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邪気眼―JackyGun― 第T部 〜佰捌ノ年代記編〜

1 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:13:23 0
かつて、大きな戦いがあった。

個人、組織、そして世界をも巻き込んだ戦い。

戦士達は屍の山を築き上げ戦い、

それでも結局、勝者を産まぬまま、

戦いは、全てが敗者となって決着を迎えた。

そして、『邪気眼』は世界から消え去った――――筈だった。

2 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:14:16 0
復活おめ

3 ::2009/08/29(土) 16:14:38 O
食え

4 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:16:14 0
過去スレ

邪気眼―JackyGun― 第零部 〜黒ノ歴史編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1225833858/
ログ
http://mimizun.com/log/2ch/charaneta2/changi.2ch.net/charaneta2/dat/1225833858.dat




Q.ここは何をする所だ?
A.邪気眼使いたちが戦ったり仲良くしたり謀略を巡らせたりする所です。

Q.邪気眼って何?
Aっふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・
 邪気眼のガイドライン(http://society6.2ch.net/test/read.cgi/gline/1249958984/)を参考にしてください。
 このスレでの邪気眼とは、主に各人の持つ特殊能力を指します。
 スタンドとかの類似品のようなものだと思っておけばよいと思います。

Q.全員名無しでわかりにくい
A.昔(ガイドライン板時代)からの伝統です。慣れれば問題なく識別できます。
どうしても気になる場合は、雑談スレ(後述)でその旨を伝えてください。

Q.背景世界とかは?
A.今後の話次第。
Q.参加したい!
A.自由に参加してくださってかまいません。

Q.キャラの設定ってどんなのがいいんだろうか。
Q.キャラが出来たんだけど、痛いとか厨臭いとか言われそう……
A. 出来る限り痛い設定にしておいたほうが『邪気眼』という言葉の意味に合っているでしょう。
 数年後に思い出して身悶え出来るようなものが良いと思われます。


5 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:19:23 0
現行まとめ最新Ver

名前              能力          目的                       現況

Y               無能力      アルカナの野望阻止           『世界』と対峙。何かが……?    

リー             魔溜眼      アルカナの野望阻止         深層にて『月』に勝利。『正義』と対峙

フェンリル          業狼眼       遺跡深部への到達       深部近くにて白虎と交戦。殴り合いの末撃破、深層へ
 
シェイド           影探眼        大学防衛          大学広場にてクレイン組とライドムーバーの戦闘に介入
 
アスラ            無能力        ヨコシマキメ盗掘          最深部にてYと邂逅。加勢に入る
ステラ            暁光眼         『星』の救出                    同上。

ヨシノ            倒錯眼        "黒の教科書"入手    畜生ヶ道にて剣虎群相手に無双、ドス剣虎に腹を貫かれて瀕死




短髪の男           ???          ???           中層域にてY組と邂逅、闇に紛れ憑く

食堂の男           ???         ???            どうやらブッシュは俺達とやる気らしい

リバイヴ           水葬眼        侵入者への警告           ヨコキマシメ遺跡跡の小屋で監視

ルチア            ???        大聖堂への帰郷            大聖堂前にて『教皇』に遭遇



6 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:20:26 0
アルカナVer

名前              能力           目的                       現況

『吊られた男』       傀儡眼        地上での索敵           地上にてライドムーバーと交戦中
マリー        魔力武装<ギミック>     同上                        同上

『世界』            ???       『創造主』の殺害              最深部にてYと対峙

『正義』            ???        『世界』の護衛              最深部にてリーと交戦

『悪魔』           拳闘眼          戦闘               ステラ・アスラ・ヨシノと交戦、死亡

『塔』            瞬穿眼         侵入者の撃退              調律機関に捕縛される

『星』            白金眼        侵入者の迎撃          Y組を襲撃、シェイドによって撃破される
『戦車』          高速移動         同上            アスラ組を襲撃、魔剣と眼の連携で撃破される
白虎           ダディクール    フェンリルへのリベンジ       フェンリルと再戦、再び撃破される  


『月』          零明眼・夢境眼     侵入者の迎撃              深層にてY・リーと交戦中

『教皇』           ???         転移の調査              調律一派と交戦、介入してきたシェイドに葬られる


7 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:21:35 0
第三勢力Ver

名前              能力           目的                       現況

レイジン           無能力       アルカナの制圧            『助手A』を探して大学内に散開  
調律機関           同上            同上                       同上

ムライ君         ライドムーバー        同上             多目的グラウンドにてクレイン・マリーと交戦          

リクス            氷結眼       調律機関のサポート         地上にて御鏡と交戦

御鏡            絶対物質        リクスの足留め           地上にてリクスと交戦


8 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:22:38 0
避難所だ……

なりきり板邪気眼スレについての雑談 其之四
http://yy45.60.kg/test/read.cgi/jaki/1243695782/


866 :Welcome to Underground:09/05/05 00:10:34 ID:LP2HW+EB
キャラ人気投票の話が出たことだしここで今まで出たキャラの簡単な紹介文を作ってみた。
新世代ROM専の俺が独断と偏見で書いてるので癪に障っても怒らないでね

<Y>
ヨコシマキメに挑み入り口のトラップに引っかかっていた旅の冒険者。
この物語の始まりにして唯一の普通人。名前にはどうやら特別な意味がある模様。
無能力者だが持ち前の名演技とハッタリで邪気眼遣い達を出し抜き生きのこってきた。
普段は尊大な物言いだが素に戻ると常識人なようでアクの強い能力者達の傍では常に胃が痛い日々を送っているようだ。
シリアスシーンと素に戻ったときのギャップがたまらんと一部に絶大な人気を誇っている。ある意味王道キャラ。

リバイヴ
ヨコシマキメの地の管理者たる少女。水を自在に操る邪気眼『水葬眼』を持つ。
年寄りめいた口調で訪問者を迎えるが両親の墓前に手を合わせる時などは年相応の仕草も見せる。
一見旅人の生死については冷徹なようだが探窟を認めたY達に召喚の鈴を持たせるなど面倒見はいいようである。

フェンリル
シェイドをして「普通の奴」と揶揄されてしまった冒険者。狼を思わせる容貌と茶色の長髪を持つ。
大気中の邪気を取り込み自らを狼へと変身させる邪気眼『業狼眼』の使い手。
意外にも協調性を重んじる性格のようで、リーや短髪と出会ったときもいち早く相手の状況を汲み取り
仲間に加える方向へと話を進めている。その一方で強引な一面もあるらしくYを担いで走り去ったり
遺跡の地面をぶち抜いて中層域へショートカットしたりと主にYがその犠牲になッている。


9 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:23:31 0
その2

白虎(ダディ・クール)
ヨコシマキメの地に古くから生息している聖獣の一匹。普段は四足獣の格好をしているが戦闘時には巨大な紳士へと変貌する。
フェンリルと一戦交えたのちヨコシマキメの消えた聖地で闊歩しているところをアルカナに捉えられた。
今は『吊られた男』の支配下にありフェンリルとの再戦を叶えている。
肉片一つ残さず流れ星になって蒸発した。

ショボン
街へと降りてきたYとフェンリルに向けて放たれたアルカナの刺客。くそみそ。
閉じ込めた邪気眼遣いの動きを縛る邪気眼殺しの邪気眼『亜狗禁眼』を使う。
Yの機転によって能力を乱され敗北。二人にアルカナの存在を伝えたところで『月』の遠隔術式によって絶命した。
口調とキャラ付けを見るにブーン系出身か。「このショボン様さ!」

リー・ゼパップ
強い生物から命の糧を得るためヨコシマキメの地に舞い降りしデブ。
触れたエネルギーを自在に吸収・放出する邪気眼『魔溜眼』を持つ。こと食に関しては並々ならぬ執着を持ち
お眼鏡に適う得物を探して遺跡の奥まで足を踏み入れるほど。胸に下げた瓶にはかつての仲間の遺灰が入っているらしい。
遺跡を駆け抜けるフェンリルを追う際能力を使って遺跡をスケートしていたがなんとも圧巻な光景である。
能力を使うと更にピザる、風船みたいな奴。

アスラ (坂上明日香)
世界基督大学の大聖堂に勤めるシスターにして破天荒な銭ゲバ盗掘者。修道服の中身は四次元。
邪気眼や異能を持たない無能力者だが本人はそう言われることを酷く嫌っており
うっかり口にしたヨシノなどはハイキックの餌食になっている。魔剣『デスフレイム』と銃器類を使いこなし
能力者とも遜色ない戦闘力を備えている。また金に汚く割りと平気で仲間も見捨てるあたりシビアなリアリストでもある。
逃げ足は速いらしく誰よりも早く危険を察知し脱兎の如く遁走したが修道服でよくスピードが出るものである。

短髪の男
ヨコシマキメ中層域で立ち往生していた謎の男。
独特の鼻につく言い回しで周囲の感情が沸き立つのを楽しむ悪癖がある。
能力は不明だが闇に紛れ存在すら知覚できなくなるとおろを見るに某神の不在証明的な能力なのだろう。

ヨシノ=タカユキ
世界基督大学の学生で、考古学専攻。理屈屋かつ饒舌家で、余計なことを言ってはアスラの蹴りや刃物で粛清される。
道具を使った効果の作用する対象を任意に選択できる能力『倒錯眼』を使い学生の身分を詐称している。
かつてヨコシマキメの胃袋に消えた盗掘旅団の一員だったらしいが未だ断片的な描写しかなく全貌は明らかになっていない。
体力がなくすぐにへばってはアスラにどやされるあたりおおよそ戦闘向きとは言えないが対『戦車』戦ではそれなりに活躍した。
愛すべき変態その1。今は邪気を覆い隠すメイド服を着用している。あとロリコン。つくづく『星』と戦わなくてよかった。
現在進行形で序盤からこつこつ撒いて来た超強化フラグ回収中。

アリス=シェイド
世界基督大学の研究員。有能なんだか無能なんだかよくわからない奴隷兼助手のAを従えた通称『白衣野朗』
影を操り実体化もできる『影探眼』の能力者。アスラとは個人的な知り合いらしくどうやら穏便な知人でもないようだ。
遺跡な中身を『研究』するためにやってきたらしいが発言を鑑みるにどうもマッドサイエンティスト的な研究者らしい。
フェンリルのことを「普通の能力者」「つまらん回答をした者」と揶揄するなど他人を分析する思考に長けている。
デスクワーカーのようで戦闘能力は高くアルカナの刺客である『星』を軽くあしらう程。逃げてーマリー逃げてー

ルチア
世界基督大学の大聖堂に勤めるシスターにしてやっぱりシスター。正統派にな純真娘。
聖水や浄化術式を習得しているあたり只者ではないのだろう。『教皇』との邂逅で何が起こるのだろうか。
アスラの同僚で天敵らしい。っていうかどこ行った。聖水はシャトルーズイエローらしい。


10 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:25:12 0
アルカナ編

月 (デシェ=ギルダルク)
顔に大きな傷痕を持つ雪国出身のアルカナ名参謀。年端も行かない少女だが、固い口調と含蓄は年齢を感じさせない。
アルカナの名を語らしめる者には容赦なく、幼少より習得した死の秘術が苦しみと絶命の二重奏を奏でる。
大アルカナの中でもかなり高い地位にあるらしく、『星』や『戦車』を使役したりと結構な権限を与えられている。
オッドアイは両目に別々の人工邪気眼を施術されたから。恐ろしき才能故に故郷を追放された過去を持つ。
冷徹な指令官のようだがYの挑発に容易くキレたりリーの登場にイライラしたりとそれなりに未熟らしい。
なんだかんだでリーにやられた

戦車
アスラ・ヨシノ組を襲撃した大アルカナ。堅牢な銀鎧に身を包み視線を軌道に変える高速移動能力を持つ。
荒木節を使いこなしその言動から某ポルポル君を彷彿とさせるがその実、鎧の中身は若干13歳のおにゃのこだった。
催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ!
アスラの魔剣とヨシノの戦略によって死闘の末敗北。ロリコンの毒牙にかかる寸前にまで陥った。
もし鎧がなかったら結果は変わっていたかもしれないというのが目下残念極まるところ。


Y組の迎撃に駆出された大アルカナの一員。みんな大好き金髪幼女。ついでにポニーテール。最高。
自分と触れたものを光に変える人工邪気眼『白金眼』を持つ。どこぞのスタンドのような名前だがつまりはピカピカの実である。
光の速さで突進したらどうなるの?リアルな話するとお前の住んでるヨコシマキメが吹き飛ぶ。お前のウンコで地球がヤバイ。
って気がしたがそんなことはなかったぜ!シェイドの能力により動きを封じられ最後の手段に自爆した。
なんだかんだその爆発でYは落下しリーもシェイドも負傷し物語の進展への一助となった。お前の自爆で遺跡がヤバイ。
復活フラグが立ってるが中の人は見ているのだろうか

教皇(フォウ=スレイン)
ヨコシマキメ大転移の原因調査に駆出された大アルカナが一人。能力は不明。詳細も不明。
忘れられているがコイツも変態。愛すべき変態その2。ルチアにセクハラ発言しまくるが総スルーでなんだか涙目。
聖水踏んでは滑って転び、偽名を考えても瞬時に看破されたりとなにかと失敗が多いがアルカナ内では結構いい位置らしい。
『月』に疎まれてるらしいが暑苦しいからじゃないかな。なんだかんだでシェイドにやられた

太陽 (ステラ=トワイライト)
『星』の実姉。大アルカナの一員で、『月』とは同期の桜。愛すべき変態その3。最近妹が爆発した。
光を支配し自在の操る『暁光眼』という人工邪気眼の使い手。レーザーとか使う。
木野君も驚きのファッションセンスはいろんな意味でピカイチで、全身まっ黄色で合わせたりととにかく尋常ではない。
その格好で平気で街とか歩いたりする。これには『星』も思わず苦笑い。それにしてもこの不審者、ノリノリである。
第一の変態、ヨシノとの出会いは彼女にとって何を意味するのだろうか。髪留め外しは何のフラグかな?ん?


遺跡深部で繋がれている男。出番はいつだ

11 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:28:28 0
吊られた男 (クレイン=トローリング)
退廃的なニヤケ笑いが特徴的な大アルカナ。元ヒッキーのボンボンで、人形マニアのつまりはオタク。
『あや吊り糸』を繋げた物体を支配する能力『傀儡眼』を持つ。実にわかりやすい邪気眼である。
美少女等身大フィギュアのマリーを溺愛し戦闘にも用いるあたり非常にアレだが彼女もひっくるめた戦闘力は高いらしい。
アルカナの参入する人間が一様に過去や覚悟や決意を背負っているなか引きこもりから立ち直っただけと実に軽い経歴を持つ。
就職先が見つかってよかったね。フェンリルに「ガキ野朗」と揶揄されてしまうあたりとっちゃん坊やなのは否めない。

マリー=オー=ネット
『吊られた男』の愛玩人形。みんな大好き毒舌ツンデレ美少女フィギュア(等身大)
大時代的な口調の黒髪ロングと大和撫子っぽいが服装はゴスロリとミスマッチなところもキュート。
クレイン君の魔改造により魔力兵装<ギミック>を体の各所に仕込んでいるらしい。エロ同人が出たら格好のネタだな。
創られた目的は孫娘へのプレゼントだったらしいがキモイくらいに精巧な出来だったらしく一体何させるつもりだったんだろうね。
主人たる『吊られた男』を溺愛しているらしい描写が端々に見られるが種族どころか無機物の壁さえ越えた美しい愛である。

世界
ラスボス。なんか手からミスリルとか出しちゃう。ヨコシマキメを復活させた張本人。
Yの虚飾を容易く見抜き叩き潰すその慧眼はまさにラスボスの貫禄そのもの。
真紅のプレートと深い関わりを持つらしいが真相が明らかになるのはいつのことだろうか。

ヨコシマキメ
通称"怪物の口腔"。各地を転々と渡り歩きながらその土地の財宝や能力者を取り込みまた移動する『旅をする遺跡』
ヨシノの言によるとヨコシマキメは"生きている"らしいが実状はいかに?
その腹の中に溜め込んだ財宝を狙い多くの盗掘者が挑んだが内部の億千山千のトラップにより餌食となっているらしい。
邪気を吸収する性質を持っているらしく邪気眼使いですら長期の滞在は命取りになる。

悪魔
狂った理屈を笑顔で語る変態鬼畜狂人外道白痴論外脳筋軽薄単細胞レイパー。手からビーム出す。
格ゲー準拠なキャラクターと鬼気迫るほどの圧倒的なテンションでスレの一部をエキサイトさせた。
なんか色々とヤバい。間違っても愛すべきではない変態。逃げてーステラ逃げてー
大アルカナに名を連ねるもその行動はトリックスターで、名参謀『月』でさえ頭を抱える始末。
起用すればその戦闘能力の高さもあいまって間違いなく遺跡をぶっ壊すからあまり使いたくなかったらしい。



12 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:30:09 0
第3勢力編


レイジン=シェープス(cv.若本)
政府公設の異能対策組織『調律機関』の実働隊長。ナナフシみたいな痩身の中年男性。
独特の謡うような粘っこい喋り方とは裏腹のポーカーフェイスで、常に冷静沈着な指令官。
対邪気眼遣いの戦術に長け、大アルカナ『塔』を智謀で攻略した。また分析力も高く初めて見る能力
でも即座に分析することが可能。無能力者だが熟年の勘で邪気や魔力を感じ取れるらしい。
一見普通そうだがなかなかヤバい脳の持ち主で、妄想の娘と戯れたりする。名前の由来は痩身麗人?

リクス=クリシュナーダ
世界皇族『三千院家』の当主セレネ三千院の執事。ってか黒執事。
あらゆる事象を微分し凍らせる『氷結眼』の使い手。
礼節端正で物腰柔らか、内的思考ですら相手をベタ褒めする徹底振りだが主人にへ結構いらんこと言って
怒られているようである。元ネタはやはり『黒執事』か。


アルカナの誇る人間対空要塞。その長身はダイダラボッチ的な長さで些かキモい。
狙撃のための武器を創りだしそれを100%使用できる邪気眼『瞬穿眼』を持つ。
が、あっさりとレイジンの仕掛けた罠にかかり捕縛された。かませの匂いがプンプンするぜぇ〜っ

ムライ君
調律機関が誇る多足歩行重武装戦機『ライドムーバー』のパイロット。テンション高い。
ライドムーバーの制御及びムライ君のサポートを行う学習型AI、通称『左右』と心を通わす精悍漢。

レフティ
ひらがなのほう

ライティ
漢字使用者方

御鏡
突如リクスに襲い掛かるホスト風の男。『上』の住人らしいが如何に……?炭素を操る



13 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:31:49 0
世界観まとめ

邪気眼…人知、自然の理、魔法すらも超えた、あらゆる現象と別格の異形の力

包帯…邪気を押さえ込み暴発を防ぐ拘束具

ヨコシマキメ遺跡…通称、『怪物の口腔』
            かつての戦禍により一度は焼失したが、謎の人物によって再生された。
            内部には往時の貴重な資料や強力な魔道具が残されており同時に侵入者達を討ってきたトラップも残存している。
            実は『108のクロニクル』のひとつ
            
カノッサ機関…あらゆる歴史の影で暗躍し続けてきた謎の組織。今回の件にも一枚かんでいる

アルカナ…ヨコシマキメの復活に立ち会い守護する集団。侵入者はもとより近づくものすら攻撃する。
       大アルカナと小アルカナがあり、タロットカードと同数の能力者で構成される。

プレート…力を秘めた古代の石版。適合者の手に渡るのを待ち続けている。

世界基督教大学…八王子にある真新しいミッション系の大学で、大聖堂の下には戦時から残る大空洞が存在する。

108のクロニクル…"絶対記録(アカシックレコード)"から零れ落ちたとされる遺物。"世界一優秀な遺伝子"や"黒の教科書"、"ヨコシマキメ遺跡"等がある。

邪気払い(アンチイビル)…無能力者が邪気眼使いに対抗するべく編み出された技術

遺眼…邪気眼遣いが死ぬとき残す眼の残骸。宝石としての価値も高いが封入された邪気によってはいろいろできるらしい




14 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:33:58 0
199 名前:Welcome to Underground[sage] 投稿日:09/07/17 23:00:28 ID:bs9C+NZu
新世界創造乙。
黒ノ歴史編終了記念に各章タイトル(4クール構成)考えてみた

序章『世界を記す22の原典』(アバン)


第一章『怪物の口腔』(Y、リバイヴ登場)

第二章『異形の蹂躙者』(フェンリル、白虎登場)

第三章『冷徹たる紳士』

第四章『邪気眼殺しの邪気眼』(ショボン登場)

第五章『アルカナ』

第六章『躍動の健啖家』(リー登場)

第七章『世界基督教大学』

第八章『白衣の俯瞰情景』(シェイド登場)

第九章『集合定理<バルキス>』

第十章『我、神の教えに背く者也』(アスラ登場)

第十一章『逡巡する探求者』(ヨシノ登場)

第十二章『108のクロニクル』

第十三章『邂逅する背信者達』

第十四章『紅レル石版』(世界登場)

第十五章『時流の徒花』(短髪登場)

第十六章『倒錯する行為と対象』

第十七章『仄暗き深淵の太公望』

第十八章『"人間"の特権』

第十九章『魔の鼓動を近く聴く場所』(月登場)

第二〇章『人工邪気眼計画』



15 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:34:38 0
第二一章『ホロビの洪水』

第二二章『舞い戻りし聖女』(ルチア登場)

第二三章『シルキークロス』

第二四章『赫怒する聖職者』(教皇登場)

第二五章『銀旋の鎧武者』(戦車登場)

第二六章『山吹色の疾走者』(星登場)

第二七章『死ぬか消えるか喰われるか』

第二八章『穿削するのは勝利の解刃』

第二九章『拡散するのは最期の光刃』

第三〇章『顕現するのは煉獄の魔刃』

第三一章『墜突するのは人間の一刃』

第三二章『屹立するのは逢魔の凶刃』

第三三章『日輪を律する者』(太陽登場)

第三四章『退廃の傀儡手と漆黒の追走者』(吊られた男、マリー登場)

第三五章『逢着する変質者達』

第三六章『隔たりは覚悟の向こうへ』


16 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:35:31 0
第三七章『右手に操糸を、左手に鏃を』

第三八章『右腕に業爪を、左腕に影を』

第三七章『強襲する狂戦士』(悪魔登場)

第三八章『石造りの空に、白色が舞う』

第三九章『打楔する他者の運命』

第四〇章『合従連衡の調律者達』(調律機関、塔、リクス、セレネ登場)

第四一章『集合離散の抗敵者達』

第四二章『臥薪嘗胆の挑戦者達』

第四三章『"不運"と"踊"る"修道女"』

第四四章『異形の護剣は暴食の王と交じる』

第四五章『機装の駆り手は故郷に立つ』(ムライ君登場)

第四六章『大学攻防戦』

第四七章『見据えよ己の確定視点』

第四八章『狂戦士は死合いの向こうに何を見たか』

第四九章『遺されし眼』

第五〇章『対峙する旧知の仇敵』(正義登場)

第五一章『特異点の少年』


最終章『"かつて"と"これから"』



17 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:37:58 0
業狼眼…大気中の邪気を取り込み体の一部を強靭な狼のものへと変身させる。近接型変身系

魔溜眼…あらゆるエネルギーを吸収し、放出する。近接型概念・干渉系

水葬眼…水を支配し、意のままに操る。領域型支配系

倒錯眼…行為の及ぶ対象を別のものにすり替える。領域型干渉系

亜狗禁眼…召喚した酒場に邪気眼使いを閉じ込める。領域型召喚・干渉系

影探眼…影を支配し、意のままに操る。領域型支配系

暁光眼…光を支配し、意のままに操る。領域型支配系

零明眼…手にした一物体にまつわる歴史を読み取る。近接型概念系

夢境眼…脳内イメージを実体化する。領域型召喚系

傀儡眼…"邪気のあや吊り糸"で繋がった相手や物を支配し自在に操る。遠隔型支配系

拳闘眼…(右)物質や技等を蒐集し、編集し再構成する。近接型概念系
      (左)身体能力および戦闘に関する技術の強化。近接型干渉系

瞬穿眼…狙撃の為のありとあらゆる器物を生み出す。近接型召喚系

氷結眼…あらゆる事象を微分することで氷結させる。領域型概念・干渉系

創造眼…過去に存在した事象や物体を再現し自らの手駒とできる。領域型支配・召喚系


近接型:術者の近く、または接触した状態で発動する

領域型:指定した領域内に能力が作用する

遠隔型:術者の遠く、または見えない場所で発動できる


変身系:術者の体や物体を別のものへと変化させる

概念系:物質ではなく概念上のものへ影響を及ぼす

支配系:物質の操作・生成などを意のままに行う

干渉系:物質や事象のものの在り方に干渉する

召喚系:実際に存在するものや現象を召喚する


18 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:38:53 0
『さあ怪物よ……残された牙は後いくつだ?』
『やあ。ようこそ"バーボンハウス"へ』
『――――君の『意志』では……戦うには些か足りない』
『命を頂くことに対して命を懸けないのは大変な侮辱だ』
『こういう輩は―――殲滅しないと。』
『く……吐きそうだ、人の死を間近で見ると……』
『―――怪物ヨコシマキメの、退治といこう』
『それが世界の選択か』
『やいこらそこの少年、誰だか知らんが教会の裏は死霊の溜まり場。憑かれたくなかったらとっとと帰れ!』
『ムカついて結構、ヒトが俺の思うままに感情を揺るがすのは愉快だ』
『見ての通り、「純情可憐な」「どこにでもいる」「美少女」シスターさ』
『オーケー姉さんとりあえず胸に手を当てながら鏡を見つつ免許証でも確認することをお勧めする』
『ストレイシープに、スケープゴート・・・ 遺跡の闇に呑まれるぜ。・・・カシになっちまいな』
『だから、俺の命を貸そう』
『……いえ。万事、我々選ばれし者……その頭脳、『月』にお任せあれ』
『シスターって、教皇の奴隷でしょ?』
『――『死ぬか消えるか喰われるか』、お好きなようにどうぞッ』
『ロリコンも正義であり、名誉!矛盾はない……整合した!』
『影は光あるところなら、どこにだって追いつける』
『こいつと『こいつ等』の喉元へ牙を突き立てるためにッ!!』
『それっ!逃げダーーーーーーーッシュ!』
『我が名は<Y>……汝等も能力者なら、多くを語らずとも意味は分かろうな?』
『楽しく踊ってくれよな――我がマリオネット達と、ね?』
『へ、変態…………!!』
『変態に変態扱いされた……もういい死のうかな!!』
『変態!変態!変態!』
『任せたからには――――我を失望させるな?』
『逡巡は必要ない。返答も必要ない』
『───さあ、主人以外の者に「吊られる」気分はどうかね?』
『あんたが好むと好まざるとに関わらず、俺はあんたを全力でぶちのめすッ!!!』
『神様はスゲェイカス超寛大な御方だし、私みたいなのでも救ってくれるでしょ。』
『――つまり、僕の出番だね?』
『それは「胡椒の丸呑み」、と言うヤツだ……』
『そ い つ は 私 が 頂 こ う ! 』
『――お待たせしました『吊られた男』様!不肖マリー=オー=ネット、再び貴方の御許へ舞い戻りました』
             『邪気眼遣いも銃で撃たれりゃ死ぬんでしョ?』
   『あくまで三千院家の執事でございますから』
                                  『願わくば、因果の交差路で再び会いまみえんことを――』
『ひやっはァッ!! “修道女”(シスター)ァ! テメー“べコべコ”にしてやるよォ!?』
                           『とりあえず置いてきぼりにしやがった件については後でネッチリコトコト釈明を要求するぞ!?』
『この変態鬼畜狂人外道白痴論外脳筋軽薄単細胞レイパァァァァァッッッ!!』
                                            『明日になれば、今日死んだ何億という細胞の怨念に苛まれるだろう。明日という日があればの話だが』
『寝床の中から起き上がってくるいつものあのやり方で!』
                                『地獄には程遠いが……その穴がお前の墓穴だ。先立って堕ちておけ!!』
『だから、光があれば――妹が傍にいれば私は負けない!私は『太陽』!日輪に依ってあまねく光を律する者!!!』
                                                         『如何なる手段を以っても保存できない、この美中の美の傍に居たい』
『だから、今は私の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ――――!!!!!!!!!』
              『たまたま立ち寄った美術館で、一枚の絵に心を奪われた人間というのが、このような気持ちなのかもしれない』
『最古と最新の奇跡のコラボレーション……見せてやりましョうじゃァありませんか』
                                                『君に、喜びを与えたい。そのために、こうしてここにいるのだから』

『なぜなら……星と、いうものは……いつも、黄昏(twilight)から……輝き始める……もの……なの…だか…ら………』

『貴方の決意も覚悟も過去も未来も意思も意志も遺志も何もかも全部ッ!!『黄昏』の名の下にッ!!『悪魔』の愛したステラ=トワイライトとしてッ!!』

『はい、おしまい。』

19 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:44:10 0
本編移植に入ります

20 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:45:00 0
「――妹とか、いるかな」

ヨシノの変態丸出し発言にステラは硬直した。何故知っている。――否、

(なんでわかるの……!?『悪魔』の言葉ぐらいしか情報はなかったはず……たったあれだけから推測したっていうの?)

なんという洞察力の無駄遣い。なんという変態方向への行動力。なんという悲しき才能。そして、

(気をつけないと……『星』を助けても絶対ヨシノには会わせらんないな)

どうつっこんでいいやら、彼の肩を借りヘッドロック中のアスラが刃物でちくちくやりだしたのを見て、ああそういう突っ込み方していいんだと判断。
とりあえず低出力のレーザーを頭皮にぶち込んでやることでひとまず漫才の成立を得る。

「……とりあえず、シスターの質問には答えるね」

一つ目。

「アルカナを抜けた理由――といっても、アルカナに明確な"仲間"って意識はないんだよ。アルカナは元々リーダーであり創始者の『世界』に
 恭順した能力者が寄り集まって出来た組織で、私達は『世界』の駒でしかない。だから思想ひとつとっても様々な人間がいるの」

例えば『悪魔』。彼はひたすら闘いを求めてアルカナに籍を置いていた。故に『月』の指令にも滅多に従わなかったし、最期には同士討ちという形で散った。

「私と私の妹――『太陽』と『星』は、この時代の人間じゃない。……ヨコシマキメが健在だった時代にひっそりと生きて、共に滅んだ人間。
 この遺跡が再構成されたときにおまけで甦っただけの存在なんだよね。だから行くあてもないし勝手もわかんないしでとりあえず暫定的に
 アルカナに所属してただけなの。丁度いい具合に戦闘向けの邪気眼を植えつけられてたしね」

一息。

「私達は、私は居場所が必要だった。目的が必要だった。それをあなた達が用意してくれてる今、これ以上アルカナに義理立てする必要もない」

だから、

「『探求者』として、あの子の姉として、このヨコシマキメを攻略したい。だから私はあなた達に協力するよ」



21 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:45:49 0
二つ目。

「残りのアルカナによる迎撃――ヨコシマキメに潜る以上これは避けられないと思う。『悪魔』クラスの能力者もちらほら居るから
 このままじゃ一人二人は撃退できても多人数で押さえ込まれたら全滅は必至。なるべく見つからないルートは選ぶつもりだけど」

無論ステラとてアルカナ全員に勝てるとは思っていない。『月』の秘術は厄介だし、『吊られた男』と人形マリーのコンビネーションフォーム
がハマれば回避は困難だろう。『教皇』の防壁は一筋縄じゃいかないし、『塔』の狙撃に狙われれば逃れられない。

「ただ、アルカナの至上命題は『世界』の護衛……シスターやヨシノの目的が『世界を倒す』でなく単純に『攻略』なら、わざわざ余計な闘い
 を背負い込まなくたっていいはずだよ。ヨコシマキメは生きた迷宮。宝や『力』の眠る"胃袋"があるのは『世界』とは別の場所だから」

つらつらと同行者にとっての希望になり得る言葉を吐き出しながら、ステラを先頭に据えた一行は遺跡を歩く。
何かあったときに直ぐに能力で二人を護れるよう、警戒は怠らない。アスラはともかくヨシノは非戦闘員なので何が何でも護らなければならない。
ステラの言葉が途切れる頃、三人は二股の分かれ道に辿り着いた。ヨコシマキメの特異な環境が創りあげた天然の次元罠である。

(シュレンディガーの岐路か……参ったな、普段転移陣しか使ってないから真っ向な攻略法わかんないや)

支配光を飛ばしてどうにかならないものかと思案しかけたそのとき、ヨシノが懐から白杖を取り出し能力を発動した。
地面に浮かび上がった極彩色の矢印は正解であろう道を指している。ステラは内心舌を巻かざるを得なかった。

(へぇ、こういう使いかたも出来るんだ……引き出しの多い能力だね。戦闘にも応用できそうなものだけど)

そういえば『悪魔』戦でもアスラの銃器とヨシノの能力の組み合わせで見事に足留めを果たしてくれていた。
頑なに戦闘を拒むわりにはしっかりと活躍はしている。ふと、彼が戦闘向けでないのは能力でなく性格の問題なのではないかと思い、

思っていたが故に、

死角から振り下ろされる爪に気付くのが一拍子遅れた。

『〜〜〜〜〜ッッ!!!!!』

咆哮。
同じにステラの横腹に叩き込まれた剛爪の一撃は、咄嗟に展開した防御術式を容易く貫き、彼女は体をくの字に折り曲げながら
木の葉が宙に舞うよりも激しく空へと放り出された。ブレる意識の端に捉えた視覚には、振り抜いた爪に衣の切れ端を引っ掛けた異形の獣が映った。
獣は単体ではなかった。数えるのも気が遠くなりそうなくらいに犇く無数の獣がそこに居た。

(幻獣『剣虎』……!!聖獣『白虎』の下位種!そうか、入っちゃったんだ――『畜生ヶ道』)

ヨコシマキメは体内に異能の魔獣を飼っている。とりわけ凶悪な性質を持つのが"食道"に例えられるルート『畜生ヶ道』に巣食う幻獣達である。
ヨシノの能力は正しく道を選んでいた。選んでいたが故に、"胃袋"へ繋がる最短ルートとして、地獄より険しいこの道を選んでしまったのだ。
宙を舞いながら、ステラは叫んだ。

「シスター!ヨシノ!ヨコシマキメに咀嚼されたくなかったら――――今すぐこいつら根絶やしにするよ!!」



22 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:46:59 0
ム…!!
貴様、邪魔をするな!

…………………
……傀儡………傀儡だと…?
何故だ!何故貴様等は…どいつもこいつも人形の分際で俺の前に立つのかッ!!

《執事服の男が離れた間合いから拳を放っている。》

………何のマネだ?そりゃあ…
何だか知らねぇがテメェ何者だよ
その邪気、怖気が走るぜ…

  (魔溜眼の供給がおかしい…空気中のエネルギーか?
   気流が狂ってるな…何か、来る…!)

正義の味方の残骸?あぁ、確かに残骸みてぇだな
他人に殺しをさせようなんて……
正義の味方の風上にも置けねぇぜ…!!

《空気弾を灼熱の蹴りと燃え盛る拳で迎撃する。》
《リーが身体を動かす度に爆発音が鳴り響き、空気弾を相殺する度に衝撃が響き渡る。》

悪ぃなY…コイツ相手じゃ、他人の心配してる余裕は無ぇみてぇだ…

《迫り来る『正義』。リーもまた、彼へ向かい空を駆ける。》
《空気を、壁を、土を侵食し、腐敗させ死なせながら。》

俺はリー………いや…
今の俺の名は……カノッサ守護天使が一人…
命の守護天使、真餓鬼のベイルだ…!!

《左足で牽制の飛び蹴りを放ち、右腕に魔溜眼の力を込め始める。》

一気に行くぜッ!燃えろ!!
クリムゾン スライス ヘルキャリー
  紅脚三連獄渡!!

《ロー、ミドル、ハイの三連蹴りに加えて回し蹴りを打ち込む。》

ここだ…そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!
レイジングウィンド オブ ヘルミアズマ
     闇紫灼獄風!

《左足から撃ち出された炎を纏った瘴気が凄まじい突風となって『正義』に襲いかかる。》


23 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:47:41 0
「……はッ……ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

Yの覚醒。そしてYが鎮痛な様子で語った、黒の歴史と創造主の死という仮説。
しかし、それを聞いた『世界』が見せた反応は、驚愕、落胆、怒り、そのどれでも無かった。
彼が、右手で顔を抑え、哄笑と共に浮べる、この世界において始めて見せるその表情は

――――――悦び。

そうして、ひとしきり狂ったように笑った後、それでもまだ愉悦を
抑えきれないような様子で世界は語りだす。

「ククク……面白い! 実に面白いぞ愚民……いや、『Y』よ!
 何らかの変容はみせるであろうと予測はしていたが、
 まさか、我以外に失われた世界を認識できる者になろうとは、思いもしなかった。
 ヨコシマキメ<ここ>が世界の原初に近いからか? 或いは、内包された玩具の力か?
 ……いや、違うな。それが、規定事項、『世界の選択』だからか!!」

先ほどまで炉辺の石程度にしかYを見ていなかった『世界』の視線。
それは今では、圧倒的な重圧を持つ、己と対等の存在を見るものへと変化していた。

「カノッサが衰退した故に、創造主が死んだ?
 ククク……ありえぬな。Yよ、奴は生きているぞ。
 その事はたった今、貴様が証明したのだからな」

「考えよ『Y』よ。世界を黒の歴史に巻き込むべく動く組織の存在。
 ソレに気付き、怪物が跋扈し、生命力を奪う遺跡に潜入しようなどと考える人間が
 何人いるかを。『世界』たる我との手段である、強力な能力者の集団であるアルカナ。
 奴らを出し抜き、我の元までたどり着ける可能性が如何程であるかを。
 まして、その行動を力無き≪白眼の民≫が果たす確率が、本来存在するか否かを!」

『世界』は掌に握っていた紅のプレートを再びYに見せる。
先ほどまで黒く染まっていたそれが、中央に針の様な一点しか紅を残していないのは変わらない。
しかし、その全様は大きく変化していた。半分は漆黒。そして、もう半分は――――純白に。

24 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:49:21 0
「プレートとは『白眼の民』に適合する物だ。それ故、貴様に反応し、
 今この様な姿になっている。この様な『物語』じみた、本来有り得ない筈の事が
 何故か起きてしまっている。
 それは一体何故か――――簡単だ。『創造主』が選択したからだ!」

「全ての世界は、『創造主』の干渉を受け、奴らにとって都合の良い方向へ進まされる。
 我はそれが不愉快だ。この我の所有物たる世界を、観客気取りの存在に弄り回され、
 飽けば葬り去られる。我は、そんな事を認めん。
 ――――故に、我はこの様な手垢だらけの世界を『黒の歴史』に堕とし、
 我が新たな『世界』となろうと決めたのだ」

「これより我は貴様を殺し、『世界』を解き放つという目的を果たす。
 その為ならば、全ての愚民が消費されようと関係が無い」

そうして、『世界』は両手を広げた。まるでオーケストラの指揮でも執るように。

「――――さあ、覚悟はいいか『世界の選択』よ。この『世界』の究極を見せてやろう」


 ―  『創世眼』、発動   ―


次の瞬間、『世界』の背後の空間がひび割れ、黒い光を吐き出した。
そして、あふれ出す黒い光は即座に形を変え、七振りの剣となった。
それぞれが邪悪で禍々しい気配を放つその剣。その剣をかつての人間はこう呼んだという。

即ち、【大罪の魔剣】と。
『世界』はその究極の魔剣を一本手に取り――――Yへと投擲した。
凄まじい速度で放たれたソレは、まるで一個の弾丸。
直撃すれば、魂ごと消失する破壊が与えられる事だろう。

25 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:51:36 0
「ふむ、カノッサの守護天使とは、また懐かしい名だね。私が名前を知っているのは
 激情のアルベルト君とセルフィム君、他数名程度だが……む」

『――――――結城流死闘術 朧手』

リーの放った牽制の飛び蹴りを回避した後、更に放たれた紅蓮の三撃。
各々が必殺の威力であろうそれを迎撃したのは、『正義』の放った拳。
速度が現実や次元を超過し、文字通り『全く同時に』放たれた三発の拳だった。

だがしかし、能力により超強化されたリーの攻撃は、武闘の極みたるその拳の
更に一手上を行った。

『 闇紫灼獄風 』炎を纏ったその瘴気は――――『正義』を飲み込み、蹂躙し、壁に叩き付けた。


リーの攻撃から十数秒後。
空間をすら焼くその一撃は、未だに炎を絶やす事無く吐き出している。
生命を殺すその炎、ここに決着は付いた――――かに見えた。

「……やれやれ。殺害を願っている側としては文句をいうのも憚られるが、
 出来れば私のカッコいい私の顔を吹き飛ばすのではなく心臓辺りを吹き飛ばして
 貰いたいものだね」

燃え盛る炎の瘴気。その死地から、一つの影が立ち上がり、ゆっくりと前に歩き出した。
それは、執事服に身を包み、所々に火傷を負いながらも――――五体満足な『正義』の姿。

「ベイル君といったね。うむ。素晴らしい攻撃だった。早く硬く重く熱い。
 耐熱性の筈の私の服が台無しだ」

あくまでゆったりとリーへ歩みを進めながら、相変わらずの無表情で『正義』は語る。

「この私が認めてあげよう。ベイル君。君は強い――――そして、それだけだ」

『 結城流死闘術守ノ型――――逢魔刻 』

言葉の直後、リーには『正義』の姿が消えた様に見えたかもしれない。
だが、実際には『世界』は消えてなどいない。
気配を殺し、相手の『死角』に自分を入り込ませる特殊な歩法技法。
それによって、己の存在を認識する事を出来なくしたのだ。

「ベイル君。君は私が私を殺してくれと言った理由を把握しているかね?
 私は――――『私がこのまま生かされいれば、より多くの人間を殺す事になる』
 からこそ、君に私の殺害を頼んだのだよ?」

声は聞こえど姿は見えず。
そしてその声の出所すら解らせない

「無論、この様な事を人に頼むのは、正義の味方とは言いがたい。
 だがね。これを君に頼まねば、無意味に多くの人が死ぬ事になる。
 故に私は、君に罪を犯させる事で多くの人が助かるのならば――――ソレをする事を躊躇わない。
 そして、それを実行出来ないというのならば、君はただの悪だ。それも薄っぺらい子悪党だね」

「その程度の意思無き『悪』では、堕ちた正義の味方にすら届かないと知るがいい」

直後、リーの真正面の位置から『正義』の掌底が放たれた。
到達点はリーの鳩尾、人体における急所の一つ。
気を練り込み、発痙とかした高速の一撃は、直撃すれば並みの人間の命ならば
易々と奪えてしまうというレベルの一撃だ。


26 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:52:31 0
「―――妹とか、いるかな」

(修道女は、不意に、思い出す。【戦車】の鎧を外した時のヨシノの“反応”(リアクション)を。
 目の前の男の洞察力は既に確認済み。きっとこの発言も明確な根拠の上に出された推察なのだろう―――だが!
 それでも修道女は!目の前の学生がッ!【ロリコン】である可能性を捨てきることができないッ!
 それは言うなれば“気配”!長年培った現場主義の勘がッ!目の前の男の“本質”を伝えているっ!)

はいはーい、根拠も無く妙な推論を大真面目に語るのはやめようねー、やーめーよーうーねー。

(ヨシノの発言があんまりだったので、とりあえず首をホールドしたまま首筋の頸動脈ハズした辺りからナイフで薄皮を数枚削った。刃を外に向けて。
 掃除してから三週間以上経った夏場の三角コーナーを見るような目でヨシノを見つつ、目線でステラと会話する。
 依頼料なんぞ貰ってもいないが、アスラは人として、ステラの首から下がる“その人”とヨシノを会わせないようにしようと心に決めた)


…………【世界】…?へえ…そいつがアルカナのリーダー格って訳?
それじゃ組織っつーより集団って感じね…邪気眼を植え付けられた?そりゃご愁傷さん。

《居場所》……ねえ。ま、アンタがそう思うんだったらいいけどさ。
あんまり仲間意識持っちゃうと望まぬ所で痛い目見るかもよ?

そうそう、そーいう情報を待ってたのよ私は!
ヨコシマキメの胃袋……どんなお宝が眠ってるんだか、考えただけで涎が垂れるわね!

…っと、分岐点?地図は…ちぇっ、範囲外に来たか…。
でもまあ、こーいう時にコイツがいるわけで…ほいヨシノ、頼んだよ。

「『倒錯眼』発動――『白杖』の『誘導』を『分かれ道』へ――…… 」

…よし、こっちか。
にしても案外たいしたこと無いねえ、この遺跡。こりゃもーちょいでお宝に…つわっ!ステラ後ろ後ろ!!

(剣虎の爪が、ステラの横腹にたたきつけられる。咄嗟に懐のコルトで二、三発を闇に向けて放つ。
 弾がはじかれる音が数回響き、やがて闇から目の前に無数の異形の化け物が姿を現した)

……………前言撤回させてもらうわよちくしょう!


(コルトの弾が通用しないことで武器を変える。背中から炎の魔剣を取り出し、なぎ払うように一振り。辺り一帯に炎を撒いた)

手榴弾でもバラ撒くか?…いや、室内だ…ヘタに撒けばこっちがマズいか…
かといって一匹一匹片づけてたら埒があかないのは当然…ええい、誰だこんなルート選んだ奴!

(剣虎の群れと今にも死合わんとしたその瞬間、修道女は、否、ここにいる全ての者は、ヨコシマキメ最下層から響き渡る一人の民の【咆吼】を聞いた)


「う ぉ ぉ お お お お お お お お あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ ぁ あ あ あ ぁ ぁ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」


――――ッッッッ!

(何だ今の…声?能力者?何故?下から?最下層…まさか【世界】ってヤツ?
 否、これはそんなヤツの声じゃない…この声には何の能力も無い。これは…ただの………本当にただの絶叫!?
 だったら考えられるのは―――――)

下で【世界】と対峙する誰かがいる。そいつの勝機は絶望的そして―――【世界】は、倒さなければならない《絶対悪》である。
要するに【世界】でない世界を救いたきゃ最下層の“俺”を助けに来い――てこと?

(思考が、声に漏れる。下からの咆吼で怯みをみせた剣虎に斬り掛かりつつ)

どーするよお二方!胃袋の「メインディッシュ」の前に最下層に「前菜」があるらしいけど!?

27 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:53:46 0
戦場に休息は存在するのであろうか?

真に緊迫した状況であれば「気が緩む」ということはあり得ない。
達人同士の戦いは時に能動的な動きを伴わず、インターバルとは相互牽制タイムを指す。


そんな中、疲労困憊の漆黒の執事は、既に戦闘続行がためらわれる状態であった。

(シェイド氏の秘蔵の座学を聞かせていただくためにも、しばしの回復時間を要するようですね。手始めに、手薄になった大学の医務室あたりを狙って…)

『rrrrr』

平和的でないプランを組み立てていると、懐の携帯用の電話が鳴った。ディスプレイには彼の雇用主の名が表示されている。

「(こんな忙しい時に……)私です。一体何のご用でしょうか?」

『せっかく『あなたの』お嬢様がわざわざねぎらいの言葉をプレゼントしてあげようって言うのにずいぶん冷たいのね。
まあいいわ。ていうか、もうそんなにボロボロなのかしら?『おつかい』もできないような執事はどうなるか、わかってるよね。』

(くっ、やはりどこかから視られているようですね……)
「もちろんです、お嬢様。必ずや目的を果たして見せましょう。」

『そうそう。プライオリティは悪意の者にプレートを渡さないこと、そしてヨコシマキメに今いるっぽい『世界の破壊者』を仕留めること。どう、見つけられそうかしら?』

(おそらく先の戦闘中に感じた二つの大きな邪気の衝撃が彼らのものなのでしょうね。)
「ええ。どうやら足がかりは確保できたようです。それではこれから回復をして…」

『そのことなら心配いらないよ♪』

言うや否や、リクスの手元に一つの瓶が届いた。

『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、だったかしら?
モンスターすらポケットサイズに縮小したりネットワークを介して遠くに送れるくらいなんだから、これくらい訳ないのよね』

それはフィクションの話だろうよ、と突っ込みを入れつつもリクスは瓶を手に取る。
そこには『せ い な る は い』と書かれていた。

『どんなキズでもたちどころに治るよ!あたしが折角出してあげたんだし、もちろん大事に使ってくれるよね』

(!!『聖なる』灰などというものを摂取すれば邪気眼と反応して副作用があるのは必定、しかし執事には、主の期待に応える義務があるのです!!)

何かを得るためには同等の対価を要するのがこの世の真理である。リクスはたった数分の耐え難い痛みで、全快という果実を手に入れた。

(尤もお嬢様は、対価を払わず手に入れられるようですけどね。それにしても、執事服まで直っているとは、全くお嬢様は何者なのでしょう)

「何にしても、まずは調律機関の方々との合流が先決でしょう。」
(事態は急を要しているようですが、先程の『<ウォールオブバベル>』レベルの術式を見せられては、同行以外の選択肢はひどく魅力が失われて見えます。
特に私の少ない手数では、この先多くの使い手と遭遇するうちに情報を共有されてしまう惧れが大きいですからね。)

そう言いつつもリクスは巨大な邪気の源泉の方に歩きだす。目的地は、おそらく皆同じなのであろう。


28 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:54:57 0
宙を行く。
六機の脚部の足裏にそれぞれ搭載されたマジカルスラスターは魔力の陽炎を吐き出し、1tを越えるライドムーバーの
巨大質量を用意に空へと運ぶ。蟹の目にあたる部分に据え付けられた二つのメインカメラが届ける望像は流れる大気と森の陰影。
情報が絶えず運ばれるコックピットで操縦桿を握るのは、狂喜にも似た表情の小柄な軍人である。

「ひゃァァーーーはァァーーーーーーーー!!テンション上がってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ムライは日本に生まれ日本に育ち、陸上自衛隊の機甲科隊員として戦車の操縦手を担っていた。
しかしその類稀なる操縦へのセンスとエキセントリックなまでの性向は隊という集団の中で災いし、規律違反や単独行動の目立った彼は
クビになる一歩手前にまで立場を崩落させていた。この国の就労基準でそこまでなるのだから、相当なものである。

『たのしい?たのしい?うれしょんしちゃう?』  『下品』

左右のモニターが燐光と共に音声を放つ。レフティの懸念は杞憂であった。長時間の作戦を考慮して設計されたパイロットスーツには、

「既にオムツが内蔵されてんだぜぇーーーー!!おいおいお年寄りにも優しい親切設計だな!?」

学習型AIである彼女たちの本体は『シザーズ』の内部サーバーにインストールされたプログラム集合体であり、
戦闘経験やパイロットとの会話等から自己的に学習し新たな知性を身につけるというもの。魔力という奇跡のエネルギーがあってこそ
実現する技術である。"左右"だけでなく、ライドムーバーには魔力や術式を応用した技術が随所に盛り込まれていた。

「さぁて、とりあえずどこに喧嘩売りに行くよ?レイジンさん達のとこに助太刀すんのも悪くないけど、あの執事がいるからなぁ!」

『おーばーきる?かじょうせいあつ?』   『適材適所。我々、他、適任有』

「そうさな!大隊と能力者で囲んでフルボッコにしてる中にライドムーバーで降りても大して暴れらんねぇだろうしなぁ!」

無能力者のムライでもあの執事が唯並ならぬ戦闘能力を有していることは感じ取れた。レイジンはもっと明確に把握していたようだが、
ムライをこちらに行かせたのも執事の実力を見込んでのことだろう。レイジンがそう判断した以上、ムライはそこに疑問を抱かない。

「とりあえず他に大学まで出てきてるアルカナが居ないか索敵ついでに虱潰し――――おわっ!!?なんだ!」

ムライの言葉が途切れる。遮るような衝撃が『シザーズ』全体を揺らし、奇襲に遭った事実だけを運んでくれる。
すぐさまコンソールに指を走らせ、機体制御プログラムと俯瞰用射出カメラを起動する。

『わーにんぐ!えまーじぇんしー!てきしゅうてきしゅう!』   『狙撃。方向真下。損傷軽微。復旧即可。村井大丈夫?』

「あぁ、酷く揺れたが大丈夫だぜ。それより敵か、地上から撃ってきてやがるな……下りるぞ相棒!
 レフティは武装の構築、ライティは機体制御と俯瞰情報の処理!いくぜ……!!」

『あいさー!』               『了解』

ハッチの傍に設けられた小型の射出機が開き、中から小型の球体が飛び出した。球体は機械で構成され、その中心部を占めるレンズが
青空を反射して鈍く光っていた。物理法則を無視した浮遊術式で宙を漂い、レンズのピントを自身の出てきた蟹へと合わせる。
技術班の開発した、機体の状況を客観的に捉えるための俯瞰カメラである。射出されたそれは俯瞰から見た機体をリアルタイムで送像する。

「脚の一本が動作不良を起こしてる……なんじゃこりゃ、巻きついてんのは黒い――鎖か?」

地上の狙撃者が放った鏃は脚部装甲を少しへこませただけだったが、追随する鎖までは無効化できない。
六本の脚の一つに絡みついた鎖は、今や地引網かトローリング船もかくやといった膂力で下方へと牽引する。対するムライと『シザーズ』は、

「上等だオラァァァァァ!!!」

敢えて逆らわず、機体を下方へ向けてスラスターを加速させた。結果生まれるのは流星の如く降ってくる巨大な鋼の塊。
レフティによって構築された銃口から鉛の雨を吐き出しながら、鋼の蟹は地上の襲撃者へ向かって地獄のメテオドライブを敢行した。


29 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:56:01 0
【目の前でステラが吹っ飛んだ。彼女の居た空間に代わりとして存在する爪は、異形の罠が待ち構えていたことを如実に示している】

んなっ、ステラ!?何が起こった?あれは獣、それも幻獣クラス……なんでこんなとこに?

【理屈が疑問を発した刹那、天啓にも似た発想が脳に満ちる。フラッシュバックする記憶。異形の爪。散っていく仲間達。
 届かなかった手。咀嚼される人体。吐瀉。鉄の匂い。水音。血の色。赤。赤。赤赤赤赤あかあか赤赤赤赤赤赤アカアカアカ】

――……まさか、まさかこの道はッ!!

(知っているぞ……俺は『この獣達を知っている』ッ!ヨコシマキメの最後の罠。怪物の消化経路。かつて夢が途絶えた場所ッ!!)

【震えが来る。膝はがくがくと揺れ、歯の根が合わずに何度も音を鳴らす。忌々しい記憶の奔流があふれ出る。
 殺意として。戦意として。闘志として。震えは足を止めず、故にそれは武者ぶるいとなった】

待っていた。

                   俺  は  お  前  等   を  待  っ  て  い  た  ぞ  !   !   ! 


【加速する。両足の弾性を付与する術式『護謨疾走』を発動し弾丸の初速を以って剣虎の群れへと突入する】

覚えてるか?そのちっぽけな獣の脳味噌で。

憶えてるか?その穢れに満ちた爪の感触で。

識っているか?その死臭に塗れた牙の味を。

お前等は。

【髪より薄く鉄より硬い刃。それが剣虎の爪であり、主たる武装である。無数の群中にあってそれは最早林立した剣の森】

かつてここでお前等が囲み、その餌にした旅団があった。

規模はそんなに大きくない。二十にも満たない小さな集団だった。

幼い俺と同じくらいの子供も何人かいたんだ。

【そんな致死の林中を、ヨシノは駆ける。刃の隙間を縫うこともせず、ひたすら踏み越え砕くことで道を開いていく】

全員喰われた。

お前等に、その穢れた爪で、牙で、脚で。

蹂躙され陵辱され嘲弄され襲撃され加虐され冒涜され痛撃され侵犯され追討され咀嚼され最期に嚥下されてッ!!!

【遺跡の通路、剣虎達のひしめき合うそこを刹那の時間で突き抜ける。ヨシノの姿が向こう岸に見えた瞬間、】

俺以外にッ!生きてる奴はもういないッ!!
いいか、よく聞け獣共。お前等が命を繋ぐその糧は、俺の仲間の血肉だ。


返してもらうぞ。

【ヨシノが駆け抜けていった道、その周囲にひしめいていた剣虎達が一斉に血と脳漿を撒き散らしながら倒れていった】

30 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:57:26 0
【血の海に立つ。見れば一様に斃れた剣虎達は頭部や頚部や胸部を砕かれ、脳漿や血液や髄液を噴出している。
 破壊された箇所はどれもが、生物の構造的に脆い場所、つまりは『急所』と呼ばれる部位だった】

何が起こった、って顔してるな獣共。教えてやるよ『倒錯眼』の真骨頂――!!

【そしてまたヨシノは奔る。疾駆するその手には白く光る一本の棒。血糊を受けたにも関わらず極彩色を纏うのは『白杖』】

『白杖』でお前等の『急所』に導いた……『護謨疾走』の速度で接近し、定めた範囲に入った敵の急所を半自動で捉え――

【――邪気と魔力で強化を施した杖の一撃を叩き込む。魔剣や銃弾に比べれば軽い打撃だが、
  脆い箇所へ一点集中すれば骨や爪など容易く砕け散る。本来生物に用いる技ではないが、】

ドライヴマニピュレイト
 『弾弓閃撃』……獣相手なら申し分はないだろう。殲滅してやるよ、ケダモノ。
ヨコシマキメに寄生してぬくぬく生きるだけの、生産性の欠片もない、ステロタイプもいいとこな――雑魚が。

【言うと同時にやはり駆け抜けた分だけ斃れた獣が轍となる。立ち込める血と脳漿の匂いにむせ返りそうになる】

【だが】

俺はお前等を赦さない。
生物にとって最悪の事態って何だかわかるか?種族そのものが滅亡することさ。
俺はそれを味わった。だからお前等を赦さない。種の罪は種の償いによって初めて還る。

だから、

【肩で息をする。もともと戦闘向きの体ではないが、能力を並列発動し瞬速の世界を駆ければ体力は削がれていく。
 それでもヨシノは闘いに身を投じる。よたついた彼へと飛び掛った剣虎を一撃の下に叩き潰し、叫ぶ】

――だから。

お前等を。

根絶やしにしてやるよ腐れ遺伝子共ォォォ――――――!!!

【犇めく剣虎の数に変わりはない。斃しても斃しても湯水のように敵が沸いて出る。魔剣を振るうアスラも、光を纏うステラも、
 その顔には疲弊の表情が浮き始めている。そして彼等は聴いた。地の底から這い上がるようにして響く何者かの雄たけびを】

「どーするよお二方!胃袋の「メインディッシュ」の前に最下層に「前菜」があるらしいけど!?」

【アスラが黒髪を振り乱しながら叫ぶ。それは現状の打破を前提とした誘い。故にヨシノの答えは決まっていた】

オーケー。こんな状況じゃラチが開かない下にも向かえない。本当はこんなこと言いたくはないんだが……死亡フラグだし。
でも言うぞ。選択肢がないのなら逡巡は等しく時間の無駄に他ならない。だから言うぞ。よく聞け姉さん!


――ここは俺に任せて先に行け。

【最下層へ続くであろう道がある。そこだけ剣虎が寄り付いていないのは、放たれる濃厚な邪気に獣の本能が畏怖しているからだろう。
 直感よりも明確で、推測よりも感覚的な答えがそこにはあった。だからヨシノは道をつくる。修道女が先へ進めるよう、獣のスクラムを突破する】

さあ行け、これは俺の戦いだ!殲滅するために!"これから"を掴むために!未来への露払いをしよう!

【極彩色の衝撃が拡散すると同時に、先へと続く道が開いた】

31 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:58:25 0
<世界基督教大学・屋上>

(白いスーツを着たホスト風の男がリクスとシェイドの戦闘を観察していた)

へー、なるほど。まさかあのシェイドとかいう男がやられるなんてね。
『星』、『吊られた男』、『教皇』の三人を苦も無く撃破したって言うのにね。
まあいいや。これでそこの彼が「あの忌々しい女」の手駒だっていうことがわかったんだし。

(指を鳴らす。足元にダイアモンドの階段が生まれる)

さて、オレ様は彼を処分しなきゃいけなくなったわけだ。
まあ、しょうがないか。このセカイは「大いなる意志」が支配してるんだからね。
無関係なあの女に転がされるのは不愉快だし、なによりオレ様、御鏡皇子(みかがみのみこ)はあのお方の片腕なんだ。黙っちゃいられないさ。

(一歩一歩階段を下りて行く。その先には、リクスが入ろうとするヨコシマキメの入口)

キミ、あの女に送り込まれたエージェントだよね?悪いんだけどここには入らないでもらえるかな。
今から「世界の在り方をかけた戦い」をするんだよ。

(もっとも、それすらも「大いなる意志」の為せる業なのかもしれないけどね)

だから・・・・・・あの女には手出ししてもらうと困るんだ。


32 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:59:37 0
空が鳴動する。
『吊られた男』とマリーは上を見た。迎え撃つために。震える空気は巨大質量の降下によって押し出されたものであり、吹き付けるような
風が二人の頬を叩く。マリーの高解像度スコープアイは降ってくる鋼蟹の脚部にスラスターの光芒を視認する。すなわち、

「あの蟹、こちらに向かってさらに推進力を投じていますわ!数秒ともたずに地面へ激突すると算出できます」

「なるほど僕らも巻き添えにするつもりだね?避けるためにはこっちが労力使って彼を安全に降ろしてやらなきゃいけないわけだ。
 攻めと守りを同時にこなせる寸法か、なかなかやるね"あれ"の中の人も。ここは僕の出番だね?」

判断は一瞬である。『吊られた男』は自身の邪気眼を発動した。邪気を撚り合わせて構成された『あや吊り糸』を指先から伸ばし、
アンカーの鎖へと接続する。内包する概念は支配、生み出される動きは自在。

「とりあえず適当なとこに堕ちてもらおうか――鎖の指揮権もらうよマリー?」

マリーの頷きを端目に『吊られた男』は鎖を支配する。漆黒の魔力鎖は牽引によってピンと張られていたが、それが不自然に撓み軋み
曲がっていく。張力を保ちながら曲げるという暴挙染みた挙動を以ってして、降ってくる蟹の軌道が遠くへとズラされていく。

『吊られた男』の『傀儡眼』は糸で繋いだ万物を支配し操る、遠隔型支配系に属する邪気眼能力。
同じく支配系の『太陽』やシェイドのように自ら支配物を生み出すことは出来ず糸を繋ぐリスクを負うものの、故に操る対象に制限がない。
生物や魔力生成物にも作用し、白虎やマリーを御していた支配は今、鎖へと干渉している。

「!!――撃ってきます」

マリーの眼が吐き出される銃弾を捉えた。蟹から放出される銃弾は機銃のものであり、つまりは

「通常武装のようですわね。この程度なら、」

左腕の<ギミック>が展開する。パイルバンカーの過反動によって吹っ飛んだ左腕は、技術開発局の有志によって
今や飛躍的なグレードアップが施されている。既存の杭打ち機に加え、左だけの特殊パーツとして物理バリアの展開機構が搭載されている。
使う。

「雨ならば屋根で防ぎます――たとえそれが鉛の雨であっても。【ギミック:ルーフシールド】起動、局所展開」

左腕が唸り、魔力が凝縮する。生み出されるのは半透明の魔力盾。ばら撒かれる機銃弾はことごとく盾の内部に鈍い音をたてて埋まり、沈黙した。
『吊られた男』がひゅう、と口笛で称賛するのを聴覚素子に捉えながら、離れた位置に加速の速さで堕ちる寸前の蟹へと眼を向ける。

「このまま放っといても墜落するでしょうけど、」

「――ダメ押しで撃っとこうか。ツメの甘さはギリギリまで削っておきたいね?」

『吊られた男』は頷くと、『あや吊り糸』を展開する。空中に渦を巻くようにくるくると配置し、渦中心部を頂点とした円錐の形をつくる。
先端を堕ちかけのライドムーバーへと向け、円錐の円の部分――底部にマリーが右手を翳す。
練り上げるのは魔力の奔流。生み出すのは漆黒の鏃。

                         ライフリングリボルヴ
【――生成系及び干渉系攻性術式<廻転する刹那の裂破>――射出します】

糸によって形作られた円錐の中で、打ち出された楔が強烈な回転と、魔力による威力強化を上乗せされていく。
それは廻るほどに強く絡みつき、結果内在魔力の消費を抑えつつ乗算で威力、貫通力、精度のどれもを底上げすることを可能とする。
燃費の悪さ――シェイド戦で思い知らされた二人の課題点を克服するために編み出した術式である。

射出する。

空気摩擦で燃え上がる程の回転を得た楔は、抵抗が無いかのような美しい弾道を描きながらまっすぐと飛翔した。


33 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:00:22 0
かち上げられた空中でステラは一回転し、壁につけた脚を屈めることで衝撃を緩和する。
着地したときには既にアスラとヨシノは散開しており個々の戦闘と開始していた。

(体は動く……防御術式が思った以上に効いたみたいね。これなら!)

申し分はない。再び振り上げられた爪を剣虎の体ごと収束光条で細切れにしながら彼女は駆ける。
ふと、胸元で揺れる緑玉の遺眼が震えたような感覚を得て、ステラは苦笑した。

(大丈夫。――いっしょに行こう)

眼球とほぼ同じ径をもつこの宝石の中には二人分の意志が込められている。彼女の妹『星』と、彼女に残した『悪魔』。
ならば戦闘という場にして振動するこれは『悪魔』の武者震いだろうか。ステラは握った拳をゆっくりと肩の後ろへ引いていく。

「……戦おう、『悪魔』。技を借りるよ――」

『暁光眼』を発動し、支配光は過去を遡る。遺眼を媒体にして、呼び出すのは『悪魔』の痕跡。
光速とは一瞬ではない。光にも進める限界があり、故に遥か宇宙の果てにある星の光は何年もかかって届くという。

つまりッ!光とは『過去』!それが一瞬前か一億年前かの差異!ステラの『暁光眼』はその差異を自在に操れる!
喚起されるのは在りし日の『悪魔』!彼が用いた闘技の極意を、今ここに『再現』するッ!

「邪気を闘気に光を業に。今の私じゃここまでしか再現できないけど……『悪魔』流――」

拳が青白く光り始める。練り上げられた闘気の奔流が収斂していき、唸るような鳴動を得る。
技の構成を、光が知っていた。技の威力を、体が知っていた。だから作れる。再現できる。


                        『 白 虎 掌 』!!!!!


『悪魔』印の闘気弾が、ステラの支配を経由してこの世に再び顕現した。

34 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:03:04 0
ステラが戦闘を開始した直後、剣虎で埋め尽くされた『畜生ヶ道』の端で爆発にも似たざわめきが起こった。
一瞬の閃きと同時に多数の剣虎達が血や脳漿を噴出して倒れていく。それは通常の攻撃で得られる成果ではなく、
なによりステラの驚きはそれを行った人物の意外性によるものだった。

「ヨシノ!?隠れてると思ったのに――それよりも、」

強い。圧倒的な強さである。不意打ちとはいえステラに一撃入れるほどの強靭さを持つ剣虎達に囲まれているにもかかわらず、
微塵も手を出させていない。一瞬で接近し、的確に急所を破壊し、迅速に駆け抜ける。それの繰り返しによって、一方的な攻勢を維持している。

(それなのになんであんなに悲しそうなの?悲しみと喜びと怒りが同時に存在してるような、まぜこぜの感情!)

心理を感じ取る術に長けたステラでさえ、ヨシノに内在する機微を明確に判断することができない。
ただ彼の独白によって事情を察するのみである。

(復活したヨコシマキメにいくつもの盗掘旅団が挑んでは喰われていった、って話はよく『月』から聞いてたけど……)

その生き残りだろうか。ヨコシマキメは自身の中に立ち入ったものをすべからく餌食にするが、いくつかの例外が存在する。
アルカナのように対吸収装備に身を固めた者、ヨコシマキメを飼いならす者、そして――

(『ヨコシマキメに気に入られた者』……素養や天恵や幸運を持ってて、将来的にもっと美味になって還ってくる期待がある人間)

つまりヨシノは最後なのだろう。仲間の命を引き換えに、ヨコシマキメに見初められた人間。
その人生と運命は、復讐という言葉で縛り付けられ雁字搦めにされているのだ。

「どーするよお二方!胃袋の「メインディッシュ」の前に最下層に「前菜」があるらしいけど!?」

「――ここは俺に任せて先に行け」

最深部からの咆哮が耳朶を打つ。アスラが魔剣を振るいながら提案する。ヨシノが白刃を駆けながら託す。
ならばステラは応えなければならないだろう。それがヨコシマキメの攻略であり、全員が求める回答である。

「……行こうシスター!最深部に!――――『世界』が世界を臨む場所へ!」

言いながらステラは多段展開したレーザーで道を塞ぐ剣虎の群れを焼き払った。


35 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:03:59 0
                   ブ ラ フ
(チッ……だよな、この程度の"はったり"じゃあ揺さぶれないよな……ッ)
(分かってる……分かってるが、少なくとも動機の確認にはなった……良しとするか)

(――――創造主、か。俺はタダの邪気学者だ、んなもん本気で信じてる訳じゃない)
(だが……もし、もしそういった存在がいるんだとしたら……訊ねてみたいことがある)


(アンタ……一体どうして、こんな展開を望んじまったんだよ……?)


……ククク……興味深い現象だ。漆黒と純白、表裏で二色に分かれたプレートか。
我も見るのは初めてだが……どうやら、黒一色に染め上げられる心配は当面無さそうだ。
もっとも……我が汝に葬られれば、白は黒に負け消え去ってしまうのだろうがね……クック。

(グウ、ア……精神が……意識が、磨り減っていくみたいだ……何だ、これ……)
(……そうか……ッ、せめぎ合ってるんだ……! プレートの、白と、黒が……ッ)
(殺されてもダメ……根負けしてもダメ……ハハッ、荷が重すぎるぜ……く……!)

(い…意識をしっから保て……ッ、気を抜くな……抜けば一瞬で、白は黒に侵蝕される……!!)


<磨耗する意識の中で、青年が辛くも視認したのは……黒き光と、7つの剣>
<青年は確かにそれを、史料で目にしたことがあった。その呼称を、『魔剣』>
<特にあれは【大罪の魔剣】という種類のはず……七つの大罪にちなんで、全部で7振り……>


……な……んで……? まさか……アンタの"眼"の力の、正体は……!!


