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邪気眼-JackyGun- 第U部〜楽園ノ導キ手編〜

1 :名無しになりきれ:2010/02/28(日) 12:24:15 0
かつて、大きな戦いがあった。

個人、組織、そして世界をも巻き込んだ戦い。

戦士達は屍の山を築き上げ戦い、

それでも結局、勝者を産まぬまま、

戦いは、全てが敗者となって決着を迎えた。

そして、『邪気眼』は世界から消え去った――――筈だった。

2 :名無しになりきれ:2010/02/28(日) 13:57:35 0
スレタイに瑕疵があることが判明しております
このスレは第V部として扱うように

3 :名無しになりきれ:2010/02/28(日) 19:35:51 0

《過去への扉》─カコログ─

邪気眼―JackyGun― 第零部 〜黒ノ歴史編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1225833858/
邪気眼─JackyGun─ 第T部 〜佰捌ノ年代記編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1251530003/
邪気眼-JackyGun- 第U部 〜交錯世界の統率者編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1260587691/

《堕天使の集いし地》─ザツダンスレ─
http://yy702.60.kg/test/read.cgi/jakigan/1265391409/l50

《世界ノ真実》─マトメウィキ─
http://www31.atwiki.jp/jackygun/


Q.ここは何をする所だ?
A.邪気眼使いたちが戦ったり仲良くしたり謀略を巡らせたりする所です。

Q.邪気眼って何?
Aっふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・
 邪気眼のガイドライン(http://society6.2ch.net/test/read.cgi/gline/1261834291/)を参考にしてください。
 このスレでの邪気眼とは、主に各人の持つ特殊能力を指します。
 スタンドとかの類似品のようなものだと思っておけばよいと思います。

Q.全員名無しでわかりにくい
A.昔(ガイドライン板時代)からの伝統です。慣れれば問題なく識別できます。
どうしても気になる場合は、上記の雑談スレでその旨を伝えてください。

Q.背景世界とかは?
A.今後の話次第。
Q.参加したい!
A.自由に参加してくださってかまいません。

Q.キャラの設定ってどんなのがいいんだろうか。
Q.キャラが出来たんだけど、痛いとか厨臭いとか言われそう……
A. 出来る限り痛い設定にしておいたほうが『邪気眼』という言葉の意味に合っているでしょう。
 数年後に思い出して身悶え出来るようなものが良いと思われます。

4 :名無しになりきれ:2010/02/28(日) 19:37:41 0
世界観まとめ

邪気眼…人知、自然の理、魔法すらも超えた、あらゆる現象と別格の異形の力

包帯…邪気を押さえ込み暴発を防ぐ拘束具

ヨコシマキメ遺跡…通称、『怪物の口腔』
            かつての戦禍により一度は焼失したが、アルカナを率いる男【世界】の邪気眼によって再生された。
            内部には往時の貴重な資料や強力な魔道具が残されており同時に侵入者達を討ってきたトラップも残存している。
            実は『108のクロニクル』のひとつ
            
カノッサ機関…あらゆる歴史の影で暗躍し続けてきた謎の組織。

アルカナ…ヨコシマキメの復活に立ち会い守護する集団。侵入者はもとより近づくものすら攻撃する。
       大アルカナと小アルカナがあり、タロットカードと同数の能力者で構成される。

プレート…力を秘めた古代の石版。適合者の手に渡るのを待ち続けている。

世界基督教大学…八王子にある真新しいミッション系の大学で、大聖堂の下には戦時から残る大空洞が存在する。

108のクロニクル…"絶対記録(アカシックレコード)"から零れ落ちたとされる遺物。"世界一優秀な遺伝子"や"黒の教科書"、"ヨコシマキメ遺跡"等がある。

邪気払い(アンチイビル)…無能力者が邪気眼使いに対抗するべく編み出された技術

遺眼…邪気眼遣いが死ぬとき残す眼の残骸。宝石としての価値も高いが封入された邪気によってはいろいろできるらしい

5 :名無しになりきれ:2010/02/28(日) 21:50:20 0
【世界基督教大学の一室】


「ええ。はい、わかりました。学長様のご意思の下に」

極東の島国の住人にしてはやけに青白い壮年の白衣の「管理役」は黄金色に輝く受信機を置いた。
彼の名はトリス・メギストス。偉大なる錬金術師にして当代最高の物理学者である。

学長、布兵庵竜蹄から課された任務、それはとある財団のエージェントとの接触。
表向きは研究棟に納入する新システムに関する打ち合わせとなっているが、アンジェラという女は此方について知りすぎたので消すということらしい。

《さて、精々媚びを売らせてもらうとしましょうか》

トリス・メギストスはスパイである。
カノッサ機関ではすでに大学への内偵の一環として数人の構成員が送り込むことが幹部会で決定されており《白亜の侍》等が有志として名乗り出た一方で、黒野天使のように以前から大学に紛れている者もいる。
トリス・メギストスはその後者である。上位幹部の一人たる彼はあらかじめ危険個所としてこの地を監視しており、現に学長を含む大学中枢に不穏な動きがあることも十分把握している。
しかし、彼が直近の幹部会で然したる発言をせず黙していたのには理由がある。

彼は大学側に付いた二重スパイの任に就いている。
自陣に対しても信頼という言葉のないカノッサ機関。であるならば相当上位のものを取り込まない限り有意な情報を得ることは難しい、と己を売り込んだ彼はまんまと教授に就任する見返りにカノッサ機関による大学監視の詳細情報を横流ししているのだ。

《全て我が研究と安寧のために》

「今日はこの辺で帰るとしましょう」
「教授、今から『コレ』ですか?」
「この年で浮ついた噂の一つもないというのも悲しいものですからねぇ」

冗談交じりに助手に告げ、蛍光灯の明るい研究室を後にする。
窓一つないにもかかわらず煌々と照明に照らされた廊下を通り、彼は例の場所へと向かった。


6 :名無しになりきれ:2010/03/03(水) 19:03:28 0
グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ――――!

その音と共に、ピアノの思考はまるで機械のスイッチのようにパチリと切り替わった  まあ半分機械なのだが
足をスプリングにし、びょいんと間の抜けた音と共に後ろへ下がる 『機鋼眼』は近接戦闘向きではない
(襲撃者…それもあの男を狙ったみたいね… レイのさっきのセリフからすると、おそらく『世界』を倒した実力者…)

ピアノは大アルカナの面々には直接会った事はない
しかし、対峙したという同僚から、『世界』の能力の恐ろしさは幾度となく聞かされてきた  まあ誇大評価もあるだろうが
(だとすると、この襲撃者は、アルカナの残党って所かしら)

さっきまで燃え尽きていたとは思えない素早く冷静な分析力 延命魔法によって100年近く生きてきた功と言うべきだろうが
(私はまだ12歳よっ!)
口調も意識的に若々しく、俗に言う『ロリババア』などと言われたくはな(メッセージハココデトギレテイル…
          マルクト
「そうれ見ただろう『王国』! 力は全ての『基礎』だ!」

ガラガラと破片の降り注ぐ中、図太い男の声が響く
            タイム
(また変な男… 折角のウフフ時間はもう終わり…?ハァ)

内心で溜息をつきつつカサカサと後ろの方へ逃げていく 彼女の戦い方は銃撃砲撃主体の遠距離型、ああいったレイみたいな突撃戦法は得意としない

「少年!」

(いやあれ少年じゃないでしょどう考えても二十歳超えてるでしょ)
あの男は生きているだろうか、あの衝撃の中だ、あまり良すぎる方に考えない方がいいだろう

そうこうしている内に、瓦礫と土煙が晴れ 襲撃者の姿が現れる


「…うわあ」


男に興味のない彼女だからこそ、この声が自然と出た
まず、ボディービルダーのようなガチムチ体型 上半身裸だし、どことなく映画『プレデター』のシュワちゃんを連想させる
その腕には銀色に鈍く光る爪 どこのウルヴァリンですか?
そして紫煙が立ち上る葉巻 どう見ても格好つけです本当にありがとうございました

普通の人が見れば「うほっいい男」とか「やらないか」とか言いそうだが(言いません)

「男なんて絶滅すればいいのに…」
さらりと酷い事を言ってピアノは今日何度目かの溜息をついた


7 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 00:04:00 0
邪気眼の能力は、凡そ、所有者の人格・性質から多大な影響を受けて構成される。
『審判』君の能力は、彼が私に披露した通りを信用するなら、火炎の操作にあり、
また、対象が現実の物体ではなく、概念上の存在であるとしても、自在の行使が可能になる。
極めて危険――より適切な評価を与えるならば、反則的なまでに凶悪な能力と断言できる。
しかし、付け入る隙はある。着目すべきは、『審判』君自身の性格だ。
言うまでもなく、私は『審判』君とは初対面である。
にも拘らず、言葉を交わす内に、間もなく察せられるほど特徴的な、
苦笑さえ催させる、無鉄砲かつ激情家の面は、特筆に価する。
彼の邪気眼が、その猪突猛進の気性から、充分な作用を受けているとすれば、
恐るべき瞬発力、専門分野内での汎用性と引き換えに、
持久力や、状況変化への対応を司る柔軟性は、著しく低いレベルに纏まっていると見た。
チーターにジェットエンジンを搭載した末の化学変化で生まれたような男だ。

ともすれば、彼の取る戦術は――
戦術などと言う高等な語が当てはまるとも思えないが――
超級の加速度を伴う連撃により、私の対応を彼方に置き去りにしたまま、勝敗を決する。
ひどく単純とは言え、彼の性格と能力を考慮すれば、それがベストである。
しかし、此の世に頭脳の鈍い人間は五万といるが、
アルカナ本部内で、完膚なきまでに私に打ちのめされて猶、
そのような策とも言えぬ策を構える愚物がいるだろうか。
いや。私に歩み寄る『審判』君の顔には、知性など欠片も見出せない。
多少の脳力は持ち合わせていると期待していたが、自信が無くなって来た。

さすれば私の迎撃手順は、やはり防御と回避を適宜選択し、
相手の息切れを誘う、受身の持久戦が適当だろう。
カウンター戦法は次点、リスクの海に身投げする気などない。
恐らくは逐一必殺級の威力を有する彼の一撃を、僅かでも貰うわけにはいかない。
普段の私なら、ヒットアンドアウェイで敵方のペースを乱すのだが、
何しろ今日の相手は馬鹿に直情的だから、下手な挑発は危うい。

空気の障壁を二重三重に仕掛ける。
消耗により思考能力の低下が及ぼされている、今の彼なら、引っかかるだろう。
動きを阻まれ苛立つ彼の攻撃をのらくらと回避し、邪気が尽きるのを待つ。
そうしてやがて、わが背後に広がる雑木林に誘い込みながら、
足下を覆う芝生を硬質化させ、その足を止める。
焦燥の挙句、彼が苦し紛れに半端な大技を放てば、完全に邪気の底を露呈させるはず。
その後になら、如何様にも料理ができる。

来い――来ない?立ち止まっている。ライターなどを取り出して、何をしている?

「マキシマム……カノン。」

【ストレイト:戦闘不能】

8 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 00:06:26 0
『そんで、え〜と……その、二人とも……やっぱり、”あっち側”の人間?
…どう見ても、「私一般人death!」って風体じゃねえよな……、…まさかとは思うが、セレネも同じだったりしちゃうわけ、か?』

「そーいうことになるわね。ていうか、厳密にいえば―」

セレネは自分が「上の世界」の方から来た事を言おうとし……


グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ――――!


(今のはちょっと心臓に悪いかもね。)

どれだけの攻撃であろうと最初の一瞬さえかわせば傷一つ付かないというある種反則的な魔法、"Silent Wall" による防御。
本来であれば常人以下の肉体しか持たないセレネはその最初の一瞬で仕留められる気もしないでもないが、今回の攻撃は直接攻撃ではなく壁を破るもの。それもターゲットはセレネではなく鷹逸郎。
それを瞬時に判断したセレネが話しながらもこのカードを選び取り頭の中で詠唱した結果が、砂埃ひとつ被ることのなくその場に平然と無事でいるセレネ自身なのである。

しかしこの巻き込みなんて気にしない先制攻撃から言って、少なくともこの襲撃者はか弱い少女だからって逃がしてくれそうなキャラではなさそうだということくらいはわかる。
いくら自分が死にはしない自信があるといっても、こういう体験の少ないセレネにとっては「常人であれば致死性の攻撃」が目の前を通る等というシチュは正直言ってごめんなのだ。

(あんまり多くを語るなってことかしら?まあ、……がそういうならしょーがないって割り切るしかないよね。)

あまりにタイミングの良い襲撃者の来訪について思うところのあるセレネが次の単語を聞き逃すことはなかった。

マルクト
『王国』

(『マルクト』っていう読み方に『基礎』まで言われたらあれしかない、か。)

そのあまりに立派な体躯と鈍く光る爪。そのいろんな意味で大きな障壁に、セレネは挑むつもりなど最早なかった。

「そうだ鷹逸郎さん、ここをうまく切り抜けたら外の人たちに言っておいてくれるとうれしいかも。
『今日がんばったいい子ちゃん達にはセレネ様が夢枕でちゃーんと握手してあげますよ』ってね。」

そう言うとセレネは恐らく『イェソド』とでも名乗るであろう相手の方に向き直る。

「そういうわけで、あたし、ケガする前に逃げちゃいます>< "Teleport Change" 」

そこにはもう、何もなかった。

9 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 00:08:54 0

『運命の輪』はじゅる、と口についたものをとった。
真っ赤だ。トマトソースを撒き散らしたように赤い。何も残っていない。
彼女は半分取れかかっている包帯をみて、また付け直さないと、と一人呟く。
自らの力であるが、その力を制御するには彼女の体は幼すぎるのだ。
とはいえ、自分で包帯はつけられない。あたりを見回せばこんな中のんきに寝ている人物がいた。

「・・・起きないか、起きないか。」

少女はふらふらの足で近づく。
人物に声をかけるが起きる気配はない。それどころか微塵も動く気配はない。
しかたなく少女は、赤い痕の持ち物を取り出して切り込む寸前までぴた、とくっつける。

「・・・なんだよ、モi・・・じゃねえ、『運命の輪』」
「・・・君は馬鹿か?包帯を巻きなおしたまえ。下僕の分際で僕にその口をきくのか?」

人物はすこし瞬きをしてから、やれやれという顔で包帯をとりだす。
慣れた手つき、くるくると上から重ねて巻いていく。
どうやら古い包帯と新しい包帯がごちゃごちゃなのは、このように上から巻いてしまうからだろう。
巻き終わり、ぱち、と包帯をとめる。
すると包帯の強力な能力封じにより、また普通の少女に戻っているのだ。

「・・・ぐしゃー、ねー、あれなあに?」
「やれやれ・・・こういう時は可愛いんだが・・・」

中性的な顔のその人は、目の前の少女にあきれたような顔をした。



10 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 21:32:49 0
時間よりすごし早く着いてしまったようだな。まあいい、相手はここの関係者。万が一にも戦闘になることを想定して事前に周囲を見渡しておく程度はしておいても罰は当たるまい。

(周囲を見渡す『アンジェラ』。現在立つは研究棟の裏手)
(隣の幾許か古めかしいコンクリート造りの建物とは対照的に、真新しい白塗りの壁が『太陽』の光を反射するのが目に眩しい)

人気は・・・・なしか。もちろん密約を交わす心づもりであれば当然のこと。
私にとっても都合が良い。何せ・・・・力づくでも色々聞きだすのだからな。

(不敵に笑うアンジェラ。その双眼が一人の来訪者を捉えた)

こんな場所に来る以上関係者とみて間違いないだろう。しかしアンジェラが言っていた「研究棟統括事務長」は40歳前後の女・コードネーム《K》のはずだったが、これは別人にしか見えない。
代理だろうか?それなら別人であることが露見せず却って都合がいいことにはなるが。

「あれ、《K》さんではないのでしょうか?」

(皮膚を貫く殺気。この男は只人に非ず、とアンジェラの直感は警鐘を鳴らす)

「本日は新システム、Σオペレートの説明に参ったのですが」

11 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 22:01:45 0
「……へーえ。そーくるんだ」

ど真ん中を打ち抜かれた定規をベルトに挟み、『コンフィング』は一旦跳躍してステラとの距離を稼いだ。

「どーやら『リッパトリッパー』攻略されてるみたいだね。こりゃ『プロブレム』は役立たずかなー?」
「役立たずとか言うなオイイイイッ!これでも結構傷ついてんだッ!」
「ま、いーんだけどさ。…それよりさー、あっちのアレ誰なの?」

ひょい、と木の影に隠れてなにやら高速でメモを取っている「白衣の男」を指差す。
我等の狙う異教の者という風ではないが立ち振る舞いがどことなく禍々しく、その姿は一般人というには若干語弊がある感じだった。

「いや、知らねェなァ。アノ女の協力者って所じゃねェか?」
「ふーん…ま、警戒だけで大丈夫かな。それより今はアレなんとかしないとねー」
「・……へ?」

《アレに対処》───そう言いつつ『コンフィング』が指差したのは、前でなく上。
言われて首を向ければ、なるほど雲も無いのに光は陰り明らかに時の流れにそぐわない空色が形成されている。

「あの異能者の能力って多分「光を操る」とかそんなんでしょ?多分、これから光を集めて滅茶苦茶すごい攻撃仕掛けて来るんだと思うなー?」
「なァッ…!?」

その言葉が終わる時は、『コンフィング』が脱兎の如く駆け出した後。


「………ッざけんなコンチクショォォォォォッッッ!!!」


刹那、素晴らしく極太なレーザーが放たれた。

12 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 22:03:25 0
疾る、跳ぶ、駆る。
空に光が瞬く前に、『コンフィング』は自身の体重を無視したその動きでなんとか射程範囲外まで走りきった。

息をついたその刹那、踵が僅かに焦げる。
絶対的熱量を持って放たれたレーザーは、『コンフィング』の背後を無生物の杜へと変えた。

軽く、舌打ちが漏れる。
悪魔の輩、邪気眼使い────これは創造主様が嫌うのも分かるな。


「ちょ、ちょっとやりすぎた、かな……?」
「あー全くだねおねーさん。オーバーキルにも程があるよ程が」

背後から接近し、そして跳躍。
上空から数え切れない数の「爪楊枝」を放り投げる。

「だけど「遅い」ね。徹底的に遅い。ヒーローは変身時に敵の攻撃を受けないけど、生憎おねーさんはスーパーマンでもなんでもないんだよ───」


そう、我々にとってしてみれば─────そんな力は、ただの異端(バケモノ)だ。



爪楊枝はまるで風に遊ばれる木の葉のように不規則な軌道を描いてステラに襲い掛かる。
それら全ての先端には『プロブレム』により付加された切れ味が先端部分一端のみに付加されている物。

「刃」は真横からの衝撃に弱い。が、切れ味を持つものが常に直線的だとは限らない。

切れ味が付加されたのは、爪楊枝の先端部分ただ1箇所。
これは言わば「点」の切れ味。爪楊枝自体の小ささもあいまって、一つ一つ圧し折って無傷でいることはまず不可能。

例えるならそれは槍。
降り注ぐ爪楊枝は、二人の《造られた能力》が編み出した最小の槍だった。

『コンフィング』により風に遊ばれるほど質量を失った大量の槍は、不規則な軌道を描いて四方八方からステラへと襲いかかった。

13 :名無しになりきれ:2010/03/04(木) 23:07:54 0
《ターゲットを視認。確認の後処分に移るとしましょうか》

研究室の外でまで白衣を着ている道理はなし、ましてやこれから表面上は帰宅ということになっているトリス・メギストスは相変わらず白という色にこだわったロングコートで周囲とのコントラストを強調しながら研究棟の裏手の暗がりへと入ってゆく。

目的は財団のエージェント、アンジェラの処分。
死角からの一撃で仕留めることも可能だとは思っているがその場合本人であったかの確認が面倒となる。
そこでまずは最低限の確認を取ろうと考えたのである。

「あれ、《K》さんではないのでしょうか?」

《K》とはこの研究棟の設備に関する対外折衝の最終権限を一手に握る研究棟統括事務長の偽名であると事前に聞かされている。
この女で間違いないと確信した彼は既にアンジェラを殺す方法をあれこれ思案していた。

《やはりこれだな》

「本日は新システム、Σオペレートの説明に参ったのですが」

最早アンジェラの語りかける内容など彼にとっては聞くに値しておらず、アンジェラの方を見ながら彼は自然と隣の建物に寄り掛かり手をつく。
しかしこの一見ただ不躾にしか見えないこの行為に全てが凝縮されていた。
彼は『原初の錬金術師』、トリス・メギストス。触れたるあらゆる物質を自在に操る「元素の魔道師」。
光も音も無く彼はその「力」を行使し――

          鉄筋コンクリート
そして、槍状を成した近代の礎がアンジェラの側頭部を狙うのであった。

14 :名無しになりきれ:2010/03/05(金) 12:46:07 O
【大学構内1F、第一食堂。通称『一食』】

「ハァ……またアレな客が来なさったねぇ……」
“食堂のおばちゃん”の愛称で親しまれる四十路の婦人は、奇怪な来訪者に溜め息をつく。

ここ最近、異様な雰囲気で携帯電話に話しかける男、全身真っ黄色の服を纏った異邦人、恐ろしく精巧緻密な人形を引き連れた妙な青年など、奇怪な客を目にする機会に(否応無く)多々恵まれている。
そして今、彼女の珍客リストには、新たに眼前の白い着物を着た男が記帳された所であった。

確かに大学というコミュニティーに於いて、着物姿という物は───その白着物が素人目に見てすら、洗練された高級品だと分かっても───奇異の目付を受けるに、充分値する。

だが、違う。真に彼が変人と判断されたファクターはそこではなく

「全く……長年ここに勤めてきたけど、一つのメニューを20個も頼む人なんて、あたしゃ初めて見たよ……」

ずらり、ずらり。同じ御膳が積み重なりフラクタルを描くその様は、自分の感覚からすれば“異常”以外の何物でもない。

「最近、変人が多いねぇ。こんな辺鄙な大学に何かあるのかしら……
まぁ……給料貰えれば私にゃ関係ないけど」

幸いと言うべきか、今は三時限目の途中。決して繁盛時とは言えず、つまり人はまばらであり御膳の山が他の学生の邪魔になる事も無い。

と、珍客は17個目の和風定食に箸をつけ始めた。


「……お残しは許しまへんでー」
ふと某アニメのキャラを真似てみたりする。食事開始当初から一切の遅滞無い、あのペースなら完食は確定だろうが。

喧騒から隔離された、柔らかな木漏れ日差す食堂(リョウイキ)。
鳥のさえずりと、僅かな食事の音だけが在る空間。
その中でゆるやかに過ぎていく刻の謳歌を《白亜の侍》は望み


バン!!


───自由なる騎士が、その幻想をブチ殺す。

15 :名無しになりきれ:2010/03/05(金) 12:48:05 O
(何じゃ、騒騒しい。久々のハイパー和食和食タイムに水を差すでな……)

「……黒野殿!?」

(抜かった、『枢機院』の敵襲か!……クッ、徹底した潜入工作を行った某はともかく、彼女は違う筈。
直ぐにあの男を制圧し解放……?)

亜空間収納式の印籠から【白亜】を取り出す寸前、緋月命は違和を悟る。
襲撃者(仮)の姿を確と認識した結果として。


不思議な、男だった。
彩り清かな白銀の髪、筋骨隆々の言葉をそのまま人化したが如き体躯。
幾重の死線を超越したであろう兵である事を窺わせながら、対極にその雰囲気は一分一輪の乱れもない静穏。
古代の“戦士”という存在を再現すれば、きっと彼の様になるのではないか。

その“戦士”。先程から、こちらを───正確には『京懐石風和定食』を凝視している気がするのは気のせいだろうか?
(……気のせいではないのう。今にも涎が垂れそうな勢いで見つめておるわ)

何とも呑気な雰囲気。御陰で、急襲といったような物騒な事態で無い事は分かった。
が、やはり同胞が自由を奪われたままという状況は宜しくない。ともすれば其れは、かつて敵に囚われてしまった仲間達を想起させてしまう。

だから

「……食うか?中々に美味じゃぞ」

食べ物で釣ってみた

ところで、文武の武に偏り過ぎておりオツムが多少残念気味な侍には、とある一つの格言がある。
『日本語しか話せない某が悪いのでは無い。日本語を理解しない異邦人こそが悪いのだ』───M.HIDUKI

と、大半の外人と会話をする意思を放棄し、現在進行形で不条理なエスノセントリズムに駆られている彼の言葉が通じる由は無し。
だが、膳と箸を差し出し言葉を投げ掛ける、一連の“動作の意味”は“通じた”ようだった。
しげしげと日替わりランチを見つめ、その挙止の邪魔となる拉致対象は目論見通り拘束から解き放たれ、一時振りの自由を授けられた。

「直にお会いするのは初めてでしたな、黒野殿。某は魔剣士部隊【Dullindal】の総隊長、緋月命。
記憶の片隅にでも留めておいて下され」

「……それで、この男は?何があったか教えて頂いて宜しいか?」

簡単な自己紹介と共に、状況を問う。
ついでに、未だランチに興味津津な視線を向ける男についても。

16 :名無しになりきれ:2010/03/05(金) 13:04:23 0

「少年! そこをど」
え? なn

――グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!


(『聖都』秋葉原、とあるビル)
(壁を一瞬にして大小無数の瓦礫に変えた「何か」は、そのまま一直線に鷹逸郎へと襲来した)
(一瞬の静寂を置いて爆炎のように膨張する砂埃。それが物語る衝撃の強さ――つまり、”致死性”。)

(衝撃から押し出されるように射出された瓦礫の群れは、レイやピアノ、ステラの脇をすり抜けて向かいの壁を激突し粉塵と化す)

(――――それは、あまりに無慈悲な「一撃」。)
(例えるなら、生身の人間に向かって戦車砲を直撃させるような残酷さ。)
(これだけの殺傷力は、ミサイルなどの軍事兵器でも着弾しなければありえない。ましてや人の身ではもっての他である。)


(しかし、その「一撃」は、人が放った。)

.           マルクト
「そうれ見ただろう『王国』! 力は全ての『基礎』だ!」

(外からの光に照らされ、ヴェールのような粉塵に浮かび上がるシルエット。男の姿。)
(彼が右腕を斜めに振り上げたかと思うと、粉塵は一瞬その容量を一点に凝縮、直後衝撃波と共に爆ぜ散って掻き消える。)

(…人の身が有するには、あまりに強大すぎる力。)
(晴れた粉塵の向こうに見えたのは、…大穴が開いて見晴らしがよくなった壁と、…そこら中に飛散した赤黒いシミと、……葉巻をくわえた上体裸身の男一人)

. ・ ・ ・ ・
(それだけ。)

「少年!」
「やめておくんだな。この威力を見れば、自ずと分かるだろう? ……この「一撃」をくらった”少年”の、末路ぐらいはなァ……!!」

(字面通り、戦車を相手に発射することを想定して造られた戦車砲。それを、人相手に撃ち込んだらどうなるか)
(……これほど想像に容易いこともない。肉体は許容量を大幅に逸脱した衝撃に耐えきれず、……肉片となって、無惨な死を迎えるのだ。)
(分かり切った結末。………それだけに、あまりにあっけないオワリ。)

「よく聞け、この世の『基礎』は力だ! 力さえあれば、”世界の選択”だろうがこの通りッ!! 木ッ端微塵のバラバラだッ!!
 『王国』はそれを分かってねェ。罠も戦略も小細工もッ、圧倒的な力に呑み込まれちまッたらブタの役にもならないッてのによォ!!」

(それは、勝利宣言。)            マスターピース
(異能力に対して強力な反撃効果を持つ”世界の選択”、それさえ封じてしまえば、この力の前に勝てる者はいないという、過信。)
(……だが、その過信は両腕の爪によって裏付けられる。”銀狼の爪”。男の愛用する武器であり、男の力を最大限に発揮するためのツール。)

「目的は達した。……が、もし戦うというなら相手になろう。……あんまり上手く行ッてしまったもんで、退屈してきたところだからなァ……!?」
      オトコ チカラ
(そして、暴力の海が振るわれる。)

17 :名無しになりきれ:2010/03/05(金) 13:07:03 0
「いつものことだけど、やっぱ今日の握手会もデマだったなあ……。秋葉原にセレネ様がいたから、もしかして!、…って思ったんだけどなあ……」

 秋葉原。某ビル。
 セレネ近衛隊の面々は、世界的アイドル「三千院セレネ」の握手会が行われるというそこに大挙していた。

 地下アイドルのイベントによく使われるような、30人入るかどうかも疑わしい狭めの一室。
 壁にはセレネに関するポスターが張り巡らされており、一番奥には”世界的アイドル、三千院セレネ握手会”といういかにも手製な看板と簡易舞台。
 そして所狭しと敷き詰められたパイプ椅子。世界的なアイドルの握手会とは思えない低予算っぷりだが、これまでセレネの仕掛けてきた数多のサプライズに比べれば些細な問題だ。

 設置された椅子には開場してすぐに空席が消滅、遅れてきた哀れなファンは壁沿いで立ち見状態。
 しかし椅子にも立ち見にも、薄氷色の法被を着込んだ老若男女が大半を占めていた。近衛隊の制服である。大迷惑であった。

「滅多なことをほざくな、若造。セレネ様が遅れてから来るのはコンサートでもよくあること。儂らは、あの方を信じて待ち続けるのみじゃ」

 開始時刻を過ぎても一向に現れないセレネに思わず弱気になった応援団長風の大男の頭を、樫の杖で小突く爺。
 その往年の貫禄ムダに溢れる説教に大男はしばしキョトンとした後、弱気な顔から一転、何やら使命に燃えた表情に早変わりし、

「……あぁッ、そうだった! 俺達が信じなくてッ、誰があの方を信じるというのかッ!! セレネ様ァァァアッ、俺は何日でも待ち続けますぅううう!!!」

 突如席を立ち上がり、叫びを上げる大男。大迷惑であった。
 そしてそれにつられて周りのファンのボルテージも急上昇し、室内に流れるBGMに合わせて一斉にオタ芸を始めた。大迷惑であった。
 特に、すでに年齢が60、70を軽くいっているだろう爺さんのキレ鋭い動きは、シュールを通り越してもはや芸術の品格漂うものであった。やはり大迷惑であった。

「…………、バカばっかdeath」

 それを横目に一人呆れるメイド服の金髪ツイテ少女は席にちょこんと座ったまま、溜息を吐くと窓から外の風景を眺め、


 そして、知る。


「…………!?」

 大穴の開いたビル。
 両手甲から爪を生やした、半裸の筋肉質の男。
 ……そこから遠く離れた歩道の街路樹に引っかかっている、血まみれの、……よく知る青年の姿。

 何が起きているのか、少女にはそれすら分からなかったが、青年が何かよくないことに巻き込まれていることは嫌になるほど理解できた。
 そして、今の無力な自分では何の役にも立ちはしないことも。

 だからこそ。
 無力な人間には、無力なりのやり方というものがある。
 少女はメイド服の懐から携帯電話を取り出すと、目当ての電話番号に発信する。…繰り返すコール音、それに応えてくれることを、少女にしては珍しく「カミサマ」に祈って。


18 :名無しになりきれ:2010/03/05(金) 13:09:43 0
――――、……う………。

(目が覚める。)
(……混濁する意識。錯乱する記憶。一体何が起こったのだろう。とてつもない大きな衝撃を受けて、鷹逸郎の頭は混乱していた)
(何が起きたのだろう。……それを考える前に、鷹逸郎の身体を襲う激痛。)

……ぐあっ、……ってええ……! …くそっ、……一体何が起きたってんだよ……!!

(腹の芯から響いてくるような鋭痛と、さっきから全身を細かい針でチクチク刺すような煩わしい微痛。)
(それらが状況整理を妨げる。今、自分が何処にいるのかすらも分からない。寝起きよりひどい怠さが泥のようにこびりついて頭の回転を鈍らせる。)
(このまま眠ってしまいたい。そんなことを思いついたその時、懐のバイブレーションに気が付いた。)

…………、あ?

(懐を探り――この時、やっと自分がうつぶせであることが分かった――震動の元を取り出す。)
(携帯電話だ。画面には、うんざりするほどよく知る少女の名前。取りあえず無視する訳にもいかないので、着信ボタンをやる気無く押した。)

…………もしもし。
「……、Hello、ヨーイチロウ。モーニングコールdeath。良い目覚めをお送りするdeath」
(電話口から聞こえてきたのは、やはりよく知る少女の声。起き抜けには聞きたくない皮肉屋めいた声だ。)

……なんだか今日はやけにテンション高くねえか。一体全体何の用……。
「これは純粋な親切心からのコールなのdeath。安眠するには少々危ないベッドで寝ているようdeathから、一応連絡したまでdeath」

…………え?

(………その奇妙な言葉に、鷹逸郎の意識がはっきりと覚醒した。)
(視覚が脳に連結。鷹逸郎の身体を包む深緑の葉と小枝を認識。…上空から木に落下でもしない限り、こんな体験はできないだろう)
(異常な状況に身体が反射的に激しく動いて、その衝撃にあえなくアスファルトの歩道へ落下する。ガシャリと倒れる路上駐車の自転車。パラパラと頭上に降り注ぐ、折れた木の枝と葉っぱ)

っぐあ! …ってててて………。

(結構な痛み。……だが、あのビルの高さから垂直落下するのに比べれば、こんな痛みなど大したことはあるまい。)
(……あのビル? 芋蔓式に記憶が甦っていく。視線を上向きに辺りを見渡し、遙かずっと向こうに最近記憶に新しいビルを見つけた。)
(……上階部の壁が半壊して大穴が開き、その下には野次馬達が、歩道に落ちた瓦礫を取り囲むように群がっている。激しい音。どうやら戦闘はすでに始まっているらしい)

(戦闘? ……そうだ! 確かあの時、急に何かに襲われて、何かすごい力に吹き飛ばされて……!)

――――悪い。俺、やらなきゃいけないことを思い出しちまった。また、後でかけ直してもいいか?

「構わないdeath。どうせ大した用ではありませんdeath(i)たから。……その代わり、後でしっかり説明はしてもらうdeath」

ああ! 恩に着る!!

(携帯電話の通信を切り、……そのビルを見つめる。…とても人一人が跳べるような長さではない、あまりに遠く懸け離れた距離)
(それだけの距離を青年一人吹き飛ばす力とは、一体如何ほどの強さだろう。……きっと、まともに直撃していたら肉体など破裂していたに違いない)

(…………だから、どうした。こうして死なず、生きている。だったら、まだやるべきことがある!)

………うおぉおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!

(一欠片の勇気を、振り絞るように。青年は咆吼し、戻るべき戦場へ向かって駈け出した。)

19 :名無しになりきれ:2010/03/05(金) 21:28:32 0
「なッ――」

(『アンジェラ』の側頭部を狙いすました一撃。すんでのところでかわしたものの、鋭利なコンクリートの槍が受け身をとった左腕を抉ってゆく)

これは予想外だな。これは本物のアンジェラ・ベネットが既にマークされていたということか?
成程、本人に自覚がなければ尋問しても無意味ということか。何にしても恨むぞ、アンジェラ・ベネット!

「これはこれは、会って早々殺しに来られるとは思ってもみませんでした。」

さっさとこの男の口を封じて別のだれかになる済ます方が得策か。

「「来い(アクシオ)」、アロンダイト」

(宙が割れ、アロンダイトを取り出す『死』。黄金の力によりドーピングされ常人離れした脚力で一気に迫り男を斬りつける)

20 :名無しになりきれ:2010/03/06(土) 12:01:31 0
「やめておくんだな。この威力を見れば、自ずと分かるだろう? ……この「一撃」をくらった”少年”の、末路ぐらいはなァ……!!」
「よく聞け、この世の『基礎』は力だ! 力さえあれば、”世界の選択”だろうがこの通りッ!! 木ッ端微塵のバラバラだッ!!
 『王国』はそれを分かってねェ。罠も戦略も小細工もッ、圧倒的な力に呑み込まれちまッたらブタの役にもならないッてのによォ!!」

「………」

世界の選択 そう言った、あの少年が?世界の選択?                                     マスターピース
それならば『世界』を地に堕とし、その遺志を継いだというのも合点がいく が、あんな若く、戦闘にも慣れていないような人間が『世界の選択』なのか
彼が本当に『世界の選択』なら、聞きたい事がいくつかある 無駄な事とは思いつつ、無事だろうか、と考えてしまう


「目的は達した。……が、もし戦うというなら相手になろう。……あんまり上手く行ッてしまったもんで、退屈してきたところだからなァ……!?」


「…っ」
そこでレイはハッと顔を上げる 私は今何を考えていた
少年の無事などどうでもいいではないか 無駄な事に頭を使うのは私の得意分野ではない
どうでもいい考えを振り払うように二度三度頭を振ると、襲撃者を睨む

「お?やる気か、いいねェ ……直ぐにでも!俺の力の前に平伏すだろうけどなァ!!」

どう、と押し寄せる殺気 先ほどと同じ、否 最初の一撃は自分に向いていなかった
が、今度は完全に自分に向かって 向かい風のようにピリピリとするほどの殺気が押し寄せてくる。


「はは…」

思わず笑いが漏れた
そうだ、この感触 相手の意識がこちらに向く溺れるようなこの感覚 先ほどまでの雑念が取り払われ、彼女は普段の装いを取り戻す
手に持つ黒爪がビリビリと震える 喜んでいるのだ、こちらに向く殺しの意識に、悦び喘いでいるのだ。
その震動で、崩れるように先ほどまであった心のわだかまりが消え去っていく

そうだ、私は戦うために生きているのだ



戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ



この声は黒爪のものか、もしくは自分の最奥の心理か
どちらにせよ

「ああ、分かった」

ただ応える、表面上の自分に向けられた声なのだから、表面上の自分が応える
それだけだ


21 :名無しになりきれ:2010/03/06(土) 12:02:16 0
ざり…
一歩、踏み出す その足と中心に粉塵が舞う

「…ふっ」

軽く息を吐くと同時に床を蹴った 一歩目からトップスピードを生み出す脚力
あまりに瞬間的な加速、常人から見れば消えたように見えるかもしれない

「甘いなァ!」

しかしそれに反応する襲撃者、先ほどとは逆、左手を横薙ぎに払う
その一撃は先ほどよく見た 食らえば骨片残さず吹き飛ぶだろう
だから

キュルゥッ

ピカピカに磨かれた床を返すように蹴る、反復横跳びと同じだ
世界に散らばる武術にもこの技術は多くある 相手の懐に入ると見せかけ後ろに下がり、その隙をついて叩く
だから彼女も、相手の攻撃を見逃してから叩くつもりだった
だが、出来なかった

「―っが!?」

背中に重い衝撃、コンクリートの壁だ なぜ?自分は壁からは離れていたはずだ
そして見る、男が遠くにいる 奴は動いていない、大穴が開いた壁に立ち続けている

「まさ、か」

吹き飛ばされたのか、軽く10m近くはあるあの距離から 剣圧だけで
いかに彼女が軽くても、人間をここまで飛ばすには車を衝突させるほどの衝撃が必要だ。
それが、あの爪振った時に出来る衝撃で生まれる
見た目以上の範囲攻撃 圧倒的な暴力

「…一筋縄では、いかないか」

そんな相手を前にしてなお、彼女は笑っていた
楽しい
楽しいのだ、戦いが、この相手を、どうやって殺すかが
基督教大学でのあの人形遣いの戦いでは全く満足できなかった。中途半端で終わってしまったし、ピアノの邪魔も入った。
戦闘狂の、彼女の本性が、久々の獲物にずるりと鎌首をもたげる

「はは、ははははは……
 ――せいぜい、楽しませてくれよ?馬鹿力君」


22 :名無しになりきれ:2010/03/06(土) 13:40:35 0
《話が違う》

トリス・メギストスは違和感を覚えていた。学長から受けた命令ではターゲットは無能力者の筈。それが此方の不意打ちを避けて見せるとは思いもしなかった。

「ほう、気付かれていないつもりでしたがね」

必殺を狙った此方の攻撃を躱した手合い。寄越した情報が間違っていたのかそれともこれは別人なのか。
何にせよ、見られてしまった以上この女も消す外あるまい。

「「来い(アクシオ)」、アロンダイト」

中空から剣を取り出した女が神速のごとく迫り切り付ける。
迎え撃つは地面から生え出ずるコンクリートの壁。

「むう」

身長を越えるほどもあった壁は粉々に砕け散り、破片が全身を翳めてゆく。

「それにしても、わざわざ剣の真名を教えて下さるとは親切なものですねぇ」

剣が神話にも成ろうものであれば、それに精通する者が対策を立てることも不可能ではない。名を教えるというのはそのデメリットを覚悟した上で行うものである。
しかし生憎彼は剣愛好家ではなくただの科学者。
それにそもそも異能相手にただのコンクリートでは分が悪い、そう判断した彼は壁によって視界を奪った一瞬の隙を突いて斬撃を躱しつつ中空を掴む。

「《アルターブレード》」

錬金術、その最終目的は物質をより完全なる物質に作り替える術《すべ》である。
その過程には様々な魔術的ないし科学的方法が用いられるが、かつて「真理」に触れた彼は最も簡潔な方法を選択することにした。

それは、核融合である。

「真理」に触れて物質の何たるかを感得した彼はあらゆる元素の構造に精通し、
素粒子の結合を組み替えることによって物質を任意の元素に変換するのである。

空気のあった処にalternative《代替》として無数の鋼の刃が姿を現した。しかし、それだけでは終わらない。
一振りの剣を生成するにも多量の空気を要することは言うまでも無い。
空気を失われた空間は半ば真空と化し、あらゆるモノを引き込むトラップとして再利用される、それが《アルターブレード》の本質。

「さぁて、息つく間など与えませんねぇ」

自ら触れる必要すらない剣。それを前にし、彼はただ佇むのみであった。

23 :名無しになりきれ:2010/03/08(月) 01:27:55 0
追いかけっこの勝負はあっという間に付いた。というか、勝負にすらならなかった。
ウィナー、男。ルーザー、黒野天使。身体能力の違いがモロに出た決着である。
黒野を追い詰めた男は、黒野の不審な行動に対し質問をまくしたてたが、
混乱の最中にある黒野は「……いや、その」としどろもどろな返答しか行えない。
やがて、そんな黒野の様子に痺れを切らしたのか、或いは別の目的があるのか、
男はジェスチャーを開始した。それは、何かを食べる様なジェスチャーであり

(……ん。食べる……何をだ? 食料らしい物は無いのだが……ああ。そういえば
 辺境の人肉を食する文化を持つ部族の資料を見た事があるが……)

そうして、それを見て考え込んだ黒野は――――男に捕獲された。
まるで土嚢でも担ぐ様に男の屈強な肩に背負われ運ばれる。
初めこそ抵抗を見せた黒野だったが、その圧倒的な筋力差に
階段を下り終えた時にはもはや抵抗を諦め、死体の様に男の肩に垂れ下がっていた。
諦めが早いという事は、美点と言えるかどうか解らないが、運搬される死体じみたその姿は
萌えと言える物ではないだろう。いや、一部には萌えという人もいるかもしれないが……

だが、そんな諦めの早い黒野も、視界に学食の姿を捉えた時にはその顔に冷や汗を浮かべた。

食事のジェスチャー。カニバリズムの文化。謎の男。学生『食堂』。

意思疎通の困難からもたらされたその情報が黒野に与えた回答は、「食われる」。
勿論性的じゃない意味で。

24 :名無しになりきれ:2010/03/08(月) 01:28:35 0
まあ、結果的にその妄想は全て間違っている訳だが、黒野にそんな事を知る余地は無い。


25 :名無しになりきれ:2010/03/08(月) 01:29:18 0
……ところで、黒野がいきなり自由な騎士たる男と遭遇した様に、
人の出会いとは唐突で運命じみたものである。
男に背負われたまま学食に踏み入った黒野は、そこで更なる出会いをする事となった。

「黒野殿」と黒野を呼ぶ声。それが聞こえたのは、黒野が男に背負われ学食の半ばまで
来た頃だった。果たして、自身の名前を呼ぶ様な人間がこの大学にいただろうか。
黒野がそんな事を思いながら反射的に――――背負われたままだが、その視線を向けると

――――そこに、侍がいた

凛とした雰囲気を纏う白き着物の侍。果たして、切腹に望む武士の様に純白の着物を着た
その男は、一瞬、黒野へ……いや、黒野を背負う男へと殺気を向けたが
暫くするとその殺気が急速に萎み、何故か黒野を背負う男へと食事の誘いを始めた。
見れば、その男の前には大量の料理が並んでいる。

『京懐石風和定食』。幅広く、悪く言えば節操無く大量のメニューがあるこの大学の学食に
存在するメニューの一つであり、京懐石『風』というのがミソである。
この定食は、やや値段は張るがそれでも良心的な価格であり、カロリー少なく腹にも溜まる
事から男子女子問わずに人気が有る。程良い加減で焼かれた魚や、噛むと、良く染み込んだ
出汁が蕩け出す卵焼き。中でも湯豆腐は厳選した素材を用いており、ほんの少し香る柚子が
アクセントとして絶妙な――――――閑話休題。

新たに現れた侍は“緋月命”と名乗った。
そして、それは他人との関係が薄い黒野が知っている名でもあった。
魔剣士部隊【Dullindal】総隊長、緋月命。又の名を『白亜の侍』。
黒野がひっそりと研究員として所属しているカノッサ機関の幹部と呼ばれる人間だ。
何故そんな人間がここにいるのか――――と、そこで黒野は先程受け取ったメールの
内容を思い出す。それは、カノッサの幹部がこの大学に潜入するという内容であった。


26 :名無しになりきれ:2010/03/08(月) 01:30:12 0
「……ん。……いや、その、初めまして。
 私は世界基督教大学、民俗学教授の黒野天使(エンジェル)だ。
 中々に恥ずかしい名前なので、黒野の方で呼んでくりゃ……くれると助かる。
 というか、構内で裏の名前を出すのは……いや、何でもない」

黒野は、ぼっちの習性によって自分に向けられた命の視線から全力で逃げる事を試みつつ、
噛みながら『表の』方の役職で自己紹介を返す。それがぎこちないのは仕方ない。

悲しいまでに自己紹介に慣れていないのである。
苦しいまでに周囲の注目を集める事に慣れていないのである。

そうして、黒野は次に自身を担いでいる男について淡々と語り出す。
それは、黒野の主観に基づいた物であり、

「……この男性は、私の研究室に不意に侵入し、巨大な剣を探しているらしく、
 強姦はしないらしいが、私が食されるかもしれない……あと、『メール』を見られた
 そんな事程度しか知らないな」

凄まじく勘違いを生み、助長し易い発言だった


27 :名無しになりきれ:2010/03/08(月) 04:11:10 0
【世界政府・枢機院――『聖樹堂』】

世界政府の所有する建造物のうち、『枢機院』に割り当てられる施設は寺院や舎利仏閣といった宗教関連が概ねを占める。
聖教系のほぼ八割を掌握する枢機院の支配圏において、その中でも総本山たる欧州の大聖堂を『聖樹堂』と言った。
天井の高いバロック建築の聖堂はステンドグラスに聖人を描かない。信俸する『創造主』は実在し、偶像を必要としないからだ。

「……ふむ、そろそろ『強襲部隊』の帰還時刻であるな」

中心に据えられた説教台の傍で、安楽椅子に腰掛ける老人が一人。
豪雪のように力強い白に染まった豊かな口髭、それとは対照的な禿頭。禿げ上がったサンタクロースのような風態は、
ともすれば好々爺のようにも見えるが、その実老獪なる陰謀術数と処世によって『楽園教導派』の首魁にまで上り詰めた男である。

『議長』・アルテロイテ=エルフェンバイン。
創造主の勅命により『枢機院』の立ち上げに携わった古株であり、忠誠の証として異能を賜った原初の能力者である。

そんな彼の視線の先、ヨコシマキメの転移システムを応用して開発された超長距離転送術式『箱舟(アーク)』に光が宿る。
この時間、先立ってアルカナの本拠に送り込んでおいた精鋭達が定時帰還と報告にやってくる手筈だった。
転移魔法陣が閃き、送られてくる者の輪郭を光の内に露にする。瞳孔の奥に光の中身を捉えて、『議長』は目を見開いた。

「なんと、何故二人だけしかおらんのだ……?」

燐光の門から歩み出てきた人影は男女の二つだけだった。
一人は長身を土まみれのジャージで包み、揃え立てられていた髪形は著しく崩れ本来の爽やかさを失っている。
もう一人は絵の具に汚れたスモックがそれを塗り潰すほどの土色で着色され、丸眼鏡もフレームが曲がっている。

「いやー散々だったわ。まっさかあんなデタラメな規模の転移術式をノータイムで発動できる手練がいるたぁ予想外だったぜ」
「流石はヨコシマキメを一時的にでも掌握していた組織の残党といったところかしら。前回の戦闘データには載ってなかったけど、彼」

『シャフト』。『クラフト』。二人は互いの無事を喜ぶこともせず、散った同僚を悼むこともせず、ただ平然と歩いてきた。

一歩進むごとに磨き上げられた聖堂の床に土が落ち、その度に議長の眉間に皺が増えていくが、構う風もなく歩み寄る。

「まさか、他の者共はみな返り討ちにあったのか……!?お前が居ながらなんという体たらく!」

老人の険の矛先は『シャフト』に奔る。怒りを向けられた青年は肩を竦め、首を振りながら嘆息した。

「『セカンド』が死んで『スクランブル』が脱走、『スマイリィ』と『ストレイト』の旦那は拿捕されて拘束……歴史的大敗だっぜ」

「お、お前、お前、馬鹿か!なーに尻尾巻いて逃げ帰っておきながら他人事のように!そんなに我を憤死させたいか!」

「おいおい血圧管理はしっかりな議長?アンタも老い先長いわけじゃねえんだしさあ」

「それもそうであるな」

「切り替え早くねぇ!?」

「えーだって我アイツら嫌いだし。『スクランブル』と『ストレイト』なんかは敬老ってもんを知らん」

「『セカンド』は?」

「口調がウザい」

「結構俗っぽいなアンタ!登場したときのおこぞかな雰囲気はどうしたんだよ!?」

「ああ、あれは――初期のキャラであるな」

「出てきて五分でキャラ崩壊!?」

『議長』・アルテロイテ=エルフェンバイン。重ねて言うが、『楽園教導派』の首魁である。
愉快な会話が繰り広げられる傍で、『クラフト』はそっと摺り足でその場から立ち去った。

28 :名無しになりきれ:2010/03/08(月) 05:39:03 0
『皇帝』の策(?)により生き埋めの憂き目にあった『シャフト』と『クラフト』。
土砂の遮幕によって目の前から光が途絶える直前、その寸毫が如き致命の猶予で『クラフト』は異能を発動した。
<ペイントペイン>は目の前の光景とキャンバスの内容を同期する。降ってくる大地の瀑布は、塗り潰されたキャンバスと変わらない。
絵筆を手指の如く扱える彼女にとって、自分たちの周りに緊急の避難壕を穿つのは造作もないことであった。

「――とまあ、そんなこんなで命からがら逃げ延びてきましたとサ」

「ふむ、アルカナはヨコシマキメでの攻防戦で首領を含め主力の大半を失ったと聞いたが……まだそれだけの自力を残していたのであるな」

「弱い方のアルカナにも善戦されちまったし、俺ちゃん面目丸潰れだっぜ。あれ、あの嬢ちゃんは違ったっけな確か」

「それにしても、お前が初めからその錬議苑とやらに向かっておればここまでの被害は出なかったのではないか?」

「だーから、買い被りすぎだっての。攻撃能力じゃ『スマイリィ』のが上だし、知略もリーダーにゃ負けるぜ?速さは言わずもがな」

「よく言う。お前の異能は連中のものとはもともとの次元からして違っとろうが」

『楽園教導派』の用いる異能は基本的に『一属性への限定的支配』を素体としている。
例えば<マイルドボイルド>は物体の硬度属性を変動させ、<ギフトドメイン>は自分という属性を変容させる。
この『支配』が彼等の異能力を『セカイに対する管理権限』と呼称させる謂れとなっているのだが。

<フェイクブレイク>は、その枠組みから根本的に逸脱している。
『偽物を本物に変える能力』と言えば聴こえは単純であるものの、その原理術理は一兵卒が持つには過ぎた代物。
それを『シャフト』が賜っているという事実は、一つの結論へと疑問を導いていく。

「そもそも、何ゆえお前は『強襲部隊』なんぞに紛れ込んでおったのだ。ご丁寧に『シャフト』などと、偽りの変名まで作りおって」

すなわち、彼が一兵卒の範疇に存在しないという帰結。

「いやー、出世すっとダメだな、なかなか前線に出してくんねえんだもん。つーか俺、あんましあの名前好きくねーんだわ。合ってねえだろ、常考」

「何を言うか。『創造主』様に戴いた誉れ高き名前であるぞ。――まあ、壊滅的なネーミングセンスについては我も概ね同意であるが」

「だろー?異能にしたってほぼ駄洒落ってなんだよ。真面目なのか茶目っ気なのか反応に困るっつの」

『楽園教導派』は、異能を賜ったエージェント達の上に高位の幹部を有している。
彼等は一介の者とは格も段も次元も違う強力無比の異能とともに、聖書になぞらえた10の賜名から一つを与えられていた。

『シャフト』は偽名の更に偽名。彼の本質は高位幹部の中心に在ることであり、故に枢軸(シャフト)。
自他共に認める調和なき称号は『美』。象徴樹形図の真ん中に位置する、6番目の恭順者。


上位幹部『生命の樹(セフィロト)』・第6セフィラ――『真贋のティファレト』。


それが彼の真の賜名であり、職位である。

29 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 00:25:03 0
小賢しい。壁などで私の攻撃を防げると思ったのかしら?

(目前に迫り出すはコンクリートの壁。しかしそれを強引に切り崩す)

「壁」は守るためにある。ならばその意義を殺せばおのずと崩れる。私相手にこれを使ったのが運の尽きということ。

「それにしても、わざわざ剣の真名を教えて下さるとは親切なものですねぇ」

「あら?今し方壁を粉砕されたっていうのに随分余裕が御有りなのですね」

(男は空を掴んだ)

「《アルターブレード》」

投影魔術?それにしては奇抜なモーションに見えたけど。
むしろ触れたモノを変換してるんだから錬金術師?むしろ―――





30 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 00:26:51 0
―――面白い。

(対面するは刃の塊)

「錬金術師はまだ片手分しか殺したことがねェからなァ!」

(迫り来る、もとい自ら迫り行く鋼の剣山に対してアロンダイトを構える『死』)

構成材質、金属。毒性、無し。直撃の際の危険、失血死、運動能力の逓減、直後の物理的稼働の制限・・・・

(この間僅か数瞬。真空に吸い込まれながらも迫る刃の金属の結合を「殺」して自らの急所を避け続ける)

「ちッ、3本ってとこか」

(両の腕と右足に刺さる剣山の残骸。それを躊躇なく抜き去る戦闘用人格、その正体こそ『死』そのもの)

これの相手は「ヴィクトリア」には無理だ。

「それじゃあ今度はオレ様の相手をしてもらいましょうかね、錬金術師さんよォ」

(先程「ヴィクトリア」がアロンダイトを取り出した宙の裂け目。そこからさらに槍を取り出し両の手に得物を構える)

「さァて、オレのグングニールが全部貫いてやるぜェ!!」

(放たれるは必中の槍。その伝説、信憑性は如何程か)

31 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 02:18:48 0
錬議苑、14番の席に座る青年。
彼は、目の前で戦闘が繰り広げられている間も、余裕の表情で誰にも気付かれることなく座っていた。
公平の象徴である純白で、その全てを染めたケープ付きコートを纏う青年。
彼のコードネームは『節制』。公平を表すテンパランスである。
彼は今、「あるもの」を堅実に質実に純実に誠実に切実に着実に忠実に直実に篤実に欲しがっていた。
例えるなら、舞台に立つ脇役の役者。例えるなら、漫画のサブキャラクター。

(……嗚呼、出番がなかった)

そう、出番だ。出番なのだ。出番なのである。
会議でも発言する間もなく、戦闘でも戦う相手がすぐさまいなくなった。
伏兵探しにでも出かけようとしたらポーターが使えない。
ならば誰かと共同戦線でも張ろうか、などと思ってもそれぞれが敵を苦戦の様子も無く倒している。
『審判』なんて、やられたと思わせておいての高度な死んだフリで敵を外へと誘き出していた。
すれば自分が入る余地など何処にも無かった、と悟った。
そしてどうしたかといえば……せいぜいが自分の気配を『禁止』し、すっかり眠っている愚者と同様にただただ座っているだけだった。
余裕の表情であるのも、自身の負の感情が表に出ることを『禁止』したことの他ならない。
しかし、漸く苑での戦闘も終了した。ここで『節制』もまた、不動を終了した。

「やれやれ、そろそろ仕事でもしないとなあ」

そう呟き、扉の横で倒れ伏してガラクタよろしく目を回す兵士の前でしゃがみこむ。
優しげな少女が迎撃していたお陰か、大した怪我は無い。あったとしても打撲程度。
それを確認すると、コートと同じ色の山高帽を外し、体で渦巻く邪気を額に集結させる。
そして額の中央に刻まれた、醜い古傷のような一本線が開いて――第三の『眼』を露にした。

「『気絶の禁止』――起きろ下っ端。動けんだろ?」

パチィンと鳴らされた鋭い指の音は、『節制』の邪気を乗せて兵士の耳の中へと侵入し、身勝手に強引にその眠りを禁じた。
すぐさま兵士の瞼はこじ開けられ、視線は目の前の組織の幹部の三つの眼を捕らえ、同じように捕らえられた。

「は――はっ!?」

「ボンジョルノ。お目覚めして早速悪いがなあ、とっとと全滅した他の連中叩き起こして通常業務に戻ってくれ。質問は『禁止』だ」

明らかに年上の筈の兵士に、年下である『節制』が命令を下す。
受けた方の兵士はというと、瞳に確かな恐怖を湛えている。相手は組織の幹部、逆らえるわけがない、と。

「りょ、了解しましたッ!」

兵士が大量の畏怖と僅かな敬意を抱えて逃げるように苑から出て行く。

32 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 02:20:14 0
『節制』は見飽きたテレビ番組を眺めるように、溜息一つで見送った。

「はいお仕事終了。よし――」

すっくと立ち上がって、奇妙なオッドアイを端から端へと移らせる。
食人からいつしか帰ってきた『運命の輪』――漸く起きた『愚者』――依然として虚空に視線を飛ばす、新たな『魔術師』――。

ああそうだ、彼と話してみよう。愉快で一途で暑苦しい漢と。
ついでに、これをした時の反応も見ておきたい。
口元に笑みが広がった『節制』は、悪戯心と好奇心だけで次の禁止を紡ぐ。

「『余所見の禁止』」

効果の範囲指定は簡単、範囲を思い念じるだけ。
『節制』の思ったとおり、宇宙の彼方を見ていた男の首がぎ、ぎ、ぎとブリキの人形のそれで三つ目男の方へ向く。
真面目(シリアス)を愉快(コメディ)に変えてしまったが、きっと許してくれるさとオプティミズムに考える。
此方を見たのが確認できたらすぐさま効果を消して、自身では素敵に思っているウィンクで誤魔化しを図ってみる『節制』。

「チャオ。戦闘お疲れ様、新『魔術師』。見事で素敵で愉快な戦いを拝見させてもらったよ。流石は『吊られた男』に認められただけあるねえ。
 最後なんてホント見とれた。敵対する少女が消えんとする刹那に、自らの異能で助け出す。
 素晴らしい終演(ラスト)だったねえ……あの無粋な間抜けがなけりゃあ、の話だけどなあ。うん」

腕を組み、『魔術師』に言った筈の自身の言葉の味を噛み締め、何故だか一人納得して頷く。
そのまま2秒程経ってからはっと我に返り、自分の世界に浸っていた照れ隠しにと手に持ったままの帽子を後頭部に被り直した。

「……ああ違う、そんな話をするつもりじゃあないんだよなあ。世間話もいいけどねえ。
 俺が話したいのはそう――刺されたオンナノコのこと」

提示した話題を示すように、赤い瞳の前に細い人差し指を立てる。

「コンニチハ、ハロー、ニイハオ、ボンジュール、グーテンターク、ボンジョルノ、アッサラームアライクム、ナマステ。
 その子に話しかけるならどれがいいかなあ……なんて、別に今聞く気は無いけどさあ。
 彼女にちょいと聞きたいことがあるだけど、きちんと生かせているのかい?
 あえてだが、嫌な言い方すれば、彼女に奴さんらについて尋問したいんだけど――


 ――君は、きちんと生け捕りにしたのかよ?」

赤と青と、そして二つが合わさった紫の眼光が、それぞれ『魔術師』に突き刺さった。

33 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 12:44:23 0
「ふむぅ…」

ピアノは考えていた。
 マルクト
『王国』という呼び方 基礎 頭の中のデータベースを引き出して、まるで検索エンジンのように精密に目当ての情報を探し出す
   セ フィ ロ ト
「…『生命の樹』」
旧約聖書に登場するエデンの園に植えられた木の事だ
しかしそちらではない
「『枢機院』、か」

その存在は、カノッサ機関ですら知らない 否、知らされていないのだ。
『創造主』によって設立された二つの機関 カノッサと枢機院
しかしその性質は、時を経るごとに反発していく

力を追い求め、創造主の作った枷を外そうとするカノッサ機関
創造主に従順に従い、世界を変えるツールとなった枢機院

どちらが創造主にとって邪魔かは明白で
そして自らの所属する『オーケストラ』はカノッサの傘下

「こりゃ殺されるかもわからんね」

目の前の男は『基礎』と叫んでいた セフィロトで基礎、と言えば 第九のセフィラ"イェソド"だ
さらに『王国』とも叫んでいた、第十のセフィラは『王国』、"マルクト"だ
               マルクト
とすると、近くにもう一人その『王国』がいるはずだ いなければ叫ぶ必要もない、先ほど吹き飛ばされたあの青年が受けていた傷は、おそらく『王国』によるものだろう
かと言って目の前のガチムチ変態男をほっぽく訳にもいかない レイ一人で勝てるかな…
それほどセフィロトの面々は強い

「ねえセレネ様、どうすればいいかしら」

と聞いた先には誰もいない
耳に残るは彼女の残響

「そういうわけで、あたし、ケガする前に逃げちゃいます>< "Teleport Change" 」
「ええええええええええええ!?」

しかしよく考えれば当然だ、世界的アイドルセレネ様がこんな戦場に立つなんてまずあり得ない アチャー
さてどうしたものか 青年はもうおらず、セレネ様は逃げた

34 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 12:46:26 0

「ねえ、私の存在忘れてるの?ねえ」

ああ、頭にWissを乗せたままだった べ、別に中の人すら忘れてた訳じゃ無いんだからね!
しかしこの小人がまともな戦力になるとは思えない、というか私の頭から一歩も動いてないじゃんなにこいつ
しかし思考はそこで閉ざされる

「―っが!?」
「!?(ビクッ」

レイが文字通り吹っ飛んできたのだ
「レイ!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ろうとするが、そこで彼女が笑っているのに気づく

「はは、ははははは……
 ――せいぜい、楽しませてくれよ?馬鹿力君」

「………」
その目はこちらを見ていない まあ戦場で相手から注意をそらすなどあってはならないが 彼女の意識の中にピアノは存在していなかった

(邪魔したら、殺されるわね…)

今の彼女は戦闘狂だ、彼女の攻撃射程に入れば即座に切り捨てられそうな雰囲気がある


「…レイ、私はもう一人を捜してみるから 死なないでね」

そう呟くと、ピアノは走り出す
どう見ても死亡フラグです本当にありがとうございました。

35 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 23:46:36 0

冬将軍は戦う二人を暫くみていた。
正直言って、将軍にとっては、ロリとかぺドとか、変態とか、興味も糞も目聡くも五月蝿くも気持ち悪くも思わなかった。
何故かと言われれば、きっと「不要だから」ときっぱり言われるだろう。将軍は元来そういう存在であるから、致し方ない、と言うことを一つ覚えていてもらいたい。
さて、将軍は頭の中で『こいつらに聞いても絶対にいい情報は手に入らないのではないのか』という一つの結論を見出す。
非常に時間が惜しいため、二人のほうを少し見やりつつも、足音も立てずにその場を離れる。
少女の姿ではあまりスピードはでない、少女であるからに。仕方なく彼は宙に5センチほど浮いた状態で飛び回り始めた。そのほうが移動するのがとても速いからだ。風がいつも旅人の足より速いのと同じ通りである。
暫く校内の階段をあがったり、廊下を歩いたりしてみる。誰も彼には気がつかない。将軍とは元来そういうものだ。
そう、春の訪れが気がつかぬうちに来るように、冬もまた到来など誰も気がつかないのだ。将軍が意識して話しかけなければ、恐らく誰も気がつかない。気がついたら薬で頭がやられたか、子供ぐらいだろう。
…先ほど黒い人とすれ違ったような気がしたが、その人もまたなにも気がついていないだろう。
確かあれは先ほど戦ったような、と少し考えていたが、将軍はすぐに頭の外に追いやった。随分と気まぐれなのもまた、将軍であるからだ。


36 :名無しになりきれ:2010/03/09(火) 23:47:20 0
そのうちに将軍は独り言を漏らしはじめる。

「全く、僕としたことが話しかける相手を間違えてしまうとは全く持って失態だった。これでは『秋空』君にも笑われてしまうねぇ。
うん、いちばん笑われたくないのは『常夏』の野郎ですね。ああもう・・・私の敬愛する『庭師』様、はやく帰らせてください・・・私は花をみていたい」

ぶつぶつと呟くうちに、校舎の裏側まで飛んできてしまう。なんとなく、飛んできている訳ではない。・・・先ほどから妙な視線を感じていた。
人にしてはやけ鋭く、幽冥で。それでいて「威厳」を感じる視線だった。隠す気はあまり無いように思う。
将軍はようやく足をとめて、振り返る。

「・・・で、出て来たらどうなんだい?」

それを待っていたといわんばかりに木の陰から人が出てくる。
白い髪を上にお団子状に纏め上げ、瞳孔までが白い瞳。服装は洒落ていて、袖のフリフリは中世の貴族を思わせる。
この世で最も硬い鉱石(ダイアモンド)を惜しげもなくつかった杖が、がさ、と地面を叩く。

「お見事、といっておこう。ご機嫌麗しゅう。」

上から見たような物言いで丁寧にお辞儀をする。
冬将軍はそれが『誰からの』遣いであるか、すこし漏れた邪気の感触で判断することができた。
邪気を感触で判断する、というのは将軍ならではの芸当だ。
冬というのは大気によって訪れるものである、大気の隅の隅までが「彼の感触」が及ぶ範囲。それは邪気であるとて、例外ではない。

「君は・・・そうか、あの人の・・・敬愛者か」
「信者、といって頂きたいですね、『庭師』の華よ。」

冬将軍はさてどうするか、と下唇を舐めた。
目の前の真白の眼の人物はまたお辞儀をして、中性的な声で自己紹介を始める

「僕は『王冠(ケテル)』、思考を創造すること我に有、思考(冠)を弄ぶ事我に有。」


37 :名無しになりきれ:2010/03/11(木) 19:21:17 0
(秋葉原、中央通り沿いのとあるビルまで、たった数十mの距離)
(それだけの長さを歩くだけでも、一歩ごとに全身にヒビが入るような激しい痛みを鷹逸郎は味わわされていた)
(何処かの骨に損傷があるのだろう、そういう類の痛覚反応。ケンカに明け暮れた昔でさえ、ここまでの激痛は感じたことがなかった)

ってえ……! く、っそ……、どんだけ…馬鹿力なんだよ、あの野郎……ッ!!

(踏み出すたび、挫けそうになる。)
(人間に出力(ダセ)る力じゃない。その限度を大幅に逸脱している。まるで、戦車砲に生身の人間が立ち向かうようなものだ)
(そんなふざけた戦いの勝敗など、考えるにも値しない。火を見るより明らかとはこのことだろう。)

(今まで鷹逸郎が巡り遭ってきた強敵達も、確かに強かった)
(それでも、今回の敵は桁外れといっていい。正直、身体がミンチにならなかったのが奇跡とも思えるぐらいに)

(鷹逸郎には、「幸運」があった。)
(宿命的幸運。ヨコシマキメ遺跡でも、普通なら死んでいるであろう危機的状況で鷹逸郎は何度も救われてきた。)
(それをもってしても、これだけの痛みを代償に死地から脱するのがやっとということなのか。両者の差は、それほどまでに懸け離れているのか。)

(予感がしていた。)
(あいつの攻撃を後一度でもその身に受ければ、もう二度と立ち上がることはできないだろう、と。)
(先刻の一撃で生きているのが、そもそもこの上ない幸運だった。神の見えざる手に、あの死地から救い出してもらったようなものだ)

(彼女たちとは、出会って数分しか経ってない。口数だって、片手で数えられるほどしか交わしてない。)
(もしあのビルに残されているのが一生涯の大親友だったら、萎えかけた気力をなんとか振り絞る合理的な理由も構築できたのに)


(何故、自分は、バラバラになりそうな身体を引きずってまで、あの死地に戻ろうとしているのか。)
(せっかく逃げ出すことのできたこの「幸運」を自分からなげうってまで、彼女たちの力になろうとしているのか。)


(そんなの分かり切ったことだと、鷹逸郎は自分で嘲笑う)
(あの時。得体の知れぬ女に追い詰められ、背中を撃たれて隣のビルから転落した、あの時。)
(救ってもらったのだ。この一つしかない命を、彼女たちに。見も知りもしない相手である、この結城鷹逸郎という人間を。)

ッ、ハアッ、ハア、……待ってろよ……!

(簡単な話だ。)                               バ カ
(命の恩人を、見捨てるような真似はできない。結城鷹逸郎という<愚者>は、それを赦せはしない。)
(ただ、それだけの話だった。)


38 :名無しになりきれ:2010/03/11(木) 19:22:21 0

(鷹逸郎が再び辿り着いた時、ビル前はすでに野次馬の大群でごった返していた)
(ビルの壁が突然破砕し、その瓦礫の一部が歩道に落下、ぽっかり空いた穴から叫び声とあっては、それも致し方ないことかもしれない)
(こういう事態には、いち早く嗅ぎ付ける。そういう嗅覚に長けた人間が多くいるのがこの街だと、鷹逸郎は認識している)

(ひとまず近くの街路樹の後ろに身を隠す)
(今のこの悲惨な姿を見られると、少し厄介なことになる気がしたからだ)

くっそ、参ったな……。

(一同に集まった人の面前で、好奇の的であるまさにそのビルに入ると、後々面倒な目に遭うような気がする)
(これだけの騒ぎなら間もなく警察も駆けつけるだろう。その時の聞き込みで、まずやり玉に挙げられることは恐らく間違いない)
(ましてやローブに血痕と、悪い意味で人目に付く服装なのだ。いくら秋葉原とはいえ、これを「コスプレ」とごまかせるほど平和ボケしていない)

(何とか人目に付かないように入れないかな……。一階の窓を叩き割って、そこから侵入するか?
……その瞬間に音でバレるな。じゃあ裏口……へ通じる路地は、人混みに遮られて通行止め……どうしろってんだよ、クソ!)

(どうにもならない八方塞がりの状況を嘆いていると、)

……あれは…?

