、小ジワがあってショックだったわ。その点吸血鬼はいいわよね」
「ははっ、なんだったら血でも吸おうか?」
「そうねぇ・・・・・・、それもいいかも知れないわね」

 アーカードとルイズは微笑み合う。冗談の言い合いも慣れたもの。
 

575 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:53:26 ID:???
「・・・・・・さて、と。それじゃ私はそろそろ行くとしよう」
アーカードは窓の外を見ながら、少し散歩にでも出てくるような調子で言った。
「えぇ、それじゃ・・・・・・また」
それに対しルイズは、非常に穏やかな心地で答えた。

「あぁ、またな」
アーカードが簡単に別れの挨拶を告げ、部屋から出て行く。

 ほんのそれだけで二人の別れの儀式は終わり。
それにアーカードが言うには――――――しばしのお別れ。

「いってらっしゃい、伯爵」



 城の中庭に出ると、待ち構えていたように風韻竜が降りて来る。
「時間ピッタリ」
竜の背中に乗ったから青髪の女性が長髪を靡かせて言う。

「わざわざ出向いてもらってすまんな。シャルロット、シルフィード。」
アーカードは重力のくびきを感じさせない軽やかさで地面を蹴り、ふわりとシルフィードの上に乗った。
同時にシルフィードは一度だけ嘶くと、空へと飛び上がる。

「別に構わない、丁度良い気分転換にもなるし。それと・・・・・・」
シャルロットはアーカードの言葉を聞き咎める。

「私はタバサで良いって何度言ったらわかるの?」
元は人形の名。復讐を誓い、騎士の称号を得た時にシャルロットの名を捨て、タバサを名乗った。
今は正式にシャルロットへと戻しているが、昔馴染みの友相手にはタバサの方が良かった。
 

576 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:54:23 ID:???
「ははっ、許せタバサ。上に立つ者の責務を忘れんが為にもな」
「国へ戻れば嫌でも言われるし、こういう時くらいは昔の名が良いわ」
タバサは嘆息を吐きつつ、続ける。

「でも・・・・・・そろそろ、正式に王位を譲って隠居したい気分」
「それはいいのね。それでシルフィと一緒に、こうして日がな一日空の散歩するがいいのね」
ガリアも落ち着き、昔以上に豊かになってきている。
もう自分の役目は十分に果たしたと言っても良い。

「世継ぎは?」
「妹の子がいる」
「ふむ、あの月目の小僧との子か」
アーカードは思い出しながら言う。

「小僧、ね。あれほどの才覚で成り上がったと言うのに・・・・・・まっ貴方からすればみんな子供か」
「んむ。お前達はまだまだ若輩よ」
タバサは「ふふっ」と笑う。
アーカードからすれば、例え100歳の老人でも子供なのだろう。

「にしても、上に立つにはまだ若いのではないか?」
確かまだ20歳ちょっとくらいと記憶していた。
ガリアの頂点に立つにしては、まだまだ足りないだろう。

「私が女王になった時はもっと若かった。ガリアが荒れたから仕方なかった部分もあったけれど。
 それにまだまだ現役で頑張っているアンリエッタ女王陛下も、当時若くして王になったでしょ。
 確かに不安はあるけれど、ジョゼットもジュリオもいる。イザベラも補佐するだろうし、大丈夫だと思う」

「まぁ私も昔は若くして王になったし、そんなものか」
尤もその時は、大して経ずに王座から転落したが・・・・・・。

 

577 :マロン名無しさん:2010/05/17(月) 21:54:46 ID:???
ちょ!来てる!!

支援します

578 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:54:56 ID:???
「・・・・・・えっと確か、トリスタニアに寄るんだった?」
「んむ」
「ちゃんと向かってるのね。全く、近頃のお姉さまは忘れっぽいのね、シルフィとの約束もよく忘れるのね」

 タバサは心外だとばかりに、半眼になる。
「別に、一応確認しただけ。・・・・・・それにそもそも、シルフィードとは約束した覚えもない」
「お姉さまは昔っからいつもそうなのね。でももう慣れたものなのね」

「ふっ、心労か?」
「だから違う。ま・・・・・・心労があるのは否定しないけど」
元々王という立場は自分に向いていない。
平和になった今でも、女王という地位は堅苦っしくてかなわない。
自分できちんと見聞きし考え、判断を下すという気質の所為で余計な苦労をしたものだった。

「それで、さっさと隠居したいわけか」
「・・・・・・否定はしない」
「隠居して、本読み三昧か?」
「もちろん」
タバサの根っこの部分は変わっていない。
女王になってからは、空いた時間も殆ど学術書ばかりを読み漁っていた。
引退すれば何の気兼ねをすることもなく、自由に本を読める。

「まっ機会があれば、私の世界の本を持ってきてやろう。・・・・・・尤も読む為には、文字を覚えねばならんがの」

「それくらいは問題ない。むしろその程度で色々な本を読めるなら願ったり叶ったり。
 他の世界の読書をしながら余生を過ごせるなんて最高。・・・・・・それで、どんな本を持ってきてくれるの?」

「そうさなぁ、さしあたって・・・・・・」
アーカードは少し考えると、含み笑いを込めて言った。

「"ブラム・ストーカー"をおすすめしようか」
 

579 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:56:13 ID:???
 



 トリスタニア王宮で、アーカードはアンリエッタ女王陛下と謁見する。
外交上の問題として非公式での訪問になる為、現ガリア王であるタバサとシルフィードは外で待っていた。

「朝早くからすまんの」
「いえ、お気になさらず。・・・・・・それにしても、あなた"も"本当に変わりませんね」
久し振りにアーカードの顔を見て、溜息を吐くようにアンリエッタは言った。
時間を空けて会うからこそ、認識させられる現実。

「アニエスもそうですが、吸血鬼というものが時折羨ましく思います」
そう言いながら、アンリエッタは従者へと視線を移す。
常に一緒だから普段は気にしないものの、アニエスはずっと変わらぬ姿で仕えてくれている。

 女であれば一度は思う、永遠の美。いつまでも美しくありたいという願望。
不老不死の化物はそれを可能とする禁断の果実。
それを享受したいとまでは思わないが、時の流れに移ろわず囚われないことに憧れるのもまた事実。

「フッ、貴方は30年前の様なおてんばのままだ、お嬢さん」
アーカードは素直に、嘘のない言葉を紡ぐ。
「貴方は今こそが確実に美しく、そしてこれからも一層美しくなるのだよ、女王」
姿形など瑣末なこと。気高き精神を備えた人間は、例外なく美しく素晴らしい。

「ふふっ、そうですか。あなたが言うのなら・・・・・・そうなのでしょうね」

 

580 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:57:10 ID:???
 軽い挨拶がわりの話を終えたところで、アンリエッタは本題へと入る。
「それで・・・・・・今日は何か、用件があると伺いましたが?」
アーカードから改まっての用向き。
ただ話したいとかであれば、食事でも用意させるところであるし。
時間の都合に関しても、強引にだってつけるところだった。
だが、正式な手続きの上での謁見の申し出だったのである。

「陛下から授かっていた騎士の称号。これを返上したいと存じます」
アーカードはそれまでの態度とは打って変わってかしこまると、シュヴァリエのマントを差し出す。
「はぁ・・・・・・何故でしょうか」
アンリエッタは首を傾げる。
持っていて困るものでもないし、アーカードが突然言うからには何かしら理由があるのだろう。

「んむ、何かしら便利だろうと思って今まではありがたく頂戴していたがの。
 一代限りのシュヴァリエの名を、不老の化物である私がずっと持っているのはマズかろう。
 私が死なぬ限り年金を払い続けねばならん。つまりこの国が滅びるまで、払い続けねばならんことになる」

 アーカードはまた普段の調子に戻ると、冗談交じりにそう言った。
実際的にはアニエスにしろ、途中で何がしかの措置があるだろうが、その手間を一つ省くというもの。
今の内に返してしまえば、後々に至って余計な手続きをしなくて済む。

「それに元々私はただの走狗に過ぎん。まっ、領地と伯爵位の方はありがたく貰って置くがの」
いずれは国へと返すか、ラ・ヴァリエール家にでも譲渡することになろうが、まだそれは早い。
少なくとも見知った人物が死に切るまでの間は、帰るべき家は残しておきたいし、実際にルイズも城に残っている。

「なるほど、そういうことでしたら・・・・・・わかりました」
アンリエッタは納得して、アーカードからシュヴァリエのマントを受け取る。
「これから暇ですか?」
アンリエッタはアーカードに尋ねる。
折角だからと、このまま一緒に食事でもしたかった。
 

581 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:57:35 ID:???
「いや、これから所用がある。それに人を待たせているのでな」
「・・・・・・そうですか、ではまた日を改めて」
「んむ、それじゃ失礼する」


 アーカードは踵を返して歩きながら、アニエスへと念話を送る。

(これからも女王に良く仕えるようにの)
(・・・・・・?はぁ・・・・・・まぁ、昔からそうしていますが)
アニエスは心の中で疑問符を浮かべた。何故わざわざそんなことを言ったのか。
まるでこれから死に逝く者が告げる言葉のような・・・・・・そんな雰囲気を感じ取る。

(これから何か・・・・・・あるのですか?マスター)
アーカードは歩みを止めることなく、念話を返す。
(ん〜・・・・・・そうさのう、お前に知ってもらっておけば便利かもな)
(一体何でしょうか)
(血族たるお前は、私の存在を知覚出来るだろう?もしも私が死んだと感じたら、その時は皆によろしく言っておいてくれ)
(はぁ・・・・・・?)
アニエスは心底馬鹿馬鹿しいと感じた。
殺したって死なぬようなアーカードが死ぬわけはないと。

(決着をつけねばならぬ相手が・・・・・・いるのでな)
(・・・・・・なるほど、了解しました)
アニエスはアーカードの心情を察し、納得の上で承諾する。
アーカードをして、敗北して死ぬやも知れぬという相手。

 それを止めようなどとは微塵にも思わない。
死んだら悲しむ者がいるだろうとか、命を懸けてまで闘う理由はあるのかだとか。
安っぽい言葉で汚すことは憚られる。
かつて己が想っていた復讐と一緒で、当人にとって何物にも代え難きものだろう。
 

582 :マロン名無しさん:2010/05/17(月) 21:58:54 ID:???
支援

583 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 21:59:29 ID:???
(その・・・・・・何と言えば良いかわかりませんが、御達者で)
(あぁ、息災での)





 二人の男が立っている――――――。
一人は30年前からも、そのさらに56年前からも・・・・・・姿が変わらぬ化物。"人狼"。
86年も前にその男・・・・・・"大尉"と、戦った。その時は雌雄を決すまでには至らず、共に生きている。
30年前には大尉の所属していた少佐率いる最後の大隊の連中と、利害の一致により一時的な協力関係にもなった。
浅からぬ関係。だからこそ、より一層の意義が見出せる。

「決着をつけよう」
大尉とは別の、もう一人の男が言う。
黒を基調としたストライプパターンのシャツに黒いベスト。
黒いパンツに黒いネクタイ。暗がりに溶け込むような、全身黒ずくめな姿。
片眼鏡をつけ、髪をバックにまとめて結った、精悍な顔立ちの男。

 実肉体年齢は四十を軽く超えるものの、20歳ほどは年若く見える。
その身は人間でありながら、一分の隙も無く鍛え上げられ、今この時が間違いなく最盛期と言えた。

 大尉は静かに・・・・・・表情に出さずに喜んだ。
待ち望んだ。ずっと待ち望んできた。己を打ち倒してくれる"人間"。
それが目の前の男、"ウォルター・C・ドルネーズ"。
様々な因縁を含めた上で、これ以上ない極上の相手。

「貴様は本命の前の・・・・・・前菜に過ぎない。が、決死の覚悟で臨もう」
ウォルターの夢は、大尉を踏み越えた先にある。
その夢の真なる成就の為に、大尉は闘っておかねばならない相手。
大尉に負けるようでは、その先の・・・・・・アーカードにも勝てるわけはない。
 

584 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 22:00:49 ID:???
 不死身の化物など今や存在せず、くだばるまで殺す。
大尉も、アーカードも、この『死神』が打ち倒す。

 大尉はコートを脱ぐと、フワリッと投げる。
それが地面に落ちた時、戦闘開始の合図となった。


 大尉は霧が如く散逸し、ウォルターの糸を張り巡らせた結界を無視して一気に間合いを詰める。
ブワッとウォルターに圧力が迫り、同時に大尉は実体化しつつ、運動エネルギーを一点に集約させたキックを放つ。
上方から振り下ろされる――――全てを破砕せんとする――――蹴りを、ウォルターは左に身を躱しつつ避ける。