36 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:04:40 0
<――――その瞬間、一つの【大罪の魔剣】が弾丸のような速度で中空を駈け抜け>
<禍々しき黒の光の尾を描きながら、鈍く煌めく剣先で青年を肉片に変えようと飛来する>

<白に侵蝕してくる黒を意識で闘いながら、青年は地面を乱暴に蹴って横へ転がる>
<同時に青年の顔面があった空間を黒き光芒となって通過する魔剣……死を免れた>

<その超人的な回避を可能にしたのは、『世界の選択』たる所以なのであろうか>
<ソレハドウカナ………無慈悲に疑問を投げかけるのは、血の滲む右肩を庇うコート>

<今まで回避不能と思われた数々の致命的一撃の回避を可能にした青年の運勢>
<それが『世界の選択』なら、この魔剣の一撃は、その選択に傷を負わせた……>

<この世界に生きる者にして、この世界を葬り去ることを決意した、強大なる意志の一撃>
<これぞまさに、こう謳われるに相応しい――――“『世界』の究極”、と>


ぐ……あぁあ……ッ!! くっそぉおぉぉお……そうか……その眼だったのか……ッ!!
こんなややこしい事態を……引き起こしてやがったのは……ッ、“創世眼”……ッッ!!


<青年は改めて悟る。「自分1人で、こんな滅茶苦茶なヤツに勝てる訳がない」と>
<そして改めて思う……勝機があるとするなら、それは「能力者」しかいないのだと>

<抉られた傷の痛みが青年の意識を刈り取り、侵蝕を休まぬ黒の手を恭しく誘う>
<しかし、また青年は立ち上がる……純白は漆黒を抑え、プレートの表裏の割合を等しく保ち続ける>

<波濤のように寄せる耐え難き痛みの中で、無力な青年はただひたすらに信じた>
<この果てしなく強大な“『世界』の究極”を止められる者達の、駆けつけてくる足音を>

<それまで、『世界の選択』は諦めない>


うおぉおおぉおおおおぉおおおおぉぉおおおおおおおおおおッッ!!!
殺されてたまるかッ、てめえなんかにッッ、殺されてたまるかぁぁぁあぁああッッ!!!


37 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:05:29 0
「絶叫」について自分なりの推論を叫ぶように二人に伝えた刹那、アスラの頬を「何か」が通った。
それは以前の敵【戦車】にも似た超高速の動き。最早一つの弾丸である「それ」は、通り過ぎる剣虎達の急所を《白い刃》で迅速に精密に突き通して行く。

アスラは「それ」の正体に気付く。
さらに「それ」が纏うあまりに黒々しい闘志を感じ取り、「それ」がどうして「そうなっているのか」にもおおよその見当を付けることができた。

(これがアイツの【生きる意味】か…ま、否定はしないけどさ)

ヨシノが剣虎を切り払い道をつくり、ステラが多段階レーザーで塵を焼く。
奥の階段から漂うのは、常人たるアスラですら感じられる程の《邪気》――――反吐が出る。

修道女は道へ一歩踏み込み、足を止めた。迷い、畏怖、そんなヨシノを愚弄するような理由ではない。
彼女は二度と帰れぬやもしれぬこの道を渡りきる前に、言うべき者に、言うべき言葉があった。

「ヨシノ!」

剣虎の群れの中、舞うように戦うエプロンドレスの青年へ――――

「【白い婦人の絹衣】はアンタに貸しとく!レンタル料踏み倒して死んだらタダじゃおかないからねっ!」

――――貸した物はキッチリ返せ、と。

最早逡巡するには理由がない。
修道女は血と肉の焼ける臭いの中、【世界】への一歩を踏み出した。


38 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:06:33 0
【修道女】と【太陽】が通路を走る。
先刻前から道は徐々に整備された者へと変わって行き、今やそれは立派な回廊と言えるものになっていた。

しばらく走ると、やがて一際大きな扉へたどり着く。
既に凡人ならば焼け付く程の邪気が流れているが、アスラはその邪気すらもドアから「漏れ出て」いるものであることに気付く。
この向こうにはきっとこれ以上の《邪気》が吹き溜まっているのだろう――――目眩がする。

二人の女はその扉の前で立ち止まり、誰に言われるでもなく改めて身を引き締めた。
【修道女】は自らの頬を軽く張る。

「覚悟はいい?私は――――できてる!」

その言葉が合図だった。
アスラは大扉を無遠慮に蹴り飛ばし、中に転がりこむように飛び込む。

中に居たのは数人の男。まずは部屋の中央で剣を持つ男―――邪気の濃さから、誰に教えられずとも理解る。【世界】だ。

そして【世界】と対峙する男。おそらくは先程の叫び声の主だろうか。
左腕に封印とおぼしき包帯を巻いてはいるが、雰囲気からして一般人にしか見えない。

少し離れて、ローブを纏う巨漢の男と、その死角を取り続ける執事服の男。
彼らはどちらが【世界】に与する者か分からない。状況的には執事服の方が有利にも見えるが。

何処へ行くかは身体が理解している。足がひとりでに動き、思考は後から付いてきた。

(倒すべきは【世界】…あの丸と執事のどっちが敵か分からない以上、まずはあの男を一度【世界】から引き離すっ!)

【世界】はやがて後方に黒い光を放つ空間を形成する。あれこそが【世界】の持つ《邪気眼》――――息が詰まる。
そこから【世界】は禍々しく邪気を放つ剣を一本、目にもとまらぬ早さで投げ抜いた。
青年は肩に傷を負い、その場に伏す。が、やがてゆっくりと起きあがり、叫ぶ。

「てめえなんかにッッ、殺されてたまるかぁぁぁあぁああッッ!!! 」

それは力無き者の咆吼――――

「全く――本当に――その通りよっ!」

【世界】と青年の対峙する地まで一息で詰め寄り、そのまま押し倒すように【世界】と青年を一度引き離す。

「上層まで響くアンタの「声」を聞いた……味方させてもらうわ!」

身を起こし、部屋に生きる全ての者を見回す。
懐から二丁拳銃を取り出し、胸元で十字に構えた。

「ただの人間こと盗掘屋アスラ!世界を賭けたこの戦い、人間として参加させてもらうよ!」

――――もう、後戻りは出来ない。そんな覚悟を刻み込むように。

39 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:07:39 0
今まさに"怪物の口腔"に入ろうとしたリクスは、不可解な悪寒を感じた。
背後に現出したダイヤの階段、降りて来るのは1人の男。

(ダイヤモンドの階段とは、ずいぶん贅沢な方ですね。お嬢様にプレゼントしたら、少しはご機嫌取りになりそうです。)
「ここに他に気配もない以上、あなたは私に用があるということですね?」

リクスはわかりきった問いかけを行う。答えがわかっていても、コミュニケーションからボロを出すことに一縷の望みをかけるのがリクスのやり方である。

『キミ、あの女に送り込まれたエージェントだよね?悪いんだけどここには入らないでもらえるかな。
今から「世界の在り方をかけた戦い」をするんだよ。』

(どうやら彼は私の正体をご存知でいらっしゃるようです。それどころか、セレネお嬢様を『あの女』呼ばわりするとは、一体どれ程の方なのでしょうか。
何にしても、こんなところでつぶす時間はありません。戦うにせよスルーするにせよ、早い決着が求められるというわけです。)
「それは困りますね。あいにく私はこちらで『お使い』をしなければならないのですが。」

急ぐ、と決めたリクスは速やかに意思表示を行う。もちろん、邪気を発するのも忘れない。

(彼も何か目的がおありなようですし、衝突は避けられませんね。
とりあえず、彼の能力は「炭素を操る能力」なのか「元素を操る能力」なのかはたまたどちらでもないのか、早々に見極めてしまいましょうか。)
「『アイスソード』」

リクスの周囲にまたもや氷剣が生み出される。

「柄が付いているのにも、きちんと理由があるのですよ。」

柄がつくことにより、氷剣は、さながら十字を模ることとなる。これもまた、邪気を持つ者へダメージを与える、『象徴の理論』である。

(まずはそれが本物のダイヤであるか、試させていただきましょう!)

40 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:09:03 0
『礎』という言葉は
              前に進むためにあるのだから
                                   振り返ることも顧みることも赦されなくて

                   ――――――――

「【白い婦人の絹衣】はアンタに貸しとく!レンタル料踏み倒して死んだらタダじゃおかないからねっ!」

言われてヨシノはふ、と息をつく。金取るのかよ。いやこれは姉さんなりの『死なないでコール』なのか、いずれにせよ死亡フラグだ。
苦笑代わりに右手を挙げ、疲労に侵された身体を揺らして次の動きを作る。
返答は踏み込みと打撃の音で作り、ヨシノは再び駆けた。

傷は負っていない。そもそも剣虎の爪をまともに受ければ八つ裂きは確定である。
だからこの闘いは『如何に攻撃を受けずに素早く立ち回るか』にかかっている。
即ち究極のヒットアンドアウェイ。冷静さを欠けば幾段ものプロセスをすっ飛ばして即死に繋がる、ギリギリの綱渡り。

(問題ない。頭は理屈で動いてる。視界も広いし気分もクリアだ)

速さと攻撃力を補えてもヨシノには打たれ強さと持久力が皆無である。
術式により高速化された視界の中では緩慢に動く剣虎の刃も、客観世界では高速で振り下ろされる致死の爪。

(だが、動きは読める!所詮は獣の知能、いくら速くたって直線でしかない――!!)

思考が結論を出した瞬間、目の前に刃が迫ってきた。横薙ぎの一撃。大振りの攻撃範囲は思ったより広く、回避が間に合わない。
止む無くヨシノは眼前に白杖を突き出し爪撃を受け止める。衝撃は破砕の音に混じり、僅かに軌道を逸らされた爪が髪を掠めて通り過ぎる。

(チッ、思ったより限界が早いな――)

白杖が折れている。グリップから先が、抉られたような傷痕を残してごっそり失われていた。
背後からは既に返す刃で振り上げられた爪が降ろされようとしている。断頭台にも似たそのモーションはヨシノの命を刈り取るのに
幾許の抵抗をも得ないだろう。攻撃圏から脱しようにも前門の虎後門にも虎の密集状態に逃げ場はない。

だが!

だがッ!

「奪らせるかァァァ――ッ!!」

だからこそ、ヨシノは迷わない。退路を絶ったのは正解だ。背水は覚悟を研ぎ澄ませ、選択肢がないなら迷う必要もない。
軸足に回転を加え、ヨシノは振り返る。
必殺の一撃を叩き込まんとしている剣虎のその鼻っ面に折れた白杖の先端を突きつけ、唱えた。

「――伸びろ!!」

白杖に施術された伸張術式は生きている。流し込まれた魔力に反応し一瞬で伸びる棒の先端は、然るべき場所に叩き込めば立派な攻撃だ。
刹那の時を持って白杖は抉られた分だけの長さを補うべく伸びる。白色の閃光となった杖は、剣虎の鼻っ柱を正確に捉えて突き刺さった。

41 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:10:04 0
ヨシノ=タカユキには『かつて』がある。

ヨコシマキメに散った調査旅団、トレジャーハンター達の一人。それが彼の前身だった。
十年程前の話である。

(団長……リフィル……ボルト……ゼブル、――――みんな)

当時のヨコシマキメは復活したばかりであり、難攻不落の"怪物の口腔"であることが周知ではなかった時代。
命に関わるような任務である場合は精鋭だけが赴くが、今回の探窟にそれは当てはまらないだろうという判断のもと、
非戦闘員である在りし日のヨシノもまた当時のヨコシマキメへと挑むことになった。

安全だったはずだ。異能関連の遺跡を専門に扱う旅団として、罠や魔獣に関する知識もノウハウもあった。
それらの災厄を撥ね退ける実力もあった。交渉に秀でた団長の下、優れた術式使いや戦闘系の能力者もいた。
『雷撃手ボルト』 『悪食のゼブル』 『北欧半裸女リフィル』 ――――それぞれが一騎当千として名高い手練達である。

故に、

全滅した理由はただ一つ。慢心だったのだ。

『畜生ヶ道』で突如剣虎の群れに襲撃され、為す術もなく無力な非戦闘員達から切り刻まれていった。
"食道"は『胃袋』まで続く一本道。旅団は最後の最後で、ツメを誤った。警戒を怠ったのだ。

ヨシノは武闘派達について回って進んでいたため最初の襲撃で犠牲にならずにすんだが、仲間が殺されて激昂した戦士達に
冷静な戦闘が出来るはずもなく、剣虎達の徹底された集団戦法によって削り殺されていった。
精鋭だけならば、こうはならなかっただろう。全滅する前に、術式使いの手によってヨシノは擬似的な『歪』へ落とされ、そして逃がされた。

足手まといになったという現実。仲間が誰も居なくなったという事実。
その二つに幼いヨシノは打ちのめされ、そしてヨコシマキメへの復讐と旅団の求めていた財宝『黒の教科書』の奪還を誓った。
その覚悟をもとからあった素養が合わさり、目的と手段が倒錯したとき『倒錯眼』を開眼。

(だから俺は求めたんだ……一人でなんでもこなせる能力を。なんでも知ってる知識を。何でも導ける頭脳を。
          ――道具さえあれば仲間がいなくても俺は、なんだって出来るし誰の代わりにだってなれる!)

すなわち過去は『いしずえ』なのだ。ヨシノがここに立つ理由。彼がここに"立てる"理由。ヨシノ=タカユキを構成する要素。

復讐。仲間。万能。汎用。孤独。知識。能力。器量。才覚。理屈。饒舌。技能。精度。地力。道理。言葉。過去。未来。

それら全てが、『かつて』を共にした仲間達から生まれるはずだった可能性の萌芽。
全てを背負うつもりだった。事実背負ってきたつもりだった。『これから』を紡ぐための確定視点。

守銭奴の修道女と出会い、黄色で埋め尽くされた少女と出会い、そしてまた、独りになった。

無限速度の鎧武者を斃し、一人の狂った武闘蒐集家と戦い、そして今、ここにいる。

ヨコシマキメに見初められた人間。それは『復讐』という名の灯に集まる羽虫のように、心の深く深くで未来を絡め取られている。

だからこれは、決別なのだ。たった一人の、戦いなのだ。

「よく聞けヨコシマキメ!!俺はお前を、この"道"を!叩き潰して次へ進む!この糞しみったれたしがらみと決別してやる!」

さあ、

「――――見えてるぞ未来。お前の"戒め"と俺の"導き"、どっちが強いか力比べといこう」

見据えた先に、隆起があった。ヨコシマキメの防衛機構。剣虎の殲滅に危機を感じ取った『道』が、その支配を強めたのだ。
盛り上がる小山のように存在するのは巨大な剣虎だった。大きさは通常の比ではない。通路の天井にまで届きそうな巨体は、
岩棚がハウリングを起こして振動する程の大音声で、吼えた。

巨大獣・大剣虎<ツヴァイハンダー・タイガー>
ヨコシマキメ最強の生物が、ヨシノの前に立ちはだかった。

42 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:11:13 0
降下の軌道を強制的にずらされた。突如起こった状況の変化をムライと『左右』はそう結論付けた。

「この鎖、張ったまま曲がってやがる。尋常な動きじゃねぇな……なんかの能力か!?」

『じゃきがん!いのう!あびりてぃ!』   『分析完了。支配系能力。操作術式。下手人 隣男』

ムライは密かに舌を巻く。普通ならば自分に向けて落下してくるライドムーバーを見れば、敵の行動は自ずと
撃墜するか退避を選ぶかのどちらかに限定される。そしてムライはそのどちらをも無効化する手段を持っていた。

(自分は動かず俺の攻撃だけ無力化するか……やるじゃねぇか、燃えてきたぜぇ!!)

地面へと激突する。
瞬間、六脚の屈伸と同時に魔力緩衝術式を発動。ショックアブソーバが唸り、熱に変換された衝撃エネルギーによって
蒸発した緩衝材が蒸気となって噴出する。足場に展開した術式は半実体の衝撃吸収障壁となって隕石となった鉄蟹を受け止める。

『ふわふわたーいむ』      『着地成功。損傷皆無。即座戦闘可能』

結果、音もなく地上への帰還は成功する。独特の粘り気が混じる蒸気の向こう、青年と少女の姿が見えた。
分析モニタに映るエネミーサイトの生命反応は一つ。にもかかわらず目視できる敵影は二つ。帰着し得る結論は一つ。

「あの女の方……ナマモノじゃねぇな。いい趣味してるじゃねぇの!」

  『ひくわー』           『術式反応。大規模攻性術式』

ライティの警告に注視すれば、敵の二人が新たな術式を組み終わったところだった。漆黒の楔が飛来する。
燃え上がるほどの尋常ならざる回転と、幾重にも折り重ねられた術式が弾き出す想定破壊力はライドムーバーの装甲限界をゆうに越えている。

(ノータイムでトドメ刺しに来たか!強いし速えな……避けきれねぇ――!!)

あと3秒もしないうちに着弾するだろう。そんな僅かな時間で1tを誇るライドムーバーを静止状態から安全圏へと運ぶのは
いかなる神業をもってしても不可能である。人が空を飛べないように、それは物理的な問題である。

両腕に武装されたフレキシブルアーム――ハサミ部分で受け止めるのはどうか。否、いかに強靭かつ超密度の蟹鋏といえども
あの規模の術式を受ければ一瞬で砕けひしゃげ貫通するだろう。ならば。

「こいつはヤベェ――レフティ!」

『てすためんと!』

判断は刹那で完了し、ムライは相棒に指示を飛ばす。
左のモニタが一瞬で文字に埋まり、<シザーズ>の主武装が解放される。フレキシブルアームに内蔵された『奥の手』が起動する。

『あびりてぃきゃんせらー!』       『起動!』

電子音の宣言は衝突音に飲まれて消える。ほぼ同時に、超回転の楔がハサミに激突した。

否。

接触と同時に、まず音が消えた。風を切り裂く楔の飛来音が、空気を震わす楔の回転音が、その一瞬を起点として静寂の世界の住人となった。
まったくの無音で、次に楔そのものが砕け散り、そして空中へと霧散した。巨大な質量が一瞬で掻き消えたことによって生まれた真空を埋める
音だけが、紙を打つように響き、そして宙から全てが消え去った。残ったのはハサミを掲げる鋼の蟹と、不意に戻ってきた風の音。

冗談のような破壊力を秘めた術式が、これまた冗談のように消えてなくなった。

アビリティキャンセラー。『世界政府』兵器部が極秘に開発した対能力者用異能無効化兵器である。


43 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:15:06 O
ときおり思いだしたように鳴動する遺跡の中を、半ば埋めるように進む集団がある。
黒で統一された装甲服を身に纏い、各自が思い思いの武器を装備した一団の先頭にはナナフシのような等身をした男。

レイジン=シェープスと実働班は遺跡を歩いていた。白衣の仇敵アリス=シェイドの部下『助手A』を探して大学を巡っていた彼らだが、
ふとした拍子に発見した隠し扉からヨコシマキメ遺跡の内部へと通じる道を見つけ出し、そして現在ここにいる。

「んー、虱潰しでも見つからない助手A氏を、転移性質を持つヨコシマキメに匿ッているのやも……そう推測してここまで来たんですがねェ」

溜息の代わりにひとりごち、レイジンはぐるりと眼を回した。もう半刻もの間進み続けているが、それらしき人影が見えるどころか
かれこれずっと一本道である。地図を持たない彼らには知る由もなかったが、ここは深層域近くの通路であり、既に先行者達が通った轍だった。

「"白衣野朗"がやたらに大学とヨコシマキメへの立ち入りを差し止めようとしてたんで、ようやくこれで奴を出し抜けると思ったんですが」

隊員達にも動揺が目立つ。無理もない。仲間の仇と勇んでここまで来たはいいが、目的もなくひたすらに歩かされているだけである。
戻るという選択肢もあるにはあったが、最早ここ以外に調べられる場所が残っているわけでもなく。

「ただ、これで世界基督教大学とヨコシマキメに密接な関係があるッてことは解りました。大学内にも無頼の能力者がいくらかいましたし、
 やはりこの大学、ただのミッション系学府というわけではなさそうですねェ……」

矛盾がある。ミッション系とはすなわち布教を目的とした施設、つまりは聖教関連の学院であるということ。
邪闇の住人である邪気眼使いやヨコシマキメにとっては正逆の立場、相対すべきもの。にもかかわらず遺跡の転移はここを選び、
ヨコシマキメゆかりの能力者や遺跡への隠し通路が多分に見られる。まるで『ヨコシマキメを迎え入れる為にあるように』。

(『世界基督教』――十字教系の聖式宗ですか。『大聖堂』の存在といいどうもキナ臭さ満天ですねェ)

ふと、『世界の選択』という言葉が脳裏をよぎる。異能関係者ならば誰でも知っている文言だ。

繋がる。
世界基督教――ヨコシマキメの転移『選択』――アルカナ――そのトップ『世界』――聖と邪の二律背反。

――もしかしたら。

シナプスが情報を連結し解答を導き出す。頭脳の深奥で経験が像を結ぼうとしたそのとき、レイジンと実働隊は音を聞いた。

剣戟。
震脚。
咆哮。

前方に開けた空間がある。大学広場並みの広さがあるはずのそこは今、ひしめく獣と血の赤で埋め尽くされていた。
絨毯のように毛皮を寄せ集める獣達の半分は血まみれになり動かない。死骸である。
積み重なるように斃れる骸の上に、二つの影があった。

小山のように巨大な影は獣。しかしその体躯は形こそ足元に転がる亡骸に似てはいるが、大きさが桁違いである。

そして、それと対峙するように屹立する影は人。まだ歳若い青年であるだろう彼はそれなりに長身であるものの、
相対に聳える巨獣に比べれば歴然と小さい。にも関わらず、男は怖じもせずに獣を見上げていた。

レイジンは見る。周りに散らばった小さな、それでも人間よりは大きな獣達が、一斉に青年へと飛び掛るのを。
実働隊は見る。極彩色と白色の閃光が一瞬のうちに瞬いて、光が引いた頃には全ての獣が地に伏し砕かれているのを。

強い。恐らくは能力者なのだろうが、集団を相手に傷一つ負わず立ち回っている。
しかし状況は依然青年の不利のようだ。獣は何処からか湧くように溢れ、その包囲網を厚く取り巻いていく。
巨大な獣は動かないが、しかし"あれ"が始動すれば取り巻きとは比べ物にならない戦闘能力を有しているだろう。

どちらに加勢すべきかは火を見るより明らかだ。実働隊は各々の武装を構え、青年に助太刀すべく進軍する。

「どこの誰かは存じませんが。我々はこの先に用がありまして。――よろしければ、道をつける手伝いをお願いしたいですねェ」

彼らは何よりも人類の見方である。状況がどうであれ、ここで見殺しにする手はない。
レイジン=シェープスと調律機関実働隊実働班は、己の存在理由をかけて問う。護るために戦おう、と。

44 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:17:15 O
「そうだ、我が眼の名は『創世眼』。世界に存在した物の全てを、
 我の所有物として再現することの出来る、創世の眼――――」

必中であった筈の魔剣の投擲が外れても、『世界』が揺らぐ事は無い。
それは、今己が前に立つ無力な存在こそが、生涯において最強の敵である事を知っている故。
故に『世界』は目の前の敵を、徹底的に、容赦なく、完全に殺すべく動く。

>「うおぉおおぉおおおおぉおおおおぉぉおおおおおおおおおおッッ!!!
殺されてたまるかッ、てめえなんかにッッ、殺されてたまるかぁぁぁあぁああッッ!!!」

『世界』はその左手に大罪の魔剣「憤怒」を掴むと、目の前の生を叫ぶ者に――――

「消え去るがいい、『世界の選択』よ!!」

――――轟音。そして土煙。
憤怒の魔剣は大地を抉り、先程までYがいた場所を抉り取った様に消滅させていた。
先の投擲が必中の一撃ならば、この斬撃は絶対の一撃。
Yの移動速度や反射能力を計算に入れた上で放たれた物だったのだから、
避けられる筈が無い――――だが。

Yは、絶対を受けて尚生きていた。
そして、その生存を与えたのは一人の修道女。彼女がYを世界から引き離し、
絶対の一撃を回避させたのだ。

>「ただの人間こと盗掘屋アスラ!世界を賭けたこの戦い、人間として参加させてもらうよ!」

「……愚民が。この我とYとの戦いに横槍を入れるさせるとは
 ――――命を以て償う覚悟は出来ているのだろうな」

修道女の姿を見た『世界』は、まるで不快なゴミでも見る様な視線を送った後、
更にその奥にいたもう一人の女に目を向ける。

「ほう。もう一匹いると思えば『太陽』か。『悪魔』を殺した事には気付いていたが、
 まさか、この我にまで歯向かうつもりか? 貴様と『月』には、片鱗とはいえ我の力を、
 見せてやった筈だが……よもや力の差すら解らない白痴ではあったとはな。失望したぞ」

禍々しい邪気を放ちながらそう言った後、『世界』は再び憤怒の魔剣を構える。
まるで、新たな参戦者など、敵としての数に含まれていないとでも言うかの様に。

45 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:22:51 O
焼け付くような瘴気の中を進む。
煤けた石畳を踏みしめ、精神の暗中を模索しながらステラは先行する修道服に続いた。

一度だけ振り返る。これ以上進めば足跡は邪気に閉ざされ残してきた女中服が見えなくなる。
そうなる前に、ステラは憂いを振り捨てる。

(任せよう。ヨシノが強いからとか、私が対集団戦闘に向かないからとか、彼の闘いだからとか、そんな理由じゃなく――)

『――ここは俺に任せて先へ行け』

(……任せろ、って言われた)

ヨシノがそう言ったのだ。
頑なに戦闘を避けていた彼が。戦場で逃げ回っていた彼が。縁の下に徹していた彼が。

背中を預けろと、そう言ったのだ!

ならば預けない道理はない。振り向いた視界の中で、白と赤と極彩色が舞い散った。
視線を前に戻す。最早後ろ髪に抵抗はなく、背を押すように身体を前方へと押し出してくれる。

溢れ出る邪気は風を孕んで彼女達の頬を叩くが、躊躇は既に切り捨ててある。導き出される結論は一つ。

突っ切って進むだけ。

帰結した。

立ち止まった先にあるのは巨大な鉄扉。邪気の根源にして『世界』の待つ座楼の深部。
最終決戦の場。

ステラは後ろ髪をアップにしていた髪留めを外す。アルカナ参入の際に装用を決めた飾身具。
『星』と揃いの、二人の間だけで通じる疎通術式の織り込まれた品。ステラが『太陽』たる証。

シンプルな意匠の縛めを束になった髪から抜き取ると、重力に逆らっていた毛先が解放され、
山吹色の流れるような長髪が肩へと垂れる。うなじを覆うように広がる金の線は空気を孕み、雫のような艶を放った。

「――行こう。『世界の選択』を証す為。ステラ=トワイライトとして参じるよ」

「覚悟はいい?私は――――できてる!」

頷きは待たれない。言葉と同時にアスラの蹴りが扉へと炸裂する。

46 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:23:47 O
ステラには未来がない。それは既に失われたものだ。

かつてヨコシマキメで起きた争いは遺跡の消失という形で幕を閉じた。
彼女と『星』は、消えたヨコシマキメと共に亡き者となった人間である。

『世界』の邪気眼『創世眼』によって再現されたヨコシマキメの、おまけで甦った姉妹。
その肉体と魂は生前のものとまったく変わらないが、言わば『世界』は彼女達の生みの親と同義であり、
故に彼を超えることはできないという証左でもあった。

「ほう。もう一匹いると思えば『太陽』か。『悪魔』を殺した事には気付いていたが、
 まさか、この我にまで歯向かうつもりか? 貴様と『月』には、片鱗とはいえ我の力を、
 見せてやった筈だが……よもや力の差すら解らない白痴ではあったとはな。失望したぞ」

知覚することすら気の遠くなる程の禍々しく膨大な邪気。『世界』の怒りはほんの稚気ほどですらなかった筈なのに、
煽りを受けたステラはその場で自分の頭蓋を光条で打ち抜きたい衝動に駆られた。

圧倒的な力の前に立たされた人間は、ときに酷く自己罰的になるという。
まるで親に叱られたくない子供が率先して自分を罰することで叱咤を避けようとするように。

疼くのだ。
両目に施術された群青色の瞳孔。人の手によって創られた意志なき邪気眼ですら、『畏怖』という感情を強制的に根付かされた。

状況はあまりに良くない。『世界』だけでもこの部屋に居る全員を皆殺しにできる力を秘めているというのに、
他にもアルカナが居る。小太りの男と戦っているのは『正義』。ステラとは関わりがなかったが、『世界』が常に傍においている程だ。

他にも数名ちらほらと知った顔が居る。その誰もが剥き出しの敵意を彼女達に向けていた。
特に親しい連中が悉く出払っているのは幸なのか不幸なのか、今のステラには判断がつかない。

だけど。

「そう、どうやったったってわたしは貴方に勝てない。『太陽』は『世界』を越えられない」

びりびりと指先が痺れるような感覚。放たれる威圧が衝撃となってステラを襲う。

「だけど……人間が自分より遥かに強大な敵と戦うときどうするか、わたしは知ってるよ」

拳に力を込める。白くなるほど握りこんだ手に重なるのは『星』。そして『悪魔』。

「――徒党を組んで皆で戦うの」

光が過去を喚起し、映像という形で再現されるのはポニーテールの少女と鉢巻姿で獰猛に笑う男。
 
                        ・ .・. ・ ・
「一人じゃないから。――こんな畏れは要らない」


二人の鏡像は威圧の波動とぶつかりせめぎ合い、そしてお互いを喰い合って相殺した。
余波はステラの背後へ抜け、山吹色の輝く髪を揺らしながら霧散していく。

アルカナにして世界の反逆者たる少女は強く笑うと、抗う為の光を展開した。

47 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:25:48 O
  (―――入った…!
   奴はどうした、死んだか…?まぁいい!それよりもあの親玉を!!)

《踵を返し『世界』へ向かわんとするリーを、やや演技過剰な気のする声が引き留める。》

………チッ…
流石だな、あの程度じゃなんともねぇか
とりあえず、自転車だかヌンチャク女だか知らねぇがそんな名前は記憶に無ぇな
何かと勘違いしてんじゃねぇか?
それと顔を狙ったのは悪かった、何だか知らねぇがその顔見てると無性に腹が立つんだよ
にしても……心臓か?つまらんな…

……………!!
  (消えただと!?邪気は………ック…感じない!気流も地面の震動も駄目か!
   奴の気配という気配を感じない…本当に消えたとでも言うのか…?
   いや!!声がする!何処だ!?これは…後ろ?正面?いや…四方八方から聞こえてきやがる…!!)

クソ、いきなり出てきて殺せと言い…出来なきゃ悪だと言い放つ…
一つ言わせろ…

《リーがボソボソと呟いた後、掌底が鳩尾に直撃する。》

―――皆まで言うなッ!!

《掌底の力は魔溜眼によって吸収、取り込んだ力で右腕の肥大化が急激に進行する。》
《更に眼で『正義』の服「が」動く為に必要なエネルギーを奪い取り、間接的に『正義』を拘束する。》

さぁ、捉えたぞ
折角だからあと二三言わ―――

《リーの言葉が途切れ、口から血を溢れさせる。》
《奪った力は眼の限界を超え、リーの心臓に最後の一拍を逐えさせた。》

48 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:26:42 O
《しかし身を包む炎、周囲の侵食、『正義』の拘束も継続している。数秒経たずして、リーが再び口を開く。》

言わせて…貰うぞ…!!
一つ!

《今のリーは魔溜眼の力によって成っている。》
《侵食したエネルギーで直接体を動かし、燃え崩れる肉を繋ぎ、過負荷に砕ける骨を固める。》

仮定で…話を進めんじゃねぇ…!
……切羽詰まって余裕がねぇのは解るがな…
生き急いできた結果がぁ…!そのザマなんじゃねぇのか!あぁ!?

《右腕に蓄積され続ける力は、腕を面影も残さない程に膨張し変形させても止まることはない。》

二つめだ!
食事に…大切なことを知ってるか…?
感謝と愛だ、貴様にゃ愛が足りねぇよ…
正義を成すには…愛が要る…
罪を憎んで人を…憎まず、修羅に…輪廻は断ち切れねぇ…!
独り善がりな愛無き『正義』じゃ…救った奴も救われねぇ…!!
人を罪から救ってみせろよ、正義の……味方ぁッ!!

《流れ続ける血は口から出ると同時に蒸発する。》
《歯を食いしばり、おぞましい肉塊へと変貌した右腕を望み通り『正義』の胸へ叩き込んで殴り飛ばす。》

だが認めてやるよ、貴様の、正義を愛するその心はな!
もう残骸とは言わん!正義の味方に拳を、正義を振りかざす理由をくれてやる!
俺は幾多の命を灰に変え、更にこの邪気眼は暴走している
このまま暴走し続ければこの遺跡だけでなく辺り一帯まで生物の住まない地獄と化すだろう…!


『正義』!!
貴様は、真餓鬼の手に掛かる最後の犠牲者だ!
そして俺は、貴様が葬る最後の悪だ!

さぁ来い『正義』!!全力でな…!

49 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:27:41 O
「――――結城流死闘術守ノ型『舞花』」

リーの攻撃を受けた直後、その衝撃が浸透するのとほぼ同時。
打撃という運動エネルギーが与えられ、服の拘束が解けた『正義』は、
そのまま、まるで舞う様に後ろに『跳んだ』。
舞花。『正義』の習得しているその防御技能は、与えられた衝撃に逆らわず、
そのエネルギーに身を任せる事で、強力な物理攻撃を散らし、ほぼ無力化してしまう
という鉄壁に近い位置にある防御術だ。だが――――

「……!?」

その技能をも超越して、リーの一撃は『正義』に到達した。
暴走によりもたらされた強大すぎる力の流れは、凄まじい衝撃となり、
『正義』の胸部から背を貫く。
吹き飛び、地に膝を突いた『正義』がふらつきながら立ち上がった時には、
執事服の胸部分は破れ、そこから見える肌が赤黒く変色しており、
口腔からは、肋骨が何本も折れたのだろう。一筋の血が流れているのが見える。
そして、その鉄面皮にほんの僅かに見える……期待の感情。

「ゴホッ…………ふ、む。意見の相違という奴だね。
 仮定であろうと、それが実現可能な可能性であるのならば、
 全速かつ死に物狂いで防ぐべきだと私は考えているのだよ」

そう言うと、『正義』は服についた土埃を払い、呼吸を整える。

「そして、多くを救う為には愛を忘れねばならない時がある。
 何せ――――正義の味方は、決して正義にはなれないのだからね。
 強大な悪をより強大な悪で捻じ伏せる。それこそが『正義の味方』の正体だ」

そう言うと、『正義』は体内の気を開放し、戦いの為の構えを取る。

「それから……リー君。先程の言葉を訂正しよう。
 私は君に感謝する。君は、小悪党などでは無い。己が理念を持つ、戦士だ。
 この世界に呼び出されて以来の私には、意味など無かったが……
 最後にもう一度だけ『正義の味方』を出来るのなら、私はこの世界に存在できて良かった」

そう言うと――――

「――――さあ、終わりを始めようリー君。これより君を救う者の名は、有栖川ミカド。
 結城財閥執事長にして――――『正義の味方』だ!」

そう言うと、『有栖川ミカド』は疾駆する。
この世界において、初めてかつての己として、正義の味方として。
その左手に纏うは白い闇。その全力を用いて、有栖川ミカは己が最強の一撃を放つ。

「結城流死闘術秘奥――――――『    白 道    』!!」

白道。その正体は、限界を何度も超えた、自殺的な修練の果てに辿り着く因果の操作。
攻撃という動作が求める要素、必中、必殺、完全迎撃――――即ち、
『勝利』という結果を内包した一撃だ。回避は不能。防御も不能。
その決定された勝利に打ち勝つ物があるとすれば、それは――――

50 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:29:11 O
<勇ましく吼えた青年の視界を…黒が凄まじい速さで埋め尽くしていく……。>
<それは精神論で脱することは決して出来ない……「物理法則」の名をした絶壁……。>

<秒速300m超の弾丸の速度で迫る【大罪の魔剣】は、鈍くさい人間を嘲笑うように…、>
<圧倒的速度で青年の退路を塞ぎ、封じ込める……行き止まりにして結末は死、デッドエンド……!>

<ノロマナオ前ハドウセ何ニモ出来ナイッ! 死ネッ、死ンジャエッ無能ナ人間メェエエェエェェッッ!!!>
う、……ぐぅうぅうううぅぅううぅぅう………くそッ、くそぉおおぉおぉおおおぉぉおおおぉおおぉッッ!!!




<――【大罪の魔剣】の鮮やかな切っ先が、またしても虚空を切り裂き地を喰らう…。>
<気付けば、青年は地面に伏せっていた…誰かが助けてくれた? この状況下で一体誰が……?>

<……分かっている。分かっていたが、信じることができなかった。待ち望んでいたはずなのに…。>
<リーは『正義』と闘っている…なら誰か……。…そんなの、決まっているじゃないか……!>

<庇うように覆い被さっていた誰かは、凛とした声で『世界』へ宣戦布告を叩きつけている。>
<青年が上体を起こすと、もう1人…! 今までずっと待ち望んでいた「能力者」が2人も!!>

<……この時既に、「能力者」、アスラとステラは、『世界』の強大な邪気と闘っていたのだが>
<無力な青年にはそのことを知る術は持っていなかった……だが、しかし>


<消耗し続ける意識と伴う痛みに抗いながら、青年は確かめるように立ち上がる。>
<本当に、ただの人間だ……邪気の片鱗さえ感じ取れない、悲しいほどにただの人間……。>

<『世界の選択』と詠われるにしては、あまりに力不足と言われざるを得ない。>
<無力な青年は、アスラ、ステラの2人の傍らに並ぶようにして立ち…語るように、喋り出す。>

51 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 17:30:36 O
創世眼の能力、カリスマ性……そしてあの強大な意志……『世界』は紛れもなく、桁違いに強い。
我々の誰もが、奴を上回る要素を持っていないのかもしれない……だが、どうしても譲れない物はある。

この世界の未来……例えるなら「これから」……。俺達の、明日だ……。
……負けられない…何としても、負けられないッッ……! この世界を紡いでいくのは……

過去(いままで)を生きてきた、偉大な先人たちと……

それを受け継ぎ、現在(いま)を生きている俺達と……

そして未来(これから)を担って生きていく、まだ見ぬ誰かなんだ……ッッ!!

それを葬り去らせはしない……ッ、この世界の歴史をッッ無かったことになんてさせはしないッッ!!

こ こ は 絶 対 に ッ ッ 、 譲 れ な い ッ ッ !!!!


<それでも……ここまで無力な青年が心折れず、これほど強大な相手に立ち向かっていけたのは>
<先々で助けてくれた仲間達の存在……定められし宿命的幸運と……その白き、絶対の意志のお陰であった>


うおぉおおおぉおおおおおおッッ!! 『世界』ッ!! お前にッッ、「これから」は渡さねぇえええぇッッ!!!


<無力な叫びが雷光のように駆け抜けた瞬間、プレートに生じ始める異変……>
<表裏で一定だった漆黒と純白の割合…僅差でしかない…しかし、確実に……>

<純白が増している……それは<Y>の意識が、侵蝕する黒を押し返し始めたということ>
<二つの絶対の意志が相克し、そして、勝った方のどちらかの色で、プレートは染め上げられる……!>

俺は「こっち」から『世界』と戦う……「そっち」は頼んだぜ、…死なないでくれよ……ッッ!!

52 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:34:42 0
捉えたと思った。

<廻転する刹那の裂破>の廻転飛弾は威力、速度ともに申し分なく精度も完璧、これ以上ない程の質を繰り出せた。
無論分析術によって得た情報で装甲強度や機動性をも計算に入れた一撃である。
マリーの演算素子に狂いがなければ、鋼の蟹の装甲は容易く粉砕し動力部まで貫通するはずだった。

「!!?……消えました――!!」

鏃が着弾した瞬間、攻撃が掻き消えた。崩れるように、音を立てることもなく刹那のうちに飲み込まれる。

「転移術……?いや、高速で風化していった感じかな。それにしても僕らの技、――消され癖がついてるね?」

驚愕はしない。精神の硬直は思考を削ぎ決定的な隙を生みかねない。故に『吊られた男』とマリーは返答代わりに地を蹴った。
疾駆しながら分析する。おそらく魔法術式を無効化する類の兵器だろう。『アビリティキャンセラー』の名称から察するに、
邪気眼や能力すら消してしまうかもしれない。異能の眷属たる『吊られた男』とマリーにとっては天敵といっても過言ではない存在だ。

理解した上で行く。

「先ほどの挙動を分析しましたわ。無効化の起点となっているのは蟹の鋏です。鏃が着弾する瞬間、僅かに逡巡したあと鋏を振り上げていますわ」

「目敏いねマリー。なるほど、無効化兵器は装甲全体を護ってるわけじゃないようだね?」

つまり、鋏にさえ気をつければ攻撃は通るということである。これは貴重な情報だ。
触れただけで術式を解除されるのだったら、マリーの攻性術式はもとより『あや吊り糸』すら使えなくなってしまう。

「回り込むよ?」

ライドムーバーの目前で二人は分かれた。まずは数の利を活かし攻撃対象を分散させる。
如何に無効化装備が整っていようと動かすのは人であり、人である以上はシングルタスク。

『あや吊り糸』を伸ばす。支配対象は六脚のうち一つ、その関節部位へと接続し、強引に屈脚させる。

「ッツ……!流石は異能者専門の部隊だけあって装甲の魔力耐性も半端じゃないね。象でも吊れる僕の"糸"が曲げるのに精一杯だよ?」

得られるのは脚払いによる態勢の崩れ。ライドムーバーはその巨体の支えを一つ奪われ鋼の体躯を大きく傾かせた。
中央部、蟹の"腹"の部分がガラ空きになる。

「懐に潜り込みさえすれば、ご自慢の鋏は使えないでしょう!――【<ギミック>:パイルバンカー】展開」

左腕に魔力を集め、マリーの身長ほどもある杭打ち機を生成する。
爆発性質を持たせた魔力を油圧の代用とするこの武器は反動こそ甚大だが、それは戦闘においてそのまま威力に直結する。

「さらに僕が『あや吊り糸』をマリーに繋げて反動を糸に逃がせば、お手軽無反動打杭砲の出来上がりだね?」

完成する。
二本の腰から延びる糸によって重力すら逃がされ、空中に固定されたマリーの一撃がむき出しの腹部に叩き込まれた。

金属のぶつかり合う轟音の連なりが、空間の振動となってライドムーバーの巨躯を貫く。
揺るがされた安寧に横殴りの威力がぶち込まれ、鋼の蟹はそのまま裏返しになって地面へと叩きつけられた。


53 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:35:50 0
ちっ、どうやらキミはまだオレ様の実力がわかってないんだね。いいさ、教えてあげるよ。上の住人の実力をね!!

【リクスの振う邪気眼殺しの氷剣が一直線に御鏡を襲う。しかし御鏡は動じない】

アブソリュート・ダークマター
『絶対物質』ッ!

【何もなかったはずの空間に「それ」が生まれ攻撃を防ぐ】
(空気中の炭素をダイヤに変換しそこにオレ様の力を上乗せすることであらゆる物質を凌駕したこの絶対物質、負ける訳がない!!)

何だい?キミの力はこの程度なのか?こんなのを送り込んでくるなんてあの女も随分舐めてくれるじゃないか
ダイアモンドダスト
『結晶生成』ッ!!

キミの体内の二酸化炭素を利用して微小なダイヤの粉末を作らせてもらったよ。内側から傷つけられる気分はどうだい?
それじゃあフィニッシュと行こうじゃないか
プロミネンス
『爆散』ッ!!!

(酸素濃度が上がった空間では物体が擦れるだけで発火、爆発が起こる。オレ様の真の狙いって訳だ)

ジ・エンドかな?

54 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:36:32 0
アブソリュート・ダークマター
『絶対物質』ッ!

モース硬度10、修正モース硬度15、工業材料の硬さの尺度であるヌープ硬度8000。人間世界の通常の物理法則において、ダイヤモンドを上回る硬度の物は未だ発見されていない。
しかし、リクスの前に「生じ」た『絶対物質』はそれすらも凌駕する存在であった。

(魔術的意味を加えた攻撃ですら防ぐその力、最早ダイヤモンドのレベルではないように見受けられますね。)
瞬時に相手の力量を推し量ろうとするも、どうやら先の攻撃はサンプルとしては不十分な威力のようである。

(先程から内部で断続的に起こる邪気の放出から察するに事態は急速に進行しているのは間違いないでしょう。)
リクスは内心急いていた。内部で何が起こっているか分からない以上、ミッションのためにはまず何より、その衝突の趨勢が決する前にそこに到達しておきたいということである。

「なるほど、あなたもどうやら言う程の『力』はお持ちのようですね。しかし残念ながら今の私にはあまり時間がありません。
ですから、『アイス…」
しかしその先をリクスが唱えることはなかった。否、できなかった。

ダイアモンドダスト
『結晶生成』ッ!!

体内に俄かに生じる異物感。
(また内部攻撃のようですね。今日はつくづくついていません。)

微細なダイヤの結晶が内臓をズタズタに引き裂き、さすがのリクスも顔が苦悶に歪む。しかしリクスは考える。
(確かに相手によっては致命傷となるべき攻撃ですが、『上の住人』とやらの力を誇示しようとする彼がこんな手で私を殺すとは考えにくいでしょう。つまり彼は何らかの、もっと派手な〆の技を用意していると考えられます。)

プロミネンス
『爆散』ッ!!!
「『零凝』」

リクスの予想は的中した。しかし、これを通すわけにはいかない。
「『上の住人』などと名乗るだけのことはありますね。」
リクスの口から一筋の鮮血が流れる。しかし、身体が吹き飛ぶ様子はない。彼は自らの身体に零凝を使ったのである。
零凝を自らに適用することで爆発時の反応エネルギーを固定し、生成したCO2と共に呼気によって体外へ放出しようというのである。
範囲に使うことのできる零凝はさながらタイムストップのように便利に映るかもしれないが、
自らの周囲にしかそれを展開できないリクスにとっては実際には止まっている自らの身体を無理に動かそうとするのであるからそのダメージは計り知れない。

「まさか炭素を操作してできた副産物の方が狙いとは、正直驚きました。汎用性の高い防御術式がなければ死んでいたでしょうね。」
そう言いつつもリクスはダメージを受けた身体に鞭打ち既に次の攻撃に移ろうとしている。

「『アイスランス』」

リクスの手中に先よりも大きな氷の刺具が現れる。
今度の攻撃は槍。あのイエス・キリストでさえも復活まで数日を要した因縁の武器に、創造主とも与るであろう『上の住人』を仕留める力を期待し、リクスは投擲する。

「堕ちていただきましょうか。」

55 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:37:25 O
                        ・ .・. ・ ・
「一人じゃないから。――こんな畏れは要らない」

アルカナ『太陽』。『世界』の所有物のおまけ程度の存在でしかなかった筈の少女が、
今、確固たる一つの存在として『世界』のいる舞台に立ち、『世界』にその強靭な意思の刃を見せた。
だが――――

「……ほう。この我の邪気を身に受けて尚、折れぬか。
 『悪魔』との邂逅が貴様の意思を強めたか?」

だが、その眩しい意思でさえも『世界』は問題にすらしない。
それは、ステラがようやく『世界』のいる舞台に立てたに過ぎないという、
現実的な部分だけが原因ではない。
『世界』自身が、己がステラの光をすら上回る圧倒的な意思を持っていると確信しているからこそ。
そう――――究極は強靭をすら歯牙にもかけない。

「『太陽』よ。貴様は意思を高める方向を間違えたな。
 貴様程度の愚民は、ただ我に従属し続ける意思のみを高めれば、それで良かったのだ。
 愚民が群れようと衆愚にしかなれぬ。決して我には届かないという事を――――
 これから、この我が直々に教授してやろう」

そして『世界』は、ステラとアスラ。
その場にいる、己に取って余計な存在をすべて消し去るべく、
魔剣におぞましい程の力を込め――――

「うおぉおおおぉおおおおおおッッ!! 『世界』ッ!! お前にッッ、「これから」は渡さねぇえええぇッッ!!!」
「――――何!?」

その瞬間、突如叫ばれた究極に匹敵する絶対の意思。
それが、プレートの黒を押し流そうと凄まじい力となって『世界』の精神に負荷を与える。
この場において唯一『世界』と対等の力が、『世界』が魔剣に邪気を込める事を中断させた。

「……くっ!」

一瞬焦りを見せたが、それでも『世界』は即座に冷静さを取り戻し、
プレートに己の邪気を込め、白と黒の拮抗を取り戻そうと試みる。
だが、それは想像以上の負荷。『世界』個人が使える邪気のおよそ3割。
並みの能力者の比にならぬ程の邪気を注入し続ける事を強いられる事になった。
何とか拮抗を保った『世界』はその視線をYへと向けると、壮絶な笑みを浮べる。

「…………くく、ふはははは!!!!『世界の選択』、これ程までに強力か!!!
 だが、そうでなくては面白くない!! 我が意思は、決して創造主等には屈さぬ!!
 この世界は必要無い!! 不要な未来など、全て消し去り、我の担う始まりへと返すのだ!!」

そして、

「いいだろう『世界の選択』よ。やはりこの場で我の敵となり得るは、貴様だけだ。
 貴様に完全に勝たねば、我の矜持は創造主への勝利を宣告を許さん。
 故に――――貴様の意思に勝つ為に、貴様の意思を絶望へと叩き込む為に、
 これから、貴様に組する愚民を、貴様の目の前で全て嬲り殺しにしてやろう……!」

そして『世界』は、己が敵意をステラをアスラへと向ける。
さあ、覚悟せよ。世界を救わんとする二人よ。諸君らが前に立つは、世界の究極。
今まで強大な壁であったそれが、諸君らの前に『敵』として立つ事を宣告したのだ。
もしも、諸君らがその歩みを止めたいと言うのなら――――せめて死力を尽くすがいい。
例え、絶望に心折れる結末しか望めないとしても……。

56 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:38:01 0
(大学構内、先程までレイジンとシェイドによる異能者の戦いが行われていた地である。
と言っても今そこに戦いの起こった形跡はなく、ただコンクリートで固められた道とポプラの植え込み、数個点在するベンチ、
そして血に塗れた白衣を着込む男が一人、通信機のような物を耳に当て突っ立っているだけである)

…ふむ、ではこれで破損個所の修復は完了…と?
結構。だが仕事が遅いな。後で試験管O-1322号とK-112号を摂取した上で三倍濃度のコーヒーの刑だ。

(腹部に開いた大穴は未だに塞がっていない。眉をひそめ、懐から小瓶を一つ取り出す)

元々情報収集の拷問用に持っておいたものだが…クッ…これほど見事に刺されては、使うしかあるまいよ。

(使うことを躊躇うようにくるくると小瓶を手の中で回す。茶褐色のガラスに張られたラベルには大きく日本語でこう書かれていた)


《悶え汁》…か。


切り傷刺し傷火傷に虫歯、内傷外傷ノイローゼ問わず一瞬で回復するという反則クラスの回復力を持つ液体…
しかし代償は大きく、使用者は今負っている傷の数倍、数十倍の痛みを覚悟しなければならない。
使用者がみな一様に痛みに体を捩らせる様からこの名がついたという…か。

…ふ、真逆この私がこいつを使う羽目になるとはな…
これは──感謝すべきなのか、××?
(忘れさられたその名を呟き、小瓶のキャップを外す。でろりとした極彩色の液体を一気に傷口に塗りこんだ)

──────ッ!
ッ…アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

(しばらくお待ち下さい)


57 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:38:50 0
(数分後)

ふ…ふふ…回復力は認めるが…私が今二度と使用したくないと考えているのもまた事実…か。
まあなんにせよこれで動ける。連中ももう遺跡へ向かった頃だろうし、「大学」としても遺跡へ向かう大義名分が立ったわけだ。
とっとと地下(シタ)へ参ろう…

っと、その前に…地上に愚図が残っていないか見ておかねばな…助手A、ここら一帯の生命反応をサーチしろ───

(シェイドがそう呟いた刹那、重たげな機動音が建物を挟んで向かいから鳴り響く)

   ず  ど  ん  。

(心底見たくないという風にゆっくりと音のなるほうを向き、色眼鏡を外す。そこにあるのは、巨大なカニだった)
(口元が呆れと殺意と苛立ちでぐにゃりと歪む。それは端から見れば笑ってるようにも見えたかもしれない)
(手に持った色眼鏡をそのままぱきりと握りつぶす。背景からは怒りの炎が燃え上がり、あたり一帯を焦土と化さんばかりの邪気を無遠慮に振り撒いた)

───まあ、そんな事より聞くがいい。

(無論、聴衆など誰一人としていない。しかしまるで誰かと会話をするように、両手を広げ、穏やかとも言えそうな声色で語り続けた)

そもそも探求者とは、探し、求める者。この宇宙に広がるありとあらゆる事柄から自分の興味の赴くもののみを探し出し、自
らの目的に近づく者の事を言う。さらに研究者とは究める者だ。一つの物事(カテゴリ)に深く根を張り穴を掘る者だ。故に私の
ような者の行動ベクトルは全て興味によって賄われていると言っても過言ではない。では何故私がヨコシマキメという魅力的
な知の巣窟の探索すら放り出しこんな所で油を売っているのか?私は「監視役」であるからだ。大学構内では基本安寧を保証
されている私にとってここは必要不可欠な研究所(ラボ)だ。故にここを乱すものは許さないし、許さないと思わなくてはなら
ない。まるで大学の飼い犬のようだが私にとっては飼い犬だろうと三葉虫だろうと研究ができれば細かいことは問わん。
だがな、それにも限度がある。
第一ヨコシマキメというだけでかなりの稀少価値があると言うのに先程感じた膨大過ぎる邪気に《声》。恐らくこの下では実
力的に私よりも上の奴らが互いに死肉を求め合ってるに違いない。欲しいんだよ。そういう力強い奴らの研究素材(サンプル)が。
邪気眼というだけで今だ謎の多い物体だと言うのにあの邪気だぞ?考察してみるにヨコシマキメの中で何かしら行動を起こし
ているのはそいつだ。ヨコシマキメの手綱を握ってるかもしれない男だぞ?研究者でなくとも興味が沸くだろうが。少なくと
も私は沸く。大いに沸く。話を要約するとだな、私は今すぐにでも最下層にすっ飛んで行ってこれら全ての出来事を調べたい
んだよ。そいつはこの上なく興味深い事柄であろうし、まだ《アルカナ》の連中も生き残っている。最悪でも邪気眼の一つく
らいは確実に入手できる。研究を生業にするものであれば壱千年に一度のボーナスステージのようなものなんだよ、これは。

(ほぼ無呼吸で語り終え、溜息を一つつく)


     な     の     に     。


(カニの全景を見渡せる建物の屋上へ飛び移る)


その価値……理解(ワカ)ってんのか貴様等ァァァァァァァァッッッ!!!


(影使いらしからぬ、太陽を背負っての登場である。しかしバトル中の二人と一体から見れば逆光で、その姿は正に影。
 肩まで届く巨大な鋏を斧のように振りかぶり、そのまま跳躍。クレインとカニ型ロボットの間に文字通り「割って」入った)

…!貴様、「人形屋」!?構わん、今は問答をする間すら惜しいわ!
問いは一つ───そこの蟹を潰すか、あるいは今最ッ高に機嫌の悪いこの私にミトコンドリアの一片も残さず消し去られるか!二秒以内に答えろ!


58 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:39:17 O
屹立する巨影へ向かう。
ヨシノが『弾弓閃撃』を発動する最初の一歩、跳躍の為の踏み込み、その一瞬の硬直を狙って剣虎達が飛び掛ってきた。

(もうタイミングを読み始めてやがるか……そろそろ全部相手にするのはキツくなってきたぞ!)

襲い来る影は六つ。最初の爪撃をスウェーで躱し、掬い上げるような第二撃をホッチキスで押さえながら三匹目を穴あけパンチで穿つ。
纏っていた邪気を拡大展開し、範囲内の全てに白杖を叩き込み、回転するようにステップ。六匹全ての急所を打ち込みながら宙へと身を投げる。

既に第二群が迫っていた。
見渡す限りに獣色の御用提灯が十重二十重。視界の全てが刃を広げた剣虎の襲撃で埋められている。

(最初の襲撃はデコイ……!包囲網を狭めるのが目的か!!)

避けきれない。
360°の密集攻撃は逃げ場なくヨシノの命を刈り取るだろう。あまりにオーバーキル。肉片すら残らない。
冒涜の力に抗いを示したヨシノへの、ヨコシマキメの本気。圧倒的暴力。

殺られる。絶望的かつ致命的な状況で思考だけが上滑りしたそのとき、目の前で嵐が吹き荒れた。
横殴りの流星群。高速強化した意識と視覚でやっと捉えられるその速度は弾速。すなわち星の正体は無数の銃弾。
『ヨシノだけを正確に除外して』、その場に遍く全ての物体が銃撃掃射の餌食になる。

「どこの誰かは存じませんが。我々はこの先に用がありまして。――よろしければ、道をつける手伝いをお願いしたいですねェ」

軌跡を辿ればそこには、個々の武装をこちらに構えた軍隊然とした集団。その先頭に立つのはナナフシのような等身の壮年。
彼らの纏う装甲服には見覚えがあった。異能関係者ならば誰もが畏怖とともにその名を脳に刻み付けている。

『世界政府』直属異能管理組織、『調律機関』。
邪気眼に限らず全ての異能者や術式使いを制圧し管理する特務機関。
その強さは個々の錬度のみならず、徹底的なまでの統率力とそれを裏付ける絶対の信頼、結束。

(ヨコシマキメでの戦闘を嗅ぎ付けてきたのか……?俺を捕まえにきたわけじゃないよ、な。口ぶりから察するに)

それどころか協力的でさえある。青息吐息の現状に際してはまさに渡りに船だ。
調律機関謹製の聖銀弾で撃たれた剣虎達は一様に傷を灼かれる苦しみでのた打ち回っている。

「ありがたい。大見得切って啖呵張ったはいいが、にっちもさっちもいかなかったところだ。
          俺はあのデカブツをやるから、その辺で邪魔をしやがる有象無象どもの相手を頼む」

返事を待たずに跳躍する。援護射撃は的確にヨシノの為の道を拓き、発条のような疾走は彼我の距離を無にした。

飛ぶ。

白杖の『導き』は確実に急所を精査し、喉下へ一撃を穿つ。

「獣の癖して紳士だな。こっちが向かうまで待っててくれたのか?……報いはしないがな。――導け。『倒錯眼』」

鋭く風を裂く乾いた音と肉と骨を穿ち砕く湿った音が交差し、大剣虎の喉笛に鮮紅の華が咲いた。
迸る血潮の向こうで、致命傷となる打撃を受けた大剣虎の表情が変わった。

巨大な口の端を器用に歪ませ、確かに『嗤った』のだ。

『……あア、オカゲで簡単に釣れたヨ――馬鹿正直に向かって来たナ』

それは刹那の出来事だった。故に全てが終わるまで、ヨシノには思考する暇さえ赦されなかった。
横腹に衝撃、続いて灼熱感と異物感。最後に腹の底から冷え切っていく感覚。体温と共に全てが奪われていくような喪失感。

「あ……!が……!?」

下を見る。
腹部から、血に塗れた巨大な爪が生えていた。

59 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:39:42 0
視界がぐるりと回転する。ぶちまけられた血は既に致死量。それを浴びた獣の顔すら最早確認できない。
暗くなっていく視野の端に、桃色の何かが映る。それが自身の内臓であることにすら気付けないまま、脳が生存を諦める。

『獣に知能がナイとでモ……?ソレは大きなミステイク、矮小な雑魚一匹ハ馬鹿でモ集合体たる私ニは知性を生む余裕がアル』

真横から貫いた刃は噛み潰したように嘲笑う大剣虎のもの。
ヨコシマキメに蓄積された戦闘データからヨシノの傾向を割り出し、耐久力が皆無であることに付け込んだ一撃必殺。

『私はヨコシマキメそのモノダ。故にどレだけ破壊さレようと再生ハ無限。その叡智もマた然り』

喉下に穿たれたはずの傷はもう塞がっている。ヨコシマキメの『腹』に溜められた『力』は甚大であり、惜しみなく大剣虎へと供給されていた。
睥睨とともに『ヨシノだったもの』を放り捨てる。稚気程の力しか入れてなかったのに、あっけないほどこの人間は破壊された。
放物線を描きながらヨシノは宙に投げ出され、遺跡の石壁に衝突し、赤黒い血の跡を広げながら斃れこんだ。

『脆』  、  『弱』 ――

『……極めテ脆弱ゥ!!邪気眼使いとハかくも弱いモのか!?"私"を喚起したアの男、『世界』はこンなものデはなかっタぞ!』

嘲笑う。
ますます人間染みていくその挙動は遺跡を震わせ、嘶かせ、鳴動させた。

『ハハ、ハハハハハ、ははははははははははァァァ!!!!』

哄笑う。
そして弓になった眼はぎょろりと回転し、群がる剣虎との戦闘を続ける調律機関の面々へと向けた。

『見ルが良い『調律』の。貴様等が守ロうとした命はこんナにも容易く握りツブされるのだ。
   圧倒的暴力!絶対的冒涜!理想的蹂躙!衆愚なヒトよ、それでも抗うトいうのなら――見て逝くが良い。我が力の体現!』

大剣虎が両の腕を掲げる。さながら祈りのように、しかしその実が邪悪。生み出される力の奔流はどす黒く渦を巻いた。
球体である。
黒い球が、凝固した空間から生み出された。それは艶のない渦を内部に持ち、ときおり痙攣するように振動する。

『昏く死せる者を喚びし霊珠(エクトプラズム・クーゲルガイスト)――!!』

ヨコシマキメに捕われた散りし者達の魂――死霊。その思念体が内包するエネルギーは物理的誓約を受けない故に甚大であり、
自我を失えば暴走し更なる破壊と死を生み出す。それがヨコシマキメにおけるサイクルであり、ヨコシマキメの申し子たる大剣虎の力。
つまりは、死霊をかき集めて凝縮したエネルギー弾である。

『ほウ……貴様のカつテの仲間も死霊となってヨコシマキメに喰ワれてイたようダな。
   貴様は仲間を犠牲にシて一人地上へと逃げタのだろう?今度はその仲間デ創られた力に滅ボされるがいい……!』

その威力は現存するあらゆる術式ですら再現できない破壊もたらす純破壊術式であり、逃げ場のない遺跡内で使用すれば確実に
大剣虎以外のこの場の全ての命が滅ぶだろう。そんな一個人にはどうあっても向けることのないレベルの術式を、大剣虎はヨシノへ向ける。

『たダ死ぬだケで終われると思うナ……貴様を消し飛バし、地上に遍く全てノ命への絶望ノ狼煙としてクれル――』

放たれた。
進行上の全ての空間を削り、砕き、消し去りながら霊珠は矢のようにヨシノへ迫る。
ヨコシマキメ――否、この世で最も凶悪な威力を秘めた術式が、この世で最も死に近い場所にいる青年へと牙を剥く。

そして、

『なん――だと――?』

ヨシノに触れた瞬間、そこを起点に最悪の終末を撒き散らすはずの霊珠が、止まった。
死にかけのヨシノをその身中にとりこんだ途端に、その動きが完全に停まった。

白。
漆黒の霊珠にあがなうように、純白の波涛が飛沫を飛ばす。白と黒の拮抗が、世界の終わりの始まりを、瀬戸際で停滞させていた。

60 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:40:30 0
なん・・・だと!?
(オレ様の攻撃が効かない?あいつ、体内にすら耐性持ちだって言うのかよ!)

ちっ、少し見くびりすぎていたみたいだね。「動かされている」人間にしては強い方って訳だ。
でも、このオレ様を本気にさせて、タダで済むと思うなよ!

出でよ魔鏡っ!!

【リクスの放った鑓が御鏡へと迫る。次の瞬間『鏡』が現れる】
(これ以上得体の知れない攻撃を受ける訳にはいかないな)

【攻撃が鏡の中に吸い込まれると同時に鏡からの瓜二つの攻撃がリクスを襲う】

フッ、これこそがオレ様が『御鏡皇子』と呼ばれる理由、『次元魔鏡』。
アブソリュート・ダークマター         アブソリュート・マテリアル
『絶対物質』    すら上回る   『絶対材料』   によって生成された鏡の100%の反射率によって並行世界は繋がれる。
つまり、キミの攻撃は鏡の中のキミを、鏡の中のキミの攻撃はキミ自身を襲ったっていう訳だ。

もうわかっただろう?オレ様の強さが。そろそろエンディングと行こうぜ!

サウザンズ・オブ・ブロークンミラー
『無数の割鏡』ッ!!!

【御鏡の周りに生み出された数多の魔鏡が次々と割れ、無数の破片が重力に逆らいリクスへと襲いかかる】

(このオレ様に本気を出させたことを後悔するんだな)

61 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:40:57 O
あらゆるエネルギー――力には"波長"が存在し、一定のベクトルに向かって伝達することでその効力を発揮する。
水に流れがあるように。拳を前に振りぬくように。魔力や邪気とて例外ではない。
それらの波長を瞬時に解析し、位相が逆の波長をぶつけることで相殺し、魔力や異能の産物を消し去る技術。

それが、『アビリティキャンセラー』の正体である。

「どうだ?どうだ?びびったろ?それでいい。正しい反応だぜぇ!」

漆黒の残滓が風に流れ、視界が晴れる。見えてくる筈の敵二人の唖然とした顔が、そこにはない。
慌ててサブモニタの魔力反応を追えば、二手に分かれて懐へと潜り込まんとするところだった。
青年の手から新たなる邪気の反応が伸びる。糸状のそれは六脚のうち一本に巻きつき、術式効果を発動した。

「脚を一本捉られた!さっきのと同じ術式か!?制御が効かねぇ……!!」

『肯定。脚部制御干渉。強制屈脚――!』

ライティの報告通りに、奪われた脚部管制のパーセンテージ分だけライドムーバーの巨躯が傾く。
即座にレフティに指示を飛ばし、アビリティキャンセラーで脚に取り付いた干渉術式を消去せんとしたその時、

「――【<ギミック>:パイルバンカー】展開」

人形の方が動いた。青年とはまったくの反対側から、瞬間的に莫大な魔力反応を展開する。
レフティの武装機動リソースをほとんどアビリティキャンセラーに費やしていたせいで、ほとんど何も出来ずに直撃を受けるハメになった。

轟音。続いて穿音と金属音がそれに混じる。ライドムーバーの千分の一にも満たないような質量であるはずの人形が繰り出した一撃は、
にも関わらず一tを越えるライドムーバーの巨体を容易く浮かせた。傾いたところに一方から横殴りにされたことにより、

『あおてん!ひっくりかえった!まずい?やばい?だいぴんち?』

気が付けば逆さまになっていた。裏返った鋼蟹は地面にその背中を強かに叩きつけられ、ワンバウンドする。

「っくぅぅぁぁーーーッ!!やってくれやがったな!!スタビライズスラスター機動!」

空中姿勢制御用の加速器を全開にし、跳ね上がった空中でさらに一回転。先ほどの倍以上のGがムライを襲うが気合で耐え抜く。
今度こそ六脚で着地すれば、装甲に破損こそあれど、戦闘可能状態にまでは立ち戻れる。曲乗り等の技巧操縦ができるムライだからこその駆動だ。

「さあこれで振り出しだぜ"人形師"ィ!!まだまだ始まったばっかだ、楽しもうぜぇ……!!」

左のコンソールに光が奔り、蟹の中心部に設けられた砲門が展開する。ライドムーバーの最大兵器――主砲である。
直径1メートルを誇る超大口径の砲身内部には魔力回路が敷設してあり、特定の性質を砲塔内に付与することができる。
その性質とは『摩擦係数0』……砲弾との摩擦を無くすことで音速すら超えた亜光速の砲撃を可能とした武装、『ゼロフリクションキャノン』である。

砲という武装において弾速の一番の障害とは砲塔内部で起こる摩擦である。電磁石の応用によって摩擦を無くし
亜光速の砲弾を実現したのがいわゆる『レールガン』。生み出される結果に限って言えば蟹の主砲とレールガンは極めて似た武装であると言える。
だが、電磁を使用するが故に砲弾を特定の金属でしか構成できないレールガンに比べてゼロフリクションキャノンは弾の種類に制限がない。
つまり、

「邪気眼使いが最も忌避する物質――聖銀で創った弾すら亜光速で撃ち出せる。回避は不可、掠っただけで跡形も残らんぜ?さぁどう切り抜けるよ!?」

『内在魔力充填終了。照準固定。仰角精査。――砲撃準備完了』

『ぜろふりくしょんきゃのん――ふぁいあ!』

発射トリガーを引ききる一瞬前、モニタの向こうで身構える青年と人形との間に鋏を担いだ白い影が闖入するのが見えた。
全身血塗れで、赫怒と憤怒の形相で、だれ彼構わず喚きながら、白衣の男が割って入ってきた。

「その価値……理解(ワカ)ってんのか貴――


迷わずぶっ放した。

62 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 22:41:26 0
目の前の板きれは白と黒で彩られ、陰陽道における両儀のように交じり合っている。
【世界】と包帯の男の口振りで大体理解した。あれはどうやら、とても大切な代物らしい。

「了解…でも流れ弾には気をつけなさいよ?」

反動を抑えるいわくつきの手甲を両手にはめ、両手に持った二丁の銃を突き合わせる。
弾倉に入る弾は銀の特製弾。教会の銀十字を夜中こっそりメッキのものと取り替え、その日のうちに溶かして鋳造したものだ。

弾を確認してから、改造修道服の内ポケットのものを手に触れる。
そこで触れた鉄の冷えた感触は、かえってアスラに安らぎと自信を持たせた。

「対邪気眼用の装備は十分…これなら対等に闘える。否、闘って見せる!」

見ればステラは既にレーザーを展開させ、戦闘体制に入ってる。

「勝利条件は死なない事そして死なせない事…そんじゃステラ、《世界征服》と行こっか!」

態度は明るく、一歩踏み出す。
【世界】からの邪気が頬をすり抜け、彼女に一筋の嫌な汗を残した。

鍛え上げられた肉食獣のような足が、地を蹴り前へ進んで行く。
一歩でも足を宙に浮かせば、身動きのできない空中を狙われる───そう考え、あくまで足は地面から離さない。

【世界】へバカ正直に、一直線に向かって行く。
彼が迫り来るアスラに何かしらの行動を起こす直前、彼女は踏み切ることなく跳躍した。

【世界】の身の丈は平均より高かったが、彼女にとって飛び越えるには造作なかった。
頭をかすめるように宙に舞い、一瞬だけ【世界】の視界から消え去る。

背後に回る。自由落下の最中に、照準を合わせて引き金を引く。
眉間と左胸。狙いは寸分ズレることなく、【世界】に向けて放たれた。

63 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 23:06:33 0
あぁ、氏ね

64 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 03:43:27 0
『包帯の男』が咆哮し、黒に染まりきったかと思われるプレートを推し戻す。抗いの色は白。指し示す要素は『白眼の民』。
せめぎ合いの結果生まれた圧力が風となりステラの外套を揺らし、纏った光術加護が弾けて燐光を咲かせる。

「俺は「こっち」から『世界』と戦う……「そっち」は頼んだぜ、…死なないでくれよ……ッッ!!」

包帯男がこちらに言葉を寄越す。

「任せて。死なないし死なせないし――殺らせない」

傍ではアスラが既に武装を着用し、戦闘準備を完了していた。

「シスター、始めよう――世界の選択肢に『これから』を捻じ込むよ」

弾かれたようにアスラが走り出した。ステラは凝縮した光の足場を作り、宙を目指す。
地上戦はアスラに任せ、上空から高出力の攻性術式を叩き込む算段だ。

「飛ばしで行くよ――暁光眼:【ライジングテンペスト】!!」

アスラが『世界』の背後から銃弾を見舞う。『世界』が攻撃に対処する一瞬の隙を狙って、ステラは能力を発動した。
生み出されるのは一つの光球。拳ほどの大きさをもつそれは刹那をもって指向性を持った流線型の光へと姿を変え、
ステラはそれを投擲する。速度は光速。瞬きより早く彼我の距離を埋めたそれは狙いあやまたず『世界』へと命中し、炸裂する。

「『ニードルバインド』――そこから『コロナ』!!」

炸裂した光の一筋一筋が束となり槍となって世界のローブを地面に縫いとめる。無論それだけに終わらない。
指向性を得た光はニードルバインドを起点として『世界』の周りで渦を作り、その渦中に彼を飲み込んだ。

例えばポスターや壁紙が『日焼けする』という現象は、極めて馴染みの深いものだと思われる。
長期間日光に晒された物は表面が風化し、漂白され、色が落ちる。

そうッ!『日光』には!その多分を占める『紫外線』には!!物質を分解する『作用』が備わっているのだッッ!!