(ビルの前に集まっていた人混みが、内側から分解しはじめた。)
(上がるどよめき。最後の層である人の群れを破ったのは、たったさっき見たばかりの少女の顔……)
(名前は聞いていないが、確かレイに詰め寄られている時にへたり込んでいた少女だ。)

(レイは伴っていない。恐らくレイは、あの襲撃者と今まさに戦っている最中なのだろう。)
(ということは、少女はそこを抜け出してきたということなのか。見た感じ、彼女とレイは親しい仲のように思えたのだが。)

(そんな少女が、まさかレイを見捨てて一人逃げ出すわけもない。)
(鷹逸郎がいなくなったあのビルの中で、一体何が起こったのだろう。鷹逸郎は、駈け出す少女に街路樹の影から話しかけた。)

おい、…どうしたんだ? 一体……。


39 :名無しになりきれ:2010/03/12(金) 19:47:37 0
人間と違って人形は、傷を癒すのに消毒して包帯巻いてハイ終わりというわけにはいかない。
便利な回復魔法も効かなければ、魔導駆動の干渉を防ぐため損壊修復の術式も十全には行使できない。
裂傷があれば特殊なパテで埋め、亀裂が走れば周囲ごと削り取って補填材を詰める。
間接が砕けていれば新たな部品を用意し、表面の掠り傷は樹脂粉を掏り込んで皮膜を作る。

損傷の修繕に主人の手を煩わせざるを得ないのが人形という身分の唯一の難点であり、
同時に至上の幸福だとマリーは認識している。

「……随分と手酷くやられたね。駆動中枢が無傷なのが奇跡と言っていいくらいだよ?」

固定と保護のためのマスキングテープを人形の頬から剥がしながら、『吊られた男』は苦笑する。
久方ぶりの外気に触れた人工皮膚を指で撫ぜられ、くすぐったさにマリーは肩を竦めた。

「恐らくあれが十全ではなかったのでしょう。『シャフト』の異能は虚構の真実化。その気になれば、
 『私を破壊する』旨の虚言を現実に変えて勝負は決していたはずです。荒唐無稽にも程がある能力ですわ」

「そんな御仁と相対して生き残るどころか一矢報いた君も大したものだよ?確かにあのジャージ君からは
 『皇帝』君と同じものを感じたね。なんというかこう、強さの代償に色々と失っちゃってる感じが。――主に知性的な意味で」

「おいィ?」

「あの方は生まれて来るべき種を間違えられましたわ。――猿に産まれていたら天才でしたのに」

「おおいいィ!?」

「ははは、言うねマリー。それじゃ彼の素晴らしい転移能力が持ち腐れじゃないか。せいぜい遠くの餌を労せず得たり、
 好みの雌の後をどこまでも追いかけることぐらいしか――惜しむらくは、今もやってることは対して変わってないことだね?」

「おいィィィィィィィィィィィ――ッ!!??」

「あら、『皇帝』様。そんなところで何を咆哮してらっしゃりますの?というかいらっしゃったんですのね」

「ずっといたよ!?お前らが二人で異種間キャッキャウフフの最中もずうっと傍にいましたよ!?蚊帳の外だったけど!」

「蚊帳の外。自身を羽虫扱いとは恐れ入る卑下根性だね『皇帝』君。もっと自分に自信を持ってもいいと思うよ?」

「俺はお前という人間が信じられねえよ……」

「あら嫌ですわお仲間を信用なさらないなんて。信じられぬと嘆くよりも信じて傷付くほうが良いむしろ快感
 ああ!靴で!靴で!と高名な詩人も仰っておられますでしょうに」

「色々と見失いすぎだろその詩人。じゃあお前らも俺のこと信じろよそして傷付けよな!えーと……借金の保証人になってくれ」

「お断りしますわ」

「即答!?ちゃんと信じろよ!!」

「ははは『皇帝』君つまりこういうことだよ。『信じると言う僕らを信じて君は傷付いた』。なんらおかしなことはないね?」

「逆手にとりやがっただと!?こいつら、できる……!

40 :名無しになりきれ:2010/03/12(金) 19:48:51 0
「もー怒った。これは天誅を下すレベルだ正義は俺にあんぞこの野朗。俺にも良心はあるからこの手は使いたくなかったがなあ、
 ――おおっと、こんなところに毒舌人形の秘蔵の日記帳が!朗読すんぞ地の底から響き渡る大音声で朗読すんぞ」

「え、うそ、なんでそんなところに、ちゃんとしまっておいt――て、転移能力ですのね!?なんて無駄で傍迷惑な才能ですの!
 今すぐお返し下さい今ならまだ赦して差し上げますほらそこに置いて一秒だけ待ちますからあとは命の保証もs」

「うおお、なんだこの思春期の女子中学生みてえな紙面は。暇な授業中に懲りすぎたノートを彷彿とさせるぜェ。
 無駄にイラストとか付けたりな。シールとかマーカーとかでごちゃごちゃになったりして。お、ぶはは、ポエム、ポエム書いてある!
 おいおいマジかよ3歳だろお前、マセてるにもほどがあるあるなになに、題名『私のd――」

「クレイン様!あの男を!あの男を地上から消す許可を下さい!一瞬の猶予もなく葬り去ってご覧に入れましょう!!」

「ははは、どんな内容なんだろうね?」

「クレイン様ぁ〜〜〜〜〜!」

「ああん?『吊られた男』ォ、お前他人事みてーに構えてるけどな。こいつを見ろ!今しがたお前の部屋から『持って』きた秘蔵のDVD!
 『けいらん!〜1パック98円〜 限定版』!!噂じゃ絶版で二度と出回らないのをヤフオクで連続72時間粘って落としたらしいじゃねえか?」

「ははは、『皇帝』君。――表へ出ようか」

(クレイン様が怒ってらっしゃる……!笑顔のままですがかつてないほどに眉間に皺が、ああ!三本!四本!!は、初めて見ましたわ……!!)

「っと、アホなことやってる場合じゃねえな。いい加減戻らねえと、『審判』の奴も片付けたみてえだし」

日記帳とDVDを傍の机へ滑らせると、『皇帝』はくるりと踵を返した。その瞬間飛んでくる楔と糸を首だけを動かして躱しながら、
『吊られた男』の私室から廊下へ繋がるドアノブに手をかけた。そのまま勢いよく開け放つと、破壊され尽した回廊が目に飛び込んで、こない。
ドアから先が直接錬議苑へと繋がっていた。『皇帝』の空間歪曲術式である。

「よお、俺達の凱旋だ。んん?歓待の声が聞こえねえな、おいおい互いの無事を喜び合う系の祝儀はどうした――って、取り込み中か?」

ドアの傍で立ち止まっている『皇帝』の尻を蹴り、退かしてマリーと『吊られた男』も続く。
最後尾が錬議苑の床を踏んだ途端、虚空に出現していたドアは霞となって消失した。

「おや、『節制』君じゃないか。暫く見かけないと思ったらいつの間に出てきたんだい?」

円卓の中央で『魔術師』と対峙する人影に覚えがあった。アルカナ二十二柱が一人、『節制』。
会議の際には確かに存在していたのを知っているが、侵入者達との迎撃戦が始まってからははたと姿を見せていなかった男だ。

「それよりも私は『節制』様が相対なされているあの少女を抱えた筋肉男が何なのか分かりかねますわ。侵入者の残党ですの?」

「女の子の方はそうだね。筋肉の方は新しい『魔術師』君だよ。どうやら先の攻防であの女の子を篭絡したらしい。なかなか隅におけないね?」

剣呑な雰囲気。無論『吊られた男』は助け舟など出すつもりもなく、円卓に自分の椅子が健在なのを認めると構わず着席した。
他の者に事情の説明を求めようとも考えたが、よく考えたらまともに話したことのある連中は数えるほどしかいないことを思い出した。
誰とでも馴れ馴れしい『皇帝』、出身が同じ『太陽』、よく突っかかってくる『審判』。
いずれもこの場にいないか、事情を聞ける立ち位置にいないかばかりだった。

(いやはや、試験範囲を聞き逃したぼっち学生の気分だね?つくづく人間関係は資本だよ)

せめて今からでも話題に送れないようにと、傾聴の姿勢をとる。

41 :名無しになりきれ:2010/03/13(土) 17:26:58 0

「せいぜい、だと? ハッ!そりゃこっちのセリフだ!!
 せいぜい神にでも祈って、少しくらい耐えてくれよ!こちとら暇なんでなァ!」

男はまた戦爪を轟、と振るう、その度に砂塵が舞い、瓦礫が崩れた

「ま、そんな神なんざ俺が叩きつぶしてやるけどなァ!
 俺は!『生命の樹』、第九のセフィラ『イェソド』だ! 神に抗う権利を、俺は持つ!」

狂ったように叫ぶ それは『世界の選択』を倒した事による過信か、酔狂か
しかしそれでも、この男は相当の実力者だった。
だからこそ、彼女は笑っていた。

「素晴らしい自己紹介をありがとう それならば私も言わなくてはな、私は―――」
「わざわざ殺す奴を覚える馬鹿がいるかァ!?名乗るのは勝者だけでいい!敗者は、地獄でその名を死ぬまで覚えてりゃあいいんだよ!!!」

「………そうか」

彼女はそれ以上追求しない
黒い髪をさらり、と揺らし 彼女は漆黒の刃を構える 心の底から喜ぶ子供のように、刀は振るえる
それに共鳴するように、彼女の心もゾクゾクとした悦がこみ上げる



あぁ、私は倒錯れているな



自然と頭に浮かんだ言葉、それが風船や、しゃぼん玉のように パチリ と消えた瞬間
足が、地を蹴った。

「はぁっ――!」

右から左へ、一閃

「夜刀【狼牙】!」

生み出された斬撃は、鋸のようにギザギザとした刃
当たれば肉を割き、引きちぎる猛獣の武器

「ほう、おもしれェ能力だな」

イェソドは慌てる素振りも見せず、爪を構えて腰を落とす

「殺ァっっっ!!」

両腕を交差させるように大きく振り払う 発生するのは、衝撃波
波が波を打ち消すように、漆黒の斬撃と衝撃波が炸裂し、相殺を起こす
しかしレイの進撃は止まらない 巻き上がる砂塵、視界を潰す煙を抜け、イェソドの懐へと潜り込む


42 :名無しになりきれ:2010/03/13(土) 17:34:25 0

「せいっ!」

下から突き上げるように一撃、しかし弾かれる
しかしそのまま勢いを保ったまま左手を添えて刺突、これも弾かれる
斬撃、弾く、刺突、弾く、斬撃、弾く、さらに斬撃…………

永遠に続きそうな連続攻撃、イェソドはそれを手際よく弾いていく 反撃をしてこないのは、その攻撃の早さ故だった
神速、そう形容すべきだろう、弾いても弾いても その体制を一向に崩すことなく、最小の動きで次の一撃へと回る

「どうした!?その程度かァ!?」

イェソドは涼しい顔でその超高速の連撃を弾いていく

「その割には反撃が無いようだが?」

同じく涼しい顔で止めどない攻撃を続けるレイ
放っておけば本当に終わることなくこの攻防が続きそうな勢いである
しかし変化の無い物事などありはせず、また変化のない物事に変化を加えるのは人間の宿命のようなもの
その変化の一筆は、レイが入れた

43 :名無しになりきれ:2010/03/13(土) 17:35:19 0
「…抜けっ!」

仕掛けるのは"変速" 剣を振るう速度を不規則にし相手を混乱させる技だ、これも世界的に広く存在する剣技の一種である
ここまで来れば分かると思うが、彼女の技は多くが世界に広まる武術の技の流用であったり発展系であったりする
世界を旅し見て来た武術剣術技術、それらを溜め込み、彼女は自分の戦い方にあった独自の剣法を創ったのだ

「ああ鬱陶しいんだよてめェ!!」

変速によって崩れだしたイェソドの防御 だが、元々長くは無かった彼の忍耐が限界を超えた
そのまま後ろに身を乗り出す、そこには先ほど鷹逸郎青年が落ちてきた廃ビルの壁があり 鈍く銀に輝く爪が深々と刺さる

「瓦礫にでも埋まってなァ!!!」

「…っな!?」
    ・・・・・・・・
そのままビルを持ち上げたのだ
メキメキという音をたてビルの根幹部分が崩れていく

「ぬらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そして腕を引き、自分たちのいる電気店のビルと廃ビルを文字通り"衝突"させた
とてつもない衝撃にビルそのものが傾ぐ、天井にヒビが入り、崩落を始める

「馬鹿かこいつはっ…!」

周囲に野次馬、もとい民間人がいるというのに、この攻撃はまずい、まずすぎる
しかし彼女は崩落に巻き込まれないようにするだけで精一杯だ 仮に余裕があったとしても、何をすべきか分からなかっただろう
それはコミュニケーション能力を欠いた、彼女の弱点でもあった

44 :名無しになりきれ:2010/03/14(日) 04:39:00 0
蒸発した地面から登る陽炎の向こう、生命の存在し得ない領域に影が宿る。

「あー全くだねおねーさん。オーバーキルにも程があるよ程が」

影は明確な輪郭を得、やがて実像となってステラの眼前へと姿を表した。
『コンフィング』。まったくの不意打ちを見事に看破し回避に成功した賢しき襲撃者は、再び重力を無視して跳躍する。

「だけど「遅い」ね。徹底的に遅い。ヒーローは変身時に敵の攻撃を受けないけど、生憎おねーさんはスーパーマンでもなんでもないんだよ───」

「この世界に!そんな『まとも』な戦いなんて存在しないよ。断じて――!!」

『コンフィング』が取り出し上空よりばら巻いたのは、細く小さな――爪楊枝。
たとえ重力加速度がつこうが当たって痛いものではない。無論そんな『常識的な』判断をステラはしない。
あちらには異能者が二人。爪楊枝に全てを断つ『切れ味』を付与することも、先刻の木の葉時雨のような『重さ』を与えることもできる。

(とりあえず落ちてくる速度は普通、『重さ』は無し。『リッパートリッパー』で来ると見た――!)

ならば、ここは回避に専念すべきだろう。ばら撒かれている以上、全ての楊枝の側面を正確に穿ち切ることは不可能。
そもそも『どこ』に切れ味があるか判断に難い。『プロブレム』の攻撃は愚直なまでの剛切断だったが、この敵は、賢しい。
ばら撒かれた楊枝は『誘い』と見て良いだろう。迎撃という行動そのものに罠を仕掛けられている公算が高い。

(ギリギリまで引きつけて後方に退避、そこから『コンフィング』にレーザー。空中なら避けられない……!!)

極小の刃が降ってくる。邪気を放出して体を覆い、そこに楊枝が触れた瞬間を知覚する。

――来た!

コンマ単位での情報伝達は速やかに行われ、ステラは後方への推進力を足から地面へ蹴り送る。
ステラは"早く"はないが"速い"。前もって準備しておいた挙動を実行するのに、瞬きは必要ない。
体重移動は正確に完了し、体躯は高速のバックステップを――

後退は大気を伴ない。

発生した風が『不自然なまでに爪楊枝を巻き込み』。

ステップを完了したステラの元へ襲いかかった。

「――っが、あああああああああああああああッッ!!」

視界が紅で埋め尽くされる。鮮血が顔面の半分を占め、地面に点々と血溜まりを作る。
視野が半分、左がレッドアウト。眼球を刺すような痛みは、事実眼球が刺されていることを如実に示してくれる。


――左目が、潰されていた。

45 :名無しになりきれ:2010/03/14(日) 05:58:44 0
左顔面を抑えるも、そこから流出する血と硝子体を止められない。
激痛に耐えようやく刺さっていた爪楊枝を引き抜き、放り捨てる。

(なん、で……!)

答えは至極単純。『誘い』と認識させることもまた、『誘い』であったということ。
無論どの段階でも十分な殺傷は可能だったろうが、十重二十重に仕掛けてあった罠を見極めきれなかった。
そう。二つある異能の『どちらか』でしか攻撃してこないなどという保証があるわけがないのだ。

(どこかで麻痺してた……『組織的な殲滅』の意味!)

個を殺して群を活かす。効率的な組み合わせで、合理的に殺る。我の強い邪気眼使いには露とも出てこない発想だ。
『リッパトリッパー』によって殺傷力を得た爪楊枝は、『コンフィング』の異能によって機動力を得る。
触れるだけで切れるなら、重さはいらないから。そう、移動の際に起こる微風にすら漂う羽根の如き軽槍は、

――ひとりでに追尾し、追撃する。

ステラ=トワイライトは故人であり、その肉体は死亡当時の姿のままである。
かつての首魁、『世界』が残した遺失再現の能力『創世眼』の残滓は今もステラの中にあり、生前の姿を維持するよう働きかけていた。
その本質は肉体の不可逆的セーブ&ロード。『セーブ』された肉体情報を連続的にロードすることで姿を保っている。
だから極論を言えば、腕がもげようとも眼が潰れようとも、命さえ落とさなければ元通りに再生するのだ。

(それでも、再生には欠損規模に応じた時間が必要。いますぐに潰れた眼球を取り戻すことは不可能……!)

ステラの邪気眼は一対でようやく十全に性能を発揮する。
『暁光眼』の超火力は、左右両方の眼で事象支配と現象演算を分担することではじめて実現されるそれである。
隻眼の彼女に、遍く全ての光を律する能力は、無い。

(残ったのは申し訳程度の陽光操作能力。相手は未だ十全の策略を持ってきてわたしを殺しに来てる)

――詰んだか。

胸中を席捲する最悪の想像を、噛み殺し、噛み潰し、噛み砕き、立ち上がる。

「そんな怯えは、もういらないッッ――!!」

片手落ちでも、やるしかない。
時間を稼ぐような猶予は与えてくれないだろう。地面へ帰還した『コンフィング』は既に追撃への大勢を整えている。
半分以下の火力で、どうにか凌ぎ切る。そこから逃げるなり、逆転の算段をすればいい。

指で銃を作り、『コンフィング』へ向ける。

「――『フォトンレーザー』!」

指先を起点とした収斂光条が大気を貫いて敵へ迸る。
同時にステラは屈折光で敵方を伺いながら、レーザーとは逆の方向へ走り出した。

向かう先は南。人影のない研究棟である。

46 :名無しになりきれ:2010/03/14(日) 10:42:20 0
「おおっと、ロリとペドを一絡げにしてもらっちゃ困るぞ姉さん!?両者の定義に多説はあれど、その根底にある概念は共通しているッ!
 ロリコンとペドフィリア分かつ分水嶺はすなわち『性欲の有無』!例えどれほど幼女が好きでも俺はプラトニックに生きる所存であるからして――」
「うっさい黙れそして散れ!死体を性的にひん剥こうとした奴に同情の余地なんてあるかあっ!」

ウィップがしなりを上げ、一歩、また一歩とヨシノを追い詰めてゆく。
このまま2、3発しばけば正気に戻るでしょ、とアスラはこの状況を打破する前向きな算段を立てた。

その時、後ろから妙な音が立つ。

ぶちり。
髪の毛を引きちぎったような音を聞き振り向くと、全裸の幼女がやっぱり長い金髪を引きちぎっていた。

「……え?」

異常な光景は止まらない。幼女は指ででくるりと円を描き、その髪の毛を空中で瞬時にして純白のワンピースに変えた。

「………あらら」

異能、邪気眼、裏の者。
それらは全て、平和な日常と表裏一体の場所で行われる決して交わるはずの無いもの。

「……大学内じゃあ、異能の力を目にする事自体珍しいと思ったんだけどな」

ヨコシマキメ発現以来、【日常の中での非日常】への接触率がやたら上がっている気がする。
あるいは────異能が増えてきているのだろうか、とアスラは思考した。

(…でもまあ、面倒くさいから考えるのやーめたっと)

改めて現在の最重要事項、すなわちロリコン男への捕縛に目を向ける。
ウィップの疾る先には、まるで意識が飛んだように膝をつく男の姿があった。

(…?体力切れ…はさっきまでのアイツからしてありえないとして…持病の発作でも起きたのかしら?)

そこから考えられる事は二つ。一つは本当に体に何かしらの変調が起こっていること、もう一つはブービートラップ。
後者の可能性を危惧して一応ウィップで防壁を張りながら、アスラはしばらくその男の様子を観察した。

一分ほどだろうか。ヨシノがゆらり、と立ち上がる。
どこか賢者にも似たすがすがしい顔をして、ヨシノは【ここにいない誰か】に語りかけた。


「……ふう。『デバイス』と言ったな。君の敗因はただ一つ。――君が幼女で、俺が俺だったことだ」



47 :名無しになりきれ:2010/03/14(日) 10:43:28 0
(幼女の妖精───っ!?)

見えている。奴には見えているのだ。
その視線の先の虚空に、『デバイス』と名乗る幼女の姿が。

どうしてこうなった、そんな事は神にだって分かりはしない。
ただ一つ分かる事は、ついにヨシノが妖精の見える男に「成って」しまった、という事だ。

後ろを振り向けば、ワンピースの少女は既に遁走している。
アスラはホッと胸をなでおろし、こちらへ歩み寄る「妖精の見える男」に対しいつでも仕掛けられる状態で構えた。

「すまんな姉さん。どうやら俺は俺を違えて認識していたらしい。だが問題ない、たった今正しく理解出来たよ。やっぱり俺は────」

ヨシノの歩く靴音が妙に高く響く。
ゆっくりと、まるで平時のようにこちらへ歩み寄るその青年を見て──アスラは数歩、後ずさりした。

両手を広げ、彼はまるで神の意思を伝えんが如くに宣言する。


「────ロリペドだ」


かちゃり。
ヨシノの眉間に、冷たい鉄の感触が走った。

「大丈夫。ヨシノあなた疲れているのよ」

引金を引く。銃口から飛び出るのは実弾ではなく、殺傷能力を抑えたゴム弾。
とはいえここから至近距離でぶっ放せば相当のダメージを受けるのは必然。当然、ヨシノは後方へ吹っ飛ばされた。

地面へと激突したヨシノへ一瞬で距離を詰め、両手首をとって捻り上げる。
後ろ手に手を回すと、そこへ懐から取り出した手錠をかけた。

がちゃん、という金属音と、重く、冷たい感触が伝わる。


「さて、救急車呼ばなくちゃ…」

携帯を取り出す修道女。
その窓の外からは懐かしい顔が更なる厄介事を引き連れてやってきたりしているのだが───今の彼女には、知るよしも無かった。

48 :名無しになりきれ:2010/03/15(月) 18:25:05 0
なんてハードルの高いスレなんだ…

49 :名無しになりきれ:2010/03/15(月) 20:54:51 0
《あやつ…監視の意味を分かっておるのかのう…?》

比較的落ち着いた風景の学長室、布兵庵竜蹄はやれやれという風に息をついた。

防犯の名目で大学の各所に設置されたカメラの映像は全てこの部屋に集められており、
それにより竜蹄はステラと接触した「管理役」アリス=シェイドの様子を逐一監視する事が出来た。
ステラの動向を探るだけならこのカメラ一つで用は済む。ならば何故管理役を付かせたか?
それはステラ=トワイライトを狙う「楽園教導派」が現れた際に隠密に殲滅して頂くからであり、ステラの邪気眼を観察させるためでは断じてない。

《…儂の予想が正に的中した、この状況下で増援を送れ…と?それが貴様の仕事じゃろうに…つくづく知能と知恵は別物じゃわい…》

静かに呟き、一応ステラとシェイドの近辺に結界を張る。

事の成り行きを見守らんとして再びカメラに目を落とすと、ふと、左端に白衣の女子を抱えて全力疾走する男が目に入った。

老眼が進行したかのう、と目をゴシゴシ擦り、老人は再び画面に目を移す。
画面は既に別のカメラに切り替わっており、三千院家の執事が執事服で堂々と乗り込んでくる姿を捉えた。

しばらくの絶句。そして、大きな溜め息。

《あーあーあ。儂は何も見てないぞーい》

竜蹄はこの豊かな平和の裏側で死闘が繰り広げてるなどつゆ知らぬ学生たちの様子をひときしり眺めて現実逃避をした。

モニターが切り替わり、今度は別の戦闘…研究棟裏で管理役の一人トリス・メギストスが、
先ほど学長自身が指示を下した「アンジェラ・ベネットの抹殺」を速やかに執行せんとしているところだった。

《……ん?》

眺める竜蹄ははて、と小首を傾げる。
確かにトリスが戦う女性は紛れもなく「アンジェラ=ベネット」であろうが────

50 :名無しになりきれ:2010/03/15(月) 20:56:52 0

《あれは……魔術か?》

アンジェラ=ベネットの抹殺の理由は「大学について知りすぎた為」であり、彼女自身は基本的には無能力者であるはず。
少し臭うのう──と静かに呟き、竜蹄は交戦中のトリスへ指示を飛ばした。

《トリス、殺しは待て。その女、何か裏があるように見える》
《そうじゃのう…捕縛した後、尋問などを掛けてくれ。バックに何かしらの組織がついている可能性があるから、そのあたりを探っておくれ》

くれぐれも逃がさぬようにの、と、竜蹄は通信を打ち切った。



威厳のある大きな皮椅子に深く腰掛け、やれやれ、という風に呟く。

《……どうやら…安寧の凪を狂わす風が吹き始めたようじゃのう…》
《儂も…少しは動くかの。あくまで老いぼれの範疇で、な…》

全くもって面倒なことじゃ──と呟き、竜蹄は机に仕込まれたキーボードをカタカタと片手で打ち込み始めた。

51 :名無しになりきれ:2010/03/16(火) 21:30:34 0
「はいどいて、どいて 死にたくなかったら離れた方がいいわよー」

ピアノは人ごみをかき分けかき分け道路へと出て行く
あれだけ派手にやらかしたのだ、人が集まらない方が不自然だろう ざわざわごみごみとした大人達の中を、小柄な少女はスタスタと通り抜けていく
大人達はピアノを見ると脇にそれたりじろじろと見ながら道を空けたりする
自慢では無いが、顔立ちはいい方だと思う、スタイルの事は言ったら殺す

実際には若葉色のマントを羽織った明らかに異質な少女が問題のビルから出てきたから避けられているだけなのだが、ピアノはそんな事気にしない

「ふう」

やっと人ごみを抜けられた。マントを今一度まき直すと

「おい、…どうしたんだ? 一体……。」

声を掛けられた しかもつい最近聞いた声

「……生きてたの」
                                  マスターピース
そこには、ボロボロになりながらもピンピンした青年が 確かイェソドは"世界の選択"って呼んでたっけ…て事は

「結城、鷹逸郎さんね? あ、驚かなくてもいいよ 私はカノッサの傘下機関、『オーケストラ』に属してるピアノ
 情報収集を主にやってるのね だからあなたの名前は知ってる、まあそれだけなんだけど」

「どうした、って聞いたわね 産業で答えるわ
 レイが一人で戦ってる
 邪魔しない方が良さそうだから外に出た
 敵はもう一人、あなたを襲った人がいるからついでにそっちを探しにきた」

「これで十分?じゃ、私は忙しいから」

相変わらず男には冷たいピアノ、ろくに挨拶もしないまま鷹逸郎の脇を通り過ぎていく

(…しかし探すって言っても、この人じゃあ難しいわね……)
辺りを見回せば人、人、人 特にビルの周りが酷い これでは格好の潜伏場所だ、相手の姿も知らないのに
(ま、とりあえず異様な人を探してみましょ)

52 :名無しになりきれ:2010/03/16(火) 21:31:56 0
と思った矢先

「ぬらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

響く怒声、崩壊音、揺れる地面

「!?」

慌てて振り向けば、レイのいるビルとその隣の廃ビルがぶつかり合い、ガラガラと崩れ始めているではないか

「ッレイ!」

叫びは周囲の叫声と怒号によってかき消される、慌てて近寄ろうとするが 逃げようとする人の波に飲まれそれどころではない
そしてそんな中見る

自分とは対照的な銀色の髪、左腕に十字架のエンブレムのついた黒のジャケット、さながら機動隊が着込むようなものだ
そして、その手には拳銃
何より、この騒ぎの中あまりにも平然としたその異様さは目を引いた

「…見つけたっ!」
         マルクト
あれが十中八九、『王国』だろう 崩壊の止まないビルをじっと眺め、何かブツブツと呟いている

「…レイは、大丈夫よね」

今すべき事、ピアノはそれを確認するとゆっくりと、銀の髪の女性に近づいていく

53 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:06:10 0
「『余所見の禁止』」

視野の範疇外から耳孔に滑り込んだ声と共に、『魔術師』の首から上が緩い邪気に包まれた。
だが既に精も根も、ついでに邪気も殆ど尽きた彼では、その邪気に抗う事は叶わない。
油の切れたゼンマイ仕掛け宛らの挙動で、彼の首は彼の管理から逸脱して回っていく。

強制された視線の先には、何やら時代錯誤的な服飾感性の男が一人。
大アルカナの一人、『節制』である。
彼は『魔術師』と目が合うや否や、何やら不可思議なウィンクと共に口を開いた。

「チャオ。戦闘お疲れ様、新『魔術師』。見事で素敵で愉快な戦いを拝見させてもらったよ。流石は『吊られた男』に認められただけあるねえ。
 最後なんてホント見とれた。敵対する少女が消えんとする刹那に、自らの異能で助け出す。
 素晴らしい終演(ラスト)だったねえ……あの無粋な間抜けがなけりゃあ、の話だけどなあ。うん」

腕組みをして大仰に頷き、完全に自分の世界へとトリップしながら、『節制』は語る。
満足げに納得の仕草を見せてから漸く、彼は自分が軽度の暴走をしていたと気が付いたらしい。
盛大な置いてけぼりを食わされ目を丸くした『魔術師』の視線を遮るように。
『節制』は手にしたままだった帽子を被り直した。

「……ああ違う、そんな話をするつもりじゃあないんだよなあ。世間話もいいけどねえ。
 俺が話したいのはそう――刺されたオンナノコのこと」

かくして本題が切り出される。
『節制』の華奢な人差し指が指し示すのは、『魔術師』の腕の内で眠る少女。

「コンニチハ、ハロー、ニイハオ、ボンジュール、グーテンターク、ボンジョルノ、アッサラームアライクム、ナマステ。
 その子に話しかけるならどれがいいかなあ……なんて、別に今聞く気は無いけどさあ。
 彼女にちょいと聞きたいことがあるだけど、きちんと生かせているのかい?
 あえてだが、嫌な言い方すれば、彼女に奴さんらについて尋問したいんだけど――


 ――君は、きちんと生け捕りにしたのかよ?」

冗長とも取れる台詞を一息に吐き出して、『節制』は先鋭な目付きで『魔術師』を貫いた。
底知れぬ気迫を帯びた紅碧の眼光に射抜かれ、『魔術師』の背筋に悪寒が走る。
脊椎を残らず氷の模造品に挿げ替えられた。
そんな錯覚さえ植え付けられる視線に、けれども『魔術師』も負けじと『節制』を睨み返す。

「そのような言い草は……感心出来ませんな」

大気が剣呑の気配に毒されて痺れを孕み、無言の眼光が暫し交錯する。
しかし熾烈な光景とは裏腹に、『魔術師』の内心は怯えと混乱で支配されていた。
生来より闘争に適した気性を持ち合わせてこなかった彼にとって。
このように誰かを真っ向から否定すると言うのは、それだけで心臓が早鐘へと変貌させてしまう程の事態であった。

54 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:07:20 0
威勢よく大見得を切ったはいいが、この先一体どうすればいいのか。
冷や汗の滝を辛うじて胸中に押し込めながら『魔術師』が思案していると、不意に苑の虚空から扉が兆した。
そうして差もなさげに苑の床を踏んだ『皇帝』の二人が、外部より帰還した旨を告げる。
続いて少女の人形と『吊られた男』も同じく扉を潜り抜けた。

魔術師の表情に微かに喜色が灯る。
運良く事が運べば助け舟が、少なくとも現状の打破には繋がるだろうと。
しかし彼の期待に反して、あまつさえ『吊られた男』は傍らの人形に余計な事を吹き込んで、
そのまま己の席へと戻り腰を下ろしてしまった。
結局彼らが帰還して起きた変化と言えば、『魔術師』に注がれる視線が新たに一つ。
好奇を多分に含有する退廃的なそれが増えたくらいである。

いよいよもって、『魔術師』は進退窮まった。
この場にいる誰からも、救いの手が差し伸べられる事は期待出来ない。
だからと言ってこのまま『節制』と延々睨み合いを続けると言うのも不毛極まりない話だ。
と言うより寧ろ『魔術師』の胃壁がまず耐え切れず、蜂の巣宛らに成り果てるに違いない。

ともあれ精神面において限界を迎えた彼は震えながら、睨み合いの僅かな時間に回復した邪気を用い、

「……だぁああああ! まどろっこしいなあ畜生! つーかテメエ! もうちょい言い方ってモンを考えやがれ!」

――人格を『一転』させ、逃走を果たした。
丁度過去において、荒事の際には決まって彼が『彼』の背後に隠れていた頃のように。
ともあれ、突然の変貌に双眸を微かに驚きの色で染めた『節制』に、『魔術師』は更に言葉の鏃を放つ。

「テメエも見てただろう、コイツの能力をよお。だったら、分からねえか?
 このガキは、生きる気概さえありゃどんな怪我だって治せるんだ。
 ……だが逆を言えばよお、そんなスゲエ力を持っていても、コイツが生きたいと思えなきゃおしまいなんだよ」

『魔術師』の両眼が険しく細り、『節制』を一層鋭く射抜いた。

「それをテメエは、言うに事欠いて『尋問したいんだけど生かせてるか』だぁ?
 そのかしこぶったコートと帽子はお飾りですかあ!? 
 あんま寝ぼけた事抜かしてっと、俺様本気でぶん殴っちまうぞ、おぉ!?」

先程までとは打って変わり、正しく地下に滾る溶岩の如き怒りを吐き散らす『魔術師』。
彼は少女を思うが余り激情し、そして奇しくもその憤怒によって、少女が己の腕の中で微かに揺らいだ事に気付かなかった。

55 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:08:27 0
   



目を覚ますと、少女は太ましい腕に擁かれていた。
薄っすらと、目が開かれる。練議苑の暗闇の中で、その細微な変化に気付く者は誰一人いなかった。
彼女の視界には、先程まで対峙していた巨漢が映る。

覚醒したばかりの意識を撫でる幾つかの声が、彼女が今、論争の中心にいる事を告げる。
彼女を擁く巨漢の表情は、酷く険しかった。

彼の鼓動が、表層には一切表れず、
しかし荒馬の馬蹄もかくやに暴れていた事は、
彼との距離を零としている少女だけが気付けただろう。

だが、ふと巨漢の右眼から邪気が零れた。
そして途端に、彼は心臓の鼓動と熱が心のそれへと転化したかの如く、豹変する。
声を荒げ、少女を擁く腕に自然と力が篭り、彼は怒気を余さず言の葉に装填し、放つ。

少女が揺らいだ。
意図せず体が震え、体のみならず心もまた。
罪悪感が、怒涛のように押し寄せる。

自分が命を奪おうと躍起になった男が、今躍起になって自分を庇っている現実に。
転じて、自分がこれまで奪ってきた命に。
更には結果として自分が仲間を裏切ったと言う事に。
積雪した斜面を転がる雪玉のように、芋蔓式に、罪悪感は募っていく。
決して逃れ得ない罪の意識に、どう足掻こうと消し去れない過ちに、彼女は絶望を覚えた。

56 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:09:28 0
殺した人間は決して生き返らないのが道理。
裏切りの事実もこうして命を救われた以上、否めない。
ならば命を絶てば贖罪となるのか、潔白を示せるのか。
それはそうかも知れない。だが代わりに、巨漢の善意を踏み躙る事になる。
それもまた、紛れも無い罪。
かと言って、生き長らえればそれだけで、ひたすらに罪は膨張していく。

挽回のしようがないのだ、彼女の罪は。
けれども彼女は、彼女の心は一つの逃走経路を見つけた。
それは、取り留めた命を繋ぎ、またここで尋問を甘受する事。
裏切りの罪を増長させるその行いに、彼女はある行動原理を付け加える。

これは自分自身の為ではなく、自分を救った巨漢、『魔術師』の為なのだと。
自分が死ねば彼は嘆き、今後生の続く限り苛み続けるだろう。
自分が尋問を拒絶すれば、彼は自分を守るべく仲間とさえ戦うだろう。
だから自分は彼の為に裏切り、彼の為に生きる。

即ち、愛の為に生きるのだ、と。

彼女は亀裂だらけで崩落しかけた心を、愛を根差させる事で繋ぎ止めたのだ。
これは断じて、卑怯ではない。卑劣でも打算的でもない。

ただ引き裂けんとしていた心を守るべく、
これまでに犯してきた罪の全てを切り捨てる為に、
彼女には何もかもを超越した理由が必要だった。

そして人間が持ち得るモノの中に、そのようなモノは愛以外に存在しなかった。
ただ、それだけの事なのだから。

「……私は、生きてます」
己を擁く腕をぎゅっと掴み返し、少女は吐露する。

「……尋問も受けます。隠し事も、しません」
巨漢の視線が、『節制』から逸れて彼女へと降り注ぐ。



「貴方の為に、私は何だってしますから。ただ一つ、私に貴方を愛させてください」



かくして少女は、『スマイリィ』は満面の笑顔を浮かべて、自らを擁く巨漢に願いを告げた

57 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:12:01 0
   

『ティファレト』『クラフト』が帰還してから数時間後。
『スクランブル』は何事も無かったかのように、エデンへの帰還を果たした。
既に逃走者、裏切り者として通達されていた彼は途端に、幾多の異能者によって取り囲まれる。

「貴様、今まで何処をほっつき歩いていた……!」
「……んー、いや、特に何処って訳でもないよ。ただちょっと、ぼーっとしてたんだ」

剣呑な眼光と語調で放たれた問いに、『スクランブル』の回答はあっけらかんとした物だった。
見せ付けるような余裕が癪に障ったのか、詰問した男の表情が怒りと苛立ちに歪む。

「……チッ、まあいい。お前には任務失敗と裏切りの疑惑によって懲罰が待っている。大人しく付いて来い」
それでも男は、何とか平静を保った声色で『スクランブル』に告げる。
しかし『スクランブル』は、双眸を細めて露骨に難色を示した。

「えー、やだよ。面倒臭いじゃん、知ってるだろ? 僕が面倒事嫌いだってこと」
「……ふざけるなよ。今ここで、殺されたいか?」

最早余裕どころではない。
嘗めて小馬鹿にしているとさえ感じられる返答に、今度こそ男は害意を露にする。
だが、『スクランブル』の調子は一向に変わらない。

「別にいいよ。懲罰だって、アレって結局殺す為にやってるんだろ? じゃあ大して変わらないじゃん」
「……ふざけるなと言った筈だぞ! 貴様ッ!」

とうとう憤怒を堪えかねた男が、荒い動作で『スクランブル』へ右手を翳す。
それを皮切りとして、包囲を織り成す面々が身構えた。
直後、極彩色の異能の嵐が『スクランブル』の姿を世界から塗り潰す。
塵芥一つ残らぬだろうと、男は荒げた口元を吊り上げた。
だが、

「……あーあー、また沢山殺してくれちゃって。寿命、また切り延ばさなきゃいけないじゃないか」
虹色の光が晴れていく中、『スクランブル』は何事も無かったように佇んでいた。
場の一同が、一様に表情を凍り付かせる。
皆が絶句する中、一人の男だけが辛うじて言葉を搾り出した。

「おま……お前……アレで、何で生きて……!?」
「あれ、何? まだ死ななきゃダメなの? 面倒臭いな……ほら」
細めた視線に曲がった背筋、倦怠感を全身で表しながら、『スクランブル』はぼやく。

そして然もない様子で――己の首筋に、異能を宿した指先を這わせた。
一拍遅れて、鮮紅の花が開く。
更に続いて、驚愕や恐怖の叫び声が上がった。

「これで満足だろ? ……おっと、切り延ばすのを忘れないようにしないとね」
悲鳴も何もかもを関心の埒外に置き捨てて、『スクランブル』は呟き左手首に指を伝わせる。

「じゃ、僕は『林檎畑』に用事があるんだよね。ばいばい」
「ちょ、おまっ……『林檎畑』って……」

歩き出す『スクランブル』に、手が伸びる。
しかしその手は、彼に触れる事無く虚空で静止した。
彼から返された視線が眼前にまで突き付けられた刃の如く、余りにも冷淡とした、無機質な物であったが故に。

「……まだ何かあるの? そろそろ、面倒臭すぎて……殺しちゃうよ?」

言葉を伴う事なく早急に、差し出された手が引っ込んだ。
同時に『スクランブル』の行く手に立っていた連中が挙って、彼から逃げるように道を開ける。
左手から絶え間なく流れ落ちる雫で血痕の道を描きながら、彼はふらりと歩いていった。

58 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:13:17 0
『林檎畑』とは別称を『禁魔具庫』。
読んで字の如く、禁忌とされる魔具の収められている場所である。
楽園教導派は『命を顧みず邪教の徒を撃滅すべし』の思想故に、数多くの禁魔具を有していた。
遥か格上、不可侵とさえ言える領域にある強者と言えど、
命の代償による禁魔具の使用、または意図的な暴走に巻き込まれれば、ただ事では済まない。

倒れたのならば僥倖、然る後に禁魔具のみを回収すれば、損害は細微。
仮に倒れなかったとしても無傷ではまず済まず、更に禁魔具は使いこなせぬが故に禁魔具なのだ。
鹵獲され、自分達に矛先が向けられる心配もない。

「ま、はっちゃければ都合のいい道連れアイテムだよね。カミカゼだっけ、バンザイだっけ?」

禁魔具庫の扉に右手を押し当てながら、『スクランブル』は誰にともなく囁いた。
そして異能を、創造主より与えられた絶対の権限を顕現する。
森羅万象を『切る』事が許可された、彼の異能『エニースライス』。

彼の力は、邪気以外の万物を切り裂く。
数十人単位で施術する封印でさえも、対象の範囲外には成り得ない。
無論相応の時間は掛かるが、それも一分足らずと言った所だ。

「さて……アロンダイトは盗られちゃったからなあ。何かいいのを見つけなきゃね。
 あーあ、アレ、結構気に入ってたのになあ」

かくして『スクランブル』は禁魔具庫へと潜り込む。
立ち込める埃っぽさに、彼は右手を顔の前で振りながら愚痴を零した。
そうして刀剣が陳列された棚を見付けると、一振り一振りを手に取って、振り回す。
その度に筋が裂け血管が破れ脳が焼け臓腑が蝕まれ命が削れていたが、彼は別段気にも留めていない様子だった。

「これはいいや、でもこれもいいなあ。ははは、すごいな宝の山だよ」

彼が気に入った剣はそのまま腰や背中に差されていく。
常備の難しい巨大な剣は、彼が自身の胸を切開し、生まれた異空間へと収納される。
結局、彼は並んでいた魔剣の全てを我が物としていた。

「うん、やっぱり剣は物を切る為にあるんだしね。ちゃーんと使ってあげなきゃ」

薄ら笑いを浮かべながら、『スクランブル』は出口へ向かう。
どう使うか、誰に使うか、ただその事だけに思いを馳せながら。

59 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:14:40 0
 


世界政府、枢機院の総本山である『聖樹堂』の真下には、大規模な空洞の空間がある。
だがそれは自然の産物ではなく、人為的な物だった。

松明による微かな灯りの中に、人影が一つ佇んでいる。
巨大な岩かとも見間違う巨躯を誇るその男は、しかし腰にまで至る長髪は白一色。
闇に紛れる漆黒のローブ、厳密には法服から覗く両手は酷く皺がれていた。
不十分な灯りによって照らされる顔は、やはり手と同じく皺だらけで。
そして何より閻魔と称しても差し支えないであろう険に塗れている。

老人は目を瞑り、耳を凝らしていた。
周囲から生まれ、空洞中を木霊する音を聞いているのだ。

唐突に、老人が瞼を上げ眼を開く。
ぎょろりと血走った彼の目には、青白い無数の光が映っていた。
松明に依る紅の輝きよりも希薄で、不気味な光を。

淡く蒼白な微光は、目を凝らせば何かを模しているのが分かる。
人である。
無数の光輝は、人の霊魂であった。

この空洞は、『最終懲罰窟』と呼ばれていた。
語源は二つ。一つはここが陥ったが最後、二度と出られない場所である事。
そしてもう一つは、ここに陥る者は皆、生の終焉を迎えた者のみだからだ。

地盤の崩落を防いでいる幾本もの柱には、数え切れぬ人数の魂が埋め込まれている。
彼らは未来永劫、寝食も休息も許されず天井を支え続けるのだ。

「いつ聞いても……心地よい悲鳴よのう……。邪教の輩共には相応しい罰じゃて……」
老人の嗄れた声が、ぽつりと紡がれる。
ここに囚われた魂は老人の言葉通り、生前の邪気眼使い達。
また、

「勿論……そのような奴等に敗北を喫しよった、下劣な無能共にとってものう……」
任務に失敗し、挙句命を落とした者達もまた。
枢機院に、ひいては創造主に濯げぬ不名誉を塗りたくったとして、罰を受ける。

「じゃが……この悲鳴を一身に浴びても、今の儂の心が晴れる事はない。何故だか分かるか?」
言いながら、老人はすぐ傍らの魂魄へと視線を遣る。
問いを受けたその魂は、しかし答えを返せぬまま、ただ恐怖に震えていた。

「分からぬか。ならば教えてやろう。……揃いも揃って任務にしくじった貴様の仲間達が! 一向にここに堕ちて来ぬからじゃあ!!」

嗄れた声から一転、死霊達の呻き声を掻き消さんばかりの怒鳴り声が、空洞内を反響する。
老人の怒気に満ちた咆哮に身を竦めるのは、『強襲部隊』が一人、『セカンド』。
『運命』に齧られ絶命した彼は懲罰の対象として死後、問答無用で『最終懲罰窟』へと誘われていた。

「聞けば貴様らは誰一人、邪教の輩を仕留められなんだそうではないか……!
 にも関わらず! ここへと堕ちてきたのは貴様一人! 他の連中は今ものうのうと生きておる!
 『ティファルト』と奴の妹はまだ特別に見逃すとしても! だが他の者共は断じて! 許せるものではないわ!!」
血管の浮き上がった悍ましい双眸を見開き、老人は吼える。

「挙句、内一人は邪教の者に篭絡され、寝返っただと!? 
 貴様! 今すぐ述べよ! その愚劣な女の名を!」
老人に喉元を掴まれ吊し上げられて、喘ぎながら『セカンド』は口にした。
『スマイリィ』の名を。

60 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 05:21:16 0
「よかろう……! 粗奴はいずれこの儂が直々に仕留め、地獄すら生温い永劫の苦しみを与えてやろうぞ!」

叫び、老人は一息。
『セカンド』は安堵の色を表情に浮かべるが、甘い。
すぐに老人は彼の首を締め直し、再び言葉を紡ぎ出す。

「それともう一つ……貴様は先程から震えておるが……」
先刻に比べれば静かな声色は、しかし穏当さを孕んではいなかった。
寧ろ含有されるのは、嵐の前触れにも思える不吉さのみ。

「その震えは……儂に依るものか? それとも……貴様を喰らったと言う、その邪教の娘が原因か?」
『セカンド』は一瞬、答えあぐねた。
老人にとってすれば、それだけで激怒するには十分過ぎる。

「儂の……儂の名を言ってみよ貴様!」
老人が怒鳴り、しかし『セカンド』は彼に首を締められているが故に、言葉を紡ぎ得ない。

「儂がその気になれば、貴様は永久に身を引き裂かれる苦痛を味わう事になるのだぞ!
 永劫の灼熱も! 永遠の極寒も! 無窮の痛みも! 久遠の闇も! 全ては儂次第なのだ!」
捲し立て、老人は『セカンド』を投げ捨てた。
地に伏す彼を見下し、老人は再び詰問する。

「さあ、貴様は何故震える! 言ってみるがよい! 誰に貴様は怯えておるのか!」

「せ、拙者が真に恐怖致すのは……『ゲブラー』殿……! 『冥罰のゲブラー』殿に相違御座らん!」

激昂した老人の怒涛の威圧に、『セカンド』は震えながら声を絞り出した。
老人は暫し、彼を睥睨し続ける。
けれどもやがて鼻を荒々しく鳴らすと、仰々しい所作で彼へ右手を翳した。

『セカンド』の表情が一層の恐怖に歪み、一瞬の後に彼は無数の柱に埋め込まれる。
そして辺りに響く叫喚の一つと成り果てた。

「見ておれ……! その『スマイリィ』とやらも邪教の輩も……纏めて儂が冥罰に処してくれるわ!」

『生命の樹』が一人、第6セフィラ『冥罰のゲブラー』。
彼は死霊共の悲鳴を浴びながら、 狂喜の笑みと共に叫びを上げた。

61 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 10:50:10 0
ちょっ! ちょちょちょちょっと待てって! いきなり情報量が多すぎて訳わかんねぇ!?
まっ……待てって、ピアノ!! これ持っとけ!!

(「カノッサ」とか「もう一人」とか、聞き捨てならない単語がいくつか耳に入った気がしたが)
(取りあえず手首に巻いたホルダーサックから金属片を抜き取ると、脇をすり抜けるピアノに放り投げた)

(旧世界の「遺産」が一、「邪気電池」)
(その小型のサイズとは裏腹に、最大出力でフルに戦えるほどの邪気量をストックしておける、極めて有用な一品)
(「邪気を溜め込む技術」は残念ながら失われてしまったが、あらかじめ邪気が充填された状態で出土したのは幸いだった)

やばくなったら、噛み砕け! いいな、絶対死ぬんじゃねえぞ!

(明らかに余計なお世話の一言で締めくくり――――鷹逸郎も、自分の戦いに戻る)
(考えるべき問題は、今まさに戦闘が繰り広げられているであろうビルの中への帰還方法)
(玄関口にも、裏口への路地にも、好奇心旺盛な人の群れで塞がれており、とても人目に付かずには突入できそうにない)

(さて、どうするか。)
(鷹逸郎の無謀な頭脳は、即座に方法を算出した。先ほど鷹逸郎が弾みで倒した違法駐車の自転車を持ち上げ、肩に担ぐと)
(隣の……そう。ついさっきまで鷹逸郎が命からがら脱出した、元雑居ビルの廃ビルへと駈け出した)


よっ、はっ、ほっ、っと!!

(ママチャリとはいえ自転車一つを担ぎながら、ホコリ漂う階段を軽々と駆け上がる鷹逸郎)
(早い話が、さきほど鷹逸郎がこの廃ビルから脱出した方法の改善策。改善するのは、「助走速度」)
(一般人が両足で力走するより自転車転がした方が速いのは世界の常識。……かといって、実践するのはバカか命知らずだけ)

へっ! まさか敵のヤローも、屋上からやってくるとは思うまい!!
帰還の上に不意打ちまでできて、おいおい俺ってば天才じゃねえかワンストーンでダブルバードをストライクだぜッ!!

(……そして最悪なことに、鷹逸郎はバカの上に命知らずであった)


(今度は背後から追い掛けてくる重装備の女もおらず、悠々と屋上へ到達する鷹逸郎)
(さっそく自転車にまたがり、ペダルへ片足を乗せる。……ハンドルを握る手に力を込め、目線は真っ直ぐ隣のビルへ)
(………僅かな恐怖心を噛み殺す。必要なのは、ペダルを押し込む全力だけ。後は、なるようになる。)

……ッ、行くぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!

(雄叫びを上げ、ペダルに乗せた足にあらん限りの力を込め、勢いよく押し出す――――寸前に)


(ガクン、と、衝撃。)


62 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 10:51:02 0
な――ッ!!?

(バランスを崩したか。いや違う。地震のような強大な揺れが、このビルを襲っている)
(上昇する視界。傾く屋上。自転車を両足に挟んだまま開け放っていた屋上のドアのノブに縋り付いて、滑り落ちてしまうのを何とか堪える)
(何が起こっているのかを考える余裕は、ない)

……行くしか、ねえのか?

(このまま何もしないで、瓦礫に埋葬されるのはゴメンだ)
(ドアを掴んだまま体勢を整えつつ、なんとか自転車の発走可能な体勢までこぎ着ける。後は、タイミング。)
(揺れが大きいまま走り出しても、途中で転倒すれば何の意味もない。全力を維持したまま縁を踏み切れる絶好の瞬間を狙い打つ)

(刹那、再び強大な衝撃。)
(背面へ圧迫感。見えない巨人の手で力任せに押し出されるような息苦しさ。その衝撃に、思わずドアから手が離れた。)

あ。…………、くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!

(こうなったら、悩んでいる暇はない。)
(もう一つ衝撃の後、視界が急激に落下する。完全に地面へ墜落する前に。崩れ逝くビルの屋上でペダルを押し込んだ)
(残った片足をペダルの片方へと乗せ、全力で漕ぎ抜く。猛回転するペダル。速度を上げる自転車。傾ぐ地面に自ら傾いてバランスを整える)

(落下にともなう浮遊感に、ペダルから浮き上がりそうになる足を必死に抑えつける。)
(ここで足を止める訳にはいかない。ひび割れる地面は、完全に割れる前に強引に渡りきる。何がなんでも縁まで辿り着かなければ。)
(先に地面がない。既に崩落してしまったのか、それともここが縁なのか。関係ない。ブレーキもかけず、縁をそのまま飛び出した)

(完全浮遊、完全自由落下。速度をそのままに、中空を急進する自転車)
(隣のビルに乗り移ろうかと思ったら、隣のビルも崩落していた。完全に計算外。しかしもう後戻りはできない)
(端に映る影。女剣士と上半身裸体の男。男は落ちる瓦礫の上で屈んでいた。跳躍寸前。胸の前に「爪」を構えて、その切っ先は女剣士へ)


(その時、やっと、この日初めて。)
(鷹逸郎の懐の『プレート』は、その激情に「応えた」。)


こっちだッッ、イェソドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
            ヒカリ                        サケビ
(鷹逸郎を包む白い光輝。溢れ出す力を吐き出すように、口から咆吼を滾らせる。)
(空中でバランスが崩れそうになる自転車。落下中の瓦礫を蹴り付け、強引にバランスを引き戻す)
(その勢いで強引な方向転換と強引な加速。イェソドの狂喜の顔が鷹逸郎の方を向く。振るわれる「銀狼の爪」。時間にして0.1分の1秒後に)


(イェソドの顔面に、自転車のタイヤが激突した。)


(背後の瓦礫が粉々に砕け散る音。グシャリ、と確かな感触。しかしそれも束の間。)
(戦車砲の如き「爪」の一撃を、体を捻って強引に回避した鷹逸郎は完全にバランスを崩壊させ、自転車にも見放されて宙に放り出された)
(…………「爪」の余波ですっぱり切られた、T字のサドルを両手に。)

63 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 10:55:30 0

 地上では降り注ぐ瓦礫から逃れようと、人混みは分解して蜘蛛の子散るように逃げまどっていた。
 それに必死で空中での死闘は目に入らなかったようだが、その中でずっと上空を見上げていた人影が一つ。
 機動隊が着込むような重装備を身につけ、ブツブツと何かを呟いている銀髪の女性。――――『王国』、マルクト。

 マルクトはやがて崩落するビルの戦いから目を移すと、高らかに叫んだ。

「――――開けよ、ケリッポドの地獄門!」

 直後、人々の真上、瓦礫の真下のはざま、中空の空間に、黒点のようなものが出現する。
 それはあっという間に直径を増大させ幾つもの漆黒の大穴になったかと思うと、降り注ぐ瓦礫を次々と呑み込み始めた。
 巨大な岩のような瓦礫は勿論、砂塵さえ地上へ落ちることを逃さない。必要最低数の瓦礫を喰らったところで、穴は途端に消え去ってしまった。

 ふう、と溜息をつくマルクト。
 その表情に映し出されたのは、安堵と微笑。とても人の命を危険にさらすような人間とは思えないほど、安らぎに充ち満ちた表情。
 それでもピアノの視線に気が付くと、穏和だった顔を怜悧に引き締めて、彼女の方へと顔を向けた。

「……用件があれば、どうぞ? お伺いします。もっともそれに私が応えるかどうかは、現時点では分かりかねますが」

64 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 12:49:02 0
我らを誘う果てしなき川辺の、果しなき流れの果に、それはいた。
終わりなき森羅のサイクルを描く霊気の流れも、その裡に宇宙を内包する原子のダンスも、それは既に飽いていた。
目も耳も鼻も舌も身も意も無く、(無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法)
それの精神――精神と呼べるのなら、だが――にあるのは茫漠たる虚無の空隙(Void)、超銀河団同士の間隙を寂莫たる暗黒で満たす直径六億光年の闇であった。

――われら川辺に集う  (We'll Gather at the River)
   われら川辺に集う  (We'll Gather at the River)
   われら川辺に集う  (We'll Gather at the River)
そう、われら川辺に集う (Yes, We'll Gather at the River)

過去から未来へと倦むことなく流れ続ける霊気の過流は、それをも他の万象と区別することなく押し包んで時の速さで進み続ける。
そのことが、それをなぜか不快にさせた。
何故だろうか。そうだ、これについて考えれば少しの退屈しのぎになるかもしれない。
そうも考えたが、同じ亜永遠(subeternal)に存在しているものであるのに、
上天の霊気は一切の懊悩と無縁に在り、自分は無限の苦悩(Neverending Torment)と消えないこだま(Haunting Echoes)の中に有るからだと気付くまで時間は掛からず、
却っていつ以来とも知れぬ思考停止が解けたことで、再び退屈の形をとった思考の牢獄(Thought Prison)に嵌まり込んでしまうこととなった。

何故退屈を抱えているのか、長く生き過ぎたから。
何故長く生き過ぎるなどということが出来たのか、本能(あるいは精神・心などとも)が弱すぎたから。欲求が無いから。
如何にして思考の牢獄より抜け出づるか、滅消のみによって為る。
されば汝何故自身を滅消せざらんや、本能(あるいは精神・心などとも)が強すぎたから。自死(apotosis)を拒絶するから。――
もう脳髄のレコード盤は擦り切れてしまった。同じ小節を幾度D.S.(dal segno)しているのだろうか。いやもしかするとD.C.(da capo)かもしれぬ。
いったいFine(フィーネ)はいつになったら現れるのか。そもそもこの記憶はいつから私の中にあるのだろうか。何を思って、或いは何があってこのような言葉を知るに至ったのか。

この狂気への高速道路(autobahn)にも、既にして数えるのすら馬鹿らしくなる回数飛び乗ろうとし、何時も進入資格(精神)の不所持によって乗り入れを拒否されてきた。
だがこの時、乗車券(Ticket To Ride)はついに届いた。 ――如何なる夢想にも勝る非現実性を伴った現実として。
即ち、空間歪曲による時空震。
無論、マクロ的視点から見ればそのようなことは頻繁とは言えないまでも時折生じている。
しかし、今回の空震には『意思』があった。それの目覚めてしまった思考と感覚にとって、この意思(will)はほとんど物理的な力(force)とも感じられるほどのものであった。

「Enter the Dungeon.......」

65 :名無しになりきれ:2010/03/18(木) 12:49:52 0
それには、はっきりと判った。先ほどの空間歪曲は、ある種の生命体が移動を行う際に副次的に発生する、いわば澪であると。
そして攻撃的思念の残滓とでも言うべきものが、それの在る霊気の果てしなき川を撹拌していると。
心の水面に、僅かな波が立つ。

「――いつ以来だろうか……」

心の波は、微かな声の形態で発信された。
その囁きが、霊気の流れに細波を立たせる。

「新しいものに出会うのは――」

霊気の細波と心の細波が和音となり、うねり、うなり、自らの内に反響して増幅していく。

「化身(avator)、受肉(incarnation)、霊薬(narcotic)、――」

響きが姿を形作る。
早朝の靄が白昼の深雪に、黄昏の氷河に、そして霊気の奔流がそれを包み――

「そうだ、この格好がいい。」

人の姿を持つ霊気の陽炎と成ったそのものは、セレネ三千院の去った道を逆様に辿り、

「以前、命あるものの庭で戯れたときの形だ。」

果てしなき霊気の川辺より、久遠の闇を越えて、

「今も覚えている、そのときの名は――」

この地へと、現れた。

66 :名無しになりきれ:2010/03/19(金) 08:41:11 0
「っく…!」

瓦礫が頭上から降りかかる、避けている暇はない
斬る、しかないが

「―――」

やはり、イェソドは突撃体制だ ニヤニヤとした顔は、どことなく、狂気を感じさせた。
しかし斬るしかない 今死ぬよりは、一瞬後の死の方がいい
それに、これが避けられない事はほぼ確定 奴の突撃で死ぬ可能性は、まだ余裕がある
不測の事態だって起きるだろう、そう、例えば


「こっちだッッ、イェソドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」


死んだと思っていた少年が、自転車に乗って空から降ってくるなど、誰も考えないだろう
反応は、どちらも早かった レイは頭上数センチまで近づいていた岩塊を一刀両断、イェソドは声の主が誰か判別する時間も持たず爪を振る

どずん、という音と共に両断された岩塊が落ちるのと、ぐしゃり、とイェソドの顔に自転車のタイヤがぶつかるのは同時だった

「――っ!」

あの程度でダメージを受ける輩では無いだろうが、一瞬の怯みは生んだ
思えば、あそこで息の根を止めておけば良かったのかもしれない
しかし、私は 地を蹴っていた
綺麗に斬れたハンドルを持ったまま宙を舞う鷹逸郎青年に向けて

ビルから落ちてきた時と同様に、フードを掴み、後ろへ投げる
自分はそのまま壁に着地し、天井を走り少年の元へ

いたた、といった感じで立ち上がる少年に、彼女は後頭部に平手を食らわした

「馬鹿か!何故戻ってきた!」
 
生きていたのか、と言いたいところだが 今はそんな暇はない
むしろ運良く生きていたのなら、そのまま逃げれば良かったものを
                          マ ス タ ー ピ ー ス
「……痛かったなァ、今のは痛かったぜェ 世 界 の 選 択 ゥ !」

イェソドがゆらり、と身を起こすスッパリと斬られた自転車はタイヤが歪み、かなりの衝撃であった事を示していた
だと言うのに、この男はほとんどダメージを受けていないようだ。隆々と盛り上がった筋肉が衝撃を緩和したのか、他の何かが働いたのかは知らないが
しかし、今ので完全に怒りを現した 人間、特に力馬鹿は怒るとその暴力性が増す 火事場の馬鹿力に似たような物だ
それに伴い殺気も禍々しさを増した、思わず身震いのしたくなるその気配

レイは、はあ、と溜息をついた

「少年、いや、世界の選択と呼ぼうか ……死ぬ覚悟はあるな?」

静かな、しかし重い言葉で訪ねる 応えを待つ必要もない、こいつは、絶対に「ある」と答える
ゆっくりと立ち上がると、体中に血管を浮き上がらせたイェソドに向き直る
                 ハ ジ
「待たせて悪かったな、さあ、再開めようか」

67 :名無しになりきれ:2010/03/20(土) 14:04:24 0
聖樹堂――神無き祭殿。
『創造主』の狂信者たち(Fanatics)を纏め上げる『議長』アルテロイテの前に、一人の女が立っていた。
もしかすると『女』という表現は、不適切ではないにせよ誤解を招くかもしれない。
天井の高いバロック様式の聖堂内に於いてすら、彼女の瑞々しい身体は注視を避け難い存在感を放っていた。

――年のころは十五そこそこと見えた。
   背丈はといえば人並み。
   驚くほど明け透けで、力は素晴らしかった。
      (ジェフリー・チョーサー・『カンタベリー物語』より、一部改変)

「――して、何用じゃ?」
少女は、そう問うたアルテロイテを真っ直ぐに見つめていた。
視線に質量が生じ、『議長』を僅かにたじろがせる。
「――もとより、私のお役目は一つ。」
大きく光をたたえた目を『議長』に向けて、その視線をよく通るやや低い声が辿っていく。
緊張ででもあろうか、長く緑成す黒髪が風をはらんだようにふわりと流れ、年齢に不釣合いな乳房が大きく脈打つ。
「すなわち、世界に害なす者どもの排除。」
『議長』は、聖堂全体が震えているような錯覚を感じていた。
異能の力は外見に現れにくいとはいえ、どう見ても少女にしか見えない眼前の人間の言葉が、なんと力強く響くことか。
「だが、今のこの騒乱が、果たして御主が出るに相応しいものであろうかの?
のう……エロヒムよ。」

エロヒム、生命の樹における第三セフィラ『理解』(Binah)の神名。
女性原理を象徴する『至高の母』である。
その『理解』エロヒムは、変わらず鋭い眼光をアルテロイテに向け、変わらず静かに口を開いた。
「騒乱の規模は問題ではございませぬ。創造主様より賜りしお役目、果たすことこそわが望み。
それによりてのみ、私の創造主様への忠義お見せ出来ましょう。」
スポーツレギンズを履いた羚羊のような足が緊張に震えている。
これは私を恐れてのことではない、とアルテロイテにはわかった。
彼女の言う「お役目」を果たせないことが何より辛いのだと。

「わかった……命を下そう。」
その言葉に『理解』がぱっと顔を輝かせる。
こうして感情を素直に表しているところは、普通の女子とさほど変わらぬように見えるのだが。
安楽椅子からやや大儀そうに立ち上がった『議長』が、創造主の代理人としてエロヒムに邪気眼使いたちの排除を命ず。
そして、彼女の全身から喜びとともに刃のような霊気が立ち昇った。

68 :名無しになりきれ:2010/03/20(土) 14:05:55 0
――それが、時間にして約百二十分程も前のこと。
今、『理解』エロヒムは戦闘の気配を辿って秋葉原へと足を踏み入れていた。

(まったく、なんと幸せそうな大衆だ……)
彼女たちの苦労も知らずに今日を笑う一般人たちは、少々エロヒムを苛立たせもするが、それでもやはり最後には使命感が勝利する。
(この笑顔を守っているのは、そう、私たちなんだ。
この人たちのためにも、邪気眼使いなどをのさばらせておくものか!)
疑念無き者は、使命感に燃えて人並みを掻き分け『王国』と『基礎』の元へと急ぐ。

ゆえに、“星界からの恐怖”(Cosmic Horror)に気付くのが、遅れた。

凄まじい恐怖の悪寒に襲われたと思った瞬間、エロヒムの左手と右足が旋風のように“それ”を切り裂いていた。
――そう、『切り裂いて』いた。

なんだ、『これ』は!?
『理解』には、目の前にいるものが何なのか、理解することが出来なかった。
彼女の能力は、ごく一般的な(だが出力は桁違いの)身体強化といくつかの魔法。
世界に害なす者どもを葬るために、戦闘専門の能力を賜ったのだ。
そしてそれ故に、『生命の樹』としては異例なほど多く戦場にたち、それに相応しい戦功を挙げてもいる。
だから、自分が手足を振るった後に両断された相手が横たわる姿などもう飽きるほど見ている。
だが、両断された相手が仮面のように表情の無い顔でエロヒムを見下ろしている、などという光景は始めて目にするものであった。
『理解』は、攻撃と同時に展開した隔離結界によって今この場に自分と相手しかいないという事実を、初めて心細いと思った。

何故、この男を恐れているのだろうか? ――いや、そもそもこいつは『男』なのか――『生きて』いるのか!?
如何に信じられないものを見たとはいえ、それだけで恐怖を感じるほど私は弱くないはずだと、エロヒムは思う。
それだというのに、目の前の『存在』は、どうしようもなく彼女の心を苛む。
これではまるで、以前何かの本で読んだ、見るだけで狂気に犯されるという禍々しい邪神のようではないか――
それでも、ただ一つ――いや、二つのことだけは『理解』の中で何者にも犯されること無く叫び続けていた。
即ち、自分は天罰の執行代理人であり、世界の秩序を乱すあらゆるものを打ち倒す存在であるということ、
もう一つは、目の前にいる『何か』は、間違いなく――ことによると邪気眼使いどもよりも――世界に害なす存在であるということ。

そして、“それ”は口を開いた。
肺も口も声帯も使わず、空気ではなく心を震わせる、一切の感情を失った無彩色の声。

「They embodied the worst of the Ice Age......」

『理解』によって切断された身体の断面から覗いているのは、宇宙空間(Universe)の、久遠の闇。

「嬉しい、というのはきっと、こういうことなのだろうな。」

今は名を失った災厄の象徴は、あくまで無感動に呟く。

「また、生と死の――流転の舞踏に加われるのだから。」

声もまた、聞くものの心を削る消えない賛歌であった。

「願わくば、今度は私自身も、共演者たちとともに舞台から降りられるよう――」

「ならば、終幕を待つことはありません。
この第一幕で、あなたの出番を終わらせて差し上げましょう。」

『理解』エロヒムは、それでも秩序の体現者として、そのものの前に立った。

69 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 01:14:55 0

『運命の輪』は節制と魔術師を見比べていた
とはいえソレを見ても特になんとも思わないのが彼女なのだが。
当たり前といえばそうである。理由など野暮な事はこのさい抜きだ。
そしてその間の少女が声をだしたのを聴く。
彼女はようやく、驚いたような顔をした。といっても、眉をすこし動かしただけ。

「……あの子生きてたんだねー」
「生きてたみたいだな。」

桜色の唇を吊り上げて、楽しそうに語る。
彼女の興味は『緊迫した(よくある)』出来事に注がれている。良くも悪くも…

「てっきり死んでたかと思ったよ。死んでたら綺麗に飾ってあげたのに。」
「食べるために?」
「食べ物には最大の敬意を払うものなのだよぉー、ぐしゃよー。」

おおよそ死に掛けの人間についての会話かと耳を疑うもの。
しかし、彼女にはそれ以外の興味、共感(同情)はなかった。
慈悲の眼をして、無慈悲を語る。虚無の眼で、死体愛を語ってみせる。

「お前は食うことしか考えてないのか?」
「ほかもかんがえてるよ。いかに悲鳴をあげさせながらころせるか。」

あきれたように、『愚者』はため息をつく
     ショウジョ
こんな人間失格と会話していて、疲れないほうがおかしいのだが。

「…人間が大好きなんだな。」

彼女はすこし眉をひそめて反論する。
             ピエロ
彼女の世話をする異常者に向かって

「わたしもにんげんだよ。」
「…分かってる」

さて、と彼女は目の前の光景をながめ、目を細めた

「暫くボウカンに徹しましょ。」

70 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 15:02:53 0
紹介を呉れた民俗学教授の挙動は、どうにも不自然だった。
視線は逸らされ、発話はどもり、不審者のそれに98%以上の適合を示してしまうような。

普通なら幾分距離を置くだろう───“普通”ならば。
そして、白の侍は決して一般の普遍に通ずるような存在ではない。

彼にとっての“新たな出会い”とは、大半を“新たな敵との遭遇”と換言してノープロブレム。
殲滅、潜入、暗殺などでの数々の『任務』での“出会い”に、関係が生まれる余地など無く、出会いの数≒命を刈る数、のような人物の感覚が一般的である筈も無い。

詰まるところ、彼も人間関係の機微には大層疎い。
故に特段不審を感じる事もなく、説明を謹聴しただけである。

「……この男性は、私の研究室に不意に侵入し、巨大な剣を探しているらしく、
強姦はしないらしいが、私が食されるかもしれない……あと、『メール』を見られた
 そんな事程度しか知らないな」

「……つまりカニバリズム信者の変質者といった所ですな。剣などこんな所にある筈がな……」

巨大な剣?と、そのワードに生ずる引掛り。

「ああ……!生協の購買に朝方置いてあったアレの事か。
何故あんな物が“大学で”売っているのか不思議でならなかったのじゃが……成程」

ポン、と掌を叩く動作と共に疑問の解を伝える。
尤も、その解を欲するであろう銀の戦士は未だに空腹を満たしている最中なのだが。

数秒ほどそちらへ向けた視線をまた戻す。
思えば、彼には感謝しなければならない。わざわざ眼前の協力者に会いに行く手間を省いてくれた事に。

「……ああ、そうだ黒野殿。今日の放課後、御時間は空いておられるか?
『分からないところ』を少々御教授願いたいのでのう」

妙に強調されたその部分が示すモノ、決して想像に難くはない。

『枢機院』。恐らく黒野天使が、それについて何かしらの情報を得ている公算は低くない。基督教の要所に携わっている以上は。

そして眼前の協力者は───それがひとまず『機関』から与えられた名目だけの役割で、実際の“姿”が余りに不確定な人物であっても───潜入調査へ協力の義務を負う事に相違は無い。

(さて……黒野殿は、一体“何のために”、“どのような”行動されるのであろうな?)