 轟音を立てながら地表をめくり上げる大尉の蹴りは、僅かにウォルターの右頬を掠るだけにとどまる。
回避されたことに驚きも見せず、大尉は着地から間髪入れずに躯を捻りながら右手で裏拳を放った。
ウォルターは大尉の拳をのけぞりながら躱すと、そのまま連続でバック転しつつ、糸で大尉を強襲する。
大尉は迫り来る糸をバックステップで回避ながら、再度攻撃する為の十分な間合いを取った。

 大尉は一足飛びで開いた相対距離を、一瞬で反転してゼロへと縮める。
張られる糸を霧散して抜けて、大きく振りかぶった右拳をウォルター目掛けて打ち下ろす。
同時にウォルターも攻勢へと出る。待ち構えていたように制空圏踏み込むと、大尉の体を糸で絡め取る。
間断なく――――右打ち下ろしが決まるよりも一手早く――――大尉を最大威力で投げ飛ばした。

 振り回して叩き付けた感触を、糸から微細に感じ取る。
するとすぐに糸から抜ける手応えがあり、程なくして土埃が消えると大尉が何事もなく立っていた。

 ウォルターは確信する。数合闘り終えても、何ら問題無い。昔とは・・・・・・違う。
今のところ大尉にダメージこそないが、内容的には負けていない。
己の強さを確かめたかった・・・・・・。全力で戦うことで得られる充実感、陶酔感。
 

585 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 22:01:41 ID:???
(上等・・・・・・)
だがこのまま長引けば化物である大尉の方が有利。故にこれ以上時間を掛けるつもりはない。
ここまでは己の強さの確認であり、同時に大尉の攻撃とパターンの様子見。
――――――大尉を捕えられるのは、実体化する一瞬のみ。
その刹那の瞬間に、用意した切り札を使う。"大尉"、即ち"人狼"への特効。

 ウォルターの気負いを敏感に感じ取り、大尉は巨大な狼へと姿を変える。
完全なる全身全霊のぶつかり合い。ウォルターと大尉、それぞれの殺意と眼光が終結を予感させた。
大尉は四足で大地に根を張るように踏みしめる。
ウォルターはひたすら落ち着いた心地で集中する。


 無形と化した大尉の加速、そして突進。実体化と同時に牙を剥き出しにその顎門を開く。
ウォルターを丸ごと噛み砕き、飲み込まんとする大尉を、糸を巡らせ雁字搦めにして止める。
後ろに退き跳びながら、ウォルターはオーケストラのクライマックス演奏の様に腕を振るい続ける。
瞬きするよりも短い時間の中で、巧みな糸で編み込むように絡め取る。

 あっという間に、大尉は大地に縫い付けられる。
糸は実体化した刹那を逃さず、大尉の躯中に何重もの糸が巻かれる。
しかし決して止まらない。勢いは減衰しつつも、大尉は前へ進み続ける。飛び退くウォルターへと追い縋る。
ウォルターは全力で縛り続けるも、大尉の牙が瞬時に眼前へと迫って来る。

 全力対全力。力の限りを尽くした上で・・・・・・大尉が勝る。
であるならば、大尉は実体を霧散させる必要もない。このまま相手を噛み殺して終わりである。

 ウォルターは無意識に舌打ちをし、咄嗟に右腕を差し出した。
大尉の口腔に差し込まれる右手、同時に糸が大尉の口中からその顎門をも絡め取った。
 

586 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 22:02:29 ID:???
 ウォルターの唇の端から血が滴り落ちる。
己の歯を使ってまで糸を噛み締め、限界以上の力で以て抑えて大尉を止めていた。
ギチギチに縛られる大尉の姿は、さしずめグレイプニルに囚われた魔狼を彷彿とさせる。
しかし完全に束縛することは出来ていない。
突進は止まったものの、大尉の顎は少しずつ閉じられていく。

「ッ・・・・・・」
ウォルターから声にならない呻きが漏れる。大尉の牙がウォルターの右腕に喰い込んでいく。
そのまま完全に噛み千切ろうとするのは明白で、既に肉を貫き骨まで達しようとしていた。

(だが、今はまだ生憎と・・・・・・私の右腕をくれてやるわけにはいかん)

 当然、決死の覚悟で戦っている。
しかしそれでも、その先に待つアーカードと闘う為には、手足はおろかその指すら犠牲にするわけにはいかない。
狂おしいほどの意志が、ウォルターに活力を与える。

 力を振り絞る。限界を超えたさらにその先。力を捻り出す。
僅かに指一本動かすだけに過ぎない力。だがそれだけで十分だった。
一瞬にして右手から伸びた"銀糸"は、勢いを持って大尉の体内を走る。
人狼を殺し得る唯一の"銀"。真っ直ぐに大尉の心臓へと到達した銀糸は、そのまま化物を打ち倒すに至る。


 心臓を貫き切断された大尉の狼の体が・・・・・・少しずつ小さくなり、ウォルターは右腕を引き抜く。
そのまま人間の姿へと戻った大尉は、夜明けの空を見上げて倒れた。

「ハアッ・・・・・・ハア・・・・・・」
ウォルターは呼吸を荒く、大尉を見下ろしながら勝利の余韻に浸る。
銀糸は強度に問題がある故に、通常の攻防で使うことは出来ない。
これ見よがしに使えば、大尉の警戒も誘ってしまう。だからこそ、ここぞという時に使う切り札。
紙一重。だが勝ちは勝ち。
 

587 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 22:03:39 ID:???
 ウォルターは出血の激しい右腕を、糸で縫合する。
そして眼前の事実を自分自身で再確認するように、ウォルターは大尉へ告げる。
「・・・・・・私の、勝ちだ」

 虚空を見つめる大尉の顔に笑みが浮かんだ。
いつだって無表情、感情の無かった瞳にともった一筋の情動。

 全身全霊で負けた。相手に合わせた土俵でもなく、互いの全力で以て破られた。
これ以上ない、これ以上望むべくもない・・・・・・最高の幕引き。
待ち望んだ、ずっと待ち望んできた。
幾星霜の時を経て、ようやく叶った。万願成就の夢が真なる意味で叶った。
化物として・・・・・・強き人間に打ち倒された。

 大尉は声無く哄笑する・・・・・・純真無垢な笑顔で。
体が燃え盛る。炎は狼の姿を形作り、歓喜の咆哮をあげるように一層舞い上がる。
燃える、大尉の世界が燃えて落ちる。終わりがないと錯覚するほどに燃えゆく――――――。

 ウォルターは葉巻を取り出すと口にくわえた。
そして大尉から噴き出し、包み込み、立ち昇る炎で葉巻に火をつける。
弔いのように一度だけ煙を吐き出すと、踵を返して大尉と夜明けの空を背に歩き出す。


 ウォルターに感慨は無い。ただ化物を一匹殺しただけ。
HELLSINGのゴミ処理屋時代に、飽きるほどにやってきたこと。

(いよいよか・・・・・・) 
長かった30年の時。ようやく双方の準備が整った。
あの日――――ジョゼフの死んだあの決戦の日――――の言葉。
ヨルムンガントを破壊され、アーカードに敗れ、そして言われた。
「勝負をしてやる」と。
 

588 :ゼロのロリカード-62:2010/05/17(月) 22:05:32 ID:???
 ジョゼフを裏切るかわりの報酬。
アーカードとの闘争を諦めて、死すら厭わなかったあの時。その言葉は救いそのものだった。
本当なら少佐のように、己の手で零号開放をさせて打ち倒したかったが、贅沢は言ってられない。
だから妥協した。そして・・・・・・今がある。
アーカードは自身の中の命を殺し尽くし、待ちに待った時がやってくる。

 いつから願っていただろうか。いつの間にか願っていただろう。
年を経るにつれてその想いは増し、澱のように溜まりゆく気持ちに、何とか折り合いをつけ、ヘルシング家に仕え続けた。
初恋に焦がれる乙女が如く・・・・・・闘争を欲しながら、気付けば後悔の日々。

 そして長かった人生の苦悩も、今度こそ解消出来る。
身も心も『死神』に。長く見続けていた夢を・・・・・・アーカードをこの手で殺す。



(良かったね、大尉・・・・・・)
闘争を遠く観察していたシュレディンガーは、天に昇るように燃え上がる炎を見つめ続ける。
大尉の果たした本懐を、まるで自分のことのように喜ぶ。

 意志を持つ自己観測する『シュレディンガーの猫』。
存在自体があやふやな、確率の世界を跳ね回る一匹のチェシャ猫。
自分自身を認識する限り、どこにでもいてどこにもいない。

 生死から解き放たれた彼は、世界を観察する。
傍観者であると同時に、時として、場を、流れを、引っ掻き回して楽しむトリックスター。
元の世界に戻ることも出来る。それでもこのハルケギニアにずっとシュレディンガーはいた。

 大尉が死した今、もうこの世界に留まる理由も完全に無くなった。
そしてこれから自分の辿る道はもう決めている――――――。

(残る楽しみは二つ・・・・・・かな)
シュレディンガーは消え行く炎を眺め終えると、霞の様に姿を消した。

589 :マロン名無しさん:2010/05/17(月) 22:12:32 ID:???
支援

590 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/17(月) 22:15:16 ID:???
以上で終了です。支援どうもでした。
まとめも毎度毎度ありがとうございます。

もうなんか色々と時間が跳びました。
あまり長く続けても冗長気味になるし、原作もどうやって収束させるのか不明で先の展開も組めないので、
後の細かい物語は読者の皆さんの想像にお任せし、一旦ここで終結させます。


余談。
大尉が燃えた理由ですが、吸血鬼や人狼といった真正の化物は死ぬと、みんな燃えるのではないかという解釈で書きました。
アーカードがアンデルセンにやられそうになった時に、燃え尽きかけたということ。
ヤンや伊達男やリップ等と違って、大尉は無形になって移動したるするのでドク謹製の焼却装置は埋め込めないだろうということ。
セラスに倒された時点で、ドクがわざわざ燃やす理由もないということ。
等々から、死体が残ったり、塵になったりするのではなく、燃えるという解釈に落ち着きました。

それではあと2話ほどとなりますが、どうぞ最後までお付き合い下さい。ではまた。

591 :マロン名無しさん:2010/05/17(月) 23:02:58 ID:???
>>ゼロリカさん
アーカードが燃え尽きかけたのは茨の効果なのでは?
セラスが止めに入った時、茨と共に炎がセラスにも移りましたし。
それと大尉ですが、彼が死ぬ(というより笑顔を見せた)瞬間、ヤンやトバルカイン同様、
首の中の何かが作動するような演出があるので発火装置だと思ってましたが…重箱ですね、失礼しました。
ともかく、残り2話、楽しみにお待ちしています。

592 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/17(月) 23:19:40 ID:???
>>591
茨アンデルセンの効果とも思いましたが、100年前にヘルシング一行にやられた時に死の河が一つも無いんですよね。
アーカードや少佐の台詞からも零号開放していたのは間違いないのですが、それが綺麗さっぱり消えている……。

彼の世界が燃えて落ちるという時に、死の河も燃え消えようとしてることから、
開放時のアーカード本体が死に掛けると、一時的に死の河も燃えて使い物にならなくなるのではという推測も入ってます。
だから初代ヘルシング卿がアーカードを倒した時の描写では、既に死の河は消えていたと。
さすがのヘルシング一行でも、死の河全部消滅させるのは無理でしょうし、何よりイェニ=チェリ軍団など昔の人達もロンドン時に残っていたので。

ムックとかが出版されて色々と詳細が解説されていれば、こういうことに悩まずに済んだのだけれど……。
まぁこういう雑談や煮詰めは嫌いではないのですが、スレの本意からはずれるのでこの辺でw

593 :マロン名無しさん:2010/05/18(火) 22:14:36 ID:???
投下乙
やっぱこいつらは策略とか戦略より闘争が似合いますなぁ

594 :マロン名無しさん:2010/05/18(火) 23:24:51 ID:???
投下乙です。ここまで続けたのも十分頑張っていますよね
ラストに向けて待っています

595 :マロン名無しさん:2010/05/19(水) 06:43:00 ID:JYt3gV0R
30年かぁ。・・・・・ん?
アンデルセン神父 推定年齢・・・90歳!? 