渦中の閉じ込めた物体に全方位から分解作用を強化した光を浴びせ、急速に風化させ分解する、暁光眼の真骨頂、
それが領域系攻性術式【ライジングテンペスト:コロナ】である。

「貴方が『これから』に害を為すというのなら……このまま消毒――!!」

叩き込む。

65 :名無しになりきれ:2009/08/30(日) 23:49:03 0
リクスの放った攻撃は、確かに一人の者を捉えた。問題なのは、それが誰なのかである。そう、その犠牲者とは、他ならぬリクス自身であった。
自ら放った攻撃に、思わず顔を顰めるリクス。
(これがあの魔鏡の力なのでしょうか?あらゆるものを反射する魔鏡、あるいは…)

(どうやら自分で解説していただけたみたいですね。別次元・並行世界を支配できるとは、やはり只者ではないということでしょう。)
「なるほど、あなたの強さはよくわかりました。しかし、1つ疑問に思うことがあります。」

サウザンズ・オブ・ブロークンミラー
『『無数の割鏡』ッ!!!』

刹那、セカイがひずんだ。
ほんの一瞬ではあるが、自らの存在そのものを揺るがすような確かな「消滅」と「再生」の感覚。「セカイ」の位相のズレが生じたのである。

「そうですね。」

音もなく現れた巨大な氷壁が無数にあった鏡片の大部分を防ぎ、リクスはひとり呟きながら、纏わりついてくるかのような魔鏡の破片を避け続ける。

「今、2つ確信できたことがあります。1つ目は、セレネお嬢様のほかにもこの『セカイ』を転がしている存在がいること、そしてもう一つは『それがあなたではない』ということです。」

言うや否やリクスは足元の大きめの鏡片を拾い上げ、御鏡に投げつける。
二人の間には厳然として『次元魔鏡』がある。しかしリクスは意に介さない。既に手は打ってある。

「あなたはしゃべりすぎです。そう、まるで誰かに言わされていると思えるほど。
仮にそうでないとしても、それはあなたの無能さの証明にしかならないのでしょうけどね。
                     こっちの住人
つまりどちらにせよ、残念ながらあなたは「動かされる者」の方だったというわけです。」

次の瞬間、御鏡を護る魔鏡に異変が生じた。表面が謎の氷で覆われているのである。
(彼の魔鏡は100%の反射率を用いた次元の連結装置、ということは表面にそれを損なうフィルターをかけることができればその力は失われるというわけです。)

次元繋ぎの力を失った魔鏡は、同じ絶対材料の直撃を受け四散することとなった。
「どうやらこれで、あなたの切り札は失われたようですね。」
仮にまた『次元魔鏡』を呼び出しても、リクスの射程圏内では魅力であることが証明されてしまったのである。

「それでは時間も押していますし、私の用意したエンディングを見ていただくことにしましょうか。」
(尤も、「見る」というほど堪能していただけるかは疑問ですが。)

「『氷結せよ』」

御鏡の頭上に巨大な黒い塊が現れる。これもまた氷。そう、中心まで光が差し込まないほど大きな氷塊なのである。
(この暗黒はある意味、私の存在そのものにお似合いというわけですね。)

今、裁きの一撃が下される。

66 :名無しになりきれ:2009/09/01(火) 12:35:44 0
「さあこれで振り出しだぜ"人形師"ィ!!まだまだ始まったばっかだ、楽しもうぜぇ……!!」

ひっくり返したと思った蟹がさらに半回転し、正位置に戻る。同時に蟹の中心部から巨大な砲塔が伸び、魔力を充填し始めた。
主砲だ。マリーのスコープで割り出した魔力リソースの分布でもこの巨砲に殆どの魔力を費やしていることがわかる。
故にこれさえ弾けば、見えるのは勝機――!!

「その価値……理解(ワカ)ってんのか貴様等ァァァァァァァァッッッ!!!」

そのとき、太陽の方から怒号を挙げながら何者かが降ってきた。巨大な鋏を振りかぶりながら介入してくるそれは、
見覚えのある白衣を鮮血に染め、不敵だったはずの薄ら笑いを赫怒に歪めている。アリス=シェイド――かつての仇敵である。

「おやおやこんなところで意外な人間が御出ましだね?」

「白衣――アリス=シェイド……!!何故ここに!?」

『吊られた男』とマリーが二者二様の反応を返す間に、シェイドは地面へと軽やかに降り立つと、蟹に一瞥くれてこちらへと向き直った。

「…!貴様、「人形屋」!?構わん、今は問答をする間すら惜しいわ!
 問いは一つ───そこの蟹を潰すか、あるいは今最ッ高に機嫌の悪いこの私にミトコンドリアの一片も残さず消し去られるか!二秒以内に答えろ!」

「君……キャラ変わりすぎじゃないかい?それに問うてくれるのは別にいいんだけど、ほら後ろ――二秒経つ前に君、死ぬよ?」

シェイドの背後では既にライドムーバーの主砲が砲撃準備を完了していた。舌っ足らずな電子音が発射を告げ、同時に空気の抜けるような音。
にもかかわらず、目の前に展開した光景はまさに最大破壊兵器の何相応しき惨状であった。

邪気強化により高速化した視覚でも追うことすら困難な速さ。ドップラー効果すら引き起こしそうな亜光速弾の飛来はどうあっても回避できるものではない。
咄嗟にマリーが一歩踏み出す。人外の挙動でもそこまでが限界だった。展開したギミック<ルーフシールド>で弾を受け止めるが、
最早銃弾の前の紙切れに等しい。それでも弾はシールドを食い破るのに一瞬だけその加速を費やし、刹那の間隙が発生する。

「【傀儡眼】――!!」

『吊られた男』は人間の可動限界を超えて『吊り糸』を繰り出す。マリーの手元へ接続すると、ありったけの邪気と魔力を送り込んで更なる防壁を生成する。
さらに、一瞬、弾が停滞する。本来ならば止めるどころか破壊まで可能なほどの邪気を送り込んでいるのも関わらずだ。

(ただの弾じゃあないね。この邪気反応性――『聖銀』あたりかな。流石世界政府の機関だけあっていいものもってるね?)

一瞬。一瞬。一瞬。防壁が砕かれ拉げ貫かれるたびにマリーと『吊られた男』はさらなる防壁を作り出し、一瞬を重ねて瀬戸際で弾の侵攻に抗う。
しかしアルカナ幹部に身を窶す彼等とてその身にもてる力は有限である。同様に主砲の弾も有限であるはずだが、その事実を補ってありあまるほどの
加速度と威力。そして特殊弾というコンボは邪気眼遣いを相手にするにおいてはハメに等しかった。

シェイドを見る。主砲のロックオンから外れていたためか被弾をうけていない彼はこちらを傍観していた。というより、主砲を受けてから
数瞬しか経っていない現在において彼はまだ状況を把握していないのだろう。戦闘状態にあった『吊られた男』ですら千日手であるのだから。

『糸』を伸ばし、シュイドに接続する。邪気を通して言葉よりも速い通信回線を創り出し、彼へ意思を流し込む。

『白衣君、このままだと亜光速弾の衝撃派で君も無事じゃあ済まないだろう。死にたくないなら――僕らに手を貸してみないか?』

マリーに聞かれていれば間違いなく反対を受けていただろう。生き残るために――彼は共同戦線に活路を見出した。

67 :名無しになりきれ:2009/09/02(水) 01:47:42 0
アスラの放った二発の銃弾。ステラの放った「眼」による攻撃。それは共に致死性の物だ。
かなりの使い手であろうと、回避、或いは防御しなければ、生き残る道は無い。
しかし、それをしても生き残れる可能性は低い。そういうレベルの攻撃だ。

それらは、真っ直ぐに『世界』へ向けて放たれ――――だが、
『世界』がその二死を前にして取った行動は、回避でも防御でもなかった。

アスラの銃弾が『世界』の心臓部と頭部を貫き、ステラ光がその身体を風化させる。
何の抵抗も無い。そう『世界』は無抵抗という行動を取った。
そうして、光に風化され、頭蓋に穴の開いた白骨として地に倒れる『世界』。
あまりにあっけない幕切れ。あっけない決着。
こうして、この戦いは決着を迎える


 筈 が 無 か っ た


この戦いは世界を賭けた戦い。今までとこれからの戦い。
それが、簡単な結末など迎えられる筈が無い。

       エターナル
「 『   創   生   』 」


どこからか聞こえてきたのは『世界』の声。
突如、地……ヨコシマキメから溢れ出したのは、あまりに膨大な邪気。
そのどす黒い邪気が世界の骨を包み込むと……一瞬の後に『世界』がそこに立っていた。
邪気殺しの弾丸に打ち抜かれ、光に風化され骨となった筈の『世界』が。
無傷の状態で。嘲るような表情を浮かべながら。

68 :名無しになりきれ:2009/09/02(水) 01:48:37 0

「ククク……何を驚いている? よもやこの我を殺せたとでも思ったか?」

そして『世界』は三人の表情を一人づつ見てから、その絶望を告げた。

「愚民よ。教えてやっただろう? 我の眼たる『創世眼』は、この世界に存在した物ならば、
 その全てを再現可能――――――そう、“我自身”ですら例外無くな」

それが意味するのは

「つまり我は『絶対不死』であるという事だ。貴様ら愚民が死力を尽くしたとて、
 この我は殺せん。貴様らには元より勝ち目は――――無い」

……『世界』は語らないが、『世界』が不死であるというのは事実ではあるが本当ではない。
『創世眼』で再現する物には、それに応じたエネルギーを必要とする。
『世界』自身というあまりに強大な存在を再現するとなれば、必要とされるエネルギーは
膨大で、一度でも再現を行えば、『世界』自身のエネルギーを半分以上使ってしまい、
何度も自身を再現する等といった事は、実質不可能なのだ。
だが今は、ヨコシマキメの存在がその不死を現実にしている。
現時点でヨコシマキメは『世界』の所有物。
故に、そこに蓄えられた無尽蔵の邪気を『世界』は自身の物として使用できる。
つまり、ヨコシマキメと『世界』の繋がりを破壊されない限り、『世界』は殺せない。
それ故に不死は事実ではあるが絶対ではない。

だがそれでいい。『世界』が攻撃を受けたのは、敢えて攻撃を受けたのは、
 この現実(ぜつぼう)を見せる為だったからだ。『世界』にとってこの戦いは
『Y』の精神を折る為の戦い。その為に、敢えて希望を見せてから、それをへし折ったのだ。
そして、これすらも次に見せる更なる絶望への布石――――


「さて、愚民共よ。我は温情で貴様らの攻撃を受けてやった。
 次は貴様らが我に奉仕する番だ――――絶望に染まり、我が目指す世界の贄となれ」

次の瞬間、七大罪の魔剣が中空に浮かび、それぞれを点とした魔方陣を形成する。


「味わうがいい――――『     原    罪     』 」

そうして放たれるのは、過去より生まれ、今尚ヒトを縛り続ける原初の罪の名を冠した一撃。
放たれた黒い光を浴びた者は一瞬にして体験するだろう。地獄を。

この世に存在したあらゆる苦痛を『感じさせられ』、
この世に存在したあらゆる死の気配を『嗅がされ』、
この世に存在したあらゆる絶望を『聞かされ』、
自身が望む幸福が目の前にあるのにも関わらず、決して届かない事を『味わわされ』、
その幸福が決定的に破壊される様を何度も何度も何度も『見せられ』るだろう。

ステラよ。『世界』への恐怖を乗り越えた女よ。
アスラよ。人の身にも関わらず世界の分岐点に立ち会うと決意した女よ。

未来を守ると嘯く者たちよ。ならば今度は。これを打ち破って見せよ。
諸君の未来を望まない過去の声を。諸君らが積み重ねてきた罪を。
その全てを背負って見せろ。そして、その重さで圧死するがいい。
諸君らが折れた時こそ『世界』が世界を手にいれる時だ。

69 :名無しになりきれ:2009/09/02(水) 02:22:06 O
───世界基督大学上空8000メートル。
地上の激戦を見下ろすが如く、一機の飛行機が飛翔していた。
 
 
ステルス小型輸送機【インヴィジブル】。レーダー等の物理的手段は勿論、魔術的手段等を用いたあらゆる感知を無力化し、目視や聴覚での感知すら不可能にした『策敵不能』を念頭に【カノッサ機関】に開発された機関員専用機である。
その性能は日本領空に何者にも悟られずに土足で踏み入り、世界基督大学周辺の『迎撃結界』の海をも楽々突破した事実が端的に示している。
 
 
「……ようやく到着したか?」
『ええ、ミコト様。世界基督大学です』
策敵不能という性能の代償に、広さを失った機内には二人の男がいた。
一人は、軍人風のパイロット。もう一人は、白い着物と袴をつけて1m50cm程度の刀を持った侍風の男。
双方【カノッサ機関】に属する構成員である。
 
 
今回の【アルカナ】の台頭に【カノッサ機関】が起こした行動は『静観』。だが、今になり、一つの行動を起こした。
それが彼───『魔剣使い』達の部隊【Dullindal】(デュランダル)の総隊長───の派兵である。
 
 
「そうか……では下ろしてくれ」
『了解致しました。ハッチ……オープン』
隔壁が開くと同時に風向制御術式が展開し機内を守護する。侍は事も無げに、そのまま飛び下りた。
圧倒的な烈風が彼を蹂躙するが、それを一切無視して彼は思索に耽る。

70 :名無しになりきれ:2009/09/02(水) 02:29:08 O
(此方の戦力は某一人……)  
 
彼は機関内でも───対個人戦に力量が偏っているという一節を要しはするものの───相当な上位に属すると言っても遜色ない実力を持つ。
だが、その対個人戦闘ですら彼は決して『最強』では無い。
 
今回は、相手方が大規模な戦闘集団という事が明らかな状態。
ならば、彼以上の実力の幹部───かの有名な氷術使いの【永遠の雪】や機関最強と称される【食堂の男】───並びに、大隊編成の戦闘部隊が派遣されて然るべきなのだ。
(だが……何ゆえか【王】が下された『選択』は、某一人のみの出陣……)
 
彼に【王】の意図は掴めない。戦術的要素、地理的要素、人員的要素、遍く考えを巡り、なお解は得られない。 
だがその深遠たる疑問すらも超越し、彼の心には一つの決心が根付いていた。
 
(某が【王】より賜りし任は【アルカナ】の壊滅…… 
ならば、必ずやそれを果たし世界の秩序を安定させる……!)
 
『秩序ある世界』という決して揺るがぬ信念を抱え、彼は空より戦場を見据えて【アルカナ】へ宣戦布告する。 
 
 
「【アルカナ】……世界に動乱をもたらす者どもよ……!」
 
───数多の死が渦巻く混沌の死地
 
「我【白亜の侍】が汝らを討滅せんが為……」
 
───今そこに一人の武士(もののふ)が
 
「いざ……参る!!」  
 
───参戦する

71 :名無しになりきれ:2009/09/02(水) 22:22:44 0
獣で埋め尽くされた空間を、中隊規模の兵団が押し進む。レイジンはその舳先で他の隊員達と共に刃を重ねながら指揮していた。
聖銀の銃弾が活路を拓き、近接系の武器を携えた者達がそこへ身をねじ込ませ、強引に突破していく。

「進軍せよ――進軍せよ!我々の仕事は時間稼ぎでも拠点奪還でもありません。殲滅すること。制圧すること。――冒涜の波に抗うように!」

おお!という声の連なりはやがて応となり進軍という形で指揮官への返事となる。
ある者は群れの急所へと的確に弾をばら撒き、ある者は剣の一振りで幾匹もの剣虎を薙ぎ払い、ある者は攻性術式で眼前を焼き払う。
数の差はあちらがこちらの数倍。だが調律機関の実働部隊は個々が百戦錬磨にして一騎当千の英雄達である。

「しかして地の利はこちらにありますねェ――!ここは我々にとってのアウェイ、奴さん方のホーム……本来逆であるはずの利は今――!!」

調律機関が圧しているのには理由がある。各々の戦闘能力もさることながら、敵が増えることを優先するあまり密集陣形をとらざるを得ない状況。
剣虎のみならず獣の闘いとは自身の生物としての性能に任せた俊速のヒットアンドアウェイ。これは全ての野生に共通する戦法であり、
群れで狩りをする獣にとっては最も他者との連携をとり易いという利点がある。つまり、増殖による密集過多は獣としての生命線、『機動力』を自ら削いでいることになるのだ。

「現況で我が隊の被害は死者0に中軽傷者が数人程度――対してあちらは死屍累々……と」

「ハァーッハー!!鈍い獣なんざただの的だなオイぃ!?こいつら全部毛皮剥いだらいくらで売れるよ?」

「おいおいこんな大量に売ったら毛皮市場が軒並み値崩れだぜ?――丁度良い玄関マットが欲しかったんだ」

「じゃあ俺彼女に毛皮のコートだな!――俺、この戦いが終わったらプロポーズするんだ」

「おいおい給料三か月分の毛皮渡されてドン引きしまくりなお前の彼女が見えるね俺は!」

「隊員B貴様見ているなッ!!」

隊員たちが野次と軽口を叩き合いながらさらに攻める。弾幕を破って飛び掛ってきた剣虎の顎に上段回し蹴りを叩き込みながらレイジンは前を見る。
先刻の青年は調律機関に剣虎掃討を託し、一人巨獣へと向かっていった。この数相手に一人で凌げるほどの実力の持ち主ならば、そう簡単にやられはしないだろうが――

既に獣の壁に視界を阻まれ、彼の状況を窺い知ることはできない。

そして、剣虎達が色めき立った。今まで防戦一方へと意識の全てを傾けていた剣虎達が一斉に横を向いた。
視線には方向があり、その先には何かがある。広間中の剣虎の視線が交錯する場所、先ほど大剣虎が存在していた場所に、何かが起こった。

まず見えたのは鮮血の赤。腹を貫かれた青年が力なく弄ばれるがままに宙を舞う。
そして圧力を持った黒。大剣虎が抱え込むようにして創り出した黒球の術式は、

「邪気反応――魔力反応――ともにキャパシティーオーバー……!!見たことない、こんな術式――!!」

分析スコープを額に押し付けた分析官が搾り出すように言う。器具を使わずとも解る。解ってしまう。あれはこの世の尋常を越えた何か。
内包されたエネルギーが炸裂を起こせば、いかなる防護を以ってしても凌ぎきれない超常規模の破壊と殺戮を引き起こすだろう。

全てを超越した超破壊術式が、そこにあった。そしてそれは信じがたいことに、たった一人の――それも死に掛けの青年へと向けられたものだった。

投擲される。

間に合わない。

着弾。

そして、
すべてがそこで停滞していた。

72 :名無しになりきれ:2009/09/05(土) 14:31:56 O
⊂ニニニニ( ^ω^)ニニニつブーン

73 :名無しになりきれ:2009/09/06(日) 18:03:40 0
保守


74 :名無しになりきれ:2009/09/06(日) 20:43:05 O
フェンリルが不憫すぎる件

生きてたよね?あいつどうなったんだw

75 :名無しになりきれ:2009/09/07(月) 22:41:07 O
保守

76 :名無しになりきれ:2009/09/08(火) 19:06:05 0
hosyu

77 :名無しになりきれ:2009/09/08(火) 21:44:05 O
<彼女たちは頼もしいセリフを置き土産に、それぞれ『世界』に仕掛けて行く。>
<宙に舞上り、光を手繰り、宙で発砲ち、光を操作る――めくるめく幻想の調べ。>

<目の前で次々に展開される「非日常」を、青年はもはや恐れはしなかった。>
<『世界』との壮絶な精神の攻防の中で、確かな"希望"を「非日常」に見つけたのだ。>

<2人の渾身の痛撃を無抵抗に受け、『世界』は無残な姿で崩れ落ちる。>
<――それを、何故か、真っ先に、青年が、……虚飾であると見抜いた。>


…そう易々やられてたら、世話ねえよな………。……だろ、『世界』。

<青年はそれを信頼と悟った。『世界』を、無二の強敵と信じるからこそ。>
<『世界』が再び立ちはだかるその前に、青年は『世界』の虚飾を見抜けたのだ、と。>

<そして、『世界』が再び立ちはだかって……青年は、ただ――――笑った。>
<奇妙な感覚だった。敵対しているのに、信頼している。「日常」では味わえない感覚。>

<この到底理解しがたいアンチノミーこそが、「非日常」ではないか――そう青年は、想った。>

78 :名無しになりきれ:2009/09/08(火) 21:56:57 O
<【大罪の魔剣】が7つ全て宙に浮揚すると、それらが光で繋がり魔法陣を作る。>
<青年はその魔法陣を文献で目にしたことがあった――曰く、『人の原罪刻ましむ呪』。>

<何百年、何千年、それ以上の年月の中で累積し積み上がった「負」を体験させる術。>
<人の一生の何百倍、何千倍、それ以上もの……それはまさに、拷問と謳うに相応しい。>

<創世眼、ここまでか……掛け値無しの純粋な恐怖が、戦慄となって背筋を伝う感覚。>
<「いままで」そのものが相手では、邪気眼使いといえど……無謀に等しい。>

<その上、傍で戦っているリーに影響が及ぶ可能性を、青年は看過をできなかった。>
<完全な発動を食い止める。あわよくば相殺を。殺がれ続ける精神に、青年は鞭を打つ。>


うぉぉおぉおおぉぉおぉおおおおッッ、『世界』ィィイイィィイッッ!!!

<雄叫びを上げながら、全力を精神の中に注ぎ込み始める…騒めき出すプレートの「白」。>
<苦しいのか、哀しいのか……青年の"目"から湧く涙の理由を知らぬまま。>

<ただ確かに言えるのは、その涙が『世界』に向けられたものだという事実。>

79 :名無しになりきれ:2009/09/09(水) 00:37:42 0
──────っ!?
チッ、「影探ガ───

(主砲がシェイドに向けて放たれる。その速度は亜光速、最早人の目に捉えられるスピードではない。
 とっさに「人形屋の人形」マリー・オー・ネットが一歩踏み出し、続けてクレインが防御壁を展開する)

こいつが蟹のメイン装備か…!
あの光────【聖銀】!?邪気を打ち消す高次元物質…フン、本当に面倒くさい真似をしてくれる…!


『白衣君、このままだと亜光速弾の衝撃派で君も無事じゃあ済まないだろう。死にたくないなら――僕らに手を貸してみないか?』
(ふと、脳裏にそんな言葉が伝わる。傍を見ればクレインは人形に糸を繋げて、コンマ単位で盾を展開すると共にシェイドの身に糸を張っていた)


…人形屋?精神感応か…
『…貴様の提案に乗るのは気に食わんが…まあいいだろう。そちらのほうが面倒が少なくて良い。
 では貴様はこの盾の展開を続けていてくれ。この砲弾は──私がなんとかしよう』

とっとと終わらせてやるとするか……「影探眼」!

(摩擦力ゼロのレールガンにより発射された砲弾。それは人の目にはとうてい映らぬスピードであったが、
今のそれはクレインの張った「ルーフシールド」により停滞しており、形をはっきり表し、太陽に照らされ影すら作っていた)

レーザー系なら多少はてこずったかもしれんが…この私に物理攻撃で挑んだのが間違いだったな!
あの時と同じ技で申し訳ないが、止めさせてもらおう──!
(銀の砲弾の前に踊り出て、影探眼により自分の影と砲弾の影を重ね合わせる。手を大きく後ろへ引き、弾丸の影を後方へと引っ張る)

…クッ、予想はしていたが…いい速度じゃないか……!
だが……我が邪気には到底及ばんなあ!
(一気に腕を引ききる。砲弾はシェイドのどてっ腹に触れる直前で静止し、やがて重力に従い重い音を立てて落ちた)

……クク…なんとか間一髪、といった所か?
いくら聖銀を用いようとも影の前には…「無意味」だったようだな?

80 :名無しになりきれ:2009/09/09(水) 00:39:21 0
…ふむ、ではそろそろこちらから行くか。
それにしても時間がない。乗組員にはとっとと「くたばって」もらおう。

(蟹に真正面から突進。迫り来る両鋏の襲撃を紙一重でかわす。が、全ての攻撃を捌ききる事はできず、白衣からは微量の血が滲んだ)

…ん?…ほう、私に攻撃を当てるとは…いい腕をしているな。図体が大きい割に操作一つ一つが実に緻密だ。来世は床屋でもやってろ。

(蟹の懐に潜り込み、むきだしの腹部に懐から取り出した「箱」を突き付ける)

「三種の神器・箱」よりNo.28「イン・ザ・タイフーン」
……堪能しろ。飛べない蟹を飛ばせてやったのだからな。

カチリ

(水色の箱の蓋が開き、中から災害規模の暴風雨が飛び出す。
腹部に直接見舞ったので荒れ狂う風の姿は遠目からは確認することはできなかったが、その風はライドムーバーの巨体を地表から4〜5メートル浮かせた)

…ふむ…まあ、これだけあれば十分だ。「スタンシザー」ON。
(二言三言何かを唱え、大鋏を軽く手に握ると、金の鋏が高圧電流を帯びたようになる)

そっちが鋏ならこっちも鋏。動きの制限される空中で、私の鋏をどう避ける…?

(やがて重力に従い落下を始めたライドムーバーに、手持ちの大鋏の片割れを全力で投げつける)

81 :名無しになりきれ:2009/09/09(水) 00:55:13 O
自由落下のさなか、侍は混沌とした死地を見据える。
超絶的な彼の視力は、遥かな上空から大まかながらも戦場の把握を可能にするという恩恵をもたらした。
 
(ふむ……巨大な蟹らしき機械……それに抗する白衣の男、西洋服の少女、“糸”らしきものを吊る能力者…… 
そこから北西、氷を操る能力者と、鏡や金剛石らしき物体を操る能力者か……)
 
(調査結果に照らし合わせれば恐らくあの“糸”の能力者が【アルカナ】幹部……《吊られた男》の可能性が高い……
ならば、某が参るべきは此奴の───)
 
ゴォォォッッッ!!
 
戦場の把握はそこまで。戦いにおいて必須と言えるそれより、優先すべき事象が現れた。 
 
───大山の如き壮大な、純白の火球が下から迫り来るという事象が。

(……ッ!?これは……四大元素“火”の戦術級魔術!?
だが……!ここまで大規模な“魔術”を発動するために必要な人数が集まっていたら某が気付かぬ訳が───!)
 
なくは無い、という事実に気付くに要するはほんの刹那。
彼は知っている。この疑問に対する『完全回答』を知っている───ッ!!
 
「《魔術師》か……!!」
 
 
大アルカナNO.T《魔術師》。調査によれば“魔人”すら遥かに上回る魔力を持ち“魔王”に比べても遜色無い技量を誇る怪物。
 
(確かに彼奴なら、この規模の大魔術すら一人で発動できかねん。
そしてこの距離ならば、例え某とて多数ならまだしも隠れている『独り』の気配を掴むのは不可能……!) 
 
《魔術師》の奇襲は完璧に等しかった。ミコトの警戒を凌駕し不意打ちで高威力の一撃を見舞う。まさに理想の一撃。 
 
 
たった一つ、余りに致命的な失敗を犯してしまった事を除いて。

82 :名無しになりきれ:2009/09/09(水) 01:16:07 O
「だが……確かに《魔術師》の位置は掴んだ……!」
 
───そもそも《魔術師》が奇襲に成功した理由は、ミコトの『戦場把握』のためによる視界から逃れ、『一人』でいたからである。 
そう。広大な大学敷地内、彼の眼下に広がる森に隠れることで。
しかし、魔術の発動の際に媒体から迸る光───通称“魔力光”は《魔術師》の居場所を暴露するという事態を招いてしまった。
だが、それ自体は大した失敗では無い。例え居場所が露見しようとも、その奇襲で相手を葬れば何の問題も無い。
 
だからこそとも言えようか。《魔術師》が犯してしまった、たった一つのミスとは─── 
 
 
『この程度の奇襲で彼を殺せると思ってしまった事───ッ!!』 
 
侍はその絶望的なまでに強大な、幾千もの能力者すらまとめて屠れるであろう『力』を見て、尚怯えない。
凛と火球を見据え、己の『力』へ呼び掛ける。
 
「【白亜】……!」
 
『力』とは刀。抜刀したのは己が愛刀であり、遍く魔剣の中でも五指に入るであろう名刀にして“妖刀”
【白亜】の名を冠するに相応しく、数えるのも馬鹿らしい量の血を浴び続けている刀身は、未だ純白に染まっていた。
 
 
【白亜の侍】こと本名、緋月命(ヒヅキミコト)は日本人の無能力者である。
そんな無能力者が【カノッサ機関】、引いては“裏世界”で『強者』と認識されている理由はたった二つ。
 
一つは【白亜】の使い手である事。もう一つは、幾重もの死線を越え“天命流”という自分だけの『力』を作り出した事。
それは魔術、邪気眼、異能力。『生まれつきの才能の力』に対抗するための『努力が生み出した力』───!
 
「共にゆくぞ……外法の《魔術師》をいざ討たんがため……!」
 
 
───『努力』が
 
「『天命流』……第二式」
 
───『才能』に
 
「『閃光』……!!」
 
───炸裂するッ!!

83 :名無しになりきれ:2009/09/10(木) 14:16:16 0
世界の終わりが停止していた。破滅の権化が停滞していた。
奇しくも最深層にて拮抗する石版と同調を得た霊珠のコントラストは、空を裂くような鳴動のみを威力の証左としてそこに残し、
しかしそれを発揮しないままそこにあった。打ち捨てられた臨死の青年を飲み込んだ途端に、である。

『馬鹿ナ――!!"昏く死せる者を喚びし霊珠"はあらユる因果の制約を受けズ遍く全てに滅びをもたラす最上の呪術!こんナことガ……!』

驚愕を抑えきれずに大剣虎は獣の口から言葉を洩らす。そして同時に切れ長の金眼を細め、思考する。
敵の名はヨシノ=タカユキ。かつて捕食した有象無象の中で一握りの"生き残り"。ヨコシマキメが見初めた因果の申し子。
能力ではない。彼の邪気眼は道具使用の対象を任意に変更するだけの能力、応用の幅はあっても規模が違いすぎる。

(なラば魔道具か?――魔剣ノ所持はナし、携行品も普遍の品ばカり。内在する邪気もいタって平素……)

ヨコシマキメの『腹』にアクセスする。あらゆるものを溜め込む怪物の胃袋にとって、"情報"もまた例外ではない。
膨大なデータベースとなった腹の中から、遺跡におけるヨシノの行動記録のみを抽出し、精査。
ここまでの工程を大剣虎は存在としての性能に任せて一瞬で行った。

(目立っタ行動はしてイない……徹底的なマでに縁の下。強いてターニングポイントを挙げルならば、同行の修道女かラ渡さレた白の……女中服)

――女中服?

  * * * * * * * * * * * 

死の淵にあってヨシノに芽生えた感情は、苦痛ではなく悲しみでもなく、怒りや諦めや後悔でもなく、

(……死ぬのか俺は?この感覚、これが死?なんて、なんて  ――興味深い)

単純な好奇。元来の探求者という性質が、全ての情緒を凌駕して未知の領域へと脚を進ませた。
辿っていく。次第に足元から水音が聞こえ始め、自分が浅い川を遡っていることに気付く。そしてのの流れが時間の推移と同義であることにも。

                                    "かつて"が、見えてきた。

――『一人は暇か?なら俺達と来いよ。お前を必要としてやる』

        誰よりも賢しく在る為に                                ――『若いな。こういうときは経験に頼ってもいいんだぜ?』

   ――『恐怖しなさい。生き残るにはそれが全てよ』                               誰よりも強かで在る為に

         見据えよ己の確定視点                   ――『怖いか?なら漏らせ存分に。震える代わりにちびっときゃ冷静でいられるんだ』

 ――『お前は優しくないなヨシノ。だがそれでいい、感情にあてられるよりも冷静に全てを見据えるのだ』      どこからここへ?

           ここからどこへ?                               ――『慌てんな、誰も先に行かねぇよ。……待っててやるから』
           
    ――『お前は仲間で家族で友達だ。俺達はお前を頼るし、お前は俺達を頼れよな』                ならば行こう。


                     『死ぬなよヨシノ。お前が居れば、お前が忘れなければ、俺達の存在はここに在れる』

                     『進め、見据えろ。確定視点は既に得たはずだ。安寧はここに在る――辿り着け』
                     イシズエ
                     『礎はお前を縛るためのものじゃあない。より高く飛ぶための踏み台。いいや、発射台だ!』

                  『跳べよヨシノ。お前が飛べば、高みに在れば、そしてその上を目指すなら、俺達はお前の翼になろう』


                                  ――お前が在りたいお前である為に――



                                           跳べ!!

84 :名無しになりきれ:2009/09/11(金) 22:06:33 0
                               シルキークロス
『そウか、女中服――否、特A級概念魔道具、【白い婦人の絹衣】。邪気を死霊と同ジ波長の"妖気"に変換スる術具。
 そシて我が霊珠ハ死霊を収斂し高エネルギー体としタもの……すなワち絹衣を纏いし者と同質――融合しタか!!』

合点がいった大剣虎は結論とともに吼えた。如何に自らが作り出した術とはいえ、停滞した霊珠に不用意に触れればこちらが被害を被る。
拳銃の兆弾が射手を滅ぼすように、極大の術式もまた、諸刃の剣であった。霊珠がヨシノを食い尽くすまで待つしかない。
そして――

            * * * * * * * * * * 

跳んだ先、目を開ければ一面が白だった。
貫かれた腹部がじんわりと温かい。空虚な喪失感で埋められているはずのそこは、何故か光とともに満たされ、

(――術、式?治療されてるのか俺は?誰に、どうして、どこで……どこだ?ここ)
『起きたかヨシノ。待ってろよ、今お前のどてっ腹に開いた風穴塞いでるから』

声が聞こえた。よく知る声だった。十年越しの、あの日を境にこの世から消え去った、故人の声。
白の背景の中に、幾つかの影が落ちる。周囲と同様に薄ぼんやりとした輪郭は、確かに人の形をしていた。

「――団長」
『お、流石に憶えてるよなぁ。俺だけじゃないぜ、リフィルやボルト、みんなも居る。ほら、もっと驚いていいぞ』

次第に全てが鮮明になってきた。仰向けに転がるヨシノを十重二十重に囲むのはかつての仲間達。
旅団の長をはじめ、ヨシノに治癒を施行する術式使いや、その傍で破顔する大男や、心配そうに見つめる少女、そっぽを向いたままの青年。
十年前と変わらない姿で、そこに居た。

ヨシノは驚かなかった。
「アンタ達が迎えに来たってことは……本格的に死んだな、俺」
『おいおいなんだよ、もっと驚けよなぁ?ついでに言うとまだお前は死んじゃいねぇよ、限りなく危ういけどな。今リフィルがフルバーストで治癒ってる』

見れば術式使いの麗女はいくつも術式陣を展開しながらヨシノの腹部を治していた。失われた内臓を再構築し、体組織の超速再生を促す。
高等医療術師が数人がかりであくせくしながら行う作業を、彼女は汗一つかかずに施術していく。鼻歌でも奏でそうな気配だ。

『よし、内組織補填終わりっ。げ、肉作る栄養素がもう打ち止め?アンタ何食べて生きてんの?――穴塞ぐけど身長ちょっと縮むかもね』
『構わんだろ、ヒョロヒョロ背ェばっか伸びくさってからに、俺より五センチも上だと?あの頃は俺の肩にも届かなかったのによ!!』
「ははは羨ましいか団長?だが縮んだって問題ない――まだ伸びる。成長期だからな俺は」
『ハッ、21歳児が何ぬかしてやがる。しかしまぁ、なんだ――大きくなったな、ヨシノ』

「ああ――俺もそう思う」
腹部の治療が完了した。ヨシノはその場で立ち上がると、死に瀕してなお握っていた白杖を伸展させる。

『まだ戦うつもりか』
「無論。その為に俺はここに来たんだ――奴が霊珠にアンタ達の魂を注ぎ込んでることが分かった時、死に掛けの脳味噌で賭けに出た」

恐ろしく分の悪い賭けだった。霊珠が衝突する寸前に、まさに最期の力を振り絞って『倒錯眼』を発動させた。
干渉するのは"絹衣"の効果、『死霊との同化』――そしてこの場所は死霊によって構成された空間であり、結果ヨシノはここに居る。

「瀕死の身体を今すぐどうにかするにはマジ死にしてる人間に力を借りるしかない――遅れたが、会えて良かったよ。みんな」
『うっせ、んなこたぁ分かってる。みーんな分かってるさ。だからさっさと行けよ世界の救い手――仇も含めて、ブチかましてこい』

手の中に変化があった。白く凝った空間の淀み――旅団の死霊の成れの果てが、渦となって白杖を覆っていく。
『言ったろ、俺達はお前の翼になる。お前の最も求める"刃"になって、これからを紡ぐ未来を導こう』

グリップから先を更なる白で埋め尽くした妖気の奔流はやがて凝固した高エネルギーの実体となり、純白の刃を織り成していく。
それは剣だった。長剣である。幅の細い刀身は光を反射せず、ただただ己の白の糧とするばかり。そして最後の声が響いた。

『導きの魔剣――【ガイドライン】。忘れるなよ、俺達は常にお前と共にある。身体は無くしちまったが……代わりにこいつで導いてやる』

言葉が切れると同時、朧白の視界が開けた。唖然とする大剣虎を見据えながら、彼は立つ。
満身創痍のまま、しかし戦うだけの活力を取り戻して。――右手に白の長剣を携えながら。

85 :名無しになりきれ:2009/09/13(日) 22:39:42 0
保守

86 :名無しになりきれ:2009/09/15(火) 18:19:10 O


87 :名無しになりきれ:2009/09/16(水) 02:20:31 0
砲撃は完璧だった。仰角よし、標的座軸よし、デジタルエイミングも精緻、砲塔内魔導回路も無問題。
完全完璧超絶パーフェクトな一撃は、如何なる遮蔽術式をも砕き確実に敵を散らすはずだった。

『ひゃっぱつひゃくちゅう』    『見敵必殺』
「エネミネイションオールグリーン!このまま消し飛んどけよお二人さん――!!」

ライドムーバーとの感覚リンクにより加速した視界で少女が動いた。亜光速の弾が着弾する、その瞬きより短い間隙の中で、
信じられないことに一歩踏み出した。左腕から魔力シールドを展開し、ゼロフリクションキャノンの砲撃に真っ向から抗う。

(やっぱ人外か……!!だが超絶加速度に加えてその弾は邪気・魔力問わず異能の眷属を蝕む聖銀!そんなペラい壁じゃあ)

一瞬出来た隙に今度は青年が動き、シールドに邪気を供給し始める。流石にアルカナ幹部だけあってその身に秘める力は軽く戦略級を
弾き出す。だが。それでも。調律機関、ひいては『世界政府』最強を誇るライドムーバーの主砲の前では、

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァァァァァァァァ――ッッ!!」

『――むらい!ぜんぽうちゅうい!!』         『邪気反応。 能力発動。 白衣。 分析完了――支配系邪気眼』
「あァ!?あの超絶無駄テンション白衣、生きてやがったのか!」

白衣の男は能力を発動すると、シールドで数瞬停滞していた聖銀弾の影に自分の影を重ねると、

(邪気が影に集まってる……影を支配する能力か!つーことはありゃ影の動きを本体にリンクさせる主従逆転の術式――!)

訓練で培った分析能力は正しき答えを導き出す。果たしてムライの読み通り、あっけないほどに亜光速の聖銀弾は撃墜された。

「おいおい、おいおいおいおいおいおい!――なんつう超絶邪気だよ?主砲だぞ主砲。眉一つ変えずに落としやがった!」
『――村井さん、聞こえますか。こちらは整備班です!俯瞰カメラからそちらの様子を中継していました』

唖然とする傍から通信回線に割り込みが入った。ムライが懇意にしている整備班員からである。咄嗟に応答すると、さらなる驚愕が飛び込んできた。

『いますぐそいつから離れてください!その白衣の男――"アリス=シェイド"は、物体の質量を無視して攻撃できます!
 重さのアドバンテージが失せたライドムーバーなんかただのデカい的ですよ!……相性が悪すぎます!』

時既に時間切れ。蟹の懐にまで接近した白衣は水色の箱を取り出し、開封。中から台風規模の風雨が展開し、あおりを受けたライドムーバーは再び宙へ投げ出される。

「うおっ!?――な、何でんなこと知ってんだよ!?」
『レイジン隊長達がそいつと交戦しました。大隊で包囲したにも関わらず――死者四名の大被害です』

「死者?死んだのか?隊員の誰かが……」
巨大な鋏の片割れが紫電を纏う。雷撃系の術式か、恒久的に弾けるような音を立てるそれを、

『チャーリー、マイク、タカヤマ、パク――即座に戦域を離脱したので詳細は不明ですが、生存は絶望的です』
投擲する。

「……そうか、あの白衣野朗、俺の仲間を殺しやがったのか。そいつは――」
真っ直ぐに飛来してきたそれを、

「――――超絶許せんよなァァァァァァァ〜〜〜〜ッッ!!!!!」
アビリティキャンセラーを起動した蟹鋏で、叩き潰した。

そのまま地面へと着地し、ショックアブソーバーを唸らせると、既にレフティが全砲門を解放していた。

『ぶちころす?――ぶちころそう!』      『必殺! 殺戮! 虐殺! 屠殺! ――誅殺!』

「弔い合戦だぜぇ……!!そそらねぇシチュだがどうでもいい!人形師もどうでもいい!白衣よてめぇを――超絶殺す!」

フルバースト。ありったけのリソースを使いありったけの砲門から。
通常弾、徹甲弾、炸裂弾、魔力弾、聖銀弾、焼夷弾、覆鋼弾、ライフルマグナムパラベラムフラジブルエクスプローダフルメタルジャケットッッ!!

撃ちながらライドムーバーはスラスターに火を入れ、対処にふためく白衣とアルカナへ突撃する。

88 :初参戦:2009/09/16(水) 21:54:27 0
一人の女が摩天楼の頂点に佇んでいた

「なぜ夜の街は美しいと感じるのか?」

ワイシャツにジーパン、170cmはある長身の女だ

瓢々と吹く風が無造作に縛った髪を揺らし、腰に提げられた日本刀を揺らした

それは風で揺れなければ分からない程闇に同化する黒き刀
いや、その闇よりも暗い色かもしれない

「戦いの香りがするかい?黒爪」

刀に語りかけるように女は呟く 刀は応えるかのごとく揺れる

「そうか、じゃあ久々に遊ぶとしようか」

と言うと、摩天楼から飛び降りた。
包帯を巻いた手で刀の柄を軽く握り、引き抜く

夜の闇に紛れる刀身、彼女はそれを、摩天楼に突き刺した

速度は落ちない、ビルの外壁がチーズのように斬れていく

しかし斬れた痕は残らない、斬れたその直後から、切り口が張り付き元に戻っていく

と、ガサリと軽い音を立ててビル脇の植え込みに落ちた
人目は無い、植え込みから抜け出すと刀をしまう

「コンクリートは斬れやすすぎるな」

またぽつりと呟くと、人気の無い街中に歩を進めた

89 :名無しになりきれ:2009/09/16(水) 23:14:02 0
この世界は一度忘却の海に呑まれ、そしてまた現れた。御鏡もそれに気づく】

(なん・・・だ、これは?世界そのものの位相が動いたとでも言うのか?これがあのお方の力なのか!最高だぜッ!!)

わかっただろう?この世は見る者と見られる者、動かす者と動かされる者がいるんだ。
それがオレ様達上の住人とキミたちの力の差っていうわけ。わかったら・・・ここで消えろッ!!

【御鏡の『無数の割鏡』がリクスを襲う。しかしリクスには全く届かない】

どういうことだよ!?なんでただの人間が、邪気眼使いごときにオレ様が攻撃に当たらないんだ?
このオレ様を無能呼ばわりするのか?オレ様、皇子(おうじ)なんだぜ!

(「御鏡も終わりだな。こうも冷静さを失っては勝てるものも勝てん」)
(「『上の住人』がたかが邪気眼使い一人に負けるとは、とんだ失態でしょう」)

【御鏡の次元魔鏡が破られる。最早手は残されていない】

(まだだ、まだ何かあるはずだ。このままじゃ終われない。『上』を総べるあのお方の片腕であるオレ様が負けるなんて有り得ない!)
ただでやられられるかよ、『絶対材料』ッ!!

【御鏡の周りに『絶対材料』の傘が形成され、巨大な氷塊を防いだ】

ハハッ!オレ様にかかればこの程度の攻撃どうにでも。
今のうちに次元魔鏡を出してさっさとこの次元から脱出・・・何だ!?

【しかし魔力を込められた鏡壁は、あまりの荷重に爆発した。最早御鏡には反応する猶予さえ残されなかった】

(「死体は回収しましょうか?」)
(その必要は無かろう。どうせこの戦いを見ていた外野はあの魔女くらいしかおるまいよ)

【御鏡皇子(みかがみのみこ)、死亡】

90 :名無しになりきれ:2009/09/18(金) 17:03:34 0
深夜ともなればこんな商業街は人気が無い

満月の下、ビル群がと浮かび上がる

車もろくに走らない、そんな場所を、彼女は無造作に縛った黒髪を揺らし道の真ん中を堂々と歩いていた。
白いワイシャツが満月に照らされほのかに輝く

「暇なものだ、まあ邪気眼使いはこんな所にはいないがな」

邪気眼とは隠されるべきものだ、こんな街中を堂々と歩くほうがおかしいだろう

彼女、レイ・クロウ・アークウィルは邪気眼使いでは無かった

彼女を取り巻く邪気は全て腰に提げた漆黒の日本刀"黒爪"から放たれているものだった
まるで、刀自信が邪気眼であるかのごとく…


「ん?世界基督教大学?」

レイはいつのまにか八王子まで来ていた。そして眼の前には大きな大学

ふと、黒爪がカチャリと揺れる

それを見て、レイが微かに笑った

「そうか、ここに戦いの場があるのか」

そう呟くと、レイはゆっくりと基督教大学へと入っていった

91 :名無しになりきれ:2009/09/18(金) 20:58:00 0
「あれか…」

構内に異様な姿があった

鉄の蟹と白衣の男と青年と少女

「ふむ…黒爪、どっちを味方すればいいと思う?」

レイは刀に問う 刀は揺れて応える

「分かった、鉄蟹のほうか」

見ると、鉄の蟹は体じゅうから大砲やらチェインガンやらを出している 全門開放って奴だ

「やれやれ、ひどいパーティーになりそうだな あの攻撃が終わるまで出ない方がよさそうだ」

植え込みに腰を下ろし、しばし傍観

92 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 00:37:51 0
現代人、ことに日本人はテレビ中毒といってよいだろう。北欧、某国の古城のひと部屋ですらその主、セレネは3台ものテレビをつけている。
もっともそれは普通のものとは違い、彼女の能力を用いて受信した「世界基督教大学」付近の様子が映し出されている。

「意外と早く終わったみたいね。まさか『上の住人』をこうも簡単に倒しちゃうなんて、人間にしてはやるじゃない。」

『三千院家の執事たるものこれくらいできなくてどうします。』

電話の相手は同時にテレビにも映し出されている彼女の執事、リクス。音声が2重に聞こえない気がしないでもないけどそんなことは瑣末である。

「へー、言うようになったじゃない。ていうか、どう考えても敵意を向けられてたのってあたしよね?そうでしょ。これじゃいかにもあたしが殺させたみたいじゃない!」

『どの道彼は排除する御心算だったのでしょう?仮にそうでないとしても、お嬢様の命令ミスを私の失態であるかのように言われても流石に困るのですが。』

「へ?あたしが悪いっていうの?そんなはずないぜーったい認めないんだからねっ!!
それはそれとして、今から中に行くのよね?」

『ええ、目標が中にいるのはほぼ間違いありません。手遅れになる前に動いた方がよろしいかと。』

「そう。それじゃあ今から突入しようとするあなたにBIGなプレゼント!!」
言うや否や、転送システムによってリクスの手中に1枚のカードが届いた。

「天才魔術師クロウ=リードって知ってる?」

『はい?お嬢様、リアルと2次元を混同するのは流石に末期だと思われます。おーいしゃさんにいきましょうってCMありますよね。』

93 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 00:40:18 0
「ひとをいかにも春先に多い人みたいに言わないでくれる?まあいいわ。論より証拠、
カードキャプターが必死で封印した闇の力を秘めしカードも
ライダー達が鏡の中の世界で戦うのに必要なデッキも
多元宇宙を旅して相手のライフ20を奪い合うカードも
輝く石でイセカイ界からスピリットを呼び出すカードも
5枚のシールドを破壊して相手にとどめをさすカードも
お気に入りのガ○ダムで相手の本国を削るカードも
全部全部使えるほどのあたしのチカラ、今から見せてあげる!
『月の力を秘めしカードよ、契約の下セレネが命じる。彼の者に常ならざる邪気を与えよ、Evil-aula!!』」

カードはしばしその名に似つかわしくない神々しい光を放ち、膨大なる邪気がリクスを包み込んだ。
自らのものとは異なる邪気の奔流に思わずリクスの顔が歪む

セレネの力は低次元と高次元の越境である。
元居た世界からここに降りてきた力も、さらに下の世界から物を引き出した力も本質的には同じ。
ただ、下位のものを上位世界に持ち込むには強力なイメージを必要とし、それを補うために彼女は単純化、記号化された存在である『カード』を肌身離さず持ち歩いているのである。

(いいわねー、やっぱり痛みもなしに全回復したりパワーアップするなんてつまんないもんね。)
「気分はどうかしら♪さて、これであたしの用事は済んだわけだけど、特に何かあるプライオリティはさっき電話した時と変わってないはずだけど。」

『もはやどこから突っ込めばいいのか分からないくらいお嬢様がすごいということだけはわかりました。では、そろそろ『おつかい』に戻らせていただきたいのですが。』

「じゃあ、最後に1つだけ。」

特命係の某氏か、と思ったが、これ以上無駄話を続ける気のないリクスは心の中で突っ込むだけにした。

「剣の使い手と思しき人間が、2人侵入したわ。どうするかはお任せ。消すもよし、組むもよしね。」

『こういうときだけ私の意見を聞くような態度を取って、後々の責任を私に押し付ける御積りですか。』

「そんなことないわよ。あくまであたしはあなたに『チカラ』を与えただけ。どうするかはあなた次第なんだから。それじゃあ切るわね。」
(まったく、わかってて最後に嫌みを言ってくるのよね。ま、しょうがないか。
ここでのあたしは月と同じ。誰かがいて初めてやれる、ある意味あたしのチカラにお似合いね。)

電話を切った女は再びテレビに目を向ける。

(まだまだあたしの大好物フルコースは終わりそうにないわね。今日は一日釘づけかしら?)

見る者と見られる者、そんなことこそ戦っている張本人たちには、瑣末なことなのであろうか?

94 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 14:00:32 O
大アルカナNo.1《魔術師》は【アルカナ】内で、随一の智者という矜持を抱いている。
 
彼の眼【詠知眼】は、世界の『真理』を知る力を与える。
それは世界の法則に従い“魔術”を織り成す者には何よりも尊き力。
後は天性の“魔力”が彼を《魔術師》の座に導くのに時間は要らなかった。
 
《魔術師》が【アルカナ】に属する理由は、断じて《世界》への畏怖や恭順では無い。
己が力───“魔術”を自己顕示欲に従いひけらかしたいという、余りに原始的で、子供染み過ぎた願望を叶えんがため。
 『世界』に其を証明せんが為、ただ彼は《世界》に隷属する。
 
 ◆  ◆  ◆  ◆
 
「これで……決まりましたね……」 
  フォトン・セントエルモ
【聖樹贄せし霊焔】。視界を多い尽くす純白の光───其を生む焔を眺め、紅のローブを纏う《魔術師》は嘯いた。
 
「まさか私の仕掛けた“結界”をここまですり抜けて来るとはね……何をしたのでしょう……?」
 
“結界”は全ての侵入者を感知する。無論、調律機関や謎の執事の侵入も彼は知っているが、どうでもいい。
《教皇》が迎撃に向かったはずだが、そちらには僅かな興味すら枯渇しきっている。

それ故に自分は此所へ来た。如何にして自分が仕掛けた“結界”をすり抜け、ここまで来たのか『興味』が沸いたから。だが
 
「無駄足でしたね……どうやらあの男の能力では無さそうですし」 
もしあの男の能力ならば、ここでそれを解く意味が無い。もしそうならば、そのまま大学内へ隠蔽を続けたまま侵入すれば良いのだから。
 
「侵入者の始末など面倒に過ぎますが……迎撃に立候補したのは私ですからね……」
 
ああ、面倒臭い。好奇心のせいで、とんだ面倒事を引き受ける羽目になってしまった。
さっさと葬って帰ろう。
 
「はぁ……」
 
最後まで見届ける必要など無い。あの“魔術”は、己ですら“詠唱”を要す自分が使える中でも最大級の一撃。本来は対軍団用で、少なくとも断じて個人に使うべき規模ではない。
わざわざそんな物を使ったのは単なる憂さ晴らしだが。
 
転移魔術を構成。ヨコシマキメ最下層へ転移し 
 
ドンッッッッッ!!!!
 
 
何の、音だ これは まさか いや、そんなはずは 破れるはずが ない 違う 決して私が 想像している モノとは 違

95 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 14:05:18 O
焔を突き抜け、侍がいた。 
 
 
「……あり……えない……」
 
呆然と、呻く。
頭の中にあった必勝の未来図。確定していたハズの皮算用が、無残に塵へ帰していく。
 
「…………………」
沈黙。停滞。己の『絶対』を破られた《魔術師》は、肉体を持つ案山子の如くその場に立ちつくす。
 
その間にも侍は肉薄する。“魔力光”で居場所が露呈したのだろう。
朧に光芒を纏う、超高速の突進の軌跡に揺るぎは無い。
『終端速度』という物理法則を超然と無視した、《魔術師》を害さんとする刃は刻々と迫る。
 
 
時間にして3秒、両者にとって悠久の如き刹那。案山子は役割を放棄し再び人となる。
為すべきは、決まった。
 
 
「悠久の時を超え、108の世を巡りし秘宝に我は乞う───」
 
己が今より『喚ぶ』は、最強にして不滅。
 
ハジマリ  オワリ   
「創世より終焉まで能う物なき“力”よ───」
 
『108のクロニクル』。邪気界『最強』の力を持つ絶対的禁忌。
 
「我に応え───」 
 
当然のごとく今唱える魔術は“禁呪”。
 
「この“世界”へ巡りたまえ───」
 
そして醜態の屈辱は禁忌すら超越し“禁呪”という最低最凶の道を歩ませる。 
 
「【ハルモニウム】───!!」
 
 
“詠唱”のための時間。並びに大量の貴重な“触媒”。
『プリマ=マテリア』、『エリクシール』、『多重魔鏡』、『ヒヒイロカネ』、『アルカンシェル鉱石』、『ミスリルマイマイ』……etc
一つ一つが伝説と呼ぶに相応しい価値を持ち、国家ですら入手は難関を極めるものばかり。

それらを食い潰し、現れるは遍く色を内包し、夢幻の如く色が変遷する『金属』。 
“108の世界”に洗練され生成されたそれは、最早『何』すらも脅威足り得ない。
 
「死になさい。侵入者……私の『証明』の礎となれ……!!」
 
今はもう欠片の『油断』すら存在しない。全力で『敵』を殺さんがため【ハルモニウム】に命ずる。
 
生じるは長大な棘。《魔術師》の前上方に展開した円盤状の【ハルモニウム】より、空の侵入者へと襲いかかる。
 
 
絶望的な、“108の世界”の力が

96 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 23:11:45 0
「は─────」

目の前の光景を信じられるものがいただろうか?
彼奴の行動に納得できるものがいただろうか?

戦というチェス板は、根本からひっくり返された。

坂上明日香──アスラには《常識》があった。
それは人の身に在りて異能と闘う【砦】であり【支え】。

幾ら実績を掲げようとも現場で役に立たなければそれは書割の城──そう、実績の書割を支えるものこそが《常識》である。


≪生きて動くものは、心臓を撃てば死ぬ≫


嗚呼、それこそが【砦】。
特殊技能を持たない彼女が異能と闘う【支え】。

彼女の最後の【砦】は、小枝を圧し折るが如くに破られた。



 【世界】 が 立 ち 上 が る 。



依然変わらず流れつづける強烈な邪気────それは【世界】本人のものに違いが無い。
彼女は大きく息を吸いこみ、やがて見えるはずの無い天を仰いだ。

「つまり我は『絶対不死』であるという事だ。貴様ら愚民が死力を尽くしたとて、この我は───────」

「はははははははははははははっ!」

悲笑、狂笑、どれも違う。
彼女は心の底から、目の前の茶番を笑った。

97 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 23:13:54 0
≪俺もお前も真人間だ。R様やヘルツォークの姉さんみたいな真似は逆立ちしたって出来やしねえ≫

懐かしい記憶──坂上明日香の記憶の中、《彼》は確かにこう言った。

≪例えば、だ。テメーがもし信じられないくらい実力差のある相手に出くわして、オマケにそいつが四天王戦並に避けようのない戦いを挑んできたとする。≫
≪こんな目に遭ったら…まあ死を覚悟するのは当然として、“絶対しちゃいけねえ真似”と“絶対やんなきゃなんねえ事”がある。明日香、分かるかい?≫

────…しちゃいけないのは冷静さを失うこと、しなきゃならないのは援護要請ですか?

≪ヒャハハ、その答えじゃ秒殺だな……覚えとけ、そーいう時はだな─────≫


「ははははははははははっ!」

世界基督教大学地下、伝説の魔窟“ヨコシマキメ”
最深部に立つ修道女は、ただ天を仰いで笑っていた。

「あはっ、はははっ、ははははは…あー、おっかしい。こんなに笑ったのはヨシノにアレ着せたとき以来だよ…」

笑うしかないような実力差を見せつけられたからではない。目の前の圧倒的絶望に狂ったのでもない────


≪“底を見せるな”“底を暴け”この二つさ。こいつは俺自身が体で学んだ事だ≫


──────笑った理由は、ない。ただのハッタリである。

98 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 23:14:44 0
「ふふっ…何が可笑しいって顔だから教えてやるよ【世界】、《アンタの安い不死身ごっこは、もうじき解ける》ってねえ…」

──ペテンにも様々な技術がある。口先のみで騙すものから、今立っている場所すら偽って騙すものなど。
だがどのようなペテン師でも、まず偽らないものがひとつある。
それは自分自身。
自分の思考すらも偽りの物と差し替えて人を騙せば、それは騙すどころか結果を除けば真実にも成り得る。

今、アスラは自分の中で強烈な思い込みを掛けていた。
つまり、【世界】の復活について証拠が足らずとも十分納得できる理屈を展開し、それを全力で信じ、それに見合った行動を取る。
これはアスラの培ったペテン術の一つ、「自己洗脳(セルフマインドコントロール)」。
一銭の価値もないクズ品を骨董物であるように見せかける際に多用するが、この技にはもう一つの側面がある。

≪コツはハッタリだ。眼前の相手を騙して騙して騙し抜き、自分という張子の虎をサーベルタイガーと錯覚させる。≫
≪サーベルタイガーで動揺を誘ったら、そこにひたすら付け込め。動揺を餌に動揺を釣り、相手の心に地割れを起こさせるんだ。≫
≪そうだな…笑顔がいい。強い奴ほど笑顔を見ることに慣れていない。相手が超必殺技を出してきたら、笑いながら避けてやりな。≫

(【世界】は確かに一度死んだ。これは覆せない。蘇った事も事実だ。
 …だけど「不死身」であるとは限らない!奴が永遠に不死であるのならあの男を叫ぶ暇も無く殺せてた筈…生かす理由も苦戦する理由もないからね。
 そして“アルカナ”は私でさえ名前も知らない組織…つまりは新興である可能性が高い。考えるに…
 まず【世界】が不死を手に入れる。何者にも負けない自信を負った【世界】は大いなる野望…それが何かはわからないけど…の達成に乗り出す。
 目的達成の手段が“アルカナ”であるのなら、アルカナ発生≒不死入手であるから不死を手に入れたのは最近の事であると分かる…
 不死の理由は…火の鳥の生き血?否、無限に死なないんじゃダメなんだ。条件付きの不死のが『私にとって都合がいい』から…
 うーん…ステラの話から推察するに“アルカナ”は奴の邪気眼から作られた組織…確かヨコシマキメ復活の際に蘇らされたって言ってたな…
 だったら“アルカナ”の起こりとヨコシマキメ復活はほぼ同時…おまけに【世界】の不死もその時期なら…鍵はヨコシマキメか!)

≪覚えとけ…俺達裏の世界の人間は、どんな時であろうとも底を晒さずに生きるんだ≫

(だったら《不死のカラクリ》は…【世界】の邪気眼には死人を蘇らせる能力がある…だけどアイツの目に眼はない(ような気がする)。
 無駄にデカい邪気は眼の場所を悟られないためのカモフラージュ…本物の眼の在り処はヨコシマキメの胃袋──宝物庫(だったらいいなと思っている)。
 偶然宝物庫に一人置いてきた私達。デカ虎を倒したヨシノは宝物庫へ侵入、ヤツの眼を破壊、そこで戦闘は終了(になるかも)。
 これが【世界】の真実……。根拠に乏しい?それがどうした!これが真実…信じろ…信じろ…信じられる…信じる…信じた…!)

強烈なハッタリ───自らをも完全に偽った言動は、真と偽の境界すらも曖昧に変える。

「ま、アンタが不死身だろうとなんだろうとどーだっていいのよね、私は。死ななきゃ死ぬまで殺すだけよ。
 確立が千、万、億分の一、あるいは那由太の彼方だって、私にしちゃ十分な確立だもの。
 …だからそこのアンタも過剰に反応しないの。この程度の不死身なんて、鬼籍にいりゃ二,三度は御目にかかるもんなんだから」

それすらも、信じていなくては言えない台詞。
彼女は自ら作り上げた【世界】の秘密を、宝物庫の真実を、ついでにヨシノの実力のすべてを信じた。

再度銃を構える。彼女がありもしない事実を信じた以上、最早やることは時間までに【世界】を殺せるだけ殺すのみであった。
(ま、あーんな事言っちゃった以上敵さんも全力で殺しに来るだろうなー。あー、実力の差ってやだやだ)

99 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 23:15:54 0
世界が戦闘に入る。彼女は態勢を変え、攻め入るよりもむしろ攻撃を避ける事を第一とした。
如何なる攻撃が来るかと待ち構えていると、七つの魔剣が宙に浮いて魔方陣を形成する。

腿を躍動させ魔方陣の範囲から抜け出さんとするも、一歩届かず、彼女は黒い光を全身に浴びた。

(精神攻撃!?)

気づいたときにはもう遅い。
一瞬だけ閉じた瞳。開いた先は、地獄だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

───殺し嬲り犯し躙り祟り狂い毒し壊し潰し殺され嬲られ犯され躙られ祟られ狂わされ毒され壊され潰され。
                        【考える葦】は、この連鎖からは逃れられぬ。それは知能持つ個体の悲しいまでの真理だ───

「───────」

喋ると喉が焼ける。故に言葉は発しない。
考えると脳が燃える。故に思考は動かない。
上も下も右も左も前も後ろも全てが無。
自分の存在すら揺らぐ不確かな空間において唯一の真実がこの身の痛み。
脳に映る映像は自分のものであって自分のものではない、人の積んだカルマの歴史。

畜生を手にかけては幼い衝動を満たし愉悦する少女。
自らの手で稚児の四肢をもぎ取り微笑む母親。
異教徒の血を浴びて主への誓いと為す青年。
人の形をしたモノを嬲り合わせては歓喜する王。

光景が網膜に映りこみ、肢体に彼らの負った傷が刻まれる。
殺したものの狂った喜びと殺されたものの夥しい怨恨は、漂うそれの心に直接語り掛けた。

「────────」


七つの大罪によって紡がれる最初の罪──原罪。
彼女はその術中に嵌り、地獄を目の当たりにしていた。

────まずい、嵌った。

尚も勝手な動きを続ける脳髄の奥底で、最後の抵抗と言わんばかりに必死になり、たったそれだけを考える。
途端に脳髄が燃えるような感覚を受け、浮かんだ言葉は宙に浮き、やがて闇に葬られた。

《感ジルナ、考エルナ。貴様ニ一切ノ自由ハ許可サレナイ》
《無間地獄ノ狭間ニ呑マレ塵ニモ風ニモナリキレズタダソノ痛ミヲ引キ受ケヨ────────ソレガ貴様ノ“運命”ナノダカラ》

尚も身体は痛みを受け入れる。耳は削がれ、目は蝕まれ、鼻は溶かされ、心は砕かれ…。
一人の女が原罪の力に飲み込まれかけていたその瞬間、視界を強烈な光が覆った。

100 :名無しになりきれ:2009/09/19(土) 23:17:11 0

─────私はこの光を知っている。

一度、更に言えば数分前に受けたことのある感覚だ。対処の仕方はよく分かる。

まずは意識を光に向けて走らせる。かの光にあてられたか、自我の意識は目覚めていた。
全神経を集中させ、ただ光へと意識を向かわせる…やがて四肢の感覚が戻った。
例えるならそれは無量の井戸からの脱出──井戸の上から差し込む光に向け、なりふり構わず足掻き続ける。

光は、素直にも足掻けば足掻くほど近づいた。
やがて視界を光が占領してゆく。そして次の瞬間────。


夢から醒めたように、アスラは現─ウツツ─に舞い戻った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……!?」
目を開く。水晶体に映る絵は薄暗い遺跡のものであったが、今のアスラには大空の如くに眩しく感じられた。

「…痛たた…結構ダメージ食らってるなあコレ。ま、この程度で済んでホント良かったけどさ…」
衣服に別状は無く、ただ肉体からいくつか出血等が確認された。
どうやら【世界】の技は精神攻撃であり物理攻撃であったらしい。そんなの反則でしょ、と彼女は呟いた。

「しっかしこの短時間に2回も地獄を見るハメになるなんてね…あれ、ひょっとして私こそ不死身なのかしら?」
【悪魔】戦で一度、そして今。不死身ではないにしろ、よくよく死と隣り合わせの女であった。

「…まあ、なんにせよ……」
お喋りもそろそろ止めましょうか、と。

「アンタの不死身はもうすぐ終わる。それまで殺されてちょーだいねっ!」

懐から取り出す──マシンガン。
逃げ場を塞ぐように撃ち、そのまま投げ捨てるように武器を変える。

大振りの剣──炎の魔剣を、切っ先を敵に向け両手で持つ。
まるで銃のように構えたそれからは、【世界】を飲み込む火弾が放たれた。

101 :名無しになりきれ:2009/09/23(水) 00:26:05 O
保守

102 :名無しになりきれ:2009/09/24(木) 01:58:50 0
『吊られた男』は剋目する。冒涜的なまでに甚大な邪気が、それを打ち消すはずの聖銀をさらに凌駕して撃墜した。
後に残るのは割かれた大気を埋めんとする風と、亜光速弾の衝撃波で抉れた地面、そして過熱した主砲弾のみ。

「はー、やれやれ相変わらず出鱈目な邪気と戦い方だね。血塗れのようだけど衰えてないのが恐ろしいよ?」

「!!――『吊られた男』様、敵の第二波が来ますわ!」

マリーの警告に咄嗟に身を翻す。それまで居た空間を銃弾砲弾魔導弾が埋め尽くす。
そして彼等と同じくその場に立っていたシェイドもまた、弾の嵐に呑まれて『吊られた男』の視界から消えた。

(着地からノータイムで追撃に来たか――!白衣君がそう簡単に殺られるとは思えないけど、蟹の中の人……私怨かな?)