71 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 18:35:23 0
うくはっ!?

(背中に衝撃。しかし、地上に落ちたにしてはあまりに僅か)
(上体を起こして辺りを見渡すと、そこはあの廃ビルの隣のビル。どうやら無事帰って来れたらしい)
(…だが、もはやビルとしての体裁は保ててはいない。奇怪なオブジェがせいぜいの半壊状態)
(果たして、どれほどの衝撃を与えたらこのような惨状になるのか。鷹逸郎には見当もつかない)

(数刻遅れて、レイも戻ってきた。壁に着地し天井を走って来る姿は、とても同じ人間とは思えない)
(恐らく、彼女が助けてくれたのは間違いないだろう。お礼を言おうと立ち上がったところで)

うげぇっぷ!!

(後頭部にチョップを喰らった。正確には平手)

「馬鹿か!何故戻ってきた!」

(その大声は、怒りというより心配の声色だと鷹逸郎は感じた。)
(身を案じてくれたのだろう。その優しさに内心感謝して、彼女の声を遮った。)

無事だったんだな、良かった!

(返事になっていない。)
(でも、鷹逸郎がこの死地に戻ってきた理由を示す言葉としては充分にすぎる)

(戦いに来たのではない。助けに来たのだ。命の恩人の彼女を。)
(借りは返す。それも、なるべく早く。今がその時という、それだけのことだった)
(鷹逸郎がレイに力強く頷いた、その瞬間)


                          マ ス タ ー ピ ー ス
「……痛かったなァ、今のは痛かったぜェ 世 界 の 選 択 ゥ !」



(ゆらりと)
(立ち上がる、人影)
(襲撃者、イェソド。自転車の車輪をお見舞いされたはずの顔面には狂笑、何もなかったかのように)
(それを目の当たりにした鷹逸郎に戦慄が走る。さらに質量を増大させた肉体、全身に浮かんだ無数の血管、……そして、狂笑)

(とんでもない相手だ。鷹逸郎は改めて実感する)
(攻撃。防御。速度。瞬発。基礎力であるはずのそれらは、いずれも文字通り桁が2、3つも違っている)
(これでは勝負にすらならない。現実的な物理的攻防では、苦戦すら見込めない。一太刀も敵わず粉々にされるだろう)

(すなわち、か弱い「日常(ゲンジツ)」を、横暴な「非日常(ファンタジー)」が蹂躙する光景。)
(それは鷹逸郎にとって、恐らく”彼”にとっても、”望まぬ未来”そのものであった。)

(ギリ、と歯を噛み締める。)
(ならば、迷うことなどない。鷹逸郎のすべきことは決まっているはずだ。)

「少年、いや、世界の選択と呼ぼうか ……死ぬ覚悟はあるな?」

(膨れあがるイェソドの殺気に、レイが聞くまでもない質問を投げかける)
(形式的なものだろう。彼女にも、どんな返答が帰ってくるかなど分かっているはずだ)
(しかし鷹逸郎の答えは、あえて彼女の期待に沿わない)

72 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 18:37:15 0

……結城鷹逸郎。鷹逸郎でいい。
それと、……死ぬつもりはない。死なせるつもりもない。……二人で、必ず生きて死地(ここ)を切り抜けるぞ。

(それは、あまりに不遜)
(これだけの圧倒的な殺傷力を有する強敵を前にして、無力な人間がとても口にできる内容ではない)
(戦場に身を置く者なら、滑稽な理想論と笑い飛ばすか叱りつけるだろう。空虚な空想は、剣にも盾にもなりはしないのだから)

(それでも)
(鷹逸郎は、イェソドに吼える)

「俺たち」は、負けねえ。てめえのために死んでやるつもりだってありゃしねえ。
てめえらがどれだけ残酷な「非日常」を引っ提げて来ようがッ、そんなもん全部残らず迎え撃ってやるッ!!

(イェソドは笑う、笑う、嗤う)
(鷹逸郎の叫びを。鷹逸郎の想いを。鷹逸郎の願いを。)
(鷹逸郎の存在、それ自身を。……ただし嘲笑ではなく、迎え撃つそれ)

「力は全ての『基礎』だッ!! この女はなかなか強ェが……、お前はその『基礎』すらなってねェ。
 ………最初の俺の一撃をもろに食らって、生きていたのは運が良かったなァ? ……それを分かっていながら、ここに戻って来やがった。
 …………いい度胸だが、全てのいしずえたる『基礎』の前では無力ッ! 幸運すら握りつぶすッ!! 今度こそ、ここでそれを証明してやるよ……!」


……ああ、イェソド。

(――――もう良い。もう、充分だ)
(語れる言葉は語り尽くした。これ以上、交わす言葉はない)
(これ以上の言葉に、意味はない)

(グッ、と、)
(握りしめた拳に、全身全霊を伝える)
(これから物を言うのは言葉ではない。まして力でもないはずだ。)
(鷹逸郎の最大の武器、揺るがぬ想いを胸に)


――――てめえの”基礎(ヤミ)”はッッ、この”不屈(ヒカリ)”で撃ち払うッッ!!!
                  ハ ジ
「待たせて悪かったな。さあ、再開めようか」

「ハァッ上等だッ!! 俺は『生命の樹(セフィロト)』第9位、『基礎』のイェソドッッ!! 打ち砕けるものなら打ち砕いてみやがれェエエエエッ!!!」


(そして、死闘のゴングが鳴る)

73 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 18:39:45 0
 秋葉原署婦警、鮫島百合根が通報を受けて現場に到着した時、そこはまさに阿鼻叫喚のようだった。


 「んだこりゃあ……怪獣でも暴れたのか?」

 中央通り。丸々とした女性らしいデザインのパトカーを歩道沿いに駐車した後、サイドウィンドウ越しに覗いた光景。
 どよめきを上げる群衆たちが屯する、その向こう。

 ……歩道に並ぶビル群の中でも、煌びやかなネオンと随一の高さで圧倒的な存在感を誇る、電気店ビル。
 そのビルが、半壊していた。
 より正確に描写するなら、上半分の斜め右上がごっそり削り取られており、そこから周囲にひび割れが発生している。

 まるで、天を衝くような巨躯の巨人が拳で殴りつけたかのような惨状。何が起きたのか、予想もつかない。
 ビルの周囲の歩道に偏在する大小の瓦礫は、その崩落にともなって落下したものだろう。
 電気店はどうやら今日は開いていなかったらしく、死傷者が出なかったのは、奇跡的と言っていいほどの類い希な幸いだった。


 しかし更に被害が酷いのは、隣接する廃ビル。
 元は雑居ビルだったそのビルは、電気店と比べればやや見劣りはするものの、それでも結構なサイズだったはずだ。

 ……「だったはず」というのは、もう確認が利かないから。

 その廃ビルは、もはや原型すら留めてはいない。……文字通り全てが瓦礫となって、そこら中に飛び散っていた。
 歩道に落ちたもの。車道に落ちたもの。真向かいのビルに突き刺さったもの。……阿鼻叫喚とはまさにこのことかと、鮫島は戦慄する。
 ビル二つだけが、ピンポイントで大災害に見舞われたかのようだった。これだけの被害で死者が出なかったのは、もはや奇跡を超えている。


 だが、負傷者は出た。
 報告では軽傷24名、重傷2名。重傷者は幸い命に別状はないらしく、全快後に後遺症が出る心配もないとのこと。

 でも、負傷者が出た。
 族のトップを張ったこともある鮫島百合根が管轄している地区で、みすみす負傷者を出してしまった。


 沸騰するような激情がこみ上げるのが分かる。………だが、今はそれに駆られている場合では決してない。
 例え何が起きたか分からなくても、警察官として、何をするべきなのか。一警官として、彼女はそれをしっかり弁えている。
 座席の傍らに置いてあったメガホンを手に取り、気合いを込めてサイドドアを蹴り破る。

 そして口元にメガホンを構え、大きく息を吸った。


「おォら愚民共ォォ!! ビルが崩れっかもしれねえから、ビル周りは立ち入り禁止にするッ!!
. 聞こえたンならさっさと退いた退いたァッ!! あんまり動きがのれェようなら公務執行妨害でしょっ引いてやるぞクラァ!!」


 せめてこれ以上、被害を出さないように。
 せめてこれ以上、傷つく人が出ないように。
 それが、今の鮫島百合根にできる、全て。

74 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 21:47:57 0
「ちょっ! ちょちょちょちょっと待てって! いきなり情報量が多すぎて訳わかんねぇ!?
 まっ……待てって、ピアノ!! これ持っとけ!!」

「はぁ!?」

呼び止められた以上に、この男が軽々しく呼び捨てにすることに憤りを覚えるが、投げられた物を受け取って驚く

「これ…邪気電池!?なんでこんなもんあんたが…」

「やばくなったら、噛み砕け! いいな、絶対死ぬんじゃねえぞ!」

「ちょ、はぁ!? なんであんたが私の心配なんか ってちょっと!」

結城鷹逸郎はそこらにあったママチャリを担ぎ、廃ビルの中に消える

「わっけわかんない、本当にあれが『世界の選択』なの?」

いや、逆にああだからこそ『世界の選択』なのかもしれない
他人に影響されない強い意思でもって、この腐った世の中を突き進んでいるのだろう
ピアノはふーっと長い溜息を一つ 崩壊するビル、その屋上から自転車にまたがり飛び込む鷹逸郎

「……前言撤回、やっぱあいつ馬鹿だわ」

死ぬなよと言っておいて自分から死地に向かうとは何事か もはや呆れを通り越して清々しい


75 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 21:50:00 0
「さて、」

あの馬鹿は放っておこう、後々死体が発見されるかもしれないが、その時には自分はここにはいないだろうから
つ、と銀の髪をゆらす女性を睨む 情報によれば『王国』の能力は空間に穴を開ける事
様々な物をそこに取り込み、吐き出したり、短距離ワープのような使い方をしたりすると聞く

「……用件があれば、どうぞ? お伺いします。もっともそれに私が応えるかどうかは、現時点では分かりかねますが」

こちらに気付いた女性が怜悧な顔で聞いてくる
                    マルクト
「…そうね、単刀直入に聞くわ あなた、『王国』って名前かしら?」

「……だとしたら、どうするんですか?」

「あなたのお仲間が、ビルを滅茶苦茶にしてるわ、下手したら一般人も巻き込みかねないほどにね
 止めに入る気は無いのかしら?」
                  イェソド
「私なんかでは、止められませんよ『基礎』は 彼、馬鹿ですから」

仲間の悪口をさらりと言ってのける

「とりあえず、あなたは何をしにここに来たの?『世界の選択』だったら、とっくに死地に向かったわよ」

「見えました、馬鹿ですね たぶんあれで『基礎』を怒らせたと思いますよ」

「それは同意するわね で、質問の答えがまだだけど?」

「………貴方に、言う必要はありません」

「Yウィルスの虚言をばらまいたのは、あなた達かしら?」

「それは違います、おそらく『世界政府』でしょう
 ヨコシマキメの事件以来、彼らは随分と実力行使に出てきました。困ったものです」

(ヨコシマキメ、創世眼事件ね… そこから動きが始まったとなると
 基督教大学、基督教… そして枢機院、なるほどね 『創造主』、か
 あの大学をもうちょっと調べた方が良さそうね
 だとすると、世界政府は黙ってないわね… だから、Yウィルス でも、ここ秋葉原は、それに反してたくさんの人が…
 ………なるほど、読めた)

「あなた達、ここをどうするつもり?」


76 :名無しになりきれ:2010/03/21(日) 21:52:52 0

「…どうするつもり、とは?」

「『世界政府』とあなた達『枢機院』は仲が悪いわ 世界政府は実力行使で、枢機院勢力を撲滅させようとしてる
 だから"Yウイルス"という存在をわざと流して、一般人を隔離 枢機院に対応できるようにした でも、ここ秋葉原はそうもいかなかった
 さすがはオタクどもと言うべきかしら、Yウイルスが嘘だといち早く気付いた 2ちゃんねるの情報力は舐めない方がいいわね
 でも、これは世界政府にとってはいい事じゃなかった 枢機院がこの穴場を逃すわけがないわよね
 ……あぁ、この近くに魔法反応があるわ、魔方陣でも描いてるのかしら? 何か召還するのかしら、もしくはこの街を焦土にするとか
 Yウイルスを、本当の出来事にするとか――そうすれば、世界政府をピンポイントで混乱できるでしょうしね」

「……あなた、名前は?」

「ピアノ=ピアノ 特務機関『オーケストラ』の情報部所属よ」

「それはカノッサの傘下のはずですが…」

「ええ、カノッサは枢機院を知らないわよ 私独自の情報収集」

「……」

「図星、のようね 悪いけど、私は一般人を巻き込む戦争はしたくないの 65年前のあの惨劇はもう充分よ」

王国は、ふう、とひとつ息を吐くと、怜悧な顔のままピアノに向き直る

「ピアノさん、残念ですが、私は『実行前に計画を知った者』を抹殺するよう指令が出てます。つまり…
 貴方には、ここで死んでいただきたい所存です」

「ご丁寧にどうも そういえば、日本のブシドーでは戦う相手に名前を言うらしいわ 私も言ったんだから、あなたも自己紹介したら?」

あのヤクザっぽい婦警のおかげで辺りに人影は見あたらなくなりつつある

「…私は『生命の樹』第10のセフィラ『王国』のマルクトです。 以後、お見知りおきを」

久しぶりに、本気で戦った方が良さそうだ

77 :名無しになりきれ:2010/03/22(月) 22:28:02 0
「そのような言い草は……感心出来ませんな」

『節制』の吊りあがったオッドアイは、確かに『魔術師』を眼光に拠って射抜いた――が。
彼は心底驚いていた。
何にか。
ギリシア彫刻すら顔負けして尻すぼみする肉体美を持つ彼の、そんな印象を抱かせる筋肉。
いや、違う。注視し注目し注意し注記し注進し注思すべきことは、肝心なのはそこではない。

『節制』のローズオーラ、アクアオーラ、アメジストの色を持つ三つの瞳。
『魔術師』の瑠璃や蒼玉のように青いまなざし。
針よりも鋭い五つの光が、互いに重なり交わり貫き合う。
それが出来た、ということはどういうことか。

(ふうん……軽く恐怖を植えつけるくらいの勢いの『制限』を付加(ツ)けたってのに。
 やっぱり只者じゃあないわけだ。良ーい目をしているよ、『吊られた男』)

軽いとは言えども、意志のみで『節制』の邪気――効力は暗示程度だが――を跳ね除けた、ということ。
『節制』の眼である『制縛眼』は『禁止と制限』の眼。
禁止を何もさせない頑強な鉄鎖だとすれば、制限は押さえつける程度の荒縄。
『気力と反発の制限』という小さな制限だとしても、その制限は確かに誰かの抵抗を縛り付けてきた。
だが、この男は――確かに、睨み返してきた。
内心ではどうなのかなど知る由も聞く事も無いが、確かに意志で邪気を退けた。
『節制』は素直に称賛したくなるが、まだ退けない。退いてはいけない。
もう少し、この状況下の中で、彼の行動を試したいがために。

『魔術師』の視線が僅かに逸れた。
何事かと思う前に、『皇帝』のいっそ素晴らしい具合のふてぶてしい帰還の声が鼓膜に響く。
続いて先程から『節制』の心中では褒め言葉を送られている『吊られた男』と、その人形の従者も苑の空気に触れたらしい。
しかし此方に干渉することなく、『節制』も彼らから気を逸らして元通りに『魔術師』との睨み合いに力を入れた。

幾分経過したか、いや幾秒と経っていない筈。
じりじりと夏日に肌を焼かれるのに似た時間感覚と隔靴掻痒。
睨み合いは長きに渡っているようで、その時間は自身が16×55を解くよりも長くも無く。
青年は、只管に只管に次の言葉を待ち続けて――

「……だぁああああ! まどろっこしいなあ畜生! つーかテメエ! もうちょい言い方ってモンを考えやがれ!」

――遂に聞けた、と思ったら。
虚を突かれ意表を突かれ度肝を抜かされた。
何に?瞳を紅に染めたことではない。
突然すぎる性格の変更変改変換変化。
要するに、行き成り怒鳴られたのでびっくりしたということだ。

「テメエも見てただろう、コイツの能力をよお。だったら、分からねえか?
 このガキは、生きる気概さえありゃどんな怪我だって治せるんだ。
 ……だが逆を言えばよお、そんなスゲエ力を持っていても、コイツが生きたいと思えなきゃおしまいなんだよ」

「……へぇ、そう」

78 :名無しになりきれ:2010/03/22(月) 22:30:00 0
さも今初めて理解したとでも伝えたそうに口元が歪む『節制』。
男の無力さをせせら笑うようでもあり、少女を嘲るような笑いでもあり。
その小憎らしさが一層の激情の加速を促したか、険しく険しく細められた『魔術師』の目が白いコートの青年を射る。
思わず熱気の噴出すかのような迫力に圧倒されて、『節制』はうすら笑いの顔を消した。

「それをテメエは、言うに事欠いて『尋問したいんだけど生かせてるか』だぁ?
 そのかしこぶったコートと帽子はお飾りですかあ!? 
 あんま寝ぼけた事抜かしてっと、俺様本気でぶん殴っちまうぞ、おぉ!?」

青年を焼き焦がしそうな感情の奔流、感情の爆発、感情の激発。
近くで感じて、それでも『節制』は笑みを浮かべる。
しかし先程の冷笑とは違う、歓喜の微笑が。

十分。
さてどうやって怒りを静めようかと思考の堂々巡りを始めようかとした『節制』だが。

「……私は、生きてます」

聞こえた、か細い可憐な声。
場所は『魔術師』、腕の中。

「……尋問も受けます。隠し事も、しません」

そこには似顔の似合う可憐な少女。
気付いた『魔術師』、見つめ合い。

「貴方の為に、私は何だってしますから。ただ一つ、私に貴方を愛させてください」

少女は『魔術師』を見つめて、花のような笑み。


言葉を失ってしまった『節制』は、手袋の無い右の人差し指で頬を掻きつつ再び言葉を思案する。
目の前に広がる光景はまさに美女と野獣……否、美少女と筋肉美とでも表した方がとてもしっくり来る。
見詰め合う少女と大男は、何処か絵になる美しさを辺りに振り撒いていた。干渉し辛い雰囲気とともに。
十数秒後、結局痺れを切らした『節制』が声を掛ける。

「あー、えー、コホンコホン」

声を、というか咳払いで注意を引く。
出くわしたことなど皆無であり、またこれからも皆無であろうこんな現状を打破し踏破するために。
が、先程なんとも不躾な発言を行った身である彼は、大男の鋭い視線の矢に貫かれた。
それでも此処で怯むと収拾が付かないと思い、また一歩『節制』は踏み込む。

79 :名無しになりきれ:2010/03/22(月) 22:31:36 0
「純愛中のところ申し訳無いけど……お話、聞いてもらえるかい?ほら睨むなよ睨むなよ『魔術師』。
 煩くなりそうだから先にお口にチャックさせてもらうから、ほれ『開口の禁止』」

指が鳴ると同時に、ぐいっと強制的に強引に無理やりに『魔術師』の唇が真一文字に結ばれた。
幾ら開けようとしても、意固地に操られた唇は頑なに当人の意志を拒み続ける。
対して『スマイリィ』の唇は柔らかそうなまま、驚きの面持ちで薄く開かれていた。
ちぐはぐな二人に苦笑いを送りつつ、『節制』は言葉を続けていく。

「かしこぶってる、かあ。いやあ、全くもってその通りなんだよねえ。
 実の事を話すとだなあ、俺は12の頃から学校に行ってなくてねえ……半分学無しのプー太郎なんだよ。
 コートと帽子は俺の趣味。だから――――」

眼を閉じて、すぅ、と多過ぎなく少な過ぎない空気を吸い、酸素を取り入れる。

「――お飾りで悪かったなあこの野郎!
 人の劣等(コンプレックス)の傷押し広げやがってコンチクショウ!!
 どーせ俺は学無しで頭の悪い馬鹿ですよーだあ!
 あーっとすまないまた話を間違えた。んでさあ、さっき俺は言ったろう?『嫌な言い方』ってさあ」

カッと見開いて、少しばかりの怒りと稚拙な罵倒を見せた後、感情はコロリと流転する。
『節制』は悪びれもしない謝罪を口にし、直前の立腹など欠片の欠片の欠片もなかったかのような話題の転換を行った。
両の手のひらを天に向けて、困ったものだとでも言いたげに首を振る。

「こんなナリでも俺は此処の幹部の一人だからねえ、あーいう言い方でもしなきゃ……威厳かなあ?威圧かなあ?
 兎に角そういうのが出ないんでねえ。人の身一人案じるのにもまどろっこしいことしなきゃいけないのさあ。
 ……とはいえ、失言だったとは思う。だから謝らせてもらうよ、本当にすまなかった」

数秒前の気の無い侘びなどとは打って変わって、誠意を持って頭を垂れた。
端から見ればその内心はわからねど、その格好は誠実に自分の罪を深く染み入っているかのようである。
落ちそうになる帽子に気付いてすぐさま押さえ、無駄を出し続ける口を再び開いた。

「さあてオンナノコ。
 尋問、と聞いて怯えたかもしれないけど――そんなのは建前だ。
 後々行うつもりのはただの質問となんら変わりない。
 黙秘権なる物も与えよう。なんなら嘘をつこうとしたって構わない。
 ……ま、嘘発見器以上に確定的な、俺の『眼』でそれは排除させてもらうけどねえ。
 言いたいことはこんなもんかな、生存も確認できたし……あ、そうそう最後に『魔術師』。

 ――気に入ったぜ、その意志(チカラ)とその性格(ココロ)。頼りにさせてもらうよ」

漸く長々とした口上を終えると、『魔術師』に掛かっていた自らの邪気の魔術を解き放つ。
自分の席に座るべく、『節制』は解放の確認もせずに後ろを向いて歩き出した。

80 :名無しになりきれ:2010/03/26(金) 01:50:06 0
保守ッ――!!

81 :名無しになりきれ:2010/03/26(金) 12:20:24 0
「さて‥‥『魅』せて貰おうか。君の『生』と『死』を‥‥」
「お望みとあらば……『観』せて差し上げましょう! ただし、私の『生』と、あなたの『死』でよろしければ、ですが!」
その言葉がまだ『それ』の耳に届かぬうちに、『理解』エロヒムは動いていた。
対手の視界から消えるほどの高い跳躍から、
「舞台から降りるというのならば――一人で消えなさい!!」
重力を加えた重い踵落しを叩きつける――
「『天の峠』(あまのかさ)!!」
鋼板をも空気のように軽々と切り裂く刃と化した足を、『それ』はただ虚ろに見つめたまま、正中線から二つに割れた。

(……やはり……!)
道路のアスファルトを十センチ以上も抉った足を素早く引き抜きながら、『理解』は確信していた。
『天津風』『天の峠』どちらも効果が無いのみならず、当然あるべき『触れた感触』すらない。
注視するのは危険だが、それでも気をつけて観れば、輪郭が陽炎めいた揺らぎを伴っている。
そして二つに割れた顔の呟きが、彼女の確信を真であると教えた。
「そうか‥‥『命あるもの』たちは戦闘の際、多くが『精神』よりも『身体』に重きを置くのだったな‥‥」
(間違いなく、悪霊(レイス)・精霊(エレメンタル)・霊魂(スピリット)その他の……『非実在精神体』!!)

心を削るような滅びの囁きは依然として放射され続けているが、相手が全く未知の存在ではなく、
文献や伝聞によるものであれ既知の存在に分類(カテゴライズ)出来るという事実が少女に勇気を与える。
「ええ、ですがご心配なく。」
眼前に立つ、名も知らぬ恐怖に向かい一歩踏み出す。
それの放射する霊気を受けて、緑成す長き黒髪が風をはらんだようにたなびく。
胸がやけに重く感じる。年齢平均よりふた周りほども大きいとはいえ、このように感じるのは今まで無かったことだ。
「私は、『命無き者』どもを葬るため、『精神』に対する術をも心得ておりますゆえ。」
世界に害為すものであるという以外、名も目的も解らない存在(The Thing)は、時間の停止したように彼女を見つめている。
目の前にいる『これ』はもしかすると、私が初めて出会う、本当の『敵』かもしれない、とエロヒムは思った。
勝利を確信できない戦いなどというものが本当にあったのか、という新鮮な驚きが胸に去来しているという事実にまた驚き、
そして遥か一億4960万キロメートルの彼方から届く陽光に輝く目を大きく見開いた。
「『ゲイズ・オブ・ジャスティス』(Gaze of Justice:正義の凝視)!!!!」

82 :名無しになりきれ:2010/03/26(金) 12:27:16 0
『正義の凝視』とは、セフィロト第三位に属する『理解』エロヒム最大の必殺技である。
原理的には目に集中させた魔力を視線に乗せて対手へと叩きつける単純なものであるが、次に述べる理由により、味方にすら恐れられる純粋な暴力と化す。
まず第一に、視線に添加される魔力は『創造主』より下賜された『上位管理者権限』に由来するものであり、その絶対量は既知の方法によっては計測不能なレベルである。
第二に、目は古来より魔力の集中する要所として知られている。
世界の神話、伝承、魔道具、あるいは卑近な例として魔除けの小品を見れば、そこに目を象徴あるいは重要なファクターとするものが多いことに驚くだろう。
第三に、魔眼の輝きはただ身体を灼くのみならず、眼球より視神経を通り、光の速さで脳髄へと至り――直接に精神をも破壊する!

それゆえ、『正義の凝視』を放つ瞬間、エロヒムは自らの勝利を、少なくともこの一瞬間に於ける勝利を半ば確信していた。
これ一撃で倒れるほど楽な相手でもないだろうが、少なくともある程度の打撃は与えられるはずであり、
そのことは相手の本気を誘い出すかもしれないが、それ以上に必ずや勝利への道筋を示しだす筈だ、と。

だから、彼女には自分の見たものを理解することが出来なかった。

正義の魔眼が必殺の瞬間に見たものは、ただ一対の目。
それ以外のものは、全て世界から砂上の楼閣よりもあっけなく、目覚め際の悪夢よりも素早く消え去っていた。
『理解』は、ただその目に魅入られていた。世界の主観的な消失すら認識しておらず、感覚といえば頭頂部から林檎の皮を剥くように分解されていくイメージがぼんやりと浮かぶのみ。

ふっと、世界を埋め尽くしている目が薄らぎ、同時に何かが立ち現れた。
それが彼女の立つ現実の世界であり、今まで相手の、おそらくは自身のそれと性質を異にする魔眼による精神攻撃を受けていたのだと認識し、
再び戦闘を始められるように全ての感覚を取り戻すまで寸毫とはかからなかった。
だが、それですら遅すぎた。

最期にエロヒムが見たものは、少なくとも見たと思ったものは、精神の虚無が渦巻きながら噴き出す掌。
二進数で言う0、十六進数で言うF、無彩色の奔流に押し流され、全ての思考が融けていく。



―――すべての死に神話的な意味や偶像的栄光があるわけではない。       ― 名も無き探求者

83 :名無しになりきれ:2010/03/26(金) 15:33:54 0
各々の叫び、それぞれの想い
それは鐘となり、辺りに響き渡る ここが今から戦地となる証のように

「っはあ!」

最初に動くのは当然のようにレイだ
瓦礫の散乱した床、しかしそれをもろともしない安定した走り

「あァ? さっきと同じ手かァ!?」

「な訳無いだろう」

イェソドが爪を振りかぶるより前に応える
同時に跳躍、跳んだ先にあるのは、当然天井だ
先ほどの衝撃でひび割れ、脆くなったその部分

「祭ノ囃子【砕銀】―――」

そこに

「―――《竜撃砲》!」

爆発にも似た斬撃を叩き込む 一方向に噴射するように放たれる漆黒の爆炎
その衝撃と斬撃が、天井をさらに崩壊させた

「ヌルいなァ!」

降り注ぐ岩塊を、イェソドは片手のみで弾いた、その余波は未だ中空にいるレイにまで及び、

「っく…」


大きく吹き飛ばされる 幸い最初の一撃ほどではない、難なく受け身をとり構え直す

「夜天連刃【月流】!」
間髪入れずに次の一撃 漆黒の弧群が流れるように飛来する

イェソドが避けたか弾いたか確かめる事も無く
「暗夜槍【宝樹】!」
撃ち出される一本の槍、それは飛ぶ中で枝分かれし 枯れ木のように広がる

「っふう…」

一瞬の間に三発の技、息もつかせぬ連続攻撃が 彼女の戦い方の基本だ
わずかに息を荒くしているが、刀を上段に構えたままの姿は歴戦の剣士の風格が漂う

「うぜェ、うぜェよお前 さっきから隙無く攻撃しやがってよォ…!」

しかし、それほどの攻撃を受けてなお イェソドはほとんどダメージを受けていない様子だった
その巨体の所々に切り傷はあるものの、すべて軽い、皮膚を切った程度しかない

「…硬いな」

「硬い?ふざけんな、あれだけ弾くのは俺も骨が折れんだこのクソアマ」

「……」

弾いた、あれ全てをか 力だけではなく、反射神経もかなりのようだ
……まあ、あの程度で死んでしまってはこちらもつまらないのだが

84 :名無しになりきれ:2010/03/27(土) 08:26:41 0
「読みが甘いよ、おねーさん。デバイスもなんでこんなんに負けたのかなー?」

 跳躍を終えた少年はぐしゃりと音を立てて空の楊枝ケースを踏み潰す。
 左眼を抑え蹲るステラの姿に、サディスティックな笑みを浮かべた。

「まー、この分ならそんなに苦労掛からなそーだね。目も潰したし、次は耳あたりかなー?」

 言いつつ、背中の物入れから二本目の物差しを取り出す。
 それは切れ味の付与の無い、本当にただの、竹定規。

 駆け出す。彼はステラの間合いに入る少し前に体に軽い捻りを加えた。

 そうした動作と同時に手元の定規の「重さ」を少しずつ付与する。
 いわゆるハンマー投げの要領で、彼は竹定規による重量級の一撃を叩き込んだ。

 ステラと物差しと交錯しようとした刹那、『コンフィング』の網膜を激しい光が襲った。

「――『フォトンレーザー』!」
「くっ!?」

 物差しの先端に手応えは感じられず、代わりに腰元へ鈍い痛みが走る。
 彼女の指先から放たれた微かなレーザーは、だが迂闊にも接近戦を選んだ『コンフィング』へダメージを与えた。

 傷元を抑える。幸い臓器へのダメージは無いようだが、それでも動作に支障が出るほどには喰らっている。
 再び彼が目をやった時には、彼女は既に研究棟への逃避を図っていた。

「…あーもー、面倒くさいなあ」

 腹部を抑えて軽い舌打ち。
 適当な止血を終え走り出そうとした彼は、しかし足元の重さに違和感を感じた。

 得てしてそれは足の不具合などでは無い。
 衣服に焦げの目立つ『プロブレム』が、彼の足を引っ張っていた。

「ん?…あー…『プロブレム』かー。どうしたの?ずいぶん煤だらけだけど…」
「五月蝿ェクソ外道ッ!テメーのおかげでコッチはほぼ直撃なんだよォッ!」

 先の「アストラルフォール」による超レーザー攻撃。
 彼は自身の持てる切れ味を用いて物陰を「作り出し」て防ごうとしたが、それでも天から降り注ぐ太陽ビームに敵わずほとんど喰らっていた。

 リーゼントの焦げた匂いに顔を顰める。
 しかし一転、『コンフィング』はこの状況下で明らかに嫌味にしかならないであろういい笑顔で答えた。

85 :名無しになりきれ:2010/03/27(土) 08:27:28 0
「まーいーじゃない、細かい事はさー」
「細かいっ!?かなり故意的に致死の予感漂わす極太レーザー喰らわせる事を細かいっつったかテメエ!?」
「レーザーはこっちだって喰らってるんだしさー。細かい事いいっこ無しでしょー?」
「だぁぁぁ!チキショウなんだって上はこんなヤツ寄越しやがったんだよォォッ!」

 『プロブレム』が吼える。
 彼はそれを意に介さぬように研究棟を見やり、足元の男を蹴り上げるようにして無理に立たせた。

「それはともかくさ、仕事頼むよー」

 その言葉に、生まれ持ったヤンキーメンチで対応する。

「…今の俺がテメエの言う事なんぞ聞くと思ってんのか?ああ?」

 傍から見ると「小学生をカツアゲするシャバい不良」にしか見えない。
 しかし『コンフィング』は表情を崩さず、あくまで抑揚の無い冷徹な声で語る。

「聞くよ。だって今の君は「一度任務に失敗している」んだよ?」
「ぐっ…」
「その尻拭いのために僕は呼ばれた。今君が生きているのは、言わば僕の慈悲。そもそも君が逆らえるはずが無いんだよー?」
「…クソ外道…!」

 ぎり、と歯噛みの音を立てる。
 彼はそんな青年の様子を、とても楽しそうに眺めていた。

86 :名無しになりきれ:2010/03/27(土) 08:28:50 0
────世界基督教大学研究棟

 大学というには語弊があるのではないかというほどに、そこには人影が存在しなかった。
 まるで意図的に排除したように──さながら、「ここで戦ってください」と言わんばかりに。

「…気が利くね。僕等【枢機院】に対してとても協力的じゃないか」

【枢機院】──そもそもその名を知るもの自体、裏の世界でもそうそういない。
 常にカノッサという巨大機関の「影」であり続けてきた組織それが【枢機院】である。

「ここは世界基督教大学…うん、ひょっとすると僕らは、とてもいい場所で戦っているのかもしれないな」

 にやり、と口元だけの笑みを覗かせる。

「どんなに嗜虐的な始末の仕方でも、悲鳴を誰にも聞かれない──それは本当にいいことだね」

 くつくつと妙な具合の笑みを浮かべつつ、辺りを見回す。
 あの邪気眼使いの服装は殊更特異だ。こんな人気の無い場所であれば見つからないはずが無いのだが───。


「…参ったなあ、まだ遠くには行っていない筈なんだけど…」

 それらしい人影は見つからず、かといって傷つけた「眼」から発する血の匂いもない。
 『コンフィング』は辺りを数度見回すと、やれやれと呟いて壁に寄りかかった。


「いざとなったら『プロブレム』を使えばいいや──」


 彼はひとまず捜索することを止め、その場で「餌」の到着を待つ事にした。

87 :名無しになりきれ:2010/03/27(土) 08:30:48 0

「……納得いかねェ」

『コンフィング』の後姿を見送った『プロブレム』は、向き直って唾を吐き棄てた。

 そもそも「リッパトリッパー」の能力故に常に先陣を切り、部隊での地位もそう低くはなかった彼が、
 どうして「重さを操る」程度の能力しか持たない少年に顎で使われなければならないのか。

「…どうでもいい仕事押し付けやがって…なーにが「僕の慈悲」だバカ野郎ッ!」

 怒りに任せて立ち木に握り拳を叩きつける。
 彼が『コンフィング』から受けた依頼は一つ、【人質の確保】であった。

 人質となりえる人物は、例の白衣の研究者。
 彼女の協力者と思われる男を人質に取る事で、確実に事を進めようという魂胆であった。

 『プロブレム』は文句を呟きつつも白衣の男へ歩を進める。
 念のために切れ味の付与されたそこらの小枝を片手に、少し嫌な目つきをしたその男に語りかけた。


「…よオ、オッサン。突然で悪ィが、俺と一緒に来てもらうぜ」


彼は気づいていない。
メモと鉛筆を携えるその男こそが、この場においておそらく最も厄介な人物である事を。

88 :名無しになりきれ:2010/03/28(日) 13:07:05 0
(半壊のビルに吹き荒れる、一撃と連撃の双奏曲(デュオ))
(レイとイェソドの繰り広げる戦闘領域は暴風域のような激しさで、床や壁を破壊しながらその規模を拡大させていく)
(鷹逸郎は激戦を目に据えながら、自分がいま何をすべきかを考えていた。)

(もちろん、目の前の戦いに加勢することなどできるはずがない)
(ましてやレイも一般人の鷹逸郎相手に、そんなことを期待してはいないはずだ。)

(人にはそれぞれ役割がある。)
(レイはイェソドと直接戦う役割なら、鷹逸郎がこの場において果たすべき「役割」とは一体何なのか。)
                   アシデマトイ
(戦場に戻ってきたからには、『無力な者』となる訳にはいかない)
(それは、鷹逸郎の覚悟が許さない。)
(ただでさえ、レイには鷹逸郎をカバーする戦いを強いている。ここで更なる負担を課すのは絶対に避けなければならない。)

(いまの鷹逸郎に、出来ること。)

……戦えねえなら…………。

(あの凶暴な威力に真っ向から対峙するような、直接的な戦闘力にはなれない。それなら…………)

……、…………頭を使うまでだッ!!

(”間接的”な戦闘力となれば良い。)
(幸い「邪気眼」に関しての知識は、曲がりなりにも邪気学の講師を務める鷹逸郎のもっとも精通するところ)

(すなわちその知識を総動員して、イェソドの有しているであろう「異能」、その弱点を見極める。)
(この場に限って平易に言い換えるならば、レイが「身体」の役割を、鷹逸郎は「頭脳」の役割を果たすということ。)

(肉体派の鷹逸郎は、頭を使うことはさほど得意ではない。……だがそれも、「邪気眼」のこととなれば話は別だ。)
(幼き時分より憧れていた、能力者たちを巡る「非日常」の世界。)
(実際の関わり方は憧れとはほど遠いものとなってしまったが、憧れの年数分溜め込んだ莫大な異能の知識は、その脳髄(アタマ)に敷き詰めてある!)

――――これが俺の戦い方だ、イェソドッ!!!

(豪速の如き振るわれるイェソドの一挙手、一投足を注視。どんな細微な動作も見逃さぬよう)
(イェソドの攻撃はレイが捌いてくれている。鷹逸郎は背を預けるつもりで、ただひたすら分析に徹するのみをすればいい。)

(そうして、幾秒か経った頃――――。)


…………、は?


(その分析結果に、思わず、呆けた声を出した。)


89 :名無しになりきれ:2010/03/28(日) 13:09:30 0

(事は単純だったのだ。)
(壁を突き破るほどの殺人的な跳躍力、超速の剣戟すら片手で弾く反射神経、そして戦車砲の如き破壊力)
(それらを実現するのに、何も「複雑なシステムの異能力」など必要ではなかった。)

(そう。)
(ただ、力があればいい。)
(如何なる堅き物も粉砕し、如何なる速き物も迎撃し、如何なる強き物も破壊する、圧倒的な”力”があれば良い。)

(ただ、ソレだけがあれば、いい。)


レ、……レイッ!! そいつッ――――”力”を操る能力者だッ!!


(最初から答えは、他ならぬイェソド自身が高らかに叫んでいた。)
(『力は全ての「基礎」だ』、と。あれはイェソドの異能、そしてイェソドの本質そのものをもそのまま現していたとしたら?)

(高く跳ぶ時は、跳躍”力”を上げた。)
(素早い物を見る時は、動体視”力”と反応”力”を上げた。)
(分厚いコンクリの壁を壊す時は、自身の攻撃の破壊”力”を上げた。)
(そして、先ほど自身の筋肉をバンプアップした時は、自身の筋”力”を上げた。)

(だとしたらなんという単純明快な能力。それでいて、完全無欠な能力なのか。)
(例えるなら、ただ頑丈なだけの一枚の鉄壁。単純だからこそ、突破口がない。こんな能力相手にどんな戦略を組み立てれば勝てるというのか。)
(……いや、あの男は言っていた。罠も、戦略も、小細工も、…………圧倒的な”力”に呑み込まれれば、ブタの役にもならないと。)

(その限定効果や効果範囲はまだ分からない。例えば、どんな攻撃も効果をなさないあの肉体。)
(あれは自身の身体の耐久”力”を上げたことによるのか、それとも相手の攻撃の殺傷”力”を落として実現させたのか。)

(いずれにせよ、…………まさしく、圧倒的な力。これが、『基礎』。)
(ガギィ、と、レイの神速の剣戟を片手の”鉤爪”で受け止めたイェソドは、鷹逸郎に向かって獰猛な狂笑をもって反応した。)

「……ハッ。流石、ガキの頃から学んでただけはあるじゃねェか。いいねいいね、及第点及第点。
. だが…………まさかそれで、オワリか? ダメだダメだ、不十分だ。それじゃァ『マスターピース』にはなれねえな」

………は!? な、何言って……!!?

(何を言っている、この半裸男は。)
(『マスターピース』に、なる? 一体何のことだ。鷹逸郎の脳内にひしめく膨大な情報をサーチしても、そんな用語は見つからない)
(それに、……”ガキの頃から学んでた”? どういうことだ。どうしてアイツが、自分の子供時代のことを知っている……!?)

「さあて。……そんじゃァジリ貧だしそろそろ、ちょくちょく”力”上げていきますかねェ。
. 気を付けな、女剣士さン。そのカタナ、刃こぼれしちまわないようによォ……!! ククッククククククク!」


(くぐもった笑いを漏らす、イェソド。)
(そのまま両腕の爪を顔面前でクロスしたかと思うと、……ググッ、と腰を屈める)
(鷹逸郎が突入する寸前、イェソドがレイに向かってしていた「構え」。…………レイが死を予感した、あの「構え」。)


90 :名無しになりきれ:2010/03/28(日) 13:10:53 0


「『旧世界』時代に親友が一人いたんだが、ソイツ、”森”の連中にやられちまッたみてェでなァ。
. あんなヤツでも一応ダチだから、分かりやすい形でアイツの存在を残してやろう、ってことで編み出した技だがァ、……余談だな、まあ喰らッとけ」

(ゾクリと)
(異能の力を持たないはずの鷹逸郎にも、……あまりに分かりやすく、背筋に悪い冷たさが走るのを明確に感じた。)
(間違いない。喰らえば、死ぬ。「逃げろ」と脳が指令するより早く、なりふり構わず鷹逸郎は全力で駈け出した。…そして、レイに飛びかかる。)

レイッ!!! 伏せろぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!

「ハッ! 今度はてめェが捌いてみろ、咲き乱る刃の花吹雪――せめて死に花に骨粉ぐれェは遺してやるからよオッ!!」

(鷹逸郎が、レイに触れるか触れないか、寸前)
(イェソドの腕が、消えた。………否、ブレている。画面に焼けついた残像のように。…これは果たして、人間に可能な速度なのか)

(音速すら超えたその斬撃は、弧を描く光となって中空に顕現した。)
(その数、一瞬の内に一、二、四、八、十六、三十二、六十四、百二十八、二百五十六、五百十二、千二十四、二千四十八、四千九十六、八千百九十二、一万六千三百八十四...)
(数が意味を失うほど限りなく加増する死の煌めき。形容するなら、まさに「百華繚乱」)

(イェソドが何かを引きちぎるように両腕を全開し、そして)
                                        The Stock Of Balesparene
「クヒッハッハハハアハハハッハハハハハハハアアッッッ!!! 『華 刃 繚 乱 の 血 統』ッ!!!」

(百華が、散った。)

(無数の細かな、しかし確実な致死なる圧倒的斬撃は、春の終わりの桜のように軌道乱れて吹き荒れる)
ヤイバ   マイ マイ
(花弁の一撃一撃が骨身を砕く必殺。)
(一撃でガラスは砕け散る。)
(一撃で壁には大きく深い亀裂。)
(一撃で床には蜘蛛の巣のようなヒビが走る。)

(地獄絵図。)

(こんな猛攻、誰が死を覚悟しないというのか。圧倒的物量にして、圧倒的破壊力。デタラメだ。度を超えている。)
(世界中の火器兵器を寄せ集めても太刀打ちすら敵わない。果てはどんな異能さえ呑み干してしまうかもしれない、あまりに大いなる”力”の奔流。)
(それこそがイェソドの基礎。それこそが、イェソドの本質。)

(――――やがて、嵐が過ぎ去り。)
(もしあの猛攻を生き残ったのなら、レイはきっと辺りを見渡すだろう。そして、その惨状を目の当たりにする。)
(壁はまるで鼠にかじられたボロボロのチーズ。大窓は残らず破砕され、床にいたってはヒビどころか、ところどころ大穴が空いている始末)

(そうして、確認するだろう。)
(鷹逸郎の不在を。)

「……言ったよなァ、今度こそ幸運すら握りつぶすって。…だがグロッセアの野郎なら、この程度じゃァくたばらねェぜ?
. …………さァて、それじゃァ続きといきますか。……まさか、これぐらいで音を上げる訳じゃねェよなァ?? クックククク!!」

(地獄の宴が、始まる。)

91 :名無しになりきれ:2010/03/28(日) 17:53:15 0
「レイッ!!! 伏せろぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

少年の叫び、振りかざされる鉤爪


瞬間、世界がブレた


弾ける鉄片、飛び散る岩塊 そして、暴風のように吹き荒ぶ悪魔の花弁

そういえば、春になると、いつも日本で桜吹雪を見に来ていたな…

唐突に思い浮かぶのは、過去
それは、死の前兆
体が宙を舞うのが分かる、肩が、腹が、太腿が千切れるのが感じられる
そして強かに背を打ちつける
イェソドの一撃目を受けたレイも受け止めてくれた壁は、もはや原型を保っているのが不思議なほどだ

そういえば、追われているときはいつもこうして壁に背を預けていたな…

遡る記憶 これが走馬灯というものか
終わりを告げる無慈悲な嵐 しかし、もはや体は動かない
腕を見れば、清潔感あふれるワイシャツは、赤黒く染まっている

そういえば、最初のワイシャツは、父から貰ったものだったな…
ヨレヨレのブカブカだった父のワイシャツ 今着ているものと同じ真っ白のものだった

前を見れば、イェソドがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる

そういえば、こんな光景前も見たな…
揺らぐ視界 イェソドに重なるのは、懐かしい中年の男

「お父、さん…」

刀匠眼を持つ、レイの父親 今は亡き、尊敬すべき父の姿が、そこにあった
ふと、自分が抱きしめられてる事に気付く 振り向けばそこには

「お母さん…」

母の姿、ポーチの中の薬たちは、すべて母の能力"薬理眼"によるものだ
懐かしい、本当に懐かしい両親の顔 自然と、涙が零れた
両親が死んだ時には流さなかった熱い雫が、頬を伝う

「泣かないの、あなたは強いんでしょう?」

母がそっと頭を撫でてくれる くすぐったくあり、その温かさがとても心地いい

「そうだ、それに、今はそんな場合じゃないだろう?」

父がそのゴツゴツとした手で涙を拭ってくれる 生粋の鍛冶屋の手だ

「黒爪の調子はどうだ?ん?」

「あら、今はそんな場合じゃないでしょう?」

二人は楽しそうに笑う 黒爪を作ったのは他でもない父だ

92 :名無しになりきれ:2010/03/28(日) 17:54:43 0

「さて、レイ 今から、君の名前の由来を話してみようか」

父が私に目線を合わせてくる 吸い込まれそうな漆黒の瞳、私と同じだ

「君の最初の名前は、由宇・アークウィルって名前だった。かなり頑張ったんだぞ?
 けれど、時を経るにつれ お前はその名前に似つかわしくないやんちゃな子に育っていった」

「その頃から、あなたは足が速かったわ 私が追いつけないくらいにね」

「だから、玲って名前に変えた 名前を変えるなんておかしいと言われたが、名前と性格があってないんじゃ可哀相だからな」
 さらに玲って名前には英語のRay、つまり閃光だ それと掛けてる 光のように素早い子 ふふん、なかなか凝ってるだろう?」

父は得意げにニヤッと笑う

「そして、クロウ これはお前も覚えてるだろう… 俺たち二人が殺された夜だ」

「……」

覚えている、思い出したくないが、覚えている
ドイツのオルデンブルクに滞在してた時だ、何者かの襲撃を受けた
一方的だった、あの父が あっけなく殺された 母も、同様に
私だけが、生き残った 血の香りが充満する部屋で、ただ震えてた
そして

「息も絶え絶えな俺は、レイに黒爪を渡した そしてこう言った『あいつらを許すんじゃねえ、これで、奴らを狩る鴉(Clow)となれ』
 若かったお前はClow(鴉)とCrow(爪)を間違えたかもしれんが、まあ、んなこと気にしてられんかったからな…
 そして黒爪にはこう言った『お前は、こいつの爪(Crow)となり、狩りをする武器となれ ってな』 あー、今思うと邪気邪気しい言い回しだ 死にたい」

「あら、もう死んでるじゃありませんか」

よく分からない冗談をいいまた笑いあう二人

「なんで、なんで鴉なんだ…?」

ここでやっと、レイが声を絞り出した。 それは純粋な疑問、子供が大人に向けるような問いかけ

「あいつらの腕には、総じて黒いドラゴンの刺青があったから…だな
 黒いドラゴン、ドイツ語で"Ein schwarzer Drachen" これは日本語で"鳶"を意味する 鳶の天敵といえば…鴉だ」

「あんな状況でも、そういう事に関しては頭が切れるのよね、あなたは」

今まさに死にゆく状況下でそこまで考えられるなぞ並大抵のことではない やはり父は凄い人……なのだろうか
しかし笑いあう両親を見ていると、そんなことはどうでもよくなってくる 母の胸に背を預け、自分を抱く両手をよせる
自分と同じ、真っ白な肌 これを見ると、やはり私はこの二人の子なのだなと実感する

「さ、そろそろ時間だ、レイ・クロウ・アークウィル 鴉のように狡猾に、閃光のように高速に ドラゴンを狩るんだ
 圧倒的な暴力で人々を苦しめるドラゴンを、悪魔の使いである鴉が狩る 格好いいじゃないか」

「相変わらず、最後まで頭が切れる人ね」

二人が立ち上がる 私も、ゆっくりと立ち上がる

「おっと、そうだ 最後に黒爪、レイを――――」


93 :名無しになりきれ:2010/03/28(日) 17:56:43 0
視界が晴れる 立っている場所は、崩壊したビルの一室

「……言ったよなァ、今度こそ幸運すら握りつぶすって。…だがグロッセアの野郎なら、この程度じゃァくたばらねェぜ?
. …………さァて、それじゃァ続きといきますか。……まさか、これぐらいで音を上げる訳じゃねェよなァ?? クックククク!!」

イェソドの立ち位置は変わっていない どうやらあの時間はほんの一瞬だったようだ。

「ああ… まだ終わっていない いや、これから始まると言うべきか」

体の血は止まっていた 母が止めてくれたのだろか、幽霊はあまり信じていないが これからは少しぐらい信じてもいいかもしれない
しかしワイシャツは、どす黒く染まったままだ いや、逆にこれでいい 白い鴉など、鴉ではない
黒爪はまたブルブルと震えだす――そういえば

「黒爪、お前最後に、何を言われた?」

刀は答えない、手から流れ込むのはニヤニヤとした笑いの感情

「ふん…これが終わったら、聞かせてもらうぞ」

レイは夜行の刀身を構える さあ、地獄の宴に見合う舞踏を始めようか 銀爪のドラゴン君

94 :名無しになりきれ:2010/03/30(火) 21:38:31 0
自由騎士から返事が無い……だから、自分の分を書く!
代行お願いします

「……生協? ……ああ、成程。確かにあそこなら……売るかもしれない」

侍から視線を外し、食事を摂っている騎士からも視線を外し、下を見ながら呟く黒野。
彼女は普段そこを利用しないので時間が掛かったが、どうやらこの大学に存在する
品揃え抱負な……悪く言えば、節操無く何でも売る生協の存在に思い至ったらしい。

(……ん。となれば、剣を探しているというのは本当なのか……いや、そうだと
 しても、なぜこの大学に侵入してきたのかが解らないな……)

そうして下唇に人差し指の腹を当てながら、騎士に剣の在り処を伝えるべきか
どうかといった様々な些事を考え込む黒野に、再び侍が話しかける。
そして
疑問が解消した今侍が告げるその言葉は、当然の事ながら今までの様な紆余曲折と
脱線した会話ではなく、黒野と侍に共通する『仕事』に関する問いかけであった。
真剣味を増したその声に応ずる様に、黒野の睡眠中のペンギンの如き雰囲気が
やや引き締まる。数秒ほどの沈黙の後、黒野はため息を一つ吐き

95 :名無しになりきれ:2010/03/30(火) 21:39:26 0
「……ああ。解った。私で良ければ知っている所は全て案内しよう。
 厄介だが……恐らく、教えない方が尚厄介そうだ。
 ……本当は、怠惰に、緩慢に、果実が腐る様に終わって逝きたかったんだが、
 どうにも……いくら『仕事先』が大きくてもそれは叶わないらしい」

そうして、黒野は白衣の胸ポケットからボールペンをだすと学食のテーブルの上にあった
ペーパータオルに
「 剣は ある 生協の 購買に 」
恐らく騎士の生まれた地方の言葉であろうと予測した文字を書き、騎士の前におずおずと置くと

「……ん。この後は授業も入っていないので、すぐにでも君の『案内』は
 できるが……まあ、放課後か今か、どちらがいいかはそちらで決めてくれ。
 私としては、どちらでも構わないので、な……」

集まっている学生の視線に縮こまりながら、黒野もそもそと廊下へと移動を始めた。

もしも侍が黒野の後に付いて行けば、侍は黒野天使の持つ情報を得る事が出来るだろう。
逆に、この場に残るのならば、騎士との更なる交流が叶うだろう。
或いはそれらとは全く別の選択肢を取るのならば……

96 :名無しになりきれ:2010/03/30(火) 23:32:57 0
「さて、と いくわよー…」

両手を伸ばし体を柔軟させる
  トランス
「『変形!』」

掛け声と同時にピアノの腕が変形する
腕が砲身に、肩が弾倉に、鎖骨が衝撃吸収装置に

「体の一部を兵器にする能力ですか… 見かけによらず派手ですね」

「合ってるけどちょっと違うわ! ま、消し飛んで頂戴っ!!」

ウヴォッ!

放たれる光線、この至近距離だ 避けることは出来ない

「――開けよ、ケリッポドの地獄門」

だから王国は避けなかった いや、避けるつもりもさらさら無かった
地面から現れた青銅の門がレーザーを飲み込む

「王国の能力は『空間系』 亜空間の穴を作る、間違ってないみたいね」

「……その情報も自分で?」

「ううん、これは世界政府の情報よ ハッキングはかなり手こずったけどね」

「それも自分で集めた情報に入るんじゃないでしょうか」

「そうなの?知らんがな」

「何にせよ、あなたが邪魔者であることには変わりがありません 開けよ、ケリッポドの――」

「させるかぁ!」

即座に逆の手を機関銃にすると王国目掛けて掃射する

「っつ!!」
                         ケリッポド
王国は両手を顔の前にかざし、目の前に亜空間の穴を開ける

「反転せよ、ケリッポド!」

「!?」

と、王国の目の前に開いた穴が180°回転する、そしてそこからさっきピアノが撃った弾幕がそのまま飛び出して―――!

「っちょ!そんなのアリ!?」

「ケリッポドは現実世界と理が違いますから 開けよ、ケリッポド!」

ピアノの頭上に穴が開き、そこから崩壊したビルの岩塊が落ちてくる

97 :名無しになりきれ:2010/03/30(火) 23:33:55 0
「ふざけてるわね!」

脚部にバネを作り、跳びはねながら落ちる岩を回避する

「でも、穴を開けてるときはあなたは無防備!」

左腕のレーザーガンを放つ

「無駄です、跳ね返せよ、ケリッポド」

さらに空間に穴が開く、レーザーを飲み込んだ穴は、隣の穴からそれをそのまま吐き出す

「っと!」

膝を展開、鏡面装甲を作り出す レーザーを反射させる特殊な装甲壁だ

「撃っても撃ち返されるだけ、か 厄介ね」

「あなたの能力も相当厄介に見えますが… 兵器だけではないですね? 見た感じ、金属でしょうか」
             クローズ
「ほとんど当たりね 『縮小』」

声と共にガションガションと体が元通りになる

「仕舞ってどうするんです?」

「だって撃っても当たらないんだもん 遠距離が駄目なら、近接あるのみよ」

(近距離は、苦手なんだけどね…)
余計なことは付け足さなくていい、今は 目の前の敵に集中するべきだ

98 :名無しになりきれ:2010/04/01(木) 02:49:02 0
「ん?はははどうした姉さん、そんな台所の隅に堆積した汚泥を見るような目をして」

台所の隅に堆積した汚泥のようなメンタリティを誇るパラノイック・ロリコンことヨシノはそうであるが故に、
自分へと向けられた視線に意味に気付けない。一歩踏み出すと目の前の修道女が一歩退き、そして。

「……大丈夫。ヨシノあなた疲れているのよ」

おもむろに拳銃を取り出してヨシノの眉間に突きつけ、何の躊躇もなく引き金を引いた。

「うごッ――!!?」

銃口から飛び出した鎮圧用ゴム弾と額とが見事な邂逅を果たし、頭蓋を揺さぶられながら天を仰ぐ。
そのまま数メートルほど吹っ飛んで、床へと強かに着陸したところでその手に冷たい鉄の輪が施錠された。

「手錠!?神聖なる学び舎でなんつーモン持ち歩いてるんだアンタ!いや待て!平然と黄色い救急車を呼ぼうとするな!」

束縛された両手をぶんぶんと振って自己の健全を主張するが、手錠をかけられた男がわめき散らすというのも現実の認識に拍車をかける。
びしりと虚空をゆび指した。そこでは未だ借りてきた猫より大人しい幻影の幼女が体操座りしている。

「情報源を確保した。邪気眼使いを専門に狙う異能力集団の一員らしいが……『デバイス』、姉さんにも君の姿が視えるようにできないか?」

『……なんでボクがそんなこと。おにいさんは見えない女の子と会話する変態として一生後ろ指さされればいいよ』

「ほほう、一生俺の脳内に居座るつもりなのか。法案が可決されるまでは非実在少女も愛で放題らしいなおにいさんハッスルしちゃうぞ」

『もうやだこの変態ーー!!』

<ブレイントレイン>、と涙目の思念が呟き不可視の輪環が波動となって一帯を駆け巡った。
ヨシノの無駄に思考力に長けた頭脳は二人分の意識を並列させても尚十全に働き、『デバイス』の異能は万全に機能した。
生体脳を介した脳波ネットワークの開設により、ヨシノの脳内に視える幼女の虚像に限り情報が共有される。

『……これ以上ボクにどうしろっていうのさ。異教徒に手を貸すつもりはないからね?』

「異教徒とか創造主とかそんなことはどうだって良い。もとより俺は私情と欲望でしか動かん……!」

『平然と何言ってるのさ!!?じゃあなんでわざわざ周りにボクが視えるようにしたの!?』

「良い質問だ。そう、敢えて言語化するなら――『ウチのワンちゃん可愛いざんしょ』的な?いやあ、どうしても見せびらかしたくてな」

『最低だよこの変態ーー!!』

叱責に耳を塞ぎ、唖然としているのか終始無言なアスラの方を向き、『デバイス』を顎で指した。

「……というわけだ。尋問はアンタの専売特許だったろう、幽霊相手に通用するかどうかは知らんが頼んだ」
 
唐突に弛緩させていた表情筋を戻し、真面目に双眸を寄せて修道女に耳打ちする。

「恐らくはヨコシマキメの『事件』に関連する団体だ。『世界政府』――そう、あのナナフシ男の親元だな」

99 :名無しになりきれ:2010/04/03(土) 00:27:19 0
(――――激痛で目が覚める。)

(床に倒れていた鷹逸郎は、起きあがろうとして生じた全身の痛みに顔をしかめた)
(上から聞こえてくる剣戟の鋭利な音が、霞んだ頭に響いて辛い。)

グッ、……アアッ、…………ッツ…。……何………。

(事は一瞬だった。)
(イェソドの繰り出した大技『華刃繚乱の血統』は、鷹逸郎たち三人がいたフロアの床を一部崩落させた)
(それに鷹逸郎は巻き込まれ、階下に落下した。…そう考えるのが、妥当だろう)

(全身に灼けつくような痛みが走っているのを感じる。)
(どうやらろくな受け身も取れずに、勢いよく床に身体を叩き付けたらしい。)
(周囲に散乱する瓦礫を見るに、これらの一つでも鷹逸郎に落ちて来なかったのは「幸運」と言えるのだろうが)

(痛む首で、天井を見上げる。)
(………高い。一部がボロボロのチーズのようになったそこからは、スポットライトのように光が差し込んで鷹逸郎を照らしている)
(どこか幻想的とも言える光景。なぜだか癒されたような気がして、気力がふつふつと再び湧いてきた)

(関節を動かすたびに暴れる痛みを堪えながら、辛くも立ち上がる鷹逸郎)
(おぼろげな視界に入って来たのは、………いくつもの陳列棚と、そこにずらっと並んだ電気機器の数々。)

(そこで初めて、鷹逸郎は、このビルが電気店であると知った。)
(さっきまでイェソドと対峙していた時に気付かなかったのは、恐らく上階はイベントスペースか何かだったのかもしれない)
(このフロアの広さからいって、ビルは相当な大きさだ。巨大デパート並みと形容してもいいだろう)

(…鷹逸郎が落ちてきた地点の他は、薄暗いヤミに閉ざされている)
(カーテンかシャッターかで窓が塞がれているのだろうか。なんだか、いかにも開店前という様相らしい)
(……奥へと行くに連れてヒカリは姿を消し、ヤミは深さを増していく。広さもあいまって、奥の様子はほとんど見ることができなかった)

(今日は、三千院セレネの握手会のために秋葉原へ出向いただけだったのに)
(そうだというのに、いったいどうしてこんなことに巻き込まれているのか。そのことに不条理ささえ抱くけど)

………ック…、………それでも、…嘆いてたって始まらねえよな。

(……さあ。再開だ。)
(恐れている暇はない。”力”を操るなどという反則級の異能を持つ男相手に、どう立ち回ればレイの力になれるのか)
(慣れない頭を使って、………鷹逸郎は、再び考え始める。)

……まず、アイツの能力の……『効果範囲』だ。


100 :名無しになりきれ:2010/04/03(土) 00:28:02 0
(『効果範囲』。それはつまり、どこまでが実現可能で、どこからが実現不可能か)
(イェソドの”力”を操る能力で考えれば、「能力の対象は任意か、自分限定か」、「増加はできても減少はできるのか」、「対象の細かい範囲限定は出来るのか」など)
(これを知ることで、相手の能力の『死角』が見えてくる。対能力者戦では、この情報が鍵となってくる)

イェソドは、…自分の”力”を増幅できる。これはさっき散々思い知った。
………じゃあ、相手や他の”力”はどうなんだ? …………、……考えにくい、かもしれない。

(その根拠の一つとして挙げるなら、レイとの激戦。レイの攻撃の”殺傷力”を落としてしまえば、もはや善戦も苦戦もあったものではない)
(わざわざ”爪”で受ける必要もないし、自身の攻撃力を殺がれれば流石にレイもその違和感に気付くだろう。)
(それに、イェソドの顔面に自転車の前輪をお見舞いした時、確かな手応えはあった。)

(出来ない。…もしくは、出来るとしても、やらない。)
(後者だとしたらその理由は知るべくもないが、…ここでは、「出来ることと出来ないこと」を知るのが重要だ。捨て置く。)

だとしたら………”力”の減少ってのも、やらねえだろうな。
相手の”力”を操れねえなら、………自分の”力”をわざわざ減らしたって、何のメリットもねえはずだ。

(ここまで分かれば、ある程度の算段は立てられる。)
(…問題は、攻撃をほとんど受け付けないイェソドの肉体だ。いくら策を練っても、攻撃が通らないのでは意味がない)

……次は、イェソドの、………弱点。…………そんなもん、あるのかよ…。

(”力”の増加の限界は分からないが、自身の防御”力”を上げることだって出来るだろう)
(いざという時の絶好な機会を潰されては、一巻の終わりだ。…確実に、攻撃を通らせる「何か」を見つける必要がある)

(……とは言っても、果たしてそんなものが本当にあるのかどうか。)
(ハンパな基礎は応用が利かず、そこに付け入る隙がある。…だが、極限まで高めた基礎なら話は別だ。)
(致命的な『死角』など、ほとんど無いと言っていい。だからこそ、イェソドは第9位などという高位を授かって)


………だい、きゅうい?


(………そのキーワードに、脳内のありとあらゆる「異能」に関するデータが紐解かれた)
(まさか。まさかまさかまさか。……もしそれが確かならば、なるほど。あまりに強力な「異能」の核は、確かに存在することになる)
(…だが、これまでにそれを示した伏線(キザシ)はない。……完全な場当たり勝負。失敗すれば、……レイの命さえ、危険にさらしてしまう)

(…だが、迷っている暇もない。)
(レイにこの「仮説」を伝えて、後は彼女に判断を任せることにした方が早い。)
(それにもし”力”を上げられるとすれば、持久”力”や集中”力”も高められる可能性がある。時間が経てば経つだけ、レイに不利だ)

………やってみるしかねえか………!!

(そうと決まれば、後は行動のみ。)


101 :名無しになりきれ:2010/04/03(土) 00:28:53 0
 イェソドは、切り札をまだ幾つか隠し持っている。

 その一つが、防御”力”の上昇。
 心臓も、頭部も、人体の急所とされるいかなる部位であろうと、それを使ってしまえば貫くことはおろか傷一つさえ付くことも許さない。
 ……こんなものを持っているなら初めから使えばいいのだが、これはあくまで”隠し球”。”隠し球”は、いきなり使ってこそその真価を発揮する。

 ただし、限定効果がある。
 効果範囲が狭く、身体全てには適応できないこと。なので、一撃致死の箇所のみをカバーするのが精々。
 とはいえ、耐久”力”を上昇させた身体を貫く攻撃などこの「異能」を授かってから貰ったことはおろか、出会ったこともない。その点では安心できたが。

 ここで、万が一にも死ぬ訳にはいかないのだ。それでは意味がない。
 命を賭けた戦いを好むイェソドの性根には合わない手だが、任務の為にはそれをも押し殺さねばならない時もある。

 ここまで攻撃”力”を上昇させた攻撃に食らいついて来られる、この剣士の胆力は大したものだ。
 死と隣り合わせのこの場面でヒヤッとさせる斬撃も鈍らず放てているし、この期に及んで更に動きにも殺気にもキレが増してきた。
 イェソドは素直に感心する。普通なら精度も錬度も落ちてくるこの状況下で、ここまで粘れる戦士がいようとは。

 …………だが、イェソドの”力”はまだまだ上がる。
 最大まで上げれば、「旧世界」で彼の有名な”プレート”の器の必殺級である『大陸地殻変動(プレートテクトニクス)』の再現だって不可能ではない。
 大陸一つを動かす”力”を耐えうる物など、地上のどこにあろうか。そんなものはないに違いない。イェソドはそう確信している。

 それに、イェソドの持久”力”も底なしだ。
 元より鍛えていた肉体のスタミナも存分にある。その上、更に上乗せしようというのだから、一日中戦っていたって疲れなど知ることもない。

(つまり…………このイェソドに”力”で対抗しようなんざ、ハナから無理な話だったってことよッ!!!)

 これは、地獄の宴。死の舞踏。
 どんなに足掻いても勝ち目のない、この哀れな女剣士への鎮魂歌。
 作戦では、姿を見た部外者は抹殺することになっている。どのみち、彼女を生きて見逃す義理も道理もない。

 後は、この”力”で徹底的にねじ伏せるだけ。
 どんな覚悟も、どんな想いも、どんな幸福も、どんな願いも、どんな希望も、どんな叫びも、ありとあらゆる全てのものを屈服させるだけ。
 この『基礎』の前に、跪かせるだけ。

(そら、終わりだァッ!!)