596 :マロン名無しさん:2010/05/19(水) 11:54:21 ID:???
ついにここまで来たか…

597 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/20(木) 21:54:27 ID:???
どうも、投下します。

定期投下の為にもう書き溜めておく必要性もないので。
最終回も推敲し終え次第いっちゃいます。

598 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:55:42 ID:???
 タバサとシルフィードと別れ、アーカードは森の中を歩いていた。
アルビオン、ウエストウッドの森。そこが決着の地。

 そこに現れる老齢の男。
否・・・・・・最初から既にそこにいて、ずっと待っていたのだろう。
老いさらばえた肉体とは対照的に、その射抜くような眼光は少しも衰えを見せていない。
アーカードは仇敵と視線を交わすと、少女姿から青年姿へと姿を変える。
この男と・・・・・・アレクサンド・アンデルセンと戦うに、最も相応しい姿。

 かつては共闘もした宿敵。
しかし間違いなく、アーカードにとってアンデルセンは敵であり、アンデルセンにとってアーカードは敵。
その厳然たる事実は決して変わりようがない。

「我は神の代理人」
アンデルセンは両手に持った銃剣で十字を描き、聖句が如くに言葉を紡ぐ。
「神罰の地上代行者」
それは闘争の前の儀式であり、これから狩る相手への死の宣告。
「我が使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅する事」

 二人の間に語るべきことはない。
宿敵同士、そこにあるのは殺すか殺されるかのみ。
化物のアーカードと、人間のアンデルセン。

 既にアーカードに死の河はなく、アーカードという個と、アンデルセンという個。
純然たる二つの個が、ぶつかり合い、鬩ぎ合い、削り合い、斃し合う。純物でのみ構成された至高の闘争。
双月が浮かぶこの夜半に、どちらかが・・・・・・或いは両方が死ぬ。

「 A M E N 」

 

599 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:56:17 ID:???
 アーカードとアンデルセンの周囲の空間が歪曲する。
その一撃は必殺――――相手を必ず致死に追い込む――――故に、一撃で何もかも一切合財決着がつく。
極限にまで高められた強者同士であればこそ、そこに不純物は混ざらないもの。
――――――故に、勝負は一瞬で終わる。――――――故に、これは究極の闘争。

 アーカードとアンデルセンは、それぞれ右腕に全身全霊を込め、双方が足並みを揃えるように歩を進める。
相対距離が狭まるほどに、二人を結ぶ空間は一層歪み、引力が発生したかのように、さらに引き寄せられていく。

 時が止まる――――――。
二人の間合いが重なった瞬間、時間が一気に引き延ばされる。
そう・・・・・・極限まで圧縮された重力が空間を捻じ曲げ、時の流れをも遅くするように。
アーカードとアンデルセンが生み出すそれは、もはや一種の特異点。時の停滞した二人だけの世界。

 刹那の"時"を半分に、また半分に、さらに半分に・・・・・・それをひたすら繰り返す。
切り刻み続けた"時"は、涅槃寂静の境地を遥かに超えて限りなく0に近付く――――――。
――――――無限に続く"最小の時"の中で、アーカードとアンデルセンの一撃が交差する。

 時間感覚から切り離された集中力。
時の凍り付く世界でアーカードは直感する。先に攻撃すれば負ける・・・・・・だから、引き付ける。
アーカードも、アンデルセンも、機を待ち続ける。
永劫に続くとも錯覚する時の流れの中で・・・・・・それでも確実に近付いていき、塗り潰されていく二人の間合い。


 先に反応したのは――――――アーカードだった。
意識したわけでは決してなく、アーカードの中の何かが反応した・・・・・・そこが限界だと。
アーカードの貫手の直後に、ほんの僅かに遅れてからアンデルセンの突き出される銃剣。
傍から見れば、同時に繰り出したようにしか見えない程の時間差。
だが二人にしか認識出来ないその差が、勝敗を決めた。
 

600 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:56:51 ID:???
 アーカードの攻撃は虚空を貫く。
そして一歩だけ踏み込んで、その決死の一撃を躱したアンデルセンの銃剣がアーカードを貫く。
服を裂き、皮膚を・・・・・・肉を貫き、心臓まで一直線に刺し込まれる。
アンデルセンに打ち倒される。死を・・・・・・受け入れる。
化物は人間に打ち倒される。それは絶対の理。故に・・・・・・悔いはない。
むしろこれこそを、願い続けてきた、望み続けてきた、待ち続けてきた。

 だがアーカードの心とは裏腹に、その躯は動いていた。
アーカードは――――留まるでもなく、退くのでもなく――――前へと進む。
半歩だけ踏み込む。一歩には満たず、それが限度であった。半身を捻り、心臓を貫く銃剣をずらす。
完全な無意識であった。打ち倒されるという悲願が叶うにも拘わらず・・・・・・。
己の中の何がそうさせたのか・・・・・・アーカード自身は認識していない。

 心臓の斜め上へと突き通された銃剣。
一撃の致死だけは避けられたものの、それで終わりであった。
銃剣の刃はコンマ数mmという位置で、心臓へと向けられている。
アンデルセンが手首をほんの少し返すだけで、造作も無く銃剣は心臓を破壊する。

 そしてゆっくりと時間の感覚が戻り、時が動き出す――――――。
アーカードは咄嗟に・・・・・・アンデルセンの体を支えていた。
手は銃剣から離れ、アンデルセンは倒れるように、その身を預けるかのようにもたれかかる。

 アンデルセンの身体は、とうの昔に限界を超えていた。
精神が肉体を凌駕し、いつ死んでもおかしくない衰えた躯を支えていたのだった。


(・・・・・・勝ち逃げか)
アーカードはアンデルセンの"遺体"をその場に、ゆっくりと横たえる。
 

601 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:57:19 ID:???
 己には目的がある。インテグラのもとへ帰るという目的。
30年の月日を費やし、それももう目前となった。
だがそれでもアンデルセンにならば、倒されても良かった。
神を肯定した化物ではなく、ただ純粋なる人間として戦うアンデルセンであれば。
打ち倒されるだけの価値があった。だからこそ、この闘争を望んだ。

 老いたアンデルセンは強かった。それまで生きてきた人生の中で一番と思えるほどに。
あとほんの少し銃剣に力が加わっていれば、己は死んでいた。確実に殺せた筈だ。
だが・・・・・・・アンデルセンの力は抜けた。その直前に・・・・・・アンデルセンは、死した。

 勝った筈のアンデルセンの寿命は尽き、負けた筈のアーカードは死なずにいる複雑な状況。
アーカードの心に、えも言われぬ感情が去来する。
到底言葉には表せない、どうしようもなく渦巻く虚しさ。
本当に偶然の時の重なりで死んだのか、それとも・・・・・・――――――。


「こんばんは」
ふと・・・・・・声の方向へとアーカードは目を向ける。
そこには一人の女が立っていた。流れるような金色の髪が月光に照らされ輝く。
色とりどりの綺麗な宝石を凝縮させ、一つに結晶化させたような美。
この世にこれ以上の美しさがあるのかと思わせるほどの女性。
それは彼女がハーフエルフだからなのか、単に若作りだからなのか。実年齢には程遠い容姿。

「ティファニア・・・・・・」
アーカードはその者の名を呟く。
ティファニアは軽く会釈をすると、アンデルセンの亡骸へと近付き、その前でしゃがみ込む。

 風もなく、虫の音も聞こえぬ静寂の空間。ティファニアは口をゆっくりと開く。
「あなたは・・・・・・化物ですか?」
「・・・・・・無論だ」
ティファニアの突然の質問。そんなことはティファニアも周知であるのに。
何を今更とアーカードは思い、そして肯定する。

602 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:58:08 ID:???
 
「ですが、ずっと血を吸っていないあなたは・・・・・・人間と一体どこが違うのでしょう?」
ティファニアがこの場にいることからも、アンデルセンから諸々の事情を聞いていたのだろう。

 自分が己の中の命を殺し続けてきたこと。
そして今夜、己の命が唯一ツの状態でアンデルセンと決着をつけたこと。

「人間は魂の・・・・・・心の、意志の生き物だと思います。アーカードさん、あなたには意志があるのではないですか?」
アーカードは押し黙る。
己の意志、もはや自分は走狗ではなく・・・・・・帰還するという目的の為に生きている。

「血を吸わず、他者を取り込まず、自分の意志で今を生きているあなたは・・・・・・。
 人間の様な化物のあなたは・・・・・・、少なくともわたしには正真の化物とは思えません」


(それこそが・・・・・・私が死ななかった理由と、言うのか)

 心臓を貫かれる瞬間、自分は何故か前へと進んでいた。
ほんの半歩のみであったが――――諦めを踏破するように――――前へと・・・・・・。
踏み込んでいなければ、間違いなく死んでいた。打ち倒されていた。
・・・・・・何故そんなことをしたのか、何故出来たのか、自分でもわからない。

 アーカードは目を瞑る。そして胸へと刺さる銃剣を引き抜く。
刃を握る拳から血が滴り落ち、涙のように大地を濡らした。

「神父がその心に何を思っていたのかはわかりません。いずれにせよ・・・・・・安らかに逝けたようで何よりです」

 ティファニアは満足そうに微笑んだ。
アンデルセンとティファニアとの間にあった絆。それはアーカードが慮ることも出来ない。
 

603 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:58:56 ID:???
「そして・・・・・・あなたは生きています。どうかあなたはあなたの、為すべきことをして下さい」
ティファニアは微笑みを崩さない。慈愛の込められた女神の如きそれ。
その笑顔の前では全てを曝け出したくなるような、全てを包み込む、何者よりも優しい笑み。

「ただその前に、お墓を作りたいんですが・・・・・・手伝ってもらえますか?」
アーカードは・・・・・・静かに頷いた。



 アンデルセンの遺体を埋めた後に、アーカードは己の長剣を墓標として立てる。
アーカードとアンデルセン、宿敵同士、お互いの間にあった死の決着。
ついぞ打ち倒されることは叶わなかったが、アーカードは笑みを浮かべた。

 泣きたくないから鬼なった。
人として泣いて、涙が枯れて果てたから・・・・・・鬼なり、化物に成り果て、成って果てる。
だから笑う。傲岸不遜に・・・・・・いつもの様に笑う。

 ティファニアは墓の前で跪き、祈るように十字を切る。

「AMEN」

 ――――――そうあれかし。
アーカードとティファニアの発したその言葉が重なる。

 ティファニアがゆっくりと顔だけをアーカードへと向ける。
「あなたは・・・・・・いつまで生きねばならないのですか?」
それは哀れみを込めた言葉。
命令に従うだけの走狗でもなく、正真の化物でもなく、純なる人間でもない・・・・・・中途半端な存在。

「さて・・・・・・な」
アーカードは踵を返すと、ウエストウッドの森に立つ墓標を後にする。
もう一人の男との・・・・・・長い夢のはざまを終わらせる為に――――――。

604 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 21:59:25 ID:???
 




「よお、黒いの」
アルビオン、夜明けの地平に立つ人物に少女が声を掛けた。
かつてこのハルケギニアに於いて、二人が再会した場所。
葉巻を吹かしつつ、ウォルターはゆったりとアーカードへと振り向く。

「・・・・・・葉巻か、一本貰えんか?」
「あぁ」
ウォルターは葉巻をアーカードへと投げてよこした。
アーカードはどこからか取り出したマッチで、火をつけて一服する。

「待たせたか?」
「そうだな・・・・・・長かった」
ウォルターは苦笑する。
体は若いが、既に自分は一世紀ほどは生きていることになる。
アーカードが60歳のジジイならば、まだ10歳程度ガキの計算ではあるのだが・・・・・・。

「ふむ、悪くない」
「いい葉ッパだからな」
「昔は煙草を吸っていたな?・・・・・・インテグラに倣ったのか」
「・・・・・・違う、単に葉巻の美味さに気付いただけだ」

 二人は郷愁に浸り、どこか名残惜しむかのように話し続ける。

「結局、その姿なのか」
ウォルターは少女姿のアーカードに言う。
「何度も言ったはずだ、姿形など私にとっては何の意味もないと。
 故にお前にはこちらの方が良かろうと思ってな。これはガキの喧嘩だ」

605 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 22:00:30 ID:???
 