『吊られた男』は聞いていたのだ。脚部の統制を奪うための"糸"はいまだ細分化してライドムーバーに繋がったままである。
"あや吊り糸"の支配能力はそこに通す邪気の密度――視覚的に言うならば糸の太さに比例する。
駆動統制を奪うならば毛糸ほどの太さが必要で、逆に意思や情報の伝達だけならば髪の毛から不可視レベルの細さでも可能である。

クリムゾン=タスクの位置情報やライドムーバーの機体情報を知るために残しておいた糸の太さはまさに寸毫。
その接続は今をもって持続し、鋼蟹の搭乗者が内部通信で喋った言葉などは全て『吊られた男』のもとにも届いている。

『……そうか、あの白衣野朗、俺の仲間を殺しやがったのか。そいつは――超絶許せんよなァァァァァァァ〜〜〜〜ッッ!!!!!』
『弔い合戦だぜぇ……!!そそらねぇシチュだがどうでもいい!人形師もどうでもいい!白衣よてめぇを――超絶殺す!』

どうにもシェイドは、ここへ来る前に調律機関の別働隊と刃を交えてきたらしい。
白衣に残る血痕はその際に付着したものか、だとするならば彼が蟹の仲間を殺したというのは信憑するに値する情報だろう。
『吊られた男』はそう推測した。本当はもっと複雑な状況とともにもう一人の能力者の存在があるのだが、それを知る由もなく。

「いずれにせよ、蟹がアリス=シェイドだけを狙ってくれるならそれにこしたことはありませんわ。いっそあの男ごと最大術式で葬ってやりましょう」

「えらく攻撃的だねマリー。それもいいけど――気付いているかい?」

「ええ。新たな邪気が二つ三つ。一つは『魔術師』様のものですが、のこりの二つは……人ではない?」

「んー、どうも"糸"に頼りすぎてて邪気知覚が疎かだなぁ。能力者じゃなく魔剣使いかもしれないね、このけれん味の濃さは……」

ステップを繋げて退避を続け、戦闘領域から離脱する。広場を見渡せる生垣のそばに二人並ぶと、『吊られた男』は振り向いた。

「とまぁ、そんな感じに僕らは推察しているんだけれども、当たってるかい。そこで腰を下ろしてる剣士君?」

視線の向こう、植え込みの先で座り込む女性がいた。
縛った黒髪は洒落っ気を感じないが、眩しいくらいに白いワイシャツとあいまってモノクロのコントラストがよく映える。
そして着目すべきはその腰、ジーンズに据えられたベルトには、夜空を暗示させるような光なき漆黒の得物。

「さっきから尋常じゃない邪気を放ってるそれは日本刀かい?どうにも僕らは蚊帳の外らしくてね、暇なら少し――踊っていかないか」

103 :名無しになりきれ:2009/09/24(木) 18:24:04 0
「暇なら少し――踊ってくれないか」

ヒョロリとした男はこちらを向きそういった

「…やれやれ、いつから気づいていた?」

レイはよっこらせ、という風に立ち上がる

「まあこいつの邪気に感づかないのは、邪気眼使いとしておかしいか」

腰に提げた漆黒の日本刀"黒爪"からは、依然として禍々しい邪気が放たれている
           
「まあ私も暇だったし 黒爪も遊びたくてしょうがないらしいからな」

レイは刀に手を添える
    
「少しは楽しませてくれよ? ひょろ長君」

104 :名無しになりきれ:2009/09/25(金) 20:57:40 0
>>103の続き

「早速で悪いがこちらから行かせてもらうよ」

言うなりレイは動いた 自動車にも追いつく自慢の脚力で瞬時に横に回り込む

「まずは小手調べといくか、夜刀【月影】!」

黒爪から刀身と同じ漆黒に塗りつぶされた弧状の斬撃が放たれる 標的はもちろん、ひょろ長の男だ

黒爪の能力は「斬撃の自在化」
刀身と同じ闇に紛れる斬撃を作り出せるのが能力だ
生み出される斬撃は、使用者の意志及びスタミナに影響される
素早く振れば速く鋭い、重々しく振れば一撃は重く破壊的になる

先ほどの技 夜刀【月影】は威力も速度もあまりない下位技だ しかし、一般人では知覚は出来ても避けることなど不可能な速度

「ただ、これを食らっているようじゃ 私と張り合うのは筋違いと言うものだ」

105 :名無しになりきれ:2009/09/25(金) 21:45:08 0
渦中の全てを蝕む光の檻がその任を解かれたとき、拡散していく極光の中から見えたのは白骨化した『世界』の骸。
どこからともなく消滅したはずの彼の声が響き、ヨコシマキメから邪気の奔流が立ち昇る。
一瞬ののち、そこに屹立するのは無傷の『世界』。何事も無かったようにそこに在る。

ステラは驚愕した。

 目 の 前 の 事 実 に 驚 愕 し な か っ た こ と に 驚 愕 し た 。

飯を喰わねば飢えるように。    水を飲まねば渇くように。

まるでそう在るのが当たり前であると感じてしまう己の意識が、一番恐ろしかった。

("命"を再現できることは私で証明済みだけど……まさか自分自身の再現までやってのけるとはね)

ここまでは理解済み。その再現にかかる膨大なコストも、いつかヨシノが話した推論が正しければおかしなことはない。
そう、それだけならまだ抗う可能性はあった。希望があった。『世界』の不死が『不死身』ではなく『瞬時再顕』ならば。

そしてその光明を補って余りあるほどの深闇があった。
『世界』の性能は、無論不死性のみにあるわけがなく。

「さて、愚民共よ。我は温情で貴様らの攻撃を受けてやった。
 次は貴様らが我に奉仕する番だ――――絶望に染まり、我が目指す世界の贄となれ」

七つの魔剣が宙を舞い、それぞれが超戦略級の魔力を以って構成される魔法陣は地獄より昏き常闇の黒。

         「味わうがいい――――『     原    罪     』 」

陣と同じ色を持った光が投射された。機動に劣るステラは逃れること叶わず波涛の如く押し寄せる。
同時、視界が暗転し、ステラはどちらが天地とも分からぬ暗闇の中空へと放り出された。
否。解る。意識だけに感じる、ぬっとりとした名伏しがたき何かがステラの四肢に絡みつき、浸食し、内部へと浸潤しる。

注ぎ込まれるのは五感に組する情報群。

夥しいほどの。

視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える視える
聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる聴こえる
臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う臭う
感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる感じる
味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう味わう

「――――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

頭蓋が割れるように唸りを上げる。
これは怨念か。否。これは悲哀か。否。これは赫怒か。否。これは悦楽か。否。

ならばこれは――

(『罪』――?人間が、人類が生まれてからこれまで犯してきた罪と罰と被虐の歴史!それが五感そのものへと叩き込まれてる!)

気付いた途端、確定していた足元が瓦解し、さらなる奈落へ投げ出される。
身に纏っていた光は消失し、さらには衣服までが解け消え、覆うもののなき生まれたままの姿となったステラはゆるやかに堕ちていく。

106 :名無しになりきれ:2009/09/25(金) 22:23:18 0
――最大の罪とは何だろう?

視覚で、聴覚で、嗅覚で、味覚で、触覚で、

そう問われた、気がした。


爪を剥がれ骨を折られ皮を刻まれ肉を抉られ血の一滴も燃やし尽くされ
   肥溜めの底に沈殿する汚泥と汚物に塗れた何かの死体を咀嚼させられ
      狭く窓のない個室に幾日も放置され蛆すらも繁殖を拒絶する臭気を浴び  
         鼓膜を突き破るような大音声で無辜の民の断末魔をいつまでも聞かされ
           焔に捲かれた少女が焼け焦げた脚を引き摺り這おうとして息絶える姿を

そして無。

その手に触れるものは何も無く
その舌に感じる虚空は無味無臭
その鼻で嗅ぎ取れるのは虚無のみで
その耳に聞こえる音は最早音として成り立っていない。

何も見えない。何も視えない。

罪の連続、罰の連続。生物にとって最大の罰は生命の終了であり、最大の罪とは。

罪とは?

「罪って何……?私は何をして生きてきた……?」

彼女がここに来て感じる負い目。甦ってから犯した罪の数。

不意に山吹色が閃き、たおやかなポニーテールが視界の端に映った。
はっとしてそちらを見ると、

「『星』……」

妹だ。彼女とともに甦り、彼女とともに生きてきたたった一人の妹。
ヨコシマキメ攻防戦においてステラより先に出立し、自爆によってその二度目の命を散らした少女。

一歩踏み出した。『星』への距離はまだ遠い。
さらに踏み出した。『星』への距離はまだまだ遠い。
もっと踏み出した。『星』への距離は僅かに縮まり、

気付けば駆け出していた。
『星』との距離は。

「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

言葉の数だけおぼろげな足元を蹴り、ステラは求めるものへと肉迫する。
踏み出す度に、涙がとめどなく溢れ出し、宙へと散って弾けて消える。

そうかこれが、罪。ステラが最も悔いた事実。
あのとき自分がついていれば。あのとき彼女を止めていれば。あのとき。あのとき。
後悔はいつだって全てが終わってから心の澱に生じる。

だから彼女は決めたのだ。

悔いない生き方。後悔は全て、取り返しのつくかたちでできるようにしよう。

それが業だ。
光が見えた。

107 :名無しになりきれ:2009/09/25(金) 22:59:16 0
最早蹴っていたはずの地面も消えうせ、一糸纏わぬステラは光そのものとなって飛んでいく。
『星』の虚像が離れるよりも早く距離を埋め、掴み、抱きしめる。もう離さないように。逃がさないように。
これは『星』の形をしたステラの罪。真正面から向き合うように、それすら糧にして進めるように。

そう、

「わたしの『罪』は星を救えなかったことッ!」

                                     少女の虚像は解けるようにして光の集合体となり、

「一番大切なひとが、一番危ういときに、傍に居てあげられなかったことッッ!!」

                             光子は糸のように紡がれ線を成し、線は交差し面となり、面は重なり厚みを持っていく。

「だけど……その『後悔』は取り返しがつく!取り返してみせる!!」

                         常闇だった世界はいつのまにか極彩色の極光で満ち、全てが渦を捲きステラを包み込むように形を変えていく。

「『悪魔』がわたしに可能性を創ってくれた!アスラがわたしに踏み出し方を教えてくれた!ヨシノがわたしに『これから』を導いてくれた!」

                          胸のあたりで一層激しい光の炸裂が起こった。翠の遺眼がステラを鼓舞するように、二人分の遺志が彼女の背中を押していく。

「『星』は必ず助ける。絶対助ける。……だから罪よ、罰よ、全てに遍く人の深き業よ!今はわたしと――共に征こう」

未来へ踏み出す脚が欲しい。光を掴む腕が欲しい。弱い己を押し潰さんとする、『かつて』の瀑布を切り拓く刃が欲しい。
だから望んだ。だから応えろ。ここに在る『これから』を護り、対峙する絶対の存在へと抗う力を得るために。

「トワイライトの姓は黄昏とともに――此処へ」

光が収逸し、ステラはもとの場所へと戻ってきた。隣を見ればアスラもまた自分なりの方法で『原罪』から立ち返り、魔剣を振るっていた。
特大級の火弾は狙いあやまたず世界のもとへと向かっている。ステラは何をすべきか即座に理解した。

「削り殺そう――!!暁光眼【サジタリウス】」

火弾が目隠しになっているおかげで、世界の攻撃はこちらに届かない。そしてステラはそのアドバンテージを最大限活用できる術を持っている。
『悪魔』を葬り去った人工【歪】発生術式を練り合わせ、火弾の向こうの『世界』へ向けて、

「ヨコシマキメが枯渇するまで……死にまくれッ――!!」

ぶち込んだ。

108 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 02:36:46 0

――――術式『原罪』

それは、『世界』が切り札の一つとして持つ「世界の歴史」そのものを武器とする最強の精神攻撃である。
発動した時点で相手のココロを殺す事が確定しているその凶悪な術式からは、
例えどれだけ強い心を持とうと、崇高な魂を持とうと、或いは膨大な力を持とうと、逃れる事は出来ない。
世界に例え僅かでも関係した時点で『原罪』からは逃れる事は出来なくなるのである。
回避不能防御不能脱出不能抵抗不能の絶対の呪い。
その黒き光が空間を蹂躙し、ステラとアスラ、二人の女がそれを受けたのを視認したその時点で、
『世界』は己が王手を打ったと確信していた。

「……くくく。どうだ『Y』よ。貴様の希望はこうも簡単に崩れた。これで気付いたであろう?
 結局は貴様らの願った物など、我の野望に比べれば虫の如く愚かで小さな物でしか無かったのだ」

そうして、何故か涙を流す『Y』へと近付きながら『世界』は心を折る為に淡々と語る。

「創造主共に操られるがまま、人形の様に動き、罪に罪を重ねて来た世界。
 犠牲に犠牲を重ね、その犠牲さえも犠牲にしてきた醜く汚れた世界。
 そのような世界の未来になど、もはや何の価値も無いのだ。認めてしまえ、Yよ。
 そして絶望しろ。世界を捨てろ。さすれば、我が完全なる我の所有物として世界を作り直してやろう」

勝利は目前。故に『世界』は、先のアスラの不可解な笑みと断言も、ステラの見せた強さも、
もはやただの戯言と切り捨てている。だから――――

「……!?」

だから、聞こえてきた声に、振り返り見たその光景に、『世界』は驚愕せざるを得なかった。

「なん……だと……」

そこにあったのは二人の姿。『原罪』をその身に受け、その上で立ち上がる二人の姿。


――――ステラとアスラが立ち上がり、『世界』へ刃を向けていた。



109 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 02:37:41 0
>「アンタの不死身はもうすぐ終わる。それまで殺されてちょーだいねっ!」
>「ヨコシマキメが枯渇するまで……死にまくれッ――!!」

(まさか……あの愚民共が、全てを背負いきったというのか?
 この世界の過去を、人という種の罪を、全て背負ったとでも言うのか!!)

己へ向けて放たれた二人の女の攻撃。それを目前にしながらも『世界』は動けない。
それを齎したのは驚愕。その感情による静止だった。
『世界』はその静止の中で考えていた。己が絶対の攻撃が破られた理由を。

(……有り得ん。世界の選択たる『Y』ならまだしも、ただの愚民にそのような事が出来るなど。
 我以外にそれが叶う存在がなど、いる筈が無い。ならば、有り得ない筈の現象は
 何故起きた?何故…… !? まさか……まさか、そういう事なのか!?)

「……Y!!貴様かあああああああああああああっっ!!!!!!」

『世界』がそれに気付いたのは、炎に飲まれる寸前だった。
そう。例えYがどれだけ世界の負担を増やそうと、『世界』が既に発動させた
その術式自体は崩れる事は無いのだ。それこそ『世界』が意図的に崩そうとでもしない限り。
―――しかし、その完全は崩された。
それは何故か、どうして完全である筈の術式は崩れたのか――――考えれば、答えは一つしか無い。
いたのだ。『世界』がもう一人。

そして、その正体は――――『Y』。その男に他ならない。

鍵となるのは『紅のプレート』だった。
今、『紅のプレート』は『世界』と『Y』でその支配権を争っている。
それは人智の及ぶ所よりも遥かに深淵の、己の精神力や、存在、魂さえも賭けた戦いである。
つまり『世界』と『Y』。この二人は今その魂が全く同じ場所に立っているのだ。
そして、戦うという事はどこかが触れ合わなければならない。
それは精神の戦いであっても例外ではなく、黒と白の狭間。ほんの僅かな、黄昏時の様なその接触面。
その僅かな部分において、今この時、『世界』と『Y』は同一なのである。

――――それこそが完全の解れ目。

そう、『Y』は無意識の内に、その強い願いによってその接触面から
ほんの僅か『創世眼』を作動させ、完全を欠落させた。
ステラとアスラの退路の標となる細い道を作ったのだ。

110 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 02:38:59 0
「……ぐっ……!!」

全てを理解した『世界』。だが、その時点で敵の攻撃は『世界』を飲み込んでいた。
炎が身を焼く感触。そして、数多の銃弾が肉体を貫く感触。
だが、この時点で『世界』はさしたる脅威を感じてはいなかった。

「……ふん、先に我が不死であるのを見せた事をもう忘れたか!!」

幾分冷静さを取り戻した『世界』は炎に飲まれながら、それでも余裕を見せて嗤う。
そう、『世界』は現時点で殆ど不死身の存在。
どれだけ強大な攻撃だろうとそれを崩す事は不可能――――だが。

「……!? これは――――」

だが、それは直後にやってきた。

――――術式【歪】

それは、破壊という現象。その一点に特化した一撃。
『世界』の再現を無尽蔵と表するなら、対するこの術式は皆無。
本来なら『世界』はその一撃の性質を瞬時に判断し、回避を行えただろう。
だが、今この時はそれが行えなかった。アスラの炎で、それが行えない状況に追い込まれた。

無尽蔵と皆無がぶつかり合えばどうなるか。
それは『世界』ですら判らない。前例が、これまでの歴史においてさえ前例が無いのだから。

「――――――――!!!!」

そうして、世界は閃光と砂埃に飲まれる――――――






111 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 02:40:22 0
閃光が消え、舞い上がった砂埃が晴れる。

必殺に必殺を重ね運さえも味方に付けたのであろう一撃の後。

その攻撃が放たれた中心地には―――――――



「……くくく、ふははははははは!!!!」



『世界』が、いた。
三人の奇跡的とも思える必殺の連携を受けて尚、ああ、尚も『世界』はそこに立っていた。

「そうか『太陽』……今のが『悪魔』を殺した攻撃という訳か。……くくく、褒めて遣わそう。
 この我に危機を感じさせ、驚嘆させたのは、貴様で二人目、そこの修道女も含めれば三人目だ。
 素晴らしいぞ……実に素晴らしい 道化 であった」

語る『世界』の姿は完全――――という訳では無い様だ。
所々にかなりのダメージを負っている。
恐らくは、死ななければ発動できないという『創生』の特性故だろう。
ダメージは受けている……だが、それだけだった。
何かほんの一手。それが足りなかったとでも言うように、そのダメージの中に致命に至る物は一つもない。
会心の一撃を受けたにも関わらず、だ。

「ふむ。しかし【歪】か――――それが過去に一度も破られた事が無い技であったなら
 我とて今以上の損害を受けていたかもしれんな。
 嘆け。どうやら、貴様が殺した『悪魔』が我を支援したという事になるらしいぞ」

無尽蔵と皆無。このぶつかり合いは、上手くすればヨコシマキメの蓄えた邪気さえも大幅に
奪えたのかもしれない。だが……それを破綻させたのは、やはり過去だった。
『世界』は『創世眼』で過去を繰る。
それは、ステラと『悪魔』の戦いですら例外でない。
その戦いで『悪魔』は一度【歪】を破っている。それこそが、今回の結果を生んだ。
『悪魔』がその命を削り、不屈の精神を賭して作り出した【歪】の出口。
『世界』は【出口】を『創世眼』で再現――――作り出したのだ。
勿論、そこへと至る道は生半可な人間では到達不可能だっただろう。
だが『世界』にはそれが出来た。
その凶悪なまでの意思と、その膨大な邪気と、仮初の不死を用いる事で。
『悪魔』が命を賭けた道を最短で抜け出した。
――――まるで、悪魔の生きた道すら己が道具でしかないという様に。

112 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 02:42:53 0
「さて、『Y』よ……我は貴様をゆっくりと絶望でへし折るつもりだったのだが、
 どうもそう言っている余裕は無いらしい。先の事で確信できた。貴様は我の想像を上回る程の存在だ。
 そして、『太陽』と……アスラといったか? そこの愚民共も、中々に厄介な存在らしい。故に――」

「早急に希望を枯らすとしよう」

或いは――――『Y』が世界の選択だというのならば、
或いはこの『世界』はもう一つの世界の選択なのかもしれない。
選択をしないという選択。選択されずに消えた全てが望んだ、何の意思も介在しない選択。

「―――――『 創  世 』」

『世界』が指を鳴らした瞬間、中空に浮かんだ
総数1080本の歴史に名を残す魔剣、聖剣、魔銃、魔杖の数々。
そうして――――――

「我が奥義を以って終わるがいい―――― 」

「   『    終  世     』   」

そうして、それらの武器は一斉に放たれた。
それはまるで嵐のようだった。Yただ一人を除き、魔剣が、魔弾が、魔法が、降り注いだ。

113 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 09:35:50 0
(空に放たれた大鋏はいとも容易く弾かれる。それはシェイドの頬を掠めた半歩隣りに落とされた)

……っ!馬鹿な…邪気を媒体とした高圧電流、触れればあんな鉄塊は…?チッ!助手A、現在交戦中の蟹型機械についてのありったけの情報を寄越せ!

(言い終えた刹那、自由落下を開始する蟹型機械からあらんばかりの弾が打ち出される。
 通常弾鉄鋼弾魔法弾聖銀弾エトセトラ、弾の種類は全てバラバラで、搭乗者が完全に逆上している事が見て取れた)

っと、急に熾烈になった…な。奴も勝負を掛けてきたという事か?いや、妙に急いでいるような…。
何にせよ、平静を失ったのなら有難い。ここが好機…か。

助手A、情報は?
…ふむ、搭乗兵器「ライドムーバー」か…で?
…「アビリティキャンセラー」!?幻想とばかり思っていたが…完成していたか!

…援護?不要だ。下手に動けば研究室の場所がバレる。
貴様は依然情報を集めろ。身に合わぬ事をすれば行き着く先は…【破滅】だ。

…下手な心配をするな。私とて死ぬつもりは毛頭無い。…と言うより、ここで死んでたまるか。【アルカナ】の首領を拝むまでは例え何度殺されても死なん。
さて、先ずはかの弾幕への対処からか──────!?

(片手を翳し、邪気による防御壁を展開。聖銀弾のみが盾を貫き身体を掠めていく。
 しかし彼はそのような事に一切関心を払わなかった。彼の視線は食い入るように《ライトムーバー》とは真逆の方向に向けられている。
 その表情は、驚愕、唖然、そして一握の絶望。見つめた先には一人の女。彼女の持つ剣からは────邪気が放たれていた!)

あれは何だ………?

(聖銀弾が盾を貫き、身体の傷を少しずつ深いものにしていく。ふと、その傷口に目を落とし、男は心底不快そうに顔を顰めた。
 例えるならそれはまとわりつく蛆に向けるような視線。やがて見つめる価値すら見い出せず、再び女とその持つ剣に目を向ける)

邪気を放っている。聞いた事が無いわけではない。目にした事は一度としてない。剣自体から自由意志に近いものを感じる。日本刀。使い手は女。
建造物がすぱりと切れている。あれによるものだろう。…再び張り付いた。名刀は切った事すら感じさせないと聞く。ならばあの刀、切れ味は如何程だ《?》

(疑問が、沸いた)

刀としての切れ味は如何程だ?邪気で切れ味を強化しているのか?刃渡りは何mmだ?使い手の女は特別な素質を持っているのか?
銘は何だ?刀に意志はあるのか?邪気を放っているのは何故だ?どのくらい昔のものだ?何処で手に入れた?黒色なのは何故だ?何故刀なんだ?

───────興味深いッ!

使い手と交渉がしたい、手に取って見たい、ありとあらゆる実験を行いたい、逐一記録して保管したい、
一振り振るってみたい、用いて様々な場面に応用してみたい、私はあれを………頂きたい!

114 :名無しになりきれ:2009/09/26(土) 09:36:39 0
(ここまでを一息でまくし立てる。
 そこでふと顔を上げ、初めて彼は眼前の《鉄塊》を見据えた。その瞳は吸い込まれそうなまでに黒く、底が見えぬほどに濁っていた)

……ハッ。
(一息、鼻で笑う。両手を広げ、まるで演技をするかのように小馬鹿にした調子で言い放つ)

ああ!愚かなる“鉄塊乗り”よ!私は全くもって、心の底から君に同情しよう!
私は目の前を妨げる全ての者に容赦はしない!だが君は不幸にも、二度も私の前に立ってしまった!


こうなったら仕様がない──私は君を全身全霊、千切り、潰し、殺さざるをえなくなってしまった!


(白衣の裾を翻し、返す手には十丁前後の鋏。そのまま音も立てずにライトムーバーの周りを素早く走る。
 しかし、大きさの割に機動力のあるそれはシェイドのスピードに対応し、先回りするように銃撃を放った。
 シェイドはそれを片手に展開した邪気のシールドで避けていく。それでも全てが跳ね返せたわけではない。
 邪気によるシールドを無効化する聖銀弾や、地面から跳ね返った焼夷弾の炎は少しずつ彼の身を傷つけた。が、まるで損害を受けていないかのように彼は走る。
 途中何度か邪気の込められた鋏を投擲したが、全て村井の鋏捌きやライトムーバーの装甲に跳ね返された)

(そして、丁度くるりと一周し終える。満身創痍の身体を抱え、男はくつくつと妖しく笑った)

例のアビリティキャンセラーは…確か鋏のみの搭載だったなぁ…クックックッ…
だったら…丸ごと焼いちまえばいいッ!

(瞬間、ライトムーバーの足元が黒色に光る。描く形は魔力の象徴、六亡星。それらの角には全て、一周する間に弾かれた六本の鋏が刺さっていた)

出でよ…『地を這う太陽』ッ!

(一瞬の静寂。やがて魔方陣の中は地獄の業火と化し、夜すら照らす灼熱の炎柱がライトムーバーを包んだ)

ヒャハハハハハハハハハハ!そうさ…我が研究の糧にもならぬ物は遍く灰塵とする!それが私のやり方なのだよ!

(心をも溶かす黒色の空に、男の狂笑が響き渡る。足元には洩れ出る血液から血溜まりが出来、やがて男はそこに膝をついた)

115 :名無しになりきれ:2009/09/28(月) 02:26:13 0
大剣虎は見る。自身の最上級術式が砕け散り、瀕死であったはずのちっぽけな青年が屹立するのを。
調律機関の面々は見る。確定未来であったはずの滅びがしかし停滞し、爆ぜ消える様を。

『霊珠を吸収シた――ダと?イくら変換しタ妖気を自在に運用でキるカらといって、一人の許容量で統御しキれルものデは――』
「そりゃあそうだろう。なにせ俺は一人じゃない」

ヨシノは口を開いた。呼吸器が正常に動いているのを見るにどうやら腹部の穴は完全に塞がっているらしい。
それでも体の各所にできた傷は到底看過できるものではないし、戦闘機動にも支障がでるだろう。それでも

「足りない部分は補える」
『貴様……霊珠を構成スる死霊を従え治療術式を使わセたか……!よカろう、なラばその横腹にモう一度穴を開けてくレる!!』

大剣虎が唸り、丸太のような左腕でヨシノのいる地面を薙いだ。爪先が水蒸気爆発の雲を引くほどの速度と質量は、
まさに生物由来のスレッジハンマー。装甲車をも一撃で粉砕するはずのその威力は、しかしヨシノに届かない。

ヨシノもまた、腕を振り抜いていた。その先で白く輝く魔剣が押し寄せる圧力の波濤へとその切っ先を埋め、
まるでバターを斬るように大剣虎の豪腕を斬り飛ばした。まったくの手応えを感じず、巨大な獣の肘から先が宙を舞う。

『――ァァァァッ!!』

切断された左腕から液状化した邪気の澱が噴出し、大剣虎は声にならない雄叫びを挙げた。
それを傍目にヨシノは二三度剣を振って血糊を飛ばすと、

「なぁヨコシマキメよ、――お前は俺にとんでもない塩を送っちまったようだぞ?」

手元で脈打つように刀紋を漂わせる白の長剣――『ガイドライン』は、白杖を芯とした召喚型顕刃魔剣である。
手ごろな長さと太さの棒切れ一本あればそこに『喚べる』刀身は中世貴族の使うレイピアのように幅細で軽く鋭い。

「斬れ味は折り紙つき――無論、こいつの真骨頂はそこじゃあない」

ガイドラインは導きの剣。ヨシノと共に在ることを選択した旅団の魂の集積体。
故に、言葉なくとも理解できていた。魔剣の能力、効果、そして正しい運用方法。

足元の瓦礫を剣先でつっ突く。そしてさながら指揮棒のように魔剣を振るい、大剣虎の方へ向けて白の軌跡を描いた。

「導け――【ガイドライン】」

あとは一瞬だった。空を裂くような風斬り音が連続した刹那、大剣虎の胸から頭部にかけてを鋭さを持った衝撃が多段的に襲う。
再び大剣虎は苦痛の叫びに吼えると顔から血を噴出しながらもんどりうった。勢いは止まらず、そのまま仰向けに遺跡の石畳へと倒れこむ。

『何だ――何をシた貴様ァァァ!!こレれは弾……否、瓦礫ノ破片!物体射出ノ術式か!?』
「理解できないようなら教えてやる――感謝しろよ?簡単な話だ。そこら辺の瓦礫をお前の鼻っ面に『導いた』……銃弾より速いスピードで、な」
『導イた――ダと?』
                                   ガイドライン
そう、それこそがガイドラインの能力。剣で描いた軌跡が『誘導線』となって、あらゆる物体や事象をその場所へ"過程を無視して"導くことができる。
距離や時間を無視すれば光速並みの客観速度で移動することが可能であり、それを敵へ向ければつまりは弾丸と同義である。

『何かと思えバその程度の能力か!大層ナ理屈ダが要は"手近な物を弾にシて飛ばス能力"だろう!ヨコシマキメの再生力の前デは些事よォ!!』

嘲笑と咆哮が混ざり、斬られた腕を再生しながら大剣虎は起き上がる。再び――今度は両腕で挟み込むようにヨシノへ薙ぎ払った。

『貴様自身の耐久力が紙同然なノは変わリない!剣の振るい方も素人に毛の生エた程度、なラば両側からの攻撃はドう防ぐ!?』
「……おいおい早くもセリフにかませと雑魚の臭いが滲み出てるぞ?」

背後から声を投げられ大剣虎は首だけで振り向き横を見る。右肩の上で剣を構えるヨシノと目が合った。

「『俺自身』も導けるんだなこれが。だから断言しよう、――お前はこれから俺に一矢も報いることなく滅ぶ。滅びろ」


言葉尻と魔剣を振るうは同時。大剣虎が反応するより早く、今度は右の腕を肩から斬り飛ばした。

116 :名無しになりきれ:2009/09/30(水) 16:58:32 0
「まずは小手調べといくか、夜刀【月影】!」

女の姿が視界から消える。眼で追いきれないほどの高速機動だ。
魔剣以外から邪気を感じないところを見るに、彼女自身は無能力者であるはずである。

それでも速さという一点において黒の剣士は『吊られた男』を凌駕した。
風を切る音でおおまかな見当をつけるに、攻撃はすぐ横から迫ることだろう。

『吊られた男』は動かなかった。動く必要など感じなかった。
速さを上回られたのは『吊られた男』のみであって、生憎こちらには人外がもう一人いる。

「――だから自分でも少しはお避けになって下さい!!」

轟音を表現していいほどの金属音が木霊する。黒の斬撃はあと半メートルも振りぬけば命を奪える位置で、同じく漆黒の鏃に阻まれていた。
右腕に展開した剣状の鏃、<ギミック>・パイルブレイドで女の攻撃を受け止めたマリーはそのまま勢いを殺すように靴底で芝生を噛んだ。

「いやあ、お見事。流石は僕のマリーだね、信頼してるよ?」

「おべんちゃらは後でじっくりゆっくり聞かせてもらいますので、とりあえず五体満足でいたいなら離れていて下さい」

言いながらマリーは一回転、少女の体を目一杯に使って慣性を無理やり生み出しフルスイング。
パイルブレイドで相手の刀を強かに打ちすえ、体勢を崩し、

「<ギミック>・パイルバンカー!!」

左腕に展開していた杭打ち機を存分に叩き込んだ。
さらなる轟音が重なり、恐ろしいことにマッハの打杭を剣でガードした女の体が、弾丸のように吹っ飛ぶ。
更に恐ろしいことに、直撃コースで吹っ飛ばされたにも関わらず、女は地面に踏ん張ることで5メートル程飛ばされただけに持ちこたえた。

「んー、この反応……やっぱタダモノじゃあないね君。そういえばまだ名前と目的を聞いてなかったね?」

「何を悠長なことをのたまってらっしゃるのです?それにこちらから名乗るのがスジかと」

「たった一文で論旨が真逆になってるよマリー。しかしそれもそうだね、失礼した剣士君――僕はアルカナ二十二柱が一人、『吊られた男』」

「その従者にして刃と盾、魔導人形マリー・オー・ネットで御座います」

「この大学の下にはちょっと人に見られちゃマズいものがあってね。――特に異能関係者には。排除させてもらうよ?」

既に行動は完了していた。未だ地に立つ剣士の足元に巨大な影がかかる。彼女の真上には、象ほどもあるバカでかいコンクリートの塊が。
問答を時間稼ぎに『あや吊り糸』で学舎の瓦礫を寄せ集め、撚り合わせ、圧縮し、一つの巨大な塊にしたものだ。

「密度をうんと高くしたから、あの蟹並に重いはずだよ。――さて、これをどう防ぐ?」

糸の戒めを解放する。
超弩級の巨大質量が、さながら隕石の如く黒の女剣士へと降り注いだ。

117 :名無しになりきれ:2009/10/01(木) 01:43:39 0
一閃。
邪気の飛沫が迸り、獣の巨腕が肩から切断される。

『ガァァァァァーーーーーーッッ!!』

もはやなりふりなど構ってはいられなかった。さながら『戦車』のように瞬間機動を繰り返すヨシノを捕まえんと大剣虎は片腕を振り乱す。

《斬らレた腕の再生ガ遅い……?魔剣ノ能力か?否こレは――》

ヨコシマキメは生きた遺跡であるとともに巨大な"力"の貯蔵庫である。
大剣虎はそこから生まれた生物であるが故に存在そのものが貯蔵庫とリンクし、無尽蔵のエネルギーを運用することを可能としている。
ヨコシマキメが健在である限り、その再生は無限かつ高速であるはずだが、一つだけそれを妨げる要因が存在する。

《『世界』メ……膨大な量の"力"をヨコシマキメから吸っテいルな……?》

大剣虎より上位の、『ヨコシマキメを支配できる存在』。最深部で侵入者と交戦中であるはずの彼が望めば、ヨコシマキメの全て
の力をその手にすることが可能であり、大剣虎はその"おこぼれ"を頂戴しているだけに他ならないのである。
それでも規模で見れば、国の一つや二つ稚気で葬れるレベルの力なのだが。

『あノ男が"存在再生"を行わナけれバならナいほドの強者――ナるホど、どウりで貴様が強気なワけダ、ヨシノ=タカユキ』
「ほう、よくわからんが姉さんやステラは善戦してるようだな。"あの男"ってのはお前の飼い主か?」

風の中でヨシノが言う。飼い主、という言葉が大剣虎の琴線に引っかかった。喚起される屈辱の記憶、ヨコシマキメと一体だった頃の自分を、
消失したヨコシマキメを、絶対記録(アカシックレコード)の記述から喚び覚まし、構築し、再現した男。圧倒的な能力をもつ『世界』という存在。

それが『世界』の選択だ、と。彼を見たときヨコシマキメは理解した。
最大にして絶対の存在であった自分が一人の男に跪き、傅き、力を与えるという屈辱にして喚起。

108の世界で、ヨコシマキメはあらゆる異能を貪り食った。
野心に溢れる冒険家を、未来に棹挿す革命者を、過去を紐解く研究者を、謎に挑む探求者を。
彼等の使った魔導具を、その刃に幾千もの人に血を浴びた魔剣を、一騎当千を約束する魔槍を、仇なす者を叩き潰す魔槌を。

飲み込んでは新たな場所へと転移し、時には世界すら超越して新天地を求める。
繰り返した数は108回。最後に訪れたこの世界で、ヨコシマキメは消失の憂き目を見る。

復活した今、最早溜め込んだ力を吸い尽くされるのみである未来において、ヨコシマキメに残されたのは最上であるという自負。
だからこれは、矜持なのだ。最上であるために。最大であるために。最強であるために。
こんな、ちっぽけなヒトごときに。

『――負けるワけにはいカんのだッッ』

宙を駆けるヨシノへ向かって右腕を思い切り突き出す。届かない。再生しきれていない腕では、あと一歩のところでヨシノに届かない。

『私は……ワタシは世界を凌駕した存在だぞ!最上より優れたモノなどありはしない――!!』

だから、

『矮小な貴様はここで地に堕ちろッ――!!』

刹那、大剣虎の左腕が萎れるように消滅した。構成していた組織とエネルギーを全て右腕へと廻す。

『それがワタシの『世界の選択』だ――!!!!』

突き出した右腕の切れ端が一瞬で盛り上がり、元のように――否、さらに強靭な右腕として再生する。
不意をつかれたヨシノは魔剣ごと壁へと叩きつけられ、そのまま右手で壁との間に押さえつけられた。

(――!?なんだと……!腕が押さえつけられてガイドラインを発動できない!)
『魔剣も振るえなければ意味などあるまい!これで貴様の負けだ――そのまま潰れろ羽虫の如く!!』

まるで轟砲の如き笑い声が遺跡内に反響する。隻腕の獣は勝機を見据え、高らかに嗤った。

118 :名無しになりきれ:2009/10/01(木) 13:54:51 O
(幾百の祈り)
(幾千の願い)
(それらを踏み躙り食い荒すのは、きっと人間の抱える大罪)

(平和の下には屍が積み上がり、その平和さえ硝子の城)
(ひとたび鉛の弾が撃ち込まれれば、あっという間にヒビが走って破片の山)

(歩み寄りながら淡々と語る『世界』に対して、有効な反論の構築が出来ない)
(『世界』の言葉は、歴史の一事実……間違いではない以上、反論の仕方がない)
(その事実は、青年自身が、邪気学者として、数え切れないほど目にしてきた事実だからである)

(それでも、青年は)

……違う、それは違う、『世界』……正しいけれど、違うんだ…!

(<Y>は、辛かった)
(『世界』が生粋で絶対の悪人では決してないことが)
(正しさを貫く1人の男を、敵と見なさなければならないことが)

確かに…そうだろうさ。この世界は醜悪で、けがされている……。
それは正しい……だが、人は、罪しか重ねられない訳じゃない…!!

(幾百と踏み躙られても、人は祈ることをやめなかった)
(幾千と食い荒されても、人は願うことをやめなかった)

人は罪を裁ける、罪を贖えるッ、そして……、…罪を赦せる。
そうやってこれまで紡がれ、これからも紡がれていくのが『歴史』だッ!!
その事実は、邪気学者として数限りなく史料や文献を目にしてきたこの俺がッ、保証するッ!!


(歴史に紡がれ続けてきたのは、悪意や罪だけではない)
(青年はそれを、知っていた)
(だからこそ――2人が『原罪』に打ち勝つことを、知っていた)
(『世界』へと再び臆さず立ち向かっていく2人を、信じていた!)

(雲霞のごとき鉄火の必殺と、こじ開けられた虚無の必殺)
(2つの必殺が奇跡的な確率の下に、一斉に『世界』へと怒涛の攻勢を仕掛ける)
(ラッキーでも構わない、これで決まってくれれば――――)


行け……これで決まれッ、行けぇぇえええぇえええええええええええええええッッ!!!

(閃光と塵埃が、世界を包んだ)


119 :名無しになりきれ:2009/10/01(木) 14:16:46 O
(――――そしてそれが晴れた時、この世界に絶望が君臨した)

「……くくく、ふははははははは!!!!」

(高らかなる王の哄笑が、まるで残響のように頭の中を遠く木霊する……)
(どうして?どいやって? 思考を蝕む焦燥と混乱、疑問符だけが脳裏を掠めた……)

ば、バカな……ッッ、有り得ない、理論上、生存は、不可能だ………ッ!??
(そこまで言いかけて、頭をよぎる可能性――創世眼の、常軌を逸したキャパシティ)
(『世界』の飽くなき尽きせぬ執念。…恐るべき仮説だが、やってやれないことはない)
(そして、それを、事実、『世界』がやっつのけた……。…すなわち、奇跡すら、轢ね除けた)

(不可能だとか、無理だとか、論ずることすら意味がない……それすら、ヤツの掌の上)

「早急に希望を枯らすとしよう」

(グニャリ、と歪み始める視界)
(唖然と驚愕に支配される脳内に、「黒」の意志が流れ込みだしたのだ)
(それは「白」の堤防の決壊を意味した…割れるような痛みに呻き、頭を抱え、苦悶を漏らす)

ぐ、あぁああぁあ……ッ、ダ、ダメだ、こ、このまま…じゃあ……!

(水銀を掻き回したような視界に映る、『世界』と――中空に浮かぶ、名だたる脅威の数々)
(『世界』の能力である創世眼で生み出したものだろう、…夥しい数と量だ)
(数量的に防御が、体積的に回避が封殺されている。…相殺だって、疑わしい)

(それらは<Y>を標的から外しているようだった……つまり、『世界』の目的は、徹底して)

だ、…ダメ、だぁああ……ッ、それだけは…絶対に、…ダメだ………ッ!!!

(しかし、何ができる?)
(戦闘する力などない。よって、あの攻撃をどうこうする力はない)
(そしていまや、精神力さえ、「黒」に侵され続けているというのに―――)

(身体が重い。泥沼の中にいる感触。身じろぎも、叫びさえ、何一つ出来はしない)
(やがて蠅の羽音のような飛来音と共に、1080の脅威が終世の名の下に降りかかる)
(吹き荒れる嵐のようであった……直撃すれば、2人はきっと、跡形もなく――――)


(或いは――――『Y』が世界の選択だというのならば、)
(或いはこの『世界』は、もう一つの世界の選択なのかもしれない)
(選択をしない選択。選択されずに消えた全てが望んだ、何の意思も介在しない選択。)


(降り注ぐ絶望、その到来を待たずして、青年の身体はくずおれた)

120 :名無しになりきれ:2009/10/01(木) 14:43:32 O

全てが白に統べられた空間で、彼は青年に問いかける。
ここは2人にとって、子供の頃からいつもの場所だった。

「…打つ手なし。チェック。スマザードメイトだよ、完璧に詰められた。
正直……俺はよくやった。あんなバケモノ相手にさ、今でも半信半疑だ。
………いや、アイツだけじゃない。今まで戦ってきた相手だって」
<そんな戯言を、我は聴きたいのではない>

彼の力強い語調に、青年は思わず口ごもる。
いつだって味方だった彼の、責めるような視線を受けて、怯んでしまったのかもしれない。

<『終わりなのかどうか』、我が質問はただ一点のみ>
「…、……いや、だって。あんなの防げるか? まして避けられる?
相殺だって厳しいさ。見たか? いわば歴史上のスタメンだったぜ。
数々の歴史で活躍した武具魔法のパレードだ。俺も史料で見ただけだが、まさか実際に」
<『終わりなのか』、そう我は聴いている>
「…【歪】から脱したのは凄かったな、あれは眼の力だけじゃない。
出口を作っても辿り着けなきゃ意味がない。それを辿り着いたのは執念のなせる技だな。
あんなバケモノが実在するとは……死ぬ前にいいみやげ話ができ」

<嘯く口を噤め。我が聴きたいのは、『終わりかどうか』だ>
「…だって無理だろあんなのッ!! バカかお前ッ!! 見ただろッ!!?
勝てる訳ないだろッ!! 端から負け戦だったんだよ、終わりだ終わりッ!!
第T部完ッ!! 終了だッ!!」
<嘯くな、我が片割れ。お前の心は、死んでいない>
「……ッ」

白き世界に、気泡のように浮かんだ「黒」の色がじわりと広がる…。
ここは最後の砦だった。ここを破られれば、きっと2人は「いなくなる」。

<…幼少の砌より、我等は共に在ったな。最初は本家で爺に叱られた時>
<落込む汝を、我が慰めた。其れが初めての邂逅、其の時分より…我等は一緒だった>
「…ずい分と今更な話だな。12年前、くらいか」

<我は全てを知っている。「遠戚」と本家の人間に罵られど挫けぬ、不屈さ>
<友を侮辱されば他財閥の嫡子でも殴る、不撓さ。不撓不屈は、汝の代名詞ではないか>
「後者はあとでエラい目に遭ったんだけどな、……懐かしい記憶だ」

<…信じる者が、在るのだろう。信じる世界が在るのだろう。理由は其れで十分>
<『世界の選択』の宿命など二の次よ。…其れが汝の、汝たる理由にして…意義だ>

白き世界が、黒く染まっていく。
時間がない。

121 :名無しになりきれ:2009/10/01(木) 15:05:39 O
フードの男が「黒」を切り裂いて、一筋の「白」を作り出す。青年はそれを見て、悟る。

<往け、我が友よ。自らが信じる世界を、信じる者と共に。例え絶望が行く手を阻めども>


ああ、……ありがとよ、<Y>。じゃあ――――往ってくる。

(もう、<Y>とは会えないのだろう、と)



(――白く光る壁が宙に次々幾重に張り巡り、降り注ぐ絶望を迎え撃つ)

知ってたか、『世界』
             フ ァ イ ア ウ ォ ー ル
(それは間違いなく、対物対魔反発障壁。かつて邪神を封印せし神域の聖壁)
(青年は渦巻く白を纏っていた。遺跡の最奥、その闇を照らすように眩い光)

俺は諦めが、非常にめちゃくちゃこれでもかってほど、悪い。昔からな。
それは多分2人も、"皆"も同じさ。だから………希望が枯れるなんてことは、無い。


だから、世界は、終わらない。

(歪んでいた視界は、すっかり澄んでいた)
(立ち上がるのは黒髪の男。フードは脱ぎ捨て、右腕の包帯も外した)
(普通のファッションの青年だった。右腕には変な目玉の落書がしてある)


(彼はもう、<Y>ではなかった)


2人ともッ!! ……あの攻撃は、おれが何とかしてみるッ!!
(その能力の原理や起因は、青年自身よく分かっていなかった)

(『紅のプレート』の支配権の争奪で、不思議な黄昏の奇跡が起きたことも)
(その時同一になった部分で、『世界』を少し理解って涙がこぼれたことも)
(そしてその時『創世眼』が、不完全ながら、一時的に、青年に宿ったことも)

ただ、防ぎ漏らしがあったらごめんッ!! やれるだけやってみるからッ!!
(それでも、分かっていなくても、青年は良かった)
(耳障りな飛来音の中、しかし伝わると確信して、青年は叫ぶ)

2人は……そっちをッ!! 俺は、こっちの戦いをするッ!!
……死ぬんじゃねえぞッ、皆でッ、生きてッ、帰ろうッッ!!!

(『紅のプレート』の支配権の争奪戦)
(『終世』の可能な限りの防御)
(強靭な精神は痩細るが、不撓不屈が諦めることを許さない)

世界は、罪と戦う人がいる限り、価値が無いなんて言わせない。
それを今からッ、お前に叩き込んでやるぜぇえええッッ、『世界』ィイイィイイィイィイイイイィイッッ!!!



122 :名無しになりきれ:2009/10/01(木) 15:12:29 O

(渦巻く白き絶対の意志が、迸る激流となって「黒」を一気呵成に攻め立てる)
(それは青年の纏う光が、巨大な神槍を象ることで現れた。ファイアウォールの、変形)
(大きさはヨルムンガルドには及ばぬものの、ギガンテスの平均背丈に並びうる)

(1080の脅威の一切を薙ぎ祓うように、白槍は中空を真っ直ぐに突進)
(白槍の穂先が接する空間平面には白光の障壁が点滅し、1080の軍勢を押し戻すように抑えつける)
(「白」と「黒」、絶対の意志の戦いを、『ファイアウォール』と『終世』の戦いに表すかのように)

往くぜえッ『世界』ィイイィイイィイッッ!!! 繰り返すッ、お前にこれからは渡さねぇええええぇえええッッ!!!

(残量は薄弱、しかし硬度はいまだ強靭。不退転、不撓不屈、正真正銘全身全霊最大の一撃)

123 :名無しになりきれ:2009/10/02(金) 14:14:01 0
「密度をうんと高くしたから、あの蟹並に重いはずだよ。――さて、これをどう防ぐ?」

ふと見上げれば、頭上に岩塊が浮かんで――いや、落ちてきた。

「やれやれ、杭の次は岩か、君らは土木工事の作業員かい? とりあえず、こんなもので潰そうったってそうはいかないよ」

レイは黒爪を持ち直すと、岩塊を見上げる

「暗夜槍【逆雨】――」

黒爪を空に突きあげると、無数の黒い槍が放たれ岩塊を砕いた。
砕かれた破片はまるで鉄球が落ちてきたかのごとく地面を砕き、辺りに土煙を蔓延させる。

レイは剣を二,三度振って土煙を払う、当然のように無傷

「しかし、二人一組とはね… 私が不利になりそうだな」

ひょろ長の男は「吊られた男」と名乗り、斬撃を防いだ少女は魔導人形だと言う
男の能力は、さっきの攻撃と名前からして操作系の能力だろう
少女の方はさっきの杭打ちといい鏃といい、ただの人形では無さそうだ

「そして地下、ね この地下に見られたくない物が埋まってる? そんなことを言うと、余計見たくなるものだな」

レイは黒爪をくるくると弄んでいる

「黒爪も下の物を見てみたいと言ってるし、ここは引き下がるわけにはいかないな」

くるくると回していた黒爪をピタリと止めると、二人に切っ先を向けた

         コイツ
「もう一度言うが、黒爪を楽しませる戦いにしてくれよ?」

そのまま剣を引く、それは突きの姿勢

「暗夜槍【覇滴】――」

力任せに、体重を思い切り乗せて突きを放つ
黒い斬撃は、槍となって大気を切り裂き

紛うことなく"吊られた男"を狙った

124 :名無しになりきれ:2009/10/02(金) 23:35:20 0
「こうなったら仕様がない──私は君を全身全霊、千切り、潰し、殺さざるをえなくなってしまった!」

シェイドが狂ったように叫ぶ。その顔に張り付いた笑みは狂気と狂喜そのもので、虫唾と怖気と悪寒が走る。

『あいつ こわい こわくて きもい』  『狂人。村井、留意――』

"左右"の学習型AIが生み出す単純な情緒でも、目の前の白衣に対して恐怖や嫌悪を感じるらしい。
彼女達(一応女性人格を与えられている)がこれまでに得ていた怒りや高揚といった感情は全てが
情緒豊かなムライのそれに呼応したものであり、独立して一個の感情を獲得するのはこれが始めてである。

そう、『恐怖』や『嫌悪』は彼女達だけが感じたもの。
ムライはと言えば、

「俺を殺すだと……?俺の仲間のみならず俺まで手にかけようってのかこの腐れ白衣が――超絶おこがましいぜ」

静かな憤怒。冷ややかな赫怒。ここへきて元々そう太くないムライの堪忍袋の尾は完全にぶち切れていた。
怒れば怒るほど冷静になる性質だと、ムライは自己を理解している。だからこそ、正確な判断が求められる戦場では常に血圧高めだ。

シェイドがライドムーバーの周りを旋回し始める。合わせるようにライドムーバーは迎撃に銃門を閃かせるが、効果的な打撃とはならない。
効いてない、というわけではないのだ。奴の白衣は順当に血で染まりあがって行くし、撃てばそれだけ動きも鈍くなる。それでも。
『全てを無視するように』、嗤いながらシェイドは確実にムライ達の周囲を一周した。同じように鋼蟹もまた一回転し、戻ったときにはシェイドが次の行動に移っていた。

「出でよ…『地を這う太陽』ッ!」

術式だ。
気付けばライドムーバーの足元には鋏を起点とする六亡星の術式陣。

(さっきからぐるぐる回ってやがったのはこいつを置くためか――!!)

発動する。
方陣は外界からライドムーバーを隔離し、その内部を灼熱の業火で満たす。火柱の形をとった焔はライドムーバーを容易く飲み込んだ。

「!!……野朗、蒸し焼きにするつもりか――!」
『むにえる?』  『炎熱系上位魔術。範囲結界型』
「アビリティキャンセラーの弱点を的確についてきてやがるな……もうネタが割れたのか?」

鋏に搭載する形をとっているが故に、アビリティキャンセラーの無効化範囲は限られてくる。
具体的には、間接の関係上どうしても届かない懐側や足元には発動できないし、触れることで無効化するという性質故に、
今のように離れた場所に複数の媒体で術式を敷かれると一つずつ潰していかざるを得ず、無効化に時間がかかる。
装甲に耐熱性こそあるものの、上位術式の前には気休め程度にしかならない。待っているのは焼死だ。

『可能性――協力者』
「多分そのセンがニアピンだろうなぁ。だがんなこた後でじっくり考えるぜぇ……今はこいつだ」

だんだんと熱せられてくるコックピット内で、ムライはほぼ気力のみで解答を導き出す。
ライドムーバーは焔に包まれながら、その鋏――フレキシブルアームを高く振り上げ、

「――しゃらくせぇッッ!!!!」

間接部のエネルギーを全て伝達し、裂帛の勢いで地面へと鋏を叩きつけた。
轟音が響き、大地が鳴動するほどの衝突エネルギーが発生する。極めて強靭かつ大重量を誇る
フレキシブルアームがぶつかった衝撃は地盤も地殻も容易く砕き、その地面に突き立てられた鋏ごと地表を飲み込んでいく。

砂埃と土煙の中、他より一メートルほど陥没した地面から鋼の蟹が立ち上がる。その身に纏っていた炎は消え去り、
ただ過熱した装甲板が空気を焼くのみである。内部の無事を示すように、スピーカーからムライの声が聞こえた。

『……方陣術ってなぁ陣自体を壊しゃ攻略は簡単だ。てめぇはそれを見越して硬い地盤に描いたんだろうけどな。
 白衣野朗よ、てめぇの誤算はただひとつ――地面だろうが地盤だろうが、俺たちの鋏は全てを砕ききる。てめぇも例外じゃあねぇぜ?』

横殴りの一撃。膝をついたシェイドへ申し分ない鋏の一撃が叩き込まれた。

125 :名無しになりきれ:2009/10/05(月) 01:20:58 0
亡者のような獣の断末魔が響き、調律機関実働隊が鎬を削りあっていた剣虎の軍勢の最後の一匹が地に伏した。
湯水のごとく出現していた剣虎はある一時を境にその補填に滞りを生じさせ、そしてピタリと止んだ。
あとは破竹の勢いである。見えてきた勝機に士気を爆発させた隊員たちの裂帛の気迫は進軍と連動し、あっという間に残党を飲み込んでしまった。

敵軍損害・全滅、自軍損害・負傷多数に死者
殲滅完了である。

一瞬の沈黙。悠久の如き静謐。味方以外に立つ者がいない事実を確認するとともに、隊員たちは盛大に勝ち鬨を挙げた。
レイジン=シェープスはその中にあって一人思索する。現状立ちはだかる敵は排除した。
遠くでは大剣虎の放った破滅術式を破った青年が魔剣を手に大剣虎を圧倒している。まるで先ほどの負傷を感じさせないように。

(さて……このフロアの敵はあのデカブツを除いてすべて殲滅しましたが……不可解な点が一つ二つ)



126 :名無しになりきれ:2009/10/05(月) 02:24:18 0
【途中送信してしまいました。死者0名です】

(さて……このフロアの敵はあのデカブツを除いてすべて殲滅しましたが……不可解な点が一つ二つ)

無限に湧き出てくると思われた剣虎の供給が不自然に停滞したこと、それと同時に大剣虎の動きも鈍り始めたように思える。
分析術式による精査で明らかになったのは、剣虎や大剣虎を構成する邪気の組成がヨコシマキメと同質であるということ。
これは、彼等が『ヨコシマキメそのもの』であるという証左に他ならない。

(ヨコシマキメは『108のクロニクル』の一つ――並行世界を行き来して溜め込んだ邪気は相当なモノでしョう)

おそらくは、青天井の雲霞の如き膨大な邪気を生成術式に充てた『ヨコシマキメの防御機構』の一つなのだろう。
それが滞りを見せたということは、『ヨコシマキメが枯渇した』か『なんらかの理由で剣虎生成への供給が途絶えた』と見て相違ない。

大剣虎の変調を見ても単体の戦闘能力ではなく湯水のような邪気による超速再生こそが最大の強みであったと言える。
それが途絶えた今、大剣虎が青年によって斃されるのは時間の問題だろう。

「加勢しますかレイジンさん」

隊員の一人が肩を上下させながら問う。彼の上半身は赤黒く染まっているが、自身の血ではないことを担った巨槍の同色が証明している。

「ンーはてさて、あの青年一人でどうにかなりそうですし、ああいった手合いに多勢はかえって危険な場合もありますねェ」

機動力のある巨体を相手にする場合は、少数精鋭の方が安全である。大隊で隊列を組む場合、正面からぶつかり合うことを前提としているが故に
他方からの攻撃に対応することが難しい。敵にちょこまかと動き回られるのは、軍隊にとってもっとも厄介な戦法なのである。

「!!――巨獣に異変……細胞の組成配列を変えて腕を伸ばしただと!?」
「青年が捉えられました!腕ごと魔剣を押さえつけられて無力化されています!!」

見れば大剣虎の片腕が消え去り、もう片方が異常なまでに肥大化し青年を壁に押さえつけている。

(失った再生力を細胞のやりくりで補うとは……そこまでの知性を得ていましたか)

「隊長!加勢の許可を!自分は見過ごせません!!」
隊員が歯噛みしながら申し立てる。レイジンはつとめて冷静に現状を述べる。

「貴方が助けに行けば彼は助かるかも知れませんが――貴方が死にますよ?」

俯いた隊員を庇うように、今度は別の隊員が一歩進み出た。
「――ならそれを俺が助けます」

さらに別の隊員が前へ。
「それを私が助けます」

「それを僕が」

「自分が」

そして、
「もし自分が危なくなったら――隊長が助けて下さい」

次々に歩み出る隊員達にレイジンは思わず鉄面皮を歪ませ……苦笑した。
「――いいでしョう、ならば進軍せよ。『世界の護り手の護り手』として、我々はここに在りましょう」

レイジンの号令で実働隊は一斉に砲や銃や術式陣を構え、青年を押し潰さんとする異形の腕へと一斉射撃を放った。
極光と銀弾の群れは威力の塊となって殺到する。

127 :名無しになりきれ:2009/10/07(水) 01:11:36 0
然るべき質量と速度を以って女剣士へと迫った礫塊は、しかしその威力で彼女を殺ぐことは適わない。

「暗夜槍【逆雨】――」

呟きと同時、黒の刀から放たれた幾条もの槍――の形をした斬撃が礫塊へと殺到し、穿ち、砕き、削り去っていく。
鋼鉄並みの硬度と密度を誇るはずのそれは、余りにも容易く瓦解し四散した。

「やっぱりこの程度じゃ堕ちないか。――まぁそのくらいは折り込み済みだね?」

土埃を払う剣士の斜め後方、砂煙を突き破ってマリーが飛び出した。隠蔽術式と土煙を効果的に使って身を隠し、
礫塊を迎撃する隙を縫って背後へ回ったのだ。

「しかし、二人一組とはね… 私が不利になりそうだな」

完璧に虚を突いたはずの攻撃を、寸でのところで躱される。剣だけじゃなく、使い手そのものの感覚も常人のそれではないようだ。

「おやおやそれは心外だね。先にも言ったとおりマリーは僕の刃にして盾――君の刀と変わらない、"得物"だよ?」

「そんなとこで棒立ちになりながら禅問答をしないで下さい――的になりたいのですか?」

「いやいや、そこは君が防いでくれることに期待するよりないねマリー?」

女剣士は更にバックステップすると、おもむろに剣先をこちらに向ける。

            コイツ
「もう一度言うが、黒爪を楽しませる戦いにしてくれよ?」

姿勢は刺突の構え。優れた知覚素子を持つマリーは、次の攻撃が相応のタメと威力を生ずるものだということを理解する。
距離があるが、彼女にとってそれは意味を持たない要素だろう。刀から斬撃が独立して射出されるのを何度も見ている。
狙いは『吊られた男』。だからここは。

「暗夜槍【覇滴】――」

跳んだ。女剣士の裂帛の一撃が放たれるより一瞬早く、『吊られた男』は横っ飛びに回避した。
全体重が乗ったであろう踏み込みによる突きは大気を割って斬撃の槍となり、紫電に近い速度で彼の傍を過ぎていく。
これさえ躱せば、勝機は見える。裂帛の攻撃はその性質故に不可避の硬直、即ち隙が必ず生じる。

そこを狙えば。
『吊られた男』の右目が光り、術式を構築する。刹那の時間で全ては進み、突き抜けた斬撃が校舎の壁を大破させる頃には。

「『傀儡眼』――接続成功」

気付けば辺りの地面に散らばった礫塊の破片から無数の『糸』が伸び、女剣士の眉間や胸や手足等へと繋がっていた。
解こうとしても身体が動かない。『吊られた男』の邪気眼『傀儡眼』の支配術式、『あや吊り糸』である。

「岩を破壊したぐらいで僕の攻撃が終わったと思わないことだ。散らばった破片に繋がりっぱなしの『糸』はちゃあんと生きてる。
 あとはマリーが君の注意を惹いてくれてるうちにその辺の瓦礫同士を『糸』でリンクさせれば『結界』の出来あがりだね?」

無論そう簡単には達成できない。彼が『糸』を伸ばす速度自体はさほど早くなく、敵へと接続するには決定的な隙が必要である。
攻撃を見切って躱そうにも、容易く回避できるほど生易しい斬撃ではなく、実際一瞬でも跳ぶのが遅れれば致命傷は避けられなかったろう。

「私の高速視覚素子で貴女の攻撃挙動を読み取り、『糸』を使って『吊られた男』様に伝信したのですわ。見切るのに酷く手間を費やしましたけども」

如何に不可避の高速斬撃であろうとも、先の先まで読めば回避はそう難くない。
武術の才能に恵まれた者が十年かかって到達する境地を、彼等は最新の術式科学と能力の連携によって踏破したのである。

「おっと、動こうなんて考えないことだよ剣士君。この『糸』は相応の邪気でなければ斬れないし、そんな邪気を放出すればどんな猛者もヘロヘロさ。
 大人しく僕等の尋問に答えてくれれば悪いようにはしない。――名前と所属にここへ来た目的、それから魔剣の能力でも聞こうか?」

柄にも無く額に滲んできた汗をマリーに拭ってもらいながら、『吊られた男』が尋問する。

128 :名無しになりきれ:2009/10/07(水) 21:19:09 0
「『傀儡眼』――接続成功」

(!)

吊られた男の言葉と同時に、体の自由がきかなくなった
見れば、あちこちに散らばった岩塊から糸が伸び、レイの体に繋がっている
腕や首を動かすことはもちろんの事、指一本ピクリと動かすことも出来ない
かろうじて、口と目のみが動かせるのみである

「おっと、動こうなんて考えないことだよ剣士君。この『糸』は相応の邪気でなければ斬れないし、そんな邪気を放出すればどんな猛者もヘロヘロさ。
 大人しく僕等の尋問に答えてくれれば悪いようにはしない。――名前と所属にここへ来た目的、それから魔剣の能力でも聞こうか?」

(というか動けないんだがな… 黒爪が動かないんじゃ何も出来ない… ここは従っておいて、対応策を考えるか…)

レイはふ、と息を一つすると、動けない体でゆっくりと喋り出す
「名前、そういえばまだ名前を言っていなかったな レイ・クロウ・アークウィルという 所属は無い、この国の言葉で『流浪人』と言うのかな?
 目的なんて持たないさ、ただ戦いを求めてうろついてる 血の気の多い父親に育てられたものでね
 この剣はその父の能力の物さ、魔剣じゃ無い 刀匠眼、様々な能力を持つ剣を作れる邪気眼だよ。こいつの能力は『斬撃の自在化』
 奪おうなんて思わない方がいい、こいつを怒らせると恐い」

一息で答える、別に知られてもどうと言うことはない事ばかりだ。



129 :名無しになりきれ:2009/10/07(水) 21:44:04 0
しかし
(この状況はどうするか…)

相変わらずレイは糸で縛り付けられ、身動きが取れない

(仕方ない… 黒爪、この糸、斬れるか?)

彼女はしっかりと握りしめられた得物に問いかける

刀は応えない、つまりは
(NO…か 相変わらずやる気のない奴だな)

と、刀を持つ手の中指だけがわずかに動くのを感じた

(…まったく、分かってたのかこいつは)
(しかしこれじゃ糸は切れないな、だが十分だ)

黒爪を僅かに震わせ、感覚を確かめる

(後は相手の出方を待つとしよう… ここからじゃ避けられるのがオチだからな)

130 :名無しになりきれ:2009/10/07(水) 23:00:56 0
「ぼくらの夢をー、奪った大人を、地獄の業火で皆殺しー。」

歌声。

「ゴーレッツゴー大人を殺せガッツじゃぜー。
 それがー若僧のー、祈りー。
 自由のためなら鬼となりー、あがらう大人にとどめ刺す。
 いくぜー決まり手サンダー若僧ビームはー熱さばつぐん。」

一息ついて、男は、いい唄だと、ふわりと呟いた。
ベンチに座って眺める公園は、やたらだだっ広くて開放的である。
雑草やら名も無い木々やらばかりが繁栄しており、
なけなしの遊具類は敷地の端に追いやられて、錆び付いた骨髄を剥き出している。
空っ風が吹く。男はくしゃみをする。口角から火花が散った。

ふと、男はポケットを探ってライターを取り出した。
丸みを帯びた直方体した金属製のそれは、紛れもないジッポーである。
その塗装が珍しい。
ライターは太陽を浴びるごとに、赤と金の綯い交ぜになった奇妙な色彩を醸す。
水に溶かしたオイルの揺らめきのような、テラテラとした冷たい光である。
マジョーラと言う。

男はしばし、その毒々しい輝きを天にかざして眺めた後、
目の前に持ってきて蓋を開け、着火した。
赤い三角帽に似た火が躍る。

「『世界』。」

男がそう呟くと同時に、ライターの火は静かに揺らめくと、
じわりじわりと小さくなり、やがてちんまりとした、只の光の点となった。
男は、笑うのか泣くのか、唇を不器用に捻じ曲げると、
右手でライターを弄びながら、立ち上がる。

「夜明けは近い。」

二度目の突風が吹く頃には、男の影も形も消え失せていた。

131 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:22:04 O
天命流、二式《閃光》。己が生み出したそれは“突進力”────換言すれば“加速”を与う奥義。

さながら『閃光』の如く、朧に光りながら加速していく。
《魔術師》という一点を標に、そしてそれを遮る業火へ突き進む。

「共に参ろう【白亜】。あの焔………いざ貫かん!!」

人と刀。通じるはずがない言葉、通じ合うはずの無い心。
それでも相棒は「応」と頷くように音を鳴らしくれた。


そして、貫く。


──────────高度8000mに与えられた位置エネルギー。《閃光》による超加速により創られた運動エネルギー。
二つの力に彩られた、【白亜】の『点』に集約された一撃は、『空間』に拡散した業火を容易く穿つ。

それだけでは無い。

突進による副産物の空気の壁、それは命を業火の奔流から護る『鎧』となる。
同時に己が纏う大気は、弾丸の如く【白亜】の穿った矮小な一点を押し広げた。

そして、後一点。

命の軌道と完全に相対する軌道を描き、高速で向かい来る焔。故に、神速を以て驀進する彼との『相対速度』は半ば音速に達した。
そして、それは命と焔との接触時間を極限まで圧縮する。


これら全てが命と一体に、そして『力』となり彼を強化する。
“眼”が無い故に、同じステージに立てないが故に、どうしても不足する力。それを彼は『世界』を利用して充足させる。


世界を利用し幾重にも連ねられた『力』。それを《魔術師》たった一人の力が打ち破れる可能性など──────────






◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「些か肝が冷えたが………必定の結果………か
だが、敵方にはそうではなかったみたいだな………?」
相変わらず凜とした態度を崩さずに言い放つ。命にとっては当然以外の何者以外の結果でもなかったが、《魔術師》にはそうではなかったのだろう。
茫然自失と立ちすくんでいる。戦場で犯せる限りの最高の愚行と言えよう。

「好機………ッ!!《世界》に与した罪過………その首を以て贖え!!」

驀進。《閃光》を持続したまま、《魔術師》へ一気に肉薄。
三秒という時間。人にとっては刹那と言うべき時間は、今の彼にとって永久にも等しい。そして、残る距離も約1000メートル程となった時。

132 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:25:20 O
「【ハルモニウム】───ッッ!!」

“108のクロニクル”。現れたのは108の世界の力を得た、人が超えるには余りにも強大な壁────

「あれは………?……【ハルモニウム】………!?
“108のクロニクル”だと………!?………まさか………彼奴“禁呪”を使いおったか!!」

不覚。力を持つ者が追い詰められた時“禁呪”という、絶対的禁忌を犯す事も予測すべきだった。
そう。自分は裏世界の『常識』として、どこかで思い込んでしまっていた。
『例え使えたとしても“禁呪”など使う者がいる筈が無い』と。

早い話、“禁呪”とは核兵器。使用が判明したが最後。終生あらゆる人、機関、組織に敵対し追われ続ける事になる。
そんなリスクを負ってまで使う者がいる筈がない────そう思っていた。
だが、違った。その認識の誤謬は確実に彼を死の淵へ近付ける。

《魔術師》の前方に円盤となり展開する【ハルモニウム】は樹形図を展開しながら刻々と己が身に迫る。同時に、《魔術師》を覆う『球』となっていく。

(クッ………あれでは空間系の攻撃以外では、手が出せぬ………!
某がそれを出来ぬと知ってかは分からぬが、何ともいやらしい戦い方をしおるわ………!)

敵ながら感嘆せざるを得ない。“108のクロニクル”というモノを呼び出す事自体がもはや神技と呼ぶにふさわしい事なのに。
まして、それを巧みに操り攻防一体を為すという事など、どれ程の研鑽を積んだのか想像すらできない。

(いかん………流石にアレと正面からぶつかっては、ただではすまぬ………!
だが仮にアレを避け着地したとしても、某の力だけでは決してアレは破れん………どうする………!?)

己の力だけで【ハルモニウム】を破る事は不可能。いや、正確には一つだけ可能性がある技があるが、それは己に科した“禁忌”。
だからこそ、『選択』しなければならない。

一つ。世界を利用して得た、莫大な運動エネルギーという普段以上の『力』────塵芥にも満たない微かな光明と共に、濃厚な死たゆたう樹形図へ飛び込み、踏破し《魔術師》の防壁へ一撃を見舞う。

二つ。上記の様々な力を放棄し、安全な場所へ着地し無謀を覚悟で《魔術師》と戦う。

三つ。着地した後即座にその場から逃げ、撤退する。

133 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:27:11 O
彼の任務は【アルカナ】の殲滅。つまり《魔術師》一人にこだわる必要は無い。
それに、ここから逃げ出し後に奇襲をかければ今より格段に安全に仕留められるだろう。

だが

(それだけは………有り得ぬ!!)