 その凄まじい”力”を込めた一撃で、刀もろともレイを砕こうとしたその時、


「レイッ!! こっちだッ、飛び込めッッ!!」


 そんな何処かで聞いたことのある青年の声が、床に空いた大穴の底から聞こえた。

102 :名無しになりきれ:2010/04/05(月) 00:28:23 0
「鴉(Crow)は爪(Claw)をもって戦う… 黒爪、今日ばかりは捻くれてくれるなよ?」

刀は応える、持ち主の意思に
じゃじゃ馬で捻くれ者の相棒だが、こういう場面では素直だ

「鴉は狡猾、狡猾に戦う… 狡賢く戦う…」

そして最後に父が放った言葉 狡猾に、高速に
確かに鴉は賢い、鳥類の中では随一の頭のよさを誇る
木の実を車に轢かせ割ったり、巣作りには木よりも頑丈な金属片をよく使用する
人の顔を認識し、人語や犬の鳴き声を真似、宝石などの光物を盗み、遊びを行う
その知能は霊長類にも匹敵するとされ、はるか南国の鴉には、道具を自作し、それを使うなどという行動もするのだ

と、彼女の顔にくす、と笑いが浮かぶ

「黒爪、お前は私の爪だが、鴉は爪ばかりが武器じゃないよな?」

黒爪が嫌がるようにビリリと震える

「いや、お前の能力は使わせてもらう、というか、その能力が無いと駄目だ
 "斬激の自在化"という能力が、な
 しかし、一発でいけるかどうか… だから、少し力を貸せ、鴉の爪(Crow's Claw)」

言葉が終わったと同時に走り出す ノーモーションからの跳躍
イェソドは反応してきた、どうせまた動体視力を上げているのだろう

103 :名無しになりきれ:2010/04/05(月) 00:29:09 0
「―――影縫」

「!?」

イェソドの驚愕の顔が一瞬だけ見えた…気がした

「っがは!」

右肩に衝撃、壁だ また吹き飛ばされたのかと一瞬感じたが、違う

「てめェ、今何した…」

イェソドの声が左から響く そうか、一応成功か…

「特に、何もしてないさ…」

ふら、と立ち上がる イェソドは少し離れたところでこちらを睨んだままだ

「まだ、加減が分からないか、この軽い体だからな… もっと、弱めないと」

「何グダグダ言ってやがる! 何しやがった!俺の動体視力でも見えなかった!」

「そうか、君の能力でも、見えなかったか そりゃ凄いな」

「てめェ… それで勝ったつもりか? ハッ!笑わせらァ!てめェも制御できてねェみたいだが?」

「ああまだ加減が分からない だから、少年に時間を稼がせて貰うよ」

「何ィ…?」

イェソドが怪訝そうな顔をした瞬間


「レイッ!! こっちだッ、飛び込めッッ!!」


絶望に打ち砕かれぬ声が響く レイは跳躍し、穴の中へ
穴の中に消える瞬間、イェソドに向かいよく通る声で言った
                  レイ
「そうそう、それと私の名前は閃光だ よく覚えとくといい」



104 :名無しになりきれ:2010/04/05(月) 01:58:41 0
「貴方の為に、私は何だってしますから。ただ一つ、私に貴方を愛させてください」
「――気に入ったぜ、その意志(チカラ)とその性格(ココロ)。頼りにさせてもらうよ」

剣呑に満ちた問答は、それでも穏当な着地点を探り当て、彼らを無事そこへと軟着陸させる。
『魔術師』『節制』『スマイリィ』。三者の間に迸っていた不可視の拮抗線が弛緩していくのが分かった。
『皇帝』ですら空気を読んで柱と化す静謐に明けの明星が見え、同じく置物となっていた『吊られた男』は開口する。

「うん。良い感じに良い話として纏まったようだからそろそろ議論を次の段階に移そうか。
 『スマイリィ』女史には情報提供を惜しまない条件で特殊嘱託待遇で厚遇することを約束するよ?」

現状においてアルカナ総意としても情報は値千金、喉に第三の手を移植してでも欲しい代物である。
故に、実質唯一の情報提供者にして内通内応者たる『スマイリィ』の厚遇については異論は出なかった。
彼女によってもたらされた人的被害は『剣』の一個大隊壊滅規模ではあったが、幸い死者もなく遺恨面でも問題ない。

「……さて、まずは今回の防衛戦をなんとか犠牲もなく凌ぎ切れたことに安堵しよう。それにしてもどうしてアルカナの本部が割れたんだろうね?
 ヨコシマキメ崩壊以降ひたすら潜伏に徹していたはずなんだけど。目視で見つけられる場所でもないし」

可能性としては、ヨコシマキメの時点から『楽園教導派』なる機関にマークされ、追転移による座標精査で発見されたか。
あるいは、内通者の存在。最有力容疑者は脱退した『太陽』だろう。ただし、そうであった場合彼女が生存している確立は限りなく低い。
『楽園教導派』は『邪気眼使い』を絶対の敵と認識している。情報を取れるだけ取って用済みになったら殺すなど何の躊躇いもないだろう。

「現状で僕らアルカナにとっての懸念要素は二つある。一つは本拠地の場所がバレてることで、また今回みたいに襲撃があるかもしれないこと。
 今度はもっと大人数で、組織的にとっちめに来るかもしれない。そうなればますます犠牲を払わずに抗うことが難しくなるね?」

「いっそのことこの館ごと俺の転移術でどっかに引っ越すか?ちょいとホネは折れるがやれねえことはねえぜ?」

「うーん、そういうのはあちらさんも予想してるんじゃないかな。大規模な転移術式はそれだけで目立つからね、鼬ごっこだよ。
 それにもう一つの懸念。『楽園教導派』について僕らの知識はあまりに乏しすぎる。まあこれは、『スマイリィ』女史の存在が解決してくれるかな?』

これまでの戦闘で分かっているのは、『邪気眼遣いを駆逐する組織であること』、『特殊な異能を習得していること』、『正義を名乗っていること』。
『世界政府』の名が出てきていることから察するに、一組織に留まらない巨大な存在を敵に回しているようである。

「それらを踏まえて提案なんだけれど、ここらで一つ――攻勢に出てみようか。幸い僕らはそこまで疲弊していない。
 対して向こうは尖兵を使い切り、その防衛に僕らが死力を尽くしたと踏んでいる。間をおかず攻めてこないのが何よりの証拠だ。
 ――となれば、その虚を突かない手はないね?」

相手がアンノウンならば、正体が分かるまで肉迫すれば良い。専守防衛に周りがちなアルカナではあるが、攻めに転じる契機となろう。

「僕が問いたいのは、『スマイリィ』女史、そう、君達はどこから来た?君達の本拠はどこにある?残存兵力は?武装の種類は?異能者の数は?
 ――アルカナの残存戦力で拮抗し得る相手かな?」

おもむろに立ち上がり、円卓の中心まで歩き、振り返る。

「さあ、ここが僕らの分水嶺だ。進んで命を刃に変えるか、停まって天分の定めを待つか。個人的には断然前者を推したいね。
 『楽園教導派』とやらがどんな本質でどんな本懐を持っているかはどうだって良い。だけれど一つだけ、僕は皆に提案するよ?」

退廃的な笑顔。能面のように張り付いたそれに、一度だけ変化が灯る。

ほんの少し口角を開き、犬歯を見せ、獰猛に、笑った。

    アルカナ
「――僕らに喧嘩を売ったことを、後悔させてやろう」

105 :名無しになりきれ:2010/04/06(火) 08:13:10 0
どこからともなく少女の声が聞こえたかと思ったら、目の前に幽霊みたいな存在の少女が座っていた。
何を言っているのか分からないと思うが仕方が無い。彼女自身にも、何が起こっているのか把握しきれていないのだ。

「……へえ。憑かれたのはさっきの?なんというか、アンタもご愁傷様ねえ…」

ヨシノではなく、『デバイス』に向けて同情する。

「…で何つったっけ。邪気眼使いを専門に狩る異能集団?また物騒な話だこと」

苦笑を漏らしつつ、そういえば──と思い起こす。
ここ最近、覚醒前や実力の低い邪気眼使いが次々消されているという噂を知り合いから聞いた事があった。
犯人は邪気眼でない異能を扱い、組織的に邪気眼を抹殺するという。組織名は確か、「枢機」なんちゃらといったか。

十中八九、眼前の少女はその組織に所属する人物と見て間違いは無いだろう。
能力についてはよく分からないが、邪気眼狩りを敢行しようとした挙句憑いた相手がロリコンで返り討ちにあった、ということだ。

「尋問はアンタの専売特許だったろう、幽霊相手に通用するかどうかは知らんが頼んだ」
「え?あれ、私この件に関わる事前提なの?」

そう言いつつも、『デバイス』の前に立つ。
実際の所彼女も「邪気眼狩り」の噂には少し気になる事もあったからだ。

「恐らくはヨコシマキメの『事件』に関連する団体だ。『世界政府』――そう、あのナナフシ男の親元だな」
「レイジン、ね。…それじゃ幼女の妖精ちゃん、2〜3聞かせてもらえるかな。
 1つ目は組織名。アンタらの元締めの名もあるとなお良し。
 2つ目は邪気眼狩りの最終目的。
 黙秘、はしてもいいけどその場合────」

ひょい、と傍らに立つ男を指差す。

「あいつに任せる。肉体的、精神的に最大の恥辱を味わうハメになるだろうね」

106 :名無しになりきれ:2010/04/07(水) 19:36:41 0
―――王も乞食も最後は同じ ―― 悪臭と、腐敗と、非難に囲まれて。
                                      ―― エイリーン・コララーン「遺産」


時間としては短かったが、『そのもの』は満足していた。
何といっても気の遠くなるほど久し振りの戦いだったのだ。
いきなりの熱に浮かされたような鋭い攻撃、そして再びの飛翔からの蹴撃。
最後の『ゲイズ・オブ・ジャスティス』は特によかった。
合わせて不可思の一瞥を軽く投げかけて動きを止め、ゆっくりと、自らと世界に陶酔するような溜めから自我の消去を行うことで危なげなく勝利を得たが、
半ば意識的に受けた眼光は霊気で構成されたその精体を確かに削り取っていた。
だが、ダメージというものすらいまや戦闘と関連付けられているという一点のみで歓喜へと変わる。
人間の形をとっていたものは凝視に四散し、霊気の陽炎から水が染み出すように新たな姿が現れた。
それは残酷な諧謔か、それともさらに忌まわしい意図によるものか、それの眼下に今や一塊の物質として横たわるエロヒムを模したものであった。


そして先程の戦闘はまた、新たな課題をも提供してくれた。
課題とは解決すべき案件であり、解決とは能力の注力であり、注力とは退屈からの刹那的な開放に他ならない。
その新たな課題とはすなわち、今の自身には身体が無く、故にこの世界に住まう『命ある者』たちとの戦闘において若干の不公平が生ずる、ということである。
しかし残念なことに、今この場においては課題は発生したと同時に解決が確約されていた。
身体が存在しないのであれば、得ればよい。
そして目の前には、精神なり魂なりと呼ばれるもの――『そのもの』がそこを占有するはずのところ――のみを欠いた、それ以外は完全な身体が無造作に放置されている。
ならばそれを利用するのが最も理に適った選択である――

吹き上げる霊気によってそれを浮かび上がらせ、あたかも襟首を掴んで持ち上げるような格好を取ったのは、あるいはこれこそおぞましい諧謔心の証左なのかもしれない。
外界と隔離された結界の中に霊気の大渦が巻き起こり、まずは足が、次いで胴が、胸が、首が、頭が、腕が受肉(インカーネーション)先へと煙が如くに掻き消え、
最後に渦巻く霊気が呪文織りの螺旋を描いて新たな一なる存在となったそのものの身体に染み込んでいくと、少女は再び重力の虜となって、両の足で大地へと降り立った。


―――案ずるな。お前がいなくなるわけではない。
                              ―― ディミーアのドッペルゲンガー

「やはり、身体の感覚も覚えていてしまったか‥‥」
少女としてはやや低めの、適切な発声をしたならば異性のみならず同性をも魅了するであろう声は、しかし今や底無き虚無に満ちた空辣なもの。
「忘れていれば、その習得に時間を費やせると思ったのだがな‥‥」
すべてが世の理に反した冒涜的な存在の足は、正確にとある建築物から流れ来る戦いの気配を辿っていた。

「まあいい。ならば今度こそ、公正な条件の元で戦闘を‥‥出来るならば私の消滅を求めるとしよう。」



      すべての死に神話的な意味や偶像的栄光があるわけではない。
      だが、ある種の死にはそれらが――それとももっと悪いものが――存在する。

107 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 21:30:46 0
「貴方の為に、私は何だってしますから。ただ一つ、私に貴方を愛させてください」

少女の告白は『魔術師』の思考を巡らす歯車を、瞬く間に錆び付かせてしまった。
突然の事に彼は酷く狼狽し、挙句には先程転じたばかりの人格すら不安定に陥ってしまう。
当然、彼女が精神に来たした異常の気配などは、悟れる由も無かった。

彼の内包する二つの人格の内、一つは言うまでもなく元来彼が持ち合わせていたものだが。
だがもう一つ、即ち今表に出ている『彼』は、彼が自身の記憶を元に構築した『一人』の擬似人格なのだ。
よって彼の人格転換は、単なる模倣演技とは比ぶべくもない精度である。
であるのだが、それにしてもやはり、所詮は模造品の域を脱する事はない。
あくまで記憶の中の『彼』を基としているが故に、どうしても穴が存在する。
彼が動揺を覚えるような事柄は、その間隙に金梃子よろしく突き刺さり、仮面を引き剥がしてしまう訳だ。

例えば不安や反省、怒りなどでも、今回の場合は少女の告白が金梃子の位置に当たる。

と、そのようにして一体どう対応したものかと狼狽えている内に。
今度は『節制』によって、『魔術師』は口を開く事すら禁じられてしまった。
何とか人格こそ『彼』に戻せたものの、これでは何ら意味がない。
どうにかして口を開こうと彼が躍起になって挑んでいると、何やら『節制』が言葉を紡ぎ始めた。

「かしこぶってる、かあ。いやあ、全くもってその通りなんだよねえ。
 実の事を話すとだなあ、俺は12の頃から学校に行ってなくてねえ……半分学無しのプー太郎なんだよ。
 コートと帽子は俺の趣味。だから――――
 
 ――お飾りで悪かったなあこの野郎!
 人の劣等(コンプレックス)の傷押し広げやがってコンチクショウ!!
 どーせ俺は学無しで頭の悪い馬鹿ですよーだあ!
 あーっとすまないまた話を間違えた。んでさあ、さっき俺は言ったろう?『嫌な言い方』ってさあ」

粗雑な怒気が幼稚な言葉に乗せて吐き散らされる。
内心で「聞いてねえよ!」とか「つーかこっちの反論封殺してブチ切れるって卑怯じゃねえの!?」などと
『魔術師』が反論しているなどとは露知らぬ様子で、『節制』は更に口上を続けた。
今度は一体何を言い出すのかと、『魔術師』は微かに眉を顰める。

だが、予想に反して『節制』は頭を垂れて誠意を滲ませながら、謝罪の言葉を述べ並べた。
更に少女にも安心感を誘う説明を加え、最後に――

「――気に入ったぜ、その意志(チカラ)とその性格(ココロ)。頼りにさせてもらうよ」

そう『魔術師』に伝えて、彼は己の席へと戻っていった。
『魔術師』はまたも少々呆然とさせられ、そしてふと自分の口がぽかんと開いている事に気付く。
いつの間にか、開口の禁止は解かれていた。

「フン……ったく回りくどい真似しやがって、謝ってなんかやらねーからな!」
筋骨隆々の巨漢による、この世で最も需要のない天邪鬼ぶりを披露した後、
彼はそっぽを向いて、『魔術師』の座であろう席に荒々しく腰を下ろした。

頃合いを見計らったように、『吊られた男』が弁舌を振るい始める。
内容はまず『スマイリィ』の扱いについて。転じて、今後の対応へと話題は推移した。
『吊られた男』は滔々とした口振りで、立て板に水の滑らかさで私見を述べていく。

そして最後に、彼はふと獰猛な笑みを覗かせた。
ともすれば皆を焚き付け挑発するように、彼は語る。

    アルカナ
「――僕らに喧嘩を売ったことを、後悔させてやろう」

果たしてこの場の面々が如何な判断を下すのかは、分からない。
だが少なくとも『魔術師』は既に、『吊られた男』にも引けを取らぬ凶猛さを口元から放っていた。

108 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 21:32:49 0
 


心に縦横無尽に走った亀裂から湧き出た愛を、『スマイリィ』は余さず吐露する。
けれども肝心の『魔術師』から返事は得られず、あまつさえ彼は開口すら封じられているようだった。
彼女の視線が『魔術師』の顔から逸れて、彼の前に立つ『節制』を捉える。

「……とはいえ、失言だったとは思う。だから謝らせてもらうよ、本当にすまなかった」
冗長な前置きを述べた彼だったが、今はどうやら自分に対する失言に頭を下げているようだった。
――だがそんな事は彼女にとって限りなくどうでもいい、関心の埒外にある出来事だった。

深々と頭を下げた『節制』は、果たして気付いただろうか。

『笑顔』の名を冠する少女が、その異名からは連想出来ぬ程に、極寒の刃と化した視線で彼の後頭部を見下している事に。
つい先程まで『魔術師』の腕に触れていた右手が密かの内に闇へ紛れ、断首の足掛かりとなっている事に。

行為の所以は単純明快。『節制』は他でもない『魔術師』に怒鳴り、挙句邪気眼すら行使した。
ただそれだけの事で『スマイリィ』は臓腑を煮え滾らせ、『節制』に果て無い殺意を懐いたのだ。
余程、彼女は彼を殺してしまおうかと思索する。
勿論そのような事をすれば『魔術師』の立場は完全に瓦解してしまう。
その事だけが彼女に唯一、制止を掛けていた。
が、それにしても思考の水面を何度となく殺意で掻き混ぜていく内に、徐々に徐々にと揺らいでいく。
揺らぎ、幾重もの波紋が衝突し合い、水面に映し出される僅かばかりの正気と正常な判断は、歪に捻じ曲がる。

この男は彼の仲間だ。だから殺してはいけない。だけど殺したい。でもこの男は彼の仲間だ。
だから殺してはいけない。だけど殺したい。でもこの男は彼の仲間だ。だから殺してはいけない。
だけど殺したい。でもこの男は彼の仲間だ。だから殺してはいけない。だけど殺したい。
でもこの男は彼の仲間だ。だから殺してはいけない。だけど殺したい。でもこの男は彼の仲間だ。
だから殺してはいけない。だけど殺したい。ならどうしたら殺せるだろうか。
この男が彼の仲間でさえなければ、殺してやれるのに。けれどよくよく考えてみれば。
彼に怒鳴りあまつさえ邪気眼すら使ったこの男を、真に彼の仲間と言えるのか。
言えないのではないか。いや、言えないに決まっている。きっとそうだ。
だったら殺してしまっても問題ないではないか。寧ろ殺して然るべき。それが彼の為。
よし殺そう。彼の役に立つ手始め、第一歩だ。

堂々巡りの環状線を回り続けた思考は次第に倒錯し脱線して、やがて都合の良い終着点を作り出す。
言辞に宿せば荒唐無稽にも程がある、とても理屈とは呼べぬ代物だ。
だが彼女がそれを気にする事はなく、言葉として表す事もないだろう。
何せ彼女は誰の納得を求めていると言う訳ではない。
ただ己の殺意には正当性があると、自己完結出来ればそれでいいのだから。

そうしていよいよもって、彼女の異能が『節制』の首を撥ね飛ばさんとした時だった。


「――気に入ったぜ、その意志(チカラ)とその性格(ココロ)。頼りにさせてもらうよ」

109 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 21:33:59 0
『節制』の口から、言葉が紡がれる。
『魔術師』を認め、仲間と肯定する語意が。
たったそれだけの事で、彼女は殺害願望の全てを霧散させた。
そして彼女は、殺意の残り香など一切感じさせない、花の如き微笑みを『節制』に返す。
彼は『魔術師』を認める彼の仲間なのだからと、当然の振る舞いで。

話は移ろい、『吊られた男』は『スマイリィ』に幾つかの問いを向ける。
並べて彼は彼女への待遇についても触れたが、やはり彼女はその事に興味を示さなかった。
とにかく『魔術師』の役に立てると、彼女は心奥で踊る嬉々を微笑みに漏らし、口を開く。

「えっと、順にではありませんけどお答えしますね。まず私達は『枢機院』の『楽園教導派』、その強襲部隊としてここに来ました。
 本拠の位置は私には分かりません。任務完了の後に、転移術式で直接運ばれるだけですから。
 ただ何処かに国民全員が『枢機院』を崇拝する国があって、そこに『聖樹堂』……本拠があるとか。
 兵力に関しては、私達が減ったくらいでは正直損失とも言えない程度でしょう。
 『枢機院』全体から見れば細微ですが、異能者も溢れ返る程に。武装も『楽園教導派』は大量の禁魔具を保有しています。
 挙句、『聖樹堂』には格別の異能を持つ幹部、『セフィロト』が数人は必ずいますからね。
 ――貴方々の残存戦力で戦えるかと問われれば、お察しの通りですけど……恐らく無理ですね。
 そもそも場所が分かりませんし」

つらつらと、艶やかな緑葉を朝露が滑るように彼女は述べる。
絶望的な情報を、次々と上積みしていった。
そうして皆が押し黙った頃合いで、彼女は浮かべる微笑みを色濃くして、再度言葉を紡ぐ。

「ですが、最初の問いに答えるのなら……私達は『枢機院』の支部からやってきました。
 そこになら、リーダーが持っていた転送デバイスの情報から逆転移出来ると思います」

剣呑とした空気が、微かに晴れる。



「……待ちたまえよ君達。俄かに希望が得られ、浮き足立つのは理解出来ない事もない。
 が、さりとてその歩調のままに攻め込むのは、些か以上に早計では、ないかね?」

捕縛されたきり無言を貫いていた『ストレイト』が意見を発したのは、丁度その時だった。

110 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 21:35:12 0
 


頓に言葉を発した私に、一斉に視線が収斂される。
それにしても、私は存外に運に恵まれていた。だがその運が果たして幸運か悪運かは、断じるに迷う。
ともかく『審判』君の火力は、私の想像を遥かに上回り、反則的だった。
彼の放った、ある種『審判』の名にこの上なく相応しい、裁きの火柱にあわや呑まれんとしていた私だが。
運良く、事前に配しておいた空気の障壁が、大元本来の目的とは多少異なる形で機能した。
事実を端的に述べるのならば、凝縮された空気が『審判』君の業火に依り弾け、私を逸早く押し飛ばしたのだ。
これにより、私は受身を取る事も能わず、頭部を強打し暫しの昏倒に陥った。
だが、幸か不幸か、『審判』君の致命的一撃だけは貰う事なく、
更に彼の不足した脳が一体如何様な化学反応を得たのか。
私にトドメを加えるのではなく、情報源として拿捕すると言う結論を導き出し、
かくして私は二重の奇跡のよって一命を取り留めるに至ったと言う訳だ。

今現在、私の異能を導く両の手は背後へと捻られ、合掌を強制された上から拘束されている。
流石の私も、片手を溶かしてまで束縛を免れるつもりは毛頭ない。
拘束具には、先の戦闘で私が裂いた、上等な皮のジャンパーが当座凌ぎとして扱われていた。
『審判』君にしては気の利いたなかなかの機転だが、
拘束に際して無抵抗の私を一発小突いたのは、どうにも頂けない。
気に入りのジャンパーを駄目にされたのが、そうも許せなかったのか。
思いの外、狭量な所のある男だ。
いや、節約志向などと抜かしていた辺りを見るに、案外それが彼の本質の可能性も否めない。

とは言えこれらは所詮、余談に過ぎない。肝要なのは正しく今なのだ。
細心の注意を払い、私へと視線を注ぐアルカナ諸君に、練り上げた私見を述べる。
危惧していた、耳も貸されず封殺される事態の気配が感じられぬのは幸いだ。

「総本山『聖樹堂』程ではないにせよ、我々がここへ参じるに経由した支部も、相当の兵数を擁している。
 君達全員が百人力の猛者である事は、強襲の指揮を取った私の骨身に染みているが、それにしても。
 君達の中に一騎当千を自負出来る者が、何人いる?」

希望の熱に当てられ、浮かれた彼らであるからこそ、私の言葉はすんなりと受け入れられているようだ。
有り難い傾向であると内心で頷きつつも、私は更に彼らへ現実に即した、冷水の如き言論を浴びせる。

「百人力が十人いるならば、千百の兵を用いれば、勝利を得られるだろう。
 一騎当千が十人いようとも、十万の兵で当たれば、必勝だ。
 戦とは少なからず、このような側面を持っている。更に戦は唯一度だけの戦闘に収まる事はない。
 幾度とない争いの連続であり、ただ闇雲に挑むばかりでは、敗北の名を持つ奈落の口腔へ飛び込むと同義なのだよ」

そろそろ、短気が服を着たと称して一向に差し支えない『審判』君を筆頭に、
気の短い連中が、視線に怒気を孕ませ始める頃合いだろう。
懇切丁寧を心がける事は美徳であると、我が事ながら自称するに間違いはないだろうが、
却って彼らの憤懣を誘ってしまっては、元も子もない。
そろそろ、私が畢竟、何を言わんとしているのかを、述べるべきだ。

「君達には『枢機院』を相手取るに、相応しいだけの、戦略と言うものが必要なのだ。
 そして私ならば、それを君達に提供する事が出来る。端的に纏めるのならば、そう言う事だ」

殆ど理想の形を保ち、私は意見を紡ぎ切る事に成功した。
さて、私の展望に狂いが無いのならば、彼らは、幾つかの疑問を抱く。
つまり、何故私が唐突に、彼らに手を貸すなどと言い出したのか、と。
実際、彼らの内何人かは、口に出してそれを尋ねてきた。
私としては裏切りや策謀の腹積もりは、断じて抱えていないのだが。
とは言えあらぬ誤解を呼びかねん疑念は、先んじて、芽を摘むに越した事はない。

111 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 21:36:37 0
「私は今、人質と言う立場にある。だが、私の本来の用途とは単なる情報源に過ぎなかった。
 しかしながら、その座は既に彼女、『スマイリィ』によって埋められてしまっている。
 と言う事は、今の私はまったくの無価値。君達の気分次第で、命の行方を決められてしまう状況だ。
 だが私は、まだ死にたくもなければ、死を迎えて尚待ち受ける懲罰の海に身投げしたくもない。
 ともすれば、私のすべき事は一つ。新たなる立場を築き上げ、君達に私の価値を認めさせる事に他ならない」

理路整然とした言い分だが、しかし彼らの立場から見れば、まだ疑惑は残るだろう。
そう、私は元々『枢機院』の一員であり、その者が、仇敵であった邪気眼使い、
つまり彼らへ下る事を好しとするのか、と言う事である。
これもやはり、数人による指摘が為された。
当然、回答は既に用意してある。
先程までの沈黙は、周到な準備を行う為の準備期間だったのだ。

「諸君、宗教の関わる者を縛るには、一体何が必要だと思う?」

唐突たる問い掛けに、彼らは一同、押し黙り首を傾げる。
ちらほらと見かける、深慮ある者は即座に解を得たようだが、『審判』君や、
珍妙極まるコートと帽子をトレードマークとする彼は、終ぞ納得の表情を浮かべる事は無かった。

「答えは単純、そのような物はない。宗教とは本来、
 思想の自由に基づき信仰のみによって、人心を得るべきなのだ」

だが実際には、現実を見据えれば、そのような事は有り得ぬと理解出来るだろう。
『枢機院』に限らず、信仰以外を用いて人心を縛る宗教は、そう珍しくもない。

「しかし『枢機院』は罰を以って任務の成功を強制する。然様な事をすれば当然、信仰は薄れる。
 言わば信仰と言う名の酒の満ちたコップに、水を注ぐようなものだ。溢れた酒が、器に戻る事はない。
 それでも酔う者は変わらず酔うのだが、生憎私は常人よりも優れた知性を有していると、自負しているのでね。
 薄めた酒は不味いだけだ。幸い私ほどの傑物ならば、酔うた振りを暗示の域にまで押し上げ、正しくそう振る舞う事も難しくはなかったがね」

長々とした口上の連続に、私は一度、際立って深い呼吸を行う。

「要するに、私は純然たる信仰心を持ち合わせてはいないが故に。罰を受けると分かっていながら猶、
 『枢機院』に対して忠誠心を発揮する由がない、と言う事だよ。ご理解頂けたかね?」

今度こそ、アルカナ諸君の表情から、疑問疑惑の気配は寸毫たりとも感じられない。

「さて、どうやら君達の納得が得られたようで、重畳の至り。それでは早速、
 私は作戦の練り上げに取り掛かりたいのだが、際して必要不可欠なのは、
 君達が持つそれぞれの異能力だ。差支えが無ければ、私に教示願いたい」

代わりと言っては何だが、先に私の異能を――現在実演が困難な為、口頭に限りだが――明かしておこう。
既に『審判』君一人によって、看破された私の異能に情報的価値があるのかは甚だ疑問だが、ここで大切なのは、フェアの精神だ。
私のみが、彼らの能力を知ったとあれば、当然の事であるが、そこには格差が生まれる。仮に戦闘に移行した際に、致命とも成り得る格差が。
そう考えれば、敵方であった私に能力を告げると言うのは、彼らにとって、耐え難いストレスとなるに相違ない。
だが私が先立って、自身の能力を明かせば、そのような事は杞憂となり昇華されるのだ。

かくして私は、彼らから各々の能力を聞き出した。
改めて拝聴してみると、何と反則的、または柔軟性に富んだ能力の多いことか。
曲りなりにも指揮者を務める私としては、一抹の高揚さえ、抱くくらいだ。

「ふむ、粗方の指針は見えてきたな。
 それでは、諸君がこれより攻め込むは『枢機院』の前線支部。本拠『聖樹堂』とは比ぶべくもないが、それでも有する兵力は多大である。
 真向から勝負を挑めば、勝利の公算は無いとは言い切れぬが、甚大な被害を受けよう。
 加えて君達は今、『枢機院』に本拠、つまりここを知られている。報復に精魂使い果たした契機で攻め立てられれば、今度こそ全滅は免れまい。
 しかし案ずるなかれ。これより諸君に、必勝の索を伝授しよう。心して聞いてくれたまえ」

『審判』君などは割と不機嫌な様相を見せていたが、それでも、私の言葉には耳を傾ける素振りを見せた。
大方、信頼はしないが信用はする、と言った所だろうか。
意外にも、彼も組織人らしい素養を、多少なりと持ち合わせているようだ。

112 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 21:38:13 0
「まず敵方の前線支部は、西洋の古城を再利用する形を取っている。故に諸君は、擬似的な攻城戦を興じる事になる。
 となれば君達の、反則的能力の数々が栄える、と言うものだ。まずは『審判』君、並びに『皇帝』……だったかな? 君達だ。
 君達にはそれぞれ、投石と放火、即ち太古の時代より攻城の定石であった策を担ってもらいたい。
 そしてここで注意すべきは、この時点では彼らに、余りに多大な被害を与えてはならない、と言う事だ。
 つまりは、君達にそのような高等な真似が出来るかは少々不安だが、手加減をしてやらねばならないのだ」

『審判』君と『皇帝』君が息を合わせて怒るが、私としては、采配を振るう者として当然の不安を述べたまでで。
彼らに対する挑発の調味料などは、小さじに一掬い分さえ、交えたつもりはなかったのだが。
ともかく、続けるとしよう。

「何故かと言うと、ここで彼らに『逃走』されては困る。つまりあくまで、『応戦』してもらう必要があるからだ。
 よって『節制』君には、可能ならば彼らの『逃走』や『援助要請』を禁止して頂ければ、とても助かる。
 その所以は後々必ず語るとして、今は順を追い、説明を続けよう。投石と放火が恙無く成功すれば、
 当然連中は泡を食い城から飛び出てくる。そこを『吊られた男』君とマリー嬢などが門前で待ち伏せして叩けば、
 或いは『節制』君により『外出』を禁ずるなどすれば、それで最上の展開である……のだが。
 君達にそのような賢しい手段で落ち着く事を、私は正直期待していない。
 その辺は望みのままに動いてくれれば、それでよしとしよう。この策で真に肝要であるのは、この次だ」

逆を言えば、この次をしくじれば、如何に彼らが奮戦しようとも作戦は失敗、アルカナにも未来はないと言わざるを得ない。
万一そうなった際には、早々に彼らを見限り逃亡をを図る必要すら、出てくる。

「ここで今一度確認しておくが、君達は今、根城の位置が敵方に露呈している状態だ。
 つまりどれほど前線支部で善戦をしようと、他の支部や、事と場合によっては本拠からの反撃が必ずやって来るのだ。
 そうなれば質はともかく、圧倒的なまでの量の差で君達は圧殺される事だろう。
 故に君達はこの作戦において、絶対に押さえねばならぬ物が一つある。君達とも縁の深い物だ。
 そう、君達が先日まで占拠していた転移遺跡――『ヨコシマキメ』だ」

ここで酸素対二酸化炭素の交換も兼ねて、彼らを一瞥。
成る程、何人かは既に理解を得ているようで、何より。

「『ヨコシマキメ』は現在、『枢機院』により、長距離転移システム『箱舟』へと改良されている。
 これがまた優れた物でね。超長距離転移、即時転移、追転移阻止システム、等々と素晴らしい機能が目白押しだ。
 ……さて、もう大方は理解出来ただろうが、この『箱舟』の奪取が、今回の作戦における絶対の勝利条件だ。
 『箱舟』さえ取ればこの本拠を内部に収め移動要塞とする事や、その気になれば他の支部や『聖樹堂』への侵攻は勿論。
 少数精鋭の組織である諸君にとっては、この上ない機動力としても化けるだろう。
 逆にこれを成さねば、アルカナに未来はない。任務失敗に重ね裏切りを働いた私や、そこの『スマイリィ』君も同様、一蓮托生だ」

出来る事ならば、彼らと、特に『審判』君との心中は避けたいものだ。
などと胡乱めいた思想を頭脳の片隅に押しやり、私は最後の纏めを紡ぐ。


「要するに、君達はまず放火と投石などによる奇襲を行い、機先を制しつつ彼らに迎撃を促す。
 浮き足立って城から出る彼らを適当に叩いた後、君達は城内へと攻め入らねばならない。
 そうして城の最奥に据え置かれている召喚機構を用い『箱舟』を押さえれば勝利だ。
 ただし余りに行動が遅いと、相手方に作戦を悟られ、他所から『箱舟』転送を打ち切られてしまうだろう。
 そうなれば諸君も私も崖っぷちだ。全滅か、最低でもこの本拠は捨て、野を行かねばなるまい」


三行では収まらなかったが、まあ問題あるまい。

「さて、ところで誰でもいいが、私の拘束を解いてくれるとありがたい。
 このナリでは君達への加勢はおろか、転送デバイスを差し出す事も出来ないのでね」

拘束が解かれたのなら、彼らに握手を求めてみようか。
無論、彼らを異能でどうにかするような腹積りは、更々ない。
だが私の掌が異能によって、死神の振るう大鎌にも勝る必殺の武器だと知り猶、手を取るのか否か。
ただのテストのようなものであり、正解も不正解もない。
ただ彼らの所作や機微から、それぞれの人格を見極めておいて損はないだろうと、それだけの事だ。

113 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 23:28:41 0
(上階の穴から飛び込んできたレイの手を引っ張り、フロアの奥へと駆ける。)
(先ほどの戦闘で空いた天井の大小の穴から光が差し込んでいるが、全体に行き届くには光の量が弱すぎる。)
(鷹逸郎が向かう先は、照らされざる暗黒。その奥へ奥へと駆けていく。)

(しばらく走ると立ち止まった鷹逸郎は、とある物陰へとレイを招いた。)
(推測するに、ここは何かの陳列棚なのだろう。フロア全体がこの暗さとあっては目も利かず、何があるかも分からない。)
(何者の一瞥さえ許さぬ暗闇の中へと、二人は紛れる。)

(鷹逸郎は次に、自身の腕に巻いてある腕時計に手を掛ける。)
(カチリ、と音。ごく僅かな範囲ではあるが、時計盤が発光して辺りを照らし出す。それをレイの身体へ向けた。)

……これは、派手にやられたな……。

(全身に傷が目立つが、特に肩や腹、太ももの具合が非常に悪い。)
(彼女が着ているワイシャツは、血液が酸化し黒くなり果てている。…ワイシャツを血染めにするほどの出血量。)
(ここまで血を流した人間などそうはいないだろう。……これもまた、「非日常」。)

(…しかし、血はすでに止まっているようだ。)
(これなら血が尽き果てることもないだろう。とまず安堵の息をつき、灯りのスイッチを切りつつレイの顔を見据えた。)

……アイツはまだ、全然本気を出してない。
多分、……本気を出す気にさえなってないんじゃねえかな。

(鷹逸郎の印象だ。だが、少なからず的を射ているはず、と確信もある。)
(隣の廃ビルを持ち上げてぶつけてきた時も、上階をボロボロにした大技を放った時も、別段息が切れる様子もなかった。)
(多分イェソドにとってあんなことは、ほんのお遊戯程度なのだろう。)

かといってあんな”力”を持ったヤツと本気でやり合ったら、日本大陸ごとパカッと割られちまう。
…でも、それならこっちだって好都合だ。……本気で殺しに来る前に、まずはあの無茶苦茶な”異能”を何とかしてやろうと思う。

(ふう、と息を深く吐いて、)
                         チカラ
……この「仮説」が正しければ、アイツの”異能”もこれで打ち止めだぜ。


114 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 23:29:54 0
イェソドは、あの”力”を「授けられた」とか何とか言ってたよな。
ってことは能力の発現は《生来能力者》じゃなくて、《生後能力者》。つまり、何らかの手段で”異能”を手にしたことになる。

(能力者には、二つのタイプがいるとされる。)

(一つは、《生来能力者》。)
(これは生まれた時から異能力を持っている者。これは父母が能力者だったりと、血縁的な要素が多く絡んでいる。)

(そして、もう一つが《生後能力者》。)
(元々何の力も持っていなかったはずの者が突然、または徐々に異能力に目覚めたタイプだ。)

普通、人間が能力を手に入れるには幾つかパターンがある。
《特殊発眼》はこの場合考えなくていいから置いておくとして、基本的には《外的発眼》、《内的発眼》の2パターンに分けられる。
だがアイツは”授けられた”っつってるから、どっちかっつーと《外的発眼》だと推測できるぜ。

《外的発眼》ってことになると、一番典型的なのが《魔道具》による発眼なんだ。
『プレート』、『魔剣』、広義でいくとカノッサの『人工邪気眼』なんかもそれに分類されちまう。

(《内的発眼》は、身体的もしくは精神的な変化によるもの。)
(例えば特殊な修行で身体構造を能力者のそれに近づけたり、啓発などで精神改造をしたりするなど。)
(ちなみに《特殊発眼》には、細胞の突然変異など、原因のよく分からないものがあたる。)

能力を”授け”るのは、まぁ間違いなく【創造主】だよな。多分それで信仰心を獲得してるんだ。
【創造主】といったら『人工邪気眼』だ。あれは「埋め込む」タイプだから、多分今回も何か埋め込んで”異能”を発現させてるんじゃねぇか?

(オタクの特徴として、得意分野のこととなると途端に舌が回るようになると言うが、)
(専門用語を交えて異能のことについてペラペラ話す鷹逸郎は、さながら「邪気眼オタク」と評すればいいのであろうか。)
(ここまでまとめて喋った鷹逸郎は一息吐き、)

その埋め込んだ何かを斬るなり突くなりすれば多分、”異能”は何とかできるはずだ。
後は埋め込んだ位置だけだが、こいつは多分【生命の樹】の特性と、『イェソド』って名前から推測するに、




「お話は終わったかァ? ご両人……」





115 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 23:32:02 0

(その声は、突如背後から。)
(ゾクリ、と背筋を走る寒気。……凍り付いたように身体を動かせない鷹逸郎の首を、イェソドは掴んで持ち上げた。)
(成年男子一人の体重は、平均値でも相当なものだ。それを片手で、小石でも摘むかのように。…やはり、尋常じゃない”力”。)

うあッ…!? ……なッ、なんで、…分かっ……!?

「ハッ、瞳の集光率、……いや、集光”力”を上昇させてンだよ。
てめェらにとってはここは真っ暗に見えるだろうが、この俺にとっちゃァまるで真っ昼間だぜ? クックククククク……!」

(そんな。)
(姿を敵から覆い隠してくれるはずの暗闇が、その意味をまるで成してくれない。)
(これが、イェソドが、膨大な数の信徒の中でも上位幹部、【生命ノ樹】の一席を獲得している、その理由。)

「いくら何でも、馬鹿力だけじゃァ【セフィラ】にはなれねェわなァ。
まァ、このフロアごとぶっ壊しても良かったが……これ以上ビルを倒壊させて、”材料”を減らしたら計画に支障を来す。まァ、節約モードだな」

(その声色にはやはり、余裕。)
(暗闇の中で獰猛に笑うと、レイをしっかりと正確に睨み、)

「さっきは一撃ありがとよ。……レイだったか? 見事な一撃だった。
…………だが、足りねェよなァ? 威力がよォ……あれじゃァ俺を殺すには物足りねェ……。
調整すりゃァ”一刀の極致”に至れたかもしれねェが、惜しいねェ……そんじゃァ、そろそろ幕と行こうぜ。それともコイツを俺ごと斬ってみるかァ?」

(片手でぶら下げた鷹逸郎は、真正面に。)
(しかしどの角度に回っても、イェソドは十中八九反応するだろう。瞬発”力”や動体視”力”の上昇も、イェソドには残されている。)
(先ほどの技を使おうとすれば、喰らってもそのまま鷹逸郎の首をへし折ることだってイェソドには出来るのだ。)

「……俺を見くびってもらっちゃァ困るぜェ? 俺は好戦的だが、戦闘狂じゃねェ。
その場その場で行動を選択する”能”ぐれェあらァ。…例えば、戦えねェヤツを人質に取るとか、なァ?
…………卑怯だとか、そういうナメたこと言ってくれンなよ。これ以上、てめェに時間かけられねェんだ。悪ィな? 正々堂々戦ってやれなくてよォ」


(…鷹逸郎は、違和感に気付く。)
(何だ? この絶好の局面で、イェソドがやけに喋りすぎている。あんなに迅速だったイェソドにしては、らしくない。)
(それに、鷹逸郎の首を掴むイェソドの手。……人質に取っているにしては、なんというか、……そういう感じの力の込め方ではないような…?)

(……いや、そんなことを今は気にしている余裕などない。)
(せっかく「隙」を見せてくれているんだ。せいぜい、有効活用させてもらおうではないか……!)


(鷹逸郎は、両手を胸元に持ってきて――――パァンッ! 勢いよく、打ち鳴らした。)



116 :名無しになりきれ:2010/04/08(木) 23:33:11 0
(ビカッ、と)
(その鋭く渇いた音が鳴り響いた刹那、イェソドの目の前で白光が闇に一つ、二つ、)
(……まるで連鎖するように、次々と明かりが点いていく。)

……なんてことはない。最近はやりの、音で点く電光灯ってヤツさ。
さっき時間があったから、フロア中ありったけをかき集めさせてもらったぜ。特に驚くことはない、なんてことない仕掛けだが。
…………”ある人間”にとっては、キツいんじゃねえかな。例えば……そう、「瞳の集光”力”を上げている人」とか。


「………こりゃァ…ッ!」

(イェソドの視界を四方から埋め尽くす、強烈な光。)
(光を多く集めすぎてしまう今のイェソドの瞳では、目をつぶっていてもそれは強大な脅威に違いない。)
(武器であるはずの”爪”を装着した両手は、イェソドの両眼を覆う役目を仰せつかっている。…武器としての使用は、不可能。)

(……だが、問題ない。イェソドは茶番と知りつつ確信をする。)
(脳髄、心臓は防御”力”の上昇で完全防御されている。いまこの一瞬の不意を付かれたって、剣先など至りもするまい。)


(しかし、)

レイッ!! 『下腹部』だッ!!

(鷹逸郎は、人体の急所ではないその箇所の名を叫ぶ。)

【生命の樹】の特性は『万物照応』ッ!! 人体に照らし合わせれば、イェソドは人体の下腹部にあたるッ!!
イェソドの”異能”の核を埋め込むならそこでなきゃダメなんだッッ、そこを狙えぇぇええええええええええええええええええええッッ!!

「――――くッ、そ、……舐めるなァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

(イェソドは渾身の力を込めて哮る。)
(そもそも耐久”力”で強靱さを上げた全身に、重大な傷を一つでも刻んだ攻撃になど。今まで一度でも、巡り逢えたことはあっただろうか)

「否、――否否否否否否否否否ァアッ!! このイェソドの肉体に、傷などッ!! 一つさえ付けること永劫叶わぬと思い知れェエッ!!!」

行っけぇえええええええええええッッ、レイィイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!



117 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 00:11:46 0
(────空が、翳る。)
(ステラ=トワイライトがまず第一に使用した超質量攻撃・アストラルフォール。)
(太陽光を収束させ放たれる凄まじい威力のレーザーを目の当たりにし、研究者は一言)

 ……ほう。

(と呟いた。)
(片手に乗せられたメモ帳は書き込まれては宙を舞い、その数は最早二桁に突入する。迅速、かつ精密に文字を刻むその手はまるで機械。)
(数式が頭に浮かんでは消えて行く───無意識の中、その男は眼鏡に封じた自らの邪気が漏れ出るのを抑える事に必死にならなくてはならなかった。)

 …実に興味深いなぁ、暁の邪気眼使いか……。

(身の丈は6尺で細身に蒼白。まっとうでない風体をしたその男はしかし童のように頬を歪ませ、憧れの玩具を手にした子供のように目を細める、)
(眺める先では続けて『コンフィング』と名乗る少年の凶刃が唸る。)
(宙に舞う爪楊枝はさながら悪ふざけのように宙に舞い、バックで避けようとしたステラに確かなダメージを与えた)

 …だが…ククク、まだまだ青いな…。この分なら…「摘み時」は先になりそうだ……。

(ステラが一時撤退し、『コンフィング』と『プロブレム』が二言三言会話を交わして分かれる。)
(『コンフィング』は研究棟へ、そして『プロブレム』は、この男の元へ)

「…悪ぃな、オッサン。俺と一緒に来てもらうぜ」

(その言葉と共に、小枝を喉笛に付きつける。)
(傍から見れば童の遊びに見える。が、そんな言葉は今この場にいた者ならば到底出せるはずが無い。)
(明らかな挑発───それに対し男は、静かにこう答えた)


 …君のその能力は…人工かね?


(たった一つ、シェイドの脳裏に引っかかっていた事。それは楽園教導派の扱う能力の正体。)
(邪気の類は感じられず、それが邪気眼によるところで無い事は明白。だが、しかし彼らの扱う異能とは彼の知識の表層に現れないものだった。)
(魔法か?否。一人一つのその能力は、学ぶことで「得る」魔法よりも能力を「持つ」タイプの邪気眼的な異能に分類される。)
(同じ理由から陰陽、祝詞、その他神に帰依することで「得る」能力ではない事がわかる。そんな力が邪気眼以外にあるとすれば───)

 …強ち、見当がつかん訳でもないんだが…やはり、本人の口から聞き出すに越したことはないからな。

(アリス=シェイドの心の中に、探求者としての火が灯り始めていた。)

118 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 00:17:56 0
ふと、自らの邪気眼について考える。

彼女の『暁光眼』は光を生み出し支配する能力。
その本質は単なる光学操作にあらず、遍く光という無尽蔵のエネルギーを操ることで可能となる超火力である。
両で一対の邪気眼だからこそ為せる、当代最強にして最大の攻撃力。それが『太陽』。アルカナの固定砲台。

『太陽』は考える。
『世界』の意によって施されたこの能力。対人として運用するにはオーバーキルに過ぎ、小回りも効かないこの能力は、
もしかしたら人ではないもっと強大な何かへ対抗するための切り札だったのではないか。
『世界』が、アルカナの敵としてそういった規格外の存在を見据えていたのだとしたら。

(皮肉だね……撒いておいた種が、今更になって芽吹いてきたよ……)

『創造主』。カノッサの首魁にして、『楽園教導派』の親玉。
鷹逸郎の言葉を思い出す。『――二人の『創造主』が同一人物だとしたら?』

『世界』は、誰よりも早い段階で、こうなることを予見していた。
だから、託した。自らを殺めた『太陽』を、それでも生かすことでその体内に、細胞に、血液に遺志を染み込ませた。

――『セカイ』を、掌握する為に。

ステラ=トワイライトには指標がない。
黄泉路からの強制送還は、彼女に浦島太郎もかくやといった亡郷を享受させ、それでもアルカナに所属していれば路頭に迷う事はなかった。
絶対の指導者、『世界』。己の道程に一片の疑いもない彼に追従することで『太陽』はどうにか心の置き場を得ていた。

だが、殺した。
自分と妹に二度目の命を与え、再び生を謳歌する好機を給じてくれたはずの『世界』を、彼女は殺害した。
セカイを守る為。しがらみを解く為。妹を取り戻す為。様々な大義で刃を為し、それで彼を貫いた。
そして彼女は自由を得、指標を失った。

『世界』の遺した『創世眼』の残滓は、今もステラの肉体を保つ為だけにこの世へ留まり、彼女の命を繋いでいる。
意味がわからなかった。命を賭してまで、どうして反逆者たるステラを生かしておいたのか。

簡単な話だった。

(指標なんて、初めから失われてなかったんだッ……!)

『世界』の遺志は、ちゃんとここに生きている。『ステラ=トワイライト』と名を変えて、『セカイ』を守り続けていた。

ならば、
               イノチ          アナタ                        
「完遂するッ!わたしの実存に掛けて――『世界』が遂げられなかった『これから』への露払いをッ!!」

ステラは潰れた左目に手を遣り、躊躇いながらも損傷された眼窩へと指を突き入れる。
強烈な激痛と異物感に吐きそうになりながら、眼球を二本指で摘むと、覚悟を決めて一気に引き抜いた。
ブチブチと、血管や神経が断裂する音を聞く。

「〜〜〜〜ッ!!」

――地を這うのなら、翼は要らないから。
水分を失って梅干のように萎びた左眼球を、レーザーで焼き捨てた。
すっぽりと空洞となった左眼窩。生体部品丸々一つの損失は、『創世眼』による再生でも丸一日はかかるだろう。

よって、代替物が必要である。

首から下げられた緑玉の遺眼が、陽光を己の色で染め上げていた。

119 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 11:55:05 0
「……これは、派手にやられたな……。」

彼女の手を引き鷹一郎が連れてきた場所は、夜目が利くレイですらよく見渡せないほどの闇
二人を照らす腕時計のわずかな光で数m先がかろうじて見えるのみである

「問題ない、血はすでに止まっている」

赤黒くなったシャツを少し見つめる 固まった血を吸ってゴワゴワとしたそれは少々着心地が悪い
だが、これはこれで気に入った これからは黒いシャツにでもしようか

「……アイツはまだ、全然本気を出してない。
多分、……本気を出す気にさえなってないんじゃねえかな。」

「少年、突然で悪いが時間を稼いでくれ
 一分、いや、30秒でいい イェソドの動きを止めておいてくれればそれでいい」

「かといってあんな”力”を持ったヤツと本気でやり合ったら、日本大陸ごとパカッと割られちまう。
…でも、それならこっちだって好都合だ。……本気で殺しに来る前に、まずはあの無茶苦茶な”異能”を何とかしてやろうと思う。」

「…聞いてるのか?」
                         チカラ
「……この「仮説」が正しければ、アイツの”異能”もこれで打ち止めだぜ。」

「………」

それから話し始めた少年の話は、レイにはほとんど分らぬ領域だった。 外的発眼だの、人工邪気眼だの
あまり聞く必要は無い こちらはこちらで、自分の事に集中するとしよう

まずは力加減 自分の体重を計算して出力バランスを整える
考える事は得意じゃない、ましてや計算なんて習った事すらない せいぜい足し算引き算程度が関の山だ
だから直感で答えを導き出す それに黒爪にパラメーターなんてものは存在しない、自分の意志の力が、そのまま出力に繋がる

……意志の力を引き出さなくては

闇にまぎれて何も無いように見える黒爪の刀身 その表面をつ、と撫でる
ひやりと冷たい感触、凹凸も何もない、氷のように滑々とした表面
そして全てを切り裂く、鋭利な切っ先

意識を、その奥底へと沈ませる

120 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 11:55:46 0



「お話は終わったかァ? ご両人……」


暗黒に轟く声

「うあッ…!? ……なッ、なんで、…分かっ……!?」

闇の中宙に浮く鷹一郎青年の体

「ハッ、瞳の集光率、……いや、集光”力”を上昇させてンだよ。
てめェらにとってはここは真っ暗に見えるだろうが、この俺にとっちゃァまるで真っ昼間だぜ? クックククククク……!」

冥界から繰り出されたように浮かび上がるイェソドの姿

「さっきは一撃ありがとよ。……レイだったか? 見事な一撃だった。
…………だが、足りねェよなァ? 威力がよォ……あれじゃァ俺を殺すには物足りねェ……。
調整すりゃァ”一刀の極致”に至れたかもしれねェが、惜しいねェ……そんじゃァ、そろそろ幕と行こうぜ。それともコイツを俺ごと斬ってみるかァ?」

饒舌に話し始める巨躯

「……俺を見くびってもらっちゃァ困るぜェ? 俺は好戦的だが、戦闘狂じゃねェ。
その場その場で行動を選択する”能”ぐれェあらァ。…例えば、戦えねェヤツを人質に取るとか、なァ?
…………卑怯だとか、そういうナメたこと言ってくれンなよ。これ以上、てめェに時間かけられねェんだ。悪ィな? 正々堂々戦ってやれなくてよォ」

響く柏手

「………こりゃァ…ッ!」

明滅する人工の光

「レイッ!! 『下腹部』だッ!!」
 【生命の樹】の特性は『万物照応』ッ!! 人体に照らし合わせれば、イェソドは人体の下腹部にあたるッ!!
 イェソドの”異能”の核を埋め込むならそこでなきゃダメなんだッッ、そこを狙えぇぇええええええええええええええええええええッッ!!」

「――――くッ、そ、……舐めるなァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

遥か遠くから響いてくる叫び

「否、――否否否否否否否否否ァアッ!! このイェソドの肉体に、傷などッ!! 一つさえ付けること永劫叶わぬと思い知れェエッ!!!」

「行っけぇえええええええええええッッ、レイィイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!」

眼前に迫る、白熱の石版

121 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 12:04:42 0
「……騒がしい男だ」

ふ、と息を吐く イェソドは鬼面の形相で硬直し、鷹一郎も決死の叫びのまま動かない
彼の腕時計が止まっている 否、それはゆっくりとだが、しかし確実に時を刻んでいる
シンと静まり返った世界 全てが静動 宙を舞う砂埃も、あらん限りの叫びが生み出した音の波も

「……」

ふわり、と、羽毛のように身構える
黒爪を鞘に納める、そして柄を握り、腰を落とす
それは抜刀術 剣術最速の、一撃の技



そして、背より生える漆黒の翼



「"鴉雲"――と名付けてみるか」

炎のように、煙のようにゆらゆらと立ち昇る一対の存在
それがゆっくりと、鳥が翼を広げるように両脇へと広がる

「鴉雲【神羅】」

瞬間、世界が加速した
半ば反射的に、居合の剣を抜く
この居合技には"鬼哭斬波【真打】《絶一門》"という名前があったのだが、言うタイミングを逃した
黒爪が気まぐれを起こしたか、私が調整を誤ったか どちらにしろ、息を吐く暇もなく それは終わった

「………が」

手にじんわりと残るそれは、人を斬った時の、ズブリとした心地いい反発

「あ…が…っ?」

内蔵を斬る時のやさしく絡みつく感触 骨を断つ時の、コツリと硬いものが当たる快感

「あ、がああああ――――っ!!?」
                               
耳の最奥に響く、絶頂の叫び  うっとりするようなソロコーラス
それを聞き、しばしの悦楽に染まる

刀に付着した鮮血、それを一筋、掬い取って舐めてみる
芳醇な鉄の香り ねっとりと舌に吸いつく舌ざわり
コクリ、と飲み干せば、咽喉の奥まで届く生温かさ

「…おいしい」

やはり、この感触と味がある限り、戦いは止められない


122 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 20:26:04 0
                ビッチ
「(…ケツも口も全部軽い豚だこと…)」

『スマイリィ』の目の変化を横目にみながら、『愚者』は暇そうに欠伸をする
『愚者』からみれば彼女の心の豹変ぶりは綺麗でもなんでもない、娼婦のようなうす汚いものにしか見えなかったのだった。
『運命の輪』はやはり、何もつかめない顔で話を聞いているようだった。

『……待ちたまえよ君達。俄かに希望が得られ、浮き足立つのは理解出来ない事もない。
 が、さりとてその歩調のままに攻め込むのは、些か以上に早計では、ないかね?』

そのとき、『ストレイト』が口を開いた

『総本山『聖樹堂』程ではないにせよ、我々がここへ参じるに経由した支部も、相当の兵数を擁している。
 君達全員が百人力の猛者である事は、強襲の指揮を取った私の骨身に染みているが、それにしても。
 君達の中に一騎当千を自負出来る者が、何人いる?』
「(…なんだこいつ…ただのでしゃばりか…)」

『愚者』がそんなことを思っているのに対し
『運命の輪』は、なんともいえない目で饒舌に、自身ありげに芝居がかった科白を口からだす『ストレイト』をみている 。
まあ、理解など彼女に限ってありえないだろうが。
その間も『ストレイト』はつらつらと、どこからか台本を取ってきたかのような言葉を連ねる

「(三行にまとめろよこのでしゃばり仕切りたがり…どうせ「この気の短い連中に私が手を差し伸べてやってやりますよ」とか思ってるんだろ)」

『愚者』がそう思ったのと

「君達には『枢機院』を相手取るに、相応しいだけの、戦略と言うものが必要なのだ。
 そして私ならば、それを君達に提供する事が出来る。端的に纏めるのならば、そう言う事だ」

『ストレイト』がそう言い切ったのはほとんど同時だった。
念のためいうが、この時点ですでに『運命の輪』の視線は『ストレイト』から逸れている。
傍から見たらただの馬鹿だ。
だが、あっちの方向を向いた彼女の顔は完全に嫌悪の表情を浮かべていた
こっそりと、包帯を腕からはずしていたようだ。
こつこつ、と車椅子の手摺をたたく。モールス信号を真似てつくった、二人だけの暗号というわけだ。

「【あいつは嫌いだ、信用できない上に…うざったい】」

やれやれ、という顔で愚者が返す

                サノバビッチ
「【たしかに自尊心の強い腐れ駄犬ではあるが…我慢しろ、利用できるものは利用するのが俺らだろ?】」

あまり周りに表情の変化を悟られないように表情を押し殺しながら手摺を叩く
                ブタ
「【あんなインテリぶったナルシストのケツにしかれろっていうのか!?】」
「【我慢しろ、一度信用したふりしときゃ、後でいくらでもケツの穴を2つに増やせるだろ?】」

少しだけ間をおいて、指で叩くように動かす

「【豚のケツにゃあ、たっぷり油を注いでから火をつけるのが、最も旨いんだぜェ?】」

123 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 20:28:37 0
少しぽかんとしてから、なるほど、という顔をして『運命の輪』はまた包帯を元に戻した
この間『ストレイト』の話は耳に入っていない

『さて、どうやら君達の納得が得られたようで、重畳の至り。それでは早速、
 私は作戦の練り上げに取り掛かりたいのだが、際して必要不可欠なのは、 君達が持つそれぞれの異能力だ。差支えが無ければ、私に教示願いたい』

先ほどの暗号での会話を想像できない笑顔で答える

「わかったよー!えーっとねー…『霊視眼』っていう、運命を視る力とー、『命運眼』っていう、運命を操る能力だよー。
操れるっていっても時間制限があるけどねー。ひとつの事項だけだし。
『愚者』はね、『紀行眼』っていうのー。ひとつの事柄に『道』を作る能力だよー」

『愚者』の分まですっかりいいきる。
その彼女は本当に無邪気な顔をしている。

また悠長に語りだす『ストレイト』の話を聞きながら、ぼそりとつぶやく

「愚者、つまりどうするのー?」
「…言うとおりにしないとご臨終だと」
「へー…」

納得したのかしてないのか。

『さて、ところで誰でもいいが、私の拘束を解いてくれるとありがたい。
 このナリでは君達への加勢はおろか、転送デバイスを差し出す事も出来ないのでね』

少しだけ悩んでから、『愚者』が前にでて拘束を解きだす
なにか言われるかもしれないが、その人には関係はなかった。
利用できるからだ。
さっと、なれた手つきで拘束をはずす

「……どうぞよろしく。」

眼はやはり、何を考えてるか分からなかった。

124 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 22:00:42 0

(人殺しの狂悦に生臭い恍惚の蜜を啜る、女剣士。)
(――――青年はそんな乱れる彼女の横を通り抜け、冷たい床に倒れた男へと駆け寄る。)

「ぐっ……く…、……は、はは…………ク……」

(呻きを上げるイェソドのそばにしゃがんで、斬られた下腹部を腕時計のライトで照らす。)
(……深い。目算だがおそらく、内臓はおろか骨まで到達しているだろう。)
(その間から、……血液が、…ゴポゴポ……。…誰でも分かる。このペースで失血していけば、………死ぬことなんて、誰でも。)

(どんなに強大な”異能”を持っていたって、――――死ぬ。)

(この男は、敵だ。)
(鷹逸郎やレイの命を笑いながら狙ってきた、まさにその張本人。)
(殺しに来たなら、殺されて何の文句が言えようか。何も問題はない。むしろ、生かしておくよりは充分安全だと言える。)

(まして、あれだけ派手な戦闘でビルを破壊し、その瓦礫で無関係な人々を危険な目に晒した。)
(目に余る、無慈悲な所業。この男の死には、誰も反対しないだろう。)

(鷹逸郎は、腰に巻いたポーチから大きめのタオルを取り出した。)
(もともとは人口密度の高い三千院セレネ握手会の会場で、汗をふき取るのに準備してきたものだが。)
(それを二つに畳んで、イェソドの傷口へと押し付ける。白い布地がみるみる赤く染まる。それでもひるまず、歯を食いしばって押し付ける。)

(呆れるだろう。)
(誰がその行為を褒め称えるというのか。)
(さっきまで自分や周りの命を亡き者にしようとした、男の命を。繋ぎ止めようとする行為を、誰が喜ぶというのか。)

(戦う者にとっては、生き恥かもしれない。)
(このまま死なせて構わない論理的・感情的理由が、確かな正当性をもって百や千は構築できるはずだ。)

……はあっ、……く、…………何してんだろうな、俺は……。

「………?」

(それでも。)
(怪訝な目を向けるイェソドに、鷹逸郎はどこか自嘲気味に笑ってみせた。)


…………アンタに、死んでほしくねえ。


(バカだ。)
(誰からも喜ばれず、憎しみすら買いかねないその行為を、何のためらいなくおこなうのだから。)


125 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 22:02:04 0

(その刹那。)
(鷹逸郎の首を掴み上げる、イェソドの、腕。)

……ッあ!?

(…………むくり、と。)
(イェソドの上体が、起きあがって。……そのまま、立ち上がる。……鷹逸郎を、腕にぶら下げたまま。)
(タオルが外れ、下腹からの出血は今なお続いている。これ以上患部を処置無しで放置するのは、本気で命に別状が生じてしまう。)

「……言って、おく……。
…………この俺に、攻撃を……仕掛けてみろ……。……さっきの居合いだろうと……その前の、見えねえ何かだろうと……。
………その瞬間、…………この街にいる全ての人間を、…………殺す」

(低い、声。)
(まるで、冥府の底から響いてくるような……。)
(……脅しに持ちかける材料にしては、あまりにチープ。……バカらしくて、本気になどするはずがない……と、普通は考えるべき発言。)

(…………それでも、やるかもしれない。)
(死に体の状態でも、…異能の核が潰れた状態でも、………どんな手段を使うか分からないが、……本当に、殺してみせるかもしれない。)
(そこまで思わせるような、……圧倒的、気迫。………例え攻撃を仕掛けようとしても、今この瞬間だけは、その手足を縫いつけてしまうだろう。)
            エ デ ン          セフィロト
(………これぞ、【楽園教導派】上位幹部、【生命ノ樹】に名を連ねる、その理由。)

               バンビーノ
「……アマちゃんだなァ、赤 ん 坊。………命を懸けた、やり取りで、……敵に情けを、かけるんじゃねェ。
その隙を、……クソ共は………笑顔で、突いてくる…。………そんな、下らねェことで、……てめェに死なれたら、…困ンだよ……!」

うくはっ…!?

(ガツン、と)
(鷹逸郎の体が、近くの壁に押し付けられる。決して軽くはない衝撃に、肺の空気が押し出されるような息苦しさ。)
(………それでも、加減されている。鷹逸郎には分かる。本来なら、このまま押し潰して壁のシミにすることもできるのに。)

………、あ、…あんた、……一体、何者…なんだ…。
俺の、…子供の頃を、知ってたり……最初の襲撃だって、…俺のことを、ミンチにしようとすれば…できたはずなのに…!
                   カルディナル      エ デ ン     セフィロト
「教える義理はねェな。…俺は【枢 機 院】所属、【楽園教導派】の【生命ノ樹】第九位、『基礎』のイェソドッ!!
てめェは世界基督教大学の講師、邪気学教授、結城第一〇八分家長男、結城”陽一郎”。……今は、……それだけで、いいはずだぜ」

(壁に顔を押し付けられた鷹逸郎には、イェソドの顔色を窺うことはできない。)
(それでも、その声色はしっかり聞こえた。…………まるで我が子を慈しむような、信じられないその穏やかな声色は。)



(困惑する鷹逸郎の耳元に、イェソドは顔を寄せる。)
(そして、何事かを囁いて、――――鷹逸郎の表情が、驚愕と唖然に固定された。)

126 :名無しになりきれ:2010/04/10(土) 22:06:06 0
「な、なんだ……どうなってんだ、こりゃあ!?」

 学ランを着たハチマキの青年が、その惨状を見て大声を上げた。

 彼ら、セレネ近衛隊の面々は、不発に終わったセレネ握手会からの帰途につこうというところだった。
 会場のカメラ専門店から出てきた彼らの目に映ったのは、まさに地獄絵図と称するにふさわしい、「惨状」。

「……”会館”のビルが、偉いことになっとる」
「それだけじゃないdeath。…となりにあった廃墟のビルにいたっては、跡形すら残されていないみたいdeathね」

 青年の両隣の爺さんと少女も、目の当たりにした光景に思わず色を失う。
 車道や歩道には、ビルのものとおぼしき瓦礫が散乱している。特に大きいものが落下したアスファルトは、耐えきれずひび割れを起こしていた。
 路脇に停めてあった宣伝用の痛車カーにいたっては、瓦礫の直撃を受けて、その原形を留めていない。

 歩道や車道はすでに通行規制されているようだった。
 黄色い立ち入り禁止のテープが、無惨な状態のビルを囲むように広く張られているのが見える。
 そのすぐそばでたむろする野次馬たちに罵声を張り上げる金髪の女警官も、いつもは無駄に元気なその表情には、らしくない険しさと翳りが窺えた。

 まるで、怪獣映画のセット。……しかし、これは紛れもなく、現実の光景。

「あ、あそこだけ地震でも起こったってのか……!? ふ、ふざけんな、あの”会館”を利用してる客がどれくらいいると……!!」
「落ち着けい!! 携帯電話のヘッドラインじゃと、死者はおらず、怪我人も軽傷のみと出ておる!!」
「どうやら、この日に限って”会館”はお休みしていたようdeathね。……どうにも不自然な休店deathが、結果オーライということdeathか」

 口々に、軍陣の先頭を切る幹部たちがざわめき出す。
 …いったん口火を切れば、伝播は早い。後続する老若男女にも、その動揺は矢のような勢いで伝わり出した。
そしてそれは、周囲にたむろした野次馬達にも。…恐怖、絶望、そういった負の感情は、どんな感情より凄まじい速さで伝わっていく。

「収まれ、収まらんかッ!! …しまったわい、ここで口を開くのは軽率じゃった」
「じいさん、ここはオレに任せてくれ。……三分で収めてみせる」

 そう大口を叩いて前に進み出たのは、学ランの青年。
 青年は、額に巻いた白のハチマキをキュッ、と締め直して、……大きく、息を、吸った。

「バカヤロウッ、うろたえてんじゃねえッ!! 天下のセレネ近衛隊がなんッつー面してやがるッ!!
いいか、よく聞け半熟卵共。こんな時、何もできずうろうろしてるやつに守られて、セレネ様が嬉しいと思うとでもッ!?
そこのお前ッ、答えろッ!! 321ハイダメですタイムオーバーッ!! 日本橋から出直して来やがれッ!!

思うわけねえだろうがッ!!
いいかセレネ様はスケールが違うんだッ!! こんな局地的な大災害でも笑いながら流しちまうぐらい大らかなお方だッ!!
そんな偉大なるお方を守ろうと志に決めた者達がッ、こんなことでふらついてどうしてセレネ様を守れるというのかいや守れんッ!!(反語)。
だがオレには分かるぜ、いきなり大きくなれってのも無理な話だってのは承知しているッ!!
人間いきなりそう変われる訳はねえ、だから小さくてもいいからこつこつ前進していかなきゃならねえ!! それが成長だろ!?
そうやってお父さんお母さんじっちゃんばっちゃんは立派になっていったんだッ!! その偉大な血を受け継ぐてめえらができねえ訳がないッ!!
オレは信じている。お前らがやればできる子なんだって信じてるッ!!
だからお前らもオレを信じてくれッ!! 信じ合って、共に成長して、セレネ様に見合う人間になろうぜッ!!
いいなッ!? オレに黙ってッッ、着いてこいッッッ!!!」

 
 ドガァンッ!!(潰された痛車が背後で爆発炎上する音)。

 その爆発のタイミングが神がかっていたためか、…群衆のどよめきは途端にやんだ。

 そして、ワッッッ!! と。
 沸き起こる、大喝采と大歓声。それはいったん伝わった恐怖や絶望をあっさり呑み込んで、人々を煽る。

「……口だけは上手いのう。」
「バカばっかdeath。」

127 :>>125と>>126の間に:2010/04/10(土) 22:24:09 0
(ボト、と床に鷹逸郎を解放するイェソド。)
(もう用はない、と言わんばかりに。………いや、もう済ませるべき用は済ませた、という方が正しいような気もする。)

「……レイ、…だったよな。………”凶”気を内に飼う者なら、………気を、つけな。
”凶”人の末路は等しく自滅。……一刀の極致に限りなく近づけた……てめェほどの剣士が、そんな……死に様たァ、もったいねェからなァ…。
…………次には、加減をする理由がねェ。…首は綺麗にしておくんだな、…クククククッ……!」

(出血する下腹を自身の手で押さえ、……改めて、床に落ちた血塗れのタオルを拾い上げる。)
(それを患部に当て、イェソドは笑う。)

(まるでそれは、「別れの挨拶」。)
(………まさか、ここから脱出でもしようと言うのだろうか。異能の核を潰された状態で…!?)

「……もう一度言うぜェ…見くびってもらっちゃァ困る。……俺は、【生命ノ樹】。
そこに名を連ねるからにはァ………、……それなりに、強ェし、また強かでなきゃならねェ。………それじゃァ、」


(イェソドが、……足を、振り上げる。)
(それを、思い切り、床に叩きつけて、)


(ドガァンッ!! ……と、信じられない轟音を立てて、イェソドの足もとの床が崩れ去った。)


(異能の”核”は、確かに破壊されているはずだ。それはイェソドの傷が証明している。)
(じゃあ、あの力は? ただの人間が、ただ足を叩きつけただけで、鉄筋に支えられる床を破壊できるわけがない。)
(何かトリックがあったのかもしれない。または、イェソドとレイの戦闘の衝撃余波で、そこの床がちょうど脆くなっていたのかもしれない。)

(でも、果たして本当にそうなのか?)
(その謎を謎としたまま、イェソドは床に空いた大穴へと飛び降りて、)


「――――――また”遭”う日まで」


(その姿は、深淵に消えた。)



【襲撃戦 レイ・鷹逸郎○VS●イェソド】
【しかし、その勝敗の結果が実力差を示しているとは限らない】



(……戦いが終わり、)
(鷹逸郎はやっと、安堵したように、深く深く溜めていた息を吐くことができた。)

(レベルが違う。)
(いや、『世界』に比べればどうか分からないが、……あの時は、いくつもの宿命的幸運が重なった末の結果だと痛感した。)
(鷹逸郎は、実感する。………自分が足を踏み入れた「非日常」、そのついに剥かれた牙を。)

128 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 00:01:24 0
「そうですか では私も得意な方をやらせてもらいます」

「ただ亜空間からものを取り出すだけじゃないの? 汎用性に欠けそうよね」

「…嫌味ととっておきます が、ケリッポドを甘く見ない方がいいですよ
 ―――蹂躙せよ、ケリッポドの地獄門」

「……!」

ピアノを取り囲むように亜空間への門が次々開く
出てくるのは、神か、悪魔か―――――


「ゲ」


真っ黒な穴から半身を乗り出すように現れたのは、無数の武器
戦斧 剣 槍 メイス 拳銃 機関銃 ロケットランチャー はてには大砲まで

「あはは… これは…ちょっと…」

「骨身残らず消えてください 今のうちにあなたを消さないと、仕込みが終わりませんから」

「……逃げますか」

「そうしてくれると助かります ここはあまり壊したくないので」

あくまでも冷静な王国の言葉が終るか終らぬかのうちに ピアノは走り出していた
背中を展開し ジェットパックを作り出すと飛び上がる

「ここは人も多いし…!」

よくよく見れば、何人か野次馬が戻りつつある あの戦いを見られた可能性もあるが、今はそんな事は気にしてられない

「ちょっと!もうちょっとゆっくり飛んでよ!後ろは何も来ないよ!」

頭の上からあわてた様子のウィスの声がする 振り向けば確かに何も来ない

「……逃がす、訳無いわよね しつこく追うつもりかしら、ストーカーみたいに」

ならば本気で戦える"場所"が必要だ 広くて、なおかつ人に邪魔されない場所
秋葉原近郊のそんな場所といえば

「上野公園ね」

舞台は、上野公園へと移る


129 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 00:02:26 0
上野公園

普段は不忍池や上野動物園などのレジャーでにぎわうここも、外出規制が出ている今では人っ子ひとりいない

「やはりここに来ましたか」

王国は広場の真ん中に立っていた おそらくケリッポドを使って移動してきたのだろう

「随分そそくさと移動してきたわね あなたも野次馬どもに見られたくなかったって訳?」

「まあ、そういう事にしておきましょう 開けよ、ケリッポドの地獄門」

手元に小さな拳銃を落とす王国

「…あら?さっきのあのアンリミテッドブレイドワークスは嘘なのかしら?」

「…何のことか分かりかねますが "殲滅"の事ならば周囲のダメージが大きいのであまり使いません」

「優しいのねー 戦争ってのは、自然と命を喰い荒らすものなのに」

「それも嫌味ととっておきます それに、あなたを倒すのはこの拳銃で十分です」


タンッ


乾いた音が響く
シールドを展開したピアノと、硝煙を上らせる拳銃を持った王国

「けふ…っ!?」

と、ピアノが軽く血を吐いた

「こ、れ、聖銀、弾…!?」

強固な装甲を突き破り、ピアノの腹に突き刺さった純銀の弾 それは対邪気用兵器によく使用される"聖銀"

「…なんで、ケリッポドは、異能の力じゃないの…!?」

「残念ですが、聖銀弾は自前です 少々卑怯な手を使わせて頂きました」

王国は腰についたマガジンをチャリチャリと振る そこに入っているのは、銀の弾丸

「…先に来たのは、その仕込みのためだったって訳ね っげほ!」

なんて単純な罠に引っ掛かってしまったのか、情報部のこの私が聞いて呆れる
聖銀弾を取り出す ピンセット状にした手が、今にも血を噴き出しそうな痛みが襲うが、体内にあるよりはマシだ
純銀色に輝く弾丸を投げ捨てると、傷口を手で押さえる さすがに縫うことはできない

「そんな服装ですから、傷も相当深いでしょう それでも戦うつもりですか?」

「当然、レイだって頑張ってるんだもの 私がなんとかしないでどうすんのよ
 それに、これぐらいの傷なんてなんともないわ これで勝ったつもりになるのは、慢心者よ」

「聖銀弾のストックはまだまだある事を忘れていませんか? そんな体で、銃弾を避けれると?」

「やってみなきゃ分かんないでしょうが!」

130 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 00:06:42 0
腕を機関銃に 足を車輪に
能力を使うたび、お腹に残る聖銀弾の残滓がズキズキと痛む それでもこれ以上あの忌々しい聖なる弾を食らうよりは何万倍もマシだ
しかしそれでも、王国は上を行った
高等技術である偏差射撃をそつなくこなし、ピアノに着実にダメージを与える

「…もう止めにしませんか あなたは満身創痍です」

戦うこと10分 ピアノは、血の水たまりの中に沈んでいた
白い肌に幾つも残る銃創

「………」

「返事をする元気もありませんか このまま放っておいても死にますが、それは可哀そうです せめて、一息に楽にしてあげましょう」

銃を構える王国

「ピアノ!起きて!殺されちゃうよ!」

必死に喚く小人 というかお前うるさすぎ

「…この傷で、どうやって立てっての」

ぽつり、と呟く もはや意識もままならない

「う……私の星の技術があれば、こんな傷一発で治るのに…!」

小人は唸るように言う って、ん?