 ウォルターは沈黙する。そして少し聞こうか否かを考えた後、アーカードに問う。
「先にアンデルセンの所へ行ったそうだな」
「うん?よく知っておるな」
「・・・・・・シュレディンガーが、言っていた。多分今もどこかで見ているだろう」
「なるほどのぉ、それで嫉妬しているわけか」

 アーカードは馬鹿馬鹿しいと笑う。
「お前みたいな餓鬼とアンデルセンじゃ比べ物にならんよ」
「・・・・・・」
ウォルターは否定しない。
アーカードにとって、己よりもアンデルセンこそが宿敵であったこと。
自分との闘争の約束があっても、尚アンデルセンを優先したこと。
悔しい気持ちもあるが、事実は事実として受け止める。
確かにアンデルセンと比べれば、己は喧嘩を欲するだけガキでしかないのだから。

 だが結果として今、アーカードはここにいる。
つまりアンデルセンをして、ついぞ勝てなかったアーカードに勝つことが出来る。
それもまた・・・・・・自分にとって、望むべきことであることに相違ない。
大尉、アンデルセン、そしてアーカード。三者の上に己こそが立って見せると。


 白み始めた夜空、双月と陽光が同居する天をウォルターは仰ぐ。
「・・・・・・始めよう」
ウォルターは吸いかけの葉巻を、地面へと捨て踏みつける。

 自分達にとっておあつらえ向きな、丁度良い頃合。
 

606 :ゼロのロリカード-63:2010/05/20(木) 22:00:56 ID:???
              DAWN
「私は私の殺意を以って、この夜明けに・・・・・・アーカード。お前を切断し、殺そう」
アーカードは無言のままに笑うと、葉巻を手の中で握り潰す。
粉々になった欠片は風に流れ、アーカードとウォルターは改めて相対する。

 ガンダールヴもミョズニトニルンも使わない。
互いの命は一個、対等の闘争。


 戦いは静かに、そして苛烈に幕を開く。
それは誰が見ても、感嘆の声を上げるだろう闘争。
研ぎ澄まされた二人の強者が、完璧な舞踏をしているかのような美しさ。

 たった一人の観客であるシュレディンガーは、それを観覧する。
アーカードとアンデルセンの勝負とはまた、ベクトルの違う強者同士の演舞。
夜明けのコントラストが、より一層役者を引き立たせていた。

 二人の感情が溢れ出るように、シュレディンガーへと伝播する。
命のやり取り、殺し合いをしながらも、二人はこれ以上ない程に楽しんでいる。
いつまでも踊り続ける二人を、この世界の最後の楽しみを、シュレディンガーはいつまでも見つめ続けた。

607 :マロン名無しさん:2010/05/20(木) 22:00:58 ID:???
乙 支援

608 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/20(木) 22:03:31 ID:???
以上です、支援どうもでした。まとめも毎回どうもです。
うっかり投下時のDAWNの字の位置修正を忘れていてズレてしまった……。

ではまた。

609 :マロン名無しさん:2010/05/20(木) 22:19:34 ID:???
ここで終わりだったのか
乙でした

>>603

泣きたくないから鬼なった。

ここって”鬼に”じゃくなてこのままでOK?

610 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/20(木) 22:21:05 ID:???
>>609
すみません、普通に脱字ですね。
登録の方でしたら、「に」を追加してお願いします。

611 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/24(月) 21:51:23 ID:???
どうも、最後の投下します。

612 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:53:06 ID:???
 ウォルターは夜の明けた空に照らされるアーカードを仰ぐ。
大の字に倒れ、決着を噛み締めていた。

「強い・・・・・・な」
勝てると思っていた。
今までのアーカードとの戦闘経験から、おおよその強さは把握していたつもりだった。
30年もの間、常にアーカードと戦うことを頭でシミュレートし、戦術を練り続けてきた。
杭などの弱点も用意し、大尉にも勝った今の自分ならば、勝てる・・・・・・と。
しかし充分な勝算で以て挑んだ筈であったが、完膚なきまでに叩きのめされ敗北した。

「そりゃ30年間遊んでいたわけじゃないしの。今まで吸ってきた者達とひたすら戦ってきたのだ。
 膨大過ぎる数と充分過ぎる時間、嫌でも錬磨されるというものよ。少々長くなり過ぎたが・・・・・・な」

 ウォルターは「ふふっ」と子供っぽく笑った。本当に敵わないと、素直にそう思った。

「・・・・・・なんだ、負犬の癖に随分と満足そうだ喃」
「全てを懸けた・・・・・・悔いはない」
本気だった、全力の上で負けた。恐らくこれ以上は望めないという確信。
だからもう・・・・・・これ以上ジタバタしない、無様に足掻かない。

 アーカードは小馬鹿にするように、ウォルターに告げる。
「戯け、そんなだからお前は私に勝てないんだよ。だから、アンデルセンに負けた私を打ち倒せない」
「・・・・・・なに?」
ウォルターの顔が歪む。
勝てない理由もそうだが、何よりアンデルセンに負けたと、今アーカードは言ったのだ。

「諸々あって生きてはいるがの・・・・・・私は負けた。アンデルセンは強かった。老い衰えた体で、お前よりもな。
 肉体も、技術も、ウォルター。お前の方が、年老いたアンデルセンより上だったと言えるだろう。だが結果はこの様だ」

「・・・・・・」
 

613 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:53:40 ID:???
「それは何故か・・・・・・。人間だけが『倒す』事を目的とするからに他ならない。
 化物を打ち倒す。戦いの喜びの為ではなく、それこそが人間の成すべき義務だからだ」

 ウォルターは目を閉じる。考えないようにしていた。
アーカード――――化物――――を打ち倒す為に最も重要なこと。
そう・・・・・・化物を倒すのは、いつだって人間。人間でなくてはならない。
それは肉体的な意味だけではない。倒すという意志を持ってこその理。
初代ヘルシング卿然り。少佐然り。アンデルセン然り。
『人間として化物を打ち倒す』という意志こそが、何よりも大事なこと。

「・・・・・・ああ、わかっていたさ。だがそれでも私は、お前に"勝ちたかった"んだ」
「全く・・・・・・本当にお前は、いつまで経ってもガキのままなのだな」


 アーカードは溜息を吐く。心底呆れ返ったという表情で。
「まっ、そんな甘ちゃんは殺す価値も無い」
「・・・・・・だが私には・・・もう、生きる意味は無い」

「そうかそうか、それは好都合。それならばもう裏切るまいな」
アーカードは見た目相応の少女らしい笑みを作り、ウォルターは眉を顰める。

「我が主が・・・・・・、ルイズが優秀な執事を大層欲しがっていてな。なぁに衣食住には困らん。
 城は広いし掃除し甲斐もある。それに・・・・・・お前にとっても、仕えるに値するだけの主だろう?」

「私を雇おうと言うのか」
「んむ、その通りだ。給金は・・・・・・そうさの、帰ってきた時にまた気が向いたら闘ってやろう」
「なっ・・・・・・!?」
ウォルターは思わず目を見開くと、弾かれたように上半身を勢いよく起き上がらせた。
アーカードは「おっと」と、ウォルターを見下ろしていた体勢から数歩退く。

「尤も、30年前の約束は既に終えた。次に命を懸けて闘えるのは、インテグラとルイズが死んだ後になるが・・・・・・」
アーカードはウォルターが選ぶ選択を見越した上で、小悪魔のような含みで微笑みかける。

614 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:54:31 ID:???
 
「長生きしないといけない理由が出来た・・・・・・な?」

 ウォルターもつられて笑う。本当に敵わないと思った。



「終わったかな?」
30年経っても変わらない少年姿で、シュレディンガーが現れる。

「覗き魔か」
アーカードは半眼でシュレディンガーを見る。
「ヒドいなあ」
「事実だろうに」
「こっちの世界の最後の楽しみだったんだ、それくらいいいでしょ。ボクなりに気を遣って隠れてたのにさ」
「あぁ、別に咎めているわけではない。・・・・・・お前にはこれから世話になるわけだからな」
アーカードの肩口から顕現した影が、腕ごと巻き込んで狗となる。
黒犬獣バスカヴィルは顎を大きく開けると、シュレディンガーを丸呑みにしようと迫った。

「へっ?犬に食われるの??」
素っ頓狂な声をあげたシュレディンガーは、アーカードへと問う。
アーカードから、今日の日のことは聞かされている。

 アーカードが・・・・・・自分の中に存在する、全員の命を殺し尽くす日。
アルビオンでの零号開放によって全てを飲み込んだあの時を最後に、アーカードは血を一滴も口にしていない。
同時に膨大過ぎる命のストックを例外なく消していく"作業"。
それを完遂した時、シュレディンガーを改めて喰うという約束事。

 アーカード唯一ツの命を以て、『どこにでもいてどこにもいない』という性質と同化する。
それであれば幾百万の意識と命の中に融けることはなく、自分で自分を認識できる。
虚数の塊としてただ消えゆくだけの存在ではなく、シュレディンガーの性質を自分の血肉として扱える。
それこそがアーカードが出した結論。確実に元の世界へと帰り、同時にハルケギニアにも戻ってこれる唯一の方法。

615 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:55:05 ID:???
 

「無論だ。この30年の飢餓。待ちに待った今。最初に飲む血は、30年前から既に決めてある」
その言葉に、ウォルターは思わず吹き出しそうになる。それが"誰"なのか、簡単に予想がついてしまう。
そしていざ飲まれる瞬間、"彼女"が一体どういうリアクションをとるのか、想像するだけでおかしかった。

「え〜・・・・・・でも、僕がワン公に食べられて大丈夫なの?」
アーカードと共に行くことは、ずっと前から納得している。
少佐はとっくに死んでいるし、そして大尉も死んだ今、アーカードこそが最も興味深い対象でもある。
そもそもなんだかんだで古い付き合いである。長い人生の一時をアーカードと過ごすのも悪くないと思った。

「なにも問題はない。犬も私の一部、お前の能力を使うのに差し支えはない」

 黒犬獣バスカヴィル。
吸血鬼アーカードが支配する使い魔であり、同時にアーカードの一部でもある存在。
故に例えば、バスカヴィルが死んだ場合などは一時的に支配率が変わる。
アーカードの支配力が弱まることで、喰われたまま未消化だった者は、ルーク・バレンタインのように顕現することも出来る。
そして完全に消化されれば、アーカード自身の支配下に置かれる形になり、その能力を引き出して使うことも可能となる。

「ふ〜ん・・・・・・、まぁなんでもいいや。痛くしないでね」
アーカードは表情を変えないまま、バスカヴィルをけしかける。
一瞬の内にシュレディンガーは飲み込まれた。

 アーカードはバスカヴィルを元に戻す。
両手の平を見つめながら、アーカードは何度か開いたり閉じたりを繰り返す。
己が中に融けたシュレディンガーの性質をモノにしたという実感を得て、最後にギュッと握り締めた。
確信こそあったが、実際に虚数と化して消えなかったことに僅かな安堵が浮かぶ。

 尤も・・・・・・万が一消えたところで、一応の保険はかけておいた。
とりあえず一年。一年経過しても、ルイズのところへと帰って来ない時。
その時には今一度使い魔召喚の儀をやってもらい、自分をまた召喚してくれと頼んでおいた。
そうすれば仮に消えた状態であっても、最初の時のように再度分離して召喚される可能性がある。

616 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:56:00 ID:???
 

 そんな思惑も杞憂に終わり、アーカードはウォルターへと視線を移す。

「何か・・・・・・伝えたいことは、あるか?」

 当然ウォルターは一緒には戻れない。戻れたとしても裏切り者を会わせるつもりはない。
しかし――――――ほんの一言くらいなら、土産に持っていってやっても良いとアーカードは聞いた。

「そうだな・・・・・・」
ウォルターは少しだけ考える。謝罪か、感謝か、労いか。

「・・・・・・ああ、『ファイトですぞ、お嬢さま』。とでも、伝えておいてくれ」

 そんなものでいい。
謝罪なんて今更どのツラ下げて言えば良いのか。
かと言って感謝というのもしっくりこない。
ただ一つだけ。アーカードが帰ることで増えるだろう心労に対し、その一言を送りたい。

 アーカードは笑みを浮かべながら音もなく消え、ウォルターも笑って見送った。
最早ハルケギニアのどこを探そうと、アーカードを見つけることは出来ないだろう。


「さて・・・・・・」
ウォルターは立ち上がる。
体のダメージは癒えていないが、休むのはもう少し後で良い。

 早朝の空を背に歩き出す。
目指すはトリステイン領。アーカード伯爵の城――――――ドラキュラ城。

(また・・・・・・鍛え直さないといけないな)
 

617 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:56:38 ID:???
 何十年先になるかはわからない。
インテグラも、ルイズも、きっと長生きするだろう。
肉体はもとより、精神も鍛え直す必要がある。

 ウォルターは一歩一歩を、力強く踏みしめる。

(次こそ打ち倒してやるさ・・・・・・人間として、な)





「なんだここは・・・・・・?」

 ハルケギニアから消えた先。
地球へと戻る為に、シュレディンガーの特性を利用して世界間移動をした――――――その結果。

 辿り着いたのは――――――そこは、どこか建物内の廊下のようであった。
しかし素直にそうは思えない理由があった。何故なら通路の終わりが見えぬほど、彼方まで続いていた。
幅は狭く、縦に長い廊下に加え、左右にひたすら並び続ける、様々な意匠の扉、扉、扉。
それは手前にも奥にも、延々と短い間隔で並べ立てられ、どこか無機質感の漂う空間。

 そしてそんな異質な空間とは、場違いな人間が一人。
髪をピッチリと分け整えて眼鏡を掛けた、パッと見では極々普通の人間。
ワークデスクに向かい、新聞を読んでいる。
例えばそれが普通の世界の、普通の公共機関の中などの風景であったなら違和感は感じない。
非常識の中に在る常識が、逆に非常識に見える感覚。

 男が顔を上げてアーカードを見つめる。
(アイランズ・・・・・・?)
一瞬見知った人物の若い頃の風貌かと思った・・・・・・が、よくよく見るとそれは他人の空似であった。
その顔つきにはどこか険があり、瞳はさながら伽藍堂のようで、見透かすことも不可能に思えた。

618 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:58:03 ID:???
 