彼はそれを許容できない。この中では最も理想といえる選択である事を理解しながら。
されど、『逃げる』というたった一言が。
   ココロ
彼の『精神』が、矜持が、その選択を断じて許さない。


(何とも下らぬ焦心であったな………逃げられぬのならば、答えは一つしか無いではないか………)
道が、確定する。
今は、安全な道も、勝利を棄てる道も、逃げる道も自分には必要無い。
必要なのは、僅かでも勝利へ続く可能性。
それを改めて心に銘じた時、焦燥は消え、心は明鏡止水の境地へ至る。

思考する。勝つために何が出来るか。己が力で何が出来るかを。

(あの樹形図………こちらへ向かい来る棘の軌道は予測が付かぬが、逆に言えばそれを越えれば後は『今展開されている場所』を避け続ければ行けるかもしれぬ………
無論あの『棘の枝』の密度では無傷とはいくまいが、上手く行けば死ぬ事は無い………)

現時点での【ハルモニウム】の姿を形容するならば『葉の落ちた大樹』。枝一本一本が絶対的な貫通力と切断力を持ち、相応の密度で待ち受けている。

刃の大樹とでも表現しようか。幻想的に色色を変える其は、己を殺さんとしている事を忘れる程に美しいと思えてしまう。

(そして、いくら《魔術師》とて“108のクロニクル”を無限に召喚する事など不可能に決まっている………恐らく今の量が限界
………ならば、彼奴は何かを犠牲に………そう、攻撃を優先するために【ハルモニウム】の重厚な防壁を削り、この樹形図を更に展開しているはず………)

(ならば仮に某が『大樹』を抜け、《魔術師》の下へ迫れたなら………そして、彼奴の薄弱となった防壁の下へ【白亜】を………世界の莫大な力を得た某の全力を叩きこめたなら……いくら【ハルモニウム】とてッッ!!)

希望が、見えた。
無論、これらは全て仮定。机上の空論。一つでも間違えていれば、一つでも達成できなければ、こんな希望は泡沫と消える。

だが。されど、己の心はこれを『希望』と思った。
“108のクロニクル”という絶対的ともいえる強大な力の前に、はっきりと光明を見据えてしまった──

134 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:31:21 O
諦められる筈が無かった。端から見ればいくら夢のような儚い望みとて、人は『希望』を持ったまま諦められる程、器用な生き物では無いのだから。


「【白亜】………厳しい道だが、某に付いて来てくれるか………?」
最後に確認するのは、己が愛刀。今生を共に過ごして来た、大切な相棒。
後押しが欲しかったのだ。長い時を共に生きた【白亜】が何と答えるかが、分かっているからこその問答。

「『どうせテメェが俺を使うんだから付いていくしかねぇだろ、バカ野郎』か……ははっ!!……お主らしい」

意思が伝わってくる。いつものやりとりに、死に恐怖していた心もこころなしか和らいだ。

行ける、と確信した。今や【ハルモニウム】の枝は、眼前まで迫っている。
さあ、行こう。そして“108の世界”すら越えてみせよう。

「天命流、体ノ式、《御神楽》────」
【ハルモニウム】の棘が、正確に心臓と脳髄を刺し貫かんとする瞬間。


時間が、停滞する。

己の目が見据える世界全てがスローモーションで再生されていく。

それを為したのは、深遠の集中力。長い間研鑽を積んだ、達人のみが至れる極致。
その『極致の世界』にて真骨頂は発揮される。

────舞う。

神楽とは、神に捧げる舞楽。それを再現するように中空で、静穏と舞い始める。
そして、交錯。


鮮血が、吹き出した。
『舞う侍を捉えきれずに、僅かに掠ることしかできなかった右腕から』。

全てがスローモーションで映る世界で、誰も観客のいない舞台で彼は唯一人舞踊を続ける。
精神のトランス、意識のアセンション。極限の集中と共に、死の大樹を突き進む。

肩、目、首、太股、腹、心臓、肺、肘。
あらゆる体躯を、刺し、斬り、穿ち、抉り、断ち、貫き、削ぎ、そして殺さんとする大樹の枝々。
膨大な数を誇るそれは到底回避しきれる物では無い。事実、彼の体には徐々に裂傷が増えている。

だが、決して重傷ではない。致死となる一撃は須く回避し、確実に《魔術師》への道程を進む。

無論敵とて唯それを眺めている程、愚かではない。敵からの妨害が立ち開かる。
上方、広域に拡散する枝々。それらを収斂し、改めて彼の進路へ、退路へ、命自身へ照準を定め展開される。

135 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:35:47 O
だが、囚えられない。幾ら“108のクロニクル”が強大な力を持つとはいえ、それを操るのは《魔術師》の領分。
彼には分からなかった。対峙する敵の複雑怪奇な舞の意味も、それに起因する次なる動きも一切合切が。


大樹の迷宮はついに終わりを告げた。鬱蒼と生い茂る枝々の消失と共に。
残る関門はただ一つ。

「難攻不落にして、絶対不滅の壁【ハルモニウム】か………それでこそ斬り甲斐があるというもの………
観衆は“108の世界”に《魔術師》。………上々。【白亜】よ是非我らが技、披露しようぞ………」

たった一回の好機。後にも先にも、もう【ハルモニウム】を破れる機会は無いだろう。
『大樹』を展開した事で、相当に薄弱となった防壁。高所落下で得た膨大な運動エネルギーという『力』。

だからこそ、この好機を活かすために────自分も全ての力を出し切ろう。

「天命流、第九式、《天地降誕》───!!」

言葉と共に起きた変化は明快。【白亜】を覆っていた純白の鞘が、刀より膨大な“邪気”を与えられ、もう一振りの【白亜】と化した。

二刀。今の自分が至る事が出来る最高状態。
其から振るう剣閃に、どんな性質の技を添えるべきか────やはり『力』がいい。

力押し。数ある戦法の中で、最も愛して止まないそれと共に。
決戦へ

「天命流、第七式────《滅却》ッッ!!」


轟音


────軋む音。その一撃は、現状の厚みに比例した【ハルモニウム】の耐久度を大きく摩滅させる。

《滅却》の特性は、技や速さといったものを全て犠牲にし『威力』のみに全てを注ぎ込むこと。
【ハルモニウム】との衝突は、下手をすればそれだけで人を昏倒させられる程の音勢を放った。

だが、未だに防壁は《魔術師》を守るという役割を果たし続けている。


136 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:37:38 O
超えられなかった。“108のクロニクル”を、【ハルモニウム】を突破することなど、到底できない事だった。



『一撃』では 不可能だった。

だからこそ、次へ託す

「《滅却》────二の閃!!」

右。今この時を待ち望んでいたといわんばかりの一撃が、一刀目の【白亜】へ十字に重なるように振り下ろされる。

【ハルモニウム】さえ軋ませる一撃。そんな一撃を受ければ、魔剣など用意に破壊されるだろう。

だが、壊れない。

【白亜】は『不滅』の象徴。遍く魔剣の中で、最強にして絶対の耐久力を誇るそれは、“108のクロニクル”を揺らがせる力の前にさえ、頑として揺るがない。

二太刀目が十字を象るように衝突する。
一太刀目の【白亜】に威力を余す事無く伝えきる。

罅割れていく。絶対の力を誇っているはずの【ハルモニウム】が。限界を、敗北を認めるように。

「某の勝ちだ………《魔術師》!!」

押し続ける。高々人一人の力を押し退ける力すら最早無いのだろう。
【白亜】は用意に罅を広げ────そして、ついに

バキィィィィッッッッ!!

砕け散る。破片が辺り一体へ飛び散って行く。

「さらばだ………《魔術師》………」

何が起きたのかすら理解できていない表情の敵へ対し刀を振るう。

これ以上の抵抗も、命乞いも許さずに、その一閃は首を切り裂いた。

137 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 00:52:07 0
『な……なんだこれは――僅かだが『世界』を上回るほどの支配……!!』

ヨシノを捻り潰さんとする大剣虎の身体にさらなる変調が起こった。ヨコシマキメから奪い取られる『力』の係数が急激に跳ね上がった。
『世界』ではない。このでたらめな、しかし絞りつくさんまでの強力な吸引力は――!!

(『世界』と対峙する者……『Y』!無力であった筈の奴が何故――そうか、奴もまた『選択されし者』――!)

『オオオオオ……!!』

負けじと大剣虎は咆哮する。もうヨコシマキメの内在邪気には頼れない。孤立無援だ。ならば、今在るものを駆使するまで。
同時、殲滅された夥しい数の剣虎達、その骸が融けるように消えていく。生命の灯が消えた死屍累々で埋め尽くされた空間が途端に広くなり、
それを補うかのような巨大さを大剣虎が取り戻す。剣虎の骸の内在邪気――斃された者のそれは微々たるものだったが、塵も積もれば山となる。
かつて自分だったものを再びその身体にとりもどした大剣虎は元の強靭さでヨシノに止めを刺しにかかる。

『剣虎共が生きていればこの遺跡ごと滅ぼす力が戻ったのだが……まあいい。貴様を縊り殺すには釣りの来る算段だ!』

圧力が来る。壁との間に挟まれたヨシノは指一つ動かせない状況。容赦なく潰しにかかる大剣虎の掌で小さく呻いた。
次の瞬間、目の前を弾幕が通り抜けた。流星群の如く横から迸る銃弾や銀弾や魔導弾が大剣虎の腕を穿ち貫き砕いて抜けていく。

『アガァァァァァッッ――――!!調律、貴様等かァァァァ!!!!!』

腕を破砕された大剣虎が一歩下がる。聖銀の抗魔力によって焼け爛れた右腕を、ヨシノの壁に張り付けたまま切り離し、
復活した超速再生で新たな豪腕を創り出す。失った腕を補って有り余るほどの邪気が今の大剣虎にはあった。

「!!――穿て、『倒錯眼』!!」

思わぬ援護によって拘束が緩くなる。一瞬の隙をつきヨシノは自由になった右手で懐から穴あけパンチを取り出し、能力を発動。
投棄されてなおヨシノを締め付ける元・右腕に巨大な穴を穿ち、脱出する。地面に降り立つと既に何人もの屈強な隊員達が彼を庇うように立ちはだかる。

「助かった――!!だが退いてくれ、これは俺の戦いだ……命懸けのな。このままじゃアンタ達まで死ぬことになるぞ?」

ヨシノの忠告に、隊員達は一様に振り向き、そして――強く笑って見せた。

「なぁ青年、聞いてくれ。俺、この戦いが終わっても――独身のままなんだぜ?」

「俺なんか待っててくれるのが犬と猫とハードディスクだけだ!」

「こんな敵だらけの場所で帰れるか!俺は皆と一緒にいさせてもらうぞ!」

「ほら、俺なんか恋人の写真の入ったお守り(防弾性)を懐に入れてるぜ?」

「とまぁ、こんな感じに全員が生存フラグを立ててる。だから――」

声を揃えて宣言する。

「「「「――俺達は死なない」」」」

『奢るな矮小種族!!邪魔立てするならば共に散れ――!!』

再生した豪腕が隕石の如く降ってくる。何が琴線に触れたのか、完全に憤怒した大剣虎の一撃は速く、重い。
しかしその拳が彼等を砕くことはない。白の線が走り、次の瞬間獣の拳骨はまったく別の場所へと着弾する。

「『ガイドライン』――お前の拳を導いた。見当違いの方向にな」

魔剣を振り抜いたヨシノが言い放つ。その眼には復讐に閉ざされていた頃の昏い曇りが晴れ、強かな意志が灯っていた。
調律機関の隊員達は称賛するように口笛を吹くと、ニヤリを口端を歪めて言った。

「言ったろ?俺達は死なない。青年、――お前が護ってくれるからな」

気丈な笑みに、ヨシノは苦笑で返した。

138 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 06:46:39 0
ここは質問とかしちゃいけないの?

139 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 09:02:32 0
(思考はあくまで冴えていた。
 片膝を付いて出血、隙だらけのこの態勢。
 今にもライトムーバーは《地を這う太陽》を攻略せんとしていようとも、シェイドは至って冷静に、ただコンクリートに落とされた血痕を指でいじりつつ思考していた)


─────少し情報が足りないな。


(白衣から垂れ下がった蜘蛛の糸───すなわち【傀儡眼】のあや吊り糸に意識を集中させる。
 先程通信用に括り付けられた糸を逆利用し、シェイドはクレインへ念を送った)

《…クレイン、私だ。聞こえるか?》

(こうしている間にもライトムーバーは回答を行動に示してきている。村井は大鋏を振り上げて地に下ろし、地殻ごと魔方陣を撃沈した)

《あの鉄クズ乗りについてのデータが欲しい。手数だが貴様の糸をアレまで伸ばしてくれ。》
《────ん?なんだ、もう出来てるじゃないか。…ふむ、気が利くのは良い事だ。臨時助手Bの称号をくれてやろう》

(早速、クレインの身体を経由して邪気をライトムーバーの内部まで送り込む。
 やがて乗り手の顔とその他二人の声が聞こえてきた。声色はとても冷静とは言えぬ雰囲気、憤怒や激情が見て取れた)


……ふむ。


(何かを納得して軽く頷く。
 首を上げたその瞬間、飛びこんできたのは巨大な鉄鋏であった)

140 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 09:04:17 0


………性格データから判別する所の【予想通り】という奴か?「風盗人の魂─シーフ・シルフ・ソウル─」っ!


(小さく呪文を唱えると、足元の血溜まりが妖しく光る。
 光の中心には、血液によって書かれた魔方陣。その効果は“召喚”である。
 シェイドは風盗人と呼ばれた伝説の義賊の魂を一時的に宿らせ、その身を風の如く軽くする。
 繰り出される鋏を紙一重で避け、ライトムーバーの死角へ移動。
 鋏は最大級の質量を持って大学の舗装道路を打ち砕こうとも、白衣の狂科学者の亡骸を作り出すことは無かった)

「恨」の感情は見て取れたからな。
ひざまづいて体力切れを示せば、確実に潰しに来ると思っていたよ…!

(白衣を開く。裏地に見えるのは大量の鋏と───穴の開いた輸血用血液パック。
 大振りになった鋏が持ち返す数瞬を狙い、風の如く跳躍。振るわれた左側の鋏の上へ乗り、一気に根元まで駆け上がる。
 蟹の甲羅の位置まで来た所で一度振りかえり、装甲の隙を狙って小さな鋏を打ち込む。それは決定打にはならないが、決定打への不可欠の一手。
 鋏の付け根と甲羅に数本。打つが早いがシェイドは蟹の甲羅から音無く飛び降り、指で拳銃の形を作って狙いを定めた)

「ライトニング」っ!

(指先から放たれたのは小さな雷球。だがスピードは素早く、瞬く間に純銀の鋏に到達した)

141 :名無しになりきれ:2009/10/09(金) 10:14:33 0
>>138
ttp://yy45.60.kg/test/read.cgi/jaki/1243695782/

142 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 00:08:37 0
『愚者』、『魔術師』、『女教皇』、『女帝』と、
アルカナメンバーの名を口先に並べるたびに、
ライターの火は燃え盛り、揺らぎ、あるいは立ち消えて、
終わりの無い、どこか艶やかな舞踊にさえ見える。

邪気眼の一、焔王眼(えんのうがん)。
火と、それに伴うあらゆる概念を支配する眼である。
男は、名を唱えた人物の生気という火をライターに宿し、
アルカナに所属する者らの安否を確認しているのであった。
即ち、その勢いが強ければ対象は生き生きと活動しており、
揺らぎ、落ち着きがなければ何らかの危機に瀕している。
名を呼んでなお、火が点くことが無ければ――
それは、男にとって大した問題ではない。

ともあれ、もしも『世界』の火が滅し、
組織としてのアルカナが求心力を失ったとなれば。

「『吊られた男』。」

未だ、火は消えない。

すかさず奴を焼き殺すのはどうだ?

嫌いなものは嫌い。
アルカナに入る以前、己を律する事も無く、
心赴くままに全てを焼き尽くした、本来の自己に戻るだけの話である。
タロットごっこなぞ、一時の戯れになりこそすれ、
いつまでも自分自身を縛り付けておく気は毛頭無い。

143 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 00:11:05 0
日が暮れかけてきた。
紅紅とした夕陽が、網膜を食い潰さんばかりの輝きを投げかけている。
この光こそが俺の命の源であると、夕暮れを見るたび、男は確信する。
融解した心が全身に染み渡ってゆく感覚。俺は、心に溺れるのだ。
柄にも無く感慨に耽っていたところ、前触れも無く、背後に気配。
振り返るより早く言葉を繰り出す。

「『杖』か?」

首だけ捻った視線の先に、サングラスを掛けた人物が一人、
手持ち無沙汰に突っ立っている。
素人でないことは、その周囲に沸き立つ殺気で知れた。
もっとも、隠しても漏れる殺気ではない、終始だだ漏れなのである。
ただ練磨が足りない。

「いやあ、つうか。ヨコシマキメに戻らないのはマズいと思うんすけど。」

この粗雑な言葉遣い。しかも、質問に答えようともしない。
掃き溜め部隊、『杖』はこのような連中の寄り合いである。
男は思わず、一撃くれてやるかと怒りを燃やすが、起爆寸前で鎮火する。
火炎の王者が、たかが下衆に手を下すなど、些か威厳が足りぬのではなかろうか。

「ぶっちゃけ、俺的にはどうでもイイっすけどね。
 けど、まあ。術士連中使って、勝手に転移陣起動させたのはアレっすよ。
 バレたらアレじゃないっすか。おしおきっすよ。」

「気分転換だよ。口出しするんじゃねえ。」

144 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 00:21:48 0
確かに、半分ほどは本心である。
曲がりなりにも組織として存在する以上、そこには規律が存在している。
身内での小競り合いなどもってのほかである。
『月』に小言を言われ、『教皇』のバカっぷりに巻き込まれ、
『星』の貧相な体を見せ付けられ、『太陽』のイエローコーデを披露させられ、
『塔』との身長差にコンプレックスを感じ、『力』の図体に一々慄き、
『悪魔』に喧嘩を吹っ掛けられかけ、『正義』の長ったらしい口上を聞かせられ、
そしてなにより、『吊られた男』のあの舐め腐った態度に接するたび、
逆撫でされた神経が、その摩擦で燃え出さんばかりであった。
それでも彼らに火花さえ飛ばせない自分に、ほとほと嫌気が差していた。
たまには息抜きに、アルカナから離れねばやっていられない。

果たしてもう半分は、どこかで、アルカナという組織に行き詰まりを感じていた。
アルカナが至上に君臨する『世界』の、過去ばかりを見つめるその姿勢に、
ヒトとしての退廃を嗅ぎ取っていたのだった。
帆船は、風に逆らって往くことはできない。
男の魂は、風上に向かってオールを漕ぐ『世界』を忌避していた。

男は、アルカナの中で死んでいた自分を復活させ、新たなる発展の道を模索する。
自覚こそ無いが、彼は正しく、タロットの暗示に導かれている。
そのカードは――

「何でも構わないっすけど、俺ら『杖』も居場所無いんすから。
 お願いしますよ、……『審判』様。」

「応。」

爪先は自然と、暮れなずむ陽へと向いていた。

145 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 00:25:15 0
『名前はレイ・クロウ・アークウィル』
『所属・目的はともに無し』
『剣は魔剣ではなく"能力を持った剣"。斬撃を自由化する』

『吊られた男』の尋問によって得られた女剣士の情報である。レイと名乗った女は観念したように抵抗の欠片も見せず自らを明らかにした。
"糸"を通して伝わってくる思念にも虚言の徴は見られない。喋った言葉は全て真実と見て良いだろう。

(まぁ、知ったところでどうこうできる情報じゃあないってことだね?)

「んー、とりあえず大体のことは把握したよ。君は『この下』を狙いに来た賊じゃあないんだね。
 さて、問題は君をどう処遇するかだけど……どう思う、マリー?」

傍についた人形へと意見を求める。マリーはその言葉に暗に含まれた意味を読み取った。
『お気に入り』への参入。白虎をそうしたように、"糸"を解した統制統御で『吊られた男』の配下へ。

「……どうもこうも、私は大反対です。こんな得体の知れない年増女をどう活用するというんですの?
 キャラメルの銀紙並みに無用ですわ。――この銀紙女!」

「生後三年の君からしてみれば10代でも年増だよマリー。まぁなかなかに我が強そうだし僕も遠慮しとこうかな?」

マリーの言い草に苦笑したそのとき、伸ばしていた『糸』から急に思念が流れ込んできた。レイではない。
この、澄ましたようで不敵な、不敵のようで狂気な、澱みに溢れる毒虫のような意識は――

《…クレイン、私だ。聞こえるか?》

ライドムーバーと交戦中であるはずのアリス=シェイドだ。主砲攻略の際に繋げておいた『糸』を伝って言葉が流れてくる。

《あの鉄クズ乗りについてのデータが欲しい。手数だが貴様の糸をアレまで伸ばしてくれ》

《おやおや、柄にもなく苦戦してるようだね白衣君。僕らとしては共倒れてくれるのが一番なんだけれど――》

《────ん?なんだ、もう出来てるじゃないか。…ふむ、気が利くのは良い事だ。臨時助手Bの称号をくれてやろう》

《勝手に人を中継して情報掻っ攫わないで欲しいね。助手B?――せいぜい下克上には気をつけるがいいよ?》

「――……『吊られた男』様?」

思念のやりとりに気を取られていたのを見抜いてか、マリーがこちらを覗きこんでいた。
『吊られた男』が思索にうつつを抜かしていられるのも彼女がレイを監視していてくれるからであるが、故に彼女にはシェイドの思念を通していない。

(隠れて白衣君と連絡とってたなんて知ったら怒るだろうしなぁ――)
「ん、少し考えに嵌りすぎたようだよマリー。知的生物のサガだね?」

「しっかりして下さい……『魔術師』様の邪気が潰えましたわ。恐らく上空からの賊に――」

「『魔術師』君が?彼はアルカナの中じゃ唯一『108のクロニクル』を召喚できる『鋼棘』の最上術式士だろう?」

寝耳に水の気分で邪気知覚を拡げる。大学広場の端で降って来た賊を迎撃していたはずの『魔術師』の邪気が消えている。
代わりにそこへ立つ邪気は紛れもなく上空からの侵入者。膨大な力を一個へと圧縮したような気配。

「――火急だね、行こう。希望は限りなく薄いけど、『魔術師』君を助けないわけにはいかない。……最悪、骨は拾ってあげないとね?」

「この女の処遇は如何致します――身体支配を離れて尚持続させる余裕はお有りですか?」

言われて『吊られた男』は二秒考え、

「剣士君、君をこれ以上拘束することが困難になった。今から身体支配を解くけど、『糸』自体は繋げたままだからゆめゆめ忘れることのないよう。
 ――そうだ、君も一緒に来るかい?戦力としてだけ見るなら君はなかなかに魅力的だ。返事は向かいながら聞こう」

そうまくし立ててレイの身体を拘束する支配術式を解除する。即座に踵を返し、『魔術師』を斃した侵入者の方へ向かう転移陣を喚起した。

146 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 10:27:33 0
不意に拘束が解け、レイはつんのめってしまった

「――そうだ、君も一緒に来るかい?戦力としてだけ見るなら君はなかなかに魅力的だ。返事は向かいながら聞こう」

(……)
吊られた男が踵を返すのを見ると、レイは黒爪を鞘に収める。

「何を企んでいる…」
ポツリと呟く、吊られた男には届いていないだろう
つい先刻まで戦っていた相手を仲間に引き入れるという予想外の行為にレイは戸惑っていた。

と、黒爪がちゃり…と揺れる
「ついていけ…?何言ってるんだ、さっきまで敵だった奴だぞ?」
黒爪はブルブルと震える
「遊び足らない…か まったくわがままな奴だ それ相応の措置はあるんだろうな?」


レイはふ、とため息をつく
「戦いに身を投じてこそお前の存在意義、とは父もよく言ったものだ」
「確かにお前は刀だからな、戦うことが存在する意味だろう」

レイは吊られた男の後を追う
 コイツ
「黒爪が遊び足らないと嘆いていてね、戦力、と言うからにはこの先には戦いがあるんだろう?
 敵の言いなりになるのは嫌いだが、黒爪の頼みとあっちゃあ断れないのでね 一緒に行かせてもらうよ
 でもこれ以上言いなりになる気は無い、どんな戦場に行くかは知らないが、私なりの戦い方でやらせてもらう」


「あと、その戦いが終わったら君とはまた敵同士になるだろうから、そのつもりでいてくれ」


147 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 22:22:10 0



その土地の風は、砂の味がした



「転移済みか」

跪き、乾ききった大地に掌を滑らせる。突き刺すような、邪気の残滓が感じられた
転移からそれ程日は経っていないと見える

「へえ、旦那。けど、ここにあったことは間違えねえんです!
 わしらはあの小屋を目印にしてたんだ!」

後から追いついてきた案内人の老人が、膝をわななかせつつ指差した先には
壁の黒ずんだバラックが一軒、静かに佇んでいた
他には何も無い。時折、熱砂が飛ばされて散る

「代金は……前払いだったが」

男は老人に向き直り、銀髪を掻き揚げ、紺のマントを翻すと
鈍く黒光りする片刃の巨刀を取り出す。人を馬鹿にした様な大きさだ
持ち主である男も充分な長身を誇っているが
彼と比べてみても成人男性の頭二つほどは飛びぬけている

老人は全身を痙攣させ、首を絞められた鶏のような悲鳴を挙げて
逃げるでもなく、もんどりうって地面を転げまわった
命乞いの言葉すら、扁桃腺に絡まり体を成さない

が、その切先は老人から逸らされ、地に突き立てられた。

「冗談だ。そう簡単に人を殺しては、名に係わる」

安心してか、生温い溜息を零した老人を尻目に
男は巨刀を廻らせて、己を中心とした大きな円を地面に描いた
次いでその内部に、一見して意味を成さない、不可解な文様を刻んでゆく

「あの、何を……」

「遺跡を追跡する」

男が印しているのは、現在はほとんど使われることの無い
遥か古代に消えた、特殊な魔法陣である
以前に転移術法が施された土地の上に発動させる事で
残留している空間の歪みを抽出、開門する事により
前回に行われた術式と全く同じ転送先に飛ぶことが可能となる
ロストテクノロジー
だが、男の手は淀みなく、更なる文様を幾重にも連ねていった

148 :名無しになりきれ:2009/10/11(日) 22:23:39 0
「旦那、ちょいと……」

男は応える代わりに、老人を一瞥すると、刀を仕舞い、陣の完成を示した

「そりゃ、ヨコシマキメは冒険者の憧れですが。なぜそこまで固執するんでさあ」

「違う」

「はいぃ?」

「たかが依頼だ」

『たかが依頼』でヨコシマキメに挑む愚か者を、老人は知らない
その余りの軽さに、喉元が震えて、勝手に笑いが零れた
しかしその一方で、期待感のようなものも覚えていた
遺跡に挑む立ち向かう者らは、誰も彼もどこか気負いすぎている感があった
だが目の前の若者は全くの自然体で、不安を微塵も与えてくれない

「それとな、俺は別に冒険者じゃない」

男が陣に足を踏み入れると当時に、足元から青白い光が発せられる
発動したのだ

「自由騎士だ」

銀髪、黒の巨刀、自由騎士、三つの言葉が老人の脳裏に絡み合って
あるひとつの答えを導き出した

「じゃ、あんた……!おい!」

閃光

149 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 10:05:52 0
拳銃のように炎塊を撃ち放った後、アスラは刀を一度戻す。

(自己洗脳による思い込みにおいて)ヨシノが宝物庫の真の邪気眼を破壊しない限り【世界】に「死」は来ない。
そう分かってはいたが、態勢と気分の立てなおしを兼ねて一度刀を戻す必要があった。

火炎弾の発着と共に叩きこまれるステラの《歪》。ともすれば吹き飛んでしまいそうな衝撃波に身構えて堪える。
本来なら肉片一つ残らないオーバーキル。だが、殺しすぎても死なないから【世界】なのである。


やっぱり【世界】が立ち上がる。


「あーもー、こんだけ殺しがいのない敵も初めてよ」

手元でハンドガンを弄りつつもぼやく。

本来はもう少し緊張感を持ってもいい戦いなのだが、彼女にとってあくまで「余裕の風体」であることが【世界】に調子付かせない為の基本方針であった。
…それがどれだけの効果をもたらすかは、分からないが。

(…にしても)

彼女は思う。

(ステラのアレ、随分効いてたなあ…。あれは光属…いや、ちょっと違う……なんにせよ、私も撃ったり燃やしたりしてるだけじゃ駄目っぽいな)

元々彼女の戦闘スタイルは「撃って殺す」という至極単純なもの。
射撃センスのある持ち手と殺傷能力のある拳銃というある意味一撃必殺な武器を用いていたため
本人は特に属性を意識したこともなかったが、【世界】戦ともなれば流石に少し意識しなおす必要もあったようだった。

(属性系なら…魔法弾とか?あんまし好きじゃないんだけど……)

言いつつも手近な石柱に身を隠し、装備を今一度確認する。使えそうなモノはリボルバーに手榴弾、アサルトライフル、マシンガン、多量の弾薬等々。
手持ちの二丁拳銃には全て聖銀弾が入っている。が、相手が不死ということもあって今の所特に効果は発揮していない。

(考えなきゃね…不死の【世界】を「できるだけ長く殺せる方法」…。
さっきのステラ見てたら今の段階で「不死を破る方法」も無い事も無いみたいだけど、ぶっちゃけ専門外だし、そっちはあっちに任せますか)

150 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 10:06:48 0
魔剣と銃を携えて、石柱の影から出る。
…邪気眼使いと言うのは、どうにも「語り」が好きらしい。割と時間掛けたつもりだが、世界は今だ両手をこちらに向け演説を打っていた。


「さて、『Y』よ……我は貴様をゆっくりと絶望でへし折るつもりだったのだが、
 どうもそう言っている余裕は無いらしい。先の事で確信できた。貴様は我の想像を上回る程の存在だ。
 そして、『太陽』と……アスラといったか? そこの愚民共も、中々に厄介な存在らしい。故に――」

「早急に希望を枯らすとしよう」


“創世”そう呟いた瞬間、大広間の天井を覆い尽くさんばかりの魔剣・魔銃その他の品々が出現した。

「な────!?」

“終世”そう呟いた瞬間、それら全てが二人の女めがけて放たれた。


「それ反則でしょ──────っ!」

修道女の絶叫は、遺跡に吸いこまれた。

151 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 10:07:34 0
考える前に身体が動いていた。

まず、目の前から降ってくる明らかに致死っぽい剣を打ち落とす。
弾の種類は聖銀弾。同じ属性の聖剣相手ならばただの銃弾になってしまったのだろうが、そこは【世界】の邪気眼による創造物であるというのが幸いした。
放たれた銃弾は【世界】が聖剣に掛けた邪気のみを打ち払い、結果「あるはずのない」ものである聖剣は、その存在意義を失う。剣は再び塵と帰った。

二丁拳銃をフルに活用し、降り注ぐ銃弾の雨を潜り剣・杖・刀・剣玉などを確実に撃ち抜いて行く。
だがそれでも所詮人の技。全てを振りきることはできず、結果半数ほどが振りかかることになる。

“終世”開始一秒で、アスラは相当数の魔剣を打ち落とし、相当数の剣撃を食らった。


「それ」は「そうなるのではないかな」と言う不安と同時にやって来た。
まるで、「思った」せいで「そうなった」かのように。


弾切れである。


どんな銃でも弾は切れる。加えて彼女はバンダナなど巻いてはいない。
刹那、アスラの脳裏を死の予感と共に多量のアイデアが駆け巡った。

───物陰に隠れる?
それごと壊される。

───別の銃を使う?
2秒と持たない。

───防御壁を張る?
相手は多量の魔剣。まだ物理的な壁のがもつ。

───ステラに頼る?
頼ってる間に死ぬ。

───逃げる?
どこへ。


思考の間も時は流れる。
一秒間で動ける間合いは、一秒後に襲い来る剣や弾で全て埋められてしまった。

152 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 10:08:24 0
手元は空の弾倉と使えない二丁拳銃。
一瞬だけ、「死」以外の何者も考えられなくなったその刹那─────。



世界の全てが静止した。



正確に言えば「全て」ではない。
アスラの視界を覆い尽くしていた剣・銃・杖・弾等が全て、彼女の脳天を貫くその直前に、静止していたのである。

「………これは…?」

飛来する「銃弾」と襲い来る「魔力」
それら二つの力をまとめて跳ね返す「対物対魔」……。


 ファイアーウォール
 反発障壁の、出現である。



「……攻撃が反則なら、防御も反則ね……これだから異能者は嫌いなのよ」

言いつつ、切れていた弾倉を入れ替える。
反発障壁で当面の危機は去ったが、それでも剣の数は1080本。数本は障壁をうまく避けて飛来したが、彼女は届く前に全て打ち落とした。

「2人ともッ!! ……あの攻撃は、おれが何とかしてみるッ!! 」
「ただ、防ぎ漏らしがあったらごめんッ!! やれるだけやってみるからッ!! 」

白き少年は咆哮し、反発障壁を巨大な槍に変えて【世界】に向けて放つ。
ロンギヌスやグングニルも霞むような神々しさすら持って放たれるその槍は、1080本のヒトの過去を打ち破り【世界】へ到達する。
さながらそれは「希望」であった。

もう思考は必要無い。
アスラは魔剣を構え、その場に立って瞳を閉じた。

153 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 10:09:14 0


「出でませ、炎禍の修羅……剣に宿りて現に現れ、そして我が悲願を叶えたまえ…!」


天高く掲げた切っ先からは、とめどなく炎が溢れ出る。
やがてそれは巨大なヒトらしき形を為し、2足で立ち、遺跡の中に出現した。

アスラは突如現れた炎人に驚く素振りも見せず、上がりつつある部屋の温度に対してむしろ涼しい顔で【世界】を指差して言う。


「目標はそれ。作戦終了はそれの絶対的な死。手段は問わない、立ち塞がるものは全て───焼き尽くせ!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!」


全てを焼き尽くす絶対的な炎に、十億万土に響き渡るデスフレイムの雄叫び。
常にごうごうと燃え盛るその巨大な拳が、【世界】を捉えて振るわれた。

154 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 10:15:12 0
もう少し改行自重してくだちい

155 :名無しになりきれ:2009/10/12(月) 12:17:05 O
改行は邪気眼の醍醐味だろ!

156 :名無しになりきれ:2009/10/13(火) 20:03:29 O
深紅のローブが、尚朱い血によって二度染めをされている。
そんなけばけばしい彩を醸し出すのは、【アルカナ】が二十二柱《魔術師》の首と胴体が断絶された死体だった。

(……いきなり“大アルカナ”と交戦する事になろうとは……
僅差の勝負だった。何かが違っていれば、死んでいたのは某だったかもしれぬ……)

【白亜】を見遣る。魔術師の首を斬ったにも関わらず、未だにその純白には一片のくすみすら存在しない。

【白亜】は元々魔剣では無く、ある高名な刀鍛冶が観賞用として創った刀である。
その純白は、数多の人々を深く魅力した。だが【白亜】を欲し盗もうとした人間が刀鍛冶と争いになり、【白亜】で刀鍛冶を斬り殺してしまった。

血に染まった【白亜】。汚れてしまった純白の刃を、死にかけの刀鍛冶が、盗もうとした人が、純白に魅せられた幾多の人々が『呪った』。

莫大な負の想念の積み重ねが、本来存在し得ない『不滅・不変』の性質を与え、【白亜】をいわゆる“魔剣”とへ昇華させた。
故に、この妖刀は白以外に染まる事は無く、破壊される事も無い。

《天地降誕》により、【白亜】に変質していた鞘が元に戻る。

二刀流を可能にする“九式”は戦闘能力を大きく底上げするが、持続時間が短い上、そう何度も使えない切り札。
出来れば、これはまだ伏せていたかったが【ハルモニウム】を敵に回し生き残れたのだ。贅沢は言うまい。

鞘へ納刀。白い包帯を巻いたそれは、刃から大瀑布の如く溢れていた、膨大な邪気を嘘のようにかき消した。

「さて……間違いなく今の一戦で、某の存在が露呈したの……早急に移動し身を隠さ……ッ!?」

激痛。発生源は刀を握っていた左右の腕全体。
(痛ッ……!……クッ……腕が全く動かん!……ただの骨折では……済んでおらぬな……)

今まで発生していた、脳内麻薬の鎮痛作用が切れたのだろう。
あの無茶の代価が、裏世界的レートではこの激痛らしい。相場など知る由も無いが。

(クソッ……いつもなら、救護班[アンビュランス]の“治癒術式”があるが、今はおらぬしな……某が回復術式を使えれば、一番楽なのだが……)

それは幻の選択肢。というのも、己の才は全て剣術や武術につぎこまれたらしく、徹底的なまでに『術』への才知が無い。
【白亜】の邪気をそのまま流用して、2つ3つそれらしき物を使えるだけだ。

157 :名無しになりきれ:2009/10/13(火) 20:05:11 O
どうするかと思い悩んでいた時、ふと懐に布の感触を感じた。
「巾着……?そうだ、そういえばこんな物も用意しておいたのう……」

技術班に依頼して、特別に作らせた物だ。“空間術式”を利用し、某青タヌキロボのアレ程では無いが、見た目を遥に陵駕する許容量を誇っている。

「そう言えば……」
出発前に、用心のために機関の“市場”で様々な物を買い足した筈だ。
時間が無く半ば夢現で行ったので、子細は覚えて無いが、確か大枚をはたいて高価な治療薬を買った記憶がある。

「確か……アレは印籠に入れておいた気が……」

水戸黄門でお馴染みのアレは、江戸時代には薬入れとして使われていた。自分なら間違いなくそれを踏襲している筈だ。
草履を脱ぎ、足袋を履いた足で器用に巾着を開け、中を探る。
コツン、と固い感触。引き上げたトランプケース大のそれは、まさにお目当てのそれ。
そのまま蓋を開けた。

「……な……何なのだこれは……」
中身はビー玉程の丸薬。ただし、色が尋常では無い程に漆黒に染まっており、恐ろしく禍々しい気配がする。
気のせいか仄かに“邪気”まで噴出している気がする。

中にあった付属の説明書によれば【邪気丸】という薬らしい。
曰く、一粒飲めばどんな傷でも治癒される事。服用間隔は6時間以上空ける事。それ以内に決して二粒以上を同時服用しない事。らしいが
「こんな物、一粒たりとて服用したくは無いがのう……!!」

分かってはいる。両腕を欠損した状態で【アルカナ】と戦うなど、不可能だと。この怪我が治るなら、何でもするべきだとは理解してるのだ。
だからこそ

「……………………………………………………………………はむっ」
長い長い迷乱の末、印籠を傾け直に一粒を口に含んだ。

「………!?●※★§∵¶†♪£!・!!!」

【精神衛生上、非常に悪影響を及ぼす光景が展開されています。お手数ですが、もう少しお待ちください。】


      かゆ       うま        


「…………はっ!?」
一瞬意識を失っていたらしい。慌てて飛び起きたが、特に誰かの気配は感じられない。
「両腕は……治っておるな……」

当然だ。あれほどの苦痛の代価としては安すぎる程と言っていい。
今、自分に起きたこと。それは、満場一致で記憶の奥底に永遠に封じる事に決定した。

158 :名無しになりきれ:2009/10/13(火) 20:13:07 O
改めて、ここから離れようとして

気付いた

「大分時間を取られたからのう……逃げ損なったか……」

感じる、辺りの“空気”が鳴動している。術式や邪気は、無能力者故に直接は感じ取れないが、それによる『気配』の察知には一角の自負がある。

何か、来る

(空気の鳴動はこことグラウンド……両方の気配が類似しておるな。
“始点”はグラウンド、“終点”はここ。つまり二ヶ所に展開しなければならないモノ……転移系か)

全て推察だが、恐らく外れてはいまい。これだけの要素から、別の解を導く方が難儀だ。

(問題は“何が”来るかだが……この規模の気配なら、大軍という事はあるまい。
大凡2〜3人、多くとも5人という所か)

類推を重ねる間にも、気配は濃密になっていく。恐らく此方に接近しつつあるのだろう。
(隠れて様子見が上々だの。仮に【アルカナ】の一員としたら《魔術師》の死体を見て動揺するかもしれぬ)

ならば、行動は早急に。もう余裕は無い。
手近な木の枝の上に跳躍。そして

「天命流、静ノ式《音無》────」
気配を辺りと同化させる。『消す』のではなく『同化』。辺りの広大な森に自然に溶け込んだそれを見つけるのは、容易な事ではない。

気配が極大まで濃密になる。それは“何か”の転移完了を示す。

(三人……か。男一人に少女二人。あの男は先ほど上から見た、某が《吊られた男》と推察した者か。
西洋服を召している少女は……《吊られた男》と共闘しておったな。【アルカナ】の一員だろうの。
“魔剣”の少女は……先程は見掛けなかったの。正確には分からぬが【小アルカナ・剣】という線が妥当か?)

【アルカナ】に関しては、決して情報が潤沢では無い。何せ、《世界》一人により突然創立されたのだ。
スパイを送る暇も、調べる時間も無かった。
それでもある程度の内情が判明しているのは【カノッサ機関】の情報網の広大さならではだろう。

(三対一……余り良い状況では無いが、こちらには奇襲というアドバンテージがある……
ならば【大アルカナ】の確率が高い男を人質にとり、優位に立つのが定石か……)
決まった。ならば後は行動のみ。

重力に任せ、『自然』に落下する。極限まで静かに接近し───

「天命流、第一式《刹那》───!」

抜刀。邪気の噴出と同時、男を神速の峰打の一閃が襲う

159 :名無しになりきれ:2009/10/14(水) 03:29:28 0
白の長剣を携えた青年が仰ぐ。

「始めようか!――泣こうが笑おうがこれが最後にして最期、生と死との分水嶺!ヨコシマキメよ!大剣虎よ!……辞世の用意は充分か?」

白の毛皮に身を固めた巨獣が睥睨する。

『終わらせようか。――呻こうが喚こうがここが世界の最終局。貴様の苦痛と我等が愉悦の立体交差。衆愚共よ……絶望は足りているか?』

両者の歩幅に差はあれど、気勢は等しく意気軒高。まったく同時のタイミングで、ヨシノと大剣虎は地を蹴った。
踏み出しながら大剣虎が掌に小規模の、しかし膨大な邪気を圧縮した霊珠を生成する。その数は無数。投擲は高速。
さながら散弾銃の如くヨシノへと飛来する霊珠達は、しかし中空で爆発し一つたりとも彼を殺ぐに至らない。

「青年の言った通りだ。その程度の大きさなら俺達の射撃でも撃墜できるみたいだな――!!」

調律機関の実働隊員達が構えた銃砲から魔力の硝煙が立ち昇る。百戦錬磨の遊撃手達はその針を通すような射撃技術で、
霊珠を一つ残らず銀弾の餌食にしていた。即座に打ち落とされるのでは、もう飛び道具は使えない。

『術式は無力か……よかろう、ならば徒手空拳を用いるのみ――!!』

大剣虎の判断は早かった。数刻前にヨシノの腹を貫いたように、四肢の邪気を充溢させ爪をより鋭利に、より強固に。

《魔剣【ガイドライン】の発動条件……それは『剣を振り誘導線を描くこと』。それは先程壁に縫い付けた時に証明済み……ならば!》

ヨシノは現在大剣虎の足元へ向かって疾走している。魔剣を使えば一瞬で移動できるのに直前までそれを使わないということは、
魔剣の能力とその特性――先程述べた『攻略法』までよく理解しているのだろう。剣術を持たないヨシノにとって、剣を振るという動作は隙の宝庫だ。
振りかぶり、振り下ろし、再び構えるまでに秒単位の時間がかかってしまう。そして大剣虎にとって、秒という単位は一つあれば相手を千回葬って釣りが来る。

「――今だ!」

大剣虎の足元に辿り着いたヨシノが叫ぶと同時、調律機関の砲口が火を吹いた。霊珠を撃ち落とした射撃砲撃の嵐が大剣虎の上半身へ迫る。
無視できない量だ。聖銀弾や魔力弾は内在邪気を灼くし、実弾もまた物理的に大剣虎の身体を破壊する。

『弾幕を目隠しにして隙を潰す気かヨシノ=タカユキ――!!』

その通りになった。大剣虎自身の肉が焼ける煙で視界が曇る中、煙幕を突き抜けてヨシノが『導かれて』跳んできた。
高さは大剣虎の顔と同じ位置。既に魔剣を振りかぶった状態だ。なるほど、これなら接近からノータイムで大上段の一撃を放てる。

『だが――そう動くことは予想済みよォォォーーーーッ!!』
「――!!」

左手に握りこんだ瓦礫の破片を指で弾く。巨掌から繰り出される指弾は超高速でヨシノへと跳んでいく。空中にあっては回避不能。
ヨシノは振りかぶったガイドラインを打ち下ろし、瓦礫弾を下方へ『導く』。一瞬で瓦礫は掻き消え、遥か地上で破砕音が聞こえた。

『もらった――!!』

これでヨシノは振りかぶりのアドバンテージを失い、再び構え直すまで完全なる無防備。空中においてただの的に他ならない。
大剣虎は既に拳を作っていた。脇を締め、腕を引き、上半身を捻るようにして膂力にタメをつくる。構えは正拳突き。基本にして奥義の拳。
技術すら糧とするヨコシマキメだからこその奥義だ。獣の体躯にして達人と寸分も違わない流麗なフォームは、奇しくも『悪魔』と瓜二つだった。

『ヨシノ=タカユキよ、貴様は人間にしてはよく喰らいついたが――人間じゃあ牙が足りない。慈悲だ、最期は人間の拳で掻き消えろ……!』

体躯の全てを連動させて、一つの動きを作る。踏みしめる足から膝へ、バネにする膝から腰へ、捻りこむ腰から肩へ、腕へ、拳へ。
『腹』に蓄えられた技術の一つ、徒手空拳の最初にして最終の拳闘術が獣の身体に再現される。

前へ向かう足腰の力は、強く踏み込む『震脚』を経て打撃エネルギーへと変換される。獣は大地を揺るがさんばかりに踏み込み、
拳はミサイルの如き破壊力を生み出しながらヨシノへと叩き込まれた。

――誰もが、そう思った。当事者の大剣虎はもちろん、ヨシノを援護していた調律機関の面々ですら、クリーンヒットが彼に打ち込まれたことを疑わなかった。

ただ一人、ヨシノを除いて。

160 :名無しになりきれ:2009/10/14(水) 03:32:12 0
最初に異変に気が付いたのは、拳を放った大剣虎だった。ヨシノが粉砕する様を眼に焼き付けているはずが、視界には石色の天井ばかりが移る。
それどころか。妙な浮遊感。景色がゆっくりと動き、身体に重力を感じない。ふわふわとした感覚に包まれながら、大剣虎は自らの状況を俯瞰する。

『なん……だと……?一体何が起こった――』

なんと、自分は仰向けに転倒していく真っ最中だったのだ。景色がスローモーションなのは、戦闘時において五感が活性化しているからであり、
ヨコシマキメとリンクしている自分だからこそ、現在の状況をなんとか把握できている次第だ。

早い話が、大剣虎は拳を外して盛大にずっこけていたのだ。やがて奇妙な浮遊感も終わりを告げ、石畳に頭部を強かにぶつけて痛みを得る。
巨体が転倒したせいで、遺跡全体に響くほどの振動と轟音が鳴り響いた。

上を見る。ヨシノがいた。大剣虎の丘のような胸板の上、魔剣を大上段に掲げている。振り払おうにも手足が縫い付けられたように動かない。
気付けば大剣虎の四肢は巨大なホッチキスの針で拘束されていた。これは魔剣でなくヨシノ自身の能力によるものだろう。

「『ガイドライン』――お前の『踏み込み脚』を導いた。まるでバナナですべったようだな大剣虎よ。無様だぞ?」

『馬鹿な!私の足には触れていなかったはずだぞ――!』

「ガイドラインの誘導線は設置型にもできるんだ。先立って描いておいた。……さっき弾幕でお前の視界を遮ったときにな」

《そうか、あのとき――》
合点が行った。あの目くらましは隙の削減だけでなく、罠のように誘導線を仕掛けるため――

『何故解った――私があの位置に踏み込むと』

「ヨコシマキメは過去の情報も溜め込むんだろう?なら話は簡単だ。肉弾戦を選んだ時点で拳闘じゃ当代最強の『悪魔』を真似ないわけがない。
 そして生憎俺の眼は一度奴の全力を『見据えてる』んでね。お前のトレースが完璧であればあるほど動きが読めてくる」

全てに得心がいって、大剣虎は血の気が引いた。拳闘に頼らざるを得なくなったのはヨシノの指示による撃墜で、
そこから先は全てヨシノの読み通りに事が運んでいく。まるで未来を随意に修正していくように。それを支えるのは、恐ろしいまでの洞察力だった。

「さて、悪い癖だ……少し喋り過ぎたな。そろそろ終わりにしよう」

『ハ、私をどう滅ぼすというのだ……?どれだけ刻まれようとも再生し貴様を必ず縊り殺してやるぞ……!』

嘲笑混じりの質問に応えずヨシノは魔剣を振りかぶる。同時に右目が極彩色に輝き始めた。

「お前らは『かつて』を糧にしてその膨大な力を手にしたんだろ?ならば俺はそれに抗うため『これから』を選択しよう――見据えろ、『倒錯眼』」

右目の視界に何かが映る。『そこに在り、且つ在りえないもの』。おぼろげな、抽象的で概念的な"それ"を、ヨシノの眼は見据える。
無限に枝分かれする"それ"は、あくまで形而上の事象であり敢えて名称で括るとするならば"未来"や"可能性"とでも言うべきか。
いくつも分岐しているその中のひとつに『ガイドライン』の刃を通し、誘導線を描きながら大剣虎の胸へゆっくりと突き立てた。

悠久にも思える作業が終わると、辺りに静謐が満ちる。何かを施された大剣虎でさえ、自分が何をされたのか理解できない。
解ってるのは、唯一つ。

『何をするかと思えばこの程度か……?この程度かヨシノ=タカユキ!微塵の苦痛も破壊もなく!ただ剣を突き立てただけで何を導くというのだ!?』

嘲笑。哄笑。艶笑。冷笑。失笑。薄笑。ありとあらゆる笑いが喚起される。
大剣虎は安堵した。それと同時に失望した。少しの間とはいえ、自分を上回った人間に出会えたというのに。
失望はやがて怒りへと変わり、笑いは別の気力を生み、大剣虎は大いに吼えた。

『失望したぞ人間!貴様の刃はその程度か?もう良い。興味が失せた。今すぐ我が糧となれ』

力任せに起き上がれば、自分を縛めるこの針も抜けるだろう。そうなれば、あとは胸の上の弱小な存在を歯牙にかけるのみ。
その通りにした。ブチブチと何かが抜ける音が聞こえ、身体が自由になる。

そうしてヨシノを掴もうと腕を動かした瞬間、自分の腕が消滅していることに、大剣虎はたっぷり十秒経つまでとうとう気付かなかった。

161 :名無しになりきれ:2009/10/14(水) 03:35:05 0
腕が、無い。幾度と無く味わった感触だが、今回はまるで異色の感覚だ。
無くなったことに、見るまで気付けなかった。ふと身体を見渡せば、四肢の末端から身体が風化していってるのが理解できた。
何の感覚もなく。ただ静かに滅んでいくように。

『何を、した……?』

「――『ガイドライン』。お前に『滅び』を導いた。お前は不死だが不滅じゃあない」

『馬鹿な――そんな概念でしか存在し得ないものをどうやって導くというのだ!』

「吼えるなよ獣。身体の崩れが早まるぞ?」

『答えろ……!』

「俺の邪気眼は『倒錯眼』。これは道具の効果を別のモノにも発揮できるようにするだけの能力だったんだが、どうやら戦いの中で成長したらしい。
 『概念』――そこに在らざる事象の片鱗にまで『眼球』の効果を発揮――つまりは『見える』ようになっちまったってわけだ。
 そして俺はお前の未来に『滅び』を見据えた。無数に分岐した可変事項の一つだ。俺はそれを選択し、お前に導くことでお前を滅ぼせる」

語っていくうちに大剣虎の身体は首から上を残して殆どが消滅していた。焦燥とは裏腹に、何故か心を満たしていくものがある。
身体が望んだか心が望んだか、最早滅びを受け入れてしまっている自分がいる。大剣虎は観念したのか、どこか恍惚とした表情を浮かべながら言った。

『成る程――貴様は"世界の選択"を更に"選択"できる者か……最早この世の理から逸脱しているぞ』

「お前がそうさせたのさ。なんてったって俺は一回死んだ身だからな。――今だって片足は棺桶の中だ」

『フ……ならば貴様と、それを生み出した私を呪おう。一足先に冥府で待っているぞ半死の征夷者よ――』

「じゃあな化け猫。俺が逝くまであの世の地ならしでもしていろ」

存在感の塊だったヨコシマキメの申し子が、山のように強大だった白の獣が、地獄のように凶悪だった外道の輩が、
最期に微笑みながら、ぼろ切れのように萎縮して塵となった。風が吹いてもいないのに、白い砂塵はどこかへ流れて掻き消えた。


ヨシノは満身創痍の体躯を引き摺りながら行く。駆けつけてきた調律機関の連中に肩を借りながら、最初に大剣虎が発生した
穴へと向かう。人一人がやっと通れる大きさに穴を一人で潜り、先程とは比べものにならない巨大な空間を見つけた。

「ここがヨコシマキメの『腹』、か――冗談みたいなデカさだな」

ヨシノは『倒錯眼』を発動させ、『腹』に満ちる概念を見据えると、最下層に繋がる紐状の概念を発見した。
ステラの言っていた情報を統合するに、アルカナの主格や大剣虎はこの膨大なエネルギー貯蔵庫から力を無尽蔵に得ているのだろう。

(死ぬなよ姉さん、ステラ――俺にできるのはここまでだ)

ガイドラインを抜き放ち、二本ある紐状の接続概念のうち邪気に満ちた紅い方を断ち切ると、身を捩るように鳴動していたヨコシマキメが静かになった。
強制的な力の吸引を半分削がれて負荷が軽減されたことを喜ぶように。
何故かは解らないが、邪気を感じない白の概念は斬らなかった。それはヨシノの『眼』が無意識のうちに最善の未来を選択したからかも知れない。

全てが終わって、穴から這い出た途端にヨシノは糸が切れたように停止した。彼を今まで動かしてきた原動力の全てが解決され、
最早ここで生にしがみつく意味を失った。だから、もう、これでいいのだ。やらなければならないことは全てやりきった。

「終わったよ――今逝くぞ、みんな」

呟きは虚空に消え、ヨシノは小さく微笑むと、そのまま仰向けに倒れ伏した。
調律機関の隊員達がそれを抱き止め何事かと叫んでいるが最早聴こえないし聞く気も起きない。

(これでいいんだ。いいのか?――いいともさ)

――嗚呼。

闇が落ちてくる。最後に視界に映った空は、冷たい石の色をしていた。

162 :名無しになりきれ:2009/10/15(木) 08:56:41 0
風が捲き、空間が澱をつくる。円状に『何も無い』空間が隆起し、そこへ燐光の魔法陣が発生した。
アルカナ汎用型の転移術式陣である。光の中から萌え出るように現われたのは、男と女と少女の三人。
『吊られた男』は潰えた『魔術師』の邪気を辿り、最後に確認できた座標を逆算してここに来た。

「『魔術師』君……!」

いちはやく転移術式から出てきた『吊られた男』は、そこに展開された惨状に苦々しく呟く。
辺りは血の海。迸ってそう時間が経っていないであろう鮮血の中心には、首を撥ねられた同僚に遺体が打ち捨てられていた。
驚愕の表情のまま時を止めるのそ顔は、大アルカナにして髄一の術式師、"鋼棘"の『魔術師』に違いなかった。

「邪気の残滓を見るに、『魔術師』様を殺害した下手人はまだそう遠くへはいっておりませんわ」

レイとともに転移術から放り出されたマリーが周囲を精査しながら上奏する。『吊られた男』は重々しく頷くと、地面に新たな術式を描き始めた。
喚起するのはやはり転移術。行き先はヨコシマキメの下層に作られた『入り口と出口のない部屋』――アルカナの戦死者を安置するための『墓』である。
既に『戦車』や小アルカナの尖兵が送られた場所であり、ヨコシマキメの胃袋の範疇でもある。

「『魔術師』君、君とはそう長い付き合いじゃあなかったけど……死んで欲しくはなかったよ。安らかに?」

燐光が『魔術師』の骸を包み込み、空間から消失させる。これでまた、仲間が減った。もともと人とあまり関係する人間ではない『吊られた男』でさえ、
見知った他人がこうも無残な姿で自分の元から喪われるのは些か堪える。彼にしては珍しく、表情に険を出しながら歯噛みした。

「――さて、上空からの賊はおそらく『魔剣使い』……剣士君、こういう手合いは君の範疇だね?」

言いながらレイの方へ振り返る。
その刹那、背後から強烈な気配が湧き上がった。

「天命流、第一式《刹那》───!」

気付いたときには既に白の太刀が迫っていた。気配を消したままギリギリまで近づいての不意打ち。一撃は速く、それでいて重い。
『吊られた男』は反応できなかった。代わりとでも言うように、下からおもいきり足元を掬われ盛大にバランスを崩す。
結果として『吊られた男』は奇襲の間合いから回避され、そのまま倒れ込む前にマリーに受け止められた。

「どうやらあちら様から近づいてらっしゃったようですわ。跳んで火に入っていただきましょう」

「マリー……もしかして、気付いてたのかい?」

マリーは首肯し、

「あの下手人は気配を隠して樹上に潜んでおりましたわ。巧妙な絶影術でしたけれど――如何せん人間相手の技術」

「今度からはもうちょっと早めに教えてくれると僕の心臓にも優しいな……?」

既にレイは反応し、白の奇襲者と対峙している。

「――あの銀紙女だけじゃ荷が勝ちますわ。私も参ります」

そっと『吊られた男』を地面に立たせながら、マリーは開始された剣戟の中へと踏み込んだ。

163 :名無しになりきれ:2009/10/15(木) 19:40:37 0
レイは吊られた男の後ろの樹から白い刀が飛び出すのを見た。
声をかける暇など無い、下手すると私よりも素早い速度で白い和服を着た人が飛び出したのだ。
声をかける暇がある方がおかしいと言うもの

が、後ろからマリーが足払いをして無理矢理避けさせるという荒技を行い、傷一つ負わずにすんだ
その時にはレイは黒爪を抜き、吊られた男の頭上を通過してこちら側に着地した白い和服の男に向けていた。

「不意打ちとは卑怯だな、日本人は戦うときは正々堂々とすると父から聞いたんだが…」

白い和服の男は即座に向き直り、こちらに刀を向ける、黒爪と対比するかのような真っ白な刀
だがそこから放たれる邪気は黒爪のそれを軽く上回り、側にいるだけでチリチリとしそうな程だ

と、白の男が動いた 剣を持ち直し、レイに斬りかかる
レイは持ち前の身の軽さを生かし、横に避ける 白い刀は空を斬り、地面を剔った。

「どうしても戦いは避けられないみたいだな ま、刀を抜いたのはこっちだが」

そう言うと黒爪を持ち直す。 そこにマリーも加わった。

「ん…人形、あんまり邪魔にはなるなよ 言ったよな?私のやりたいように戦わせてもらう」

164 :名無しになりきれ:2009/10/15(木) 23:03:31 0
「乾いた氷は滑らない」という日本の格言がある。
リクスは自らの移動に合わせて器用にヨコシマキメの中に氷のレーンを作りながら、三千院家の最新鋭自転車にまたがり高速移動していた。

Jaki903S.S.s、この自転車が転送されてきたのはつい先程である。
隣には説明書代わりにポップな文字が踊るチラシが1枚。

『過激(radical)で快適(good)なスピードを貴方に!セレネお嬢様直々のデザイン!』
『邪気動アシストシステムと脳波に合わせてベルが鳴る準サイコミュシステム搭載の最新モデル!!』

(……脳波に連動するのはハンドルではないのですね。)

「先行者達に追い付くにはそれなりのビークルが必要」と進言したところ送られてきたのがこれなのだからリクスが愚痴の一つも言いたくなるのも無理はない。
しかしそこはプロの執事。条件がクリアされた以上ここで立ち止まる道理はない。

「それでは行きましょうか。『氷結眼』」

こうして、ある種の趣のある遺跡の床面をリクスの通るところだけ、通るわずかな時間だけ絶対の乾いた氷が覆うという奇妙なことになったのである。

165 :名無しになりきれ:2009/10/15(木) 23:08:30 0
「それにしても、予想以上に強敵が少ないようですね。」

あれから十数分、これが現在中層域を疾走しているリクスの率直な感想であった。

ヨコシマキメで多くエンカウントするのは主に死霊の類。しかしこの無尽蔵とも言うべき邪気を湛える遺跡に邪気ウサギのようなさまざまな邪気動物が生息しているのは想像に難くない。
では、なぜこれ程までに敵が少ないのか?

それもその筈、既にここ数日だけで多くの人間がこのヨコシマキメに足を踏み入れ、その中には最下層へと到達した者やあの大所帯の調律機関も含まれる。
奇しくも現在ヨコシマキメの邪気は『世界』や大剣虎の戦闘に供されていることも相まって、中層域にはほとんど強生物はいないのだ。

こうしてわずかに寄って来る死霊を適当な氷壁に埋めつつリクスが到達したのは、かつてメイドさんなロリコンさんと盗掘シスター&黄色いお方が別れを告げることとなった分かれ道であった。

(どちらも強大な邪気が感じられ……いえ、1つの反応は消えましたね。)

「大剣虎」という名前などリクスには知る由もない。
手元のレーダーを見ると、邪気反応の消えた方に複数の生命反応、そして床に残る多数の足跡から推察するにこれは調律機関のものであろう。
仮にそちらにプレートがあったとしても、彼らが確保すれば悪意の者たちにわたるリスクは小さい。

「となるとやはり私が行くべきは、こちらの道ですね。」

ついにリクスもセカイの深淵、決戦の場に歩を進めることとなった。もっとも、徒歩ではないのだが。

166 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 00:18:16 0
巨大火球を衝立にした、完全な不意打ち。タイミングも、邪気コントロールも、全てが完璧。
それでも彼を滅ぼせないのは、きっとそれが『ヒト』であることに課せられたサガなのだろう。
砂塵の向こうから五体満足の『世界』が歩み出てきたとき、ステラはそれを痛感した。

「そうか『太陽』……今のが『悪魔』を殺した攻撃という訳か。……くくく、褒めて遣わそう。
 この我に危機を感じさせ、驚嘆させたのは、貴様で二人目、そこの修道女も含めれば三人目だ。素晴らしいぞ……実に素晴らしい 道化 であった」

『悪魔』、という単語に身を硬くする。かつてを共にした同志。これからを違えた冥府の住人。
当の『世界』本人はその名前にさしたる意味を感じないかのようにこともなげに吐き捨てると、言葉を続けた。

「ふむ。しかし【歪】か――――それが過去に一度も破られた事が無い技であったなら
 我とて今以上の損害を受けていたかもしれんな。嘆け。どうやら、貴様が殺した『悪魔』が我を支援したという事になるらしいぞ」

「何を言って――」

気付いた。ステラも似た術式を行使した覚えがあるので理解できる。過去の『悪魔』を喚起し、その動きの身を委ねたのだ。
【歪】を破った三千世界に唯一人の男。その蓄積を我が物にできる『世界』ならば、それはそう難くない。

(破られた――!わたしの最高火力が、こうも簡単にッ!!)

そして絶望に絶望を重ねるような"それ"が、

「さて、『Y』よ……我は貴様をゆっくりと絶望でへし折るつもりだったのだが、
 どうもそう言っている余裕は無いらしい。先の事で確信できた。貴様は我の想像を上回る程の存在だ。
 そして、『太陽』と……アスラといったか? そこの愚民共も、中々に厄介な存在らしい。故に――早急に希望を枯らすとしよう」

「   『    終  世     』   」

来た。

夥しい数の魔剣、魔杖、魔銃、聖剣が彼の背後を埋め尽くす。
それら一つ一つが国家規模の破滅と破壊をもたらす威力を秘めた、1080の異なる死の形。
あまりにも冒涜的で暴力的な力の塊は、さながら暴風雨の如き波濤を以ってアスラとステラへ到来した。

「凌いで【暁光眼】ッ――!!」

眼前に光の防護術式を多重展開し、穿ちの雨に拮抗する。フルパワーで能力を発動しても、アスラを庇う余裕までは捻出できない。
壁を突き抜けた魔槍がステラの肩を貫く。声にならない悲鳴を挙げながら、突如燃え上がり始めた傷口に治癒術式を並列起動。

「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッッ!!」

歯を食いしばり、吼えた。絶望に融かされそうになった心へ喝を入れるように、孤立無援の自分を鼓舞するように。
それでも貫通能力や防護を無視する特性を持った武器などは壁を貫きステラの四肢へ傷を入れる。
即死はなくても、こちらが削り殺される。

苦痛と全開発動の過負荷で身体が悲鳴を挙げ始めたころ、不意に目の前に更なる光が展開した。
途端に攻撃が来なくなる。――否、目の前の"これ"がほぼ全てを防いでくれているのだ。

「――知ってたか、『世界』」

声が来る。それは暖かく柔らかく、しかし芯のある意志に満ちた声色。

「俺は諦めが、非常にめちゃくちゃこれでもかってほど、悪い。昔からな。
 それは多分2人も、"皆"も同じさ。だから………希望が枯れるなんてことは、無い」
  
  ファイアウォール
対物対魔反発障壁。
『世界』と対峙していた青年が、プレートの覇権を奪取せんとしていた青年が、あらん限りの魔力を奔らせていた。

「往くぜえッ『世界』ィイイィイイィイッッ!!! 繰り返すッ、お前にこれからは渡さねぇええええぇえええッッ!!!」

167 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 00:53:37 0
「出でませ、炎禍の修羅……剣に宿りて現に現れ、そして我が悲願を叶えたまえ…!」

傍ではファイアウォールの展開まで凌ぎきったと思しきアスラが既に攻勢に出ている。
魔剣を掲げ、炎が形を得るように、二足歩行の巨大な魔神が顕現している。

(なんだかんだ言ってちゃっかり戦略級の得物もってるし――――!)

張り合うつもりはないが、しかしここで遅れをとるわけにはいかないだろう。
青年の加護のお陰で余計なリソースを費やさずにすむ。つまりは、全身全霊の一撃を『世界』にぶち込めるということだ。

「当然、ぶち込む――ッ!!【トールハンマー】……バージョン2!!」

ステラが合わせた両手に作り出したのは輝くハンマー。光を凝縮した槌は、『悪魔』に行使したものとは三つほど相違がある。

一つ目。やたら長い。
柄棒はゆうに10メートルを越え、ちょっとした谷ならこれを橋にして渡れそうなくらいに長い。

二つ目。やたらでかい。
槌頭の部分は一軒家を丸々叩き潰してサラ地を量産できるほどに巨大で、しかも厚い。

三つ目。やたら重い。
全体で換算すれば『悪魔』が百人乗ってやっと追いつく重さ。本来重さのない光が質量を得るほどに凝縮させた、超々々高密度の一品。
インパクトの際に解放されたそのエネルギーは五大湖をそこに住む生物ごと蒸発させてなおオーバーキル。

サジタリウスの【歪】が万物を『無』に帰する術式なら、これは万物を圧倒的な『有』で上書きする術式。
生み出す結果は似ていても、その本質はまったくの別物だが、この際そんなことはどうだっていい。

ともあれ、それら三つの相違が導き出す答えは――

「――完全一撃必殺型の全身全霊全力全開全勝全壊全光全破…………!!!」

威力故に、外せば今度はステラが終わりだ。短期決戦のみに用いる、まさに諸刃の滅殺兵器。
ステラはグリップを握りなおし、弧を描くような軌道でトールハンマーを振る。
長大な柄は遺跡の壁や天井をアイスクリームのように抉りながら進み、そのまま振り下ろせば、『世界』へ一直線だ。

(――――!!?)

ぶち込もうとした矢先、『世界』の攻撃が急激に途絶えた。まるで萎縮してしまったかのように、彼から感じる底なしの邪気に違和感。
流れていた川が突然途絶えたような、そんなスタンドアロンを彼に感じる。

(ヨコシマキメと『世界』の断絶……ヨシノがやってくれた――?)

おそらく答えは肯定だろう。今すぐ支配光を飛ばして彼の安否を確認したいが、知った結果が思わしくなかった場合、
彼女は攻撃を保っていられる自身がない。仲間を信じる時とは今こそであると心に刻み、思考の底で思いを馳せながら、

(生きていて――――!!)

炎の魔神とともに光槌を叩き込んだ。

168 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 04:04:57 0
――――1080の終わりが降り注ぎ、紅のプレートは急速に黒く染まっていく。

その光景を見ながら、世界は今度こそ己の勝利を疑わなかった。
終世を浴びている二人は、何とか耐えてこそいるものの、所詮は無駄な抵抗。
数分もすれば殺戮の雨に飲まれ、肉片すら残らない塵と化すだろう。
圧倒的な絶望を見せ付けられたYには、もはや『世界』の野望に抗う力など残っていないだろう。

力を捻じ伏せ
言葉を飲み干し
奇跡さえも踏み砕いた

未来を望んだ人々の意思は何一つとして届かぬまま、
世界は『世界』の手で終わりを迎える。残る物は何も無い。
次を迎えるのはこの世界ではなく、『世界』が作り上げる、世界の為の世界。


……こうして物語の幕は降りる。
神であろうと覆せない唯一絶対の結末へ向けて。


――――だが

169 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 04:05:39 0
「……?」
初めに違和感を覚えたのは他でもない『世界』だった。
黒く染まった紅のプレートに残った、僅かな白。
それは、針の穴の如く小さなものだった。
だが、確実に残っていた。消える事無く。

「……ふん、見苦しいぞ。そんなくだらぬ物はさっさと捨て去ってしまえ、愚民」

所詮は蝋燭が消える前に見せる最後の光。
そう考えて『世界』は己が圧倒的な力を流し込む。
しかし、それでも白は消えない。

それが圧倒的な異常事態である事を、世界が理解した時には




――――――始まりが、始まっていた。




「世界は、罪と戦う人がいる限り、価値が無いなんて言わせない。
それを今からッ、お前に叩き込んでやるぜぇえええッッ、『世界』ィイイィイイィイィイイイイィイッッ!!!」

 白が、黒を突き抜ける。

立ち上がり叫んだのは『世界』が『Y』と呼ぶ青年。
その声に応えるかの様に巨大な白い槍が顕われた。

 終幕が、力ずくで引き上げられる

1080の『終世』。絶対の滅びであるその暴嵐を、白い槍が受け止める。
『世界』はその光景に驚愕しながらも、理解した。
目の前の現象は『Y』が創世眼を使って行ったのだと。

 消える筈だった命が、燃え上がる


170 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 04:06:37 0
「――完全一撃必殺型の全身全霊全力全開全勝全壊全光全破…………!!!」
「目標はそれ。作戦終了はそれの絶対的な死。手段は問わない、立ち塞がるものは全て───焼き尽くせ!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!」

圧倒的な破壊の嵐を前にしても、生きるという意志を捨てる事無く耐え抜きり、立っていたのは、
ステラとアスラだった。その二人は、今『世界』に向けて全霊の一撃を放たんとしていた。


(なんだ……?)