「あなたの星…ってあなた機械生命体って言ったわよね…」

「え、うん」

「じゃ、その技術って、機械よね?
 設計図とか、持ってる?」

「……見たことは、あるけど 作れるの!?」

「私を誰だと思ってるの …機械少女、ピアノよ」

腕を伸ばすと、接続端子を展開する

「ここにデータを入れてくれればいいから」

「…う、うん」

ウィスの体からも端子が伸びる 本当に機械生命体だったのかと感心する
…ってちょっと待って 直接接続する気? ちょ、私、処zy

バチィッッ!

「っあが!?」

端子と端子がぶつかった瞬間  頭に流れ込んでくる情報、情報、情報
宇宙に存在する文明の数々 それが全て、私の頭の中に流れ込んでくる この小人、地球に来る前に他の星にも行っていたようだ

それは余りにもオーバーテクノロジーな数々 地球では到底実現できないであろう品々
その中には、この小人が言っていたものであろう高速治癒装置なるものも入っていて


131 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 00:07:48 0
「…どういう事ですか」

「……私にも分りかねるわね ただ、ひとつ言うとすれば 『宇宙ヤバい』」

先ほどまで血だまりに沈んでいた少女が、すっくと立ち上がって体中の血を落としている
その落としているものもそうだが、先ほどこの少女を覆った謎の機械群 あれが一瞬であの致命傷近い傷を治したと言うのか
それに血を文字通り一滴残らず落としているあれ 服に染みついた血ですら綺麗さっぱり無くなっている

「その言葉の方が分りかねます」

王国は拳銃に聖銀弾を込め治すと、あくまでも冷静に聞いた

「その方が普通よ 気にしないで
 さて、綺麗にもなったし 続きといきましょ?」

「……まだ分かってないんですか? 私には聖銀弾があるんですよ」

しかし王国は少々いぶかしんでいた 聖銀弾はまだ一人を戦闘不能にするには十分なほどある
問題はそこではない、あれほどの攻撃を受けてなお立ち上がり その目には勝機すら宿っているこの少女、この自信は何なのか

「言ったでしょ、宇宙ヤバい って」

まるで心を読んだかのように答えてくる
宇宙?どういう事だろうか 宇宙から何か力を貰っている?そんなもの昭和のオカルトだ

「あら、宇宙には意外と色んな力が働いてるのよ?」

「!?」

「放射能 ダークマタ― 真空エネルギー エネルゴン etc...」

なにやら朗々と語り始める少女 気味が悪い
無防備に話す彼女に拳銃を向けた

タンッ!

二発目の乾いた音 しかしその後に響いたのは

「…っかは!?」

自分の、呻き声だった


132 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 01:41:00 O
「……ん。この後は授業も入っていないので、すぐにでも君の『案内』はできるが……まあ、放課後か今か、どちらがいいかはそちらで決めてくれ。
 私としては、どちらでも構わないので、な……」

ピコン、と軽快な音をたて緋月命の眼前に“選択肢”が現れた。

選択肢。それは古今東西、(主に)前髪で目が隠れた男児達を様々な結末へ導く分岐路。
  プ レ イ ヤ ー
『運命の選択者』により決定される先にはHappy、Bad、Normal、Dead、True、Harem、等、様々な終末(End)が待ち受けたと言う。

そんな主人公だけが赦された特権を目の前に、彼は

(…………なんだこれは?)

当然、戸惑っていた。

『侍はテレビゲームをするのか?』
この命題に対し、確信を持って「YES」と答える様な人物が、この世にいるだろうか───いや、いない。

だから、彼は知らない。
こんな状況が発生する可能性がある事を知らない。

1.《この場に残る》
2.《黒野に着いて行く》

中空に静止する二つのコマンド。
それらを前に、白亜の侍が選んだ選択は“思考”。

(選べ、という事か?ふむ、世の中には中々不思議な現象もあるものだ)

(この銀髪の益荒男……間違いなく剣の使い手。大方、愛刀を探して此所へ至った……そんなとこか)

(そして……感じる。今まで幾多の魔剣使いに触れてきたが……)

(此奴、間違いなく特級の使い手だ)

ざわりと、闘士としての闘争本能が疼く。
一瞬、獰猛に犬歯を剥き出し歓喜の笑みを浮かべた事に彼は気付いただろうか。

(嗚呼……戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい)

だが、同時にそれが叶わぬ夢であることも又、承知している。
そもそも、相手は獲物という爪を失っているのだ。

まして

(某はカノッサという組織に属しているのだ。そちらより私情を優先させ、ここに残るなど、そんな不義は出来ぬ)

“思考”は帰結する。一縷の迷い無く伸ばした手は、後者の“選択肢”と触れ合った。

然して、岐路は潰え一本道と化す。いつとも知れぬ内に、黒野の傍らに侍りし侍は、先行者に呼び掛ける。

「さて、では案内を宜しく致す。───道すがら『枢機院』の事も共に……の」

133 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 01:43:07 O
───そんな不思議な出来ごとの中。
世界基督教大学の“裏側”───全ての建物と風景がモノクロームで構成された『反転空間』に、


聖鎧を纏う兵士が居た。
法衣を纏う術士が居た。
弓を背負う弓手が居た。

ユニオン
“小隊”が、そこに在った。

神剣、天槍、聖斧、霊弓、光銃、浄鎚、輝杖。
形は違えど、一人一人が創造主より賜りし、強大な力を持つ『神器』を携えている。

「早いモノであるな。創世眼事件から一月と経っていないというのに、既に幾人かの“異端”が、我等が聖地へ踏み入ったであるか。
……流石、邪法の徒ども。鼻だけは立派であると称えてやろう」


殊更に『聖』を強調したツンツンと逆立った白髪、『光』を内包するが如き金の瞳、『聖騎士』の言葉を具現したような容貌・格好を呈した、老練の壮年。
この軍団の総指揮権を一手に受け持つその聖人は『エヴァー』の異名を冠していた。

“裏面”の異空間。中空にぼんやりと浮かぶ画面には、現時点で確認できた異能関係者が映されている。
それに一瞥を呉れた『エヴァー』は心の底から嫌悪を吐き出す様に言ノ葉を紡ぐ。

「……あまり聖地を穢してくれるでないぞ?
邪気眼使い、アルカナそして」

「カノッサ機関……!」

殺意が、溢れる。
視線の先は、白装束を纏いしカノッサの幹部。
《トリス・メギストス》卿の密告により、ほんの先程潜入の事実が明らかとなったのだ。



『枢機院』、『カノッサ機関』。双方の組織の発祥は《創造主》という、一存在に遡る。

《創造主》の御世を実現するために“創られた”二つの組織。
『信仰』を司る枢機院
『武力』を司るカノッサ機関

役割は違えど、目的を同じとした“爪”と“牙”はセカイの多くを掌握し、御世を成す───筈だった。

何時からだったのだろう
カノッサの暴走が始まった日は
必然だったのかもしれない
『武力』を司る“モノ”が
───力こそ全てと見定める事は
───創造主を無用の長物と見なす事は

結局は簡単な話。
カノッサが《創造主》を棄て“力”を信奉するようになったというだけの。

だから だからこそ

《創造主》への『信仰』を司る枢機院は、断じてカノッサ機関の存在を許さない───

134 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 01:45:09 O
「……さあ、参るであるか。カノッサも───邪気眼も、創造主様の神代には必要無い。
全ての“異物”は……我ら《神樹の槍》が浄化するぞ!」

「応!」、と計五十名余りの叫号が一斉に帰り来る。

ド    ン    ッ    ッ    !!

激震。地を裂かんがばかりの振動が『反転空間』を襲った。
何がそれを引き起こしたかなど、論ずる間も無く明白。

“五十人”
たったそれだけの人数が発した一声。その個々に含まれる“戦気”の結晶が、地震にも紛う衝撃をはじき出したのだ。

並の精兵には、到底及びもつかぬ出来事。
それは必然、“小隊”を構成する各々が突出した実力を有する事実を証明する。

当然だ。小隊の構成員達は皆【枢機院】の膨大な軍団から、『最も優れている』故に選ばれた者たち。
他のただの一兵卒とは存在する次元が違うと言っても何ら過言ではない。

「……誠に良い返事である。では───行くぞ」

その言葉は、全員に“反転”の術法がかけられたと同時だった。
「どこへ行くのか」などと、問う者は居なかった。

───“反転”の“反転”は“表”なのだから。


【NPCデータ《神樹の槍》】
枢機院に属する一般兵から『※最も優れた』一つまみの人員を抽出し、集める事で構成された五十人程の“特務小隊”。
“異能”という形では創造主の力が適合しなかった者たち(一般兵)の集合体が基になっている。
だが《神樹の槍》は異例として“異能”と同レベルの力が『神器』という形で、創造主から賜った力を行使している。

※選考基準は“実力”と“【枢機院】のために尽くせる度合”。

135 :名無しになりきれ:2010/04/11(日) 13:51:51 0
「…さて、庭師の華よ。単刀直入で悪いのだが、貴方に問おう。「庭師」はどこにいる。」
「素直に答えるほど、僕も暇じゃないんだが…」

不快さに、冬将軍は眉をひそめた。おおよそ、幼女らしからぬ嫌悪に満ちた表情。零氷の目でにらむ
大してのケテルは…筋肉の一つも動いていなかった。人間らしからぬ彫像のような表情。
ケテルは追い詰めるように、矢継ぎ早に問う。

「僕は君の最大の弱点を知っている、殺されたくなければ・・・消されたくなければ答えろ。」
「消されても問題ない、また冬がくれば戻れる・・・そこまでして聞き出したいか。」

ケテルはすこしだけ杖に加える力を強めた。眼孔はなお鋭く。
薄く花びらのような色の唇は、追求することを止めようとはしない。

「でなければ、何のために君に会う。」
「…なんだ…ッ!?」

冬将軍は何か来る、とおもっていた。だから動けるようにと構えていた
しかしその指が動くことはない。
それどころか五体の隅々まで凍りついたように動くことはない。
このとき、将軍は相手の能力に気がついた。

                  ブレインオーダー
「ちッ…思慮思考を操作する意識操作か」

少しだけ困ったような哀れむような顔でケテルは笑う

 イデアパペッター
「「意思操縦者」と言って貰いたいところですね…さて、応じてくれないのならば、暴力で聞き出しましょう」

                    リボルバー
一切動けない冬将軍に向けて、回転式拳銃を向ける
見たことないような真っ青なボディーに金色の装飾。ところどころ傷があるところを見ると相当な年季物だろう
引き金に細く長い指をかける。

「まずは…左肩」

鉛球が軋みながら少女の肩にのめり込む。
撃たれた肩から血の代わりに雪解けのような水が流れ出す。
近くにいた鳥が、硝煙と銃声という異常さに遠くへと逃げていく

「おっと…ここが学校だったのを忘れてましたね。まあ大丈夫です、誰もこの銃声は『思考』できない」

戦慄するほどに、醒めた声でケテルは名乗った

「改めまして自己紹介を。僕は『哲学のケテル』、第一セフィロトだ。」

『王冠』は笑った

136 :名無しになりきれ:2010/04/12(月) 04:22:32 0
(私に足りないもの……判断力、決断力、機動力――総じて『遅さ』!!)

邪気によって強化しているとはいえ、彼女の能力は完全攻撃特化。身体能力、感覚知覚は『普通の超人』の域を出ない。
『世界』を除けばアルカナ最強の火力を持ちながら、それでも苦戦を重ねる理由は正しく致命的な鈍足。
的の小さな対人戦では殊更にその弱点が遺憾なく発揮され、結果片目を失うまで追い詰められた。
            パラダイムシフト
(必要なのは能力の根本的転換。それを是とする覚悟!遺志を貫かんとする意志ッ!!)

緑玉の遺眼――『悪魔』の遺したそれを、見る。
最愛の妹『星』の散逸した光子を内部に収めた二人分の残滓。
『拳闘眼』と『白金眼』の現出物たるそれを、――空白となった左の眼窩にはめ込んだ。

「――っつああああああああああああああああッッッ!!!!」

巨大な槌で殴られたような衝撃が頭蓋を貫く。
他者の邪気眼を停止処理もせず直接取り込んだことによる拒絶反応。四肢を引き裂かれるような灼熱感が体躯を巡る。
心臓を鷲掴みにしてそのまま振り回されるような、最悪の浮遊感に付随する喪失感。五体を渦中に燃え上がる激痛。

(この苦痛はっ……!『星』の!『世界』の!!『悪魔』の痛みッ!!!――だから看過しない。全て受け止めて、受け入れるッ!!)

『拳闘眼』と『白金眼』の邪気を、内に宿った『創世眼』の残滓によって肉体と融合させる。
乾ききった、ひたすら能力だけを出力し続けるだけの魔導具となった遺眼に、新しい生命力で活を与える。

そして、接続。

「『星』!!『悪魔』!!『世界』!!!赦してとは言わない。助けてとも言わない。だから今一度、――わたしと共に前へ進もう!!」

無機質な宝石と化した遺眼に、瞳孔が宿る。翡翠のような翠を湛える瞳に色を残して、残りは生きた眼球のそれへと姿を変えていく。
自らのものとは異なる二つの邪気が、弾け飛びそうになる五体を包み込み、浸透し、しっかりと繋ぎ止めた。

「やっと見つけたんだ、進むべき指標を。だから、こんな停滞は――もういらない!」

弾けとんだ髪留めが床に乾いた音を立て、流れるような髪が外套の上へ滑る。
遮光カーテンと化した前髪の向こうで、両の眼に光が見えた。

137 :名無しになりきれ:2010/04/12(月) 04:26:07 0
人気のない研究棟に、人影が落ちる。階上では修道女と変態が幼女を囲んでいる最中なのだが、ステラにそれを知る由はない。
壁に寄りかかって何かを待つ『コンフィング』の姿を認める。『プロブレム』の姿はそこにはなく、つまりは。

(仕掛けるなら今――!)

こちらに気づいた『コンフィング』が臨戦の態勢に入る。

踏み出すのと同時、二つの眼から得た力を、

一歩目で解放する!


背後での稲光。――気付けば、目の前に壁があった。
振り向くと、『コンフィング』は遥か後方でステラを見失っている。その視線の先には、一瞬前まで彼女が存在していた廊下の突き当たり。
丁度現在のステラの位置とは、廊下で貫かれた端と端の関係にある。それらを根拠にたった今起こった現象を紐解くのは算数より簡単だ。

一瞬――『光の速さで廊下を端まで突っ切った』。

遅れて、答えを運ぶように風が吹く。質量のある物体が光速で通過したことによる、衝撃波を超えた真空の風。
迸る大気が刃となり研究棟の壁を裂く。舐めるような亀裂が廊下を渡り、ステラの立つ場所まで走って彼女の髪を揺らした。

「あ、あれ?――行き過ぎた?」

靴先で床を叩き、摩擦力と足場の硬さを確かめながら踏み込み具合を微調整。
もう一度、両の眼に邪気を宿らせて発動。背中に光の圧力を感じ――鼓動一つで今度こそ、『コンフィング』の眼前にまで肉迫する。
付随する真空波と共に、邪気を纏わせた拳をまず一撃、叩き込んだ。握りから突き、振り抜きに至るまで熟練された格闘者のそれだった。

「暁光眼、拳闘眼、白金眼……融合術式【ライトニングセイル】――!!」

追いついてきた風に煽られるステラの様相に、先刻との差異は二つある。
一つはその眼。右は群青の虹彩鮮やかな、彼女が元より持つ蒼眼。そして左は――翡翠の如き瞳が煌めく異質の翠眼。
左右非対称のオッドアイの背後では、縛めを解いた山吹色の長髪と黄色の外套がその表面から光の粒を放っている。

片目落ちという逆境を抱えた彼女が辿り至ったのは、これまでとはまったく違う新しい発想。
一対一式の邪気眼が十全でない以上、一撃で『コンフィング』を葬れる程の光を支配することは不可能。

――だから、支配するのではなく共に戦うことにした。

『太陽帆』という理論がある。太陽光線を帆に受けて、風を得た場合と同じように推進力へと変換する宇宙船技術である。
日差しの強い炎天下に立った時、日光によって皮膚が圧迫感を覚えることはそう珍しくないだろう。
まるで太陽光に質量があるかのような感覚。ことほど左様に、強い光には微弱ながらも圧力が発生するのだ。
                    セイル
【ライトニングセイル】は、己の体を帆として、この『太陽帆』の原理を最大限に応用した術式である。
触れた物を光に変換する『白金眼』で外套と髪の表面を微量ずつ光に変え、『暁光眼』で圧力を引き上げる。
そして、有り体な表現をするならば『光に背中を押してもらう』ことで光の速さで体躯を運ぶことが可能となるのである。

無論、光速で動けばそれを実現する体の方も無事では済まない。制動時に光を逆噴射することで慣性は克服できるが、
それでも無茶な機動は四肢に負担を蓄積し、そもそも光速機動はこれまでとまるで異なる戦闘技能を習得せねばならなくなる。
だから、『拳闘眼』。あらゆる技術体系を蒐集し習得し格闘技能の強化補助とするこの能力で、無理を無理やりねじ伏せた。

純然たる別次元。文字通り光速よりも一歩進んだ速度での近接格闘。ステラ=トワイライトの新境地にして真骨頂。

『暁光眼』『白金眼』『拳闘眼』――そしてそれらを統括し融合させる『創世眼』。四つの邪気眼と四人分の意志が合致して初めて至る極地。

――業を背負うことを選択した少女だからこそ、得られた力。逆境を糧に、彼女は翔んだのだ。

だから宣言する。

「始めようか『コンフィング』!貴方の向こうに道がなくても!わたしはその先へ行くよ。――光速で!!」


138 :名無しになりきれ:2010/04/12(月) 23:46:22 0
一滴の生命の水を飲み干すと ほう、と息を吐く
鼻腔の奥に残るヘモグロビンの香りに酔いしれながら いましがた瀕死の重傷を負わせた当人を見る

「……少年?」

その側を、鷹一郎が屈んで何かをしている、何かと思えば 止血

「…無駄だ、傷が深すぎる そんな事をしても、出血多量でじき死ぬ」

それでもこの青年は既に真っ赤のタオルを傷口に押し当て続ける

「………」

黒爪の刀身にべっとりと染みついた血を丁寧に舐めとりながら、彼女はじっとその様を見る
と、瀕死のはずのイェソドがむくりと起き上がり、鷹一郎の首を掴み上げた

これほどの傷を負って未だにこれほどの力を残していたのか、と素直に感心するが 構えはしない
今のイェソドからは、殺気が感じられないからだ あの禍々しいまでの殺気と、狂気の敵意 それが無かった
イェソドと掴まれたままの鷹一郎は、何かを話している
鷹一郎は顔を壁に押し付けられている為、表情は伺い切れなかったが 何やら驚くような顔をしていた。
そしてそんな彼を解放すると、イェソドは呟くように言う

「……レイ、…だったよな。………”凶”気を内に飼う者なら、………気を、つけな。
 ”凶”人の末路は等しく自滅。……一刀の極致に限りなく近づけた……てめェほどの剣士が、そんな……死に様たァ、もったいねェからなァ…。
 …………次には、加減をする理由がねェ。…首は綺麗にしておくんだな、…クククククッ……!」

「……褒め言葉としてとっておこう」

そしてドラゴンはその身を休めるため飛び上がる 地を砕く咆哮でもってその身をくらます
魔性の深淵へ消えゆく姿をただ見つめる鴉は、爪をゆっくりと収めた

「また遭う日、か その頃まで、私が生きていればいいがな」

耳に届く深い溜息に目をやれば、鷹一郎青年が壁にもたれかかるように脱力している

「お疲れのようだな少年 しかし、君もよくやったと思うぞ
 君がいなければ私も勝てなかっただろう、ありがとう」

それは、賛辞 "命を助けられた者には精一杯の礼をしろ"、父からの教えだ
この青年が自転車で突っ込んでこなかったら 下層から声をかけてくれなかったら 間違いなく私は死んでいただろう
だからこそ、この少年には礼を言う義理がある

「さて、これからどうする 外は野次馬だらけ、目立たずに外に出るのはまず無理だろう、特にその服ではな」

そう言って鷹一郎の服をあごで指す 血にまみれ、ところどころ破れた服は、どう見ても"ファッション"では通せない代物だ

「私もそうだが、幸い替えの服は常備している これでも意外と綺麗好きでな」

実際は狂気に満ちた本性を隠すためだが、この少年に本当の事を言う必要はない
それよりも、このゴワゴワした服を早くなんとかしたいと

レイはその場で服を脱ぎ始めた


139 :名無しになりきれ:2010/04/14(水) 20:30:58 0
無機質なリノリウムの廊下に二つの足音が響く。
その内の一つは、廊下の中央付近を歩く白い侍。
そしてもう一つは、廊下の端をもそもそと歩く黒野天使。
二人が歩く食堂から少し外れたその区域に、騒がしい学生達の姿は無い。
すぐ横に見える教室の中にはダンボールや資材が置かれており、
その区域一体が物置と化している事が判る。

「……私が初めに気付いたのは、ある宗教の歴史を調べていた時だった」

二人の間には暫く沈黙が続いていたが、長い廊下の中央まで来た所で黒野は立ち止まり、
ようやく口を開いた。先程の学食の様に周囲からの視線が無いせいか、
その口調は幾分落ち着いており、少なくともどもったりといった様子は無い。

「……基督教。知っての通り、この世界最大の宗教の名前だ。その歴史は血に塗れていて、
 幾つもの不可思議と関わっているのだが……いや、すまない。これは省いていいな。
 とにかく、民俗学者でもある私はある日その基督教の最近の歴史について調べていたんだ。
 これだけなら、特に何も気付かないのだろうが……生憎私はカノッサ機関の研究員でもあった。
 ……××ヶ月前、カノッサ機関の構成員が謎の集団に襲われるという事件が発生していただろう?
 その当時の私はその事件に関するデータを纏める仕事をしていたんだ。そして……
 ……すまない。あまり他人と話す事が無いので、どうしても話を上手く纏められないな。鬱陶しい女で申し訳ない」

黒野は足を止め、教室側の壁に背を預け深呼吸する。


140 :名無しになりきれ:2010/04/14(水) 20:31:41 0
「……ん。簡単に言おう。表の歴史と裏の歴史を知れる立場にあった私は、
 歴史の中の奇妙な一致点に気がついた。それは、過去より基督教が存在する所には、
 必ず何かの事件や、事故、謎の物流、そして『枢機院』という言葉の残存が発生している
 という事。興味を持った私はその事について調べ……そしてある推論に思い至った。
 つまり、基督教は何らかの裏の戦力を持っていて、今カノッサ機関に牙を向いているのではないかという事。
 カノッサは知らない間に、何らかの理由で世界最大の宗教を敵に回してしまったのではないかという事。
 ……そして、その予測はある程度間違ってはいないと思う。現に、先日の事件以来、
 この大学を含めた表の基督教は奇妙な動きを繰り返している」

黒野はそこまで言うと、ぼっち人生故に久しくまともに使っていなかった声帯の使用に
疲れでもしたのか、右腕で自身の喉を軽く揉むように指を動かした。

「……つまる所私が知っているのは、基督教には何らかの能力を持った『枢機院』という言葉に関係する
 戦闘集団がいるであろうという事。そして、この大学はそれにある程度深く関わっている
 という事。それだけなんだ。期待に添えなくてすまない……調べようと思えばもっと調べられたが、
 謎の集団に命を狙われるのは嫌だったのでな、深入りはせず、カノッサ機関にも報告はしてこなかった。
 本当は、君がこなければ、これからも誰にも話すつもりは無かったのだがね……」

そうして黒野は話を終える。収穫……というには微妙な内容かもしれない。
だが、ある程度の情報は侍に与えられた。そうして再び少しの間沈黙が続いた後
黒野はノロノロと背を壁から離しその場から去ろうとし、振り返った。

「……ん。そういえば、この事について調べていた時『セフィロト』という単語を
 頻繁に見たのだが……もしかしたらこれも関係――――」

そうして振り返った黒野を、もしも白い侍が見ていたならば……侍は、その瞬間起きた事を理解出来た筈だ。
血の様に赤い布を巻いた槍が、コンクリートの壁を、そして黒野天使の胸部を、『貫通』した事を。

踏み込んで来た謎の軍勢の足音に反応するかの様に、
黒野天使の白衣を赤い華が染めていく。それはまるで、開戦の合図の様に。

141 :名無しになりきれ:2010/04/14(水) 22:20:40 0
 「なんだテメエ…?状況分かって言ってんのかよ?」

(切れ味の付与された小枝をちらつかせながら、脅すような低い声色で『プロブレム』は言う。)
(『リッパトリッパー』の能力は既に見せている。例え無能力者でも、自分の持つこの小枝が男の首を刎ねるのに何の不都合もない事くらいは分かる筈。)

「あー、アレか?次々起こる非日常的展開に気が動転!ってヤツかァ?悪ィがこりゃ現実だ。アンタにゃこれから「人質」になってもら───」

(ヒュウ、という空を切る音。)
(ずしん、と重たい音が響き、はらはらと木の葉が舞う。)

「───う、ぞ…?」

(なんのことはない。目の前の細身の研究者が、『プロブレム』背後の木めがけてヤクザキックを叩き込んだのだ。)
(男は質問に答えてもらえなかったことについて、少し不機嫌そうに顔を歪めた。)

 ……質問を質問で返さないで欲しいかな。私はこれでも気が短いんだ。
 ああ、それと「状況がわかっていない」のはそちらの方だ。君はただ「言われた事に答えていればいい」。違うかい?

(あっけに取られたように、直線に伸びた足を見やる『プロブレム』。やがてはっと我に返り、冷静さをやや欠いた口調でまくしたてた。)

「あんだコラぁ!研究者気取りのモヤシ野郎がッ!そんなに、痛い目、見てェのかァ!?ああ!?」

(彼のキャラ性とマッチするやンキーメンチ。胸倉をひっつかみ、切れ味の付与された小枝を頬にあてがう。)
(たらり、と不健康な白い肌に一筋の赤が流れた。)

 …「切れ味の付与」…ふむ、触れてこの切れ味なら………

(独り言のように呟き、頬の傷に触れ血を掬う。赤く染まる指をそのまま指を口へ運び、にやり、と嫌な笑みを浮かべて言った。)


 ………今一つ、だな。


(自身が絶対な自信を持つ「能力」の「批判」──その刹那、『プロブレム』の血管が音を立てて焼き切れた。)

142 :名無しになりきれ:2010/04/14(水) 22:22:11 0
(手を引き、目の前の白衣を赤に染めんと一文字に切りかかる。)

 ……っと。

(小枝のリーチが短かった事が幸いした。白衣は1歩下がってしゃがみこみ、横薙ぎに振るわれたそれをかわす。)
(先ほどまで研究者が身を預けていた老木が、まるでそこになかったかのようにばたんと倒れた。)

「ヒトが大人しくしてりゃいい気になりやがってェッ!テメエ、これで明日を拝めると思うなよォッ!」

 …ふむ、威勢がいいな。何かいい事でもあったのか?
 しかし…これは参ったな。とてもじゃないが、質問に答えてくれるという雰囲気ではなさそうだ……と。

(『デバイス』の死、『コンフィング』の挑発にも似た仕打ち。そして研究者の言動。要因は、数えてみればいくらでもあった。)
(元々血が上り易い性質の『プロブレム』はすっかり冷静さを失い、ただ目の前の男を「切る」ためだけにひたすらに刃を振るう。)
(研究者はその斬撃をまるで子供の遊びのようにひょいひょいと避け、やがて適当なところで後方へ飛び距離を稼いだ)

 今はただの研究者だからな。
 “こっち”を中心に採取(ト)らせてもらおう。

(白衣の袂から、どこぞの民族調な骸骨のついた趣味の悪い小ステッキを取り出す。)

 ……魔術使いも久しぶりだな。ま、このレベルのヤツならいいリハビリになるか。

(ブツブツブツブツと言葉にもならないような呪文を呟きつづける。)
(やがて一呼吸置き、宣言するように言い放った。)

 ────現の果てに君臨せし風の王に懇願す。
 ────それは「従ワザルモノ」に削り取られし恒久の命。
 ────愚かな咎人に追いたてられし哀れなる羊達!
 ────願はくば常世の風よ、枯れた大地に命芽吹かすマナの川よ!

 ────吹けよ風、永久(トコシエ)の楽園の為に─────!

(刹那、風がうねりを上げて渦巻き始める。)
(シェイドが手をかざすと、その方向、『プロブレム』に向かい強風が吹き荒れた。)

143 :名無しになりきれ:2010/04/15(木) 14:18:01 0
「…何、を」

「したかって? ちょっとリフレクターを発動しただけよ
 向こうでは反発空間(リフレクト)シールドと呼んでるみたいね」

「聖銀弾を…反射…!?」

「聖銀弾が効力を発揮するのは異能そのもののみ、異能によって発生した現象よ
 例えば――強力な攻撃で地面を持ち上げても、地面そのものには異能は働いてないでしょ?それの応用
 空気を媒介に、反発空間シールドを作れば それ自体に異能は無いわ」

「……」

「あら、ちょっと難しかったかしら?」

「…開けよケリッポドの地獄門」

王国が呟くように言う その声にはどことなく恐れと、憤りが混じっていた
空に開いた闇の洞穴はピアノに覆いかぶさるように広がっていく

「このやり方は不本意ですが… もう時間が無いので、すいません
 ――幽閉せよ、ケリッポドの地獄門」

あっと思う間もなく、ピアノの体が門の中に消えると、ぴたりとその口が閉じた
後には、何も残らない まるで何も無かったかのように風が広場を吹き抜ける

「さて、イェソドの方もそろそろ終わった頃合いでしょうか」

王国はつ、と身を翻し歩き始める そして、後ろに感じる違和感に立ち止まる

144 :名無しになりきれ:2010/04/15(木) 14:19:45 0
「…?」

冷やかに振り返る、何も無い広場 普段は餌をねだる鳩がそこら中にいるが、人のいない今はその姿も見えない
しかし、何か違う まるで部屋の中の家具が数センチだけ動いたような違和感

「なんつう例えよ」

「っ!?」

声がしたのは後ろ、初めて王国の表情に恐れが宿る
慌てて振り向くも、誰もいない 乾いた風がカラカラと吹いているのみ

「これで私を閉じ込めたつもり?」

今度は右から

「向こうではとっくに空間を超越する技術を持ってるのよ」

後ろから

「それが生まれたのは宇宙歴3047年 西暦1715年
 300年近く前から、あなたは技術に負けてたのよ」

自分の周囲のあらゆる方向から、声が響く

「どこに、隠れているんです 出てきなさい!」

王国の声はわずかに震えている

「隠れてなんていないわ あなたが知覚できないだけ」

ず、とまるで蜃気楼が現れるかのように、目の前に砲口が映った

「感覚迷彩って言うの、五感の焦点から外すことで相手に知覚されない技術
 ま、覚えていてもしょうがないけど あなたはここで消えるんだから」

ご、と砲口から蒼光が吐き出される
    
「反陽子荷電粒子砲」

斜線を描き天へと伸びる一条の光線 橙のプラズマ炎を引きながら彼方へと消える
そして、王国は、その軌跡を見ることなく、息絶えていた

「……なんつう威力よ」

ピアノ自身唖然としていた 対人兵器のつもりで出したのに、相手は骨片一つ残さず消え去っているのだから
それだけではない、飄々としていた広場は地面が直線状に黒く焼け焦げ、前にある噴水は上部が消し飛んでしまっていた
そこから勢いよく噴出する水 どうやら弁から壊してしまったらしい

「……帰ろ」

それをしばらく見ると、ピアノはそそくさと逃げだした

「ナレーター、これは逃げるんじゃ無いわよ はやく帰りたいだけなんだからね」

はいはいツンデレ乙

145 :名無しになりきれ:2010/04/17(土) 19:59:10 0
「お疲れのようだな少年」

(驚愕と唖然の淵から、青年を引っ張り上げる凜とした声)
(鷹逸カの意識はその一声で、深層に封じた幼少き過去の微睡みから、”会館”と通称される秋葉原の電気店に帰還ってきた。)
(思い出の温もりに比べたら、ここは震えるほど寒い。思わず鷹逸カの身は縮こまってしまうけど、)

え、あ、…………。

「しかし、君もよくやったと思うぞ
 君がいなければ私も勝てなかっただろう、ありがとう」

(”賛辞”。)
(ヤミの中で眩しく輝く蛍光灯の逆光がレイの表情を覆い隠して、窺い知ることは鷹逸カにはできなかったが、)
(ねぎらわれた、ということは、…社交辞令とかは抜きにして、………どうやら鷹逸カは『無力』なりに、レイの力になれたようだった。)

あ、…ああ! ……いや、その、………俺は、借りを返しただけさ。


(「日常」をむしばむ、残酷で無慈悲な「非日常」。)
(そのヤミに立ち向かうには、鷹逸カのヒカリはあまりにか弱いかもしれない。)

(…………それでも、『灯』ぐらいにはなれる。)
(たとえ絶望しか見えない深きヤミの中でも、漆黒を少しでも照らすヒカリがあれば。)
(人はきっとそれを目指して、前を向けるはずだから。………それがきっと、”『無力』なりの戦い方”なのだろうと、鷹逸カは信じる。)

(鷹逸カの瞼に浮かぶ、あの男の姿。)
(………ヤミがヒカリを呑み込むというオワリ。その運命に抗うことが、どれだけ激しい痛みをともなうのだとしても。)

…………見ててくれよな、『世界』。…俺は、俺なりのやり方で、…………お前の遺志を、未来に継いでみせる。

(未だその銘を教えぬ、胸元の『白きプレート』。)
(鷹逸カの身体の内に息づく、『創世眼の残滓』。)
(物語が紡がれるその果てに、それらは<愚者>にどんな<世界>を運んでくるのか。………今はどの世界の誰にさえ、知るよしはない。)


「さて、これからどうする 外は野次馬だらけ、目立たずに外に出るのはまず無理だろう、特にその服ではな」

え゛。

(そうレイに指摘され、あらためて自分の服を見てみる鷹逸カ。)
(………これはひどい、ボロボロ。親子代々に渡って着古した古着でも、これよりはマシってぐらいには、ひどい。)
(そういえば、イェソドにこれでもかってぐらいボコボコにされた気がする。ヨコシマキメ遺跡では、ありえないほど幸運に恵まれたはずなのだが。)

146 :名無しになりきれ:2010/04/17(土) 19:59:57 0
(身体の方は何故かもう動かしても平気だが、これではさすがに人目につくのは避けるほかない。)
(………というか、あれだけの戦闘があれば、外にだってその音は漏れ聞こえているだろう。その現場から堂々と出てきては、面倒なことになるに違いない。)
(主に、あの警察官とは思えない風貌をした金髪不良婦警のやっかいにはなりたくはない。)

ま、……まあ、確かに”ファッション”じゃ済まないレベルだけどよ…。…でも、それならアンタだって!

(そう言い返した通り、レイの服装もかなり無残なことになっている。)
(それだけ、イェソドの猛攻は苛烈だったということだろう。……事実、鷹逸カが死んでいないのは奇跡そのものだ。)

(………それに関しては、イェソドについて疑問が生じるのだが。…今はそれを考えていても仕方がないので、ひとまず隅の方に追いやる。)

「私もそうだが、幸い替えの服は常備している これでも意外と綺麗好きでな」

(そうあっさり言ったレイは、自分の服に手をかけ、)

………。……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!! いやいやいやいやいやいや!!!

(ほとんど弾かれるようにして飛び出した鷹逸カは、今にも脱ぎ出そうとしたレイの手をはしっと掴んだ。)
(止めるにしても、もう少し時間を置けば役得眼福だったものを。……鷹逸カの残念っぷりには、観衆も落胆せざるをえない。)

え!? おかしいだろ! もうちょっと隅の方でやるとかあるだろ!!
なんでわざわざ俺の目の前でやっちゃった!? っつーかこのタイミングでピアノとか帰ってきたら俺惨殺決定だからね!?

(あの若葉色の少女、ピアノがレイにホの字なのは鷹逸カもとっくに気づいている。)
(そして、ピアノが鷹逸カを数秒とかからず抹殺できることが可能なぐらいの力を持っていることも分かっている。)
(これらの要素から導き出される最悪の結果は、まあどこか地方の山中でバラバラな状態で発見されるか、もしかしたら塵も残らないレベルで消されるかもしれない。)

お、俺、後ろ向いてるから! な!? ゆっくりしていってくれ!!

(その場でギュルッとターンして隅の方に全力疾走すると、そこに座り込む鷹逸カ。)
(………どうせ布ずれとかの音が聞こえてくるたびに気が気でない思いをするのは確定である。)


………あ、あのさ! その……このビルから脱出する方法なんだけどよ!

(後ろを向きながら、鷹逸カは唐突に切り出した。)
(野次馬たちがたむろする出入り口を使わないで、この超巨大マンモス電気店ビルを脱出する方法だ。)

確か、一階の北側に非常口があったはずなんだ!
そこを出ると裏路地で、デバガメどもは表の中央通りだから! 上手く逃げ切れるんじゃねえかな!

(たぶん厳重な錠でしっかり戸締まりされているが、レイならスッパスッパ斬ってしまえるだろう。)

その向かいに、コスプレ専門店の裏口があって、上手くすれば衣服をちょうだいできるかもしれねえ!

(秋葉原だからこそ、コスプレしていてもあまり目立つことはない、という論法らしい。)
(………といっても、秋葉原がコスプレイヤーで賑わっているわけではない。違和感はないかもしれないが、目立つには目立つ。これ確定。)
(つまり、どうあっても人の目を引く宿命からは逃れられない鷹逸カであった。)

147 :名無しになりきれ:2010/04/17(土) 20:00:42 0


 上野公園。
 普段は親子連れなどで賑わうそこも、今日という日には閑散として人の気配さえ感じない。

 ……いや、さっきまでは二人だけいたのだ。
 それが、いなくなっただけだ。……一人は普通に立ち去って、…………もう一人は、存在の欠片も残さずに消え去ってしまっただけだ。

 ところどころに死闘の痕跡。
 路上には、………滴のような、あるいは飛び散ったようなおびただしい血痕が、あたりを赤黒く染め上げている。
 公園中央の噴水は、…上部の噴水口が消し飛んで、……まるで壊れたシャワーのように、公園に広く水を降り注いでいる………。
 上空には、オレンジ色のヒカリが一条、空に焼き付いて消えないでいる。………何か強力な光線でも発射しなければ、こうはならないだろう。

 壊れてしまった公園に、壊れた噴水の音だけが聞こえる。
 もう、誰もいない。おそらく、現れることもないだろう。……そういう、死の静寂が、この公園を支配していた…………。


 そんな空気を切り裂いて。
 …………噴水の、水を乱暴に吹き出す音が、………変質する。

 音にあらわすならドザッ、という、…例えれば、大量のものをなげうつときに生じるようなそれに近い。
 つまりそれは、…噴水の水が枯れて、………何か別の物体を代わりに吹き出している、………と言い換えることもできるかもしれない。

 噴水から飛び出したものは、周囲の地面へと山なしてうずたかく積もり積もっていく。
 尋常じゃない量だ。しかも……秒を経つまでもなく、その量は倍増していく。……この調子だと、すぐに公園がそれで埋まってしまいそうだ。
 積もっているのは何だろう。…水が尽きたなら、砂? それとも、水道管の奥に詰まっていたゴミとか? ………いやいや、そんな”普通”なものではない。


 ………それは、異様。
 …………噴水の噴出口から、水の代わりにはき出されているのは、…………大量の、お菓子。


 あめ玉とか、ペロペロキャンディとか、クッキーとか、……少女がよく好んで食べそうな、数々のおやつ。
 それが、噴水口から、勢いよく、空高く吹き出して、…………周りの地面を、続々と埋め尽くしていっているのだ………。

 まるで絵本の世界のような、ファンタジーな光景。
 こんな、子供の夢のようなバカげたことが、……現実にかなっていいのだろうか。
 ………しかし、今確かに、ここで起こっている現実だ。……もし人々がその光景を眼にしたなら、信じざるを得ないだろう。

 だって、見てしまったのだから。
 自分がその眼で見て、確認してしまったのだから、………自分の頭を疑うより、信じてしまうほかはない……。


 ………やがて、モゾッ、と。
 …公園の地面に敷かれたお菓子の海、その一部が、……流動する。
 やがて海面が持ち上がり、現れたのは………。


「……我ながら、ひどい光景ですね。………まあ、今は命あることを喜んでおきましょうか」

 この異様な領域の、主。

148 :名無しになりきれ:2010/04/19(月) 02:12:26 0
暗闇の中、身動ぎ一つせずに『ゲブラー』は耳を澄ませていた。
洞窟中に埋め込まれた魂達が歌う阿鼻叫喚の合唱に五体を委ね、
荒ぶる激流の奥底で揺らぐ水草の如く心を鎮める事が、彼にとって至上の愉楽なのだ。

「ぬう……!」
しかし頓に、俯けられた『ゲブラー』の顔が上がる。
松明の紅と霊魂の蒼に照らし出された彼の表情は、紅蒼の色彩も相まって人外、羅刹の気配を宿していた。

「またか……! またも任務をしくじりよった愚物が! のうのうと我が冥罰を免れよるか!」
場所は極東の島国、任務に向かい命を落とした者が一人いた。
にも関わらずまたも、その者の魂はここ『最終懲罰窟』へと誘われる事なく、外界に存在している。

「これは……邪気に依る籠か? いや……檻と言うた方が正確じゃな……」
どうやら敗者の魂はそれなりに、酷い目には遭っているらしい。
だが、ここは『最終懲罰窟』。
『この世』と『あの世』の何処を探そうと、この洞窟以上の苦痛を齎す場所など無い。
現世にありながら、この場は地獄をも凌ぐ裁きの空間なのだ。
ここを逃れたのであれば、それは何処であろうと微温湯に過ぎない。

「許せぬ! よりにもよって邪の徒に護られるなど言語道断! 此奴にもまた、いずれ無窮の苦しみへと放り込んでくれる!」
憤怒の形相で叫び、しかしはたと『ゲブラー』は面持ちを変える。
怒気に支配された表情に、一抹の疑問を差した表情へと。

「邪気の周囲を……更に夥しい魂が囲っておる……? これは……守護の気配か。ふむ……」
そして『ゲブラー』の形相は更に変化を遂げる。
さも面白い余興を思い付いた、と言わんばかりの笑みに。

「彼奴の邪気の籠、守護霊共にまでは行き届いていないと見える。絡んではおるが、所詮はその程度。
 儂の力を以ってすれば容易く振り解けるじゃろうて……! 折角じゃ、己の守護霊が引き剥がされる様を、彼奴にも見せてやるかのう……」

そう呟いて、『ゲブラー』は賜りし異能を振るい、守護霊の塊へと魔手を伸ばす。
罪人の首を荒縄を括り、地の底へ走り去る駿馬で引き回すように。


【ヨシノさんへちょいネタ振りを。デバイスちゃんと旅団の皆様を誘拐未遂です。
 際して旅団の皆様は蒼白く具現化すると言う事で。
 誘拐の成否に関しては避難所にて打診して頂ければ幸いです。】

149 :名無しになりきれ:2010/04/21(水) 00:18:03 0
    アルカナ
「――僕らに喧嘩を売ったことを、後悔させてやろう」

ぞくりとした感覚が、肌を走る程の高揚感。
『節制』は三度、この感情を味わったことがある。
一度目は、孤児院を焼き払った悪魔共(ニンゲン)の動きを『禁止』して嬲り殺す時。
二度目は、アルカナでの力の証明に、とあるところで大量虐殺(ミナゴロシ)をするという命を受けた時。
そして三度目は今、この時――敵陣に殴りこむという宣言を聞いた時。

震えた体にケープの裏の拳銃が揺れる。すっ、と手を差し入れれば、金属の硬く冷たい心地。
朗々と紡がれる『スマイリィ』の言葉が知識として蓄積されていくが、『ストレイト』の演説が鼓膜を震わせて記憶されていくが。
『節制』の意識はヒトゴロシへと変わっていくのに夢中だった。
『節制』は決して殺人鬼ではなかったが、殺戮魔ではあった。
ただただ力を振るうのが好きだというわけではなかったが、多数に力を向けて解き放つのは好きだった。


圧倒的広範囲を薙ぎ払うよりも、一対一の対決よりも、心が震えるのは集団を個人でざくりざくりと潰す時なのだ。
だからこそ――

「――何故かと言うと、ここで彼らに『逃走』されては困る。つまりあくまで、『応戦』してもらう必要があるからだ。
 よって『節制』君には、可能ならば彼らの『逃走』や『援助要請』を禁止して頂ければ、とても助かる。
 その所以は後々必ず語るとして、今は順を追い、説明を続けよう。投石と放火が恙無く成功すれば、
 当然連中は泡を食い城から飛び出てくる。そこを『吊られた男』君とマリー嬢などが門前で待ち伏せして叩けば、
 或いは『節制』君により『外出』を禁ずるなどすれば、それで最上の展開である……のだが。
 君達にそのような賢しい手段で落ち着く事を、私は正直期待していない。
 その辺は望みのままに動いてくれれば、それでよしとしよう。この策で真に肝要であるのは――」

――自身がサポートに回るというのは、好ましくは無かった。

(なあんだよ……俺はサポートかあ。能力の性質上そうだとはいえ、つまらないつまらない。
 殲滅に向かいたかったんだけどねえ……嗚呼、愛銃で撃ちたかったのに。撃ちたかったのに)

しかし、『節制』は狂ってるわけではない。
ただ殺戮が好きなだけだ。自身の役回りは確りこなす。それだけの節度はあるのだ。
故『悪魔』のような戦闘の戦闘による戦闘のためだけの戦闘狂(バトルジャンキー)とは違い、伊達に『節制』の位置にいない。
というかあのケダモノ染みた男をどうやって引き入れたのだろうか。
やはり『世界』は違うなあ、とズレた思考を回す。


「さて、ところで誰でもいいが、私の拘束を解いてくれるとありがたい。
 このナリでは君達への加勢はおろか、転送デバイスを差し出す事も出来ないのでね」

そんな風にふざけた考えを弄繰り回している内に、敵のリーダー格の無駄に長くてわかりにくい話が終幕を迎えていたらしい。
『運命の輪』のおかげで上達しきったかのような、『愚者』の慣れきった手つきで拘束が外される。

「……どうぞよろしく。」

やはり『愚者』が何を考えているのか、『節制』にはいつものようにわからない。
別にわかろうとも思わないのだが。

150 :名無しになりきれ:2010/04/21(水) 00:19:14 0
それよりも、『節制』は彼にとっては面白いことを思いついた。
愛銃――S&W M19を取り出し、一発の弾丸を次弾に込める。
そしておもむろに立ち上がり――

「ふうん……それに従えば、俺らは『枢機院』に一泡吹かせられる上に強力な武器を手に入れられるっつーわけかあ。
 いいねえ、そりゃあいい。素敵で素敵で素敵だなあ、良い案を出してくれてさあ――」


――その場で銃口を向けた。

「――ありがとう」

ガアン、と響く銃声。
飛び出す弾丸。
向かう先は勿論、『ストレイト』の脳天へ。
残像も残さぬスピードで、吸い込まれるように飛んでいき――着弾。
目標(マト)の生死は、言うまでも無く――


「……『殺傷可能速度の禁止』」

生きていた。
それも傷一つ無く。
何故ならば……弾丸の速度は、おもちゃ以下。
残像も残せないほど、『遅い』スピードだったのだ。
弾丸は山形の放物線を描いて、『ストレイト』の頭に落ちた。

『節制』のふざけた行為に、呆れるやら驚くやらで誰も声を出さない。
この雰囲気を作った張本人は、視線を浴びて居心地悪そうにしていた。
暫くすると居た堪れなくなり、ぽつりと言葉を吐き出し始める。

「……あー、単なる悪ふざけさあ。流石に今殺すつもりはないしねえ。
 『ストレイト』とやら、君の存在もさっきの計画(プラン)の内にあるんだろ?なら、それを持っておくといい」

床に落ちた弾丸を指差す。
拾い上げてみれば、『]W』と刻まれているのがわかる筈だ。
それと今誰かが『節制』を見れば、得意げな彼の表情を認識できるだろう、

「そいつさえ持ってれば、俺の広域『禁止』の対象から外すことが出来る。
 広域となると、邪気をよく知らない仲間を『禁止』しないってのは存外に厳しいからさあ。
 アルカナメンバーはもう必要無いんだけどなあ……あ、『魔術師』とオンナノコにもあとで渡しておくから」

そう言うなり、拳銃を仕舞ってコートを翻し、『節制』は出口を目指し歩き始めた。
誰に聞かれるわけでもなく、彼は次の句を言葉にしていた。

「弾丸を用意してくる。準備が出来たら此処に戻ればいいのかなあ?じゃ、また後で」

それだけ言い残すと、『節制』は苑から出ていった。

151 :名無しになりきれ:2010/04/22(木) 08:34:00 0
>「レイジン、ね。…それじゃ幼女の妖精ちゃん、2〜3聞かせてもらえるかな。
  1つ目は組織名。アンタらの元締めの名もあるとなお良し。2つ目は邪気眼狩りの最終目的。
   黙秘、はしてもいいけどその場合────」

アスラがこちらを指さして、同じくデバイスもまた促されてちらりとこちらを見た。

>「あいつに任せる。肉体的、精神的に最大の恥辱を味わうハメになるだろうね」

なので、爽やかかつ『精一杯満面の笑顔』で同調してみた。

「ああ、もちろんだとも!」

『ニヤニヤしながら何言ってるのさこの変態〜〜!!』

「何を言うか。小動物に対する愛と慈しみに満ちた視線がなんとも紳士然と素敵だろう?」

『狩る目だからそれ!小動物狩りに行ってる目だから!!』

「落ち着け。ここで強情を張り続けてもロなことにはならんぞ。俺が出張ってるうちはまだ良い。何故なら俺は君の味方だ。
 だがしかし、一たびそこの女――修道服を着てはいるがこれがとんだ破戒僧でな。教徒異教徒関係なく刃向かう者は殲滅されるぞ」

『怖くないよ!いくら物理的火力に優れてたってボク思念体だから関係ないもんね!』

「お嬢ちゃん可愛いね持って帰りたい飼育したい愛玩したい非実在の中で更に非実在な青少年はどの法令に抵触するんだろうな」

『うそですごめんなさいこの上なく怖いです』

「ともあれ、俺達が聞きたいのは上記の二つ。君達としても知られてそこまで困るものでもあるまい。曲がりなりにも正義を名乗っているんだろう」

『曲りなりって何さ!ボク達【楽園教導派】は【枢機院】の戦闘特務、【創造主】サマのこのセカイを邪気眼使い共から護る為の正義執行機関!』

「ほうほう。それでそれで?」

『セカイの因果を乱す【特異点】、邪気眼を抹消することで【世界基督教】の準ずる正しき世界へと導く為に戦ってるのさ!』

「なるほどなるほど。ちゃんとメモっといたか姉さん!重要っぽいワードにはちゃんと【】←コレつけてくれる親切っぷりだぞ!」

『ああ!?誘導尋問――!!』

喚くデバイスを制止して、ヨシノは唐突に相好を戻す。眼鏡の奥に理知を回復させ、デバイスに問う。

「さて、問題はここからだ。君が俺の"中"に来たのは純然たる目的の上ではないだろう。今の君は思念体というよりも、そう――死霊に近い」

『……うん。死んじゃったみたいだから、ボクの"身体"。今もこの大学のどこかに、埋まってると思うよ』

素直に答えを零すデバイスの表情に、憎しみや悔恨、未練といった表情はなく。ただひたすらに、悲哀を唇に宿らせていた。
目を伏せ、下唇と握り拳が両方共白くなるぐらいに感情を抑え込んでいる。

「あー、なんだ、その。……死ぬのは悲しいか」

『ううん。ボクらも恭順者で、殉教者だから、始めから覚悟してた。死んでも消えてなくなるわけじゃないしね。ボクたちは、魂を縛られてる。
 肉体が死んでも、思念は【枢機院】の施設に送られて、殉教者はそこで世界の夜明けを見るんだ。そういう契約を、魂そのものに刻んでる』

だから、悲しくなんかない。そう彼女は言った。宗教にはつきものの話題ではあるが、彼女たちの死生観というものは殊更に特殊であるらしい。
死して魂は現世に残り、そうして創られた新たな世界で肉体を再構成すれば、理論上は不死。そういうことができてしまうから、異能は異なる能力なのだ。

『それでも悲しくなるのはきっと――』


デバイスが何か言おうとして、瞬間。視界が蒼で染まった。

152 :名無しになりきれ:2010/04/22(木) 08:44:50 0
ワイシャツのボタンに手をかけ、外そうとしたその瞬間

「………。……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!! いやいやいやいやいやいや!!!」

「は?」

いきなり飛び出してきてがしっとばかりに服を掴む鷹一郎 その余りの慌てぶりにレイは少々困惑する

「え!? おかしいだろ! もうちょっと隅の方でやるとかあるだろ!! なんでわざわざ俺の目の前でやっちゃった!?」

「…ああ、そうか 君は年頃の青少年だったな まあ別にいいんじゃないか、減るものでもない」

なんというか、女としての尊重が足りていないようだ。

「っつーかこのタイミングでピアノとか帰ってきたら俺惨殺決定だからね!?」

けれど、この言葉でレイの顔色は変わる

「それは、確かにそうだな…」

ピアノの恐ろしさはレイ自身がよく知っている、地の果てまでも追ってくる執拗さとあの神出鬼没さ
そして何となく受け付けないあの寄ってくるさま
ちなみにこれが俗に言う"レズ"だとは彼女は全く知らない、ただ本能で回避しているだけである
しかし、ピアノの戦闘能力も目を見張るものがある 以前共闘した時には私以上の戦績を残してもいた

そういえば、もう一人を探しに行くと言ったきり帰ってこない 外で戦っている気配もない
拉致られたか、やられたか、戦地を変えたかしたのだろう 前二つならピアノの所属する"オーケストラ"とやらが黙っていないだろうから
どちらにせよ気にすることではない

「お、俺、後ろ向いてるから! な!? ゆっくりしていってくれ!!」

「はあ、分かった」

どこまでも狼狽する鷹一郎 彼女はなぜそんなに慌てるのかうまく理解できていない模様である

153 :名無しになりきれ:2010/04/22(木) 08:46:19 0
「??」

怪訝な顔をしつつ、血で固まり、ゴワゴワになってしまったワイシャツを脱ぎ捨てる
もうこれは着れないだろう また新しいのを貰わなくては
シャツの下の地肌は、これまた真っ白できめ細かく、女性なら皆が羨むような肌
しかしそこに幾筋も刻まれた生傷が、先刻の戦いの激しさをまざまざと物語っている

両腕と胸部にさらしのように巻かれた包帯が、その傷から溢れ出た血で染まっている
ただの包帯ではない、あれほどの傷を受けていながらどこも切れていない包帯
包帯と言えば、邪気眼の能力を鎮めるための拘束具だが、彼女のそれは少々違う
彼女の包帯の第一の目的は、『防御』の為
高度な防御魔法が染みついた包帯は、まるで超合金のような硬度となり敵の攻撃を防ぐ
第二の目的は『邪気汚染を防ぐ』為
邪気汚染というのは俗称、というより使いどころなどない死語だ
黒爪にのみ発生する特殊な現象で、直に触れると黒爪自身の邪気に飲まれ喰われてしまうのだ
ハンカチなどの柔な素材では貫通してしまい意味がなく、今のところ防ぐ事が出来るのはこの包帯のみである

そんな血濡れの包帯を丁寧にほどいていく、包帯のまだ白い所で体中の血を拭き取ると 新たな包帯を出す
そこまで行った時、後ろの鷹一郎青年が急に喋り始めた 相変わらずの狼狽っぷりで

「………あ、あのさ! その……このビルから脱出する方法なんだけどよ!」

「ぅん?」

「確か、一階の北側に非常口があったはずなんだ!
 そこを出ると裏路地で、デバガメどもは表の中央通りだから! 上手く逃げ切れるんじゃねえかな!」

「ふむ、なるほどな 付けたして言っておくと出歯亀とは窃視者の事だぞ、いい意味ではない」

「その向かいに、コスプレ専門店の裏口があって、上手くすれば衣服をちょうだいできるかもしれねえ!」

「ふむ、…? こすぷれ専門店?言葉から察するに、衣服屋のようだが… なんだそれは」

出歯亀という言葉を知っておきながらコスプレを知らない
どうやら時代に取り残されるタイプのようだ

「まあ、服があるのならそこで着替えるのもいいだろうな ああ、もう振り向いても構わんぞ」

鷹一郎青年が振り向けば、肩より少し長い程度の癖毛を綺麗にまとめて縛り上げているレイが映るだろう
その服は、戦闘前となんら変わらず 真っ白なワイシャツと紺のジーパンであった
外の観衆には"F-22で不時着してきた女性パイロット"としてしっかりと記憶されている姿そのままである

「じゃあ、そのこすぷれ専門店とやらに行こうか」


154 :名無しになりきれ:2010/04/22(木) 09:02:46 0
周囲に蒼白い火柱が立ち上る。その数は無数。否、ヨシノは『その数を知っていた』。
何故ならば、火柱の全てが人の形をとり、その全てに見知った顔が刻まれていたからだ。

「なん……だと……!?」

ヨシノに宿った感情は、驚愕よりも困惑。
ヨコシマキメの『腹』で再会した旅団の歴々が、死霊そのままの蒼白い思念体で一斉に現出していた。

『お?なんだ、いきなり思念化してやんの。――よお、久しぶりだなヨシノ』

背の高い思念がこちらへ陽気に手を挙げる。団長は、三途の川で別れた時と変わらぬ人懐こい笑みを向けた。
ヨシノは知っている。彼らが、姿は見えずともヨシノと共にあり、導きの魔剣を構成しているという事実を。
それ故に、今の光景に当惑する。

「だ、団長?アンタだけじゃない、なんだってみんな、急に出てきたんだ?妖気濃度の濃いヨコシマキメならともかく……」

『それが俺的にもびっくりなんだがよ。なんか鈴とか玉串みたいな音が聞こえたと思ったらこんな感じになってた。おどろ木ももの木さんしょの木だな』

「……相変わらず抽象的なことしか言わないなアンタは」

『いやー、どうすんだコレ。こんなナリじゃあもうお前のプライバシーを公然と覗き見できねえじゃねえか。なあみんな?』

「そんなことやってたのか!?誰か止めろよ!なんでみんな付和雷同に頷いてるんだ妙なとこでチームワーク発揮するなよ!!」

と、不意に更なる事変の気配を感じてヨシノは身構える。遠鳴りに、何かが聞こえてきた。

「馬蹄音……?」

正しく馬が地面を蹴る音と、それに引かれる馬車の走行音が響いてくる。
やがてそれが耳を塞がねば鼓膜を破りそうなほどに大きくなると、その音源の全容が見えてきた。

馬車。ではあるが、ビジュアルが著しく特殊である。
霊柩車と牛火車を足して割らずにおいたらこんな形であろうか。上部に描かれた行き先表示には、御丁寧に『地獄』と書いてある。
ステロタイプにおどろおどろしい骸骨の御者が、角の生えた馬に鞭打ちながら迫ってくる。

『なんだありゃ、お迎え的なアレか?おいおい待てよ、あんな世紀末っぽいお迎えとかどこの斬新な宗派うがっ!?』

御者の投げた縄が、狙い過たず団長の首を縛め、馬車は勢いを止めずに走り抜ける。
となれば必然、捕獲された団長も牽引され、ついでに魂で繋がった旅団の面々も抗えず一緒に引きづられていく。

『ちょっ、おまっ、擦れる!擦りおろされちゃう!!やべえって!ヨシノぼさっちお見てねえで助けろよお前えええぇぇぇぇぇぇ――』

団長の悲痛な雄叫びが聞こえなくなるまでたっぷり三秒固まって、ようやくヨシノは動き出した。
右を見て、アスラと目が合い、左を見て、デバイスは目を逸らしたので合わず。最後に、首をひなりながら零した。

「……なんだ、あれ」

『け、【ケブラー】様の死霊火車……!』

「詳しく聞こうか」

『そんなことしてる暇ないよ!もしもあれがボクを"回収"して"懲罰"するためのモノなら――』

そこでやっと、デバイスはこちらの目を見据えながら、虚飾のない言葉で言った。

『――あのヒトたち、消されちゃうよ』

155 :名無しになりきれ:2010/04/24(土) 22:08:52 0
「始めようか『コンフィング』!貴方の向こうに道がなくても!わたしはその先へ行くよ。――光速で!!」
「くっ──!?」

『コンフィング』がそれの存在に気づいたとき、既に彼は後方の連絡室の壁にたたきつけられていた。
残ったのは薄ぼんやりとした──稲妻のような、微かな光のみ。

「…死中求活ってヤツかな…?はは…漫画みたいな覚醒は人質来るまで待って欲しかったかなー…」

ごふ、と口から鮮血を吹く。
突如として近接格闘方へ特化しだしたステラの能力に、表面は平常を装いつつもただ目を丸くしていた。

「「光」速移動…か。オマケに攻撃特化…あはははは、いいねえ──楽しくなってきたよー。」

ふらふらと身体に波を打ちながらゆらゆらと立ちあがる。
衝撃もさることながら、完璧な不意打ちだったこと、そのままコンクリに身体を叩きつけられたことがダメージに大きく影響した。

このままどうする──それは行くか逃げるかの二択問題。
腹部に手を置き思案する。逃げれば間違い無く死ぬ。けれど行っても、多分死ぬ。

「…あはは、信仰って柄じゃないけどさー」

そう言うと彼は、前に一歩踏み出した。

156 :名無しになりきれ:2010/04/24(土) 22:10:22 0
選んだ死に場所は、研究棟の間の細長い連絡道路。
両脇には高く建物がそびえており、必然的に彼女の移動は連絡路のど真ん中に限られる、筈だ。

「…光って言うのは、まっすぐ進むものだからねー」

『コンフィング』はそこに二足でがっしりと立ち、懐から「反撃の準備があるように」切れ味付与の最後の物差しを取り出す。

「『プロブレム』は何してたのかなあ…。とっとと人質連れてきてくれればなあ…」

物差しを正面に構え、いつでも来い、と言わんばかりに振り上げる。


やがて静寂。老木の木の葉が枝を離れ地面に落ちるほどの時が経過して───。


「げふッ!」


腹部に衝撃が走る。
物差しで光を貫く事など元より不可能。無慈悲にも、『コンフィング』の身体にステラの一撃が放たれた。

けれど───。

「あは、はは、ははははは───捕、ま、え、たぁぁぁぁ!」


彼の身体は“吹っ飛ばされたりは”しなかった。

──骨が軋む。内臓が弾ける。血が噴出す眼球が飛び出す痛覚が痺れる。
そんな戦闘に関係のない情報を全てパージし、彼はようやく掴んだ「光の所在」に向けて手を翳し叫んだ。


「【プラス】ッ!」

157 :名無しになりきれ:2010/04/24(土) 22:11:41 0
『コンフィング』の能力──【ウェイトウィング】は、質量を調節する能力。
彼自身が操る事が出来るのは「質量」のみであるが、彼はその能力故にもう一つの理を操る事が出来るといわれている。

それ即ち、「ふっ飛ばしやすさ」だ。

これまで幾度となく彼は自身の体重をゼロに近づけ、自由に空を舞う事を可能とした。
ならばその逆もまた然りである。
彼はこの時、自身の体重を極限まで上げる事により、ステラの攻撃に耐えうる身体を用意したのだった。

無論防御力が上昇するわけでもないから、攻撃自体はそのまま自分のダメージになる。
だが、それでも今の彼にとってなら──「攻撃に耐えられた」それだけで十分だった。
誘い込み、位置を知る。それさえ出来れば遠隔操作の効く【ウェイトウィング】で、彼女の質量を“立っていられなくなるほど”増やす事ができた。



『コンフィング』はよたよたとステラの首元に向かい、ボロボロのポケットから小振りのナイフを取り出した。

「けほっ。……本当はさー、こうしてナイフを振るうのも一苦労なんだよねー」

口元に血を滲ませつつ、逆手に持ち、切っ先を真下のステラへつける。

「じゃあね…異教のおねーさん。地獄で会ったらまた殺してあげるよー」

“ナイフ自身の重さを増加”させ、喉元めがけてふ、と落とした。

158 :名無しになりきれ:2010/04/25(日) 10:18:42 0
(刹那、風がうねりを上げて渦巻き始める。)
(手をかざすと、その方向、『プロブレム』に向かい強風が吹き荒れた。)

「この能力…テメエ、やっぱ【異能者】か──グッ!?」

(ヒキガエルのような声を上げて反りかえる。何も無い空間から、突如として巨大な拳で突かれたような感触。)

「こいつァ…」

(それは風が織り成す空気の塊───いわば巨大なエアカッターであった。)

「面白ェじゃねえかッッ!!」

(ビュウという風切り音とともに、第二撃が飛来する。)
(『プロブレム』はしかしそれに対し無抵抗に片手を上げ、そのまま無作為に振り下ろした。)

 ……ほう。

(風の向こうで、感心したような白衣の声が聞こえる。切れ味の付与───有象無象を切り裂くそれは、例え風とて例外ではない。)

「へっ!今度はこっちから行くぜ……自身の能力に飲まれなァ!」

(『プロブレム』は身を翻し、木の影に隠れ風をやり過ごす。)
(彼はそのまま風の中に手をすくい入れ、静かに念じた。)

「『リッパトリッパー』!「風」に「切れ味」を付与するッ!」

 …何ッ!?

(自身が召喚した風の流れは、途端に鎌鼬となりシェイドを襲う。)

 …チッ、少々マズい…か!?
 ──盾よ盾、死して守りし男の幻え──ぐっ!

(杖を構え詠唱に入る。が、風の流れはそれすらも許されない。)
(風はシェイドの衣服を裂き、傷を作り、周囲の木々すら容赦無く切り裂いて気ままに舞いつづける。)

 …ククッ…飼い犬に手を噛まれるなど…洒落にもならんな…! 