 アーカードが問おうとした瞬間、先に男が口を開く。
「お前は・・・・・・」
何かを逡巡しているのか、そこから先の言葉は紡がれない。


 ふと、アーカードは背後からの気配を感じる。
「駄目よ、紫。その人はこっちだから」
突如として侵食されたかのように黒く染められた背後の空間に、ポッカリと浮かぶように佇む新たな人間。
生意気そうな吊り目をした黒髪の少女。

「EASY・・・・・・」
感情の見て取れなかった男に、初めて色が浮かぶ。
アーカードは蚊帳の外に置いて、二人は暫し睨み合う。

 続けざまの意味不明な状況にアーカードはやや気怠さを感じつつ、頭の中で情報を整理をする。
とりあえず男の名は紫、女の名はEASY。さらに二人の仲が思わしくないことはわかった。
アーカードをそっちのけで、二人は熱烈に睨めつけ合っていた内。
女の方が笑みを浮かべると、アーカードへと視線を向ける。

 一体何を思っているのか、ほくそ笑むようなEASYという女。
わけのわからない現状と、自分を無視して進められる状況。
気付くとアーカードは、冷めた半眼で女を睨み付けていた。

 EASYはアーカードの眼光に無言でたじろぐ。
逆らってはならないという強制感が、全身を支配していた。

「説明せい」
「えっ・・・・・・あ・・・はい、すみません」
EASYは妙な威圧感に気圧されると、思わず謝っていた。
 

619 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:58:29 ID:???


「なるほどのォ」
EASYに丁寧に説明させる。とりあえずは納得がいった。
これがシュレディンガーがかつて言っていた、世界間移動は面倒臭いという理由なのだろう。

 説明を終えたEASYは恐る恐る、ご機嫌をうかがうように口を開く。
「それで・・・・・・あのう、ヴラド公で廃棄物ワクあいてるんですけど来ません?」
「やだ、オマエとキャラかぶるじゃん」

 廃棄物枠だろうと漂流者枠だろうと、応じるつもりは毛頭ない。
今の自分の目的は唯一つ、"帰ること"。
それが無ければ、長い人生の手慰みとして参戦しても面白かったかも知れなかったが・・・・・・。

「バーさまが待ってるから行ってくる」
そう言ってアーカードは掻き消える。

 そしてEASYは紫の目も気にせず、どっと疲れた息を吐いた。





 ――――――2030年、ロンドン。
ヘルシング家、厳重に封印され閉ざされた部屋。
そこに安置してある棺桶に、ポッと血の滴りが浮かぶ。

"The Bird of Hermes is my name Eating my Wing make me tame"

"私はヘルメスの鳥 私は自らの羽根を喰らい 飼い慣らされる"

 棺に書かれた血文字の文句。そして世界に顕現する影。

620 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 21:59:42 ID:???
 
「ふむ・・・・・・」
棺桶に座ってアーカードは見渡す。懐かしい雰囲気、そして匂い。
今度こそ間違いない。オリジナルの棺桶があることもそれを示している。
ようやく帰って来た古巣に、フッとアーカードの顔が綻ぶ。

 アーカードは立ち上がりながら、青年へと姿を変える。
インテグラには、少女姿よりもこちらの方が都合が良く、そして相応しい。

 ゆっくりと靴音を立てずに屋敷内を歩く。
窓から外を見れば、満月が"一つだけ"浮かんでいた。
ようやく帰還出来たことを噛み締めるように、アーカードは一歩一歩を踏みしめる。
そして――――――導かれるように一つの部屋へと辿り着く。

 扉を開けずに静かに壁を抜けると、ようやく視界に捉える。私だけの愛しいあるじ。
その姿には老いを感じるが、美しさはまるで変わっていない。
むしろより洗練されていると言って良い。

 暗闇の中、月夜に照らされる無防備な寝姿、その官能的な首筋へと顔を近付ける。
待ちに待った食事。30年抑え続けてきた食欲。これ以上ない甘美であろう血液を少しだけいただくとする。
もし・・・・・・吸血鬼になってしまっても・・・・・・それはそれで良い。

 アーカードが口を開き、牙を突き立てようとした瞬間。
銃声が静かな屋敷に木霊した。何度も、何度も、弾倉が空になるまで。
何発も銃弾を受けて端まで後退し、アーカードは壁を背もたれに座り込む。


 程なくして、扉が勢いよく蹴り開かれた。
愛しい下僕が恥ずかしげもなく、大股開きで駆け込んで来て電灯のスイッチを入れる。
 

621 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 22:00:35 ID:???
「ク・・・・クハッハハッ」
笑いがこみ上げてくる。ただ愉快で痛快。
「手洗い歓迎だ。それに相変わらずやかましい」

「マスター!!」
セラスが感情を隠すことなく、破顔一笑で叫んだ。
本当に五月蠅い。30年経っても相変わらず良く響く。割れ響く歌の様に・・・・・・。

 一方でインテグラは、ベッドに座って足を組み、咎めるように口を開く。
再会を喜び抱きついてくるようなこともなく、驚いた様子もなく、ただ毅然とした態度で。
「遅い帰陣だな、アーカード。何をしていた」

「殺し続けていた。私の中で、私の命を」
語りたいことはいくらでもある。
消えた先で新たに得た、かけがえのない者達。
――――――だが、それはまだいい。
もう時間を気にする必要はない。ゆっくりと話すことが出来るのだから。
故に今は端的に報告だけを済ませる。

「三百四十二万四千八百六十七。一匹以外は、全員殺して殺し尽くしてきた」
それを聞いてインテグラは納得する。途方も無い作業。
なるほど、それは時間も掛かるというものであった。

「遅い、遅すぎる。遅いよ、アーカード」
ようやく、インテグラは万感の想いを込めて、絞り出す様に言う。
他にもまだまだ言いたいことはあったけれど、それ以上言葉が出てこなかった。

「すまない」
たった一言、アーカードの謝罪の言葉。
だがそんなことを素直に言われてしまえば、全てを許してしまいたくなる・・・・・・。
きちんと帰って来てくれたという事実が、何よりもインテグラの心を満たす。
そう・・・・・・許すしかない。もうそれ以上何も言えない。

622 :ゼロのロリカード-64:2010/05/24(月) 22:01:10 ID:???
 

 アーカードとインテグラの瞳が、情熱的に絡み合う。

「血を吸う気だったのか、私を」
「ああ、そうだ。30年間何も食ってない。腹がへった」
――――――あの日、地下の封印を解いてから全てが始まった。

「私はもうおばあちゃんだぞ・・・・・・私は」
「それがいい」
――――――思えば少女は、あの時から焦がれていたのかも知れない、想い続けてきたのかも知れない。

 インテグラは「フン」と笑って右手薬指を噛む。
傷口から滴り落ちようとする血液が、闇夜に煌く満月に照らされる。
そしてアーカードの目の前で立つと、インテグラはその指を中空に差し出した。

「おかえり伯爵」

「ただいま伯爵」


-THE END-

623 :マロン名無しさん:2010/05/24(月) 22:05:26 ID:zOdaAKZ4
おつかれさま

624 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/24(月) 22:05:29 ID:???
以上で最終回となります。
ゼロのロリカードは、とりあえずこれで一旦終わりです。
30年後オチまでの空白の期間は皆様のご想像にお任せします。

最初は本当に軽い気持ちで投下しましたが、感想を貰ったり、絵を描いてもらったりが存外に嬉しくなって書き続け、
色々と練りつつ、積みに積み上げ、拙い文章ながらここまで頑張れました。
正直こんなに長く続くとは思っていませんでしたが、無事完結することが出来て一つの感動も覚えます。

それもこれも支援レス、感想レス、Wikiにまとめてくださった方、さらには支援絵を描いて下さった方々。
どれもが励みとなり、書いていくモチベーションを高めることが出来ました。
これまでのスレログもイラストも最高の宝物です。

またヘルシングとゼロの使い魔という原作の素晴らしさ。
二作品をクロスさせて書いていくことの楽しさも併せて、感謝したいです。

では最後に、本当に長くお付き合い頂いてありがとうございました。
また何か機会に恵まれればお会い致しましょう、それでは。

625 :マロン名無しさん:2010/05/24(月) 22:23:59 ID:???
お疲れさま。ああ、これはいい、良いSSだった

626 :マロン名無しさん:2010/05/24(月) 22:27:34 ID:???
お疲れ様でした!

そう言えば、ワンちゃんに食われたワルドはそのまま?
てっきりウォルター戦でワルド復活!ってなるかと期待してたw
途中で出て来てたらゴメンナサイ

627 :ゼロリカ ◆DNrogED.cM :2010/05/24(月) 22:36:27 ID:???
>>626
さりげなく零号開放の時に出てますw
零号開放イラストのウェールズを見て、「なんか丁度良いな」と、急遽追加した記憶が……。

628 :マロン名無しさん:2010/05/24(月) 23:03:33 ID:???
あーほんとだ読み直したら
ゼロのロリカード-37で登場してるね ゴメンナサイ

本当にお疲れ様でした〜

629 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 00:15:37 ID:???
永い永い旅でした
ほんとにほんとにお疲れ様でした


630 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 11:26:50 ID:???
ドリフネタってか人情紙○○ネタまでw
ゼロリカさんお疲れ様でした

631 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 15:49:14 ID:???
本当に、お疲れさま。
いい、すばらしいSSでした。

632 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 19:44:58 ID:???
ゼロリカ様お疲れ様でした!!
遂に迎えた最終回。さり気に人情(漂流者)ネタも出すとは流石です。

最後のシーンは予想できておりましたが、読んでみるとやはり胸に来る物がありました。

長い間、良作有難う御座いました!!

633 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 19:50:11 ID:???
ゼロリカの人乙です。最初から見てましたが、いい最終回でした

634 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 21:24:46 ID:???
ゼロリカ本当にお疲れ様でした!
さあゼロ魔世界についてのインテグラとの語らいを空想する作業に入るぜ

635 :マロン名無しさん:2010/05/25(火) 21:45:10 ID:???
お疲れさまでした
俺の寝る前の楽しみもついに無限ループへ突入か

636 :汁粉善哉:2010/05/25(火) 23:33:04 ID:???
ゼロリカ殿お疲れ様でした〜。
楽しかったです。文章量にしてどれ程になるのか…
また何か気が向いたら是非!

では名無しにもどります

637 :マロン名無しさん:2010/05/29(土) 20:25:14 ID:???
シュレの人どうしてるかな

638 :マロン名無しさん:2010/05/30(日) 08:52:11 ID:???
何回ロリカードと寝たのかなあ

639 :マロン名無しさん:2010/06/02(水) 12:21:33 ID:???
ほしゅ

640 :マロン名無しさん:2010/06/03(木) 15:48:22 ID:???
いつの間にやらブルーレイBOX発売予定か
リテイク作業も終わってやっとOVA8巻に取り掛かれるのか

641 :人情紙吹雪:2010/06/04(金) 00:41:51 ID:9IOdpb3C
ゼロリカがとうとう最終回・・・
長い間お疲れ様でした
偉大な先達の仕事完了に尊敬と同時に寂しさが
書かないとなあ

642 :マロン名無しさん:2010/06/04(金) 11:41:15 ID:???
ヤン様ちゃん!待ってるよ〜続き楽しみに待ってるよ〜

643 :マロン名無しさん:2010/06/05(土) 17:30:15 ID:???
ヤンの人キ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
いつまででも待ってますよー

644 :マロン名無しさん:2010/06/07(月) 22:35:37 ID:???
おお、ヤンの人だ
ゼロリカさんが完結しても
ヘルスレはまだ続く

645 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/06/10(木) 20:31:21 ID:???
お久しぶりです。 どうも、シュレの人です。
ゼロリカ様、お疲れ様でございました。
「ゼロのロリカード」からポロロッカしてゼロ魔を知った身としては
その出会いはいちSSとの出会いという以上に、貴重で大切なものでした。
次にお目にかかるその時をお待ちしております。

さて、こちらの「確率世界のヴァリエール」も
書き始めた当初に思い付いたネタをあらかた出し尽くしてしまいましたので
残る第十四話前編、第十四話後編、第十五話を持ちまして
ひとまずの区切りとさせて頂きます。
いましばらくのお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

では、確率世界のヴァリエール 第十四話 前編 投下いたします。

646 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:33:36 ID:???
確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第十四話 前編


(どうしてこうなった)
クロムウェルは船の上で考えた。
トリステインの西部、タルブへと向かう戦艦レキシントン号の上で。

運命には抗えない。

指にはまった『アンドバリの指輪』を見つめる。
生者の心を奪い、死者に偽りの命を与えるその力。
こんな物を得て、己は神にでもなったつもりで居たのか。
生者を意のままにし、死者の軍勢を率いるあの少女の形をしたモノ。
あの悪魔に比べれば、私は神どころか陳腐なまがい物でしかなかった。
あれに出会ったその時から、私は運命に捕らえられてしまったのだ。
いや、私自身があの悪魔に魅せられていたのか。

白いスーツに身をまとい、黒髪をなびかせた、あの死の化身に。


停戦会談破棄を伝える使者は昨晩、アルビオン王都ロンディニウムを訪れた。
皇太子ウェールズの暗殺から日も変わらぬうちに派遣された特使は
王党派全軍によるロンディニウムへの即時侵攻と、雌雄を決すべしという
アルビオン王ジェームズ一世の意思をクロムウェルに伝えてきた。

「あっはっは、良かったのう。 向こうから来てくれるとさ」
ワインを傾けながらアーカードがからからと笑う。
円卓のテーブルの後ろで影がゆらめく。
「笑い事では、、笑い事ではありませぬ!」
クロムウェルが頭をかきむしる。
「ウェールズは「行方不明」になるはずだったのではありませぬか?!」


647 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 20:35:11 ID:???
支援!