『世界』には、今目の前で起きている現象が理解出来なかった。
完全に意思を砕いた筈の『Y』が立ち上がり、己の最強の攻撃である『終世』を槍によって防いでいる。
もはや死を待つだけであった筈のステラとアスラが、その運命を乗り越え、
今、『世界』の目の前で『世界』と戦う――――いや、『世界』を倒す意思をみせている。

(なんだ、これは……?)

もはやこれは、『世界の選択』などという言葉で表せるものではない。
偶然や奇跡如きでは『世界』には届かない。それ程絶対的な差が『世界』と目の前の三人の間には
あった筈だった。にも関わらず、『世界』は己の最強を防がれ、己が最強を受け立ち上がられている。

「なんだこれは……! なんだというのだ!この、馬鹿げた状況は!!」


171 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 04:08:50 0
『世界』にはこの状況が理解できない。しかし、決してこの状況を認める訳にはいなかい。
本能的にソレを察した『世界』は、目の前の全てを滅ぼすべく動き出した。

「認めぬ……我は認めぬぞ!! 貴様らを!この穢れた世界を生き残らせようとする愚民を!!
 そんな選択が我の野望よりも勝っているなど、断じて認めんっっッッッ!!!!!!!!」

ヨコシマキメから無限に近い邪気を引き出し、その力自体を圧倒的な兵器として
叩き付けようとする――――だが、その神の如き力でさえ、
目の前のファイアウォールを突破できない。
それは、まるで神にも曲げられぬ物があるとでも言うかのように。

そうしている間に、『世界』の目前には二つの『意思』が迫っていた。
全てを焼き尽くす劫火の魔人と、全てを塗りつぶす光の巨槌。

「っ……!先も言ったであろう、我は不死であると!
  幾ら貴様達があがいた所で――――――――なっ!!?」

そこで世界は感じ取る。ヨコシマキメと自身の接続が途切れた事を。
見知らぬ誰かの刃によって断ち切られたという事を。

「……馬鹿な! この我が、負けるというのか!!? そんな事が、有りえると!!!?
 ぐ、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

もはや全ての状況が『世界』を、世界の未来を奪う者を打ち倒す為に、動いていた。
それは、創造主や世界の選択などという小さな力が齎したものではない。
奇跡よりも尊いもの……意思。未来を願う何千何万何億……全ての『意思の力』が
生み出したものだったのだろう。

そんな『未来達』に一人きりで過去を見つめる『世界』が敵う筈がなかった。

炎の魔人と光の槌を己の邪気のみで受け止めていた世界は、やがて押し負けるかのように――――


172 :名無しになりきれ:2009/10/16(金) 04:13:04 0


光が晴れた後、そこには一人の男――――『世界』がいた。
その腹には大穴が空いており、流れる血や臓物からもはや『世界』が死を待つ存在である事が容易に見て取れる。
炎と光の局地を受けて人としての原型を留めているのは、『世界』自身が持っている圧倒的な邪気故か。
『世界』は、膝を付いた姿勢で沈黙し、俯いている。



173 :名無しになりきれ:2009/10/17(土) 13:20:12 0
「そういやあ、お前はどうして俺を追ってきた。」

コバルトブルーのレンズの向こうに覗く瞳は、
ぐるりと瞼の奥に蠢いた後、隣を歩くサングラスをにらめ付けた。

「それがねェ。もう戦場っすよ、ヨコシマキメは。
 いざ紅のプレート奪取ってところで、どこぞの馬の骨がなだれ込んできて……。
 こりゃもう、『審判』様の力添えが必要かなーって。」

「手前らの独断か。」

「うす。そんで、『審判』様が使った転移陣を流用して、ここまで来たんす。
 皆『審判』様に会いたいっつってたんすけど、全員でぞろぞろ歩くっつーのもマヌケってか、
 間違いなく幹部に見咎められて、部隊総懲罰になりかねねーんで。
 まあ俺一人だけ、コッソリってことで。」

群れるだけ群れて、普段より何の役にも立たない部隊としては、
自己の判断に寄って行動した、という事実だけで、充分に上等である。
隊長である『審判』は少しばかり、ほんの少しのばかりの頼り甲斐を覚えて、しみじみと頷いた。
爪弾き者には、爪弾き者なりの動き方がある。

「他の連中はどうしてる。」

「遺跡の奥で縮こまってるっすよ。盾にもなりゃしねー、邪魔だってんで。待機状態っすね。
 けどまあ、死ぬよりゃあマシっすわ。」

『杖』部隊の処遇は劣悪極まりない。
同じ小アルカナ部隊である『剣』と照らし合わせたところ、天と地ほどの差がある。
彼らに配給される食料、装備は必要最低限にして下の下。
アルカナ本部においても、兵舎などというご立派なものが与えられるはずも無く、
電気も通らぬ小部屋に鮨詰めにされて管理されている。
大規模な戦闘時ともなれば、生ける盾として前線に立たされることさえままあった。
穀潰し、有象無象と後ろ指を差され、足蹴にされて猶、犇き生きている。
それでも彼らは、召抱えられている。何故か。

下々の者が求められていたのである。
急造の組織であるアルカナの人員を纏めるには、
『世界』の強烈なカリスマ性、支配力では未だ足りず、
ストレスや劣等感のはけ口となる、虐げられるべき民が求められていた。
そこでアルカナは、裏社会の底に腐る沈殿帯を啜り上げ、糧としているのである。
必要故に蔑視される存在。それが、『杖』。

彼らの表情を見るたび、『審判』は故郷のスラムを思い出す。
――空を知らぬ、小さき者よ。

174 :名無しになりきれ:2009/10/17(土) 13:22:37 0
『審判』自身、真人間の道を踏み外した挙句に裏社会に堕ち、
アルカナの手によって掬い上げられた過去があった。
邪気眼の力が無ければ、彼もまた確実に『杖』に編入させられていたはずだった。
しかし、『杖』に対する慈悲の心は、『審判』にはない。
現実は現実として、自分は幹部、彼らは所詮部隊員であると割り切っている。
と、『審判』は思い込んでいる。
だがそれにもかかわらず、部隊員は隊長である『審判』をしつこく慕ってくる。
その真意が忠誠か打算かは知れないが、ともあれ、少々うざったかった。

「で、どうっすか。一緒に帰ってくれません。」

「……しゃあねえ。」

サングラスは、たった一人で喝采を上げる。

「それでっすねえ。すげーんすよ、コレ。やばいっつーかやくいっす。
 俺たちで作ったんすけど。ホイ、転移陣起動符……。ヨコシマキメ直通っすよ。」

そう言って興奮気味に差し出したのは、
ミミズののたくったような字の書かれた、あちこち端の切れ掛かった一枚の札であった。
『審判』は魔術方面には丸で縁が無く、こういった呪符を目にした事はないが、
この如何にも素人お手製の逸品が、まともに動作するとは思えない。

「まあ、見ててくださいって。」

札を切り破ると当時に、二人の立ち位置を中心として陣が浮かび上がる。
確かに起動しているらしい。
しかし、陣の放つ光は禍々しく淀んだ紅で、『審判』は危険を覚える。
自分が術士に命じて作らせた陣は、もっと鮮やかな碧色を浮かべていたが。

「……転移先で、いしのなかにいる、なんて事にゃならねえだろうな。」

「そりゃちょっとわかんねーっすね。」

笑えなかった。

「ところで『審判』様って、陣とか何も描けないんすよね。
 どうやって戻ってくるつもりだったんすか。」

「さあな。」

眼の覚めるような赤色の炸裂の後、二人の姿は消滅。静寂だけが残された。

175 :名無しになりきれ:2009/10/18(日) 01:31:55 O
  ちからずく
("未来の意志"で引き上げられた終幕の先、吹きすさぶ業火と閃光の彼方)
(異能の反動と衝撃の逆風に残り少ない意識を削られながら、青年は力なく崩れ落ちる『世界』の姿を確かに目撃した)
(ヨコシマキメ遺跡への突入からあまりに長すぎる時間を経て……【アルカナ】との壮絶な死闘は、決着を迎える)

(刹那、青年の胸の中で溢れ出るようにして生まれ出た感情)
(それは世界を救ったことへの達成感や恍惚感ではなく、無事生き残れたことへのありもしない神への感謝でもなく)


『世界』………『世界』? せ、『世界』ッ、『世界』ッッ!! おいッ!!!


(力が抜けてもつれる足を死に物狂いで動かし、青年は『世界』の元へと駆け寄り――見る)
(今にも魂を刈り取らんとする死神の姿を、今にも消え逝こうとする生命の姿を)
(その瞬間、どうしようもない哀しみに喉奥を突き上げられ……ついに、青年は涙を抑えることをやめた)

せ、せか……っぐ、うぅうぅうう………! …『世界』ぃ……!!


(世界を救ったはずだった。歴史を守ったはずだった。そしてそれは確かに、今この瞬間に達成されたはずだった)
(嬉しいことのはずなのに、喜べることのはずなのに――――何故だか青年は、歪む口元から漏れる嗚咽を止められなかった)
(涙の理由は、今度こそ青年には分からなかった)


(青年が流した涙と共に宿っていた『創生眼』の力が喪われ、真白き神槍は光の粒子となって遺跡の奥へ消える)
(憑き物が取れたようにくずおれた青年は『紅のプレート』と一緒に、『世界』の手を握りしめた。段々と温かさの喪われていく手を)


『世界』……、お前の選んだ道は…結果として、こんなことになっちまったけど……。
お前の遺した遺志は……決意は、……俺が、未来まで運んでやる。伝えてやる……!
死ぬまで……いや、死してなお自分の信じる道を貫き、果てて逝った………ある男の、物語を。

それを……邪気学者として、この俺が……結城鷹逸郎(ゆうき よういちろう)が、…保証する……!!


(涙の理由は、とうとう最後まで青年には分からなかった)



だから………どうか、安らかに……。
…お前とはもっと、別の形で逢いたかった。


………じゃあな、…『世界』。

(そして最後に……彼の本当の名前を聞けずに終わったことを、少しだけ悔いた後)
(青年、結城鷹逸郎は、その意識を手放した)

176 :名無しになりきれ:2009/10/18(日) 01:33:33 O
























(手には『紅のプレート』を、しっかりと握りしめたまま……それが『絆』であるかのように)

177 :名無しになりきれ:2009/10/19(月) 03:35:12 0
満身創痍のヨシノ=タカユキがそれでも自らの役どころを果たして、満足するようにその場に伏したのを調律機関の隊員達は取り囲む。
それは守護するようであり、称賛するようであり、また的確な治療と医療の流れを創っていた。

「救護班は青年の身体精査と治癒術式の準備、結界班は医療用の無菌結界を。実働班、周囲の索敵はどうなってます?」

レイジン=シェープスは各班の人員に指示を飛ばしながら、その場で手厚く保護を受けている青年を見遣る。
傷付き倒れた今も、彼の顔には安らかな笑みが浮かんだままだ。まるで死に顔のように。

「隊長、精査の結果が出ました。――身体的損傷が重度、血液が足りてませんね。内臓も壊滅的です」

「なるほど容態は依然芳しくないと……どうやら精神力のみで戦っていたようですねェ彼は」

気力と根性だけで立ち上がる――完全な精神論だが能力者というものはそれを現実にするから余計に性質が悪い。

特に邪気眼に代表される『なんでもあり系』の異能はその出力・精度を精神に依存するものが多く、
立ち向かう強固な意志さえあれば骨が折れようが腱が切れようが関係なしに立ち上がってくるのが彼ら邪気眼使いだ。

(それ故に、精神を破壊されたりモチベーションを下げる攻撃には脆いんですよねェ)

言うなれば邪気眼使いとは、究極の気分屋なのだ。気概によって己の命まで左右してしまうほどの。
だから、今死の淵に立つ彼の身体の傷は癒せても、生きたいと心の底から思わない限り命を拾うことはないだろう。

「治癒術式施術準備完了です。――救護班総動員で魔力をここに集め治療を開始します」

無菌結界の中に柔らかい光が満ち、粒子ように細かい光の粒となってヨシノの傷という傷へ覆いかぶさり浸透し、
内側と外側の両面から傷口の細胞を活性化させ傷を塞いで行く。同時に光は血液と同質になり酸欠状態の細胞へ栄養を運ぶ。
やがて血の気の失せたヨシノの頬が少しずつ赤みを取り戻し、四肢が活力を取り戻していくのが結界越しみ見えた。

「――治癒完遂。術式を終了します。……急ピッチで進めたのでアラが出てますが、これで身体のほうはほぼ完治ですね」

救護班の隊員が術式操作枠に指を走らせながら流れてきた情報を読み上げる。
レイジンは首肯で応え、

「ご苦労様です。さて、あとは彼の意志次第というわけですか……。できれば生きて欲しいですねェ」

がらんどうの空間で、隊員達のほぼ全てが付和雷同に頷いた。

178 :名無しになりきれ:2009/10/20(火) 19:16:18 0
日本の空を、戦闘機が一機、飛んでいた
自衛隊の物ではない、第一、それはあまりにも小さかった。
と言っても、乗用車かそれより少し大きい程度はある ラジコンにしてはあまりにも精巧で、蒼炎を引きながら高速で一直線に飛んでいた。

しばらくして、戦闘機は不意に機首を下げた。
余り高度は無かったのでみるみるうちに地面が迫る、しかし速度を緩める素振りはまったくない

墜落すると思われたその時、一気に機首を上げた
地面から数mと離れていない空中で戦闘機は垂直になった。
急激な減速 失速を起こし、逆さまになり地面に落ちる、と思われたその時

ガチャン!

機首が内側に折れた

ガチャンガチャガチャ ガシャコ プシューッ

翼がたたまれ、エンジンが引っ込み、タイヤが現れる
地面に落ちてくる頃には

ガコン バタン

1台のジープになっていた。いったいどこがどうなれば戦闘機がジープになるのか、もはや質量保存の法則すら馬鹿馬鹿しい


ジープは後輪を空回りさせると、目の前の広い敷地『世界基督教大学』に入っていった。

179 :名無しになりきれ:2009/10/20(火) 22:38:45 0
多少、ズレたか
腰に手を当て、ゆっくりと視線を廻らせた先には
目当てである遺跡の入り口らしきものは見当たらない
代わりに、彼の傍らには、通行人をただひたすら威圧するようにして
やたらに大きな図体をした門扉が聳え立っている
その表札には、『世界基督教大学』、と。青銅の板に刻まれていた

しかし、読むことあたわず。男にとっては異国の字である
彼の目には、漢字独特の角ばった形態は、むしろ無機質な記号にさえ見えた
早速噛み締める事になった異国情緒は、僅かばかり苦々しい

とは言え、男に立ち止まっていられる時間は少ない。門の奥を覗く
広大な敷地に、小山ほどもある偉大な建造物を確認した
彼の目には、頭の足りない金持ちの邸宅と映る
まさか学び舎であるなどとは、思考の端にすら掛からない

腕組みをしつつ、しばし黙考
いずれにせよ、これといった指標が周囲に無い以上、
とりあえずは目の前に屹立する門をくぐり
内部の敷地に遺跡の有無を確かめるのが目的への最短距離である
だが同時に、何やら嫌な予感がするのも事実
大抵、予感というものは悪ければ悪いほど的中に近づく

唇をひん曲げて不精気味な銀髪をなでかけたその時
何の前兆もなく、男の視界に突如と影が落ちる
――こういった時、本能というものは実に役に立つ
男は思考するより早く右に飛びのき、地面を一回転した後
片膝をつきつつ空よりの襲撃者を視認する

着地と共に、電雷を思わせる轟音を響かせたのは
一個の自動車、しかもその特徴的な外見は、正しくジープらしい
男にも、車に関する知識がないわけではない
ジープは、車輪と地面との間に鋭い断末魔を上げさせ
門を突っ切って世界基督教大学へと侵入を果した

余りに急激な一幕であった
男は唖然としていたが、立ち上がり様、急ぎ頭脳をクリアにしようと深呼吸を吐く
いきなり予感が当たるのは頂けなかった
門の向こうを見やる。ジープは疾風を撒き散らして走り続けている
男はそれを追うでもなく、苦笑を浮かべて門を抜けた
ジープについて考えるのは後。一先ずは遺跡の発見を優先することとする

180 :名無しになりきれ:2009/10/22(木) 00:21:31 0
完璧に捉えたと自負できる一撃。ムライは既に撃破を確信していた。
だからこそ、白衣の始めた奇行に対処するのに、脳がいつもの倍以上の時間を必要とした。

「――『風盗人の魂─シーフ・シルフ・ソウル─』っ!」

「んなっ!?――あの出血でどうやって!」
『むらい!ちゅうい!』  『術式反応――召喚術式』

白衣は召喚した霊魂術によって空高く舞い上がる。その身体に出血ほどの傷はなく、代わりに輸血用パックが。

(出血はブラフ――!!俺に大振りの一撃を出させるための布石か!)

気付いたころには既にシェイドはライドムーバーのアームを遡り始めていた。獅子身中の蚤が如く、うまく死角に紛れながら
ライドムーバの装甲に『何か』を打ち込んでいく。コンソールの情報ではさしたる機体ダメージにはなっていない。いないが。

「――『ライトニング』っ!」

シェイドの指先から雷球が迸る。それはさながら落雷のように装甲に突き刺さった鋏へと着弾した。
コンソールがオーバーヒートし、コクピットが煙を吹き始める。

「ぐああああああっ――!!」
『むらい!』 『雷撃系術式!電気系統小破!!』

ライドムーバーの装甲は何層にも渡って入念な絶縁コーティングが為されているため、上位の雷撃術を受けたとしても
その挙動に支障が生じることはない。しかし、その絶縁層を貫いた金属を通して内部に直接雷撃を浴びれば――

「ライドムーバーの主動力は魔力と電力!このままじゃ駆動中枢がイカれる――!!」

それでもムライは退かなかった。雷撃を直接みに浴びても気概によってコンソールを操作し、最低限の駆動で
フレキシブルアームを動かす。そのまま鋏でシェイドの身体を掴み、

「だったら――てめぇも浴びてろ!!」

鋏を通して通電した雷撃がシェイドにも襲い掛かる。

181 :名無しになりきれ:2009/10/24(土) 21:04:33 0
保守


182 :名無しになりきれ:2009/10/25(日) 00:19:36 0

さく、さく と奇妙な足音がした。
まだ冬がきていないのにそこだけ真冬であるかのような。そんな足音がする
まるで真冬のようにふくをきこんだ男はため息をつく

「やれやれ、やけにさわがしいね」

かれは世界基督教大学の敷地内に足をふみいれていた
かれはにこにこと楽しそうにしているようにみえた
が、それが地であるかのように微動だにしない。

「あんまりにも気になるから着てしまったじゃないか。」

彼の名をしるものはおそらくいない。
それが彼であるからだ。
幽霊のように彼はふらふら、どこかにあるく。
戦いが好きなかれはにこにこと。戦いを求めた。



183 :名無しになりきれ:2009/10/25(日) 01:02:50 0
アスラの放った炎禍の魔人が、ステラの放った光学的術式が、その場に立つ【世界】に向けて放たれる。
それは現時点で彼女等の放てる最大の攻撃。これが破られれば────。

アスラはそれ以上の思考を止めた。

土煙が部屋に充満する。
視界を遮られ、爆音故に聴覚もあまり意味を為さなかった。

「気をつけて。まだ生きてる」

傍らのステラに、そして自らに言い聞かせる。
炎の魔人デスフレイムに与えた命令は【世界】の絶命。ならば土煙の向こうで燃えあがる邪な炎は、【世界】存命の目印になるからだ。

「………あれは…?」

煙が晴れる。そこには、遍く四肢五臓六腑になんらかの傷を負った【世界】が、あまりに弱々しく立っていた。

184 :名無しになりきれ:2009/10/25(日) 01:05:42 0
止めを刺さんと息を巻く魔人を手で制し、アスラは銃を手に掛けつつ世界に歩み寄った。

「……これが結果…か。言ったじゃない、アンタの不死はそのうち終わるって」

【世界】を真正面から見据えて言う。

「アンタが強かったのは間違い無いさ。けどアンタは────孤独すぎたんだ」

【世界】が見る世界は常に《過去の世界》。
振るわれる強大な力、そのベクトルは常に《未来》に向かっているという事は、流石のアスラでも気づいた。

「…この世界を思うがままにするには、アンタの力はあまりに強大で、それ故に常にひとりだった。
 だからアンタは私“達”には勝てない。その真理を私は知っていたから、アンタが不死だろうと何も恐れなかった」

あたりを見まわす。あれほど部屋に充満した邪気は欠片も残さず消え去り、残ったのは完全な静寂ただ一つ。
ひとつ溜息をついて、アスラは頬の血をぬぐった。

「【アルカナ】が散って行くね。…さながら指揮者のいないオーケストラ、女王のいないアリ塚…か。
 【戦車】も【悪魔】も、状況が変われば一緒にバカやれそうな連中だった。アンタは奴らに…何をしてやった?」

少し、アスラの目つきが変わる。
片眉が釣りあがり、責めるような表情を作った。

「人の業─カルマ─はアンタ一人があれこれ企んで消せるほどヤワじゃないし、私一人で背負えるほど軽くも無い。
 だから───アンタの「原罪」を打ち破ったときのように、幾人もの人が支えあって持ってくものなんだ」

紅のプレートを抱えたまま昏睡したYを肩に背負う。
片手で自動拳銃の引き金に手を掛け、標準を【世界】の眉間に合わせた。

「私達は《これから》を生きなくちゃならない。だから、アンタを生かすわけにはいかない。
 これから私はアンタを殺して、それを《かつて》として記憶し、前に進む。
 だから…正真正銘、これで終わりよ」

どん。

引き金が引かれる。
少しして、炎の魔人はゆっくりと剣の切っ先に吸い込まれて行った。

185 :名無しになりきれ:2009/10/25(日) 01:38:58 0
さて、このやたらとがたいのいい男は果たしてなにがしたいのだろう。
ゆったりとした足取りで校内を彷徨いている
がしゃ、がしゃ、と足音がするたびにかれの足元はこおりつく
至って暇そうに、それでもくえない笑みで歩く

「血の臭い、ないかなぁ。」

そういってはゆっくりとあるく。

その手にバールを握りながら。



186 :名無しになりきれ:2009/10/26(月) 00:35:29 O
第一式、《刹那》。疾さを極限まで突き詰めたそれは『発動後』ならば、相手に一切の行動を許さず問答無用で断ち斬れるレベルの一撃だった。

その必中のはずの一太刀が躱された。西洋服の少女が『発動前』に対処した事によって。

(気付かれていたか……!【アルカナ】……やはり、生半可な実力ではない……!)
距離を取られたが追撃はしない。相手は二人では無く三人。ここで黒い刀の女を無視するリスクを背負いたくはない。

魔剣士の女へ《刹那》の残心から一閃。狙いは正中線。中心であるが故に回避は難しい筈だが、女は迷いなく右へ飛び躱した。
(速い……!……決断力も中々だの……!
一対一ならば捉えられるが、流石に今は厳しいか……)
西洋服の少女も近付いて来る。そちらへも注意を裂かねばならないのだ。

「ん…人形、あんまり邪魔にはなるなよ 言ったよな?私のやりたいように戦わせてもらう」
ふと、そんな一言が聞こえた。何気無い様に思えるが、聞き逃し難い単語が一つ。喚起される疑問が一つ。

(人形?……そうか、合点がいった。あの西洋服の少女、“自律人形”[オートマター]か……!)
なるほど。《吊られた男》に直に吊られた『人形』と言った所か。
機動力、精緻さ、索敵能力。今までに見た“自律人形”との歴然とした格の違いも、それならば得心がいく。
そちらはいい。肝要なのは次。

(今の態度、仲間に対してあまりに不自然ではないか?反りが合わぬのだろうと言えばそれまでだが……)

されど

(どうしてもそうは思えぬ。だとしたら……魔剣士の女は【アルカナ】の一員ではないのか?
あの態度、まるで利用相手に接する様な雰囲気であったしのう)

仮に想像通りなら、この三対一の状況を激変させられるかもしれない。
信頼できない者同士が共闘し『数の利』を得たとて、それは寧ろお互いの力を殺し合う要素にしか成り得ない。

「天命流、六式《追憶》───!」
一瞬で生まれる十の斬撃。魔剣士は『速さ』、人形は『力』。両極のコントラストに彩られた猛攻をそれを以ていなしきる。

(やはり……個々の技量は相当な物だが連携は皆無……いや、寧ろ互いの技量を殺しあっている
これならば、撹乱が案外有効かもしれぬ……あまり気は乗らぬが、試してみるか……)

息を吸い、吐く。新たに携えられたのは『挑発』という言葉の刃。

187 :名無しになりきれ:2009/10/26(月) 00:37:35 O
「そなたも“魔剣”の使い手か。その黒刀……なるほど。低俗な【アルカナ】のために振るうには、お似合いの鈍(なまくら)だのう?」

少しだけ魔剣士と人形から距離をとる。
挑発に乗ったのか否かは分からないが、魔剣士がこちらへ向かって来た。

(狙い通り……大分やりやすくなってきたのう……)

一太刀一太刀が致命打になりうる剣閃の連打。
最小限の動きで回避、あるいはいなしながら、少し離れた位置の人形少女に対しての障壁───換言すれば自分の『盾』となる位置へ誘導し続ける。
言葉にすれば簡単だが、実践となれば恐ろしい程の戦闘センスが要る作業を、彼はこなし続ける。

同時にその攻防の中で、推論は確信に変わっていく。

(この統制の無さ……どう見ても、集団戦闘の訓練を受けたそれでは無いな。味方の攻撃を阻害する位置に陣取るなど、普通では考えられぬ……)

もはや言葉無くとも分かる。此奴らは、絶対に『仲間』では無い。
ならば、信頼の薄さというファクター。利用しない手は───無い。

(さぁ、どう出る人形。このまま指を加えて戦いを見守るか?無理矢理にでも、こちらへ介入するか?
前者であろうと、後者であろうと───某に利する結果となるであろうがのう?)

前者であれば実質、自分が最も得手とする一対一の戦い。
《吊られた男》との距離を考えれば何か行動を起こしても、十分に対処する時間のある距離だからだ。

後者であれば、尚良い。近距離、遠距離、いずれの手段で介入しようとて、ほぼ零距離にいる女魔剣士を巻き込まずに自分だけを攻撃できるとは思えない。
仮に女もろとも攻撃したならば、三対一という状況は、形は様々にしろ確実に崩れ去る事は想像に難くない。

「天命流、第五式《飛燕》───!!」

ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッと小気味好い風切り音と共に生じたのは、純白の燕。

『翔ぶ斬撃』。それを知る物なら、間違いなくそう形容されるだろう。

「───往け」

魔剣士、人形、それぞれに二匹ずつの計四匹。狙いを定めた獰猛な捕食者は複雑怪奇な軌道を描き、獲物へ襲いかかる。

188 :名無しになりきれ:2009/10/26(月) 19:07:31 0
ジープは草木をものともせず、猛スピードで一直線に疾走していた。
と、進行方向から声が聞こえた

「天命流、第五式《飛燕》───!!」

彼女が冷静ならば、この声に聞き覚えがあると思っただろう
しかし草木を薙ぎ倒して進むだけあって、とても冷静ではないのは確定的に明らか

「ッレイィーーーーーーーーーーーーーー!!!」

鋭い叫びと同時、ジープは彼らの脇から飛び出した。
飛び出した瞬間、ジープは形を変える、運転席がたたまれ、マフラーが収納され、タイヤが引っ込む

「っ!?」

そしてそのままの速度で、ジープが変形した(どちらかというと収納された)少女がレイに突っ込んだ。
完全に不意を突かれたレイはもんどり打って倒れる。
少女はその上に馬乗りになりレイの両手を押さえつけた。

「おんどりゃぁー!レイ!何故他の女と 一 緒 に い る の か な ぁ !?

少女は「一緒にいるのかなぁ!?」の部分だけ異様に誇張して叫ぶ

これほどの体躯差があるのに、レイがもがいてもビクともしていない
見れば、少女の腕がまるで万力のように変化し、レイをがっちりと押さえ込んでいるのだった。


その後ろでは、あまりに突然の事に呆然とする三人が

189 :名無しになりきれ:2009/10/26(月) 20:31:49 0
ヨコシマキメを見つけさえすれば、後は何とでもなる筈だったが
肝心のその遺跡がどうにも見つからない
そもそも、男はあくまで自由騎士、要は傭兵。探し物は得手ではない
決して報酬目当の安請け合いではなかったのだが――
確かに、やや高をくくっていたのではないかと内省する

それにしても、と、男は眉を潜める
先程から方々で膨大な邪気の奔流が迸っている
門を抜けた時から感じてはいたが
歩を進めるたび、敷地の奥へと近づくにつれ
その濃度は確実に深まりつつあった
案ずるまでも無く、それは異能力者、ひいては邪気眼使いが発するものと悟る
しかも、邪気に混じって殺気までも交錯しているらしいことから
もしくは男の見知らぬところで戦闘が行われているらしい

仮定として
この場一帯に邪気眼使いが集中しているのは
ここに出現した遺跡の邪気に引き寄せられた為ではないか、と
そして、彼らが鉢合わせた際に何らかのトラブルがあり
結果として戦闘に縺れ込んでしまったのではないか、と
そう考えれば、この息苦しくなるほどの邪気の説明も付き
また、近場にヨコシマキメが出現したことについての確信にも繋がる
足を速める自由騎士

その時であった

190 :名無しになりきれ:2009/10/26(月) 20:33:45 0
「血の臭い、ないかなあ」

どこからとも無く響いた声が、嫌らしい粘性を持って耳に纏わり付く
言葉の意味こそ知れないが、どこか狂気じみたものまで含んでいる
男は身を翻して並木に身を隠し、声の主を待ち受ける
そして現れたのは、ブロンドの髪を持つ男性――
より的確な表現を宛がうなら、青年という言葉が相応しい
自由騎士は目を細める

(暑苦しい野郎だ)

頭には耳当て、視線を下げるに従い
厚手らしいコート、やたらに長いマフラー、両手に嵌められたグローブと
明らかに寒冷地仕様のフル装備である。丸で季節を無視している
そして彼の身体から立ち上る瘴気、あるいは邪気。能力者か
なるたけ、避けて通りたい
コートの青年から目を離さぬよう、男はその場を立ち去ろうと一歩踏み出す
が、今日はつくづく運に見放されているらしい

カチャリ、と透明度のある金属音を放ったのは
思いもよらず、男が靴先で蹴飛ばしてしまったナイフである
その刃は彼をせせら笑い冷たい光を宿していた
何故こんな所にナイフが落ちているのか、全く場違いだが
それはそれ、非情な現実として受け止める他は無い
男は眉を潜め、コートの青年に目を戻す

視線がカチ合う

言葉より遥かに雄弁な双眸、骨髄まで食むかのような威力
やむなしか。男は黙って、巨刀の柄に手を添えた

191 :名無しになりきれ:2009/10/26(月) 23:42:08 0
光槌を振りぬいた先で膨大なエネルギーの衝突が起きる。
迸る衝撃波を防ごうと手を翳し、防護術式を生成する魔力が最早底をついていることに気付いたときには、
ステラは勢いに煽られ盛大にひっくり返っていた。まかり間違っても都市破壊規模の攻性術式を放った能力者とは思えない無様な失態。

この様で反撃を受ければ終わりだ。果たしてそれは来なかった。ステラは驚かなかった。これで勝負が決まったと、確信があった。
『世界』から感じていたあの底なしの邪気が、今はもう感じない。ヨシノがヨコシマキメとのリンクを切断した為だろう。
何よりも彼の安否が気になったが、底をついた邪気では支配光を飛ばすことすら不可能である。

(なんにせよ、ここから出るときにまた戻るんだから、会えるよね……)

今、この場において最も肝要なのは離れた仲間より目の前の敵である。
ステラはゆっくりと身を起こすと、土煙の砂埃の向こうに辛うじて原型をとどめた人影を認める。

「気をつけて。まだ生きてる」

剣呑な雰囲気を崩さぬまま、修道女が言った。
ステラは今にも朽ち果てそうな『それ』へと言葉を浴びせるアスラの傍へ緩慢と歩み寄り、そして見た。

「『世界』……!」

ぼろきれのような人影は、所々血煙を上げる四肢は、浅く連続した呼吸を続ける物体は、『世界』だった。
まだ人の形をとどめているのが驚きなぐらい、それはまさに"死に体"だった。

「『世界』、貴方は"かつて"の全てを以って"これから"を侵そうとしたよね」

一度死んだ身だからこそ、『太陽』は『世界』に言葉を放つ。

「"過去"で、"未来"を上書きしようとしたんだ」

言う。

「でも、ここで貴方の希望も野望も盲望も、おしまい」

語る。

「"過去"はいつでも『今』が最後で、"これから"はいつでも『今』が最初」

紡ぐ。

「『終わり』じゃあ、『始まり』には勝てないよ――」

叫ぶ。

「――マイナスがプラスを越えられないように!」

猛る。

「――『過去』は今で打ち止めだけど、『未来』は今から創っていける!」

宣言する。

「創るから!支えるから!紡いでいくからッ!……もう『かつて』はいらない。いらないんだよ」

――だから。

「『過去』と共に世界に埋没するのなら――『世界』、ここでさよならだね」

言って、『太陽』は踵を返した。これ以上、彼女を惹いた君臨者の最期を見るのは辛かった。

背後で乾いた破裂音。修道女の放った拳銃の声は、酷く空虚に石造りの遺跡へ木霊した。

192 :名無しになりきれ:2009/10/27(火) 00:12:32 0
カチャリ

透明度のある金属音が青年の耳に届いた。
木の裏かららしい。青年は落としていた視線をあげる

視線がカチ合う

青年の乱反射するような青の瞳はぼんやりと見つめている
相手は巨刀に手を添えている。
彼はにんまりとわらい、また、よく響く声でいう

「あれ? 君、遊んでくれる? 無理矢理起こされてイライラしてるのさ」

笑わない目は、逃げを許さない

「冬将軍ってしってるかい?」

その言葉で、辺りは急に冷え込み出す



193 :名無しになりきれ:2009/10/27(火) 00:30:17 0

急に雲が立ちこめ、あたりは重々しい空気になる
一気に肌に触れる空気は乾いたモノになり、肌に刺さる
やがてハラハラと白き雪が降り始めんとするだろう

それでも彼は異質であった
騎士を見据えるその目も、彼から放たれる殺気も、足元に立ちこめる冷気も。
まるで冬のように寒々しかった。

凍り付く地面を踏みしめ、彼は続ける

「冬というのは命枯れる死の季節。それを従える者。」

青年の吐息は周りの異常な冷気にも関わらず、白くなることはない。
なぜなら、彼がー

「冬将軍、人が僕を呼ぶ名前。」



194 :名無しになりきれ:2009/10/27(火) 19:29:30 0
感付かれた時にすぐ、先手を打たなかったのには理由がある
転移先における、ヒトとのファーストコンタクトの挨拶に
いきなり斬り付けたとあっては少々興を削ぐのではないかと思った為
また、相手がそうそう敵意を見せ付けてくることはないだろうとの期待
いずれにせよ、言葉も通じぬ土地に飛ばされた故の不安心に芽生えた
一種の甘えに他ならない。失策であった

「あれ? 君、遊んでくれる? 無理矢理起こされてイライラしてるのさ」

コート姿の青年の声は、よく通る
彼の言葉は、一々只ならぬものを孕んで産まれて来た
過剰なほどに透き通った狂気――逃がしてくれそうもない
男は、いよいよ戦闘の覚悟を決める

「冬将軍ってしってるかい?」

フユショーグン。男は沈黙を守ったまま、胸の内で反芻する
強調されたその言には何らかの意味が込められているらしい
上がり気味の語尾から、恐らく質問を投げかけたのだろうと察するが
生憎と、男は返すべき言葉を知らない
ただ、もどかしい

切り込むか。濃密な緊張の中、柄を握る手に力が入る
いや、入らない。手首から先が悴み、満足に動かす事ができない
気付けば、その感覚は総身を蝕んでいた
あたかも、凍てついた茨に四肢を絡め取られているかの如き、圧倒的冷気

195 :名無しになりきれ:2009/10/27(火) 19:31:00 0
「冬というのは命枯れる死の季節。それを従える者。」

口元から言葉を零しながら、青年が歩む
彼が一歩踏みしめるごと、その足跡は凍り付く
氷系能力者か、気候操作か、男は秘かに解析を進めるが
脳は寒気に鈍り、もたついた起動音を漏らすばかりである。どうする

「冬将軍、人が僕を呼ぶ名前。」

ついに間合いへと入る青年
対する男は剣も抜けぬまま、振り向き様に逃げ去ろうとするが
気持ちだけが先走ったかのようで、凍えた足がもつれて無様に転がる
だが――ブラフ

「キリキリ……アハーラ……」

古代語に示される、『閃光』と『太陽』
うつ伏せ目を瞑った男の口から這い出た言霊は
中空に浮かびざま、熱を含んだ激しい光を炸裂させる
青年への目潰しと、己の身体の解凍を同時に狙う
効果は覿面、とまではいかずとも、腕は剣を振るえるレベルに回復した

男は立ち上がり、光が己の目を焼かぬよう顔を伏せたまま、刀を抜き払い
眼前にいる筈の青年の肩口辺りを狙い済まし、峰による一撃をくれる
見知らぬ地だからと言って、死を振り撒きたくはないという思い
だが直後に男は、それもまた失策であると言う事を噛み締めるはめになる

196 :名無しになりきれ:2009/10/28(水) 00:45:46 0
青年は騎士なら、此の心の苛立ちを抑えてくれる
そう確信して敢えて間合いに入った。
相手は刀を抜こうとして無様に転げる。つい笑ったその時

「キリキリ・・・アハーラ」

その言霊が破裂するように辺りには熱と光で照らされた
普通なら目もみえず、騎士の刀にて切られるだろう

だがその刃はコートを裂くだけだった。
その下に白銀の鎧を着ていたのだ!

197 :名無しになりきれ:2009/10/28(水) 01:41:03 0
「おんどりゃぁー!レイ!何故他の女と 一 緒 に い る の か な ぁ !?」

突然の少女の姿をした闖入者に、『吊られた男』はおろか、マリーですら反応できなかった。否、反応に困ったのだ。

(これは――……!?襲い掛かられているのは銀紙女、ということは"強襲者"の加勢?)

マリーは思考を走らせつつ、その間隙を縫って飛来した強襲者の剣撃を迎え撃つ。一つ目をショットアンカーで撃ち落とし、
二発目は上体を逸らすようにして回避。駆け抜けていった白の斬波は遠くの地面を穿って果てる。

「敵が二人になろうが私の任に相違は生じませんわ!このまま銀紙女もろとも――……!?」

組み伏せられたレイごと闖入者へ攻性術式を放とうと構えたマリーの視覚素子に、やおら信じがたい映像が飛び込んできた。
闖入者の少女は、攻撃を行っていなかった。両腕を拘束してはいるが、その目に浮かぶ感情は敵意とは程遠い――思慕。
あまりに奇怪で珍妙な状況に白の太刀を携えた強襲者さえも唖然としたまま臨戦を解いている。

「んー、どうやらこのお嬢さん、そこの剣士君の知り合い――それも、かなーり深い仲のようだね?」

振り向くと、『吊られた男』がいつものニヤニヤ五割り増しな表情で重なり合う二人を睥睨していた。
マリーはそこに視線を同じくして、もう一度『吊られた男』の方を見上げ、そして眩暈を起こしそうになった。

「……あの、クレイン様、私とっても根本的な疑問が歯車の間隙から湧き出るのを否定できかねますわ」

「知識を求めるのは良いことだね。それで、どんな疑問だい?」

「率直に申し上げますわ、心してお聞き下さい。――彼女達は、同性同士では?」

「ありふれた性の在り方について疑問を呈するのもまた素晴らしき知性の発露だよマリー。だけれどまだまだ経験が足りないね?」

「抽象的な述懐は質問の答えとして不適当極まりますわ」

「『そういう趣向もある』……それだけ知っていれば今は及第点だよ。そう思わないかい、当事者の剣士君?」

『吊られた男』はやはり退廃的にニヤケつつ、絶賛発情され中のレイに向かって問いかけた。

198 :名無しになりきれ:2009/10/28(水) 07:48:10 0

青年・・・否、冬将軍は持っていたバールを凍らせて見事な氷の鎌をつくる

「氷山(ホワイトマウンテン)」

ぼそりと呟き、鎌を地面に降り降ろす。そこから氷でできた剣山が発生し、一直線に相手に向かっていく。

校内には彼の力でやってきた季節はずれの雪が降り始めていた。
先の力はいつの間にか範囲を広げていった様だった。

冬将軍は、血色のいい唇をやはりにこにこさせていた、楽しそうに。

199 :名無しになりきれ:2009/10/28(水) 15:59:11 0
「ッレイィーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

その聞き覚えのある声がした瞬間、レイはギクリとした。
最も来てほしくない奴が来てしまったのだ、それも、お怒りの様子で

そして、気づいたときには、レイは若葉色の少女に組み倒されていた。

「おんどりゃぁー!レイ!何故他の女と 一 緒 に い る の か な ぁ !?」

目の前には、若葉色のマントを羽織った少女がすごい形相で睨みつけている

「ま、待てピアノ!まず落ち着け!何か誤解してるぞ!」

レイはらしからぬ声を上げ必死にもがく 無理だと分かっていても
いつものように腕を万力化させているのだろう ビクともしない

「『そういう趣向もある』……それだけ知っていれば及第点だよ、そうは思わないかい?剣士君」

吊られた男ののんびりした声が聞こえる

「あいにく、私にはそんな趣向は無い、ねっ!」

と、若葉色の少女、ピアノを蹴り上げ拘束から逃れる

「頼むからこれからはねじ伏せるのをやめてくれ、ピアノ」

200 :名無しになりきれ:2009/10/28(水) 20:45:39 0
男の手に生じたものは、峰打ちによる骨を砕く衝撃ではなかった
その代わり、鼓膜を貫く金属音と、手首より先に残る痺れ
舌打ちと共にバックステップで間合いを取る

閃光が消失した後、男の視界に映る青年の姿は、やはり五体満足
だが、彼の立派なコートは一撃を喰らわせた肩部から破れ、白銀の鎧が露出していた
如何に峰による攻撃とは言え、修練の中、極限まで練り上げた筈の袈裟懸けである
幾度と無く、敵の鎧ごと鎖骨を叩き折り一太刀で勝負を決めてきた
それにも係わらず、どうやら青年にダメージはなく、鎧にはひび一つ無い
相当な上物らしい

(やはり氷系能力者……)

青年の手にしたバールのようなものに氷が纏わりつき、鋭利な鎌を形作らせる
向かってくるか。近接戦ならこちらが有利
巨刀を横に構え、イアイで迎撃する算段の自由騎士
もはや峰には返していない。が――

「氷山(ホワイトマウンテン)」

微風に千切られるほど小さな声
青年が氷鎌を地面へ振り下ろしたかと思うや否や
ヒトの背丈をゆうに越す程の氷の剣山が出現し
左右に大気を切り裂きながら、猛烈な速度で殺到する
僅かたりとも逡巡したが最後、正中線から真っ二つにされる速度

それでも、百戦錬磨の自由騎士を驚愕させるには至らない
瞬時に巨刀を逆手に持ちかえると
己の身体ごと大きく横に回旋させながら、刃を剣山へ衝突させる

鈍い手応え。刃は氷に浅く食い込んだまま動かない
寒気にあかぎれた掌からは血が滲んむ
歯軋りの後、獣の様に咆哮する自由騎士
それに呼応して、禍々しい凶刃から紅蓮の炎が栄える
再び精気を宿した巨刀は唸りを上げながら
氷の剣山を上下二つに両断して歓喜の雄叫びを響かせる
蒸発し損ねた氷の破片が、男の顔にいくつも傷を作った
血振りならぬ火振りをくれると、炎は空に吸い込まれて消える

201 :名無しになりきれ:2009/10/28(水) 20:46:22 0
『タージェ・エ・レイ』(炎と斬撃)
いわゆる一種の魔法剣である
無論、本物の魔剣の威力には遠く及ばないものの
目の前の氷の山を相手にする程には充分に足る
だが、生来より魔力に恵まれぬ男にとって
相手の攻撃に確実に対応するためとは言え、この技による魔力消費は少々痛手だった

(それなりの魔法は、後二・三発が限界か)

今しがた放った魔法剣に加え、先程の閃光の呪文
肉体的なスタミナには自信があるが、魔力の底の浅さは弱点である
だが、男には幼少より鍛えに鍛えた剣技がある
生まれたときから、若木の枝を削り作られた木剣を握りこんでいた男にとって
目の前に佇む能力者如きは……

刀を順手に持ち直し、腰を落としたイアイの構え。鎧ごと斬り潰す
ところが、爆発寸前まで蓄えられた男の威勢を遮って
はらりと空から舞い落ちるものがひとひら
雪。季節を間違えて紛れ込んだわけではあるまい。『能力』なのか

先程、氷の鎌や山を創り出した力、即ち氷を出現させる創造型の能力と
気温を下げ、雪を降らせる気候操作、詰まる所の領域支配型能力
目の前でニタ付いている青年、まさか――

(兼ね備えていると言うのか?)

想像していた以上に厄介な手合と対峙していることに気付く
踏み込みをためらう騎士にたまりかねてか、刃がかすかに痙攣した

(くそっ)

満身の膂力を集中させ、二度目の咆哮と合わせて、巨刀を横薙ぎに解き放つ
瞬間、飛竜の金切り声を思わせる音響が辺りを劈き
刃の軌跡をなぞるように、凶なる光の刃が天地を分断しつつ、青年を襲来する

これが、イアイ。男が魔力の消費無しに駆使できる唯一の飛び道具
その威力は、限界まで気力を込めれさえすれば、ミスリルすら容易く斬り破る
正しく最終兵器――最終?最終兵器には早すぎるのではないか

男は勝負を焦りすぎていた
凍気を操る能力者に対し長期戦を挑むのは、こちらの体力が削られるばかりで分が悪い
ゆえに短期決着を狙ったのではあるが、些か考えが浅かった
全力で放った筈のイアイも、全身を寒さに取り付かれていては、本来の冴えはない
振り切った両腕に、いつもの充実した感触がない自由騎士は
これでは青年を仕留めそこなうと察し、刃を地に突き立てると
空いた両手で素早く印を組み、魔力を集中させる

「ヴァンド……ジェ、ハック…(雷は怒る)」

印を解き、振り払った右手のガントレットから、激しい轟音を伴って電撃が閃き
イアイの軌道を追いかけて青年を狙う。ダメ押しの、容赦無き追撃
頼むから立っていてくれるなよと、祈りにも似た念を抱きながら、騎士は息を整える

202 :名無しになりきれ:2009/10/29(木) 21:19:03 0
(……おのれ……おのれ衆愚共……我の野望を……虫けらの分際で……殺す……
 殺す……呪われろ……死ね……世界に……無限の不幸をくれてやる……)

眼球は焼かれ、もはや何も見る事は出来ない。
声帯は潰され、もはや何も語る事は出来ない。
両肺は砕かれ、もはや息をする事は出来ない。
心臓は崩され、もはや延命する事は出来ない。

だが、それでも尚『世界』は生きていた。死の間際にすら安息は無く、
その心を黒く染め、その魂に無限の怨嗟を叫ばせながら、

『世界』は生きていた。

だが、例えどれだけ闇に染まろうと、もうすぐ『世界』は死ぬだろう。殺されるだろう。
もはや不死の力は無く、抵抗出来る身体も無い。ゲームオーバー。問答無用のデッドエンド。
故に、『世界』は不幸を願う。最後まで自分を受け入れず、
これからも創造主の傀儡と化したままであろう世界が滅びる事を、呪いと殺意と邪悪と怨嗟で願う。

……足音が近づいてきた。
『世界』は、自身の身体に唯一残った感覚である聴覚でそれを聞き取る。
自身を倒した集団の声。恐らくその目的は、『世界』を完全に殺すこと。
彼らは嬉々として『世界』を殺すだろう。
世界の平和を守れたなどと、馬鹿げた悦びに浸りながら。故に

(……いいぞ、ならば殺すがいい……だが、ただでは死ぬなぬ……呪われろ……
 この世界の全ての存在は、呪われ……殺されろ……そして、永劫に後悔し続け――――?)

そう考えていた故に、『世界』はその行動が理解出来なかった。


203 :名無しになりきれ:2009/10/29(木) 21:19:49 0
「せ、せか……っぐ、うぅうぅうう………! …『世界』ぃ……!! 」

(……何故、泣く。貴様達が我を殺したのだろう?
 自己憐憫か? 同情か?……どこまでも不愉快な愚者が……)

もはや感覚は無く、『世界』には自身の手が青年に握られている事すら判らない。
判らないまま、ただ言葉を受け入れる。そしてその言葉を歪ませようとする。

「『世界』……、お前の選んだ道は…結果として、こんなことになっちまったけど……。
お前の遺した遺志は……決意は、……俺が、未来まで運んでやる。伝えてやる……!
死ぬまで……いや、死してなお自分の信じる道を貫き、果てて逝った………ある男の、物語を。

それを……邪気学者として、この俺が……結城鷹逸郎(ゆうき よういちろう)が、…保証する……!! 」

(……ふざけるな。名前など……我は、呪うぞ……永劫に、永久に、世界を呪う……)

「だから………どうか、安らかに……。
…お前とはもっと、別の形で逢いたかった。


………じゃあな、…『世界』」

そこで、青年の言葉は途絶えた。それを理解できぬまま、
青年の言葉を拒絶し続ける『世界』の耳に――――やがて、次の言葉が響いてきた。

204 :名無しになりきれ:2009/10/29(木) 21:20:36 0
「『世界』、貴方は"かつて"の全てを以って"これから"を侵そうとしたよね」

聞こえて来たのはステラ――――『世界』が『太陽』と呼称した女の声。

「"過去"で、"未来"を上書きしようとしたんだ」

(……そうしなければ、世界は緩やかに死滅する。だからこそ、
 何も無かった時に戻るまで、壊す事を選んだのだ。過去をもう一度始める事を望んだのだ。
 我が絶対の力を用いて――――それを貴様達は邪魔した……ならば報いを受けろ……
 我の手で蘇ったその命だ。我が死ねば、貴様はいずれ死ぬ……どうあがこうと生きられぬ……
 くくく……愚かだな『太陽』)

凛と告げられるその声に、呪いと怨嗟と死を込めながら、
『世界』はその黒く染まった心でステラを貶めるが

「『終わり』じゃあ、『始まり』には勝てないよ――」
「――マイナスがプラスを越えられないように!」
「――『過去』は今で打ち止めだけど、『未来』は今から創っていける!」
「創るから!支えるから!紡いでいくからッ!……もう『かつて』はいらない。いらないんだよ」
「『過去』と共に世界に埋没するのなら――『世界』、ここでさよならだね」

(……っ)
自身が望んだ過去から蘇らせた『太陽』。その彼女こそが、過去ではなく未来を謳う。
過去を願えば失った全てを手に入れられるというのに、自身の死すらも避けられると
いうのに、それでも『太陽』は未来を謳う。
『世界』はその現実に、とうとう呪うべき言葉を失った。

やがて、最後の3人目。アスラと名乗った女の言葉が聞こえて来た。


205 :名無しになりきれ:2009/10/29(木) 21:21:19 0
「……これが結果…か。言ったじゃない、アンタの不死はそのうち終わるって」

(……)

「アンタが強かったのは間違い無いさ。けどアンタは────孤独すぎたんだ」
「…この世界を思うがままにするには、アンタの力はあまりに強大で、それ故に常にひとりだった。
 だからアンタは私“達”には勝てない。その真理を私は知っていたから、アンタが不死だろうと何も恐れなかった」

(……我には、仲間など必要無かった。衆愚は常に駒か敵でしかない。
 我に並ぶ物は無い。必要な物は常に『過去』が持っていた)

「【アルカナ】が散って行くね。…さながら指揮者のいないオーケストラ、女王のいないアリ塚…か。
 【戦車】も【悪魔】も、状況が変われば一緒にバカやれそうな連中だった。アンタは奴らに…何をしてやった?」
「人の業─カルマ─はアンタ一人があれこれ企んで消せるほどヤワじゃないし、私一人で背負えるほど軽くも無い。
 だから───アンタの「原罪」を打ち破ったときのように、幾人もの人が支えあって持ってくものなんだ」

(……それがどうした。何も知らぬ貴様如きが語るな。我は知っていたのだ。
 世界が創造主に介入されてきた事も、人が重ねて来た全ての罪も。そして、
 知ったからには、力があったからには、どうにかせねばならなかった――――例え、何を犠牲にしようと。
 故に、『アルカナ』を、罪にまみれた今の世界をも、その為に犠牲にしたのだ。
 ……そして、一度犠牲にした時から、もはや止まる事は出来なくなった……我は……我は……)

「私達は《これから》を生きなくちゃならない。だから、アンタを生かすわけにはいかない。
 これから私はアンタを殺して、それを《かつて》として記憶し、前に進む。
 だから…正真正銘、これで終わりよ」

(「俺」は、本当は――――)


206 :名無しになりきれ:2009/10/29(木) 21:23:06 0
もはや、世界の心からは怨嗟も呪いも消えていた。
否。そもそも、そんな物は元々存在していなかったのだ。
『世界』は本当はとうの昔に気付いていた。『世界』にも解っていたのだ。
結城鷹逸郎がそうであった様に、『世界』にも結城鷹逸郎の想いは流れこんでいたから。
故に、自身の願いがどこかで歪んでしまっていた事も、過去では未来に届かない事も、
紅のプレートの黒が白に染まった時点で、全て気付いていたのだ。

だが、それでも『世界』である事を辞める訳には行かなかった。
自分が重ねて来た物、犠牲にしてきた者の為にも。

(……)

だから■■は、最期の最後に剥がれかけた『世界』の仮面を、無理矢理引き上げる。


――――この身は全て世界の為に、我は最後まで『世界』であれ。


引き金が引かれる音、火薬の炸裂音、鉛が頭蓋を砕く音。
終わりの狭間で『世界』が使った最後の「創世眼」。その願いは――――

207 :名無しになりきれ:2009/10/30(金) 10:52:37 0
圧縮中につき保守

208 :名無しになりきれ:2009/10/30(金) 22:32:53 0
hosyu


209 :名無しになりきれ:2009/10/30(金) 23:46:14 0
薬莢の落ちる音。蓄積された遺跡の憂鬱にヒビを入れるかのように、
キラリと乾いた響きをちりばめて、たった一つが転がった。
漆黒の帳の向こうへ、禍々しささえ醸し出す三人の背が消える。

戦いの後にもたらされた、深く深く押し包む冷ややかさに守られながら、
声を噛み締める者、慟哭する者、『世界』の亡骸を睨む者、目を背ける者。
紛うことなき、確かなたった一つの現実を突きつけられて、千差万別の反応を示す。
失望と、憤怒と、悲嘆と、無念と、あらゆる苦が幾重となく連なり合う。
しかしそれでいて、何の行動も起こせない彼ら。
魂を失って、静かに狂い、腐りゆく細胞。

誰かが吼える。裏切り者!亡者を真似て喘ぎ泣く声。
得物を抜き払い、小童のように辺り構わず振り回す。風切り音。
呪詛。罵声。その場に突っ伏した者がいた。
定まらぬ思考群。終わりの見えぬ混乱。崩壊する理性。
何もかもブレる。

凄絶なる宴のボルテージが、ついに最高潮に達さんとしたその時、
暗がりを切り裂く真っ赤な閃光が迸った。視線が集中し、双眸が激しく瞬かれる。
徐々に闇を押しのけて広がる、その紅の中心に、萌えいずるように現れる者がいた。

燃え上がるが如き金髪。ワインレッドのジャケットは皺が目立つ。
その内に着た黒いシャツには、トレードマークの業火が躍り、
腰履きのベルボトムデニムのサイドには、白い火が走っていた。
不貞腐れた表情のまま、右の手にジッポーを弄びつつ――。

「マジかい。」

溜息を漏らして苦笑いする『審判』。
その背後から、ヒョッコリ現れたサングラスは、
本来自分が居るべき群れへ交わり、名も無き一人に戻る。


210 :名無しになりきれ:2009/10/30(金) 23:47:12 0
靴音を遺跡の岩壁に染みこませながら、『審判』は、
無残に破壊し尽された『世界』の肉体へと近づく。
見下ろしていた。かつては見下ろされる側の者が。

「ふぅん。」

弔問の言葉にしては、余りに呆気がなさ過ぎる。
直後、先程から『審判』の身体を貫いていた殺気は、人間の腕に姿を変えて、
彼の胸倉を鷲掴みにして激しく揺さぶる。

「『審判』……貴様ァ!!」

うざったそうに、胴間声から顔を背ける『審判』に向かって、
また別方面からの怒号が吹きかけられる。

「本来ならば!お前が身を挺してでも、主を守るはずだったのだ!
 それを!お前は……お前はッ!!」

「過ぎた事だ。」

打撃音。床に突き転がされた『審判』は、
仰向けに倒れこんだまま、起き上がろうともしない。
息を呑む側と、嘲笑う側と、二分された群集の中、大の字に寝転ぶ男がたった一人。

「んで。お前らはこれからどうするの……。」

「そっ、そう言う貴様はッ!」

「答えられねぇワケか。」

『審判』の声に凄みはない。だがそれがかえって、凡人らには不気味に感じられた。
重たげな瞼の隙間から、辺りをぐるりと見回して、彼は上半身だけを起こす。

「じゃあね、そうだな。アルカナに未練はねえが、尻拭いくらいはしてやらぁ。」

言葉を遮る者はいない。『審判』はフンと鼻息を荒げる。

「これよりアルカナは……一旦、俺の指揮下に入って貰う。」

僅かな間の後、遺跡の岩盤を揺るがすとてつもない悪罵。それに混入する歓声。


211 :名無しになりきれ:2009/10/30(金) 23:49:07 0
「『杖』如きの下衆部隊を率いた貴様が、指揮だと!」

「今まで、『世界』にへーこら頭を下げていただけのお前らが、行動を起こせるとでも?」

巻き起こった拍手に、薄汚い指斥の声は押し込められる。
『審判』は、ニヤニヤと底の見えぬ微笑を浮かべながら、いよいよ両脚で地を踏みつけ、仁王立ちになる。

「そういうこった。とりあえず、まずは幹部連中へ通達。
 連絡手段のある者はここへ……至急、アルカナ本部へ帰還するよう要請しろ。
 一応、『世界』の事は適当にぼかして伏せとけ。
 誰かさんみたいに取り乱されちゃあ、眼も当てられねえからな。
 連絡つかねえ場合は、まあ放っといとけ。対応はまた後程だ。
 それと、術師共。『力』を忘れるなよ。転移術式で、本部へスッ飛ばしておけ。
 作業が完了次第、ここへ集合。欠員の無いよう確認しとけ……」

渋々ながらも速やかに命令に従う者に混じり、反抗心を隠そうともしない分子も存在していた。
だが、『審判』にはそれがむしろ心地良い。
あるいは、他人の反感を買うことこそが、自分が自分たりえる意味であると信じかけている。

「どうやら、残念ながらおっ死んだ奴もいるようだが、
 埋葬する暇も、ホトケを持って帰る余裕もねえ。
 『世界』が倒れて、奴の『眼』の能力が消えたってコトは……分かるだろう?
 まあ、その気があるってんなら、今の内に黙祷くらい捧げといてやれ!」

いい加減な十字を切る『審判』。
その横目で、『世界』の遺体を取り巻きうろついている一団を瞥見する。
どこまでも未練がましいその姿に、彼の心には何の情も湧かなかった。
向かい風に帆を張った挙句、船が転覆してなお、しがみ付いて離れぬ奴ら。

212 :名無しになりきれ:2009/10/30(金) 23:50:08 0
「……さて、カタは付いたな。付かなきゃ困る。
 術師全員、続けて悪いが前へ。全員を囲むように転移陣を描け。
 もちろん転送ポイントは本部だ。完成次第、再度欠員の確認の後、起動させろ。」

滑るように動き出した術師は、這い蹲って陣の制作を急ぐ。
『世界』に取り付いていた者たちも、やはり自分の身が惜しいと見えて、
早々に、徐々に完成に近づく陣の内部へと身体を収める。
だが、肝心の『審判』はその円から一歩踏み出し、背を向けて歩み去ろうとする。

「ちょっと、『審判』様ァ!どこへ……俺たちゃ、どうすりゃイイんすか!」

「そうだ!貴様、自分から指揮を執るといったにも拘らず、
 中途半端なまま逃げのびる気か!!」

『審判』は振り向きもせず、上げた左手をヒラヒラと振る。

「ちょっと用事を済ませるだけだ。
 ……大丈夫。本部に戻って、俺より甲斐性のある幹部に縋りゃいい。」

「そりゃ、もう『審判』様は戻ってこないって事っすかァ!」

「さあな。」

沈黙。

「……起動します。」

「頼んだ。」

碧色の光輝に後押しされるかのように、彼は往く。
間もなくその背後に、静寂と暗闇との二重併せの幕が下りた。

213 :名無しになりきれ:2009/10/31(土) 21:31:14 0
────っ!?チィッ、死なば諸共…か!?

(電撃を受けて尚迅速に機体を操作するムライ。その原動力──即ち「気合」は、アリス=シェイドの予想から完全にはずれたものだった。
 故に判断が一瞬遅れ、対策できるはずの鋏を正面から食らった。
 さながら電圧計の端子部分を挟むアレのように、がっちりと挟まれたままに自身が与えた魔力による電撃を直接食らう事になる)

…ぐっ…がっ…アアアアッ!
不味い…だがそれはヤツとて同じの筈……真逆、このまま共に死ぬ気か!?


…クク…。貴様と道連れなど───死んでも御免だなァッ!


(言い放ち、身に残った邪気を一時的に片手に集中させる。やがて手の中で渦巻く球体の魔力塊を作り、それを装甲越しに叩き込んだ)

・………──────届けッ!

(ライトムーバ−の右鋏を、深淵を覗くようなどす黒い色の影が走る。
 やがて鋏を飲み込み、それから少しして右鋏の操作が一瞬だけ鈍った。
 シェイドを圧迫する力もやや弱まる。その隙を見てするりと離脱した)

214 :名無しになりきれ:2009/10/31(土) 21:32:04 0
さて…、
「邪気とは、我等のエネルギー概念を打ち砕く物質である。
 選ばれた者のみが選ばれた眼とともに所有するこのエネルギーは、使用者によって炎になり水になりえる。
 エネルギーの性質を「眼」によって変換させる事が可能なのである。
 私が思うに、このエネルギーは元来何にでもなれる性質を秘めているのではないだろうか。
 この過程が正しければ、邪気を持つものにしか分からぬ眼───邪気眼は、そのエネルギーを別のエネルギーに変換する変換機ということになる。
 もうひとつ気になることには、邪気眼使いの中にはその邪気を用いて念話を送り合う事ができるという事だ。
 これは邪気眼特有の能力ではないと言う…ならば邪気眼使いである彼等は、邪気を他のエネルギーに変換して利用、
 加えて邪気自身をなんらかのエネルギーとして「眼」を用いずに利用できるのではないだろうか」

────とある邪気学者の論文だ。なかなか面白い仮定だろう?

理屈は簡単…私の体に残る邪気をかき集め、貴様の鋏に向けて放った。それこそ「他のエネルギーなど吹き飛ばすくらいの」勢いでな。
平たく言えばまあ、一時的に電力・魔力を通わなくしたということだ。私の邪気でな。

(眼前に立つライトムーバ−を一瞥して)

…ふむ、どうやら互いにボロボロらしいな。
貴様は私におん(怨)があるようだが、生憎私の方は特に貴様に固執する理由も無い。

私も今の力押しで邪気を使い切った……。ここは一度、退かせて貰おう。

(白衣の袂から野球ボールくらいの玉を取り出す。それは見た目どおりの煙玉。
 火をつけた瞬間に強烈な音と光と煙を発して燃え上がり、白色の研究者を覆い隠した)


「次」は「壊す」。我が失われし研究対象の分も含めてな──────。


(ぞくりとした冷たい声は、煙の向こうへ霞のように消えていった)

215 :名無しになりきれ:2009/11/02(月) 00:27:38 0
リクスがその部屋に足を踏み入れたとき、アルカナを統べていた者はすでに息絶えていた。

(先ほど消えた強大な邪気はおそらくこの男、『世界』でしょうね。『未来』に打ち倒された『過去』、というわけですか。)

リクスは数分前のことを思い返す。

5分ほど前、リクスは困惑していた。
あまりの邪気の干渉により自転車の自動ベルが壊れ鳴りっぱなしに。今は断続的な爆音によりかき消されているものの、それもいつ止むか分からない。
自転車を放棄しようとしたその時、リクスは一人の青年に出会ったのである。
どうやら小アルカナの一人らしいその男から、リクスは多くのことを聞き出すことに成功する。
先で戦闘しているのは遺跡への侵入者の<Y>、アスラ、裏切り者の元『太陽』、そしてアルカナの首領『世界』であること、その他の侵入者の行方、すでに判明している能力etc…
尋問は有意義に終わり、リクスは彼に壊れた自転車をプレゼントして(無理に押し付けるとも言う)そのまま最深部へ向かう。
残されたのは、ハンドルを手に氷で括りつけられた一人男だけであった。

(この先にいるのは『世界』。しかもプレートを所持しているようです。これは、好都合ですね。)

リクスの任務のひとつは悪意者にプレートを渡さないこと、もうひとつはこの遺跡に巣食う危険人物を葬り去ることである。
仮に侵入者たちが危険人物たる『世界』を倒してくれれば大歓迎。
そしてリクスは「アルカナの残党が襲ってくる危険がある」などと理由をつけて彼らの脱出に同行しながらその人となりを見極める。
人格、実力ともに問題がなければプレートはそのまま差し上げてもいいし、場合によっては遺跡を出た後に手段を選ばずプレートを奪い取る。

こうしてリクスの行動方針が立てられ、冒頭のシーンに戻る。



(まずは『世界』に向いている彼らの関心を私、そして「脱出」に向ける必要があります。)

「どうやら、決着がついたようですね。」

まずは当たり障りのないことを言いながら相手の出方を見る。3人は遺跡の最深部まで至った手練。だが、出会い頭に相手を抹殺するような人間ではないらしい。

「申し遅れました、私はリクス・クシュリナーダ。三千院家の執事、というよりここでは邪気眼使いであることの方が重要でしょうね。」

そう言いながらもその身から溢れる邪気は収め、敵意がないことを示す。
テストはもう始まっている。協力するか、敵対するか。見誤れば死が待っている命がけの対話。
しかしリクスはまだ知らない。<Y>もステラもアスラも、そもそも試す必要などないような人物であることを。



216 :名無しになりきれ:2009/11/03(火) 08:40:42 0
(眼前の屍を確認し、銃口を一吹きする。残りの【アルカナ】が行動を起こす前に、できるだけ雰囲気を壊さぬように《Y》を担いで広間から退室する)
(【アルカナ】の視界から外れたのを確認してから、どっと疲れたように座り込んだ)

……ふう。

あーもう、ホント寿命縮まった。あそこで残党が逆上したら私ら確実に死んでたね…。
ラスボス倒してエンディングで死ぬなんてシャレにならないよ。あー生きてて良かった。

…ま、ひとまずお疲れさん。【世界】征服、これにて終了ね。

本当なら宝物庫に直行したい所だけど……肩のこいつがいるし、どっかで一旦休んだ方がいいかな。
追っ手が来ないとも限らないし、とりあえず急いで───────!?

(突如、奥から執事服の男が現れる。とっさに肩に担いだ《Y》を床に置き、懐から【世界】を撃った自動拳銃を抜いた)

「どうやら、決着がついたようですね」

(……決着?この妙に落ち着いた物腰…敵じゃないの?)

…ステラ、こいつは…?
見たことないって顔だね…じゃあ【アルカナ】ではない…か。
(だけど…出てくるタイミングといい、胡散臭いのも事実。とりあえず用心しないと…)

「申し遅れました、私はリクス・クシュリナーダ。三千院家の執事、というよりここでは邪気眼使いであることの方が重要でしょうね。」

…三千院家?まさか───《世界皇族》の?まーたとんでもないのが出てきたわね……。

(拳銃を構えつつ)
名乗られたら名乗り返すのが礼儀だけど、私はアンタに名乗らないよ。
礼儀知らずってワケじゃないけどさ…悪いけど、今のアンタは名乗れるほど信用できる存在じゃないのよ。

敵じゃないのなら、三つ四つ質問に答えて欲しい。

1つ、アンタが…否、《三千院》がこの遺跡に潜った目的は?
2つ、邪気眼持ちっつったけど、アンタの“眼”の能力は?
3つ、この先で起こった事が何か知っているのか?