(やむを得ず、防御として両手で頭を覆う。)
(口元だけをまともに動かせるよう包み、杖の構えもそこそこに早口で何事か呪文を唱える。)

(──やがて風が止む。シェイドの服はあちこち裂け、切り傷だらけの無様な姿で立ち尽くしていた。)

159 :名無しになりきれ:2010/04/25(日) 10:21:51 0
「いいザマじゃねえか、白衣サンよ。ちったぁ身の程分かったかい?」

(木陰から身を出す『プロブレム』。満身創痍の姿に、頬を吊り上げて笑った)

 ……チッ。

(敵に背を向け、逃亡する。しかし漏れ出る血痕から遠くへ逃げる事も隠れる事も不可能。)
(白衣は倒木を盾に『プロブレム』へ向き直り、手持ちの杖を妖しく動かし始めた。)

「させるかァッ!てんだよ!」

(飛来。それは小さな鉛筆。)
(地面へダイブするように転がって避ける。一瞬おいて、倒木はすっぱりとニ等分されてしまった。)

「オラオラオラオラーーーーッ!捌くのは俺の「刃」(リッパー)だぁぁーーーっ!」

(逃げる白衣を追うように、幾つもの鉛筆を投げつける。)
(鎌鼬により倒れた木々の多さ故、隠れ場所には不自由しなかった。だがこの状況下では1度見つかれば隠れるのは至難の技。おまけにこちらは手負いだ。)
(木を盾に何度も杖を振るうが、盾ごと切り裂く『リッパトリッパー』の能力の前にはまるで役に立たない。)
(それでもシェイドは、馬鹿の一つ覚えのようにhide&seekを繰り返す。まるで諦めの悪い子供のように、あるいは自ら身を晒して危険へ誘う蛇のように。)

 ………クク…。

(白衣の男は、静かに笑う。)
(その表情はまるで、鼠を追い詰めた猫のような、ひどく悪趣味なものだった。)

160 :名無しになりきれ:2010/04/29(木) 03:31:44 0
コンコンコンと四本の足と廊下の反響が織り成す四重奏。
黒野天使と己だけが存在する静域に、暫しの間奏で続けられたソレのエンデは、『説明』の幕開けと同義。

「……私が初めに気付いたのは、ある宗教の歴史を調べていた時だった」

一変する。
先刻までのオドオドした態度は、何処へ消却したのであろうかという変貌振り。
凛然と、流麗に語られる貴重な“情報”。
一言一句すら逃してはならぬ、と白亜の侍は謹聴を決め込んだ。

其処からは情報の嵐。
“裏”の『枢機院』という秘匿された存在へ、“表”の基督教という道から迫った結果としての成果。
民俗学者、カノッサ研究員、二つの職を板につけた彼女の賜物の結晶であった。

(成程。『枢機院』は基督教の“武力”という訳か。
そして『創造主』を唯一神とする宗教である“それ”が我らに敵対しているという事は……)

(過去のカノッサが『創造主』を敵にまわす様な事をしてしもうたのだな)

淡々と述べられ続ける金言を邪魔しないように密かな思考だけを展開する。

そうして十分ほど。沈黙の再発が、説明の終端を明示した。
その機を逃さず彼は話しかけようとした。
単なる上っ面だけの謝辞では無い、心からの感謝を。

彼女という人間から、ひしひしと伝わって来た一生懸命な様子や、普段は慎ましやかながらも必要に応じて凜と物を述べられる所。
何より、何の見返りも求めない、ただ純粋な彼女の協力。
これらは“裏社会”の性根の腐りきった阿呆共と関わってきた《白亜の侍》にとって、たいそう気に召すものだったから。

「貴重な情報……真に、かたじけない。
ありがとう黒野殿」

その言葉はまさしく“普通”。およそ裏の人間が発する様な物ではなかった。



───どこかで錯覚していたのかもしれない

───幾日か送った“普通”の学生のような日々は

───かつて“普通”を過ごしていた者には、余りに甘美な日々で

───だから、このまま幾多の血と屍で穢れた冥い日常を棄て、平穏を享受していいのだと

───錯覚していたのかもしれない

───故に、これからの出来事は思い知らせる


───所詮、己は狂人。もう二度と“普通”になど戻れぬのだと



161 :名無しになりきれ:2010/04/29(木) 03:33:49 0
邪教徒の胸を貫いた長槍。
乳白色の柄の先端には真紅の布、鮮血に覆われた刃は未だはっきりと赤金色に輝いている。

槍の名は『イグニオン』。
概念上の存在であるセフィロト───神樹をセカイへ顕在化させ鎗へと加工した、創造主による『神器』の最高傑作。
枢機院指折りの至宝にして《神樹の槍》のシンボル。
最強の神器にして、持つ事を許された人物はただ一人。

その者の名はエヴァーと言う。

────────────

「……な……」

それは、突然。たった一度のまばたきの前後を境界に“その五十人”は世界に降誕した。

「……に……!?」

反応だけが許された刹那の間隙。それ以外の遍く対応が封殺された白亜の侍の眼前にて

───赤金の穂先が容赦無く黒野天使の胸部を穿つ

女教授の全身から生気が抜けた。そのまま糸が切れた操り人形みたいに崩れ落ちる体。

(……ッ、いかん!)
疾駆し近寄り、力の抜けきった体を支える。
ほんの寸毫、そちらに気を取られてしまった後には

───幾重に死が迫っていた

「良い奇襲だたネ、エヴァーさん」

「イグニオンで貫かれたんか……こりゃ死んだなあのアマ」

「ククッ……これでまたひとつ世界は“浄化”された……」

「ナゼ、サムライ、サキニ、コロサナイ?」

「解=成功確率の対比の結果、及び未知の戦力の排除。以上よりこの結果に帰結するのは必定」

そんな区々な呟きが辺り一体から聞こえる。
その時に到り、彼は初めて『敵』を認識する事が叶った。

  テンプルナイツ
【聖堂騎士団】───かつて中世の欧州で隆盛を誇りし“最強”と呼ばれた軍隊。
己の知識にあるソレと辺りを包囲するソレは、装備に多少の差はあれども似ていた。

紅十字を白銀に輝く聖鎧、聖装に刻み、神々しく煌めく神器を構える姿をあえて形容するならば

───神の尖兵

「……お前達、無駄話も程々にするのである。この男は生半可な戦いでは“浄化”できぬぞ」

そして来たるは全てを束ねる聖人。
もっとも、醸し出される余りに超然とした存在感を“人”の範疇に収まるのかは疑問だが。

“聖”の金眼が“邪”の黒眼を見据え、ゆるりと言葉が紡がれる。


162 :名無しになりきれ:2010/04/29(木) 03:36:33 0
「さて……《白亜の侍》よ。我々は貴様と無駄な時を過ごす気は更々ないのである」

「……ただ、創造主様のために我ら《神樹の槍》に───死ね」

余りにも突然顕れた《神樹の槍》という“非日常”。
それは唐突に仮初の“日常”を送っていた侍に牙を剥く。

────────────

(何故……どうして、某が潜入している事に気付いた!?
裏社会での足跡は完全に消した筈!)

(こやつらは……『枢機院』か!?
クッ……一体どうやって某の気配探査を掻い潜った!?
まるで別世界から突如現れたような……)

《神樹の槍》たちの呟きの最中、疑問だけが先行する。本来考えるべきは対応策だというのに。
その過ちを正してくれたのは、血塗れで衰弱した女教授の姿だった。

(……そうだ質疑は後でかまわぬ。今は……どうするかだけを考えろ)

(この状況いわんや不利なのは我ら。
此方には重傷者が一人、戦力は某だけ。
対して向こうは50人前後。ハッ……酷過ぎて苦笑も出ぬわ)

(この最悪の窮地の中で……某は何を為すべきだ?)

問いは迅速、回答は刹那。導かれしはたった二つの解。

(黒野殿を助け……こやつらを撃破する。そう、この二つだけだ)

それは明らかな無謀。彼我の戦力差、負傷者というハンディ、奇襲によるディスアドバンテージ
これらを抱え未だ勝利の芽が潰えぬと信じるのは、余程の愚者かもしくは

それ相応の実力がある者に限られる。

エヴァーの宣告が響いた。
数瞬の遅れすら無く、孤立した二人を蹂躙の波が襲いかかる。
鎌鼬光弾石棘水刃etc……
膨大な物量は前後左右遍くを埋め、矮小な存在を押し潰

「【白亜】ッ!!」

収納印籠の内から、抜身のまま抜かれるは当代無双の相棒。
だが、全てを防御するには些か矮小な体積だ。

“防御”をするには

彼は跳躍する、目指すは前後左右のいずれでもない“上”。
それを阻まんとする天井は───児戯の如く裁断された。

包囲を上に抜け、峻烈な速さで駆ける。
自身では為せない傷の治療法を模索するために。

「黒野殿……貴女の命を脅かす万難は、必ず我が剣で討ち祓う。
だから……お主も意地でも生へしがみつけ!」

163 :名無しになりきれ:2010/04/29(木) 20:55:17 0
「超空間跳躍の技術はね、私の星が始まりなんだよ」

「だから星間旅行をできるってわけね ワープみたいなものかしら」

「んー、ワープとは違うの ワープは"この空間"を捻じ曲げて、そこを通る方法
 これはワープアウト時に電磁波バーストが発生しちゃうの いわゆるEMP、電子機器類は全て駄目になっちゃう
 これは曲げた空間を戻す時に向こう側から来た光が無理やり伸ばされて極長波長の電波になっちゃうから
 で、こっちの超空間跳躍は、"外の空間"を捻じ曲げて通る方法なの
 この空間に穴を開けるのは一緒なんだけど、通る道は空間の外側、多次元空間っていう領域なのね
 こっちはEMPは発生しない、まあガンマ線とかX線が出るけど、あんまり大した量じゃないよ
 もうひとつ超光速移動法はあって、ブレーンワールドワープって言うの これは次元の外側にあるもう一つの宇宙を使って移動する方法で……」

「………」

饒舌な小人である 一般人には意味不明な単語がつらつらと並べられる
しかし見れば見るほど、聞けば聞くほどとてつもない技術である 空間そのものをを制御したり、超小型の超高出力ジェネレーターがあったり
中には対惑星砲なんてのもある 星を破壊する兵器?
自分の使っていたレーザーなんて余りにもチャチなものだ せっかくペンタゴンから極秘情報を取ってきたのに

「イマイチ理論の分らないのも多いけど… この読心装置ってのも意味不明だわ」

ひら、とマントをめくり自分の胸元を見る、そこには丸い青LEDを二つほど付けた機械が埋め込まれるようにある
先刻、王国の思考を読み取った装置である。周囲にいる人の考えていることを読み取って自分に流す。 人の思考などと言う不定形のものをどうやってくみ取るのか…
脳波を読み取る、というのが普通だろうが、離れた場所から脳波を読み取るなど無茶苦茶にもほどがある 大抵この世に跋扈する電波に邪魔されるものだ

「ワープと超空間跳躍は重力に影響を受けるから、ブラックホールや中性子星とかのとんでもない重力の星が側にあると使えないって難点があるの
 だけどブレーンワールドワープはその必要がない たとえブラックホールに飲まれそうになってもこの方法だと脱出が可能なの こう聞くと便利かもしれないけど……」

しかし饒舌な小人だ、この声を誰かに聞かれないかと辺りを見回すが、やはり人っ子ひとりいない あ、猫がいた

「……」

余りにも静かすぎる 普段賑わう場所が閑としていると、薄気味悪いもの 学校や図書館などがいい例である
ペラペラと喋る宇宙人のおかげで淋しさは感じないものの

「やっぱりレイがいないと寂しいわぁ」

結局そうなるのか 運命なのか、なんなのか

「ブレーンワールド同士がぶつかるとビックバン級の爆発が起きるってさっき言ったけど、これを兵器に転用した宇宙最強の武器があるのよね―…あー怖い怖い
 ビックバンなんかを誘発させられたら宇宙が滅びてしまうってんで、これは唯一のSSS級の禁止兵器に分類されてるってわぷ!」

「はいはいお喋りは終わり、帰るわよー」

喋り続ける小人を手で押さえこみ、ハリアーに姿を帰ると南へと飛び去っていく
後ろで、先ほど壊してしまった噴水の音がおかしくなるのに気付かずに

164 :名無しになりきれ:2010/04/30(金) 04:33:48 0
【枢機院総本山・聖樹堂】

議長・アルテロイテ=エルフェンバインは説教台に深く腰掛けながら、
遥か北欧山脈を思わせるような眉間に刻まれた幾多もの皺と、その言葉の重さで以て報告を紡いだ。

「前置きを排して伝えるぞ。上級幹部『セフィロト』のうちイェソド、マルクト、ビナー(エロヒム)の三名が任務を達成できず敗退した。
 戦闘箇所は全て日本の東部。秋葉原……うちエロヒムは死亡している。誠に嘆かわしく、また口惜しい」

老人の声響く聖樹堂には、発声源を含めた二つの人影しか存在しない。
その相方、ジャージ姿に上等な革で織られたマントを羽織った青年は僅かに目を見開き、そして肩を竦めた。

「……マジか。魂の回収はどうなってる?エロヒムの魂はもう"こっち"には届いてるんか?」

「うむ。留魂契約によって既に最終懲罰房に投檻されておるがの。我は"冥罰"のように折檻趣味があるわけではないから
 まだ詳しい面通しはしておらんが、あの娘、余程の恐怖を絶命時に感じていたらしくての。魂そのものを凍結させて外界からの反応がない」

「あーらら。そりゃ"冥罰"の爺さん相当ハッスルしちゃうんじゃねーの。死者に鞭打つのが専売特許で史上幸福みたいな感じだもんなあ。
 おんなじ爺さんでも超ハト派の議長に超タカ派の『ケブラー』、似たような時間生きてきてどうしてこうも違うもんかね」

「バランスの問題であろう。アメばっかやっても組織は成長せんということだの。"冥罰"は自ら憎まれ役を買って出てくれておる。
 誰よりも『楽園教導派』のことを第一に考えておるのだよ。……まあ、本人の趣味性癖も多分に含まれておるのだろうがの」

それを聞く『ティファレト』の表情は硬い。彼らが仲間の死に関して鈍感なのは、一重にその特殊に過ぎる死生観に依るものである。
『楽園教導派』にとって、"死"は"肉体の死"であり、それはすなわち"肉体のみの死"。その精神、魂は回収され、聖樹堂の地下へと格納される。
そこには数世紀前からの殉教者が"眠り"、ときには起きて格納所でのみ生者と変わらぬ振る舞いをもう一度、許されている。

つまりは、死んでもそれが今生の別れではない。地下へ行けば話すことも、感情を共にすることもできるのだから。
故に、『楽園教導派』に"死に別れ"という言葉は存在しない。

だからこそ、魂だけの、ある意味絶対安全の立場を得てさえ文字通り心を閉ざし外界との接触を絶ってしまうのは。
肉体が死亡している今、それじゃまるきり死に別れるのと一緒ではないかと、『ティファレト』は考えるのである。

(戦死した奴からも情報共有できるってのは、戦略的に見てもケッコーお得な話だと思うんだけどなぁ。あるいはそれをさせないように、か?)

「秋葉原での戦闘、アルカナへの強襲失敗と黒星続きであるな。ここで一つ大金星でも挙げておかねば創造主様に示しがつかぬ。
 というわけで、お前にはラツィエル城の防衛補助に回ってもらいたい。件のアルカナらしき集団による攻勢を受け続けているらしい」

「ラツィエルっつーと、西方支部のか?えー、コクマーいるじゃん。うっそん、あいつが抑えられないレベルなんか?」

「いや、その件については本人をここに呼んである。コクマー、参れ」

議長の呼び掛けに応じるように、堂の中心に蒼の燐光が灯る。
ヨコシマキメの転移システムを改造した、枢機院専用の長距離汎用転送術式機構。

(『方舟』、か。ホント便利だなこれ……)

幾重もの光環によって構成された円柱の中で、ほっそりとした男のシルエットが描き出される。
男はその姿が確定した瞬間から颯爽と環の外へ脚を踏み出すと、そのままつかつかと毛皮張りの消音絨毯にこれでもかとばかりに靴音を響かせながら
議長と『ティファレト』の近くへとにじりよると、そのエッジの効いた相貌にシニカルな表情を漂わせながら、言い放った。


「――ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」


上級幹部【セフィロト】第2セフィラ・『"塵壊"のコクマー』である。

165 :名無しになりきれ:2010/04/30(金) 05:22:35 0
『コクマー』。

灰色の髪にふんだんにジャギーを入れ、首筋にかかるまで伸びた毛先にはビーズ式の髪纏め。
トルコ石と同じ色をした目は目鼻筋が鋭角的でやや老成した顔立ちの中では些か異彩を放っている。
浅黒い肌には艶があり、短い髭が口元を中心に群生していて、きちんと手入れされていることが傍目にもわかった。
そんな容貌に薄手のジャケットとカーゴパンツで合わせている上、手には実利を排した装飾い満ちた指輪の列挙。

どこをどう見ても『小奇麗に着飾ったチーマー下がりのあんちゃん』でしかない風貌に、議長が密かに眉を潜める。

「久しぶりだな"真贋"よ。俺は元気にしていたぞ」

「そういうのってまず相手に元気かどうか聞かねえ?」

「――いつだって何かに逆らい生きてきた」

「うっぜぇ……」

「うざいのお」

「駄目だな、お前らの言葉じゃあ、俺の心には響かない。――シーンの最前線に立ち続ける覚悟はあるか?」

「おいジーさんこいつやべえぞ、会話のキャッチボールを自分の右手と左手で完結させてやがる」

「どちらかといえば、肛門から上空に向かってひり出したボールを口でキャッチして食堂へパスしとる感じじゃの」

「例えが汚ねえよ。あいつのあの格好でそんな芸当やらかしてみろ、速攻連行で薬物検査だぜ」

「本題へ移るぞ、"真贋"。俺の守護ラツィエル城が、アルカナと思しき集団の手によって防衛を余儀なくされた。
 敵の数は未知数だが、特に高い能力を持った十数人とそれ以下の数十人で構成された戦隊だ」

「おお、強い方のアルカナと弱い方のアルカナだな。んでも、防衛戦ならお前の得意科目だろ。なんだって増援呼んだし」

「学習しろ、第六セフィラ。何故我々セフィロトの約半数が黒星を付けられていると思っている?己の力を過信し、単独で挑んだ故だろう」

「で、二人でかかろうってわけか?」

「城には俺の側近もいる。お前がお前の妹を連れ歩くようにな。故に、この戦いの本質は如何にこちらが有利な状況で立ちまわるかだ。
 その点、我々には地の利がある。ということは相手を誘導しやすく、着実に削っていけるということだな」

「……お前、頭良かったのな。なんかよくわからんチョイ悪?みたいなかっこしてるしプロブレム的な人種かと思ってたぜ」

「『伊達ワル』だ。二度と間違えるな叩き潰すぞドシスコン。言わばこの装束は――漆黒に選ばれし男の体制への逆襲、だな」

「言うほど黒くねーけどなお前!」


【攻城戦編ボスデータ】

第二セフィラ『"塵壊"のコクマー』
ストリートという劇場に舞い降りた黒騎士。

能力『???』:なんかいろいろ分解したり再結合とかしたりする


166 :名無しになりきれ:2010/05/01(土) 09:33:20 0
【西欧地方・枢機院西方支部『ラツィエル城』】

近代西洋の古城を戦略施設として改造したこの城塞は、故に城塞としての機能を殆ど有していない。
城壁と城門、外堀がある程度で、本来の政庁住居施設としての色合いの方が極めて強い。
それでもこの城が西方の要と足り得るのは、錬度の高い駐留部隊と、張り巡らされた術式結界、そして守護する上位幹部の存在。

「――とまあ、労せずして手に入る情報はここまでかな。近代城というのは軍事施設である要塞と王の座す城とを完全に分離しているからね。
 このラツィエル城はその後者、物理的な防衛策には乏しいというのがアルカナ情報部の了見だね?」

「とは言え、それ故に防衛施設の穴を突くというのは現実的ではないでしょう。塞ぐべき欠落を放置しておく道理はありませんから」

錬議苑における『スマイリィ』と『ストレイト』の背信により、アルカナはこの度大きく攻勢に出る為の翼を得た。
十全な準備の後、『皇帝』の転移術によってラツィエル城の守性結界感知範囲ギリギリまで彼らは降り立った。
陣を敷き、斥候を放ち、物資の輸送と転移を繰り返しながら十分な策を練る。

本陣のテント内では、即席の簡易式『円卓』が用意され、『吊られた男』はその一席に着していた。
21と一つの椅子があるものの、櫛歯のように欠損の多い現在のアルカナでは空席も多く、マリーが座るスペースも確保できた。

「僕らの戦力は十余人の邪気眼使いと百に満たない雑兵部隊。対して向こうは4、5桁に達するであろう人員を湯水のように使ってくる。
 況んや異能力者をや、だね。従って僕らは攻城戦、それも極めて電撃的・即発的な戦略を採らなくちゃならないだろう。
 『ストレイト』君が言うように、まず投石・投火で敵の磐石の防衛を瓦解させ、混乱させ、動転させるのが最も効果的かな?」

「この場合、俺達にとって利となる要素があるとすりゃァ、奴さんに雲霞といる敵兵どもを殲滅し全滅させる必要はねェってことだ。
 俺達の目的は、あくまで『方舟』の奪取――つまりだ、雑魚共に構わず、俺達のうち一人でも本丸に辿り着きゃァ、それで良いって道理にもなる」

「もちろん極論ではあるけどね。さらにポジティブな事実を一つ。防衛拠点という性質上、敵側は総力を僕らに向けることができない。
 攻めるにも護るにも一定の人員を残しておかないといけないし、なにより懐に潜り込まれたらそこは室内。多勢に無勢は成立しないよ。
 従って、どんなに多くても一度に相対するのは多くて3桁、普通は数十人規模になるんじゃないかな。しかもそれら全てと戦う必要もないね?」

「つまりだ。この戦いの大部分は、本質に関係しねェ遊撃と誘導、表で小アルカナの連中が気張ってる間に、
 好き勝手暴れながら、『方舟』を目指せばいいっつう寸法だ。俺達にとって、これだけやりやすい戦いはねェだろ」

『吊られた男』はやおら立ち上がり、ホワイトボードに貼ってある地図へとマーカーを向ける。

「各員の持ち場を説明するよ。『皇帝』君と『審判』君は先程述べたように投石と放火で破壊工作を断続的に続けてもらう。
 後方支援も兼任してもらおうかな。既に待機させてある小アルカナは城門にて戦闘。これは敵戦力の一部をここに釘付けにする意味もある。
 それ以外の者は僕も含めて遊撃に回ろう。乗り込んで、好きなだけ暴れてくれ。全員転移術式は所持しているね?」

「開戦の狼煙は如何がなさるんですの?」

「『審判』君に挙げてもらおう。城の頂上に見える枢機院の教旗――あれに火が点った瞬間から戦闘開始だ」


【ブリーフィング内容】

・『皇帝』と『審判』が投石と放火して騒動起こすから、その隙に乗じて遊撃班出撃。城内に乗り込む

・遊撃班(皇帝・審判以外の者)の目的は城のどこかにある転移システム『方舟』

・小アルカナが城門で頑張ってくれている上、防衛施設の性質上一度に接敵する数は少ないはず

・ラツィエル城自体に防衛設備はなく、極めて普通の古城。トラップとかはあるかも

167 :名無しになりきれ:2010/05/01(土) 10:49:13 0
【ラツィエル城周辺・小アルカナ『剣』宿営所】

小アルカナ『剣』は、幹部大アルカナ達のまさしく"剣"となるべくして組織された集団である。
その数は現状で七十余名。その全員が対異能戦闘の技術を収め、きちんと統率をとれば調律機関の実行部隊にも匹敵する実力がある。
そんな彼らでさえ、裏世界における純然たる数と数の戦いは未だ経験したことはなかった。
邪気眼使いが希少な人種であるように、異能者というものは少数であって然るべきである。そうでないなら、世界に表裏など存在しない。
数が少ないから、無能力者にも比肩する余地がある。囲んでボコれば、どんなに強靭な能力者であってもいつかは倒れるのだから。

「あー、多分死ぬわ俺。ぜってー死ぬわ。弱小異能者を囲んでフルボッコにしてたのとはワケが違うんだぞ!?」
「っスよねー隊長。あの城門の奥にはどんくらいいるんスかね、敵」
「そらお前、言われてピンとくる数なら俺だって負けねえよ?俺だって異能者の端くれ、幹部連中には届かないにしてもやれるよお!?」
「ヤなら帰りゃいいじゃないッスか」
「どこに帰れってんだよ。この戦いで負けたら本格的にアルカナ潰れるぞ」
「天に」
「字が違ぇよ」
「土に」
「意味合い一緒だろ」
「野生に」
「生まれた時からヒトだよ」
「こういうのはどうスか?『俺、この戦いが終わったら嫁の埋まってる土に還るんだ』」
「あれ?普通に哀愁ある良い発言じゃん」
「戦場で死なずにちゃんと墓で添い遂げようとしてるあたりカッコいいッスね。そういう感じでいきましょう隊長」
「よし言うぞ、よーく聞いとけよ――俺、この戦いが終わったら嫁と土に還るんだ」
「それじゃ無理心中っス」
「嫁っつってもレジンキャスト製等身大フィギュアなんだけどな!」
「それじゃただの不法投棄っス。隣に生ゴミ付きの」
「俺、生ゴミか。そりゃちょっとヤだな。ところでこの破城槌を見てくれ、こいつをどう思う?」

隊長の傍らには、鋼鉄製の巨大な杭が鎮座していた。先端は鉛筆のように尖り、形質強化の術式によって貫通性を高めてある。
これが城門の鍵を粉砕し、そのまま大質量と高慣性によって一気に打ち抜く寸法である。
杭の尻部には28門の魔導スラスター。側面に据え付けられたペダルを握ることで魔力を装填し、噴射の推進力で弾丸並みの速度を得る。

自走式魔導破城槌『ブリューナク.10Ka』――

「すごく……大きいです」
「デカいのはいいからさ、このままじゃ収まりがつかないんだよ……!」
「あ、そろそろ時間ッスね」
「そのようだな。よし、――野郎ども靴先を揃えろ!ここが俺達の俺達による俺達のための戦場だ!いいか?明日はこの壁の向こうにしかねえ!
 明日の方も俺達のトコに来たい気まんまんらしいんだが、どうにもあの門が邪魔でこっちに来られねえ!だからお前ら、やることは分かるな?
 あの門をブチ壊し、十全に"俺達の"明日を迎えられるように――最上の橋頭堡をかけてやろう!!」

応ずる声が七十余名分だけ上がり、その熱気に城側の見張りが気付き警鐘を鳴らした時には、――頂上の旗が大きく燃え上がり、狼煙となっていた。
爆煙と爆音を奏でながら破城槌が発進し、ラツィエル城の城門付近は一変、剣戟と砲声交差する戦場へとその姿を変えていく。

そして、戦いは始まった。


【ラツィエル城攻防戦――開戦】

168 :名無しになりきれ:2010/05/01(土) 13:29:40 0

 お菓子の海に浸る、上野公園。
 膝上を浸からせたマルクトが指をパチリと鳴らすと、地上を埋め尽くしていた大量のお菓子が、………煙を立てて、消えた。
 一瞬に、独りでに。……子供が見れば魔法とはしゃぐだろうが、大人にしてみれば悪夢以外の何物でもない。

 物体が瞬時に消失するなど、奇術でもない限りあってはならぬこと。
 ………ましてや数刻の内、未知なる外宇宙の力で灰も残らず灼かれ死んだ人間が、こうもあっさり蘇るなど。

 この世界を統べるありとあらゆる科学的法則が片っ端から真っ向から打ち砕かれていくような、痛快にも似た倒錯感。
 まともな頭をした人間を嘲笑うかのような、圧倒的幻想。
        ・ ・・・・
 バカげている。が、起こった。
 こんなふざけた状況を、【奇跡】と呼べばいいというのか。


「………まさか、骨の欠片も残さないとは。……想定外でした。
 この段階で、『切り札』の発動を強いられますか。…………なるほど、流石は【機関】の人間。……侮るのは禁物ですね。」


 マルクトは、無表情。
 喜怒哀楽のどれも端正な顔に湛えることなく、任務に徹した頭で戦況の分析を淡々と進める。

 その中で、公園の惨状が彼女の”目”にとまった。
 苛烈な攻撃でひび割れたアスファルト。そこに滲む赤黒い血痕。上部を持っていかれた焦げ臭い噴水跡。
 とても、休日に親子連れが憩いに訪れる場所ではない。……悲惨な事故現場、という表現にすれば合点のいく様相となるが。

「……少し、やりすぎましたね。人は死にますが、街はこれからも在り続ける。
 それに、このままにすれば気づく者には我々の存在が気づかれるでしょう。……こういった仕事は、あまり得意ではないのですが」

 しかしそれが『任務』とあらば、得手不得手など関係なく遂行するのみ。

 マルクトは、白魚のような指を再び鳴らす。
 パチリという音。


 次の瞬間、目を疑うような生物たちが次々と公園に溢れ始めた。
 手足と顔の生えた巨大トランプ、人間大のティーカップやポットが、跳ねながら現れてマルクトの周囲を愉しげに躍る。
 奇怪な生物たちを見やるや否や、口元に初めて微笑みを浮かべたかと思うと、

「……みんな、子供たちの遊び場がひどいことになってるの。
 力を合わせて、直してくれるとうれしいな。こんなこと、お願いできるかしら」

 高い声。
 これまでのハスキーなものとは大きく異なり、……まるで汚れを知らない無垢な少女のような、いたいけの残るあどけない声。
 その声に、絵本の世界から飛び出したような生物たちが応えるように大きく声を上げると、それらは散開して公園の至る所の修繕に取りかかる。

「…………そろそろ、邪教の徒が襲撃を企てる頃合いでしょう。
 ここまではおよそ計画通り。……後は居城に居残った残りのセフィラ達と、【世界の選択】に命運を任せましょうか。
 災厄招きし邪性の一切をこの世より排する、神聖なる大秘術。……それが完成するまでの、時間稼ぎと悪足掻き。……っくすくすくすくす…………」

 その笑顔に、邪気はない。
 そう。
 かつて『旧世界』を壊滅させ、邪気眼使いを滅亡寸前まで追い詰めたときのように。


 第10セフィラ、”王国のマルクト”。
     オウコク           ユ メ
 ……その領域では、彼女のすべての『野望』がかなう。

169 :名無しになりきれ:2010/05/01(土) 23:37:04 0
(……冷たい……なに、が……)

槍にその胸部を貫かれた衝撃で一瞬ブラックアウトした黒野天使の意識が、
うっすらと目覚めた。それと同時に

「が……っ、ぐっ……」

黒野の身体に凄まじい激痛が走った。初めは熱さ、次に激痛となり、
やがてドライアイスでも埋められたかのような冷たさとなって、黒野を襲う。
それは、まるで全身の神経を切り刻まれるかのような苦痛だった。
その苦痛を悲鳴として声にだそうにも、槍によって黒野の肺は貫かれ、
ヒューヒューという弱弱しい呼吸音と共に、微かな呻き声が漏れるだけ。
流れ出る血も夥しく、目覚めた意識に再び――――今度は、一度沈めば二度と
戻れないであろう靄が掛かり始めている。

更に、黒野は気付いていないが、彼女を貫いた槍――――神槍『イグニオン』によって、
黒野天使はその身体からエネルギーというエネルギーを吸い取られ始めていた。
イグニオン自体は心臓こそ僅かに逸れたものの、その傷自体が致命傷。
その能力と合わせれば、黒野の命の終焉が近いであろう事は言うまでもない。

(……いたい、な。痛い……これだけ、痛いのだから、私は……助かるまい……)

自身に何が起きたかは把握していない。しかしながら自身が致命的な攻撃を受けた事は、
うっすらと黒い靄がかかり始めた視界に映る見覚えの無い集団と、崩れ落ちた
黒野の身体を支える白い侍の形相で予測できる。

(……死、か。まあ……いい。どのみち、後悔は、無い……思い残す事も、無い。
 私なんかの死に際に……誰かが傍にいるなんて、僥倖じゃないか……)

そうして、その時点で早々に黒野は自身の生存を放棄した。

170 :名無しになりきれ:2010/05/01(土) 23:37:58 0
黒野天使という女は、生への執着が薄い。
彼女はぼっちであった。孤独であった。一人であった。

とある事情によって、そう生きる他無かった

生きるという事は、誰かと関わる事である。誰かと繋がる事である。
だが、黒野天使は誰とも何とも繋がっていない。
カノッサ機関の研究員や大学教授という肩書きはあるが、
例えば彼女の死を悼むような人間は、この世界中を探しても誰一人としていない
まるで、亡霊。生きておらず、死んでいないだけ。
そんな人間が、生死の選択を突きつけられた時に、生への執着など強く持てる筈があろうか。
そうして黒野は、黒い眠りに進んで従属しようとし……

「黒野殿……貴女の命を脅かす万難は、必ず我が剣で討ち祓う。
 だから……お主も意地でも生へしがみつけ!」

声に、引き戻された。
その声は、黒野を抱えて上へと跳躍をした白い侍から。

(この男性は、何をしているんだ……? こんな大勢を相手に、私などを庇って
 いたら……死んでしまうじゃないか……)

朦朧とした黒野の意識に焦燥が浮かぶ。彼女は自身が死ぬ事に意味は見出せないが、
自分の為に誰かが死ぬ事へ意味を見出さないという事は無い。
「あ……ぐ……」
自分を置いて逃げるべきだ……そう言おうとするが、今の黒野に言葉を発する機能は無い。

(どう、する……このままでは、)

黒野が衰弱していく動かぬ身体でそう考えた時


(『――――へへ。だったら“あたし”に身体を寄越せよ小娘』)


彼女の脳裏で、声が放たれた。

それは、黒野天使が孤独な人生を送る根源たる『存在』の声。
ビクリ。虚脱していた黒野の身体が痙攣したのを、白き侍は感じとれただろう

171 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 01:13:00 0

……よし、誰もいねえ。

(世界各地で、それぞれの死闘が幕を切って落とされたその時刻と同じくする。)
(鷹逸カは猟奇的な彼女(剣士)を連れだって、半壊状態の電気店ビルの一階にひっそりと下っていた。)

(枢機院、楽園教導派上位幹部【生命ノ樹】第九位、”基礎のイェソド”)
(あまりに強大な敵を相手に、生と死のやりとりを末席でも座して参じていた鷹逸カは、少なからずその猛攻を直撃ていたわけで。)
(となれば、彼の着込んだ厨二フードが壊滅的な感じにボロ切れとなるのは至極道理と言える。)

…………要は、着替えさがしに、裏口から隣のコスプレ衣装専門店に行くんだよ!

(唐突にかまされた異次元的な発言はさておいて、いろいろ課程をすっ飛ばして場面は裏口前へ。)
(あいにくと侵入者対策のためか、厳重という形容詞を4回ぐらい使わなきゃならないような物騒な施錠がされてあった。)
(………が、いかんせん鉄製ではレイの太刀を受け止めることはできない。あっさり破壊。)
                  オリハルコン    ミスリル
……レイの刀を止めるには、神なる金属とか鉄の王レベルを持ってこなくちゃダメだよな。
…………まあ、もって数分がいいとこだと思うけどよ。

(痛いルビも調子が戻ってきたところで、裏口を守っていた扉がギィ、と軋みをあげて解放される。)

(向こうに覗いたのは、薄暗い路地。)
(大きな電気店に日照を遮られジメジメ、なおかつ人一人がギリギリという幅の、まさに裏路地の中の裏路地といった様子。)
(実はこの道を通っていけば、三大アニメショップを数分とかからず巡ることができる。秋葉原通のオタクには割と知られた近道なのであった。)

つっても、この道の人通りは滅多にねえんだ。
ここ以外にもオタク的な街が多いこのご時世、そこまで秋葉原通なオタクってのも珍しいしよ。

(誰に向けて言ってるのかよく分からない発言をしながら、鷹逸カは慎重に周囲を確認した後、レイを手招く。)
(向かって左手の、向こう側。……確かに、そこにはまた大きなビルがそびえ立って青空にまっすぐ突き刺さっていた。)

(コスプレ総合専門店、通称”あそび”。)
(アニメキャラのウィッグから、コスプレ衣装の自作に欠かせない専用裁縫道具まで、コスプレイヤーの行きつけであるこの店。)
(巨大電気店、通称”会館”と”あそび”が地理的にここまで近い場所にあることさえ、知っている者はそうはいない。)

この店は、比較的警備体制が甘いんだ。入っても盗むものとかないしな。
だから、裏口なんかは開いてる確率が高いってわけ。……お、ビンゴ☆ やっぱり開いてたぜぇ!

(先ほどの電気店よりもうっす〜〜ぃ扉が、いとも簡単に開いて鷹逸カ達を招き入れる。)
(”あそび”の裏口は在庫置き場へ繋がっており、まだ店内に陳列する前の仕入れたての新品が段ボールに詰められて所狭しと山積している。)
(………ちなみに、こんなことまで知っている人間は、いかにディープなオタクといえそうはいない。……道理で、この男の顔がさっきから輝いているわけである。)

さ、て。……どこから手をつけたらいいか迷うな。
まあとりあえず手当たり次第かな……。あ、レイも何かいいの見つけたら教えてくれ。気に入ったのがあったら着てみていいぞ。

(いくら非常時とはいえ、余裕ありすぎである。)
(前頭葉が心配だ。)

172 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 13:08:47 0
「……よし、誰もいねえ。」

廃墟となり果てた電気店ビルの一階
こんなビルに入り込むのはよほどの野次馬か自殺志願者だけではなかろうか
まあ、確認するに越したことはないが

「…………要は、着替えさがしに、裏口から隣のコスプレ衣装専門店に行くんだよ!」

唐突に小さく叫ぶ少年 まあ普通ではないのは今までの戦闘でよく分かっている
いきなり上から落ちてきて窓に引きずりいれたり、その後本気で殺されかけていた
しかも運よく生き残ったというのにノコノコと戦場に舞い戻り、想像以上のしぶとさで助長してくれた

「何者なんだろうな…」

誰かに問うように言うが、答える者はいない
イェソドは「世界の選択」だと言っていた その言葉の意味は分らないが、この裏世界においてなにか重要な人物なのだろうか
ボロボロになったフードから覗く顔は何の変哲もない青年にしか見えないが


裏口はほどなく見つかった
無骨で厳重で重厚で堅牢な施錠が掛けられているが、黒爪の前には豆腐も同然

「黒爪はこんな為にあるわけじゃ無いんだが…」

文句を言いながらも錠をすぱりと切り落とす
重い扉を開けると、薄暗い路地が現れる、路地というか隙間のような場所

少年はなにやらブツブツと言いながら迷うことなく左へと進む、このあたりの地理に詳しいのだろうか
そしてとあるビルの前で立ち止まった どうやらここが目的の場所らしい

「この店は、比較的警備体制が甘いんだ。入っても盗むものとかないしな。
だから、裏口なんかは開いてる確率が高いってわけ。……お、ビンゴ☆ やっぱり開いてたぜぇ!」

何やら嬉しそうな声色なのは気のせいだろうか たかが服のはずなのだが
中に入ると、どうやら在庫の倉庫らしい、まだ開けてもいない段ボール箱が山積みになっていた
中を見てみる

「……」

赤とか緑とかの派手派手な服がビシッ、と音を立てそうなくらい整然と入っていた

「さ、て。……どこから手をつけたらいいか迷うな。
まあとりあえず手当たり次第かな……。あ、レイも何かいいの見つけたら教えてくれ。気に入ったのがあったら着てみていいぞ。」

「……こんな派手なの着れるわけないだろう」

隣の箱も開けてみる ショッキングピンクの服が入っていた

「……」

もはや苦笑い
少年の方はと言うと嬉々とした顔で辺りを物色している

「………」

仕方ないのでもうしばらく探すことにした、着るはずのない服を

173 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 13:10:08 0

「……はあ」

いくつか箱を開け閉めしてから、ぼす、と段ボールに座り込む
暇だ、あれだけ楽しい事があった直後だけあってつまらなさが更に増しているように感じる

「鴉…か」

ふと先刻の戦闘の事を思い出す。 両親が現れ、助言をしてくれた
枯れたはずの涙がつたったのを思い出す

「……私もまだ人間か」

死んだ感情、引き換えに得た力、狂気に染まりつつある自分、それを何も感じずに受け入れる自分
濃厚な血の味を思い出すと、体が疼く

「いかんな」

ここで発狂してしまっては少年を殺しかねない、彼は命の恩人だ それだけは避けるべきである
気を紛らわそうと、目の前にあった段ボール箱を開ける

「お」

そこに入っていたのは白と黒のツートンの服 見た感じあまり派手ではない

「こういう服もあるのか 基調は、黒か」

ふと鴉は黒いものだ、と言ったのを思い出す
これは…合っているかもしれない
ちら、と少年の方を見やる 物色中でまだまだ時間がかかりそうである

「……」

着替えてみた
予想外の事態が発生した

「……スカート、だと?」

と言いつつしっかり着ている

「しかも何かひらひらしたものがたくさん付いているんだが…」

白黒、スカート、フリル 察しのいい君らにはもう予想できているだろう レイの着ているもの、それは

「…メイド服一式? メイドと言ったら…家政婦か?」

ただの家政婦ではなく秋葉原式家政婦であるというのには気付くはずもない

174 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 17:23:24 0
>「どうぞよろしく」

私の拘束を澱み無い手付きで解いた彼は、私の握手を受け、しかし表情は全くの無を貫き通していた。
遠目には『審判』君が、無残に荒縄の成り損ないと果てた革ジャンを未練がましく、
また怨恨の灯火を、瞳の奥で燻らせながら、私を睥睨している。
だが今は、彼の瑣末な小火の消火活動に、意識を注ぐ事は出来ない。
彼の事だ。己が放った火を自らの手で消し止める術など、持ち合わせてはいないだろう。
いずれ折を見計らい、私が手ずから鎮火を、『審判』君の好みにそぐうだけの――
私にすればナンセンスとは言わないまでも、一流とは言い難い――ジャンパーを見繕う必要がありそうだ。
さもなくば私は、近からぬ未来に今度こそ、憤怒の業火と炎上した彼の恨みに、呑まれる事だろう。
しかし差し当たり、一先ず注視すべきは、私を束縛から解放した彼の面持ちである。
成る程、感情を見せぬ技術は中々に見事と評するに値するが、
この場この状況においては下策を講じた物だと言わざるを得ない。
喩えるならば彼の現状は。真水の満ちた水槽に、手首を切り鮮血を滴らせた所、
水底だけが紅に侵されず透明を保っていたと、言わばそのような事だ。
即ち、透明であるが故に、何かがある。
表情の一切が読めないからこそ、腹蔵を秘めていると、彼は大音声で白状しているのだ。

「率先しての協力に、感謝しよう」
謝辞と並べて浮かべた笑顔は、我ながら会心の出来栄えである。
と、このように。隠すだけでは二流三流、偽装が出来てこその隠蔽なのだよ。
とは言ったものの、今の私には別段、彼らを陥れる腹積もりなどは抱えていないのだが。
さて、ともあれ彼――確か『愚者』君だったか――には多少なりの警戒が必要らしい。
端から、先の巧妙に隠匿したものの、本質は脅迫に近しい口上で
十全たる信頼が得られるとは思っていなかったとも。
ほんの半刻ほど前まで、私に張り付いていた肩書きを鑑みれば、当然だ。
この事については追々、私の行動で示していく他、ないだろう。

>「ふうん……それに従えば、俺らは『枢機院』に一泡吹かせられる上に強力な武器を手に入れられるっつーわけかあ。
> いいねえ、そりゃあいい。素敵で素敵で素敵だなあ、良い案を出してくれてさあ――」

閑話休題。
次に私に向けての言葉を発したのは、奇妙な造形の帽子とコートの君、確か『節制』君だったか。
その風体から滲み出る、意図してかどうかは与り知らぬところだが、賢者ぶった虚勢に、
私は実の所少々の不安を抱いていたのだが、予想に反して、彼にも十人並みの理解力はあったようだ。
それにしても、出し抜けに取り出したその拳銃は、一体何なのだね。
流石の私も唐突過ぎる彼の挙動に、思わず思考の歯車に留め具が挟まり、唇が役割を放棄してしまった。
スミスアンドウエッソン社のM19か、その珍妙な格好は聊か頂けぬが、
銃のチョイスに関しては、それなりに褒められた物のようだ。
君の密かに煌くセンスは、然る後ほど賞賛させて頂こう。
なのでこの場は、それを収めて頂けると、とても助かるのだが。
などと、一体どのように制止を掛けようかと、頓に錆付いた思考を、何とか巡らせる。

>「――ありがとう」
だが、已んぬるかな、『節制』君の人差し指は折れ曲がり、
.357マグナム弾の咆哮が閉所である苑の大気を震わせた。
そもそも制止は、『節制』君の十八番ではないかと、
状況に相応しくない諧謔が思考の水面に浮かび描かれるのは、これが世に言う走馬灯と言うものか。
否――覚えず下ろした瞼を開き、再び瞬きの数回を経ても、私の思考は地続きに連続している。
と、次第に健常を取り戻した私の感覚が、頭上に違和感を訴えた。

175 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 17:26:23 0
先程自由を得てから、しかし特に仕事を果たすでもなかった、手を運ぶ。
細微な違和感を摘んでみれば、どうやら私の頭髪は、
産声を上げながら飛ぶ事の能わなかった哀れな弾丸の、軟着陸場とされていたらしい。

>「――『殺傷可能速度』の禁止」
成る程、どうやら私はしてやられたようだが、しかし『節制』君は何故このような愚にもつかぬ行為に、走ったのか。
まさか、諧謔の類のつもりかとも考え至ったが、すぐさま思い直した。
幾ら彼が、出で立ちと反比例した知性の持ち主だとしても、
斯様なまでに壊滅的な感性などは、そもそも人の身には持ち得ぬものだとしか思えない。
彼なりに何やら思う所が、あったのだろう。
『節制』君の奇想天外なる行動の奥に潜んだ真意とは、何だったのか。
私の視線は図らずも束ねられ、一重に彼に注ぐ事となる。

>「……あー、単なる悪ふざけさあ。流石に今殺すつもりはないしねえ。
> 『ストレイト』とやら、君の存在もさっきの計画(プラン)の内にあるんだろ?なら、それを持っておくといい」
どうやら前言の撤回が、可及的速やかに必要のようだ。
『節制』君は人並みの知性と、拳銃への感性の代償として、人外のセンスに憑依されてしまったらしい。
冷静になった頭で思い返してみれば、彼は先刻も何やら、
逞しいと言う言葉を遙か後方へ置き去って、悍ましいとさえ呼べる筋肉を誇る益荒男
――確か『現』『魔術師』君だったか。尤も私にとっては『現』の一字はどうでもいいのだが――
と睨み合いを交えての口論に至っていたではないか。そう言えば『魔術師』君と言えば。
少女は一夜にして変貌する、とは良く言ったものだが、『スマイリィ』は暫く見ない内に、著しい意識改革を経たようだった。
全く、見ているこちらが居た堪れなくなる有様ではないか。様々な意味合いで、だ。
しかしそれにしても、『節制』君は何故だか妙に、得意気な面持ちをしている。
ふと彼の指差す弾丸へ視線を落としてみると、几帳面な彫刻が施されている事に、気が付いた。

>「そいつさえ持ってれば、俺の広域『禁止』の対象から外すことが出来る。
> 広域となると、邪気をよく知らない仲間を『禁止』しないってのは存外に厳しいからさあ。
> アルカナメンバーはもう必要無いんだけどなあ……あ、『魔術師』とオンナノコにもあとで渡しておくから」

ふむ、且つ且つ『節制』君にも、一応の理解が得られたらしい。虚飾無しに、ありがたい事だ。

> 「弾丸を用意してくる。準備が出来たら此処に戻ればいいのかなあ?じゃ、また後で」



さて時は移ろい場所は変わり、アルカナ一行と私は、今は懐かしき『ラツィエル城』の傍へと到着した。
懐かしきと言えども、私が最後にあの城を発ったのは、ほんの数時間ほど前の出来事に過ぎないのだが。
それにしても私の肩書、立場と言う観点から見れば、かの美しき古城は蜃気楼とも言える程に、彼方の物となってしまった。
尤もだからと言って、今の境遇が私にとって不幸であるだとか、不満であるなどと嘯くつもりはさらさらない。
寧ろ水と原液の比率の調整を損なったウィスキー、トワイスアップの成り損ないを、舌に転がさず嚥下するような。
騙し騙しに自分を酔わせる不毛な生活よりかは、或いはこちら側の方が、やり甲斐と言うものがあるかもしれない。
そもそも枢機院にしても、曽祖父からの四世目となる私は、別段教えに感動を覚え入教したと言う訳でもないのだ。
無論、強襲部隊の長として全力を振るった日々への後悔は、まるで無い。
私はその時その時与えられた仕事を、随時真っ当したのだ。恥じる必要も、悔いる必要も、ありはしない。
そして今、私は新たにやるべき事を、尽力するに相応しい仕事に巡り合えた。

「いや……それどころか、目指すべき指標さえ、見つかった。あぁ、今日は素晴らしい日ではないか」

これまでの生を通して常に、私の頭上で揺らいできた、私の視界を覆い、塗り潰してきた旗が、燃え上がる。
あぁ、今日は素晴らしい日ではないか。

「南の門は『剣』の諸君が攻め入っている。力を貸すも他を攻めるも、君達の自由だ。私は、少々野暮用を済ませてこよう」
とだけ言い残し、私は本陣テントより抜け出し、ラツィエル城へと転移術式を起動する。
更に仔細な歩みの矛先は、東門とした。
これより私の取る戦術において、味方の存在は不要、と言うより彼らにさえ危険を及ぼし兼ねん。

176 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 17:27:44 0
「……よう、裏切り者。よくものこのこと帰ってこれたじゃないか」
私の足が門前へと至るに先立って、元同胞達の熱烈な歓迎の視線が、私の面を灼く。
門を自ら開き、現れた軍勢の先頭に立つ男が、一歩踏み出して私へと、一山幾らもしないような皮肉を放った。

「うむ、思いの外、彼らの暫定頭領にも思考力と言うものが、宿っていてね。
 ところで私の、部隊長として各支部に宛がわれた、私室はどうなってるのかな?
 ここラツィエル城に据え置きのソファは、甚く上等な物で気に入っていたのだが」

「相変わらず気に入らねえ尊大っぷりだなあ? オイ。
 あのソファなら俺の部屋に運んどいてやったよ。棺桶代わりにして欲しいってなら、検討してやらん事もないがな」

剣呑たる問答を経て、私は暫し沈黙する。
それにしても私が尊大だとは、彼の人を見る目と言うものは、熟々節穴と評さざるを得ない。
私ほど、事物人材に対して正当な評価を下せる者は、そうはいないだろうに。
――しかし、他愛ない愚痴と並行し思考を重ねてみたが、どうにも分からぬ事が一つある。
己のみで答えが得られぬのならば、ここはやはり他人、彼らを頼る他ないだろう。

「……ところで、一つ尋ねたいのだが。どうしても君の面と名が一致しなくてね。
 出来れば部屋の所在も並べて、教えてくれると助かる。あのソファは手放しがたい」

途端に、先頭の彼が表情に苦味を宿した。
そうしてわなわなと震え出し、ついには羅刹に憑依され、喚き散らす。
アレが彼の異能なのだろうかと、ふと疑問が心に萌芽してしまう程だ。

「殺す! この野郎をぶっ殺すぞ! 部隊長だからってビビんじゃねえぞ!?
 所詮は逃げ腰の受身野郎だ! 叩き潰してやれ!」

物騒な台詞と共に、先頭の彼が地を蹴った。
それにしても、いつまでも『先頭の彼』では味気なく、また語呂も悪い。
何よりここらでいい加減、彼の名を教えてもらわねば、永劫聞けぬ事となってしまうではないか。

「冥土の土産に教えてやらあ! 俺の名はアンダード・グースだ! よく覚えと……!」

成る程、アンダード君か。覚えておこう。
見事な、冥土の土産だったよ。

うむ、真に上等な、冥土への置き土産だった。
君と君の部下が咲かせた鮮血の花束も、餞として頂いておこう。
さてところで話は少々遡るが、君は今先程、私の戦術を逃げ腰の受身と称した。
今思い返してみれば、それは私の潜在的鬱屈から兆した、願望だったのだ。
この世に生を受けた時から、私は私の知性に到底見合わぬ、不味き酒を強いられてきた。
だからこそ、私は全力を尽くす事、それ自体に意義を求め、甲斐を見出した。

だがやはり、意識の深層では、私は死を求めていたのだ。
邪気眼使い達の反則的な能力を、避け続け、凌ぎ続け、長く長く身を晒す事で。
或いは綱渡りにも似たその所業に、一抹の高揚か、案の定と言うべきか、遣り甲斐を感じていたのかもしれない。
ともあれ私には、私にも知り得ず、またそれ故に御する事も無かった、死にたがり願望があり。
そして、その望みは果たされたのだ。

『審判』君の炎によって。
あの時、彼に破れ、私は一度死を迎えたのだ。
枢機院の、楽園教導派の、強襲部隊の、『ストレイト』は、死んだのだ。
しこうして、私は新たな生を得た。
ならば最早、死亡願望に根差す愚かな戦術を取る理由は、
地平の果てまで眺めようが、見当たらない。

「君達に少しでも見極められるかね! 私の異能の及んだ『セカイ』が! 私の見据えた道が!
 見えまい。粗悪に濫造された酒に浸った者は目を患い光を失うと言うが、君達は正しくそれなのだよ。
 何も見えず、何も分からず、ただ無明の世界へと沈みたまえ!」

177 :名無しになりきれ:2010/05/02(日) 17:29:08 0
私の異能『マイルドボイルド』は物体の硬度、また三態を、掌の上にて自在に転がす。
更にこの効力が及ぶ範囲は、私の人格が投影してか、とても広域なのだ。
例えば苑での戦闘にて、私が『審判』君の首筋を捉えていた、場合である。
溶かす――より正確には液化を開始するのは、頭頂部からでも、爪先からでも、可能だった。
即ち私の異能は、対象が地続きであるならば、
現象の領域は何も、掌の範囲のみには収まらない、と言う事だ。

ならば以前の私の十八番であった、空気の障壁を、従来とは違い地表に対し平行に配したならば。
不可視であった盾は、忽ち、必殺のと枕詞を得て、刃へと変貌するのは自明の理である。
重ねて述べるならば、私の異能は本来、少数の邪気眼使いに対してよりかは、このような大規模戦に、適性を示す。
不可解なる断頭に、攻めあぐねる彼らを視線で射抜き、私は屈み、大地へと掌を添えた。
立ち所に、彼らの足元には湖面の魂魄が沈み、皆を呑み込んでいく。
一度沈んでしまえば、後は硬軟の比率を調整し、湖から底無し沼へと、地面の様相を推移させる。
これにて、敵方の――大まかに数えるに、小隊から中隊位か――ともかく一団は全滅に至る訳だ。


あぁ、今日は素晴らしい日ではないか。
君達の悲鳴と真紅の花々が、私の誕生を祝福している。
私の賜った名にこの上なく相応しい、真っ直ぐな、未来への道程が、今漸く見えてきた。

178 :名無しになりきれ:2010/05/03(月) 01:13:17 0
『プロブレム』が這いずるようにして行く。瀕死の体で、最期の場所を選ぶようにその足取りを前へと薦めるのを、ステラは追う。
【ライトニングセイル】を用いれば一瞬で埋められる距離を、それでも徒歩で詰めるのは、純然たる優位の証左であった。

>「『プロブレム』は何してたのかなあ…。とっとと人質連れてきてくれればなあ…」

空間を背にして、得物の定規を構えるは連絡通路。一本道であり、軌道は限定されるが最早それによるアドバンテージは消失している。
反撃の余力あってこその誘導であり、満身創痍の『コンフィング』からは辛うじて戦意の残滓が見えるのみだったのだから。

「終わりだよ『コンフィング』。お互い命を賭けてここまで来た。そろそろチップの回収と行こう?私は覚悟を完了してる」

背に光を。

「――こんな迷いは、もう要らないから」

炸裂。ステラは光を炸薬とした一個の弾丸となり、『コンフィング』との間にあるあらゆる物質を一瞬で置き去りにする。
握った拳は正拳。どこまでも愚直で、どこまでも正しい拳。故に、光速で突き出したそれは破城槌となって敵を穿つ。穿ちに行く――!

>「げふッ!」

異能製の定規を難なく貫いて、『コンフィング』の腹部へとステラの拳が叩き込まれる。叩き込まれ、しかし土嚢を殴ったように鈍重な手応え。
死にゆく少年の体躯は、今や鯨もかくやといった重量でもって彼女の渾身の一撃を耐え切っていた。

(――――――ッ!!)

それは他の全てを犠牲にした、『保身なき防御』。生き残ることを最初から度外視してようやく用意できる、その場への残留。

>「【プラス】ッ!」

血泡交じりの声が呼び水となり、ステラの身体の不可視の錘が吊り下げられる。それは次第に数を増やしていき、やがて立つことすらままならない。
無様にも地面へと顎をつき、どうにか仰向けになって上方を確認したところで、降ってくるナイフの刃先と目が合った。

>「じゃあね…異教のおねーさん。地獄で会ったらまた殺してあげるよー」

(相打ち狙い――!!)

落ちてくる。
動けない。
落ちてくる。
指先は虚しく宙を撹拌する。
落ちてくる。
どこまでも。
落ちてくる。
どこからでも。

ナイフが。

ステラの首筋へと。

「さ、せ、る、かァァァァァァァァァァァァァァ――――ッッ!!」


瞬間、眼前で光が回遊した。

179 :名無しになりきれ:2010/05/03(月) 02:06:40 0
スピカ=トワイライトは攻撃能力に乏しい。
彼女の持つ『白金眼』は、自身とその触れたものに限りただの光へとその有り様を変化させるという極めて単純な能力。
『星』の銘を冠する彼女はそれを光速移動という形に昇華させ、機動力傾重の能力者としてアルカナの一柱を担うに至った。

収斂も光分解もできないその能力故に、無手での攻撃力は零に等しく、大型のナイフを持って突進することでようやく打撃できる程度。
密度の薄いただの光はいくら速くても、ぶつかったところで何の衝撃も痛みもないのだから。
だから彼女が任務に赴くときは大抵が偵察か、戦闘であるならば姉と同行することが多かった。

ステラ=トワイライトは今を以てようやく理解する。妹は、自己の能力の本質を正しく見極めていなかったのではないか。
否。見極めていたとしても、これを行使するのには抵抗があったが故に、攻撃能力を捨てたのではないだろうか。

『白金眼』の真骨頂。
――それは、あまりに『セカイ』に残酷すぎる。


ナイフが降ってきていた。それはステラの白い喉元へと吸い込まれるように落下して、そして正しく吸い込まれるようにして、消えた。
掻き消えた。触れた瞬間、その鉄と木で構成された牙は、光の粒となって霧散していた。

「そういえば『星』の自爆現場――『あの娘がいたところだけぽっかりと抉り抜かれていた』っけ……」

理解する。『白金眼』を積極的攻撃力へと変える活用法。
それは、『光に変えること』。触れたものは全て光に変える。安定させねばすぐに霧散する光。それがたとえ邪気眼使いでも、異能者でも。
――なんでも光に変えて消滅させる。それって、かなり最強なんじゃないか。

「だから使いたくなかったんだねスピカ――セカイを直接抉るような真似だから」

世界は循環する。密閉容器の中で木材を焼き尽くしても、容器内部の重量の総和は変わらないように、物質は三態と化学変化で巡っている。
循環する水の流れから少しずつ汲みとって飲み干していたら、いつかは枯渇してしまうだろう。消滅させるとは、そういうことだ。

「ありがとう――これでおしまいにするから!」

最期の一撃を防がれた『コンフィング』に、戦う手立てはもう存在しなく、最早勝負はついたも同然。
だからと言って、このままとどめを刺すのを止めるつもりなど、ステラのは毛頭なかった。
――殺らなければ、殺られるから。そういう気迫を、死にかけの少年からもありありと感じ取れた。

「――インヴィジブルセイバー!!」

寝たきりの腰元から抜き放つのは一振りの長剣。刀身は真っ直ぐで、刃先へ向かって幅が広くなっている、鉈のような剣。
ファルシオン。頑丈で、重厚で、断ち斬りに優れた片刃剣である。無論ただの剣ではなく、それは透き通った強化水晶の刀身を持っていた。
その峰側の刀身に光が灯る。手元から伝達される光が、刀身を巡って峰へと集まっている。光の全反射を利用した、光ファイバーと同じ原理だ。

「暁光眼――術式展開」

【ライトニングセイル】は、衝撃波が付随するとはいえその本質は移動術である。光速で体躯を運び、近接格闘に持ち込む術式。
では、この術式を攻撃能力として活用するのはどうしたら良いだろうか。――答えは至極単純、光速で剣を振れば良い。
彼女の発想力と、異国で手に入れた最新技術の粋は、それを実現する。

「【ライトニングセイル】――攻態・<タケミカヅチ>」

透明の刃は峰に光を得て、放出される光は起爆剤となって剣身を宙へと発射する。強引に引っ張られてステラも空中へと連れ出された。
体勢を二転三転させながら生まれるのは光速でのフルスイング。肩が外れるのを覚悟でぶち込む必殺の一撃。

両眼で『コンフィング』を捉え、――打ち下ろす。

「これでっ……おわりだァァァァァァァァ――!!」

光速に達したファルシオンは、衝撃波と土煙の波濤を巻き起こしながら轟音と共に『コンフィング』の矮躯へと叩き込まれた。

180 :名無しになりきれ:2010/05/04(火) 20:55:25 0
(───どこから嫌な予感を感じていたのかといえば、それは初対面からそうだった。)
(白衣と目にかかっている頭髪、不健康に白い肌、時折光る鋭い眼光。異能者であるという証拠が無くとも、異常者であるという確証があった。)
(それでも三分ほど前までは、どちらかといえば自分のほうに利があった筈だった。)
(『コンフィング』にはとやかく言われそうだが、このまま行けば殺さずに引き摺り出す事はそう難しくない、そう思えていた。)

(───今、目の前に浮かぶのは、能面のように表情のない男の両眼。)
(行使すべき右手は動かない。駆け出すべき左足は使えない。)
(ただ、幾重にも連なる樹木の“影”が、身体を幾重にも縛っていた。)


 ………マナ、それは万物に遍く生命の根源(アルケー)だ。


(あちこちから突き出た木々の枝の一つに腰掛け、男は呟くように唱えている。)

 先程私が用いた風魔法、あれの本質は「風による攻撃」ではなく「マナの運搬」だ。
 魔力により用いられた風は彼方の地よりマナ──『生命の根源』を掻き集め、ここへ運び来る。

 貴様の投擲攻撃に対し、何故私が防御魔法を用いようと考えたか?
 答えは「偽物(フェイク)」。私はあの時呪文の詠唱をしているように見せかけ───杖で魔方陣を刻んでいた。

(自分が今こうなる前の事───。鉛筆の投擲に対し、相手は不自然なほどに隠れては呪文を唱えつづけていた。)
(能力『リッパトリッパー』の前では遍く盾は無意味、だというのに彼は常に、“木々の後ろに隠れるように”呪文を唱えつづけた。)
(杖の動きも今思えば妙だ。あの「風」を起こした時には見られなかった大振りな動き────あれはただ、杖で木に魔方陣を刻んでいただけだったのだ。)

 ────そして、先の“あれ”だ。
 大気中に漂うマナを「木々の成長」に変換する。

 マナの変換などは魔道学の中でも基礎の基礎。詳しくは…あー…「たのしい魔法学・五年生」の29ページに載っていたっけな、確か。
 で、結果貴様の切り倒した街路樹共が急成長を始め、こうして貴様の身を拘束するにまで至ったわけだ。

(先程────あの男を隅に追い詰めた時だった。)
(身を封じるための一刀を投じようとしたその刹那、突然に男は杖を掲げ、信じられないような早口で何事かの呪文の詠唱を始めたのだ。)
(突如放たれた声に動揺し──鉛筆を振る事が1コンマだけ遅れた。)
(その刹那が命運を分けた。次の瞬間には、どこからともなく現れた木々の蔦によって自分の四肢は完全に拘束されてしまっていた。)

(いまや自分の体は手、足、首に至るまで拘束されており、最早動く事はまるで叶わない。)
(そう、例え指一本でさえも。)

 …更に私にとって都合のいい事に、そうして大気中にとっ散らかった“生命の流れ”は、邪気を覆い隠すのに非常にうってつけなもの。
 急成長した木々は日光を覆い隠すほどの木陰を作り、おかげで「影の同化」により貴様を更に拘束する事が可能になった。

 いやあ、実に丸く収まった。ダンボールに隙間無く物を詰め込みきったような、とてもいい気分だ。

181 :名無しになりきれ:2010/05/04(火) 20:57:26 0
 「…テメェ…俺をどうする気だ…っ!?」

(『プロブレム』が、呻くように言葉を漏らす。)
(身体は完全に拘束され、指し示すのは圧倒的敗北。それでもまだ呼吸をしていられることの意味は───)

 …だから言っただろう。質問に答えてもらいたいだけだ。

(男は心底呆れたふうに息をつく。同じ事を二度言うのは嫌いなのだが…と前置きし、言った。)
(少し前と全く同じ格好で、まるで違う状況(シチュエーション)で。)

 もう一度聞こう。『君のその能力は人工かね?』

(『プロブレム』はその答えに目を見張る。)
(───ここまで大掛かりな仕掛けを作り、徹底的に拘束し、それら全てがたった一つ、その問いに「答え」を貰う為だというのか、と。)

「…………」

(驚き、感心、呆れ。様々な感情が『プロブレム』を取り巻く。)
(だが、彼にとって“そんなものは心の底からどうでも良かった。”)
(今必要なのはただ一つ、目の前の男に情報を提供するか、否か。そしてその問いは彼の中でとっくに解決している───!)

「…テメーには教えてやんねー!クソして寝ろ!」

(舌を出し、これ以上ない挑発の表情で彼は言い放った。)


 ……そうか。

(可もなく不可もない表情で、男は身を拘束された『プロブレム』に詰め寄った。)
(ずい、と顔を突き出し、そのまま彼の学生服の肩に手を掛ける。)

 予想が付かなかった訳ではない。確証が得られなければ、直接見せてもらおう。

「テメッ、何をっ……!?」

(絹を裂くような音が響き、『プロブレム』の衣服が真っ二つに裂かれた。)

182 :名無しになりきれ:2010/05/04(火) 20:58:35 0

 ………やはり、か。

(白さの目立つ若々しい肌の中、下腹部に集中する異様な回路(パルス)のような線。)
(青白く光を放ち、肌の上でまるで地上絵のような円の象形を作っていた。)

「…テメェ…一体何者…いや、何故だ…!?俺達の“異能の根源”を知ってるってのかよ…!?」

(「探求者」は何も答えない。)
(ただ眼鏡の淵に光を宿らせ、その紋様を食い入るように視認する。)

 ………魔道…回路……。
 まさか…いや、だがそれならば全ての道理が合う………ならば…術者は……しかし技術…だが……。

(開かれた『プロブレム』の裸身を食い入るように見つめ、そのまま静かに顔を伏せる。)

 …ふ………ふふふ……

(小刻みに、肩が震えている。)
(やがて男は顔を上げ、天を仰いで甲高く笑った。)

 ……ふ…ふふっ…ははははははははははははははははははッ!!

 はは、まさか《魔道回路》とはな!そいつは太古の大魔術と未来の超科学が合わさらなければ完成を無し得ない人体付加呪文だろう!
 かつてそいつの研究をしていたこともあったが…ああそうだ、確か“被検体”があまりに『死にすぎた』のでに研究を打ち切ったのだっけなあ!
 しかしまさか、そいつを完成させている者がいたとは…。クク、背景に【ラード臭いあいつ】や【機械オタクのあの女】が絡んでそうで恐ろしいな…。
 まあ、奴等くらい偏った知識がなければ確立は“不可能”であることもまた事実…。そいつを定着させた「理論(ロジック)」、実に興味深いよ…!

 そ の 叡 智 、 是 非 に 奪 わ せ て も ら お う じ ゃ な い か ッ ! !

(杖を手でくるくるくるくると必要以上に回し、その先端を『プロブレム』の額に突きつける。)

「っ…!」
 まずは貴様だ!「名誉ある研究対象サンプル一号」の称号を授けよう!

(途端、足元がずぶりと沈む。)
(地面の感触がまるで無い。沈む先は───地、ではなく影の中。)

183 :名無しになりきれ:2010/05/04(火) 20:59:59 0
「ンなっ!?こ、いつは…テメッ、このっ、離せこのキ○ガイ野郎っ!!」

 無駄だ。我が「影探眼」は影の中でこそ真価を発する。
 木々の影に囲まれたこの地を私が「作り出した」時点で、貴様の運命は決したも同然…!

(足掻けば足掻くほど嵌り込む感覚。)

「っ…く、そ…!」

 さよならだ、『プロブレム』!
 0と1の研究データとなった時また会おう!

「畜生オオオオオォォォォォォッ!」

(成す術無く、プロブレムは静かに影に沈んだ。)



(その様子を“背中で”眺め、やがてアリス=シェイドは懐から通信機を取り出した)

 助手A、私だ。今すぐ「楽園教導派」と「魔道回路」についてありったけの資料を集めろ。
 それとB型装備を用意しておいてくれ。場所如何によっては遠出になるやもしれん。

 …何、2進数のメモを解読する作業がまだ終わっていない?ああ、それはもうしなくて良い。
 久々に大変によい研究対象が手に入ったのだよ…クク…。という事でこれから貴様には死ぬほど、いや死ぬ気で、いや死ぬまで働いてもらうぞ。
 …と、貴様の立ち位置は元よりそうだったか…?まあいい、とにかく働け。大神殿を完成させるのだ。

(ピッ、と通信を一方的に打ち切る。)

 さて、私はどう動くか、な…。
 「楽園教導派」の狙いは恐らくステラ=トワイライト。彼女が重さ比べの小僧から情報を仕入れてくる可能性もある…。
 と、なれば…やはり行動を共にしていたほうがいいのだろうか…?
 しかし先からどうも大学内が騒がしい…状況から言って「教導派」と見られるが…さて、どうしたものか……?