648 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:35:21 ID:???
「予定ってのは狂うためにあるもんだよ?」
アーカードの対面に座った猫耳の少年がやれやれとつぶやく。
「なっ?!
 そ、それもこれも全部、、、!」
「ひっどいなあ、全部ボクのせいだっていうの?」
シュレディンガーはフォークに刺した鴨のオレンジソースがけを一口頬張ると
目を丸くしてアーカードを見つめた。
「うわ、おいし!」
「ふっふ。 そーじゃろー、そーじゃろー。
 あの時はせっかくの手料理を食わせそこなったからの」

「シェフィールド殿!」
クロムウェルがテーブルを叩き、アーカードを睨み付ける。
「これでは、、約束が違います!」
「約束なんぞしとらんのー、単なる計画だ」
手の中のワイングラスがからり、と音を立てる。
グラスの中には始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』が沈んでいる。
「どのみち王党派とは戦わねばならんのだ、大した違いはあるまい。
 何より向こうには『虚無の魔女』はもう居らん。 のう?」
グラス越しにシュレディンガーへと笑いかける。

シュレディンガーはぷいとそっぽを向き、口を尖らせる。
「もっちろん!
 だーれがルイズの元になんか帰ってやるもんか」
「だとさ」
「し、しかし、脅威はいまやそれだけではありませぬ!
 ワルドの目論見は南のカトリック教徒どもにも知れて、
 ロサイスへの攻撃は行われずその全軍は王党派と歩を合わせ
 このロンディニウムへと向かっています!
 ラ・ロシェールへの奇襲もトリステインに知れているやも知れませぬ!
 この先、この先どうすれば!」


649 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:38:02 ID:???
「どうするもこうするも予定通りに戦争するだけじゃろ、戦争」
辟易としてアーカードが言う。
「こ、この上はシェフィールド殿よりガリアに、、!」
「あ?
 ウチのひげのおっさんがお前さんと約束したのは
 「トリスタニアを攻め落とすに際してはガリア空軍を以ってこれを助ける」
 これだけじゃ。
 なに、ジェームズ王がこのロンディニウムに向かっておると言う事は
 ワルドはお前さんの手のものだと思われておると言う事じゃろ。
 トリステインの方でもワルドの立てた計画を疑いこそすれ
 ガリアが噛んどるなんぞ思い付かんだろうし、ラ・ロシェールへの奇襲も
 案外うまくいくんじゃないのん?」
「そんな、無責任な!」
「ここの責任者はお前じゃろ?
 私はせいぜい高みの見物でもさせてもらおう。
 あー、どうせならトリステインの方の戦いにでも行ってみるか。
 そっちのが派手そうじゃし、何より魔女殿もおるしの」

黙々と料理を片付けていたシュレディンガーの手が止まる。
「なにアーカード、まだ諦めてなかったの?」
「無論」
短く答える。

アーカードはテーブルの上で手を組み、宙を見つめた。
「のうシュレや、「心を鬼にする」という言葉を
 お前は知っておるか?」
「ニホンのコトワザだっけ?」
シュレディンガーが眉間にしわを寄せ、昔の記憶をたどる。
「そうだ。
 人が常ならぬ事態に対峙した時、常ならぬ決断と決意を
 行う為に使われる言葉だ」


650 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 20:39:43 ID:???
更なる支援を!

651 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:40:02 ID:???
「そっか。 まあ別に「心を鬼にする」っていっても
 鬼みたいな悪いコトをするって意味じゃあないもんね」
「「鬼」は元より「鬼」であるのではない。
 「人」が「鬼」に成って果てるのだ。
 そして「鬼」とは、人に果たせぬ事を人が果たす為の
 人を超えた意思であり、信念であり、執念であると思うのだ。
 だからこそ私はそれを欲する、それが欲しい。
 それ無くして虚ろなる私は「吸血鬼」足りえず、
 単なる「血を吸う何か」でしかない」
「で、ルイズならその鬼みたいな信念を持ってるって?
 ま、確かに鬼みたいにワガママだしー、
 鬼みたいに強情っぱりではあるけどね」
やれやれと猫耳と一緒に肩をすくめる。

「あーそうそう、ルイズといえば」
シュレディンガーがごそごそと服の下を探る。
「こいつは返しとくよ。
 まったくとんだ疫病神だ」
よっこいしょとばかりに黒い鉄塊をテーブルの上に乗せる。
ガリガリとテーブルを滑ってきた巨大な銃をアーカードが受け止めた。
「ほう、そちらにあったのか」
その銃を感慨深げに手に取る。
「この体だと重心が軽くてな、片方だけではどうもバランスが悪かった」
懐からもう一丁、白銀に輝く同じく巨大な銃を取り出す。

『.454カスール カスタムオート』そして『対化物戦闘用13mm拳銃 ジャッカル』

二丁の銃を軽やかに構え、満足げに頷く。
「ふむ。 矢張りこうでなくてはな」
そのままクロムウェルに向き直ると、アーカードはニヤリと笑った。
「今回は特別じゃ。 加勢してやる」


652 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:41:30 ID:???
「そ、それではシェフィールド殿が私をお守りくださるので?!」
「はっはっは、殺すぞ?
 上(ロンディニウム)か、下(トリスタニア)かを選べと言うとるんじゃ。
 まあ、どうしても私と一緒におりたいのであれば、、、
 一番安全な場所に匿ってやらんでもないがの」
アーカードが牙を剥いて笑う。
乱杭歯の向こうに赤黒い虚無が広がる。
「ヒッ!」
クロムウェルが思わず悲鳴を漏らす。

「し、しかしトリスタニアを選ぶといってもロサイスまでは、、」
このロンディニウムで王党派とカトリックの挟撃に合うよりは
まだしも勝てる見込みはあろう。
ラ・ロシェールを抜けトリスタニアに着きさえすればガリア艦隊の協力がある。
だが、肝心の降下作戦のための戦艦は全てロサイスにあり、
ここロンディニウムとロサイスの間にはカトリックが、あの狂信者集団がいる。
「ほう、前線にあって艦隊指揮をなさると申されるか。
 いやいや、まことクロムウェル殿は司令官の鑑よのう!」

二丁の拳銃を懐にしまったアーカードはニコニコと席を立つと、
クロムウェルのえり首をむんずと掴んで有無を言わさず窓際まで引きずる。
「とりゃ!」
そのまま片足で窓を蹴破る。
吹き込んだ夜風になびく髪が、闇を吸い込みゆるゆると変質していく。
「その意気に免じ、私が直々に送ってやろう」
巨大な翼に姿を変えゆくその黒髪が一度、二度と大きく羽ばたく。
「ではシュレや、行ってくるぞ」
そう言うとアーカードは手を振るシュレディンガーに見送られ、
片手にクロムウェルをブラ下げて鼻歌交じりに月なき夜空へ飛び立った。
「♪ 小さーいー頃ぉ〜は〜 神様がいて〜、 毎ー日ゆーめを〜〜、、、」
 
 

653 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 20:42:39 ID:???
一心不乱なる支援を!!!

654 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:43:23 ID:???
そしてそのままロンディニウムへと進軍するカトリック教徒たちの頭上を越えて
ロサイスへ届けられ、明くる日の昼にはラ・ロシェールへと向かう艦上に居た。
司令官を迎えた艦隊の意気は上がったが、当のクロムウェル自身は
己の状況を未だに納得できずにいた。

やるべきことは明確だ。
トリステイン領内のタルブに降下、ラ・ロシェールを奇襲して
トリステイン艦隊を殲滅し、そのまま王都トリスタニアに攻め上る。
ほかに選択の余地もなかった。
しかし、それでも。 いや、だからこそ。

運命には抗えない。

思えばこのレキシントン号も、あの『虚無の魔女』が一番最初に関わった船だった。
ようやく修復を終えたその艦上に自分がいる事に、深い因縁を感じざるを得ない。
クロムウェルは自分の指にはまった『アンドバリの指輪』をもう一度見つめ、
そして力なく笑った。


「どうしたもんですかねー」
イスカリオテ機関長、間久部(マクベ)が髪をかきあげる。
その口調とは裏腹に、垂れた髪の奥の目は笑みに歪んでいた。
皇太子暗殺から一夜明けた正午。
サウスゴータとロンディニウムの中ほどにある森のそば。
「アルビオン解放戦線」から名を改めた「ハルケギニアカトリック武装蜂起軍」は
ロンディニウムへの夜を徹した強行軍の中、しばしの小休止を取っていた。

アルビオンの民衆は長きに渡る内乱に倦み疲れ、その争いに大義名分を与える
ものでしかないブリミル教とメイジ達への反感を火薬の如くに蓄積させていた。
そんな彼らの中にカトリックの教義は熱狂を以って迎えられ、今やその信徒は
十万にならんとし、蜂起軍の数も様々な勢力を併呑しつつ優に三万を超えていた。


655 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:45:24 ID:???
その象徴である二人の聖女、その一人のティファニアは行軍に加わらず
信仰の中心地となったウエストウッド村に残り、信徒達をまとめている。
ハーフエルフである彼女は新たに信仰に加わる者たちへ例外なく驚きを与え
時には一時の警戒を招きもしたが、エルフを敵と教えた貴族たちへの反発と
何より誠実で献身的な彼女の姿がかえって信徒達の求心力となっていった。

そしてもう一方の聖女、『狂戦士(バーサーカー)』高木由美江は
その圧倒的な戦闘力により武装蜂起軍を団結させる強力なイコンとなっていた。
特にその愛剣(その様な言われ方は由美江にとっては不本意だったが)である
デルフリンガーの魔法殺しの能力は、メイジたちに使い捨てられてきた
魔法を使えぬ平民兵士達にとって、まさに貴族支配打倒の象徴と映った。
軍の中でも特に信仰心と戦闘力の高い者たちは『ウエストウッド聖堂騎士団』
として彼女に直接指揮をされ、その十字を掲げた黒ずくめのいでたちは
戦場にあってレコン・キスタ側の兵士達に強烈な畏怖を植えつけた。

その高木由美江は間久部機関長の傍らでもう一人の人格に体を預け、
自分は来るべき戦いに備えて眠りについていた。
「ど、どうかなさったんですか? 機関長」
「いやナニ由美江クン、あ、いや今は由美子クンか。
 どーにもこーにも目指すロンディニウムから
 当のクロムウェル氏の姿が消えたらしいんデスヨネー」
「そ、それって、レコン・キスタの方々との和平交渉のお相手が
 いなくなった、ということでしょうか?」
「和平、デスかぁーっはっは」
この期に及んでそんな発想が出てくる由美子の平和主義ップリに
間久部は思わずがっくりと頭を垂れる。
二重人格とは聞いてはいたものの、これほどまでとは。
この世界にちょくちょくと顔を出すようになって数ヶ月がたつが
未だに由美江と由美子の二人のギャップに慣れる事は出来ない。
(ま、この由美子クンがいればこそ、由美江クンもあのおっとりとした
 ティファニア嬢と上手くやっていく事が出来ているんだろうがネェー)


656 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 20:45:53 ID:???
ならば支援だ

657 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:47:59 ID:???
「フン、レコン・キスタの司令官が敵前逃亡とは、何ともしまりのない結末だ。
 この分では俺の働き甲斐も無さそうだな」
二人の横で黙々と愛銃ソードオフ・M1ガーランドの手入れをしていた
ルーク・ヴァレンタインが間久部の顔も見ずに鼻で笑う。

初夏だというのに白のスーツに白いコート、流れるような金髪を
後ろに束ねたその姿は、身にまとった常人ならざる気配と相まって
寄せ集めの軍勢の中でもひときわ異彩を放っていた。
個人での陽動や暗殺を主な任務とするルークは前線での戦闘には
殆ど関わらず、吸血鬼であるという事も知らされてはいなかったが、
影に日向にティファニアを見守り、隙さえあれば由美江と殺し合いを
始めようとするこの色白で眼鏡の美男子が人外の存在だろうという事は
信徒達の間では暗黙の了解となっていた。