(コイツの態度は敵とも味方とも取れる…味方…だったらいいんだけどね)

217 :名無しになりきれ:2009/11/03(火) 10:45:21 0
氷山が破られたことなど気にもとめなかった。
彼は騎士が次は何をするか楽しみでしかたなかった。
少し何か言おうとして、それは騎士の声に遮られる

「ヴァンド・・・ジェ、ハック(雷は怒る)」

迫る雷が予想外に強く、鎌だけでははじき返せなかった。
焦げる妙な音と共に彼の右腕が雪のように溶ける。
しかし、それでも笑みは崩さない

「生憎僕は邪気眼が一人歩きしてるよーな存在でね、人と思わないでね?」

溶けた右腕が冷たい地面とつながり、彼は呟く

「氷庭(アイスガーデン)」

相手を凍り付けにする氷の花が、咲き誇った

218 :名無しになりきれ:2009/11/03(火) 13:43:29 0
ライドムーバーの鋏をジャックされ、シェイドの戒めが解かれる。
同時に放たれていた雷撃術も掻き消え、戦闘は振り出しに戻ったかのように思われた。

「く……そ……耐魔装甲越しにインターセプトだと……?なんつう超絶邪気……だ……よ」

『むらい!いきてる?だいじょぶ?』  『全身被撃。身体機能低下顕著』

度重なる直接攻撃。ムライはその技能こそ超人的ではあるものの、生身での戦闘能力、特に防御性能は常人級である。
上位の雷撃術を立て続けに喰らって、そうそう意識を保てるものではなかった。

「でも……俺は死んでねぇ……!死んだ奴より……頑張れなくてどうする村井浩介……!!」

「…ふむ、どうやら互いにボロボロらしいな。
 貴様は私におん(怨)があるようだが、生憎私の方は特に貴様に固執する理由も無い。
 私も今の力押しで邪気を使い切った……。ここは一度、退かせて貰おう」

眼前でシェイドが一方的にそう言い切り、そしてその言葉が、ムライを現実に引き戻した。
まだ一部ほどしか回復していないライドムーバーの駆動機関を無理やり引っ張り、六脚の一本を踏み出した。

「逃げるのかよ……?てめぇにはまだあいつらの一矢も報いてねぇんだ……!!」

しかしそれ以上が、動かない。気力だけで身体を動かすにも限界があった。
細胞の一つ一つが、これ以上の稼動を無謀だと告げる。それでもムライは前へ進もうとして。

『むらい!うごいたらしんじゃう!!』

バチリ、と頭の後ろで何かが弾ける音がした。
確認する暇もなく、ムライは眼球をぐるりと回転させて白眼を剥き、コンソールの上に突っ伏した。

『らいてぃ……?』

ムライの後頭部があった場所に、一本の内部作業用マニュピレーターが延びていた。その先で、微弱な紫電が光を放っている。

『戦闘続行不能。村井、制動不可。安全最優先――』

これ以上無理に身体を動かせばムライは本当に命を燃やし尽くしてまで追いすがるだろう。
そう判断したライティが、マニピュレーターの非常機能――侵入者撃退用スタンガンを用いて、ムライを気絶させたのだ。

『むらい、だいじょぶなの?』  『脳波安定。心拍順調。――身体影響無。気絶』

あくまでムライのサポートAIでしかない『左右』が、初めてとった独断専行だった。ムライを護るために。
メインモニタでは、煙幕の向こうでおぼろげな人影だけとなったシェイドの姿が映り続けている。

「『次』は『壊す』。我が失われし研究対象の分も含めてな──────」

沈黙したライドムーバーの中で、冷ややかな捨て台詞だけが木霊していた。

219 :名無しになりきれ:2009/11/04(水) 21:45:41 0
『保守』を行使する――ッ!

220 :名無しになりきれ:2009/11/05(木) 00:20:53 0
(そういえば、『世界』が死んで、創世眼が失われたら――私や『星』や、ヨコシマキメはどうなるんだろう)

アスラについて最深奥を出ようとしたとき、不意に着想した。
ステラは創世眼によって再現されたただけの、言わば元死人。細胞や体組織の組成は同じでも、生者とは異なるカテゴリの存在。
彼女は自分の死を経験しているし、記憶に連続性こそあるものの、『太陽』はかつて滅びたステラ=トワイライトではない。

(本当は刺し違えてでも『世界』を斃すつもりだったけれど)

詮無きことではある。早々に二度目の命を散らしてしまった妹とは違い、ステラはアルカナの重鎮を任されていた。
創造主亡き今、『創られた』存在であるステラがこの後に及んで生にしがみつく道理も権利もない。それでも、

(また死ぬのは、嫌だな……)

何れにせよ、ヨコシマキメがいつ再び無に帰すか解らない以上は迅速に離脱するのが吉だ。
遺跡が消えなければよし、消えたら今後の身の振り方について考えればよし。
それに、一刻もはやくヨシノの安否を確かめたかった。『腹』の破壊は成功したようだが、彼の心中を考慮するに、刺し違えていてもおかしくはない。

思考が前を向いたそのとき、向かう先から執事服の男が歩み出てきた。
如才ない雰囲気を纏う男からは遠めにもはっきりとわかるほどの邪気。

(新手――!?もう邪気も残ってないっていうのに……!)

ステラは武器を持たない。能力と術式があれば大抵の敵は片付くからである。
これまでにはなかったことだが――『世界』戦で持ち得る邪気をほぼ使い尽くしたステラは、恐ろしいほどに無力だった。

「どうやら、決着がついたようですね。」

「敵じゃないのなら、三つ四つ質問に答えて欲しい」

自動拳銃を構えたアスラが対応しているうちに、どうにか武器になるものはないかと思索を巡らせる。
こういうときでも舌の回るアスラは実に頼れる存在だ。ステラとて口下手ではないが、この女の口八丁(減らず口ともいう)は常軌を逸している。

(敵でないのが一番だけどね……)

逡巡もそこそこに、懐で何かが不意に震えた。取り出してみればそれは『世界』戦の前に外した髪留めである。
アルカナ汎用通信術式の媒体でもあるこれが反応するということは、何か早急の伝達事項があるということである。
裏切り者の『太陽』にさえ連絡が来てしまうのは、『月』の不在で一元管理ができていないということだろうか。

『――アルカナ全幹部に告ぐ。緊急事態につき至急本部へ戻られたし。繰り返す。アルカナ全幹部に告ぐ――』

(これは……遺跡に出向いてるアルカナを呼び戻す『ディストレーションコール』……!)

どうやら『世界』の死に感付いたものがいるらしい。『世界』ほどの強大な邪気が消えれば誰でも気付くのだろうが、
実際に確認ののち本部へ呼び戻す信号を送れるのは――同じ大アルカナを除いて他にない。

『世界』を斃した下手人を総力で潰しにくるか、あるいは新たな方針を立ち上げ世界を侵そうとするつもりか。
いずれにせよ、状況は大きく動く。

「シスター、執事の人!――とにかくここから出よう、火急に!!」

ひとしきり質疑応答を終えたらしき二人へ向かって、ステラは青ざめながらまくし立てた。

221 :名無しになりきれ:2009/11/05(木) 02:30:21 0
「……」
ヨコシマキメ遺跡。現代に蘇り、そして再び滅びていく怪物の口腔。
滅び行くその遺跡の入口に、金の髪の少女が立っていた。たった一人で。
その少女の名前を、リバイヴという。
彼女の一族は代々ヨコシマキメ遺跡を監視し、邪気眼を持たぬ者や、力が足りないと
思われる者たちに警告を与え、ヨコシマキメから手を引く機会を与える事を義務としていた。
そしてリバイヴはヨコシマキメの監視者を名乗る一族、その最後の一人だった。

そう最後の一人『だった』のだ。

「……やれやれ。よもや終わりに来てようやく、自分が『いない』事に気付くとはな」

思えば、運が無かったのだろう。
Yやアルカナと言った現代の侵入者を目視したにも関わらず、生まれてからずっと遺跡の入り口で
暮らして来た故に、その姿が有していた時間の違和感に気付けなかった。
遺跡から出た事すら無かったので、外の様変わりに気付けなかった。

今の今まで、遺跡が一度滅び、自分がそれに巻き込まれ死んだ事も思い出せなかった。

あるいは、これはこのリバイヴという少女の宿命なのかもしれない。
生まれてから狭い世界しか知らず、蘇っても尚、世界(モノガタリ)に何も与える事無く消えていくという。
……だが、それでもリバイヴは満足だ。

「……そう、満足でなければいけないのだ」

自分に言い聞かすように呟いたその声は、震えていた。

「父様や母様、私の祖先。彼らの誇りを守って、監視者として死ねる……はは、すごいな。
 私は立派なヨコシマキメの監視者になれたじゃないか」

呟けば呟く程に、リバイヴの声に混じるそれは大きくなる。鳴り響く地鳴り。崩れる石壁。
それらをヨコシマキメの中で感じながら、とうとうリバイヴはうずくまった。

「…………本当は、いろいろ欲しい物もあったんだがな」

「……可愛い服も着てみたったし、美味しい物も食べたかった」

そして、終わりを前に「監視者」である為に心に纏った、分厚い鎧が剥がれ始めた。
だが、それはあまりに遅く……いや、だからこそなのだろう。
もはや自身を救う物は何も無く、誰にも声が届かないからこそようやく呟けたのだろう。
自分の中に閉じ込めてきた、本当の気持ちを。

「……ヨコシマキメの外の世界、見てみたかった」

「……トモダチって何なのか、知りたかったな」

だが、それでも、それでも最後の願いだけは口にしなかった。
それはリバイヴという少女が、最後に通そうと思った意地だった。
だから、リバイヴはその意地を、心の中だけでそっと呟く。

(……本当は、もっと生きたかった……死にたくなかったな……)

一際大きくなった遺跡の鳴動。大きな岩々がリバイヴの周囲に落下していく。
それは、終わりの時間を告げる様に。

――――哀れな少女は濡れた目を静かに閉じ、その時を迎える。

こうして、世界が救われた傍らで、救われないまま一人の少女は終わっていくのでした。

222 :名無しになりきれ:2009/11/05(木) 12:33:07 0
何で名無しで書き込んでるんだ?このアホは

223 :名無しになりきれ:2009/11/05(木) 16:14:22 0
929 :名無しになりきれ:2009/11/05(木) 13:52:07 O
邪気眼はなんでコテつけてないの?
すこぶる読みづらい

224 :名無しになりきれ:2009/11/05(木) 23:45:59 0
ジャッキー

225 :名無しになりきれ:2009/11/06(金) 20:07:16 0
猛進するイアイと雷電は、ほぼ同時に青年を直撃し
その炸裂で舞い上がった砂埃と、鼓膜を焼くばかりの激音が
しばしの間、五感の内の二つを停止させる

(終われ……)

視線だけは、青年のいるであろう方角に向けながら
手探りで剣の柄を捜しあて、軽いうめきを漏らしつつ、地面から引き抜く
常人にはとても扱いきれぬ、と言うより
到底その存在すら思いがけない、弩級の重量と豪壮さを併せ持つ片刃剣は
如何に、普段より得物として駆使し続けている自由騎士でも
イアイの後の萎えた両腕で以っては、構えることすら難儀だった
砂の霧が晴れゆく中、精彩を欠き始めた眼光が捉えたものは――

(なにイィィィィッッ!?)

夢の中へ、脳を半分ほど溶かしかけていたところ、完全に目が冴えてしまった
青年は凍てつく笑みを湛えたまま、まだ生きている
それとも……生きているように見えるだけなのか
ぶらりとした立ち姿をした彼の右手は、既にヒトの一部としての形態を失って
崩れた雪解けへと姿を変え、静かに地面へと垂れ下がっている
絶句し、後ずさる自由騎士。汗が凍りつく

「生憎僕は邪気眼が一人歩きしてるよーな存在でね、人と思わないでね?」

どこまでも軽いその口調が、自由騎士の毛羽立った神経を逆撫でする
やや下がり気味の刃の切先がかすかに震えているのは、寒さの所為だけではない
或いは、人が神と邂逅したかの如き、畏怖の為なのかもしれない

神――その形容は、あながち外れているわけではなかろう
青年の存在は、生物としての律を、とうに超越しきって
邪気眼としての究極へと近づきつつあった
青年は、邪気眼使いでも、邪気眼そのものでもない
災害や自然現象、果ては心霊、精気と称される、超常的な「何か」だった
ではそれはもはや、一種、神と呼ばれるべきものなのではないか
と、自由騎士は青年から、言葉以前に優れた、形のない意識体を受け取って
脈動し打ち震える思考の端で、秘かにそう感付いていた


226 :名無しになりきれ:2009/11/06(金) 20:08:26 0
(勝てるのか?)

答えの決まりきった自問
だがその一方で、己にまだ戦意が残されていることに驚く
自己最高の技であるイアイをして
片膝すら付かせられぬ手合を相手取る現状において――
否。むしろ、だからこそであった
利益主義の、他愛ない傭兵である男の血管にも
戦士としての血は絶え間なく、いよいよ勢い良く流れている

超えてみたい

今一度両の腕に、燃え滾る熱を宿して、一息で巨刀を掲げ、大上段に構える
そして疾駆。全身を投げ出すようにして、青年へと殺到する
凍気に喘ぐ骨髄が、錆び付いた軋みをあげるが、騎士の顔に苦痛の色はない
麻痺してゆく感覚。恐怖さえも、威気すらも……凍り果てる

「氷庭(アイスガーデン)」

男の決死の突撃を阻み、地より咲き出づる氷の花々
気温を一気に氷点下まで引き締めて
彼に喰らい付くが如く、透き通った百花繚乱を誇り
皮膚を破り、肉を裂き、その花弁は赤々と着色されてゆく
引き千切られる己の身躯を顧みず、猶も騎士は、青年へ向けて突貫するが
リミットを突き抜けた激痛に、脳は悲鳴をあげ
彼の愚行を制しようと躍起になる
次第に動きの鈍る騎士を封じ込めんと、更に氷の花はその数を増やす

「フェーン……」

回らぬ舌で火の呪文を唱えかけ、止める
せめてヨコシマキメを見つけるまでは、魔力は温存したい
だが――

「フェーン・ロ・タージェ・グロウズ!!(炎螺旋の降臨)」

ケチな考慮必要無し
騎士にとっては、目の前の戦いこそが、今現在の全てなのだ

両手のガントレットから吹き上がる炎は、呪文の通り螺旋を描いて拡散し
彼を閉じ込めつつあった氷の塊を蒸発させ、濃霧を作り出す
その中で弾ける足音が、一つ二つ三つ……コート姿の青年を廻る
炎の勢いは更に激しさを増し、末期の一息よとばかりに
灼熱と紅蓮を撒き散らし、霧を吹き飛ばした

その一幕の後、騎士は青年の視界から己を消して
血みどろの体を引き摺ったまま、彼の背後より
ブロンドヘアの向こうに息づく脳髄を狙い済まして
僅かに露の付着した巨刀を突きつけていた
虚空に揺らめく魂を噛み締めながら


227 :名無しになりきれ:2009/11/07(土) 15:30:51 0



 たゆたう無意識の揺りかごで、鷹逸郎は夢を見ていた。


 彼女は先程、遺跡に入ろうとする鷹逸郎が出会っていた少女だった。
 快晴な青空を渡るそよ風に金色の髪を遊ばせて、少女は高台から町を見下ろしていた。

 たたずむ彼女が背負うのは、大きな石窟。
 異様な存在感をまとっているソレは、数多の賢者も愚者も葬ってきた《怪物の口腔》ヨコシマキメ遺跡。
 まるでぽっかり口を開けているような入口は、なるほど、その異名に相応しいといえた。

 彼女には、祖先より連綿と受け継がれた宿命があった。
 遺跡の番人。いや、監視者と言うのが近い。
 生半可な知識や実力で遺跡に挑戦しようとする者に警告をすることで、思い直すきっかけを与えてやる役目を生まれながらに背負っていた。

 だから少女にとって町とは、眺め見下ろすものでしかなかった。

 ヨコシマキメ遺跡を背負う少女には、知らないものが多い。
 例えば、女の子が着飾るような可愛い衣装だったり。
 例えば、日々に活力をもたらす美味しい食事だったり。

 例えば、彼女が宿命に縛られた遺跡の、外の世界だったり。

 例えば、悲しさも喜びも共に分け合える、トモダチだったり。

 それはきっと、珍しくないこと。
 長く短い人生で、きっと誰もが一度は普通に経験していること。

 そんな普通を、少女は知らなかった。

 この高台からは、広くて身近なはずの町並みがひどく小さく遠いものに見える。
 きっとあそこには、少女の知らない楽しいことがたくさん溢れているに違いなかった。
 そしてそれを最期まで知ることなく死んでいく宿命なのだと、少女はそれだけを知っていた。

 高台から吹いたそよ風が、遠景に霞む町へと渡る。
 少女は風に焦がれながら、ずっと町を眺めていた。


 それはきっと、鷹逸郎の生きていない時代の話。
 たゆたう無意識の揺りかごで、鷹逸郎は夢を見ていた。
 悲しい、夢だった。




228 :名無しになりきれ:2009/11/07(土) 15:32:05 0

(ゴツン)
(頭とゴツゴツした地面が衝突した音が鼓膜を揺さぶり、鷹逸郎は覚醒した)
(後頭部と眼窩に鈍い痛みを感じながら、岩肌に手を付いて何とか上体だけ起こす)

(右手に甦る感覚。見ると、そこには金属板か木片か区別のつかない板きれが握られていた)
(その”色”で、鷹逸郎は思い出す。【アルカナ】との激戦の数々と、自分が仲間と歩んできた足跡)
(数々の出会いがあった。その奇跡的確率の累積の上に今いるのだと思うと、何だか不思議な感じがする)

(『邪気眼使いは引かれ合う』、という言葉があるが、対象外の自分は一体何なのだろうか)
(邪気眼デビューとかしちゃっていると考えていいのだろうか。それはちょっと考えすぎか?)
(まあ、いいか。無垢な色をした板きれを右の手に握りしめる。今はそれより、仲間の安否が大切だ)

いってて、おーい、アsssss……

(勢いよく名前を口走ろうかとした矢先、鷹逸郎は押し黙る羽目になる)
(えもいわれぬ、という形容詞がこの上なく当てはまるような、素敵空間が広がっていた)
(状況確認。空間には3人、2人には見覚えがある。先程『世界』戦で一緒にいた、アスラとステラ)

(ということは、彼女らと対峙する形でたたずむ執事然とした男性は新キャラだろうか?)
(大体終盤あたりでいきなり出てくる『見知らぬ顔』は、新展開の予兆を告げる役目が多いが)
(咽せるような邪気は感じられない。しかしこの張りつめる緊張感では、空気読めない発言をしたなら即ぶち殺されかねない)

(状況確認が済んだなら、次は状況整理とそれに伴う身の振り方の決定および実践が肝要)
(気絶したはずの自分が何故移動しているのかについては、この際因果地平の彼方に捨て置く)
(それよりもずっと気になることが、執事然とした男性の口から軽やかに告げられた)

さ、三千院……せかいきぞく? な、なんだか耳にしたことがあるような、ないような。
      う ち
もしかしたら結城家と関係あったりするのか? 俺は分家の人間だから知らないのかも……。

(鷹逸郎はあの『結城』の人間とはいえ、第百八分家という凄まじい遠戚の出身である)
(何か良からぬパイプがあったという『本家』の事情は知る由もなく、ほぼ一般人と言っていい)
(もっとも第百八分家はその”数字”が示す通りただの分家ではないのだが、鷹逸郎はそれを知らない)

(ふらつく上体を岩壁にもたれながら、質疑を並べ立てるアスラの明瞭な声を耳にする)
(せかいきぞくと言うからには大層な家なのだろう三千院家の、満を持しての介入。)
(「邪気眼使いであることの方が重要」という発言の意味。全てを知っているかのような口振り。)

(鷹逸郎には、それらの原因が何となく分かったような気がした。手元の雪色をしたプレートを一瞥する)
(思えば、リバイヴが何やらこれを気に懸けていた気がする。【アルカナ】も確かこれを狙っていたはずだ)
(そんな重要物件を『世界』との死闘の果て、自分色に染め上げてしまったらしい。背筋がゾッとなる)


229 :名無しになりきれ:2009/11/07(土) 15:33:46 0

(と、髪留めをした少女――確かステラと言ったはずだ――が、場を切り裂くように叫んだ)
(端正なはずのその形相は青ざめて、どうやら重大なことを伝えたいことは十分に分かった)

(青年は考える。『世界』が倒れたことは、【アルカナ】の構成員すべてに即時伝達されるだろう)
(トップが負けることは、ある頂点によって統率された組織からしてみれば致命的一撃になりかねない)
(ともすれば、優先順位の一位となるのは「危険因子の排除」か「臨時トップの決定」のいずれかが妥当だ)

か、火急…? …そうだな、その方がよさそうなのは理解したぜ。
そうと決まれば、スタコラサッサって相場が決まって……っと??

(鷹逸郎は壁の突起を掴んでいる手に力を込め、下半身を動かそうと踏ん張る)
(普段なら容易に動くはずのその足は、まるで南京錠で束ねられたかのように動かない)
(おかしい。度重なる消耗が祟ったのか、こんな場所で置き去りはゴメンだ。再び徒労を繰り返す)

おいおい……シャレにならねえぞ。実地調査で生涯を閉じろだなんてバカな話があるかよ。
くそ、こうなったら、足が動かねえなら腕がある! 結城流ほふく前進を披露する時が……!

(早速腕の袖をめくりあげようとしたその時、ふと因果の彼方へ捨て置いた疑問が再燃する)
(『世界』との戦闘後に気絶した自分が、大分離れた地点であるここに寝ていたのはおかしい)
(何かしらの力が働いたというのが妥当だろう。現実的に考えるなら、それは人力が更に妥当)

(意識を保っていた女性2人の内、体格的にそれをなしえるとしたらそれは――――)

……っていうかええぇぇえええ!? なにか、俺ってば女の人に運ばれたわけか!?
あらま恥ずかしい!! っつか足動かないんだけど何だまたお願いしちゃうのか俺は!!

(ぎゃわー! と一気にまくし立てる鷹逸郎。<Y>とのギャップが激しいが、これが素である)
(青年が勤務する八王子所在の某ミッション系大学では、生徒とさほど精神年齢が変わらないので人気らしい)

あ、足動いた……くそ、役得が……。

(これでも『世界の選択』の肩書きを担う青年である。とても、そうには見えないだろうが)

(残念ながら動けるようになってしまった足で立ち上がり、ぽんぽんとその場で跳ねて無事を確認しながら)

よし、離れるならさっさと離れちまおうぜ。早めに動いたほうがいいんだろ、ステラ。

(体力精神力共に疲弊はしているが、弱音を漏らしている場合でもない。鷹逸郎は早期行動を促した)


230 :名無しになりきれ:2009/11/08(日) 00:43:09 0
(宵闇に染まった建築群の隙間を、白衣の男が少しふらついた足取りで歩いてゆく。
 やがて男は懐の時計を一瞥し、おもむろに目の前のドアノブを捻り中へ入った)

……【アルカナ】首領を黙って死なせたのは失策だな…それはもう、カップ麺の湯切り(但しラ王除く)クラスの失策だ。私とした事が…らしくない。
結局収穫は「歪」の値と微々たる戦闘データ、それと魔槍が一本か…やれやれ。

(ぶつくさと呟きつつ、蒼と黒の光に満ちた研究室内を歩き回る。
 やがて男──アリス=シェイドは、本来の使われ方をされた事の無い応接ソファーに腰を降ろした)

助手A、眼鏡を取ってくれ…。
…掛けていったヤツか?潰したよ。

ん?…まあ…そうだな、久々に開放状態で戦ってしまったという事だ…愚かしい。
これ…封印術式は?二式か。まあ、今なら十分というところだな…。

…何だ、大学構内にいまだ侵入者あり…学長より出動令?
フン、「アリス=シェイドは敵対者と交戦中に重傷を負い、出動不可」と返しておけ…。


…少し疲れた。軽く眠らせてもらうとするよ。
A、目覚める前に新しい研究対象の一つや二つ用意しとけ。


【アリス=シェイド、睡眠により一時戦線離脱】

231 :名無しになりきれ:2009/11/08(日) 01:31:32 0
いつからか、冬は生命を凍らす雪やナイフのような風をおこし、人々を苦しめた。
そしてあまりの痛みに人々は「冬将軍」と呼んで吹雪を、冷気を怖がった。
彼の名はとうにない。人でもない彼は、ただ人が叫ぶそれ、冬将軍となった。
そして冬には彼ほど力を持つものもおらず、ただ怖がるばかり
少し、それに彼は飽きていた。

だが目の前の騎士はどうだろうか。
明らかに力量差が明白であるのに、人でもないというのに
騎士は立ち向かってくる。

それが彼はとてもうれしかった。
なにが、とはいえずとも。ただ、自分に立ち向かってくる心が。

232 :名無しになりきれ:2009/11/08(日) 01:58:07 0
だから、騎士が魔法を使って氷花を打ち破るとき、釘付けになっていたのだろう。

激しい、艶やかな炎がまるで鳥のようだ、と彼はおもった。
その性かすこしだけ、騎士が後ろで刀を突きつけていたことに気がつかなかった。
脳髄を狙っているであろう刃を微かに感じながら唇を動かす。

「・・・お見事」

先ほどの炎で顔が少し溶けてしまったからか、若干発音が悪い。
しかしそんな事など気にしないように言葉は響いた
既に水になった右腕の跡を凍らせながら彼は続ける。
鎌を静かに落としながら

「・・・今回は負けたかな。強いねぇ。」

だんだんと雲が消えていく。
暖かい日差しが降る。
それは春の訪れの様な目映さであった。

「・・・ヨコシマキメが無くなったかな。」

彼は体を寒波に変えていく。またどこかにむかうために。

「ごめん、いかせてね。」

そういったのは既に雲がきえ、彼が去った後だった。

233 :名無しになりきれ:2009/11/09(月) 01:25:16 O
放たれた白の剣戟。それを、剣士と人形は児戯と言わんがばかりに迎撃、撃破する。
だが

(隙……有りッ!)
《飛燕》は『今』への布石。差し当たり二人の注意は、大半が迎撃という行動に払われた。

刹那、逸れた注意。それを利用して黒刀の女へ迅雷の如く肉薄し、心の臓へ白刃を突き立

「ッレイィーーーーーーーーーーーーーー!!!」

ジープが現れた
魔剣士の女を押し倒した
幼女 逆レイプ 

三行で叙述すると、こんな事が起こった。

「……………」
余りの事に、思考はフリーズしてしまう。さながら、多過ぎる命令(コマンド)を前にエラーを起こす旧世代コンピューターの如く。
魔剣士の女が拘束から抜けるのを見て、ようやく思考は再起する。

(あのような小さな体躯で、自分の数倍もある者を押さえ込むとは……
間違いなく邪気眼使いだろうのう。
だが、あの顔どこかで………)

脳内に蠢く無数の情報群。乱入者を見やると、若葉色のマント、鮮やかな金の長髪、整った幼い童顔、自分の腰ほどもあるかも怪しい短躯。
十に満ちるかも怪しい見た目が、情報群から正解を引き摺り出した。

「ピアノ殿……?」

口から出た名は、かつて彼女が己に名乗った名前。

どれ程、前の頃だっただろうか。
【シャイアーテックス】、【結城財閥】、【SAGA】、【泡沫の騎士団】、【I・G(インペリアル・ガーディアン)】………etc
かつて、様々な組織が跋扈し世界の覇権を争った、いわゆる『大戦期』。
無論【カノッサ機関】に属する自分も、様々な抗争への出撃を強いられた。

その中に【オーケストラ】という、カノッサの傘下組織と共闘した戦いがある。彼女とまみえたのは、その戦の最中。
年端もいかぬ童女が敵を葬っていた光景は、深い驚嘆と共に未だに記憶に焼き付いている。

「久しいのう、ピアノ殿。健勝のようで、何よりじゃ。
相変わらず変わって……おら……ぬのう……」

そう、変わっていない。全く、変わっていない。
『出会ってから長い時を経たにも関わらず、幼いまま何一つ外見が変わっていない』。

「…………」
確かに、この界隈なら不老不死という事も実現は可能かもしれない。
いや、自分が知らないだけで、もはや現実となった事かもしれない。

だからこそ、多分の驚きと共に彼女を見据え

234 :名無しになりきれ:2009/11/09(月) 01:27:54 O







莫大な気配が消失した。
「────ッ!?」


自分が寄り添っていた『絶対』が消えてしまったかのような

『世界』すら揺らいでしまいそうな消失感

気を抜けば狂いそうになる程の違和感が

ふつふつと、沸いて来る


(……何……が!?)
甚大な『異変』の理由の想像は、決して難儀では無い。
解へ至るための道程は、ほんの少し頭を働かせるだけ。

(【世界】が───死んだ?)
それ以外に考えようがあろうものか。
二十一のアルカナを統べる『頂点』。
名や情報から、『世界』を司る眼を持つであろう者。
ならば、この違和感も合点がいく。

(ならば、この感じは───)
【世界】が滅び、なお『世界』が生きている矛盾。
実在して、存在しないはずの事象の矛盾が、『世界』に牙を向いているのかもしれない。


全員、あからさまには態度に出していないが、やはり似たような物を感じているのだろう。僅かに滲む空気が、それを教えてくれた。

(何が起きたか……正確な情報が、圧倒的に足りぬ……【アルカナ】への手掛かりは……そう)

目の前の男と人形の少女だけ。

「……名も名乗らずに、無礼を働いたな。お主は【アルカナ】の《吊られた男

235 :名無しになりきれ:2009/11/09(月) 01:33:41 O
(すいません、何故か途中で文章が途切れてしまいました。
続きです)

「……名も名乗らずに、無礼を働いたな。お主は【アルカナ】の《吊られた男》殿と見受けるが、相違無いな?」

ならば、逃がす訳にはいかない。

「……某は、緋月命と申す者。ヨコシマキメの復活と密接に関係している【アルカナ】を、調査に参った」

ここで逃がせば、【アルカナ】への取っ掛りは霧中へ消える可能性がある。

「お主も気付いたであろう?今の『消失』に。……色々と、事情を伺いたいのだが、宜しいかな?」

雄弁の銀と沈黙の金。こちらの一切を秘匿する事による『金』を捨ててでも、今は『銀』を得る必要がある。

「否という権利は───捨てて頂ければ、嬉しいのだがのう」

そう言いながら、刀は決して納めない。
穏便に済むとは思っていない以上は、納められない。

膠着が場を支配する。これを動かす人物は誰になるのだろうか、とそんな思考と共に時は移ろってゆく。

236 :名無しになりきれ:2009/11/10(火) 20:24:24 0
ピアノはレイに蹴り飛ばされ、派手に転がった

「頼むからこれからはねじ伏せるのを止めてくれ、ピアノ」

「だからって派手に蹴るのも止めてよね、レイ 痛つつ…」

ピアノはふらりと立ち上がる
彼女は能力完全依存型の能力者だ、本体の能力は一般人のそれより下回る

「それに、ねじ伏せるのをやめるのはこういう変な女と一緒にいるのを止めてからね」

ピアノは後ろのゴスロリ女を指さして嫌みっぽく言う
はだけかけたマントを巻き直すと、ふぅと息を一つ

(衛星使ってレイの位置見ててよかったわね…)

口の中でなにやらとんでもない執念を感じる言葉を呟く、と

「ピアノ殿……?」

後ろから名前を呼ばれた
振り向けば、そこに白を貴重にした和服の男

(…誰だったっけ)

見覚えはある、名前は思い出せない 100年も生きていれば記憶は曖昧になる 似た情報と混同しがちだからであって決して歳のせいでは無いのであしからず


237 :名無しになりきれ:2009/11/10(火) 20:25:09 0
「確か…カノッサの人よね?よく覚えてな………!?」

そこまで言って彼女は固まった、彼女だけではない 目の前の和服の男も"それ"を感じ取ったようだ

(下からの邪気が…消えた?)
下からわさわさと沸きだしていた膨大な邪気が消失したのだ。
オーケストラ本部で見てきた情報だと、この下には『ヨコシマキメ遺跡』があり、
そこにはアルカナ二十二柱が頂点、『世界』が鎮座しているはずで、


(『世界』が…死んだ?)

そうとしか考えられなかった
この量の邪気、気配、彼以外にいるものか

「………」

(不穏な空気が満ちる中、ピアノはレイに寄り添うように後ずさりした)


238 :名無しになりきれ:2009/11/11(水) 01:03:23 0
「ピアノ殿……?」

白き強襲者が幼き闖入者を見て、そう零した。
まるで如何わしい書物を購入せんとお忍びで訪れた書店で、同じ本を同時に手に取ろうとかち合ったときのような
具体的な気まずさを孕んだその呟きに、それを俯瞰していた『吊られた男』は聡く察した。

「はー、なるほど。どうやら白侍君とそこの発情系ロリ娘は旧知のようだね。いやはや、僕らだけ蚊帳の外とは寂しい限りだね?」

「致し方ありませんわ。如何にご友人のいないことに馴れている『吊られた男』様とて知り合い同士三人に囲まれたこの状況、
 さながら異邦人ですわ。便りのなかった同窓会にでも出席している気分でしょう」

「……いや、それは全面的にその出席者が悪いんじゃ?」

「それはそうと『吊られた男』様」

不意にマリーは話題を変えた。覆いかぶさっていたレイに押しのけられ、芝生の上を転がる幼女――先程マリーを指差して
なにやら悪態めいたことをのたまっていた彼女を上から指差し返して、言う。

「『こういう変な女と一緒にいるのを止めてからね』、と言われましたわ。直裁に申しまして、不本意です」

「いやはや、見当はずれにも程があるねマリー。君は女じゃない。――人形だからね?」

「変の方をまず否定して下さい!!」

と、そこでマリーの言葉尻にかかるようにして電子音が響いた。発信源は『吊られた男』の懐、そこにあるのは掌サイズの美少女フィギュア。
『吊られた男』のアルカナ汎用通信術式媒体はこれだった。胸のあたりの突起を押すと、フィギュアの口から殆ど金切り声に近いアニメ声で情報を垂れ流れ始める。

『――アルカナ全幹部に通告でぇす!緊急事態なので至急本部へ戻ってくだひゃあい!。繰り返しまぁす!アルカナ全幹部に通告で――』

「……『吊られた男』様、私なんだか無性に憤りを感じますわ」

「いやはや、それにしても火急のようだね。『ディストレーションコール』、アルカナ存亡の事態にのみ発動される措置だよ?」

「『世界』様の邪気が先程から感じませんわ。あまり精神衛生上よろしくない予測ですが――おそらく」

二人が密かにそんなやりとりを交わしていると、強襲者がこちらに歩み出て、口を開いた。

「……名も名乗らずに、無礼を働いたな。お主は【アルカナ】の《吊られた男》殿と見受けるが、相違無いな?」

「ん?ああ、そういえばまだ君には名乗りを上げていなかったね。いかにも、僕がアルカナ二十二柱『吊られた男』
 この娘は僕の従者にして刃にして盾にして伴侶、魔導人形のマリー=オー=ネット。君の名前と目的を聞こうか」

「……某は、緋月命と申す者。ヨコシマキメの復活と密接に関係している【アルカナ】を、調査に参った」
緋月と名乗った強襲者は、あっさりと自らの目的を述べる。

「お主も気付いたであろう?今の『消失』に。……色々と、事情を伺いたいのだが、宜しいかな?
 否という権利は───捨てて頂ければ、嬉しいのだがのう」

「はー、なるほどなるほど。いやはや、白侍君、君は話が早くて助かるよ。『今』のヨコシマキメをわざわざどうこうしようって
 ところから察するに、おおかたカノッサあたりの人間だろう。有名だからね、『人工邪気眼計画』――てっきり滅んだものだと思ってたけれど」

『吊られた男』の顔から笑みが消えた。あれほど整った顔にだらしなさを付与していた緩みは、今に限って失せている。
余裕がなくなったというよりかは、真面目に捉えているといった表現が適当か。語尾の疑問符もなくなっている。

「僕ら『アルカナ』にとって君達カノッサは商売敵で天敵だ。そして僕は早急に『本部(ホーム)』に戻らなきゃいけない。
 そこを通してくれるとありがたいのだけど、まあ君も仕事だし無理からぬところもあるだろう――一つ、情報で手を打とう」

息を吸い、こともなげに、言った。

「僕らのボスが死んだ」

239 :名無しになりきれ:2009/11/11(水) 22:39:37 O
遥か古来より、悠久の時を経て、
秘かに醸造せられし遺跡の刻を、僅かの遠慮もなく踏み蹴散らしながら、
不機嫌な面を引っさげて、『審判』が往く。
一歩踏み出すたびに、陰鬱な表情をした大気は自ら道を開け、
闇と混じり合って対流を生み、やがて失せるを繰り返した。
時折、彼の顔面に向けて、ヨコシマキメの生温かい吐息が触れるが、
意にも介することなく、足を進めるのだった。
彼が求めるものは只一つ。

『世界』を下した強者、その御尊顔を拝したい。
敵討ちなどと言った、戯けた目的を携えている訳ではなく、
さればとて、恐らくその下手人が持ち去ったのであろう、
紅のプレートなどというオモチャの、取り合いを演じるつもりも毛頭ない。
そも、創世眼の恩寵を失い、崩壊へと近づく遺跡内で、
こうして、そぞろに時間を潰していられる余裕など、欠片ほども残されていない。
本来なら、急場しのぎとしても、アルカナ残党と共に転移し、
本部へ戻ることこそが賢い選択なのだが、その一手をあえて避けた。

理由など無い。と、『審判』は決め付けている。
しかしその実、彼の心中には奇妙な念が芽生えかけていた。
『審判』の頭を、上から押し伏せていた『世界』の存在を、
跡形もなく焼き尽くしてくれた、名も顔も知らぬ人間に、
感謝なのか、恩義なのか、ともかく悪意とは全く別方面に類する感情を抱いて、
怪物の口腔内を、手探りで彷徨っているのだった。
彼らしいのかと問われれば、果たして、是なのか非なのか。ともあれ、人に矛盾は付き物である。

彼が求めるものは只一つ。だが、その一つが見つからない。
急ぎがちな足で、ぽつりぽつりと現れ始めた歪を、飛び越えてみせる。
飲み込まれれば、命が危うい、を一歩通り越して、存在そのものを消滅させられかねない。
そして次第に、その頻度を高く、その規模を大きくしつつある、怪物ヨコシマキメの動悸。
『審判』は顔を引き攣らせつつも、頭上から剥がれ落ちる岩盤を、上半身を翻しただけで避ける。
空間の歪曲も、揺れを伴う地鳴りも、大規模な空間動作の際に生ずる、一種の症候群である。
遺跡に沈殿する闇々までもが、心なしか濃度を増したような気さえした。
これ以上ない程に顔を曇らせる『審判』。その時であった。

240 :名無しになりきれ:2009/11/11(水) 22:40:30 O
「誰か……! 誰かぁ! 手が、死ぬう!!」

黄ばんだ遺跡の通路を駆け抜けんとしたところ、
右手側を貫いている横道の彼方から、余りに支離滅裂な呼び声が響く。
ご愁傷さんと、胸の内で冷たく吐き捨てながら、
脇目も振らずに通り過ぎようとしたのだが、
次の一言で、大して長くもない後ろ髪を引っ張られる嵌めになる。

「助けて……そこの人!いや、『審判』サマァ!!」

「ナンだとぉ!?」

『審判』に様などと付けて憚らないのは、『杖』の一員に決まっている。
煩わしさに顔面を皺だらけにしながら、一歩二歩と後退して、
哀れな叫びの伸び上がってきた細道を覗き込む。
遠目の上に暗闇に阻まれて、薄ぼんやりとではあるが、
確かに人間らしき影が一つ、揺らめいているのが視認できた。
分からないのは、その傍らに鎮座している一物体。
得物とは思えない。第一、『杖』に武器などが支給されるはずもない。

「……ちょっと待ってろ!」

爪先を転換して脇道へ入り、再び速力を上げようとする『審判』だが、
その頭蓋をガラスで打ち抜くかのような、鋭い金属音が襲う。
覚えず、その不意打ちにふら付いた彼の頬に、
天井から砕けた岩の破片が、紅の縦線を引く。
体勢を立て直すなり、目元を引き絞りながら、
馬の背のようにうねる地を蹴り抜いて、人影との距離を縮める『審判』。
またも金属音。鼓膜も悲鳴を挙げている。眼前まで迫っていた歪をかわす。
そうして辿り着く。影は明瞭となり、その正体を露にした。

241 :名無しになりきれ:2009/11/11(水) 22:41:22 O
やはり『杖』の者。なのだが、もはやその程度は些細な事、
その傍らに佇んでいた固形物とは、なんと自転車であり、
彼はハンドルを握ったまま、両手首から先を氷で固められているのだった。
しかも先程から、しゃっくりに似て断続的に発生している音の出所は、その自転車のベルと来た。
原因は知りようも調べようもないが、とにかく鳴りっぱなしである。今も。
余りに無様。彼の様相を、『審判』が評して曰く。

「バカかてめえは?」
「す、すいません……その、色々ありまして。」

世に、色々と称される事柄は色々とあるが、
この隊員が経験したであろう色々は、とても色々に過ぎそうである。
いたく興味の湧いた『審判』は、例の色々と、遺跡の寿命とを天秤にかけるが、
間もなく、隊員に事の顛末を尋ねることに決める。可及的省略をも求めつつ。

要は、目の前で『世界』らの繰り広げる戦いに恐れをなし、
最深部を抜けて遺跡を一人徘徊していたところ、
やけに身なりも礼儀も成っている男と遭遇、
遺跡の奥底で繰り広げられている死闘の詳細を聞き出される。
無論、初めこそ口を割る気は無かったのだが、何しろ男の舌は一枚も二枚も上手で、
知らぬうちに、自然と言葉を導き出されてしまったと言う。
更には、男が乗ってきた自転車を押し付けられて、今に至るとか。
余りに間抜け。彼の状況を、『審判』が評して曰く。

「バカかてめえは!」
「し、しーましぇーん! その、色々あったので……」

語気を荒げつつも、ポケットに保管しておいたジッポーを取り出し、点火、
その熱でもって、氷に磔にされた両手を開放してやる『審判』であった。
ついでに、リンリンと煩いベルを拳で叩き潰し、ついにその息の根を止める。

(氷の能力者だとォ?)

世界を倒した者の中に、もしやそやつも入るのかと考える。気分は良くない。
属性が正反対だからという、チンケな理由ではない。
自分の部下にこんな仕打ちをされたのでは、愉快でないのは当然。――『元』、だとは言え。

242 :名無しになりきれ:2009/11/11(水) 22:42:31 O
一息吐いた『審判』が、再びポケットをまさぐり取り出したものは、
ふと見ると、現代社会に蔓延る『ケータイ』に似て非なる、『ポーター』と呼ばれる端末。
あらかじめポインティングされた空間座標を、11ケタの番号に圧縮、
携帯電話でのアクセスと同じく、目的地の番号を入力し起動することで、
その場に魔法陣を展開、転移を行う事ができるという、最新機器である。
元はカノッサの下で研究されていた技術だが、それをアルカナに持ち込んだ者がおり、
その後、独自に開発、現在はベータ版として、一部の大アルカナ間で使用されている。
一部――独断で持ち場を離れた挙句、結局戻って来そうにない者を示す。
誰を指しているかとは、言わずもがな。

ポーターを開き、アドレス帳を確認すると、記載されているのはたった一件、
『ホーム』と、即ちアルカナ本部を表している。
ディスプレイを見やる瞳が揺れていた。
出来る事なら、『世界』を破った英雄殿と言葉の一つも交わし、遺跡の出口まで、歩みを共にしたい。
しかし――

「『審判』様?」

余りに重いその言葉。
歯軋りをして、ポーターに装置されたボタンをやたらめったらに弄り回してくれた。
使うことになろうとは。

「そういやお前……あの暗がりで、どうして俺だと分かった?」
「だって、助けに来てくれるのは、『審判』様に決まっているから!」

鋭い鉄拳が下る。

「気持ち悪ィこと言ってンじゃねえ。」
「すんませ……。ところで、主は?侵入者共は?
 この遺跡の揺れは……一体、どうなっちまうんでしょう。」
「……今は何も考えなくていい。目ェ瞑ってろ。」

いよいよ遺跡の揺れは最高潮まで引き上げられ、崩れ落ちた岩石の破片と砂塵で視界が埋まる。
よろめいた隊員の肩を、その胸にしっかと受け止める『審判』。

「『戻る』んですか?」
「あァ。……『行こう』。」

浮かび上がった転移陣は包み込むように――。
収縮。炸裂。消失。暗転。

243 :名無しになりきれ:2009/11/12(木) 19:59:14 O
「・・・お見事」

周期の短くなった自身の吐息に混じる、その声を聞く
以前のような、狂気を宿した含みが消え失うせていることは確かだが
かと言って、素直に切先を下に向けることはできない
傭兵稼業を営む者になら誰しも、油断に纏わる苦い記憶がある

カラリ、と透明度の高い音が立つ
瞳を逸らした先には、地面に転がる氷の鎌
青年は、自ら得物を手放したのだった。降伏の証とも取れる
しかし、馬鹿正直に勝ち名乗りを挙げる気は、到底持ち合わせていない自由騎士
未だ冷気から解放され得ぬ刃で以って、青年の後頭部へ照準を合わせたまま――

「・・・今回は負けたかな。強いねぇ。」

その言葉を待ちかねたとでも言わんばかりに
青空を喰らい尽くしていた灰色の雲には切れ目が入り
その間隙を狙い済まして、太陽の放つ光線の矢が
過たず、青年と騎士との間を刺し貫き、二人の距離を照らし出した
彼らの頭上には、力尽きて次第に蒸発してゆく、無数の群雲
そして、冬の呪縛から解放されて、天から降り注ぐほのかな暖かさが残された
凍てつく牢獄からようやく脱出した騎士は
尋常の感覚を取り戻した右手を頼りに、野太い柄を握りなおす

「・・・ヨコシマキメが無くなったかな。」

(!)

騎士が唯一認識できた言葉が、ヨコシマキメ、だった
同時に、己を取り巻いていた、ある強大な存在が失せてゆくのを感じ取る
その魔的圧迫感の正体は、果たして目の前の青年によるものかと推し量っていたのだが
生憎、随分と見当違いな方面へ進んでしまっていたことを、ようやく悟る

244 :名無しになりきれ:2009/11/12(木) 19:59:54 O
(では、何が消えた?)

認めきれぬその真実。依頼の失敗――死よりも重いのだ
黒く塗りつぶされた淀みの底に、思考が落ち込んで行く
そんな騎士を気付けするかのように、再び寒気が巻き起こった
殆んど反射的に、目をつむりながら後ずさり、身を守ろうと刃を引き付ける

「ごめん、いかせてね。」

どうにか、薄らと瞼をこじ開けると
その呟きだけを置き土産に、青年は跡形もなく消え去っていた
逃げられたのだろうか。否

(……逃がされたのだ。)

たった一つ与えられた答えが、それだった
瘧の落ちた病人のように、しばしぼんやりと立ち尽くす騎士
その肢体から、ゆっくりと戦闘の熱が発散され、冷却されると同時に
ある重大な異変が起こりつつあった
突如、雷に打たれたかと見紛う程、くわと双眸をひん剥いて
腹の底から唸りを搾り出しながら、その場にどうと倒れこんでしまった
無理もなかった。先程までの立ち合いに没頭している最中
全身に負った傷の生む激痛に、精神力で蓋をしていたのだが
戦いが終局すると同時に、つい気が緩んだため、苦痛の封印が解き放たれてしまったのだった
想像に耐え得ぬ、痛覚のバックドラフト現象

それでも、相棒である巨刀だけは手放せない自由騎士
真紅に染まりゆく意識を落ち着かせ、癒の術を行使しようと必死になるが
食いしばった歯の間からは、震える吐息が漏れるばかりで、呪文の体を成さない

(……こんなところで!)

脳の深部で、ブツリという音が鳴る
それぎり、騎士の見る世界は、闇に投げ出された

245 :名無しになりきれ:2009/11/12(木) 23:44:04 0
『敵じゃないのなら、三つ四つ質問に答えて欲しい。

1つ、アンタが…否、《三千院》がこの遺跡に潜った目的は?
2つ、邪気眼持ちっつったけど、アンタの“眼”の能力は?
3つ、この先で起こった事が何か知っているのか?』


最初に口を開いたのは修道女であった。その手の中には自動拳銃。この女性が今回の駆け引きのメインターゲットのようだ。

(情報によると彼女は『アスラ』と名乗る人物。どうやら3人の中では一番このような「口戦」を得意としていらっしゃるようですね。)

<Y>と思しき人物が気を失っている以上本当のところはわからないが、まずは多少の見当をつけてみる。

「ええ、構いません。まず私の『眼』、氷結眼の力はネーミング通り事象を氷結させる能力。出力はそれほどではありませんが、つい先程も『アルカナ』の方の尋問に使わせていただきました。
そしてその尋問のおかげであなた方の大まかな情報、そしてプレートを持った『世界』と交戦中ということを聞いて駆け付けたわけです。」

まず説明したのは自らの手の内。全てではないが嘘もない。そしてその流れから「なぜ事情を知っているのか」も明かすことで表面的にはあやしくないことをアピールする。

「それでこちらに来た目的は、平たく言うと危険分子の抹殺です。」
(まさか「試している」なんて言うわけにもいきませんしね。)

リクスとしても、多くを語りながら完全に欺き通す自信はなかった。相手はここまでたどり着いた手練。不用意なことを言えばすぐにその嘘を看破されてしまうであろう。
その時、運はリクスに味方した。

『シスター、執事の人!――とにかくここから出よう、火急に!!』
(どうやら、私の目的についての深い追求は後回しにしてもらえそうですね。)

一通りの質問には答えた現状、探り合うより脱出が優先されるのは明らか。流れは自らに向いている、リクスはそう確信したのだった。

『よし、離れるならさっさと離れちまおうぜ。早めに動いたほうがいいんだろ、ステラ。』
「皆さんの言うとおりですね。『世界』を打倒してしまった以上『アルカナ』があなた方を潰しにかかる可能性は否定できません。
かく言う私もここに来るまでに『アルカナ』の構成員にいささか手荒なことをしてきていますし、最悪ここにいるだけで、あなた方に協力していたとみなされるかもしれません。」

少々オブラートに包みつつも、自らも利害が一致することを明かす。後は、提案するだけである。

「そこで、私も御同行させていただきましょう。」

リクスは手元のレーダーを見せる。幸いなことに画面の範囲内にはまだ「使い手」は居ないようだが、死霊や邪気生物の類は徐々に集まりつつあるようである。

「迷っている暇はなさそうですね。さあ。」
(と、私が言っても説得力がないですけどね。)


246 :名無しになりきれ:2009/11/13(金) 12:57:35 0
・ ・  ・ ・ ・
え? 何で?
(薄暗い土石の廊下。そう漏らしたのは、短めの黒髪を荒く立たせた青年だ)
(その声色に猜疑は見られない。つまり、素朴な疑問としてつい出た言葉ということ)
(疑問を呈したのは恐らく、リクスと名乗った男が発言した内容。すなわち、同行の提案に)

(しかしそのすぐ間もなく、)

あ、あー。いや、今はとにかく時間が惜しいよな。気にしないでくれ。

(自分から話を切り替えた)
(それほど追及すべき事案でもないと判断したのか、単に空気を読んだのか)
(いずれにせよ、リクスの言う『流れ』に乗った形になる。結果的には、だが)

(青年はおもむろにジーパンの懐から、茶色に薄汚れた紙を取り出した)
(小さく折り畳まれたそれを展開し、見えてきた図柄は『ヨコシマキメ遺跡の地図』)
(細部に至るまで子細が記されており、市販品にしては"情報を載せすぎ"ている)

(その地図は、ヨコシマキメ遺跡の監視者であったリバイヴという少女から貰ったものだった)

(ふと胸中に去来した寂しさに眉をひそめたが、鷹逸郎は脱出を優先する)

地図によると、どうやら帰りのルート限定で近道があるみたいだ。
良かった……、これなら1日とかからずに外へ出られそうだぞ。

(逆に、行きのルートではそういったショートカットは決して開かないらしい)
(万一、盗掘者に発見された場合を憂慮しての措置だろうか。ならば妥当な措置だ)
(それはきっと、この《怪物》を踏破した者にのみ開かれる、《凱旋の道》なのだろう)

よし、それじゃあこれよりヨコシマキメ遺跡脱出ツアーに出発します。
迷わないように着いて来てくださーい。バナナはおやつに入りませーん。
尚、歴史的価値の高い物品を盗む行為はご遠慮願いまーす。マジやめろ、な?

(これでも『世界』との死闘の後なのだが、思ったより精神のダメージは深刻ではないようで)
(軽いジョークを一つ二つ飛ばしながら、青年はすぐ近くの岩壁に指先を伸ばす)
(すると、小刻みに震動する重低音を伴って、岩壁が色々なものを無視して横にスライドした)

(その奥には、闇があった。一面の闇が、"そこに何があるか"という視覚の一切を遮断する)

(―――否、そこには何かがあった)
(光っている。仄かに白く光り輝く何かが、階段状に上へ上へと伸びていた)
(というかそのまんま階段だった。見上げた遥かな先には、また別の白色の光が差し込んでいる)

……近っ

(日光であった)


247 :名無しになりきれ:2009/11/14(土) 00:27:12 0
「まず私の『眼』、氷結眼の力はネーミング通り事象を氷結させる能力。
 出力はそれほどではありませんが、つい先程も『アルカナ』の方の尋問に使わせていただきました。
 そしてその尋問のおかげであなた方の大まかな情報、そしてプレートを持った『世界』と交戦中ということを聞いて駆け付けたわけです。」

(氷結眼…?事象を凍結…厄介だが、ステラの能力との相性は悪いわけじゃない。戦闘になれば…逃げるくらいはできるかな)

オーケー、素直なのは助かるよ。
尋問…か。私らの情報は一通り把握されてると見て違いないわね。隠す理由もない…か。

知っての通り、私はアスラ。基督教大学の修道女と何でも屋やってるよ。
そっちの黄色いのがステラ、そこでぶっ倒れてるのが…えーと…U君だっけ。

で、もう一つ質問。アンタがこの遺跡に着た理由は?

「平たく言うと危険分子の抹殺です。」

…それは私らに喧嘩売ってると考えていいのかしらん?
あー、質問に答えてもらってなんだけど、やっぱアンタは非常に信用しづらいわ。この際ちょっと眠っててもらおうかしら─────!?

「シスター、執事の人!――とにかくここから出よう、火急に!!」

ステラ!?…成程、アルカナ直通の連絡か何かね?
【世界】が倒れてからイヤ〜な予感してたけど…あーもう、やっぱそういう展開になるわけね!

「よし、離れるならさっさと離れちまおうぜ。早めに動いたほうがいいんだろ、ステラ。」

…ん?U君(仮)、いつのまに起きてたわけ?ん…まあこの際細かい事言ってられないか。

リクス、アンタの事はとりあえず置いとく。
互いに死にたくなけりゃ…この遺跡を出よう。何もかも、まずはそれから。

248 :名無しになりきれ:2009/11/14(土) 00:28:35 0
「よし、それじゃあこれよりヨコシマキメ遺跡脱出ツアーに出発します。
 迷わないように着いて来てくださーい。バナナはおやつに入りませーん。
 尚、歴史的価値の高い物品を盗む行為はご遠慮願いまーす。マジやめろ、な? 」

(……歴史的価値?)

(アスラの瞳がその単語に一瞬だけ反応する。途端に彼女の灰色の脳細胞が活動を開始した。
 そもそも彼女がこの遺跡に潜った理由は何なのか──それは
 【世界】を屠る事でも邪気眼使いに打ち勝つ為でもヨシノにコスプレさせて爆笑するためでもない!)


─────────るりらりら〜♪強奪〜♪盗掘〜♪ボロ儲け〜♪


っだあああーーーーーーーーーっっ!忘れてたーーーーっ!

(刹那、ちょうど鷹一郎が壁面を弄って隠し通路を登場させているところだった)

U(仮)!隠し通路出してくれるのは非常にありがたいけど、お姉さんさんちょっと胃袋に忘れ物(ヨシノ…という事にしとこ)してたの思い出したわ!
そんな訳でアンタらちょっと先行ってて!私、自力で帰っとくから!心配しないで!別にアンタなんかいなくなったって全然寂しくなんか無いんだからねっ!

(ステラに耳打ちする)
…『忘れ物』は何か分かるよね?
付いてきてもいいけど…実際そろそろヤバそうだし、どっちのルートで行くかはアンタが決めな。

大丈夫、私、逃げ足には自信あるから。じゃ、上で会えたら会いましょ!
(土煙を上げんが如くの勢いで逃げるように走り去る)

249 :名無しになりきれ:2009/11/15(日) 03:10:16 0
「よし、それじゃあこれよりヨコシマキメ遺跡脱出ツアーに出発します。
 迷わないように着いて来てくださーい。バナナはおやつに入りませーん。
 尚、歴史的価値の高い物品を盗む行為はご遠慮願いまーす。マジやめろ、な?」

(ああ……こういうノリの人なんだこの人)

突拍子もなくジョークを飛ばし始めた鷹逸郎に、ステラは軽い既視感を覚える。というか傍の修道女と同じノリだ。
どうしよう、ここはのっておいたほうがいいのだろうか。明らかにツッコミ待ちであることだし。
そう思い、ステラは息を吸う。あまりジョークの上手い性質ではないが、場にそぐう為、一世一代のギャグを飛ばそうと。

「バナn――
「っだあああーーーーーーーーーっっ!忘れてたーーーーっ!」

カブされた。
アスラが突然素っ頓狂な声を挙げて、ステラは完全に機を逸した。
言いかけた言葉が言葉尻からすぼんでいき、それに比例するかの如く気恥ずかしさでステラの顔が真っ赤に染まる。

(屈辱――!!こ、こんなノリはもういらないっ、いらないからっ……!)
密かに歯噛みするそんなステラを知ってか知らずか、アスラはまたもやペラペラとまくし立て始める。

「U(仮)!隠し通路出してくれるのは非常にありがたいけど、お姉さんさんちょっと胃袋に忘れ物(ヨシノ…という事にしとこ)してたの思い出したわ!
 そんな訳でアンタらちょっと先行ってて!私、自力で帰っとくから!心配しないで!別にアンタなんかいなくなったって全然寂しくなんか無いんだからねっ!」

「ツンデレと見せかけて本音出てるよ!!?」

さておき。
『腹』へ向けて踵を返したアスラが如才なくステラへ耳打ちする。

「…『忘れ物』は何か分かるよね?
 付いてきてもいいけど…実際そろそろヤバそうだし、どっちのルートで行くかはアンタが決めな」

(ヨシノ……!)
彼は今だ『腹』に置き去りである。安否すら定かではない彼を『回収』せんと、アスラは向かおうとしているのだ。
こんなズタボロの体で。ステラがそうであるように、否ステラよりずっと。歩くのすら困難であるはずだ。

(シスター、そこまでヨシノのことを――)

なにか壮大な勘違いをしている気がしたが、修道女の本性を知らないステラにそれを正す術は無い。
彼女もついて行きたいのは山々だったが、リクスと名乗る男が敵か味方か判別できない以上、鷹逸郎と二人きりにさせておくには危なすぎる。

ステラも邪気を使い果たしていたが、外に出て日光を浴びれば多少は回復できる。わざわざ戻って足手まといになるよりマシだ。
ともあれ、ここは大人しくアスラに任せて外へ向かうべきだろう。後ろ髪を引かれる思いだが止む無し。

「うん――任せた。また三人で生きて会おう。だから、こっちはこっちでわたしに任せて」

言うだけ言って、アスラは修道服で何故あんな速さが出るのか不明なぐらいのスピードで走り去っていった。台風みたいな女である。
修道女が土煙の向こうに消えるのをひとしきり見送って、ステラは努めて明るく切り出した。

「じゃ、行こっか……えっと、鷹逸郎、さん?と執事の人。あるんだよね地上への近道が」

鷹逸郎が岩壁を操作すると、中から地上の光を反射する螺旋階段が。
ステラはいち早くそこへ飛び込むと、僅かに降ってくる日光をその全身をもって吸収する。
絹のような肌に、艶めく長髪に、群青色の両眼に、日光を受け止めると光から変換された邪気が身体に満ちていく。

「……ん。これで多少は『使える』ようになったかな。半日ぶりの日光だよ」

言いながら、懐からカロリーメイトの包みを取り出し、開封し、齧りついた。

                      ・ ・ ・
「バナナじゃないからいいよね――おやつ」

250 :名無しになりきれ:2009/11/15(日) 21:43:42 0
「それに、ねじ伏せるのをやめるのはこういう変な女と一緒にいるのを止めてからね」

「…はいはい、分かったよ」

レイは「はぁ…」とため息を一つつく、相変わらずの執念だがこっちからは邪魔この上ない
そういえばもう追い回されて2年近くなるのか、そう思うとまたため息が出る

最近は音沙汰無く油断していたが、いったいいつになったら諦めるのか

「……」

ふと気付くと、ピアノが振り向き、白和服の男と会話を交わしている

「なんだピアノ、そいつと知り合いなのか?」

と声をかけたが、残念ながら返答は来なかった

ぶつり と世界を満たす邪気が途切れたからである

(…!?)

身体能力以外はほぼ一般人のレイですら感じられる消滅
場所までは感じ取れないが、まるで満天の星が消えたような虚無感が辺りを覆う

そこにいた全ての人がそれを感じ取ったらしく、皆固まっている


沈黙

吊られた男と白和服(緋月命と名乗っている)が何やら話している以外、世界から音が消えた

そして、吊られた男は一言


「僕らのボスが死んだ」


何も感じていないような顔、ボスが死んだのならもっと慌ててもいいものの筈だが、彼は落ち着いていた、不気味なほど
たださっきまでの阿呆な顔では無く、真面目に物事は捉えているようだ

一匹狼のレイには起こり得ない事だが、組織の頂点が死んだとあればする事は一つ

次の頂点を決めること

おそらく吊られた男はここから離れ、組織本部へ向かうだろう

戦いは一時休戦、と言うことになりそうだ


251 :名無しになりきれ:2009/11/16(月) 23:39:04 0
結論から言うと、リクスは遺跡からの脱出に成功した。
ところどころに『歪』が現れている遺跡の中でも、『凱旋の道』とでも言うべきその階段は、全くの安全圏のようにすら思えた。
大したことをしていないリクスが『凱旋』などというのもおかしなことではあるが。

(アスラ様が「忘れ物をした」と言っていたのも気になりますが、まずはプレートですね。彼が持っている以上、マークしておかねばなりません。)

そしてリクスは思い出す。目の前の<Y>と名乗っていたはずの男は確かにU君(仮)、そして鷹逸郎と呼ばれていた。
おそらくは戦闘中に本名がばれてしまうようなイベントがあったのだろう、そう推測したリクスはここで、2人について戦闘に関するデータくらいしかもっていないということに気がついた。

(階段を上る間も特に変わったこともなく、結局彼らについて見定める機会はほとんどなかったと言えるでしょう。
つまり大事なのはこれから。私が質問することで彼らの素性を確認することが必要!)

そもそも<Y>という名前は邪気学者や裏社会に通じる者にとってはかなり有名なあるものを連想させる。
先程は冗談を交えるようなところもあったがそれもあの激戦の後である。正直底知れない。
気が付くと、鷹逸郎とステラもひと段落したようだ。

「それで、皆さんはこれからどうするお積りなのでしょうか?
鷹逸郎様はプレートを持っていればそれだけでまた危険が伴いますし、ステラ様に至っては『アルカナ』自体が揺らいでいるかもしれませんが。」

結局、必要なのは情報。見ず知らずの相手への対処には、これしかないのである。


252 :名無しになりきれ:2009/11/18(水) 00:05:47 0
…!
クッ、こりゃ流石にちょっとマズいかしらね…

(遺跡の崩壊は静かに、だが確実に進んでいる。彼女は足元に発生した「歪」を片足の踏み込みで飛び越し、そして着地時に走った激痛から思わず膝を付いた)

【世界】戦での傷がデカ過ぎる…反動のキッツい重火器類は使えそうに無いな……
(手元の自動拳銃を、これだけが頼りという風に握り締め)

多少強引でもステラ引っ張ってくりゃ良かったかしら…せめてもう一人、誰か欲しい所だね…
(言いつつも、切り傷という名のスリットの付いた修道服で階段を掛け上がる。
 登りついたその先はヨコシマキメの胃袋───「宝物庫」。真っ先に目に入ったのは、銃器を装備した一個小隊だった)

──────っ!?
(出かけた声を飲み込み、そのまま死角になだれ込むように潜む。少ししてこっそり様子を覗き見る。
 隊長の姿は人影で見えないが、見るにどうやら部隊は休息中のようだった)

(声を潜めて)
……こんな時に…っ!ええい、しゃらくさい!

(物陰から音を立てずに移動し、少し離れた場所で煙草を吸っていた一人の隊員に忍び寄る。
 気配を殺して後ろから迫り、まずは左腕を絡ませるように相手の口に当てて口を封じる。
 そのまま右手を後ろから捻って火のついた煙草を奪う。
 それをちゃっかり一吸いした後、煙草の灰部分を眼球に近づけてそのまま姿勢を固定する。動けば殺す、そう静かに呟いて)


(そして彼女は自分の声帯を可能な限り操り、ともすれば20代の場数を踏んだ兵士と見間違うような低く重たい口調で男へ告げた)

…所属機関、目的を言え…。

(男は苦しげに、部隊名は調律機関、目的はある人物の殲滅だと言った)

…調律…だと?隊長の名は!

……「レイジン」…真逆……アイツが…!?

(兵士の拘束を解き、ちびた煙草を足で踏み消す。そのまま拳銃を捨てて両手を上に上げ、兵士に向かって「無抵抗の意」を示した)

…悪かったね、少しばかり気が立ってたんだ。
(手持ちの銃を突きつけられる。騒ぎを聞き、他の隊員たちもざわめきつつ集まり始めてきた)

しっかし、ここでレイジンの名を聞くとはねえ…。先の戦地で会って以来だから…何年ぶりになるのかな?
今は調律の実働部隊つったっけ…はー、随分出世したもんよねえ。
(銃を突きつけられつつも、何処かのんびりとした口調で話すアスラ。両手を上げつつ苦笑して)

あのさ、こんな状況下で頼むのもアレなんだけど…誰か隊長に取り次いでくれないかい?私、アイツとは旧知の仲なんだよ。
名前は…そうだね、それじゃ「紅の女狐」が来たって言ってちょうだい。奴がその名を覚えていれば…すぐに分かるハズだから。

253 :名無しになりきれ:2009/11/19(木) 03:00:29 0
レイジン=シェープスはその時撤収作業の指揮を執る最中だった。
傷の治療が終わったヨシノを丁寧に担架に乗せ、張っていたキャンプを回収している。

「た、隊長!『最深奥』から突然所属不明の女性が!隊長に取り次ぐよう申し立てています!!」

「……ほほう、『アルカナ』の使者ですかねェ。交戦意志は?」

「それが、個人的な面会希望のようで――『紅の女狐』、この名を出せば通じると」

「なんと」

レイジンはその滅多に表情を変えない鉄面皮に若干の驚きを滲ませる。それは旧知の名だった。
彼がまだ異能関係の業界へ、調律機関へ配属される前の時代に何度か共に仕事をした相手である。

「『紅の女狐』と言えば、裏社会でも相当に名の通った『便利屋』でしてねェ。まさか彼女も"こっち側"に足を踏み入れていたとは」

凄腕の戦闘者である。共に戦った戦場では、彼の率いる世界政府の直属軍に引けを取らない鬼神のごとき強さを発揮し、
幾度も窮地を救われた覚えがある。同じように彼女の窮地を救ったことももちろん多々あるが、個人戦闘力ではおそらく彼女の足元にも及ばないだろう。

「とんでもない女ですよ!厳戒警戒中の実働隊に単身で乗り込んで一角を制圧しやがりました。
 あの女一人抑えるのにこっちは五倍の人員が要りますよ――奴が20人いたら全滅してますよ俺達!」

「それはそれで凄惨な図ですねェ。いいでしょう、通してあげて下さい」

四人の隊員達が四方を固めながら修道女をレイジンの前まで連れてくる。
護送のように見えるが、しかし彼等の銃口は中心の修道女の頭部を捉えていた。
流石に引き金に指をかけてはいないようだが、厳戒態勢である。

「いやはや、珍しい人を見たものです。何年ぶりでしょうねェ――『紅の女狐』女史。この世界は表も裏も諍い争いに絶え間などありませんから。
 そういえばこの『上』にある大学、その大聖堂は邪気払いの戦闘寺院でしたねェ。あれを見た時点で貴女に思い当たっておくべきでした」

世界の狭いことといったら。こんな僻地でかつての知り合いと再会した感想を、彼はそう締めくくった。
レイジンは無表情であるが、その声色には確かに旧知を懐かしむ含みを聞いて取れる。
 
「貴女のお目当ては大方ヨコシマキメ――この『108のクロニクル』に内包された財宝でしョう。――ああ、もう警戒しなくて良いですよォ」

突きつけられていた銃口が納められ、修道女は自由の身となった。
『紅の女狐』は金のためなら何でもするが、金にならない殺しはしない。彼女の雇い主がどうであれ、調律機関に唾吐く真似はしないだろう。

「――それでは本題に入りましョうか。別に貴女も旧交を温めに来たわけではないのでしョう?馴れ合いは貴女の最も嫌うところであるはずですしねェ」

レイジンの後ろでは、今も青年が静かに眠っている。

254 :名無しになりきれ:2009/11/19(木) 19:12:33 0
U? いや違くて……って!? おい!? 名前勘違いしたまま行っちゃうの!?
鷹逸郎だよヨウイチロ、あ、ダメだもう姿が見えねえ!! スプリンターか奴は!!

(そんなこんなで、脱出組は<Y>こと鷹逸郎、ステラ、リクスの3人)
(アスラの居残った理由が気になるところだが、取りあえず遺跡からの脱出が最優先)
(3人仲良く?長々とした階段を上りに上り、無事地上への脱出に成功した)

(鷹逸郎はふと背後を振り返るが、そこに穴らしきものは見当たらない)
(ただの岩壁――ペタペタと直に手で確認してみるものの、やはりただ岩の感触がするだけだ)
(何か細工が施されているのだろうが、それは凡人には理解できるものではないらしい)


(まるで、夢を見ていたような気がする)
(それはそうだ。鷹逸郎はこれでも、少し前までしがない学者風情だった身である)
(全てはこの地に降りたってから。そこから、鷹逸郎の日常はガラリと一変した)

(それが良いことだったのかどうかは、青年自身にも分からない)
(それでも、たった1つだけはっきりしていることがある)
(右の手のひらにしかと握られた、紅――今は白のプレートが、想いを確かに宿している)


                         ・ ・. ・ ・ ・ ・. ・ ・. ・ .・ ・. ・ ・ ・
(鷹逸郎は、非日常に飛び込んだことをこれっぽっちも後悔していない。)
(久しぶりに浴びる太陽の白光は、新たなる旅の前途を祝福しているように感じた。)

255 :名無しになりきれ:2009/11/19(木) 19:13:48 0
「それで、皆さんはこれからどうするお積りなのでしょうか?
鷹逸郎様はプレートを持っていればそれだけでまた危険が伴いますし、ステラ様に至っては『アルカナ』自体が揺らいでいるかもしれませんが。」

(ふと投げかけられたリクスの疑問に、鷹逸郎は思わずステラの方を見てしまう)

アルカナ? お前、アルカナのメンバーだったのか……?