(顎に手を当て、ぶつぶつ呟きつつ思案する)

184 :名無しになりきれ:2010/05/05(水) 19:49:38 0
今から起こる戦乱を示唆するかの如く揺動する旗を、『魔術師』は草原に座し、頑として睥睨していた。
刻一刻と近づきつつある鉄火場は、正しく『彼』の人格に即する、荒事である。
故に『魔術師』本来の、温和と冷静の人格は、暫し鳴りを潜める事となっていた。
また彼の傍らでは『スマイリィ』が、彼の腕に寄り添い、目を閉ざしている。
諸事情から異能を、微弱とは言え常に起動させている今の彼女には、決して些細ではない負担が掛かっている。
だが彼女はまるで意にも介していない様子で、安らかな気色を浮かべていた。
巨漢と少女、凄絶と可憐、剣呑と安穏、真逆の気配を醸す二人は不動を決め込み、待機している。

そして――戦端を開く狼煙が、濛々と上げられた。

「来たかぁッ! 待ちくたびれたぜ全くよぉ!」
弩に弾かれたように猛り、『魔術師』は勢い良く熱り立つ。

頓に拠り所を失い頭を揺らがせた『スマイリィ』が、多少不満の表情を浮かべた。
彼女は先程までの空いた時間に、彼の人格についての説明は受けている。
受けているのだが、やはりどうにも、彼女は『彼』よりも、魔術師生来の人格と共に居たかった。
勿論そのような贅沢を言える立場ではない事は彼女も重々承知しており、また好みと言えど所詮は相対的な物だ。
そもそも『願望』が根差す『恋心』さえ、歪極まる不安定な有様を呈しているのだから。
とどのつまり『スマイリィ』は『魔術師』の傍にいる事に満足し、その時点で思考停止に陥っていた。
表層的な、形だけの愛を演じられれば良いと。
言うまでもなく全て無意識下での事であり、彼女の表層心理には一切、斯様な打算が滲む事はない。
彼女は心底、自分が『魔術師』を愛していると思い込んでいる。

そのような事は露知らず、『魔術師』の視線はラツィエル城に定まり、断固として揺らがない。
彼は歯を剥き、獰猛な笑みを隠そうともせず、固く握り締めた両の拳を打ち付けあう。

「『一番』槍は俺様だ! こればっかりは譲れねえなッ!」
咆えるや否や、彼は事前に手渡された転送デバイスを起動させる。
遅れて立ち上がった『スマイリィ』も転移を共にすべく、再び彼の腕に抱き付いた。
淡い燐光で描かれた円陣が二人を包み、光華は段々と輝きを増していく。
光輝は目も眩む程の閃光となり、やがて彼らの姿さえも呑み尽くす。
そうして俄かに光が弾け――後には微かに揺れる背の高い草だけが残された。

二人が降り立ったのは、北の城門の真正面だった。
一体いつからだったか、絶えず上半身の裸を晒している『魔術師』は、
両の拳を腹筋の前で合わせ、右足を僅かに踏み出し、全身の筋肉を隆起させている。
『スマイリィ』は依然変わらず、そのような『魔術師』の腕に組み付いているのだが。

「……なあ。アレ、一応もうちょい増援呼んどかないか?」
「あぁ……何かこう、ヤバい気がする……。色んな意味で……」

趣味の悪い彫像のような態様を醸す二人に、枢機院の兵士達は同胞へと提案を零す。
彼らの覚える気味の悪さは瞬く間に伝染したらしく、ざわめきは波紋と広がり、彼らの足を後方へと躙らせる。
――が、彼らの足は彼らの意図に反して、今の立ち位置に固執し動かなかった。
足は上がり、けれども後ろへと踏み込む事は出来ず、また重心さえ背後へ寄せる事は能わない。

「……おいおいテメエら。何だあ人が黙って聞いてりゃ、逃げ腰ムード振り撒いてくれちゃってよぉ? 詰まらねえ」
ポージングを解いた『魔術師』が掌を肩の高さで天へと向けて、失望を顕に首を横に振った。
兵士達の形相は戸惑いの色を深め、また一部の面々はあからさまな挑発に激怒の情を抱く。

「いいか、テメエらの選べる道はただ『一つ』! 俺にボコられて、地に伏す事だけだ!
 逃げる事は許さねえ! 俺が殴ってテメエらが沈む! 『一方』通行だぜ!」

裂帛の気合を遺憾なく迸らせた『魔術師』の咆哮が、遂に激戦の火蓋を切った。
戸惑いを覚えていた者は覚悟を決め、激怒は更に燃え上がり、兵士達は哮る。
怒涛の瀑布の化身となりて、彼らは『魔術師』へ猛然と迫った。
各々が五体に、両手に、獲物に、異能を宿して。

自らを呑まんとする怨敵の波、その第一波を――しかし『魔術師』はただひと蹴りで『一蹴』した。
彼の蹴撃に大地は抉れ、大気は慄き、敵兵達の手足肉片が散る。

185 :名無しになりきれ:2010/05/05(水) 19:51:22 0
殺人はどちらの彼にとっても望ましい事では無いが、『彼』は立場や性格上多くの敵を作り。
また『魔術師』――ユルゲンにしても『彼』の望みを継ぎ、更には『唯一眼』を手にした事で命を狙われる事となった。
『彼』から引き継いた人情と、元来持ち合わせた紳士の心得から『スマイリィ』を助けはしたが。
『魔術師』は相手が己の命を狙うのであれば、その彼らの命を奪う事も致し方無しとしている。

「おうおう、どうした!? なーにビビってんだぁ!」
俄に気勢を損ねた異能者達の群れに、『魔術師』は足元が窪む程の跳躍を以って身を投じた。
彼の両拳が紅の邪気を棚引かせて閃く。
出端を挫から立ち尽くしていた兵が数人、その場に崩れ落ちた。
唯一眼によって『一流』に強化された打撃力と、加えて直撃の瞬間のみ『一級』の硬度を与えられた拳。
二つの要素から練り上げられる鉄槌の如き『一撃』は、殴れば殴った場所が砕け、破裂する。
字面通りの、必殺の威力を秘めていた。

「さぁて、『一番』槍ついでに『一番』乗りも頂戴しちまおうか! 道を開けろい阿呆共!」
立塞がり、迫り来る兵達を殴り飛ばして、『魔術師』は門への道を開きに掛かった。
一度飛び込んでしまえば、味方を巻き込み兼ねない大火力は無用の長物と果てる。
兵士達が異能を振るい倦ねている事に付け込み、『魔術師』は好き勝手にと拳を振るう。
時折出くわす刃も宛らと収斂された異能は、硬化と同じく『一瞬』に限り。
『一品』の体捌きを身に宿し、回避した後に、使い手を撃砕する。

「……何やってる! これ以上、邪悪の徒に好き放題させるんじゃないッ!」
叫び、一人の兵士が異能を放つ。
『魔術師』目掛け、彼の周りに位置する同胞達の身も顧みずに。
裁きの雷もかくやの稲妻が、『魔術師』へと降り注ぐ。
目も暗む雷光を契機として、他の兵士達も存分に異能を振るい始めた。
自らの身も、同胞の身も度外視して、『魔術師』を殺しに掛かる。

出し抜けな猛攻と、奇抜な格好に挑発。
それらによって彼らの意識に埋もれていた、彼らの絶対の強さが漸く牙を剥いたのだ。
『自他問わず、命を一切惜しまずに戦う』からこそ。
枢機院の異能者達は連綿と邪気眼狩りの歴史を紬ぎ、カノッサの支部さえもを殲滅出来たのだ。

命の全てを投げ出しての、異能の暴風が『魔術師』を呑み込んだ。

 

「……ハッ! どうだよ邪気眼使い、ざまあねえ。塵も残さず消し飛んだろ」

朦朦と立ち昇る爆煙や火の粉、紫電の閃きのみが残る空間に向けて、一人の兵士が呟く。
味方を巻き込む事を無視し、者によっては極大出力を放つべく、自ら命を投げ捨てて繰り出した異能の数々だ。
受けてしまえば、跡形も無く消滅するに違いない。

「……させませんよ、そんな事。アナタ達には塵芥ほどでも、この人を傷つけさせたりしません」
あくまでも、
受けたならば、だ。
異能の残滓が築き上げた幕が薄れると、まず兵士達の視界には少女の影が映った。
両腕を左右いっぱいに広げ、身を挺した守護を示し、屹立する少女が。
更に煙幕や、炎や雷の余韻が散らされていくと、漸う巨体のシルエットが、薄らと見えてくる。
『スマイリィ』に護られた、『魔術師』の姿が、映じてくる。

「……女に護られるってなあ、何か複雑なんだがなあ」

「私がしたくてしてるんですから、気にしないで下さい」

不動の体勢から振り返り、『スマイリィ』は無邪気に微笑んだ。
まんま駄目男を養う女性の台詞ではないかと、『魔術師』は更に顔を顰めるが、彼女が彼の意図に気付く事はない。

186 :名無しになりきれ:2010/05/05(水) 19:53:04 0
ともあれ『スマイリィ』に宿る異能『ギフトドメイン』は、彼女の存在そのものを制御する物だ。
常識にも物理法則にも拘束されず、如何なるモノにも侵される事なく、千変万化を遂げる能力。
彼女と幾度か任務を共にした『ティファレト』は、『火力ならばスマイリィのが上』と評したが、彼の認識は甚だしく誤解に満ちていた。
『ギフトドメイン』の最大の長所は『無尽の攻撃手段と火力』ではなく、彼女が『絶対不可侵の存在』である事そのものなのだから。
その気になれば、彼女は極寒の僻地であろうが活火山の火口内であろうが、核の閃光の中であろうが、闊歩出来る。
邪気眼に関しては『セカイ』の理から外れた物である為、完全な防御は不可能だが。
それにしても、彼女の能力が最上の形で発揮されるのは、本来『守護』なのだ。
しかしながら『楽園教導派』は己も味方も、命を擲つ事が前提とされる。
故に『ギフトドメイン』が至上の成果を見せる事は、一度として無かったのだ。

つまり『枢機教』を裏切り『魔術師』のみの為に生きると決めた今こそ。
『スマイリィ』の能力は、本質である『至上の盾』と昇華されたのだ。

「……まあ、ありがてえ事にゃ変わりねえか」
後頭部を無造作に掻き、諦念の響きを孕んだぼやきを零すと、『魔術師』は再び『スマイリィ』の前へと躍り出た。

「とりあえず、さっさと門ぶち破っちまうか!」
雷神の振るう裁きの槌もかくやの『魔術師』の拳と、破る事の能わぬ盾を欺く『スマイリィ』の能力。
二つを前に最早防ぐ事も打破する事も叶わなくなった兵士達は、唯々打ち拉がれるのみとなる。
かくして『魔術師』はとうとう門前へと至り、

「っしゃあ! 『一番』乗り、頂きぃ!」
渾身の拳を城門へと叩き込み、縦横無尽の亀裂を描いた後に、完膚なきまでに瓦解させた。
そのまま崩落する瓦礫を置き去りに、二人は城内へと駆け込む。
城外に誘い出した多大な兵士達をも残したままで。

「さて……息吐く暇もねえが、次にすべきは撹乱だ。他の奴等がやり易くなるようにな。
 つー訳で、こっからは別行動になる訳だが……無茶だけはするんじゃねえぞ。
 本部の時みてえな事はしてやれねえからな。事が始まる前にいた奴が、終わった後にいねえだなんて、考えただけでも気分が悪くなる。ぜってえ御免だぞ、んな事は」

187 :名無しになりきれ:2010/05/05(水) 19:54:31 0
 


「ねえ、僕ちょっとコレの試し切りがしたいんだけどさ。君、どっかイイ場所知らない?」

本部『聖樹堂』に設けられている、情勢把握の部署に詰め掛け、開口一番に『スクランブル』は尋ねた。
魔術によって展開された、複雑な色彩から成る世界地図を監視していた男が、面倒臭そうに彼へ視線を滑らせる。
剣呑に細められた男の双眸は、しかし『スクランブル』の携えた物を見るなり、驚愕に見開かれる事となった。

「なっ……!? ちょっと、それ『林檎畑』のじゃないですか! 何勝手に持ち出して……!」

「うるさいなあ。僕が聞いたのは試し切りが出来る場所だよ? 
 マッチ棒みたいな奴を斬ってもツマラないからさ。出来れば君で試し切りはしたくないんだよね」

血相を変えて紡がれる男の動揺と警句を、即座に抜いた二振りの刃を鋏の如く彼の首に添えて、『スクランブル』は制する。
途端に男は大人しくなり、表情はそのままに再び世界地図へ視線を戻すと、慌ただしく各地の情勢に目を配った。

「あ……日本の東部に『セフィロト』が三人も集結してました……けど、既に戦闘は終了してますね……」

「そう言うのいらないんだけどなあ。どうしても君が試し切りの相手になりたいって言うなら別だけどね。
 特にこの子、僕が嫌いなのか知らないけど、やたらと震えるからさあ。手が滑っちゃうかもよ?」

男の首筋に添えた刀を眺めながら、『スクランブル』は何の情感も篭っていない口振りで語る。
彼の目は先程からずっと据わっていて、男はいよいよ自分の命が風前の灯火である事を痛感した。

「ちょ、ちょっと待って下さい! ……あ、西の支部ラツィエル城が、『アルカナ』と言う邪気眼使いの集団に襲撃されているそうです!」

「……うーん、残念だけどそこはパスかな。防衛戦とかつまんないし、試し切りで大本命を斬っちゃ面白くないだろ?」

問いかけるような口調で言われても、男は彼の事情など知る由も無い。
ただ自分の命が掛かっているこの状況で、つまらないなどと言われても困るのだと。
目尻に涙さえ浮かべて、彼は内心で悲痛な叫びを上げた。
口に出してしまえば間違いなく己の首が飛ぶ事から、泣き言はあくまで心中に留め、男は再度情勢地図を見渡す。
幾度となく視線を往復させる内にふと、『セフィロト』の表記が大き過ぎて気が付かなかったが、もう一つ戦場がある事を彼は発見した。

「……日本の東部の大学に、立て続けに戦闘部隊が派遣されてました。今はカノッサの研究員や……魔剣士隊の総隊長もいますよ!」

今度こそお気に召すだろうと、男の語尾は自然と昂ぶる。
しかし『スクランブル』の反応は、ただ無言。
一度は明るみの差した男の表情は一転、再び陰る事となる。
これで『スクランブル』が満足しなかったのなら、今度こそ挙げられる戦場は無い。
そうなれば、彼が試し切りの相手とされるのは、必定と言えるのだから。

「……カノッサの魔剣士隊、総隊長かあ。聞いた事あるなあ。確か『白亜の侍』だったっけ。
 何でも、この世に現存する中で、五本の指に入るくらいスゴい刀を持ってるんだよね?」

刃を収め、空いた右手を唇に運んだ『スクランブル』が、ぽつりと零す。
男がここぞとばかりに、何度も大きく頷いた。

「うん、いいね。その侍も、彼が持ってる刀も、気に入った。場所はどこ?
 ……世界基督教大学ね。じゃ、行ってくるから。ありがと、助かったよ」

小刻みに二度首を縦に降ると、すぐさま『スクランブル』は空間を切り開き、その裂け目に身を投げた。
当代無双と呼ばれる刀と、その使い手に思いを馳せ、愉悦に満ちた笑みを湛えて。

188 :名無しになりきれ:2010/05/05(水) 20:05:18 0
【最終懲罰窟】


「……ふん、貴様らに染み付いた邪気は……格別に下劣な臭いをしておるわ。持ち主の方もさぞ、下品なのじゃろうなあ」

「おいおいマジかよ。アイツがどうしようもない奴だってのは俺らが一番良く知ってるけど、俺達まで一緒に……って、何やら冗談が通じない雰囲気じゃねえの」

異能に依り顕現した鬼火の奔馬が引き摺り運んできた旅団の面々に、『ゲブラー』はただ顔を顰める。
彼らに対して、そして彼らの背後の彼方に映る、邪気眼使いの姿を。
際限なき敵意と嫌悪を視線に乗せて、射抜き続ける。

「……何だかヤバげな雰囲気だけど、これは一悶着ありそうな空気だったり?」

口調は崩さぬまでも、表情に真剣味を帯びさせた団長に、『ゲブラー』の表情が引き攣る。
憤怒の形相ではなく、嘲笑の形に。
殺し切れなかった笑い声が、嗄れた喉の奥からくつくつと漏れた。

「笑わせるではないわ。貴様ら如きに、悶着など起こらぬ」

だが突如として剣呑たる悪相へ変貌を遂げると、『ゲブラー』は団長を鋭利な眼光で見据えた。
そして思い上がりや誇張でもなく、彼の言葉に偽りはない。
林檎が枝から離れ天へ昇る事がないように、水が高所から低所へ流れるように。
『ゲブラーの異能を前に、霊魂の類は決して勝ち得ない』のだ。

「貴様らは餌であり、毒よ。邪気眼使いを誘き寄せ、失意の果てに仕留める為の、のう……!」

言葉を紡ぎながら、『ゲブラー』は満面の――同時に悍ましい笑みと共に旅団へ手を翳す。
彼らを現世に留め、巨大の霊魂の集合体とまで結託させた、最も大切なモノへの想いを塗り潰すべく。

189 :名無しになりきれ:2010/05/05(水) 21:39:17 0
《強過ぎる》

トリス・メギストスは更なる違和感を覚えた。
初撃で仕留められなかったのは仕方あるまい。なぜなら無能力者であるという事前情報に基づいて判断した攻撃だからだ。
しかし今度の《アルターブレード》は相手の技量を見極め放った筈のもの。かくも容易に防がれるというのは計算違いも良いところである。

「雰囲気が些か変わったでしょうか」

厄介な相手。長引かせるのも危険、周囲ごとまとめて消し去ろうかと思ったその時である。

「トリス、殺しは待て。その女、何か裏があるように見える」
「待て、と仰いますと」
「そうじゃのう…捕縛した後、尋問などを掛けてくれ。バックに何かしらの組織がついている可能性があるから、そのあたりを探っておくれ」
「了解しました。学長様のご意思の下に」

彼の上司、布兵庵竜蹄からの通信。

《これはまた無理難題を》

彼は錬金術師であるが魔術の方面には疎い。当然拘束術も自白術も使える筈が無いのである。
無論手足を引きちぎり、最悪脳髄だけにして精神系の専門家に引き渡すという手も無しではないが重傷者を保存する術も心得ていない。
これはいよいよ手詰まりだ、そう思った時アンジェラ・ベネットは既に新たな得物を手にしていた。

必中の槍、グングニール。

そちらの方面に疎い彼はその真価を知らなかったがすぐに理解することとなった。

《な、馬鹿な》

大きく躱した筈の槍撃は彼の腕を掠る。
ならばと距離を取った筈がいつの間にか詰められる。
それならばと咄嗟に空気を鉄板に変えて造った障壁は紙のごとく破られる。

あらゆる回避行動が許されない。

《成程、そういうことならば》

彼は逆転の発想に至る。

「その一撃、頂くとしましょう」

必中。必ず当たる。であるなら一切の無意味な回避行動を止め、突き刺さったところを見る。然る後に次の手を打つ。
そう、例えばその槍に手を触れ、

「錬金術はあらゆる物質が自在」

紅い閃光が迸り、彼は再び距離を取る。

《流石に無理か》

既知の物質であれば触れるだけで破壊することもできよう。それが錬金術の力。
今グングニールが傷一つ無いのはその構成要素の中に彼の知らない魔術体系や魔法物質が組み込まれていたからであろう。

「これは使いたくは無かったのですがねぇ」

彼は懐から紅い液の入ったサンプルを取り出す。

「動かないでもらいましょう。この中の毒物、ぶちまければ相討ちになりますからねぇ」

190 :名無しになりきれ:2010/05/07(金) 17:28:08 0
「おィおィ、このグングニールはマジで必中ってことですかァ!」

(圧倒的な戦況。『死』の振るう槍はその一閃一閃が吸い込まれるように錬金術師を捉えていた)

この分なら早急にこの男の口を封じるのも容易いか―――

「その一撃、頂くとしましょう」
「錬金術はあらゆる物質が自在」

(気付いた頃にはもう遅い。神器グングニールを紅い閃光を発する)

「くッ、錬金術か」

ただの金属だったら今頃四散していたに違いない。どちらにせよ、外部からの無理な干渉で神器としての術式が歪んでしまって使いものにならないわけだが。

「これは使いたくは無かったのですがねぇ」

(錬金術師が紅い液体の入ったサンプルを取り出す)

「動かないでもらいましょう。この中の毒物、ぶちまければ相討ちになりますからねぇ」

致死量というわけか。厄介なことに今はストックが尽きかけ。何らかの方法で補充したいところだ。

「ちッ、しゃーねーなァ」

探す。探す。探す。探す。見つけた。

(視界にはふと通りかかった男。どうやら電話に夢中でこちらに近づいてきてしまったようだ)

「全く、困ったもんだぜェ」

(『死』は先程の用済みの槍をターゲットに向けて投擲する)

「黄金の槍(ゴルディオンランス)」


191 :名無しになりきれ:2010/05/07(金) 17:32:14 0
金というのは古より数多の者が求めた、普遍的価値を持つ物質である。しかし何もそれは単に貴金属としての意義だけではない。
現代の科学を用いて卑金属から金を生成しようとすれば莫大なエネルギーが必要になる。
それは、世界に遍く存在する魔力を高エントロピーの状態から低エントロピーの状態へと変化させるために要するエネルギーなのである。
金の正体は世界に満ちている魔力を凝集した一種の魔力塊とも言えるということだ。

古代の王はその下により多くの黄金を集め威光を示したという。
科学によって多くが解明される以前、世界に魔術が跋扈していた時代においては魔力の塊とも言える黄金を所有することが一種のステータスだったのだ。

また、極東にあるとされる黄金の国、ジパングでは現代においても金箔を食する慣習があるという。
これは膨大な魔力量を持った金を箔状にして表面積を広げることで、本来人間では消化し得ない金という物質に対しそこに含有される魔力のみを体内へ吸収しているのである。

このような性質から現代でも魔術師、魔法使いが純金を緊急時の魔力補給源として携帯することは少なくないのである。


『死』の思考は実にシンプル。
手足の傷を塞ぐことすらなく戦い続けていたのは本能的に自らの魔力が尽きかけていることを悟ったからであろう。
そこでヴィクトリアのもつ『黄金の力』を用いて触れた物を黄金に変える。
もし人間を変換できれば、ただそれを摂取するだけで命のストックの補充と魔力の補充、その両方を完了できるのだ。

192 :名無しになりきれ:2010/05/09(日) 19:24:41 0

(秋葉原、コスプレ専門店(通称”あそび”)裏口兼倉庫)
(鷹逸カは替えの衣服を見つけるべく、不法侵入のあげくに在庫品を物色していた。)

なっにっがっあっるっかっなー♪

(やってることは思いっきり刑事法に抵触する犯罪行為だが、その表情と挙動はいかにも「俺嬉しいです!」と主張している)
(コスプレ服を漁ること、というより、こういうスリルあることに心が躍るらしい)
(良く言えば童心、悪く言えばお子様。幼い頃からの夢を貫いて邪気学の教授にまで上り詰めてしまうあたり、その子供っぽさはどうやら筋金いりのようだ)

(ところで、段ボール箱を次々と開封しては、中身の衣装を広げて確認。)
(この作業を先ほどから延々と繰り返しているわけだが、なかなか鷹逸カのお気に召す服が見つからない。)

っていうか、さっきからメイド服しか見つからねえんだけど……。

(開ける箱開ける箱、紺の下地に白フリルという、シックなデザインのメイド服ばかり。)
(しかもそのサイズは最初から鷹逸カの体格に合わせて裁縫されたかと思わせるような、大きめのLLLサイズ。)
(1度目や2度目は「まぁこういうこともあるな」と捨て置いていたのだが、それが20回も続くとさすがに上位存在の作為を疑いたくなる。)

…ま、まあ、さすがに全部メイド服ってわけじゃねえだろうし……。
そ、それに俺の探してる場所が、偶然メイド服だらけだったってこともあるかもしれねえし……。
うん、そうに決まってるぜ。レイなら、レイならきっと男向けの衣装を見つけてくれているはずだ……見掛けが男っぽいし……。
.             ス タ イ ル
(あくまでも運命に抗う行動様式の鷹逸カ)
(一縷ほどの期待感と希望を胸に、背後でガサゴソと物音を立てているレイの方へと鷹逸カは振り向いて――――)



「…メイド服一式? メイドと言ったら…家政婦か?」



10 GOOD!!
(思わず点数札を上げていた。)                アキバ
(鷹逸カお決まりの「弾かれるように飛び出し」ジャンプで、聖朝式正統派メイドと化したレイに飛びかかる)

素晴らしい!!
素ン晴らしい!!
アンタ……なんちゅうもんを着てみせてくれたんや……!!

このメイド服はなッ、かの有名なメイド喫茶『えーでるわいす☆』のデザインでな!!
デザイン性はもちろんその機動性可動性に加えて夏は涼しい冬はぬくいという実用性に優れた最高級のメイド服なんだッ!!
数あるメイド服の中でも特に耳目を集める超人気の一品だが、最高級ゆえに値も張るし在庫も少ないしでめっちゃくちゃ希少品なんだぜ!!1

ちなみに『えーでるわいす☆』は、一般に職場環境が劣悪とされるメイド喫茶の中で給金もシフトも超厚遇の良心的なお店だ!!!
メニュー自体の値段はやはり張ってしまうがしかしメイドさんたちのサービスは他店と比べて格安とも言うべき驚愕の金額でやってくれる!!!!
奇をてらわずとことん正統派にこだわったその店は、秋葉原で一、二を争う超人気店だから一度は行ってみた方がいい!!!!!11

(さっきの疑念は跡形もなく吹き飛んでしまったらしい)
(ところで誰かこの光景をイラストにしてくれると鷹逸カが泣いて喜びます切に)

(ちなみに、鷹逸カは結局似たようなフード付きのコートを見つけ出し、それを選んだのだった)
(衣服代は後で知り合いだという店長に掛け合うそうです)

193 :名無しになりきれ:2010/05/09(日) 19:29:34 0
さ、て。
替えの服も手に入れたし、後はピアノを待つだけ、か。
もし合流したら、後はどうしようか? 名所回るにしても、それどころじゃないだろうしよ……。

(新しいコートを着込んで、鷹逸カは壁に寄りかかりながらそう呟く)
(イェソドとの激闘。その余波は、中央通りにあるビルを二つ、一つは半壊、一つは全壊という凄惨な被害を残して決着した。)
(今ごろは警察も到着しているだろうが、このことは秋葉原中で騒ぎになっているに違いない。)

とても観光気分、って訳にはいかねえんだよな。
ネット掲示板あたりは盛り上がってるだろうが……俺も一コマ目ほっぽり出したし、退却が賢明かもな。

(そこまで言ったところで、)

……そういや、お前らって何で秋葉原、っつーか日本に来たんだ?
ピアノが言ってたけど、二人ってカノッサの特殊部隊なんだろ? ……カノッサがまだ機能していたってとこは、ちょっとびっくりだがな。

(カノッサ機関は壊滅状態で、後は数人の残党やエージェントを残すのみと聞いていたが)
(二人の様子ややりとり、その力量のほどを見ている限り、どうにも「死に体の組織の構成員」というようには思えない。)

(だが、カノッサ機関がまだ裏で力を振るっている、と聞かされても特に動揺はないだろう。)
(カノッサが潜む闇は「日常」より深遠く深淵き、「非日常」の闇の底。……たかだか大学の一教授が知りうる範疇ではなかった、というだけのことだ。)
(曰く、カノッサの闇は世界の一つや二つで倒れるほど軟弱ではないという。…『旧世界』の戦士達が倒したのも、ほんのごく一部でしかなかったということなのかもしれない)

(それに、それなら鷹逸カも好都合だ。)
(結城の抱える「血の宿命」。ぞの決着をつけることがまだできるのだから。)


(その時、)

♪ユメジャナイヤイヤイヤイヤァァァァ

……ん? ああ、メール! この着信音は……「アイツ」からだな。
またなんかいい情報でも仕入れてきたのか?

(ジーンズのポケットから無造作に銀色の携帯を取り出す鷹逸カ。)
(…イェソドとの激戦のときに破壊されなかったのが驚きだ。吹っ飛ばされたりとか叩き付けられたりとかしていたのに。)
(パカリと開いて、幾つかの操作。新着メールを確認。)

………え?
(しばし、呆けた後、)
(レイにその文面を見せた。)


194 :名無しになりきれ:2010/05/09(日) 19:30:46 0



『To:ヨーイチロウ
 From:情報屋と呼んでくれ

 やぁ同志。
 中央通りでの立ち回り、お見事w 君の無茶には昔からひやひやさせられるよ。
 早速だが、取り急ぎ伝える。何しろ緊急の要件なんだ。


 ・軍隊風の奴らが秋葉原駅を封鎖しているらしい。
 ・詳細不明。だが、駅には大量の人が殺到しているので、封鎖は事実。 添付した画像を参照されたし。
 ・未確認情報だが、どうやら秋葉原の出口がすべて封鎖されているようだ。警察の知り合いに確認したが、関与していないとのこと。

 ・中央通りで”会館”ビル倒壊。軽傷数名。死者なし。騒動寸前だったが、不良婦警の活躍で沈静化。
 ・秋葉原各地で謎の発光を目撃した人間が数人いる。掲示板に書き込みと証拠写真アリ。 添付した画像を参照されたし。


 俺にも何がなんだかサッパリだが、嫌な予感がするんだ。
 Yウィルスなんて明らかに嘘っぱちな情報で政府が東京中を外出禁止にしたり、にも関わらず秋葉原のみ禁止令を解いたり。
 そして今度は秋葉原を封鎖・隔離と来たもんだ。明らかに不自然が過ぎる。俺ならもっと上手くやるね。

 また何か分かったら連絡を入れよう。
 支払いはいつもの口座に。

                                情報屋』

195 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 00:16:08 0
先日の「創世眼事件」からさほど間を置かずしてまた多くの異能者、裏社会の住人が集まりつつある特異点、世界基督教大学。
三千院家の黒執事もまた、主の特命を受け探索を行っていた。

(まずはこちらから当たるとしましょうか。)

邪気眼使いは引かれあう性質を持つという。また、そうでなくても異能の力を行使すれば力場の乱れが生じることは多々ある。
無論大学内での戦闘は大学側による周到な隠蔽工作が図られるのは当然であるがそれはあくまで一般人向けのもの。
見る人が見れば「隠蔽工作の痕跡」をたどって真実に到達することもう可能ではないのかもしれない。
何にせよ、リクスは交戦中の二者を見つけ、疲弊したところから情報を聞き出すというお決まりの漁夫の利を狙って今まさに戦闘の現場にたどり着いたのだ。

『「来い(アクシオ)」、アロンダイト』
『それにしても、わざわざ剣の真名を教えて下さるとは親切なものですねぇ』

(さしあたってこの二人が目につくわけですが、どうしましょう。)

確かにニュートラルな状況での漁夫の利は時に有効かもしれないが現状では必ずしも適切ではない。なぜなら一方が大学教授で一方は侵入者。
ということは今は積極的に打って出て教授に恩を売りつつ侵入者を撃退するのが賢明ではなかろうか、そうリクスが考えたとき、間の悪い着信音がした。

『ちょっと、せっかく大事なご主人様が電話してるんだからさっさと出なさいよね!』

一瞬の逡巡を責めるのは彼の仕える主人、セレネ三千院。
どう考えても任務中に電話をかける方が悪く、むしろ一瞬で判断したリクスは褒められてもいいくらいなのだがこんな事を言われるのは単に彼女がイジワルなだけだろう。

「失礼しました、お嬢様。まさか任務中に電話をかけてくるような頭の悪い方が私の仕えるべきお人だとは夢にも思わなかったもので。」

『相変わらずあたしにそんなこと言ってられるっていうことはまだ戦闘中じゃないのね。』

「そうですね。ですが今ちょうどよく交戦に入るところなので電話を切っていただけないでしょうか。」

『しょーがないわね、用件だけ。次はサンクトペテルブルクに行く。例のに会ったら後は今日は寝るつもり。
リクスが居ない分はじいを連れてくから今日は任務に没頭してよろしい。それじゃーね!』

一方的に切られる通話。リクスのケータイからはつー、つーという音が虚しく鳴り響く。

(それにしても、空気を読んでちゃんと切り上げてくれる辺り、やはり私の動きをどこかで監視していらっしゃるのでしょうね。)

セレネの能力に少し寒気すら感じるリクス。しかし次の瞬間、それどころではない攻撃をリクスは受けることとなった。


196 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 00:17:41 0
『黄金の槍(ゴルディオンランス)』

一番大事な事実を失念していたことをリクスは後悔しながら受け身を取る。

セレネの魅了スキル、有無を言わさぬ矢継ぎ早の一方的情報送信、二者と均衡のとれた等距離に位置しているという油断。
様々な要素が重なってリクスは交戦中の二者の事をいったん意識の外に追いやってしまった。
通話に集中するあまり、少なくとも若い女の方には見つかってしまったのである。

「氷結せよ。」

とっさに中空に氷の盾を作るがもう遅い。薄氷を貫きグングニールのなれの果てがリクスの右腕をえぐる。
黄金色に変わりゆく右腕には流石のリクスも動揺を隠せない。

(!! これは流石に初体験というものでしょうか。魔剣使いではなく邪気眼使いだったことをこれほど心強く思ったのはいつ以来でしょうかね。)

痛みは無い。そもそも黄金というものは痛みを感じるのだろうか。
何にせよ、痛みなどを軽く超越した、強いて言うなら違和感のようなものにさいなまれながらもリクスは冷静に考察することを忘れなかった。

「そこの教授のようなお方、こちらの関係者のようにお見受けしたのですが。」

最初に1発、手痛い攻撃を受けた一番の見返りは「共通の敵」という認識が出来たことだろう。

「私は三千院家の執事、リクス・クシュリナーダと申します。ひとまずこの方を片付けてからお話をお伺い出来ると幸いです。」

次の予約を取りつけつつも、まずは自らの立ち位置を鮮明にする。リクスの戦略が吉と出るか、凶と出るか。
運命を握るのは、皮肉にも黒の執事とコントラストをなす白の教授。


197 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 01:01:34 0
徐々に見えてくる秋葉原 相変わらず人だらけで着陸など出来そうにない そこはすでに分かっている
今はそれよりも街の周囲の方に目が行った。

「自衛隊…かしらね」

駅にもびっしりと迷彩服の男たちが並んでいる、そこを通ろうとする一般人が押し合いへしあい戻されているのも見てとれた

「ピアノ、この街完全に封鎖されてるよ」

ウィスが辺りを見回し言う 確かにそうだ、道路という道路に自衛隊らしき軍服姿の人が陣取っており、戦車まで配備されている始末

「……なにか始まるってわけ、か」

警戒しつつ光学迷彩を使い開けたビルの屋上に着陸する。
音響迷彩などという音無効化システムもあったので使ってみたが、かなりの効果のようだ。 ばれた気配は全くない

「さてと、レイはどっこかなー」

きょろきょろと少し辺りを見まわしてから

「あそこね」

ある地点を細目で睨む
コスプレ専門店 の 一階

「なんであそこだって言いきれるの? 不特定の人を探す装置なんてないよ?」

「人間には"第六感"っていう便利なものがあるのよ 特に私のレイに対する反応は尋常じゃないわよ?」

どう考えても変態のなせる所業です本当にありがとうございました

「む…そしてなにか嫌な予感、いやいい予感? も感じられるわね
 ……ッハ まさかレイに何か…!? これは急がなくては!」

レイも真っ青な第六感である

少女移動中……
コスプレ店 入口付近

「インターネットを回ってみたよ 秋葉原が封鎖、隔離されてるのはほぼ確実 警察は動いてないみたい
 あとたぶんピアノが飛んでったのを見たって人多数、写真もアップされてる 解像度低いから簡単には判別できないけど…」

「一応消しといたほうがいいわね」

もうちょっと辺りをよく見てから出て行ったほうが良かったかもしれない が、過ぎた事に云々言ってもしょうがないのでこの議論はおしまい

「しっかし謎の軍隊ねえ…自衛隊に見えたけど所々違ったし そういえばここに来るときもF-22とか謎の戦闘機とかに会ったわね…関連あるのかしら」

ぶつぶつと呟きつつ、迷うことなく裏口へまわる

「まあ、また後で考えるとしましょ とりあえず今は」

ビル裏の薄い扉に手をかけ

「たっだいまー!ちょっと遠出しt」

198 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 01:02:19 0










「メイド服……だと……?」











199 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 01:03:40 0
考えるより前に飛び込んだ

「ぬおおおおおお!白黒!フリル!スカート!白黒!フリル!スカート! はふぅいい匂いがするよぅぅぅ
 すーはーすーはーくんかくんか もふもふもふもふもふもふ! ぎゅううううう! くぎゅううううう!」

おk、とりあえず落ち着こうか

「ぴ、ぴあのー ぐるじい…」

あーあー小人さん押しつぶされて、ご愁傷様です。

「よし落ち着いた もう落ち着いたよ兄者
 そしてそこの青年!」

手が白くなるほど強く抱きつきながら落ち着いたと言っても効果はない
そしてその状態のまま、ヨーイチロウ青年にびしっと指を立てる

「これについてはGJと言おう!だがしかし、しかしだ
 レイのお着がえに同伴した これについては許せない あとで屋上に来い ここから名古屋まで殴り飛ばしてやる」

最後に行くほどドスの聞いた声になるのは確定事項
まあここで吹っ飛ばされるよりはマシである たぶん

「で、お二人はここで一体何を?
 ヨーイチロウ、正確に一字一句違うことなく答えたまえ ちなみに、答えによっては朝鮮半島まで飛距離が伸びる事になる そしてそのままテポドンになってこい」

はい追加罪状入りました―

200 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 16:45:59 0
秋葉原巨大ビル屋上
そこに、一人の小男が佇んでいた。
身長は153cmほど、"チビ"の部類に入る。
黒いスーツに黒革靴、頭には時代遅れの黒い紳士用ハットを被っている。
まるで古い映画のギャングのようだが、その身長では"ちびっこギャング"のようにしか見えない。
さらに間抜けなことに、大きな黒い傘をさしていた。雨というわけでもないのに。
男は傘の柄を握ると、命令の受信を待つ。
カノッサ機関、対能力者用偵察武器『黒い傘』から搬送波を受信。
音性データは生体電流となり、使用者の脳に直接届く。
それはすぐに来た、彼にしか聞こえないささやき声。
彼の上司である「Mr.S」からの指令だ。
(こちらS…レインマン…本日は晴天なりや?)
「こちらレインマン…否、本日は降水確率100%、おでかけの際は傘をお忘れなく…」
(レインマン…雨に色はあるか?)
「こちらレインマン…否、雨に色は無し、しかれども本日の雨の色は赤なり…」
いつも通りの古臭い暗号伝達。これは彼らエージェントの間での伝統なのだ。
(レインマン…役者は踊っているか?)
「役者は現在楽屋にて待機中、情報業者との暗号通信らしきものを傍受、
 役者は筋書きを読んだ…繰り返す…役者は筋書きを読んだ…」
(こちらS…レインマン…この筋書きは我々のものではない…だが既に幕は上がっている…)
いつもどおりのやりとり、だが…問題はここからだ。
(こちらS…レインマン…終幕は近いか?)
「…」
(こちらS…レインマン…繰り返す、終幕は近いか?)
男は逡巡する、やはり…Sは大雑把なやり方で"解決"しようとしているのだ。
(無謀すぎる…ならば、最善を尽くすしかないな)
「否…否!終幕の前に役者の退場を、観客を退席させるよう最善の努力を」
(よかろうレインマン…終幕を迎えずに役者と観客を退場させよ…さもなくば)
「…」
(火の雨だレインマン…繰り返す…火の雨だ…)
「…」
(幕引きを私の手に委ねたいか?レインマン?)
「降り止まない雨はない…」
(ならば雨を、雨を、かつての黄金時代の名曲のように)
("雨に歌わせろ"…繰り返す…"雨に歌わせろ"…観客を…役者を…)
「任務受諾…ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
(ラ・ヨダソウ・スティアーナ)
通信は切れた。

201 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 16:48:16 0
「…それを言うなら"雨に歌えば"だろう」
コードネーム『レインマン』こと雨乃大地(ウノ・ダイチ)は一人呟いた。
場所はUTXビル屋上。
街を眼下に見下ろせるその場所に、彼は居た。
彼はカノッサ機関・監察部第三課所属のエージェントだ。
任務内容は敵情視察・遺物の探索と回収である。
能力者との戦闘による戦闘データ収集を行う事もあったが、それは稀だった。
監察部は隠密性を旨としている。

合言葉は「誰にも見えず、知られず」

昔はそうだった、雨乃がエージェントになったばかりの頃は。
誰にも知られず世界を見守るその仕事に雨乃はささやかな満足をしていた。
なぜなら、そのやり方が一番、一般人に犠牲が少ないから。
これはカノッサのエージェントとしてはらしくない発想だったのかもしれない。
だが監察部は、「カノッサとは世界の監視者たるべし」という理想を持っていた。
世界を危機に陥れる物を、静かに監視し、その根を知られずに絶つ。
それが最善の選択だと考え、監察部こそがその理想を体現するものだと雨乃は考えていた。

しかし今は違う。
戦争が始まったからだ、見えない何者かとの。
ある日突然、監視していた領域から監視報告が途絶える。
前線基地の要因が死亡する。エージェントが行方不明になる。
監察部所属のエージェント達も、多くがその牙に倒れた。
そのような事が起き始め、下位のエージェントの多くが犠牲になった。
カノッサは、最前線の下級・中級クラスのエージェントを損耗しつつある。
監察部は第1・第2・第3の三つの課で構成されていた。
現在まともに機能しているのは第3課だけだ。
第1と第2の人員が全員戦死した事からだ。
「誰にも見えず、知られず」の合言葉は既に過去のものとなった。
今はカノッサが、誰にも見えず知ることもできない敵からの攻撃に晒されているのだ。

街を眼下を見下ろす、たくさんの死体、逃げ惑う人々…
確かにこれは、かつてカノッサが行ってきた蛮行(雨乃はそう考えている)と一致する。
だが…これはどういう事だ?
何故"この作戦の事を誰も知らない"のか?
秋葉原が封鎖された時、第3課は騒然となった。
これはカノッサの意図した作戦ではないからだ。
上層部も沈黙を守っている。
幹部の誰一人として、この作戦の事は知らない。
となれば、カノッサではない第三者がこれを行っているのだ。

202 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 17:39:06 0
作戦目的は分かっていた。
さきほどのやりとりを、傍受可能なバンドで送受信したのは…監視対象にそれを傍受させるため。
『火の雨』などという物騒な物言いも、対象の心理を揺さぶるためだ。
傍受させる事により監視対象をゆさぶり、動かすのだ。
対象が動くことによって、現在の状況の主導権をもつものが動く。
そこに割り込んで、そいつが何者かを掴む。
姿を暴露した敵はもはや脅威ではない…だから行くのだ。

雨乃はカノッサの機関員がとある大学に潜伏している事を思い出した。
いざという時の為に、彼らに向けて『搬送波』を送った。
彼らの意識のみに働きかける波長の思念波だ。
この『搬送波』が彼らの意識に届いた時点でメッセージは解凍される。
彼らの周囲にTVモニタや鏡など「何か映るもの」があれば、下記のメッセージが視界に移りこむはずだ。

『秋葉原にて、見知らぬ輩がカノッサの権能を使い好き勝手に振舞っている…
現在詳細を調査中、終幕までお時間残りわずか、お暇でしたらおいでください…
 本日は雨、ご来場の際は傘をお忘れなきよう…―レインマン』

雨乃が傘の柄を握ると、音も無く傘が畳まれる。
傘は、長柄のステッキか鋭い槍のよう。
黒い瞳に無色の光が宿る、雨乃は空を見上げる。
「…I'm singin' in the rain…Just singin' in the rain…」
What a glorious feelin'I'm happy again…」
静かに歌詞の一節を口ずさむと、晴れ渡る空に雲が集まってくる。
「I'm laughin' at clouds…So dark up above
The sun's in my heart And I'm ready for love…」
雲は次第に厚みを増し、秋葉原の街に雨の予兆である独特の臭いが満ち始める。
「…Come on with the rainI've a smile on my face」
街を歩く人々が足を止め、空を見上げる。
ポツリ、一滴。ポツリ、2滴、空から雫が零れ落ちてくる。
「I'll walk down the lane With a happy refrain」
雫はパラパラとその数を増し、やがてビルの窓を叩き、
雫は流れとなって雨樋を伝い落ち、街路を濡らして小川を形作る。
街に静かに雨が降りはじめた。雨量は少し多い、だがどこか優しい雨だった。
街を逃げ惑う群集は、それによって少し理性を取り戻したように…見えた。

(…どこでもいい、遮蔽物のある場所に逃げてくれ…)

『雨泳眼』の能力のひとつ“天候の操作”の発現である。
「I'm dancin' and singin' in the rain…」
そして雨乃は、水のカーテンの中でその姿を徐々に消していく。
『雨泳眼』の能力のひとつ『レインコート』だ。
雨の中、姿を完全に消した“レインマン”は、眼下に見下ろす街を目指して、ビルの屋上から飛んだ。

203 :名無しになりきれ:2010/05/10(月) 18:19:23 0
レイと鷹逸郎、そしてピアノとWissの周囲には、一種弛緩した空気があった。
戦闘が終わり、世界の終わりも始まっていない今という時間は、彼らにとっては何よりも得難い瞬間である。
ちょっとした諍いや小さないがみ合いはあっても、それは真実の危機ではない。……恐らくは。
少なくとも今この瞬間だけは、“農民にはタダだけれど王様には絶対に買えないもの”が彼らの許にあった。


……しかしながら、戦いは終わってもその記憶は残る。
邪気の残り香、或いは澪は空間に強烈に刻印されている。

「主の知れぬ槍が、突如、飛び行く‥‥
夢に目覚めた 我が眼前を‥‥。」 (ウィリアム・バトラー・イェーツ『黒豚峡谷』)

それを追うのは、彼あるいは彼女でなくとも訓練した人間程度なら可能であろう。
故にさまようもの(Wondering one)は、いまや霊光の追跡者であった。


「Now I Know My A B C 's‥‥」


もし運命というものに人格が存在するのならば、それはひどく嗜虐的なものなのであろう。
“基礎”との死闘(Mortal Combat)から間を置かずして、場所を電機屋から衣料品店に変えただけで再びエンカウントを行わせるなど、正常な神経を持ったゲームマスターに出来ることではない。
ましてやそれが“生命の樹”第三位を一蹴し、あまつさえその身体を接収するなどという暴挙を行った、今はまだ名も無き存在であるならば。

「歴戦経る素早い黒子鬼、怠けドワアフたちをひらり‥‥」
ハードボイルドワンダーランドはその幻影さえも見えないのに、世界の終わりだけが唐突に現れるなど、普遍的な悪夢の中では最悪の部類に属するものだ。

「裃の鵺、棟誉めて夜露誘う‥‥」
総毛立つ悪寒を先導として、少女を模った終末が現れた――いや、その場の誰にも、現れたとは認識できなかった。
ただ、一人は視界を埋め尽くす炎を見たし、三人は炎に包まれる人間を見た。
そして四人ともが、耐え難い熱波をその身に感じていた。

「先ほどの戦闘の当事者たち、かね?」
猟犬の如く部屋の隅に立ち、炎の中ですら凍りつきそうな宇宙空間の虚無を思わせる声で話すのは、終末を招くもの(Endbringer)。
「いや、違うなら別に構わないんだ。ただ私と戦ってくれればそれでいい。」
可憐にして精悍な少女の姿は、熱のためでもあろうか、その身体すら幻影であるかのように揺らめいていた。

――物悲しき西の方、そびえたつ城砦のごとき雲塊が
   よろめき落ちる、赤き炎に彩られて。
         ――アルフレッド、デニスン卿『追憶』

204 :名無しになりきれ:2010/05/11(火) 22:40:01 0
「…まあ、大体方向性は見えてきたわ。どっちにしろ“ろくでもない事”になりそうなのは間違いないわね。」

楽園教導派───セカイを乱す存在『邪気眼』を狩る宗教組織。
けれど神を信じぬ修道女・アスラの目から見れば、その行いが正気か、狂気かなどは言うまでもない問題だ。

「異能者を弾く巨大機関…か。それで、その異能者様ご本人はどう動くつもりかしら────!?」

ヨシノにそれを問い掛けた刹那、修道女の視界が蒼く染まった。

「……この気配…霊?」

新手の匂いを嗅ぎ取り、懐からしまいかけの拳銃を取る。
蒼白い背景に炎柱が立ち並び、やがてその中央に一際大きな炎が燃え上がった。

陽炎が少しずつ揺れ動き、「ヒトらしきもの」を構成する。
驚いた事に、やがてその炎は意思を持ったようにこちらへひらりと手を振った。

『お?なんだ、いきなり思念化してやんの。――よお、久しぶりだなヨシノ』

「………へ?」
「だ、団長?アンタだけじゃない、なんだってみんな、急に出てきたんだ?妖気濃度の濃いヨコシマキメならともかく……」
『それが俺的にもびっくりなんだがよ。なんか鈴とか玉串みたいな音が聞こえたと思ったらこんな感じになってた。おどろ木ももの木さんしょの木だな』
「……相変わらず抽象的なことしか言わないなアンタは」

左を見て、デバイスと目をあわす。

「……知ってる?」
『ううん。でも多分、“ボクと同じ”人だと思う』
「へえ。アイツはアイツで脳内に色々飼ってるのねえ。一度脳髄引きずり出して見てみたいもんだわホント。法に引っ掛かりそうなの出てきたりして」

『団長』と呼ばれる者達と会話するヨシノの顔は、からかわれていながらも、自然な笑みに満ちていた。
きっと旧友、そして今でも心の支えとなっている人物達なのだろう。

「……アイツもあーいう顔できるのよね。『世界』倒してからのあいつとの思い出にロクなのがないからすっかり忘れてたわ」

想起される、思い出のアルバム。
年齢調節薬による死者蘇生、菱縄縛りのロシアンルーレット、先刻の大刀カタツムリ事件。
そこまで思い出して、アスラはアルバムを叩きつけるように閉じた。

談笑中の面々。そろそろ紹介してもらおうかしらと思い始めた頃合に、ふと彼女の頭に馬蹄音が響いた。

205 :名無しになりきれ:2010/05/11(火) 22:40:57 0
「……?」
窓の外を見ようとして、止めた。
今現在基督教大学に馬車は走っていない。つまり、この音は“実在しないもの”であることが分かる。

幼女、旧友、とくればお次は───火車だった。

それはまるで和洋ごちゃまぜな珍妙なデザイン。
煌煌と灯るうってかわった紅蓮の炎が平安の牛車を思わせる車に照り重なっており、屋根には日本語で「地獄」の文字。
骸姿に粗末な着物を纏った御者が、本来人を乗せて走るとは思えぬ勢いで暴走を続ける馬に全く必要性の感じられない鞭を入れつづけていた。

「……うわあ。なんか見ただけで都市伝説になりそうな超絶珍妙デザインね」

あっけにとられて見つめている間にも、火車の行動は実に迅速だった。
髑髏の御者は西洋調の荒縄を取り出しくるくると頭上で回転させた後に、それを「団長」と呼ばれる人物の首へ括りつける。

『ちょっ、おまっ、擦れる!擦りおろされちゃう!!やべえって!ヨシノぼさっちお見てねえで助けろよお前えええぇぇぇぇぇぇ――』

あっというまに、団長その他ご一行様がご案内された。
口をあけて、しばし呆然。
左を見てヨシノとアイ・コンタクト。

───あれは何?
───さっぱり分からん。

それからデバイスへと目を運ぶ。一番事情をご存知そうな彼女は蒼白の表情で火車の去り行く表情を見つめた。

『け、【ケブラー】様の死霊火車……!』
件の【楽園教導派】かしらと思い当たる。
デバイスは変わらず恐怖に引きつった表情のまま、しかしどこか乾いた口調で言った。

『もしもあれがボクを"回収"して"懲罰"するためのモノなら――――あのヒトたち、消されちゃうよ』

懐かしさを噛み締めるような、さっきの笑顔を思い出す。

「…どーするよヨシノ。こいつが知ってるって事は間違いなく【楽園教導派】だけど。」

あれがヨシノの旧友ご一行をすんなり返してくれるとは、どう考えたって思えない。

向かうか、向かわざるか。
まあ分かりきったようなものだと思うけど、と修道女は嘯いた。

206 :名無しになりきれ:2010/05/11(火) 22:46:53 0
10 GOOD!!

「ひぅっ!?」

らしくない驚き方をするのも無理はない
なんたって今の今まであちこち見まわしていただけの少年がいきなり弾かれるように飛びかかってきたからだ

「素晴らしい!!
 素ン晴らしい!!
 アンタ……なんちゅうもんを着てみせてくれたんや……!!」

「は、はあ…?」

「このメイド服はなッ、かの有名なメイド喫茶『えーでるわいす☆』のデザインでな!!
 デザイン性はもちろんその機動性可動性に加えて夏は涼しい冬はぬくいという実用性に優れた最高級のメイド服なんだッ!!
 数あるメイド服の中でも特に耳目を集める超人気の一品だが、最高級ゆえに値も張るし在庫も少ないしでめっちゃくちゃ希少品なんだぜ!!!
 ちなみに『えーでるわいす☆』は、一般に職場環境が劣悪とされるメイド喫茶の中で給金もシフトも超厚遇の良心的なお店だ!!!
 メニュー自体の値段はやはり張ってしまうがしかしメイドさんたちのサービスは他店と比べて格安とも言うべき驚愕の金額でやってくれる!!!!
 奇をてらわずとことん正統派にこだわったその店は、秋葉原で一、二を争う超人気店だから一度は行ってみた方がいい!!!!!!!」

「す、すまないがもっとちゃんと言ってくれ、というか離れてくれないか」

もう何が何やらである、いきなり飛びかかられたと思えば早口で何か言われるし なぜか褒められた

「……この服は、神聖なものとかいうオチか?」

冗談のつもりで言ったのだろうがあながち間違いではない
秋葉原と言えばメイド メイドと言えば秋葉原とは世論的にも一般である ただし日本のみだが

しかし少年がここまで喜ぶのならピアノが今来たら―――

「たっだいまー!ちょっと遠出しt」

噂をすれば影とはまさにこの事か

この後どうなったかはお察しください
ちなみに鷹一郎は後で殺されるだろう、間違いなく

207 :名無しになりきれ:2010/05/11(火) 22:47:52 0
で、三者共々落ち着いたところで
いやピアノは相変わらずレイに抱きつきっぱなしだが
というか着替えさせてほしい、切に
スカートなんて履くのは10何年ぶりである 久しぶりに履くと

「…こう、足元がスースーするな」

はあ、と溜息 とても落ち着かない
外は雨が降り出したようだ まるで今の自分の気分を表したかのように

「…雨?」

雨など降る天気だったろうか 先刻見た空は綺麗なまでに晴れ渡っていたはずだ
中にいた時間は長くても30分 そんな短時間で雨など降り出すのだろうか

「……っ!?」

そして気付く 自分の周囲に蔓延する気配に
どこかも、何かも分らないが 何か、いる すぐ近くに
それは気にしないと気付かないほど薄い気配 弾けるように立ち上がり黒爪の柄に手をかける

二人の如何わしげな視線の他に、もう一つ 感じ取れる視線

「二人とも、気をつけろ 何かい―――」

瞬間 号、と燃え上がる紅蓮
吹き抜ける地獄の風
その中に佇む、終末

「先ほどの戦闘の当事者たち、かね?」

陽炎の中揺らめくその姿は冷たく言の葉を放ち

「いや、違うなら別に構わないんだ。ただ私と戦ってくれればそれでいい。」

戦闘狂の為の料理を創り出す


今日は赤いフルコースが完成しそうだ


なあ、黒爪?

208 :名無しになりきれ:2010/05/12(水) 01:47:40 0
「……ん、目印が移動した。あっちは二つ。こっちは一つ。
 間違いなくあっちは『魔術師』とオンナノコだよなあ。なんせあれだし……」

テント裏、ポツリポツリと独り言。
一人佇む寂しい青年は、白いコートの『節制』である。
ケープは風に踊り、帽子は黒髪と青色の左手との間に潰れて、右手には安易な殺人の象徴(シンボル)。
戦乱が始まったというのに、様子としては至って平常。
人によってはこの様子を、余裕と呼ぶのかもしれない。
右手のものをくるくるくるくると弄びつつ、今の状況を整理していく。

「確か小アルカナが南門だから……ええっと、二人は北で『ストレイト』とかいうのは東。
 あとは西門だろうけど、誰かがきっと行くだろうしなあ。いっそ城内の適当な場所に転移ってのもいいかもねえ」

独り言といえば友達の居ない人と思われるかもしれないが、あえて言葉にするのは頭の中を整理する効果もある。
それを狙ってのか、と問われれば『節制』はそうだと断言できるわけでもないのだが。

「さて、と。それじゃあ一つ、頑張ってきますかなあ……」

転移、起動。




こつり。ブーツ越しの床の感触は固く、堅固な建築を降り立つものに伝えてくる。
説教臭そうで喧しそうな怒鳴り声も聞こえてくる。
見回さなくてもわかる。堅い靴音と共に現れた場所は――――並んだ戦士のド真ん中。
男性、女性、若者、年配と様々。だが老若男女変わらず、目だけはぎらぎらと煌かせている。
がみがみと喧しい声はどうやら演説の真っ最中だったらしい。

「――よってだ!邪教徒を殲滅するべく作られたこの我が第七部隊は……なッ!?な、何者だ、貴さ」

「五月蠅い」

丁度真正面に居た金品をじゃらつかせてうざったい司祭チックの黒服中年に向けて間髪居れず発砲。
中年男の声よりも大きなガァンという音は、それよりも数倍耳に心地よく響く。
さてはて放たれた異能も邪気もない一発は、男の鼻から顔面を赤く散らしていった。
突如現れた白い影の暴挙に、戦士達が驚き惑いざわつき乱れる。
そしてすぐさま暴挙の元に異能の手を伸ばし始めるが、その少しの間で『節制』が行動を起こすには十分だった。

目を閉じる。幾重に縛られた眼球の鎖を粉砕するイメージ、そこから更にヴィジョンを描き出す。
脳裏のヴィジョンは自身を――自身の額を――自身の『眼』を――基点に、起点に、広がる球。
右手を上げる。その手に握られた回転式拳銃(リボルバー)の銃口は、地面と同じ色の天井を超えた見えない空を標的にする。

「――――――『制縛眼』」

209 :名無しになりきれ:2010/05/12(水) 01:49:06 0
騒に消えてなくなりそうな、小さすぎる呟きが撃鉄。
頭の中でかちり。漲っている邪気が『眼』に集中し万端になった、自分への自分だけの合図。
そして引き金は、天に向けた拳銃を――


     ガ ァ ン ッ ! !


――ただの一発、撃つ音。
爆薬代わりの邪気が弾けて、銃撃音を足掛かりとし――344m/s、亜音速でも超音速でもないただの音速で、ヴィジョンの範囲内の全ての脳内に影響を及ぼす。
そしてカカッと二回踵を鳴らして、残った邪気を二度にわたって放つ。

異変は何処から始まったか。恐らく全員が感じ得た筈の違和感か。
有象無象の内の一人が、なんと突然倒れ伏す。
続けてあちらの一人二人がぐるぐると目を回してひっくり返り、そちらは傾く視界に疑問を抱いて横転。
バタバタバタと倒れる音に『節制』がすっと目を開けば、這い蹲る敵(ゴミ)の群れ。

「あーららこらら、一人も立ってないのかよ。こういうときはどいつかこいつか立ってるのがいるもんだがなあ、うん」

くつくつという喉の奥の笑いは、有り余る余裕の具現か。
見下すのは一。見下されるのは数十。圧倒的優位に在るのは無論、たったの一。
たったの一は、数十の異能を地に縛り付けたのだ。
たったの一は、数十にとっての絶対となったのだ。
たったの一は、数十が倒れ伏す十分な理由だったのだ。
そのたったの一は、倒れている兵士達の顎をブーツで蹴り上げ、米神を踏みにじり、首を蹴りつけて出口へと向かう。
呻き声の中、口髭顎鬚を伸ばした髭面で強面の面白くなさそうで真面目そうな男が声を荒げる。

「何をしたぁッ!?邪気眼使い風情が、我々に楯突いて、ただで済むと思うなッ!」

「お、威勢の良いのが一匹。どうだい?眩暈がするだろ、吐き気がするだろ、ついでに言えば頭痛かねえ。
 その症状に覚えはないかなあ。まるで『外の景色が見えない中で長時間車に揺られた時』みたいにさあ……」

質問には答えず、振り向きもせずに、『節制』は逆に質問で返す。
テストではゼロ点でしかない回答ではあるが、その回答から初めて症状に思い当たる一同。
眩暈、吐き気、そして頭痛……確かにその症状は、その感覚は、それに酷似している。
誰もが味わったことのあるだろう症状、『乗り物酔い』。

しかし、しかしだ、それだけでは決して留まってはいないし、留まる筈もない。
叫んだ男が戦闘復帰へといち早く手を地面に突こうとする。
だが、手を伸ばしきってもその手は何かに掠りもしない。
何故ならば、手を差し出したのはあろうことか空中。
一同は混乱に気付く。立とうとしても、転がろうとしても、どうすることも出来ないのだ。
そしてさほど時間の経過も無いうちに更に気付く――――上は何処で下はどっちなのだ?と。

サディスティックな笑みを浮かべた『節制』がようやく振り向き、踵で一人の鼻骨を粉砕してからとつとつと語り始める。

「半径50m内全員の広域禁止、『平衡感覚の禁止』。『空間識失調症』に『加速度病』が付け加わった感じかねえ。
 ついでに三半規管ぶっこ抜いて上下左右の感覚がわからないようなもんかなあ?
 今の状態で宇宙に行ったら安定するかもねえ。まあ、君らがもうすぐ行くのは、冥土かどっかだろうけどなあ」

「貴様……!?……かっ、はっ、あ…………!」

210 :名無しになりきれ:2010/05/12(水) 01:50:16 0
這い蹲ったアリを見るのと同然の目つきで見てくる『節制』に、髭面が更なる罵倒と怒声を上げようとする。
が、うまくいかない。それどころか、吐き出せるのは僅かな僅かな吐息。
息継ぎをした筈だというのに、まるで何も呼吸していなかったかのように。

「おっと、さっき叫んだ奴かねえ?なんて愚劣で愚鈍で愚昧な愚行を犯してるんだか。
 無駄に無意味に無為に無用にわめいて怒鳴って吼えてがなって、満足満悦満喫の至福幸福眼福かい?
 今となっちゃ貴重な貴重な貴重な貴重な酸素を吐き出せば、そりゃーあっという間に呼吸困難だろうなあ。
 何故そうなのか教えて欲しいかい?くく、『禁止』したのは平衡感覚だけじゃあなかったのさあ。
 広域禁止と直後に、この部屋のみを指定して行ったのが――――『呼吸の禁止』。」

つらつらと話す間にも、刻一刻と近づいてくる残り酸素のリミット。
誰かが苦しげに懸命に空気を吸引しようとしても、誰もが胸も肺も横隔膜も固まりきったかのように動かない。
再び戦士達を蹴り始めた『節制』が、笑いを堪えた表情でもう一度口を開いて語りだす。

「……暫く酷く苦しいだろうけど、安心するといい。なあーに、君らが呼吸困難で死ぬまでは間違いなく続くから。
 君らの組織がアルカナにちょっかいかけた事を恨んで、ゆっくり死んでいけよ?
 ちなみに、知ってるかなあ?呼吸を止めて5分で脳は死ぬんだぜえ……く、くく、はっ!
 くははははは、はははははははっ!ひゃーっははははははは!!」

堪え切れなかったその笑いは、狂笑。
その笑いは人殺しに慣れきった青年の、純粋なる愉快の笑い。
狂人の強靭なる凶刃に堪えかねた髭面が、眩暈と吐き気と息苦しさとから悪戦苦闘の上で辛勝をもぎとって、ようやく右の掌を『節制』へと突き出す。
霞む視界を、必死に調節し、憎き邪気眼使いへ異能を、

「くら…………え、あッ……!?」

解き放とうとした。
が、火の粉一粒、氷一片、衝撃波一発も出てこない。何故?
そういえば、あのお喋りの邪悪にさっきから一度たりとも異能が飛んできていない。
他の仲間も男と同じ状況下にあることは察せられるが、何故?
彼の視線の先の『節制』は振り向いてすらいない。それどころか、未だに兵士達を蹴って遊んでいる。

「いけないなあ、ちっとばかり調子に乗りすぎたかねえ、俺?それでも無駄、無駄。
 呼吸が奪われて平衡感覚が麻痺してる奴が、もう一つの『制限』を跳ね除けられるほど精神力余ってないだろ?

 ――『攻撃の制限』。呼吸と同時に異能攻撃だけを縛っておいたんだけど、やっぱりねえ。
 体が動かなきゃあ残る手段は異能だもんなあ。
 今どんな気分だい?もう聞く余裕もないだろうけどねえ。くくっ、はははっ!」

風前の灯とよく似た朦朧さで意識を保つ男を一瞥すらせず、『節制』は最後に近くの年配の女性の顔面を蹴り抜いて出て行った。
数秒後、呼吸が止まった男と意識を着実に剥がされていっている戦士達の鼓膜を、.357マグナムが発射された音が震わせた。

211 :名無しになりきれ:2010/05/13(木) 06:38:36 0
保守眼を発動する――!

212 :名無しになりきれ:2010/05/17(月) 19:19:06 0
ふ、とナイフから手を離す。
自由落下というには不釣合いなまでのスピードは、『コンフィング』が付与した「重さ」故。
その刃がステラの首筋に触れんとしたその刹那、彼女は閉じかけた瞼を開き喝した。

「さ、せ、る、かァァァァァァァァァァァァァァ――――ッッ!!」
「──っ!?」

喉から鮮血を掻き飛ばすはずだったその刃は刃先からゆるやかな光の結晶となり、やがて霧散した。

目が驚愕により見開かれる。『コンフィング』はその時、笑っていた。
折れてる腹を折れた腕で抱え、血溜まりの笑いを撒き散らしながら。

「はは──あはは──そりゃ反則だよ」

さながら糸の切れた人形のように、ただ無邪気に笑う。
今彼の脳を巡る思考はただ一つ、それは理性よりもむしろ本能での思考。

即ち【自分はこの人に勝てない】という絶対的な「格」(ランク)だった。

最後の手立ては防がれた。最早自分に戦う気力は無い。

では───ここで降伏するか?忌まわしき邪気眼使いの前に膝を尽き許しを請うのか?

答えは否。
『コンフィング』の知る【楽園教導派】に、降伏の二文字は存在しない。

だからこそ組織の中にあれたのだ。
だからこそ彼は彼でいられたのだ。

「ごめんねおねーさん。僕らの組織は決定的に、諦めが悪い事で有名なんだ。
 だから、さあ。僕の息の根が止まる前に…死んでくれないかなー?」

故に彼は許しを請わない。
ふらつく身体を必死に揺り動かし、彼はたった今落ちたナイフを拾おうとし─────た。

「────くっ!?」

刹那、強烈な閃光が網膜を焼く。

213 :名無しになりきれ:2010/05/17(月) 19:20:47 0
「眩しっ…くっ、このっ、往生際が悪…い…よ…?」

目を擦り視界を持ち直して、自分の眼下──ステラ=トワイライトがいた筈の場所を見て呆然となる。
次の瞬間、そこにいるはずのステラ=トワイライトは既に“消失”していたからだ。

「消えた…今の一瞬で?」

光による視覚効果を狙ったにしても逃げるのが早すぎる。
辺りをぐるりと見回すが、彼女の人影はどこにも見当たらない。ならば残る選択肢は。

「上か──!?」

空を見上げた『コンフィング』は、そうして自らの目を疑った。
そこにあったのは、ただ光を放ち続ける強大にして絶対的な《太陽》であった。

「【ライトニングセイル】――攻態・<タケミカヅチ>」
「ッ!?」

自らの体躯の二倍三倍もある巨大な光の剣を振りかざし、全てを焼き尽くす灼熱の光が降り注ぐ。
遥か上空で刃を振り下ろすステラが叫ぶ音が、脳に反響していやにうるさく響き渡った。

「これでっ……おわりだァァァァァァァァ――!!」

やけにゆったりと感じられる死を迫らせる光速の刹那、彼はたった一言、純粋な感想を漏らした。


───なんて───きれいな────。


響き渡る轟音。
至純すぎる光に飲み込まれた『コンフィング』は、その亡骸を残す事無く散った。

ぽっかりと開いたその跡には、ただ光のみが残っていた。

214 :名無しになりきれ:2010/05/18(火) 13:27:50 0
それは誰の目から見ても悪足掻きだろう。
白き風が吹き荒ぶように、迫る“死”から逃れんと疾駆する様は。

(兎に角……一刻も早く黒野殿を治療し、安静にさせねば……!
それに、先刻から彼女の“気”が不自然に『流されている』。これがあの槍の効果ならば、こちらも対処が必須ッ……!)

思えば、黒野天使というハンディを文字通り“背負いながら”も逃走が適っている今、状況はそう絶望的ではないのかもしれない。
着物という『軽装』と鎧という『重装』の差異や、彼我の身体能力の格差。様々な要素の競合による帰結が『逃走可能』という事実に結び付いているのならば、このまま時間を稼ぐ事も不可能ではない。

(それなら、ひとまず応急処置の時間だけでも確保できるか……
……いや、何がなんでも確保してみせる……!)

実の所、彼“だけ”ならばこの窮境を打破する事も不可能では無い。
《白亜の侍》の異名すらも得たカノッサ幹部の肩書きは決して伊達に非ず。
相手方の心中覚悟の一撃に十分な注意を払えば、1対50であっても分のある戦闘ができると内心計っている。

何より、彼には有る───己を最強の魔剣使いと呼ばせしめる所以たる『切り札』(ジョーカー)が。

だが、今《神樹の槍》に立ち向かう選択肢を選んだ暁には……きっと、二度と黒野天使を助ける機会は訪れない。

そんな“重荷”を棄て自己保身をジワジワと喚起させるであろう、甘く紅い禁断の実の誘惑に似た選択肢を

「阿呆か」

───ただ一言で、緋月命は粉砕する。
尤も、それは彼にとって確定事項に従ったに過ぎないのだが。


《白亜の侍》には“力”がある。権力然り発言力や武力。中には幾分持て余しているものもある。
過剰と言える程までに備えた“力”。それほどまでに彼がソレを求めた理由は

(そう、まさしく“こんな時”の為ではないか……!!
圧倒的な力で、力を持たぬ者たちが理不尽に冒されていく。“それ”に抗い、立ち向かう為に……某はここに生きているのだ!)

その決意は、遠い過去。彼の一生を歪めてしまった出来事に起因する───


215 :名無しになりきれ:2010/05/18(火) 13:30:34 0
緋月家───使い古された言葉を用いれば“由緒ある家柄”。
代々、名の有る剣客を輩出しており『緋天流』という一門を継承し続けてきた。

とは言え、あくまでそれは表社会での話。
カノッサ、結城財閥、SAGA、シャイアーテックス、枢機院───世界を真に掌握する“裏”から見れば、歯牙にすらかからない存在だっただろう。

【白亜】という魔剣さえ、有していなければ。

かつて、緋月命が《白亜の侍》ではなく普通の学生だった時。
“圧倒的な力”───家宝の【白亜】を狙った蒐集組織───は『緋月』の全てを蹂躙した。
人も、物も。───幸運という“力”を得られなかった彼以外の全てを。

力が無かったから抗えなかった
力が無かったから助けられなかった
力が無かったから

───力を得た

(……今の自分ならば、抗える、戦える、立ち向かえる。
暴虐の嵐の中でも、望む未来を掴む“力”がある……!
妥協はせぬ。諦めもせぬ。己が望む未来を……望むがままに某の力で実現する!)


──────────────
屋上から跳び、壁を駆け一心不乱に疾走を続けた末の終着点は、かつて大アルカナの《魔術師》を降した森。
大学キャンパス内の巨大自然公園であり、あの時は知らなかったが名を『鎮守の森』と言うらしい。

「よし、此所まで来れば少しは………大丈夫か、黒野殿!?」

返信は今も途切れそうな脆弱な呼吸。阿呆か、大丈夫な筈がなかろうが。

「安心召されよ、すぐにあたう限りの治療をを施すからのう。とは言え……」

それを阻むのは、白衣の下の一枚の服。傷の治療に際して、当然傷口は見えるに越した事はない。

「すまぬ……黒野殿、今から某は貴女に大変な無礼を働く。
お気に障られたら……“元気になった後”いくらでも某を殴って下され」

服を両の手で掴む。多分の躊躇が襲ってくるが、人命救助のため、後で如何な償いでもする、と己に言い聞かせ───

ビリッ!

そんな擬音と共に、一枚の布が引き裂かれた。


綺麗、だと。全霊を賭してもそんな簡素な表現以外が浮かばない。
女性らしい細身の線、一片のくすみすら無い“天使”の羽の様に白い肌。
その上を鮮血が冒涜的に蹂躙する様は。


216 :名無しになりきれ:2010/05/18(火) 13:32:47 0
「ッ……何と惨い……はよう傷を塞がねば……!」

まずは止血。血を拭い、己が身に纏っている白亜の衣を裂き、さらしのように胸の裂傷へ巻き付ける。
微小ながらも自動治癒術式(オートリバース)がエンチャントしてある。ただの布で止血するよりは数段意義があるだろう。

(よし……これで血は間もなく止まるはず。だが……)

止血の次の工程───生命力の補完という最大の難関が、待ち受ける。
換言するならば……そう。有史以来、幾万幾億の負傷者たちを黄泉へ送った“死神”が。

(どうする……いくら傷を塞げた所で、流れ出した生命力(マナ)は取り戻せぬ……
某が術式などが使えぬ以上、手段は限られる。一応、そんな『魔導薬』は持ってはいるが……)

かつての《魔術師》戦後に使用した黒き丸薬───“邪気丸”。
邪気を限界まで取り込み強引に体の治癒機能を全解放しつつ、生命力をも補完する秘薬。
これを与えれば、すべては解決するのかもしれない。

だが

(黒野殿は非戦闘要員。まして、ここまで体力を失っている状態では……『反動』に耐えきれるかどうか……!)

自分の選択で他者の命が左右されるかもしれない状況。

あるいは傍らの負傷者が、戦場で共に闘う同士ならば、躊躇無く決断を下せただろう。
死ぬ覚悟がある者への助けとして、きっと自分は惜しみ無く秘薬を分け与える。

(だが、違う。この御方はそうではない!
ただの研究者に過ぎぬというに、こんな理不尽への覚悟ができている筈が無かろう!)