「それはあの、良い事です、、よね? ルークさん」
由美子相手では食指も動かぬらしく、ルークはただ肩をすくめる。
「いやいやソーとは限らりませんよー、ミスタ・ヴァレンタイン。
 向こうにはあのアーカードがいるらしいじゃあないデスかあ?」
間久部の発したその名前にルークの手が止まる。
「その「ミスタ」ってのは止せ、ケツが痒くなる。
 アーカードは確かに問題だが、シュレディンガーの話だと
 そもそも向こうに加勢するとは限らん。
 大体ヤツとて身一つでこの世界に来てまだ日も浅い、
 アレの死の河とて良くて一万になるならぬの筈。
 ロンディニウムの貴族派残存兵力を足しても
 王党派と合わせればこちらの方が数は倍する。

 それに、アーカードがその領民達を戦場に解放したその時は、、、
 今度こそ、俺がヤツの心臓を止めてやるさ」
眼鏡の奥で理性を保っていた真紅の瞳が、凶暴な歓喜に歪んだ。
 
 

658 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:49:34 ID:???
「起きて下さい」

かつてこの国の王城だったハヴィランド宮殿。
クロムウェルをロサイスに送り届けたアーカードは、
ロンディニウムに戻るとその宮殿上部の寝室で
たっぷりと食らい、たっぷりと眠った。
その食い散らかした残骸の中に、ローブをまとった女性が立っていた。

「シェフィールド様、起きて下さい。
 面白いことになっていますよ」
眠りに落ちていたアーカードが鼻をひくりと動かし、目を覚ます。
丸一日以上眠っていたらしい。
ひとつ伸びをしてぺたぺたと窓辺に進み、カーテンを引き開ける。
雲間に隠れた天頂の太陽の近くに、二つの月が浮かんでいる。
日食が、近い。

視線を水平に移してから、アーカードは初めてそれに気づいた。
「ほお!!」
ロンディニウムを囲む城壁のそばに、二隻の戦艦の姿がある。
戦艦はゆっくりと回頭し、その砲列を今まさにハヴィランド宮殿に
向けつつあった。
城壁の外では既に展開された両軍が開戦の時を待っている。
「あんな隠し玉があったとはのう!」
貴族派の空軍戦力はほぼ全てがトリステイン攻略へと向かっている。
王都防衛の竜騎兵部隊が次々と飛び立っていくが、司令官の不在は
指揮系統に混乱を招き、兵達は統率された行動を取れ得ないでいる。
「はは、いいぞ」
二隻の戦艦から一斉に砲火が上がる。
「戦争の時間だ」

着弾の轟音と衝撃がハヴィランド宮殿を揺さぶった。
 

659 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 20:51:55 ID:???
あんちゃんがカッコいい!支援

660 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/06/10(木) 20:54:29 ID:???
地上でも砲撃を契機に双方の軍勢が敵陣へと突撃を開始していた。
鬨の声と剣戟とが遠くここまで響いてくる。
まるで宝物を見つけた子供の様に、アーカードの目が歓喜に輝く。
懐へ手を差し入れると、ローブの女性へ指輪を放る。
始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。
今のアーカードには限りなくどうでもいいものだ。

「クロムウェルの方はどうなりましょうか」
「知らん」
眼下に繰り広げられる光景を見つめたまま、アーカードが短く答える。
「大体クロムウェルが首尾よくトリスタニアまで辿り着いたとして、
 あのおっさんが「自分の娘」が留学しとる国を攻撃するとも思えん」
「シャルロット様、ですか」
「今はタバサと名乗っとったよ。
 向こうはぜんぜん覚えておらんかったがの。
 もっとも、国元でこの姿で会った事は無かったか」
アーカードは手を広げ、少女の形をした自分自身の体を眺める。
「シェフィールド様は、どうなさるので?」
「その「シェフィールド」という名前は、お前にやる」
後ろに立つ女性が小さくため息をつく。
「では、今後は何とお呼びすれば」

「アーカード」
振り返りもせず、ぎちりと頬を引き上げて答える。
「いろいろ試したい事もあったからな。
 ちと遊んで帰る、と 「シャルル」 に言っておけ」

アーカードは窓を蹴破ると血と硝煙と鉄の臭いを大きく吸い込み、
歓喜の大哄笑を上げて戦火の空へ身を躍らせた。
 
 

661 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:56:34 ID:???
「敵陣は混乱の極みだ! 次弾、砲撃準備急げよ!」
「敵竜騎兵を近づけるな! 左舷弾幕を厚くしろ!」
王党派が隠し持っていた虎の子の戦艦二隻。
甲板を怒声が飛び交い、兵士達が慌ただしく駆け回る。
その一隻、戦艦レパルス号の甲板―――。

一人の兵士が、ぞくり、と氷の様な気配を感じ思わず後ろを振り向く。
視線の先には同じく息を呑み甲板の中央を見つめる仲間の姿があった。
爆音とどろく戦場の中で、その場にいた全員が無言で一点を見つめる。
そしてそれは当然のように、空からゆっくりとそこに降り立った。

兵士は、ある「噂」を思い出していた。
その噂はこの内乱が始まった時から、否、もしかしたらそれ以前から
兵士達の間に囁かれていたものだった。

それは、真白い少女の姿かたちをして戦場に現れ、
けれど、少女では、ましてや人などでは在り得ず、
しかし、敵味方の区別無く。
いわく―――
―――血を啜るという。
いわく―――
―――魂を喰らうという。

聞いた時には馬鹿げた与太話だと一笑に付した。
事実そんな話など聞いた端から忘れていた。
今、その与太話の「それ」が眼前の「これ」だと瞬時に理解した。
自分だけでない、ここにいる皆が感じている。
「恐ろしい事になる」と。
この化け物を倒してしまわないと「恐ろしい事になる」と。

少女の姿をした「それ」に、全員が殺到した。


662 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:57:51 ID:???
魔法が、銃弾が、剣が槍が斧が次々とその五体に撃ち込まれ、
焼き焦がし、斬り刻み、「それ」を肉片へと変えていく。
艦外の戦闘は忘れ去られ、絶叫と恐慌だけがその場を支配した。

だが。
撃ち尽くし、焼き尽くし、斬り尽くした時、
絶叫は絶句に置き換わり、恐慌は絶望に浸食されていく。

声なく立ち尽くす兵士達の前で、その肉片が、骨片が、服さえもが
溶け流れて赤黒い血流に変わり、蛇の様に蠢いて人の姿を形取る。
白いスーツに黒髪をなびかせた少女の姿を。

復元したばかりの口元から小さなピンクの舌がこぼれ、
まだ鼻から上の無い顔でゆったりと微笑む。
白い手袋をした両手が懐に差し込まれ巨大な二丁の拳銃を取り出す。

左手には白金の銃、右手には黒金の銃。
アーカードは両手を広げ喜びに満ちた表情を浮かべると
出来上ったばかりの目を見開き満足げに周囲を睥睨した。


「兵士諸君 任務御苦労  さ よ う な ら 」
 
 

663 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 20:58:58 ID:???
支援だ

664 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 20:59:22 ID:???
ただただ一方的な虐殺の場と化した戦艦レパルスの横で、
戦艦オライオン号の甲板上へもその恐慌は感染しつつあった。
「何が、何が起こっている、あの艦上で、、」
「判らん! くそっ、とにかく陛下をお守りしろ!」
「何だ? レパルスの黒いあれは何だ?!」
―――得体の知れない何かがレパルスの艦内を蹂躙している。
「あれをオライオンに近づけるな!」
―――それだけはオライオンの艦上からも見て取れた。
「駄目です、レパルス号の通信途絶!」

「陛下、こちらは危険です!」
国王ジェームズ一世は、しかし動こうとはしなかった。
「いまさらこの場を逃れて何になろう」
確証は無かった。 しかし心静かに確信していた。
(あれが、朕の死であるか)

老王はゆっくりと手にした王杖を振り上げ、
戦艦レパルスへ向かってかざす。
傍らに立った司令官が驚きながらも兵に指示を出した。
「?! ほ、砲撃用意!
 目標、戦艦レパルス号!!」

その声に兵士達も一瞬の放心の後、すぐに指示を実行する。
「取り舵いっぱい!」
「急げ! 全砲門開け!」

「、、、陛下」
その声にジェームズ一世は静かにうなずく。
王杖が振り下ろされ、司令官が叫んだ。
「撃て!!」


665 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:01:29 ID:???
「全弾命中! 全弾命中!」
味方艦への打撃に悲痛な歓声が艦内に湧き上がる。
しかしそれはほどなく、困惑と畏怖とに変わっていった。
オライオン艦上の全兵士が見守る中、 黒煙を上げる戦艦レパルスは
ずるずると這い蠢く赤黒い巨大な何かに包まれていく。

「、、、冗談だろ」
「次弾装填急げ、、、早く! 早く!!」
もはやそれ自体が赤黒い何かに変質しようとしているレパルスが、
低い軋みを上げつつゆっくりとその船首をオライオンへと向けた。

「?! こちらにぶつける気か!」
「退避!退避!」「駄目です、間に合いません!」
「魔法だ! 何でも良い、魔法を奴に、、、!!」
狂乱の坩堝となったオライオン艦上で。
かつて戦艦レパルス号だったモノが眼前に迫る中、
アルビオン王国国王ジェームズ一世はその人生の最後につぶやいた。
「、、、ウェールズ、すまんな」


遠く響く轟音と爆炎とがロンディニウムの天空を揺るがせた。


「オイオイオイ、どうなってんのよアレは?!」
向かってくる敵の首を右手の日本刀で刎ねつつ、由美江は
ゆっくりと墜落していく友軍の残骸を唖然として見上げる。

「どうも何も、誰の仕業かなんぞ判り切ったことだろう?」
ルークが鼻で笑いつつ、顔も向けずに後ろの敵の頭を射抜く。
ついでに横なぎに振るわれた日本刀の一撃を
造作も無くしゃがんでかわす。


666 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:03:30 ID:???
「お前の半分がテファの親友である事に感謝するんだな。
 でなければ今すぐ蜂の巣にしてやっている所だ」
銃口を由美江に向けたまま斬りかかってきた敵兵を蹴り飛ばす。
「はンっ! やってみろっつーのよこのへっぽこフリークス!」
飛ばされてきた敵兵を左手で叩き潰すと、由美江は周囲を見渡す。
『おい相棒、俺ぁ金槌じゃあねーんだぜ? せめて斬れよ』
悲しげにつぶやくインテリジェンスソードには目もくれない。

「集まれ!」
由美江の号令に百人程の黒ずくめの集団が周囲に陣を張る。
ハルケギニアカトリック武装蜂起軍の中でも選りすぐりの
狂信者集団、『ウエストウッド聖堂騎士団』。
十字を掲げた彼ら全員が、由美江の刀が指し示すその先を見つめる。
「敵陣に落ちますな、シスター」「件の吸血鬼と言えど、あれでは」

―――私は ヘルメスの鳥―――

「否、来るわ」
ゆっくりと土柱を立ち上らせ敵陣へと吸い込まれていく
巨大な二つの塊を眼光鋭く睨みつつ、由美江が答える。

―――私は自らの 羽を喰らい―――

「さて、仕事だ。 せいぜい囮になる事だな」
ルークの足元から黒犬獣がせり上がり、彼自身を飲み込むと
そのまま影の中にどぷりと消え去る。

―――飼い 慣らされる―――

「黒渦が、来る!!」
 

667 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:05:57 ID:???
二隻の戦艦が敵陣に墜落したその衝撃が、数瞬の間をおいて
由美江たちに叩きつけられる。
大地を揺さぶる振動と、吹き付けられる熱風と粉塵の中で
由美江は知らず笑みを浮かべていた。
「河が来る、死の河が。
 地獄が踊り、死人が歌う」

墜落の衝撃だけが理由ではなかった。
襲い来る猛烈な予兆、いや狂兆に心と体を絡め取られ
敵も味方もその動きを止めていた。

黒煙と炎に包まれた残骸の中から、何かがあふれ出た。
赤黒いそのそれは、奔流となり、濁流となり、
そして激流となって周りの全てを飲み込んでいく。
そしてその中から、『死の河』の中から。

死者の、群れが。

現れたそれは騎兵だった。
それは歩兵だった。
それは工兵だった。
それは竜騎兵だった。
ドットメイジが、ラインメイジが、トライアングルメイジが、
スクウェアメイジが、神官が、平民が、貴族が、商人が、
猟師が、農民が、遊牧民が、トリステイン人が、ガリア人が、
ロマリア人が、アルビオン人が、ゲルマニア人が、東方人が、
傭兵が陸戦兵が砲兵が水兵が憲兵が砲亀兵が火のメイジが
風のメイジが土のメイジが水のメイジが衛士が銃士が聖堂騎士が
風竜が火竜がオーク鬼がトロル鬼がオグル鬼がコボルド鬼が
ミノタウロスがエルフが、呼ぶべき名も無きものたちが―――。
死者の王の領民たちが、その領地から這い出でた。