(知らない事実だった。しかし知ってしまった途端、疑問がふつふつと泡のように湧き出てくる)
(彼女が、何故同行をしていたか。自身のボスである『世界』に、何故刃向かったのか)

(知らないことは不安を招き、不安は不信を、不信は敵意を渦のように巻き起こす)
(それを解消するために質疑によって「知る」のだが、時にその回答さえ不安を招く)
(茹だる熱湯が沸騰するように、疑問の泡は止めどなく水面を叩く。溢れ返るのは、時間の問題)

(しかし、それらが勢いよく口をついて出る前に)

まあ、”どうでもいいよな”。

(まさに泡が弾けるように、パッと衝動が消え去った)
(本当にどうでも良かった。どうあっても、ステラ達と『世界』に打ち勝ったのは事実だ)
(もっとも、長く時間を共に過ごした訳ではない。少し頭が良ければ、いや、普通でも警戒はする)

                            the Fool
(つまり結城鷹逸郎という男は、どうしようもない愚  者だった。)
                             バ  カ

俺はどうすっかなー、今日は特に授業とか学会とかはねーはずだからー……。
…………、……っしゃあ、暇だ!! 家で「笑えばいいだろ」とか見てるような日だ!!

(受け持つ講座数の少なさや担当ゼミにも出席しない彼を、生徒は『学者ニート』と呼んだ。)
(まあ教授陣から若造扱いされ、生徒からナメられる不遇の状況も一役買っているのだが)

(しかし、そんなことをリクスは聞きたいのではない。鷹逸郎は押し黙ると、)


……正直、分からない。
俺がこのまま持ってるべきなのか、”然るべき”みてーな場所に預けるべきなのか。
分からないけど……それでも、ただ1つだけ約束はできる。


(右手に握りしめたプレートを、抱きしめるように胸へ当てる)
(すると――ボォ、と。それが静かに、仄かに、白く光を放った)

俺は、アイツから……『世界』から。覚悟を、意志を、受け取った。
勝手な思いこみかもしれねーけど……覚悟も意志もない奴に、あんなに人が集まる訳がない。
流石に世界を<黒の歴史>に葬り去る、みてーな手段は執らないけど……それでも。

(ギリ、と歯を食いしばる)
(光がますます強くなる。ざわり、と青年の荒立った黒髪が戦慄に波打つ)

もしこの世界を、手前勝手な欲望や陰謀の為に食い物にする奴らがいるってなら―――

        チ カ ラ
(プレートは、邪気眼無き青年の絶対の意志を宿す)
(それはまたの名を)

         ヤ ミ      ヒカリ
―――そんな邪悪は、この石版で撃ち払う。

(<白熱>の、意志と呼んだ)

256 :名無しになりきれ:2009/11/20(金) 00:24:38 0
【東京23区内、数あるアルカナの隠れ家の一つ】

「どうやら《楽園教導派》(エデン)のよこした情報は正しかったみたいだな。ここがアルカナ22柱の一人、『死』の潜伏場所というわけだ」

世界皇族特務機関《枢機院》(カルディナル)直属特殊部隊、グラストンナイツが一員バートはそう言うと、部下の小隊に指示を出す。
正面からはクラウディオ、両サイドからはアルフレッドとデヴィッド、そして唯一の脱出ルートとなるこの裏口をバートとエドガーの小隊がそれぞれ固める。
相手は大アルカナとはいえ目を持たぬ無能力者と聞いている。どれほどのプロでも5×5=25人という破格の戦力差の前には一分と持つまいというのが全員の一致した見解であった。

(それ、銃声が聞こえて…)

そう思うや否や、バートの意識は闇へと落ちていったのだった。


257 :名無しになりきれ:2009/11/20(金) 00:26:55 0
マンションの一室に佇む少女の身体から、幾重にも掛けられた魔術拘束が解けてゆく。
こうして、ヴィクトリア・ゴールドセリアは新たなパートナーを探す必要が生まれた。
彼女の肩書は大アルカナ、『死』。眼を持たぬ者にして『世界』に取り入った稀有の人材。
しかしその過去も今、意味を失おうとしている。

「拘束が解けたということは『世界』が潰えたということ。もう『アルカナ』に用は無いわね」

彼女を戒めていたのは古代ギリシャの霊装『賢者の鎖』を『世界』が『創世眼』によって現代の蘇らせたものである。
それが失われた今彼女は、自らでは御しえぬ力、他者の死の運命を手繰り寄せる効果が無差別に人命を奪うことを恐れていた。
私に関った人間は死ぬ、そのことへの恐怖こそが彼女のより強き力への渇望の源泉であり、『世界』と組んだのも自らの力を抑え込むためである。
しかし、『世界』はもういない。彼女は再び、自らの周囲に『死』を撒き散らす存在へと堕ちたのである。

(何がいけなかったんだろう…)

800年ほど前、天才魔術師、ヴィクトリア・ゴールドセリアは欧州の小国で一人、禁呪の研究を行っていた。
世界の法則に抗い得るほどの力を持つといわれる『黄金の力』。彼女は遂にそれを手にし、数々の王から国を、財を、そして民すらも差し出されるほどの奇跡の魔術師と成った。
しかし、その生活も長くは続かない。彼女はあるものを代償にその力を手にしたからである。

それは、「人間の運命」である。
彼女が奇跡を行使し世界を歪めれば歪めるほど、その代償として周囲の人間の「生の運命」が失われる。
それどころか、『黄金の力』を手にした彼女は出会った者に等しく死を与える魔女として恐れられるようにすらなってしまった。
そのような性質を持つ彼女がほどなくして迫害を受けるようになったのは言うまでもない。
持て余してしまうほどの力を手にした彼女は孤独となり、この極東の島国にたどり着いたのである。

(結局、また独りになってしまったのね)

自らよりも大きく強いと思っていた『世界』。いっしょにいても死なない存在。良き理解者。
果たして次なるパートナーはあらわれるのだろうか、そう思った矢先、見知らぬ男が部屋に乗り込んできた。

『《枢機院》(カルディナル)の者である。貴様が大アルカナ、『死』か』

その胸には世界皇族の手の者である証が見える。おそらくは敵。

「だったらどうするつもり?」
『処刑だな。一斉掃射』

言うや否や銃弾の雨。しかしヴィクトリアはかわす素振りすら見せず、ただ一言呟くのみであった。

「《残響死滅》(エコー・オブ・デス)」

次の瞬間、飛んでくる銃弾は「死亡」した。そして、25人の隊員もその場に倒れこんだ。

「そう、私はもうその肩書は捨てた一人の人間、『黄金の魔女』ヴィクトリア・ゴールドセリアよ」

誰に聞かせるでもない、自らへの宣言。こうして彼女は心機一転、新生活をがんばることに決めたのだった。

【ヴィクトリア・ゴールドセリア 新章より本格参戦予定】


258 :名無しになりきれ:2009/11/21(土) 00:08:34 0
へえ…部下には随分慕われてるみたいじゃない?人心掌握はアンタの得意分野だったからね。

久しぶりね、ヤサ男。意外そうな顔してるけど、私としてはこんな所で調律の部隊長に会ったのが不思議で仕方ないのよ?
それと今の名前は「アスラ」。どーせ呼ぶのならそっちでお願い。でなきゃ大戦で付けられたアンタのこっ恥ずかしい「二つ名」をバラすからね。

(二言三言、挨拶代わりの言葉を交わす。やがてレイジンの指示により、警戒はひとまず解かれた)

「――それでは本題に入りましョうか。別に貴女も旧交を温めに来たわけではないのでしョう?」

うん、話の通りが早くて助かるわ。
私の目的は…「建前はある人物の回収、本音は盗掘」ってとこかな?

(レイジンの背後で眠っている男を見やって)
そこの満身創痍男…そいつが今回の私の協力者でさ。「俺に任せて先に行け」なーんて言うもんだから、一度別行動取ってたわけ。
で、私は今最深部でケリつけてきたから、後はそいつと宝の一つも持って脱出するだけなのよね。

で、ここからが本題。部隊の皆様方もよく聞いといてよ?
(意地悪な笑顔を顔に張り付けて)

さて、私が最下層でこの遺跡を呼び出したそもそもの元凶を殺っちゃった為、この遺跡はもうすぐ潰れます。

(ざわめく兵士たちを満足そうに一瞥して)
感じるでしょ?定期的な地面の揺れや、空間全体の「歪」な感覚。これは破滅の予兆ってやつね。
とっとと退散したい所なんだけど…生憎、私も元凶との戦いで大概ダメージ貰っててさ、
走るだけならまだしも、男一人担いで瓦礫の積みあがる上層部を抜けるのも正直キツいのよ。

で、よければアンタらの力を脱出に貸して欲しいなと思ってさ。
見返りは…そうね、この場所から地上までの安全な脱出ルートなんてどう?
(そう言って、懐からヨコシマキメの地図が映ったポラロイド写真を取り出した)

259 :名無しになりきれ:2009/11/22(日) 02:27:08 0
にゅるり、という擬音でも充てるのが正しいだろうか。

ともあれステラ=トワイライトは何の変哲もない岩壁から『生える』という稀有な経験を得た。
他の二人も同様である。目の前に広がる光景はつい最近見た覚えのある白い建物の群れ。

「ここは――」
世界基督大学の敷地内のようだった。記憶を辿るにここは恐らく構内のはずれ、裏山の麓だろう。

「無事に還ってこれたみたいだね……」
ほう、と安堵の吐息と同時、ヨコシマキメを出ても自分の身体が保たれていることに気付く。
『世界』の影響下である遺跡から出れば、『創世眼』の効力が消え、ステラの"再現"もなかったことになると予測していたが。

(わたしを生かしたの?『世界』――)

注意深く自らの根底を探ってみるに、『世界』から感じていたあの絶対感の残滓のようなものが漂っていることがわかる。
それはまさしく残り滓なのかもしれなかった。世界に抗うための、『世界』の遺志。ステラが今こうして生きているという、『世界の選択』。

経緯と根拠がどうであれ、彼女が『世界』に未だ生かされていることに変わりはなかった。

「それで、皆さんはこれからどうするお積りなのでしょうか?鷹逸郎様はプレートを持っていれば
 それだけでまた危険が伴いますし、ステラ様に至っては『アルカナ』自体が揺らいでいるかもしれませんが」

「アルカナ? お前、アルカナのメンバーだったのか……?」

不意にリクスが発言し、その『アルカナ』というワードに鷹逸郎が誰何する。
ステラは胃袋がひっくり返る心持ちだった。何故このタイミングでそれをバラす。というか何故知ってる。

(世界皇族の情報網、ってことかな。どうしよ)

今さらアルカナだったことが露見したところで戦闘意志はない。ここでことを構えるつもりもない。
だが、この鷹逸郎という青年はどうだろう。アルカナの行ってきた悪虐非道を目の当たりにしているだろう。
アルカナの中でも過激派の方針とはいえそれを黙認していた事実は消えない。ここで敵意を持たれてもおかしくはない――

「――まあ、”どうでもいいよな”」
「……!」

あっさりと。鷹逸郎は疑念を振って捨てた。それは思考の放棄かも知れなかったし、ともすれば愚ともとれる選択だったが。

(随分と救われる――)
――本当に。ありがたかった。

「わたしはどうしようかな……やらなきゃいけないことは沢山あるけどやりたいことって特にないし」

『星』の救出。ヨシノと再会。『悪魔』の弔い。ステラの前進。
やるべきことは山積みで、どれから手を付けたらいいかわからない。とかく、自分には情報が足りなさ過ぎる。
彼女が"死んでいた"数世紀の間に、世界は変わりすぎた。まずは、それを知ることから始めよう。

「わたしは探求者になるよ。知って、識って、智りたいことが沢山あるから。他の誰でもなく、わたし自身のために」

最短距離を行かなくてもいいだろう。むしろ寄り道上等だ。何せ時間は余りある。ヨシノに強力を仰ぐのもいいだろう。
おしなべて言って、今のステラは暇だった。暇であるが故に、これから始まる"明日"が楽しみで仕方がない。

故に。
                                                   ・ ・ ・ ・
「知るよ、世界を。『世界』が愛したこの世界を。だから、――こんなしがらみは、もういらない」

昼過ぎを指す陽光は、木々の隙間で屈折し、彼女の前途を照らすようにして光の道を創っていた。


       ――ステラ=トワイライト   第一部終了――

260 :名無しになりきれ:2009/11/23(月) 23:53:51 0
リクスの問にまず反応したのは鷹逸郎であった。

『アルカナ? お前、アルカナのメンバーだったのか……?』

これも一種の機会づくり。
もし鷹逸郎がこのことを知っていれば、この情報は話の流れの中の単なる一単語に過ぎず、
しかし、知らないのであれば鷹逸郎とステラの間には何らかの関係の変化が見られるであろう。
これがリクスの想定した「彼らの人となりを見極める」手段である。

そして都合のいいことに、事実は後者であり、リクスは一歩目的に近づいた。





はずであった。

『まあ、”どうでもいいよな”。』

何も起こらなかった。実際はこれにより鷹逸郎とステラの親密度がなんとなく上がったかもしれないが、少なくともリクスの任務に直接の関係はない。

(当てが外れた?)

しかしまだ結論が出たわけではない。リクスはもうしばらく聞き役に徹することにした。
そしてステラが自らの身の処し方を語り始めた。

『わたしは探求者になるよ。知って、識って、智りたいことが沢山あるから。他の誰でもなく、わたし自身のために』

先程の揺さぶりでわずかに強張ったかに見えたその表情は、一転して晴れやかなものになってように思えた。
おそらくこれは彼女の本心なのであろう。

(そして、少なくともそのプレートの所有権に絡んでくる意思はない、と。)

さしあたって敵対することはなさそうである、と結論付ける。

261 :名無しになりきれ:2009/11/23(月) 23:55:58 0
『俺はどうすっかなー、今日は特に授業とか学会とかはねーはずだからー……。
…………、……っしゃあ、暇だ!! 家で「笑えばいいだろ」とか見てるような日だ!!』

今度は鷹逸郎が語り始めた。やはり冗談からスタートではあったが、どうも、空気を読んでまじめなことも言ってくれるらしい。


『……正直、分からない。
俺がこのまま持ってるべきなのか、”然るべき”みてーな場所に預けるべきなのか。
分からないけど……それでも、ただ1つだけ約束はできる。』

そう言いながら、プレートが仄かに白んでゆく。

『俺は、アイツから……『世界』から。覚悟を、意志を、受け取った。
勝手な思いこみかもしれねーけど……覚悟も意志もない奴に、あんなに人が集まる訳がない。
流石に世界を<黒の歴史>に葬り去る、みてーな手段は執らないけど……それでも。』

『もしこの世界を、手前勝手な欲望や陰謀の為に食い物にする奴らがいるってなら―――』
        ヤ ミ      ヒカリ
『―――そんな邪悪は、この石版で撃ち払う。』


その言葉には、そして鷹逸郎という人間には、紛れもない『意志』があった。

(想いこそがこの世界を動かすキー、確かそんな感じのことをお嬢様は言っていたような気がします。
おそらくこの方も、『何か』を持っていらっしゃるのですね。)

この言葉には嘘は無い、リクスはそう感じた。そう感じさせる『何か』があった。

「わかりました。では、さしあたってプレートは鷹逸郎様に預けておくことにしましょう。」

『預ける』という単語。それは言外に、いずれは何かがあることを予想させる。

「それともう一つ。こちらをお渡ししておきます。」

そう言ってリクスが手渡したのは100カラットはあるであろう大粒のピンク・ダイヤモンド。

「プレートの所持者に渡せとお嬢様から命を受けておりましたので。
ピンチの際には願いに応じて魔力や運命、果てはセレネお嬢様の分身すら引き出せる一種のマジック・アイテムとのことです。
どこまでが本当かは、ご想像にお任せしますが。」

こうして、三千院家の黒い執事はミッションのうちの一つを完遂したのである。

【リクス・クシュリナーダ   第1部・完】

262 :名無しになりきれ:2009/11/23(月) 23:58:21 0
三千院家の若き当主は、せっせと一種の観測に励んでいた。

『もしこの世界を、手前勝手な欲望や陰謀の為に食い物にする奴らがいるってなら―――』
        ヤ ミ      ヒカリ
『―――そんな邪悪は、この石版で撃ち払う。』

(それじゃあたしはどうなるのかしら?殺されちゃう?そもそも『人間』があたしに逆らうの?

ていうか、あれは確か結城の『108』分家の子よね。ますます楽しくなってきちゃった!
リクスも手筈通り『アレ』を渡してくれたし、正直あの子を送り込んだ何倍もの価値が返って来そう!!)

「これだからネタバレしてないドラマは見ててやめられないのよねー」

彼女がモニターから顔を上げると、そこはもう北欧ではなく日本、それも練馬区の東側にある彼女の本籍であった。
どうやって来たのかなど気にしない。ついでに、パスポートなどというものも気にしない。


「さーて、次回の邪気眼―JackyGun―は」


【セレネ三千院  第1部・終】

263 :名無しになりきれ:2009/11/25(水) 03:28:09 0
「いいでしョう、アスラ女史。私もかつての渾名(アーバンネーム)はあまり気に入っていませんのでねェ」

互いが互いの過去を確かめ合い、そしてレイジンは修道女へ続きを促す。

「そこの満身創痍男…そいつが今回の私の協力者でさ。『俺に任せて先に行け』なーんて言うもんだから、一度別行動取ってたわけ。
 で、私は今最深部でケリつけてきたから、後はそいつと宝の一つも持って脱出するだけなのよね」

「なんと、この青年ともお知り合いだったんですねェ――いやはや、世界は狭い狭い。回収したい『ある人物』とは彼のことですか」

アスラは肯定し、そして言う。
最深部でケリをつけてきた――その言葉が意味する最終解。

「さて、私が最下層でこの遺跡を呼び出したそもそもの元凶を殺っちゃった為、この遺跡はもうすぐ潰れます」

「な!?」
「なっ――!」

驚きは伝播し、大隊の隊員達全てへ放射の如く拡がっていく。
頃合を見計らって、無表情のままのレイジンが指揮棒を振るようにして音頭をとり、

「さん、はい――」

「「「「――何ィィィィィィィィィィイィィィ!!!!????」」」」

付和雷同の驚きが、鳴動する遺跡を更に震わせた。
レイジン以外の全ての隊員達が一字一句違わず驚愕の声を挙げる光景は、さぞかし壮観だったろう。
一糸乱れぬ統率は、こんな局面でも無駄に発揮された。

「なるほど、どうりで計器類から異常なまでの共鳴値が観測されてたわけですねェ。我々としたことが後手に回ってしまいましたか」

「感じるでしょ?定期的な地面の揺れや、空間全体の「歪」な感覚。これは破滅の予兆ってやつね。
 とっとと退散したい所なんだけど…生憎、私も元凶との戦いで大概ダメージ貰っててさ、
 走るだけならまだしも、男一人担いで瓦礫の積みあがる上層部を抜けるのも正直キツいのよ」

「なるほど、それで我々の帰還ルートに同行したいというわけですか。いいでしョう、調律機関の軽機動バンに乗せてあげます」

それに。
レイジンは付け足して言う。

「貴女ならあるいは――眠りの森の青年を連れて帰ることができるかもしれませんしねェ」

おもむろに立ち上がったレイジンは、道を譲るようにそこを退いた。
開けた奥には、無菌結界の中で眠り続けるヨシノが見える。やがて薄緑の結界も掻き消え、彼と浮世を隔てるものは皆無となった。

「モーニングコールの時間です。男女が逆ですが……王子役は彼女にやってもらいましょう。
 どちらにせよ『腹』の深部――『宝物庫』へ入り方を知っているのは彼だけのようですしねェ」

そして。
アスラとヨシノを残して、レイジンを含めた隊員達は撤収作業へと戻り始めた。

264 :名無しになりきれ:2009/11/25(水) 19:46:03 O
「僕らのボスが死んだ」

《吊られた男》は、当事者でありながら、まるで第三者の如く沈着冷静に言い放った。

(やはり……か。虚言である可能性は……0と断言して問題なかろう)

元より半ば確信していた事なのだ。ただ、明確な『答え』を示されなかったが故に、自分の推測を完璧と断言し得なかっただけで。
だからこそ、《吊られた男》が示した『答え』は、水の如くほんの僅かに揺らぐ考えを、氷という『確かな形』へと作り変えた。

ならば、自ずと次の行動は決まる。自分の任務である【アルカナ】の殲滅───自分が達成した訳では無いが───は果たされたも同然なのだ。

《世界》という頭を失った、今の【アルカナ】は、極僅かな能力者の集団。
崩壊の音律が地表まで届いているヨコシマキメは最早、使い物にはなるまい。

上層部の歴々が危惧していたような『人為的作用よるヨコシマキメ遺跡の利用』という事は、もう無いと断じてかまわない。

「……なるほど、やはりそうであったか。……穏便な情報の提供、感謝致す」
一礼と共に言葉を紡ぐ。敵であっても、礼節を忘れないのは、甘さと自信の混在ゆえ。

そこで言葉を区切ると、白刃を顕にした刀を振り始める。
剣の軌跡が重なるにつれ、それは一つの“意味”を会得していく。


 スフィアコード
『立方魔法陣』。普遍的な平面型の魔法陣と比較すると、大きさに比例した一乗分の“情報”を余剰に詰め込める技術である。
無論、その利点に背反するように、余りに複雑すぎて使用可能者が少数に限られるという欠点も存在するが。

彼にとって、その“複雑”を克服するための術が、体で覚える───つまりは、剣舞───という形になる。

とはいえ、一つの『立方魔法陣』の描き方を会得する為ですら、熟練者の綿密な教唆と、長期に渡るトレーニングが必要で───つまりこの場の誰にも『立方魔法陣』を解析される恐れは無かった。

常磐のような、それでいて短いような剣舞を経て、魔法陣は完全な形を得る。
その莫大な情報量を以てして、ようやく【カノッサ機関】本部への『門』は繋がる。
ただし、開くためには『鍵』が必要となるため、まだ『門』を通る事は出来ないが。


───彼の取る行動とは、本部への帰還。組織に属する自分にとって、身勝手な行動は許されないのである。

265 :名無しになりきれ:2009/11/25(水) 19:48:30 O
『鍵』を差し込む前に、彼は《吊られた男》達に向き直り

「……返礼という訳では無いが、某から一つ警告を告げさせて頂こう。
【ヨコシマキメ遺跡】が、何故この場所………世界基督大学へ転移した………いや、“させられた”と思う?」

それはきっと【アルカナ】にとって、不可解な疑問であっただろう。
わざわざ敵を呼び込みやすい、東京の八王子という都心へ位置するここへ、遺跡を移動させる意味は無い。
少なくとも、あの転移によって【アルカナ】には利益は生まれない。

「解せぬという顔をしているな。あの転移によって、最も益があったのは………この大学であろう?」

そう。学術的にも歴史的にも、そして何より数々の『遺産』を含め、様々な価値のある遺跡を手元に置ける事で発生する利益は、膨大。
それらの甘汁は【世界基督大学】が独占した事になる。

「この大学は………ヨコシマキメ全体を転移させるレベルの“術式”と、転移場所をほんの一瞬で用意したという事だ」

つまり、彼の言いたい事は

「………気をつけるといい。この大学の背後に……どんなに強大な“組織”が隠れているか分かったものでは無いからのう………」


全てを言い切り、最早未練は無い。後は、『鍵』を差し込み、帰還するのみ。

『……全知全能の主よ、遍く地を治めし大いなる主よ。今、ここに一匹の迷える小羊有り。
憐れみを、導きを、救いを与え給え。
栄光の凱旋へ、我を導き給え───』

その囁きに呼応するように、法陣が眩い白光を発し、一帯を多い尽くす。

溢れる光の瀑布が

「……ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

彼を、虚空へ覆い隠した。


【緋月命、第一部終了】

266 :名無しになりきれ:2009/11/27(金) 03:40:29 O
保守

267 :名無しになりきれ:2009/11/27(金) 19:37:17 0
人垣がするりと割れて、間から体のありとあらゆる部位に包帯を巻かれた青年が現れる。
調律の品と思われる上等とはいえない白いシートに横たわり、まるで眠るように昏睡していた。

踏み出し、修道女は青年の方へ向かう。
後ろでかつての旧友・レイジンが、散らばる隊員一人一人に指示を飛ばしているのが聞こえた。

「…へえ。手は尽くすだけ尽くしたって風ね」

青年を見下し、誰に言うでもなく呟く。
その身体に巻かれた包帯は血で染みていたが、もうその大元である出血も粗方収まったようだ。

「……となれば…後は本人の気力のみ、か」

彼女は少しばかり手を当てて思案し、懐から錠剤の入った小瓶を取り出した。
それは装飾の無い簡素な瓶で、ただ一つ中央に手書きで「試薬K−492」と書いた白いラベルが貼ってあった。

修道女は青年と小瓶を交互に見回し、苦々しく呟いた。

「…飲むっきゃ、ないよね」

薄赤の錠剤をふたつ取り出し、そして彼女は──それを自分に飲ませた。

268 :名無しになりきれ:2009/11/27(金) 19:38:25 0
突如、白煙があたりに飛び出す。
それは修道女を包み込むように燻り、青年と修道女を包み込んだ。


煙幕にも似た煙の中、
修道女は、幼女となってそこにいた。


アリス=シェイド謹製「とっさのときに使える常備薬」シリーズより、No.06「年齢調節薬」。
身体能力、骨格等を一時的に発達させるor退化させる事のできる、いわゆる若返り・老化薬である。

二錠飲んで小学生〜中学生あたりに変身した修道女は、身長が縮んだために床まで垂れてしまった長い黒髪をうざったそうに一払いした。
同じ理由から下に穿いていたものは下着を除いてずり落ち、肩に引っ掛かってずり落ちずに済んだぶかぶかの上着が、肩から腿にかけて肢体を覆い隠していた。
しかしそれでも全身をカバーするには至らないようで、すらりと伸びた小枝のような白い足が上着から出てしまっている。だがそれが良かった。

そうして外見を13才まで縮めた修道女は、姿を確認すると白煙が晴れる前に行動を開始した。
煙の中青年の姿を探り、横たわるその胸に馬乗りになる。包帯の隙間から傷が少し開いたような血がにじみ出たがこの際気にしないことにした。

その体勢のままヨシノの耳元へ口を近づけ、出来うる限りの甘え声というか媚び声というか、とにかくこう、グッと来そうな声色を使ってこう言った。
煙の外の部隊に聞こえぬよう、なるべく抑えた声で。



「死んじゃヤダよ……ねえ、起きてよ!ヨシノお兄ちゃん!」



青年が目を覚ました時。
修道女は既に白煙の向こうで、元の姿に戻っていた。

269 :名無しになりきれ:2009/11/29(日) 02:33:59 0
緩やかに流れる河があり、河川敷には石を積んだ小さな塔が幾つも点在している。
視界は霧のように薄白い靄がかかっていて見渡せず、しかし河を渡る真っ黒な人影だけは妙に陰影をはっきりとさせていた。
三途の川だ。あの世とこの世の分水嶺、最後で最期な生者の領域。団長にそう紹介されることで、俺は自分の置かれている状況を把握した。

「――それでな、これは俺が独自に考えた理論なんだが、邪気の選択優位性における末端精査術の……」

だが、そんなことはどうでも良かった。俺は岩に腰を据え、ひたすら旅団の皆と談笑に華を咲かす。
生と死に断絶された10余年を埋めるために。生と死に隔絶された彼岸の距離を埋めるために。

舌はよく回った。何しろ話題は山ほどある。話したいことが山ほどある。聴きたい声が、言葉が。
俺の半生を肯定して欲しい。俺の遂げたことを評価して欲しい。もっと、もっと――褒めてほしかった。

かつて、あの日、ヨコシマキメから逃げ延びたあの瞬間から、ずっと胸のうちに封印してきた感情が、堰を切って溢れ出た。
勿体無い。もっと小出しにしても良かったな。これから時間は無限にあるのだ、ゆっくりと伝えていけばいいというのに。

「――なぁヨシノ」
団長が言った。かつてと変わらない姿と仕草で、今では俺と一回りも違わなくなってしまった団長が、おもむろに言った。

「お前はいつ帰るんだ?」
……うん?

「ちょっと意味が解らなかったからもう一回日本語学習してくれ」
「そこからかよ!?」

いいツッコミだった。団長はこの国の人間ではなく、下手したらこの世界の人間ですらないかもしれなかった。
日本語はペラペラだが。それ故に、俺は彼の言った言葉の真意がまるで掴めなかった。

「お前はいつここから帰るんだって話だよ。お前の肉体はもうとっくに完治してんだろ」

……バレてたか。死人に口なしとは言うが、目と耳はあったらしい。
ご指摘の通り、肉体が治癒しているのは分かっていた。一回死んで抜けた魂が、こうして三途の川まで来てしまったことも。
邪気眼は程度の差こそあれ何かしら個人の持つ幻想を現実に変える能力だ。それ故に、こういう事態が稀によく起こるらしい。

「後生だ、このまま死なせてくれ!ヨコシマキメ復讐も果たしたことだしアンタ達とあの世で合流するのも悪くない。
 何より、超絶鬼畜守銭奴修道女からの借り物がボロッボロになってしまった。生き返っても殺される――もっとエグい方法で」

背筋が凍る。姉さんは確実に『白い婦人の絹衣』を回収しに来るだろう。アレはそういう女だ。
いくら特A級概念魔道具と言えども大剣虎との激烈を極めた戦いには耐えられなかったらしく、所々が破れてしまっていた。
これを見たあの女がどういった行動に出るか簡単すぎるほど想像がつく。それはかなーり嫌な想像だった。視覚的には、赤と紅の。

「あのなぁ……死ぬってのはもっと尊いもんなんだよ。現実から逃げ切るための手段なんかじゃ断じてねえ。
 十年前に俺達が死んででも生かした命をそんな簡単に散らされてたまるかよ。とっと帰れ――生きてりゃいいことあるだろそのうち」

「良いこと言ってるようでさらっと辛辣な言葉吐きやがったな!?しかも死人のセリフじゃないだろうそれ!」

冗談じゃない。どんな刑罰が待っていることか。銃か?銃なのか!?それとも斬って燃やしてフルコンボか!!?
絶対に嫌だぞ俺は!しがみついてでも死んでやるもんね!流石に死体まで切り刻んだりはしないだろ。臓器売り飛ばすかも知れないが。

大体あれだけ死亡フラグ立てまくっておいて今さら戻れるものかよ俺に任せて先に行けとか言っちゃったし大剣虎斃した後もなんか
『みんな――終わったよ』とか見るからにこれから死にます死にますからハンカチ用意しといてネここ山場だよクライマックスだよ
俺の人生がクライマックスだよみたいな雰囲気で俺もだいぶ安らかに意識失ったりして死ぬ準備は万端だったっていうのに
しかもここ三途の川だぞ本編で結構な頻度で出てきたザ・サンズリバーだよどう考えても今からかつての仲間達と共に幸せな最期でした
とかそういうナレーションで幕引きな流れだろっていうかこいつら迎えに来たんじゃないのかよ三途の川岸でダベるだけってあの世はそんなに暇なのかよ
ああもう絶対殺られる命とられるより悲惨な制裁が俺をまっている最早血の色をした未来しか見えねえよ俺の邪気眼には真っ赤な未来しか


『死んじゃヤダよ……ねえ、起きてよ!ヨシノお兄ちゃん!』


はい喜んで!!!

270 :名無しになりきれ:2009/11/29(日) 03:07:18 0
【ヨコシマキメ・『腹』】

「死んじゃヤダよ……ねえ、起きてよ!ヨシノお兄ちゃん!」
「はい喜んで!!!」

ものすごい勢いでヨシノ=タカユキは目を覚ました。目を覚ましてしまった。
甘え声というか媚び声というか、とにかくこう、グッと来そうな声色で呼ばれた気がして、しかし喚起の主の姿はない。

「あ、あれ……?なんだか身の丈に合わないぶかぶかの服を着込んだ13歳くらいの女の子っぽい声がしたような……」

げに恐ろしきは幼女センサー。えらく具体的に知り得ぬはずの特徴を言い当てる。
そういえば身体を機械に変形させる幼女や雪の中で全裸な幼女を楽しく追い掛け回して遊んでいたような記憶があるが夢だろうか。

見回せば白い煙が辺りに充満し視界は最悪だ。しかし変態の嗅覚は誤魔化せない。
ヨシノは鼻をスンスンいわせ辺りに漂う『幼女の残り香』を鋭敏に察知。大まかな方向を見定めてそこに人影を視認する。

「俺を呼んだのは君か!?約束通り起きたぞ!生きたぞ!生きちゃったぞ!?」

身体に丁寧に巻かれた包帯から若干血が滲んでいた気がするが正味問題ない。
体力は完全に回復していた。むしろいつもより快調ですらある。状況を察するに調律機関が施したものだろうが、
間の悪いことに彼等が解き放ったのは世界を救った英雄ではなく邪悪に盛った変態だった。

「うおおおおおお!!!」

意味不明テンションで意味不明な雄叫びを挙げながらヨシノは跳んだ。意味不明な飛距離だった。
白煙の中を人影に向かってダイブ。その正体が彼の最も恐れる女だということに気付いた頃には、
最早どうあがいても方向転換できない距離にまで近づいていた。振り向いたアスラが接近に気付く。その目に宿った感情は――

「姉さんんんんんんんんんんん!!!!???」

その日、ヨシノは初めて命あることを後悔した。

271 :名無しになりきれ:2009/11/29(日) 15:11:40 0
それは満足感のようであり、不足感のようでもあった。それは清々しさに似ていて、どこか物寂しさにも似ていた。

自分が<Y>として、結城 鷹逸郎として駈け抜けた非日常の物語が。
今、ゆっくりと、最後のページへ向かう。

「……ありがとう、もらっておくぜ」

リクスから”宝石”とは言い難い大きさのピンク・ダイヤモンドを受け取って、空いている左手に握りしめる。

”鈴”。”ヨコシマキメ遺跡の地図”。”白き紅のプレート”。”ピンク・ダイヤモンド”。
どれも、どんな『旧世界の遺産』にも代え難い宝物のような気がして。
学術的価値を見失うなんて学者失格だな、と、軽く嘯きながら、熱がこみ上げる瞼を伏して隠した。


結城 鷹逸郎の非日常は終わり、また日常が戻ってくる。
忙しい喧噪の中で、思い出はやがて色褪せていくものなのかもしれない。

それでも、彼は忘れない。
絶対の決意の下に、世界を<黒の歴史>へと葬り去ろうと暗躍した、強大な敵のことを。
背負うものは違っても手を取り合い、それに真っ向から立ち向かった、異能者のことを。

そして。
チカラ                               ト キ
異能無い身でも必死に戦い、必死に生き抜いた、この非日常を。
彼は決して、忘れない。
                    これから
「――――さあ。待ってろよ、<世界の未来>。結城 鷹逸郎が、もうすぐそこに行くぜ」


最後に、余談を記す。

後の世の好事家たちの間で【創世眼事件】と呼ばれることになる「この事件」を契機に、
邪気学の学者間で定説とされてきた、疾病説を軸とする『ジャッキー仮説』の天下は、完全に塗り替えられることとなる。

『旧世界』の歴史が何故いずれも途中で途絶えているのか。
当時の文献の所々に散見される、『3』と『108』と『1000』の数字は何を意味するのか。
北方の遺跡の壁画に描かれた、22人の人影と、彼ら全てに重ね描きされたどす黒い『眼』は何なのか。

今までは説明がつかなかった”邪気眼三大難問”と称されるこれらの問い全てに答え、
邪気史のそれぞれの時代で中心となった遺跡や種族についての歴史的な意義を明らかにした『Y仮説』は、
新たな定説として迎え入れられた後数百年もの間破られることなく、邪気学にあり続けたとされる。

現在よりそう遠くない、未来での出来事である。



かくして、結城 鷹逸郎の非日常の物語は、ここに幕を閉じる。
――――はずだった。

272 :名無しになりきれ:2009/11/29(日) 15:20:20 0
「…………、……は? な、なんだよ、……これ」

木漏れ日の差す森林を抜けた先、目の前に広がる光景。
年季を感じさせる入り組んだ校舎。豪奢な礼拝堂。そびえ立つ塔のような教会。
・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
その全てが、見知った景色ばかり。

ヨコシマキメ遺跡が何らかの原因で”転移”したことについては、潜入中に感覚で知っていた。
しかし、その転移先までは知るよしがなかった。あくまで分かったのは、「何処かに転移したという事実」だけだったからだ。

邪気史の重要な遺跡であるヨコシマキメ遺跡が”出現”した地で、何も起きなかったはずがない。
眉を焦がすような焦燥感に逸った足で、構内を駆けずり回り確認を急ぐ。

地に、
木に、
壁に。
そこら中に、損壊という形で刻まれた戦禍の爪痕。
多目的グラウンドが最も深刻で、その被害状況は目の当たりにしただけで眩暈を引き起こした。


サア、と。鷹逸郎の背筋を舐める、悪寒の二股の舌。


そこは極東の島嶼国が都心、東京の八王子。ミッション系の国際大学、【世界基督教大学】。
『邪気学教授、結城 鷹逸郎』の勤務先。


この瞬間まで、彼には理解できようはずもなかった。
                        ..・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
彼が帰るべき場所と信じていた日常は、非日常と何ら分かたれていなかったことを。

物語は、非日常は、まだ終わりなんかに辿り着いてはいない。
それどころか、やっとの思いで辿り着いたそこは、第T部の最終行に過ぎなかった。

自身の浅はかさのあまり、ギリリと噛み締めた歯茎に血が滲む。


(何を……何を、感極まっていたんだ俺は……ッ!!)

いくらトップである『世界』が倒れたからといって、【アルカナ】が消滅した訳ではない。
それに第三勢力の存在は、あのリクスという男が彼の存在で証明していたようなものじゃなかったか。
身勝手な感動ばかりが頭を占めて、違和感に気づけなかった。あまりの愚行に腹立たしささえ覚える。

それでも。後悔はしても、怖れなどしない。
決意と覚悟は、あの「薄暗い怪物の腹」の中で、とっくに決めてきたはずなのだから。

「――――――――――――上等、だぜ」

273 :名無しになりきれ:2009/11/29(日) 15:21:40 0
鷹逸郎は何も知らない。

ヨコシマキメ遺跡が何故この世界基督教大学へと不可解な転移を遂げた理由も。
現在東京全土で、”Yウィルス”と呼ばれる謎のウィルスが猛威を振るっている現状も。
真実と虚構とが交錯する大規模の大混乱、それらの糸を引く巨大な組織の存在も。


鷹逸郎が知っているのは、自分が旅を続ける理由のみ。
”愚者”が知るのは、それだけで良い。それだけで、果てない苦難の旅路でも歩むことができる。

                これから
「やっと取り戻したこの<世界の未来>が、横暴な運命に侵されようとしてるのなら―――」

右手に掴んだ石版が放つ光を、その身に受け継いだ力無き青年が、

            ヤ ミ          ヒ カ リ
「―――そんな”望まぬ未来”は、この”望める未来”で撃ち払ってやるッッ!!」


新たなる始まりを誘うページへと、自ら足を踏み入れた。




結城 鷹逸郎、第T部終了▼

274 :名無しになりきれ:2009/11/29(日) 15:24:10 0
つい、と腰周りに手を当てて身に付けていたものを微調整する。

手、腕、肩…どうやら薬の効果は完全に切れ、これという副作用もないようだ。
アスラは少しの間に縮んだり伸びたりした衝動でか、少しのだるさを感じて頭をニ、三度小突いた。

そのまま手を額において少し思案する。
見渡す限りの「剣虎」の死骸。これ好事家に回したらいい額になるんじゃないかしらとかそんなことを考えていたその刹那─────

「うおおおおおお!!!」

わけのわからないテンションが背後から聞こえてくる。
あまりに異質なその声に一瞬だけ戸惑うが、声色からすぐに理解できた。この声はどう聞いてもさっきまで瀕死のあの男だ。

振り向けばそこには振り向かなければ良かったと思える光景が浮かんでいる。

メイドが空を飛んでいた。

アスラはかつてない程に優雅な微笑を浮かべ、そのまま抜刀術の如き速さで懐から抜いたリボルバーのグリップをヨシノの額に叩き付けた。
そうして勢いを殺した後に、裾から太さ6mmの縄を取り出して振るう。
それはまるで生き物のようにヨシノの身体を拘束し、菱縄の股掛けにして吊るした。

「あっはっはっはっは。ねえヨシノ、○装男子のコ○プレ緊○ってそれ何処の○態ビデオ?」

女神と見紛うような美しい微笑みのまま言い放つアスラ。
そのまま瀟洒とも言える手並みでリボルバーの弾を一度すべて抜き、新たに一発入れて弾倉をくるくる回した。

「こいつに判断してもらいましょう────」

銃口を吊るされたままのヨシノの額に突きつけ、ハンマーを起こしてそこに人が居ないかのように引き鉄を引く。カチリと音が鳴り、ハンマーが下がった。
そのままハンマーを起こしては引き鉄を引く事、じわりじわりと五回。アスラは微笑のまま向こうを向き、それから舌打ちして唾を吐いた。

後ろを向いたまま、アスラはリボルバー式拳銃の最後の一発を少し上に向けて打つ。
放たれた弾は何処から吊るされてたのかヨシノを吊るした荒縄に命中し、【吊るされた男】が落下する間抜けな音が聞こえた。

「生きてて───良かったね?」

パラサイトワームを見るような目で【吊るされた男】から【縛られた男】に昇格した男に言う。

「で……宝物庫は?」

答え次第では三途の川に叩き込むぞ、そんな目をしながら。

275 :名無しになりきれ:2009/11/30(月) 03:02:53 0
「……返礼という訳では無いが、某から一つ警告を告げさせて頂こう。
【ヨコシマキメ遺跡】が、何故この場所………世界基督大学へ転移した………いや、“させられた”と思う?」

緋月と名乗った剣士が問う。それはアルカナ総じての疑問だった。彼等の意志で起こったことではない。
だからこそ、『太陽』や『教皇』も含めた大アルカナの一部が調査に駆り出されていたのだ。

「………気をつけるといい。この大学の背後に……どんなに強大な“組織”が隠れているか分かったものでは無いからのう………」

忠告という形で言葉を残すと、先んじて起動していた転移術式に乗って緋月は消滅した。
カノッサ機関のエージェントというからには、連中のホームへと帰っていったのだろう。

「……はー、いやはやどうにも物語は一本筋じゃいかないようだね?」

「第三者の思惑ですか。『世界』様が崩御された以上、最早『アルカナ』は退場のようですけど」

「まだ早いさ。僕らには幕引きまでストーリーを引っ掻き回す義務があるからね?」

『吊られた男』は懐から携帯端末を取り出した。アルカナ汎用の転移術式では『本部』までの距離を
カバーしきれないため、この『ポーター』なる術式処理デバイスの演算能を借りる必要があるのだ。

「さてさて、次にここに来るときは『吊られた男』じゃなくなってるかもしれないけれど――また会おう、諸君?」

「我らの前途の幸多からんことを――御機嫌よう」


『本部』に戻ったら、アルカナ残党での身の振り方を健闘せねばなるまい。
ディストレーションコールの発信者はアルカナの中でも異端中の異端――『審判』。
穏便な会議にはならないだろう。穏当な方針とはならないだろう。それでも彼等は『世界』の遺した目的に、殉じる覚悟でここへきた。

アルカナ、調律、カノッサ、そして――『世界基督大学』。

様々な組織の思惑と目的、平行線を辿るはずのそれが今、一つの点で決しようとしている。
結実した果実を頬張るのは一体誰なのか。生まれる動きは世界にどんな変革を齎すのか。
神すら知らない、事実よりも奇に満ちた物語が、その産声を挙げようとしていた。


【『吊られた男』&マリー=オー=ネット   第一部終了】

276 :名無しになりきれ:2009/11/30(月) 23:41:39 0
「生きてて───良かったね?」

修道女がそういった。言われた変態は、女装でメイドで菱縄縛りのロリコンは、
かいた事のないような色をした汗をだらだらと流しながら、震える声で答えた。

「いや、ほんと、ヨカッタデス……」

ヌートリアの轢死体でも見るような目での睥睨は、侮蔑以外の一切の色を排していた。

(あ、あれ?これって助かったのか!?復帰早々もの凄いラックを消費したような気がするぞ!)

「で……宝物庫は?」

「あ、ああ。ヨコシマキメが溜め込んだ品物の"置き場所"と思しき場所なら見つけたぞ、こっちだ」

立ち上がって促そうと思ったが、腰を抜かして立てないことに気が付いた。
当然頭上で今にも新しい鉛弾をぶち込まんと絶賛戦闘態勢中(殺戮態勢とも言う)なこの女がそんな事情を酌量するとは思えない。
カサカサとフナムシのように緊縛された女装メイドが這うという狙いどころがサッパリ分からない風体でアスラを奥へいざなう。

「ここだ。穴が狭いから気をつけろ――はは、いい眺めだなすいません調子乗りました痛い痛い蹴らないで」

宝物庫への入り口は小さく、穴へ入るには匍匐で進まなければならなかったが、紆余曲折を経ながらアスラの後をついて穴を抜け、いざ盗掘――

「――な、ん、だ、と?」

そこは蛻の空だった。ヨシノがヨコシマキメのリンクを断ち切ったときには確かに存在していた魔剣魔道具金銀財宝の類が、
ほんの残滓としか言いようがない雀の涙ほどの量を残して消えていた。先刻見た光景が幻だったことを疑うが、そうではないこと、
ここには確かに小山ほどの財宝が保管されていた事実を明確に顕す証左が、そこにはあった。

『盗掘者ざまぁ!おまえらにはやんねーよ帰ってクソして寝ろ!!   大アルカナ 【皇帝】 より愛を込めて 』

それはつまり、結局のところ、そういうことなのだろう。
短時間でしかも隠密にあの量を運び去れる技量と、わざわざ自己を顕示していう馬鹿っぷりは、まさしく邪気眼遣いのそれであり、
アルカナという組織の懐の狭さと底の知れなさを如実に顕していた。まあそれはさておき、さておくとして、

ヨシノは隣で共に骨を折った共犯者がどんな顔をしているのか、恐ろしくて見ることができなかった。

277 :名無しになりきれ:2009/12/01(火) 22:09:20 0
「──────────」

ただ広いだけで宝物庫という役割を果たしきれてない空間の中心、坂上明日香は立ち尽くしていた。
足は半歩開き、膝をやや屈して腰に少しの傾斜をつける。
上体を少し仰け反らせて、そのまま指に至るまでの各部の間接を絶妙に曲げて、やがて呟くように話し始めた。

「…この坂上明日香は…いわゆる裏の者のレッテルを貼られている……
 争奪戦の相手を必要以上にブチのめし、いまだに墓の中から出てこられれねえ奴もいる…
 イバルだけで能無しなんで気合を入れてやった邪気眼使いは二度と私の前に姿を表さねえ…
 苦労に見合わぬ安い金で雇おうとするクソ野郎に鉛弾を見舞わせるなんてのはしょっちゅうよ…

 だがっ!そんな私だからこそっ!
 吐き気のするような「外道」は分かるっ!
 「外道」とは!ワケの分からねえ力を用いて宝を端からかっさらっていく者の事だっ!

 ましてや邪気眼ーっ!
 「皇帝」!きさまがやったのはそれだ!あ〜〜〜ん 貴様の姿はここにはねえし居場所もわからねえ…

 だから……こいつが『前払い』だっ!」

刹那、袖を振るってその手に自動拳銃を取り出す。
空虚な空間に響く薬莢の落ちる音。やがてそれは十二回響いて止まった。
続けざまに取り出した大型のマグナム銃。これを両手で構え、極めて至近距離でぶっ放す。

メッセージカードは最早原型を止めていなかったが、アスラは構わずそれを拾い上げてびりびりと丁寧に手で引きちぎる。
そして懐から粘土のようなものを取り出し、紙屑をそれにねじ込んで宝物庫の奥へ放り投げた。

プラスチック爆弾である。

やがてリモコンのキーを入れると、遺跡の奥から激しい爆発音が響いた。
とどめと言わんばかりにデスフレイムの火炎掃射。紙切れ一枚の末路など考えるのも愚かしい事だった。

修道女は一通り事を済ませると、大振りのナイフを一丁取り出してヨシノの縄を切った。
床にへばりつく青年を疲れたような顔で笑って、たった一言、優しげな声で呟いた。

「…帰ろっか?」

宝物庫を出る。
広間に待機する「調律」の部隊は、既に帰還準備が整っていたようだった。

278 :名無しになりきれ:2009/12/03(木) 02:30:49 0
戦火と戦禍が展開し、ペラ紙一枚にはオーバーキルすぎる火力が集中する。
容赦なき所業は鬼神もかくやといった感じで、ヨシノはまるで動けない。

「…帰ろっか?」

コクコクと必死に頷きを返すことでしか返事をできない。
名伏しがたき惨状を目の前にして、それを作り出した修道女の目はどこまでも冷ややかだった。
ヨシノの緊縛が切断され、宝物庫を出るまで彼は己の生存本能が警鐘をまくしたてるのを必死に耳塞いでいた。

(あ…あの女の目………
 風呂場のゲジゲジでもみるかのように冷たい目だ…残酷な目だ…
 『かわいそうだけど、巣まで突き止めて一族郎党全部皆殺しにしちゃうからっ☆』 
 ってかんじの!)

閑話休題。

(そういえば『黒の教科書』――!遺跡に入ってからこっち、ずっと神経使う状況だったから忘れてたな)

ともあれここで探すのは望み薄だろう。『皇帝』によって根こそぎ奪われた宝物庫内には、最早数えるほどしか財宝は残っていない。
それらは全て調律機関の運輸部隊で持ち帰れる量だが、本当に目ぼしい物は全て持ち去られたようで、大した価値はないだろう。

「アルカナ、『皇帝』……いずれにせよ、追うしかない、か」

トップを失ったことでどんな行動に出るかは分からないが、少なくとも潜伏するだけということはないだろう。
ステラの話によれば、アルカナは一枚岩ではない。強力なカリスマを持つリーダーがいれば話は別だが、今の彼等がそれを得ているだろうか。

土埃と煤塗れになった宝物庫の中で、ヨシノは考える。為すべきこと、為したいこと。
待つのもいいだろう。戸籍のために入った大学はそれなりに面白いし、興味深い講師もいる。
邪気学の専門学者で、確か名前は『結城――

アスラに続き宝物庫を出たヨシノは調律機関に頼んで残った財宝をかき集めてもらい、(爆煙のせいでものすごく微妙な顔をされた)
ライトバンに同乗して『腹』を出た。目指すは地上、彼の所属する世界基督教大学である。

279 :名無しになりきれ:2009/12/04(金) 22:26:02 0
なにやら覇気の削がれた薄ら笑みの修道女と、対照的に硬い表情を貼り付けたままの女中服が宝物庫から出てくる。
レイジンたち調律機関はそれを慇懃に迎え、アスラの提供した地図によって立てていた脱出計画を実行に移す。
その前にヨシノの依頼で宝物庫にあったほんの僅かばかりの財宝を引き払い、彼等と同じバンに載せる。

そして。
ライトバン6台の武装連隊は、ようやく死地からの脱出の機を見たのである。

「これらの財宝は丸ごと貴女方の取り分でも構いませんよォ。盗掘は犯罪ですが、ことヨコシマキメに関しては、ねェ?」

ヨコシマキメ。異能を喰らう生きた遺跡。108のクロニクル。その所有者は定かではないが、『人為物である』ことは確かな事実。
当然中に蓄えられた財宝も『飼い主』のものであるが、元々が様々な世界からもってこられた言わば『盗品』である。
盗品を更に盗掘したところでそれは調律機関が取り締まる領分ではないのだ。それに、

「僅かばかりの『戦利品』、と言ッたところでしョうかねェ」

ヨコシマキメは迷宮であるが故に、攻略者には寛容だ。結果溜め込んだ財産を吐き出すことになろうとも。
それはヨコシマキメからのささやかな祝福、報酬であるとも言われている。かつてヨコシマキメを攻略した者が、
そこで得た力を用いて一国の主になったように。その国は天下泰平であったという。有能な者だけが生き残る、ふるいを通過した者なのだから。

「まあ僅かばかりと言っても持ちきれる量ではありませんし、なんでしたら不要な品はこちらで買取らせて貰いましョうかねェ
 見たところ異能的価値はともかく金銭的価値はあるようですし、それなりの売価でお引き取りしますよォ?」

レイジン達を乗せたライトバンがごとりと揺れた。それを拍子とするように、半日ぶりの日光が装甲車の採光窓から差し込んできた。
降り注ぐ光の束はやがて視覚的情報となって景色を彼等の目に届けてくれる。そこは多目的グラウンドの隅だった。
「ライドムーバー<シザーズ>確認!搭乗者は完全に沈黙している模様――回収作業に入ります」

オペレーターが告げ、グラインドの中央で佇んだまま動かない巨大な鋼の蟹へとライトバンを横付けする。
後部座席を犠牲にして搭載されていたマニュピレーターと整備人員が車から飛び出して向かっていく。
どうやらライドムーバーのバックアップにまわっていた整備班とも合流できたようだ。

「ムライ君の容態は?」
「脳波、心拍ともに安定――気絶しているだけのようです。命に別状はありませんよ!」
「それは重畳ですねェ……彼を欠いては我々の戦力も三割減です」

まるで初めからわかっていたかのような口調でレイジンはライドムーバーから回収されるパイロットの寝顔を眺める。
悔しさか焦燥か、額に皺がよっていた。顔を顰めたまま寝ている。手先だけでなく顔筋まで器用な男だった。
整備班から戦闘状況を伝えられ、思案したレイジンは無表情のまま空を見上げて呟いた。

「アリス=シェイド……一個大隊並みの戦闘能力を持つライドムーバーと互角に渡り合う男ですか。いやはや、世界は広い広い」

グラウンドは戦禍が如き様相を呈していた。地面は抉れ、木々は倒され、砕かれた地盤が蟹の足元を陥没させている。
爪痕のような傷は、まるで巨大な二匹の獅子が争った痕跡のようにも思えた。実際は蟹と人なのだが。

「それでは参りましょう。アスラ女史とヨシノ君はここで良かったですよねェ。我々はお家に帰ります――泣きながらねェ」

先んじて呼んでおいた調律機関の搬送ヘリが降りてきた。無音の風が地面を叩き、レイジンの白髪混じりの髪を揺らした。
パーツごとに分解したライドムーバーを積み込み、人員の点呼を終えた後、レイジンを残して全員の格納が完了した。

「また来ますよォ。どうやら物語はさらなる謎をぶちまけていったようです。我々は誰もが主役であり、謎解きの義務がある」

何かあればここに一報を。そう言ってレイジンは両人に一枚ずつ名刺を差し出した。
世界政府直属組織『調律機関』、その中のレイジン=シェープス実働部隊のみに繋がるホットラインである。

「世界はとりあえずの救済を得ました。貴女方によって――わかりますか?最早後戻りはできませんよォ」
言葉だけを残して、レイジンは去っていく。身体を叩く突風の中でも、無音羽のお陰で文末まで聞き取れた。

「受難の世界と貴女方に――退転適わぬ貴女方に――前に進む導きがあらんことを」


【レイジン=シェープス、村井浩介、及び調律機関――――第一部終了】

280 :名無しになりきれ:2009/12/05(土) 21:14:03 0
遺跡の中を車六台が爆走するというのも中々シュールな光景だ。
盗掘屋アスラはそんなことを思いつつ、まあそういう手も無しじゃないわよねと次回に繋ぐ妙な納得の仕方をした。

「これらの財宝は丸ごと貴女方の取り分でも構いませんよォ。盗掘は犯罪ですが、ことヨコシマキメに関しては、ねェ?」
「当然でしょ。こちとら命賭けて今日生きるためのはした金稼いでるんだから。社会的弱者には優しくしてもらわなきゃ。ねえ?」

半ば八つ当たりの嫌味をレイジンに当て、それから脇にのけられた場違いな風呂敷包みの上に肘をついた。
それからレイジンは盗掘した財宝の買取を持ちかけてきたが、アスラは政府に渡す事をよしとせず、それを丁重に断った。

やがてバンがひときわ大きく揺れ、採光窓から薄ぼんやりとした青い空が見出された。

「朝日…か。もう何日も見てなかった気がするよ」

時刻は午前4:30。
ヨコシマキメの探索は、こうして終わりを告げた。


ライトバンは多目的グラウンドで停車し、アスラとヨシノも降車した。
どうやら、戦闘はなにも遺跡の中ばかりで行われたわけではないらしい。
降りた多目的グラウンドは開放的な風景が嘘のように壊滅的になっており、その中心に佇む巨大蟹型兵装がそれをひしひしと感じさせてくれた。

「ひゃー、アレもアンタの身内?
 現代の搭乗兵器技術は進歩してるのねえ…S○NYの技術は世界一ィィィィッ!ってところかしら。え?違う?」

モノクロームの悲しさを抱えて沈黙するライトムーバーを興味深く眺めるアスラ。
その背後で連絡を受けていたレイジンが呟くように言い、彼女はそれに思わず振り向いた。

「アリス=シェイド……一個大隊並みの戦闘能力を持つライドムーバーと互角に渡り合う男ですか…」

───何やってんだあの白衣。
気取られないように、彼女は小さく呟いた。


それからレイジン一派はライトムーバーを速やかに格納し、無音のヘリで消えるように去って行った。

「受難の世界と貴女方に――退転適わぬ貴女方に――前に進む導きがあらんことを」

それは彼なりの労いなのか、深淵へと足を突っ込みかけてる私たちへの忠告なのか。
とりあえずアスラは胸に十字を切って、手を振り別れの挨拶をかけた。

「また会いましょ。できることなら、どっかの飲み屋で」

朝日に向けてヘリが飛ぶ。
後に残ったものはメイドとシスター、それと宝と静寂だった。

281 :名無しになりきれ:2009/12/05(土) 21:17:35 0
二人は財宝を(ヨシノが欲しい物を取っていき、残り全てをアスラが引き取るという形式で)分配し、
ステラとの合流は明日に回すとして、今日はひとまず眠ることにした。兎にも角にも疲れていたのである。

所々に戦禍が残る大学構内を、引き摺るように荷物を運ぶ。
やがて彼女は大聖堂裏の宿舎に辿り着き、ベッドを見つけるとそこへ一気に倒れ込んだ。

痛い。体中ボロボロな今ではちょっとの衝撃すら体に響く。
だが今は、その痛みすらも心地よく感じることができた。

胸に広がる、生きて帰れたという充実感───これだからこの仕事はやめられない。


こうして彼女の一日は終わる。
坂上明日香は少し特別な日常に終止符を打つため、その瞳をやすらかに閉じたのだった。

【アスラ───第一部完】

282 :名無しになりきれ:2009/12/06(日) 03:23:26 0
「これらの財宝は丸ごと貴女方の取り分でも構いませんよォ。盗掘は犯罪ですが、ことヨコシマキメに関しては、ねェ?」

「ほう、異能を律し統べる世界政府の直属官僚様が随分な大盤振る舞いだな。予算足りてるのか?裏金か?」

正直、僥倖だと思った。隣に腰掛け調律機関の頭とも対等かつ不遜に話す修道女は、命懸けで辿り着いた財宝を
一つたりとも、金箔の破片一つだって他者には渡したくないはずだ。場合によってはこのバンの中が戦火の渦中になるやもしれない。
そうなれば真っ先に斃れるのはヨシノに違いなかった。この女が人生の茨道をひた走るとき、その後ろで地面に引き擦られるのはいつも自分なのだから。

調律機関の申し出た財宝の換金をアスラが跳ねつけ、どうやら旧知らしき二人が過去の話に華を咲かせているうちに、
ヨシノたちを乗せた装甲車の連隊はヨコシマキメを順調に逆走し、幾つか拓かれた入り口のうち一番広い箇所から脱出を完了した。

「ライドムーバー<シザーズ>確認!搭乗者は完全に沈黙している模様――回収作業に入ります」

(ライドムーバー?そういえば調律機関。まさか……!)

そこは大学中央にある多目的グラウンドのはずれだった。本来ならば学生達の憩いの場となるはずのそこは、
やはり戦闘があったのだろう――戦禍の傷痕をそこかしこにのこす戦場となっていた。
軍隊級の第三勢力が介入してきた時点で予想はしていたことだが、『アルカナ』ないし大学の戦力がここで派手に立ち回ったらしい。

「す、すげえ……本物だ――!!」

しかしヨシノの意識はそんなことには微塵も向いていなかった。彼の眼に映るは唯一つ、グラウンドで風景と同化している鋼の蟹。
東から昇る陽光を受けて朝露を光らせる鋭利な体躯は、全ての世代の男の子を須らくときめかせる、そう――巨大ロボ。
異能の世に生きる者ならば誰もがその名を知っている、調律機関が誇る多足式歩行戦車。『ライドムーバー』である。

「ひゃー、アレもアンタの身内?
 現代の搭乗兵器技術は進歩してるのねえ…S○NYの技術は世界一ィィィィッ!ってところかしら。え?違う?」

「おおっと姉さん知らんのか!?」

素っ頓狂な声で修道女へ振り向く女中服。その目には知らないことへの蔑みなどではなく、純粋な教えることへの喜び。
薀蓄を語りだすときの顔である。理屈屋で、饒舌家で、薀蓄屋で、究極の教えたがり。ヨシノ=タカユキの本領発揮である。

「ライドムーバーといえば世界政府ですら合わせて6台しか所有していないという超超超絶高度な技術の集大成でな。
 従来の歩行型戦車との差異を分ける最大の特徴はそのOSに搭載された操縦支援用AIシステムが挙げられる。
 これはAIが魔導知性をインストールされた自己学習する"生きた"AIが操縦者と共にその経験と情報を蓄積して
 分析し機動に生かすというまさに"情報生命体"とも言うべきシロモノで、これがあることでオペレーターの先導なくとも
 スタンドアロンで高度な作戦行動パフォーマンスを実現できるのだ。しかも学習するAIはその行動回数に比例して
 応用性を高めていく、つまり乗れば乗るほど強く速く精密になっていくんだ。育つんだよこのAIは!これが業界各位に
 とってどれだけ画期的なシステムであるか、最早机上の空論でしかありえないと言われた技術なんだが、最近になって
 この国の異能系技術者が魔力に蓄積性質を付与することで電子知性の情報を蓄えさせることができるようになってな。
 これによってロマンでしかなかった生命体としてのAIを実用レベルにまで運用することが可能になったのだよ。いやはや、
 姉さんの言を借りるでもないが流石は技術大国、この国の技術力は世界一ィィィィって感じだな。え?違う?」

誰も聞いていなかった。びっくりするほど誰も聞いていなかった。
レイジンはライドムーバーから搬出されたパイロットの様子を見ていたし、アスラは宙を見て何事か呟いていたし、
他の隊員達もそれどころではないようでせわしなく動き回っていたしで、それはもう誰も聞いていなかった。

「それでは参りましょう。アスラ女史とヨシノ君はここで良かったですよねェ。我々はお家に帰ります――泣きながらねェ」

レイジンが二枚の紙片を差し出した。一枚はアスラに、もう一枚はヨシノに。それは調律機関直通のホットライン。
一個人では例え異能者でもまずもって手に入らない世界政府との繋がりが、そこにはあった。


283 :名無しになりきれ:2009/12/06(日) 04:08:59 0
「受難の世界と貴女方に――退転適わぬ貴女方に――前に進む導きがあらんことを」

それはレイジンなりの気遣いだったのだろう。踏み切ってしまった以上、助けてしまった以上、最早途中下車は不可能だ。
これが終わりではない。世界は戒めから解放されただけに過ぎないのだ。そこから始まるのは――新たなる争奪戦。
次に世界を手にするのは誰か。新しい悲劇の主役は誰か。大いなる災禍へ抗いを見せるのは誰か。

「――どれもこれも俺、なんだよな。もちろん俺だけじゃなく、姉さんやステラもそこに勘定して。
 誰かが主役を張ってくれる時間は終わったんだ。これからは俺が、俺のために物語を紡がなきゃならない」

責任重大だな、とヨシノは苦笑した。漏れる笑いは叩きつけられる風によって押し流され、調律機関を乗せたヘリは飛び去っていった。
後に残ったのは静謐と、修道服と、女中服。世界は今だけ、黙していた。消えない何かへの、そして消えた誰かへの、黙祷とでもするように。

アスラが恐ろしいことにヨシノへ財宝の選択権を譲ってくれ、いくつか見繕って引き取った。
学生が持てば結構な贅沢ができる額へ換金できる宝と、実用性がありそうな魔導具をいくつか拝借し、残りを全てアスラへ渡す。
ヨシノが抜いた分を減らしてもまだ一抱えはある風呂敷の中身を引き摺りながら、アスラは大聖堂にあるらしき自分の部屋へ帰っていった。

一人残されたヨシノは身体のあちこちを回して調子を確かめ、分けられた財宝を斜めがけの鞄に放り込む。
ガラ空きの駐輪場へ行き、一台だけ残った原付に乗って、ヨシノは八王子の端にある学生アパートへの帰路についた。

銃弾飛び交い邪気迸り2回も死ぬほどの大立ち回りを演じていたにも関わらず、大学を一歩出ればそこは変わらぬ日常だった。
大学を出てすぐの車道は絶え間なく車が行き交い、降って湧いた休みに手持ち無沙汰な学生達が商店街をうろついている。

知ってるか?俺は世界を救ったんだぜ?お前らがここで生きてるのも、大局的に見れば俺のおかげでもあるんだぜ?
そこんとこ、わかってるのかよ。誤解してもらっちゃあ、困るぜ。救世の英雄なんだぞ。俺は。

……まぁ、『ただそれだけ』なんだけど。

アパートに辿り着いたヨシノは玄関前を掃除していた大家に挨拶し、ボロボロになってしまった部屋の鍵を能力で代替して開け、
埃塗れの靴を脱ぎ捨てて部屋へと転がり込み、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一口煽った。血の味がした。

そのまま飲み干してボトルをシンクへ放り込み、ソファに座り込んでテレビを点けた。
国営放送の番組内で十歳ほどの女の子がCGのキャラクターと創作お料理を楽しげに作っている。
現実感溢れる光景だった。とても数時間前までは死んで生き返り死んで生き返る殺陣回りをしていたとは思えない。

終わってしまえばこんなものである。

一人になってヨシノは考えた。広いとはいえ大学内のことだから、今までだってアスラと何度かすれ違っているのに違いない。
それなのに、今日という日がなければ恐らく死ぬまで互いの名前も知らなかっただろう。ステラに至っては姿さえ。
ならばこれもまた『世界の選択』なのだろう。共闘という数奇な縁によってめぐり合わされた、世界の意志の賜物。

「いいぜ、世界。お前が俺達に助けを求めてるっていうのなら――何度だって救ってやる」

救ってやるのだ。見返りがなくたっていい。腕の一本ぐらいくれてやる。そうするだけの価値がある。
何故なら、ヨシノという人間を、旅団の面々を、アスラを、ステラを、皆を育んだこの世界が、どうしようもなく。

「――大好きだからな」

きっとそれで十分なのだろう。人はそれだけで命を懸けるに値する。そう在ることを是とできる。
だから肯定しよう。かつてを。いまを。これからを。



世界はこんなにも、魅力的なのだから。




【ヨシノ=タカユキ――――第一部完】

284 :名無しになりきれ:2009/12/06(日) 20:04:27 O
────かくして【創世眼事件】は終わりを遂げる

ヨコシマキメ遺跡を含む、“かつて”は消え、“これから”の道が生きとし生ける者に等しく開かれた

未来への道を歩む者達に、何が待ち受けているのか

そして『世界基督教大学』の陰に垣間見えた“真実”への道

その全ては“これから”紡がれる────

285 :名無しになりきれ:2009/12/06(日) 20:17:28 O
第T部、佰捌ノ年代記編───fin

286 :名無しになりきれ:2009/12/06(日) 20:26:32 0
4 :名無しになりきれ:2009/08/29(土) 16:14:16 0
『――妹とか、いるかな』
『ひゃァァーーーはァァーーーーーーーー!!テンション上がってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 』
『『あびりてぃきゃんせらー!』       『起動!』 』
『人を罪から救ってみせろよ、正義の……味方ぁッ!! 』
『懐に潜り込みさえすれば、ご自慢の鋏は使えないでしょう!――【<ギミック>:パイルバンカー】展開』
『さらに僕が『あや吊り糸』をマリーに繋げて反動を糸に逃がせば、お手軽無反動打杭砲の出来上がりだね?』
『殲滅すること。制圧すること。――冒涜の波に抗うように!』
『少しは楽しませてくれよ? ひょろ長君』
『こうなったら仕様がない──私は君を全身全霊、千切り、潰し、殺さざるをえなくなってしまった! 』
『往くぜえッ『世界』ィイイィイイィイッッ!!! 繰り返すッ、お前にこれからは渡さねぇええええぇえええッッ!!! 』
『「目標はそれ。作戦終了はそれの絶対的な死。手段は問わない、立ち塞がるものは全て───焼き尽くせ!』
『――完全一撃必殺型の全身全霊全力全開全勝全壊全光全破…………!!!』
『お前の遺した遺志は……決意は、……俺が、未来まで運んでやる。伝えてやる……!』
『『過去』と共に世界に埋没するのなら――『世界』、ここでさよならだね』
『だから…正真正銘、これで終わりよ』
『おんどりゃぁー!レイ!何故他の女と 一 緒 に い る の か な ぁ !? 』
『血の臭い、ないかなあ』
『っだあああーーーーーーーーーっっ!忘れてたーーーーっ! 』
『屈辱――!!こ、こんなノリはもういらないっ、いらないからっ……!』
『知るよ、世界を。『世界』が愛したこの世界を。だから、――こんなしがらみは、もういらない』
『さーて、次回の邪気眼―JackyGun―は』
『死んじゃヤダよ……ねえ、起きてよ!ヨシノお兄ちゃん!』
『俺を呼んだのは君か!?約束通り起きたぞ!生きたぞ!生きちゃったぞ!?』
『―――そんな”望まぬ未来”は、この”望める未来”で撃ち払ってやるッッ!!』
『受難の世界と貴女方に――退転適わぬ貴女方に――前に進む導きがあらんことを』
『――大好きだからな』

287 :名無しになりきれ:2009/12/12(土) 23:21:19 0
邪気眼-JackyGun- 第U部 〜交錯世界の統率者編〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1260587691/

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>>1
  し'∪   |   |   |   ∪ /  電波〜   電波〜    \毎日何処かの板で糞スレを立てる>>1
          ̄ ̄ ̄ ̄     /  .∧__∧      ∧__∧      \糞スレを立てる事しかできない白痴。
      ガッキーン       /  ( ゚∀゚ )    ( ゚∀゚ )          href="../test/read.cgi/senmon/1007913119/1" target="_blank">>>1&g@顏/test/read.cgi/charaneta2/1251530003/">★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

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