与えるか、与えざるか、十数秒程度の思考。
その迷いが、あるいはソレに費やした時間は
───最悪の形で二人に牙を剥く。


感じる間も無い刹那だった。周囲の風景が、いつの間にか黒と白二色のモノクロへ変化していたのは。

《白亜の侍》もまた、獣の如き直感にて一瞬で感じ取る。
この白と黒、両極のコントラストの空間は、凡そ『鎮守の森』全域を覆っているのだと。
恐らく用途は“空間隔離”・“内部事象の隠蔽”。
故に、これ以上の逃走は封じられてしまったのだと。

結局は、何の解決策も見出だせぬまま
ほんの幾許か、迫る死を遠ざけた程度で
己が力では誰も救えぬのかと悲嘆に暮れる彼が聞いたのは

絶望の、足音

217 :名無しになりきれ:2010/05/20(木) 09:52:19 0
《抜かったか》

トリス・メギストスもまた、新たな侵入者の存在に気付いたものの、それはアンジェラよりも数瞬遅れての事であった。
考えてみれば当然のこと。トリスは予定よりも早くポイントに着いたアンジェラを襲撃した。
                             ヴェール
予定を繰り上げてしまったためにこの一帯には未だ高度隠蔽結界は張られていないのだ。

「新たな侵入者ですか、困りましたねぇ。管理役として見過ごすわけにはいかないでしょう」

侵入者はアンジェラの攻撃を受けた。しかし生きている。

《盾ぐらいには出来るか》

「そこの教授のようなお方、こちらの関係者のようにお見受けしたのですが。」
「失礼ですが、御身分を明かしてもらえるとうれしいのですがねぇ」
「私は三千院家の執事、リクス・クシュリナーダと申します。ひとまずこの方を片付けてからお話をお伺い出来ると幸いです。」

《我々に与するつもりか》

「成程、わかりました。私はこの大学で教鞭を取るトリス・メギストスと申します」

《結界展開まであと十数秒、精々盾になってもらおうか》

「さぁてお嬢さん、そろそろ反撃と行かせてもらいましょう」


218 :名無しになりきれ:2010/05/21(金) 23:42:55 0
レインマンはビルの上を飛び降りる。
彼は知っていた、この街の異変を。
レインマンを中心に、秋葉原上空に発生した雨は、街の様子を教えてくれた。

雨は全てのものに降り注ぐ、誰一人として例外なく。
だから、レインマンはこの街で起きた事を粗大もらさず瞬時に知る事ができた。

この街はもう、レインマンの縄張りだ。

レインマンは高速で秋葉原の街へと落下する。
磨き上げられたビルのマジックミラーにその姿が映ることはない。
「雨泳眼」の能力、雨に姿を隠す「レインコート」がレインマンの全身を覆っているからだ。

落下しながらもレインマンは収集した情報を検討する。

・秋葉原封鎖の命令を出したのは世界政府である
 自衛隊員は彼らの命令とは知らずに動いている。
 
・世界政府とは別の何者かが、秋葉原を『包囲』する魔方陣を描いている。
 魔方陣は現在もその動きを止めておらず、このままでは時を待たずして“発動”する
 魔方陣がどのような効力をもつものかは不明。
 しかし、死亡した一般人の“魂”を食って呪印は稼動を続けている。

(馬鹿な…!一体誰なんだ?世界政府はカノッサを無視して一体何を?)

しかしここで、レインマン背筋に冷氷が差し入れられた。
「あり得なくもない、最悪の可能性」に思い至ったからだ。

Potential strategic・・・・世界政府他に 別の組織が存在する可能性

思えば、カノッサは力を追い求めすぎた。自ら世界を破壊し得るほどに。
ならば…カノッサを掣肘、もしくは殲滅できる組織を“創造主”が用意していた可能性は高い。

世界政府が一般人を守るために秋葉原を封鎖し、さらに別の組織が魔方陣を描いた。

     ネ ズ ミ
別の組織は邪気眼使いをおびき寄せるための罠に秋葉原を使ったという事だ。
ならばこの呪印はネズミ殺しのトラバサミと言ったところか――

(僕らは“あのお方”から見放されたのか?ならばカノッサはどうなる?)

レインマンはどんどん近づいてくるアスファルトの路面の上でくるりと一回転。
トンボを切って着地。

そのまま秋葉原の濡れた路面を滑っていく。
レインマンの視界を、秋葉原の町並みが物凄い勢いで過ぎ去っていく。
まるで街の中にハイウェイができたようだ。
そのハイウェイを、レインマンは超高速で突っ切っていく。
『雨泳眼』能力のひとつである高速移動術「水切り」だ。


レインマンは『水』の能力者である。

               ステージ
水場は彼を自由自在に躍らせる『舞台』だった。

219 :名無しになりきれ:2010/05/21(金) 23:44:00 0
道々に自動小銃を持って待機する自衛隊員と、装甲車両が駐機している。

激突する寸前にジャンプ。
雨の遮幕を蹴り、雨の中を泳ぐように跳ぶ。
アクロバット、三角蹴り、空中歩行。
数回の跳躍ののち、空中前転、着地、そこから滑走に移る。

            ハシ
レインマンはさらに思考を奔らせる。

 マスター ピース
“世界の選択”だ。

秋葉原には、彼がいる。
おそらくはおびき出されたのだろう。
もしくは彼を殺すために何者かが舞台を用意したという事なのかもしれない。

彼らの様子を探る・・・そののちに・・・対処を行う。

レインマンは雨の秋葉原を飛翔する。
彼らの居場所はすでに分かっていた。
数秒で現場に到着。
視界の先には4人の男女が居た。

 マスター ピース
“世界の選択”こと結城鷹逸郎。

「黒爪」を振るう傭兵、レイ。

カノッサ機関傘下「オーケストラ」の一員、機械少女 ピアノ=ピアノ。

そして…レインマンの知らない能力者。

レインマンはピアノの事を知っていた。
彼女が極めて特異なパーソナリティを持っていることも当然知っていた。

女なのに女好き、という。

見れば・・・メイド服姿のレイに――抱きついている彼女の姿が視認できた。

(な に を し て い るッ! 君はいつもそうだ。全く頭が痛い・・・)

このままでは、雨乃は同士討ちをする危険を冒して彼らを排除しなければならない。
だが、結城鷹逸郎とレイ、そしてピアノの三者を相手に生き残る自身はない。

となればどうするか・・
レインマンは、下級のエージェントに似つかわしくない戦略眼を持っている。
最適な選択を選び取るべく脳内の生体電子回路、神経網を高速の思考が駆け巡り始めた。

Stlatagy・・・CHK Tactics・・・CHK ENEMY・・・CHK friendly troops・・・CHK
ALL・・・CHK
Strategic target=Unknown enemy
Present enemy=The one to exercise [yokoshimakime]
The one with possibility of becoming allied army=The one to exercise [yokoshimakime]
Answer1.2.3・・・1.Cut in combat 2.Stop fighting 3.Negotiation

(OK、ひとまずやってみようじゃないか)

220 :名無しになりきれ:2010/05/21(金) 23:45:35 0
レインマンは音も無く跳躍。
レイと見知らぬ能力者の間降り立った。

すかさず雨滴迷彩「レインコート」を解除。
雨の中、亡霊のように彼は姿を現す。

レインマンはポークパイハットに手をやりながら叫ぶ。

「Hello,! Ladies&Gentleman!いい天気だね・・・」

そのまま名も無き少女に左手を翳す。

(『雨のような弾丸』!)

瞬時に彼女の周囲のアスファルトは抉られ、土が剥き出された。
しかし、雨音はそれすらも粉砕し、地面にさらに深い穴を穿つ。
彼女を中心にクレーターが形成された。
雨粒が幾千幾万の弾丸となり、彼女の周囲に撃ち放たれたのだ。

さらに右手に構えた「黒い傘」をレイに向ける。
その間、0,24秒。

レインマンは笑顔を浮かべ、彼らに告げる。

「僕はカノッサ機関監察部第3課のエージェント、コードネーム:レインマン」
こんな天気のいい日に君達はなにをしているんだい?
もしよければ、君達と話をしたい。君達に損はさせないが・・・どうかな?」

221 :名無しになりきれ:2010/05/22(土) 16:51:13 0
(秋葉原、コスプレ衣装専門店、通称”あそび”、倉庫兼裏口)
(メイドとなったレイを見て羅刹と化した百合少女、ピアノによる死亡遊戯を切り抜けた鷹逸カ)
(そのまま百合百合しいスキンシップ(一方的)をしている二人を放置して、たった今送られてきたメールの文面を改めて読み直していた)

………なんだ、これ……。

(軍隊風の集団による秋葉原の封鎖、各地で謎の発光)
(自分達が”会館”ビルで『基礎』と死闘を繰り広げていたその一方で、そんな事態が起きていようとは)
(…いや、おかしくはない。廃ビルの遭遇、会館での襲撃、今までだっておかしなことは十分降りかかってきたのだから)

(残念ながら、この『情報屋』が対価と共に教えてくれる情報はいつだって正確だ)
(ヨコシマキメでの一件もそう。本来彼がいなければ、遺跡に辿り着くことすらままならず帰国する羽目になっていたはずなのだ)

…信じるしか、ねぇよな。

(一応の念押しに、鷹逸カも先ほど秋葉原駅へ電話をかけてみたのだが、……通じない。)
(メールに添付されてきた証拠の写真も、コラにしては解像度が悪すぎる。情報処理に精通したアイツなら、もっと上手く捏造ってのけるだろう)
(何より、そんな騙しをして得るメリットがない。情報屋は打算主義だ。報酬を貰えれば誰にでもつく。その代わり、自分に得のない仕事には手を出さない)

(とはいっても、完全に杓子定規を徹底しているという訳ではない。)
(鷹逸カは、情報屋の、どこか棄て切れていない人間味が嫌いではなかった。だからこそ、こうして親交を持って)


「…雨?」


…え?

(レイの言葉に、鷹逸カも窓の外を覗き見る)
(……無数の滴が空より降り注ぎ、地を黒く染めるその光景。それは間違いなく、雨だった)

嘘だろ? だってさっきまで、あんなにカンカン照りだったじゃねぇか……?

(鷹逸カ達が目を離した僅かな間に、雨雲が突如として青空と太陽を覆い、雨を降らせたとでも言うのか)
(…あり得なくはない。ないが、あの雲一つ見当たらなかった快晴の天気から、そんな時間もたたずにこんな降雨になるものなのだろうか)
(四角く切り取られたその陰鬱な風景に一抹の不安を抱きながら、青年はふと出入り口の方を見やり、)


「Now I Know My A B C 's‥‥」

(神なる畏怖と人の恐怖が、舞い降りた。)
(幾度となく襲ってきた悪寒が確かに背筋を凍らせたのを、その瞬間に、鷹逸カは感じたのである。)

ヤ、……ばい…ッ!?


222 :名無しになりきれ:2010/05/22(土) 16:52:44 0

「歴戦経る素早い黒子鬼、怠けドワアフたちをひらり‥‥」

(それは燃えさかる業火というより太陽の吐き出すプロミネンスのような、圧倒的絶望を纏う熱波)

「裃の鵺、棟誉めて夜露誘う‥‥」

(しかし、それでいて、北や南の果てでも味わえなさそうな厳寒の寒気。)

(鷹逸カは、即座に直感する。)
(――――次元が違う、と。戦うとか、挑むとか、そういう次元ではなくて。)
(敵、というよりは、悪運。悪運、というよりは、災害。……災害、というよりは、――――むしろ、”終末”)

「先ほどの戦闘の当事者たち、かね?」

(終末の熱に陰を揺らがせる少女は、人間には理解できなさそうな声色で問を投げる)

「いや、違うなら別に構わないんだ。ただ私と戦ってくれればそれでいい。」
       サイアク
(…………災厄だ。)
(こんなエンカウント、存在っていいのか。ただでさえ三人は、それぞれとの強敵との戦いをたった先に終えたばかりだというのに)
(それよりも遙かに深淵き絶望が、立ちはだかるなんて。)

………The quick onyx goblin jumps... over the lazy dwarf……。

(こんな言葉遊びを弄びながら、”終末”が訪れるとは思ってもみなかった。)
(オワリとはもっと静やかで厳かなものだと思いきや、案外あっさりしているようだった。)

(返答に是を選ぼうと非を選ぼうと、辿るべき道は変わりない)
(終末級の滅びが訪れるだろう、そして最悪、秋葉原で無関係な人間が死傷することになるのは間違いないといっていい)
(……それに、こんなでたらめな奴と戦えば、こちらとて無事では済まされない…………!)

レイ…ピアノ……ッ、こいつ………ヤバすぎる………ッ!!

(身を丸呑みにされるような邪気に晒されて鷹逸カが立てているのは、遺跡での経験が辛うじて恐怖を緩和させているだけに過ぎない)
(それと、ほんの”ひとかけらの勇気をかき集め”て、何とか腰砕けをこらえているのがやっと)

(だが、時間の問題だ。鷹逸カには予感があった。)
(要するに目の前の存在は、戦えさえすれば良いのだ。先ほどの質問は、単なるだめ押しの理由付け)
(機を計って、終末は容赦なく襲いかかってくるだろう。レイの性根からして、必然、戦闘になる。……そうなれば、もう避けることはできない…!)

どうすんだよ…ッ、くそぉお………ッ!!

(”プレート”をしまったコートの右胸に手を当てて、儚くグッと握りしめる鷹逸カ)
(膠着がやがて手遅れを告げようとしたその時、彼らは確かにその声を聞いた。)



223 :名無しになりきれ:2010/05/22(土) 16:55:19 0

(雨のカーテンをかき分けるように現れたのは、黒いシルクハットを被った小さな紳士。)

「Hello,! Ladies&Gentleman!いい天気だね・・・」

(刹那、”終末”に翳された左手。)
(雨滴が硬質に変質したかと思うと、雨音をけたたましく鳴らしながら少女の周囲の地面を次々に変形させてゆく。)
(そして少女をクレーターに置き去りにしたかと思ったまたその瞬間後、男はすでにレイに向かって黒色の傘を向けていた。)

(一瞬の虚をついた早業。恐らく、一秒すらかかってはいまい。)
(術式の展開も発動も精密に流麗なそれは、アマチュアには到達しえない高みのような技術を鷹逸カに思わせた。)

「僕はカノッサ機関監察部第3課のエージェント、コードネーム:レインマン」
こんな天気のいい日に君達はなにをしているんだい?
もしよければ、君達と話をしたい。君達に損はさせないが・・・どうかな?」

(カノッサ機関。)
(…今日はカノッサとよく関わり合いになる日だ。鷹逸カは、そう内心笑うしかなかった。)


……お話するのはいいけどよ。
………このままだと、秋葉原が火の海に沈んじまうんじゃねえのか。…あのお嬢によって。

(邪気学における「少女」は、別に無垢の象徴でも何でもない。)
(むしろ、「圧倒的力」とか「危険」とかいうイメージを背負っている印象が鷹逸カにはあった。)

(例えば、影羅という少女。)
(”パンドラの匣”とも通称された彼女は、平和に暮らしていた森龍族から秘宝をどさくさ紛れに奪って凄まじい力を手にしていた)
(また彼女自身精神生命体で、誰にでも憑依して他人を騙りながら戦乱を暗躍していた。……彼女の最終的な終息は、どの文献にも記されていない)

(例えば、アリスという少女。)                                     テリトリー
(プレートNo.11『アンビシャス』第二の使い手に選ばれた少女は、幼気ゆえの想像力を糧に【領域】という領域支配の力を発露させた)
(彼女だけの夢の国は邪気世界を侵食し、最終的には世界の一つを崩壊に追いやったと記録されている。…彼女もまた、どうなったのかは杳として知れぬ侭)

まともに戦ったって、……多分勝負にすらならねえぜ。
初めてのボス戦終わって、いきなり隠しダンジョンのチートボスに出くわしちまった感じだ。…どうすりゃいい。

(しかし、レインマンの登場によって、鷹逸カの恐怖が若干和らいだのは確かだった)
(さっきまであやふやだった地面の感触が、今ではしっかりと足裏に伝わってきている。感覚の麻痺が戻った証拠だ)
(これなら、いきなりの動作を求められた時でも対応できる。少なくとも、自分に与えられた役割は果たすだけの覚悟は、とっくのとうに決めてあるのだから。)

224 :名無しになりきれ:2010/05/23(日) 00:18:31 0
…冬将軍は苦しんでいた
なぜか。
将軍は意識だけですべてが構築されている
ただそれだけが「欠点」であったからだ

「・・・言え、僕の意思で君を砕く前に」

その言葉は実際には全く発せられていない。
現にケテルの薄い唇は一切動いていない。それは一種の念話のようなものだった。
相手の意識、常識性を直接操る能力だから出来る芸当だろう。
だからこそ全身が意識である将軍は、いま全身が万力に挟まれたように苦しかった
地面に完全にうつぶせにならざるおえず、それを見下されるように見られる。

「・・・ぐう・・・!!」

屈辱だった。

「ったく、頑固だね。次はないよ、次言わなかったら砕いて帰る。」

まだ本気で押さえつけられてないのが幸いだった
まだ「片足」だけ動けば、動くのならば。将軍は動けた。
冬を味方に、軍勢に変形させる将軍は。

「・・・だれがァ・・・!!」

その瞬間、ケテルは吹き飛ばされた
彼女にはなぜ飛ばされたか分からなかった。それだけまだ「意思」だけの存在の彼らを理解してなかった。
受身はとったものの、腕から出血しているのが分かった。
表面が細かく切り刻まれているというわけか、と冷静に分析する
長い、美しい髪の少女がゆらりと立ち上がる。弾き飛ばされたときにケテルの力が解除されたらしい。
しかし、けっして無事そうには見えない。

「・・・教えてやるよ、この能力・・・「冬将軍(ネーヴェ・ジェネラル)」はな・・・空気に触れてさえいれば・・・」

そこで大きく深呼吸する。
眼は冷たい、冷たい覇気を、篭らせて、透き通っている。恐ろしいほど

「動けさえすれば、いくらでも「冬」というものを呼べるんだ・・・!!」

ケテルは事実をようやく把握する。
しかし、把握しきったころには既に冬将軍は踵を返していた

「・・・今日の日はさよなら、それでもって、また明日の日に。」



225 :名無しになりきれ:2010/05/23(日) 00:20:07 0
sage忘れ失礼した

226 :名無しになりきれ:2010/05/23(日) 12:25:34 0
「……あのさピアノ」
「何〜?」
「なんか、変だよそれ」
「どこが、純粋なる愛の形でしょどう見ても」
「いやどう見ても変態だよ!」
「じゃあ変態という名の紳士ね あ、女だから紳士とは言わないか紳士の女版ってなんだろう、淑女?」
「それはそこそこ歳のいった大人しい女性のことだよ…」
「じゃあ違うわね―」
「あれ、賛同するんだ」
「私のことババァ言う奴は一人残らず排除っすから」
「えっ… なにそれこわい」

先ほどからの二人(?)の会話の一部始終である
なんというか最初の馬の合わなさが嘘のような仲よしっぷりである どうしてこうなった
というか小人自身ピアノ以外とほとんど喋らないあたり気に入ってるのかもしれない

「…雨?」

「ありゃ」

不意にレイが立ち上がったせいで抱きつきがとけこけるピアノ
床に寝そべるとはすなわちローアングルから見上げるという事

「…ふむ、これもなかなか」

「うわぁ駄目だこの変態、早くなんとかしない、と…?」

ふ、とウィスが辺りを見回す

「む、何か電波でも拾ったか?」「二人とも、気をつけろ 何かい―――」

ピアノとレイの声が重なる

「え?」

ドン!という音と共に突如燃え盛る炎と浮かび上がる人影
また邪魔かとピアノは心底怨むが、怨む対象がないためどこかに霧散していった
むしろこの悪環境での奇襲(ピアノは開けたところでの火力戦が得意)に少々焦っている
レイは完全に臨戦態勢だし、相手もやる気満々のようだ

「こりゃマズい…」

さすがに冷や汗を流したその時

「Hello,! Ladies&Gentleman!いい天気だね・・・」

聞き覚えのある生意気ボイスが降り立った
レイと襲撃者の間に割り込むと、これまた見なれた黒い傘が開かれる

「僕はカノッサ機関監察部第3課のエージェント、コードネーム:レインマン こんな天気のいい日に君達はなにをしているんだい?
 もしよければ、君達と話をしたい。君達に損はさせないが・・・どうかな?」

「…なんであんたがいるのよ、雨男」

やっぱり男は嫌いである 特にこいつは

227 :名無しになりきれ:2010/05/23(日) 17:42:24 0
(『死』の投擲した槍は薄氷を貫き通行人に直撃した)

「そこの教授のようなお方、こちらの関係者のようにお見受けしたのですが。」

(しかし通行人はいささか苦い表情を浮かべたものの、命に別状はないようだ)

通行人まで普通ではないだと?どうやらこの大学は本当に重要拠点のようだな。やはりストックの補充は不可欠か。

(やがて二人は会話を終えようやく『死』に攻撃してくるようであるが『死』は意に介さず、右手に持ったアロンダイトで立木の一本を突き刺していた)

「黄金の剣(ゴルディオンブレード)」

(剣の突き刺さった木は見る見るうちに黄金へと姿を変えた)
(そして『死』は左の掌を向け、その黄金を皮膚から直に飲み干した)

「質はともかく腹は膨れたってとこですかァ?」

(立木の生命エネルギーを変換し、命のストックとして取り込んだ『死』も、ようやく向き直って臨戦態勢を取る)

「いいぜェ、二人でかかって来ようとこの『死』様の前には無駄ってなァ」

(飛来する攻撃をすべて「殺し」尽くして進む『死』)

まずは手負いの通行人を叩いて2対1を脱却する。

(『死』がアロンダイトでリクスを斬りつける)
(しかしやはりリクスも只者ではなく、その一振りは危なげなく防がれてしまう)

「まだだッ、フラガラッハァ」

(宝具フラガラッハ)
(どんな鎧も貫き致命傷を与えるといわれるだけでなく、所有者の呼び掛けに応じて独りでにその手に滑り込む神器)
(先のアロンダイトの時と同様に宙が割れ、今度はこの剣が取り出された)

「まずは一人目ェ―――」


・・・・・・・・・・・・


「なン・・・だと!?」

(しかし、それすらもリクスには届かないのであった)

228 :名無しになりきれ:2010/05/23(日) 21:26:17 0

「こ、ふっ……!」

黒野天使が血を吐く。
治りかけていた傷口が開き、白い侍の巻いた布が再び染まり始める。

それは、魔槍『イグニオン』の能力。
己に貫かれた者の命を、まるで太陽に近づく蝋の羽の如く削り取る。
反逆は許さず、摂理の如くただ奪い取るのみ。
強力程度の術式では抗う事も不可能な絶対の力。

「《白亜の侍》よ。その女はもはや助からぬ。無駄な事は止め、早々に死なせてやる事だ。
 我々は、愚かな邪教徒相手に対しても苦しまずに殺す慈悲を持ち合わせているのである」

モノクロの世界に現れたイグニオンの持ち主たる男『エヴァー』は、
侍と黒野を見下ろす様にして、無表情で告げる。
その背後には、次々と彼の同志たる軍勢が現れていく。

詰み、である。
もはや逃げる事は不可能。
黒野天使はここで死ぬ

……だが、この時エヴァーは気付いていなかった。
本来ならば、この距離まで近づけば黒野は『虫の息』ではなく、
死んでいなければおかしいという事を。

――――――――――――

229 :名無しになりきれ:2010/05/23(日) 21:26:58 0

――――――――――――

そこは灰色の世界だった。白と黒という明確な区別の無い、曖昧な色の世界。
風も吹かず、光も刺さず、闇も訪れない。
今、その世界に存在するのは二つの人影。
二つの影の内の一人は、黒野天使と呼ばれる女性である。
黒野の見た目には現実で負ったダメージは無い。
彼女はただ、もう一つの人影に対し背を向けて立っている。

『へへ。おいおい、いいのか? このままだとお前死ぬぜ?』

そして、沈黙を破り下卑た響きの声を出したもう一つの人影は――――やはり、黒野天使。
ただし、座り込むその黒野天使の手足は黒い鎖に繋がれており、
その表情は、普段の彼女からは想像も付かない左右に裂ける様な邪悪な笑み。
瞳は常の黒野と異なり、赤い光りを見せている。

『……私は、生きる事にさほど未練は無いんだ』

震えを混じらせ、それでも視線を合わさず、黒野は赤い瞳の黒野に
吐き捨てる様な回答を返す。だが、赤い瞳の黒野はその回答を一笑に伏した。

『ひひ、嘘だな。お前は誰よりも生き汚い人間だ。あたしは知ってるぞ。
 ただ、生きる事に未練を残せる様な生き方を、あたしがさせてやらなかっただだろ?
 お前が気を許した奴を、グチャグチャにすることでなぁ』

『……っ』

赤い瞳の黒野の言葉に、黒野はビクリと肩を震わせる。
そんな黒野を見て、赤い瞳の黒野は目を細め、ひひ、と笑みを浮かべる

『おいおい、あたしを恨むなよ。元はと言えば、こんな『眼』を持って
 生まれてきたお前が悪いんだからさぁ……で、どうするんだ?
 あたしに身体を寄こせば、お前も助かるし、お前のせいで死にそうな侍野郎も助かるかもしれないぜ?』

試す様に言う赤い瞳の黒野の甘い言葉に、黒野は拳を握り締める

『……そうやって、何回私を騙してきた』

『ひひ、今回だけは本当に助けてやるさ……お前が死んだら、あたしも困るからなぁ』

――――――――――――――――

230 :名無しになりきれ:2010/05/24(月) 23:02:42 0
『成程、わかりました。私はこの大学で教鞭を取るトリス・メギストスと申します』

リクスは教授、トリス・メギストスとの接触がスムーズに進んだことにひとまず安堵感を覚えた。

(正直この状況で1対2になるのは避けたいところでしたからね。わずかな言葉で察してくださる頭の回転に感謝しなければなりません。)

通りすがりの人物のこのような要求を?む時点で何か裏があると勘ぐるのは当然の事であるが、彼の裏の思惑まで詳細に知ることは今のリクスでは不可能。
というわけで、どの道避け難いこととしてさしあたっては女の方を協力して倒すのが先決であろう。

『さぁてお嬢さん、そろそろ反撃と行かせてもらいましょう』
「そうですね。通りかかっただけの人間を殺そうとなさるような方には容赦は不要でしょう。」

そう言い終えたところでリクスは愕然とした。

立木が黄金色に染まってゆく。

紅葉などという生易しい自然現象ではない。そこにあったはずの立木は錬金され、飲み込まれてもはや肉眼で捉えることはできなくなっていた。
黄金の服用。実際に純金を魔力補給に用いるという話はリクスも耳にしたことがあったが、これ程の大きさのもので行うというのは流石に常識の埒外であろう。

(これだけの事が出来る相手……到着早々出し惜しみしている場合ではないというわけですね。)
「氷結せよ。」

氷結眼の能力による氷結攻撃。女の周囲の大気中の水分が凝固し、行動を阻害せんとまとわりつく。
しかし「殺」される。
さらには女の体内、肺中の水分も氷結させる。先の御鏡皇子の戦法を参考にしたこの内部攻撃は、
対象が呼吸すればするほど呼吸器を傷つけるという悪趣味なものに仕上がっている。
しかし、「殺」される。

(攻撃が効いていない?)

氷結眼をまるで意に介さぬ難敵。


231 :名無しになりきれ:2010/05/24(月) 23:04:14 0
『いいぜェ、二人でかかって来ようとこの『死』様の前には無駄ってなァ』

(まさか、あらゆる攻撃・侵奪を殺しているとでも?)

リクスにとってもこれほどの、ある種理不尽とすら言える強さはそうそう対するものではない。

(流石にお強いですね。魑魅魍魎の跋扈するこの大学に単身で侵入するだけの力を持っていらっしゃるということでしょうか。しかしそれでも人間であるなら、同じステージに立っているならやり方次第では如何様にもできるはずです。)
                                        オジョウサマ 
ココロが折れないこと。それは戦う者としての最低条件である。かつて真の化け物と相対し、格の差というものをまざまざと見せつけられたリクスにとって、
「人間」ではまだ折れるに値しないのかもしれない。

『死』が大きく振りかぶったアロンダイトによる一振り。しかしリクスはひるまず受ける。
まだ自由の利く左手。そこに握られるのは聖銀のナイフ。剣戟が響く。
強い退魔力を持った聖銀を生成して作り上げられたナイフの柄には三千院インダストリーの紋章が刻まれ最高品質を保証している。
本来であれば邪気眼使いのリクスがそんなものを振るえば自分自身もただでは済まないのだろうがそこは執事標準装備の白手袋でごまかしごまかし使っているのだ。

「まだです。」
『まだだッ、フラガラッハァ』

同時だった。リクスがアロンダイトを受け流したと思った刹那、次なる剣フラガラッハを取り出す『死』。

『まずは一人目ェ―――』
「『零凝』」

リクスの切り札、『零凝』。対象の存在を微分し時間軸上のある一点に固定する技。
本来であれば最大3点を対象に取れるこの技もあらゆるものを殺す『死』にはカタログスペック通り通じないだろうと判断したリクスは、
全力をフラガラッハとそれを持つ腕に集中して叩きこんだのだ。

『なン・・・だと!?』

アロンダイトをナイフ、フラガラッハを零凝でなんとか受けきるに至ったリクス。
『死』に一瞬の隙は生まれただろうか、それを推し測る間もなくトリス・メギストスの方を見やる。
言葉は無い。『死』の注意はリクスに向けられたままでなければならないのだ。

(後はいよいよ彼に協力して頂くだけですね。)

リクスの限界はここに極まった。後は彼の男に委ねるのみ。


232 :名無しになりきれ:2010/05/26(水) 13:09:34 0
四人もいるとは、これは幸先がいい。
小さな人間が一人と、この身体とさほど変わらない大きさの人間が三人。
炎の波の中、剣を構えた人間が自らに相対するのを数億年振りの――いや、もっとか――視覚で確認すると、
無機質な顔にほんの少し、笑みが浮かんだように思えた。
それが麻薬(Narcotic)であると知りながら仮初めの生命と身体をもって戦闘という原初の遊戯に興じていた黄金の――あるいは金の鍍金――時代が対流を起こしたように記憶の表層に浮かんできたのも、その所為だろう。
深い夢の中で記憶をなぞるように、かつて封じられた遺跡の中で剣の使い手と戦った時のように、身体の重い慣性を快く感じながら魔力を分化させようとしたとき、一酸化二水素(Dihydrogen Monoxide)の飛礫が降り注いだ。
意識を半ば意図的に身体の内部に封じていたそのものは大きく体制を崩し(ああ、なんと久しい感触だろうか)、対手達には時間が与えられた。

『もしよければ、君達と話をしたい。君達に損はさせないが・・・どうかな?』
『………このままだと、秋葉原が火の海に沈んじまうんじゃねえのか。…あのお嬢によって。』
『…なんであんたがいるのよ、雨男』

対話、か。と、彼女は思った。
生あるもの達は一つとして同じものは無く、それらとの対話は殆どの場合有意な退屈凌ぎになっていた記憶がある。
なるほど、それもまた一つのあり方なのかもしれない。
だが――

――戦いに目的はいらない。戦いそのものが目的なのだ。
   疫病が広がるとき、あるいは野火が燃えるとき、お前たちはなぜとは問うまい。
   我も同じ。戦う意味を問うなかれ。                               ――黒騎士ゴラス・マー

「‥‥対話では‥‥」

――「言葉など時間の無駄。破壊こそが誰もが理解しえる言語だ。」 ――サルカン・ヴォル

「対話では、私は死ねない。」

233 :名無しになりきれ:2010/05/26(水) 13:10:25 0
鷹逸カの考えには、一つだけ誤りがある。
それはつまり“秋葉原で無関係な人間が死傷する”のは、『最悪』ではなく『最低』である、ということ。

「それに、対話ならば戦闘と同時に可能なはずだ。」

その言葉と同時、忌まわしき意志を形作る霊気のほんの一欠片が身体の頸木から解き放たれ、人が秋葉原と呼ぶ小さな町を覆い、

「――ある者は言う。海は陸に嫉妬心を抱き、」

レインマンの喚んだ水たちを新たな依り代として、“あそび”と呼ばれる店へと再び帰る。

「そのいちばん高いところに登って、空に会いたいと思っているのだと。
                                                ―― アファーリー『語り』」

水圧P=ρgh。
ρは通常1000kg/m^3、gは9.8 m/s^2。
h は、物体と水面の距離(深さ、m)で表される。さらに開放水面であれば、大気圧(1気圧)が加わる。
ここで具体的数値を挙げることは各人の行動の幅を狭める結果にしかならないであろうから省略するが、僅か十数秒にて一帯は水没したと解釈していただけると幸いである。

「それともう一つ。
私はこの身体を得たばかりで、永の年月を過ごしたことによる飢えはまだ殆ど満たされていない。」

火から水へ、瞬時にして入れ替わった世界の中で、すっかり忘れていたのであろう、肺呼吸のための空気を精製しながら魔力による念話を飛ばす。

「それに加えて目の前に、そう、身体的な飢餓に例えるならば消化器官を満たす、ええと、そうそう‥“食事”が無造作に転がっているような状態なのだ。
君達の言葉に“衣食足りて礼節を知る”という警句があるように、私との対話を望むのであれば、まずはこの“空腹”を満たしてもらいたい。」

古き過去の過ぎ去りし表情が脳裏に浮かぶ。
果たして彼らは、あの頃のような尽きせぬ発見の旅路へと導いてくれるのだろうか。
もしそうであるならば、この者たちとの対話は有意義なものとなるに違いない。
だが先ずは、この衝動を(衝動。なんと素晴らしい言葉だ!)消化しなくては。

――見えない土地を買うならば、見えない金で代価を払え。
                                                ―― スークアタの金言

234 :名無しになりきれ:2010/05/26(水) 21:10:12 0
「レイ…ピアノ……ッ、こいつ………ヤバすぎる………ッ!!」

「こりゃマズい…」

二人の声が耳元で言霊する

(ヤバい、マズい 確かにな、だからこそ、興奮するものだろう?)

『連戦』
今まで何度あった事か いや、何度"しか"無かった事か
その度に自分の中の狂心が歓び、黒爪が満足げに震えた

先ほどまで制限をかけていた、感傷に浸っていた自分をバカらしく思う
そんなもの関係なく楽しいじゃないか それで充分だ、濃厚な鮮血と、柔らかな生肉がそれを引き立ててくれる
それはつまり、ご褒美だ いい事をしてご褒美がでる
これ程喜ばしい事が他にあるだろうか

だから、これを遮るという行為は、子供の目の前から玩具を取り上げるような感覚が生まれる

「Hello,! Ladies&Gentleman!いい天気だね・・・」

「………」

しかし彼女は子供ではない、立派な大人である 殺す事を戸惑わない、狂人である
だから、突如現れた紳士服の男に 一太刀浴びせようとした、が踏みとどまった
本能、である
目の前で傘を開かれると野生の動物はどうなるか 一瞬驚き、動きを止めるだろう
彼女は本能で目の前に開かれた傘をマズイと思い、動きを止めた それは異能力的な意味なのか、単なる動物的な反応なのかは定かではないが

傘を持った紳士服の男は冷静に話す

「僕はカノッサ機関監察部第3課のエージェント、コードネーム:レインマン
こんな天気のいい日に君達はなにをしているんだい?
もしよければ、君達と話をしたい。君達に損はさせないが・・・どうかな?」

235 :名無しになりきれ:2010/05/26(水) 21:14:41 0
「カノッサ機関…」

レイでもその名は知っている、世界を裏で牛耳る機関のひとつ カノッサ
多数の能力者と実働部隊で構成された軍隊だと聞くが、細かい事は知らない
ピアノの所属する"オーケストラ"もカノッサの傘下だと言う事は何度か聞いた
当人の様子を見る限り、知り合いのようだが 仲は良くなさげだ

「……話、といった所で話せる話題などほとんどない その物言いからすると先ほどの戦いのことも知っているんだろう?
 なら見たとおりだ、話す事なんて無い それよりも、そこをどいてくれないか」

「……お話するのはいいけどよ。
 ………このままだと、秋葉原が火の海に沈んじまうんじゃねえのか。…あのお嬢によって。」

レイと鷹一郎、ほぼ同時に口を開いた 言っている事や細かな意味は違うが、今は話す暇がないという結論は同じである

後ろに転がる少女は、私に戦いを振ってきた
ヤクザみたいな言い方だが、売られた喧嘩は買うのが流儀だろう
鷹一郎の考えは『会話より前に脅威をなんとかしたい』といったところか

すでに奇襲から回復した少女は、言葉を紡ぐようにぽつりぽつりと喋り始める

「‥‥対話では‥‥
 対話では、私は死ねない。 それに、対話ならば戦闘と同時に可能なはずだ。」

「…相手の了承も得られた、どいてくれ」

そう言いつつ、レインマンを退かす
止められた衝動は更に強くなって帰ってくる
目の前のものを殺せと、何かが悶えるように訴えかけてくる

「それともう一つ。
 私はこの身体を得たばかりで、永の年月を過ごしたことによる飢えはまだ殆ど満たされていない。」

「それに加えて目の前に、そう、身体的な飢餓に例えるならば消化器官を満たす、ええと、そうそう‥“食事”が無造作に転がっているような状態なのだ。
 君達の言葉に“衣食足りて礼節を知る”という警句があるように、私との対話を望むのであれば、まずはこの“空腹”を満たしてもらいたい。」

イェソドとの戦いでは血をなめただけで終わってしまった、私も"空腹"だ
そしてやってきたのは"食事"だ
物質的な"食事"だ
力の源となる"食事だ"

「飢えに苦しむ獣同士が出会ったな」

くすりと笑いがこみ上げる

「そういう時、どちらかの腹が満たされるまで戦いは終わらない
 頼む、私を満腹にさせてくれ 君の、血肉で」

その目は完全に、獲物を狙う地獄の鴉だった

236 :名無しになりきれ:2010/05/27(木) 07:23:00 0
【ラツィエル城・内部通路】

「いやはや。初めての城攻めだよマリー。どうだい感想は?」

「掌握が容易過ぎます、『吊られた男』様。この城は、見た目ばかりが瀟洒で、防衛拠点としての内実をまるで伴っておりませんわ」

「彼らが重きを置いている『戦場の資本』は、枢機院の抱える異能者だからね。大量の武器も分厚い壁も必要ないんじゃないかな?」

「それにしたって壁も床も脆すぎです。。見てくださいこの薄っぺらな壁! 私はもっとシツジツゴウケンとした作りが好みですわ」

「君がそれを言うのはなんだかとてつもない皮肉に聞こえるよ、マリー?」

二人が駆けるはラツィエル城の内部をアリの巣のように巡っている内部通路である。
一度に大量の異能者と闘う術を持たない彼らは、極力相手にする人数が少ないように立ち回る努力を余儀なくされていた。

「『節制』君や『魔術師』君は上手くやっているかな?」

「ご自分の心配をなさった方が賢明だと判断します。――ほら、前方右の曲がり角から十人程度の生命反応ですわ」

「いやはや、『太陽』女史や『塔』君を失ったのは辛いね?彼女達はこういう状況でこそ真価を発揮するというのに」

マリーの予告通り、武装を掲げた敵の迎撃小隊と鉢合った。彼らは角から一列に飛び出し、警告なしに発砲する。
防御術式を張るが、邪気滅却効力を持つ聖銀弾は防御を容易く突き破り、『吊られた男』達へ容赦なく降り注ぐ。
致死の銃弾が彼の鼻先三寸まで迫った刹那、眼前で漆黒が二三度閃き、飛来する銀弾を全て弾き落とした。

「流石だよマリー。君といれば今週末も雨が降ろうと槍が降ろうと快適散歩日和だね?」

「晴れてても外に出ることなんて滅多にないじゃありませんか。休日の過ごし方を詐称するのはおやめ下さい」

乾いた金属音が連続し、弾かれた弾が地面と邂逅するのに耳を傾ける。
マリーの<ギミック>・『アンカーブレイド』によって一つ残らず撃墜された銃弾は、十字を刻んだ純銀製。

「――殺り切れてないぞ!再攻撃だ、総員射撃用意!異能班は『代理権限』の発動準備……てーーッ!!」

小隊長の怒号が廊下に反響し、十人編成の部隊のうち五人が銃口を、五人が掌をそれぞれ翳す。
号令と共に、銀弾・豪炎・雷撃・風刃・水流が群れをなして大気を抉り飛んでくる。
対するマリーは先んじて銀弾の全てを弾き、『吊られた男』が引き剥がした床材で全てを強引に押さえ込む。

「聞いたかいマリー。やはり彼らの異能には『格』があるようだね?」

「おかしいとは思っていたのですわ。先日『錬議苑』を攻めて来たような強力な異能の持ち主が5桁もいれば、
 "セカイ"を掌握するなど朝食の用意よりも容易いでしょう。逆説、現在相対する彼等にそこまでの力はないということ」

「どうやら『ストレイト』君を筆頭にした『強襲部隊』というのは選りすぐりのエリートだったようだね。
 大抵は単純な火炎操作や雷撃喚起程度の能力――『管理権限』に対する『代理権限』というのがこれかな?」

かくして二人は納得する。敵対する組織内での力関係などには微塵の興味も湧かなかったが、
ここから得られた有用な情報が一つ。

「『管理権限』を退けた僕らにとってその下位互換である『代理権限』は最早敵じゃない。負ける道理はないね?」


237 :名無しになりきれ:2010/05/27(木) 07:24:54 0
歯噛みするのは眼中から外された迎撃小隊長である。

「くぅぅぅう〜〜ッ!!馬鹿にしよって異教徒が!貴様らこそ、先程から防戦一方で反撃すらままならんだろう!」

「あんなことを言われてますわ『吊られた男』様。ちょっと行って片付けてきましょうか?」

「いや、ここは僕が出るよマリー。出鼻を挫くという意味では、君より僕の方が心象に与える影響は効果的だね?」

『吊られた男』はマリーを制すと、足元に展開した転移術式から一挺の銃を取り出した。
黒くて太くて長い銃身に、中折れ式の弾倉とウッドストックを装着したそれは、

「ショットガン……?」

「そう、ただのショットガンさ。外身も中身も至って普通、弾もごく一般的な散弾だよ?」

もったいつけて振りかざした、あまりに普通な得物に迎撃小隊の誰もが唖然とする。
マリーだけがその意味を理解し、銃口を向けられる小隊の面々へ憐れむような視線を送った。
射撃する。空気を穿つ銃声より速い小粒鉛の豪雨は、銃口から放射状に発射され、小隊へと飛来する。

「術式弾頭ですらない実体弾ごときに我らが怯むかァァーーッ!!」

小隊の戦線を包む防性結界によって散弾の威力は減衰され、鉛の豪雨は小雨となって敵へ降る。
彼等の装備を穿つどころか、皮膚に触れてもほんの少し感触があるだけ。攻撃としては完全に不成立である。

「血迷ったか、あるいは術式発動の媒体か!後者であっても発動前にケリが着く!抜かったな異教徒よ!
 貴様は『後手』だ!もう遅いッ!!総員囲め、直角陣形で全方向から再攻撃!!確実に仕留めるぞッ!!」

同士討ちを避ける為に縦横のL字に展開した小隊が、『吊られた男』とマリーを照準に捉える。
さしものマリーも並列展開した多方向からの攻撃を全て防ぎきることは不可能だろう。『凌ぐ』と『護る』は違う。
五つの銃口と五つの掌が、彼等の命を掌握せんと軒を連ねる。彼等の命を破壊せんと牙を向く。

「総員射撃準備――てェェーーーッ!!」

果たして、必殺の陣形は、しかしその効力を発揮することはなかった。
銃弾が、異能が、異教徒の命を狩ることの特化したそれが、十全に発動しない。

「『傀儡眼』――接続完了」

邪気知覚を持たぬ者にも目を凝らせば見える。
小隊の一人ひとりから『糸』が伸び、それらが全て『吊られた男』の指先に集約されているのを。
そして、繋がれた部位から不可視の圧力が体躯へ広がり、意志による身体の制御が不可能になっていることを。

「有線拘束術式だと……!!馬鹿な、いつの間に繋いだ!?」

「君達の持つ防性結界は優れものだね。致死の威力をもつ攻撃を悉く減衰し、受け流し、墜落させる。
 単純な障壁ではなく『減衰』ってところがポイントだね?敵の攻撃を鹵獲して分析したり再利用できる」
 
「高価な聖銀弾をバカスカ撃ちまくってる理由はこれですか。戦闘後の回収を前提にした装備体制ということですのね」

「いやはや。『後手』は君だよ隊長君。僕の攻撃を凌いだ時点で、――実はもう全て終わってる。
 散弾の一粒一粒に僕の『糸』をつけて撃った。着弾の瞬間に接続対象を銃弾から標的に乗り換えるのは容易いね?」

たった一回の攻撃で、全ての敵の動きを封じた。『吊られた男』の苦肉の策。申し訳程度の対集団戦闘技術。
彼のような能力は『ハマれば最強』に近いものがある。この類は以外に単純だ。ハメる努力をすればいい。

――問題点は、その性質故に不意打ちや周到な用意が必要不可欠であり、

「……こっちだ!第四迎撃小隊が敵の拘束を受けている!救援に向かうぞ!!」

――不測の事態や敵の増援に、死ぬほど弱いということである。

238 :名無しになりきれ:2010/05/27(木) 07:27:17 0
「おっと、敵の味方がご到着だよマリー。正直いって僕はこのまま動けないから――あっはっは、的だね?」

「繋いだ連中を盾にしてみたら如何がです?」

「よし採用」

拘束した小隊を増援が向かってくる方向へ配置する。その後ろに隠れるようにして待っていると、
通路の向こうから二十人ほどの増援部隊が姿を表した。

「一気に敵の数が三倍だよマリー。どうだいこのご奉仕状態、ボーナスステージか何かかな?」

「あちらの方々はお友達が沢山いてお羨ましいですわね、『吊られた男』」

人質をとるような形で、敵の攻撃を封じる。増援部隊は銃口をこちらに向けるが、果たして弾は飛んでこない。

「人質効果はあるようですわ。膠着が続くうちに退却か殲滅かのプランを練りましょう」

マリーの言葉に刺激されたのか、隊長は頭を振って同士へ叫ぶ。

「――俺達に構うな!撃て!!」

「そんな、いくら異教徒が後ろにいたって!お前らを撃てるわけがないだろう……!」

「そっすよ隊長!俺まだ心中も殉教もしたくないんですてば!」
「考えれば絶対いい案出ますって、誰も悲しまない、ハッピーエンドへ至る方法が――!」
「俺今回露骨に死亡フラグ立てて来てるんでシャレにならないんスよ!むしろ巻き添えで死ぬわけには!」

「おお?何の死亡フラグ立てたんだ?」

「え?いや、はは、実はですね、昨日管財課の娘と将来の約束をd」

「――こいつには構うな!撃て!!」

「ええっ!こんなとこでフラグ回収!?」

「――よし採用!」

「さっきの迷いはどこ行ったんスか!?」

「貴様……!『創造主』様に殉ずる聖職者でありながらみだらふしだらくんずほぐれつなマネを……!」
「うらやまけしからん……!!」
「残念だよ……味方に天誅天槌天憲を降さねばならないとはね……!!」

「あれえ!?ちょっと流れおかしくない!?敵そこにいるんだけど!」

「ッフ……いつの時代も宗教の矛先が向かうのは伸びすぎた杭なのだ……」

「俺達の存在理由を根本から否定する発言すんなよ!!」


239 :名無しになりきれ:2010/05/27(木) 07:28:43 0
そんな戦場の寸劇を、ニヤニヤ眺める男が一人と冷めた目で見る人形が一体。

「『吊られた男』様、この隙に全員仕留められる自身がありますわ私。退却でも、殲滅でも」

「無粋なことをしちゃいけないよマリー?それにね、僕らに残された選択肢は何もその二つじゃあない」

ふと、視界をオレンジ色の燐光が回遊していた。それらは採光を反射しながら輝き、小隊を包むようにして広がる。
『吊られた男』はマリーを連れて一歩下がった。燐光の蔓延する範囲外。そこは、安全地帯。

「例えば――仲間の援護とか、ね?」

燐光が爆裂する。豪炎と轟音が渦を巻き、橙色の舌が通路の全てを嘗め尽くし、壁を穿ち、吹き飛ばした。
通路に溜まっていた迎撃小隊と増援部隊、延べ三十人は、ひとり残らず。

「ぎゃああああああ枢機院ばんざいいいいいいいいいいいいいい」
「うああああああこんなフラグ回収認めねええええええええええええええ」
「管財課のジェシーちゅわああああああああああああああああああああん」
「死亡フラグ立ててないのに!立ててないのにいいいいいいいいいいいい」

吹っ飛んだ。

「いやはや。危なっかしいね『審判』君。危うく僕らまで巻き添えになるところだったよ?」

『ローストビーフには、身崩れしねェよう縛る糸が必要だろォが』

「あっはっは。君の故郷ではてっきり肉は生だけを賞味するものだと」

『舐めんな。――ちゃんと野菜も食ってる』

「……審判君、そこは既にあらゆる雑食動物が通過した地点だと思うよ?」

無線機から聞こえてくる悪態はともかく、『審判』の援護投火によってどうにか窮地を脱する。
なんだかんだと言いながら、彼も助けてはくれるのだ。『吊られた男』のためではなく、アルカナの為に。
自身の感情よりも、組織の実利を優先する。邪気眼使いらしからぬ、殊勝な思考。


『審判』という男のそういった現場主義が、『吊られた男』は嫌いではなかった。

240 :名無しになりきれ:2010/05/27(木) 07:30:14 0
【迎撃:節制】

「こりゃ酷い」

『シガレット』は目の前の光景をそう吐き捨てた。
数十人は居ようかと言う第七中隊の詰所が、戦禍もかくやといった惨状を呈していた。
折り重なる同士の骸。中にはどうにか命を繋いでいるものもあって、聞けた話を統合するに、侵入者。

「今日はえらく聖樹堂へ魂が飛んでくなあと思ったら……やーっぱそういうことかい」

中年太りした腹と、そろそろ髭の伸び始めた顎を撫で、紙タバコの紫煙で環を作りながら、思案する。
『シガレット』は、『楽園教導派』の中でも『銘有り』と呼ばれるエージェントである。
その格位は、雑兵以上『セフィロト』以下。いわゆるコードネームと『管理権限』を賜る地位だ。

『プロブレム』『デバイス』『コンフィング』『セカンド』……組織の中でも指折りの能力を持つ者が、
既に四人も敗退している。逃げ帰った者や、謀反した者を含めれば損害はずっと大きい。
『管理権限』の使い手は、組織全体でも三桁に達するか否かといった程度なのだ。

「侵入者かー、止めないとマズいよなあ。おじさんちょっと頑張っちゃおうかな。『アウトローライズ』」

異能を発動すし、敵の位置を走査。結果、すぐ傍を歩いていることが分かった。
一足飛びで急行し、その背中へ声をかける。

「おーい、侵入者ってのは君か?あーんなバカスカ殺しちゃって、処理するこっちの身にもなってよもー」

すぐさま二本目の煙草に火を灯し、あたかもそれが酸素であるかのように深呼吸。煙と一緒に言葉を吐く。

「おじさんは『シガレット』。君は――諜報部からの情報によればアルカナの『節制』君だっけ?
 物理法則に新たな制限を書き加える邪気眼を使うらしいじゃない、それじゃ。そのルール、破ろうか」

『節制』が攻撃行動に入るより早く、『シガレット』は彼我の距離を詰めた。

「――おじさん、チョイ悪だからね」

放り投げた煙草は空気抵抗も慣性も一切合切無視した速度と重さで以て、『節制』へと飛来する。


【NPCデータ】
『シガレット』――中年のおっさん。チョイ悪。
<アウトローライズ>:物理法則を『揺らがせる』管理権限。彼の触れた者が一切合切の物理法則を受けない。


241 :名無しになりきれ:2010/05/27(木) 07:37:03 0
【再会:魔術師・スマイリィ】

「あー!誰かと思えばスマイリィじゃない!生きてたんだね、よかったー!」

城内へと潜入した『魔術師』と『スマイリィ』を待ち受けていたのは千の部隊でも百の兵器でもなく、
たったひとりの少女だった。

「『アルカナ』の本部に攻め込んだまま帰ってこなくて!そしたら謀反したって聞いて!
 あたしすっごく心配だったんだよ!いやマジで、心配で朝と昼と夜と夕方にしか寝られなかったもん!」

少女は侵入者二人の周りを子犬のようにくるくると周り、はしゃぎ飛び跳ねる。
スマイリィと同程度の年齢に見える彼女は年相応の笑顔と、相応でない巨大な大剣を背に担っていた。

「あ、隣の人があんたの『イイ人』?――初めまして、あたしその娘の友達で『ハイライト』って言います!
 『スマイリィ』とは同期で、『楽園教導派』の『銘有り』エージェントなんかやってたりして。
 あ、これ敵に言っちゃダメな情報か、あはは。でも多分スマイリィから聞いてるよね?」

にひひ、と人懐っこい笑みを振りまく彼女は、やはり背中の大剣を抜き放つ。

「もー、連絡ぐらいくれたらよかったのにー。おかげで心配のあまり三キロも太っちゃったじゃない。
 え、因果関係が見えない?んー、寮で出る食事とか、アンタの分まで食べてたからねー」

収納されていた柄を伸ばし、刃だけを覆う鞘を外し、得物は鈍器から刃物へと姿を変える。

「でもよかったよ、スマイリィ。あんたが幸せそうで。――それじゃ、気兼ねなく殺りあおっか!」

自身の身長より長い剣を片手で軽々と握り、振り回し、そして『魔術師』とスマイリィへ剣先を向けて、言った。

「歓迎会でも送別会でもいいよ。これを最後の笑顔を決める。……スマイリィ、覚悟はできてるね?」

腰だめに剣を引き、そして、彼女の顔から表情が消えた。

「――戦おう」

踏み込みから加速し、鼓動よりも早く、瞬きよりも速く、『ハイライト』は『魔術師』の懐に到達する。
下からかち上げるような一撃は容易く防がれるだろう。だが、それでいい。腕でも胴でも、当たればそれで。

「――『ステップスピリット』!」

『魔術師』は、如何に地面へ踏ん張ろうと自身が吹っ飛ぶのに抗えない。
『大剣に対する身体の反発力』が、身体を宙に放り上げた。


【NPCデータ】
『ハイライト』――スマイリィの友人。明朗快活とした少女。倫理観が多少ぶっとんでるけど悪い娘ではない
<ステップスピリット>:対象の『反発力』を操る管理権限。
            触れただけで吹っ飛んだり、逆に銃弾をピタリと止めたりする



【『節制』と『魔術師』にカウンターキャラを投入。NPCバトルということで操作権は各人にお任せします。
 ボスへの前哨戦ということで、適当に粘らせて善戦させたのち辛勝するも、ワンターンキルで圧勝するも良しということで】

242 :名無しになりきれ:2010/05/30(日) 07:33:49 0
「…どーするよヨシノ。こいつが知ってるって事は間違いなく【楽園教導派】だけど。」

「……そのようだな。まあアレだ、どうするもこうするも、引ったくり犯は引っ捕えて然るべきのち法廷にて裁くほかあるまい。
 なあ『デバイス』、君のところのその『ケブラー様』とやらの親の顔が見たいな。人の脳内からものを盗る子に育てるとは」

『……【ケブラー】様は今年で75歳になる御老体だよ』

「アラセブ(アラウンドセブンティ)……だと……!?その歳になって未だにこんな田舎のヤンキーみたいなマネを……」

『どうしてそんなに冷静なのさ。連れていかれたひとたち、お兄さんの大事な人じゃないの?』

「ケータイのストラップみたいなもんだ。今はもう居ない人間の残滓、これまでなかったのだから、これからなくたって一緒なんだ。
 ただ、俺は極度の貧乏性でな。盗られたものを盗られっぱなしというのは承服ならん。だから――」

踵を返す。眼前にアスラと『デバイス』とを据え、パチリと手を合わせて、掲げた。

「――手を貸してくれ、姉さん、『デバイス』。俺はみんなを助けたい、みんなを取り戻したい。同じ人間を二度も、失いたくない」

『デバイス』は一瞬だけ、頼み込むヨシノを見て表情を変えた。眉が一ミリ上がるとか、口角が二ミリ下がるとか、その程度の変化。
年端もいかない少女が不相応の仮面で以て蓋をし続けてきた、僅かな感情の萌芽、発露。それがほんの少しだけ漏れて、また閉じた。
それは、おしなべて言うならば、『羨望』に類する心の機微。

『協力して、そしたらお兄さんはボクになにをしてくれるのさ。教義に反してまで邪気眼使いを助けるメリットは?』

彼女の問いは至極当然。金で動くアスラや、欲で動くヨシノと違って、『デバイス』は純然たる使命によってここに在る。
結局それを果たすことなく彼女は絶命し、意識だけをヨシノに囚われているものの、その魂と意志は未だ『枢機院』に殉じている。
『楽園教導派』の敵である邪気眼使いに与するとあっては、それはもう、背信以外のなにものでもない。

『そりゃあ、ボクは言わば捕虜だから。労働を強制することもできるだろうけどさ……』

彼女の事情を、ヨシノは大体知っている。任務を達成できず、対異能障壁によって焼かれ(それが鷹逸郎によるものであることは知らない)、
瀕死の体で呼んだ助けに止めを刺された少女。受難の少女。どこまでも、ひたむきなまでに殉じた少女。

「俺は、『枢機院』に乗り込もうと思ってる。みんなを取り戻すために。正攻法じゃ返り討ちが関の山だろうが、逃げも隠れもしまくる所存だ。
 ……そこでだ。君が求めるなら、その、君をお仲間のもとへ送り届けてもいい。その上で君に利害を問おう。――仲間に、会いたいか?」

人質交換ではない。死すら厭わない『枢機院』相手に、一介のエージェントを交渉の材料にできるとは考えない。
だからこれは、純然たる交換条件。協力を求める代わりに、仲間との再会を約束すると。

<ブレイントレイン>はヒトの脳を媒介する異能である。意思も意識も思いのままに操れるその性質上、彼女には他人との繋がりが乏しかった。
そんな中で、ようやく得られた『楽園教導派』の仲間たち。『コンフィング』は彼女を殺したが、だからこそ、『デバイス』は渇望した。
命も、誇りでも、尊厳でもなく。『誰かと共に在れること』を、何よりも望んだ。

『……会いたい』

肉体も、信頼も、相棒すらも失って、それでもなお、求める。
意思が、意志を形成する。

『会いたいよぉ……!』

『デバイス』とは"媒介物"。ヒトとヒトとを繋ぎ、セカイと自身を繋ぐ、インターフェイス。
感情と言葉とを繋ぐのは、止めどなく溢れる涙だった。拙い仮面で押さえつけていた、体温のある表情が顔を出す。

「決まりだ」

ヨシノは再び踵を返し、紙を打つような快音とともに袖を張った。熱の漲った目で、アスラを見る。『デバイス』を見る。

「これより俺達は『枢機院』へ殴り込み、旅団の奪取と『デバイス』の輸送、それから邪気眼狩りの真相を確かめに行く。
 姉さんには護衛を頼みたい。報酬は言い値を出そう。……そうだな、上手くやれば聖遺物なんかもあるかもしれん。
 それにな、この世で最も価値のあるものを教えてやろう。そう、ご多分に漏れず、――幼女の笑顔だな」

243 :名無しになりきれ:2010/05/30(日) 07:35:28 0
作戦を説明する、と言ってヨシノは二人に謹聴を促した。

「殴り込みと言っても、別に戦いにいくわけじゃあない。姉さんはあくまで保険だ。戦闘になれば俺に目はないからな。
 至って穏便に事を進めたいと思う。そもそもその『枢機院』とやらがどこにあるのかもわかっていないしな」

人気の消えた構内で、休憩広場のベンチに腰を掛ける。アスラにも着席を勧め、自販機で購入したコーヒーを開封した。

「ここで役に立ってくるのが『デバイス』、君の存在だ。俺は邪気を消し、『頭に変な幼女が湧いた不幸な一般学生』を演じる。
 幸い俺の邪気眼は外見に顕れない『開眼型』、服の下に『包帯』でも巻いておけば無能力者と遜色はない」

腕や額に三つ目の眼が顕れる『発現型』や、通常と色の異なる『異色型』だった場合、ビジュアルにモロ影響が出てしまう。
邪気眼というものは"普遍であること"を何より嫌う為、得てして外見の変化する邪気眼の方が強力だったりするのだが、
今は己の貧弱な能力に感謝しておくべきだろう。そのおかげで、ただの学生として潜伏できているのだから。

「シナリオはこうだ。命の危機に瀕した『デバイス』は、最期の力を振り絞って<ブレイントレイン>を発動。
 そこへ"たまたま"通りがかった俺こと『ただの学生』の脳内に思念転移してしまう。俺はあくまでただの被害者ってとこがポイントだ。
 『デバイス』はその思念転移でほぼ全ての力を使い果たし、脱出は不可能。魂留契約も他者の肉体の中にまでは適用されない。
 従って、囚われた『デバイス』を解放するには『檻』である俺ごと『枢機院』に迎え入れて、そっちの術者に摘出してもらわねければならない」

魂を縛る契約が術式によるものか『管理権限』と呼ばれる異能によるものかは分からないが、
『デバイス』以外にも魂を操作できる能力者、それも上位に格付けされた者がいることは間違いない。
『ケブラー』と呼ばれる老人が、おそらくそのポジションなのだろうと、ヨシノは大雑把に推測する。

「つまり、俺は完全に巻き込まれただけの一般人として、『枢機院』にあちらから招き入れられることが可能になるわけだ。
 俺ごと口封じされるかもしれないという懸念があるが……その為の姉さんだな。襲われたときはきっちり守ってくれよ?」

ただ、この懸念に対しては杞憂で済むとヨシノは思う。相手は下っ端ですら曲がりなりにも『正義』を名乗る集団であるのだから。
組織というものは得てして、首魁や広報が『正義』を全面に押し出すことはままある。プロパガンダの意味合いが強く、実を伴っていないが。
それ故に、現場で命を賭けるエージェントにまで『正義』の思想が行き渡っているという点においては、『枢機院』を信用できるのだ。

「俺達は『世界基督教大学』の学生と職員だ。『世界基督教』は『枢機院』の信ずる宗教。つまり、俺達はある意味では既に敵の懐ってわけだ。
 ただの部外者よりかは、よっぽど与しやすくなると思う。念のため姉さんは『受難の学生の相談をうける善良なシスター』を演じてくれ」

思考することは得意分野だった。考えることは、物事を単純にしていくこと。そして、単純になったパーツを使って一つの結論を組み上げること。
『デバイス』から得られた情報や、自身を取り巻く環境、全ての要素を建材にして、目的への橋頭堡を作り上げる。

その礎となるべき『情報の掌握』が、今のヨシノには可能だった。彼の思考能力の本質は、考えることよりもむしろ並外れた洞察眼にある。
正しく一を聞いて十を知る、推察と考察の思考力。情報の断片をかき集め、新たな情報へ作り替える技術。
弱いからこそ、一人ぼっちだったからこそ身につけた生きる為の戦略眼は、姿も見えぬ敵の実状を独自の視点で丸裸にしつつあった。

244 :名無しになりきれ:2010/05/30(日) 07:38:09 0
「さあ、俺達の戦いはここからだ。姉さんは必要な道具と武器の準備を頼む。作戦の打ち合わせもしたいしな。
 ああ、それから――『白い婦人の絹衣』も持ってきておいてくれ。いや、着ないぞ?ぜってー着ないからな!?
 ……もしもの時の為の備えだ。最悪、戦闘になっても『ガイドライン』さえ使えれば――って、旅団盗られたら使えねえな!?」

導きの魔剣『ガイドライン』は、旅団の死霊エネルギーの結晶を白杖に纏わせることで顕刃させる召喚魔剣だ。
『白い婦人の絹衣』さえあればどこでも喚べるはずだが、素材となる旅団の死霊がない今、発動は不可能だろう。

「……とにかく、10分後に準備を整えてまたここに集合だ。時間になったら『デバイス』には『楽園教導派』への救難信号を上げる。
 敵地でやられそうになったエージェントを増援・回収を行う相互扶助システムだな。これを使って、迎えを寄越してもらう」

実は『デバイス』がこれを使うのは二度目である。『増援』として呼んだ『コンフィング』は、彼女を助けることなく行ってしまったが。
『回収』として呼ぶならば、非戦闘員が迎えに来るだろう。転移機器を破壊された場合にも使う信号だ。

「迎えが来たら、作戦開始だ。――各員、素敵な演技力を期待するぞ」


【作戦内容  作戦名『オペレーションLO』】

ラノベの裏表紙のあらすじ風に言うと

ごくごく平凡な大学生であったはずの俺、芳野貴之(よしの たかゆき)は、ある日ひょんなことから脳内に幼女が住み着いてしまう。
『デバイス』と名乗る幼女の口からは、『枢機院』とか『楽園教導派』とか、チンプンカンプンで電波ゆんゆんなワードばかりが飛び出してくる。
一体変なのは俺の頭か、この世界か。『異教の猿がー!』そりゃねえよ。一体俺のキャンパスライフはどうなってしまうのか。
包帯フードな不審者教授や、金の為ならなんでもやる破戒シスターなんかも巻き込んで、俺と『デバイス』の奇妙な共同生活が始まった!


【姉さんの出撃準備が整い次第作戦開始】

245 :名無しになりきれ:2010/06/01(火) 12:42:27 0
「…なんであんたがいるのよ、雨男」
嫌そうな態度で彼女、機械少女ピアノ=ピアノは言う。

レインマンは、肩をすくめて言う。

「なんでって?仕事だよ。君も僕も情報収集が任務だろう?
“僕が居るところ”に“たまたたま君が居ても”おかしくはないね」

レインマンはいちいち言葉尻を強調した。
ピアノの能力はレインマンも高く評価している。
“対象に近づいて関係を築く”という点も工作員には必須の能力だ。

「さっきの君の行動は全部見てたよ。
監視対象と関係を築くというの、は確かに任務と合致している」

ピアノの優秀さは承知している。
しかし…彼女の“奔放さ”は、常にレインマンを振り回し続けた。
“誰にも見えず、知られず”をモットーとするレインマンはどうしても納得いかない。

「だがしかし・・・君は監視対象と親密になりすぎる。
それでもって 君は『仕事』のついでに『趣味』に走るわけだ。いつもそうだ君は。
こっちが姿を隠してきっちり監視しようと思った矢先にコレだ」

冷静を旨とするレインマンだが、彼女にだけはいつも余計に口が滑ってしまう。

「お陰でこちらの取れる戦術がほとんど無くなった、いい迷惑だよ…
 姿を隠してこっそり相手を倒そうと思っても、君が監視対象のそばにべったり張り付いてるんだからね。
 君が対象と距離を置いていればこんな事にはならなかったんだよ。
 君はいちおう“こちら側”の人間だ。言っておくが僕は“味方撃ち”をするつもりはない。
 まったく『趣味』と『仕事』を両立できるなんてうらやましい限り…おっと、そんな事を言っている場合じゃなかったね」
 
そして、皮肉を雨あられと降らせる事になるのがいつものパターンだった。

更に言うと、体の大半が機械で構成されているピアノは雨を嫌う。
無論、超技術の集大成ともいえるピアノが水濡れ程度で故障するわけはない。

だが、ピアノはあくまでも人間である。
自分の体にカビが生える、錆が浮く、と思えば嫌うのは当然。
そしてレインマンの能力は「水」と「天候の操作」である。
それゆえに、レインマンとピアノの関係は険悪そのものだ。

246 :名無しになりきれ:2010/06/01(火) 12:45:26 0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その時、謎の少女が口を開いた。

「‥‥対話では‥‥
 対話では、私は死ねない。 それに、対話ならば戦闘と同時に可能なはずだ。」

謎の少女は、そもそも話をする気がないらしい。
(そいつは困ったね、のんびり戦闘を楽しめるほど僕らには時間がないんだよ?)

レインマンをよそに、少女は何かの詩を朗詠し始めた。
「――ある者は言う。海は陸に嫉妬心を抱き、」
「そのいちばん高いところに登って、空に会いたいと思っているのだと」

彼女の体から、「何か」が抜け出て天に昇るのが見えた。
その後、突然レインマンは足元がに冷たい感触を感じた。

レインマンが呼び出した「水」が、その嵩を増している。

「…っ!」
レインマンはすかさず「水切り」で水面に立つ。
(…これはなんだろうね、なんだか懐かしい感じがする…)


247 :名無しになりきれ:2010/06/01(火) 12:49:02 0
レインマンの能力を幾層倍にしてみせたその手際。
通常の能力者なら絶望しかねないその状況でも、レインマンは冷静だった。

(これは驚いた…十分“世界の危機”になりうる存在だね…)

「……話、といった所で話せる話題などほとんどない その物言いからすると先ほどの戦いのことも知っているんだろう? 」
レイもまた、同様に話しなどする気はないようだった。
(知っているとも、だが僕は重要な事を何も掴んじゃいない…それに時間がないんだよ)

「なら見たとおりだ、話す事なんて無い それよりも、そこをどいてくれないか」

「…ま」
『まあ、待ってくれないか』と言おうと、レインマンが口を開こうとしたその刹那。

「…相手の了承も得られた、どいてくれ」

彼女はレインマンの肩に手をかけてレインマンを退かせた。
一瞬の出来事だった。
肩を掴んで投げ倒すわけでもなく、弾き飛ばしたわけでもない。

ただたんに、退かした。
(なんてことだ…!警戒する間もなく“退かされた”だって?)

どうやら彼らとの言葉での対話は難しそうだ。
だが、どうしても話をしなければいけない。

レインマンは肩をすくめる。やれやれ全く…

「では、勝手に話をさせて貰うよ。
 話はすぐに済む、聞くか聞かないかは君らの自由だ」

「1時間後に、秋葉原に爆撃が開始される」

「理由は“秋葉原全域に展開された魔方陣”だ。
 あの魔方陣が何を目的としたものかは知らないが、害あるものである事は確かだ。
 しかも、魔方陣はいつ発動するか分からない。
 魔方陣の停止方法は3つある
 1つは『魔方陣を破壊する』
 2つは『強力な“魔剣”で魔方陣の組成呪式を切り裂く』
 3つは『対抗呪式を魔方陣に上書きして無効化する』

 1つ目が一番簡単だ。 
 だから、カノッサ上層部は魔方陣が発動するその前に、魔法陣を街ごと破壊するつもりだ。
 現在カノッサ前線基地では、超時空戦闘ヘリ“オッドアイ”が10機ほどエンジンを暖めて待機中。
このヘリは転移能力を備えているから、ニューヨーク流に1分間で到着だ。法螺じゃない。
 ピアノ、君でも逃げるのは難しいかもしれないね…」

「だが、魔法陣が発動すれば、爆撃よりももっと酷い事が起きるかもしれない。
 さて、このままでは老いも若きも男も女も全員死ぬ…
だから君たちに協力を申し入れたい。
 交換条件は、爆撃の停止だ。 言っておくが考えている時間はない、と言っておくよ」

<<レインマン 交渉開始>>
<<交渉がうまくいかなかった場合 秋葉原上空に超時空戦闘ヘリ“オッドアイ”が10機出現し無差別攻撃を行う予定>>
<<“オッドアイ”については基本モブ扱いなので 適当に弄んだ後、好きに壊してかまいません>>

248 :名無しになりきれ:2010/06/01(火) 13:17:34 0
【某国某所 三千院一族、『老人たち』の集まる一室】

「やはり秋葉原の戦場からあの女は撤退していた模様です」
「まともな思考の持ち主なら無理も無い、か」
「今度の戦闘でまたも『世界の選択』は人脈を広めた。彼なら或いは、この『公理』に支配されし世界を覆すやも知れぬ」

「時に大学の方は如何なっておるのか」
「小規模な戦闘が散発的に行われているところでございます」
「へえ、大学に潜む真実を見出したものはどれくらいいるのかしら。まあいいわ」

「そんなことより今は【ラツィエル城】だろう」
「そうじゃな。『世界』の遺した灯も直に燃え盛る劫火となって、いずれは『創造主』も片腕を焼き落とす位になってくれれば良いのであるが」
「今は傍観するしかあるまいよ」

「『三千院家』を我らが手に取り戻すために」
「あの女狐には退場願おうか」
「全て『世界の選択』なり」

「その時こそが遍く人類の救いとなることを願って、オールハイル・三千院」

「オールハイル・三千院」
「オールハイル・三千院」
「オールハイル・三千院」

人の意思とは一体どこにあるのだろうか
他者を動かしていると思っている彼らもまた、誰かの思惑通りに動いているのだろうか
その真実を知るものは――――

【TO BE CONTINUED TO -JackyGun- W】


249 :名無しになりきれ:2010/06/06(日) 01:43:47 O


250 :名無しになりきれ:2010/06/08(火) 12:40:47 0
邪気眼-JackyGun- 第W部〜目覚ノ領域編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1275651803/

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