668 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 21:06:43 ID:???
支援だ、ひたすらに支援だ

669 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:07:31 ID:???
「方陣だ!! 方陣を組め!!」
「何だ!! 何が、、、」
「何が起きている?!」
恐怖に駆られた生者が叫ぶ。
まもなく死者の側へと転じる者達が。

「死だ、、、」
由美江が言葉を噛み締める。
「死が、起きている、、、!!」
怖がる事は無い、恐れる事は無い!
自らもかつて、「これ」の一部だったのだ。
左手のルーンが唸りを上げて輝きを増す。

「いいなあ!! あれ!!」
遠くの丘から双眼鏡で戦局を眺めていた間久部が喜色満面に叫ぶ。
「欲しい!! 素晴らしい!!」

戦艦の残骸を押しのけ現れた巨大な皮膜がロンディニウムの空を覆う。
めりめりと広がるその翼は生者も死者をも暗闇の中に塞ぎこめ、
ゆっくりと伸び上がるその首は二つの月をも喰らわんとする。
小山の如きその巨躯が死の河の内から顕現した時、ハヴィランド宮殿の
屋根の上でルークは引きつった笑みを抑えられずにいた。
体長100メイルを優に超える、歳振りし火竜が大気を震わせ咆哮する。
「あんなものまで、、あんなものまで喰ったのか!」

古竜の巨体がロンディニウムの城壁を難なく打ち砕く。
死の河は既に城壁を超え、市内へと雪崩れ込んでいる。
それはもはや、戦争といえるものではなかった。
敵も味方も、平民も貴族も、武器持つ者も持たぬ者も、
生きとし生けるもの全てが有象無象の区別無く。
「こんな事があるものか! あってたまるか!!」


670 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:09:37 ID:???
どう考えても多すぎる。

死者の群れは溢れ留まる事を知らず、今や郊外の戦場はもとより
ロンディニウム全域をすら飲み込まんとしている。
少なく見積もっても優に30万は下るまい。
奴とてこちらの世界へ来てまだ数ヶ月のはずなのだ。
古竜が大きく息を吸い、巨大な火球を吐き出す。
否。
こちらの三人がたまたま同じ時期に召喚されただけだとするなら。
アーカードまでもが時期を同じくする必然性は無い。
有象無象が塵芥と吹き飛ばされ、立ち昇る火柱は天をも焦がす。

その光景を見下ろすルークの脳裏にシュレディンガーの声が蘇った。
この世界での再開以来、あの猫は事ある毎にウエストウッドを訪れては
昼食をご馳走になる代わりにティファニアに茶飲み話を披露していった。
そうだ、自分と主人とが平行世界に迷い込んだという話だった。
他愛ない冒険譚の中で、シュレディンガーは何を語っていた?

使い魔たちが召喚された時を分岐に、平行世界の相違が生まれていた、と。
けれど一部の相違は、自分達が召喚される前から在るようだった、と。
だが、それさえも他の使い魔が召喚された時に生じた相違だったとすれば。
そう、アーカードがこの世界に召喚された時に生じた相違だったとしたら。
もし、そうだとしたら。

5年か?
10年か?
それとももっとか。

「奴は、、奴は何時から ここ(ハルケギニア) にいる!!」
 
 

671 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:11:53 ID:???
燃え盛り黒煙を上げる、墜落した戦艦の残骸の上。
アーカードはそこに座り、足を組んで嬉しげに遠くを見やる。
「存外に粘る!
 ふふ、そうでなくてはな、そうであろうとも!」
混沌の中央、死者と生者との狭間に黒衣の集団が陣取り、
後方への防波堤となっていた。

「さて」
瓦礫の上に立ち上がると、両手の銃を指揮棒のように構える。
アーカードの足元、瓦礫の丘の下に死の河が沸き立つと、
数十、数百の杖持つ影が次々と立ち現れる。
新たに現れた死者の群れは一斉に様々な形の杖を掲げ、
しかし一糸乱れぬ統率で朗々とルーンの詠唱を始めた。

「単一意思に支配された千人のメイジによる同時詠唱。
 さしずめ 千角形(キリアゴン)スペル とでも名付けるか」


最初に反応したのは水系統のメイジ達だった。
前線のはるか後方に現れた尋常ならざる死者の群れ。
彼らの唱えるルーンが何をなそうとするものなのかに気付いた時、
この魔女鍋の底のような混沌のさ中で、いよいよ己の気が触れた
のではないかと我を疑った。
しかし数瞬の戸惑いの後、彼らは声の限りに絶叫した。
「奴らを、奴等を止めろ!!」
「いや、もう遅い! 何処でも良い、身を隠せ!!」

そこには既に王党派も貴族派も無かった。
死者と、死から逃れんとする者がいるだけだった。
「土のメイジはトーチカを作れ!」
「平民を守れ! 早く!!」


672 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:13:55 ID:???
戦場の中央に大気が凝り、渦を巻く。
空を覆わんばかりの雲塊が現れつつあった。
高らかな死者たちの詠唱に合わせて、
遥かな高みの白い渦は放電を伴って凝集されてゆく。
そしてその収縮が頂点に達したとき。

「来るぞ!!」
絶叫とともに戦場に高温の暴風が吹き荒れた。
逃げ損ねた者の皮膚がただれ、膨れ上がり、
生きながら蒸し焼きになっていく。
「頭を出すな! 息を吸うな!」
ある者は城壁の瓦礫に、ある者は同胞の死体に埋もれ
必死に灼熱の突風をやり過ごす。

「終わった、のか?」
「いや、、今の熱風は氷結魔法の副産物だ。
 単なる放熱現象に過ぎん」
その単なる副産物に焼かれた者たちが累々と転がる。
風のやんだ戦場で、男たちはゆっくりと立ち上がった。
「あれ、見ろよ」
促され、空を仰ぎ見る。
まもなく食に入ろうとする太陽と二つの月の横に。
三つ目の月が生まれていた。

水晶を削りだして造られたかの様なその天上の球体は、
距離感も判らぬ程の彼方で陽光を浴びて煌いた。
「何て、、何て美しい、、、」
知らず、涙が溢れてくる。
その月が高く澄んだ音を響かせ、ひび割れる。
生まれたばかりの月から光のしずくがゆっくりと漏れ落ちてくる。
こぼれ出たその光の一つを受け止めようと、男はそっと手を伸ばした。


673 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 21:13:58 ID:???
アーカード凄すぎだぜ支援

674 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:16:55 ID:???
全ての音が消えた世界に、アーカードの声が鳴る。
「では逝くぞ。
 千角形(キリアゴン)スペル

 エ タ ー ナ ル フ ォ ー ス ブ リ ザ ー ド 」

月からの光のしずくが長さ5メイルを超える氷柱だと気付いた時、
男の体は既に氷柱に貫かれ、否、押し潰されていた。


地獄が、降り注いだ。


「おお、遅かったのう」
「おまえは、、、おまえは一体何なんだ」
氷柱群の奏でる荘厳な交響楽曲を背に、アーカードは振り返る。
二つの月がゆっくりと太陽を飲み込んでいく。
「どうした? 千載一遇、万に一つ、那由他の彼方の好機だろうに」
「化け物め!」
ルーク・ヴァレンタインが牙を噛み鳴らす。
「『あの方』を騙るな!
 俺が死の河と分かたれるまで、『あの方』は共に死の河に在った。
 お前は『あの方』じゃあ無い。
 お前はアーカードでも無い。
 お前は吸血鬼ですら無い。
 お前を滅ぼす好機だと? 笑わせるな。
 お前は死すら持たない。
 お前は賭すべき何物も持ってはいない。
 お前は、ただ人を真似るだけの人もどきに過ぎん!」
アーカードは悲しげに肩をすくめる。
「やれやれ、非道い言われようじゃのう」


675 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:19:27 ID:???
周囲に渦巻く阿鼻と叫喚の混声合唱はいつしか途絶え、
曲目はついに終盤を迎えていた。
白一面の景色から、赤黒いものがにじみ出して来る。
幾千幾万の魂が、命が、そして死が。
死の河が再び眼前の少女の内へと帰ってゆく。
ルークになす術は何も無い。
目の前に在るのは死の河の主ではない。
主を求め彷徨う死の河そのものなのだ。

「ならばこそ、、、
 命を賭して何かを成すために、私は命が欲しい。
 死を恐れず何かを成すために、私は死が欲しいのだ。
 お前ならば、分かれ。 ルーク・ヴァレンタイン」

死の河の中央で全ての滅びを飲み込んでゆく少女は
ルークをただ正面から、静かに見つめていた。
その静かな眼差しはしかし、哀願の、懇願のようだった。
死ぬ為だけに死を望む死の化身。

その時、その瞳が、ふいに固まり大きく見開かれた。
その顔が、弾かれたように東の空に向けられた。

「、、、来た」
少女の声は歓喜に打ち震えている。
「はははははははは!
 開く、、、『虚無』が開くぞ!」
歓喜の雄叫びと共に、アーカードは黒い翼を伸ばす。
「ワンコはもう少しだけ貸しておいてやる」
にやりと笑った後、引き絞られた弓矢のように飛び去っていくその姿を
ルークはただ立ち尽くして見送った。
 
 

676 :確率世界のヴァリエール-14:2010/06/10(木) 21:21:36 ID:???
由美江が目覚めた時、生者も死者も、そこに何も残ってはいなかった。
戦場にはただ一人、自分だけが残されていた。
デルフリンガーの力を以ってしても、それが限界だった。
皆を守ろうとして力を使い果たし倒れた自分の上に覆いかぶさり、
微笑みながら凍り付いていった男達の顔を思い出す。
その顔が今、白く変わり果てて由美江を囲んでいた。

日食は終わっていた。
由美子は自分を庇い氷像と化した同胞達の下から這い出し、
見渡す限りに墓標のように乱立した氷柱群を眺める。
低く煙るもやの向こうには輝く廃墟と化したハヴィランド宮殿が見える。
恐るべき力で周囲の全てを侵食していた凍結の力は失われ、
あちこちで氷柱が音を立てて崩れだしていた。
惨劇を覆い隠すように、白銀が陽光を受けてきらめく。

抑えきれぬ衝動が、体のうちに激しく渦を巻いてゆく。
氷原の中で、左手のルーンの熱さだけが空しくその身を焦がす。
由美江は虚空に絶叫した。

「殺す、、、

 殺して殺(や)るぞ、 ア ー カ ー ド ! ! !」

677 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 21:23:38 ID:???
見敵支援!

678 :シュレの人 ◆VMp3BjBuLA :2010/06/10(木) 21:28:13 ID:???
以上です。
支援くださった方、まとめてくださる方、
読んでくださる方、感想くださる方、
いつもありがとう御座います。

後編に続く。

679 :マロン名無しさん:2010/06/10(木) 21:31:32 ID:???
シュレの人乙でした、凄い盛り上がりに後編超期待ですよ

680 :マロン名無しさん:2010/06/13(日) 17:10:49 ID:???
キリアゴンてすげーな、まさに桁違い

681 :マロン名無しさん:2010/06/17(木) 19:35:56 ID:RAr94sN2
乙です
相手は死ぬ、が出来るんだもんなあ。
さすがは旦那。

682 :マロン名無しさん:2010/06/17(木) 19:37:30 ID:???
ageすまん

683 :マロン名無しさん:2010/06/24(木) 21:11:02 ID:???
OVAはまだ出ないんですか

684 :マロン名無しさん:2010/06/27(日) 22:47:07 ID:???
まさかのロリカードOVA化かよ!?

685 :マロン名無しさん:2010/07/03(土) 23:02:32 ID:FlEPLR6M
あの伝説の呪文を使うとは流石は旦那、本当に何時からハルケにいるのだろう。

686 :マロン名無しさん:2010/07/04(日) 23:04:51 ID:???
あの呪文をリアルにやるとは…ルーク、由美江戦では、
ルーク兄ちゃんの人間時代の黒歴史(一度、食ったときに見た)を詠い、ルーク兄ちゃんのライフをガリガリ削りそう。

687 :マロン名無しさん:2010/07/09(金) 18:23:30 ID:???
ノボルがツイートで、ドリフターズ超おもしれえええワロタw

ここってヘルシング専用のスレなんかな?

688 :マロン名無しさん:2010/07/22(木) 13:58:02 ID:???
保守
470kbを超えたし、次に投下する人は投下前に次スレを立てておくべきかもね

689 :マロン名無しさん:2010/07/22(木) 16:38:43 ID:???
>>687
薩人マッシーンを召喚したら色々ヤバいだろう

690 :マロン名無しさん:2010/07/30(金) 00:33:36 ID:???
おとといから過去スレ観てやっと追いついた

ロリカードの人もシュレの人もすばらしい作品でした。

しかしシュレのほうのアーカードはやばすぎますね。
切り離された死の河だけあって原作のアーカード以上に無差別で無頓着すぎる

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